説明

膜・電極接合体の製造方法

【課題】電解質膜・触媒層複合体とガス拡散層シートとを熱圧着する際、ガス拡散層シートの損傷を防止する高分子電解質膜・電極複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】電解質膜1と、触媒層4a、4bとの複合体9とガス拡散層5a、5bを構成するガス拡散層シート10a、10bとを熱圧着する際、又は、電解質膜1と、触媒層4a、4bと拡散層5a、5bとの複合体11a、11bとを熱圧着する際に熱圧着工程の前に予め、電解質膜1に対して、熱圧着工程における熱圧着温度よりも高い温度でアニール処理を施す高分子電解質膜・電極接合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜・電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に燃料と酸化剤を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
図1は、一般的な固体高分子電解質型燃料電池における単セルの一形態例を示す断面図である。単セル100は、燃料電池用固体高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ということがある)1の一面側に燃料極(アノード)2、及び酸化剤極(カソード)3が設けられた膜・電極接合体6を有している。燃料極2は電解質膜1側から順に燃料極側触媒層4a、燃料極側ガス拡散層5aが積層した構成となっている。酸化剤極3も同様に電解質膜1側から順に酸化剤極側触媒層4b、酸化剤極側ガス拡散層5bが積層された構成となっている。
【0004】
各触媒層4(4a、4b)には、各電極(2、3)における電極反応に対して触媒活性を有する電極触媒が少なくとも備えられる。電極触媒としては、燃料極の燃料の酸化反応又は酸化剤極の酸化剤の還元反応に対して触媒活性を有しているもの、例えば、白金、又はルテニウム、鉄、ニッケル、マンガン等の金属と白金との合金(白金合金)などが用いられている。電極触媒は、通常、カーボンブラック等の炭素粒子や炭素繊維のような導電性炭素粒子に担持された状態で触媒層に含有される。触媒層には、電極触媒のバインダー成分として、また、触媒層にプロトン伝導性を付与する成分として、高分子電解質が含有される。高分子電解質以外にも、触媒層の撥水性向上を目的として、撥水性樹脂が含有されることもある。
一方、ガス拡散層は、触媒層への反応ガスの供給性や触媒層の排水性、集電性等を高める機能を有しており、カーボンシートやカーボンペーパー等の導電性多孔質体から構成される。
【0005】
膜・電極接合体6は、二つのセパレータ7a、7bで狭持され、単セル100が構成される。各セパレータ7a、7bの片面には、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の流路を形成する溝が設けられており、これらの溝と燃料極2、酸化剤極3の外面とで燃料ガス流路8a、酸化剤ガス流路8bが画成されている。尚、図1において、各電極(燃料極、酸化剤極)は、共に、触媒層とガス拡散層とが積層した構造を有しているが、触媒層のみからなる単層構造の他、触媒層とガス拡散層の他に機能層を設けた構造もある。
【0006】
膜・電極接合体の製造方法としては、例えば、(a)電解質膜の両面に触媒層を形成した膜・触媒層複合体を、ガス拡散層を構成する2枚のガス拡散層シートで挟み込み、熱圧着する方法や、(b)ガス拡散層シートの表面に触媒層を形成した2枚の触媒層・ガス拡散層複合体で、電解質膜を挟み込み、熱圧着する方法などが挙げられる。
上記(a)においては、熱圧着時、触媒層に含有される高分子電解質や撥水性樹脂が溶融し、接着剤として作用することによって、触媒層とガス拡散層が接合される。また、上記(b)においては、熱圧着時、電解質膜の高分子電解質や触媒層の高分子電解質、撥水性樹脂が溶融し、接着剤として作用することによって、電解質膜と触媒層が接合される。熱圧着時、加熱により高分子電解質膜及び触媒層、特に高分子電解質膜は、水分が蒸発し、乾燥して面方向に収縮する。一方、ガス拡散層シートは、収縮が生じず、また、面方向の柔軟性が非常に小さいため、膜・触媒層複合体の収縮や電解質膜の収縮に追従できず、ひびや割れ等が生じやすい。
【0007】
