説明

膜形成組成物およびそれを用いた膜

【課題】本発明の目的は、各種有機媒体への分散性がよく、基材への密着性およびガスバリア性に優れた膜形成組成物を提供することである。
【解決手段】層状無機化合物とカチオン性高分子との複合体および有機媒体を含む膜形成組成物を用いる。このような膜形成組成物は、層状無機化合物が高分子により有機化され、有機媒体に分散しているため、各種基材へ、層状無機化合物を主体とする密着性のよい膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状無機化合物とカチオン性高分子との複合体および有機媒体を含む膜形成組成物およびそれを用いた膜に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物に代表される膨潤性層状無機化合物から得られる無機膜は、水素も通さない高いガスバリア性を有することが知られている。よって、この層状無機化合物を基材表面に塗布してコーティング層を形成すれば基材に高いガスバリア性を付与できると考えられる。しかし、層状無機化合物だけからなる膜は、プラスチックなどの基材表面と密着性が悪い、耐水性がない、そして脆いため耐久性に劣るという問題がある。
【0003】
こうした層状無機化合物だけからなる無機膜の問題点を解決するため、層状無機化合物の層間に4級アンモニウム塩のような有機カチオンを挿入して有機化したり、あるいは重合性モノマーを挿入して有機化処理後重合することが行われている。前者では、有機化層状無機化合物を分散液とすることができるため、それを用いて層状無機化合物主体のコーティング層形成が可能である。他方、後者は生成物が高分子コンポジットとなるため基材へのコーティング層形成に用いるのには適していない。
【0004】
層状無機化合物の有機化処理に主に用いられているテトラアルキルアンモニウム塩は、プラスチックなどの基材へ親和性がないため、その分散液から形成されるコーティング層はプラスチックなどの基材への密着性に劣るという問題がある。
【0005】
こうしたテトラアルキルアンモニウム塩に対して、カチオン性基を有する高分子を用いた層状無機化合物の有機化処理が提案されている(例えば、特許文献1)。こうした高分子により有機化された層状無機化合物であれば、その分散液から形成されるコーティングの基材密着性は良好と考えられる。しかし、特許文献1に「精製した固形物を容易に水に再分散させて粘土ナノコンポジット分散物を生じることができる」、および、「本ナノコンポジット分散物の添加によって、被覆剤又はポリマー薄膜の引っかき抵抗性又は水蒸気透過性が有利な影響を受けるのが代表的である」と記載されているように、上記方法では、親水性の高い有機化層状無機化合物が得られると考えられ、この方法で得られるコーティング層もプラスチックなどの基材への密着性に劣る。
【0006】
また、テトラアルキルアンモニウム塩処理層状無機化合物に高分子化合物を添加する技術が提案されている(例えば、特許文献2)。しかし、この技術は層状無機化合物を含む自立膜の作製が目的であり、他基材への複合は接着剤などの利用が示唆されていることからも、単独ではプラスチックなどの基材への密着性に劣るという問題があると考えられる。
【0007】
以上のように、従来の技術では、有機化層状無機化合物を用いて層状無機化合物を主体とする基材密着性のよい膜を形成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−521439号公報
【特許文献2】特開2007−277078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、各種有機媒体への分散性がよく、基材への密着性に優れる膜形成組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、カチオン性基を有する高分子により有機化した層状無機化合物が各種有機媒体によく分散すること、この有機化層状無機化合物が他の高分子とも相溶性がよいこと、この分散液から作製される膜形成組成物から形成された膜が各種プラスチック、金属、セラミックなどへの密着性が良いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の膜形成組成物は、層状無機化合物とカチオン性高分子との複合体および有機媒体を含む。
好ましい実施形態においては、上記層状無機化合物の長径が10nm〜50μmである。
好ましい実施形態においては、上記層状無機化合物の陽イオン交換容量が30〜200ミリモル/100gである。
好ましい実施形態においては、上記カチオン性高分子が、テトラアルキルアンモニウム、N−アルキルピリジニウム、1,3−ジアルキルイミダゾリウム、およびN,N−ジアルキルピロリジニウムからなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性基を高分子の片側末端および/または側鎖に有する。
好ましい実施形態においては、上記複合体が、上記有機媒体に対して膨潤性または分散性を有する。
好ましい実施形態においては、前記複合体1g中のカチオン性高分子に由来するカチオン量と層状無機化合物の陽イオン交換容量との比が0.2〜1.5である。
好ましい実施形態においては、上記有機媒体が、親水性溶媒、疎水性溶媒、および重合性モノマーからなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明の別の実施形態においては、膜が提供される。この膜は、上記膜形成組成物を基材に塗布することにより形成される。
好ましい実施形態においては、上記膜は、熱、光、電子線、および放射線からなる群より選択される少なくとも1種の手段により架橋される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の膜形成組成物は、基材への密着性に優れ、層状無機化合物がカチオン性高分子により有機化され、有機媒体に分散しているため、各種基材へ、層状無機化合物を主体とする密着性のよい膜を形成できるという効果を奏する。
【0013】
本発明の膜は、層状無機化合物を主体とするため、基材へガスバリア性などの層状無機化合物に由来する機能を付与することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
