説明

膜状体及びその製造方法

【課題】水蒸気や酸素に対するバリア性の高い膜状体を提供すること。
【解決手段】膜状体は、微細セルロース繊維と層状無機化合物とを含み、該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜3mmol/gであり、該層状無機化合物と該微細セルロース繊維との質量比(層状無機化合物/セルロース繊維)が0.01〜100である。層状無機化合物の平均粒径が0.01〜10μmであり、荷電量が1〜1000eq/gであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細セルロース繊維を含有する膜状体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を使った材料が注目され、これに関して種々の改良技術が提案されている。例えば本出願人は先に、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるガスバリア用材料を提案した(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、これまで知られているガスバリア性フィルムとして、層状無機化合物を添加したものが知られている。例えば特許文献2には、樹脂基材フィルムの片面にポリビニルアルコール系重合体組成物を積層したガスバリア性フィルムが提案されている。このポリビニルアルコール系重合体組成物には、モンモリロナイト等の無機膨潤性層状化合物が含まれている。また特許文献3には、ポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂基材の片面に、ウロン酸残基を持つ多糖類からなる被膜を形成した生分解性ガスバリア材が提案されている。この被膜中にはモンモリロナイト等の層状無機化合物が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−57552号公報
【特許文献2】特開2001−121659号公報
【特許文献3】特開2008−49606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ナノサイズの繊維径をもった微細セルロース繊維を含有するガスバリア材の改良にあり、第1に水蒸気バリア性の改良にある。第2に高湿度雰囲気中での酸素バリア性の改良にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、微細セルロース繊維と層状無機化合物とを含み、該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜3mmol/gであり、該層状無機化合物と該微細セルロース繊維との質量比(層状無機化合物/セルロース繊維)が0.01〜100である膜状体を提供するものである。
【0007】
また本発明は、前記の膜状体の好適な製造方法であって、
層状無機化合物と微細セルロース繊維の分散液とを混合して混合分散液を製造する工程(b)と、該混合分散液から塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させる工程(c)とを含む膜状体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各種のガス、例えば酸素、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、窒素酸化物、水素、アルゴンガス等に対するバリア性の高い膜状体が提供される。特に水蒸気バリア性又は高湿度雰囲気中での酸素バリア性が高いガスバリア材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は、実施例15で得られた膜状体の透過型電子顕微鏡像であり、図1(b)は、図1(a)の拡大像である。
【図2】図2(a)は、実施例17で得られた膜状体の透過型電子顕微鏡像であり、図2(b)は、図2(a)の拡大像である。
【図3】図3(a)は、比較例1で得られた膜状体の透過型電子顕微鏡像であり、図3(b)は、図3(a)の拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の膜状体はガスバリア性を有するものである。本発明の膜状体は、前記の各種ガス全てに対してバリア性の向上を目的とするものだけでなく、ある特定のガスに対してのみバリア性を向上するものであってもよい。例えば酸素バリア性は低下するが、水蒸気バリア性が向上する膜状体は、水蒸気の透過を選択的に阻害する膜状体であり、本発明の範疇のものである。バリア性向上の対象となるガスは用途によって適宜選択される。
【0011】
本発明の膜状体においては、その厚みは目的に応じて任意であり、例えば好ましくは20〜900nm、更に好ましくは50〜700nm、一層好ましくは100〜500nmとすることができる。この膜状体は、それ自体を単独で用いることもでき、あるいは基材の表面に積層して用いることもできる。基材としては、例えばフィルムやシート等の二次元体や、ボトルや箱等の三次元体を用いることができる。膜状体の面積は、本発明において臨界的ではなく、膜状体の具体的な用途に応じて適宜に設定することができる。
【0012】
膜状体は、その構成材料として、特定の微細セルロース繊維及び層状無機化合物を含むことを特徴の一つとしている。膜状体において、この微細セルロース繊維と層状無機化合物とは均一混合状態で存在している。これら両者を構成材料として製造された本発明の膜状体は、微細セルロース繊維を単独で用いて製造された膜状体よりもガスバリア性が高くなることを、本発明者らは知見した。特に、水蒸気バリア性又は高湿度雰囲気中での酸素バリア性が高くなることを、本発明者らは知見した。以下、膜状体を構成する微細セルロース繊維及び層状無機化合物についてそれぞれ説明する。
【0013】
微細セルロース繊維は、平均繊維径が好ましくは200nm以下のものであり、更に好ましくは1〜200nm、一層好ましくは1〜100nm、更に一層好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径が200nm以下の微細セルロース繊維を用いることで、セルロース繊維間の空隙が小さくすることができ、良好なガスバリア性が得られる。平均繊維径は以下の方法によって測定される。
【0014】
<平均繊維径の測定方法>
固形分濃度で0.001質量%の微細セルロース繊維の水分散液を調製する。この分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料とする。原子間力顕微鏡(NanoNaVi IIe, SPA400,エスアイアイナノテクノロジー(株)製、プローブは同社製のSI−DF40Alを使用。)を用いて、観察試料中の微細セルロース繊維の繊維高さを測定する。セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。
【0015】
