臍帯血から分離された多能性幹細胞及びこれを含有する虚血性壊死疾患治療用細胞治療剤
本発明は、臍帯血(へその緒の血液)由来の血液をヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することで分離した成体幹細胞である多能性幹細胞及び前記多能性幹細胞を有効成分として含む閉塞性動脈又は静脈疾患による虚血性壊死疾患または心血管疾患用の細胞治療剤に関する。
本発明に係る多能性幹細胞は、成体幹細胞であるにも拘わらず、骨形成細胞または神経細胞または内皮細胞に分化できることから、大腿部の動脈循環の渋滞が抹消循環障害を引き起こし、その結果、微細血管系の組織を崩壊させて虚血性壊死を招く疾病だけではなく、脳梗塞、心筋梗塞、股關節の虚血壊死及び糖尿の後遺症に起因する四肢末端の壊死など虚血性疾病の治療にも有効に利用可能である。
本発明に係る多能性幹細胞は、成体幹細胞であるにも拘わらず、骨形成細胞または神経細胞または内皮細胞に分化できることから、大腿部の動脈循環の渋滞が抹消循環障害を引き起こし、その結果、微細血管系の組織を崩壊させて虚血性壊死を招く疾病だけではなく、脳梗塞、心筋梗塞、股關節の虚血壊死及び糖尿の後遺症に起因する四肢末端の壊死など虚血性疾病の治療にも有効に利用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臍帯血をヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することで分離した成体幹細胞である多能性幹細胞(multipotent stem cells)及び、前記多能性幹細胞を有效成分として含む閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患治療用の細胞治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
社会における高齢化が進むに伴い、閉塞性動脈疾患による血行障害の症例が増加してきている。かかる血行障害の代表的な疾患としては、心筋梗塞、脳梗塞、手又は足、特に下肢の細動脈や静脈において炎症又は血管壁の変化により血管が収縮したり狭くなったりし、さらに血管が完全に閉塞してしまう閉塞性末梢血管炎であるバージャー病、及び糖尿病性合併症に起因する微小血管や大血管の障害による閉塞性動脈疾患などが挙げられる。
【0003】
心筋梗塞は、心臓に酸素と栄養を供給する冠状動脈の一部が詰まり、血流の循環が止まり、心臓の壁、すなわち心筋が壊死(えし)する病態である。脳梗塞には、血液の流れが阻害され、それから酸素が足りなくなって脳組織が死んでしまうアテローム性動脈硬化などによって血管が狭くなり、又は詰まる、血栓性脳梗塞及び脳梗塞アテローム性動脈硬化を伴う動脈の血栓から分離した断片(血の塊)が脳血管を沿って流れる間に血管壁で動脈を塞ぎ、妨げるため、それより下流の脳組織が死んでしまう塞栓性脳梗塞がある。
【0004】
バージャー病は、直接的な原因が明らかになっていないが各種の要素が複合的に作用していると推測されている。年齢や性別、種族遺伝的要因、自己兔疫、職業、喫煙などが2次的原因であると考えられている。また、バージャー病の患者にあっては、血中フィブリノーゲン数値が高いため、血液の過凝固状態や血小板の過凝集状態または交感神経の過敏状態より生じる抹消血管収縮なども原因因子になると推測されている。
【0005】
また、糖尿合併症のうち最も恐ろしい症状の1つである四肢壊疽は、重病の糖尿病患者に生じ、手足の先が真っ黒く腐ってしまう恐ろしい病気である。正確な原因は不明であるが、外傷、やけど、及び化膿などの症状に起因するとされている。さらに、四肢壊疽は50歳以後の患者に現れるもので、炎症、水泡、潰瘍、熱などの症状を示し、酷い場合には手足を切断し、さらに命を落としてしまうこともある。
【0006】
韓国ではこの種の閉塞性動脈疾患の公式統計データがまだ正確にとられていないが、白人より頻度は高く発生し全体抹消動脈疾患の約15%を占めていると推定されている(Laohapensang,K.et al.,Eur.J.Vasc.Endovasc.Surg.,28(4):418,2004)。閉塞性動脈疾患とは、遠位の上肢と下肢に小または、中間サイズの動脈と静脈を侵し、ほとんどの四肢末端部の動脈循環の渋滞が抹消循環障害を引き起こすことにより、微細血管系の組織を崩壊させ、結果として、虚血性疾患となる。この虚血性壊死にあっては、動脈血流圧の降下と毛細血管血流の渋滞により白血球と血小板が活性化して血管の内皮を損傷させ、その結果、局部的な低酸素症と代謝変化が招かれる。
【0007】
閉塞性動脈疾患の治療としては、閉塞された動脈の上下部位間において動脈からの血が円滑に流れるように人造血管などを用いて新しい血管を作る動脈迂回手術がある。また、このほかにも、血管拡張剤を投与する薬物療法と、脚にある小さな血管を拡張するために腰椎部位の交感神経を麻痺する治療法などがある。近年に至り、血管内皮細胞成長因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor 165)を用いた治療法の開発(Kim,H.J.et al.,Exp.Mol.Med.,36(4):336,2004)と、自家造血幹細胞の移植を通じた治療法の開発(Miyamoto,M.et al.,Cell Transplant.,13(4):429,2004)のための研究が行なわれている。
【0008】
虚血性壊死の原因は、まだ正確に明らかにされていない、そして疾患が進行性であることから、確実な根治的治療法が確立されていない段階だ。バージャー病などの閉塞性動脈疾患による虚血性壊死を治療の最終的な目標は、動脈血流を円滑にすることである。
【0009】
一方、幹細胞(stem cell)とは、自己複製能力を有し、同時に2以上の細胞に分化する能力を有する細胞を言い、万能幹細胞(totipotent stem cells)、全能性幹細胞(pluripotent stem cells)及び多能性幹細胞(multipotent stem cells)に分類できる。
