説明

膜電極接合体及び燃料電池

【課題】膜電極接合体内部でのプロトンの移動速度および触媒反応速度の促進により発電特性を向上した膜電極接合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子型電解質膜とアノード側触媒層とカソード側触媒層とを有する膜電極接合体において、アノード側触媒層の酸解離度が、カソード側触媒層の酸解離度より大きい膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池。前記固体高分子型電解質膜と、前記アノード側触媒層と、前記カソード側触媒層の酸解離度の関係が、アノード側触媒層≧固体高分子型電解質膜>カソード側触媒層、あるいはアノード側触媒層>固体高分子型電解質膜≧カソード側触媒層であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及び燃料電池に関し、特に水素を燃料に用いた場合における、触媒層の反応効率を改善することで発電特性を向上させた固体高分子型燃料電池用の膜電極接合体及びそれを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池とは、水素、メタノール、または化石燃料からの改質水素などの還元剤からなる燃料を酸素または空気などの酸化剤を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。
【0003】
このうち、固体高分子型燃料電池は操作温度が低いという第一の利点と、電解質部分を薄膜化することで内部抵抗を低減できるため高効率で電流を取り出せるという第二の利点を有しており、電池サイズの小型化に適している。
【0004】
この固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体は、アノード(燃料極)側触媒層とカソード(空気極)側触媒層とが固体高分子型電解質膜を挟持して接合された構造を有する。固体高分子型燃料電池はこの膜電極接合体をセパレーターで挟んで積層するなどしてセル化したものである。
【0005】
通常、上記アノード側触媒層またはカソード側触媒層と固体高分子型電解質膜は、触媒物質、あるいは触媒物質と導電性炭素の混合体よりなる触媒担持導電物質と、気体や液体を非直線的に透過させる拡散層とを介して接合される。このとき、触媒物質や触媒担持導電物質は固体状物質であることが多いため、拡散層表面に、バインダーと混合・塗布成膜される。
【0006】
アノード側に供給された燃料は、拡散層中の細孔を通過して触媒に達し、触媒により電子を放出してプロトンとなる。燃料より放出された電子は、電極中の触媒物質や触媒が担持されている導電性炭素、あるいは電子の移動をスムーズにするために、触媒層に添加された導電補助剤を通過してアノードから外部回路へ導き出され、外部回路よりカソードへ流れ込む。この結果、外部回路ではアノードからカソードへ向かって電子が流れ電力が取り出される。この時、プロトンは固体高分子電解質膜を通過してカソード側触媒層に達し、カソード側の拡散層に供給された酸素と外部回路より流れ込む電子と反応して水が生成される。
【0007】
固体高分子型燃料電池の出力特性を向上させるためには、上記の一連の反応を促進することが必要である。そのためには、アノード側触媒層で発生したプロトンが滞りなくアノード内を移動し、固体高分子型電解質膜内を通過してカソード側に達し、カソード内を移動してカソード側触媒層にて還元される必要がある。つまり、電解質膜だけでなく、アノード、カソード内のプロトン伝達が良好で、かつ、アノード、カソード触媒の反応が迅速に起こらなければ、膜電極接合体全体の内部抵抗は増大してしまう。更に、固体高分子型電解質膜と各触媒層との接合界面は、触媒反応の起こる三相界面でもある。この三相界面でのプロトンの移動しやすさは固体高分子型燃料電池の特性に大きく影響を及ぼす。従来の技術(例えば特許文献1)ではアノード側触媒層、カソード側触媒層、固体高分子型電解質膜材料として、ナフィオン(登録商標、デュポン社)に代表されるパーフルオロスルホン酸を用いた例がある。
【0008】
しかし、カソード側触媒層による還元反応は、固体高分子型燃料電池のセル内における律速反応であり、カソード側でのプロトン量増加は、カソード側が強酸状態に近づくことを意味する。従来技術に代表される方法のように、酸解離しやすいスルホン酸基を有する材料を、バインダーとしてカソード側に用いることは、触媒反応に寄与しないプロトンが多く存在することになる。これは、バインダーの劣化や、触媒物質や触媒担持導電物質の溶解や劣化を引き起こし、固体高分子型燃料電池の特性安定化に影響を及ぼすという課題がある。
【0009】
