説明

膜電極接合体、燃料電池および膜電極接合体の製造方法

【課題】インピーダンスが低くてクロスオーバーが抑制された膜電極接合体と、前記膜電極接合体を用いる燃料電池とを提供すると共に、前記膜電極接合体の製造が容易となる膜電極接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】燃料極4と、酸化剤極3と、前記燃料極4及び前記酸化剤極3の間に配置された電解質膜2とを具備する膜電極接合体1であって、前記電解質膜2は、厚さ1μm以下で、厚さ方向に貫通した貫通孔5を有し、かつ前記貫通孔5の孔径の平均値が前記厚さ以下の大きさである無機多孔質膜6と、前記無機多孔質膜6の前記貫通孔5内に充填されたプロトン伝導性電解質7とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及びその製造方法と、膜電極接合体を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電子機器の小型化、高性能化、ポータブル化が進んでおり、携帯用電子機器においては、使用される電池の高エネルギー密度化への要求が高まっている。そのため、軽量で小型でありながら高容量の二次電池が要求されている。
【0003】
このような状況のもと、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC:direct methanol fuel cell)は、エネルギー密度の高いメタノールを燃料として使用し、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出すことができるため、有機燃料を改質して水素を作り出すための改質器が不要で小型化が可能であり、出力密度が高いので、携帯機器用の電源として有望視されている。
【0004】
DMFCでは、燃料極においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。一方、酸化剤極(空気極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトンと、燃料極から外部回路を通じて供給される電子とによって水が生成される。また、この外部回路を通る電子によって電力が供給される。(例えば、特許文献1、特許文献2参照)
しかしながら、このような構成の燃料電池では、電解質膜を通って燃料極から空気極へメタノールが透過してしまう結果、発電電位が低下することが問題になっている。すなわち、デュポン社のナフィオン(登録商標)に代表される高分子電解質膜では、その高いプロトン導電性が、含水状態のクラスターネットワークを通して発揮される。このため、メタノールを使用する燃料電池においては、メタノールが水に混ざってクラスターネットワークを通り、カソードに拡散する現象(クロスオーバー)が生じる。そして、このようなメタノールクロスオーバーが生じた場合には、供給された燃料と酸化剤とが直接反応してしまうため、エネルギーを電力として出力することができず、安定した高い出力を得ることができないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、電解質を多孔質膜に充填することで、電解質の膨潤を抑え、それによりメタノールのクロスオーバーを防止する技術が提案されている。(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3413111号公報
【特許文献2】国際公開第2005/112172号パンフレット
【特許文献3】特開2002−83612号公報
【非特許文献1】「細孔フィリング重合法による燃料電池用電解質膜の開発」,東亞合成研究年報TREND,2004,第7号,p.34〜36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記した特許文献3や非特許文献1に記載された技術では、電解質が多孔質膜の孔部分に偏在するため、膜全体としてはインピーダンスが上昇してしまう。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、インピーダンスが低くてクロスオーバーが抑制された膜電極接合体と、前記膜電極接合体を用いる燃料電池とを提供すると共に、前記膜電極接合体の製造が容易となる膜電極接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る膜電極接合体は、燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する膜電極接合体であって、
前記電解質膜は、厚さ1μm以下で、厚さ方向に貫通した貫通孔を有し、かつ前記貫通孔の孔径の平均値が前記厚さ以下の大きさである無機多孔質膜と、前記無機多孔質膜の前記貫通孔内に充填されたプロトン伝導性電解質とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る燃料電池は、前記膜電極接合体を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る膜電極接合体の製造方法は、剥離フィルム上に、厚さ1μm以下で、厚さ方向に貫通した貫通孔を有し、かつ前記貫通孔の孔径の平均値が前記厚さ以下の大きさである無機多孔質膜を形成する工程と、
