説明

膜電極接合体の製造方法、および、膜電極接合体

【課題】固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体において、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗を減少させる。
【解決手段】多孔質膜12の両面に、それぞれ、触媒インクINKc,INKaを塗工するとともに、触媒インクINKc,INKaに含まれるアイオノマーの一部を、多孔質膜12に含浸させることによって、電解質膜10とカソード側触媒層20c、アノード側触媒層20aを同時に作製する。触媒インクINKc,INKaに含まれる触媒担持カーボンのサイズは、多孔質膜12の気孔径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法、および、膜電極接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池には、電解質膜として固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池がある。そして、固体高分子型燃料電池には、一般に、電解質膜の両面に電極(触媒層)が形成された膜電極接合体が用いられる。
【0003】
膜電極接合体は、一般に、電解質膜の両面にいわゆる触媒インクを塗工することによって製造される。触媒インクには、触媒を担持した担体(例えば、カーボン粒子)と、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、これらの分散媒と、が含まれる。
【0004】
ところで、従来、膜電極接合体の機械的強度を向上させるための種々の技術が提案されている。このような技術としては、電解質膜の骨格となる多孔体に電解質(アイオノマー)を含浸させることによって電解質膜を作製し、この電解質膜の両面に触媒インクを塗工することによって、膜電極接合体を製造する技術が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−004425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した技術では、電解質膜と触媒層との接合性や、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗について、さらなる改善の余地があった。なお、この膜電極接合体における電解質膜と触媒層との間の界面抵抗についての課題は、電解質膜に触媒インクを塗工することによって製造される膜電極接合体に共通する課題である。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体において、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
触媒を担持したカーボン粒子である触媒担持カーボンと、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、を含む触媒インクを用意する工程と、
前記触媒インクを膜状に広げる工程と、
前記広げられた前記触媒インクの一方の面に前記触媒担持カーボンを偏在させた状態で、前記触媒インクを固化する工程と、
を備える膜電極接合体の製造方法。
【0010】
適用例1の膜電極接合体の製造方法では、膜状に広げられた触媒インクの一方の面の触媒担持カーボンが偏って多く存在する状態で固化した部位が触媒層となり、触媒インクの他方の面の触媒担持カーボンが少ない状態で固化した部位が電解質膜(電解質層)となる。このため、電解質膜と触媒層との間には、明確な界面が形成されない。したがって、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗を減少させることができる。
【0011】
なお、適用例1の膜電極接合体の製造方法において、膜状に広げられた触媒インクの一方の面に触媒担持カーボンを偏在させる方法としては、例えば、膜状に広げられた触媒インクに含まれる触媒担持カーボンに、例えば、触媒インクの表面に対して垂直な方向に、重力や遠心力等の外力を作用させる方法が挙げられる。
【0012】
また、適用例1、および、後述する他の適用例において、触媒担持カーボンを構成するカーボン粒子としては、種々の形状のカーボン粒子を適用可能である。このカーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー等が挙げられる。
【0013】
[適用例2]
固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
多孔質膜を用意する工程と、
触媒を担持したカーボン粒子である触媒担持カーボンであって、前記多孔質膜の気孔径よりもサイズが大きい触媒担持カーボンと、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、を含む触媒インクを用意する工程と、
前記多孔質膜の表面に、前記触媒インクを塗工するとともに、前記触媒インクに含まれる前記アイオノマーの一部を、前記多孔質膜に含浸させる触媒インク塗工工程と、
を備える膜電極接合体の製造方法。
【0014】