一方、高温条件下での出力向上を目的に、バインダーのイオン交換容量、含水率を規定することにより膜電極接合体内の湿潤を制御した構成が記載されている。この方法によっても前記課題は解決されないため、発電特性向上には依然として不十分であると考えられる。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開平3−208260号公報
【特許文献2】特開2007−26819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、固体高分子型燃料電池において高い出力を安定して得るためには、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜、カソード側触媒層それぞれ、およびそれらの接合界面における、迅速なプロトン移動と、カソード側触媒層の強酸状態の抑制が必要である。
【0011】
そこで本発明の目的は、膜電極接合体内部でのプロトンの移動速度および触媒反応速度の促進により発電特性を向上した膜電極接合体、及び燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一は、少なくとも固体高分子型電解質膜とアノード側触媒層とカソード側触媒層とを有する膜電極接合体において、アノード側触媒層の酸解離度が、カソード側触媒層の酸解離度より大きいことを特徴とする膜電極接合体である。
【0013】
本発明の第二は、膜電極接合体を含むことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膜電極接合体内部でのプロトンの移動速度および触媒反応速度の促進による発電特性向上し、出力を向上した膜電極接合体、及び燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明に係る膜電極接合体は、少なくとも固体高分子型電解質膜とアノード側触媒層とカソード側触媒層とを有する膜電極接合体において、アノード側触媒層の酸解離度が、カソード側触媒層の酸解離度より大きいことを特徴とする。
【0016】
前記固体高分子型電解質膜と、前記アノード側触媒層と、前記カソード側触媒層の酸解離度の関係が、アノード側触媒層≧固体高分子型電解質膜>カソード側触媒層、あるいは、アノード側触媒層>固体高分子型電解質膜≧カソード側触媒層であることが望ましい。
【0017】
前記アノード側触媒層に少なくともスルホン酸基含有化合物を含み、前記カソード側触媒層に少なくともリン酸基含有化合物を含むことが望ましい。
本発明に係る燃料電池は、膜電極接合体を含むことを特徴とする。
【0018】
[本発明における膜電極接合体および固体高分子型燃料電池の特徴]
以下、図1を参照して本発明の説明をするが、本発明の膜電極接合体および固体高分子型燃料電池の構成、形状は図1に示すものに限られるものではない。
【0019】
本発明に係る固体高分子型燃料電池の一実施態様の構成を図1に模式的に示す。101a、101bはバインダー、102は触媒物質、あるいは触媒担持導電物質、103は拡散層、104は取り出し電極である。
【0020】
本発明では、触媒物質、あるいは触媒担持導電物質102とバインダー101aあるいは101bからなる層を触媒層5、触媒層5と拡散層103、取り出し電極104からなる積層構造物をアノード2、あるいはカソード3と称する。アノード2、固体高分子電解質膜4、カソード3の積層構造物を膜電極接合体1と称する。バインダー101aはアノード側に用いるバインダーであり、バインダー101bはカソ−ドに用いるバインダーである。
【0021】
本発明にかかる第一の膜電極接合体は、アノード側触媒層の酸解離度が、カソード側触媒層の酸解離度より大きいことを特徴とする。
バインダー101a、101bの材料は、プロトンの移動を容易にするため、プロトン導電性基を有することが望ましい。プロトン導電性基は発電反応中に流出しない程度に固定化された状態で、触媒層に存在している必要がある。
【0022】
プロトン導電性基とは、プロトン導電性を有する官能基を指し、例えば、スルホン酸、スルフィン酸、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、ボロン酸基が上げられる。このうち、特にスルホン酸基、リン酸基は酸解離度が高いため、プロトンの輸送効率を向上させる効果が高い。
【0023】
膜電極接合体における触媒層の酸解離度が、アノード側触媒層>カソード側触媒層となるため、バインダーの酸解離度を代える方法として以下の手段が挙げられる。アノード側バインダー材料自体の酸解離度>カソード側バインダー材料自体の酸解離度、アノード側バインダー量>カソード側バインダー量、またこれらの組み合わせである。
【0024】
