説明

膜電極接合体および燃料電池

【課題】安定した高い出力を得ることができる燃料電池用の膜電極接合体(MEA)を提供する。
【解決手段】このMEA1は、燃料極触媒層2と燃料極ガス拡散層3からなる燃料極4と、空気極触媒層5と空気極ガス拡散層6からなる空気極7、および燃料極触媒層2と空気極触媒層5との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜8とを備えている。そして、燃料極触媒層2と空気極触媒層5は、いずれも触媒とプロトン伝導性を有する電解質を含んでおり、これらの層の少なくとも一方は、電解質の含有割合の異なる複数の層が積層された構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電極膜接合体、特に小型の液体燃料直接供給型の燃料電池用の電極膜接合体と、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電子機器の小型化、高性能化、ポータブル化が進んでおり、携帯用電子機器においては、使用される電池の高エネルギー密度化への要求が高まっている。そのため、軽量で小型でありながら高容量の二次電池が要求されている。
【0003】
このような状況のもと、リチウムイオン二次電池に代わって小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC:direct methanol fuel cell)は、エネルギー密度の高いメタノールを燃料として使用し、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出すことができる。そのため、水素ガスを使用する燃料電池に比べて、水素ガス取り扱いの困難さがないうえに、有機燃料を改質して水素を作り出すための改質器が不要で小型化が可能であり、かつ出力密度が高いので、携帯機器用の電源として有望視されている。
【0004】
DMFCでは、燃料極においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。一方、空気極(酸化剤極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成される。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる。
【0005】
DMFCにおいては、このような構成で発電を進めるために、メタノールを供給するポンプや空気を送り込むブロワを備え、複雑な形態を成すシステムが開発されている。そのため、十分に小型化を図ることは難しかった。そこで、メタノールをポンプで供給するのではなく、メタノール収容室と発電素子の間にメタノールの分子を通す膜を設け、メタノール収容室を発電素子の近傍まで近づけることで小型化を進めることが行われている。また、空気の取り入れについては、ブロワを用いず、発電素子に直接取り付けた吸気口を設置することで、小型化を図ったDMFCが提案されている。しかし、このような小型DMFCは、機構が簡略化された代わりに、温度などの外部環境要因の影響を受けた場合、出力を安定して高く発現することが困難となっていた。
【0006】
そこで、燃料収容室部分と負極の間に多孔体を設置し、メタノールの供給量を制御する技術が提案されている。また、空孔をもつカーボン基体に触媒を染み込ませて触媒層を形成する技術なども提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2参照)
【0007】
さらに、電解質膜を通って燃料極から空気極へメタノールが透過してしまう結果発電電位が低下することを防止するため、空気極などの触媒層中に固体高分子電解質を付加することで、電解質膜を透過するメタノールの拡散を防止し、選択的にプロトンを透過するように構成した提案がなされている。(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)
【特許文献1】特開2004−171844公報
【特許文献2】USP6,221,523
【特許文献3】特開平4−132168号公報
【特許文献4】USP6,740,434
【特許文献5】USP6,821,659
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の燃料電池では、燃料極において生成されたプロトンが電解質膜に十分に受け渡されず、触媒層を厚くしても出力が変わらない現象が生じていた。特に、燃料として濃度の高いメタノールを使用する場合には、空気極で生じた水が燃料極側に十分に還流されず、燃料極での発電効率が低下する結果、出力が低下してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、安定した高い出力を得ることができる燃料電池用の膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の膜電極接合体の第1の態様は、燃料極ガス拡散層と、該燃料極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む燃料極触媒層とを備える燃料極と、空気極ガス拡散層と、該空気極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む空気極触媒層とを備える空気極と、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層とに挟持された固体高分子電解質膜を具備する膜電極接合体であり、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層の少なくとも一方は、隣接する層と前記電解質の含有割合の異なる3層以上の触媒基層が積層されて構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の膜電極接合体の第2の態様は、燃料極ガス拡散層と、該燃料極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む燃料極触媒層とを備える燃料極と、空気極ガス拡散層と、該空気極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む空気極触媒層とを備える空気極と、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層とに挟持された固体高分子電解質膜を具備する膜電極接合体であり、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層の少なくとも一方は、隣接する層と前記電解