説明

膜分離装置、膜分離装置の運転方法および膜分離装置を用いた評価方法

【課題】分離膜モジュールの膜面汚染をサブモジュールによって精度良く把握する。
【解決手段】
本発明の膜分離装置は、供給流体から少なくとも透過流体を生成する分離膜モジュール1と、分離膜モジュール1の分離膜の材料と同一の材料からなる分離膜23を備えた、少なくとも一つのサブモジュール2とを有する。サブモジュール2の分離膜23における供給流体が供給される側の表面には堆積材22が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給流体から少なくとも透過流体を得るための分離膜を用いた分離膜モジュール(以下、運転モジュールと記載することがある)と膜面評価(分離膜の表面の評価)用のサブモジュールを備えた膜分離装置、この装置の運転方法およびこの装置を用いた評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離装置は、逆浸透膜または限外濾過膜等の分離膜を有し、分離膜の膜分離作用により気体または液体等の各種流体を濾し分ける(膜分離する)ことができる。例えば、逆浸透膜装置によれば、かん水または海水を脱塩し、淡水化することや、工業用水を用いて純水または超純水を製造することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような膜分離装置では、流体中に存在する有機物、無機物、菌類等が、時間とともに分離膜の表面(以下、膜面と記載することがある)にスケールまたはバイオフィルムとして堆積することで、膜面を汚染(ファウリング)し、膜性能(分離膜の膜分離作用)を劣化させることがある。このような問題に対処するためには、分離膜の洗浄が有効である。従来は、アルカリ溶液等による化学洗浄、または運転時の方向とは逆方向に供給流体を流す逆洗浄等の物理洗浄を、経験、膜分離前後の流体データ等に基づいて行っていた。近年は、運転モジュールとは別に、運転系外に小型のサブモジュールを設置して、サブモジュールにおける膜面状態を監視することにより、運転モジュールを止めることなく運転モジュールにおける膜面状態を把握し、これに基づいて運転モジュールにおける分離膜の物理洗浄または化学洗浄を行うタイミングを決めることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、運転モジュールにおける分離膜の膜分離作用が洗浄により十分には回復しない場合等には、分離膜を交換することもある。
【0004】
しかしながら、サブモジュールにおける膜面状態を監視することによって、運転モジュールの膜面状態(特に細菌由来の膜面バイオフィルムの形成)を十分に把握することは困難であった。すなわち、サブモジュールによって、適切な洗浄および交換時期を見極めることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−253953号公報
【特許文献2】特開平10−286445号公報
【特許文献3】特表2009−524521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、分離膜モジュールと、分離膜モジュールとは別のモジュールであって分離膜の膜面状態を監視するためのモジュールであるサブモジュールを有し、分離膜モジュールの膜面汚染をサブモジュールによって精度良く把握できる膜分離装置を提供すること、分離膜モジュールの安定動作を可能にする膜分離装置の運転方法、および膜分離装置を用いた評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、供給流体から少なくとも透過流体を生成する分離膜モジュールと、前記分離膜モジュールの分離膜の材料と同一の材料からなる分離膜を備えた、少なくとも一つのサブモジュールを有する膜分離装置であって、前記サブモジュールの前記分離膜における供給流体が供給される側の表面に堆積材が設けられている、膜分離装置を提供する。
【0008】
膜分離装置には、サブモジュールからの反射光強度を測定する手段が設けられていることが好ましい。反射光強度を測定することにより、膜面堆積物(サブモジュールにおける分離膜の表面における堆積物)の厚さ、量、種類等を詳細に推定することができる。
【0009】
堆積材は、サブモジュールにおける分離膜の表面に接しており、サブモジュールにおける分離膜の厚さ方向に沿って0.1mm以上の厚さを有する凸部であることが好ましい。また、堆積材は、サブモジュールにおける分離膜の表面の全面を覆う格子状ネットであってもよい。
【0010】
