説明

膜ろ過装置および膜洗浄方法

【課題】アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止しながら殺菌および洗浄を適切に行うことができる膜ろ過装置および膜洗浄方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、原水である海水をろ過する膜モジュール6を、膜モジュール6によってろ過されたろ過水を逆流させて洗浄する膜ろ過装置1において、膜モジュール6の膜の洗浄のために用いられるろ過水に、殺菌剤および洗浄剤として、アルカリ溶液ではなく、過酸化水素槽9内の過酸化水素を酸性下で安定化させた状態で注入するため、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止しながら殺菌および洗浄を適切に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜を洗浄する膜ろ過装置および膜洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な水不足の懸念から海水が有力な水資源と注目されており、この海水の淡水化技術が注目されている。この淡水化技術の中でも逆浸透膜を用いた膜処理技術はエネルギー消費が小さく世界各国での導入が見込まれている。この逆浸透膜を用いた海水淡水化方法においては、砂ろ過等の前処理を用いて、海水の清澄度(Silt Density Index:SDI)を低下させることが行なわれているものの、逆浸透膜のファウリングが激しく、海水の清澄度を下げることが困難な場合がある。
【0003】
この海水に対し、精密ろ過膜または限外ろ過膜による前処理技術の開発が行なわれている。また、魚介類の洗浄のために海水を用いる場合がある。この海水から、腸炎ビブリオ菌やノロウィルスを除去するための装置としても、精密ろ過膜または限外ろ過膜による膜ろ過装置が活用されている。しかしながら、海水には、河川水、湖水などよりもはるかに多量の微生物が棲息しており、膜のバイオファウリングも激しく進行し、さらに海水中の高塩濃度による促進効果のために、有機物によるファウリングも激増するという問題があった。
【0004】
このため、海水の膜ろ過のために、殺菌および膜の洗浄を目的として、殺菌剤および洗浄剤として機能する次亜塩素酸ナトリウムを、原水である海水または逆洗洗浄に用いる膜透過海水に注入していた。
【0005】
ここで、処理対象である海水は、pH9程度の弱アルカリ性を示すうえに、カルシウム、マグネシウム濃度が高い。このような特性を示す海水中に、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ溶液を注入してアルカリ度を高めると、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムなどのスケールが発生してしまう。この結果、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ溶液を注入する管内が、発生したスケールによって閉塞してしまい、装置停止に至ってしまう場合がある。
【0006】
このような問題を解決するため、アルカリ溶液注入配管にエアー封入配管をさらに設置してアルカリ溶液と海水との接触を低減する方法や(特許文献1参照)、アルカリ溶液注入管に酸を注入して炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムの発生を低減する方法(特許文献2参照)が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−251335号公報
【特許文献2】特開2007−098321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の方法および特許文献2記載の方法のいずれも、殺菌剤および洗浄剤として機能する次亜塩素酸アトリウムなどのアルカリ溶液を注入するための配管に加え、エア封入配管または酸注入配管が必要になるため、装置構成が複雑となるという問題があった。また、特許文献1記載の方法および特許文献2記載の方法のいずれも、ファウリングが激しい場合には、海水中に次亜塩素酸ナトリウムを高濃度で注入する必要があり、また、アルカリ溶液と海水との接触防止や酸注入量にも限界があることから、スケールを完全に予防することが難しかった。
【0009】