バインダー材料自体の酸解離度を代える方法は以下の例が挙げられる。主要構造が同一で、置換基としてプロトン導電性基を含有する化合物において、プロトン導電性基の種類、あるいは数、またはその両方を異ならせることである。あるいは、主要構造が同一で、プロトン導電性基を含有する化合物において、プロトン導電性基が結合した原子かその隣接した原子上への電子吸引性、電子供与性のある置換基の導入により、プロトン導電性基の酸解離しやすさを制御してもよい。例えば電子吸引性、電子供与性の選択はハメット則の順列(例えば J.Am.Chem.Soc. 1937,59,96−103)を参考にしてもよい。このような方法により、酸解離度がアノード側触媒層>カソード側触媒層となるよう調整する。
【0025】
主要構造が同一で、置換基としてプロトン導電性基を含有する化合物としては、例えばナフィオン(登録商標、デュポン社)に代表される、プロトン導電性基を持つフルオロポリマー、スルホン酸フルオロオリゴマーやスルホン化ポリイミド、スルホン化オリゴマー等が挙げられる。
【0026】
上記のバインダーの酸解離度変更手段以外にも、触媒物質、あるいは触媒担持導電物質102の表面に官能基としてプロトン導電性基を付与することが挙げられる。更には、触媒物質、あるいは触媒担持導電物質102の導電性を補助するため、導電補助剤を添加する場合、後述する導電補助剤の表面にプロトン導電性基を付与するのも有効な手段である。さらには、燃料拡散性や保水性の向上を目的として、後述のサイズ剤を添加してもよく、サイズ剤表面にプロトン導電性基を付与するのも有効な手段である。このように、酸解離度がアノード側触媒層>カソード側触媒層となるように、上記手法を適宜組み合わせて用いることが好ましい。
【0027】
本発明における触媒物質あるいは触媒担持導電物質102の構成成分は特に制限されないが、一般的な膜電極接合体と同様に、触媒金属物あるいは導電性炭素との複合体を含有することが好ましい。例えば、白金よりなる金属触媒か、金属触媒が担持された導電性炭素によって形成される。白金の代わりに、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、およびオスミウムなどの白金族金属を用いても良いし、白金と前記金属の合金や、酸化チタン、酸化タンタル等の金属酸化物との複合体を用いても構わない。
【0028】
前記触媒金属物は粒子形状、樹脂状形状などの異方形形状であっても良い。
前記金属触媒の平均粒子径は0.5nm以上20nm以下、さらには1nm以上10nm以下であることが好ましい。平均粒子径は0.5nm未満の場合には、触媒粒子単体で活性が高すぎ、取り扱いが困難となる可能性がある。また20nmを越えると、触媒の表面積が減少して反応部位が減少するために、活性が低下するおそれがある。なお、ここでは、便宜上、触媒構造体の「粒子径」と記載したが、触媒構造体が粒子以外の形状である時には、「粒子径」とは、触媒物質内の二点間距離の最大値の半分とする。
【0029】
導電性炭素は、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、カーボンナノチューブなどから選ぶことができる。導電性炭素の平均粒子径は5nm以上1000nm以下であることが好ましく、さらには10nm以上100nm以下であることが好ましい。また前記金属触媒を担持させるため、比表面積はある程度大きいほうが良く、50m/g以上3000m/g以下、さらには100m/g以上2000m/g以下が好ましい。
【0030】
触媒物質単独で用いる場合、触媒層中の電子移動を補うため、先にあげた導電性粒子や炭素繊維などの導電性炭素からなる導電補助剤を用いても良い。
さらには、燃料拡散性や保水性向上を目的としたサイズ剤を添加してもよい。サイズ剤としての例は、無機系の微粒子、炭素材料繊維・粒子などが挙げられる。あるいは導電性向上のため、補助剤として、カーボンブラックなどの導電粒子や、炭素繊維などの導電繊維を添加してもよい。また、このとき、サイズ剤と導電補助剤が同一の材料によりその機能を担保してもよく、あるいはそれぞれの目的のため、複数添加してもよい。
【0031】
固体高分子型電解質膜4の主要構成材料は、パーフルオロ系高分子、炭化水素系高分子など高分子材料を適宜用いることができる。プロトンの移動を容易にするため、前述のバインダー材料同様、プロトン導電性基を含有することが望ましい。さらに、耐熱性、機械的形状安定性の観点から、水に不溶のプロトン伝導能のない基材に、プロトン伝導能のある高分子を充填・固定化させた複合材料を固体高分子型電解質膜として用いてもよい。基材材料は有機材料、無機材料、その複合物、いずれでもよい。
【0032】
本発明に好適な固体高分子型電解質膜の例としては、例えばナフィオン(登録商標、デュポン社)に代表される、プロトン導電性基を持つフルオロポリマー、スルホン酸フルオロオリゴマーやスルホン化ポリイミド、スルホン化オリゴマー等が挙げられる。
【0033】
