説明

膜濾過システム及び膜濾過システムの運転方法

【課題】洗浄廃液の濃度変動に伴う濃縮終点の判定精度の低下を抑え、濃縮効率の低下を低減できる膜濾過システム1及び膜濾過システム1の運転方法を提供する。
【解決手段】水性シンナー廃液を循環させる循環ライン10上に設けられると共に、水性シンナー廃液を、循環ライン10上を循環する濃縮液と透過液とに分離する膜モジュール7と、濃縮液の循環流量を検出する循環流量計17と、膜モジュール7への水性シンナー廃液の供給圧を一定に保持すると共に、循環流量計17で検出された循環流量に基づいて濃縮液の循環を停止させる制御装置19とを備える。この膜濾過システム1では、循環ライン10に導入される水性シンナー廃液の濃度変動の影響を受けにくく、濃縮液の循環を停止させる濃縮終点の的確な判定が可能になり、濃縮効率の低下を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装の色替えの際に塗装機や塗料容器(塗料カートリッジ)などの塗装機器の洗浄に用いられ、その塗装機器から排出された洗浄廃液から透過液を分離回収するための膜濾過システム、及び膜濾過システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体等の上塗りはスプレー塗装により多色塗装が施される。多色塗装では、色替えの際の混色を避けるために、塗装ガン、塗装ガンに至る配管及び塗料容器等をシンナーと称される洗浄液で洗浄する工程を経る必要がある。上塗り塗料としては従来から溶剤型塗料が用いられていたが、近年では、環境対策等の観点から塗料の水溶性化が推進されている。溶剤型塗料の場合は、洗浄液として溶剤シンナーが用いられ、その廃液は蒸留により再生、再使用されていた。しかしながら、水溶性塗料の場合は、洗浄液として水性シンナーと称される溶剤や塗料中和剤を含む水溶液(以下、該洗浄液を水性シンナーと称す)を用いており、この水性シンナーは組成的に水の割合が高く、蒸留による回収は多大なエネルギーを要する。従って、水性シンナーを用いた洗浄後に排出される洗浄廃液から水性シンナーを回収し、再使用するための有効な処理技術が望まれている。
【0003】
洗浄廃液から水性シンナーを回収する方法として、例えば、クロスフロー膜濾過システム(特許文献1または特許文献2参照)を利用する方法に検討の余地がある。クロスフロー膜濾過システムを利用する場合、単位時間あたりの透過液量が濃度依存性を有し、とりわけ濃度依存性が顕著な洗浄廃液を濃縮する場合は連続濃縮方式に比べて膜の透過液量が多くとれるので回分式が有利である。回分式においては経時的に洗浄廃液(循環液)の濃度が変化し、一般的には粘性が上昇する。したがって、濃縮開始から供給圧力を成り行きにまかせて運転すると供給圧力が上昇し、濃縮の途中で膜モジュールの上限運転圧(耐圧)を越えてしまう事態が生じる。そこで、通常は膜を保護するため、圧力センサーにより膜濾過システムへの供給圧力を検出し、同時に周波数変換器(インバータ)で循環ポンプの回転数を変化させて供給圧力を一定に保持する方法や調圧弁を設置し、弁の開度を変えて供給圧力を一定に保持する方法が採られる。
【0004】
クロスフロー膜濾過システムを利用する場合には、あらかじめ洗浄廃液の濃度と粘性の関係から濃縮限界(濃縮倍率)を求めておき、濃縮限界に達した状態を濃縮終点と判定して運転を停止する必要がある。濃縮終点の判定としては、例えば、流量計や液面計により、洗浄廃液の仕込み量と透過液の採取量を計測し、その量比から濃縮終点を判定する方法、濃縮液の液質、例えば比重、濁度、屈折率等から濃縮終点を判定する方法などがある。
【特許文献1】特開2005−65541号公報
【特許文献2】特開2001−79357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
廃液の濃度が一定もしくは変動幅が小さい場合には、従来の膜濾過システムによっても、洗浄廃液の仕込み量と濃縮液量または洗浄廃液の仕込み量と透過液量の量比などから濃縮終点を判定できる。しかしながら、水性シンナーなどによる洗浄後の洗浄廃液の場合、水性シンナーの使用量等によってその都度洗浄廃液中の塗料濃度が変動するため、濃縮終点の的確な判定は難しく、透過液の回収率が低下し、濃縮効率が低下し易かった。
【0006】
