説明

膜ろ過装置の移動式洗浄装置

【課題】現地で膜ろ過装置の膜モジュールを薬品洗浄することができ、且つ薬品洗浄に伴う高濃度の薬品廃液量を最小限に抑えることができるようにする。
【解決手段】膜ろ過装置から膜モジュール12を取り外さずに薬品洗浄を行う移動式洗浄装置である。原水供給パイプ45と逆洗水排水パイプ47との間を、着脱式の細管からなる第1及び第2の薬液循環用細配管31,32で連通する。さらに、第1の薬液循環用細配管31に洗浄用薬品注入装置33、薬液循環ポンプ34を接続し、薬品廃液は薬品廃液移送用配管35を経由して薬品廃液タンク36へ貯留する。移動式洗浄装置を構成する第1及び第2の薬液循環用細配管31,32、洗浄用薬品注入装置33、薬液循環ポンプ34、薬品廃液移送用配管35、薬品廃液タンク36は分解組立て可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道原水等をろ過処理する膜ろ過装置の移動式洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水中の汚濁物質を除去する方法として、膜ろ過を利用した水処理方法がよく知られている。この膜ろ過を用いて水処理する膜ろ過装置においては、膜の目詰まりや、配管の汚れ等のために定期的に薬品洗浄する必要がある。また、洗浄に使用した薬品はそのまま排出することはできず無害化処理する必要がある。特に、山間部の1000m/日以下の浄水場の近傍には下水処理場等の処理設備がなく、環境汚染の原因物質の可能性がある排水は、たとえ排出基準を満足していたとしても排出できない。このため、膜ろ過装置の洗浄を行った後、中空糸膜等の膜を収納した膜モジュールのみを持ち帰って処理設備の整備された場所で洗浄するようにしている。
【0003】
ところが、膜モジュールを持ち帰って洗浄するためには、膜ろ過装置の分解、膜モジュールの梱包、発送等にコストがかかる。また、ろ過設備が2系統ある場合、片方の系の膜モジュールを持ち帰るため、洗浄して再び運転に使用するまでの間、ろ過能力の低下が続くことになる。
【0004】
この問題に対して膜モジュールを現地で薬品洗浄する提案がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、膜ろ過装置の設置場所での洗浄で発生した薬品廃液の無害化処理方法が記載されている。具体例として、塩素系廃液、有機酸廃液を個別の貯留槽に溜め、両廃液にアルカリ剤を添加した後に混合反応槽に導入し、そこに所定時間反応させた酸化剤を添加し、さらにフィルタを通過させて鉄、マンガン等の固形物を除去した後、紫外線照射による酸化反応で有機物を分解する。
【特許文献1】特開2004−216297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、膜モジュールを現地で薬品洗浄する場合、薬品の洗浄排水の発生量が多くなり、薬品排水の処理コストが高くついてしまう。また、山間部の1000m/日以下の浄水場には専任の担当者がいる訳ではなく、反応槽等の維持管理は困難である。また、塩素系の薬品廃液と有機酸系の薬品廃液を混合して紫外線照射による酸化で有機物を分解しているため、塩素系の有害有機物の発生する恐れもあり、活性炭の吸着設備が必要になる。また、洗浄薬品の濃度が1%程度と高く、排水規制にある導電率が大きくなり、希釈して排水を放流することが必要になる場合が多い。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、膜ろ過装置が設置された現地で膜ろ過装置の膜モジュールを薬品洗浄することができ、且つ薬品洗浄に伴う高濃度の薬品廃液量を最小限に抑えることができる膜ろ過装置の移動式洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の膜ろ過装置の移動式洗浄装置は、原水供給口と、ろ過水排出口と、逆洗排水口とを有し、前記原水供給口から原水を供給して前記ろ過水排出口からろ過した膜ろ過水を取り出し、予め定めた時期あるいは膜の目詰まりに応じて、膜モジュールの逆洗を行い、当該逆洗