拡散層103は、燃料と酸化剤ガスを均一に高効率で電極触媒層に導入し、かつ電極に接触させて電子を受け渡しするための構成部材である。一般的には、導電性の多孔質膜が好ましく、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンとポリテトラフルオロエチレンとの複合シートなどを用いることができる。この拡散層103の表面および/または内部をフッソ系塗料でコーティングし撥水化処理をして用いても構わない。
【0034】
拡散層103の厚みは、0.1μm以上500μm以下であることが好ましい。拡散層103の厚みが0.1μm未満の場合は、ガス拡散性、撥水性が不十分となる。逆に、拡散層103の厚みが500μmより大きいと、拡散層103の電気抵抗が上昇しオーム損失が増大するため好ましくない。さらに好ましい拡散層103の厚みは、1μm以上300μm以下である。
【0035】
取り出し電極104は膜電極接合体1で発生した電流を外部へ取り出すための電極であり、導電性の材料より構成されることが望ましい。また、取り出し電極104は各々、燃料や酸化剤ガスを拡散層103へ供給するための流路板を兼用していても良い。つまり、取り出し電極104は平板である必要は無く、電流取り出し部と流路溝にパターニングされた形状であっても良い。
【0036】
本発明における触媒層の酸解離度とは、触媒層を形成するバインダー101aあるいは101bに用いるバインダー材料自体の酸解離度、および/または、バインダー101aあるいは101b、触媒物質、あるいは触媒担持導電物質102、場合により添加する導電補助剤等を合わせて形成した触媒層5の酸解離度のことである。
また、固体高分子型電解質膜の酸解離度とは、固体高分子型電解質膜に用いる酸導電材料自体、および/または固体高分子型電解質膜4の酸解離度のことである。
【0037】
本発明における、触媒層、固体高分子型電解質膜を作製するために用いる材料、および/または触媒層、固体高分子型電解質膜に対する酸解離度の算出方法は以下とする。
まず、バインダー101aあるいは101b、固体高分子型電解質膜を作製する前のプロトン導電材料自体を純水に溶解させてpHを測定する。あるいは、触媒層、固体高分子型電解質膜を作製した後に、それぞれの各層を細かく裁断し、純水に分散してプロトンを溶出させてpHを測定する。仕込み量におけるプロトン導電性基濃度中、pH測定から算出された実際に解離するプロトン濃度の割合を、本発明における酸解離度とする。
【0038】
本発明の固体高分子型燃料電池は、前記本発明の膜電極接合体を用いることで得られる。図1は本発明における固体高分子型燃料電池の最小構成の1例を示したものであるが、実際の形状は任意であるし、複数個の膜電極接合体を直列または並列に組み合わせても良い。
【0039】
[本発明における膜電極接合体の製造方法]
本発明における電極接合体の製造方法としては、拡散層に触媒層を形成後、固体高分子型電解質膜に接合する方法や、固体高分子型電解質膜に直接触媒層を形成後、拡散層を設ける方法がある。
【0040】
触媒層を拡散層、および/または固体高分子型電解質膜に形成する方法は共通する方法を用いることができる。
触媒層の製造方法の1つとして、拡散層および/または固体高分子型電解質膜表面に、触媒物質あるいは触媒担持導電物質の前駆体ペーストを塗布することにより製造できる。
【0041】
前駆体ペーストは触媒物質あるいは触媒担持導電物質の他に、バインダー材料、前述の導電補助材料、サイズ材、バインダー材料の塗布に適した溶媒を含んでいてよい。
ペーストの塗布方法は特に限定されないが、例えば、バーコータ法、スピンコート法、スクリーン印刷法、エアドクタコータ法、ブレードコータ法、ロッドコータ法、ナイフコータ法、スクイズコータ法、含浸コータ法、コンマコータ法、ダイコータ法、リバースロールコータ法、トランスファロールコータ法、グラビアコータ法、キスロールコータ法、キャストコータ法、スプレイコータ法、カーテンコータ法、カレンダコータ法、押出コータ法等がある。
【0042】
また、他の触媒層の製造方法として、拡散層、あるいは固体高分子型電解質膜にスパッタリング法などの気相成長法、および/またはメッキ法などの液相成長法により触媒物質を成膜する。そして、触媒層と固体高分子型電解質膜、あるいは拡散層との接合界面の密着性を高めるために前述の塗布方法などによりバインダー材料を塗布・乾燥させて触媒層としてもよい。
【0043】
さらに別の方法として、転写基材に触媒層を形成後、拡散層および/または固体高分子型電解質膜に転写することにより製造できる。転写基材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシートや、表面を離型剤処理したガラス基板や金属板などを用いても良い。触媒層を形成する方法としては、前述のペースト塗布法、気相成長法、液相成長法など、同様の手法がある。
【0044】