本発明で用いる微細セルロース繊維は、後述する天然セルロース繊維をミクロフィブリルと呼ばれる構造単位まで微細化したものである。ミクロフィブリルの形状は原料によって様々であるが、多くの天然セルロース繊維においては、セルロース分子鎖が数十本集まって結晶化した矩形の断面構造を有する。例えば高等植物の細胞壁中のミクロフィブリルは、セルロース分子鎖が6本×6本集まった正方形の断面構造である。したがって、原子間力顕微鏡像で得られる微細セルロース繊維の高さを便宜的に繊維径として用いた。
【0016】
微細セルロース繊維は、微細であることに加え、これを構成するセルロースのカルボキシル基含有量によっても特徴づけられる。具体的には、カルボキシル基含有量は0.1〜3mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、更に好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、一層好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。
【0017】
カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満であると、セルロース繊維の微細化処理を行っても、その平均繊維径が200nm以下にならない。つまり、カルボキシル基含有量は、平均繊維径200nm以下という微小な繊維径のセルロース繊維を安定的に得る上で重要な要素である。天然セルロースの生合成の過程においては、通常、ミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構築しているところ、本発明で用いる微細セルロース繊維は、後述するように、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料においてミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その一部を酸化し、カルボキシル基に変換することによって得られる。したがって、セルロースに存在するカルボキシル基の量の総和(カルボキシル基含有量)が多いほうが、より微小な繊維径として安定に存在することができる。また水中においては、電気的な反発力が生じることにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が高まり、ナノファイバーの分散安定性がより増大する。カルボキシル基含有量は、以下の方法によって測定される。
【0018】
<カルボキシル基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロース繊維を100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて分散液を調製し、セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整する。自動滴定装置(AUT−50、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下する。1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式にしたがいセルロース繊維のカルボキシル基含有量を算出する。
カルボキシル基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量(ml)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)
【0019】
微細セルロース繊維は、その長さに特に制限はない。繊維長を平均アスペクト比(繊維長/繊維径)で表すと、好ましくは10〜1000、更に好ましくは10〜500、一層好ましくは100〜350である。平均アスペクト比は以下の方法によって測定される。
【0020】
<平均アスペクト比の測定方法>
微細セルロース繊維に水を加えて調製した分散液(微細セルロース繊維の濃度0.005〜0.04質量%)の粘度から算出する。分散液の粘度は、レオメーター(MCR、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて20℃で測定する。分散液のセルロース繊維の質量濃度と分散液の水に対する比粘度との関係から、以下の式(1)を用いてセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、これを平均アスペクト比とする。式(1)は、The Theory of Polymer Dynamics,M.DOI and D.F.EDWARDS,CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,p312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)と、Lb2×ρ=M/NAの関係〔式中、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す〕から導出される。なお粘度式(8.138)において、剛直棒状分子=微細セルロース繊維とした。また、式(1)中、ηSPは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρSは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρS)を表す。
【0021】
【数1】

【0022】
微細セルロース繊維は、例えば天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、及び該反応物繊維を微細化処理する微細化工程を含む製造方法により得ることができる。酸化反応工程では、まず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていてもよい。
【0023】
次に、N−オキシル化合物を酸化触媒として用い、水中において天然セルロース繊維を酸化処理して反応物繊維を得る。N−オキシル化合物としては、例えば2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1〜10質量%となる範囲である。
【0024】
天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化剤(例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、過有機酸等)と、共酸化剤(例えば、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属)とを併用する。酸化剤としては、特に、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜100質量%となる範囲である。また、共酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜30質量%となる範囲である。
【0025】
天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化反応を効率良く進行させる観点から、反応液(前記スラリー)のpHが9〜12の範囲に維持されることが望ましい。また、酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0026】
