説明

膜乳化用多孔質シリカ膜

【課題】本発明は、表面化学修飾基を多量に含み、膜乳化に適した細孔を有する多孔質シリカ膜を提供する。
【解決手段】本発明は、SiO2を主成分とし、0.3〜50ミクロン、及び50ナノメートル以下の細孔を有する膜乳化用多孔質シリカ膜である。発明の多孔質シリカ膜は、相分離を利用したゾル―ゲル法によって調製することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、混ざり合わない液体同士の一方の液体を、多孔質膜を介して他方の液体中に分散させてエマルションを製造する、いわゆる膜乳化法に用いる多孔質膜に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、各種の産業分野において、性質の異なる流体を混合することが行われており、その一例として、性質の異なる流体である水と油との混合があり、油を水中に微細な粒子として分散しエマルション化する混合、いわゆる乳化がある。このエマルションの製造法としては、連続相となるべき液体に分散相となるべき液体と界面活性剤などの乳化剤とを添加し、得られる混合液を攪拌機などの機械によりかきまぜて製造する機械的方法と、分散相となるべき液体をミクロ多孔質膜を通して連続相となるべき液体中に圧入する膜乳化法がある。前者の方法は、懸濁重合によるポリマーの性能に大きく影響するエマルション粒子の粒径を自由に変化させることが難しく、後者の方法が一般的に利用されている。従来、後者の膜乳化法に使用する多孔質膜として挙げられているものには、CaO-B2O3-SiO2-Al2O3系多孔質ガラス、CaO-B2O3−SiO2‐Al2O3-Na2O-MgO系多孔質ガラスがある。いずれも多成分系ガラスの分相を利用して製造されているものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】多様な分散相と分散媒との組み合わせに対して膜乳化を適応させるには、多孔質膜の表面はそれぞれの乳化系に応じた性質を持つ必要がある。そしてそれには、膜の表面を化学修飾によって改質する手法が、非常に有効となる。一方SiO2ゲルの表面にはシラノール基が存在することができ、そのシラノール基は、表面化学修飾の際に反応サイトとなる官能基の役割を担う。ところが従来の膜乳化用多孔質膜は原料が多成分系ガラスであり、シリカ以外の成分を多量に含んでいるため表面官能基が不足し、十分な表面化学修飾が達成できないという問題点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため、SiO2を主成分とし、0.3〜50ミクロン、及び50ナノメートル以下の細孔を有する膜乳化用多孔質シリカ膜を提供する。本発明の多孔質シリカ膜は、相分離を利用したゾル―ゲル法によって調製することが好ましい。ゾル−ゲル反応に用いられるゲル形成を起こす網目成分の前駆体としては、金属アルコキシド、錯体、金属塩、有機修飾金属アルコキシド、有機架橋金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解生成物、部分重合生成物である多量体を用いることができる。水ガラスほかケイ酸塩水溶液のpHを変化させることによるゾル−ゲル転移も、同様に利用することができる。さらに具体的には、上記目的達成の手段は、水溶性高分子、熱分解する化合物を酸性水溶液に溶かし、それに加水分解性の官能基を有する金属化合物を添加して加水分解反応を行い、板状部材の溝内において生成物が固化した後、次いで湿潤状態のゲルを加熱することにより、ゲル調製時にあらかじめ溶解させておいた低分子化合物を熱分解させ、次いで乾燥し加熱して製造することが好ましい。
【0005】ここで、水溶性高分子は、理論的には適当な濃度の水溶液と成し得る水溶性有機高分子であって、加水分解性の官能基を有する金属化合物によって生成するアルコールを含む反応系中に均一に溶解し得るものであれば良いが、具体的には高分子金属塩であるポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、高分子酸であって解離してポリアニオンとなるポリアクリル酸、高分子塩基であって水溶液中でポリカチオンを生ずるポリアリルアミンおよびポリエチレンイミン、あるいは中性高分子であって主鎖にエーテル結合を持つポリエチレンオキシド、側鎖にカルボニル基を有するポリビニルピロリドン等が好適である。また、有機高分子に代えてホルムアミド、多価アルコール、界面活性剤を用いてもよく、その場合多価アルコールとしてはグリセリンが、界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル類が最適である。
