説明

膜分離装置における膜評価方法

【課題】 冬季などの温度による水質の変動に起因してフラックスが低下しても普通に運転可能な膜分離装置における膜評価方法を提供する。
【解決手段】 コロイダルシリカを添加した原水を用いて濾過性能を測定し、この測定結果に基づき使用する分離膜を評価する。前記コロイダルシリカは原水に対し5〜20mg/L添加するのが好ましく、特に前記コロイダルシリカを原水中のコロイダルシリカの総量が10〜20mg/Lとなるように添加するのが好ましい。このようにあらかじめ原水中にコロイダルシリカを添加して膜の評価試験を行うことで、気温の変動によるフラックスの低下に対応した性能で膜分離装置を設計することになるので、常時膜分離装置が所定の機能を発揮しつづけることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離装置における膜評価方法に関し、特に精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜等の膜分離装置の最適な評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離装置は、河川水や湖沼水などの表流水に凝集沈殿処理等の浄水処理を施して得られる工業用水や上水中の懸濁物や溶存物を分離して高度な浄水を得る場合や、あるいは工場や家庭、下水処理場から排出される排水中の懸濁物や溶存物を分離して再利用を図る浄化設備等の分野において、広く用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したような膜分離装置においては、河川水や湖沼水などに凝集剤を添加して、凝集・沈殿・濾過等の固液分離処理を施して得られる分離水を原水として処理を行うが、この際原水を用いてフラックス等の膜性能を評価し、この評価結果に基づいて膜分離装置の設計を行っている。
【0004】
この際、膜分離装置の後段では水を流す場合に加温することが多いことから、あらかじめ加温した水を通すことが多いため、25℃の水温の原水のフラックスに基づいて膜を評価・選定していた。しかしながら、原水の水質は水温により変動するものであり、水温が下がる冬季にはフラックスが低下する。さらに、膜分離装置によっては加温しない水を透過する場合もある。
【0005】
かかる場合に25℃の原水のフラックスに基づいて膜を評価し、膜分離装置の性能として設計していたのでは、冬季には透過水量が減少し所定の性能を発揮できなくなり、所望量の原水の処理ができなくなり工業用水などの不足を招くおそれがあり、また膜分離装置の運転にも支障をきたしかねないという問題点があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、冬季などの温度による水質の変動に起因してフラックスが低下しても普通に運転可能な膜分離装置における膜評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1に本発明は、分離膜により原水中の懸濁物や溶存物を分離する膜分離装置における膜評価方法であって、コロイダルシリカを添加した原水を用いて濾過性能を測定し、この測定結果に基づき使用する分離膜を評価する膜分離装置における膜評価方法を提供する(請求項1)。原水中のコロイダルシリカは温度が低下すると増加する上に凝集しにくいので固液分離により除去しにくいため、原水温度が高い状態で膜の評価を行った場合には、冬季などの水温の低下に伴い原水中のコロイダルシリカの量が増加すると、フラックスが低下し膜分離装置が所定の機能を発揮できなくなることから、あらかじめ原水中にコロイダルシリカを添加して膜の評価試験を行えば、気温の変動によるフラックスの低下に対応した性能で膜分離装置を設計することになるので、常時膜分離装置が所定の機能を発揮しつづけることができる。ここで、本発明において、原水に添加するコロイダルシリカは、膜の濾過性能を評価する基準となるものである。
【0008】
また、第2に本発明は、前記コロイダルシリカを5〜20mg/L添加する膜分離装置における膜評価方法を提供する(請求項2)。これにより低温での原水中のコロイダルシリカの含有量に対応して膜分離装置を評価することができる。
【0009】
第3に本発明は、前記コロイダルシリカを原水中のコロイダルシリカの総量が10〜20mg/Lとなるように添加する膜分離装置における膜評価方法を提供する(請求項3)。これにより低温での原水中のコロイダルシリカの含有量に即して膜分離装置を評価することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の膜分離装置における膜評価方法によれば、低い水温での運転を想定して、あらかじめ原水に濾過性能の評価基準となるコロイダルシリカを添加した状態でフラックスを測定し、これに基づき膜を評価して膜分離装置の性能を設定しているので、気温の変動により設計時のフラックスを下回ることがなく、常に良好な状態で膜分離装置を運転することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の膜分離装置における膜評価方法の一実施形態について詳細に説明する。図1は本実施形態の膜評価方法で評価する平膜の一例を示す概略図であり、膜シート1は、ポリプロピレンコーティング処理を施したポリスルフォン製の透過性支持層2と濾過を行うポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の孔径0.2μmのスキン層4とをポリプロピレン製の不織布層3を介して接合してなり、この膜シート1をスキン層4側で対向させて内側にスペーサ(流路材)6を配置した状態でスキン層4の端縁に接着剤層5を形成して固化接着して袋状に形成してなる。そして、内面側に原水Wを供給してスキン層4を透過させ、処理水W1を得ることで処理を行う。この平膜の初期性能は25℃のRO処理水で80mL/minである。