酸化反応工程後、微細化工程前に精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、前記スラリー中に含まれる反応物繊維及び水以外の不純物を除去する。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散していないため、精製工程では、例えば水洗とろ過を繰り返す精製法を行うことができる。その際に用いる精製装置は特に制限されない。こうして得られた精製処理された反応物繊維は、通常、適量の水を含浸させた状態で次工程(微細化工程)に送られるが、必要に応じ、乾燥処理した繊維状や粉末状としてもよい。
【0027】
微細化工程では、精製工程を経た反応物繊維を水等の溶媒中に分散させ微細化処理を施す。この微細化工程を経ることにより、平均繊維径及び平均アスペクト比がそれぞれ前記範囲にある微細セルロース繊維が得られる。
【0028】
微細化処理において、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用してもよく、これらの混合物も好適に使用できる。微細化処理で使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、二軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。微細化処理における反応物繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。
【0029】
微細化工程後に得られる微細セルロース繊維は、必要に応じ、固形分濃度を調整した分散液状の形態(目視的に無色透明又は不透明な液)、あるいは乾燥処理した粉末状の形態(ただし、セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)とすることができる。分散液状にする場合、分散媒として水のみを使用してもよく、あるいは水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール類)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用してもよい。
【0030】
以上のとおりの天然セルロース繊維の酸化処理及び微細化処理によって、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、カルボキシル基含有量が0.1〜3mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有している。これは、本発明で用いる微細セルロース繊維が、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化され微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維は、その生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造を構築しているところ、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、前記の酸化処理によるアルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、更に前記の微細化処理を経ることで、微細セルロース繊維が得られる。そして、酸化処理の条件を調整することで、カルボキシル基含有量を所定の範囲内にて増減させて極性を変化させることができ、またカルボキシル基の静電反発や微細化処理によって、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0031】
本発明に係る膜状体を構成するもう一方の材料である層状無機化合物は、膜状体のガスバリア性を一層高める目的で使用される。層状無機化合物としては、層状の構造を有する結晶性の無機化合物を用いることができる。無機化合物の具体例としては、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等に代表される粘土鉱物を挙げることができる。カオリナイト族の粘土鉱物としては、例えばカオリナイトが挙げられる。スメクタイト族の粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイトが挙げられる。マイカ族の粘土鉱物としては、例えばバーミキュライト、ハロイサイト、テトラシリシックマイカが挙げられる。また、層状複水酸化物であるハイドロタルサイト等を用いることもできる。
【0032】
層状無機化合物として粘土鉱物以外のものを用いることも可能である。そのような化合物としては、例えば層状の構造を有する、チタン酸塩、ニオブ酸塩、マンガン酸塩、リン酸塩、酸化スズ、酸化コバルト、酸化銅、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化白金、酸化ルテニウム、酸化ロジウム等の金属酸化物、あるいはこれらの成分元素の複合酸化物等が挙げられる。またグラファイトを用いることもできる。
【0033】
以上の各種の層状無機化合物は、天然のものでもよく、あるいは合成されたものでもよい。これら各種の層状無機化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、前記の層状無機化合物のうち、モンモリロナイト、テトラシリシックマイカは、水蒸気バリア性又は高湿度雰囲気中での酸素バリア性が特に高いことから好適に用いられる。
【0034】
層状無機化合物としては、特に負に荷電しているものを用いることが、膜状体のガスバリア性、特に水蒸気バリア性又は高湿度雰囲気中での酸素バリア性が一層向上する点から好ましい。この理由は、後述する膜状体の好適な製造方法における乾燥過程において、塗膜中に含まれる層状無機化合物と微細セルロース繊維との静電的な反発力が維持されるので、層状無機化合物の高分散性が維持されて複合化されるからであると考えられる。層状無機化合物の具体的な荷電量は、これが負の荷電量であることを条件として、好ましくは1〜1000eq/gであり、更に好ましくは20〜800eq/gであり、一層好ましくは100〜500eq/gである。荷電量は次の方法で測定される。
【0035】
層状無機化合物をイオン交換水で0.1質量%に希釈した分散液を調製する。粒子電荷計(PCD 03、Mutek社製)を用いて、この分散液10gを中和するのに消費されるカチオン性滴定溶液(0.001Nポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、BTG Mutekより購入)の体積を測定する。その消費量から無機化合物の荷電量を算出する。
【0036】
