説明

膜・電極接合体の製造方法、触媒層形成用基材、及び固体高分子形燃料電池

【課題】触媒層・シール材・アノード触媒層・カソード触媒層の積層位置精度が良好であり、且つ、触媒層と電解質膜の接着性に優れ、耐久性及び発電性能が良好な、固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体及び固体高分子形燃料電池を低コストで提供する。
【解決手段】一組の基材の一方の基材11の表面は、第1のアライメントマーク13、シール材の隔壁12、電極触媒層15が形成され、電解質からなる接着層17で覆われている。また、他方の基材11の表面は、第1のアライメントマーク13と鏡像関係の位置に配置された第2のアライメントマーク14、シール材の隔壁12、電極触媒層15が形成され、電解質からなる接着層17で覆われている。そして、一組の基材11を、電解質膜16を挟んで向かい合わせに配置し、第1のアライメントマーク13と第2のアライメントマーク14を重ね合わせて接合することで膜・電極接合体5を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜・電極接合体の製造方法、触媒層形成用基材、及び固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素、酸素を燃料として、水の電気分解の逆反応を起こさせることにより電気を生み出す発電システムである。これは、従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。中でも室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池は車載用電源や家庭用定置電源などへの使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。燃料電池の実用化に向けての課題は、電池の性能向上、インフラ整備とともに低コストで効率的な膜・電極複合体の製造技術を見出すことにある。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層されて構成されている。単セルは、酸化極と還元極の二つの電極で固体高分子電解質膜を挟んで接合した膜・電極接合体を、ガス流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。典型的な膜・電極接合体では電解質膜の両面に接合された触媒層の間を電気的に絶縁状態に保つために、電解質膜に触媒層を接合した範囲の周辺に、触媒層が転写されていない電解質膜の範囲が設けられており、その両面に補強及び燃料のリークを防ぐ為のシール材が設けられている。
【0004】
従来、膜・電極接合体を形成する際には、基材上に連続的に触媒層を形成した転写シートを、所望の触媒層形状を切り抜いたマスキングフィルムを介して、電解質膜に転写した後に、額縁状のシール材を設ける方法がある(例えば下記特許文献1参照)。また、膜・電極接合体を形成する別の方法には、電解質膜に所望の触媒層形状を切り抜いた額縁状のシール材及びマスキングフィルムを貼り付けて、開口部よりも広い範囲に触媒インクを塗布した後に、マスキングフィルムを剥がす方法が知られている(例えば下記特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−172844号公報
【特許文献2】特開2010−129247号公報
【特許文献3】特開2010−129435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1による方法では、電解質膜の中央部に触媒層を熱圧着により転写した後に電解質膜の周縁部に額縁状のシール材を貼り付けるため、シール材の貼り付け位置の位置決めが困難であり、触媒層とシール材のオーバーラップ部や隙間部が生じる不具合が発生する。このオーバーラップ部のうち、シール材下の触媒層は、触媒能力を失うため燃料電池の発電に寄与できなくなる。また、隙間部があると、その下の電解質膜が保護されないため、燃料電池の耐久性を著しく低下させることになる。さらに、乾燥した触媒層と電解質膜を接合するため、触媒層中の電解質や電解質膜の材質によっては触媒層と電解質膜の接着強度が不十分となり、これによっても燃料電池の耐久性を著しく低下させたり、発電性能を低下させたりする問題があった。
【0007】
また、特許文献2、3による方法では、マスキングマスキングフィルムを触媒層塗布後に剥がす工程において、マスキングフィルム上の触媒層と共に電解質膜上の触媒ペーストも一緒に剥がれる恐れがあると共に、額縁状のマスキングフィルムを電解質膜上に設ける際の開口部の位置決めが困難であり、両極の触媒層の位置がずれて有効面積が小さくなり燃料電池の性能を低下させる恐れがある。
【0008】