<層状無機化合物>
本発明で用いられる層状無機化合物は、主に粘土鉱物である。具体的には、層状無機化合物は、層状構造をもつケイ酸塩鉱物等で、多数のシート(例えば、ケイ酸で構成される四面体シート、AlやMg等を含む八面体シート等)が積層された層状構造を有する物質である。このような層状無機化合物としては、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合せてもよい。また、上記層状無機化合物は、天然物でも合成物であってもよい。
【0016】
上記層状無機化合物の長径は、好ましくは10nm〜50μmであり、より好ましくは10nm〜10μmであり、さらに好ましくは10nm〜1μmである。層状無機化合物の長径が10nm未満、または50μmを超える場合には、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能(例えば、ガスバリア性能)が得られないおそれがある。
【0017】
上記層状無機化合物は、Naイオンなどの交換可能な金属陽イオンを保持しており、その量は陽イオン交換容量(単位:ミリモル/100g)と定義されている。この陽イオン交換容量は、好ましくは30〜200ミリモル/100gであり、より好ましくは60〜170ミリモル/100gであり、さらに好ましくは80〜120ミリモル/100gである。層状無機化合物の陽イオン交換容量が30ミリモル/100g未満、または200ミリモル/100gを超える場合には、該層状無機化合物の水への分散性が乏しく、カチオン性高分子化合物による均一な処理ができないおそれがある。また、層状無機化合物の陽イオン交換容量が200ミリモル/100gを超える場合には、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能(例えば、耐水性)が得られないおそれがある。
【0018】
<カチオン性高分子>
本発明で用いられるカチオン性高分子は、高分子の片末端に、末端基および/または側鎖として、テトラアルキルアンモニウム、N−アルキルピリジニウム、1,3−ジアルキルイミダゾリウム、およびN,N−ジアルキルピロリジニウムからなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性基を有している。カチオン性高分子は、さらに、ハロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、イソシアナト基、ビニル基、および、アクリロイル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を高分子主鎖、側鎖、または末端に有していてもよい。
【0019】
カチオン性高分子の分子量は、重量平均分子量として、好ましくは500〜100000であり、より好ましくは1000〜50000であり、さらに好ましくは1000〜30000である。カチオン性高分子の重量平均分子量が500未満の場合には、層状無機化合物を有機化する効果が十分に得られないおそれがある。カチオン性高分子の重量平均分子量が100000を超える場合には、得られた膜形成組成物の粘度が高くなりすぎるおそれがある。
【0020】
カチオン性高分子の水100mlへの溶解度は、好ましくは3g以下であり、より好ましくは1g以下であり、さらに好ましくは0.5g以下である。カチオン性高分子の水100mlへの溶解度が3gを超える場合には、膜形成組成物により形成された膜の耐水性が十分に得られないおそれがある。
【0021】
上記カチオン性基は、高分子の重合単位として、あるいは高分子主鎖の末端基を利用して導入することができる。上記カチオン性基を高分子の重合単位、または高分子主鎖の末端基を利用して導入する方法としては、任意の適切な方法により行うことができる。高分子の重合単位としてカチオン性基を導入する方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。例えば、M.Kamigaito et al.(Chem.Rev.2001,101,3689−3745)に記載されている開始剤や触媒を用いた原子移動ラジカル重合(ATRP)などのリビングラジカル重合により、(i)モノマーを好ましい分子量に達するまで重合し、最後にジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートを反応させる、または(ii)モノマーとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの混合物を重合させることにより、高分子末端にアミノ基を導入する。次いで、該アミノ基に、ヨウ化メチル、臭化ベンジルのような有機ハロゲン化合物を反応させて4級化することにより、高分子をカチオン化することができる。または、モノマーを好ましい分子量に達するまで重合し、最後にクロロメチルスチレンを反応させ、高分子末端にクロロメチル基を導入する。次いでクロロメチル基をジメチルアミンなどでアミノ化した後、ヨウ化メチル、臭化ベンジルのような有機ハロゲン化合物を反応させて4級化することにより高分子をカチオン化することができる。
【0022】
高分子主鎖の末端基を利用する場合、末端基が水酸基、カルボキシル基のような反応性基であれば、その反応性基と反応する基を有するアミノ化合物を反応させた後、アミノ基に、ヨウ化メチル、臭化ベンジルのような有機ハロゲン化合物を反応させて4級化することで高分子をカチオン化できる。あるいは、先にアミノ基を4級化して、高分子と反応させてもよい。上記アミノ化合物としては、任意の適切なものを用いることができる。好ましいアミノ化合物としては、アミノ酸、ジメチルアミノエチルアルコールのようなアミノアルコール、ジメチルエチルアミンのようなジアミン、ヒドロキシメチルピリジンおよびカルボキシメチルピリジンのような含窒素複素環化合物などが挙げられる。末端基がアミノ基、または、ピリジニル基やイミダゾリル基のような含窒素複素環基であれば、高分子に直接ヨウ化メチル、臭化ベンジルのような有機ハロゲン化合物を反応させて4級化し、高分子をカチオン化することができる。
【0023】