特許文献1には、導電性カーボン繊維のクロスまたはフェルトからなる導電性多孔質基材に、熱可塑性を有する第1のフッ素樹脂を含む第1の分散液を含浸させ、前記第1のフッ素樹脂の融点以上でかつ前記第1のフッ素樹脂の分解温度未満の第1の焼成温度で焼成し、前記導電性多孔質基材の硬度を高める工程(1)を有することを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、膜電極接合体の製造方法であって、基材上にイオン交換樹脂を含む塗工液を塗工した後、100〜250℃にてアニールすることにより電解質膜を形成し、得られた電解質膜の表面に電極触媒及びイオン交換樹脂を含む塗工液を塗工することによって、触媒層を形成することにより、電解質膜と触媒層とから構成される中間体を作製する方法が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−191002号公報
【特許文献2】特開2008−16431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、ガス拡散層の製造工程において、特定の温度で焼成することによってガス拡散層の硬度を高めているが、膜・触媒層複合体とガス拡散層とを熱圧着する際の、膜・触媒層複合体の収縮変形については全く考慮されていない。また、特許文献2では、電解質膜を100〜250℃でアニール処理することによって、膜中の含水量が調整され、アニールにより安定した状態の膜の上に触媒層を形成することで、膜と触媒層との密着性が高まり、高出力の膜電極接合体が得られるとしている。しかしながら、特許文献2では、膜・触媒層複合体とガス拡散層とを熱圧着する際の、膜・触媒層複合体の収縮変形については全く考慮されておらず、実施例において、電解質膜のアニール温度と熱プレス温度を同じ温度条件(140℃)で行っている。
【0011】
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げなれたものであり、膜・触媒層複合体とガス拡散層を構成するガス拡散層シートとを熱圧着する際、又は、高分子電解質膜と触媒層・ガス拡散層複合体とを熱圧着する際に、ガス拡散層シートが損傷するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、高分子電解質膜と、該高分子電解質膜側から触媒層及びガス拡散層が積層した積層構造を有し且つ前記高分子電解質膜を狭持する一対の電極と、を備える膜・電極接合体の製造方法であって、
前記高分子電解質膜、又は、前記高分子電解質膜の表面に前記触媒層が設けられた膜・触媒層複合体をアニール処理するアニール処理工程(A)と、
前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した高分子電解質膜と、ガス拡散層シートの表面に前記触媒層が設けられた触媒層・ガス拡散層複合体とを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B1)、又は、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した高分子電解質膜の表面に前記触媒層を設けた膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B2)、又は、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B3)と、を備え、
前記アニール処理工程(A)におけるアニール処理温度が、前記熱圧着工程(B1)乃至(B3)のいずれかにおける熱圧着温度と比較して高いことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、膜・触媒層複合体とガス拡散層シートを熱圧着する工程、又は、高分子電解質膜と触媒層・ガス拡散層複合体を熱圧着する工程を備える膜・電極接合体の製造方法において、該熱圧着工程前に、高分子電解質膜又は膜・触媒層複合体を、該熱圧着工程における熱圧着温度よりも高い温度でアニール処理しておくことによって、該熱圧着工程時の高分子電解質膜の収縮変形を抑制することができる。従って、本発明の膜・電極接合体の製造方法によれば、熱圧着工程における高分子電解質膜の収縮変形に起因するガス拡散層の割れ等の破損を抑制することが可能である。
【0014】
炭化水素系高分子電解質膜は特に加熱時の収縮変形が大きいため、前記高分子電解質膜として炭化水素系高分子電解質膜を用いる場合、本発明の効果は特に大きくなる。
前記アニール処理工程(A)におけるアニール処理温度の好ましい範囲としては、130〜200℃の温度範囲が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の膜・電極接合体の製造方法によれば、膜・触媒層複合体とガス拡散層を構成するガス拡散層シートとを熱圧着する際、又は、高分子電解質膜と触媒層・ガス拡散層複合体との熱圧着する際に、ガス拡散層シートが損傷するのを防止することができる。従って、本発明によれば、膜・電極接合体の生産性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、高分子電解質膜と、該高分子電解質膜側から触媒層及びガス拡散層が積層した積層構造を有し且つ前記高分子電解質膜を狭持する一対の電極と、を備える膜・電極接合体の製造方法であって、