質の含有割合の異なる2層以上の触媒基層が積層されて構成されており、かつ前記電解質の含有割合が最も高い触媒基層における含有割合が、前記電解質の含有割合が最も低い触媒基層における含有割合の2〜60倍であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の燃料電池は、燃料極と空気極と前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜とを有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記燃料極に燃料を供給する燃料供給機構とを具備する燃料電池であり、前記膜電極接合体は、前記した本発明の第1の態様または第2の態様の膜電極接合体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の膜電極接合体によれば、燃料極の触媒層と空気極の触媒層の少なくとも一方において、プロトン伝導性を有する電解質の含有割合の異なる複数の触媒基層が積層されているので、還流したプロトンが浸透圧現象により触媒基層の層間を容易に移動する。したがって、このように複数の触媒基層が積層された触媒層の層全体に亘ってプロトンを行き渡らせるとともに、そのプロトンを電解質膜に効率よく受け渡すことができ、出力を上げることができる。
【0014】
また本発明によれば、このような膜電極接合体を備えているので、小型で性能が高く、安定した高い出力を供給可能な燃料電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る実施の形態のDMFC用膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly )の構成を模式的に示す断面図である。
【0017】
実施形態のMEA1は、図1に示すように、燃料極触媒層2と燃料極ガス拡散層3からなる燃料極(アノード)4と、空気極触媒層5と空気極ガス拡散層6からなる空気極(カソード)7、および燃料極触媒層2と空気極触媒層5との間に挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜8とを備えている。そして、燃料極触媒層2と空気極触媒層5は、いずれも触媒およびプロトン伝導性を有する電解質を含んでおり、これらの層の少なくとも一方は、前記電解質の含有割合の異なる複数の基層(以下、触媒基層と示す。)が積層された構造を有している。なお図1において、符号2a、2b、2c………は、燃料極触媒層2を構成する触媒基層を示し、符号5a、5b、5c………は、空気極触媒層5を構成する触媒基層を示す。
【0018】
燃料極触媒層2および空気極触媒層5に含有される触媒としては、例えば、白金族元素であるPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pdなどの単体金属、これらの白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。具体的には、燃料極触媒層2として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなどの合金を、空気極触媒層5として、PtやPt−Niなどの合金を用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、前記した触媒の微粒子を導電性担持体に担持した担持触媒を使用してもよい。導電性担持体としては、活性炭や黒鉛などの粒子状のカーボンまたは繊維状のカーボンが使用される。
【0019】
また、燃料極触媒層2および空気極触媒層5に含有されるプロトン伝導性を有する電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸重合体のようなスルホン酸基を有するフッ素系樹脂(商品名ナフィオン(デュポン社製)、商品名フレミオン(旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸、硝酸リチウムなどの無機物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
燃料極触媒層2と空気極触媒層5の少なくとも一方の層において、積層される触媒基層の数(積層数)は、2層以上であればよいが、3層以上であることがより好ましい。各触媒基層における電解質の含有割合は、特に限定されず、隣接する触媒基層との間で電解質の含有割合が異なるように調整されていればよい。電解質の含有割合が最も高い触媒基層における含有割合が、最も低い触媒基層における含有割合の2〜60倍の範囲になるように調整することが好ましい。
【0021】
また、形成の容易さの点から、電解質の含有割合が異なる2種類の触媒基層、すなわち電解質の含有割合が低い低含有層と、この低含有層に比べて電解質の含有割合が2〜60倍高い高含有層とを交互に積層し、2層以上より好ましくは3層以上の積層構造を形成することが好ましい。例えば、図1においては、燃料極触媒層2を構成する触媒基層2a、2b、2c………のうちで、2a、2c………が低含有層で2b、2d………が高含有層となっており、低含有層2a、2c………と高含有層2b、2d………が交互に積層・配置されている。なお、低含有層2a、2c………と高含有層2b、2d………のどちらを電解質膜8に近い側に配置してもよい。また、空気極触媒層5を構成する触媒基層5a、5b、5c………についても同様である。
【0022】
さらに、積層された触媒基層2a、2b、2c………および5a、5b、5c………の厚さは、それぞれ1〜10μmの範囲とすることが好ましい。触媒基層2a、2b、2c………および5a、5b、5c………の厚さが1μm未満である場合には、積層の効果が現出せず好ましくない。また、触媒基層2a、2b、2c………および5a、5b、5c………の厚さが10μmを超えると、各触媒基層の界面でプロトンの受け渡しが十分に行われなくなるので、出力が低下する。また、これら触媒基層の複数層を積層して構成される触媒層(燃料極触媒層2と空気極触媒層5)全体の厚さが厚くなり過ぎるため、好ましくない。
【0023】
燃料極触媒層2に積層された燃料極ガス拡散層3は、燃料極触媒層2に燃料を均一に供給する役割を果たすとともに、燃料極触媒層2の集電体としての機能を兼ね備えている。一方、空気極触媒層5に積層された空気極ガス拡散層6は、空気極触媒層5に酸化剤である空気を均一に供給するとともに、空気極触媒層5の集電体としての機能を兼ね備えている。
【0024】