また、濃縮液の液質から濃縮終点を判定するシステムや方法では、測定に時間がかかったり、測定が複雑であったりすると、運転前に洗浄廃液の濃度を測定して量比を変えることは効率的でない。そして水性シンナーなどによる洗浄後の洗浄廃液の場合は、溶解している塗料の濃度は通常NV(乾燥固形分濃度)で示され、実際に、塗料濃度の測定には数時間を要するので事前にNVを測定することは非効率であって実用的ではない。一方で、濃度を直接的に測定するのではなく、濃度以外の特性値を代用するとしても、その特性値は、濃度変化に依存して数値変化が比較的大きく、且つ濃度と比例関係にある物性値が求められるため、代用値を使うことができる洗浄廃液は限定されてしまう。そして、水性シンナーなどによる洗浄後の洗浄廃液の場合には、電導度や比重にばらつきが大きく、適切な特性値の選択が難しく、濃縮終点の的確な判定は困難であり、濃縮効率は低下し易かった。
【0007】
そこで、本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、洗浄廃液の濃度変動に伴う濃縮終点の判定精度の低下を抑え、濃縮効率の低下を低減できる膜濾過システム及び膜濾過システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、塗装機や塗装容器などの塗装機器を洗浄する際に塗装機器から排出される洗浄廃液を循環させる循環ラインと、循環ライン上に設けられると共に、洗浄廃液を、循環ライン上を循環する濃縮液と透過液とに分離するクロスフロー膜部と、濃縮液の循環流量を検出する循環流量検出部と、クロスフロー膜部への洗浄廃液の供給圧を一定に保持すると共に、循環流量検出部で検出された循環流量に基づいて濃縮液の循環を停止させる制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明では、制御部が、クロスフロー膜部への洗浄廃液の供給圧を一定に保持すると共に、循環流量検出部で検出された循環流量に基づいて濃縮液の循環を停止するので、循環ラインに導入される洗浄廃液の濃度変動の影響を受けにくく、濃縮液の循環を停止させる濃縮終点の的確な判定が可能になり、濃縮効率の低下を抑えることができる。その結果として、洗浄廃液の濃度変動に伴う濃縮終点の判定精度の低下を抑え、濃縮効率の低下を低減できる。
【0010】
さらに、制御部は、濃縮液の循環流量が所定の閾値以下になると濃縮液の循環を停止させると好適である。濃縮液の循環流量のみに基づいて濃縮液の循環を停止させるので、濃縮終点の判定を簡単に行うことが出来る。
【0011】
さらに、制御部は、濃縮液の循環流量と、単位膜面積当りの透過液の透過流量とを乗じた値が、所定の閾値以下になると濃縮液の循環を停止させると好適である。濃縮液は、経時的な濃度上昇に伴って粘性が上昇し、流動抵抗、透過抵抗が上昇する。その場合であっても、単位膜面積当りの透過液の透過流量と濃縮液の循環流量とを乗じた値と所定の閾値とを比較して濃縮終点を判定するので、濃縮終点の判定精度を向上できる。
【0012】
さらに、洗浄廃液は、水性シンナーを用いて塗装機器を洗浄した際に排出される水性シンナー廃液であると好適である。水性シンナー廃液は組成的に水の割合が高いため、蒸留によって水性シンナーを回収しようとすると多大なエネルギーを要する。一方で、本発明では、クロスフロー膜部を透過した透過液を水性シンナーとして回収できるため、蒸留する場合に比べて効率良く水性シンナーを回収でき、再利用を図ることができる。
【0013】
また、本発明は、塗装機や塗装容器などの塗装機器を洗浄する際に塗装機器から排出される洗浄廃液を循環させる循環ラインと、循環ライン上に設けられると共に、洗浄廃液を、循環ライン上を循環する濃縮液と透過液とに分離するクロスフロー膜部とを備える膜濾過システムの運転方法において、クロスフロー膜部への洗浄廃液の供給圧を一定に保持すると共に、濃縮液の循環流量を検出し、検出された濃縮液の循環流量に基づいて濃縮液の循環を停止させることを特徴とする。本発明によれば、洗浄廃液の濃度変動に伴う濃縮終点の判定精度の低下を抑え、濃縮効率の低下を低減できる。
【0014】
さらに、濃縮液の循環流量が所定の閾値以下になると濃縮液の循環を停止させると好適である。濃縮液の循環流量のみに基づいて濃縮液の循環を停止させるので、濃縮終点の判定を簡単に行うことができる。
【0015】
