説明

膜エレメント取り出し用工具

【課題】スパイラル型膜エレメントを圧力容器から容易に取り出すことができる膜エレメント取り出し用工具を提供する。
【解決手段】膜エレメント取り出し用工具1は、一端に挿入部12が設けられ、他端にハンドル13が設けられた本体部11と、本体部11から突出し、圧力容器3の内周面上を摺動可能な支持部15とを備えている。挿入部12には、当該挿入部12から径方向に広がってスパイラル型膜エレメント12の中心管21の内周面を押圧することにより、本体部11をスパイラル型膜エレメント2に連結する係止部14Aが設けられている。係止部14Aは、操作部17によって操作される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の圧力容器内に挿入されたスパイラル型膜エレメントを圧力容器から取り出す際に使用される工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば海水淡水化処理や超純水の製造などに用いられるスパイラル型膜エレメントが知られている(例えば、特許文献1参照)。このスパイラル型膜エレメントは、海水淡水化処理などの処理量の多い用途では、筒状の圧力容器内に一列に複数本(例えば、4〜10本程度)挿入される。そして、圧力容器の一方の端部に原水が供給されると、その原水がスパイラル型膜エレメントの分離膜によって透過水と濃縮水とに分離され、それらが圧力容器の他方の端部から別々に排出される。
【0003】
スパイラル型膜エレメントは、分離膜の汚染具合などに応じて交換される。スパイラル型膜エレメントには、一般的に、圧力容器との隙間を原水の上流側の圧力を利用してシールする断面略U字状のパッキンが備えられている。そのため、従来、スパイラル型膜エレメントを交換する際には、圧力容器の一方の開口から最上流側に位置するスパイラル型膜エレメントを押すことにより、他方の開口からスパイラル型膜エレメントを最下流側から順に押し出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−220104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は外径が8インチのスパイラル型膜エレメントが主流であったが、近年では外径が16〜24インチと大型のスパイラル型膜エレメントが開発されてきている。このような大型のスパイラル型膜エレメントは重量が従来と比べて4〜8倍と大きく、従来のように押し出しによってスパイラル型膜エレメントを圧力容器から取り出すことが困難である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、スパイラル型膜エレメントを圧力容器から容易に取り出すことができる膜エレメント取り出し用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、筒状の圧力容器内に挿入された、分離膜および流路材を含む積層体が中心管の回りに巻き回されたスパイラル型膜エレメントを、前記圧力容器から取り出す際に使用される工具であって、所定方向に延び、一端に前記中心管内に挿入される挿入部が設けられ、他端にハンドルが設けられた本体部と、前記挿入部から径方向に広がって前記中心管の内周面を押圧することにより前記本体部を前記スパイラル型膜エレメントに連結する係止部と、前記係止部を操作するための操作部と、前記本体部から突出し、前記圧力容器の内周面に当接することにより前記本体部を介して前記スパイラル型膜エレメントを支える、前記圧力容器の内周面上を摺動可能な支持部と、を備えた、膜エレメント取り出し用工具を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、本体部と支持部とで構成されるテコの原理により圧力容器内で膜エレメントの一端を持ち上げることができる。その状態で、支持部を圧力容器の内周面上に摺動させながら本体部を引けば、膜エレメントを圧力容器から簡単に引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る膜エレメント取り出し用工具を用いてスパイラル型膜エレメントを圧力容器から取り出す方法を説明する図
【図2】図1に示す膜エレメント取り出し用工具の正面図
【図3】スパイラル型膜エレメントの構成図
【図4】変形例の膜エレメント取り出し用工具の先端を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0011】