排水を前記逆洗排水口から排出する膜ろ過装置であって、前記膜モジュールを前記膜ろ過装置から取り外さずに薬品洗浄を行う移動式洗浄装置において、前記膜モジュールの一次側に洗浄用薬液を循環させる薬液循環ポンプと、前記膜モジュールの前記原水と前記逆洗排水の主配管から分岐して、前記薬液循環ポンプを介して両端を連結可能な着脱式の細管からなる薬液循環用配管と、前記薬液循環用配管に洗浄用の薬品を注入する洗浄用薬品注入装置と、前記薬液循環用配管に一端を連結可能な着脱式の薬品廃液移送用配管と、前記薬品廃液移送用配管によって移送される薬品廃液を貯留する薬品廃液タンクと、前記薬品廃液移送用配管を連結可能で前記膜モジュール及び前記薬液循環用配管に存在する薬品廃液を前記薬品廃液移送用配管経由で吸引して前記薬品廃液タンクへ移送する吸引ポンプとを備え、分解及び組立て可能であることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、膜モジュールの原水供給口と逆洗排水口との主配管から分岐して、薬液循環ポンプを介して両端を連結する薬液循環用配管を細管とし、かつ薬品循環運転可能としたので、洗浄用薬品の使用量を少なくでき、薬品洗浄に伴う高濃度の薬品廃液量を最小限に抑えることができる。特に薬品洗浄は膜モジュールの汚れが付着している部分のみを(中空糸膜の一次側(即ち原水側))を洗浄することから、洗浄用薬品の量を少なくしても、洗浄用薬品を複数回に分割して注入し、その都度汚れた薬品洗浄廃液を吸引用ポンプで薬品廃液タンクに送水すれば、薬品濃度が低くても十分な洗浄効果が得られる。また、薬品洗浄廃液量を少なくできることで環境保全にも寄与することができる。
【0009】
また、移動式洗浄装置の分解及び組み立てができるので、車両による運搬が可能となり、様々な場所に設置された膜ろ過装置の薬品洗浄を現地で行うことができる。特に、専任の担当者がいない山間部の浄水場においても、訓練した専任の作業者が現地に赴いて洗浄作業を行うことができる。また、膜ろ過装置の配管とは別の配管を用いて循環洗浄を行うため、例えばろ過設備が2系統ある場合、他方の系のろ過設備を運転しながら薬品洗浄を行うことができ、しかも洗浄対象の膜モジュールを持ち帰る必要がないことから、ろ過能力の低下時間を短くできる。
【0010】
また、上記膜ろ過装置の移動式洗浄装置において、前記膜ろ過装置のすすぎ洗浄で発生した希薄濃度の薬品廃液を、RO膜を用いた水処理装置、又は吸着式廃液処理装置で処理することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、希薄濃度の薬品廃液を、RO膜を用いた水処理装置、又は吸着式廃液処理装置で処理することにより、RO膜を用いた処理水又は吸着式廃液処理装置で生成される処理水を河川に放流することができ、薬品廃液タンクの容量を縮小できる。
【0012】
また、前記移動式洗浄装置を構成する各構成部品を車に積載することが望ましい。これにより、移動式洗浄装置を構成する各構成部品を車に積載したまま、点在するろ過設備まで容易に移動できる。
【0013】
また、本発明の膜ろ過装置の薬品洗浄方法は、上記移動式洗浄装置を用いて膜ろ過装置を洗浄する薬品洗浄方法であって、薬品洗浄工程では、薬品洗浄に用いる薬品が有機酸の場合、1回の薬品循環洗浄に用いる薬品溶液使用量がろ過膜の一次側の容積の2.5倍以内で2回以上行い、すすぎ工程では、1回当たりの使用水量が膜モジュールのろ過膜の一次側の容積1.5倍以内で2回以上行った後、次亜塩素酸Naでの洗浄及びすすぎ洗浄を1回以上行うことを特徴とする。なお、ろ過膜の一次側の容積は、内圧式の中空糸膜では、中空糸膜の中空部分の容積の合計、外圧式の中空糸膜では膜モジュールの内容積から中空糸膜の体積を引いた容積である。
【0014】