さらに、特許文献1〜3による方法では、何れも所望の触媒層面積よりも広い範囲に触媒インクを塗布するものの、外側に形成された触媒層は最終的に除去されるため、大きな材料のロスを生じてコストが上がることとなり、特に触媒材料に白金のような高価な金属を使用する場合には影響が大きい。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、触媒層・シール材・アノード触媒層・カソード触媒層の積層位置精度が良好であり、且つ、触媒層と電解質膜の接着性に優れ、耐久性及び発電性能が良好な膜・電極接合体、触媒層形成用基材、及び固体高分子形燃料電池を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、電解質膜の両面に、電極触媒層と、シール材となる樹脂で前記電極触媒層の外周部に額縁状に形成した隔壁と、を有する固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体の製造方法であって、一組の基材のうちの一方の基材の表面に前記樹脂で、前記隔壁と、第1のアライメントマークとを形成する第1の工程と、前記第1の工程で形成された前記隔壁の内部に、触媒インクを流入して乾燥させて前記電極触媒層を形成する第2の工程と、前記第2の工程で電極触媒層が形成された表面に、電解質からなる接着層インクを塗布して乾燥させて接着層を形成する第3の工程と、他方の基材の表面に前記樹脂で、前記隔壁と、前記一方の基材の表面と前記他方の基材の表面とを向かい合わせにした際に前記第1のアライメントマークと鏡像関係の位置にある第2のアライメントマークとを形成する第4の工程と、前記第4の工程で形成された前記隔壁の内部に、触媒インクを流入して乾燥させて前記電極触媒層を形成する第5の工程と、前記第5の工程で電極触媒層が形成された表面に、電解質からなる接着層インクを塗布して乾燥させて接着層を形成する第6の工程と、前記一組の基材を、前記電極触媒層が形成された表面を互いに向かい合わせにして、前記電解質膜を挟んで、前記第1のアライメントマークと第2のアライメントマークとを合わせて重ね合わせる第7の工程と、前記第7の工程で前記一組の基材を重ね合わせたことによってできる積層体を、加温加圧することにより密着させる第8の工程と、を有することを特徴とする膜・電極接合体の製造方法である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、電解質膜の両面に、電極触媒層と、シール材となる樹脂で前記電極触媒層の外周部に額縁状に形成した隔壁と、を有する膜・電極接合体を製造するために用いる触媒層形成用基材であって、一組の基材からなり、前記一組の基材のうちの一方の基材の表面には、前記樹脂で、前記隔壁と、第1のアライメントマークとが形成され、他方の基材の表面には、前記樹脂で、前記隔壁と、前記一方の基材の表面と前記他方の基材の表面とを向かい合わせにした際に前記第1のアライメントマークと鏡像関係の位置にある第2のアライメントマークとが形成されたことを特徴とする触媒層形成用基材である。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記一組の基材の夫々の前記隔壁の内部に、前記電極触媒層が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の触媒層形成用基材である。
また、請求項4に記載の発明は、前記一組の基材の夫々の前記電極触媒層が形成された表面に、電解質からなる接着層が形成されたことを特徴とする請求項3に記載の触媒層形成用基材である。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の方法で製造した膜・電極接合体を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、シール材の隔壁内に触媒インクを満たして触媒層を形成してから電解質膜を接合することにより、触媒層とシール材のオーバーラップ部や隙間部のない膜・電極接合体を提供することができた。また、シール材の隔壁とアライメントマークの位置関係を精度良く形成した後に隔壁内に触媒層を形成し、両極のアライメントマークを重ね合わせて位置決めすることで、触媒層とシール材の位置合わせが不要、且つアノード触媒層とカソード触媒層の位置決めを簡便かつ確実に行うことができ、両極の触媒層の位置ずれのない膜・電極接合体を提供することができた。また、触媒層と電解質膜の間に電解質からなる接着層を有することにより、触媒層と電解質膜の接着性に優れ、耐久性及び発電性能が良好な膜・電極接合体を提供することができた。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、触媒層とシール材の位置決めが不要、且つアノード触媒層とカソード触媒層の位置決めを簡便に行うことのできる一組の転写用基材を提供することができた。
請求項3に係る発明によれば、最終的に除去される部分への余分な触媒インクの塗布を行わずに所望の寸法で触媒層を形成することのできる一組の触媒層形成用基材を提供することができた。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、触媒層と電解質膜の接着性に優れ、耐久性及び発電性能が良好な膜・電極接合体を提供することができた。