本発明によれば、上記に鑑みてなされたものであって、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止しながら殺菌および洗浄を適切に行うことができる膜ろ過装置および膜洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる膜ろ過装置は、原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜と、前記膜によってろ過されたろ過水または前記原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄手段とを備えた膜ろ過装置において、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水を酸性下に保持する保持手段と、前記保持手段によって酸性下に保持されたろ過水または原水に過酸化水素を注入する過酸化水素注入手段と、を備え、前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜と、前記膜によってろ過されたろ過水または前記原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄手段とを備えた膜ろ過装置において、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水に、酸性下に保持された過酸化水素を注入する過酸化水素注入手段を備え、前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水を前記膜の二次側から前記膜の一次側に逆流させて前記膜を洗浄することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜の一次側を洗浄することを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、前記保持手段は、無機酸を用いて、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水を酸性下に保持することを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、前記過酸化水素注入手段は、無機酸によって酸性下に保持された前記過酸化水素を注入することを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、前記保持手段は、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水をpH3.0未満に保持することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる膜ろ過装置は、前記過酸化水素注入手段は、pH3.0未満に保持された前記過酸化水素を注入することを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる膜洗浄方法は、原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜を洗浄する膜洗浄方法において、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水を酸性下に保持する保持工程と、前記保持工程において酸性下に保持されたろ過水または原水に過酸化水素を注入する過酸化水素注入工程と、前記過酸化水素注入工程において過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる膜洗浄方法は、原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜を洗浄する膜洗浄方法において、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水に、酸性下に保持された過酸化水素を注入する過酸化水素注入工程と、前記過酸化水素注入工程において過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜と、前記膜によってろ過されたろ過水または前記原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄手段とを備えた膜ろ過装置において、膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水に、殺菌剤および洗浄剤としてアルカリ溶液ではなく過酸化水素を注入するとともに、この過酸化水素が安定する酸性下にろ過水または原水を保持するため、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止しながら殺菌および洗浄を適切に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0022】
図1は、実施の形態にかかる膜ろ過装置の構成を示す模式図である。図1に示す膜ろ過装置1は、膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水に注入する殺菌剤および洗浄剤としてアルカリ溶液ではなく過酸化水素を選択するとともに、この過酸化水素が安定する酸性下にろ過水または原水を酸性下に保持している。
【0023】
