説明

膜貫通ペプチドからなる自己凝集性ナノ粒子および抗癌剤の特異的腫瘍内送達のためのその利用

本発明は、(a)(i)疎水性物質と、(ii)内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインの構造アナログであって、一方の末端に1以上の負荷電残基を有する単離されたペプチドとを、水溶液中で混合すること、および(b)該ペプチドが自己凝集して、該疎水性物質を含有するナノ粒子になるようにすることを含む、疎水性物質の処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
疎水性物質を投与したり、ドキソルビシン、ビンクリスチン、アムホテリシン、およびレチノイド類等の抗癌剤の投与に伴う毒性作用を軽減したりするための送達システムとして、リポソームが臨床的にも実験的にも評価されてきている。リポソーム送達の潜在的利点としては、特異的なターゲッティングにより活性が増大すること、標的部位に薬剤を隔離すること、急速な代謝から薬剤を保護すること、各リポソーム内に多くの薬剤分子をパッケージングすることにより治療効果が増幅されること、および薬物動態の改変により毒性が軽減されることが挙げられる。
【0002】
抗癌剤のリポソーム製剤は、「むき出し」の薬剤と比較して、毒性が軽減され、有効性が増すことが示されている。いくつかのリポソーム剤形の抗癌剤が、FDAによって抗癌治療を目的として承認されている。しかしながら、リポソームの安定性および再現性の不十分さに加え、リポソーム製造の工業化が困難なことが、リポソームをより広範囲に使用することを妨げている。
【0003】
リポソームの有利な性質、ならびに優れた安定性、均一性、使いやすさ、および製剤の再現性を示し、またリポソームよりも小さな粒子を提供するという代替的な送達システムが、抗癌剤等の疎水性物質の投与のために必要である。本発明は、そのような送達システムおよびそのシステムの使用方法(例えば、抗癌剤等の疎水性物質の対象への送達)を提供する。本発明のこれらおよび他の目的と利点、ならびに更なる発明の特徴は、本明細書にて提供される本発明の説明から明らかになるであろう。
【0004】
発明の簡単な要約
本発明は、疎水性物質の処理方法を提供し、該方法は、(a)(i)疎水性物質および(ii)内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインの構造アナログであって、一方の末端に1以上の負荷電残基を有する単離されたペプチドを、水溶液中で混合すること、および(b)該ペプチドを自己凝集させて該疎水性物質を含有するナノ粒子にすること、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、配列番号1−PEG11(丸で表される)または配列番号1−PEG38(白四角で表される)を含有するナノ粒子の濃度(mg/ml)に対する蛍光発光強度(a.u.)のグラフである。
【0006】
【図2】図2は、配列番号1−PEG11(丸で表される)または配列番号1−PEG38(白四角で表される)を含有するナノ粒子の濃度(μM)に対する最大波長(nm)のグラフである。
【0007】
【図3】図3は、百万個のMDA−MB−231乳癌細胞を静脈内注射した3群のヌードマウスの処置からの日数に対する生存率(%)のグラフである。乳癌細胞を静脈内注射した翌日および継続して1週間に2回の頻度で、(1)PBSのみ(コントロール);(2)PBSに溶解した配列番号1−PEG27のナノ粒子3mg/kg(X4−4−6,3mg/kg);または(3)PBSに溶解した配列番号1−PEG27のナノ粒子12mg/kg(X4−4−6,12mg/kg)を、マウスの腹腔内に注射した。
【0008】
【図4】図4は、高分解能NMRによって決定されたナノ粒子中のCXCR4ペプチド(配列番号1−PEG27)の構造を表したものである。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、抗癌剤等の疎水性物質の送達のための、内在性膜タンパク質の膜貫通(TM)ドメインからなる自己凝集性ナノ粒子の使用に関する。内在性膜タンパク質の該TMドメインは、従来は疎水性の高いペプチドであると考えられていた(例えば、国際特許出願公開WO99/43711およびWO01/36477、ならびに米国特許第7,105,488号を参照)。しかしながら、驚くべきことに、水溶液中に存在させた場合には、内在性膜タンパク質のTMドメインに対応するペプチドは安定したナノ粒子(ミセル)に自己凝集するということが見出された。
【0010】
該ナノ粒子は、内在性膜タンパク質のTMドメインの構造アナログである単離されたペプチドを自己凝集させてナノ粒子にすることにより形成される。「TMドメインの構造アナログ」(本明細書では、「TMペプチド」と呼ぶ)とは、内在性膜タンパク質のTMドメインの部分と同一または実質的に同一であるペプチドをいう。該TMペプチドは、好ましくは、内在性膜タンパク質のTMドメインのアミノ酸配列と同一または実質的に同一である、少なくとも約10(例えば、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、またはこれらの範囲)のアミノ酸を含有する。「実質的に同一」であるTMペプチドは、内在性膜タンパク質のTMドメインの部分における1以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、またはこれらの範囲)の保存的アミノ酸置換を含む。
【0011】