また、本発明は、その別の側面から、本発明による膜分離装置の運転方法であって、サブモジュールに設置された撮像システムまたはデータ取得システムから得られた電子データを、電子手段を用いて蓄積、解析、または、送受信する、膜分離装置の運転方法を提供する。さらに、本発明は、また別の側面から、本発明による膜分離装置を用いた評価方法であって、サブモジュールの分離膜の表面における堆積材付近のファウリングと、この表面における、堆積材付近以外の部位のファウリングを比較評価する、膜分離装置を用いた評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明におけるサブモジュールには、堆積材が設けられている。このサブモジュールによれば、分離膜モジュールにおける膜汚染状態を容易に把握できる。すなわち、本発明に係る膜分離装置によれば、分離膜モジュールの適切な洗浄時期および交換時期を精度良く見極めることができる。また、サブモジュールに設置された撮像システムまたはデータ取得システムから得られた電子データは、多数の運転モジュールの膜汚染状況の把握に役立ち、運転モジュールにおける分離膜の洗浄時期および交換時期の把握に有用である。また、膜分離装置を用いて、サブモジュールの分離膜の表面における、堆積材付近とそれ以外の部位とを比較評価することは、運転モジュールの膜汚染状況の把握に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の膜分離装置の一例を示す構成図
【図2】本発明のサブモジュールの構成の一例を示す断面図
【図3】図2におけるサブモジュールの斜視透視図
【図4】本発明のサブモジュールの構成の他の例を示す断面図
【図5】反射型共焦点光学系を用いた場合の本発明の膜分離装置の測定系の一例を示す概略構成図
【図6】堆積材と膜汚染状態の確認位置の関係を示す拡大図
【図7A】本発明のサブモジュールにおける膜汚染状態を示す写真
【図7B】堆積材を省略したサブモジュールにおける膜汚染状態を示す写真
【図8】本発明のサブモジュールの分離膜の表面における1040cm-1近傍スペクトルの可視化分布図
【図9】本発明のサブモジュールにおける透過流束の経時変化、堆積材を省略したサブモジュールにおける透過流束の経時変化および運転モジュールにおける透過流束の経時変化を表したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る膜分離装置は、供給流体から少なくとも透過流体を生成する分離膜モジュールと、分離膜モジュールで用いられている分離膜の材料と同一の材料からなる分離膜を備えたサブモジュールを有する。サブモジュールの分離膜における供給流体が供給される側の表面には堆積材が設けられている。なお、以下の説明では分離膜モジュールを運転モジュールと記載することがある。また、分離膜モジュールまたはサブモジュールにおける分離膜の表面を膜面または膜表面と記載することがある。
【0014】
本発明において分離膜モジュールに供給される供給流体は特に限定されず、液体、気体、蒸気等が例示される。ただし、供給流体中に膜表面の汚染(ファウリング)の要因物質が多く、膜表面に汚染が生じやすい場合には、膜汚染状態を確認できるという効果(詳細は後述)が顕著となる。これを考慮すると、本発明は、供給流体としてかん水、海水、排水、用水等を用いる水処理に適している。膜汚染の要因物質としては、微粒子、微生物等の懸濁物質、鉄、マンガン等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ等の難溶性無機物(スケール)、および、油分、残存ポリマー等の有機物質が例示される。特に、細菌類等の微生物の堆積により生じるバイオフィルムの形成および成長は、膜面状態および流体の諸条件によって変化するため、従来は予測しにくかったことを考慮すると、バイオフィルムが形成および成長しやすい環境下では、バイオフィルムに基づく膜汚染状態を含めた膜汚染状態全般を確認できるという本発明の効果は顕著となる。
【0015】
分離膜モジュールおよびサブモジュールにおける濾過方式は限定されるものではなく、濃縮流体が生じることなくほぼ全量が透過流体となる全量濾過方式、および供給流体を透過流体と濃縮流体に分離するクロスフロー濾過方式等が例示される。ただし、分離膜モジュールの状況をサブモジュールで再現することを目的にする場合には、サブモジュールにおける濾過方式を、分離膜モジュールにおける濾過方式と同じ濾過方式とすることが好ましい。
【0016】
分離膜モジュールおよびサブモジュールにおける分離膜は、供給流体を膜分離する膜であれば限定されるものではなく、逆浸透(RO)膜、ナノフィルトレーション(NF)膜、限外濾過(UF)膜、精密濾過(MF)膜等が例示される。ただし、分離膜モジュールおよびサブモジュールにおける供給側の膜面にバイオフィルムが形成されやすい場合、つまり微生物が透過しにくい場合には、膜面汚染を確認できるという効果が顕著となる。この観点から、本発明は、平均孔径が1μm以下の分離膜、具体的にはRO膜、NF膜またはUF膜を用いる場合により適した発明であると言える。