請求項5に係る発明によれば、触媒材料の利用効率よく、発電効率及び耐久性の良好な燃料電池を低コストで得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の触媒層形成用基材の模式図である。
【図2】本発明の触媒層形成用基材の製造工程における模式断面図である。
【図3】本発明の触媒層形成用基材を用いた位置合わせ工程における模式断面図である。
【図4】本発明の製造方法による膜・電極接合体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
図1は、本発明の触媒層形成用基材の表面を表す模式図であり、図1(a)に示す一組の触媒層形成用基材の一方の触媒層形成用基材1と図1(b)に示す一組の触媒層形成用基材のもう一方(他方)の触媒層形成用基材2が対となっている。一方の触媒層形成用基材1は、シール材となる樹脂を用いて基材11の表面に、額縁状の隔壁12と第1のアライメントマーク13を互いの位置精度良く一括形成したものである。額縁状の隔壁12の開口部は、所望の触媒層と同一の形状となっている。もう一方の触媒層形成用基材2は、シール材となる樹脂を用いて基材11の表面に、額縁状の隔壁12と第1のアライメントマーク13と鏡像関係の位置に配置された第2のアライメントマーク14を互いの位置精度良く一括形成したものである。額縁状の隔壁12の開口部は、所望の触媒層と同一の形状となっている。第1のアライメントマーク13と第2のアライメントマーク14が鏡像関係で配置されていることにより、基材表面同士を対向させた際に両者が重なるようになっている。
【0017】
アライメントマークは、一枚の基材上に2個以上あればよく、2個の場合は対角に配置されていることが望ましい。また、一つのアライメントマークは単独の図形でも複数の図形の組み合わせでも良く、枠状でも内部が塗りつぶされていても良い。マークに用いる図形の形状については、たとえば、十字や円形や三角形・四角形等の多角形などが使用できるが、これに限ったものではなく、あらゆる形状を用いることができる。第1のアライメントマークと第2のアライメントマークは同一形状でも異なった形状でも良いが、重ね合わせた際に位置決め可能な必要がある。たとえば、十字と十字、円形と円形、四角形と十字、四角形と円形、複数の円形、複数の四角形の組み合わせ等が考えられるが、これに限ったものではない。
【0018】
基材11の表面に額縁状の隔壁12と第1のアライメントマーク13又は第2のアライメントマーク14を互いの位置精度良く一括形成する方法としては、スクリーン印刷、反転印刷などを用いることができる。
本発明で使用される基材11は、例えばエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの転写性に優れたフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートなどの高分子フィルムも用いることができる。基材11を通してアライメントマークを確認し、位置合わせを行うため、透明であることが望ましい。
【0019】
本発明で用いるシール材としては、フッ素系接着剤、シリコン系接着剤、ポリエチレンナフタレートやポリカーボネートのようなエンジニアリングプラスチックの樹脂溶液などが使用できる。
図2は、触媒層形成用基材の製造工程を示す模式断面図である。図2(a)は、基材11の表面に、シール材となる樹脂を用いて額縁状の隔壁12と第1のアライメントマーク13を互いの位置精度良く一括形成したものである。隔壁12で囲まれた部分に予め調液した触媒インクを所望の触媒量となるよう流入して触媒インク中の溶媒を乾燥させることにより、図2(b)のように電極触媒層15を形成することができる。更に、表面に予め調液した接着層インクを塗布して接着層インク中の溶媒を乾燥させることにより、接着層17を形成することができる。この工程により、図2(c)のように接着層17で隔壁12と触媒層15の隙間を埋めることができる。
【0020】
隔壁12で囲まれた部分に予め調液した触媒インクを流入する方法としては、インクジェットやディスペンサーやスリットコートなどを用いることができる。
図3は、対となるアライメントマークを有する一方の転写用基材3ともう一方(他方)の転写用基材4とを基材表面同士を対向させたうえ、電解質膜16を挟んで配置した状態の模式断面図である。この状態で第1のアライメントマーク13と第2のアライメントマーク14の位置合わせを行うことにより、電解質膜16を挟んで対向した両極の触媒層15を位置ずれすることなく合わせることができる。アライメントマークによる位置合わせを行った積層体を加熱・加圧することにより、電解質膜16と触媒層15及びシール材12が接着層を介して接合する。基材11を剥離することにより、図4に示すような膜・電極接合体5が得られる。
【0021】
本発明で用いる触媒としては白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属またはこれらの合金、または酸化物、複酸化物、炭化物などが使用できる。
本発明で用いるこれらの触媒を担持するカーボンは、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンが好ましく使用できる。