【0010】
万能幹細胞とは、単一の完全な個体として生成可能な万能性を有する細胞を言い、卵子と精子が受精してから8細胞期までの細胞がこのような性質を有する。この細胞を分離して子宮に移植すれば、単一の完全な個体として生成可能である。
【0011】
全能性幹細胞とは、外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の各種の細胞及び組織として生成可能な細胞を言い、受精後4〜5日後に現れる胚盤胞(blastocyst)の内側に位置する内細胞塊(inner cell mass)から由来し、これらの細胞を胚性幹細胞と称する。これは、相異なる組織細胞に分化はできるものの、新しい生命体を形成することはできない。
【0012】
多能性幹細胞とは、この細胞が含まれている組織及び器官に特異的な細胞にしか分化できない幹細胞を言い、胎児期、新生児期及び成体期の各組織及び臓器の成長と発達はもとより、成体組織の恒常性の保持と組織損傷時の再生を誘導する機能に関与しており、組織特異的な多能性細胞を総称して成体幹細胞と呼ぶ。
【0013】
今まで知られている臍帯血由来の成体幹細胞としては、骨細胞や骨格筋に分化可能な間葉系幹細胞(Lee,O.K.et al.,Blood,103:1669,2004;Gang,E.J.et al.,BBRC,321:102,2004;Gang,E.J.et al.,Stem Cell,22:617,2004)、心臓細胞に分化可能な心臓幹細胞(US2004/0126879)及び内皮前駆細胞
(Yamamoto,K.et al.,Arterio.Thromb.Vasc.Biol.,24:192,2004)などがある。
【0014】
しかしながら、これらの幹細胞は間葉系幹細胞による骨細胞や骨格筋への分化、心臓幹細胞による心臓細胞への分化、内皮前駆細胞による血管内皮細胞への分化などの限られた組織への分化能しか有さないため、これらの細胞を真の多能性幹細胞と称するには無理がある。また、上述した引用文献においては、幹細胞を分離するプロセスに際してFBS入り培地を用いているが、これらの方法によれば、得られる細胞の数や種類が限らざるを得ない。
【0015】
そこで、本発明者らは、臍帯血由来の血液をヒト血清またはプラズマを培地として培養したところ、得られた成体幹細胞がプラスチックへの付着能に優れているだけではなく、骨形成細胞、神経細胞など各種の組織に分化するということを明らかにすると共に、閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患の細胞治療剤として有効に使用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【0016】
本発明の主たる目的は、臍帯血由来の成体幹細胞である多能性幹細胞及びその製造方法を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、前記成体幹細胞を有効成分として含有する閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患及び心血管疾患の治療用細胞治療剤を提供することにある。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は、臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することにより得られると共に、下記の特性を有する成体幹細胞を提供する:(a)CD24,CD29,CD31,CD33,CD45及びCD49Bに対してすべて陽性の免疫学的な反応を示し、CD34,CD51/61,CD62L,CD62P,CD73,CD90,CD133及びCD135に対して陰性の免疫学的な反応を示し;(b)プラスチックに付着して成長し、丸形状(round−shape)または紡錘状(spindle−shape)の形態学的な特性を示し;及び(c)中胚葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞への分化能を有する。
【0019】
また、本発明は、臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することを特徴とし、前記(a)ないし(c)の特性を有する成体幹細胞の製造方法を提供する。
【0020】
本発明において、前記成体幹細胞は、SH−2及び/またはSH−3に対して陽性の免疫学的な反応をさらに示すことを特徴とし、且つ、CD44,CD105及びCD117に対しては陽性または陰性の免疫学的な反応を示すことを特徴とする。さらに、前記中胚葉由来の細胞は、骨形成細胞、神経細胞または内皮細胞(endothelial cells)であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明は、前記成体幹細胞を有効成分として含有する閉塞性動脈又は静脈疾患による虚血性壊死疾患または心血管疾患用細胞治療剤を提供する。前記虚血性壊死疾患には、心筋梗塞、脳梗塞、股關節の虚血壊死、バージャー病および糖尿病性合併症による四肢壞疽病などがある。
【0022】
本発明の前記及び他の目的、特徴及び実施態様は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲から一層明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】臍帯血由来の細胞のFBSまたはヒトプラズマ含有培地において培養した場合、細胞接着力を比較したものであって、左側写真は200倍率で撮影したものであり、右側写真は400倍率で撮影したものである。
【図2】A及びBは、臍帯血由来の多能性幹細胞が骨形成細胞に分化されたものであり、C及びDは、フォンコッサ(Von−Kossa)染色法で染色したものである。