図1および図2に、本発明の一実施形態に係る膜エレメント取り出し用工具1(以下、単に「工具1」という。)を示す。この工具1は、ベッセルと呼ばれる筒状の圧力容器3内に挿入されたスパイラル型膜エレメント2を圧力容器3から取り出す際に使用されるものである。
【0012】
図例では、スパイラル型膜エレメント2として、逆浸透膜エレメントが用いられている。ただし、スパイラル型膜エレメント2は、例えば限外濾過膜エレメントであってもよい。
【0013】
スパイラル型膜エレメント2は、集水管として機能する中心管21と、中心管21の回りに巻き回された積層体22と、積層体22の両側に配置された一対の端部材26と、積層体22を取り巻く外装材28とを備えている。端部材26は、中心管21の両端部に外嵌されている。端部材26には、中心管21の軸方向に沿って原水または濃縮水を流通させる複数の流通口が形成されており、中心管21には、内部に濾過水を流入させる複数の導入孔が形成されている。端部材26は、積層体22がテレスコピック状に伸張することを防止する役割も果たす。
【0014】
積層体22は、巻き回される方向が一方の対辺方向となる矩形状をなしており、図3に示すように、透過水流路材24の両面に分離膜23が重ね合わされた膜部材と、原水流路材25とを含む。膜部材は、一方向に開口する袋状となるように分離膜23同士が3辺で接合されており、その開口が中心管21の導入孔と連通している。透過水流路材24は、例えば樹脂からなる網であり、互いに接合される分離膜同士の間に透過水を流すための流路を形成する。原水流路材25は、例えば樹脂からなる網(透過水流路材24よりも網目の大きな網)であり、巻き回される膜部材の周回部分同士の間に原水を流すための流路を形成する。
【0015】
分離膜23を構成する材料としては、低圧化に優れた芳香族ポリアミド系、透過性に優れたポリビニルアルコール系、ナノフィルトレーション膜に好適なスルホン化ポリエーテルスルホン系などが挙げられる。
【0016】
図1では、圧力容器3内を原水が左から右に流れるようになっている。圧力容器3内では、スパイラル型膜エレメント2同士が、双方の膜エレメント2の中心管21内に嵌り込む連結器4によって連結されている。また、最上流側に位置するスパイラル型膜エレメント2における中心管21の連結器4と反対側の端部にはプラグ5が取り付けられており、原水の中心管21内への流入が阻止されている。さらに、各スパイラル型膜エレメント2における上流側の端部材26の外周面には、断面略U字状のパッキン27が装着されている。
【0017】
圧力容器3の両端にはキャップ(図示せず)が取り付けられる。下流側(図1では右側)のキャップの中央には取り出し管が設けられており、この取り出し管が最下流側に位置するスパイラル型膜エレメント2の中心管21と連結されることにより、全ての膜エレメント2の中心管21の中心軸が圧力容器3の中心軸と一致するようになっている。なお、圧力容器3から下流側のキャップを取り外したときには、最下流側に位置するスパイラル型膜エレメント2の一端(下流側の端部材26)が下がって、圧力容器3の内周面上に載置されるようになる。
【0018】
上述したスパイラル型膜エレメント2を圧力容器3から取り出す際に使用される工具1は、所定方向に延びる棒状の本体部11と、側面視で本体部1からT字状に突出する支持部15とを有している。本実施形態では、図2に示すように、支持部15が、本体部11を中心とする周方向に互いに離間するように、換言すれば互いに異なる角度方向に突出するように一対設けられている。
【0019】
本体部11の一端には、スパイラル型膜エレメント2の中心管21に挿入される挿入部12が設けられている。この挿入部12は、中心管21の内径よりも僅かに小さな直径の円柱状をなしている。また、本体部11の他端は二股状に分岐しており、それらの先端同士を結ぶように、使用者に把持されるハンドル13が設けられている。
【0020】
挿入部12には、当該挿入部12から径方向に広がって中心管21の内周面を押圧可能な係止部14Aが設けられている。この係止部14Aの押圧により、本体部11がスパイラル型膜エレメント2に連結される。本実施形態では、係止部14Aが、本体部11を中心とする径方向に往復可能な複数(図例では4つ)の可動爪で構成されている。中心管21の内周面を傷つけないために、可動爪の外表面である中心管21の内周面と接触する押圧面はウレタンやポリアセタールなどの樹脂で覆われていることが好ましい。