層状無機化合物は、溶媒による膨潤性が大きいことも好ましい。そのような膨潤性の大きい層状無機化合物を用いることで、該層状無機化合物と微細セルロース繊維を混合した膜状体においては、単に両者が混合分散しているのではなく、無機層状化合物の層間に微細セルロース繊維がそれを拡大させるほどに入り込み、無機層状化合物と微細セルロース繊維とがナノスケールで複合化した状態になる。そのため、膜状体はガスバリア性が高く、特に水蒸気バリア性や高湿度雰囲気中での酸素バリア性が特に高くなると考えられる。通常、乾燥状態における層状無機化合物の層間の距離はその層間に存在するイオンに依存し、例えばナトリウムイオンの場合、その層間の距離は約10Å以下と非常に小さい。ところが、特に平均繊維径3〜4nmの微細セルロース繊維を用いた膜状体においては、無機層状化合物の層間に微細セルロース繊維が入り込むことで、該膜状体に含まれる層状無機化合物の結晶の面間隔、すなわち層状無機化合物の層間の距離が3nm以上に拡大する。特に平均繊維径3〜4nmの微細セルロース繊維を用いた膜状体においては、無機層状化合物の層間の距離は好ましくは3nm以上、更に好ましくは3〜100nm、一層好ましくは3〜10nmである場合に、高いガスバリア性を示す。層状無機化合物の層間の距離は、X線回折法や電子顕微鏡による膜状体の断面観察などから求めることができる。
【0037】
層状無機化合物は、その平均粒径が、好ましくは0.01〜10μmであり、更に好ましくは0.1〜6μmであり、一層好ましくは0.1〜4μmである。この範囲の平均粒径を有する層状無機化合物を用いることで、膜状体における層状無機化合物の分散性を良好にすることができ、ひいては膜状体のガスバリア性を一層高めることができる。平均粒径は次の方法で測定される。まず、層状無機化合物をイオン交換水で0.05質量%に希釈する。レーザー回折式粒度分布計(SALD−300V、解析ソフトWingSALD−300V、島津製作所製)を用いて粒度分布を測定する。粒度分布の平均値を算出し、これを平均粒径として定義する。なお屈折率は、モンモリロナイト、マイカ、テトラシリシックマイカ、タルク、サポナイト、酸化マグネシウムを1.6とし、チタン酸塩を2.6とする。
【0038】
本発明に係る膜状体は、微細セルロース繊維と層状無機化合物との割合によっても特徴づけられる。この割合は、本発明に係る膜状体のガスバリア性に影響を与える要因の一つである。この観点から、膜状体中での層状無機化合物と微細セルロース繊維との質量比(層状無機化合物/微細セルロース繊維)は、0.01〜100であり、好ましくは0.01〜10であり、更に好ましくは0.1〜10であり、一層好ましくは0.1〜3である。この範囲内であれば、膜状体の透明性を維持しつつ、ガスバリア性を向上させることができる。特に質量比が0.1〜3である場合、水蒸気バリア性及び酸素バリア性を一層向上させることができる。この質量比は、微細セルロース繊維と層状無機化合物とを含む混合分散液を調製するときの該微細セルロース繊維及び層状無機化合物の仕込量から算出することが可能である。あるいは、膜状体を熱重量分析することによっても算出することが可能である。熱重量分析による膜状体中での層状無機化合物と微細セルロース繊維との質量比の算出は次の方法で行われる。
【0039】
熱重量分析装置(セイコーインスツルメンツ(株)製、TG/DTA6300)を用いて、膜状体約10mgを用い、これを精秤した後、空気流下における重量変化を測定した。なお以下の温度設定で測定を行った。
30℃から500℃まで昇温(速度40℃/分)、500℃で30分保持、500℃から30℃まで降温(速度40℃/分)。
上の条件ではセルロース成分はほぼ完全燃焼し、層状無機化合物は不燃であることから膜状体中の層状無機化合物の含有率(質量%)は100w0/w1で与えられる(w0:測定前重量、w1:測定後重量)。この値から質量比(層状無機化合物/微細セルロース繊維)を算出した。
【0040】
膜状体は、微細セルロース繊維及び層状無機化合物に加え、必要に応じ、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤(シランカップリング剤等)、架橋剤(例えばエポキシ基、イソシアネート基、アルデヒド基等の反応性官能基を有する添加剤)、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。膜状体は特に架橋剤を含むことが好ましい。
【0041】
架橋剤は微細セルロース繊維どうしを架橋する目的で用いられる。この目的のために架橋剤としては、例えばグリオキサール及びグルタルアルデヒド等のジアルデヒド;硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸銅、硝酸銀、塩化亜鉛、硫酸アルミニウム等の多価又は一価の水溶性金属塩等を用いることができる。膜状体が架橋剤を含むことで、膜状体の水蒸気バリア性や酸素バリア性が向上するとい有利な効果が奏される。膜状体の水蒸気バリア性や酸素バリア性の一層の向上の点から、架橋剤としてジアルデヒドやアルカリ土類金属元素の水溶性塩を用いることが好ましい。膜状体中の架橋剤の含有量は、微細セルロース繊維質量に対して0.1〜200質量%、特に1〜50質量%であることが好ましい。
【0042】
次に、本発明に係る膜状体の製造方法について説明する。本発明に係る膜状体は、微細セルロース繊維及び層状無機化合物が液媒体に分散されてなる混合分散液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで得ることができる。詳細には、本製造方法は、層状無機化合物と微細セルロース繊維の分散液とを混合して混合分散液を製造する工程(b)と、該混合分散液から塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させる工程(c)とを含む。更に、本製造方法は、工程(b)に先立ち、層状無機化合物を液媒体中に分散させて分散液を製造する工程(a)を含んでいてもよい。
【0043】
工程(b)においては用いられる微細セルロース繊維の分散液としては、例えば上述の微細セルロース繊維の製造過程で得られた分散液をそのまま用いることができる。あるいは、上述の微細セルロース繊維の製造によって得られた粉末状の微細セルロース繊維を液媒体に分散させたものを用いることもできる。液媒体としては、水が好ましく、それ以外にも水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)と水との混合溶媒を用いることができる。微細セルロース繊維の分散液における微細セルロース繊維の濃度は、混合分散液における微細セルロース繊維の濃度が、後述する範囲となるように適宜調整される。
【0044】
工程(b)においては、微細セルロース繊維の分散液中に、乾燥状態の層状無機化合物を添加混合してもよく、あるいはその逆でもよい。また上述のとおり、工程(b)に先立ち工程(a)を行い、乾燥状態の層状無機化合物を液媒体に分散させて分散液となし、この分散液を微細セルロース繊維の分散液と混合してもよい。工程(b)に先立ち工程(a)を行うことで、工程(a)を行わない場合と比較して、層状無機化合物と微細セルロース繊維とを混合分散液中でより均一に分散させることが可能であるという利点がある。層状無機化合物を分散させるための液媒体としては、微細セルロース繊維を分散させるための液媒体と同様のものを用いることができる。この場合、層状無機化合物を分散させるための液媒体と、微細セルロース繊維を分散させるための液媒体とは同種でもよく、あるいは異種でもよい。層状無機化合物の分散液における層状無機化合物の濃度は、混合分散液における層状無機化合物の濃度が、後述する範囲となるように適宜調整される。