さらに、濃縮液の循環流量と、単位膜面積当りの透過液の透過流量とを乗じた値が、所定の閾値以下になると濃縮液の循環を停止させると好適である。濃縮液の経時的な濃度上昇に伴って粘性が上昇し、流動抵抗、透過抵抗が上昇しても、濃縮終点の判定を的確に行うことができ、判定精度を向上できる。
【0016】
さらに、洗浄廃液は、水性シンナーを用いて塗装機器を洗浄した際に排出される水性シンナー廃液であると好適である。水性シンナー廃液は組成的に水の割合が高いため、蒸留によって水性シンナーを回収する場合に比べて、効率良く水性シンナーを回収でき、再利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、洗浄廃液の濃度変動に伴う濃縮終点の判定精度の低下を抑え、濃縮効率の低下を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る膜濾過システムを模式的に示す図である。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
膜濾過システム1は、回分式の膜濾過処理により、塗装の色替えの際に塗装機や塗料容器(塗料カートリッジ)などの塗装機器2から排出される洗浄廃液から洗浄液を回収するための装置である。洗浄液としては、水性シンナーと称される溶剤や塗料中和剤を含む水溶液(以下「水性シンナー」と称する)が利用され、洗浄廃液(以下、「水性シンナー廃液」という)中には水性シンナー及び塗料などが含まれている。
【0020】
膜濾過システム1は、排出用配管3を介して塗装機器2に接続された貯槽兼濃縮槽5を備える。貯槽兼濃縮槽5の下部には、膜モジュール7の供給入側に接続された導入用配管(以下、「導入ライン」と称する)8が接続されている。膜モジュール7の循環出側には、貯槽兼濃縮槽5の上部に接続された返送用配管(以下、「返送ライン」と称する)9が接続されている。導入ライン8及び返送ライン9によって循環ライン10が構成され、膜モジュール7は循環ライン10上に配置されている。
【0021】
膜モジュール(クロスフロー膜部)7は、クロスフロー型の膜濾過装置であり、内圧濾過、外圧濾過のどちらにも適応できるが、濃縮の過程で、よりクロスフロー効果が発揮できる内圧濾過型が好ましい。膜モジュール7には、膜エレメントが収容されている。膜モジュール7の透過出側には、透過液貯槽12に接続された透過液用配管(以下、「回収ライン」と称する)11が接続されており、膜エレメントを透過した透過液、すなわち水性シンナーは、回収ライン11を通って透過液貯槽12に受け入れられる。
【0022】
膜モジュール7内に収容された膜エレメントは、UF膜、MF膜のどちらでも良いが水性シンナー廃液中の塗料固形分の阻止性や繰り返し濃縮した場合の透過液の透過流量の安定性の両面からUF膜を用いることが好ましい。膜モジュール7の形態は中空糸型、スパイラル型、管状型いずれも適応することができるが、流路の断面積が広いもの程高濃縮ができるので有利である。
【0023】
導入ライン8上には、貯槽兼濃縮槽5内の水性シンナー廃液を膜モジュール7に供給するための循環ポンプ13が設けられている。水性シンナー廃液は、所定の仕込み量が回分式にて貯槽兼濃縮槽5に受け入れられ、循環ポンプ13によってクロスフロー型の膜モジュール7に加圧供給される。
【0024】
膜モジュール7の導入ライン8側の供給口には、圧力トランスミッター15が設置されている。膜モジュール7の回収ライン11側の透過出口には透過液の透過流量を検出する透過液流量計16が設置されている。また、返送ライン9には、膜モジュール7を通過した濃縮液の循環流量を検出する循環流量計(循環流量検出部)17が設置されている。透過液流量計16及び循環流量計17は、有線または無線によって制御装置19に接続されている。なお、透過液流量計16、循環流量計17及びそれらの測定方法は、外部への発信機能がある流量計であれば電磁式、超音波式、磁気追従式、容積式等あらゆる方式を用いることができる。また、本実施形態では、循環流量計17は膜モジュール7の循環出側に設置されているが、膜モジュール7の供給入側に設置していてもよい。
【0025】
制御装置(制御部)19は、CPU、RAM及びROMなどが実装された制御基板、入出力装置及び外部記憶装置などを備えており、CPUやRAMなどのハードウェア上に所定のソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで入出力装置などが動作して、所定の機能が実現される。
【0026】