末端に反応性基を有する高分子の製造方法は任意の適切な方法を用いることができ、例えば、上記ATRP、連鎖移動剤を用いた連鎖移動重合などの重合反応によって作製することができる。ATRPであれば、M.Kamigaito et al.(Chem.Rev.2001,101,3689−3745)に記載されている反応性基を有する開始剤を用いるか、反応性基を有するアルケンを最後に加えて重合を停止させることにより高分子主鎖末端に反応性基を導入できる。連鎖移動重合であれば、2−メルカプトエタノールのような反応性基を有するメルカプト化合物を連鎖移動剤とし、モノマーをラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合することで高分子主鎖末端に反応性基を導入することができる。
【0024】
末端にアミノ基や含窒素複素環基を有する高分子は、上記ATRP、連鎖移動剤を用いた連鎖移動重合などの重合反応によって作製することができる。ATRPであれば、アリルアミン、ビニルピリジンのようなアミノ基や含窒素複素環基を有するアルケンを最後に加えて重合を停止させることにより高分子主鎖末端にアミノ基または含窒素複素環基を導入できる。なお、アミノ基や含窒素複素環基の窒素原子は、2−フルオレニルメチルオキシカルボニル基のような保護基で保護して用いることが好ましい。連鎖移動重合であれば、2−メルカプトエチルアミン、2−メルカプトエチルピリジンのようなアミノ基や含窒素複素環基を有するメルカプト化合物を連鎖移動剤とし、モノマーをラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合することで高分子主鎖末端にアミノ基や含窒素複素環基を導入することでできる。なお、メルカプトエチルアミンのようなアミノ基は、これを2−フルオレニルメチルオキシカルボニル基のような保護基で保護するか塩酸塩として用いることが好ましい。
【0025】
上記重合反応によって高分子を作製する場合、モノマーとしては、リビングラジカル重合でき、かつ得られたカチオン性高分子の水への溶解度が上記範囲に入るような物質であれば任意の適切なものを用いることができる。例えば、直鎖状または環状または分岐状アルキル(メタ)アクリレート、アリールメタクリレート、グリシジルメタクリレート、イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、スチレン、スチレン誘導体などが挙げられる。これらのモノマーは、単独で用いても、2種以上を組合わせてもよい。さらに、得られたカチオン性高分子の水への溶解度が上記範囲に入る範囲で、アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの親水性モノマーを共重合してもよい。なお、高分子のモノマー組成は、基材の種類に応じて適宜選択することができる。
【0026】
カチオン化する高分子がポリエステルやポリカーボネートの場合、末端の水酸基またはカルボキシル基を利用して高分子をカチオン化してもよい。また、水酸基やカルボキシル基で末端変性されている各種高分子も同様にカチオン化することができる。
【0027】
<複合体>
本発明における複合体は、複合体1g中のカチオン性高分子に由来するカチオン量と層状無機化合物の陽イオン交換容量との比が、好ましくは0.2〜1.5であり、より好ましくは0.35〜1.5であり、さらに好ましくは0.4〜1.2であり、特に好ましくは0.45〜1.1である。カチオン性高分子に由来するカチオン量と層状無機化合物の陽イオン交換容量との比が0.2未満、または1.5を超えると、複合体が親水性を帯びるため、基材への密着性が十分に得られないおそれがあり、さらに膜形成用組成物により形成された膜の耐水性も十分に得られないおそれがある。
【0028】
本発明の複合体は、カチオン性高分子が層状無機化合物の層間に良好に挿入され、層状無機化合物のシート状結晶表面に結合している。したがって、本発明の複合体は、カチオン性高分子が溶解可能な有機媒体中では、膨潤性または分散性を有する。
【0029】
<複合体の製造方法>
本発明の複合体は、例えば、以下の方法により得ることができる。層状無機化合物の水分散液に層状無機化合物が凝集しない程度に親水性有機溶剤を加える。次いで、該層状無機化合物の水分散液をホモジナイザー等で激しく攪拌しながらカチオン性高分子の親水性有機溶媒溶液をゆっくりと添加する。添加終了後、遠心分離機を用いて生成した複合体を遠心沈降させ、沈殿物を親水性有機溶媒に再度分散させる。この操作を数度繰り返した後、沈殿物を取り出して乾燥させることによって複合体が得られる。複合体の作製に用いる親水性有機溶剤としては、水に可溶でありかつカチオン性高分子を溶解できる溶剤であれば任意の適切なものを用いることができる。例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール、テトラヒドロフランのような環状エーテル、エトキシエタノールのようなグリコール誘導体、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0030】
得られた複合体は、トルエン、酢酸エチルのような疎水性有機溶剤に分散後、有機層を水洗してもよい。これにより、複合体を含む膜形成用組成物により形成される膜の耐水性および絶縁性を向上させることができる。
【0031】
<膜形成組成物>
本発明の膜形成組成物は、カチオン性高分子を溶解可能な有機媒体中で、層状無機化合物とカチオン性高分子との複合体を膨潤または分散させることにより得られる。膜形成組成物中の複合体の濃度は、好ましくは0.1〜30重量%であり、より好ましくは0.5〜20重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。複合体の濃度が0.1重量%未満の場合、膜形成機能を十分に発揮できないおそれがある。複合体の濃度が30重量%を超える場合には、膜形成組成物の粘度が高くなりすぎて不都合が生じるおそれがある。
【0032】
本発明で用いる有機媒体は、カチオン性高分子を溶解可能なものであれば、任意の適切なものを用いることができる。好ましくは、有機媒体は、親水性溶媒および/または疎水性溶媒である。親水性有機溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール、テトラヒドロフランのような環状エーテル、エトキシエタノールのようなグリコール誘導体、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。疎水性有機溶媒としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0033】