【0045】
混合分散液における微細セルロース繊維の濃度は0.1〜50質量%、特に0.5〜10質量%であることが好ましい。一方、層状無機化合物の濃度は0.1〜50質量%、特に0.1〜10質量%であることが好ましい。この範囲の濃度とすることで、分散液の粘度が塗布に適したものとなる。分散液の粘度は、例えば10〜5000mPa・sであることが好ましい。
【0046】
工程(c)においては、得られた混合分散液をガラス板やプラスチックフィルム等の平滑な基材の表面に流延塗布することができる。あるいは噴霧や浸漬等によって分散液を塗布することができる。これによって塗膜が形成される。この塗膜を自然乾燥又は加熱強制乾燥することで、目的とする膜状体が得られる。この場合、塗膜を自然乾燥させるよりも加熱強制乾燥させる方が、得られる膜状体のガスバリア性、特に高湿度雰囲気中での酸素バリア性が向上する。加熱強制乾燥させる場合、40〜300℃、特に90〜200℃で塗膜を加熱することが好ましい。加熱の手段としては、例えば電気乾燥炉(自然対流式又は強制対流式)、熱風循環式の乾燥炉、遠赤外線による加熱と熱風循環を併用した乾燥炉、加熱しながら減圧できる減圧乾燥炉を用いた方法等を採用することができる。加熱時間は、塗膜の乾燥状態に応じ適宜設定すればよい。
【0047】
一般的に、工程(a)で得られる層状無機化合物の分散液又は工程(b)で得られる層状無機化合物及び微細セルロース繊維の混合分散液中の層状無機化合物は、微小な粒子から粗大な粒子まで様々な粒径の粒子と混合物として存在する。特に粗大な粒子は膜状体の透明性、ガスバリア性、強度、基材との接着性などを低下させる恐れがある。そこで、本製造方法においては、工程(a)又は(b)において,更に層状無機化合物の粗大粒子の分離処理を行うことで、より透明性、ガスバリア性、膜強度、基材との膜接着性などに優れる膜状体を得ることができる。
【0048】
層状無機化合物の粗大粒子の分離処理は、工程(a)においては、層状無機化合物の分散液を製造した後に該分散液に対して行う。工程(b)においては、微細セルロース繊維と層状無機化合物との混合分散液を製造した後に該混合分散液に対して行う。
【0049】
前記分離処理の方法としては、ろ過分離法、遠心分離法等が挙げられる。これらの分離処理によって好ましくは粒径10μm以上の粗大粒子を除去する。
【0050】
ろ過分離法では、所定の細孔径を有するフィルターを用いて、層状無機化合物の分散液又は層状無機化合物と微細セルロース繊維との混合分散液をろ過することによって、層状無機化合物の粗大粒子を分離する。工程(a)においてろ過を行った場合、粗大粒子を分離したろ液を回収し、回収したろ液を工程(b)で微細セルロース繊維の分散液と混合して混合分散液となし、該混合分散液を工程(c)に付すことによって膜状体を得ることができる。工程(b)においてろ過を行った場合、粗大粒子を分離したろ液を回収し、回収したろ液を工程(c)に付すことによって膜状体を得ることができる。ろ過分離法としては、減圧ろ過、自然ろ過、加圧ろ過等が挙げられる。
【0051】
遠心分離法では、粒子の比重(または質量)によって、層状無機化合物の分散液又は層状無機化合物と微細セルロース繊維との混合分散液から層状無機化合物の粗大粒子を分離する。工程(a)において遠心分離を行った場合、粗大粒子と分離した層状無機化合物の分散液の一部を回収し、回収した該分散液を工程(b)で微細セルロース繊維の分散液と混合して混合分散液となし、該混合分散液を工程(c)に付すことによって膜状体を得ることができる。工程(b)において遠心分離を行った場合、粗大粒子と分離した混合分散液の一部を回収し、回収した分離液を工程(c)に付すことによって膜状体を得ることができる。遠心分離は公知の装置を用いて行うことができる。遠心分離は、好ましくは3000〜20000G、更に好ましくは10000〜15000Gで、好ましくは1〜30分、更に好ましくは5〜15分行う。
【0052】
また、本製造方法においては、工程(a)で得られる層状無機化合物の分散液中又は工程(b)で得られる層状無機化合物と微細セルロース繊維との混合分散液に上述の架橋剤を共存させてもよい。こうすることで、膜状体中に架橋剤を含有させることができる。この方法に代えて、工程(c)において、混合分散液から塗膜を形成し、形成された塗膜に架橋剤を施し、該塗膜を乾燥させることによって、膜状体中に架橋剤を含有させることができる。この場合、層状無機化合物と微細セルロース繊維との混合分散液は架橋剤を含んでいることを要しないが、架橋剤を含むことは妨げられない。架橋剤を施す方法に特に制限はなく、架橋剤の性状に応じた方法を採用すればよい。例えば、架橋剤が液体である場合には、架橋剤を膜状体表面に噴霧、塗布若しくは流延する方法、又は膜状体を架橋剤中に浸漬させる方法等を用いて膜状体に施すことができる。また、その液体を水や有機溶媒によって希釈して希釈液となし、該希釈液中の架橋剤の濃度を調整し、該希釈液を塗膜に施こしてもよい。架橋剤が固体である場合には、該架橋剤の溶解が可能な溶媒に該架橋剤を溶解させて溶液を調製し、該溶液を塗膜に施すことができる。例えば、架橋剤が固体の水溶性塩である場合には、該水溶性塩を水に溶解させて水溶液を調製し、該水溶液を塗膜に施すことができる。使用する架橋剤の量は、製造された膜状体中の架橋剤の割合が先に述べた範囲となるように適宜調整される。
【0053】
塗膜の乾燥によって形成された膜状体は、基材に積層されたままの状態で使用に供することもでき、あるいは基材から剥離してそれ単独で、又は剥離後に別の基材に積層して用いることもできる。膜状体は、各種のガス、例えば大気中に含まれるガスである酸素、水蒸気、窒素、二酸化炭素等に対するバリア性の高いものである。具体的には、水蒸気透過度が5〜24(g/m2・day)、好ましくは5〜22(g/m2・day)という低レベルのものである。また50%RHにおける酸素透過度は、好ましくは0.01〜20(×10-5 cm3/m2・day・Pa)、更に好ましくは0.01〜5(×10-5 cm3/m2・day・Pa)という低レベルのものである。膜状体は、前記の水蒸気、酸素など複数のガスに対して遮断性を有するものだけでなく、ある特定のガスに対してのみ遮断性を有するものであってよい。例えば酸素バリア性は有さないが、水蒸気バリア性を有する膜状体は、水蒸気の透過を選択的に阻害するバリア材として用いることができる。バリア性の対象となるガスは用途によって適宜選択される。水蒸気透過度性、及び酸素透過度は次の方法で測定される。
【0054】
(1)水蒸気透過度(g/(m2・day))
JIS Z208に基づき、カップ法を用いて、40℃、90%RHの環境下の条件で測定した。
(2)酸素透過度(cm3/(m2・day・Pa))
