説明

膜電極複合体およびその製造方法ならびに高分子電解質型燃料電池

【課題】本発明は、出力低下の抑制と触媒量の低減を両立できる、低コスト化に有効な膜電極複合体ならびにそれの製造方法および高分子電解質型燃料電池を提供せんとするものである。
【解決手段】アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、前記アノード電極は電極基材と触媒層からなり、前記触媒層は電極基材と電解質膜の間に配され、前記触媒層はポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子からなり、前記触媒層の電解質膜に接する部分の金属粒子および金属担持粒子含量が90〜99.9重量%であることを特徴とする膜電極複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質型燃料電池に用いる膜電極複合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、排出物が少なく、かつエネルギー効率が高く、環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替として、あるいは二次電池の充電器として、またあるいは二次電池との併用(ハイブリッド)により、携帯電話などの携帯機器やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell。以下、PEFCと記載する場合がある)においては、水素ガスを燃料とする従来の高分子電解質型燃料電池に加えて、メタノールなどの燃料を直接供給する直接型燃料電池も注目されている。直接型燃料電池は、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】
PEFCは通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソードとの間でプロトン伝導体となる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以下MEAと記載する場合がある)を構成し、このMEAがセパレーターによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、通常はガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる触媒層とから構成されている。
【0005】
たとえばPEFCのアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子電解質膜から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0006】
また、PEFCの中でもメタノールなどを燃料とする直接型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCとは異なる性能が要求される。すなわち、直接型燃料電池においては、アノード電極ではメタノール水溶液などの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトン、電子、二酸化炭素を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜に伝導し、二酸化炭素は電極基材を通過して系外へ放出される。このため、従来のPEFCのアノード電極の要求特性に加えて、メタノール水溶液などの燃料透過性や二酸化炭素の排出性も要求される。さらに、直接型燃料電池のカソード電極では、従来のPEFCと同様な反応に加えて、電解質膜を透過したメタノールなどの燃料と酸素あるいは空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で二酸化炭素と水を生成する反応も起こる。このため、従来のPEFCよりも生成水が多くなるため、さらに効率よく水を排出することが好ましい。
【0007】
このような燃料電池の本格的な普及にあたっては、発電特性や耐久性などの性能向上、インフラ設備とともに製造コストを低減する必要がある。従来、特許文献1、2等の多くの刊行物に記載されているように、これらの燃料電池の触媒は、高価な貴金属や該金属をカーボン粒子等に担持された微粒子が使用され、その原料コストが多くの割合を占めている。
【0008】
膜電極複合体における触媒層の形成方法において、特許文献1、2等においては、金属または金属担持粒子を溶剤やポリマーバインダー(結着剤と記載する場合がある)とともに塗液化(インク化、ペースト化も含む)し、電極基材や転写基材に塗工し、乾燥して使用する方法が提案されている。特許文献3では、触媒層の粒径について電極基材側よりも電解質膜側を小さくする方法が提案されている。特許文献4では、燃料用(アノード)触媒層および酸化剤用(カソ−ド)触媒層の少なくとも一方は厚み方向に沿った断面において、電解質膜側の部分はガス拡散層側(電極基材側)の部分よりも炭化フッ素系の電解質成分を多く含有させる方法が提案されている。また、濾過法(非特許文献1)、電気泳動法(非特許文献2)、スパッタリング、真空蒸着およびめっきなどによる触媒層形成も提案されている。
【0009】
前述したように、燃料電池の触媒は、高価な貴金属や該金属をカーボン粒子等に担持された微粒子が使用されるため、金属または金属担持粒子の反応利用率を高くして、触媒量を低減することが望まれていた。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2の方法ではアルコール系溶媒を用いて塗液化しているために塗工工程、たとえばスリット口金出口で乾燥し目詰まりを生じ吐出が困難となり量産化できないという問題があり、これを防ぐ目的において塗液を高沸点溶媒系に変更すると、特にアノード電極触媒層の場合は乾燥時間の長時間化により金属または金属担持粒子の沈降によって該触媒層表面はポリマーバインダーリッチとなり、金属または金属担持粒子の反応利用率が低くなり、触媒量の低減は困難である。
【0011】
また、特許文献3の方法では、ポリマーバインダーを多く必要とするため、電解質膜側の触媒層に含まれる金属量が少なく、金属または金属担持粒子の反応利用率が低くなる。また、凝集した触媒粒子の粒径コントロールが困難であり、かつ粒径が異なる界面において細密充填し緻密となるので、アノード電極では燃料の透過拡散性に問題が生じ、カソード電極では生成した水の排出に問題が生じる。その結果として、金属または金属担持粒子の反応利用率が低くなる。
【0012】
さらに、特許文献4の方法ではアノード電極において膜側の部分に炭化フッ素系の電解質成分が多いため金属または金属担持粒子の表面を炭化フッ素系の電解質成分が覆ってしまい、金属または金属担持粒子の反応利用率が低くなるという問題が生じる。
【0013】
また、スパッタリング、蒸着、電気泳動、めっきなどの方法で触媒層を形成する方法も挙げられるが、装置が高価であり、量産対応するためのコストアップは避けられない。また、触媒層が緻密になり過ぎ出力など膜電極複合体の性能が不十分であった。
【特許文献1】特開2003-86192号公報
【特許文献2】特開2005-235556号公報
【特許文献3】特開平8-162123号公報
【特許文献4】特開2005-268048号公報
【非特許文献1】「電解質膜中に無機微粒子を多量に含むMEAの作製」、電気化学会 第70周年記念大会講演要旨集、2003、3N08、313頁