【0017】
例えば、水処理用途では、使用可能な逆浸透膜は特に限定されず、公知の逆浸透膜を用いることができる。水処理用の逆浸透膜の素材としては、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等の各種高分子素材が例示される。また、逆浸透膜は、これらの素材を適宜積層させた複合膜であってもよい。例えば、不織布基材上にポリスルホン等の微多孔層を形成し、その微多孔層の表面にポリアミド樹脂を界面重合させて分離機能層とした複合逆浸透膜を逆浸透膜として用いてもよい。
【0018】
分離膜モジュールは、フレームアンドプレート型等の平膜型、チューブラー型等の管状型、中空糸型、スパイラル型、プリーツ型等いずれの形態のものを用いても良い(スパイラル型の分離膜モジュール(逆浸透膜モジュール)では、一般に単数または複数のモジュールが圧力容器に装填されているが、スパイラル型の分離膜モジュールとしては、圧力容器一体型の分離膜モジュールを用いても良い)。ただし、サブモジュールにおける分離膜の視認性、および堆積材の設置の容易さの観点からは、サブモジュールの形態を平膜状(平たい形態)にすることが好ましい。これを考慮すると、平膜型、スパイラル型およびプリーツ型の分離膜モジュールは、平膜状のサブモジュールによる膜汚染状態(ファウリング)等の再現性が高い点で、本発明に適した分離膜モジュールであると言える。
【0019】
サブモジュールの設置位置は、運転モジュールの供給流体、濃縮流体および透過流体のいずれかがサブモジュールに供給され得る位置であって、運転モジュールに悪影響を与えることなく分離膜の状態を監視可能な位置であれば特に限定されない。例えば、運転モジュールの膜汚染状態を把握して、洗浄時期および交換時期を決定する場合には、分離膜モジュールに供給される供給流体と同一成分、略同一条件(圧力等)の供給流体が供給される位置にサブモジュールが設置されることが好ましい。また、サブモジュールに生じたバイオフィルム等を分析する場合には、分離膜モジュールから流出する濃縮流体が供給される位置にサブモジュールが設置されることが好ましい。なお、設置されるサブモジュールの数は、単数であっても複数であってもよい。また、サブモジュールに供給される流体の量および圧力等を調整するために、バルブ(供給圧力調整弁)、加圧ポンプ等を設けてもよい。
【0020】
本発明のサブモジュールでは、平膜状の分離膜における流体供給側(供給流体が供給される側)の表面に堆積材が設けられている。本実施形態では、堆積材は分離膜に接している。堆積材は、供給流体の流れを一旦堰き止め、サブモジュール内で供給流体の流れに滞留または乱流を生じさせ得るものであればよく、膜面の一部または全面に設けられるものである。堆積材は、分離膜表面に対して凸部として形成されていればよく、凸部の形状は限定されない。例えば、運転モジュールの膜面状態を反映させるためには、この凸部が格子状ネットにより形成され、格子状ネットが膜面の全面を覆っていることが好ましい。これにより、格子状ネットの格子内における膜面状態を、当該格子状ネットの壁材からの距離の関数として把握することとともに、膜面状態を広範囲にわたって把握することが可能となる。さらには、堆積材として運転モジュールで用いられている供給側流路材と同一の形状の流路材を用いると(堆積材の形状を、供給側流路材の形状と同一とすると)、より正確に膜面状態を把握できる。また、この場合、事前にサブモジュールで洗浄実験を行えば、容易に運転モジュールにおける洗浄効果の把握できる。つまり、このような堆積材を設けることで、運転モジュールと同程度のファウリング状態(運転モジュールの分離膜における流体供給側の表面のファウリング(膜汚染)の態様)を再現できる。
【0021】
堆積材を膜面に設置する方法は特に限定されず、膜面に接着する方法、およびサブモジュールの型枠で2箇所以上挟持して固定する方法が挙げられる。特に、堆積材を膜面の全面に設ける方法としては、分離膜とほぼ同じ大きさの堆積材を分離膜とともに型枠で固定することが好ましい。
【0022】