【0021】
係止部14Aは、第1レバー(本発明の操作部に相当)17によって操作される。この第1レバー17は、ハンドル13の近傍である、本体部11の他端の二股状に分岐した部分に設けられている。また、本体部11には、第1レバー17への入力に応じて係止部14Aを駆動させる油圧機構(図示せず)が内蔵されている。例えば、このような油圧機構としては、第1レバー17を一度引くたびに可動爪を所定量だけ径方向外側に前進させ、第1レバー17を引いた状態を維持することにより可動爪を径方向内側に後退させる油圧機構を用いることができる。
【0022】
係止部14Aは、中心管21の内周面を押圧したときに、その押圧力によって本体部11が中心管21と自動的に平行になるように、本体部11が延びる方向(軸方向)において中心管21の内径以上の長さで中心管21の内周面と接触することが好ましい。これを実現するために、本実施形態では、各可動爪の押圧面が、本体部11の軸方向に沿って延びる長尺状をなしており、この押圧面によって中心管21の内周面が線状に押圧される。より好ましくは、係止部14Aが本体部11の軸方向において中心管21の内周面と接触する長さは、中心管21の内径の2倍以上である。
【0023】
支持部15は、圧力容器3の内周面に当接することにより、本体部11を介してスパイラル型膜エレメント2を支えるためのものである。また、各支持部15の先端には車輪16が設けられており、圧力容器2の内周面上を摺動可能となっている。圧力容器3の内周面を傷つけないために、車輪16の材質としてはウレタンやポリアセタールなどの樹脂を用いることが好ましい。なお、支持部15の先端には、車輪16に代えて、コロまたはボールを配設してもよい。あるいは、支持部15の先端に多数の微細な突起を形成して、圧力容器3の内周面に対する摺動性を高めることも可能である。
【0024】
支持部15は、本体部11を中心とする径方向に伸縮可能な伸縮機構で構成されている。例えば、支持部15を油圧シリンダそのものとしてもよい。本実施形態では、本体部11における挿入部12の根元に、挿入部12よりも直径が大きな拡径部19が設けられており、支持部15の固定側がこの拡径部19に接続されている。
【0025】
支持部15は、当該支持部15が縮んだときに、拡径部19における本体部11の中心が、スパイラル型膜エレメント2の下流側の一端が圧力容器3の内周面上に載置された状態での中心管21の延長線(すなわち、圧力容器3の中心軸に対して下流側に向かって下方に傾斜する線)よりも下方に位置し、当該支持部15が伸びたときに、拡径部19における本体部11の中心が圧力容器3の中心軸と合致するように構成されていることが好ましい。
【0026】
支持部15は、第2レバー(本発明の第2の操作部に相当)18によって操作される。この第2レバー18は、ハンドル13の近傍である、本体部11の他端の二股状に分岐した部分に設けられている。また、本体部11には、第2レバー18への入力に応じて支持部15を駆動させる油圧機構(図示せず)が内蔵されている。例えば、このような油圧機構としては、第2レバー18を一度引くたびに支持部15を所定量だけ伸ばし、第2レバー18を引いた状態を維持することにより支持部15を縮める油圧機構を用いることができる。
【0027】
以上説明した工具1を使用するには、次のようにすればよい。
【0028】
まず、圧力容器3の下流側である一方の開口を通じて、工具1の挿入部12をスパイラル型膜エレメント2の中心管21に挿入する。この状態では、スパイラル型膜エレメント2の下流側の一端は、圧力容器3の内周面上に載置されている。
【0029】
ついで、第1レバー17を引き、係止部14Aを拡張させて本体部11をスパイラル型膜エレメント2と連結する。このとき、係止部14Aが中心管21の内周面を本体部11の軸方向に沿って押圧することにより、本体部11が自動的に中心管21と平行になる。
【0030】
その後、第2レバー18を引き、支持部15を伸ばして本体部11によってスパイラル型膜エレメント2の一端を持ち上げる。本実施形態では、係止部14Aの押圧によって本体部11が自動的に中心管21と平行になる、すなわち係止部14Aが本体部11の軸方向において十分な保持力を有しているので、支持部15を伸ばすだけで、スパイラル型膜エレメント2の一端を持ち上げることができる。なお、係止部14Aが本体部11の軸方向において十分な保持力を有していない場合には、ハンドル13を下方に押し下げることによりスパイラル型膜エレメント2の一端を持ち上げることができる。