該TMペプチドは、好ましくは、1以上の負荷電残基(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはこれらの範囲)を有する一の末端を有する。該末端が2以上の負荷電残基を含有する場合は、それらの負荷電残基は連続していることが好ましい。この負電荷は、該ペプチドの一方の末端にアスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基を存在させる(例えば、該残基の付加)などの、任意の適当な方法によって提供され得る。該負電荷を正電荷に置き換えれば、極めて多様な直径を有するもっと大きな粒子を形成することとなる。このように、いかなる特定の理論によっても縛られることを望むものではないが、負荷電残基(例えば、2つのアスパラギン酸残基)の存在が該ナノ粒子の形と大きさを均一にすると考えられる。好ましくは、該負電荷は該ペプチドのC末端に存在している。
【0012】
いかなる特定の理論によっても縛られることを望むものではないが、TMペプチドは水溶液中でβループ構造を形成することによって自己凝集するものと考えられる。該ループは、アミロイド線維におけるアミロイドペプチドと類似した作用機序によって会合する。負電荷および短いC末端αヘリックスが屈曲させて、TMペプチドのナノ構造の円形を決定する。ナノ粒子におけるCXCR4ペプチドの構造を高分解能NMRにより描写したものを図4に示す。
【0013】
好ましくは、該TMペプチドは抗癌剤等の疎水性物質と組み合わされ、該物質は次いで該ナノ粒子の疎水性中心の中に包含される。疎水性物質の該ナノ粒子への封入は、生理的条件下では通常不溶性である疎水性物質(例えば、抗癌剤)の対象への投与を可能とし、該物質は透過性および保持性の効果の増強により腫瘍内に集中する。
【0014】
したがって、本発明は、疎水性物質の処理方法に関し、該方法は、(a)(i)疎水性物質および(ii)内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインの構造アナログであって、一方の末端に1以上の負荷電残基を有する単離されたペプチドを、水溶液中で混合すること、および(b)該ペプチドを自己凝集させて該疎水性物質を含有するナノ粒子にすること、を含む。
【0015】
TMペプチドはまた、ポリエチレングリコール(PEG)、ウンデカエチレングリコール、ポリスチレン、ポリアミノ酸(例えば、ポリグリシン)、およびこれらの混合物等の親水性オリゴマーを含有することもできる。好ましくは、親水性樹脂は、負電荷を含む同じ末端に付加される。いかなる特定の理論によっても縛られることを望むものではないが、親水性オリゴマーのTMペプチドへの付加は凝集を防ぎ、均一な形でかつ、例えば、腫瘍を透過するのに理想的に適合した大きさの粒子の形成を促進すると考えられる。
【0016】
TMペプチドに付加された該親水性オリゴマーは、任意の適当な長さとすることができる。付加される親水性オリゴマーがPEGである場合は、好ましくはPEG5またはそれ以上のもの(例えば、PEG10、PEG11、PEG12、PEG15、PEG20、PEG25、PEG27、PEG30、PEG35、PEG38、PEG39、PEG40、PEG45、およびこれらの範囲)が用いられる。理想的には、PEGは約12から約27のモノマー単位から構成される。付加される親水性オリゴマーがポリグリシンである場合は、好ましくは3またはそれ以上(例えば、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、またはこれらの範囲)のポリグリシンが用いられる。理想的には、約10から約20残基のポリグリシンが用いられる。特に、同程度の長さにおいては、ポリグリシンテールの方がPEGテールよりも凝集性を低減するのに効果的である。
【0017】
該ナノ粒子は、任意の適当な直径を有することができる。好ましくは、該ナノ粒子は約3nmから約50nm(例えば、約4nm、約5nm、約6nm、約7nm、約8nm、約9nm、約10nm、約11nm、約12nm、約13nm、約14nm、約15nm、約16nm、約17nm、約18nm、約19nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nm、約45nm、およびこれらの範囲)の直径を有する。さらに好ましくは、該ナノ粒子は約8nmから約20nmの直径を有する。
【0018】
該ナノ粒子を形成するTMペプチドは、任意の適当な長さとすることができる。好ましくは、該TMペプチドは、長さとして約10から約50(例えば、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、またはこれらの範囲)のアミノ酸を含む。より好ましい態様においては、該TMペプチドは約10から約30(例えば、約15から約30)のアミノ酸長である。いっそう好ましい態様においては、該TMペプチドは約20から約25アミノ酸長であり、最も好ましい態様においては、該TMペプチドは約22から約25アミノ酸長である。実施例3に示されるように、ナノ粒子の凝集性はTMペプチドの長さの減少に応じて低下する。
【0019】