この構成によれば、洗浄用薬品を複数回に分割して注入して、その都度汚れた薬品洗浄廃液を吸引ポンプで薬品廃液タンクに移送することにより、薬品の濃度が低くても十分な洗浄効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜ろ過装置が設置された現地で膜ろ過装置の膜モジュールを薬品洗浄することができ、且つ薬品洗浄に伴う高濃度の薬品廃液量を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は移動式洗浄装置を接続していない膜ろ過装置の構成図であり、図1(b)は移動式洗浄装置を接続した膜ろ過装置の構成図である。同図に示す膜ろ過装置は、原水槽11に水源から供給される原水が貯留される。原水槽11は原水供給配管13を介して膜モジュール12の原水側(一次側)に連通しており、原水供給配管13に設けた原水供給ポンプ14を駆動することにより膜モジュール12の原水側に原水が送水される。膜モジュール12の透過側(二次側)はろ過水配管15を介して逆洗水槽16に連通している。また、逆洗水槽16は逆洗用配管17を介して膜モジュール12の透過側に連結されており、逆洗水供給ポンプ18を駆動することにより逆洗水槽16の膜ろ過水が膜モジュール12の透過側へ送水される。原水供給ポンプ14の下流側に膜入口バルブ21が設けられ、逆洗水槽16入口に逆洗水槽入口バルブ22が設けられている。逆洗用配管17には膜モジュール12透過側出口近傍に逆洗水供給バルブ23が設けられ、膜モジュール12の原水側の逆洗水排水パイプ近傍に膜出口バルブ24が設けられている。
【0017】
図2は膜モジュール12の構成図である。膜モジュール12は、内圧式中空糸タイプのものである。このタイプのものは洗浄部分の容積が小さいため洗浄が容易であり、例えば膜面積35mの膜モジュール12の場合、薬品洗浄する部分の体積は約0.007mとなる。膜モジュール12は、中空糸膜40が収納ケース41に収納され、収納ケース41の両端部はシール部42a、42bにてシールされている。収納ケース41の原水供給側となる下端部を囲むように下部フランジ43が取り付けられる一方、収納ケース41の上端部を囲むように上部フランジ44が取り付けられている。原水供給パイプ45は、原水供給配管13の膜モジュール12近傍部分を形成しており、先端部分が下部フランジ43に貫通して下部フランジ43内部に至り、収納ケース41の下部より原水を供給する。また、ろ過水輸送パイプ46は、先端が膜モジュール側から見てろ過水排出口となる収納ケース41の上部側壁に連通していて、他端はろ過水配管15(及び逆洗用配管17)に接続されている。また、逆洗水排水パイプ47は、排水配管の膜モジュール12近傍部分を形成しており、先端部分が上部フランジ44に貫通して上部フランジ44内部に至り、逆洗排水を膜モジュール12外へ抜き取るように構成されている。
【0018】
移動式洗浄装置は、図1(b)に示すように、膜モジュール側から見て原水供給口となる原水供給パイプ45のモジュール側端部近傍に一端が連結される第1の薬品循環用細配管31、膜モジュール側から見て逆洗排水口となる逆洗水排水パイプ47の膜モジュール側端部近傍に一端が連結される第2の薬品循環用細配管32、第1の薬品循環用細配管31に薬品を供給する洗浄用薬品注入装置33、吐出口に第1の薬品循環用細配管31の他端が連結され吸引口に第2の薬品循環用細配管32の他端が連結される薬液循環ポンプ34を備える。本実施の形態では、第1の薬品循環用細配管31と第2の薬品循環用細配管32とで薬液循環用配管を構成しているが、原水供給パイプ45の接続部及び逆洗水排水パイプ47の接続部に対して端部を着脱自在で、洗浄用薬品注入装置33及び薬液循環ポンプ34を接続可能であれば、上記2つの細配管に限定されるものではない。さらに、一端が第1の薬品循環用細配管31に連結された薬品廃液移送用配管35、薬品廃液移送用配管35の他端に連結された薬品廃液タンク36、薬品廃液移送用配管35に設けられた吸引ポンプ37を備える。不図示の固形分分離用フィルタも備える。これらの構成要素からなる移動式洗浄装置は、薬品洗浄時に現地で組み立てて膜ろ過装置本体に取り付けて使用され、移動時は分解して車に積載されて移動する。
【0019】