【0006】加水分解性の官能基を有する金属化合物としては、金属アルコキシド又はそのオリゴマーを用いることができ、これらのものは例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数の少ないものが好ましい。また、その金属としては、最終的に形成される酸化物の金属、例えばSi、Ti、Zr、Alが使用されるが、Siが好ましい。この金属としては1種又は2種以上であっても良い。一方オリゴマーとしてはアルコールに均一に溶解分散できるものであればよく、具体的には10量体程度まで使用できる。
【0007】また、酸性水溶液としては、通常塩酸、硝酸等の鉱酸0.001モル濃度以上のもの、あるいは酢酸、ギ酸等の有機酸0.01モル濃度以上のものが好ましい。
【0008】相分離・ゲル化にあたっては、溶液を室温40〜80℃で0.5〜5時間保存することにより達成できる。相分離・ゲル化は、当初透明な溶液が白濁してシリカ相と水相との相分離を生じついにゲル化する過程を経る。この相分離・ゲル化で水溶性高分子は分散状態にありそれらの沈殿は実質的に生じない。
【0009】あらかじめ共存させる熱分解性の化合物の具体的な例としては、尿素あるいはヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機アミド類を利用できるが、加熱後の溶媒のpH値が重要な条件であるので、熱分解後に溶媒を塩基性にする化合物であれば特に制限はない。共存させる熱分解性化合物は、化合物の種類にもよるが、例えば尿素の場合には、反応溶液10gに対し、0.05〜0.8g、好ましくは0.1〜0.7gである。また、加熱温度は、例えば尿素の場合には40〜200℃で、加熱後の溶媒のpH値は、6.0〜12.0が好ましい。また、熱分解によってフッ化水素酸のようにシリカを溶解する性質のある化合物を生じるものも、同様に利用できる。
【0010】上記方法では、水溶性高分子を酸性水溶液に溶かし、それに加水分解性の官能基を有する金属化合物を添加して加水分解反応を行うと、溝内において、溶媒リッチ相と骨格相とに分離したゲルが生成する。生成物(ゲル)が固化した後、適当な熟成時間を経た後、湿潤状態のゲルを加熱することによって、反応溶液にあらかじめ溶解させておいたアミド系化合物が熱分解し、骨格相の内壁面に接触している溶媒のpHが上昇する。そして、溶媒がその内壁面を浸食し、内壁面の凹凸状態を変えることによって細孔径を徐々に拡大する。シリカを主成分とするゲルの場合には、酸性あるいは中性領域においては変化の度合は非常に小さいが、熱分解が盛んになり水溶液の塩基性が増すにつれて、細孔を構成する部分が溶解し、より平坦な部分に再析出することによって、平均細孔径が大きくなる反応が顕著に起こるようになる。
【0011】巨大空孔を持たず3次元的に束縛された細孔のみを持つゲルでは、平衡条件としては溶解し得る部分でも、溶出物質が外部の溶液にまで拡散できないために、元の細孔構造が相当な割合で残る。これに対して巨大空孔となる溶媒リッチ相を持つゲルにおいては、2次元的にしか束縛されていない細孔が多く、外部の水溶液との物質のやり取りが十分頻繁に起こるため、大きい細孔の発達に並行して小さい細孔は消滅し、全体の細孔径分布は顕著に広がることがない。
【0012】なお、加熱過程においては、ゲルを密閉条件下に置き、熱分解生成物の蒸気圧が飽和して溶媒のpHが速やかに定常値をとるようにすることが有効である。
【0013】溶解・再析出反応が定常状態に達し、これに対応する細孔構造を得るために要する、加熱処理時間は、巨大空孔の大きさや試料の体積によって変化するので、それぞれの処理条件において実質的に細孔構造が変化しなくなる、最短処理時間を決定することが必要である。
【0014】加熱処理を終えたゲルは、溶媒を気化させることによって、乾燥ゲルとなる。この乾燥ゲル中には、出発溶液中の共存物質が残存する可能性があるので、適当な温度で熱処理を行い、有機物等を熱分解することによって、目的の無機系多孔質体を得ることができる。なお、乾燥は、30〜80℃で数時間〜数十時間放置して行い、熱処理は、200〜1200℃程度で加熱する。