これらの方法により作製した触媒層を拡散層最表面から測定したときの厚みは、固形分換算値で1mm以下であり、好ましくは0.05μm以上50μm以下の範囲である。厚みが0.05μmより薄いと、微小なピンホールやクラックが生じやすく、逆に厚みが50μmより厚いと、膜抵抗が大きくなる恐れがある。
【0045】
前述の方法により拡散層表面に作製した触媒層と固体高分子型電解質膜、あるいは固体高分子型電解質膜表面に作製した触媒層と拡散層を接合する方法として、圧着方式、加熱圧着方式などがある。
【0046】
バインダー材料や固体高分子型電解質膜材料は、接合時の熱や圧力により、化学的・機械的変形を引き起こす恐れがあるため、加熱温度は実験室環境温度である20℃程度から150℃程度が望ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
実施例1
アノード側触媒層の前駆体ペーストとして、Pt触媒(田中貴金属工業(株)製、AY−1020)0.5g、純水0.5g、20wt%のナフィオン溶液(アルドリッチ社製)37.5gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0048】
カソード側触媒層の前駆体ペーストとして、前記Pt触媒0.5g、純水0.5g、イルガキュア184(日本チバガイギー製)0.1g、リン酸材料としてP−1M(共栄社化学製)3.0g、エタノール0.1gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0049】
拡散層として撥水処理をしたカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−30、厚さ0.1mm)に、これらの前駆体ペーストをバーコータ法により触媒が約3mg/cmとなるように塗工および乾燥した。カソード側触媒層は、その後、UV硬化により固定化して触媒層とした。
【0050】
次に固体高分子型電解質膜としてナフィオン膜(アルドリッチ社製 NRE212CS)を用い、アノード用、カソード用各触媒層の塗工面を電解質膜側にサンドイッチするように挟み込み、加熱プレス器により5分間100℃2kN(触媒層面積10cm)の条件でプレス処理することにより膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0051】
本実施例における酸解離度を測定した。カーボンペーパーに塗布した前駆体ペーストにおけるプロトン導電材料と同量を計り取り、純水で薄め、10mL溶液を得た。また、固体高分子型電解質膜として用いたナフィオン膜と同サイズを切り出し、細かく裁断し、10mLの純水中で1昼夜攪拌させた。得られた各測定液を、pHメーター(堀場製作所製 D−51)にて測定した。その結果、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜、カソード側触媒層の順に、pHは1.38、4.03、1.57であり、ここから算出された酸解離度は0.38、0.006、0.24であった。
【0052】
なお、pH値から酸解離度は、下記の式を用いて算出した。仕込みプロトン濃度とは、作製時に用いたプロトン導電性基からプロトンが全て解離すると仮定したときに存在するプロトン量のことである。
酸解離度=pHから求めたプロトン濃度/仕込みプロトン濃度
【0053】
比較例1
実施例1に用いたアノード側触媒層、カソード触媒層と同じものを用意し、実施例1に用いたカソード側触媒層をアノード側触媒層に、実施例1に用いたアノード側触媒層をカソード側触媒層とした。実施例1に記載の固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により膜電極接合体を用意した。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0054】
実施例2
アノード側触媒層の前駆体ペーストとして、実施例1に記載のPt触媒0.5g、純水0.5g、20wt%のナフィオン溶液3.75gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0055】
カソード側触媒層の前駆体ペーストとして、実施例1に記載のPt触媒0.5g、純水0.5g、ポリスチレンスルホン酸4.8gとを十分に混合したペーストを作製した。
実施例1に記載の拡散層上に、バーコータ法により触媒が約3mg/cmとなるように塗工および乾燥した。
【0056】