前記高分子電解質膜、又は、前記高分子電解質膜の表面に前記触媒層が設けられた膜・触媒層複合体をアニール処理するアニール処理工程(A)と、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した高分子電解質膜と、ガス拡散層シートの表面に前記触媒層が設けられた触媒層・ガス拡散層複合体とを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B1)、又は、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した高分子電解質膜の表面に前記触媒層を設けた膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B2)、又は、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B3)と、を備え、前記アニール処理工程(A)におけるアニール処理温度が、前記熱圧着工程(B1)乃至(B3)のいずれかにおける熱圧着温度と比較して高いことを特徴とする。
【0017】
以下、図1〜図2を参照しながら本発明に係る膜・電極接合体及び本発明により提供される膜・電極接合体について説明する。図1は、本発明により提供される膜・電極接合体を備える単セルの一形態例を示す断面図、図2は、本発明の膜・電極接合体の製造方法における熱圧着工程を説明する模式図である。
【0018】
図1において、単セル100は、固体高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ということがある)1の一面側に燃料極(アノード)2、及び酸化剤極(カソード)3が設けられた膜・電極接合体6を有している。燃料極2は電解質膜1側から順に燃料極側触媒層4a、燃料極側ガス拡散層5aが積層した構成となっている。酸化剤極3も同様に電解質膜1側から順に酸化剤極側触媒層4b、酸化剤極側ガス拡散層5bが積層された構成となっている。
【0019】
膜・電極接合体6は、二つのセパレータ7a、7bで狭持され、単セル100が構成されている。各セパレータ7a、7bは、各反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の流路を形成する溝が形成されており、各電極2、3の最外面と反応ガスを供給・排出するための流路8a、8bが画成される。燃料極側の流路8aは、燃料ガス(水素を含む又は水素を発生させる気体)を燃料極2に供給及び燃料ガスの未反応分を排出するための流路であり、酸化剤極側の流路8bは、酸化剤ガス(酸素を含む又は酸素を発生させる気体)を酸化剤極3に供給及び酸化剤ガスの未反応分を排出するための流路である。
【0020】
膜・電極接合体6は、電解質膜1の表面に触媒層4が設けられた膜・触媒層複合体9と、ガス拡散層5(5a、5b)を構成するガス拡散層シート10(10a、10b)とを熱圧着(図2の2A参照)、若しくは、電解質膜1と、ガス拡散層5の表面に触媒層4(4a、4b)が設けられた触媒層・ガス拡散層複合体11(11a、11b)とを熱圧着(図2の2B参照)(以下、まとめて単に熱圧着ということがある)することで、形成することができる。
【0021】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、熱圧着工程の前に予め、電解質膜に対して、熱圧着工程における熱圧着温度よりも高い温度でアニール処理を施すことを特徴とするものである。電解質膜をアニール処理にすることによって、電解質膜の成形時に生じた歪みが低減したり、結晶性の高分子樹脂を含む場合には、該高分子樹脂の結晶性が高まることにより、電解質膜の硬度や寸法安定性が向上する。本発明は、熱圧着工程前に、該熱圧着工程よりも高い温度で電解質膜にアニール処理を行うことによって、熱圧着工程における電解質膜の収縮変形を抑制することが可能であり、熱圧着工程における電解質膜の収縮変形に起因するガス拡散層の破損を防止できることを見出したものである。
【0022】