前記無機多孔質膜の前記貫通孔にプロトン伝導性電解質を充填する工程と、
前記無機多孔質膜上に、前記燃料極及び前記酸化剤極のうち一方極を形成する工程と、
前記剥離フィルムを前記無機多孔質膜から剥離する工程と、
前記剥離フィルムが剥離された前記無機多孔質膜上に、前記燃料極及び前記酸化剤極のうち他方極を形成する工程と
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インピーダンスが低くてクロスオーバーが抑制された膜電極接合体と、前記膜電極接合体を用いる燃料電池とを提供すると共に、前記膜電極接合体の製造が容易となる膜電極接合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る一実施形態の複合電解質膜の構成を模式的に示す断面図である。実施形態の膜電極接合体1は、図1に示すように、電解質膜2と、電解質膜2の一方の面に形成された酸化剤極(例えば空気極)3と、電解質膜2の反対側の面に形成された燃料極4とを具備する。電解質膜2は、厚さ方向Tに貫通した貫通孔5を有する厚さ1μm以下の無機多孔質膜6と、無機多孔質膜6の貫通孔5内に充填されたプロトン伝導性電解質7とを含む。貫通孔5の面方向の孔径の平均値は、無機多孔質膜6の厚さ(貫通孔5の深さ)と等しいか、あるいはそれ以下である、換言すると、貫通孔5のアスペクト比(貫通孔5の深さ/孔径)は1以上である。酸化剤極3は、電解質膜2と対向している酸化剤極触媒層8と、酸化剤極触媒層8に積層された酸化剤極拡散層9とを含む。一方、燃料極4は、電解質膜2と対向している燃料極触媒層10と、燃料極触媒層10に積層された燃料極拡散層11とを含む。
【0014】
無機多孔質膜6を構成する無機材料としては、例えば、アルミナ、シリカ(SiO2)、ジルコニアなどの酸化物セラミック、窒化珪素などの窒化物セラミック、炭化ケイ素などの炭化物セラミックなどが挙げられる。その中でもシリカの使用が好ましい。
【0015】
無機多孔質膜6の厚さを1μm以下にすることにより、電解質膜2のプロトン伝導性が向上される反面、燃料のクロスオーバーと、プロトン伝導性電解質7の膨潤が顕著となる。貫通孔5の面方向の孔径の平均値を無機多孔質膜6の厚さ(貫通孔5の深さ)と等しいか、あるいはそれ以下にすることによって、貫通孔5に充填された電解質7の膨潤を抑えることができ、燃料(例えばメタノール)の透過を抑制することができる。貫通孔の孔径が大きく面方向に大きく広がっている場合には、充填された電解質が含水時に大きく垂直方向に膨潤するため、無機多孔質膜による抑えこみの効果が低くなる。本願発明では、電解質7の膨潤が抑制された結果、燃料の透過が抑えられるだけでなく、酸化剤極3及び燃料極4の電解質膜2との密着性を良好に保つことができることから、インピーダンスが小さくなる。よって、このような膜電極接合体を燃料電池に用いることにより、小型で性能が高く、安定した出力が供給可能となる。
【0016】
無機多孔質膜6の厚さは、薄い方がプロトン伝導性が高くなるものの、電解質膜2の強度不足により出力性能が低下する恐れがあることから、無機多孔質膜6の厚さは0.1μm以上、1μm以下にすることがより好ましい。さらに好ましい範囲は0.2μm以上、1μm以下である。また、貫通孔5の平均径は、無機多孔質膜6の厚さ以下の大きさであれば特に限定されるものではないが、0.01μm以上、0.5μm以下にすることが望ましい。平均径を0.01μm以上にすることによって、高いプロトン伝導性を得ることができる。また、平均径を0.5μm以下にすることによって、燃料のクロスオーバーと電解質膜2の体積変化とを十分に抑えることができる。よって、0.01μm以上、0.5μm以下にすることによって、出力性能がさらに改善される。平均径のさらに好ましい範囲は、0.01μm以上、0.2μm以下である。
【0017】
貫通孔5の開口率(開口の総面積が無機多孔質膜6の片面の面積に占める割合)は、5%以上であることが好ましく、特に5%以上、45%以下の範囲が好ましい。
【0018】
無機多孔質膜の貫通孔は、厚さ方向に沿って、すなわち主面(燃料極もしくは酸化剤極と対向する面)に対して貫通して形成(好ましくは垂直方向に形成)されたものであればよく、断面形状(面方向に切断した際に得られる断面)は特に限定されない。円形、四角形、五角形、六角形などの断面形状が考えられる。また、異なる大きさ(直径)や異なる形状の孔を組み合わせてもよい。
【0019】
無機多孔質膜の貫通孔に充填されるプロトン伝導性電解質としては、パーフルオロアルキルスルホン酸重合体などのフッ素系樹脂(米国デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭硝子社製のフレミオンなど)や、ポリビニルスルホン酸、ポリエーテルケトンスルホン酸などのポリスチレンスルホン酸以外のスルホン酸基を有する炭化水素系樹脂の使用も可能である。さらにスルホン酸基を有するスチレン系ポリマーも挙げられる。架橋構造を有するポリスチレンスルホン酸の使用も好ましい。ポリスチレンスルホン酸は、スチレンスルホン酸エチルなどのスチレン系モノマーとジビニルベンゼンとを重合させることにより形成することができ、このような反応を貫通孔内で行わせることで、ポリスチレンスルホン酸を貫通孔に充填することができる。ポリスチレンスルホン酸のような架橋構造を有する高分子電解質を用いることで、含水時の低膨張(低膨潤)を実現することができる。