JIS K−7126−2 付属書A(等圧法)の測定法に準拠して、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(型式ML&SL、(株)日立ハイテクテクノロジーズ)を用い測定した。測定環境は、温度23℃又は30℃とし、湿度は0%RH、50%RH、70%RHでそれぞれ評価した。例えば「23℃、50%RHにおける酸素透過度」とは、23℃、湿度50%RHの酸素ガス、23℃、湿度50%の窒素ガス(キャリアガス)の環境下で測定を行っている。なお、水蒸気透過度及び酸素透過度は膜状成形体を形成後、23℃、50%RHの環境下で24時間以上馴化したものを測定した。
【0055】
また、本発明の膜状体はその透明性が良好なものである。膜状体の透明性は、例えはヘーズ値(%)を用いて評価できる。膜状体のヘーズ値はJIS K7136に準拠し、ヘーズメーターNDH−5000(日本電色工業(株)製)を用いて測定される。
【0056】
本発明に係る膜状体は、その高いガスバリア性を利用して、例えば、食品、化粧品、医薬、医療器材、機械部品、電子機器及び衣料等の包装材料等の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0058】
〔実施例1〕
(1)微細セルロース繊維の製造
針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)を天然繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25%、臭化ナトリウム12.5%、次亜塩素酸ナトリウム28.4%をこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化を120分行った後に滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化パルプ3.9gとイオン交換水296.1gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)によって120分間攪拌した。その操作によって繊維の微細化処理を行い、微細セルロース繊維の分散液を得た。分散液の固形分濃度は、1.3%であった。この微細セルロース繊維の平均繊維径は3.1nm、平均アスペクト比は240、カルボキシル基含有量は1.2mmol/gであった。
【0059】
(2)膜状体の製造
モンモリロナイト(製品名:クニピアF、クニミネ工業(株)製、)とイオン交換水を混合し、マグネチックスターラーで24時間攪拌し、2.2%のモンモリロナイト分散液を得た。このモンモリロナイト水分散液8.9gと前記の微細セルロース繊維の分散液(固形分濃度1.3%)15gと混合し、マグネチックスターラーで24時間攪拌して、混合分散液を得た。この分散液の固形分濃度は1.6%であった。この分散液を、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面にバーコーターを用いて、湿潤膜厚100μmになるように塗布して塗膜を形成した。この塗膜を2時間室温で乾燥させた後、自然対流式の電子乾燥炉を用いて加熱強制乾燥した。乾燥条件は150℃・30分とした。このようにして目的とする膜状体を得た。膜状体の酸素透過度及び水蒸気透過度(JIS Z0208)を測定した。酸素透過度の測定環境は、温度は23℃で一定とし、湿度は0%RH、50%RH、70%RHでそれぞれ測定した。その結果を以下の表1に示す。また、膜状体の透明性を上述の方法により測定した。その結果を以下の表3に示す。
【0060】
〔実施例2及び3〕
モンモリロナイトとして下記に示すものを用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。
・実施例2 製品名:ベンゲルFW、ホージュン(株)製
・実施例3 製品名:ベンゲルA、ホージュン(株)製
得られた膜状体について、酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。酸素透過度の測定環境は、湿度50%RHとした。その結果を表2に示す。
【0061】
〔実施例4及び5〕
実施例1で用いたモンモリロナイトに代えて下記に示すマイカを用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。
・実施例4 製品名:ソマシフME−100、コープケミカル(株)製
・実施例5 製品名:ミクロマイカMK−200、コープケミカル(株)製
得られた膜状体について、実施例2と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0062】
〔実施例6〕
実施例1で用いたモンモリロナイトに代えてタルク(製品名:SG2000、東新化成(株)製)を用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例2と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
〔実施例7及び8〕
実施例1で用いたモンモリロナイトに代えて下記に示す合成サポナイトを用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。
・実施例7 製品名:スメクトンSA、クニミネ工業(株)製
・実施例8 合成サポナイト、クニミネ工業(株)
得られた膜状体について、実施例2と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0064】
〔実施例9〕
実施例1で用いたモンモリロナイトに代えて層状チタン酸塩(製品名:テラセス、大塚化学(株)製)を用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例2と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0065】
〔実施例10〕
実施例1で用いたモンモリロナイトに代えてテトラシリシックマイカ(製品名:NTS−5、トピー工業(株)製)を用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例11〕
実施例1で用いたモンモリロナイト水分散液の使用量を、8.9gから2.2gに減らした以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例1と同様の測定を行った(ただし0%RHにおける酸素透過度を除く。)。その結果を表3に示す。
【0067】
〔実施例12〕
実施例1で用いたモンモリロナイト水分散液の使用量を、8.9gから4.5gに減らした以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例11と同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0068】
〔実施例13〕
実施例1で用いたモンモリロナイト水分散液の使用量を、8.9gから17.8gに増やした以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例11と同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0069】
〔実施例14〕