上記移動式洗浄装置は分解組み立てが可能な構造を有している。組み立てる場合は、第1の薬品循環用細配管31の一端を原水供給パイプ45の膜モジュール側端部近傍に接続し、第1の薬品循環用細配管31の他端を薬液循環ポンプ34の吐出口に接続する。第1の薬品循環用細配管31に対して洗浄用薬品注入装置33を取り付ける。また、第2の薬品循環用細配管32の一端を逆洗水排出パイプ47の膜モジュール側端部近傍に接続し、第2の薬品循環用細配管32の他端を薬液循環ポンプ34の吸引口に接続する。さらに、第1の薬品循環用細配管31と薬品廃液移送用配管35とを連結し、薬品廃液移送用配管35の他方の端部を薬品廃液タンク36に連結する。なお、組み立て手順は、必ずしも上記の手順に従う必要は無く、必要に応じて一部の部品は予め連結しておいても良い。
【0020】
本実施の形態では、洗浄用薬品の使用量を最小限に抑えるために、第1及び第2の薬品循環用細配管31,32の直径を細くしており、配管全長も可能な限り短くするようにしている。第1及び第2の薬品循環用細配管31,32の形状を短く且つ細くすることで、第1及び第2の薬品循環用細配管31,32と膜モジュール12とで形成される経路の容量が小さくなり、その分、洗浄用薬品の使用量を少なくすることができる。そして、洗浄用薬品の使用量を少なくすることは薬品廃液量を少なくできることにつながる。特に、薬品洗浄は膜モジュール内の汚れが付着している部分(中空糸膜40の原水側)のみを洗浄するので、1回の洗浄用薬品の量を少なくしても、複数回に分割して注入してその都度汚れた薬品洗浄廃液を薬品廃液タンク36に回収すれば十分な洗浄効果が得られる。
【0021】
次に、本実施の形態の膜ろ過装置における(1)ろ過工程、(2)物理洗浄工程、(3)薬品洗浄工程(すすぎ工程を含む)について説明する。それぞれの工程での運転条件は原水条件などに応じて決められる。
【0022】
(1) ろ過工程
ろ過工程では、膜入口バルブ21、逆洗水槽入口バルブ22をそれぞれ開き、膜出口バルブ24及び逆洗水供給バルブ23をそれぞれ閉じ、原水槽11に流入した原水を原水供給ポンプ14にて膜モジュール12へ送水してろ過水を得る。膜モジュール12で得られたろ過水は逆洗水槽16を経てろ過水タンク(図示略)に貯留する。
【0023】
(2) 物理洗浄工程
物理洗浄工程は、ろ過工程終了毎に行う。この物理洗浄工程には、フラッシング工程、エアースクラビング(空気、水混合洗浄)のいずれか一方と逆洗工程が含まれる。フラッシング工程は、膜モジュール12内の中空糸膜40の膜表面に付着した比較的大きな固形分を排出する目的で実施し、原水を原水供給ポンプ14にて膜モジュール12へ送水し、中空糸膜40の内径部を洗浄する。この際、膜入口バルブ21及び膜出口バルブ24をそれぞれ開く。フラッシング流束は、原水供給ポンプ14の最大値近傍で行う。エアースクラビング(空気、水混合洗浄)工程は、コンプレッサ(図示略)より空気を導入するものであり、それ以外はフラッシング工程と同じである。
【0024】
逆洗工程では、膜出口バルブ24及び逆洗水供給バルブ23をそれぞれ開き、逆洗水槽16のろ過水を逆洗水供給ポンプ18にて膜モジュール12の透過側から中空糸膜40へと送水し、中空糸膜40を洗浄する。このときの逆洗排水は膜出口バルブ24を経て排出する。
【0025】
(3) 薬品洗浄工程
膜ろ過装置の運転を6ヶ月間行って膜差圧が上昇した膜モジュール12に原水を満たした後、移動式洗浄装置を上記した手順で組み立てて膜ろ過装置に取り付ける。組立て完了後に、膜入口バルブ21、膜出口バルブ24、逆洗水槽入口バルブ22及び逆洗水供給バルブ23のそれぞれを閉じる。薬液循環ポンプ34を駆動して循環運転を開始し、同時に洗浄用薬品注入装置33から有機酸を所定の濃度になるまで供給する。洗浄用薬品注入装置33から添加される薬品を含んだ循環水は、第1の薬品循環用細配管31、膜モジュール12、第2の薬品循環用細配管32、第1の薬液循環ポンプ34の経路で循環する。以上の薬品循環洗浄を所定時間行った後、薬液循環ポンプ34を停止させると共に吸引ポンプ37を駆動する。これにより、上記循環経路(第1の薬品循環用細配管31、膜モジュール12、第2の薬品循環用細配管32、第1の薬液循環ポンプ34)に存在する薬品廃液は、吸引されて薬品廃液タンク36に貯留される。この操作を2〜7回繰り返す。薬品廃液タンク36に溜められた有機酸を含有する薬品廃液は輸送中の安全のため、アルカリ(水酸化Na等)を添加し中和処理する。