適用例2の膜電極接合体の製造方法では、触媒インクに含まれる触媒担持カーボンのサイズが、多孔質膜の気孔径よりも大きいので、触媒インク塗工工程において、アイオノマーの一部は、多孔質膜の細孔の内部に含浸されるが、触媒担持カーボン、および、アイオノマーの残りの一部は、多孔質膜の細孔の内部に含浸されずに、多孔質膜の表面に留まる。そして、アイオノマーが含浸された多孔質膜が、電解質膜となり、多孔質膜の表面に残存した触媒担持カーボン、および、アイオノマーが、触媒層となる。このため、電解質膜と触媒層との間には、明確な界面が形成されない。したがって、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗を減少させることができる。
【0015】
なお、多孔質膜の気孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡や、ポロシメータ等を用いて測定することができる。また、触媒担持カーボンのサイズは、例えば、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。ここで、触媒担持カーボンは、触媒インク中において凝集した状態で存在し、本明細書において、触媒インクに含まれる触媒担持カーボンのサイズとは、触媒インク中において凝集した触媒担持カーボンのサイズを意味している。
【0016】
[適用例3]
固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
プロトン伝導性を有するアイオノマーが多孔質膜の気孔内に含浸されてなる電解質膜と、
前記電解質膜の表面に形成された触媒層と、
を備え、
前記触媒層は、触媒を担持したカーボン粒子である触媒担持カーボンであって、前記多孔質膜の気孔径よりもサイズが大きい触媒担持カーボンを有する、
膜電極接合体。
【0017】
適用例5の膜電極接合体では、触媒担持カーボンが電解質膜に埋没することがなく、触媒層が電解質膜上に確実に保持される。
【0018】
本発明は、上述の膜電極接合体の製造方法としての構成の他、上記製造法によって製造された膜電極接合体の発明として構成することもできる。また、上記膜電極接合体を備える膜電極ガス拡散層接合体、上記膜電極接合体または膜電極ガス拡散層接合体を備える燃料電池セル、この燃料電池セルを複数積層してなる燃料電池スタック、この燃料電池スタックを備える燃料電池システム、この燃料電池システムを備える燃料電池車両等の移動体の発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例としての膜電極接合体100の構成を示す説明図である。
【図2】第1実施例の膜電極接合体100の製造工程を示す説明図である。
【図3】第1実施例の膜電極接合体100の製造工程を示す説明図である。
【図4】比較例の膜電極接合体100Rの製造工程を示す説明図である。
【図5】第2実施例の膜電極接合体100Aの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
A1.膜電極接合体の構成:
図1は、本発明の第1実施例としての膜電極接合体100の構成を示す説明図である。この膜電極接合体100は、発電体として、固体高分子型燃料電池に用いられる。図示するように、膜電極接合体100は、電解質膜10と、電解質膜10の一方の表面に形成されたアノード側触媒層20aと、電解質膜10の他方の表面に形成されたカソード側触媒層20cと、を備えている。
【0021】
A2.膜電極接合体の製造工程:
図2,3は、第1実施例の膜電極接合体100の製造工程を示す説明図である。
【0022】
まず、電解質膜10の骨格となる多孔質膜12を用意する(ステップS100)。この多孔質膜12は、電解質膜10、膜電極接合体100の機械的強度を向上させるための補強部材として機能する。本実施例では、多孔質膜12は、フッ素樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるものとした。
【0023】
この多孔質膜12は、例えば、PTFEファインパウダー(PTFEの微粒子が凝集した粉末)のペースト押出及び圧延処理によって、テープ状の部材を作製し、この部材に対して、同時2軸延伸機によって、延伸・焼成工程を施すことによって作製される。本実施例では、多孔質膜12の気孔径は、0.1(μm)未満であり、気孔率は、約60(%)であるものとした。これらの値は、例えば、走査型電子顕微鏡や、ポロシメータ等を用いて測定することができる。なお、多孔質膜12の気孔径は、後述する触媒インクに含まれる触媒担持カーボンのサイズよりも小さくなるように設計されている。また、多孔質膜12の気孔率は、例えば、多孔質膜12に要求される機械的強度に応じて、適宜、変更される。
【0024】
次に、2種類の触媒インクINKa,INKcを用意する(ステップS110)。触媒インクINKaは、電解質膜10の表面に、アノード側触媒層20aを形成するために用いられる。また、触媒インクINKcは、電解質膜10の表面に、カソード側触媒層20cを形成するために用いられる。
【0025】