燃料極ガス拡散層3および空気極ガス拡散層6は、いずれも導電性物質から構成されている。導電性物質としては公知の材料を用いることができるが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために、多孔質のカーボン織布またはカーボンペーパーの使用が好ましい。
【0025】
燃料極触媒層2と空気極触媒層5との間に挟持された電解質膜8を構成するプロトン伝導性の材料としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオンやフレミオン等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、これらに限られるものではない。
【0026】
このように構成される実施形態のMEA1は、燃料電池に設置され、燃料供給と空気供給により電力を発現する。
【0027】
次に、実施形態のMEA1を備えたパッシブ方式の燃料電池について説明する。図2は、本発明に係る一実施形態の直接メタノール型燃料電池(DMFC)10の断面を模式的に示す図である。
【0028】
図2に示すように、本発明に係る一実施形態の燃料電池10は、起電部として前記したMEA1を備えている。MEA1の燃料極ガス拡散層3には、燃料極導電層11が積層され、空気極ガス拡散層6には、空気極導電層12が積層されている。燃料極導電層11および空気極導電層12は、例えば、金等の導電性金属材料のメッシュのような多孔質層で構成される。なお、燃料極導電層11および空気極導電層12は、周縁から燃料や酸化剤が漏れないように構成される。
【0029】
実施形態の燃料電池10においては、矩形枠状を有する燃料極シール材13が、MEA1の電解質膜8と燃料極導電層11との間に配置されるとともに、燃料極触媒層2および燃料極ガス拡散層3の周囲を囲んでいる。一方、矩形枠状を有する空気極シール材14が、電解質膜8と空気極導電層12との間に配置されるとともに、空気極触媒層5および空気極ガス拡散層6の周囲を囲んでいる。燃料極シール材13および空気極シール材14は、例えばゴム製のOリングなどで構成され、MEA1からの燃料漏れおよび酸化剤漏れを防止している。なお、燃料極シール材13および空気極シール材14の形状は、矩形枠状に限定されず、燃料電池10の外縁形に対応するように適宜に構成される。
【0030】
そして、実施形態の燃料電池10は、液体燃料Fを収容する液体燃料タンク15を備えており、この液体燃料タンク15の開口部を覆うように気液分離膜16が配設され、気液分離膜16上に、燃料電池10の外縁形に対応した形状の燃料極側フレーム17が配置され固定されている。気液分離膜16は、シリコーンゴム、フッ素樹脂などの材料で構成され、液体燃料Fの気化成分と液体燃料Fとを分離し、気化成分を燃料極触媒層2側に透過させるものである。燃料極側フレーム17の一方の面に燃料極導電層11が接するように、燃料極導電層11および空気極導電層12を備えた上記MEA1が配置されている。
【0031】
液体燃料タンク15内に貯留される液体燃料Fは、濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液、または純メタノールである。純メタノールの純度は、95重量%以上100重量%以下にすることが好ましい。液体燃料Fの気化成分とは、液体燃料として液体のメタノールを使用した場合には、気化したメタノールを意味し、液体燃料としてメタノール水溶液を使用した場合には、メタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合気を意味する。
【0032】
一方、空気極導電層12上には、燃料電池10の外縁形に対応した形状を有する空気極側フレーム18を介して、保湿層19が積層されている。保湿層19は、空気極触媒層5において生成した水の一部を含浸して、水の蒸散を抑制する役割をなすとともに、空気極ガス拡散層6に酸化剤である空気を均一に導入することにより、空気極触媒層5への空気の均一拡散を促す補助拡散層としての機能も有している。この保湿層19は、例えばポリエチレン多孔質膜などの材料で構成される。また、保湿層19上には、酸化剤である空気を取り入れるための空気導入口20aが複数個形成された表面カバー層20が積層されている。表面カバー層20は、例えばSUS304のような金属で形成される。
【0033】
このように構成される本発明の実施形態の直接メタノール型燃料電池10において、MEA1の作用について説明する。
【0034】
液体燃料タンク15内の液体燃料(例えばメタノール燃料)Fが気化し、この気化成分が気液分離層16を透過してMEA1に供給される。MEA1内において、メタノール燃料の気化成分は燃料極ガス拡散層3で拡散され、燃料極触媒層2に供給される。燃料極触媒層2に供給された気化燃料は、次の式(1)に示すメタノールの内部改質反応を生じる。
CHOH+HO → CO+6H+6e ………(1)
【0035】
なお、液体燃料Fとして、純メタノールを使用した場合には、水蒸気の供給がないため、空気極触媒層5で生成した水や電解質膜8中の水などがメタノールと上記の式(1)の内部改質反応を生じるか、または上記の式(1)の内部改質反応によらず、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じる。
【0036】
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜8を伝導し、空気極触媒層5に到達する。空気極ガス拡散層6から供給される気体燃料(たとえば空気)は、空気極ガス拡散層6を拡散して、空気極触媒層5に供給される。空気極触媒層5に供給された空気は、次の式(2)に示す反応を生じさせる。この反応によって、水の生成を伴う発電反応が生じる。
(3/2)O+6H+6e → 3HO ………(2)
【0037】
燃料極触媒層2が、プロトン伝導性を有する電解質を含有するただ1層の触媒基層から構成される単層構造の場合には、電解質膜8から還流したプロトンは、燃料極触媒層2中の所定の層厚(全体の層厚の中間部)のところまでは達するが、燃料極ガス拡散層3との界面の近傍にまでは達しにくいため、燃料極触媒層2中の液体燃料Fの濃度分布に差が生じる。その結果、燃料極触媒層2全体の厚さを厚くしても、十分に出力が上がらない。
【0038】
これに対して、実施形態のMEAでは、電解質の含有割合の異なる複数の層(触媒基層)2a、2b、2c………が積層されて燃料極触媒層2が構成されているので、還流したプロトンが浸透圧現象により各触媒基層の層間を容易に移動する。そのため、積層構造を有する燃料極触媒層2の全体に亘って、プロトンを均一に行き渡らせることができ、その結果出力を上げることが可能となる。同様に、プロトン伝導性を有する電解質の含有割合の異なる複数の触媒基層5a、5b、5c………を積層して空気極触媒層5を構成することにより、出力を上げることができる。