【0015】上記の方法で得られる本発明の膜乳化用多孔質シリカ膜は、主成分がSiO2であり、0.3〜50ミクロン、及び50ナノメートル以下の細孔を有する。ここで、「主成分」とは、成分の大部分がSiO2であるという意味で、99.0%以上のSiO2を含む場合が最も好ましいが、これには限定されない。細孔の制御は、上記した製造法の加熱時間、温度などを変えることにより行うことができる。好ましい細孔は、スルーポア(貫通孔)が0.6〜20ミクロンであり、メソポアは、50ナノメートル以下ならば、0を含みいずれの細孔でもよい。50ナノメートル以上になると強度が不足するからである。
【0016】本発明では、主成分がSiO2であるので、活性シラノ−ル基を多量に含み十分な表面化学修飾を達成できる。表面化学修飾剤は、特に限定されず、例えばメチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、オクタデシルジメチルシランなどのシランカップリング剤、ジハイドロジェンへキサメチルシクロシロキサン等の環状シリコーン化合物、ジメチルポリシロキサンなどの熱硬化性シリコーンオイルなどを用いることができる。これら化学修飾剤のなかでも炭素鎖による化学修飾剤が好ましい。これにより、いろんな粒を長時間安定に製造できる。修飾により導入される炭素量は、安定性の観点から3重量%以上、好ましくは、10重量%以上である。なお、ここでの重量%は、シリカゲルと修飾基をたした全重量に対する割合である。
【0017】本発明の多孔質シリカ膜を介して、粒子原料を有する分散相を分散媒中に分散することにより無機質微小球体を製造できる。分散相としては、シリカゾル等の金属酸化物ゾルの水またはアルコール分散液、金属、その他ポリマー原料を用いることができる。ポリマー原料としては、スチレン類、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類等のビニルモノマーを挙げることができ、また縮合系モノマーとしてジカルボン酸ジオール類、ジカルボン酸ジアミン類、ビニルエーテルとして1官能性から4官能性まで望ましくは2官能以下のビニルエーテルを用いることができる。また分散媒としては、親水性の低い有機溶媒なら何でもよく、アルコール類、炭化水素類などを用いることができる。具体的には、へキサン、シクロへキサン、トルエン、ケロシン、クロロフォルム、大豆、油などを用いることができる。
【発明の実施の形態】<実施例1>(膜製造)ポリエチレンオキサイド(分子量10,000)4.2gを0.01M酢酸水溶液50mlに溶解し、氷冷下でテトラメトキシシラン24.7mlを添加後撹拌して均一溶液とした。該均一溶液を密閉溶液中、40℃で3日間反応させ、得られたゲルを0.5M尿素水溶液中、110℃で4時間処理した。得られたゲルを乾燥後、1050℃、または950℃で5時間、熱処理し、研磨紙で25mmφ、厚さ1mmのディスク状に成形した。膜のSEM写真を図1に、水銀圧入測定による細孔分布を図2に示す。図2より、本発明の膜は、1.2μmの細孔を有し、細孔径が均一であることが分かる。
【0018】(疎水化処理)得られた膜を、ジエチルアミノ−オクタデシルジメチルシラン2mlのトルエン溶液10mlに浸漬し、80℃で10時間反応させた。さらにヘキサメチルジシラザン2mlのトルエン溶液10ml中、80℃で2時間反応させ、洗浄後乾燥した。得られた疎水化膜の元素分析結果を表1に示した。
【表1】


表1の1、3は上記製造法で疎水化処理をしなかった膜、2、4は上記疎水化処理を施した膜である。
【0019】該疎水化膜(多孔質膜)を図3の膜乳化システムに装着した。図3中(3)は、筒状のシリカハウジングであって、該ハウジング(3)は、分散媒(1)の入った容器(6)に収容されている。ハウジング(3)の先端には、本発明の多孔質膜(4)が装着されている。なお、ハウジング(3)は図示しない支持体で容器(6)に固定されている。(7)は分散相(2)の入った密閉円筒容器であり、該容器の上端には開口が2個あいてあり、1つは配管により前記ハウジング(3)と連結し、もう一つは窒素ガスボンベ(5)からの配管と接続される。したがって、密閉円筒容器(7)内の分散相(2)は窒素ガス加圧により、ハウジング(3)に供給される。