これらの触媒インクINKa,INKcは、それぞれ、触媒担持カーボンと、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、これらの分散媒(純水、および、エタノール)とを、ホモジナイザーによって混合・攪拌することによって作製される。本実施例では、触媒担持カーボンとして、白金粒子を担持したカーボンブラックを用いるものとした。そして、これらの触媒インクINKa,INKc中において、触媒担持カーボンは、凝集した状態で存在し、本実施例では、触媒インク中において凝集した触媒担持カーボンの粒子径(以下、単に「触媒担持カーボンの粒子径」と言う)は、0.1〜0.3(μm)であるものとした。つまり、触媒担持カーボンのサイズは、多孔質膜12の気孔径よりも大きい。触媒担持カーボンの粒子径は、例えば、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。また、本実施例では、アイオノマーとして、フッ素系アイオノマーであるパーフルオロスルホン酸樹脂を用いるものとした。また、本実施例では、触媒インクINKaにおいて、アイオノマーの重量Iとカーボンブラックの重量Cとの比I/Cは、2〜10であるものとした。また、触媒インクINKcにおいて、アイオノマーの重量Iとカーボンブラックの重量Cとの比I/Cは、1.5〜5であるものとした。
【0026】
次に、多孔質膜12の一方の表面に、触媒インクINKcを塗工する(ステップS120)。本実施例では、図3(a)に示したように、ダイヘッドのスリットから触媒インクINKcを吐出して、多孔質膜12の一方の表面に、触媒インクINKcをダイ塗工する。このとき、触媒インクINKcに含まれる触媒担持カーボンのサイズが、多孔質膜12の気孔径よりも大きいので、触媒インクINKcに含まれるアイオノマーの一部は、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されるが、触媒担持カーボン、および、アイオノマーの残りの一部は、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されずに、多孔質膜12の表面に留まる。そして、触媒インクINKcを乾燥させると、アイオノマーが含浸された多孔質膜12が、電解質膜10となり、多孔質膜12の表面に残存した触媒担持カーボン、および、アイオノマーが、カソード側触媒層20cとなる。このように、触媒インクINKcに含まれるアイオノマーの一部を多孔質膜12に含浸させることによって形成されたカソード側触媒層20cと電解質膜10との間には、明確な界面は形成されない。
【0027】
次に、多孔質膜12の他方の表面に、触媒インクINKaを塗工する(ステップS130)。本実施例では、図3(b)に示したように、ダイヘッドのスリットから触媒インクINKaを吐出して、多孔質膜12の他方の表面に、触媒インクINKaをダイ塗工する。このとき、触媒インクINKaに含まれる触媒担持カーボンのサイズが、多孔質膜12の気孔径よりも大きいので、触媒インクINKaに含まれるアイオノマーの一部は、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されるが、触媒担持カーボン、および、アイオノマーの残りの一部は、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されずに、多孔質膜12の表面に留まる。そして、触媒インクINKaを乾燥させると、アイオノマーが含浸された多孔質膜12が、電解質膜10となり、多孔質膜12の表面に残存した触媒担持カーボン、および、アイオノマーが、アノード側触媒層20aとなる。このように、触媒インクINKaに含まれるアイオノマーの一部を多孔質膜12に含浸させることによって形成されたアノード側触媒層20aと電解質膜10との間には、明確な界面は形成されない。
【0028】
以上の製造工程を経て、図3(c)に示したように、膜電極接合体100は完成する。
【0029】
A3.実施例の膜電極接合体による効果:
上述した第1実施例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100による効果は、後述する比較例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100Rを用いた燃料電池と、第1実施例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100を用いた燃料電池とについて、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗を比較することによって確認された。
【0030】
図4は、比較例の膜電極接合体100Rの製造工程を示す説明図である。比較例の膜電極接合体100Rの製造工程では、図4(a)に示したように、まず、ダイヘッドのスリットからアイオノマー分散液DLioを吐出して、多孔質膜12の表面にダイ塗工する。このアイオノマー分散液DLioは、先に説明した触媒インクINKa,INKcに含まれるアイオノマーと同じアイオノマー、および、分散媒を含んでいる。そして、アイオノマー分散液DLioに含まれるアイオノマーが、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されて、電解質膜10Rが作製される。
【0031】
次に、図4(b)に示したように、ダイヘッドのスリットから触媒インクINKrcを吐出して、電解質膜10Rの一方の表面に、触媒インクINKrcをダイ塗工し、カソード側触媒層20Rcを形成する。このように形成されたカソード側触媒層20Rcと電解質膜10Rとの間には、明確な界面が形成される。なお、触媒インクINKrcに含まれる触媒担持カーボンは、触媒インクINKcに含まれる触媒担持カーボンと同じである。また、カソード側触媒層20Rcの厚さは、カソード側触媒層20cの厚さと同じである。また、カソード側触媒層20Rcにおける単位体積当たりの触媒量は、カソード側触媒層20cにおける単位体積当たりの触媒量と同じである。