一般的に、電解質膜は加熱されることで収縮変形を生じる。本発明者はこの知見に基づき検討した結果、熱圧着工程の前に予め、該熱圧着工程における熱圧着温度よりも高い温度でアニール処理を行う場合、熱圧着における収縮量[(初期状態の膜の面方向寸法−熱圧着後の膜の面方向寸法)/(初期状態の膜の面方向寸法)×100%]が、アニール処理による収縮量[(初期状態の膜の面方向寸法−アニール処理後の膜の面方向寸法)/(初期状態の膜の面方向寸法)×100%]よりも小さくなる(参考実験1及び2、図3参照)ことを見出した。一般的に加熱温度が高いほど、加熱による電解質膜の面方向における収縮量は大きくなる。
また、加熱後、加熱時と比べて低温、高湿環境(典型的には常温常湿)下にさらされると、電解質膜の寸法はある程度復元するが、加熱時の寸法変化量が大きいほど、加熱後の寸法安定性が高まり、収縮した状態が維持される。
以上のように、本発明によれば、高分子電解質膜をその寸法安定性を高めた状態で熱圧着工程に投入するため、熱圧着時の電解質膜の寸法変化を抑制することができる。その結果、電解質膜との熱圧着により、ガス拡散層の面方向にかかる負荷が小さくなり、ガス拡散層の割れ等の発生を抑制することが可能となる。
【0023】
以下、本発明の製造方法の手順について説明していく。
まず、アニール処理工程について説明する。
本発明において、アニール処理は、電解質膜そのものに対して行ってもよいし、電解質膜の表面に触媒層を形成した膜・触媒層複合体に対して行ってもよい。膜・触媒層複合体としては、電解質膜の両表面に触媒層(燃料極側触媒層及び酸化剤極側触媒層)が設けられたものであってもよいし、電解質膜の片面のみに触媒層(燃料極側触媒層又は酸化剤極側触媒層のいずれか一方)が設けられたものであってもよい。
【0024】
電解質膜としては、いわゆる固体高分子電解質膜として知られているもの、例えば、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を含むものが挙げられる。ここで、フッ素系高分子電解質とは、ナフィオン(商品名、デュポン製)やアシプレックス(商品名、旭化成製)、フレミオン(商品名、旭硝子製)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等の含フッ素高分子電解質を指す。
【0025】
また、炭化水素系高分子電解質とは、典型的にはフッ素を全く含まないが、本発明による効果が充分に得られることから、部分的にフッ素置換されていてもよい。炭化水素系高分子電解質として、具体的には、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラフェニレン等のエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用プラスチックにスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ボロン酸基等のプロトン伝導性基を導入したもの又はこれらの共重合体等が挙げられる。
【0026】
電解質膜は、上記したような炭化水素系高分子電解質やフッ素系高分子電解質を複数種含有していてもよく、高分子電解質以外の成分を含有していてもよい。
上記のような炭化水素系高分子電解質を主成分として構成される炭化水素系高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質を主成分として構成されるフッ素系高分子電解質膜と比較して、加熱時の収縮変形が大きい。本発明にかかる膜・電極接合体の製造方法によれば、電解質膜として炭化水素系高分子電解質膜を用いる場合であっても、熱圧着時における電解質膜の収縮変形を抑制することが可能である。すなわち、炭化水素系高分子電解質膜を用いる場合、本発明により得られる効果は特に大きいといえる。ここで、炭化水素系高分子電解質を主成分として構成されるとは、炭化水素系高分子電解質を90wt%以上含有する電解質膜のことをさす。
電解質膜の膜厚は特に限定されず、通常、10〜100μm程度である。
【0027】
電解質膜の表面に触媒層が設けられた膜・触媒層複合体は、一般的な方法に準じて作製することができる。例えば、各電極における電極反応に対して触媒活性を有する電極触媒と電解質材料とを含有する触媒インクを用いて形成することができる。
電極触媒としては、通常、触媒成分を導電性粒子に担持させたものが用いられる。触媒成分としては、燃料極の燃料の酸化反応又は酸化剤極の酸化剤の還元反応に対して触媒活性を有しているものであれば、特に限定されず、高分子型燃料電池に一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、白金、又はルテニウム、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、銅等の金属と白金との合金等が挙げられる。触媒担体である導電性粒子としては、カーボンブラック等の炭素粒子や炭素繊維のような導電性炭素材料、金属粒子や金属繊維等の金属材料も用いることができる。