【非特許文献2】「電気泳動法を用いた固体高分子型燃料電池用電極・膜接合体の作製」、電気化学会 第70周年記念大会講演要旨集、2003、3N09、314頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、アノード電極の触媒層において電解質膜に接する触媒層のポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子の組成比をそれぞれコントロールすることに着目し、鋭意努力の結果、出力低下の抑制と触媒量の低減を両立できる、低コスト化に有効な膜電極複合体と、その製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、前記アノード電極は電極基材と触媒層からなり、前記触媒層は電極基材と電解質膜の間に配され、前記触媒層はポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子からなり、前記触媒層の電解質膜に接する部分の金属粒子および金属担持粒子含量が90〜99.9重量%であることを特徴とする膜電極複合体であって、高分子電解質型燃料電池は該膜電極複合体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、出力低下の抑制と触媒量の低減を両立できる、低コスト化に有効な膜電極複合体と、その製造方法を提供せんとするものである。これにより燃料電池の普及に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0018】
本発明の膜電極複合体およびそれの製造方法ならびに高分子電解質型燃料電池は、アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、前記アノード電極は電極基材と触媒層からなり、前記触媒層は電極基材と電解質膜の間に配され、前記触媒層はポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子からなり、前記触媒層の電解質膜に接する部分の金属粒子および金属担持粒子含量が90〜99.9重量%であることを特徴とする膜電極複合体であって、高分子電解質型燃料電池は該膜電極複合体を用いることを特徴とする。
【0019】
発明者らは、特に高分子電解質型燃料電池用膜電極複合体のアノード電極の触媒層について、形成方法、量産対応、触媒利用効率、触媒量の低減について鋭意検討し、電解質膜に接する該触媒層を金属リッチとする適正な組成比にすれば高出力が得られ、かつ触媒量を低減でき、その結果として触媒利用効率を向上させ得ることを突き止め本発明に至った。
【0020】
本発明における膜電極複合体に好適な電極の例を説明する。かかる電極は、触媒層および電極基材からなるものである。ここでいう触媒層は、電極反応を促進する触媒、電子伝導体、イオン伝導体などを含む層である。かかる触媒層に含まれる触媒としては金属粒子およびは金属担持粒子であり、金属として、例えば、白金、ルテニウム、金、イリジウム、ロジウム、パラジウム、銀、コバルト、オスミウム、ニッケル、銅および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属触媒が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。また、触媒層に電子伝導体(導電材)を使用する場合は、電子伝導性や化学的な安定性の点から炭素材料、無機導電材料が好ましく用いられる。なかでも、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。
【0021】
ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカン(登録商標)XC−72”、“バルカン(登録商標)P”、“ブラックパールズ(登録商標)880”、“ブラックパールズ(登録商標)1100”、“ブラックパールズ(登録商標)1300”、“ブラックパールズ(登録商標)2000”、“リーガル(登録商標)400”、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック(登録商標)”EC、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック(登録商標)”などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。
【0022】
これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を後処理加工したものを用いてもよい。また、電子伝導体を使用する場合は、触媒粒子と均一に分散していることが電極性能の点で好ましい。このため、触媒粒子と電子伝導体は予め塗液として良く分散しておくことが好ましい。さらに、触媒層としては触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボン等を用いることも好ましい実施態様である。この触媒担持カーボンを用いることにより、触媒の利用効率が向上し電池性能の向上および低コスト化に寄与できる。ここで、触媒層に触媒担持カーボンを用いた場合においても、電子伝導性をさらに高めるために導電剤を添加することも可能である。
【0023】
このような導電剤としては、前述のカーボンブラックなどが好ましく用いられる。触媒層に用いられるイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)としては、一般的に種々の有機、無機材料が公知であるが燃料電池に用いる場合には、イオン伝導性を向上するスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などのイオン性基を有するポリマー(イオン伝導性ポリマー)が好ましく用いられる。
【0024】
なかでもイオン性基の安定性の観点から、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン伝導性を有するポリマーあるいは本発明の高分子電解質材料が好ましく用いられる。パーフルオロ系イオン伝導性ポリマーとしては、例えばデュポン社製の“ナフィオン(登録商標)”、旭化成社製の“Aciplex(登録商標)”、旭硝子社製“フレミオン(登録商標)”などが好ましく用いられる。
【0025】
これらのイオン伝導性ポリマーは、溶液または分散液の状態で触媒層中に設ける。この際にポリマーを溶解あるいは分散化する溶媒は特に限定されるものではないが、イオン伝導性ポリマーの溶解性の点から極性溶媒が好ましい。また、後述する電解質膜として好ましい炭化水素系高分子材料も触媒層中のイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)に好適に使用できる。特にメタノール水溶液やメタノールを燃料にするダイレクトメタノール型燃料電池の場合は、耐メタノール性の観点から前述の炭化水素系高分子材料が耐久性などに効果的な場合がある。
【0026】
前述の触媒と電子伝導体類は通常粉体であるのでイオン伝導体は、これらを固める役割を担うことが通常である。イオン伝導体は、触媒層を作製する際に触媒粒子と電子伝導体とを主たる構成物質とする塗液に予め添加し均一に分散した状態で塗布することが電極性能の点から好ましいものである。
【0027】
触媒層に含まれる触媒(金属粒子および金属担持粒子)の量としては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、触媒層の電解質膜に接する部分の触媒の量が重量比で90〜99.9重量%の範囲であることが必要である。触媒層の電解質膜に接する部分の触媒の量が90重量%以下の場合は触媒の利用効率、燃料透過性の不良や反応生成物のガス透過性の拡散を阻害する場合があるので電極性能を低下させることがある。
【0028】