図1に示すように、実施の形態にかかる膜ろ過装置1は、海水またはカルシウムイオン含有水を原水として貯留する原水槽2、原水槽2内の原水をディスクフィルタ4に送水する膜供給ポンプ3、原水中の微細な貝殻や階層などを除去するディスクフィルタ4、流入された水を膜モジュール6に送水する循環ポンプ5、流入された原水をろ過する膜モジュール6、膜モジュール6に空気を導入するエアーバブリング用ブロア8、殺菌剤および洗浄剤として機能する過酸化水素を保持する過酸化水素槽9、過酸化水素槽9の過酸化水素を膜透過水槽12および膜モジュール6の間の流路内に送水する過酸化水素注入ポンプ10、膜モジュール6に対する逆流洗浄時に膜透過水槽12内のろ過水を膜モジュール6に送水する逆流洗浄ポンプ11、膜モジュール6を透過した膜透過水(ろ過水)を貯留する膜透過水槽12、膜モジュール6から返送される原水の循環ポンプ5への流入を調節するバルブ15a、膜透過水槽12から送水された膜透過水の膜モジュール6一次側への流入を調節するバルブ15b、膜透過水槽12から送水された膜透過水の膜モジュール6二次側への流入を調節するバルブ15c、過酸化水素槽9内に注入される塩酸を収容する塩酸槽16、制御部20の制御のもと塩酸槽16から過酸化水素槽9に塩酸を注入する塩酸注入ポンプ17および過酸化水素槽9内のpHを計測して計測したpH値を制御部20に出力するpH計18を有する膜ろ過機構1aを備える。膜モジュール6は、外圧式中空糸精密ろ過膜を備える。
【0024】
さらに、膜ろ過装置1は、膜ろ過装置1の各構成部位を制御する制御部20、膜ろ過装置1の処理動作に関する情報を制御部20に入力する入力部22、膜ろ過装置1の処理動作に関する情報を出力する出力部23を備える。制御部20は、pH計18が計測したpH値および過酸化水素槽9に収容された過酸化水素溶液量などをもとに、過酸化水素槽9内のpH値が少なくとも3.0未満となるように、塩酸注入ポンプ17による塩酸注入量および塩酸注入タイミングを制御する。
【0025】
まず、図1および図2を参照して、膜ろ過装置1における各処理について説明する。なお、図2は、図1に示す膜ろ過装置1が行なう各処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0026】
図2に示すように、膜ろ過装置1においては、入力部22などの指示情報をもとに原水をろ過するろ過処理が行なわれる(ステップS2)。このろ過処理において、原水槽2に貯留された原水は、図1の矢印Y11に示すように、膜供給ポンプ3によって、ディスクフィルタ4に送水され微細な貝殻、海草などを取り除かれた後に、矢印Y12に示すように、循環ポンプ5によって膜モジュール6に送水される。なお、膜モジュール6に送水された原水の一部は、制御部20の制御によって、バルブ15aが開状態となることによって、図1の矢印Y13に示すように、循環ポンプ5の流入口に返送され、返送水として膜モジュール6に再度送水される。膜モジュール6を透過した膜透過水(ろ過水)は、矢印Y14に示すように、膜透過水槽12に貯留される。
【0027】
そして、制御部20は、ろ過処理を開始してから所定のろ過時間に到達したか否かを判断する(ステップS4)。制御部20は、ろ過処理を開始してから所定のろ過時間に到達していないと判断した場合には(ステップS4:No)、ステップS2に戻り、ろ過機構1aの各構成部位にろ過処理を継続させる。
【0028】
一方、制御部20は、ろ過処理を開始してから所定のろ過時間に到達したと判断した場合には(ステップS4:Yes)、膜モジュール6の膜表面の堆積物除去などのための膜洗浄処理のために、ろ過処理を停止する。
【0029】
ここで、実施の形態にかかる膜ろ過装置1においては、殺菌剤および洗浄剤としてアルカリ溶液ではなく過酸化水素を選択し、この過酸化水素を膜モジュール6の膜洗浄に用いられるろ過水に注入している。さらに、膜ろ過装置1においては、膜洗浄に用いるろ過水に注入する過酸化水素を、過酸化水素層9内において酸性下で保持することによって、過酸化水素を安定化して、過酸化水素が不安定化した際に問題となる気泡発生による過酸化水素注入配管中の詰まりを回避している。
【0030】
したがって、制御部20の制御のもと、逆流洗浄ポンプ11は、膜モジュール6の膜洗浄のために図1の矢印Y20のように膜透過水槽12内のろ過水を膜モジュール6に送水するとともに、過酸化水素注入ポンプ10は、矢印Y21のように、過酸化水素槽9内の酸性下に保持された過酸化水素を、膜洗浄に用いられるろ過水内に注入する過酸化水素注入処理を行なう(ステップS6)。
【0031】
次いで、膜ろ過装置1は、逆流洗浄ポンプ11によるろ過水の送水および過酸化水素注入ポンプ10による過酸化水素の注入を継続させた状態のまま、バルブ15bを開状態として、矢印Y22に示すように、過酸化水素が注入されたろ過水を膜モジュール6の一次側に送水して膜モジュール6の一次側をフラッシング洗浄し、このフラッシング終了後、バルブ15bを閉状態としバルブ15cを開状態として、矢印Y23に示すように、過酸化水素が注入されたろ過水を膜モジュール6の二次側から膜モジュール6の一次側に逆流させて逆流洗浄する膜洗浄処理を行う(ステップS8)。ろ過処理においては海水中の微生物は膜モジュール6の膜面に捕捉され(バイオファウリング)、有機物は膜面に吸着される(有機物ファウリング)ため、膜差圧が上昇する。この膜差圧が急激に増加した場合には、膜ろ過装置1はろ過処理不能となり停止してしまう。このバイオファウリングおよび有機物ファウリングを防止するために、過酸化水素が注入されたろ過水によって、フラッシング洗浄および逆流洗浄が行われる。なお、フラッシング排水および逆流洗浄排水は、矢印Y24に示すように、膜モジュール6上部より排出される。
