説明

膜ろ過モジュールの透過流量増加方法

【課題】膜ろ過モジュールを用いて流体をろ過する際に、ファウリングを発生させることなく、かつ燃料コストのかからない、流体透過流量の増加方法を提供する。
【解決手段】流体貯槽から供給された流体を、製鉄所の低温排熱を熱源として、間接熱交換により昇温させてから、上記膜ろ過モジュールを透過させると共に、該膜ろ過モジュール透過後の流体を、上記低温排熱による流体昇温前の経路に導いて、その保有熱を熱源として、間接熱交換により流体貯槽から供給された流体を加温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過モジュールを透過する流体の流量を増加させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所などの工場では、多量の工業用水を使用する。そのため、一度使用した工業用水を水処理して再利用するのが一般的である。この水処理の方法としては、膜ろ過モジュールを用いた膜ろ過方法という方法が多く用いられている。
膜ろ過とは、連続した組織の間にある孔や分子配列の隙間を利用して流体と流体中の固体の分離操作を行うものであり、半導体洗浄用水の精製や、飲料水製造の際によく利用されるものである。
【0003】
ここに、膜ろ過面積を増加させれば、当然、透過する流体の流量は増加するが、膜ろ過面積を一定、すなわち膜ろ過装置の数量を一定とした場合は、膜の一次側と二次側の差圧が大きいほど、または流体の温度が高いほど、透過する流体の流量を増やすことができる。
【0004】
しかしながら、上記した差圧を増やす方式および流体の温度を上げる方式ともに限界がある。特に、差圧を増やす方式において、差圧が過大となった場合には、膜孔に流体と流体中の不純物とが一緒に押し込まれることになるため、ファウリングと呼ばれる不可逆性の膜孔の詰りが生じ、膜の寿命が著しく短縮する現象が起こる。
また、当然ながら、膜を格納しているケーシングまたは膜ろ過モジュールそのものの物理的な破損の可能性も増大する。従って、ケーシングまたは膜ろ過モジュールそのものの物理的な破損を起こさない圧力が、当該膜ろ過装置にかけられる圧力の上限になり、自ずとかけられる差圧も限定される。
【0005】
一方、流体の温度を上げる方式における流体温度であるが、水の場合、その密度が最も高くなる4℃を下限として、流体温度が上がるにつれ透過流量も単調に増加していく。しかしながら、一般的には、50℃程度(膜製品によって異なる)で膜が変性してしまうため、この温度が上限となる。
【0006】
現在のところ、膜ろ過面積を増加させずに流体透過量を増加させる場合、差圧を増やす方式を採用することが多い。例えば、特許文献1には、膜ろ過流量を常時計測し、流量が低下した際には膜モジュール一次側のポンプの回転数やトルクを上げることによって流量を増加させる方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−126137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポンプの回転数やトルクを上げると、前述したように、ファウリングが発生しやすくなり、さらには設備の破損といった問題がある。
また、流体の温度を上げる方式においては、昇温するための熱源が必要となるため、ヒーターなどの設備が別途必要となり、さらにはその燃料コストもかかるといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、膜ろ過モジュールを用いて流体をろ過する際に、ファウリングを発生させることなく、かつ燃料コストがかからない流体の透過流量増加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.膜ろ過モジュールを用いる流体のろ過方法であって、
流体貯槽から供給された流体を、製鉄所の低温排熱を熱源として、間接熱交換により昇温させてから、上記膜ろ過モジュールを透過させると共に、該膜ろ過モジュール透過後の流体を、上記低温排熱による流体昇温前の経路に導いて、その保有熱を熱源として、間接熱交換により流体貯槽から供給された流体を加温することを特徴とする膜ろ過モジュールの透過流量増加方法。
【0011】
2.前記膜ろ過モジュールに、導入される際の流体の温度が20〜50℃の範囲であることを特徴とする前記1に記載の膜ろ過モジュールの透過流量増加方法。
【0012】
3.前記製鉄所の低温排熱が、30〜100℃の高炉冷却水の熱であることを特徴とする前記1または2に記載の膜ろ過モジュールの透過流量増加方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膜ろ過モジュールを用いて流体をろ過する際に、ファウリングを発生させることなく、かつ燃料コストがかからずに、膜ろ過モジュールに対する流体の透過流量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う基本フローを示した図である。