本発明の膜形成組成物は、さらに添加剤として重合性モノマーおよび/または他の高分子を含んでいてもよい。重合性モノマーおよび/または他の高分子を配合することにより、膜形成組成物から形成される膜の物性を改善することができる。重合性モノマーとしては、例えば、直鎖状または環状または分岐状アルキル(メタ)アクリレート、アリールメタクリレート、グリシジルメタクリレート、イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、スチレン、スチレン誘導体などのラジカル重合性化合物、および、イソシアネート基、カルボン酸基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基、オキサゾリン環、メルカプト基などの反応性基を少なくとも1種有する化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。これらの重合性モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。他の高分子としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの高分子は、任意の化合物により変性されていてもよい。
【0034】
上記添加剤の含有量は、好ましくは上記複合体の含有量の0.1〜100重量%であり、より好ましくは0.5〜90重量%であり、さらに好ましくは1〜80重量%である。添加剤の含有量が上記複合体の0.1重量%未満の場合には、膜の物性改善効果が十分に得られないおそれがある。添加剤の含有量が上記複合体の100重量%を超えると、膜形成組成物中の層状無機化合物の割合が相対的に少なくなり、層状無機化合物を配合することによる効果が十分に得られないおそれがある。添加剤が重合性モノマー単独の場合、該重合性モノマーがカチオン性高分子を溶解可能であれば、有機媒体としても利用することができる。添加剤が重合性モノマーおよび他の高分子の両方からなる場合、両者の比率は、本発明が想定する技術分野で必要とされる性能を考慮して決めることができる。なお、膜形成組成物は、重合性モノマーを重合するための開始剤または硬化剤を適宜配合してもよい。開始剤および硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。
【0035】
膜形成組成物により形成される膜の物性を改善または機能化する目的で、膜形成組成物に、さらに微粒子および/または有機分子を添加することができる。微粒子を用いる場合には、微粒子の大きさは、好ましくは1nm〜10μm、より好ましくは2nm〜1μm、さらに好ましくは2nm〜500nmである。微粒子の大きさが1nm未満、または10μmを超える場合には、微粒子を添加する効果が十分に得られないおそれがある。
【0036】
微粒子および/または有機分子の含有量は、好ましくは複合体の含有量の0.1〜100重量%であり、より好ましくは0.5〜90重量%であり、さらに好ましくは1〜80重量%である。微粒子および/または有機分子の含有量が、上記複合体の0.1重量%未満の場合には、膜の物性改善または機能化が十分に得られないおそれがある。微粒子および/または有機分子の含有量が、複合体の100重量%を超えると、膜形成組成物中の層状無機化合物の割合が相対的に少なくなり、層状無機化合物を配合することによる効果が十分に得られないおそれがある。
【0037】
微粒子は、任意の適切なものを用いることができ、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化銀などの金属酸化物;金、銀、銅などの金属;グラファイト、カーボンナノチューブなどの炭素材;ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアミドなどのポリマー;などが挙げられる。これらは単独または2種以上組合わせて用いてもよい。
【0038】
上記微粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、楕円形状、扁平状、ロッド状、平板状、無定形状、または中空状などが挙げられる。
【0039】
有機分子としては、色素、薬理活性物質などが挙げられる。
【0040】
<膜の形成方法>
本発明の膜は、本発明の膜形成用組成物を基材に塗布し、乾燥させることにより、形成することができる。膜形成用組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、バーコーター法、ドクターブレード法、スプレー法、キャスティング法等が挙げられる。乾燥方法としては、特に制限はなく、自然乾燥であっても、強制乾燥であってもよい。強制乾燥する際の、加熱温度および加熱時間は、基材等に応じて、適宜設定することができる。
【0041】
本発明の膜形成用組成物を塗布する基材としては、本発明の膜を用いる用途に応じて、任意の適切なものを用いることができ、例えば、各種プラスチック、ゴム、金属、セラミックなどが挙げられる。
【0042】
本発明の膜は、好ましくは膜形成組成物の塗布後に、さらに、熱、光、電子線、および放射線からなる群より選択される少なくとも1種の方法により架橋処理が施されていてもよい。架橋処理をすることにより、膜形成組成物にさらに含まれる重合性モノマーを重合することができ、より強度に優れた膜を得ることができる。上記の架橋処理方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。
【0043】
<膜の用途>
本発明の膜は、優れたガスバリア性および、基材への密着性を有するため、ガスバリア材などのガスバリアに関する分野、光学フィルター、遮光材、反射防止膜などの光学材料分野、帯電防止材、絶縁材などの電子材料分野、および難燃材、ハードコートなどの表面保護分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
本発明について、実施例を用いて更に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
(原子移動ラジカル重合を用いたカチオン性高分子1の作製)