【0022】
高分子電解質膜中、触媒層中又は接着層中のプロトン伝導性高分子には様々なものが用いられるが、電解質膜と電極の界面抵抗や、湿度変化時の電極と電解質膜における寸法変化率の点から考慮すると、使用する接着層中と高分子電解質膜中、又は、接着層中と触媒層中のプロトン伝導性高分子は同じ成分であるのがよい。
【0023】
本発明の膜電極接合体に用いられるプロトン電導性高分子としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子株式会社製Flemion(登録商標)、旭化成株式会社製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることができる。中でも、高分子電解質膜としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。
【0024】
本発明で触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒粒子やプロトン伝導性高分子を浸食することがなく、流動性の高い状態でプロトン伝導性高分子を溶解または微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。溶媒にはプロトン伝導性高分子となじみがよい水が含まれていてもよい。水の添加量は、プロトン伝導性ポリマーが分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限はない。揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましいが、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高く、このような溶媒を用いる際は水との混合溶媒にするのが好ましい。
【0025】
接合工程で電極触媒層にかかる圧力は、膜・電極接合体の電池性能に影響する。電池性能の良い膜電極接合体を得るには、積層体にかかる圧力は、0.5 MPa〜20 MPaであることが望ましく、より望ましくは2 MP〜15 MPaである。これ以上の圧力では電極触媒層が圧縮されすぎ、またこれ以下の圧力では電極触媒層と高分子電解質膜の接合性が低下して、電池性能が低下する。
接合時の温度は、高分子電解質膜と電極触媒層の界面の接合性が向上し、界面抵抗を抑えられる点で、電極触媒層及び接着層のプロトン電導性高分子のガラス転移点付近に設定するのが効果的であり、望ましい。
【0026】
[実施例]
PTFEシートの表面に市販の変性シリコーン樹脂(商品名:PM100、セメダイン製)をスクリーン印刷し、額縁状の隔壁及び十字のアライメントマーク2個が対角に形成された触媒層形成用基材を一組作製した。一方で、白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と水、エタノールの混合溶媒とプロトン伝導性高分子(ナフィオン:Nafion, デュポン社の登録商標)溶液を混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒インクを調製した。また、水、エタノールの混合溶媒とプロトン伝導性高分子(ナフィオン:Nafion, デュポン社の登録商標)溶液を混合し、接着層インクを調整した。前記の触媒層形成用基材の隔壁内に触媒インクを流入し、80℃のオーブンで乾燥させ、電極触媒層を形成した。さらにその表面に接着層インクを塗布し、80℃のオーブンで乾燥させて触媒層形成用基材を得た。この触媒層形成用基材を、高分子電解質膜(ナフィオン212:登録商標、Dupont社製)の両面に対面するように配置し、アノード側とカソード側のアライメントマークを重ね合わせた。この積層体をホットプレスした後にPTFEシートを剥離することで、膜・電極結合体を得た。
【0027】
「比較例」
実施例の触媒インクをPTFEシートの表面に塗布し、80℃のオーブンで乾燥させた後、触媒層を所望の大きさに切り抜いた。この転写用基材を2枚用意して高分子電解質膜(ナフィオン212:登録商標、Duont社製)の両面に対面するように配置し、実施例と同条件でホットプレスした後にPTFEシートを剥離することで、膜・電極結合体の中間体を得た。この中間体の触媒層で覆われていない電解質膜上に、枠状のシリコーンゴムシートを接合することで、膜・電極接合体を得た。
【0028】
実施例においては、触媒層とシール材のオーバーラップ部や隙間部、アノード触媒層とカソード触媒層の位置ずれのない膜・電極接合体が得られた。一方、比較例においては、触媒層とシール材のオーバーラップ部や隙間部、アノード触媒層とカソード触媒層の位置ずれのある膜・電極接合体が得られた。
実施例及び比較例の製造方法で製造した膜・電極接合体について、セロテープ(登録商標)を用いた剥離試験により、接着強度を評価した。該剥離試験は、セロテープ(登録商標)を触媒層に貼り、セロテープ(登録商標)を剥離することによって、触媒層と高分子電解質膜との接着強度を評価するものである。比較例の膜電極接合体の触媒層にセロテープ(登録商標)を貼り、セロテープ(登録商標)を剥離すると、触媒層もセロテープ(登録商標)と共に剥離しやすく、高分子電解質膜と触媒層の界面の接着強度が不十分であった。一方、実施例の膜電極接合体の触媒層にセロテープ(登録商標)を貼り、セロテープ(登録商標)を剥離すると、触媒層が剥離しにくかった。