【図3】臍帯血由来の多能性幹細胞と特異抗原の結合を示すものであって、A及びBは、それぞれ神経系ニューロンの特異抗原であるNSE(neuron−specific enolase)と神経系星状細胞の特異抗原であるGFAP(glial fibrillary acidic protein)に対して陽性反応を示すものであり、C及びDはその対照群を示すものである。
【図4】フローサイトメーター(flow cytometer)を用いた臍帯血由来の多能性幹細胞の免疫学的な特性を示すものである(A及びE:対照群、B:CD34、C:CD45、D:SH−2、F:SH−3)。
【図5】本発明に係る成体幹細胞からの抗原の発現可否を調べるためのPAS染色結果を示すものである。
【図6】虚血性壊死を伴った対照群マウスの、血管切欠後、30日の結果を示すもので、赤円は切断現象が発生した部位を示す。
【図7】虚血性壊死を伴ったマウス群の、血管切欠後、本発明による幹細胞の即時投与群の投与後30日の結果を示すものであり、赤円は切断現象が発生した部位を示す。
【図8】虚血性壊死を伴ったマウス群の、血管切欠後、本発明による幹細胞1日後投与群の投与後の31日の結果を示すものであり、赤円は切断現象が発生した部位を示す。
【図9】虚血性壊死モデルのマウスにおいて、その症状日及び切断日を図表化したものである。
【図10】虚血性壊死モデルのマウスにおいて、群別切断率を図表化したものである。
【図11】虚血性壊死モデルのマウスにおいて、その血管切欠してから30日後、各群別血管造影法を利用してレントゲン写真を撮ったものである。
【図12】虚血性壊死を伴ったモデルマウスを剖検後、腿部筋肉部位の組職を切片化することで、in situ hybridization法でヒト特異的プローブ(human specific probe)を用いてヒト細胞を追跡したことを示すものである。
【発明の詳細な説明】
【0024】
本発明は、臍帯血から分離された多能性幹細胞に関する。
【0025】
本発明における臍帯血は、ヒトを含む哺乳動物において、胎盤と胎児を結ぶ臍帯静脈から採取された血液として定義され、本発明に係る多能性幹細胞は、ヒトの臍帯血が好ましい。
【0026】
臍帯血から多能性幹細胞を分離・精製する方法には特に制限はないが、下記の方法を用いることができる。すなわち、臍帯血から採取された血液を撹拌するために、PBSに一定の割合にて希釈して、これを10〜15:20〜30、好ましくは、15:25の割合にてフィコール相分離を行う。このために、10〜20mL、好ましくは、15mLのフィコール溶液に上記においてPBSと混合、攪拌した血液サンプルを徐々に流して層分離を行った後、遠心分離を行う。その後、3つの相異なる層が形成されれば、その中で中間層のバッフィコートをマイクロピペットで取り、HBSSにより2〜5回洗浄した後、遠心分離により臍帯血由来の多能性幹細胞液を得る。
【0027】
遠心分離により最終的に得られたペレットを1〜5mLの培地[5〜15%のヒト自家血清またはプラズマ(autologous human serum or plasma)、あるいはヒト他家血清またはプラズマ(allologous human serum or plasma)と塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)10ng/mLを含むMSCBM+MSCGM(Cambrex,USA)細胞培養液]に希釈してフラスコに入れ、培養を行う。75フラスコにシードを行う場合、約106〜108の細胞を入れた後、5〜20%のヒト自家または他家血清と塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)10ng/mLを加える。細胞は、5%のC02雰囲気に調節されている37℃の培養器において培養を行う。フラスコに最初にシードされた細胞は、約1〜2日後に転移される。培地は、約3〜7日おきに1回ずつ入れ替えを行う。
【0028】
本発明においては、臍帯血由来の多能性幹細胞液を、従来のFBSではなく、ヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養を行った。その結果、図1に示すように、5%のFBS及び10%のFBS入り培地において培養を行った場合に比べて、5%及び10%のヒトプラズマを含有する培地において培養を行った場合の方が、培養皿に付着して成長する細胞の数が遥かに多いということが確認できた。
【0029】
このようにして得られた臍帯血由来の幹細胞液から所望の表面抗原を発現している多能性幹細胞を得る方法としては、ソート機能を有するフローサイトメータを用いたFACS法(Int.Immunol.,10(3):275,1998)、磁気ビーズを用いる方法、多能性幹細胞を特異的に認識する抗体を用いたパンニング法(J.Immunol.,141(8):2797,1998)などが挙げられる。また、大量の培養液などから多能性幹細胞を得る方法としては、細胞の表面に発現されて分子(以下、表面抗原と称する。)を特異的に認識する抗体を単独で用いるか、または、これらを組み合わせてカラムとして用いる方法が挙げられる。
【0030】
フローサイトメータによるソート方式としては、水滴に荷電をかける方式、セルキャプチャ方式などが挙げられる。いかなる方法においても、細胞の表面抗原を特異的に認識する抗体を蛍光により標識し、標識された抗体と抗原の結合体に対する蛍光を測定して蛍光強度を電気信号に変換することにより、細胞の抗原発現量を定量することができる。さらに、用いる蛍光物質の種類を組み合わせることにより、複数の表面抗原を発現している細胞を分離することも可能である。ここに使用可能な蛍光物質としては、FITC(fluorescein isothiocyanate),PE(phycoerythrin),APC(allo−phycocyanin),TR(TexasRed:テキサスレッド),Cy3,CyChrome,レッド613,レッド670,TRI−カラー、クァンタムレッド(QuantumRed)などが挙げられる。