三方コック付のシュレンクチューブに、塩化第一銅0.6g(6mmol)とメチルメタクリレート4.8g(48mmol)とを入れ、脱気、窒素置換し、溶液(1−1液)を得た。他の容器において、ビピリジン2.8g(18mmol)、および、α、α’−ジクロルトルエン0.96g(6mmol)を酢酸ブチル10mlに溶解し、脱気、窒素置換し、溶液(1−2液)を得た。次いで、得られた1−2液を1−1液にシリンジで加え、攪拌しながら、110℃で重合を行った。重合開始90分後、脱気、窒素置換したジメチルアミノエチルメタクリレート1.2g(8mmol)を加え、さらに1時間加熱攪拌した。室温に冷却した後、重合液を酢酸エチルで希釈し、濾過した後、ヘキサンに投入して重合体を回収した(収量3.7g)。
得られた重合体は、GPC測定で数平均分子量(Mn)が1825、重量平均分子量(Mw)が2198であった。得られた重合体をテトラヒドロフラン5mlに溶解し、これにヨウ化メチル1mlを加え室温で3時間攪拌した。次いで、反応溶液を乾固してカチオン性高分子1を得た。このプロトンNMRを測定すると、メチルメタクリレート重合単位と4級化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比が20:1.6であった。
【0046】
α−クロロトルエン残基を片末端に、そしてジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位を2個片末端に有し、その間にメチルメタクリレート重合単位が20個連続したモデル重合体の分子量を計算すると2135であり、メチルメタクリレート重合単位とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比は20:2となる。これより、得られたカチオン性高分子はモデル高分子に近い組成であり、一つの高分子鎖中に平均1.6個のカチオン性基を有しているものと考えられる。
【0047】
(原子移動ラジカル重合を用いたカチオン性高分子2の作製)
三方コック付のシュレンクチューブに、塩化第一銅0.6g(6mmol)と酢酸ブチル4mlを入れ、脱気、窒素置換し、溶液(2−1液)を得た。他の容器において、ビピリジン2.8g(18mmol)、α、α’−ジクロルトルエン1.02g(6mmol)、および、ジメチルアミノエチルメタクリレート1.4g(9mmol)を酢酸ブチル6mlに溶解し、脱気、窒素置換した溶液(2−2液)を得た。次いで、得られた2−2液を2−1液にシリンジで加え、攪拌しながら、110℃で重合を行った。重合開始10分後、脱気、窒素置換したスチレン5.2g(48mmol)を加え、さらに3時間加熱攪拌した。室温に冷却した後、重合液を酢酸エチルで希釈し、濾過した後、濾液に塩化第二銅2.5gのエタノール溶液を加えて過剰のビピリジンを除去した。次いで、アンモニア水および水で有機層を洗浄した。洗浄後の溶液を乾固し、重合体を回収した(収量4.0g)。
得られた重合体は、GPC測定でMn865、Mw1230であった。得られた重合体をテトラヒドロフラン5mlに溶解し、これにヨウ化メチル1mlを加え室温で3時間攪拌した。次いで、反応溶液を乾固してカチオン性高分子2を得た。プロトンNMR測定から、スチレン重合単位と4級化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比は10:1.5であった。α−クロロトルエン残基とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位1個を末端に有し、スチレン重合単位が9個連続したモデル重合体の分子量を計算すると1221であり、スチレン重合単位とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の比は9:1となる。これより、得られたカチオン性高分子2は一つの高分子鎖中に1個のカチオン性基を有しているものと考えられる。
【0048】
(原子移動ラジカル重合を用いたカチオン性高分子3の作製)
ビピリジン2.8g(8mmol)、α、α’―ジクロロトルエン1.02g(6mmol)、ジメチルアミノエチルメタクリレート1.4g(9mmol)を酢酸ブチル10mlに溶解し、窒素置換した(3−1液)。
三方コック付きのシュレンクチューブに塩化第一銅0.6g(6mmol)を入れて窒素置換し、これに上記3−1液を加えて、窒素雰囲気下、110℃で攪拌した。加熱開始10分後、窒素置換したn―ブチルメタクリレート5.6g(39mmol)を加えて加熱攪拌した。2時間後、窒素置換したグリシジルメタクリレート2.6g(18mmol)を加え1時間加熱攪拌した。
重合終了後、冷却し重合液を酢酸エチル50mlで希釈し、沈殿物を濾過により除いた。さらに、塩化第二銅・2水和物2g/エタノール20ml溶液を濾液に加えて余分のビピリジンを沈殿物として除いた。
上記酢酸エチル溶液と水100mlを混合して激しく攪拌してからエバポレーターで濃縮し、水層から析出した固体を回収した。回収物を酢酸エチル100mlに溶解し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、不溶物を濾過し、乾固した。得られた重合体のGPCによる分子量は、Mn1066、Mw1504であった。
得られた固体7.8gをテトラヒドロフラン20gに溶解し、これにヨウ化メチル10g(70mmol)を室温でゆっくり添加して4時間攪拌して4級化した。次いで、反応溶液を乾固してカチオン性高分子3を得た。