【0026】
1回の薬品循環洗浄に要する時間は30分から2時間である。洗浄に要する時間及び回数等は、原水の水質や運転条件等により異なるため、設置場所ごとに別途実験により洗浄時のpHの変化等を参考に決定する。
【0027】
また、薬液循環ポンプ34の負荷電流を計測し、負荷電流が所定量増加したらフィルターユニットを交換することが好ましい。フィルターユニットは少なくとも2系列以上設け、運転時に循環洗浄が停止しないようにすることが好ましい。薬品として用いる有機酸としては、クエン酸、シュウ酸等が好適である。
【0028】
次に、逆洗水槽16に貯留させたろ過水を供給し、膜モジュール12中に1/2程度満たした後、1〜10分循環してすすぎを行い、このときのすすぎ液を吸引ポンプ37により薬品廃液タンク36に貯留する。このすすぎ工程を合計3〜5回繰り返す。
【0029】
なお、すすぎ液の循環方向は、縦型の膜モジュール12の場合、膜モジュール12の下側から第1の薬品循環用細配管31、薬液循環ポンプ34、第2の薬品循環用細配管32を経て、膜モジュール12の上側へと循環する。逆の場合にはすすぎ液が循環しない場合がある。この低濃度薬品廃液についてのみ中和処理した後、RO(Reverse Osmosis)膜処理装置(図示略)等を用いて濃縮処理する。RO膜の精製水は河川に放流しても構わない。
【0030】
次に、薬品として次亜塩素酸Naを用いて薬液洗浄する。この薬液洗浄により僅かに残留している有機酸等の有機物を分解する。次亜塩素酸Naの場合も有機酸の場合と同様で膜モジュール12に原水を満たした後、膜入口バルブ21、膜出口バルブ24、逆洗水槽入口バルブ22及び逆洗水供給バルブ23をそれぞれ閉じる。そして薬液循環ポンプ34を駆動して循環運転を開始し、同時に洗浄用薬品注入装置33から次亜塩素酸Naを所定の濃度になるまで供給する。所定時間循環洗浄後、一旦薬液を吸引用ポンプ37により薬品廃液タンク36に貯留する。輸送中の安全のため、薬品廃液タンク36に貯留した薬品は重亜硫酸Na等を添加し還元処理し、遊離塩素濃度を1mg/L以下にする。
【0031】
次亜塩素酸Naの濃度としては、50〜500mg/Lであり、廃液中に有害な塩素化合物を含む場合は持ち帰る。また有害化合物が所定濃度以下の場合には、RO膜処理して生成水は放流される。RO膜の材質がナイロン系の場合には、適用可能水質が制限さる。例えば、遊離塩素濃度を、酸化還元電位計を用いて1mg/L以下に確実に制御する必要がある。
【0032】
洗浄の終了の判定は、膜の入口と出口の圧力差(膜差圧)により判断される。膜差圧は初期の95%〜110%の範囲である。膜差圧が所定以上の場合は洗浄による膜差圧の変化量のレベルにより、再洗浄、そのまま再使用等の判断が行われる。
最後に、膜損傷の判定、ろ過水の濁度を確認して洗浄作業が終了する。
【0033】
山間部の浄水場では、大型車が進入できない場所も多いので、普通車(2t)が適している。普通車に積み込むものは、内部を4分割した600Lの薬品廃液タンク36、薬品廃液を薬品廃液タンク36に送水するための吸引用ポンプ37及び中和処理用の薬品タンク(図示略)と薬液注入ポンプ(図示略)、還元処理のための薬品タンク(図示略)である。この部分だけで最大薬品廃液の積載時約1tである。
【0034】
さらに、薬液循環ポンプ34、第1及び第2の薬品循環用細配管31及び32、フィルタ装置(図示略)、洗浄用薬品注入装置33が積載される。これらの装置の重量は約70kgである。薬品濃縮用のRO装置(図示略)の性能は、膜の分画分子量が約1000Daであり、処理能力としては100L/hであり、重量は約100kgである。洗浄用水タンク(約50L)、散水用ポンプ、工具、組み立て式タンク、pHメータ等(いずれも図示略)の計測器が積み込まれる、これらの重量合計は約100kgであり、十分2tトラックに積載可能である。
【0035】
以下、具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
(原水)