【0031】
フローサイトメータを用いたFACS法としては、上記において得られた幹細胞培養液を集め、遠心分離などの方法により細胞を分離した後、直接的に抗体で染色する方法と、適宜な培地中において1回だけ培養、増殖を行った後、抗体を染色する方法とが含まれる。細胞の染色は、先ず、表面抗原を認識する1次抗体と目的細胞のサンプルを混合し、氷の上において30分ないし1時間反応させる。1次抗体が蛍光により標識されている場合には、洗浄後にフローサイトメータを用いて分離を行う。これに対し、1次抗体が蛍光により標識されていない場合には、洗浄後に1次抗体に対して結合活性を有する蛍光標識された2次抗体と1次抗体が反応した細胞を混合し、さらに氷水中で30分ないし1時間培養する。洗浄後、1次抗体と2次抗体から染色された細胞をフローサイトメータを用いて分離する。
【0032】
磁気ビーズを用いる方法によれば、所望の表面抗原を発現している細胞を大量に分離することができる。分離された細胞の純度は、上述したフローサイトメータを用いた方法よりは低いものの、精製を繰り返し行うことにより、十分に高い細胞純度を得ることができる。
【0033】
各種の表面抗原としては、造血関連抗原、間葉細胞の表面抗原または神経系ニューロンの特異抗原などが挙げられる。前記造血関連抗原としては、CD34,CD45などが挙げられ、間葉細胞の表面抗原としては、SH−2,及びSH−3などが挙げられ、さらに、神経系ニューロンの特異抗原としては、NSE,MAP2、及びGFAPなどが挙げられる。上述した如き各種の抗原を認識する抗体を単独で用いるか、あるいは、組み合わせて用いることにより、目的とする細胞を得ることができる。
【0034】
本発明は、上記において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞を虚血性壊死モデルのマウスモデルに移植したところ、本発明に係る多能性幹細胞を投与した場合には、その壊死症状の誘発が阻害され、切欠された大腿動脈に代えられる新生血管が生成されるということが確認できた。
【0035】
そこで、本発明に係る多能性幹細胞は、閉塞性動脈または静脈疾患による虚血性壊死疾患及び心血管疾患に対する細胞治療剤として用いることができる。虚血性壊死疾患に対する細胞治療剤としては、本発明に係る多能性幹細胞の中でも、血管細胞への分化能を有する細胞を高純度にて含むものが好適に用いられる。
【0036】
本発明に係る多能性幹細胞は、虚血性壊死の大きさ及び部位に応じて、所望の血管への分化能を有する細胞を得る為に、試験管内(in vitro)において分化、増殖することができる。また、これを虚血性壊死部位に移植することにより、虚血性壊死疾患の治療に用いることができる。さらに、虚血性壊死の部位または全身的に静脈注射することによりに本発明に係る多能性幹細胞を直接的に移植することもできる。
【0037】
本発明に係る多能性幹細胞は、単球−マクロファージ系の抗原であるCD45に対して陽性を示し、造血細胞系の抗原であるCD34に対して陰性を示すことから、造血細胞から単球への分化が進んでいる幹細胞であると考えられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。これら実施例は、単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲はこれら実施例により限定されないことは当然である。
【0039】
実施例1:臍帯血からの多能性幹細胞の分離
臍帯血は、臨床試験倫理委員会のガイドライン(Institutional Review Board(IRB) guidelines)に基づき、ソウル大学病院と三星第一病院における満期(full−term)産と早期産(preterm)の新生児において集めた。
【0040】
前記集められた臍帯血から採取された血液サンプル70〜100mLをPBSと1:1の割合にて希釈して撹拌した。その後、15:25の割合にてフィコール相分離を行った。15mLのフィコール溶液にPBSと1:1の割合にて希釈された血液サンプルを徐々に流して層分離を行った後、遠心分離(2500rpm、20分)を行った。その後、3つの相異なる層が形成されれば、その中で中問層のバッフィコートをマイクロピペットで取り、HBSSにより3回洗浄した後、遠心分離(1500rpm、15分)を行い最終的にペレット(臍帯血由来の多能性幹細胞液)を得た。
【0041】
実施例2:臍帯血由来の多能性幹細胞の骨形成細胞への分化
前記実施例1において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞培養液を1mLの骨形成誘導培地[0.1μmol/L dexamethasone(Sigma,USA),0.05mmol/L ascorbic acid−2−phosphate(Sigma,USA) and 10mmol/L beta−glycophosphate(Sigma),5〜20%のヒト血清またはプラズマ]に希釈して細胞数を数えた後、フラスコに入れ培養(5%のC02、37℃で、培地は3〜4日おきに1回ずつ入れ替え)を行うことにより、多能性幹細胞の骨形成細胞への分化を誘導した。培養し始めてから14日目にフォンコッサ(Von−Kossa)染色法を用いて臍帯血由来の多能性幹細胞が骨形成細胞に分化されたことを確認した(図2参照)。
【0042】
実施例3:臍帯血由来の多能性幹細胞の神経細胞への分化