該TMペプチドは、任意の適当な内在性膜タンパク質の部分であり得る。適当な内在性膜タンパク質の例としては、Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)ファミリーのメンバー、例えばCXCR4、CCR5、CCKAR、ドーパミントランスポーター(DAT)、D1ドーパミンレセプター(D1DR)、D2ドーパミンレセプター、α−アドレナリンレセプター、β−アドレナリンレセプター、β−アドレナリンレセプター、およびV2バソプレシンレセプター(例えば、Herbert et al., J. Biol. Chem., 271: 16384-16392 (1996);George et al., J. Biol. Chem., 273:30244-30248 (1998);Tarasova et al., J. Biol. Chem., 274(49): 34911-34915 (1999);およびGeorge et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 307: 481-489 (2003);米国特許第7,105,488号;および国際特許出願公開WO99/43711を参照)、ならびにABCトランスポータータンパク質、例えばP−グリコプロテイン(P−gpまたはMDR1)、MRP1、MRP2、およびBCRP/ABCG2(例えば、Tarasova et al., J. Med. Chem., 48: 3768-3775 (2005);国際特許出願公開WO01/36477)が挙げられる。
【0020】
ある特定のレセプターやトランスポーターのTMドメインから構築されるナノ粒子は、転移および/または血管新生の阻害能(例えば、CXCR4のTMドメイン)、あるいは癌細胞の薬剤耐性の阻害能(P−gpおよびABCG2のTMドメイン)等の、独自の生物活性を有している。したがって、本発明のナノ粒子は、単独で投与することもでき、あるいは該ナノ粒子の疎水性中心の中に封入した疎水性物質とともに投与することもできる。該ナノ粒子を疎水性物質(例えば、抗癌剤)とともに投与する場合は、その2つの生物活性物質(該ナノ粒子自身および封入された疎水性物質)の併用により二重の活性という利点が提供される。つまり、送達デバイスのみを提供するリポソームとは異なり、本発明のナノ粒子は、癌細胞の薬剤耐性の低減、癌細胞の転移阻害、および腫瘍環境における血管成長の阻害等の、それ独自の活性を有している。
【0021】
適当なTMペプチドとしては、国際特許出願公開WO99/43711およびWO01/36477ならびに米国特許第7,105,488号に記載されたもの、ならびに、
Leu−Leu−Phe−Val−Ile−Thr−Leu−Pro−Phe−Trp−Ala−Val−Asp−Ala−Val−Ala−Asn−Trp−Tyr−Phe−Gly−Asn−Asp−Asp(配列番号1;CXCR4−8)、
Asp−Asp−Thr−Arg−Tyr−Ala−Tyr−Tyr−Tyr−Ser−Gly−Ile−Gly−Ala−Gly−Val−Leu−Val−Ala−Ala−Tyr−Ile−Gln−Val−Ser(配列番号2;MDR1−2)、
Leu−Ile−Tyr−Ala−Ser−Tyr−Ala−Leu−Ala−Phe−Trp−Tyr−Gly−Thr−Thr−Leu−Val−Leu−Ser−Gly−Glu−Gly−Ser−Asp−Asp(配列番号3;MDR1−5)、
Asp−Ser−Phe−Glu−Asp−Val−Leu−Leu−Val−Phe−Ser−Ala−Val−Val−Phe−Gly−Ala−Met−Ala−Val−Gly−Gln−Val(配列番号4;MDR1−12)、および
Ile−Phe−Gly−Ile−Thr−Phe−Ser−Phe−Thr−Gln−Ala−Met−Met−Tyr−Phe−Ser−Tyr−Ala−Gly−Cys−Phe−Asp−Asp(配列番号5;MDR1−11)が挙げられる。
【0022】
任意の適当な疎水性物質を、該ナノ粒子と併せて使用することができる。適当な疎水性物質としては、医薬的、農業的、または工業的に使用されるものが含まれる。これらのものとしては、生物活性または他の有用性を有する分子、医薬、造影剤、および工業試薬、ならびにそのような物質の前駆体およびプロドラッグが挙げられる。好ましい疎水性物質は、ヒトおよび他の生物、例えばヒトにおいて、生物活性または他の有用性を有するものである。これらの中には、医学分野における治療薬である薬剤が含まれる。そのような薬剤の例としては、鎮痛剤、抗炎症剤、麻酔剤、抗アドレナリン剤、不整脈治療剤、抗生物質、抗コリン作用剤、コリン様作用剤、鎮痙剤、抗鬱剤、抗癲癇剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、降圧剤、抗ムスカリン剤、ムスカリン剤、抗腫瘍剤(つまり、抗癌剤)、抗精神病剤、抗不安剤、ホルモン、睡眠剤、鎮静剤、免疫抑制剤、免疫活性剤、神経弛緩剤、ニューロン遮断剤、および栄養剤、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
好ましくは、本発明の方法に用いるための疎水性物質は抗癌剤である。適当な抗癌剤としては、タキサン(例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル)、ドキソルビシン、ビンクリスチン、アムホテリシン、シスプラチン、カルボプラチン、レチノイド類、イミダゾアクリドン、ビスイミダゾアクリドン、カンプトテシン、トポテカン、ゲルダナマイシン、エトポシド、アゾニフィド(azonifide)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
該ナノ粒子は、該ナノ粒子を特定の位置に向かわせるためのターゲッティング物質(例えば、リガンドまたは細胞レセプター)を含有することができる。例えば、特定の腫瘍細胞を標的とするために、腫瘍細胞で過剰発現する細胞表面レセプターに結合するリガンドを該ナノ粒子に付加することができる。適当なリガンドとしては、例えば、上皮成長因子レセプター(EGFR)、ソマトスタチンレセプター(SSTR)、インスリン様成長因子レセプター、葉酸レセプター、HER2レセプター、インターロイキン−13レセプター、ガストリン放出ペプチドレセプター、CD30、血管作動性腸管ペプチドレセプター、ガストリンレセプター、前立腺特異抗原、およびエストロゲンレセプターに結合する抗体およびポリペプチドが挙げられる。