【0020】
燃料極触媒層および酸化剤極触媒層に含有される触媒としては、例えば、白金族元素であるPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pdなどの単体金属、これらの白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。具体的には、燃料極触媒層として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなどの合金を、酸化剤極触媒層として、白金やPt−Niなどの合金を用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンのような導電性担持体に、前記した触媒の微粒子を担持したカーボン担持触媒を使用してもよい。
【0021】
燃料極触媒層に積層された燃料極拡散層は、燃料極触媒層に燃料を均一に供給する役割を果たすとともに、燃料極触媒層の集電体としての機能をも兼ね備えている。一方、酸化剤極触媒層に積層された酸化剤極拡散層は、酸化剤極触媒層に酸化剤である空気を均一に供給する役割を果たすとともに、酸化剤極触媒層の集電体としての機能をも兼ね備えている。
【0022】
燃料極拡散層および酸化剤極拡散層はいずれも導電性物質から構成されている。導電性物質としては、公知の材料を用いることができるが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために、多孔質のカーボン織布またはカーボンペーパの使用が好ましい。
【0023】
上記膜電極接合体の製造方法を図2〜図6を参照して以下に説明する。図2に示すように、ポリテトラフルオロエチレンフィルムのような剥離膜12上に無機材料膜6を形成する。例えば、真空スパッタ法や反応スパッタ法などのスパッタ法、あるいはCVD法やPVD法などの蒸着法により、シリカ(SiO2)などの無機材料膜を形成する。剥離膜12の厚さは50μm以上、300μm以下にすることが望ましい。これは、剥離膜12の厚さを50μm未満にすると、剥離膜12の強度が不足する恐れがあり、一方、剥離膜12の厚さが300μmを超えると、電解質膜2から剥離膜12を剥がすのが困難になるからである。
【0024】
次いで、無機材料膜6に厚さ方向に貫通した貫通孔を形成する。貫通孔は、無機材料から成る膜の所定の位置にフォトリソグラフィにより精密に形成される。例えば、この無機材料膜6の上にフォトレジストを塗布し、次いで所定のパターンのマスクを用いて露光し、ベークした後、無機材料膜をエッチングし、最後にフォトレジストを剥離する。こうして、図3に示す通りに、所定のパターンで精密に配列された多数の微細な貫通孔5が無機材料膜6に形成される。
【0025】
次いで、無機材料膜6の貫通孔5にプロトン伝導性電解質7を充填して電解質膜2を形成した後、図4に示すように、電解質膜2上に酸化剤極触媒層8を形成する。酸化剤極触媒層8の形成方法としては、酸化剤極触媒に、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液と水およびメトキシプロパノールを添加して得られた触媒層前駆体ペーストを、コーターやスプレーによって塗布形成する。溶媒が揮発するときの体積変化で触媒層にひび割れが発生することが問題となっており、厚塗りでは特にひび割れが顕著である。そこで少しずつ多層に分けて形成することが求められており、スプレーで少しずつ塗ると同時に溶媒を乾燥させる方法が好ましい。
【0026】
得られた積層物を酸化剤極拡散層9に転写させ、剥離膜12を剥がす。剥離膜12を剥がした電解質膜2の表面に、予め燃料極拡散層11に積層した燃料極触媒層10を加熱圧着し、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly )を完成させる。燃料極触媒層10の形成方法としては、燃料極触媒に、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液と水およびメトキシプロパノールを添加して得られた触媒層前駆体ペーストを、コーターやスプレーによって塗布形成する。溶媒が揮発するときの体積変化で触媒層にひび割れが発生することが問題となっており、厚塗りでは特にひび割れが顕著である。そこで少しずつ多層に分けて形成することが求められており、スプレーで少しずつ塗ると同時に溶媒を乾燥させる方法が好ましい。なお、燃料極拡散層11に燃料極触媒層10を積層する代わりに、電解質膜2上に燃料極触媒層10を形成した後、この燃料極触媒層10に燃料極拡散層11を積層しても良い。また、前述した図2〜図6では、酸化剤極3を先に電解質膜2に形成したが、酸化剤極3の代わりに燃料極4を先に電解質膜2に形成しても良い。
【0027】