【0029】
また、実施例の膜電極接合体を用いた燃料電池の発電時の電気抵抗は、比較例の膜電極接合体を用いた燃料電池の発電時の電気抵抗より低かった。このことから、高分子電解質膜と触媒層の界面の接着強度が高いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の膜・電極接合体は、触媒層とシール材のオーバーラップ部や隙間部、アノード触媒層とカソード触媒層の位置ずれがなく、発電効率及び耐久性が良好である。また、触媒層と電解質膜の間に電解質からなる接着層を有することにより、触媒層と電解質膜の接着性に優れ耐久性及び発電性能が良好である。さらに、本発明の膜・電極接合体の製造方法によれば、所望の範囲にのみ触媒インクを塗布できるため、余分な触媒インクを使用せずに済み、製造上の触媒材料ロスを低減して高価な白金の使用量を低減することができる。
【0031】
従って、本発明は高分子電解質膜を用いた燃料電池、特に定置型コジェネレーションシステムや自動車などに好適に用いることのできる性能を有し、更にコスト削減が可能であるため、産業上の利用価値が大きい。
【符号の説明】
【0032】
1…一方の触媒層形成用基材
2…もう一方(他方)の触媒層形成用基材
3…一方の転写用基材
4…もう一方(他方)の転写用基材
5…膜・電極接合体
11…基材
12…隔壁
13…第1のアライメントマーク
14…第2のアライメントマーク
15…電極触媒層
16…高分子電解質膜
17…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に、電極触媒層と、シール材となる樹脂で前記電極触媒層の外周部に額縁状に形成した隔壁と、を有する固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体の製造方法であって、
一組の基材のうちの一方の基材の表面に前記樹脂で、前記隔壁と、第1のアライメントマークとを形成する第1の工程と、
前記第1の工程で形成された前記隔壁の内部に、触媒インクを流入して乾燥させて前記電極触媒層を形成する第2の工程と、
前記第2の工程で電極触媒層が形成された表面に、電解質からなる接着層インクを塗布して乾燥させて接着層を形成する第3の工程と、
他方の基材の表面に前記樹脂で、前記隔壁と、前記一方の基材の表面と前記他方の基材の表面とを向かい合わせにした際に前記第1のアライメントマークと鏡像関係の位置にある第2のアライメントマークとを形成する第4の工程と、
前記第4の工程で形成された前記隔壁の内部に、触媒インクを流入して乾燥させて前記電極触媒層を形成する第5の工程と、
前記第5の工程で電極触媒層が形成された表面に、電解質からなる接着層インクを塗布して乾燥させて接着層を形成する第6の工程と、
前記一組の基材を、前記電極触媒層が形成された表面を互いに向かい合わせにして、前記電解質膜を挟んで、前記第1のアライメントマークと第2のアライメントマークとを合わせて重ね合わせる第7の工程と、
前記第7の工程で前記一組の基材を重ね合わせたことによってできる積層体を、加温加圧することにより密着させる第8の工程と、
を有することを特徴とする膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
電解質膜の両面に、電極触媒層と、シール材となる樹脂で前記電極触媒層の外周部に額縁状に形成した隔壁と、を有する膜・電極接合体を製造するために用いる触媒層形成用基材であって、
一組の基材からなり、
前記一組の基材のうちの一方の基材の表面には、前記樹脂で、前記隔壁と、第1のアライメントマークとが形成され、
他方の基材の表面には、前記樹脂で、前記隔壁と、前記一方の基材の表面と前記他方の基材の表面とを向かい合わせにした際に前記第1のアライメントマークと鏡像関係の位置にある第2のアライメントマークとが形成されたことを特徴とする触媒層形成用基材。
【請求項3】
前記一組の基材の夫々の前記隔壁の内部に、前記電極触媒層が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の触媒層形成用基材。
【請求項4】
前記一組の基材の夫々の前記電極触媒層が形成された表面に、電解質からなる接着層が形成されたことを特徴とする請求項3に記載の触媒層形成用基材。
【請求項5】
請求項1に記載の方法で製造した膜・電極接合体を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−69648(P2013−69648A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209347(P2011−209347)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】