【0025】
本発明の方法はまた、疎水性物質(例えば、抗癌剤)を含有するナノ粒子を対象に投与することも含み得る。適当な対象としては、マウス、ラット、ウサギ、フェレット、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、霊長類、およびヒト等の哺乳動物が挙げられる。
【0026】
該ナノ粒子は単独で、あるいは組成物として投与することができる。該ナノ粒子が組成物として投与される場合は、該組成物は、好ましくは医薬(例えば、生理学的に許容される)組成物である。該組成物は、担体(例えば、医薬上または生理学的に許容される担体)および該ナノ粒子を含有する。本発明においては、任意の適当な担体(例えば、水、生理食塩水、およびPBS)を使用することができ、そのような担体は当該技術分野において周知である。担体の選択は、該組成物が投与されるべき特定の部位および該組成物を投与するのに用いられる特定の方法によって、ある程度は決定されるであろう。適当な担体、ならびに本発明の組成物における使用に適した他の成分は、当該技術分野において公知である(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 第17版、(Mack Publishing Company, Philadelphia, Pa.: 1985))。また、該組成物は、抗癌剤等の更なる活性物質を含有することもできる。
【0027】
該ナノ粒子およびその組成物を、特定の障害および疾患を治療または予防するために対象に投与することができる。例えば、疎水性物質が抗癌剤である場合、本発明は、腫瘍成長を阻害(例えば、腫瘍細胞の増殖、侵襲、または転移の阻害、腫瘍成長の遅延、腫瘍成長の完全停止、および腫瘍の縮小)する方法、および癌細胞が薬剤耐性を発現する能力を阻害することにより癌(例えば、腫瘍細胞)の薬剤感受性を促進する方法などによる、癌の化学療法を包含する。当業者であれば、治療または予防すべき疾患または障害に基づいて、ナノ粒子に含有させるべき特定の疎水性物質(例えば、抗癌剤)を容易に決定することができる。好ましくは、該疾患または該障害は、癌、例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、頭頸部癌、卵巣癌、皮膚癌、精巣癌、膵臓癌、食道癌、結腸直腸癌、腎臓癌、子宮頸癌、消化管癌、およびこれらの組み合わせである。
【0028】
該ナノ粒子またはその組成物は、治療上有効な量を対象に投与するのが好ましい。治療上有効な量とは、特定の疾患または障害を治療または予防するのに必要な該ナノ粒子の量をいう。例えば、該ナノ粒子が抗癌剤を含有する場合は、治療上有効な量とは、癌の化学療法、例えば、腫瘍細胞の増殖、侵襲もしくは転移の阻害、腫瘍成長の阻害、および/または癌細胞の薬剤耐性発現能の阻害による癌の薬剤感受性の阻害などに必要な、抗癌剤含有ナノ粒子の量をいう。該ナノ粒子またはその組成物の適切な用量は、該ナノ粒子の疎水性中心に包含される特定の抗癌剤、および/または該ナノ粒子を形成する特定のTMペプチドに依存する。
【0029】
該ナノ粒子を対象に送達するために、任意の投与経路を用いることができる。適当な投与経路としては、筋肉内注射、経皮投与、吸入、組織(例えば、腫瘍組織)への局所投与、腫瘍内投与、および非経口投与(例えば、静脈内投与、腹膜投与、動脈内投与、皮下投与、直腸投与、または膣内投与)が挙げられる。医師や研究者は、適切な投与経路を容易に決定することができる。皮下投与はナノ粒子を注入部位からゆっくりと拡散させることができ、静脈内投与はナノ粒子を素早く拡散させ、腎臓を通して素早く除去することができる。
【0030】
以下の実施例は本発明をさらに説明するものであるが、当然、その範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0031】
実施例1
本実施例は、本発明のナノ粒子が均一な形および直径を有することを示すものである。
【0032】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5のアミノ酸配列を含むペプチドを合成した。また、配列番号1の末端の2つの負荷電アスパラギン酸残基を2つの正荷電リシン残基に置換した、Leu−Leu−Phe−Val−Ile−Thr−Leu−Pro−Phe−Trp−Ala−Val−Asp−Ala−Val−Ala−Asn−Trp−Tyr−Phe−Gly−Asn−Lys−Lys(配列番号6)のアミノ酸配列を含むペプチドを合成した。
【0033】
ペプチドをDMSOに溶解させて、32mg/mlの溶液とした。DMSOストックをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて希釈し、0.05〜0.5mg/mlの溶液を作製した。試料2μlを顕微鏡のグリッドに直接乗せ、風乾、0.5%(w/v)四酸化オスミウム(OsO)で染色し、Hitachi H−7000電子顕微鏡により可視化した。
【0034】
負に帯電した末端を有するペプチドは、透過型電子顕微鏡観察によって示されたように、全て小さなナノ粒子(直径4〜15nm)を形成していた。しかしながら、そのナノ粒子は、より高次の凝集体を形成していた。高次構造の形態は配列が異なれば異なっており、著しい程度の変動性を示していた。
【0035】