前記実施例1において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞培養液を1mLの神経形成誘導培地[5〜20%のヒト血清またはプラズマに10ng/mL basic fibroblast growth(Roche,Switzerland),10ng/mL human epidermal growth factor(Roche, Switzerland) 10ng/mL human neural growth factor(Invitrogen,USA)を添加]に希釈して細胞数を数えた後、フラスコに入れ、5%のC02、37℃で培養を行うことにより、多能性幹細胞から神経細胞への分化を誘導した。培養し始めてから14日目、神経系ニューロンの特異抗原であるNSE(ニューロン特異的エノラーゼ:neuron−specific enolase)と神経系星状細胞の特異抗原であるGFAP(グリア細胞繊維性酸性タンパク質:glial fibrillary acidic protein)に対して陽性反応を示すことを確認した。これは臍帯血由来の多能性幹細胞が神経細胞に分化されたことを示唆している(図3参照)。
【0043】
実施例4:臍帯血由来の多能性幹細胞の免疫学的な特性
前記実施例1において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞の免疫学的な特性を把握するために、細胞表面抗原の発現を調べた。すなわち、前記実施例1において培養した細胞2×106〜107個を用意してPBS溶液で洗浄し、各抗原に該当する抗体と室温で反応させた。抗原の発現の有無は、フローサイトメーター(flow cytometer)を用いて確認した。また、PAS(periodic acid Stain)染色をした。
【0044】
その結果、図4に示すように、本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞は、CD45に対しては63.38%、SH−2に対しては96.54%、SH−3に対しては63.99%の陽性反応をそれぞれ示し、CD34に対しては90%より多い陰性反応を示した。また、他の抗原に対する免疫表現型を確認したところ、CD51/61に対しては陰性、CD62Lに対しては陰性、CD62Pに対しては陰性、CD133に対しては陰性、CD135に対しては陰性、CD90に対しては陰性、CD29に対しては陽性、CD44に対しては陽性または陰性、CD49Bに対して陽性、CD105(SH−2)に対しては陽性または陰性、CD90に対しては陰性の免疫学的な特性をそれぞれ示した。
【0045】
一方、図5に示すように、PAS染色においても陽性反応を示した。
【0046】
実施例5:虚血性壊死モデルに対する多能性幹細胞の治療効果
(1)実験動物の準備
BALB/cANCrjBgi−nu種6週齢のマウス20匹を(株)オリエントから購入して1週間純化した後、18匹を選別して下記実験例に用いた。選別した細胞は、温度32±3℃、相対湿度60±10%、換気回数10〜12回/時間、照明時間12時間、照度250〜200lux下で、HEPAフィルター付きMI rackで高圧蒸気滅菌された実験動物用固形飼料((株)ピュリナ)と高圧蒸気滅菌された飲用水を自由に摂取させながら飼育した。純化期間及び実験期間中にポリカーボネートMIケージ(polycarbonate MI cage,26×42×18cm,ミョンジン機械製)で飼育ボックス当たり7匹を飼育した。
【0047】
前記飼育したマウスに対して試験前に体重を測定し、群間体重差が出ないようにランダムに3つの群(対照群:7匹、多能性幹細胞の即時投入群:8匹、多能性幹細胞の一日後投与群:3匹)に分けた(表1参照)。
【0048】
【表1】
【0049】
前記3つの群に、先行論文(Nicholson,C.D.et al.,Int.J.Sports Med.,13(1):60,1992)を応用して、ケタミン1.2mgを腹腔内に注射して麻酔し、各個体の左側大腿部を切開した後、大腿動脈を切欠し、この切欠部を縫合糸で縫合することにより、バージャー病マウスモデルを得た。
【0050】
前記実施例1において得られた多能性幹細胞をPBSにより2回洗浄した後、0.25%のトリプシンにより処理して細胞を回収し、さらに遠心分離により上澄み液を除去した。次いで、PBSにより洗浄してトリプシンを不活性化し、その後、2次遠心分離を行い1.3×106〜107個の細胞を回収した。これを滅菌生理食塩水100μlに浮遊させた後、多能性幹細胞の即時投入群8匹の各大腿部筋肉に投与した(多能性幹細胞の即時投入群)。また、培養培地は3匹のマウスの各左側大腿部筋肉に投与した(培地対照群)。
【0051】
(2)虚血性壊死モデルの症状日及び切断日の観察
上記の如く虚血性壊死を誘導したマウスに本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞を投与した後、30日間実験動物の大腿部を観察した。症状が現われた日と切断が見られた日を区分して記録し、試験開始前と終了時点で試験動物の体重を測定し、試験終了後に剖検を行った。試験中に測定された試験動物の体重などに関する資料の統計学的分析のために一元配置分散分析(one way ANOVA)を行い群間の有意性を検定した。この際、有意性が認められた場合、ダネットのt検定(Dunnett’s t−test)を行い、対照群と試験群間の統計学的有意性を検定した(p<0.05)。
【0052】
その結果、図6〜図8に示すように、血管切欠30日後、本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞を投与しなかった対照群全ての場合において、いずれも赤円で示される切断現象が発生した(図6参照)。一方、多能性幹細胞の即時投与群の場合、総8匹のうち5匹にのみ切断現象が発生した。6番および8番個体は、バージャー病を誘発させたにも関わらず、ほとんど正常な行動形態を示し、4番個体は、バージャー病による切断が予防された(図7参照)。他方、培地を投与された群の場合、総3匹の実験動物にいずれも切断現象が発生した。これは、多能性幹細胞の即時投与群に比べて血管新生などの治療的効果がほとんどないということを意味する(図8参照)。
【0053】
また、虚血性壊死モデルの確立日を基準として、各個体別に症状(血管切開部位に冷感があり、レイノー現象が見られる)が見られた日と左側脚や足指に切断が見られた日とを調べた(表2参照)。
【0054】
【表2】
【0055】