原水として用いた井戸水は、平均濁度0.01度、TOC(全有機炭素)0.2mg/Lである。溶解金属成分として鉄を0.001mg/L含有している。
(使用した膜)
膜モジュールの内径190mm
膜:内圧式中空糸膜の内径0.8mm、収納本数約10000本、膜面積35m、中空糸内部の容積7L
(運転条件)
ろ過流束:4m/日
ろ過時間:115分
物理洗浄:30秒
運転時間:6ヶ月
【0036】
(薬品洗浄工程)
薬品洗浄は次の順序で行った。
a)クエン酸洗浄
運転を6ヶ月間行って膜差圧が上昇した膜モジュール12に原水を満たした後、移動式洗浄装置を取り付け、膜入口バルブ21、膜出口バルブ24、逆洗水槽入口バルブ22及び逆洗水供給バルブ23をそれぞれ閉じて循環運転を開始し、同時に洗浄用薬品注入装置33からクエン酸を0.2%の濃度になるまで供給する。約30分間循環洗浄後、一旦薬液を吸引用ポンプ37にて薬品廃液タンク36に送水し、区画Aに貯留させた。薬品廃液タンク36に貯留した薬品廃液は約15Lであった。この操作を5回繰り返した。
【0037】
この各循環洗浄の最後に有機酸のpHを計測した。
1回目はpH=3.0、2回目はpH=2.8、3回目はpH=2.6、4回目はpH=2.5、5回目はpH=2.4で、5回目のpHの値は0.2%のクエン酸溶液の初期値とほぼ同じ値を示した。なお、1回目と2回目の循環洗浄後に固形分の分離用のフィルタを交換しその後の洗浄では、固形分の分離フィルタの交換は実施しなかった。
【0038】
b)すすぎ
逆洗水槽16に貯留させたろ過水を供給し、膜モジュール12中に1/2程度(約7L)満たした後、2分間循環してすすぎを行い、吸引用ポンプ37により、薬品廃液タンク36に送水し、区画Bに貯留させた。この操作を3回繰り返した。洗浄回数毎のpHは、1回目はpH=3.7、2回目はpH=5.0、3回目はpH=6.5であった。
【0039】
c)次亜塩素酸Na洗浄
次に、薬品として次亜塩素酸Naを用いて薬液洗浄した。次亜塩素酸Naの場合も有機酸の場合と同様に膜モジュール12に原水を満たした後、膜入口バルブ21、膜出口バルブ24、逆洗水槽入口バルブ22、逆洗水供給バルブ23をそれぞれ閉じて循環運転を開始し、同時に洗浄用薬品注入装置33から次亜塩素酸Naを300mg/Lの濃度になるまで供給する。40分間循環洗浄を行った後、一旦薬品廃液を吸引用ポンプ37により、薬品廃液タンク36に送水し、区画Cに貯留させた。この次亜塩素酸Na洗浄を1回行った。
【0040】
(すすぎ工程)
逆洗水槽16に貯留させたろ過水を供給し、膜モジュール12中に1/2程度(約7L)満たした後、2分間循環してすすぎを行い、吸引用ポンプ37により、薬品廃液タンク36に送水し、区画Cに貯留させた。この操作を3回繰り返した。洗浄回数毎の酸化還元電位は、1回目は600mV、2回目は300mV、3回目は150mVであった。3回目の遊離塩素濃度を測定した結果1mg/Lであった。
【0041】
輸送中の安全のため、薬品廃液タンク36に貯留させた薬品は、最後に重亜硫酸Na等を添加し還元処理し、遊離塩素濃度を1mg/L以下にする。薬品洗浄終了後、フラッシング洗浄、逆洗浄を3回繰り返した後、通常のろ過運転を行った。
【0042】
(薬品洗浄結果)
ろ過流束:4m/日
ろ過時間:115分
物理洗浄:30秒
上記の条件で膜ろ過運転を開始した結果、25℃に換算した膜差圧は37kPaであり運転開始時の膜差圧36.8kPaであり、ほぼ初期状態まで回復した。
また、35m膜1本当たりの薬品使用量は以下の通りであった。
薬品の使用量:クエン酸=140g
0.2%濃度クエン酸廃液=70L
希薄濃度クエン酸廃液=40L
次亜塩素酸Naの使用量=4.5g
300mg/L次亜塩素酸Na=15L
希薄次亜塩素酸Na=40L
【0043】
廃液量の合計は165Lであり、希薄濃度薬品廃液80LはRO膜による濃縮処理で15Lにした。最終的な廃液量は、膜1本あたり約100Lであり、35mの膜面積を有する膜モジュール5〜6本が2トントラックに積載可能な600mの薬品廃液タンク36に収納可能である。
【0044】
(比較例)