【0032】
次に、図4(c)に示したように、ダイヘッドのスリットから触媒インクINKraを吐出して、電解質膜10Rの他方の表面に、触媒インクINKraをダイ塗工し、アノード側触媒層20Raを形成する。このように形成されたアノード側触媒層20Raと電解質膜10Rとの間には、明確な界面が形成される。なお、触媒インクINKraに含まれる触媒担持カーボンは、触媒インクINKaに含まれる触媒担持カーボンと同じである。また、アノード側触媒層20Raの厚さは、アノード側触媒層20aの厚さと同じである。また、アノード側触媒層20Raにおける単位体積当たりの触媒量は、アノード側触媒層20aにおける単位体積当たりの触媒量と同じである。
【0033】
以上説明した比較例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100R、および、先に説明した第1実施例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100の両面に、それぞれ、ガス拡散層を接合して、膜電極ガス拡散層接合体を作製し、これらを用いた燃料電池をそれぞれ作製した。そして、各燃料電池について、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗の測定を行った。この結果、第1実施例の製造工程を経て製造した膜電極接合体100を用いた燃料電池では、比較例の製造工程を経て製造した膜電極接合体100Rを用いた燃料電池よりも、電解質膜と触媒層との間の界面抵抗が、21(%)低かった。これは、比較例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100Rでは、電解質膜10Rとカソード側触媒層20Rcとの間、および、電解質膜10Rとアノード側触媒層20Raとの間に、明確な界面が形成されるのに対し、第1実施例の製造工程を経て製造された膜電極接合体100では、電解質膜10とカソード側触媒層20cの間、および、電解質膜10とアノード側触媒層20aとの間には、明確な界面が形成されないことによる。
【0034】
以上説明したように、第1実施例の膜電極接合体100の製造方法によれば、触媒インクINKc,INKaに含まれる触媒担持カーボンのサイズが、それぞれ、多孔質膜12の気孔径よりも大きいので、触媒インクINKc,INKaに含まれるアイオノマーの一部は、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されるが、触媒担持カーボン、および、アイオノマーの残りの一部は、多孔質膜12の細孔の内部に含浸されずに、多孔質膜12の表面に留まる。そして、アイオノマーが含浸された多孔質膜12は、電解質膜10となり、多孔質膜12の表面に残存した触媒担持カーボン、および、アイオノマーは、カソード側触媒層20c,20aとなる。このため、電解質膜10とカソード側触媒層20cとの間、および、電解質膜10とアノード側触媒層20aとの間には、明確な界面が形成されない。したがって、膜電極接合体100において、電解質膜10とカソード側触媒層20cとの間の界面抵抗、および、電解質膜10とアノード側触媒層20aとの間の界面抵抗を減少させることができる。
【0035】
また、第1実施例の膜電極接合体100の製造方法によれば、電解質膜10とカソード側触媒層20c、アノード側触媒層20aを同時に作製することができるので、電解質膜10Rを作製した後に、カソード側触媒層20Rc、アノード側触媒層20Raを作製する比較例の膜電極接合体100Rの製造方法よりも、工程数を削減し、製造コストを削減することもできる。
【0036】
B.第2実施例:
図5は、第2実施例の膜電極接合体100Aの製造工程を示す説明図である。第2実施例の膜電極接合体100Aの製造工程では、図5(a)に示したように、まず、例えば、PTFEからなるシート上に、触媒インクINKを膜状に塗り広げる。この触媒インクINKも、第1実施例における触媒インクINKa,INKcと同様に、触媒担持カーボンと、アイオノマーと、分散媒と、を含んでいる。図5(a)中に、触媒インクINKに含まれる触媒担持カーボンをドットで示した。ただし、本実施例における触媒インクINKは、触媒インクINKa,INKcよりも、触媒担持カーボンが沈殿して層分離しやすいように調製されている。
【0037】
次に、膜状に塗り広げられた触媒インクINKの一方の面に、触媒インクINKに含まれる触媒担持カーボンを、重力によって沈殿させて、偏在させた状態で、触媒インクINKを固化する。このとき、図5(b)に黒く塗りつぶして示したように、触媒インクINKの一方の面の触媒担持カーボンが偏って多く存在する状態で固化した部位が触媒層20Aとなり、触媒インクINKの他方の面の触媒担持カーボンが少ない状態で固化した部位が電解質層10Lとなる。本実施例では、このシート状の部材を2枚作製する。
【0038】
そして、このシート状の部材を、図5(c)に示したように、電解質層10Lと電解質層10Lとが向かい合うように、重ね合わせて接合する。電解質層10Lと電解質層10Lとを接合することによって、電解質膜10Aとなる。本実施例では、電解質層10Lと電解質層10Lとの接合に、触媒インクINKに含まれるアイオノマーと同じアイオノマー、および、分散媒を含むアイオノマー分散液を接着剤として用いるものとした。