実施例1で用いたモンモリロナイト水分散液の使用量を、8.9gから35.6gに増やした以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例11と同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0070】
〔実施例15〜18〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維の分散液の使用量を15gから50gに増やし、かつ実施例1で用いたモンモリロナイト水分散液8.9gに代えて6%のテトラシリシックマイカ水分散液(製品名:NTS−5、トピー工業(株)製)を1.1g(実施例15)、2.2g(実施例16)、10.8g(実施例17)及び21.7g(実施例18)用いた以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例11と同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、微細セルロース繊維の分散液(固形分濃度1.3%)を得た。この分散液を、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面にバーコーターを用いて、湿潤膜厚100μmになるように塗布して塗膜を形成した。この塗膜を2時間室温で乾燥させた後、自然対流式の電子乾燥炉を用いて加熱強制乾燥した。乾燥条件は150℃・30分とした。このようにして膜状体を得た。膜状体の酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。酸素透過度の測定環境は、温度は23℃で一定とし、湿度は0%RH、50%RH、70%RHでそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
〔比較例2〕
実施例1で用いたモンモリロナイトに代えて酸化マグネシウム粉(和光純薬(株)製)を用いる以外は実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例2と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1は膜状体の水蒸気透過度及び各湿度環境下における酸素透過度を示している。表1に示す結果から明らかなように、層状無機化合物を含む微細セルロース繊維の膜状体(実施例1及び10)は、層状無機化合物を含まない比較例1に比べて水蒸気バリア性に優れており、かつ0〜70%RHの湿度環境下においても高い酸素バリア性を有していることが分かる。
【0075】
【表2】

【0076】
表2は層状無機化合物の種類、荷電量、平均粒子径の影響を示している。表2に示す結果から明らかなように、層状無機化合物を含む微細セルロース繊維の膜状体(実施例1〜10)は、比較例1に比べて水蒸気バリア性に優れていた。酸素バリア性に関しては、特に層状無機化合物の平均粒径が0.1〜4μm、負の荷電量が100〜500eq/gである実施例1,2,3、10において飛躍的な向上が確認できた。比較例2は添加した無機化合物が層状ではなく、また負荷電を有さないために、十分に分散複合化されず、ガスバリア性が向上しなかったと考えられる。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示す結果において、実施例1及び11〜18は層状無機化合物と微細セルロース繊維との質量比(層状無機化合物/セルロース繊維)が異なるものである。同表に示すように、各実施例は、比較例1よりも水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れており、特に層状無機化合物と微細セルロース繊維との質量比(層状無機化合物/セルロース繊維)が0.1〜3である実施例1、11〜13及び15〜18において飛躍的に向上していた。
【0079】
〔実施例19〕
実施例17で用いた混合分散液と同じ混合分散液を用い、実施例17と同様にして塗膜を形成した。湿潤状態(塗布後1分以内)の該塗膜に対して、架橋剤として5%グリオキサール(和光純薬(株)製)水溶液を市販の霧吹きによって噴霧した。噴霧量は、塗膜中の微細セルロース繊維の質量に対してグリオキサールが10%となる量とした。この塗膜を2時間室温で乾燥させた後、自然対流式の電子乾燥炉を用いて加熱強制乾燥し、膜状体を得た。乾燥条件は150℃・30分とした。得られた膜状体について、表4に記載の項目を評価した。
【0080】
〔実施例20〕
架橋剤として0.5M硫酸マグネシウム水溶液を用いた。噴霧量は、塗膜中の微細セルロース繊維の質量に対して硫酸マグネシウムが12%となる量とした。これ以外は実施例19と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例19と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0081】
〔比較例3〕
比較例1と同様にして塗膜を形成した。湿潤状態(塗布後1分以内)の該塗膜に対して架橋剤として5%グリオキサールを噴霧した。噴霧量は、塗膜中の微細セルロース繊維の質量に対してグリオキサールが10%となる量とした。この塗膜を実施例19と同じ条件で乾燥し膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例19と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0082】
〔比較例4〕
架橋剤として、0.5M硫酸マグネシウム水溶液を用いた。硫酸マグネシウム水溶液の使用量は、塗膜中の微細セルロース繊維の質量に対して硫酸マグネシウムが12%となる量とした。これ以外は比較例3と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について、実施例19と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
実施例19及び20は微細セルロース繊維と層状無機化合物と架橋剤とからなる膜状体である。これらの実施例の膜状体は、層状無機化合物を含まない比較例3及び4の膜状体に比べて水蒸気バリア性及び酸素バリア性ともに優れていた。特に実施例20の膜状体は、架橋剤を含まない実施例17の膜状体に比べて、23℃、70%RHにおける酸素透過度が約1/2になっており、架橋剤の使用による高いガスバリア性の向上効果が確認された。
【0085】
〔実施例21〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維分散液(固形分濃度1.3%)をイオン交換水で希釈して固形分濃度1.0%に調整した。この微細セルロース繊維分散液50gと、6%のテトラシリシックマイカ分散液(製品名:NTS−5、トピー工業(株)製)0.8gとを混合し、マグネチックスターラーで24時間攪拌して、混合分散液を得た。この分散液の固形分濃度及び質量比は表5のとおりであった。得られた混合分散液を用いて実施例1と同様にして、膜状体を得た。得られた膜状体について表5に記載の項目を評価した。
【0086】
〔実施例22〜24〕