固体高分子型電解質膜として、水に不溶のプロトン伝導能のない基材に、プロトン伝導能を有する電解質膜材料を充填したものを用意した。水に不溶のプロトン伝導能のない基材として、厚さ15μm、平均細孔径0.1μmの多孔性高分子膜であるポリイミド膜を用意した。電解質膜材料として、ビニルスルホン酸、アクリロイルモルフォリン、メチレンbisアクリルアミドをモル比で32:8:1になるように混合し、充填液を得た。充填液にポリイミド膜を浸漬して容器ごと超音波処理を1分間施した。容器より取り出したポリイミド膜を平滑な板上へ移して、電子線照射装置(岩崎電気社製、EC250/15/180L)を用いて、加速電圧200kV、線量50kGyの電子線を照射した。電子線の照射によりポリイミド膜の多孔内に充填された液状の混合物は固定化され、本実施例の固体高分子型電解質膜が得られた。
【0057】
本実施例における触媒層、固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により、膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
本実施例における酸解離度を測定した。カーボンペーパーに塗布した前駆体ペースト中におけるプロトン導電材料と同量を計り取り、純水で薄め、10mL溶液を得た。また、電解質膜に固定化された充填物の量を算出し、これと同量の充填液を計り取り、純水で薄め10mL溶液を得た。得られた各測定液を、pHメーター(堀場製作所製 D−51)にて測定した。その結果、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜、カソード側触媒層の順に、pHは2.55、1.48、2.83であり、ここから算出された酸解離度は0.26、0.95、0.13であった。
【0058】
比較例2
実施例2に用いたアノード側触媒層、カソード側触媒層と同じものを用意し、実施例2に用いたカソード側触媒層をアノード側触媒層に、実施例2に用いたアノード側触媒層をカソード側触媒層とした。実施例2に記載の固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0059】
実施例3
アノード側触媒層の前駆体ペーストとして、実施例1に記載のPt触媒0.5g、純水0.5g、20wt%のナフィオン溶液0.42gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0060】
カソード側触媒層の前駆体ペーストとして、実施例1に記載のPt触媒0.5g、純水0.5g、5wt%のポリスチレンスルホン酸溶液0.54gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0061】
実施例1に記載の拡散層上に、バーコータ法により触媒が約3mg/cmとなるように塗工および乾燥することで、アノード側触媒層、および、カソード側触媒層を得た。固体高分子型電解質膜には、実施例2に記載の固体高分子型電解質膜を用意した。
【0062】
本実施例による触媒層と固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により、膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
本実施例における酸解離度を測定した。カソード側触媒層、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜として用意した物と同じ物を用意し、細かく裁断し、10mLの純水中で1昼夜攪拌させた。得られた各測定液を、pHメーター(堀場製作所製 D−51)にて測定した。その結果、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜、カソード側触媒層の順に、pHは4.45、3.47、4.80であり、ここから算出された酸解離度は0.040、0.022、0.018であった。
【0063】
比較例3
実施例3に用いたアノード側触媒層、カソード側触媒層と同じものを用意し、実施例3に用いたカソード側触媒層をアノード側触媒層に、実施例3に用いたアノード側触媒層をカソード側触媒層とした。実施例3に記載の固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0064】
実施例4
アノード側触媒層、カソード側触媒層として、実施例1に記載の触媒層を用意した。
5wt%ポリスチレンスルホン酸を塗布・乾燥することにより、カソード側触媒層に用いたポリスチレンスルホン酸とほぼ同量のポリスチレンスルホン酸からなる厚さ19μmの固体高分子型電解質膜を用意した。実施例1に記載の方法により、膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0065】
本実施例における酸解離度を測定した。カーボンペーパーに塗布した前駆体ペースト中におけるプロトン導電材料、固体高分子型電解質膜に用いたポリスチレンスルホン酸と同量を計り取り、純水で薄め、10mL溶液を得た。得られた各測定液を、pHメーター(堀場製作所製 D−51)にて測定した。その結果、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜、カソード側触媒層の順に、pHは2.55、2.83、2.83であり、ここから算出された酸解離度は0.26、0.13、0.13であった。