前述したように、インピーダンスを下げるためには、できるだけ薄い膜が必要となるが、膜を1μm以下と薄くすると多孔質膜の強度が低下し、膜の取り扱いが非常に困難となる。無機多孔薄膜を直接に電極の触媒層上に形成しようとしたところ、無機材料膜の理想的な膜厚よりも触媒層の塗工による凹凸が大きく、無機材料膜を良好に形成することができなかった。
【0028】
本実施形態に係る製造方法によれば、剥離膜12のような平滑な膜上に電解質膜2を形成するため、厚さが1μm以下と薄くても、均一な電解質膜2を得ることができる。得られた電解質膜2を剥離膜12から酸化剤極3もしくは燃料極4に転写させるため、製造途中に電解質膜2のみを単独で取り扱うことがなく、膜電極接合体の製造を簡素化することができる。つまり、高出力な燃料電池を容易な方法で製造することが可能となる。
【0029】
このように構成される膜電極接合体は、燃料電池に設置され、燃料供給と空気供給により電力を発現する。燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分を燃料極に供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、セミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAの燃料極へ供給する一方、酸化剤極に対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAの燃料極に気化したメタノールを自然供給で送り、一方酸化剤極に対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料を循環しないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【0030】
液体燃料としては、メタノール水溶液、または純メタノールを使用した直接メタノール型が用いられるが、これらに限られるものではない。例えば、例えばエタノール水溶液や純エタノールなどのエタノール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、もしくはその他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が収容される。
【0031】
[実施例]
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0032】
(実施例1)
前述した図1に示すMEAを、以下に示すようにして作製した。すなわち、厚さ100μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム上に、スパッタ法により表1に示す厚さおよび材料の無機材料膜を形成した。
【0033】
この無機材料膜にフォトリソ法により、表1に示す平均孔径および、開口率40%の貫通孔のパターンを形成した。貫通孔の形成においては、無機材料膜の上にフォトレジストを塗布した後、所定のパターンのマスクを用いて露光しベークした後、無機材料膜をエッチングし、最後にフォトレジストを剥離した。こうして、無機多孔質膜を得た。
【0034】
無機多孔質膜の平均孔径の測定方法を以下に示す。
【0035】
孔を囲む最小円の直径を孔径と定義して、一定の面積中に存在する孔の径を測定し、その平均値を求めた。
【0036】
次いで、得られた多孔質膜に、有機高分子電解質であるパーフルオロカーボンスルホン酸の溶液(ナフィオン溶液)を含浸させ、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後の空隙を埋めるために、さらに数回含浸・乾燥を繰り返して、多孔質膜の空孔内にパーフルオロカーボンスルホン酸を完全に充填した。
【0037】
こうして得られたナフィオン充填膜の上に、白金−ルテニウム(Pt−Ru)合金微粒子を担持したカーボン粒子にパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と水およびメトキシプロパノールを添加して得られた触媒層前駆体ペーストを、スプレーによって塗布形成した。スプレーで少しずつ塗ると同時に溶媒を常温で乾燥させた。その上に燃料極拡散層である多孔質カーボンペーパを加熱融着させ、燃料極を形成した。
【0038】
次に、ナフィオン充填膜からポリテトラフルオロエチレン{テフロン(登録商標)}膜を剥離した。白金微粒子を担持したカーボン粒子に、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液と水およびメトキシプロパノールを添加して得られた触媒層前駆体ペーストを、ナフィオン充填膜のPTFEフィルムを剥離した面にスプレーを用いて塗布した後、常温で乾燥して酸化剤極触媒層を形成した。その上に酸化剤極拡散層である多孔質カーボンペーパを融着し、空気極を形成した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cm2とした。
【0039】