電解質材料としては、電解質膜を構成する高分子電解質として上記にて例示した高分子電解質等を用いることができる。
【0028】
触媒インクは上記のような電極触媒と電解質材料とを、溶媒に溶解又は分散させて得られる。触媒インクの溶媒は、適宜選択すればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒、又はこれら有機溶媒の混合物やこれら有機溶媒と水との混合物を用いることができる。触媒インクには、電極触媒及び電解質材料以外にも、必要に応じて結着剤や撥水性樹脂等のその他の成分を含有させてもよい。
【0029】
上記触媒インクを用いて電解質膜表面に触媒層を形成する方法としては、例えば、電解質膜表面に触媒インクを塗布、乾燥する方法、転写用基材表面に触媒インクを塗布、乾燥して作製した転写シートを、電解質膜と熱圧着等により接合し、触媒層を電解質膜表面に転写する方法、等が挙げられる。
電解質膜表面又は転写基材表面への触媒インクの塗布方法、触媒インクの乾燥方法等は適宜選択することができる。例えば、塗布方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法などが挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが挙げられる。減圧乾燥、加熱乾燥における具体的な条件に制限はなく、適宜設定すればよい。
触媒インクの塗布量は、触媒インクの組成や、電極触媒に用いられる触媒金属の触媒性能等によって異なるが、触媒層の単位面積当りの触媒成分量が、0.1〜2.0mg/cm程度となるようにすればよい。また、触媒層の膜厚は、特に限定されないが、1〜50μm程度とすればよい。
【0030】
アニール処理工程における電解質膜又は膜・触媒層複合体のアニール処理温度は、熱圧着工程の熱圧着温度よりも高ければ特に限定されないが、熱圧着温度よりも10〜50℃以上高いこと、特に10〜40℃以上高いことが好ましい。アニール処理温度は、電解質膜を構成する高分子電解質の熱分解点又はガラス転移点に応じて設定することが好ましい。具体的には、多くの高分子電解質膜、特に炭化水素系高分子電解質膜では、100〜300℃に熱分解(脱スルホン化)点を有することから、電解質膜の熱分解点よりも低い温度範囲とすることが好ましい。
一般的には、アニール処理温度を130〜200℃、特に130〜180℃の範囲とすることが好ましい。
【0031】
アニール処理時間は、特に限定されず、アニール処理温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常、2〜10分間が好ましく、特に3〜7分間が好ましい。アニール処理時間が2分間より短いと、アニール処理の効果が充分に得られないおそれがある。また、アニール処理時間が10分間より長いと、生産性が低下してしまう。
【0032】
アニール処理工程において、上記アニール処理温度で加熱した電解質膜又は膜・触媒層複合体は、放冷し、一旦冷却する。
【0033】
次に、熱圧着工程について説明する。
上記アニール処理工程において、電解質膜そのものをアニール処理した場合には、アニール処理した電解質膜と、ガス拡散層シートの表面に触媒層を設けた触媒層・ガス拡散層複合体とを、電解質膜とガス拡散層の間に触媒層が配置されるように重ねあわせ、熱圧着する(B1)か、或いは、アニール処理した電解質膜を用いて膜・触媒層複合体を作製し、該膜・触媒層複合体とガス拡散層シートとを、電解質膜とガス拡散層の間に触媒層が配置されるように重ねあわせ、熱圧着する(B2)ことによって、ガス拡散層、触媒層、電解質膜が接合した膜・電極接合体を得ることができる。
一方、上記アニール処理工程において、膜・触媒層複合体をアニール処理した場合には、アニール処理した膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、電解質膜とガス拡散層の間に触媒層が配置されるように重ねあわせ、熱圧着する(B3)ことによって、ガス拡散層、触媒層、電解質膜が接合した膜・電極接合体を得ることができる。
【0034】