堆積材の材料は、樹脂、金属等、特に限定されるものではない。ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等の樹脂、天然高分子、ゴムが例示される。樹脂製、特にポリプロピレン製の堆積材は、流体中で腐食、劣化または変形しにくいため好ましい。堆積材の形状も、前記のようにサブモジュールへの供給流体に適切な乱流または滞留を生じさせるものである限り、特に限定されるものではない。格子状のネットは、簡便な堆積材である。格子状のネットは、分離膜の表面の全面を覆うように配置することができる。特に、堆積材の材料として、分離膜モジュールに用いている供給側流路材の材料と同じ材料を用いると、サブモジュールによる、分離膜モジュールにおける供給流体の流れの再現性が高まるため好ましい。堆積材の寸法は、特に限定されるものではない。堆積材のサブモジュールにおける分離膜の厚さ方向に沿った厚さは、例えば0.1mm以上であり、例えば5mm以下程度であり、0.3mm以上が好ましく、2mm以下が好ましい。この厚さが大きすぎると流路の遮蔽効果が高くなりすぎて、分離膜において流体の流れが到達し易い部分と流体の流れが到達し難い部分が生じやすくなり、膜汚染が膜面の一部に偏って発生する場合があるので、堆積材を設けた場合と堆積材を設けない場合との間の膜面状態の差異が大きくなるため好ましくない。また小さすぎると、サブモジュールにおける流路での乱流および滞留効果が不十分となり、運転モジュールとサブモジュールとの間の膜面状態の差異が大きくなるため好ましくない。
【0023】
本発明におけるサブモジュールは、供給流体の流入口、透過流体の流出口、分離膜、分離膜上の堆積材、およびこれらを収容する容器を備えていればよい。容器は、圧力に耐え得る密閉空間を構成するものが好ましい。透過流体の流出口と分離膜の間には透過側流路材を設けてもよい。ただし、クロスフロー方式のサブモジュールを構成する場合は、濃縮流体の流出口を要する。また、サブモジュールは流体の供給圧力に耐えうる耐圧構造を有することが好ましい。この観点からは、サブモジュールにおける各構成部材間およびモジュールと他の器具とのつなぎ部分に適宜ゴム製Oリング等を用いて、サブモジュール内の流路を密閉することが好ましい。生じ得るサブモジュール内の圧力は、流体および分離膜にもよるが、例えば0.1〜10MPa程度であり、サブモジュールを海水淡水化等に用いる場合には1.5〜10MPa程度である。すなわち、サブモジュールの構造を、10MPa程度の圧力に耐え得る構造とすることが好ましい。
【0024】
本発明のサブモジュールが水処理システム等に適用される際の効果を把握するためには、サブモジュールにおける膜汚染状態の評価が可能な評価手段が設けられていることが好ましい。評価手段としては、例えば、目視または顕微鏡による直接観察、画像撮影、画像以外のデータ取得といった評価が可能な評価手段が挙げられる。特に本発明では、サブモジュールの膜面における反射光強度を測定する評価手段を用いることが好ましい。反射強度を測定する評価手段を用いることで染色することなく細菌類により形成されるバイオフィルムを評価することが容易となるため、評価の精度を高めることができる。このような評価手段としては、反射型共焦点光学系の装置が例示される。反射型共焦点光学系の装置は、入射光源、ハーフミラー等における反射条件、および、受光素子等の受光部分の検出機器を調整することで、各種条件のもとで簡便に利用できる。
【0025】
目視または顕微鏡によりサブモジュールにおける膜汚染状態を直接観察する場合の観察方法としては、サブモジュールへの供給流体を一時的に停止させてバッチ方式で観察する方法、および容器全体または一部を透明材料で構成して、インラインで観察する方法が例示される。両方の場合において、サブモジュール内に染色剤等の視覚化剤を注入して膜汚染状態を視認可能な状態にすることもできる。インラインで観察する方法によれば、運転モジュールの膜汚染状態を、サブモジュールの膜汚染状態の観察により即時的に把握できる。サブモジュールの膜汚染状態の観察に好適な顕微鏡としては、前記の反射型共焦点光学顕微鏡等の共焦点光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡が例示される。
【0026】
染色剤および染色剤の添加方法は、市販(公知)の物質および方法に限定されない。確認する対象(染色対象)に応じて、用いる染色剤および採用する検出方法を適宜設定すればよい。有機物に対する染色剤としては、トルイジンブルー、アルシアンブルー(何れも和光純薬工業製)が例示される。無機物に対する染色剤としては、その個々の物質に吸着性を示す染料等を用いればよい。細菌類に対する染色剤としては、塩化2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole))、ヨウ化プロピジウム(PI(propidium iodide))等が例示される。このような細菌類に対しては、染色剤に代えて、酵素基質等を添加することで発色または発光させることもでき、これにより菌種を特定することも可能である。また、染色剤による有機物に由来する膜汚染評価と併せて、分光測色計または分光光度計等を用いたサブモジュールの膜面からの反射光の測定(詳細は後述)による膜汚染全体の評価を行えば、膜汚染の原因となる堆積物における、有機物に由来する成分の分布および割合を把握できる。