【0039】
なお、上記した実施の形態では、液体燃料Fとして、メタノール水溶液または純メタノールを使用した直接メタノール型の燃料電池について説明したが、液体燃料Fは、これらに限られるものではない。例えば、エタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、もしくはその他の液体燃料であってもよい。
【0040】
また、上記実施形態ではパッシブ型DMFCを例に説明を行ったが、パッシブ型に限らず、アクティブ型の燃料電池、さらには燃料供給など一部にポンプ等を用いたセミパッシブ型の燃料電池に対しても本発明を適用することができ、パッシブ型の燃料電池を用いた場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
次に、本発明のMEAを有する燃料電池において優れた出力特性が得られることを、以下に示す実施例で説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
カーボンペーパーTGP−H−120(東レ(株)製)を平板プレスにより厚さが1/2倍になるように圧縮し、燃料極ガス拡散層とした。なお、このカーボンペーパーの圧縮前の気孔率は、アルキメデス法を用いて測定したところ75%であった。圧縮後の気孔率は、外形寸法と重量測定により計算した結果、40.5%であった。
【0043】
次いで、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子10重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020(デュポン社製)を固形分として1重量部加え、さらに溶媒(グリセリン)を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約5重量%のスラリーAを調製した。このスラリーAを、前記した燃料極ガス拡散層の一方の面にスプレーコート法により塗布して乾燥させ、ナフィオン低含有層を形成した。
【0044】
また、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子1重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として2重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約5%のスラリーBを調製した。このスラリーBを、ナフィオン低含有層の上にスプレーコート法により塗布して乾燥させ、ナフィオン高含有層を形成した。こうして、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層の2層が積層された燃料極触媒層を形成した。
【0045】
また、スラリーA,Bを交互に塗布・乾燥してナフィオン低含有層とナフィオン高含有層とを交互に形成する操作を、2回、4回および5回繰り返し、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層が交互に計4層、計8層および計10層積層された燃料極触媒層をそれぞれ形成した。なお、これらの燃料極触媒層の積層・形成では、スラリーA,Bの塗布量を変化させることにより、各触媒基層(ナフィオン低含有層およびナフィオン高含有層)の厚さを変化させた。
【0046】
さらに、比較のために、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子1重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として0.5重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約5重量%のスラリーCを調製した。そして、このスラリーCを前記した燃料極ガス拡散層の一方の面にスプレーコート法により塗布・乾燥させ、単層の燃料極触媒層を形成した。なお、この燃料極触媒層の形成では、スラリーCの塗布量を変化させることにより、触媒層単層の厚さを変化させた。
【0047】
また、白金微粒子を担持したカーボン粒子12重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020をナフィオン固形分として3重量部と溶媒とをホモジナイザで混合し、固形分約15重量%のスラリーSを調製した。このスラリーSを、空気極ガス拡散層である気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−60(東レ(株)製)の一方の面に、ダイコーターを用いて塗布し常温で乾燥させ、空気極触媒層を形成した。
【0048】
次に、固体電解質膜としてナフィオン112(デュポン社製)を使用し、この電解質膜と前記空気極(空気極ガス拡散層と空気極触媒層)とを、空気極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた後、電解質膜の反対の面に前記燃料極(燃料極ガス拡散層と燃料極触媒層)を燃料極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた。これを、加熱温度135℃、圧力30kgf/cmの条件でプレスし、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cmとした。
【0049】
次いで、このMEAを、気化したメタノールおよび空気を取り入れるための複数の開孔を有する金箔で両面側から挟み込んだ。こうしてMEAの両面に燃料極導電層と空気極導電層をそれぞれ形成した。
【0050】
次に、MEA、燃料極導電層および空気極導電層が積層された積層体を、2つの樹脂製フレームで挟み込んだ。なお、MEAの空気極側と一方のフレームとの間、および燃料極側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。そして、燃料極側のフレームは、気液分離膜を介して、液体燃料収容室にネジ止めによって固定した。気液分離膜には、厚さ0.1mmのシリコーンシートを使用した。一方、空気極側のフレーム上には、気孔率が28%の多孔質板を配置し保湿層を形成した。また、この保湿層の上に、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さ2mmのステンレス板(SUS304)を配置して表面カバー層を形成し、ネジ止めによって固定した。
【0051】