【0012】
本実施形態の膜評価方法は、原水にコロイダルシリカを所定量添加し、当該原水を膜分離装置に導入して濾過性能を測定することにより行う。ここで、原水に添加するコロイダルシリカは、膜の濾過性能の評価基準となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、スノーテックス20(商品名,日産化学工業社製)等を用いることができる。コロイダルシリカの添加量は、5〜20mg/Lであることが好ましく、原水中のコロイダルシリカの総量が10〜20mg/Lとなるように添加するのが好ましい。
【0013】
上述したような膜シート1において、まず凝集剤(PAC)60mg/Lと、スライム抑制のために次亜塩素酸ソーダ(12%濃度)35mg/Lとを添加し、凝集沈殿処理を行った分離水を工業用水としての原水とした。この原水のpHは6.2で25℃におけるコロイダルシリカ濃度は5mg/Lであった。このような原水の運転開始から6時間経過後までのフラックスの推移を計測した。結果を図2に実線で示す。
【0014】
図2から明らかなように本実施形態の平膜においては、コロイダルシリカ濃度5mg/Lで25℃の水温では、約35mL/minの透過水量をほぼ維持して推移していくことがわかる。従来は、このように高い水温でのフラックスに基づき、この平膜のフラックスを35mL/minとして膜分離装置を設計していた。しかしながら、このような設計では冬季など水温が低下すると、フラックスが低下し設計どおりの性能を発揮できないという不都合を生じる一因となっていた。そこで、本発明では水温の低下に伴うフラックスの低下は、溶解度の低下によりコロイダルシリカの濃度が増加することによるものであることから、これを利用して水温の低下に伴うフラックスの低下に対応した膜分離装置の評価を行うこととした。
【0015】
すなわち、原水に対して濾過性能の評価基準となるコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス20,日産化学工業社製)15mg/Lを添加してコロイダルシリカを合計で20mg/Lとしたものを用いて、同じ条件で運転開始から6時間経過後までのフラックスの推移を計測した。結果を図2に破線で示す。この結果からコロイダルシリカ濃度20mg/Lの場合には、フラックス(透過水量)は約35mL/minのから約15mL/minへと漸減していくことがわかる。そこで、本実施形態においては、この平膜のフラックスを15mL/minと評価して膜分離装置の性能を設定することにより、例え水温が低下してフラックスが低下したとしても膜分離装置を設定された性能に基づいて運転することが可能となる。
【0016】
ただし、前記コロイダルシリカの添加量は、あまり多すぎても過度にフラックスを低いものとして膜分離装置を評価してしまい現実的でないことから、低温での原水中のコロイダルシリカの含有量に対応させるために5〜20mg/L添加するのが好ましい。具体的に前記コロイダルシリカを原水中のコロイダルシリカの総量が10〜20mg/Lとなるように添加して膜分離装置における膜を評価すればよい。
【0017】
以上本発明について前記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は平膜に限らず、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透膜など種々の膜を用いた膜分離装置に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の膜分離装置における膜評価方法によれば、気温の変動によるフラックスの低下に対応した性能で膜分離装置を設計することになるので、常時膜分離装置が設計値以上の機能を発揮しつづけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の膜分離装置における膜評価方法を適用可能な平膜を構成を示す概略図である。
【図2】コロイダルシリカ濃度と透過量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1…膜シート
2…透過性支持層
3…不織布層
4…スキン層
5…接着剤層
6…スペーサ(流路材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜により原水中の懸濁物や溶存物を分離する膜分離装置における膜評価方法であって、コロイダルシリカを添加した原水を用いて濾過性能を測定し、この測定結果に基づき使用する分離膜を評価することを特徴とする膜分離装置における膜評価方法。
【請求項2】
前記コロイダルシリカを5〜20mg/L添加することを特徴とする請求項1に記載の膜分離装置における膜評価方法。
【請求項3】
前記コロイダルシリカを原水中のコロイダルシリカの総量が10〜20mg/Lとなるように添加することを特徴とする請求項1に記載の膜分離装置における膜評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−255673(P2006−255673A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80514(P2005−80514)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】