【0032】
膜ろ過装置1は、逆流洗浄ポンプ11および過酸化水素注入ポンプ10の総帥処理を停止して膜洗浄処理を終了した後、図1の矢印Y25に示すように、エアーバブリング用ブロア8より膜モジュール6下部より膜の二次側に空気を導入するエアーバブリング処理を行なう(ステップS10)。なお、空洗排水は、フラッシング排水および逆流洗浄排水と同様に、矢印Y24に示すように、膜モジュール6上部より排出される。エアーバブリング処理終了後、矢印Y26のように、ドレン14から膜モジュール6の一次側に残留する逆流洗浄水が排出される。
【0033】
つぎに、制御部20は、入力部22によって入力された指示情報などをもとに、ろ過処理を続行するか否かを判断し(ステップS12)、ろ過処理を続行すると判断した場合には(ステップS12:Yes)、ステップS2に戻ってろ過処理を開始し、ろ過処理を続行しないと判断した場合には(ステップS12:No)、そのままろ過処理などの各処理動作を終了する。
【0034】
このように、実施の形態における膜ろ過装置1においては、膜の洗浄のために用いられるろ過水に、殺菌剤および洗浄剤として、アルカリ溶液ではなく過酸化水素を注入するため、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムなどのスケール自体が発生しない。したがって、膜ろ過装置1によれば、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止しながら、殺菌および洗浄を適切に行うことができる。
【0035】
さらに、膜ろ過装置1においては、膜洗浄に用いるろ過水に注入する過酸化水素を、過酸化水素層9内において酸性下で保持することによって過酸化水素を安定化しているため、過酸化水素が不安定化した際に問題となる気泡発生による過酸化水素注入配管中の詰まりを回避している。
【0036】
この過酸化水素を酸性下に保持する理由について説明する。たとえば過酸化水素濃度35%の過酸化水素溶液は、pH4.5〜4.7程度の弱酸性を示し、この過酸化水素溶液を海水に注入しても海水のアルカリ度を高めることはないため、スケールの発生は起こらない。
【0037】
しかしながら、微量の金属化合物が存在する中に、弱酸性の過酸化水素溶液を注入した場合には、過酸化水素は酸素を発生しながら激しく分解する。ここで、海水は塩濃度が高く、海水周囲の金属は容易に酸化腐食し、海水中に微量の金属および金属酸化物が混入する可能性は高い。また、過酸化水素溶液を貯留する過酸化水素槽中にも微量の金属および金属酸化物が混入する場合も考えられる。このように、金属および金属酸化物が混入した状態で弱酸性下の過酸化水素溶液を注入した場合や、金属および金属酸化物が弱酸性下の過酸化水素溶液に混入した場合には、酸素の発生をともなう過酸化水素の激しい分解によって、多量の気泡が発生する。この結果、各注入ポンプや過酸化水素注入配管中に気泡が詰まってしまい、過酸化水素を正しく制御しながらろ過水中に注入することができなくなってしまう。
【0038】
これに対し、過酸化水素は、pH値が3.0未満の強酸性下において保持された場合には、非常に安定して存在することができ、この強酸性下において保持された過酸化水素に金属および金属酸化物が混入した場合などであっても、酸素を発生しながら激しく分解することはない。本実施の形態にかかる膜ろ過装置1においては、pH値が少なくとも3.0未満となる酸性下で過酸化水素を保持するため、各注入ポンプや過酸化水素注入配管の詰まり原因となる気泡自体が発生しない。したがって、本実施の形態にかかる膜ろ過装置1によれば、各注入ポンプや過酸化水素注入配管中が詰まることがないため、殺菌剤および洗浄剤である過酸化水素を、膜洗浄のために用いられるろ過水中に高精度で注入でき、殺菌および洗浄を適切に行うことができる。
【0039】
実際に、図1および図2のフローにもとづいて海水のクロスフローを実施した。具体的には、PVDF製孔径0.1μm、膜面積7mの外圧式中空糸精密ろ過膜(旭化成(株)製)を3本使用し海水の膜ろ過を実施している。この場合、80メッシュ(200μm)のディスクフィルタ4に海水を通した後、循環ポンプ5で膜モジュール6の返送水とともに膜供給流量2.52m/hで膜モジュール6に供給した。そして、膜ろ過装置1は、ろ過処理として、クロスフロー方式でろ過流束1.0m/(m・d)の定流量ろ過を行った。膜ろ過装置1は、ろ過処理20分の後、ろ過処理を停止している。
【0040】