【0027】
染色剤は、例えばポンプによって、染色剤の貯留槽から供給流体の流入口に供給される。染色剤を注入するタイミングは任意であり、常時または間欠的に、さらには、異常が生じた場合にだけ添加する方法を用いてもよい。
【0028】
インラインでサブモジュールにおける分離膜を観察する場合には、容器の一部を透明材料で構成すること、例えば、容器の本体(サブモジュール外壁)に、透明材料で構成される部材(透明窓)を取り付けて構成することも考えられるが、この場合は、サブモジュールにおける分離膜の供給流体が供給される側の表面に面する位置に透明窓を設ければよい。
【0029】
容器の一部を透明材料で構成する場合の容器の具体的な構成は特に限定されないが、サブモジュール外壁に、透明窓を着脱可能な態様で取り付けることが考えられる。このような透明窓を設けると、インラインでサブモジュールにおける膜面を観察することができるとともに、顕微鏡を用いた観察においては、透明窓を取り外し、顕微鏡に浸水レンズを取り付けた状態で、サブモジュールにおける膜面を観察することもできる。この態様の顕微鏡では、透明窓に由来するレンズの収差補正を省略できる。
【0030】
透明窓をサブモジュール外壁に取り付ける方式としては、ねじ込み方式、スライド方式、嵌め込み方式等が挙げられる。ねじ込み方式を採用する場合は、例えば、サブモジュール外壁にめねじ部を設け、透明窓におねじ部を形成すればよい。また、めねじ部とおねじ部とが螺合した状態において、サブモジュール外壁と透明窓のおねじ部とは、サブモジュール外壁の内側において面一であることが好ましい。スライド方式を採用する場合は、例えば、サブモジュール外壁に透明窓を挿入可能な開口部(例えば、分離膜に沿う方向に開口する開口部)を設け、この開口部に透明窓を挿入すればよい。また、サブモジュールに、透明窓を挿入するための動力を提供するモーターを設けてもよい。嵌め込み方式を採用する場合は、例えば、サブモジュール外壁に透明窓を嵌合可能な開口部(例えば、分離膜に垂直な方向に開口する開口部)を設け、この開口部に透明窓を嵌め込めばよい。
【0031】
また、サブモジュールは、複数の透明窓を有していてもよい。例えば、サブモジュール外壁における供給流体の流入口側と供給流体の流入口とは反対側とに透明窓を設けることができる。供給流体の流入口側にはバイオフィルムが堆積しやすく、供給流体の流入口とは反対側にはスケールが堆積しやすい傾向がある。すなわち、このような構成によれば、供給流体の流入口側に設けられた透明窓を介してバイオフィルムを良好に観察でき、供給流体の流入口とは反対側に設けられた透明窓を介してスケールを良好に観察できる。
【0032】
画像撮影により膜面評価を行う場合には、例えば、サブモジュールの一部または全部を透明材料で構成するとともに、評価手段として市販のカメラまたはビデオカメラ等の撮像システムを用いればよい。撮像システムは移動型であっても常時設置型であってもよい。
【0033】
本発明において撮像システムを用いる場合には、反射型共焦点光学顕微鏡等の反射型共焦点光学系の装置を撮像システムに接続することが好ましい。この構成によれば、分離膜モジュールへの染色剤の注入を省略できるため、サブモジュール内の分離膜を交換することなく継続的に膜汚染状態を観察することが可能となる。また、この構成によれば、バイオフィルムを良好に検出できる(なお、従来は、染色剤を用いずにバイオフィルムを検出することが困難であった)。
【0034】
撮像システムとしては、例えば、各種顕微鏡に録画装置および/または即時判定可能な判定装置を組み合わせたシステムを好ましく用いることができる。特に本発明においてバイオフィルムを観察する場合には、特表2005−525551号公報に記載のように、レーザー走査型共焦点顕微鏡等の共焦点画像システムによりバイオフィルムの検出が可能となる。
【0035】
さらに、評価手段を構成し、画像以外のデータ取得を行う場合のデータ取得システムとしては、例えば超音波、赤外線、または可視光線の反射を利用して、反射光強度を測定し、堆積物の内容または量等、膜面状態を計測するシステムが挙げられる。例えば、白色光を入射して各波長における反射光強度を測定、比較することで堆積物の種類を特定または推定するシステム、および、レーザー等の単色光を入射して、その反射強度を測定することで堆積物の有無または厚さを測定するシステムが挙げられる。このようなシステムを用いて、膜面を走査測定することで膜面の堆積情報が得られる。この場合、データ取得システムにより得られたデータの異常値を判定して知らせる判定装置をデータ取得システムと連動させると膜面の異常の有無の判定を自動化することができるため好ましい。なお、判定システムは、撮像システムと連動させることもできる。