次いで、こうして作製されたMEAを用いて、パッシブ型燃料電池を作製した。そして、この燃料電池の液体燃料タンクに純メタノールを10ml注入し、空気極側のメタノールの排出量を測定した。さらに1kHz交流インピーダンスを測定した後、温度25℃、相対湿度50%の環境の下、電流値を変化させて単位面積あたりの最大出力を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0040】
(実施例2〜6及び比較例1,2)
無機材料膜の厚さ、貫通孔の平均孔径、使用する無機材料の種類を下記表1に示すように設定すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にしてパッシブ型燃料電池を作製し、実施例と同様の測定を行った。これらの測定結果を表1に示す。
【表1】

【0041】
表1から明らかな通りに、実施例1〜6では、いずれも、無機多孔質膜の厚さが1μm以下で、かつ貫通孔の平均孔径が無機多孔質膜の厚さよりも小さい関係を満足している。このような実施例1〜6によると、メタノールクロスオーバー量が少なく、インピーダンスが小さく、最大出力が大きかった。
【0042】
これに対し、無機多孔質膜の厚さが1μm以下であるものの、貫通孔の平均孔径が無機多孔質膜の厚さよりも大きい比較例1では、インピーダンスが小さい反面、メタノールクロスオーバー量が多かったため、最大出力が実施例1〜6に比して劣っていた。また、貫通孔の平均孔径が無機多孔質膜の厚さよりも小さいものの、無機多孔質膜の厚さが1μmを超えている比較例2では、インピーダンスが著しく大きくなり、最大出力が実施例1〜6に比して劣ったものとなった。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。また、アクティブ型燃料電池及びセミパッシブ型の燃料電池においても、上記した説明と同様の作用効果が得られる。MEAへ供給される液体燃料の蒸気においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る膜電極接合体を示す断面図。
【図2】図1の膜電極接合体の製造における無機材料膜の形成工程を示す断面図。
【図3】図1の膜電極接合体の製造における無機材料膜への貫通孔形成工程を示す断面図。
【図4】図1の膜電極接合体の製造における酸化剤極触媒層の形成工程を示す断面図。
【図5】図1の膜電極接合体の製造における酸化剤極拡散層の形成工程を示す断面図。
【図6】図1の膜電極接合体の製造における燃料極の形成工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
1…膜電極接合体(MEA)、2…電解質膜、3…酸化剤極、4…燃料極、5…貫通孔、6…無機材料膜、7…電解質、8…酸化剤極触媒層、9…酸化剤極拡散層、10…燃料極触媒層、11…燃料極拡散層、12…剥離膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する膜電極接合体であって、
前記電解質膜は、厚さ1μm以下で、厚さ方向に貫通した貫通孔を有し、かつ前記貫通孔の孔径の平均値が前記厚さ以下の大きさである無機多孔質膜と、前記無機多孔質膜の前記貫通孔内に充填されたプロトン伝導性電解質とを含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記無機多孔質膜の厚さが0.1μm以上、1μm以下で、かつ前記貫通孔の孔径の平均値が0.01μm以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項3】
請求項1または2記載の膜電極接合体を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1または2記載の膜電極接合体の製造方法であって、
剥離フィルム上に、厚さ1μm以下で、厚さ方向に貫通した貫通孔を有し、かつ前記貫通孔の孔径の平均値が前記厚さ以下の大きさである無機多孔質膜を形成する工程と、
前記無機多孔質膜の前記貫通孔にプロトン伝導性電解質を充填する工程と、
前記無機多孔質膜上に、前記燃料極及び前記酸化剤極のうち一方極を形成する工程と、
前記剥離フィルムを前記無機多孔質膜から剥離する工程と、
前記剥離フィルムが剥離された前記無機多孔質膜上に、前記燃料極及び前記酸化剤極のうち他方極を形成する工程と
を具備することを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記燃料極及び前記酸化剤極の触媒層は、前記無機多孔質膜上に触媒層前駆体ペーストをスプレーで塗布することにより形成されることを特徴とする請求項4記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記剥離フィルムにポリテトラフルオロエチレンフィルムを用いることを特徴とする請求項4乃至5のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−276989(P2008−276989A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116169(P2007−116169)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】