その結果、表2に示すように、症状日及び切断日で、多能性幹細胞の即時投与群において0.05未満の有意性が示され、他の群においては有意性が示されなかった。各個体別体重を測定して各群別平均と標準偏差を求めたところ、実験の前/後に測定された体重に対する有意的な変化が見られなかった。
【0056】
一方、対照群と本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞投与群との症状日及び切断日を比較した(図9)。その結果、症状日で、多能性幹細胞の即時投与群においては、対照群に比べて統計上0.05未満の有意的な変化が確認できた。また、切断日で、有意的な変化は確認できなかったが、多能性幹細胞の即時投与群においては、対照群と培地対照群に比べて切断日がより長く、多能性幹細胞の即時投与群では、血管切欠による切断現象が徐々に発生することを示している。
【0057】
さらに、虚血性壊死モデルの群別切断率を調べた。その結果、図10に示すように、対照群と多能性幹細胞の一日後投与群は100%の切断率を示したのに対し、多能性幹細胞の即時投与群は62.5%の切断率を示した。この結果より、多能性幹細胞を血管切開後直ちに投与すると、切断現象が軽減し、さらに切断率が減少しやすくなることがわかった。
【0058】
(3)血管造影法
血管造影法とは、X線を用いた血管検査であって、造影剤(ヨウ素−131)をマウスの心臓の血管の中に注入し、血管をX線で撮影することを可能にする。この調べによりX線の相で血管の異常の有無を判断し、病名や病巣の位置、病気の進行程度を確認することができる。
【0059】
前記対照群、多能性幹細胞の即時投与群、多能性幹細胞の一日後投与群の剖検の前に各個体をケタミン(100mg/kg)の腹腔注射で麻酔した後、血管造影剤を投与し、2分経過後にX線を利用して各群の大腿動脈と新生血管を調べた。
【0060】
その結果、図11に示すように、対照群と多能性幹細胞の一日後投与群においては新生血管が確認できなかったが、血管切開後にも左側下肢の切断現象が生じなかった多能性幹細胞の即時投与群においては新生血管が確認できた。
【0061】
(4)in situハイブリッド形成法(In situ hybridization)
剖検時に心臓からの採血を行い各群のすべての個体から筋肉の血液を取り除いた。4%のリン酸パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde phosphate)溶液に1.5%のスクロース(sucrose)溶液を混ぜた固定液を用いて各個体の左側大腿部と右側大腿部の筋肉組職を固定した。30%スクロースリン酸(sucrose phosphate)溶液に固定された大腿部筋肉組職が沈降するまで4℃で放置した後、各組職をパラフィンで包埋し、ミクロトーム(microtome)を用いて厚さ5μmの切片に薄切した。それから、プレハイブリダイゼーション(prehybridization)溶液(50%のホルムアミド、4×SSC、50mMのDDT、4×Denhardt’s溶液、’×TED、100μg/mL denatured salmon sperm DNA,250μg/mL yeast RAN)を加えて42℃で1時間反応させた。ここにDIG標識DNA(100ng/mL)を加え、プレハイブリダイゼーション溶液を24時間反応させてDIG標識ヒト特異DNAプローブをmRNAに結合させた。大腿部組職を2×SSC溶液、1×SSC溶液、0.5×SSC溶液によりそれぞれ10分間2回ずつ洗浄した後、スライドグラス(slide glass)に固定させた後、室温で2時間乾燥させた。
【0062】
その結果、図12に示すように、対照群はヒトプローブ(human probe)で標識できなかったが、多能性幹細胞投与群の個体は内皮細胞がヒトプローブで標識されたことが確認できた。
【0063】
以上、本発明の内容の特定部分について詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施の態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されないということは明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とその等価物により定義されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
上述したように、本発明は、臍帯血(へその緒の血液)からヒト血清やプラズマを用いて分離された多能性幹細胞(multipotent stem cells)を提供する。本発明に係る幹細胞は、成体幹細胞であるにも拘わらず、骨形成細胞、神経細胞などに分化できることから、閉塞性又は虚血性動脈疾患及び心臓血管疾患による虚血性壊死疾患用の細胞治療剤として役立つものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、臍帯血をヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することで分離した成体幹細胞である多能性幹細胞(multipotent stem cells)及び、前記多能性幹細胞を有效成分として含む閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患治療用の細胞治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
社会における高齢化が進むに伴い、閉塞性動脈疾患による血行障害の症例が増加してきている。かかる血行障害の代表的な疾患としては、心筋梗塞、脳梗塞、手又は足、特に下肢の細動脈や静脈において炎症又は血管壁の変化により血管が収縮したり狭くなったりし、さらに血管が完全に閉塞してしまう閉塞性末梢血管炎であるバージャー病、及び糖尿病性合併症に起因する微小血管や大血管の障害による閉塞性動脈疾患などが挙げられる。
【0003】