【0036】
本発明を有効に活用するためには、評価手段による、サブモジュール内の膜面における評価位置を適切に設定することが好ましい。堆積材を用いた場合には、膜面における堆積材の厚さと同程度の周囲内(例えば、厚さ1mmの堆積材の場合、周囲1mm程度)であって、特に堆積材における流体供給側とは反対側にバイオフィルムまたはスケール等が堆積しやすい。すなわち、膜面における堆積材の厚さと同程度の周囲内と膜面における他の部位を比較評価する方法によって膜面の汚染および劣化を早期に判断できる。換言すると、サブモジュールの分離膜における供給流体が供給される側の表面における堆積材付近(例えば、堆積材から堆積材の高さと等しい幅以内の領域)のファウリングと、この表面における、堆積材付近以外の部位のファウリングを比較すれば、分離膜モジュールの分離膜の汚染および劣化を早期に判断できると言える。
【0037】
より詳細には、サブモジュールの分離膜における供給流体が供給される側の表面を、堆積材によって覆われている領域である被覆領域と、被覆領域を取り囲み、被覆領域に隣接する隣接領域とに区画し、隣接領域を、被覆領域よりも流体供給側の流体供給側隣接領域と、被覆領域からみて流体供給側とは反対側の反対側隣接領域とにさらに区画したとき、流体供給側隣接領域に堆積した堆積物の単位面積当たりの堆積量と反対側隣接領域に堆積した堆積物の単位面積当たりの堆積量とを比較すれば、分離膜モジュールの分離膜の汚染および劣化を早期に判断できると言える。さらに、流体供給側隣接領域に堆積した堆積物の単位面積当たりの堆積量と、反対側隣接領域のうち、堆積材から堆積材の高さと同じ距離以内の領域である反対側近接領域に堆積した堆積物の単位面積当たりの堆積量とを比較することが好ましいと言える。また、膜分離装置は、このような比較が可能な分布評価システムを備えていることが好ましい。
【0038】
別の観点からは、上記のような分布評価システムを備える膜分離装置を用いた評価方法であって、分離膜モジュールにおける分離膜およびサブモジュールにおける分離膜により流体を膜分離する膜分離工程と、分布評価システムにより、サブモジュールの分離膜におけるファウリングを評価する評価工程と、を備える、膜分離装置を用いた評価方法により、分離膜モジュールの分離膜の汚染および劣化を早期に判断できると言える。
【0039】
また、サブモジュールに設置された撮像システムまたはデータ取得システムから得られる電子データが、コンピュータまたは送受信装置等の電子手段を経由して、蓄積、解析、または所定の管理場所へ送受信されてもよい。これにより、データの蓄積が容易になるとともに、リアルタイムでのより適切且つ正確な判断が可能となる。
【0040】
例えば、膜分離装置が、電子データを蓄積する蓄積装置を備えていれば、電子データを容易に蓄積でき、電子データを解析する解析装置を備えていれば、リアルタイムで膜汚染状態の解析ができ、電子データを送受信する送受信装置を備えていれば、外部装置により膜汚染状態の評価ができる。すなわち、膜分離装置は、サブモジュールに設置された撮像システムまたはデータ取得システムから得られた電子データを作成する電子データ作成装置と、電子データを蓄積する蓄積装置、電子データを解析する解析装置、電子データを送受信する送受信装置および電子データを送受信する送受信装置から選ばれる少なくとも1種の装置を備えていることが好ましい。なお、解析装置に分布評価システムが搭載されていてもよい。
【0041】
また、別の観点からは、上記の装置を備える膜分離装置の運転方法であって、分離膜モジュールにおける分離膜およびサブモジュールにおける分離膜により流体を膜分離する膜分離工程と、撮像システムまたはデータ取得システムによりサブモジュールにおける分離膜の供給流体が供給される側の表面の膜汚染状態(ファウリング)に関する電子データを作成するデータ作成工程と、を備え、蓄積装置により電子データを蓄積する蓄積工程、解析装置により電子データを解析する解析工程、および送受信装置により電子データを送受信する送受信工程から選ばれる少なくとも1種の工程をさらに備える、膜分離装置の運転方法を実施することが好ましい。
【0042】