カチオン性高分子3のプロトンNMRを測定すると、重合の開始端であるジクロロトルエンのベンゼン環プロトンが7.35ppm、N−メチル化されたジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の−N(CHのメチルプロトンが3.15ppm、ブチルメタクリレート重合単位の−O−CH−のメチレンプロトンが3.9ppm、グリシジルメタクリレート重合単位のエポキシ環のメチレンが2.65と2.8ppmに確認されたことより、本高分子は両末端にそれぞれメチル化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位とグリシジルメタクリレート重合単位を持つポリブチルメタクリレートと考えられる。上記重合単位のプロトンの積分比から、ジクロロトルエン末端基:N−メチル化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位:ブチルメタクリレート重合単位:グリシジルメタクリレート重合単位の比は、1:1.3:10.6:2であった。α−クロロトルエン残基とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位1個を末端に有し、ブチルメタクリレート重合単位が8個、次いでグリシジルメタクリレート重合単位が1個連続したモデル重合体の分子量を計算すると1564であった。また、α−クロロトルエン残基とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位1個を末端に有し、ブチルメタクリレート重合単位が7個、次いでグリシジルメタクリレート重合単位が2個連続したモデル重合体の分子量を計算すると1564であった。これより、得られたカチオン性高分子3は一つの高分子鎖中に1個のカチオン性基と平均1.5個のグリシジル重合単位を有しているものと考えられる。
【0049】
(原子移動ラジカル重合を用いたカチオン性高分子4の作製)
ビピリジン0.7g(4.5mmol)、α、α’−ジクロロトルエン0.24g(1.5mmol)、ジメチルアミノエチルメタクリレート0.3g(2mmol)を酢酸ブチル3mlに溶解し、窒素置換した。(4−1液)。
三方コック付きのシュレンクチューブに塩化第一銅0.15g(1.5mmol)を入れて窒素置換し、これに上記4−1液を加えて、窒素雰囲気下、110℃で攪拌した。加熱開始10分後、窒素置換した2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート3.2g(10mmol ダイキン化成品販売)を加えて加熱攪拌した。2時間後、窒素置換したグリシジルメタクリレート0.7g(5mmol)を加え1時間加熱攪拌した。
重合終了後、冷却し重合液を酢酸エチル50mlで希釈して沈殿物を濾過により除いた。さらに、塩化第二銅・2水和物2g/エタノール20ml溶液を濾液に加えて余分のビピリジンを沈殿物として除いた。
上記酢酸エチル溶液と水100mlを混合して激しく攪拌してからエバポレーターで濃縮し、水層から析出した固体を回収した。回収物を酢酸エチル100mlに溶解し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、不溶物を濾過し、乾固した。この高分子のGPCによる分子量は、Mn2424、Mw3013であった。
得られた固体2.9gをテトラヒドロフラン5gに溶解し、これにヨウ化メチル1.5gを室温でゆっくり添加して4時間攪拌して4級化した。次いで、反応溶液を乾固してカチオン性高分子4を得た。
カチオン性高分子4のプロトンNMRを測定すると、重合の開始端であるジクロロトルエンのベンゼン環プロトンが7.35ppm、N−メチル化されたジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位の−N(CHのメチルプロトンが3.15ppm、メタクリレート重合単位のエステルの−O−CH−のメチレンプロトンが3.5−4.5ppm、グリシジルメタクリレート重合単位のエポキシ環のメチレンが2.65と2.8ppmに確認されたことより、本高分子は両末端にそれぞれメチル化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位とグリシジルメタクリレート重合単位を持つポリ2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートと考えられる。上記重合単位のプロトンの積分比から、ジクロロトルエン末端基:N−メチル化ジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位:2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート重合単位:グリシジルメタクリレート重合単位の比は、1:1.7:16:4.5であった。α−クロロトルエン残基とジメチルアミノエチルメタクリレート重合単位1個を末端に有し、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート重合単位が14個、次いでグリシジルメタクリレート重合単位が4個連続したモデル重合体の分子量を計算すると3026であった。これより、得られたカチオン性高分子4は一つの高分子鎖中に1個のカチオン性基と4個のグリシジル重合単位を有しているものと考えられる。
【0050】
(連鎖移動剤を用いたカチオン性高分子5の作製)
ジメチルアミノエタンチオール塩酸塩(東京化成製)1.42gをメタノール5mlに溶解させ、これに水酸化ナトリウム0.4g/5mlメタノール溶液を加え、ジメトキシエタン40mlで希釈して放置した。
次に、上澄みを50mlのバイアル瓶に移し、これにスチレン5.2g、アゾイソブチロニトリル0.82gを加えて封管後、窒素置換して75℃で10時間、重合を行った。
重合終了後、エバポレーターで溶媒を除き、残留物を少量のアセトンに溶解後、ヘキサンを加えて生成高分子を析出させ、乾燥機で乾燥させた。この高分子のGPCによる分子量は、Mn1750、Mw2450であった。
上記高分子をテトラヒドロフラン5gに溶解し、これにヨウ化メチル2mlを加えて室温で4時間攪拌した後、エバポレーターで乾固してカチオン性高分子5を2.9g得た。
カチオン性高分子5のプロトンNMRを測定すると、連鎖移動剤であるジメチルアミノエタンチオールに由来する−N(CHのメチルプロトンが3.61ppm、スチレン重合単位のベンゼン環プロトンが7−7.4ppmに確認されたことより、本高分子は片末端にテトラアルキルアンモニウムカチオンを有するポリスチレンと考えられる。上記重合単位のプロトンの積分比から、スチレンベンゼン環:トリメチルアンモニウム基の比は、23.3:1であった。末端にジメチルアミノエタンチオール基と23個のスチレン重合単位を有するモデル高分子の分子量は2486となるので、得られたカチオン性高分子5は一つの高分子鎖中に1個のカチオン性基と23個のスチレン重合単位を有しているものと考えられる。
【0051】
(連鎖移動剤を用いたカチオン性高分子6の作製)