【0039】
以上の工程を経て、図5(d)に示したように、電解質膜10Aの両面に触媒層20Aを備える膜電極接合体100Aが完成する。
【0040】
以上説明した第2実施例の膜電極接合体100Aの製造工程によっても、電解質膜10Aと触媒層20Aとの間に、明確な界面が形成されない。したがって、第1実施例の製造工程によって製造された膜電極接合体100と同様に、膜電極接合体100Aにおいて、電解質膜10Aと触媒層20Aとの間の界面抵抗を減少させることができる。
【0041】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0042】
C1.変形例1:
上記第1実施例では、触媒インクINKc,INKaに含まれるアイオノマーは、それぞれ、パーフルオロスルホン酸樹脂であるものとしたが、本発明は、これに限られない。上記アイオノマーとして、パーフルオロスルホン酸樹脂以外の他のフッ素系アイオノマーを用いるものとしてもよい。また、上記アイオノマーとして、例えば、炭化水素系アイオノマー等、フッ素系アイオノマー以外の他のアイオノマーを用いるものとしてもよい。また、触媒インクINKcに含まれるアイオノマーと、触媒インクINKaに含まれるアイオノマーとは、同じであってもよいし、異なるものとしてもよい。
【0043】
C2.変形例2:
上記第1実施例では、多孔質膜12は、PTFEからなるものとしたが、本発明は、これに限られない。多孔質膜12は、PTFE以外の他のフッ素樹脂からなるものとしてもよい。また、多孔質膜12は、例えば、炭化水素樹脂等、フッ素樹脂以外の材料からなるものとしてもよい。
【0044】
C3.変形例3:
上記第1実施例では、触媒インクINKcにおいて、アイオノマーの重量Iとカーボンブラックの重量Cとの比I/Cは、1.5〜5であるものとし、触媒インクINKaにおいて、アイオノマーの重量Iとカーボンブラックの重量Cとの比I/Cは、2〜10であるものとしたが、本発明は、これに限られない。触媒インクINKc,INKaにおいて、アイオノマーの重量Iとカーボンブラックの重量Cとの比I/Cは、適宜、変更可能である。
【0045】
C4.変形例4:
上記第1実施例では、カソード側触媒層20cを形成した後に、アノード側触媒層20aを形成するものとしたが、本発明は、これに限られない。アノード側触媒層20aを形成した後に、カソード側触媒層20cを形成するようにしてもよい。
【0046】
C5.変形例5:
上記第1実施例では、多孔質膜12の表面に、ダイ塗工によって、触媒インクINKc,INKaを塗工するものとしたが、本発明は、これに限られない。ダイ塗工の代わりに、例えば、アプリケーター塗工等、他の塗工方法を適用するようにしてもよい。
【0047】
C6.変形例6:
上記実施例では、触媒インクに含まれる触媒担持カーボンを構成するカーボン粒子として、カーボンブラックを用いるものとしたが、本発明は、これに限られない。触媒担持カーボンを構成するカーボン粒子として、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー等、他の形状のカーボン粒子を用いるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
100,100R,100A…膜電極接合体
10,10R,10A…電解質膜
10L…電解質層
12…多孔質膜
20a,20Ra…アノード側触媒層
20c,20Rc…カソード側触媒層
20A…触媒層
INKc,INKa,INKrc,INKra,INK…触媒インク
DLio…アイオノマー分散液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
触媒を担持したカーボン粒子である触媒担持カーボンと、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、を含む触媒インクを用意する工程と、
前記触媒インクを膜状に広げる工程と、
前記広げられた前記触媒インクの一方の面に前記触媒担持カーボンを偏在させた状態で、前記触媒インクを固化する工程と、
を備える膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
多孔質膜を用意する工程と、
触媒を担持したカーボン粒子である触媒担持カーボンであって、前記多孔質膜の気孔径よりもサイズが大きい触媒担持カーボンと、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、を含む触媒インクを用意する工程と、
前記多孔質膜の表面に、前記触媒インクを塗工するとともに、前記触媒インクに含まれる前記アイオノマーの一部を、前記多孔質膜に含浸させる触媒インク塗工工程と、
を備える膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
プロトン伝導性を有するアイオノマーが多孔質膜の気孔内に含浸されてなる電解質膜と、
前記電解質膜の表面に形成された触媒層と、
を備え、
前記触媒層は、触媒を担持したカーボン粒子である触媒担持カーボンであって、前記多孔質膜の気孔径よりもサイズが大きい触媒担持カーボンを有する、
膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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