以下に、分離膜モジュールとして逆浸透膜モジュールを用いた実施例について、図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例では、膜分離装置を図1のように構成した。この膜分離装置では、供給水Fの一部(大部分)は流路により逆浸透膜モジュール(分離膜モジュール)1に導かれ、膜分離により透過水T1と濃縮水C1とに分離される。供給水Fの別の一部(小部分)はサブモジュール2に導かれ、膜分離により透過水T2と濃縮水C2とに分離される。また、膜分離装置における流路には、供給水Fの流れを生じさせるための加圧ポンプ6およびサブモジュール2に導かれる供給水Fの流れ(量、圧力等)を調整するバルブ(供給圧力調整弁)5を設けた。
【0044】
逆浸透膜モジュール1は、クロスフロー濾過方式のモジュールであり、スパイラル型RO膜エレメントであるES20(日東電工株式会社製)を、圧力容器内に7本直列に装填することにより構成した。なお、ES20における逆浸透膜は、PET不織布基材上にポリスルホン微多孔層を形成し、その表面でm−フェニレンジアミンとトリメシン酸クロライドを主材料とする溶液で界面重合させて得られた分離機能層を有する複合逆浸透膜である。この複合逆浸透膜は、有孔中空管の周囲に透過側流路材と供給側流路材を積層した状態で巻回され、端部材および外装材により固定されることにより、スパイラル型RO膜エレメントを構成している。
【0045】
供給水Fとしては、逆浸透膜で処理できる程度まで前処理が施されたものを用いた。具体的には、食品加工工場で用いられた、使用済みの排水用フィルタを純水タンク内に投入し、1週間常温で培養した実験排水を用いた。この実験排水の内容微生物は総菌数:5×104cell/ml、生菌数:3×104cell/mlであった。この実験排水を供給水Fとし、加圧ポンプ6で1.5MPaの圧力を加えて逆浸透膜モジュール1およびサブモジュール2に供給した。また、開閉バルブ5によりサブモジュールへの実験排水の供給をコントロールした。
【0046】
サブモジュール2としては、図2および図3に示すモジュールを作製した(なお、図面の見やすさの便宜のため、図3では透過側流路材24を省略している)。サブモジュール外壁21は、アクリル樹脂およびシリコーンゴムからなるOリングにより構成した。堆積材22、逆浸透膜23および透過側流路材24は、積層された状態でサブモジュール外壁21内に収容した。逆浸透膜23には逆浸透膜モジュール1における複合逆浸透膜と同一の膜を用い、堆積材22側が分離機能層となるように設置した。透過側流路材24には、逆浸透膜モジュール1における透過側流路材と同一の流路材を用いた。堆積材22には、逆浸透膜モジュールに用いた供給側流路材を構成するポリプロピレン製の格子状ネット(交点角度90°、交点間長さ4mm、厚さ0.9mm)と同一のネットを用いた。また、サブモジュール外壁21の上面に透明窓25を設けた。また、透明窓25を介して膜汚染を観察できる位置に、反射型共焦点光学顕微鏡(カールツァイス社製、LSM700)にデジタルビデオカメラを接続した撮像システム3を設けた。
【0047】
図5に、撮像システム3をサブモジュール2に接続して構成した、本実施例における光学系(反射型共焦点光学系)を示す。光源37から照射された光は、ハーフミラー35でサブモジュール2の方向に反射し、対物レンズ36を経て逆浸透膜23の表面(正確には、逆浸透膜23上の堆積物)でピントが合うように結像する。逆浸透膜23の表面からの反射像は、対物レンズ36、ハーフミラー35を通過し、結像レンズ34からピンホールパネル33を経て受光素子32に到達する。これにより、堆積物の画像データが得られる。本実施例では、この画像データを、受光素子32に接続した画像処理装置31によって解析した。
【0048】
より具体的には、撮像システム3によって、図6に示したA、B、Cの3点における堆積物を観察した。位置Aは供給水流入口に近い側で、最も近い堆積材から0.5mmの位置である(格子状ネットの交点から実験排水が流れる方向に0.5mmの位置である)。位置Cは逆に供給水流入口に遠い側で最も近い堆積材から0.5mmの位置である(格子状ネットの交点から実験排水が流れる方向とは反対方向に0.5mmの位置である)。位置Bはいずれの堆積材からも遠い位置である。また、図6中の矢印は実験排水が流れる方向を示す。膜分離装置を運転してから1週間経過後の逆浸透膜表面および堆積物を撮影して得た写真を図7Aに示す。図7Aに示す通り、位置Aでは、バイオフィルムと思われる堆積物が多く見られ、位置Bおよび位置Cでは堆積物が少なかった。また、堆積材を省略したサブモジュールを用いて同様の実験を行い、同様に撮影した。撮影した写真を図7Bに示す。図7Bでは、膜面全面に均一にバイオフィルムが堆積していることがわかる。
【0049】