その後、過酸化水素注入ポンプ10は、逆流洗浄ポンプ11により送水されるろ過水に対して、塩酸を添加してpH<2.0とした濃度35%の過酸化水素を貯槽している塩酸酸性過酸化水素槽9から、過酸化水素の濃度20mg/Lとなるように過酸化水素を注入する。そして、膜ろ過装置1は、フラッシング洗浄として、膜透過水槽12のろ過水を逆流洗浄ポンプ11により流量2.16m/hで膜の一次側に送水し25秒洗浄した。次いで、膜ろ過装置1は、バルブ15bを閉状態としバルブ15cを開状態とした後に、30秒間、膜の二次側から一次側への逆流洗浄を行った後、逆流洗浄ポンプ11を停止する。膜ろ過装置1は、逆流洗浄排水を排水し逆流洗浄を終了した後、エアーバブリング用ブロア8より6m/hのエアー流量で膜モジュール6の一次側にエアーを導入し10秒間エアーバブリング処理を行う。膜ろ過装置1は、エアーバブリング処理終了後、膜モジュール6の一次側に残留する逆流洗浄排水を排出後、膜の一次側を原水で満たし、ろ過処理を開始する。
【0041】
以上の処理工程を1ヶ月間繰り返して運転を行った結果を図3に示す。図3は、膜ろ過装置1においてろ過処理および膜洗浄処理を1ヶ月間行なった場合における膜差圧の時間依存を示す図である。図3に示すように、上述した条件のろ過処理および膜洗浄処理を1ヶ月間行なった場合であっても、膜差圧は、安定運転が可能である70kPa程度を維持していた。これは、強酸性下に保持された過酸化水素を殺菌剤および洗浄剤として海水に注入することによって、スケールおよび気泡による配管詰まりのいずれもが発生しなかったことに起因する。
【0042】
これに対し、強酸性下で保持される過酸化水素の代わりに、次亜塩素酸ナトリウムを、逆流洗浄水に有効塩素濃度として5mg/Lとなるように注入し、同様の運転を行った場合には、図4に示すように、運転当初15kPa程度であった膜差圧が、本実施の形態にかかる膜ろ過装置1と異なって、たった6日程度の運転で100kPa以上に急上昇し、1週間で運転が不能となってしまった。そして、次亜塩素酸ナトリウムの注入口を点検したところ、注入口の逆止弁に炭酸カルシウムの結晶が析出し配管が閉塞してしまっていた。
【0043】
以上のように、次亜塩素酸ナトリウムを使用する従来の膜ろ過装置と比較し、本実施の形態にかかる膜ろ過装置1においては、実際にスケール発生を防止できるとともに、安定したろ過処理の継続が可能であることが分かる。
【0044】
なお、過酸化水素槽中での過酸化水素の分解を防ぐために、過酸化水素に添加する酸は、過酸化水素との反応を避けるために無機酸であることが必要である。過酸化水素に添加する無機酸としては強酸であれば構わない。塩酸のほかには、硫酸または硝酸であってもよいものの、硫酸は、海水中のカルシウムと反応して不溶性の硫酸カルシウムを生じる場合があり、また、硝酸は、逆流洗浄排水中の窒素汚染が懸念されるため、使用する無機酸としては塩酸が最も望ましい。
【0045】
また、過酸化水素に対する酸性化の条件としてはpH値が3.0未満であればよいものの、pH値を2.0未満とすることによって過酸化水素はさらに安定化することが知られているため、pH値を2.0未満とすることがさらに望ましい。
【0046】
また、膜洗浄のために用いられるろ過水への過酸化水素の注入量としては5mg/L〜500mg/Lの濃度で、10〜100mg/Lの濃度となるように注入することが望ましい。この条件下で過酸化水素を注入した場合には、海水中の金属化合物による急激な分解を生ずることがないことが確認できたため、この条件で過酸化水素を注入することによって、過酸化水素による効果的な膜の殺菌、洗浄を行うことが出来る。
【0047】
また、膜モジュール6として外圧式中空糸精密ろ過膜を使用しているが、外圧式でも内圧式でも構わない。また、膜の種類としては精密ろ過膜でも限外ろ過膜でも構わない。ただし、海水中のノロウィルスの除去に使用する場合は限外ろ過膜が望ましい。また、膜ろ過方式としては、全量ろ過でもクロスフローろ過でも構わない。また、膜モジュール6に使用する膜素材としては、多孔質の膜であれば特に限定せず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホンやセラミック等の無機素材の中から選ばれる。
【0048】
また、実施の形態においては、酸性下に保持した過酸化水素を膜洗浄のために用いるろ過水に注入するほか、膜洗浄のために用いるろ過水を酸性に保持してから過酸化水素を注入してもよい。この場合、図5の膜ろ過装置201におけるろ過機構201aのように、膜透過槽12と過酸化水素注入位置との間の流路内のろ過水に塩酸槽16内の塩酸を注入できるように、塩酸注入ポンプ17と塩酸注入配管とを設ける。そして、塩酸が注入された後のろ過水のpHを計測できるように、塩酸注入位置と過酸化水素注入位置との間にpH計18を設置する。塩酸槽16、塩酸注入ポンプ17および塩酸注入配管は、特許請求の範囲に記載した、膜の洗浄のために用いられるろ過水を酸性下に保持する保持手段として機能する。
【0049】