【0066】
比較例4
実施例4に用いたアノード側触媒層、カソード側触媒層と同じものを用意し、実施例4に用いたカソード側触媒層をアノード側触媒層に、実施例4に用いたアノード側触媒層をカソード側触媒層とした。実施例4に記載の固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0067】
実施例5
アノード側触媒層、カソード側触媒層として、実施例1に記載の触媒層を用意した。
20wt%ナフィオン溶液を塗布・乾燥することにより、アノード側触媒層に用いたナフィオンとほぼ同量のナフィオンからなる厚さ25μmの固体高分子型電解質膜を用意した。実施例1に記載の方法により、膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0068】
本実施例における酸解離度を測定した。カーボンペーパーに塗布した前駆体ペースト中におけるプロトン導電材料、固体高分子型電解質膜に用いたナフィオン、それぞれと同量を計り取り、純水で薄め、10mL溶液を得た。得られた各測定液を、pHメーター(堀場製作所製 D−51)にて測定した。その結果、アノード側触媒層、固体高分子型電解質膜、カソード側触媒層の順に、pHは2.55、2.55、2.83であり、ここから算出された酸解離度は0.26、0.26、0.13であった。
【0069】
比較例5
実施例5に用いたアノード側触媒層、カソード側触媒層と同じものを用意し、実施例5に用いたカソード側触媒層をアノード側触媒層に、実施例5に用いたアノード側触媒層をカソード側触媒層とした。実施例5に記載の固体高分子型電解質膜を用い、実施例1に記載の方法により膜電極接合体を得た。この膜電極接合体を用いて燃料電池セルを作製した。
【0070】
(燃料電池の出力測定)
前記実施例1、2および比較例1で得られた膜電極接合体を燃料電池評価セル((株)ケミックス製、DFC−010、触媒層面積10cm、運転温度60℃)に装着し、アノード側には加湿した水素を200cc/min、カソード側には空気を酸化剤として450cc/min流し、燃料電池テストシステム(スクリブナー社製、890B)によって負荷をかけ、出力(mW/cm)を測定した。表1に燃料電池セルの出力(mW/cm)の値を示す。
【0071】
【表1】

【0072】
本発明における実施例は、比較例と比べて約10%程度の出力向上が見られた。これは、プロトン移動が迅速に進み、触媒反応が促進されたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の膜電極接合体は、発電特性が良好で出力が向上できるので、固体高分子型燃料電池に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る固体高分子型燃料電池の一実施態様の構成を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1 膜電極接合体
2 アノード
3 カソード
4 固体高分子型電解質膜
5 触媒層
101a、101b バインダー
102 触媒物質あるいは触媒担持導電材料
103 拡散層
104 取り出し電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも固体高分子型電解質膜とアノード側触媒層とカソード側触媒層とを有する膜電極接合体において、アノード側触媒層の酸解離度が、カソード側触媒層の酸解離度より大きいことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記固体高分子型電解質膜と、前記アノード側触媒層と、前記カソード側触媒層の酸解離度の関係が、アノード側触媒層≧固体高分子型電解質膜>カソード側触媒層、あるいはアノード側触媒層>固体高分子型電解質膜≧カソード側触媒層であることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記アノード側触媒層に少なくともスルホン酸基含有化合物を含み、前記カソード側触媒層に少なくともリン酸基含有化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−199836(P2009−199836A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39361(P2008−39361)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】