アノード電極においては、触媒層と電解質膜の界面は微細な凹凸構造を有するものであり、本発明において、触媒層の電解質膜に接する部分とは、この電解質膜と触媒層が咬み合った凹凸構造のことをいう。その厚みは要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、触媒層の電解質膜に接する部分の厚みが0.1〜10μmの範囲が特に好ましい。触媒層の電解質膜に接する部分の厚みが0.1μm以下の場合は触媒粒子が粗となり過ぎる場合があり、10μm以上は触媒粒子が堆積した凹凸構造を取れ得なくなる場合があるのでいずれも触媒の利用効率が不十分となり、電極性能を低下することがある。
【0029】
本発明におけるアノード電極の白金付量としては、蛍光X線による白金強度換算や重量換算等の手法によって求められるが、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、例えばメタノール水溶液を燃料とする燃料電池の場合は0.1〜5mg/cmが好ましく、特に電解質膜に接する触媒層の白金付量は0.05〜2mg/cmが好ましい。また、水素を燃料とする燃料電池の場合は0.1〜2mg/cmが好ましく、特に電解質膜に接する触媒層の白金付量は0.05〜1mg/cmが好ましい。
【0030】
本発明のアノード電極は触媒層の電解質膜に接する部分の触媒の量が重量比で90〜99.9重量%の範囲(高濃度領域)であることが必要であるが、触媒層の電解質膜に接する部分以外においては、触媒の量が重量比で50〜89重量%の範囲(低濃度領域)にある部分を有することが好ましい。触媒の量が50重量%以下の場合は触媒の利用効率、燃料透過性の不良や反応生成物のガス透過性の拡散を阻害する場合があり、89重量%以上の場合はイオン伝導度が低く、かつ電極基材との接着性や触媒粒子間の結着性が不良となる場合があるのでいずれも電極性能を低下させることがある。
【0031】
高濃度領域は触媒層の電解質膜に接する部分に限る必要はなく、触媒層の電解質膜に接する部分以外が高濃度領域であっても構わない。また高濃度領域と低濃度領域は、触媒層の厚み方向に沿った断面において、層構造であっても傾斜構造であっても構わない。
【0032】
ここで、本発明のアノード電極は電極基材との密着性、高耐久性を達成した高分子電解質型燃料電池を得るために触媒層が少なくとも2層以上の積層構造からなることも好適である。この2層以上の積層構造を有する触媒層とは、例えば電極基材側と電解質膜側に接する触媒層の厚み方向に沿った断面において、ポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子の組成比を電極基材に接する触媒層と電解質膜に接する触媒層で異なる組成比で触媒層を形成することであり、前記ポリマーバインダーと金属および金属担持粒子において金属粒子および金属担持粒子含量が電極基材に接する触媒層が50〜89重量%であり、金属粒子および金属担持粒子含量が電解質膜に接する触媒層が90〜99.9重量%であることを意味する。電極基材に接する触媒層で触媒の量が多過ぎる場合はイオン伝導度が低く、かつ電極基材との接着性や触媒粒子間の結着性が不良となり、少な過ぎる場合は触媒の利用効率、燃料透過性の不良や反応生成物のガス透過性の拡散を阻害する点でいずれも電極性能を低下させることがある。その膜厚は要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、電極基材に接する触媒層の厚みが5〜100μmが好ましく、電解質膜に接する触媒層の厚みが0.1〜10μmが好ましい。
【0033】
さらにその白金付量としては、例えばメタノール水溶液を燃料とする燃料電池の場合は電極基材に接する触媒層が0.1〜5mg/cmが好ましく、電解質膜が0.05〜2mg/cmが好ましい。また、水素を燃料とする燃料電池の場合は電極基材側が0.1〜2mg/cmが好ましく、電解質膜側が0.05〜1mg/cmが好ましい。
【0034】
一方、カソード触媒層においては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが重量比で20〜99重量%の範囲が好ましく、50〜95重量%の範囲がさらに好ましい。触媒の量が多過ぎる場合は、イオン伝導度が低く、かつ電極基材との接着性や触媒粒子間の結着性が不良となり、少な過ぎる場合は触媒の利用効率、反応生成物の水やガス透過性の拡散を阻害する点でいずれも電極性能を低下させることがある。
【0035】
カソード触媒層の膜厚は、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、5〜200μmが好ましい。また、白金付量としては要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、例えばメタノール水溶液を燃料とする燃料電池の場合は0.1〜10mg/cmが好ましい。また、水素を燃料とする燃料電池の場合は0.1〜2mg/cmが好ましい。さらに、アノード電極の白金付量とカソード電極の白金付量比は要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比、使用条件などに応じて実験的に適宜決められるべきものである。
【0036】
本発明の電極触媒層の作製方法としては、ポリマーバインダー、金属粒子および金属担持粒子と溶媒からなる触媒塗液を前記電極基材上、後述するフィルム支持体上、または後述する電解質膜上に後述する適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去する方法を例示することができる。特に本発明のアノード電極の触媒層の作製方法においては、電解質膜に接する触媒層は触媒利用効率の向上、反応生成物の水やガス透過性の向上、触媒量低減の観点から、スプレー塗工方法が好ましく、とりわけ触媒粒子の堆積構造が容易に得られるパルススプレー塗工方法が特に好ましい。
【0037】
かかる触媒層には、前述の触媒、電子伝導体、イオン伝導体の他に種々の物質を含んでいてもよい。特に、触媒層中に含まれる物質の結着性を高めるために前述のイオン伝導性ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。このようなポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)およびその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)およびその共重合体などのフッ素原子を含むポリマー、これらの共重合体、これらのポリマーを構成するモノマー単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマーとの共重合体、あるいはブレンドポリマーなどを用いることができる。これらポリマーの触媒層中の含有量としては、重量比で5〜40重量%の範囲が好ましい。
【0038】
ポリマー含有量が多すぎる場合、電子およびイオン抵抗が増大し電極性能が低下する傾向がある。また、触媒層は燃料が液体や気体の場合には、その液体や気体が透過しやすい構造を有していることが好ましく、電極反応に伴う反応生成物質の排出を促す構造が好ましい。また、電極基材としては電気抵抗が低く、集電あるいは給電を行えるものを用いることができる。また、前記触媒層を集電体兼用で使用する場合は、特に電極基材を用いなくてもよい。電極基材の構成材料としては、例えば炭素質、導電性無機物質が挙げられ、具体的にはポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの形態は特に限定されず、例えば繊維状あるいは粒子状で用いられるが燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。
【0039】