制御装置19は、インバータ20を介して有線または無線によって循環ポンプ13に接続されており、膜モジュール7への供給圧力が一定になるように循環ポンプ13の回転数を制御する。膜モジュール7からの循環出側の圧力を一定圧に保持しようとすると、循環ポンプ13の駆動制御が複雑になり、循環流量の低下がより早くなるので成り行きとするのが好ましい。制御装置19は、濃縮液の循環流量に基づいて濃縮終点を判定し、濃縮終点と判定すると、循環ポンプ13の駆動を停止させ、循環を停止する。以下、濃縮終点の判定について説明する。
【0027】
制御装置19は、循環流量計17で検出された値、すなわち濃縮液の循環流量(L/分)及び透過液流量計16で検出された値、すなわち透過液の透過流量(L/分)を監視している。制御装置19による濃縮終点の判断としては、二通りの方法が考えられる。第1の方法として制御装置19は、濃縮液の循環流量を評価値として取得し、取得した評価値が、予め設定された所定の閾値以下になった場合には、循環ポンプ13の駆動を停止させる。所定の閾値は、濃縮終点に合わせて規定されており、濃縮終点は、それより高い倍率に濃縮することが好ましくない状態、すなわち濃縮限界に達した状態を意味する。濃縮限界を越えると膜エレメントの汚染や目詰まりをきたすので事前に濃縮液の循環流量と濃縮限界との関係を求め、濃縮終点となる所定の閾値を規定しておく必要がある。この場合、例えば、所定の評価値を“28L/分”として予め設定しておき、濃縮液の循環流量が28L/分以下になった場合には、循環ポンプ13の駆動を停止させる。第1の方法では、濃縮終点の判定が、濃縮液の循環流量のみに基づくので、濃縮終点の判定を簡単に行うことができる。
【0028】
第2の方法として制御装置19は、透過液流量計16での検出値から単位膜面積当りの透過液の透過流量(L/分・m)を求め、その透過流量と循環流量計17で検出された循環流量とを乗じて評価値を求める。そして、制御装置19は、その評価値が、予め設定された所定の閾値以下になった場合には、循環ポンプ13の駆動を停止させる。この場合、透過流量と循環流量とを乗じた値と濃縮限界との関係を求め、濃縮終点となる所定の閾値を規定しておく必要がある。例えば、所定の評価値を“4”として予め設定しておき、評価値が4以下になった場合には、循環ポンプ13の駆動を停止させる。濃縮液は、経時的な濃度上昇に伴って粘性が上昇し、流動抵抗、透過抵抗が上昇する。その場合であっても、単位膜面積当りの透過液の透過流量と濃縮液の循環流量とを乗じた値と所定の閾値とを比較して濃縮終点を判定するので、濃縮終点の判定精度を向上できる。
【0029】
次に、膜濾過システム1の運転方法について説明する。回分式の運転を開始すると、まず、所定の仕込み量の水性シンナー廃液を貯槽兼濃縮槽5に受け入れる。次に、制御装置19は、循環ポンプ13を駆動し、貯槽兼濃縮槽5内の水性シンナー廃液を膜モジュール7に加圧供給する。制御装置19は、膜モジュール7への供給圧を一定圧に保持する。膜モジュール7では、膜エレメントを透過した透過液、すなわち水性シンナーが回収ライン11を通って透過液貯槽12に排出される。
【0030】
膜モジュール7を通過した水性シンナー廃液は、返送ライン9を通り、循環流となって貯槽兼濃縮槽5に戻される。膜モジュール7では、水性シンナー廃液中の水性シンナーが透過液となって回収ライン11に排出され、残りの水性シンナー廃液は、残留塗料によって暫時濃縮される。
【0031】
制御装置19は、循環流量計17及び透過液流量計16を常時監視している。膜モジュール7への供給圧力一定の条件では、濃縮が進むにつれて循環する濃縮液の粘性が上昇し、流動抵抗、透過抵抗が大きくなる。従って、循環流量及び透過液量は漸次低下する。濃縮が進むと、制御装置19は、循環流量計17の値(L/分)に基づいて循環ポンプ13の運転を停止し、膜濾過システム1の運転を終了する。例えば、第1の方法では、制御装置19は、循環流量計17の値(L/分)である評価値が予め設定した所定の閾値以下になった場合には循環ポンプ13の運転を停止する。また、第2の方法では、制御装置19は、循環流量計17の値(L/分)と透過液流量計16の値を単位膜面積あたりの透過液量に換算した値(L/分・m)とを乗じた評価値が、予め設定した所定の閾値以下になった場合には、循環ポンプ13の運転を停止し、膜濾過システム1の運転を終了する。なお、第2の方法における透過液量の単位膜面積あたりの値への換算及びこの値と循環流量とを乗じた評価値の演算は制御装置19内のシーケンサーで行われる。以上の膜濾過システム1及び膜濾過システムの運転方法は、スプレー塗装ブースの循環水の濃縮等にも有用である。