心筋梗塞は、心臓に酸素と栄養を供給する冠状動脈の一部が詰まり、血流の循環が止まり、心臓の壁、すなわち心筋が壊死(えし)する病態である。脳梗塞には、血液の流れが阻害され、それから酸素が足りなくなって脳組織が死んでしまうアテローム性動脈硬化などによって血管が狭くなり、又は詰まる、血栓性脳梗塞及び脳梗塞アテローム性動脈硬化を伴う動脈の血栓から分離した断片(血の塊)が脳血管を沿って流れる間に血管壁で動脈を塞ぎ、妨げるため、それより下流の脳組織が死んでしまう塞栓性脳梗塞がある。
【0004】
バージャー病は、直接的な原因が明らかになっていないが各種の要素が複合的に作用していると推測されている。年齢や性別、種族遺伝的要因、自己兔疫、職業、喫煙などが2次的原因であると考えられている。また、バージャー病の患者にあっては、血中フィブリノーゲン数値が高いため、血液の過凝固状態や血小板の過凝集状態または交感神経の過敏状態より生じる抹消血管収縮なども原因因子になると推測されている。
【0005】
また、糖尿合併症のうち最も恐ろしい症状の1つである四肢壊疽は、重病の糖尿病患者に生じ、手足の先が真っ黒く腐ってしまう恐ろしい病気である。正確な原因は不明であるが、外傷、やけど、及び化膿などの症状に起因するとされている。さらに、四肢壊疽は50歳以後の患者に現れるもので、炎症、水泡、潰瘍、熱などの症状を示し、酷い場合には手足を切断し、さらに命を落としてしまうこともある。
【0006】
韓国ではこの種の閉塞性動脈疾患の公式統計データがまだ正確にとられていないが、白人より頻度は高く発生し全体抹消動脈疾患の約15%を占めていると推定されている(Laohapensang,K.et al.,Eur.J.Vasc.Endovasc.Surg.,28(4):418,2004)。閉塞性動脈疾患とは、遠位の上肢と下肢に小または、中間サイズの動脈と静脈を侵し、ほとんどの四肢末端部の動脈循環の渋滞が抹消循環障害を引き起こすことにより、微細血管系の組織を崩壊させ、結果として、虚血性疾患となる。この虚血性壊死にあっては、動脈血流圧の降下と毛細血管血流の渋滞により白血球と血小板が活性化して血管の内皮を損傷させ、その結果、局部的な低酸素症と代謝変化が招かれる。
【0007】
閉塞性動脈疾患の治療としては、閉塞された動脈の上下部位間において動脈からの血が円滑に流れるように人造血管などを用いて新しい血管を作る動脈迂回手術がある。また、このほかにも、血管拡張剤を投与する薬物療法と、脚にある小さな血管を拡張するために腰椎部位の交感神経を麻痺する治療法などがある。近年に至り、血管内皮細胞成長因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor 165)を用いた治療法の開発(Kim,H.J.et al.,Exp.Mol.Med.,36(4):336,2004)と、自家造血幹細胞の移植を通じた治療法の開発(Miyamoto,M.et al.,Cell Transplant.,13(4):429,2004)のための研究が行なわれている。
【0008】
虚血性壊死の原因は、まだ正確に明らかにされていない、そして疾患が進行性であることから、確実な根治的治療法が確立されていない段階だ。バージャー病などの閉塞性動脈疾患による虚血性壊死を治療の最終的な目標は、動脈血流を円滑にすることである。
【0009】
一方、幹細胞(stem cell)とは、自己複製能力を有し、同時に2以上の細胞に分化する能力を有する細胞を言い、万能幹細胞(totipotent stem cells)、全能性幹細胞(pluripotent stem cells)及び多能性幹細胞(multipotent stem cells)に分類できる。
【0010】
万能幹細胞とは、単一の完全な個体として生成可能な万能性を有する細胞を言い、卵子と精子が受精してから8細胞期までの細胞がこのような性質を有する。この細胞を分離して子宮に移植すれば、単一の完全な個体として生成可能である。
【0011】
全能性幹細胞とは、外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の各種の細胞及び組織として生成可能な細胞を言い、受精後4〜5日後に現れる胚盤胞(blastocyst)の内側に位置する内細胞塊(inner cell mass)から由来し、これらの細胞を胚性幹細胞と称する。これは、相異なる組織細胞に分化はできるものの、新しい生命体を形成することはできない。
【0012】
多能性幹細胞とは、この細胞が含まれている組織及び器官に特異的な細胞にしか分化できない幹細胞を言い、胎児期、新生児期及び成体期の各組織及び臓器の成長と発達はもとより、成体組織の恒常性の保持と組織損傷時の再生を誘導する機能に関与しており、組織特異的な多能性細胞を総称して成体幹細胞と呼ぶ。
【0013】
今まで知られている臍帯血由来の成体幹細胞としては、骨細胞や骨格筋に分化可能な間葉系幹細胞(Lee,O.K.et al.,Blood,103:1669,2004;Gang,E.J.et al.,BBRC,321:102,2004;Gang,E.J.et al.,Stem Cell,22:617,2004)、心臓細胞に分化可能な心臓幹細胞(US2004/0126879)及び内皮前駆細胞
(Yamamoto,K.et al.,Arterio.Thromb.Vasc.Biol.,24:192,2004)などがある。
【0014】
しかしながら、これらの幹細胞は間葉系幹細胞による骨細胞や骨格筋への分化、心臓幹細胞による心臓細胞への分化、内皮前駆細胞による血管内皮細胞への分化などの限られた組織への分化能しか有さないため、これらの細胞を真の多能性幹細胞と称するには無理がある。また、上述した引用文献においては、幹細胞を分離するプロセスに際してFBS入り培地を用いているが、これらの方法によれば、得られる細胞の数や種類が限らざるを得ない。
【0015】