【0020】図3の膜乳化システムを用い、次の方法でシリカ粒子を製造した。先ず、多孔質膜(4)をシリカハウジング(3)に取り付け、これをソルビタンモノラウレート5gをケロシン500mlに溶解した分散媒(1)中に設置した。ハウジング内にシリカゾル(日産化学:スノーテックスN)を満たして分散相(2)とし、これを窒素ガスで加圧して乳化を行った。得られたエマルション分散液に、0.5M塩化アンモニウム水溶液を5ml添加し、30分撹拌後1晩放置した。沈殿物をろ取し、乾燥後600℃で5時間熱処理した。得られたシリカ粒子のSEM写真を図4に示した。図4-1は合成膜の膜乳化60〜120分で得られたシリカ粒子、図4-2は合成膜の膜乳化120〜180分で得られたシリカ粒子を示す。本発明の多孔質膜を使用すれば、乳化時間にかかわらず均一な径を有するシリカ粒子を製造することができる。
【0021】<比較例1>市販のSPG膜を購入した。膜のSEM写真を図5に、水銀圧入測定による細孔分布を図6に示す。膜細孔径は1.6μm、細孔径は均一である。SPG膜を、ジエチルアミノ−オクタデシルジメチルシラン2mlのトルエン溶液10mlに浸漬し、80℃で10時間反応させた。さらにヘキサメチルジシラザン2mlのトルエン溶液10ml中、80℃で2時間反応させ、洗浄後乾燥した。得られた疎水化SPG膜の元素分析結果を前述の表1に示した。表1の5のSPGは疎水化処理をしないもの(図5のSEM写真の膜)、6は上記疎水化処理をした膜である。
【0022】該疎水化SPG膜を前述した図3のハウジング(3)に取り付け、これをソルビタンモノラウレート5gをケロシン500mlに溶解した分散媒(1)中に設置した。ハウジング内にシリカゾル(日産化学:スノーテックスN)を満たして分散相(2)とし、これを窒素ガスで加圧して乳化を行った。得られたエマルション分散液に、0.5M塩化アンモニウム水溶液を5ml添加し、30分撹拌後1晩放置した。沈殿物をろ取し、乾燥後600℃で5時間熱処理した。得られたシリカ粒子のSEM写真を図7に示した。図7-1はSPG膜の膜乳化60〜120分で得られたシリカ粒子、図7-2はSPG膜の膜乳化120〜180分で得られたシリカ粒子を示す。図4との対比で分かるように、SPG膜を用いた膜乳化では、乳化初期はほぼ均一なシリカ粒子が製造できるが、乳化時間が長くなると、次第に粒径分布が広がることが分かる。これは膜の導入炭素量が少ないため、すなわち、疎水化が十分でないため、乳化時間につれて膜の濡れが起こり、粒径の均一性がくずれるためと考えられる。
【0023】
【発明の効果】本発明の多孔質シリカ膜は、主成分がSiO2であるため、表面化学修飾に必要な活性シラノール基を、従来の多孔質膜と比較して多く含むことができる。それと同時に本多孔質シリカ膜は、膜乳化に適した貫通孔からなり、さらにその細孔分布は従来の膜乳化用膜と同等以上の均一性を有する。また細孔の中心サイズは、0.3?50ミクロンの範囲でコントロールでき、併せて50ナノメートル以下の細孔を有することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成した膜のSEM像
【図2】合成した膜の細孔分布
【図3】膜乳化システム
【図4】合成膜の膜乳化で得られたシリカ粒子
【図5】SPG膜のSEM像
【図6】SPG膜の細孔分布
【図7】SPG膜の膜乳化で得られたシリカ粒子
【符号の説明】
1:分散媒
2:分散相
3:ハウジング
4:多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】SiO2を主成分とし、0.3〜50ミクロンと50ナノメートル以下の細孔を有する膜乳化用多孔質シリカ膜。
【請求項2】表面に化学修飾を施した請求項1記載の多孔質シリカ膜。
【請求項3】化学修飾が炭素鎖による化学修飾である請求項2記載の多孔質シリカ膜。
【請求項4】炭素導入量が3重量パーセント以上である請求項3記載の多孔質シリカ膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2003−181262(P2003−181262A)
【公開日】平成15年7月2日(2003.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−387390(P2001−387390)
【出願日】平成13年12月20日(2001.12.20)
【出願人】(593028861)
【出願人】(501490195)
【出願人】(501155803)株式会社 京都モノテック (7)
【Fターム(参考)】