【図2】本発明に従う方法を実施するための設備フローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、膜ろ過モジュールを用いて流体をろ過する前に、まず、膜ろ過モジュール透過後に流体が保有している熱によって、流体を加温する。ついで、製鉄所の低温排熱を熱源として流体を昇温することを特徴としている。なお、本発明において、以下の限定事項以外は、従来公知の膜ろ過装置を用いることができ、またクロスフロー方式等、従来公知の膜ろ過方法を適用することができる。
【0016】
図1に、本発明の基本フローを示す。図中、1は膜ろ過前流体貯槽、2は膜ろ過モジュールへの送液ポンプ、3は間接熱交換器(加温用)、4は間接熱交換器(昇温用)、5は膜ろ過モジュール、6は膜ろ過後流体貯槽、7は製鉄所低温排熱源である。
上記基本フローにおいて、ろ過の対象となる流体(以下、単に流体といった場合はろ過の対象となる流体を意味する)は、膜ろ過前流体貯槽1に蓄えられている。流体は、膜ろ過前流体貯槽1から送液ポンプ2を用いて、膜ろ過モジュール5に送られる。ついで膜ろ過モジュール5でろ過されたのち、膜ろ過後流体貯槽6に貯蔵される。
【0017】
本発明では、膜ろ過前流体貯槽1と膜ろ過モジュール5の間に、昇温用の間接熱交換器4を設置し、膜ろ過モジュールを透過する流体と高温の熱源との間で間接熱交換を行い、流体を昇温することが重要である。また、その際の高温の熱源としては、エネルギーの有効利用の観点から、その多くが未利用となっている製鉄所の低温排熱を利用することが肝要である。
【0018】
また、本発明は、間接熱交換器4のさらに前段に、もうひとつ、加温用の間接熱交換器3を設置することが重要である。この間接熱交換器3は、膜ろ過モジュール通過後の温められたままの流体によって、膜ろ過モジュール通過前の流体を加温(自己予熱)する。その結果、間接熱交換器4で使用する高温流体に必要な流量や温度の低減を図ることができる。すなわち、高温流体の流量が少量で済めば動力費の削減につながる一方、高温流体の温度が低くて済めば、熱源として用いることのできる排熱の発生源が増えることになり、未利用排熱の低減につながる。また、高温流体の温度が低くて済めば、熱源の温度低下をそれほど心配しなくてよいので、熱源と膜ろ過モジュールとの距離を長くすることができる。その結果、膜ろ過モジュールの設置場所に、裕度ができる等のメリットがある。
【0019】
上記膜ろ過モジュールのろ過膜は、精密ろ過膜、または限外ろ過膜とすることが好ましい。というのは、RO膜やイオン交換膜等の膜は、前述した工業用水の水処理などの用途の場合、コストが見合わないため、ほとんど使われることはないからである。また、ろ過膜の構造および素材は、従来公知のものがそれぞれ使用できるが、その構造は中空糸膜等が、その素材は酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン等が好適である。なお、本発明に用いるろ過膜の孔の大きさは、流体によって適宜選択できるが、10nm〜10μm程度が好ましい。
【0020】
本発明において、熱交換器は、流体に温度以外の変化を与えないことが重要で、間接熱交換型の機器に限定されるが、その形式は、プレート型、チューブ型等の形式を問わず用いることができる。なお、膜ろ過モジュールに導入される際の流体の温度は、膜ろ過モジュールの耐熱温度以下であれば、特に制限はないが、20〜50℃が好ましく、更に40〜50℃程度が最もろ過効率がよいため望ましい。
【0021】
本発明における流体は、膜ろ過によるろ過を行えるものであれば、特に限定はないが、工業用水が最も適している。前述したように、製鉄所などの工場では、多量の工業用水を使用し、その工業用水を再利用することが、コスト面、あるいは環境面において、本発明の効果が十分に発揮されるからである。
【0022】
本発明における製鉄所の低温排熱の媒体としては、液体または気体であることが好ましく、さらには腐食性のない液体または気体であることが好ましい。また、それらの流量や温度などが安定して得られる媒体であることが好ましい。
上記の低温排熱の温度に、特別の限定はないが、30〜100℃の範囲が、ろ過膜に流体を供給する際の温度制御等、その取扱いの観点から好ましい。より好ましくは、30〜60℃の範囲である。さらに、好ましくは、50〜60℃の範囲である。
【0023】
上記した低温排熱の熱源は、製鉄所内で発生するものであれば特に制限はないが、高炉冷却水由来の熱であることが好ましい。製鉄所内で最も安定的に発生している熱だからである。
また、本発明は、製鉄所などの様々な熱源で、100℃以下となって、その他の用途に使えない低温排熱も有効に使うことができるため、製鉄所などで発生する排熱エネルギーのより一層の有効利用を図ることができる。
【実施例1】
【0024】
図2に、本試験に用いた工業用水の膜ろ過モジュール付き膜ろ過精製装置を示す。
図中、8は工業用水貯槽、9は工場用水送液ポンプ、10はチューブ型熱交換器(加温用)、11はチューブ型熱交換器(昇温用)、12は膜ろ過モジュール、13は精製工業用水貯槽、14は高炉、15は冷却塔、16は高炉冷却水送水ポンプである。