ガス拡散層を構成するガス拡散層シートとしては、触媒層に効率良くガスを供給することができるガス拡散性、導電性、及びガス拡散層を構成する材料として要求される強度を有するもの、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素質多孔質体や、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル−クロム合金、銅及びその合金、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、チタン、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等の金属から構成される金属メッシュ又は金属多孔質体等の導電性多孔質体を用いることができる。
ガス拡散層シートは、上記したような導電性多孔質体の単層からなるものであってもよいが、触媒層に面する側に撥水層を設けたものでもよい。撥水層は、通常、炭素粒子や炭素繊維等の導電性粉粒体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性樹脂等を含む多孔質構造を有するものであり、導電性粉粒体や撥水性樹脂を含有する撥水層インクを用いて形成することができる。また、ガス拡散層シートは、導電性多孔質体の触媒層と面する側に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂をバーコーター等によって含浸塗布することによって、触媒層内の水分がガス拡散層の外へ効率良く排出されるように加工されていてもよい。
【0035】
ガス拡散層シートの表面に触媒層が設けられた触媒層・ガス拡散層複合体は、上記膜・触媒層複合体の作製方法において、電解質膜の代わりにガス拡散層シートを用いることによって作製することができる。
また、アニール処理した電解質膜に触媒層を設けた膜・触媒層複合体は、上記した膜・触媒層複合体と同様にして作製することができる。
【0036】
熱圧着工程における熱圧着温度は、特に限定されず、通常は、100〜180℃程度でよい。具体的な熱圧着温度は、熱圧着工程において電解質膜と触媒層を接合する場合(上記B1の場合)には、電解質膜を構成する高分子電解質と触媒層を構成する高分子電解質のガラス転移点を考慮して決定することが好ましい。また、熱圧着工程において触媒層とガス拡散層を接合する場合(上記B2、B3の場合)には、触媒層を構成する高分子電解質のガラス転移点を考慮して決定することが好ましい。
【0037】
熱圧着工程における熱圧着圧力は、特に限定されず、通常は、0.5〜8MPa程度でよい。
熱圧着方法としては、例えば、熱ロールプレス、平圧プレス、金型プレス等挙げられ、中でも金型プレスが好ましい。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
白金を担持したカーボンブラック(Pt/C触媒、Pt担持率:45wt%)1.0gと、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(Aldrich社製、Nafion溶液、濃度10wt%)5.5gと、エタノール、水を攪拌混合し、触媒インクを調製した。
【0039】
炭化水素系高分子電解質膜(スルホン化ポリエーテルスルホン)の両面に上記触媒インクをスプレー塗布、乾燥して、触媒層を形成し、膜・触媒層複合体を得た。
【0040】
得られた膜・触媒層複合体を、150℃で10分間アニール処理した。その後、周囲(非発電領域)にパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を浸漬させた2枚のカーボンペーパーで挟み込み、130℃、3MPaで5分間熱圧着を行い、膜・電極接合体を得た。得られた膜・電極接合体のカーボンペーパーに割れは生じなかった。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、膜・触媒層複合体を、130℃で5分間アニール処理した以外は、同様にして、膜・電極接合体を得た。得られた膜・電極接合体のカーボンペーパーに割れが生じた。
【0042】
(参考実験1)
実施例1と同様にして膜・触媒層複合体を作製し、常温常湿(23℃、50%RH)に24時間放置し、膜・触媒層複合体の電解質膜の面方向の長さL1を測定した。
続いて、上記膜・触媒層複合体を、実施例1同様、150℃で10分間アニール処理し、その直後における膜・触媒層複合体の電解質膜の面方向の長さL2を測定した。
上記アニール処理を行った膜・触媒層複合体を、常温常湿(23℃、50%RH)に24時間放置し、膜・触媒層複合体の電解質膜の面方向の長さL3を測定した。
さらに、上記アニール処理後、常温常湿にさらした膜・触媒層複合体を、130℃、3MPaで5分間熱圧着し、その直後における膜・触媒層複合体の電解質膜の面方向の長さL4を測定した。
上記L1を基準とし、L1に対するL2〜L4の収縮量ΔLn[(L1−Ln)/L1×100%:LnはL1、L2、L3又はL4]を算出した。結果を図3に示す。