【0032】
膜濾過システム1及び膜濾過システム1の運転方法では、循環ライン10に導入される水性シンナー廃液の濃度変動の影響を受けにくく、濃縮終点の的確な判定が可能になり、濃縮効率の低下を抑えることができる。その結果として、水性シンナー廃液の濃度変動に伴う濃縮終点の判定精度の低下を抑え、濃縮効率の低下を低減できる。
【0033】
特に、膜濾過システム1及び膜濾過システム1の運転方法とは異なる方式、例えば、水性シンナー廃液の仕込み量と濃縮液の量を計測し、その量比から濃縮終点を判定する方式、または水性シンナー廃液の仕込み量と透過液の採取量を計測し、その量比から濃縮終点を判定する方式に比べ、過濃縮になったり、逆に初めの塗料濃度が低い場合に生じる濃縮不足になったりすることがなく、透過液の回収率を向上できる。そして、透過液の回収率向上によって濃縮液量を少なくできるために廃液処理負荷を軽減できる。また、過濃縮を防止できるので、膜モジュール7内の膜エレメントの目詰まりや流路閉塞を抑止でき、洗浄によって容易に膜エレメントを回復させることができ、膜エレメントの透過能力の悪化を防止できる。
【0034】
さらに、上記の膜濾過システム1及び膜濾過システム1の運転方法では、濃縮液の液質、例えば比重、濁度、屈折率等から濃縮終点を判定する方式に比べ、循環流量に基づいて濃縮終点を判定するので、濃縮終点を判定するための評価値の検出が簡単であり、その濃縮終点の判定も短時間で済む。特に、水性シンナー廃液は電導度や比重のばらつきが大きく濃縮液の液質から濃縮終点を判定する方式では的確な判定は難しい。一方で、上記の膜濾過システム1及び膜濾過システム1の運転方法では、濃縮終点を的確に判定できる。
【0035】
また、膜モジュール7への水性シンナー廃液の供給圧を比較的低い圧力に設定して濃縮を開始し、上限圧まで上昇したところで濃縮液の循環を停止するような方式では、運転開始時の低濃縮側における供給圧力をマイルドな条件に設定する必要があるのでセーブ運転となり、単位時間あたりの透過液量が減少し、濃縮時間が延びるので効率が悪くなってしまう。これに対して、上記の膜濾過システム1及び膜濾過システム1の運転方法では、膜モジュール7への水性シンナー廃液の供給圧を一定に保持し、循環流量計17で検出された循環流量に基づいて濃縮液の循環を停止しているので、運転開始時から供給圧を一定圧まで高めて運転でき、運転開始時における濃縮効率の低下を抑えることができる。
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、本発明を説明するものであって、決して限定するものではない。
【実施例1】
【0037】
上塗り塗装工程から排出されたNV(試料5gを採取し、105℃で3時間加熱乾燥することにより求めた値)は9.8wt%、pH10.1の水性シンナー廃液140Lを貯槽兼濃縮槽に仕込み、膜モジュールとして旭化成ケミカルズ(株)製、商品名マイクローザUFモジュールACV−3050(膜材質ポリアクリロニトリル、中空糸膜内径1.4mm、分画分子量13000、膜面積3.1m、最高使用圧力0.3MPa、モジュール長1172mm)を用いた膜濾過システムに供給し、液温を25℃〜30℃に調節しながらクロスフロー濾過を行った。供給圧力は、0.25MPaに自動調整し、循環出側圧力は初めに0.05MPaに調整した後は成り行きとした。透過液を透過液貯槽に抜き出しながら水性シンナー廃液の濃縮を行い、評価値である循環流量(L/分)が初めに設定しておいた所定の閾値の「28L/分」になった時点で濃縮を停止した。得られた透過液及び濃縮液の液量はそれぞれ58L、82Lであり、濃縮液のNVは16.5wt%、透過液のNVは0.25wt%であった。みかけの濃縮倍率(仕込み量を仕込み量と透過液量の差で除した値)と循環出側圧力、透過液量、循環流量の変化を表1に示す。所定の閾値である「28L/分」は、上記膜モジュールを利用した際の濃縮限界から求めたものである。
【0038】
【表1】

【実施例2】
【0039】