図5に示す膜ろ過装置201においては、図6に示すように、図2のステップS2およびステップS4と同様に、ろ過処理(ステップS22)およびろ過時間到達判断処理(ステップS24)を行なう。その後、制御部220の制御のもと、逆流洗浄ポンプ11は、図5の矢印Y20のように膜透過水槽12内のろ過水を膜モジュール6に送水するとともに、塩酸注入ポンプ17は、矢印Y220のように、塩酸槽16内の塩酸を、膜洗浄に用いられるろ過水内に注入する塩酸注入処理を行なう(ステップS25)。塩酸注入処理が継続される間、pH計18は、塩酸が注入された後のろ過水のpHを計測し、制御部220に計測したpH値を出力する。制御部220は、ろ過水のpHが少なくとも3.0未満になったと判断した場合には、過酸化水素注入ポンプ10に対し、矢印Y21のように、過酸化水素槽9内の過酸化水素を、酸性下に保持されたろ過水内に注入する過酸化水素注入処理を行なう(ステップS26)。次いで、膜ろ過装置201は、図2に示すステップS8〜12と同様に、膜洗浄処理(ステップS28)、エアーバブリング処理(ステップS30)およびろ過処理続行判断処理(ステップS32)を行なう。
【0050】
この膜ろ過装置201のように、膜の洗浄のために用いられるろ過水を酸性下に保持した後に、殺菌剤および洗浄剤として過酸化水素を注入した場合も、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止することができるため、殺菌および洗浄を適切に行うことができる。
【0051】
また、膜モジュール6を透過したろ過水を用いて膜モジュール6の膜を洗浄した場合を例に説明したが、もちろんこれに限らず、原水を用いて膜モジュール6の膜の一次側を洗浄してもよい。この場合には、図7の膜ろ過装置301のろ過機構301aに示すように、循環ポンプ5と膜モジュール6の一次側との間の流路内の原水に、酸性下に保持した過酸化水素を注入できるように、過酸化水素槽9、過酸化水素注入ポンプ10、塩酸槽16、塩酸注入ポンプ17およびpH計18を設ける。過酸化水素注入ポンプ10は、ろ過処理が終了した後の過酸化水素注入処理として、図7の矢印Y320に示すように、制御部320の制御のもと、膜洗浄のために用いられる原水内に酸性下に保持された過酸化水素を注入する。その後、膜ろ過装置301は、膜モジュール6の膜の一次側を洗浄する膜洗浄処理、エアーバブリング処理を行なう。この膜ろ過装置301のように、膜の洗浄のために用いられる原水に酸性下に保持した過酸化水素を注入した場合も、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止することができるため、殺菌および洗浄を適切に行うことができる。
【0052】
また、図8の膜ろ過装置401のろ過機構401aに示すように、膜洗浄のために用いる原水を酸性に保持してから過酸化水素を注入してもよい。この場合、循環ポンプ5と過酸化水素注入位置との間の流路内の原水に塩酸槽16内の塩酸を注入できるように、塩酸注入ポンプ17と塩酸注入配管とを設ける。そして、塩酸が注入された後の原水のpHを計測できるように、塩酸注入位置と過酸化水素注入位置との間にpH計18を設置する。制御部420は、塩酸注入処理として、矢印Y420のように、塩酸注入ポンプ17に塩酸槽16内の塩酸を原水内に注入させる。そして、制御部420は、原水のpHが少なくとも3.0未満になったと判断した場合には、過酸化注入処理として、過酸化水素注入ポンプ10に対し、矢印Y320のように、過酸化水素槽9内の過酸化水素を、酸性下に保持された原水内に注入させる過酸化水素注入処理を行なう。その後、膜ろ過装置401は、膜モジュール6の膜の一次側を洗浄する膜洗浄処理、エアーバブリング処理を行なう。この膜ろ過装置401のように、膜の洗浄のために用いられる原水を酸性下に保持してから過酸化水素を注入した場合も、アルカリ溶液注入に起因するスケール発生を防止することができるため、殺菌および洗浄を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態にかかる膜ろ過装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す膜ろ過装置1が行なう各処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示す膜ろ過装置においてろ過処理および膜洗浄処理を1ヶ月間行なった場合における膜差圧の時間依存を示す図である。
【図4】従来技術にかかる膜ろ過装置においてろ過処理および膜洗浄処理を行なった場合における膜差圧の時間依存を示す図である。
【図5】実施の形態にかかる膜ろ過装置の他の構成を示す模式図である。
【図6】図5に示す膜ろ過装置1が行なう各処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】実施の形態にかかる膜ろ過装置の他の構成を示す模式図である。
【図8】実施の形態にかかる膜ろ過装置の他の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1,201,301,401 膜ろ過装置
1a,201a,301a,401a ろ過機構
2 原水槽