次に、FT−IR測定が可能なFT−IR測定器(Varian社製、FTS−7000S)を用いて、膜分離装置を運転してから2週間経過後の逆浸透膜23上の堆積物を観察した。具体的には、逆浸透膜23上の堆積物のFT−IR測定により得られた1040cm-1近傍スペクトルを可視化画像処理した。図8に、堆積材周辺の分布を拡大した画像(2.5mm四方)を示す。FT−IR測定における1040cm-1近傍スペクトルは多糖類に由来するものである。つまり、図8では、細菌由来のファウリング付着量が色(濃淡)の分布として示されている。これによると細菌由来のファウリングは、堆積材の壁材からみて流体供給側とは逆側に分布していることがわかる。なお、図8中の矢印は、実験排水が流れる方向を示す。
【0050】
また、堆積材23を有するサブモジュール2、堆積材23を省略したサブモジュール、および逆浸透膜モジュール1の各々について、透過流束(Flux)保持率(時刻tにおける透過流束/初期(t=0)における透過流束×100)を測定した。図9は、各Flux保持率の時間の変数を表すグラフを示すグラフである(横軸が経過時間(h)、縦軸がFlux保持率(%)である)。図9から、堆積材23を省略したサブモジュールのFlux保持率S2の下落率(Flux保持率の減少量/経過時間)は、逆浸透膜モジュール1のFlux保持率Mの下落率の1.8倍以上であり、大きかった。一方、堆積材23を有するサブモジュール2のFlux保持率S1の下落率は逆浸透膜モジュール1のFlux保持率Mの下落率の1.1倍以内であった。この結果から、本発明のサブモジュールによる、運転モジュールの膜面再現性が高いことが推測される。
【0051】
なお、本実施例の結果を踏まえると、図2および図3に示すクロスフロー方式のサブモジュール2に代えて、図4に示すような、断続的に設けられた堆積材22を有する全量濾過方式のサブモジュール2を用いた場合であっても、堆積材22付近においてバイオフィルム等の堆積物の堆積が促進されることが予想される。
【0052】
また、図1に示すように、本実施例の膜分離装置は、染色剤タンク4を備え、サブモジュールへの供給水Fの供給流路に染色剤タンク4から延びる流路が接続されており、この流路の開閉バルブ5を開閉することで、任意で供給水Fとともに染色剤を供給することができるように構成されている。本実施例の結果を踏まえると、染色剤を用いた場合であっても、本実施例と同様に堆積物(ファウリング)を評価できると言える。また、染色剤を用いた場合は、染色剤に応じた染色対象の評価ができるため、当該染色対象を好適に評価できると言える。
【符号の説明】
【0053】
1 逆浸透膜モジュール
2 サブモジュール
3 撮像システム
4 染色剤タンク
5 開閉バルブ
6 加圧ポンプ
21 サブモジュール外壁
22 堆積材
23 逆浸透膜
24 透過側流路材
25 透明窓
31 画像処理装置
32 受光素子
33 ピンホールパネル
34 結像レンズ
35 ハーフミラー
36 対物レンズ
37 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給流体から少なくとも透過流体を生成する分離膜モジュールと、前記分離膜モジュールの分離膜の材料と同一の材料からなる分離膜を備えた、少なくとも一つのサブモジュールとを有する膜分離装置であって、
前記サブモジュールの前記分離膜における供給流体が供給される側の表面に堆積材が設けられている、膜分離装置。
【請求項2】
前記サブモジュールからの反射光強度を測定する手段が設けられている、請求項1記載の膜分離装置。
【請求項3】
前記堆積材が、前記表面に接しており、前記サブモジュールにおける前記分離膜の厚さ方向に沿って0.1mm以上の厚さを有する凸部である、請求項1または2記載の膜分離装置。
【請求項4】
前記堆積材が、前記表面の全面を覆う格子状ネットである、請求項1〜3のいずれかに記載の膜分離装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の膜分離装置の運転方法であって、
前記サブモジュールに設置された撮像システムまたはデータ取得システムから得られた電子データを、電子手段を用いて蓄積、解析、または、送受信する、膜分離装置の運転方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の膜分離装置を用いた評価方法であって、
前記サブモジュールの前記表面における前記堆積材付近のファウリングと、前記表面における、前記堆積材付近以外の部位のファウリングを比較評価する、膜分離装置を用いた評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−106237(P2012−106237A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232289(P2011−232289)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】