実施例2では、循環流量(L/分)と単位膜面積あたりの透過液量を乗じた評価値が初めに設定しておいた所定の閾値である「4」になった時点で濃縮を停止した以外は実施例1と同様に濃縮を行った。所定の閾値である「4」は、上記膜モジュールを利用した際の濃縮限界から求めたものである。得られた透過液及び濃縮液の液量はそれぞれ60L、80Lであり、濃縮液のNVは16.8wt%、透過液のNVは0.25wt%であった。みかけの濃縮倍率(仕込み量を仕込み量と透過液量の差で除した値)と循環出側圧力、透過液量、循環流量の変化及び循環流量と単位膜面積あたりの透過液量を乗じた値を表2に示す。
【0040】
【表2】

【実施例3】
【0041】
実施例3では、貯槽兼濃縮槽にNVが3.8wt%、pH9.8の水性シンナー廃液を180L仕込んだ以外は実施例2と同様に濃縮を行った。得られた透過液及び濃縮液の液量はそれぞれ139L、41Lであり、濃縮液のNVは16.1wt%、透過液のNVは0.19wt%であった。得られた結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る膜濾過システムを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…膜濾過システム、2…塗装機器、7…膜モジュール(クロスフロー膜部)、10…循環ライン、17…循環流量計(循環流量検出部)、19…制御装置(制御部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装機や塗装容器などの塗装機器を洗浄する際に前記塗装機器から排出される洗浄廃液を循環させる循環ラインと、
前記循環ライン上に設けられると共に、前記洗浄廃液を、前記循環ライン上を循環する濃縮液と透過液とに分離するクロスフロー膜部と、
前記濃縮液の循環流量を検出する循環流量検出部と、
前記クロスフロー膜部への前記洗浄廃液の供給圧を一定に保持すると共に、前記循環流量検出部で検出された循環流量に基づいて前記濃縮液の循環を停止させる制御部と、
を備えることを特徴とする膜濾過システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記濃縮液の循環流量が所定の閾値以下になると前記濃縮液の循環を停止させることを特徴とする請求項1記載の膜濾過システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記濃縮液の循環流量と、単位膜面積当りの前記透過液の透過流量とを乗じた値が、所定の閾値以下になると前記濃縮液の循環を停止させる事を特徴とする請求項1記載の膜濾過システム。
【請求項4】
前記洗浄廃液は、水性シンナーを用いて前記塗装機器を洗浄した際に排出される水性シンナー廃液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の膜濾過システム。
【請求項5】
塗装機や塗装容器などの塗装機器を洗浄する際に前記塗装機器から排出される洗浄廃液を循環させる循環ラインと、前記循環ライン上に設けられると共に、前記洗浄廃液を、前記循環ライン上を循環する濃縮液と透過液とに分離するクロスフロー膜部とを備える膜濾過システムの運転方法において、
前記クロスフロー膜部への前記洗浄廃液の供給圧を一定に保持すると共に、前記濃縮液の循環流量を検出し、検出された前記濃縮液の循環流量に基づいて前記濃縮液の循環を停止させることを特徴とする膜濾過システムの運転方法。
【請求項6】
前記濃縮液の循環流量が所定の閾値以下になると前記濃縮液の循環を停止させることを特徴とする請求項5記載の膜濾過システムの運転方法。
【請求項7】
前記濃縮液の循環流量と、単位膜面積当りの前記透過液の透過流量とを乗じた値が、所定の閾値以下になると前記濃縮液の循環を停止させる事を特徴とする請求項5記載の膜濾過システムの運転方法。
【請求項8】
前記洗浄廃液は、水性シンナーを用いて前記塗装機器を洗浄した際に排出される水性シンナー廃液であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項記載の膜濾過システムの運転方法。




【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−247977(P2009−247977A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98428(P2008−98428)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】