導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。例えば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。かかる織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など特に限定されることなく用いられる。また、不織布としては抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されることなく用いられる。また、編物であってもよい。これらの布帛において特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布やクロスを用いるのが好ましい。
【0040】
かかる電極基材に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などが挙げられる。また、かかる電極基材には水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理、抵抗を下げるための炭素粉末の添加などを行うこともできる。また、電極基材と触媒層の間に少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることもできる。特に電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで触媒層が電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0041】
本発明における膜電極複合体ならびにその製造方法は、“ナフィオン(登録商標)”(デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質膜や炭化水素系電解質膜などすべての電解質膜に適用できるが、特に、前述した高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率および低含水率の電解質膜を使用した膜電極複合体の製造に好適である。具体的にはガラス転移温度130(℃)以上引っ張り弾性率100(MPa)以上、含水率40(重量%)以下などの電解質膜が挙げられ、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレン、イオン性基含有ポリアゾメチン、イオン性基含有ポリイミドアゾメチン、イオン性基含有ポリスチレンおよびイオン性基含有スチレン−マレイド系架橋共重合体などのイオン性基含有ポリオレフィン系高分子およびその架橋体などのイオン性基を有する芳香族炭化水素系高分子が挙げられる。
【0042】
これらの高分子材料は単独、あるいは二種以上併用して使用でき、ポリマーブレンド、ポリマーアロイ、また2層以上の積層膜として使用できる。また、イオン性基を有するモノマーを重合する方法としては、例えば、「ポリマープレプリンツ」(Polymer Preprints),41(1)(2000)237.等に記載の方法によって可能である。この方法により重合体を得る場合には、イオン性基の導入の度合いはイオン性基を有するモノマーの仕込み比率により、容易に制御することができる。また、使用するイオン性基を有した高分子材料が非架橋構造を有する場合、重量平均分子量は1〜500万が好ましく、より好ましくは3〜100万である。該重量平均分子量はGPC法によって測定できる。特にイオン性基としては、前述のようにスルホン酸基を有する高分子材料が最も好ましいが、スルホン酸基を有する高分子材料を使用する一例として、−SOM基(Mは金属)含有のポリマーを溶液状態により製膜し、その後高温での熱処理により溶媒を除去し、プロトン置換して電解質膜とする方法が挙げられる。前記の金属Mはスルホン酸と塩を形成しうるものであればいいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。これらの金属塩の状態で製膜することで高温での熱処理が可能となり、該方法は高ガラス転移点、低含水率が得られる高分子材料系には好適である。
【0043】
本発明における電解質膜の熱処理の温度としては、得られる電解質膜の含水率の観点から100〜500℃が好ましく、200〜450℃がより好ましく、250〜400℃がさらに好ましい。100℃以上とするのは、低含水率を得る上で好ましい。一方、500℃以下とすることで高分子材料の分解を防ぐことができる。また、熱処理時間としては生産性の点で10秒〜24時間が好ましく、30秒〜1時間がより好ましく、45秒〜30分がさらに好ましい。熱処理時間を10秒以上とすることで十分な溶媒除去が可能となり、その結果として燃料クロスオーバー制御効果に優れる電解質膜が得られる。また、24時間以下とすることでポリマーの分解を防止かつプロトン伝導性を維持し、その結果として工業的生産性も高くなる。
【0044】
本発明における電解質膜の作製方法としては、ポリマー溶液を適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去し、高温で処理後、酸処理する方法を例示することができる。例えばコーティング法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。
【0045】
溶媒を用いたコーティング法では、熱による溶媒の乾燥、ポリマーを溶解しないで溶媒での湿式凝固法などで製膜でき、無溶媒では、光、熱、湿気などで硬化させる方法、ポリマーを加熱溶融させ、膜状に製膜後冷却する方法などが適用できる。
【0046】
電解質膜の製膜に用いる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒が好適に用いられる。電解質膜の膜厚としては、通常3〜2000μmのものが好適に使用される。
【0047】
実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜1000μm、さらに好ましい範囲は10〜500μmである。
【0048】
膜厚は種々の方法で制御できる。例えば、溶媒キャスト法で製膜する場合は、溶液濃度あるいは支持体上への塗布厚により制御することができるし、また、例えばキャスト重合法で製膜する場合は、板間のスペーサー厚みによって調整することもできる。
【0049】
また、本発明の電解質膜は、必要に応じて放射線照射などの手段によって高分子構造全体あるいは一部を架橋せしめることもできる。架橋せしめることにより、燃料クロスオーバーおよび燃料に対する膨潤をさらに抑制する効果が期待でき、機械的強度が向上し、より好ましくなる場合がある。放射線照射の種類としては例えば、電子線照射やγ線照射を挙げることができる。架橋構造を有することにより、水分や燃料の浸入に対する高分子鎖間の広がりを抑えることができる。含水率を低く抑えることができ、また、燃料に対する膨潤も抑制できることから、その結果として燃料クロスオーバーを低減することができる。また、高分子鎖を拘束できるため耐熱性や剛性も付与できる。ここでの架橋は、化学架橋であっても物理架橋であってもよい。
【0050】
この架橋構造は通常公知の方法で形成でき、例えば多官能単量体の共重合や電子線照射によって形成できる。特に、多官能単量体による架橋が経済的観点から好ましく、単官能ビニル単量体と多官能単量体の共重合体やビニル基やアリル基を有する高分子を多官能単量体で架橋したものが挙げられる。ここでの架橋構造とは、熱に対しての流動性が実質的に無い状態か溶剤に対して実質的に不溶の状態を意味する。また、本発明の電解質膜中には、イオン伝導性や燃料クロスオーバーの制御効果を阻害しない範囲内において機械的強度の向上、イオン性基の熱安定性向上、加工性の向上などの観点かフィラーや無機微粒子を含有しても、ポリマーや金属酸化物からなるネットワークや微粒子を形成させても構わないし、さらに多孔質の支持体などに含浸した膜でも差し支えない。