このように作製された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノール5mlを注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で出力の最大値を電流値と電圧値から測定した。
【0052】
また、測定後のMEAを取り出して厚さ方向に切断した。次いで、切断面に樹脂を埋め込み、断面が平滑になるよう研磨した後、断面を電子顕微鏡で200倍に拡大して、EPMA(電子線マイクロアナリシス)を行った。そして、ナフィオン中のフッ素の濃度分布および触媒であるPtの濃度分布を測定し、これらの測定結果から、燃料極触媒層を構成するナフィオン低含有層とナフィオン高含有層の厚さをそれぞれ求めた。
【0053】
燃料極触媒層を構成する各触媒基層(ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層)の厚さ、および出力の最大値(最大出力密度)の測定結果を、表1に示す。また、最大出力密度を触媒基層の厚さに対してプロットしたグラフを、図3に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1および図3のグラフから、電解質であるナフィオンの含有割合が異なる複数の触媒基層が積層された構造の燃料極触媒層を有する燃料電池は、単層の燃料極触媒層を有する燃料電池に比べて、最大出力密度が高くなっていることがわかる。また、積層された各触媒基層の厚さが1〜10μmの範囲で、最大出力密度が大幅に向上することがわかる。
【0056】
実施例2
気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−120を平板プレスにより厚さが1/2倍に圧縮し、燃料極ガス拡散層とした。なお、このカーボンペーパーの圧縮後の気孔率は、外形寸法と重量測定により計算した結果40.5%であった。
【0057】
次いで、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子1重量部に対し、ナフィオン溶液DE2020を固形分として0.5重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約15%のスラリーSを調製した。このスラリーSを、前記燃料極ガス拡散層の一方の面にダイコーターを用いて塗布し、常温で乾燥させ、燃料極触媒層を形成した。
【0058】
また、白金微粒子を担持したカーボン粒子5重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として1重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約5重量%のスラリーXを調製した。このスラリーXを、空気極ガス拡散層である気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−60の一方の面に、スプレーコート法により塗布して乾燥させ、ナフィオン低含有層を形成した。
【0059】
また、白金微粒子を担持したカーボン粒子1重量部に対し、ナフィオン溶液DE2020を固形分として2重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約5%のスラリーYを調製した。このスラリーYを、ナフィオン低含有層の上にスプレーコート法により塗布し乾燥させ、ナフィオン高含有層を形成した。このように、スラリーX,Yを交互に塗布・乾燥してナフィオン低含有層とナフィオン高含有層とを交互に形成する操作を、2回、4回、10回および20回繰り返し、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層が交互に計4層、計8層、計20層および計40層積層された構造の空気極触媒層をそれぞれ形成した。なお、これらの空気極触媒層の積層・形成では、スラリーX,Yの塗布量を変化させることにより、各触媒基層(ナフィオン低含有層およびナフィオン高含有層)の厚さを変化させた。
【0060】
また比較のために、白金微粒子を担持したカーボン粒子3重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として1重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約5重量%のスラリーZを調製した。そして、このスラリーZを空気極ガス拡散層(カーボンペーパーTGP−H−60)の一方の面にスプレーコート法により塗布・乾燥させ、単層の空気極触媒層を形成した。なお、この空気極触媒層の形成では、スラリーZの塗布量を変化させることにより、触媒層単層の厚さを変化させた。
【0061】
次に、固体電解質膜としてナフィオン112(デュポン社製)を使用し、この電解質膜と前記空気極(空気極ガス拡散層と空気極触媒層)とを、空気極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた後、電解質膜の反対の面に前記燃料極(燃料極ガス拡散層と燃料極触媒層)を燃料極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた。これを、加熱温度135℃、圧力30kgf/cmの条件でプレスし、MEAを作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cmとした。
【0062】
次いで、このMEAを、気化したメタノールおよび空気を取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み込み、MEAの両面に燃料極導電層と空気極導電層をそれぞれ形成した。そして、MEA、燃料極導電層および空気極導電層が積層された積層体を、実施例1と同様に、2つの樹脂製フレームで挟み込んだ後、燃料極側のフレームを液体燃料収容室に固定する一方、空気極側のフレーム上に、保湿層および表面カバー層をそれぞれ形成した。
【0063】
こうして作製された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノール5mlを注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で出力の最大値を電流値と電圧値から測定した。
【0064】
また、測定後のMEAを取り出して厚さ方向に切断した後、実施例1と同様にして、空気極触媒層を構成するナフィオン低含有層とナフィオン高含有層の厚さをそれぞれ求めた。
【0065】