実施例21で用いた混合分散液と同じ混合分散液に対して、以下に記載のろ過器又はろ紙を用いて減圧ろ過を行い、該混合分散液に含まれている層状無機化合物のうちの粗大粒子を分離し、ろ液を回収した。
実施例22:ガラスろ過器(VIDEC 11G−2、細孔径40−50μm)
実施例23:ろ紙(Whatman No.41、細孔径20−25μm)
実施例24:ガラスろ過器(柴田科学 3GP16、細孔径10−16μm)
回収したろ液の固形分は表5に示すとおりであった。回収したろ液を用いて実施例1と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について表5に記載の項目を評価した。層状無機化合物と微細セルロース繊維との質量比は、回収したろ液をシャーレに注ぎ、真空乾燥することで得られた膜状体について、先に述べた熱重量分析を行うことによって測定した。
【0087】
〔実施例26〜28〕
テトラシリシックマイカ(製品名:NTS−5、トピー工業(株)製)6%分散液45gをコニカルチューブに入れ、遠心器(ユニバーサル冷却遠心器 5922、久保田商事(株)製)を用い、10,000rpmで10分間遠心分離した。遠心分離によってテトラシリシックマイカは、コニカルチューブ内で4層に分離した。分離した層のうち、上部から第1層目〜第3層目までをスポイトで回収した。各層のテトラシリシックマイカの固形分濃度はそれぞれ0.5%(第1層)、3.1%(第2層)、8.2%(第3層)であった。
【0088】
実施例21で用いた微細セルロース繊維(固形分濃度1.0%)50gに対して、回収した第1層〜第3層のテトラシリシックマイカをそれぞれ10g(第1層)、1.6g(第2層)、0.6g(第3層)加えてよく攪拌して、混合分散液を得た。その後は実施例21と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について表5に記載の項目を評価した。
【0089】
〔実施例29〕
実施例21で用いた混合分散液(微細セルロース繊維/テトラシリシックマイカ)45gをコニカルチューブに入れ、遠心器(ユニバーサル冷却遠心器 5922、久保田商事(株)製)を用い、10,000rpmで10分間遠心分離した。遠心分離によって混合分散液はコニカルチューブ内で2層に分離した。分離した層のうち上部の第1層目をスポイトで回収した。第1層の混合分散液の固形分濃度は1.1%であった。この第1層の混合分散液を用い、実施例21と同様にして膜状体を得た。得られた膜状体について表5に記載の項目を評価した。層状無機化合物と微細セルロース繊維との質量比は、実施例22〜24と同様の方法によって測定した。
【0090】
〔比較例5〕
実施例21で用いた微細セルロース繊維(固形分濃度1.0%)のみを原料として同実施例と同様にして膜状体を得た。ただし、塗膜の乾燥は150℃・30分とした。得られた膜状体について表5に記載の項目を評価した。
【0091】
【表5】

【0092】
実施例22〜24は、ろ過によって粗大粒子を分離した後に膜状体を製造した例である。実施例26〜29は、遠心分離によって粗大粒子を分離した後に膜状体を製造した例である。これらの実施例で得られた膜状体は、粗大粒子の分離処理を行っていない実施例21の膜状体に比べて、酸素バリア性が向上したことが判る。この理由は、粗大粒子がろ過や遠心分離によって分散液から除去されたためであると考えられる。ろ過分離を行った実施例のうち、実施例23の膜状体は酸素バリア性が特に向上した。このことは、粗大粒子を効率良く分離できる細孔径を設定することが重要であることを意味している。一方、遠心分離を行った実施例のうち、実施例26及び27の膜状体では、酸素バリア性だけでなく透明性も向上したことが判る。
【0093】
以上の評価とは別に、実施例15及び実施例17並びに比較例1の膜状体の断面の透過型電子顕微鏡像を撮影した。その結果を図1〜図3に示す。黒色の部分が層状無機化合物、灰色の部分がセルロース部分を示している。図1及び図2に示す実施例15及び17の膜状体においては、微細セルロース繊維膜中に、厚み1nm以下の層状物が分散していることが確認できる。またその層状物と層状物との距離が、用いた微細セルロース繊維の繊維経(3.1nm)よりも広い部分が複数確認できることから、層状無機化合物の層間に微細セルロース繊維がそれを拡大させるほどに入り込み、微細セルロース繊維と層状無機化合物とがナノスケールで複合化した状態であること確認された。特に実施例17においては、層間の距離3〜10nm広がった部分が多数観察された。これに対して図3に示す比較例1の膜状体では、図1及び図2に示す構造は観察されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と層状無機化合物とを含み、該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜3mmol/gであり、該層状無機化合物と該微細セルロース繊維との質量比(層状無機化合物/セルロース繊維)が0.01〜100である膜状体。
【請求項2】
前記層状無機化合物の荷電量が1〜1000eq/gである請求項1記載の膜状体。
【請求項3】
前記層状無機化合物の平均粒径が0.01〜10μmである請求項1又は2記載の膜状体。
【請求項4】
前記層状無機化合物がモンモリロナイト又はテトラシリシックマイカからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜状体。
【請求項5】
更に架橋剤を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜状体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜状体の製造方法であって、
層状無機化合物と微細セルロース繊維の分散液とを混合して混合分散液を製造する工程(b)と、該混合分散液から塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させる工程(c)とを含む膜状体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、混合分散液を製造した後に該混合分散液中の前記層状無機化合物の粗大粒子の分離処理を行う請求項6に記載の膜状体の製造方法。
【請求項8】
更に、前記工程(b)に先立ち、前記層状無機化合物を液媒体中に分散させ、分散液を製造する工程(a)を含む請求項6又は7に記載の膜状体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、分散液を製造した後に該分散液中の前記層状無機化合物の粗大粒子の分離処理を行う請求項8に記載の膜状体の製造方法。
【請求項10】
前記分離処理がろ過分離法又は遠心分離法である請求項7又は9記載の膜状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132501(P2011−132501A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247992(P2010−247992)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】