【0051】
特に、前述の高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率および低含水率の電解質膜を使用する場合は、膜電極複合体の電極と電解質膜間との界面抵抗の低減および密着性を向上させる目的において電解質膜と電極間にイオン性基をもつ物質を介在させることが有効であり、かかる膜電極複合体を用いることによって、高出力、高エネルギー容量を達成し、さらには高耐久性を達成した高分子電解質型燃料電池を提供することが可能となる。
【0052】
また、ここでのイオン性基をもつ物質とは、イオン性基を有する高分子材料と溶媒や可塑剤などの添加剤を含んだ物質のことであり、該物質を紙、フィルム、布帛、金属箔および前記電解質膜などに設けたものが好ましく使用される。また、紙、フィルム、布帛、金属箔に設けたイオン性基をもつ物質は、後工程で紙、フィルム、布帛、金属箔から電解質膜に転写する工程を含むことが好ましい。また、その後に膜電極複合体として特に残存価値のない溶媒や可塑剤などの添加剤を除去する工程を有することが好ましい。
【0053】
電極と電解質膜の複合化は、通常公知の方法(例えば、「電気化学」1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、「ジャーナル オブ エレクトロケミカル サイエンス」(J. Electrochem. Soc.): Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の加熱プレス接合法など)を適用することが可能である。加熱プレスにより複合化することは好ましい方法であるが温度、圧力および時間は、電解質膜の耐熱性、機械的強度、膜厚、含水率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる複合化が可能である。特に、本発明の方法では、通常、電解質膜が含水状態でなければ、電極と電解質膜の接合状態の良好な膜電極複合体を得ることができないような電解質膜においても、電解質膜が乾燥した状態でプレスできるため電解質膜と触媒層の実質的な接触面積を大きくでき、さらには加熱プレス時の水分揮発による電解質膜の実質的な収縮がないことから、強固な密着性を有する極めて優れた品位の膜電極複合体を得ることができる。その結果として、高性能な高分子電解質型燃料電池が得られる。ここで具体的なプレス方法としては、圧力やクリアランスを規定したロールプレス、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、加熱温度は該イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜の流動性に応じて適宜選択でき、工業的生産性の観点から室温〜130℃の範囲で行うことが好ましい。また、加圧は電解質膜や触媒層の保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合は0.1〜10MPaの範囲が好ましい。
【0054】
また、膜電極複合体を製造する方法として、予めポリテトラエチレンフロライドやポリプロピレンなどのフィルム(支持体)上に触媒層を塗布し乾燥させることで、支持体上に触媒層を形成させたものを加熱プレスまたは熱ロールによって電解質膜に転写する方法も可能である。ここでいう支持体としては、例えば、前述したポリテトラエチレンフロライドやポリプロピレンなどのフィルムに加え、オレフィン系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ウレタンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどが挙げられるが、耐熱性および耐薬品性に優れるフィルム例えば、“カプトン(登録商標)”(デュポン社製)などが好ましく用いられる。また、触媒層を支持体上に形成する方法としては、前述の各種のコーティング法が例示できる。
【0055】
また、膜電極複合体を製造する方法として、電解質膜に直接触媒層を塗布し乾燥させることで、電解質膜上に触媒層を形成させる方法も可能である。この方法を用いる場合は、触媒層を形成させる触媒塗液に配合される溶媒の選択が特に重要であり、電解質膜と触媒層の接着性付与を目的として適度に膨潤、溶解させることが可能な極性溶媒を配合することが好ましい。極性溶媒の種類および配合量は、使用される電解質膜の耐溶剤性の観点から実験的に決められる。また、触媒層を支持体に形成する方法としては、前述の各種のコーティング法が例示できる。
【0056】
本発明の膜電極複合体ならびにそれの製造方法を使用した高分子電解質型燃料電池の燃料としては、酸素、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ギ酸、酢酸、ジメチルエーテル、ハイドロキノン、シクロヘキサンなどの炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水との混合物などが挙げられ、1種または2種以上の混合物でもよい。特に、発電効率や電池全体のシステム簡素化の観点から水素、炭素数1〜6の有機化合物を含む燃料が好適に使用され、発電効率の点でとりわけ好ましいのは水素およびメタノール水溶液である。メタノール水溶液を用いる場合は、メタノールの濃度としては、使用する燃料電池のシステムによって適宜選択されるができる限り高濃度のほうが長時間駆動の観点から好ましい。
【0057】
例えば、送液ポンプや送風ファンなど発電に必要な媒体を膜電極複合体に送るシステム、冷却ファン、燃料希釈システム、生成物回収システムなどの補機を有するアクティブ型燃料電池は、メタノールの濃度30〜100%の燃料を燃料タンクや燃料カセットにより注入し、0.5〜20%程度に希釈して膜電極複合体に送ることが好ましく、また補機が無いパッシブ型の燃料電池はメタノールの濃度が10〜100%の範囲の燃料が好ましい。また、本発明の膜電極複合体が脱着可能な構成であることが好適である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、各物性の測定条件は次の通りである。
(測定方法)
実施例中の物性は下記に示す方法で測定した。
【0059】
1.スルホン酸基密度
25℃の純水中で24時間以上撹拌洗浄したのち、100℃で24時間真空乾燥した後精製、乾燥後のポリマーについて、元素分析により測定した。C、H、Nの分析は、全自動元素分析装置varioELで、また、Sの分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定、Pの分析についてはフラスコ燃焼法・リンバナドモリブデン酸比色法で実施した。それぞれのポリマーの組成比から単位グラムあたりのスルホン酸基密度(mmol/g)を算出した。
【0060】
2.重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)を2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/Lを含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。試料溶液中のポリマー濃度は0.1重量%とし、カラム温度は40℃とした。
【0061】
3.膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。試料の4隅付近と中心部を5ポイント測定し、その平均値で表した。
【0062】
4.白金付量