図3は、比較例となる膜ろ過装置の構成図である。移動式洗浄装置に代えて、通常の太さの配管で薬品洗浄のための洗浄液循環経路を構成している。ろ過水配管15及び逆洗用配管17と同一径の横配管50及び縦配管51からなる薬品循環用配管を形成している。縦配管51の下端は原水供給配管13の原水供給ポンプ14上流側に連結している。縦配管51の途中に薬品溶液供給用槽52が設けられている。原水槽11の原水流出口に原水供給バルブ53が設けられ、縦配管51の薬品溶液供給用槽52の手前に薬品循環用バルブ54が設けられ、縦配管51の上端部にフラッシング水排出バルブ55が設けられている。
【0045】
以上のように構成された比較例の膜ろ過装置を用いて薬品洗浄を行って薬品洗浄廃液について検証した。
【0046】
薬品洗浄は、薬品溶液供給用槽52にクエン酸0.2%溶液200Lを供給した。膜入口バルブ21、膜出口バルブ24及び薬品循環用バルブ54をそれぞれ開き、原水供給バルブ53及びフラッシング水排出バルブ55をそれぞれ閉じて薬品循環ラインを形成する。そして、薬品溶液供給用槽52から薬品を供給し原水供給ポンプ14にて薬品循環ライン経由で5時間循環洗浄を行った。
【0047】
すすぎ工程として、逆洗水供給バルブ23、膜出口バルブ24、薬品循環用バルブ54、及び膜入口バルブ21をそれぞれ開き、フラッシング水排出バルブ55、原水供給バルブ53及び逆洗水槽入口バルブ22をそれぞれ閉じて逆洗水供給ポンプ18を駆動して、すすぎ水500Lを図示していない薬品廃液タンクに貯留させた。その結果、クエン酸廃液のpHは2.6であり、すすぎ水のpHは5.0であり、そのままでは排出できないレベルであった。
【0048】
次に、上記クエン酸洗浄と同じ手順で、次亜塩素酸Naの濃度が300mg/Lの溶液200Lを用いて薬品洗浄、すすぎ工程を実施した。次亜塩素酸Naの酸化還元電位は、薬品廃液(200L)で1000mV、すすぎ廃液(500L)で550mVであった。洗浄終了後、逆洗工程を繰り返し行い、その後に上記実施の形態と同様に、
ろ過流束:4m/日
ろ過時間:115分
物理洗浄:30秒
の条件で膜ろ過運転を開始した結果、25℃に換算した膜差圧は42kPaであり、運転終了時の膜差圧より回復しているものの、運転開始時の膜差圧36.8kPaより、大きい膜差圧を示した。
35m膜1本当たりの薬品使用量は以下の通りであった。
薬品の使用量:クエン酸=400g
0.2%濃度クエン酸廃液=150L
希薄濃度クエン酸廃液=450L
次亜塩素酸Naの使用量=60g
300mg/Lの次亜塩素酸Na=150L
希薄次亜塩素酸Na=450L (25mg/L濃度)
薬品廃液の合計は1200Lにも達し、廃液の輸送にはタンクローリが必要となる。
【0049】
以上の比較例から判るように本実施例による膜ろ過装置の移動式洗浄装置では、薬品使用量が少なくかつ廃液量も1/3から1/10と少なく済み、普通の2tトラックに積載可能な廃液容器、設備で現地浄水場での膜ろ過装置の薬品洗浄が可能であり、山間部の浄水場にも十分対応可能である。この結果、膜モジュール12の取り外し、梱包、輸送工程が省略でき、膜ろ過装置9の能力低下期間が短くできる。
【0050】
このように本実施の形態によれば、移動式洗浄装置の第1、第2の薬品循環用細配管31、32をそれぞれ細く且つ短く形成したので、洗浄用薬品の使用量を少なくでき、薬品洗浄に伴う高濃度の薬品廃液量を最小限に抑えることができる。
【0051】
また、洗浄用薬品を複数回に分割して注入して、その都度汚れた薬品洗浄廃液を吸引用ポンプ37で薬品廃液タンク36に移送することにより、薬品の濃度が低くても十分な洗浄効果が得られる。また、薬品洗浄廃液量を少なくできることで環境保全にも寄与することができる。
【0052】