【0025】
工業用水貯槽8内の工業用水は、夏季にその水温が23℃程度であり、その後段にある膜ろ過モジュール12は、流体温度が23℃で定格流量が出るように設計されている膜ろ過モジュールである。
一方、冬季の工業用水は、14℃程度まで低下する。そのため、膜モジュール前後での差圧を一定にしてポンプ9を運転した場合、夏季の透過水量を基準にすると、冬季の透過水量は75%程度にまで低下してしまう(従来例1)。
【0026】
ここに、製鉄所の主要設備である高炉14は、内部が1500℃以上と高温なため、冷却水を利用して炉体を冷却しているが、冷却水の水温や流量は1年を通してほぼ安定している。また、冷却に使用した冷却水は、冷却塔15と呼ばれる設備で一部を蒸発させることにより蒸発潜熱を奪うことで冷却し、再度高炉へ送水している。すなわち、高炉炉体から冷却水が回収した熱は、最終的に大気中へと放散されているだけで、なんら有効利用されていない。
【0027】
そこで、高炉14で熱を回収した後冷却塔15で冷却される前の、40℃程度となっている高炉冷却水を熱源として、チューブ型熱交換器11により膜ろ過モジュールに入る前の工業用水を昇温し、水温を夏季平均と同等の23℃とした後に、膜ろ過モジュール12を通過させた(比較例1)。なお、膜ろ過モジュールを通過させる流体温度としては、前述したように、40〜50℃程度の高温の方が有利であるが、本実施例では、熱源である高炉冷却水が40℃程度しかないこと、および、23℃でも必要水量は確保できることから、23℃で行った。
その結果、夏季と同等の透過流量を確保することができた。なお、この時の昇温に必要な高炉冷却水の流量は、10000m/hであった。
【0028】
しかしながら、膜ろ過モジュール12通過後の工業用水は、必ずしも23℃の水温を必要とせず、むしろ低温の方が使い勝手が良い。そこで、熱交換器11の通過前の工業用水経路に、もうひとつのチューブ型熱交換器10を設置し、その熱交換器10に、膜ろ過モジュール通過後の工業用水を通過させて膜ろ過モジュール通過前の工業用水を加温することで、膜ろ過モジュール通過後の工業用水の水温を下げることを試みた(発明例1)。
その結果、膜ろ過モジュール通過後の工業用水は、23℃から21℃へ冷却され、膜ろ過モジュール通過前の工業用水は、14℃から16℃まで予熱されることになり、熱源としての高炉冷却水の量を22%減らすことができると同時に、高炉冷却水をチューブ型熱交換器11に送るためのエネルギーを22%減らすことができた。さらに、膜ろ過モジュール通過後の工業用水の温度を、21℃という使い勝手の良い温度に低減することができた。
【0029】
本発明に従う膜ろ過モジュールの透過流量増加方法を用いた発明例1は、上記した従来例1に比べて、30%の設備数量減が実現され、設備費及びメンテナス費の低廉化も併せて達成された。また、上記した比較例1に比べて、膜ろ過モジュール通過後の工業用水の温度を最適化すると共に、送液ポンプの動力費を22%程度低減することができた。
【0030】
なお、上記実施例では、23℃で行っているが、膜ろ過モジュールを通過させる流体温度を、40〜50℃程度としても同等以上の効果が得られることを確認している。
【符号の説明】
【0031】
1 膜ろ過前流体貯槽
2 膜ろ過モジュールへの送液ポンプ
3 間接熱交換器(加温用)
4 間接熱交換器(昇温用)
5 膜ろ過モジュール
6 膜ろ過後流体貯槽
7 製鉄所低温排熱源
8 工業用水貯槽
9 工場用水送液ポンプ
10 チューブ型熱交換器(加温用)
11 チューブ型熱交換器(昇温用)
12 膜ろ過モジュール
13 精製工業用水貯槽
14 高炉
15 冷却塔
16 高炉冷却水送水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ろ過モジュールを用いる流体のろ過方法であって、
流体貯槽から供給された流体を、製鉄所の低温排熱を熱源として、間接熱交換により昇温させてから、上記膜ろ過モジュールを透過させると共に、該膜ろ過モジュール透過後の流体を、上記低温排熱による流体昇温前の経路に導いて、その保有熱を熱源として、間接熱交換により流体貯槽から供給された流体を加温することを特徴とする膜ろ過モジュールの透過流量増加方法。
【請求項2】
前記膜ろ過モジュールに、導入される際の流体の温度が20〜50℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の膜ろ過モジュールの透過流量増加方法。
【請求項3】
前記製鉄所の低温排熱が、30〜100℃の高炉冷却水の熱であることを特徴とする請求項1または2に記載の膜ろ過モジュールの透過流量増加方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71061(P2013−71061A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212509(P2011−212509)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】