白金付量は、セイコーインスツルメンツ社製卓上蛍光X線分析計“SEA2120”を使用して測定した。測定条件を下記する。
【0063】
測定時間:90sec
有効時間:52sec
試料雰囲気:大気中
コリメータ:φ10.0mm
励起電圧:50kV
管電流:5μA
フィルター:なし
マイラー:off
5.高分子電解質型燃料電池の初期発電性能評価
(メタノールを燃料とする高分子電解質型燃料電池の評価)
膜電極複合体(MEA)をエレクトロケム社製セルにセットし、アノード電極側に3.2%メタノール水溶液を1ml/minで供給し、カソード電極側に空気を50ml/minで流し発電評価を行った。また、セパレーターの裏側に温調水を流し60℃に調整した。評価は、MEAに定電流を流しその時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるがその最大値(MEAの単位面積あたり)を出力(mW/cm2)とした。前述の発電評価を繰り返し安定な出力が得られるまでエージングし、エージング中の最高出力(mW/cm)を発電出力とした。また、MEAでのメタノール透過量はカソードからの排出ガスを捕集管でサンプリングした。
【0064】
これを全有機炭素計TOC-VCSH(島津製作所製測定器)、あるいはメタノール透過量測定装置Micro GC CP-4900(ジ−エルサイエンス製ガスクロマトグラフ)を用い評価した。尚、メタノール透過量は、サンプリングガス中のメタノールと二酸化炭素の合計を測定して算出した。また、MEAの直流成分抵抗は、電流ImA、振幅I/10mAを印加し、50kHz〜10mHzの周波数範囲で測定を行い、インピーダンスを測定する(Iは、最高出力時の電流値)。測定したインピーダンスを複素平面グラフにし、得られた円弧あるいはそれが歪んだ形のものの大きさを抵抗Rr(Rr=X軸切片の右端−左端)とした。このとき得られるX軸切片の右端および左端は、複素平面グラフから得られる半円のX軸との交点のそれぞれ右端および左端となる。半円にならない場合はナイキストプロットから、“Zview Electrochemical Impedance Sofware”(Scribner Associates,Inc.社製)の円形フィットより半円を推定し、そのX軸切片の左端および右端を用いる。尚、MEAの直流成分抵抗R1は、X軸切片の左端とした。
(水素を燃料とする高分子電解質型燃料電池の評価)
膜電極複合体(MEA)をエレクトロケム社製セルにセットし高分子電解質型燃料電池とし、評価温度:60℃、アノード側に水素ガス、カソード側に空気を流し、ガス利用率:アノード70%/カソード40%においてMEAに定電流を流し、その時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるが、その最大値(MEAの単位面積あたり)を出力(mW/cm2)とした。
【0065】
[合成例1]
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0066】
[合成例2]
炭酸カリウム6.9g、4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール14.0g、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、および上記合成例1で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを8.4g用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行いポリマーAを得た。得られたポリマーAのプロトン置換膜のスルホン酸基密度は、元素分析より1.8mmol/g、重量平均分子量20.7万であった。
【0067】
[合成例3]
4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール14.0gを4,4'−ジヒドロキシテトラフェニルメタン14.1gに変更した以外は合成例2と同様に行い、ポリマーBを得た。得られたポリマーBのプロトン置換膜のスルホン酸基密度は、元素分析より1.8mmol/g、重量平均分子量20.4万であった。
【0068】
[電解質膜の作製例1]
上記ポリマーBを9g、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン31gに溶解させ、22.5%の塗液とした。該塗液をガラス基板上にアプリケーターを用いて流延塗布し、窒素雰囲気下、60℃にて15分間、60〜300℃まで50分間昇温し、さらに300℃で10分間乾燥する条件で熱処理を行った後に放冷し、精製水中でガラス基板から離型した。その後、1N−塩酸水溶液に1日以上浸漬しプロトン置換を行い、精製水に1日浸漬して洗浄を行い膜厚30μmの電解質膜Mを得た。
【0069】
[イオン性基をもつ物質の作製例]
粉砕器で粉状にしたポリマーAを大過剰量の2N−塩酸水溶液60℃で24時間以上撹拌しプロトン置換を行った。多量の精製水で中性になるまで洗浄、ろ過を繰り返した後に60℃で24時間以上乾燥を行い、さらに真空雰囲気下80℃で24時間以上乾燥を行いプロトン交換されたポリマーHAを得た。
【0070】
[イオン性基をもつ物質からなる塗液の作製例]
ポリマーHAを9g、N−メチル−2−ピロリドン55g溶解させ、20%の塗液とした。この塗液にグリセリン36gを配合し100℃に加温し、均一になるまで溶解させ炭化水素系高分子材料からなる塗液PHAを得た。
【0071】
[イオン性基をもつ物質からなる膜の作製例]
該PHA溶液を100℃に加温し、剥離紙状にアプリケーターを用いて塗工を行った。その後、100℃で5分間乾燥しイオン性基をもつ物質からなる膜PHAMを得た。
【0072】
[メタノールを燃料とするアノード電極作製例1]
炭素繊維の織物からなる米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400W電極基材のカーボン付き面上に、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を1.5g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、精製水を1.5g、イソプロピルアルコールを30gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンでスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してアノード電極AS1を得た。尚、該AS1の金属粒子の含量は、93.4重量%である。該AS1の厚みは5μm、白金付量は1.5mg/cmであった。
【0073】
[メタノールを燃料とするアノード電極作製例2]
炭素繊維の織物からなる米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400W電極基材のカーボン付き面上に、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を1.5g、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC(登録商標)”10000を0.1g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、精製水を1.5g、イソプロピルアルコールを30gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンでスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してアノード電極AS2を得た。尚、該AS2の金属粒子の含量は、93.8重量%である。該AS2の厚みは7μm、白金付量は1.5mg/cmであった。