カチオン性高分子5の作製において、スチレン5.2gのかわりにスチレン4.16gとヒドロキシエチルメタクリレート1.3gを用いた以外は同様にして、オイル状高分子を得(GPCによる分子量は、Mn1890、Mw2340)、次いで、カチオン化してカチオン性高分子6を得た。
カチオン性高分子6のプロトンNMRを測定すると、連鎖移動剤であるジメチルアミノエタンチオールに由来する−N(CHのメチルプロトンが3.61ppm、スチレン重合単位のベンゼン環プロトンが7−7.4ppmに確認されたことより、本高分子は片末端にテトラアルキルアンモニウムカチオンを有するポリ(スチレン−ヒドロキシエチルメタクリレート)共重合体と考えられる。上記重合単位のプロトンの積分比から、スチレンベンゼン環:トリメチルアンモニウム基の比は、16.8:1であった。末端にジメチルアミノエタンチオール基と16個のスチレン重合単位と4個のヒドロキシエチルメタクリレート重合単位を有するモデル高分子の分子量は2306となるので、得られたカチオン性高分子6は一つの高分子鎖中に1個のカチオン性基と16個のスチレン重合単位と4個のヒドロキシエチルメタクリレート重合単位を有しているものと考えられる。
【0052】
(複合体1の作製)
層状無機化合物(クニピアF、陽イオン交換容量:1.10ミリモル/g、長径:0.1〜2μm(カタログ値))0.1gを水1mlに分散した後、エトキシエタノール−メタノール混合溶媒(1:2)5mlで希釈した。この分散液をホモジナイザーで攪拌しながら、これに、カチオン性高分子1を0.1g、エトキシエタノール−メタノール(1:1)1mlに溶解した溶液を滴下した。滴下後、ホモジナイザーで攪拌しながらエトキシエタノール10mlを加えて希釈し、遠心分離機で生成した複合体を沈降させた。沈降物をエトキシエタノールに分散後、再度遠心沈降させた。この操作をもう一度行って沈降物を回収し、乾燥させ、複合体1を得た。
【0053】
(複合体2の作製)
上記複合体1をトルエンに分散後、分散液を蒸留水で2度水洗した後、トルエン層を乾固させ、複合体2を得た。乾燥物を熱分析したところ、複合したカチオン性高分子1に由来すると考えられる減量は、44.4重量%であった。カチオン性高分子1の分子量を2198とすると、複合体1g中のカチオン性高分子1は2.02×10−4モルとなる。カチオン性高分子1に含まれるカチオン性基は、平均1.6個であるから、複合体1g中のカチオン性高分子1に由来するカチオン量は3.23×10−4モルとなる。一方、クニピアFの陽イオン交換容量は1.10ミリモル/gであるから、複合体1g中のクニピアFの陽イオン交換容量は6.11×10−4モルとなる。これらから、複合体1g中のカチオン性高分子1に由来するカチオン量とクニピアFの陽イオン交換容量の比を計算すると、0.53となる。
【0054】
(複合体3の作製)
カチオン性高分子1の代わりに、カチオン性高分子2を用いた以外は、複合体1の作製方法と同様にして、複合体3を得た。複合体1g中のカチオン性高分子2に由来するカチオン量とクニピアFの陽イオン交換容量の比は、0.46であった。
【0055】
(膜形成組成物1の作製)
上記の複合体2を、濃度が1重量%となるようトルエンに分散し、膜形成組成物1を得た。
【0056】
(膜1の形成)
膜形成組成物1を、PMMA基板上へ、バーコーター(コート厚み:30μm)にて均一に塗布した後、乾燥させ、膜厚5μmの均一で透明な膜1を得た。
【0057】
得られた膜1の密着性を碁盤目試験(JIS K 5400)にて評価を行った所、100/100と良好な密着性を示した。この膜1の表面抵抗を測定したところ、1×10−12Ω/cmであった。この膜1の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、層状化合物が基板面に対して平行に積層している様子を観察できた。
【0058】
(膜形成組成物2の作製)
NTS−5(トピー工業製の合成マイカ、陽イオン交換容量:0.9ミリモル/g、長径:11μm(カタログ値))0.1gをN−メチルアミド5mlと水2mlの混合液に分散した。この分散液をホモジナイザーで撹拌しながら、N−メチルアセトアミド5mlにカチオン性高分子2を0.2g溶解させた溶液を滴下した。滴下後、アセトン50mlを加えて希釈し、遠心分離機で生成した複合体を沈降させた。沈降物をアセトンに分散後、再度遠心沈降させた。次いで、沈降物をMEKに分散させて、固形分(複合体)濃度1重量%の分散液(膜形成組成物2)を得た。なお、複合体1g中のカチオン性高分子2に由来するカチオン量とNTS−5の陽イオン交換容量の比は、0.47であった。
【0059】
(膜2の形成)
10gの膜形成組成物2中にポリスチレン0.22gを溶解して分散液(ポリスチレン含有分散液)とした。この分散液を、厚さ100μmのポリスチレンシートへ、バーコーター(コート厚み:30μm)にて均一に塗布した後、乾燥させ、膜厚1μmの均一で透明な膜2を得た。得られた膜2とポリスチレンシートとの密着性を碁盤目試験(JIS K 5400)にて評価を行ったところ、100/100と良好な密着性を示した。
【0060】
(膜3の形成)
上記膜2の作製に用いたポリスチレン含有分散液を、低密度ポリエチレン板上に、キャストし、自然乾燥させることで膜厚8μmの透明な膜3を得た。
【0061】
(酸素および水素透過性の測定)
上記膜2を形成したポリスチレンシートおよび膜を形成していないポリスチレンシート、上記膜3を形成した低密度ポリエチレン板および膜を形成していない低密度ポリエチレン板について、ガス透過率測定装置(GTRテック(株)製)を用いて気体透過係数の測定を行った。酸素については、23℃、DRYまたは23℃、80%RH、水素については、23℃、DRYの条件下で測定を行った。結果を表1に示す。膜2のDRY酸素のガス透過係数は、ポリスチレンシートのおよそ1000分の1となり、膜によるガスバリア性の大幅向上が確認された。また、膜2は水素、WETガス(80%RH)においても高いガスバリア性を示すことが確認された。膜3を形成した低密度ポリエチレン板の水素透過係数は0.19〔×10−10cc(STP)・cm/cm・s・cmHg〕であり、これは低密度ポリエチレン板(水素透過係数は9.8〔×10−10cc(STP)・cm/cm・s・cmHg〕)の51分の1であった。
【0062】
【表1】

【0063】
(膜4の形成)