(配列番号6のように)負電荷を正電荷で置換すると、極めて多様な直径を有する非常に大きい粒子を形成した。このように、TMペプチドの一方の末端に負荷電残基を存在させると、比較的均一な形と直径のナノ粒子が形成される。
【0036】
実施例2
本実施例は、親水性オリゴマーの付加がナノ粒子の凝集に影響を与えることを示すものである。
【0037】
親水性オリゴマーを、配列番号1のアミノ酸配列を有するTMペプチドに付加して、以下のもの:配列番号1−PEG11;配列番号1−PEG27;配列番号1−PEG38;および配列番号1−GGGGGを形成させた。
【0038】
親水性オリゴマー(例えば、PEG)を有するペプチドを形成するために、ABI433ペプチド合成装置でFmocアミド樹脂(Applied Biosystem)を脱保護させた。Fmoc−NH−(PEG)11−COOH(NovaBiochem)またはFmoc−NH−(PEG)27−COOH(NovaBiochem)1gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10mlに溶解し、0.5M HBTU/HOBt(O−ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチル−ウロニウム−ヘキサフルオロ−ホスフェート/1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール) ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を等モル量加えて活性化した。脱保護された樹脂(PEGに対して80%のモル量)を活性化されたPEGに加え、18時間振盪機の上で放置した。Fmoc−NH−(PEG)38−COOHのようなさらに長いPEG分子については、該合成装置による脱保護から始めて、この手順を繰り返した。PEG38は、PEG11とPEG27との逐次結合により取得した。所望の長さのPEG分子を有する樹脂を、NMPおよびジクロロメタンで洗浄し、乾燥させて、その後の、伝導度モニタリングユニットを備えた433A Applied Biosystemsペプチド合成装置を用いてのFmocアミノ酸誘導体を利用した固相ペプチド合成によるTMドメイン鎖の構築に使用した。全てのペプチドが、脱保護の間のピペリジン処理の際にアスパルトアミドを形成しやすいAsp残基を含んでいるため、0.25M HOBtを含むNMP中で50%ピペリジンを用いるように、該合成装置を再プログラム化した。溶媒送達時間は、脱保護の間、HOBtの最終濃度が0.1Mに到達するように調整した。
【0039】
HOBtの添加により、通常は質量スペクトルにおいて−18および+60(ピペリジン付加物)の分子量の生成物の出現を伴うアスパルトアミドの形成が完全に抑制された。ペプチドを、5%水、5%チオアニゾール、2.5%トリイソプロピルシラン(TIS)を含む87.5%トリフルオロ酢酸を用いて樹脂から分離し、冷ジエチルエーテルで沈殿させ、エーテルで5回洗浄し、一晩真空乾燥した。DMFに溶解したペプチドを、分取(19×250mm)Atlantis C3逆相カラム(Agilent,Palo Alto,CA)上のHPLCにより、0.05%トリフルオロ酢酸水溶液と0.05%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルとのグラジエントで精製した。フラクションは、Zorbax C3 Poroshellカラム、および0.1酢酸水溶液とアセトニトリルとのグラジエントを用い、Agilent1100シリーズ機器(Agilent,Palo Alto,CA)でのイオンスプレーLC/MCにより分析した。95%超の純産物を含むフラクションのみを合わせて、凍結乾燥を行った。純度および構造を、Zorbax C3分析カラムで分離したイオンスプレーLC/MCにより、さらに確認した。
【0040】
HBTU/HOBt活性化を含む標準Fmocプロトコールを利用した逐次合成法により、所望の長さのポリグリシンオリゴマーをペプチド合成装置で作製した。あらかじめ組み込まれていたGly樹脂(Applied Biosystems)を合成に用いた。
【0041】
ナノ粒子凝集に及ぼす親水性テール長の影響を調べるため、配列番号1;配列番号1−PEG11;配列番号1−PEG27;配列番号1−PEG38;および配列番号1−GGGGGのアミノ酸配列を有するTMペプチドについて、多角度光散乱によりその凝集度を測定した。
【0042】
該ペプチドをDMSOに溶解し、0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH7.2)で希釈して、0.4mg/mlのペプチド溶液を調製した。これを更なる希釈に用いた。DMSOの最終濃度は、2.5%または1.25%とした(一連の全ての希釈を一定とした)。試料を最大強度で10分間超音波処理し、室温で一晩(測定前約20時間)放置した。翌日、該試料を13200rpmで30分間遠心分離した。
【0043】
光散乱(LS)研究を、DAWN EOS多角度検出器(Wyatt Technology Corp., Santa Barbara,CA)により690nmのレーザー波長で行った。LS検出器を、Agilent1100 HPLCシステム(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)に接続した。MALS検出器を、HPLCグレードのトルエン(99.8%(Aldrich Chemicals,Milwaukee,WI)、0.02μMのAnotop−25無機メンブレンフィルターを通して濾過した後、アルブミン(ウシ)98%モノマー(Sigma Chemicals,St.Louis,MO)で標準化されたもの)を用いて調整した。データを、Astraソフトウェア(Wyatt Technology Corp.;version4.90.04)を用いて収集、処理した。