【0074】
[メタノールを燃料とするアノード電極作製例3]
炭素繊維の織物からなる米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400W電極基材のカーボン付き面上に、まずジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を20g、Pt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC(登録商標)”10000を1g、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”溶液の溶媒を全てN−メチル−2−ピロリドンに置換した溶液を35gからなるアノード触媒塗液をスリットダイ塗工し、100℃で30分間熱処理してアノード電極A1を得た。尚、該A1の金属粒子と金属担持粒子の含量は、75.0重量%である。また、該A1の厚みは25μm、白金付量は3.0mg/cmであった。次に該アノード電極A1の触媒付き面上にジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を1.5g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、精製水を1.5g、イソプロピルアルコールを30gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンでスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してアノード電極AS1を得た。尚、該AS1の金属粒子の含量は、93.4重量%である。該A1上のAS1の厚みは1μm、白金付量は0.5mg/cmであった。尚、A1およびAS1で積層された電極はAMと表記する。
【0075】
[水素を燃料とするアノード電極作製例1]
東レ(株)製カーボンペーパー(TGP−H−060)に20%四フッ化エチレン撥水処理を行ったのち、四フッ化エチレンを20%含むカーボンブラック分散液を塗工、焼成して電極基材を作製した。前記電極基材上にジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt触媒“HiSPEC(登録商標)”1000を1.4g、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eを0.1g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、精製水を1.5g、イソプロピルアルコールを30gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンでスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してアノード電極AH1を得た。尚、該AH1の金属粒子の含量は、93.4重量%である。該AH1の厚みは2μm、白金付量は0.5mg/cmであった。
【0076】
[メタノールを燃料とするカソード電極作製例1]
炭素繊維の織物からなる米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400W電極基材のカーボン付き面上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eを6g、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt触媒HiSPEC(登録商標)”1000を12g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を10.8g、N−メチル−2−ピロリドンを24gからなるカソード触媒塗液をスリットダイ塗工し、100℃で30分間熱処理してカソード電極Cを得た。尚、該Cの金属粒子と金属担持粒子の含量は、89.3重量%である。該Cの白金付量は、6.0mg/cmであった。
【0077】
[水素を燃料とするカソード電極作製例1]
東レ(株)製カーボンペーパー(TGP−H−060)に20%四フッ化エチレン撥水処理を行ったのち、四フッ化エチレンを20%含むカーボンブラック分散液を塗工、焼成して電極基材を作製した。前記電極基材上にジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt触媒“HiSPEC(登録商標)”1000を1.2g、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eを0.3g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、精製水を1.5g、イソプロピルアルコールを30gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンでスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してカソード電極CH1を得た。尚、該CH1の金属粒子の含量は、93.4重量%である。該CH1の厚みは3μm、白金付量は0.5mg/cmであった。
【0078】
[実施例1]
該アノード電極AS1と該カソード電極Cを電極面積5cmとなるようにカットした。電解質膜として膜厚150μmの“ナフィオン(登録商標)115”(デュポン社製)を用い、該AS1と該Cを積層し5MPaの圧力で100℃30分間加熱プレスを行い、膜電極複合体MEA−1を得た。発電評価用セルに組み込み、3.2%メタノール水溶液を充填し高分子電解質型燃料電池とした。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0079】
【表1】

【0080】
[実施例2]
該アノード電極AS2と該カソード電極Cの触媒層上に該PHAMを1MPaの圧力で100℃5分間加熱プレスを行い、IAS1およびICを得た。前記、IAS1およびICを電極面積5cmとなるようにカットした。電解質膜として前記Mを用い、前記IAS1およびICを積層し3MPaの圧力で100℃8分間加熱プレスを行い膜電極複合体MEA−2を得た。その後、膜電極複合体MEA−2を50mlの純水に30分間浸漬し、該PHAMに残存している可塑剤を抽出洗浄し、発電評価用セルに組み込み、3.2%メタノール水溶液を充填し高分子電解質型燃料電池とした。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0081】
[実施例3]
該アノード電極AMと該カソード電極Cの触媒層上に該PHAMを1MPaの圧力で100℃5分間加熱プレスを行い、IAMおよびICを得た。前記、IAMおよびICを電極面積5cmとなるようにカットした。電解質膜として前記Mを用い、前記IAMおよびICを積層し3MPaの圧力で100℃8分間加熱プレスを行い膜電極複合体MEA−3を得た。その後、膜電極複合体MEA−3を50mlの純水に30分間浸漬し、該PHAMに残存している可塑剤を抽出洗浄し、発電評価用セルに組み込み、3.2%メタノール水溶液を充填し高分子電解質型燃料電池とした。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0082】
[実施例4]
実施例3において、該A1の金属粒子と金属担持粒子の含量を89重量%に、該A1の白金付量を1.5mg/cmに、該AS1の塗工方法をパルススプレーに、該Cの白金付量を2.0mg/cmに変更する以外は同様に行いMEA−4を得た。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0083】