空気極触媒層を構成する触媒基層(ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層)の厚さ、および出力の最大値(最大出力密度)の測定結果を、表2に示す。また、最大出力密度を触媒基層の厚さに対してプロットしたグラフを、図4に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2および図4のグラフから、電解質であるナフィオンの含有割合が異なる複数の触媒基層が積層された構造の空気極触媒層を有する燃料電池は、単層の空気極触媒層を有する燃料電池に比べて、最大出力密度が高くなっていることがわかる。また、積層された触媒基層の厚さが1〜10μmの範囲で、最大出力密度が大幅に向上することがわかる。
【0068】
実施例3
気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−120を平板プレスにより厚さが1/2倍になるように圧縮し、燃料極ガス拡散層とした。なお、このカーボンペーパーの圧縮後の気孔率は、外形寸法と重量測定により計算した結果40.5%であった。
【0069】
次いで、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子100重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として5重量部、10重量部、50重量部、100重量部、200重量部、300重量部および400重量部加え、さらに溶媒(グリセリン)を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約3〜5重量%のスラリーA、スラリーB、スラリーC、スラリーD、スラリーE、スラリーFおよびスラリーGをそれぞれ調製した。このスラリーA〜Gを、前記した燃料極ガス拡散層の一方の面に、スプレーコート法により表3に示す組み合わせで交互に塗布し乾燥させた。そして、このような操作を、1回、1.5回および2.5回繰り返し、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層が交互に計2層、計3層および計5層積層された構造の燃料極触媒層をそれぞれ形成した。なお、各層の層厚が10μmになるように、各スラリーの塗布量を調整した。
【0070】
次いで、白金微粒子を担持したカーボン粒子10重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を2重量部(固形分)と溶媒をホモジナイザで混合し、固形分約15重量%のスラリーSを調製した。このスラリーSを、空気極ガス拡散層である気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−60の一方の面に、ダイコーターを用いて塗布し、常温で乾燥させ、空気極触媒層を形成した。
【0071】
次に、固体電解質膜としてナフィオン117(デュポン社製)を使用し、この電解質膜と前記空気極(空気極ガス拡散層と空気極触媒層)とを、空気極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた後、電解質膜の反対の面に前記燃料極(燃料極ガス拡散層と燃料極触媒層)を燃料極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた。これを、加熱温度125℃、圧力30kgf/cmの条件でプレスし、MEAを作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cmとした。
【0072】
次いで、このMEAを、気化したメタノールおよび空気を取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み込み、MEAの両面に燃料極導電層と空気極導電層をそれぞれ形成した。その後、MEA、燃料極導電層および空気極導電層が積層された積層体を、実施例1と同様に、2つの樹脂製フレームで挟み込んだ後、燃料極側のフレームを液体燃料収容室に固定する一方、空気極側のフレーム上に、保湿層および表面カバー層をそれぞれ形成した。
【0073】
こうして作製された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノール5mlを注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で出力の最大値を電流値と電圧値から測定した。測定結果を表3に示す。
【0074】
また、測定後のMEAを取り出して厚さ方向に切断し、実施例1と同様にして、燃料極触媒層を構成する触媒基層(ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層)の厚さを求めたところ、各層とも10μmであることがわかった。ただし、スラリーEとスラリーFの組み合わせ(ナフィオン比率200/300)については、積層された各触媒基層の界面がはっきりみられなかった。また、スラリーAとスラリーGの組み合わせ(ナフィオン比率5/400)においては、層間剥離が生じ、サンプルを作製することができなかった。
【0075】
【表3】

【0076】
表3から、ナフィオン高含有層とナフィオン低含有層とのナフィオン比率が、2/1〜60/1の範囲にある場合に、高い最大出力密度が得られ、スラリーEとスラリーFの組み合わせ(ナフィオン高含有層とナフィオン低含有層とのナフィオン比率は300/200)では、最大出力密度があまり高くならないことがわかる。すなわち、ナフィオン高含有層におけるナフィオン含有割合とナフィオン低含有層におけるナフィオン含有割合との比率は、2〜60倍とすることが好ましく、この比率が1.5倍(スラリーEとスラリーFの組み合わせ)の場合には十分な電池出力が得られず、また80倍(スラリーAとスラリーGの組み合わせ:ナフィオン比率400/5)の場合には、層間剥離が生じてサンプルが作製できないことがわかる。さらに、燃料極ガス拡散層上に積層する1層目の触媒基層はナフィオン低含有層でもナフィオン高含有層でもよく、どちらの層が固体高分子電解質膜に接するように配置されていてもよいことがわかる。
【0077】
実施例4
気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−120を平板プレスにより厚さが1/2倍になるように圧縮し、燃料極ガス拡散層とした。なお、このカーボンペーパーの圧縮後の気孔率は、外形寸法と重量測定により計算した結果40.5%であった。
【0078】
次いで、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子1重量部に対し、ナフィオン溶液DE2020を固形分として0.5重量部加え、さらに溶媒(グリセリン)を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約15%のスラリーSを調製した。このスラリーSを、前記燃料極ガス拡散層の一方の面にダイコーターを用いて塗布して常温で乾燥させ、燃料極触媒層を形成した。