【0031】
その状態で、ハンドル13を手前に引けば、支持部15が圧力容器3の内周面上を摺動し、スパイラル型膜エレメント2を小さな力で簡単に圧力容器3から引き出すことができる。
【0032】
なお、前記実施形態では、複数の可動爪で構成された係止部14Aが採用されていたが、図4に示すように、径方向に膨張および収縮可能な筒状のブラダーで構成された係止部14Bを採用することも可能である。この場合、挿入部12に、当該挿入部12よりも直径の小さな軸部12aを設け、この軸部12aの周囲にブラダーを配設すればよい。
【0033】
また、前記実施形態では本体部11に内蔵した油圧機構により係止部14Aおよび支持部15を駆動させたが、油圧機構を本体部11に内蔵する以外にも、本体部11を気体または液体の配管が接続可能な構成にし、空気圧や水圧を利用して係止部14Aおよび支持部15を駆動させることも可能である。あるいは、係止部14Aおよび支持部15の駆動に、螺子機構を利用することも可能である。
【0034】
また、支持部15は、必ずしも伸縮機構で構成されている必要はなく、ただの棒状の支柱であってもよい。この場合は、支持部15の長さを拡径部19における本体部11の中心が圧力容器3の中心軸と合致する程度にし、係止部14Aによる中心管21の内周面の押圧によって本体部11が中心管21と平行になることにより、スパイラル型膜エレメント2の一端が自動的に持ち上がるようにしてもよい。あるいは、支持部15の長さをそれよりも短くしておいて、ハンドル13を下方に押し下げることによりスパイラル型膜エレメント2の一端を持ち上げてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 膜エレメント取り出し用工具
11 本体部
12 挿入部
13 ハンドル
14A,14B 係止部
15 支持部
16 車輪
17 第1レバー(操作部)
18 第2レバー(第2の操作部)
2 スパイラル型膜エレメント
21 中心管
22 積層体
23 分離膜
24 透過水流路材
25 原水流路材
3 圧力容器
3a 内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の圧力容器内に挿入された、分離膜および流路材を含む積層体が中心管の回りに巻き回されたスパイラル型膜エレメントを、前記圧力容器から取り出す際に使用される工具であって、
所定方向に延び、一端に前記中心管内に挿入される挿入部が設けられ、他端にハンドルが設けられた本体部と、
前記挿入部から径方向に広がって前記中心管の内周面を押圧することにより前記本体部を前記スパイラル型膜エレメントに連結する係止部と、
前記係止部を操作するための操作部と、
前記本体部から突出し、前記圧力容器の内周面に当接することにより前記本体部を介して前記スパイラル型膜エレメントを支える、前記圧力容器の内周面上を摺動可能な支持部と、
を備えた、膜エレメント取り出し用工具。
【請求項2】
前記係止部は、前記中心管の内周面を押圧したときに、前記本体部が前記中心管と平行になるように、前記本体部が延びる方向において前記中心管の内径以上の長さで前記中心管の内周面と接触する、請求項1に記載の膜エレメント取り出し用工具。
【請求項3】
前記支持部は、前記本体部を中心とする径方向に伸縮可能な伸縮機構で構成されており、
前記伸縮機構を操作するための第2の操作部をさらに備える、請求項1または2に記載の膜エレメント取り出し用工具。
【請求項4】
前記支持部の先端には、車輪が設けられている、請求項1〜3に記載の膜エレメント取り出し用工具。
【請求項5】
前記支持部は、前記本体部を中心とする周方向に互いに離間するように一対設けられている、請求項1〜4に記載の膜エレメント取り出し用工具。
【請求項6】
前記操作部は、前記ハンドルの近傍に設けられている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜エレメント取り出し用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−55795(P2012−55795A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198838(P2010−198838)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】