[比較例1]
実施例1において、該AS1の金属粒子の含量を75重量%に変更する(AS3)以外は同様に行いMEA−5を得た。尚、触媒層の厚みは4μmであった。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0084】
[比較例2]
実施例3において、該A1の金属粒子と金属担持粒子の含量を40重量%に変更し、該AS1の金属粒子の含量を80重量%に変更する(AS4)以外は同様に行いMEA−6を得た。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0085】
[実施例5]
電極として該AH1とCH1を使用した以外は、実施例1と同様に行い(MEA−7)高分子電解質型燃料電池の評価(水素を燃料とする)を行った。出力は600mW/cm、限界電流密度は1300mA/cmであった。
【0086】
限界電流密度について説明する。一般に、電極反応は、その反応の場における反応物の吸着、解離、電荷移動や、この場の近傍における反応物、生成物の移動等、多くの連続した過程からなっているが、各過程の速度は、その過程の平衡状態(電流が0の状態)からのずれの程度(以後非平衡度という)が大きくなるほど速くなり、この非平衡度の程度と速度の大きさの関係は、個々の過程により異なる。定常的に電流が流れている時は全ての過程の速度は同じであるので、容易に進行する過程の非平衡度は僅かであるのに対し、そうでない過程の非平衡度は大きい。ここで電流密度、すなわち電極反応速度を大きくしていくと、特に容易に進行しない過程の非平衡度は非常に大きくなり、ついには物理的限界に達する。すなわちこれ以上の電流密度をとることは不可能となるが、この電流密度がここでの限界電流密度である。
【0087】
[実施例6]
(電解質膜に直接触媒層を形成する膜電極複合体の作製例1)
ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を1.5g、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC(登録商標)”10000を0.1g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、N−メチル−2−ピロリドンを4.7g、精製水を26.8gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンで前記Mの電解質膜に触媒面積5cmとなるようにマスキングを行った後にスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してアノード電極触媒層(DA1)を形成した。その後、2MPaの圧力で90℃3分間加熱プレスを行った。尚、該DA1の金属粒子の含量は、93.8重量%である。該DA1の厚みは4μm、白金付量は2.0mg/cmであった。次にジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt触媒“HiSPEC(登録商標)”1000を1.2g、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eを0.3g、デュポン(DuPont)社製21.1%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.5g、N−メチル−2−ピロリドンを4.7g、精製水を26.8gからなる触媒塗液を前記DA1の裏面に触媒面積5cmとなるようにマスキングを行った後にスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してカソード電極触媒層(DC1)を形成した。その後、2MPaの圧力で90℃3分間加熱プレスを行った。尚、金属粒子の含量は、93.4重量%である。該DC1の厚みは5μm、白金付量は2.0mg/cmであった。その後、米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400W電極基材のカーボン付き面をDA1およびDC1に配置し、3MPaの圧力で100℃5分間加熱プレスを行いMEA−8を得た。発電評価用セルに組み込み、3.2%メタノール水溶液を充填し高分子電解質型燃料電池とした。発電出力、アノード触媒白金1mg当たりの出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の膜電極複合体の製造方法は、種々の電気化学装置(例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)の膜電極複合体の製造に適用可能である。これら装置の中でも、燃料電池用に好適であり、特に水素またはメタノール水溶液を燃料とする燃料電池に好適である。
【0089】
本発明の高分子電解質型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラなどの携帯機器、電動シェーバー、掃除機などの家電、電動工具、玩具類、電動カート、電動車椅子、電動アシスト付き自転車、自動二輪車、乗用車、バス、トラックなどの自動車や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源、据え置き型の発電機、二次電池の充電器など従来の一次電池、二次電池、太陽電池の代替もしくはこれらとのハイブリッド電源として好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、前記アノード電極は電極基材と触媒層からなり、前記触媒層は電極基材と電解質膜の間に配され、前記触媒層はポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子からなり、前記触媒層の電解質膜に接する部分の金属粒子および金属担持粒子含量が90〜99.9重量%であることを特徴とする膜電極複合体。
【請求項2】
前記触媒層は少なくとも2層の積層構造を有し、電解質膜に接する触媒層の金属粒子および/または金属担持粒子含量が90〜99.9重量%であり、電極基材に接する触媒層の金属粒子および金属担持粒子含量が89重量%以下である請求項1記載の膜電極複合体。
【請求項3】
前記金属が白金、ルテニウム、金、イリジウム、ロジウム、パラジウム、銀、コバルト、オスミウム、ニッケル、銅および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の膜電極複合体。
【請求項4】
アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、前記アノード電極は電極基材と触媒層からなり、前記触媒層は電極基材と電解質膜の間に配され、前記触媒層はポリマーバインダーと金属粒子および金属担持粒子からなり、前記触媒層は少なくとも2層の積層構造を有した膜電極複合体の製造方法であって、該電解質膜に接する触媒層がスプレー塗工方法によって形成されることを特徴とする膜電極複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の膜電極複合体を用いて構成されることを特徴とする高分子電解質型燃料電池。

【公開番号】特開2009−99520(P2009−99520A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55884(P2008−55884)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/実用化技術開発/炭化水素系電解質膜およびMEAの量産化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】