また、移動式洗浄装置を分解及び組み立て可能な構造としたので、車両による運搬が可能となり、様々な場所に設置された膜ろ過装置の薬品洗浄を現地で行うことができる。特に、専任の担当者がいない山間部の浄水場においても、訓練した専任の作業者が現地に赴いて洗浄作業を行うことができる。また、膜ろ過装置の配管とは別の配管を用いて循環洗浄を行うため、例えばろ過設備が2系統ある場合、他方の系のろ過設備を運転しながら薬品洗浄を行うことができ、しかも洗浄対象の膜モジュール12を持ち帰る必要がないことから、ろ過能力の低下時間を短くできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、中空糸膜等のろ過膜を有する膜モジュールを備えた膜ろ過装置の洗浄装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)移動式洗浄装置を取り付け前の膜ろ過装置の構成図、(b)移動式洗浄装置を取り付けた状態の膜ろ過装置の構成図
【図2】図1に示す膜モジュールの断面摸式図
【図3】比較例に係る洗浄装置を取り付けた状態の膜ろ過装置の構成図
【符号の説明】
【0055】
11…原水槽、12…膜モジュール、13…原水供給配管、14…原水供給ポンプ、15…ろ過水配管、16…逆洗水槽、17…逆洗用配管、18…逆洗水供給ポンプ、21…膜入口バルブ、22…逆洗水槽入口バルブ、23…逆洗水供給バルブ、24…膜出口バルブ、31…第1の薬品循環用細配管、32…第2の薬品循環用細配管、33…薬品注入装置、34…薬液循環ポンプ、35…薬品廃液移送用配管、36…薬品廃液タンク、37…吸引用ポンプ、40…中空糸膜、41…収納ケース、42a、42b…シール部、43…下部フランジ、44…上部フランジ、45…原水供給パイプ、46…ろ過水輸送パイプ、47…逆洗水排水パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水供給口と、ろ過水排出口と、逆洗排水口とを有し、前記原水供給口から原水を供給して前記ろ過水排出口からろ過した膜ろ過水を取り出し、予め定めた時期あるいは膜の目詰まりに応じて、膜モジュールの逆洗を行い、当該逆洗排水を前記逆洗排水口から排出する膜ろ過装置であって、前記膜モジュールを前記膜ろ過装置から取り外さずに薬品洗浄を行う移動式洗浄装置において、
前記膜モジュールの一次側に洗浄用薬液を循環させる薬液循環ポンプと、
前記膜モジュールの前記原水と前記逆洗排水の主配管から分岐して、前記薬液循環ポンプを介して両端を連結可能な着脱式の細管からなる薬液循環用配管と、
前記薬液循環用配管に洗浄用の薬品を注入する洗浄用薬品注入装置と、
前記薬液循環用配管に一端を連結可能な着脱式の薬品廃液移送用配管と、
前記薬品廃液移送用配管によって移送される薬品廃液を貯留する薬品廃液タンクと、
前記薬品廃液移送用配管を連結可能で前記膜モジュール及び前記薬液循環用配管に存在する薬品廃液を前記薬品廃液移送用配管経由で吸引して前記薬品廃液タンクへ移送する吸引ポンプと、
を備えた、分解及び組立て可能な移動式洗浄装置。
【請求項2】
前記膜ろ過装置のすすぎ洗浄で発生した希薄濃度の薬品廃液を、RO膜を用いた水処理装置、又は吸着式廃液処理装置で処理することを特徴とする請求項1記載の移動式洗浄装置。
【請求項3】
前記移動式洗浄装置を構成する各構成部品を車に積載したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の移動式洗浄装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の移動式洗浄装置を用いて膜ろ過装置を洗浄する薬品洗浄方法であって、
薬品洗浄工程では、薬品洗浄に用いる薬品が有機酸の場合、1回の薬品循環洗浄に用いる薬品溶液使用量がろ過膜の一次側の容積の2.5倍以内で2回以上行い、
すすぎ工程では、1回当たりの使用水量が膜モジュールのろ過膜の一次側の容積1.5倍以内で2回以上行った後、次亜塩素酸Naでの洗浄及びすすぎ洗浄を1回以上行うことを特徴とする膜ろ過装置の薬品洗浄方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−112929(P2009−112929A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287783(P2007−287783)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】