【0079】
また、白金微粒子を担持したカーボン粒子100重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として5重量部、10重量部、20重量部、100重量部、200重量部、300重量部および400重量部加え、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約3〜5重量%のスラリーK、スラリーL、スラリーM、スラリーN、スラリーO、スラリーPおよびスラリーQをそれぞれ調製した。このスラリーK〜Qを、空気極ガス拡散層である気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−60の一方の面に、スプレーコート法により表4に示す組み合わせで交互に塗布・乾燥させた。そして、このような操作を、1回、1.5回および2.5回繰り返し、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層が交互に計2層、計3層および計5層積層された空気極触媒層をそれぞれ形成した。なお、各スラリーの塗布量を調整し、各層の層厚が10μmになるようにした。
【0080】
次に、固体電解質膜としてナフィオン117(デュポン社製)を使用し、この電解質膜と前記空気極(空気極ガス拡散層と空気極触媒層)とを、空気極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた後、電解質膜の反対の面に前記燃料極(燃料極ガス拡散層と燃料極触媒層)を燃料極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた。これを、加熱温度125℃、圧力30kgf/cmの条件でプレスし、MEAを作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cmとした。
【0081】
次いで、このMEAを、気化したメタノールおよび空気を取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み込み、MEAの両面に燃料極導電層と空気極導電層をそれぞれ形成した。その後、MEA、燃料極導電層および空気極導電層が積層された積層体を、実施例1と同様に、2つの樹脂製フレームで挟み込んだ後、燃料極側のフレームを液体燃料収容室に固定する一方、空気極側のフレーム上に、保湿層および表面カバー層をそれぞれ形成した。
【0082】
こうして作製された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノール5mlを注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で出力の最大値を電流値と電圧値から測定した。測定結果を表4に示す。
【0083】
また、測定後のMEAを取り出して厚さ方向に切断し、実施例2と同様にして、空気極触媒層を構成する触媒基層(ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層)の厚さを求めたところ、各層とも10μmであることがわかった。ただし、スラリーOとスラリーPの組み合わせ(ナフィオン比率200/300)については、積層された各触媒基層の界面がはっきりみられなかった。また、スラリーKとスラリーQの組み合わせ(ナフィオン比率5/400)においては、層間剥離が生じ、サンプルを作製することができなかった。
【0084】
【表4】

【0085】
表4から、スラリーOとスラリーPの組み合わせ(ナフィオン比率200/300)においては、出力密度があまり高くならないことがわかる。また、空気極ガス拡散層上に積層する1層目の触媒基層はナフィオン低含有層でもナフィオン高含有層でもよく、いずれの層が固体高分子電解質膜に接するように配置されてもよいことがわかる。さらに、ナフィオン高含有層におけるナフィオン含有割合とナフィオン低含有層におけるナフィオン含有割合との比率は、2〜60倍とすることが好ましく、この比率が1.5倍(スラリーOとスラリーPの組み合わせ:ナフィオン比率200/300)の場合には十分な電池出力が得られず、また80倍(スラリーKとスラリーQの組み合わせ:ナフィオン比率5/400)の場合には、層間剥離が生じてサンプルが作製できないことがわかる。
【0086】
実施例5
気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−120を平板プレスにより厚さ方向に1/2倍に圧縮し、燃料極ガス拡散層とした。なお、このカーボンペーパーの圧縮後の気孔率は、外形寸法と重量測定により計算した結果40.5%であった。
【0087】
次いで、Pt−Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子100重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として10重量部、100重量部および200重量部加え、さらに溶媒(グリセリン)を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約3〜5重量%のスラリーB、スラリーDおよびスラリーEをそれぞれ調製した。このスラリーB,D,Eを、前記した燃料極ガス拡散層の一方の面に、スプレーコート法により表5に示す組み合わせで交互に塗布・乾燥させた。そして、このような操作を、1回および5回繰り返し、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層が交互に計2層および計10層積層された燃料極触媒層をそれぞれ形成した。なお、各層の層厚は10μmになるように調整した。
【0088】
また、白金微粒子を担持したカーボン粒子100重量部に対して、ナフィオン溶液DE2020を固形分として5重量部、20重量部および200重量部加え、さらに溶媒(グリセリン)を加えてホモジナイザで混合し、固形分濃度が約3〜5重量%のスラリーK、スラリーMおよびスラリーOをそれぞれ調製した。このスラリーK,M,Oを、空気極ガス拡散層である気孔率75%のカーボンペーパーTGP−H−60の一方の面に、スプレーコート法により表5に示す組み合わせで交互に塗布・乾燥させた。そして、このような操作を、1回および5回繰り返し、ナフィオン低含有層とナフィオン高含有層が交互に計2層および計10層積層された空気極触媒層をそれぞれ形成した。なお、各層の層厚は10μmになるように調整した。
【0089】