【0044】
ペプチド凝集体の分子量およびその凝集状態を調べるために、LSマイクロバッチ(micro−batch)測定を行った。概要としては、カラム部分を通さずに、溶媒を0.05ml/minの流速でHPLCシステムを通液させた。異なるペプチド濃度の試料900μlを、HPLCオートサンプラーを通して注入した。4種のペプチド濃度(つまり、0.05mg/ml、0.1mg/ml、0.2mg/ml、および0.4mg/ml)を解析した。強力な光散乱は従来のUV吸光度測定を不正確なものとするため、重量測定から濃度を決定した。各濃度についてLSシグナルを収集した。分子量は、Astraソフトウェアを用いてDebyeプロットとZimmの式により、各濃度について別個に測定した。最小誤差を与える収集シグナルの一部分を、各濃度での分子量計算のために選択した。
その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示されたデータによって実証されるように、ナノ粒子の凝集性はPEGの長さが増加するに従って低下した。どちらのタイプの親水性テール(つまり、PEGおよびポリアミノ酸)も、該ナノ粒子の凝集の軽減に有効であった。同程度の長さにおいては、PEGの方がポリグリシンよりも効果が低かった。さらに、ポリアミノ酸伸長は生分解性であるため有利であり、従って、ナノ粒子が細胞膜と融合する能力を微調整するのにさらなる柔軟性を提供する。
【0047】
また、薬剤耐性関連トランスポーターABCG2をターゲッティングするナノ粒子について行った構造−活性研究により、27単位を超えるPEG長の伸長はペプチド阻害剤の生物活性を損なわせ、おそらくは膜融合を妨げることが示唆された。したがって、二重の活性を有する理想的なナノ粒子は、超巨大構造の形成を防ぐのに十分な長さの親水性テールを有するが、該テールは、膜融合を可能にするために標的組織(例えば、腫瘍)においてサイズが減少(分解)し、そうしてナノ粒子を形成するTMペプチドが標的膜タンパク質に対してその阻害効果(例えば、癌細胞の薬剤耐性阻害、腫瘍環境における血管成長の阻害、または腫瘍細胞の転移阻害)を発揮し、組み込まれた疎水性物質(例えば、細胞毒性薬剤)が放出され得るようにすべきである。
【0048】
実施例3
本実施例は、TMペプチドの長さがナノ粒子の凝集に影響を与えることを示すものである。
【0049】
ナノ粒子の凝集に及ぼすTMペプチド長の影響を調べるために、配列番号1−PEG27;配列番号7−PEG27;配列番号8−PEG27;および配列番号9−PEG27のTMペプチドについて、多角度光散乱により凝集度を測定した。配列番号7、8、および9は配列番号1に関する欠失変異体であり、配列番号7は配列番号1のN末端アミノ酸残基を2つ欠失しており、配列番号8は配列番号1のN末端アミノ酸残基を5つ欠失しており、配列番号9は配列番号1のN末端アミノ酸残基を12個欠失しているものである。それらのペプチドは実施例2に記載したようにして作製した。
その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示されたデータによって実証されるように、ナノ粒子の凝集性はTMペプチドの長さが減少するに従って低下した。しかしながら、11アミノ酸残基に短縮されたTM部分を有するペプチドは、ナノ粒子に自己凝集できなかった。
【0052】
実施例4
本実施例は、腫瘍組織におけるナノ粒子の細胞内および腫瘍内取り込みを示すものである。
【0053】
Alexa546蛍光色素でラベルしたCXCR4−TMドメイン2由来PEG化ペプチドを調製した。以下の配列を合成した:配列番号1−Peg11−Hcy−Peg27(Hcyはホモシステインを表わす)。該ペプチドを、2倍過剰のAlexa546 5−マレイミド(Invitrogen)とDMSO中で(濃度は128mg/ml)一晩反応させ、分取(19×250mm)C3カラムで精製した。(2mg/mlのペプチド溶液を作製するため)ペプチド10μlをPBS630μlで希釈して、10分間超音波処理を行い、腫瘍内投与に使用した。
【0054】
ヌードマウスの乳房パッド(breast pad)に100万個のMDA−231乳癌細胞を接種した。6週間後、腫瘍が直径約5mmの大きさになったときに、2mg/ml蛍光ナノ粒子PBS溶液0.1mlを腫瘍付近の乳房パッド(breast pad)に注入した。
【0055】
動物全体および切除した腫瘍を、Maestro 420インビボスペクトル画像化システム(In−Vivo Spectral Imaging System)(Cambridge Resources and Instrumentation,Inc.)を用いて撮像した。その結果、ナノ粒子は注入部位から広範囲に拡散せずに、効果的に腫瘍血管系を透過することがわかった。動物全体においては、注射後30分間、該ナノ粒子は腫瘍組織に局在していた。同様に、24時間後、該ナノ粒子は注入部位から拡散せずに腫瘍組織に局在していた。注射から24時間後に切除した腫瘍の分析から、該ナノ粒子は効果的に腫瘍血管系を透過することが示された。
【0056】
これらの結果により、本発明のナノ粒子を用いて、抗癌剤等の疎水性薬剤を腫瘍組織等の標的組織に送達させ得ることが確認された。
【0057】
実施例5
本実施例は、ある特定のレセプター(例えば、CXCR4)およびトランスポーターのTMドメインから構築されるナノ粒子が独自の生物活性を有し、転移を抑制し得ることを示すものである。
【0058】