3 膜供給ポンプ
4 ディスクフィルタ
5 循環ポンプ
6 膜モジュール
8 エアーバブリング用ブロア
9 過酸化水素槽
10 過酸化水素注入ポンプ
11 逆流洗浄ポンプ
12 膜透過水槽
14 ドレン
15a〜15c バルブ
16 塩酸槽
17 塩酸注入ポンプ
18 pH計
20 制御部
22 入力部
23 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜と、前記膜によってろ過されたろ過水または前記原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄手段とを備えた膜ろ過装置において、
前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水を酸性下に保持する保持手段と、
前記保持手段によって酸性下に保持されたろ過水または原水に過酸化水素を注入する過酸化水素注入手段と、
を備え、前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄することを特徴とする膜ろ過装置。
【請求項2】
原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜と、前記膜によってろ過されたろ過水または前記原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄手段とを備えた膜ろ過装置において、
前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水に、酸性下に保持された過酸化水素を注入する過酸化水素注入手段を備え、
前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄することを特徴とする膜ろ過装置。
【請求項3】
前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水を前記膜の二次側から前記膜の一次側に逆流させて前記膜を洗浄することを特徴とする請求項1または2に記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
前記洗浄手段は、前記過酸化水素注入手段によって過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜の一次側を洗浄することを特徴とする請求項1または2に記載の膜ろ過装置。
【請求項5】
前記保持手段は、無機酸を用いて、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水を酸性下に保持することを特徴とする請求項1、3または4に記載の膜ろ過装置。
【請求項6】
前記過酸化水素注入手段は、無機酸によって酸性下に保持された前記過酸化水素を注入することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一つに記載の膜ろ過装置。
【請求項7】
前記保持手段は、前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水をpH3.0未満に保持することを特徴とする請求項1、3または4に記載の膜ろ過装置。
【請求項8】
前記過酸化水素注入手段は、pH3.0未満に保持された前記過酸化水素を注入することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一つに記載の膜ろ過装置。
【請求項9】
原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜を洗浄する膜洗浄方法において、
前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水を酸性下に保持する保持工程と、
前記保持工程において酸性下に保持されたろ過水または原水に過酸化水素を注入する過酸化水素注入工程と、
前記過酸化水素注入工程において過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄工程と、
を含むことを特徴とする膜洗浄方法。
【請求項10】
原水である海水またはカルシウムイオン含有水をろ過する膜を洗浄する膜洗浄方法において、
前記膜の洗浄のために用いられるろ過水または原水に、酸性下に保持された過酸化水素を注入する過酸化水素注入工程と、
前記過酸化水素注入工程において過酸化水素を注入されたろ過水または原水を用いて前記膜を洗浄する洗浄工程と、
を含むことを特徴とする膜洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−148667(P2009−148667A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327318(P2007−327318)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】