次に、固体電解質膜としてナフィオン117(デュポン社製)を使用し、この電解質膜と前記空気極(空気極ガス拡散層と空気極触媒層)とを、空気極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた後、電解質膜の反対の面に前記燃料極(燃料極ガス拡散層と燃料極触媒層)を燃料極触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせた。これを、加熱温度125℃、圧力30kgf/cmの条件でプレスし、MEAを作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cmとした。
【0090】
次いで、このMEAを、気化したメタノールおよび空気を取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み込み、MEAの両面に燃料極導電層と空気極導電層をそれぞれ形成した。その後、MEA、燃料極導電層および空気極導電層が積層された積層体を、実施例1と同様に、2つの樹脂製フレームで挟み込んだ後、燃料極側のフレームを液体燃料収容室に固定する一方、空気極側のフレーム上に、保湿層および表面カバー層をそれぞれ形成した。
【0091】
こうして作製された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノール5mlを注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で出力の最大値を電流値と電圧値から測定した。測定結果を表5に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
表5から、燃料極、空気極のいずれの電極においても、ナフィオンの含有割合が異なる複数の触媒基層を積層して触媒層を構成することで、最大出力密度が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明に係る一実施形態のDMFC用膜電極接合体(MEA)の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態のDMFCの構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施例1において、燃料電池の最大出力密度を燃料極触媒層を構成する触媒基層の厚さに対してプロットしたグラフである。
【図4】本発明の実施例2において、燃料電池の最大出力密度を空気極触媒層を構成する触媒基層の厚さに対してプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1…MEA、2…燃料極触媒層、2a,2b,2c…燃料極触媒層を構成する触媒基層、3…燃料極ガス拡散層、4…燃料極、5…空気極触媒層、5a,5b,5c…空気極触媒層を構成する触媒基層、6…空気極ガス拡散層、7…空気極、8…電解質膜、10…燃料電池、11…燃料極導電層、12…空気極導電層、13…燃料極シール材、14…空気極シール材、15…液体燃料タンク、16…気液分離膜、17,18…フレーム、19…保湿層、20…表面カバー層、20a…空気導入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極ガス拡散層と、該燃料極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む燃料極触媒層とを備える燃料極と、空気極ガス拡散層と、該空気極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む空気極触媒層とを備える空気極と、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層とに挟持された固体高分子電解質膜を具備する膜電極接合体であり、
前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層の少なくとも一方は、隣接する層と前記電解質の含有割合の異なる3層以上の触媒基層が積層されて構成されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
燃料極ガス拡散層と、該燃料極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む燃料極触媒層とを備える燃料極と、空気極ガス拡散層と、該空気極ガス拡散層の一方の面上に設けられたプロトン伝導性を有する電解質を含む空気極触媒層とを備える空気極と、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層とに挟持された固体高分子電解質膜を具備する膜電極接合体であり、
前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層の少なくとも一方は、隣接する層と前記電解質の含有割合の異なる2層以上の触媒基層が積層されて構成されており、
かつ前記電解質の含有割合が最も高い触媒基層における含有割合が、前記電解質の含有割合が最も低い触媒基層における含有割合の2〜60倍であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項3】
前記触媒基層の厚さが、1〜10μmであることを特徴とする請求項1または2記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層の少なくとも一方は、前記電解質の含有割合が異なる2種類の触媒基層が交互に積層されて構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項5】
燃料極と空気極と前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜とを有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記燃料極に燃料を供給する燃料供給機構とを具備する燃料電池であり、前記膜電極接合体は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の膜電極接合体であることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−293705(P2008−293705A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135814(P2007−135814)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】