0日目に、100万個のMDA−MB−231乳癌細胞をヌードマウスに静脈内注射した。1日目および継続して1週間に2回、マウスの腹腔内に(1)配列番号1−PEG27のTMペプチドのナノ粒子のPBS溶液を3mg/kg;(2)配列番号1−PEG27のTMペプチドのナノ粒子のPBS溶液を12mg/kg;または(3)コントロール(PBSのみ)を注射した。
【0059】
犠牲死または自然死したコントロール群における動物は全て、多数の肺腫瘍を有していた。図3に示したとおり、コントロール群の動物は75日目までに約20%しか生存していなかった。一方、3mg/kgのナノ粒子を投与した動物は75日目までに約40%が生存していた。12mg/kgのナノ粒子を投与した全ての動物は75日目まで100%が生存し、またこれらの動物では体重が増え続けた。このことは、転移が発生していないことを示している。
【0060】
コントロール群における動物、または3mg/kgのナノ粒子を投与した動物において、91日目までに生存しているものはなかったが、12mg/kgのナノ粒子を投与した動物ではかなりの数が試験最終日(140日目)まで生存した。このことは、乳癌のマウスモデルにおいて、ナノ粒子の投与が肺転移を著しく遅延させ、生存期間を延長し得ることを示している。
【0061】
これらの結果により、特定のレセプター(例えば、CXCR4)のTMドメインから構築されるナノ粒子は転移を阻害し得ることが確認された。
【0062】
実施例6
本実施例は、本発明のナノ粒子が水溶液中で疎水性物質と会合する能力があることを示すものである。
【0063】
CXCR4レセプターをターゲッティングするTMドメイン部分から形成されたナノ粒子について、可溶化した疎水性細胞毒性物質との会合能の試験を行った。イミダゾアクリドンおよびビスイミダゾアクリドンは水溶液に難溶性で、環境感受性の蛍光を有することから(Tarasov et al., Photochem. Photobiol., 70(4): 568-578 (1999)を参照)、これらの抗腫瘍剤を用いた。特に、強力な抗腫瘍活性を有する1,8−ナフタルイミドイミダゾ(4,5,1−デ)アクリドン誘導体であるHKA40A(米国特許第6,664,263号を参照)、および環境感受性の蛍光特性を有するイミダゾアクリドン(5−{3−[4−(アミノプロピル)−ピペラジン−1−イル]−プロピルアミノ}−2,10b−ジアザ−アセアントリレン−6−オン)であるWMC77(米国特許第6,187,775号を参照)を用いた。
【0064】
得られた0.038mg/ml HKA40A溶液の外観は、オレンジ色の沈殿物を有する無色透明の液体であった。対照的に、0.4mg/mlナノ粒子(配列番号1−PEG27)PBS溶液中の等濃度のHKA40Aは、沈殿物のない黄色の透明な溶液であった。
【0065】
様々な量のナノ粒子(配列番号1−PEG11または配列番号1−PEG38)をWMC77溶液に添加した。その蛍光発光強度および発光最大値の変化を測定し、結果を図1および2に示した。これらの結果は、蛍光発光強度および発光最大値の変化が該ナノ粒子の量の増加に伴って増大することを示した。このことは、蛍光色素分子が疎水性環境の中に移動していることを示している。
【0066】
さらに、表3のデータに示されたように、WMC77(最終濃度300nM)をAlexa546でラベルしたナノ粒子(実施例4に示したとおりに作製)と混合させると、ナノ粒子とWMC77との間の緊密な相互作用が示す蛍光エネルギー転移が観察された。
【0067】
【表3】

【0068】
これらの実験結果から、本発明のナノ粒子は水溶液中で疎水性物質と会合し、該物質に疎水性環境を提供することが確認された。
【0069】
本明細書において引用された、刊行物、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、参照することにより本明細書に含まれることを個別におよび具体的に示され、また本明細書にその全体が示されているのと同じ程度に、参照することにより本明細書に含まれる。
【0070】
用語「a」および「an」および「the」および同様の指示語の、本発明を説明する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)における使用は、本明細書中に他に示されていないか、または明らかに文脈に矛盾しない限り、単数および複数の両方に及ぶものと解釈されるべきである。用語「含有する(comprising)」、「有する(having)」、「包含する(including)」及び「含む(containing)」は、他に留意されていない限り、自由に開放された用語(つまり、「含むが、特に限定されない」という意味)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書中に他に示されていない限り、単に該範囲に収まるそれぞれの別個の値に個別に言及する簡単な方法として目的を果たすものであり、それぞれの別個の値は、個別に本明細書中に列挙されているかのように本明細書の中に含まれる。本明細書中で説明される方法は全て、本明細書中に他に示されていない限り、または他に明らかに文脈に矛盾しない限り、任意の適当な順序で行われることができる。本明細書において提供される、任意のおよび全ての例または例となる用語(例えば、「そのような」)の使用は、単に本発明をより明らかにするよう意図されているものであり、他に要求されない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書における言葉遣いは、任意のクレームされていない要素が本発明の実施に必要不可欠であることを示すものとして解釈すべきではない。
【0071】