上記膜形成組成物2を、PMMA板上へ、バーコーター(コート厚み:30μm)にて均一に塗布した後、乾燥させ、膜厚4.6μmの均一で透明な膜4を得た。
この膜4の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、層状化合物が基板面に対して平行に積層している様子を観察できた。TEM画像より層状化合物の層間距離を測定したところ、22Å以上あった。
また、この試料のXRDを測定したところ、カチオン性高分子2を吸着させていない層状化合物の層間距離が12.5Åであるのに対し、膜4の層間距離は28.5Åに広がっていた。以上から、層状化合物結晶シート間にカチオン性高分子が入り込んで層間が広がっていることが明らかとなった。
【0064】
(膜形成組成物3の作製)
クニピアF0.1gをN−メチルアセトアミド5mlと水2mlの混合液に分散した。この分散液をホモジナイザーで攪拌しながら、これにN−メチルアセトアミド5mlにカチオン性高分子3を0.2g溶解させた溶液を滴下した。滴下後、アセトン50mlを加えて希釈し、遠心分離機で生成した複合体を沈降させた。沈降物をアセトンに分散後、再度遠心沈降させた。次いで、沈降物をトルエンに分散させて固形分(複合体)濃度1.1重量%(10mg/ml)の分散液(膜形成組成物3)を得た。なお、熱分析(TG−DTA)から、複合体中の有機分は22重量%であり、複合体1g中のカチオン性高分子3に由来するカチオン量とクニピアFの陽イオン交換容量の比は、0.22であった。
【0065】
(膜5の作製)
2mlの膜形成組成物3中に、メルカプト変性シリコーン(GELEST製 SMS−042)10mgを溶解させ、溶液1を得た。得られた溶液1を、100μmのポリエチレンシートへ、バーコーター(コート厚み:30μm)にて均一に塗布した後、乾燥させ、膜厚7μmの均一で透明な膜5を得た。膜5は、曲げてもシートから剥がれず、柔軟性および密着性のよいことがわかった。
【0066】
(膜6の作製)
2mlの膜形成組成物3中に、2−フェニルイミダゾール1mgおよび変性ポリプロピレン(日本製紙ケミカル アウローレン100)シクロヘキサン溶液(濃度16w%)6mgを溶解させ、溶液2を得た。得られた溶液2を、ポリプロピレンシートへ、バーコーター(コート厚み:30μm)にて均一に塗布した後、110℃で20分加熱処理し、膜厚5μmの均一で透明な膜6を得た。膜6は、曲げてもシートから剥がれず、柔軟性および密着性のよいことがわかった。
【0067】
(膜7の作製)
2mlの膜形成組成物3中に、2−フェニルイミダゾール1mgおよび液状エポキシ樹脂(DIC製 EXA−4850−150)10mgを溶解させ、溶液3を得た。得られた溶液3を、PETフィルムへ、バーコーター(コート厚み:30μm)にて均一に塗布した後、110℃で20分加熱処理し、膜厚3μmの均一で透明な膜7を得た。膜7は、曲げてもフィルムから剥がれず、柔軟性および密着性のよいことがわかった。
【0068】
(膜形成組成物4の作製)
膜形成組成物3の作製においてカチオン性高分子3のかわりにカチオン性高分子4を用いる以外は同様にして、複合体のMEK分散液(膜形成組成物4、複合体の濃度:1重量%)を得た。複合体1g中のカチオン性高分子4に由来するカチオン量とクニピアFの陽イオン交換容量の比は、0.33であった。
【0069】
(膜形成組成物5の作製)
膜形成組成物3の作製においてカチオン性高分子3のかわりにカチオン性高分子5を用いる以外は同様にして複合体のMEK分散液(膜形成組成物5、複合体の濃度:1重量%)を得た。複合体1g中のカチオン性高分子5に由来するカチオン量とクニピアFの陽イオン交換容量の比は、0.52であった。
【0070】
(膜形成組成物6の作製)
膜形成組成物3の作製においてカチオン性高分子3のかわりにカチオン性高分子6を用いる以外は同様にして複合体のMEK分散液(膜形成組成物6、複合体の濃度:1重量%)を得た。複合体1g中のカチオン性高分子6に由来するカチオン量とクニピアFの陽イオン交換容量の比は、0.71であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明の膜形成組成物は基材との密着性に優れるので、ガスバリア材などのガスバリアに関する分野、光学フィルター、遮光材、反射防止膜などの光学材料分野、帯電防止材、絶縁材などの電子材料分野、および難燃材、ハードコートなどの表面保護分野に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状無機化合物とカチオン性高分子との複合体および有機媒体を含む膜形成組成物。
【請求項2】
前記層状無機化合物の長径が10nm〜50μmである、請求項1に記載の膜形成組成物。
【請求項3】
前記層状無機化合物の陽イオン交換容量が30〜200ミリモル/100gである、請求項1または2に記載の膜形成組成物。
【請求項4】
前記カチオン性高分子が、テトラアルキルアンモニウム、N−アルキルピリジニウム、1,3−ジアルキルイミダゾリウム、およびN,N−ジアルキルピロリジニウムからなる群より選択される少なくとも1種のカチオン性基を高分子の片側末端および/または側鎖に有する、請求項1から3のいずれかに記載の膜形成組成物。
【請求項5】
前記複合体が、前記有機媒体に対して膨潤性または分散性を有する、請求項1から4のいずれかに記載の膜形成組成物。
【請求項6】
前記複合体1g中のカチオン性高分子に由来するカチオン量と層状無機化合物の陽イオン交換容量との比が0.2〜1.5である、請求項1から5のいずれかに記載の膜形成組成物。
【請求項7】
前記有機媒体が、親水性溶媒および/または疎水性溶媒である、請求項1から6のいずれかに記載の膜形成組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の膜形成組成物を基材に塗布することにより形成される膜。
【請求項9】
熱、光、電子線、および放射線からなる群より選択される少なくとも1種の手段により架橋された、請求項8に記載の膜。

【公開番号】特開2010−215889(P2010−215889A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183556(P2009−183556)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】