【0043】
(参考実験2)
参考実験1において、アニール処理温度を130℃、アニール処理時間を5分間としたこと以外は、同様にして、膜・触媒層複合体の面方向の収縮量を算出した。結果を図3に併せて示す。
【0044】
(結果)
図3に示すように、アニール処理温度が熱圧着温度よりも高い参考実験1(実施例1と同条件)では、熱圧着後における電解質膜の収縮量ΔL4が、アニール処理後における電解質膜の収縮量ΔL2よりも小さかった。これに対して、アニール処理温度が熱圧着温度と同じ参考実験2(比較例1と同条件)では、熱圧着後における電解質膜の収縮量ΔL4が、アニール処理後における電解質膜の収縮量ΔL2よりも大きかった。
また、熱圧着前後における電解質膜の寸法変化量(ΔL4−ΔL3)が、参考実験1では1%であるのに対して、参考実験2では2%と大きくなった。
すなわち、比較例1では、熱圧着工程前後において、電解質膜の面方向における収縮変形が大きいために、電解質膜と熱圧着されたガス拡散層にその面方向に大きな力が負荷され、ガス拡散層の割れが生じてしまったと考えられる。一方、実施例1では、熱圧着工程において、電解質膜の面方向における収縮変形が小さいために、ガス拡散層が電解質膜の収縮変形に追従でき、ガス拡散層の面方向にかかる力が小さく、割れが生じなかったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明により提供される膜・電極接合体を備える単セルの一形態例を示す断面図である。
【図2】本発明の膜・電極接合体の製造方法の一工程を説明する模式図である。
【図3】参考実験1及び参考実験2の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1…電解質膜
2…燃料極(アノード)
3…酸化剤極(カソード)
4a…アノード側触媒層
4b…カソード側触媒層
5a…アノード側ガス拡散層
5b…カソード側ガス拡散層
6…膜・電極接合体
7a…アノード側セパレータ
7b…カソード側セパレータ
8a…アノード側ガス流路
8b…カソード側ガス流路
9…膜・触媒層複合体
10(10a、10b)…ガス拡散層シート
11(11a、11b)…触媒層・ガス拡散層複合体
100…単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、該高分子電解質膜側から触媒層及びガス拡散層が積層した積層構造を有し且つ前記高分子電解質膜を狭持する一対の電極と、を備える膜・電極接合体の製造方法であって、
前記高分子電解質膜、又は、前記高分子電解質膜の表面に前記触媒層が設けられた膜・触媒層複合体をアニール処理するアニール処理工程(A)と、
前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した高分子電解質膜と、ガス拡散層シートの表面に前記触媒層が設けられた触媒層・ガス拡散層複合体とを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B1)、又は、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した高分子電解質膜の表面に前記触媒層を設けた膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B2)、又は、前記アニール処理工程(A)においてアニール処理した前記膜・触媒層複合体と、ガス拡散層シートとを、高分子電解質膜とガス拡散層シートの間に前記触媒層が位置するように重ね合わせ、熱圧着する熱圧着工程(B3)と、を備え、
前記アニール処理工程(A)におけるアニール処理温度が、前記熱圧着工程(B1)乃至(B3)のいずれかにおける熱圧着温度と比較して高いことを特徴とする、膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記高分子電解質膜が、炭化水素系高分子電解質膜である、請求項1に記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記アニール処理工程(A)におけるアニール処理温度が130〜200℃である、請求項1又は2に記載の膜・電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−10036(P2010−10036A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170213(P2008−170213)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】