本発明の好ましい実施態様は本明細書の中に説明されており、本発明の実施について本発明者らに知られている最良の形態を含んでいる。これらの好ましい実施態様を変形したものは、前述の説明を読んだ上で当業者にとって明白になり得る。本発明者らは、そのような変形を適切なものとして当業者が用いることを予期し、そして本発明者らは、本明細書中に具体的に説明されているものとは別に本発明が実施されることを意図する。したがって、本発明は、本明細書に添付された特許請求の範囲に列挙される主題を改良したものおよび同等のものを全て、適用法により認められたものとして包含する。さらに、上記の要素の任意の組み合わせは、全ての可能性のあるその変形において、本明細書中に他に示されておらず、または明らかに文脈に他に矛盾しない限り、本発明により包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性物質の処理方法であって、
(a)(i)疎水性物質と、(ii)内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインの構造アナログであって、一方の末端に1以上の負荷電残基を有する単離されたペプチドとを、水溶液中で混合すること、および
(b)該ペプチドが自己凝集して、該疎水性物質を含有するナノ粒子になるようにすること
を含む方法。
【請求項2】
内在性膜タンパク質が、Gタンパク質共役型レセプターまたはABCトランスポーターである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
疎水性物質が、抗癌剤である、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
さらに、腫瘍細胞において過剰発現する細胞表面レセプターに特異的に結合するリガンドを該ペプチドに付加することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに、ポリエチレングリコール、ウンデカエチレングリコール、ポリグリシンおよびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる親水性オリゴマーを、1以上の負荷電残基を含む、該ペプチドの末端に付加することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ナノ粒子が、約3nm〜約50nmの直径を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ナノ粒子が、約8nm〜約20nmの直径を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ペプチドが、内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインのアミノ酸配列と同一である、少なくとも約10のアミノ酸を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ペプチドが、内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインのアミノ酸配列と同一である、少なくとも約15のアミノ酸を含有する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ペプチドが、内在性膜タンパク質の膜貫通ドメインのアミノ酸配列と同一である、少なくとも約20のアミノ酸を含有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
さらに、(c)該疎水性物質を含む該ナノ粒子を対象に投与することを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
対象が、ヒトである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
疎水性物質が、癌細胞の増殖阻害、転移の阻害、血管新生の阻害、癌細胞の薬剤耐性阻害およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一の生物活性を有する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
ナノ粒子が、癌細胞の薬剤耐性阻害、転移の阻害、血管新生の阻害およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二の生物活性を有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法により製造されるナノ粒子の組成物。
【請求項16】
疎水性物質が、抗癌剤である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
治療上有効な量の、請求項16記載の組成物を対象に投与することを含む、該対象における腫瘍成長の阻害方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−509241(P2010−509241A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535502(P2009−535502)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/083772
【国際公開番号】WO2008/058125
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(304048296)アメリカ合衆国 (18)
【Fターム(参考)】