そこで、本発明者らは、臍帯血由来の血液をヒト血清またはプラズマを培地として培養したところ、得られた成体幹細胞がプラスチックへの付着能に優れているだけではなく、骨形成細胞、神経細胞など各種の組織に分化するということを明らかにすると共に、閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患の細胞治療剤として有効に使用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【0016】
本発明の主たる目的は、臍帯血由来の成体幹細胞である多能性幹細胞及びその製造方法を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、前記成体幹細胞を有効成分として含有する閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患及び心血管疾患の治療用細胞治療剤を提供することにある。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は、臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することにより得られると共に、下記の特性を有する成体幹細胞を提供する:(a)CD24,CD29,CD31,CD33,CD45及びCD49Bに対してすべて陽性の免疫学的な反応を示し、CD34,CD51/61,CD62L,CD62P,CD73,CD90,CD133及びCD135に対して陰性の免疫学的な反応を示し;(b)プラスチックに付着して成長し、丸形状(round−shape)または紡錘状(spindle−shape)の形態学的な特性を示し;及び(c)中胚葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞への分化能を有する。
【0019】
また、本発明は、臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することを特徴とし、前記(a)ないし(c)の特性を有する成体幹細胞の製造方法を提供する。
【0020】
本発明において、前記成体幹細胞は、SH−2及び/またはSH−3に対して陽性の免疫学的な反応をさらに示すことを特徴とし、且つ、CD44,CD105及びCD117に対しては陽性または陰性の免疫学的な反応を示すことを特徴とする。さらに、前記中胚葉由来の細胞は、骨形成細胞、神経細胞または内皮細胞(endothelial cells)であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明は、前記成体幹細胞を有効成分として含有する閉塞性動脈又は静脈疾患による虚血性壊死疾患または心血管疾患用細胞治療剤を提供する。前記虚血性壊死疾患には、心筋梗塞、脳梗塞、股關節の虚血壊死、バージャー病および糖尿病性合併症による四肢壞疽病などがある。
【0022】
本発明の前記及び他の目的、特徴及び実施態様は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲から一層明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】臍帯血由来の細胞のFBSまたはヒトプラズマ含有培地において培養した場合、細胞接着力を比較したものであって、左側写真は200倍率で撮影したものであり、右側写真は400倍率で撮影したものである。
【図2】A及びBは、臍帯血由来の多能性幹細胞が骨形成細胞に分化されたものであり、C及びDは、フォンコッサ(Von−Kossa)染色法で染色したものである。
【図3】臍帯血由来の多能性幹細胞と特異抗原の結合を示すものであって、A及びBは、それぞれ神経系ニューロンの特異抗原であるNSE(neuron−specific enolase)と神経系星状細胞の特異抗原であるGFAP(glial fibrillary acidic protein)に対して陽性反応を示すものであり、C及びDはその対照群を示すものである。
【図4】フローサイトメーター(flow cytometer)を用いた臍帯血由来の多能性幹細胞の免疫学的な特性を示すものである(A及びE:対照群、B:CD34、C:CD45、D:SH−2、F:SH−3)。
【図5】本発明に係る成体幹細胞からの抗原の発現可否を調べるためのPAS染色結果を示すものである。
【図6】虚血性壊死を伴った対照群マウスの、血管切欠後、30日の結果を示すもので、赤円は切断現象が発生した部位を示す。
【図7】虚血性壊死を伴ったマウス群の、血管切欠後、本発明による幹細胞の即時投与群の投与後30日の結果を示すものであり、赤円は切断現象が発生した部位を示す。
【図8】虚血性壊死を伴ったマウス群の、血管切欠後、本発明による幹細胞1日後投与群の投与後の31日の結果を示すものであり、赤円は切断現象が発生した部位を示す。
【図9】虚血性壊死モデルのマウスにおいて、その症状日及び切断日を図表化したものである。
【図10】虚血性壊死モデルのマウスにおいて、群別切断率を図表化したものである。
【図11】虚血性壊死モデルのマウスにおいて、その血管切欠してから30日後、各群別血管造影法を利用してレントゲン写真を撮ったものである。
【図12】虚血性壊死を伴ったモデルマウスを剖検後、腿部筋肉部位の組職を切片化することで、in situ hybridization法でヒト特異的プローブ(human specific probe)を用いてヒト細胞を追跡したことを示すものである。
【発明の詳細な説明】
【0024】
本発明は、臍帯血から分離された多能性幹細胞に関する。
【0025】
本発明における臍帯血は、ヒトを含む哺乳動物において、胎盤と胎児を結ぶ臍帯静脈から採取された血液として定義され、本発明に係る多能性幹細胞は、ヒトの臍帯血が好ましい。
【0026】
臍帯血から多能性幹細胞を分離・精製する方法には特に制限はないが、下記の方法を用いることができる。すなわち、臍帯血から採取された血液を撹拌するために、PBSに一定の割合にて希釈して、これを10〜15:20〜30、好ましくは、15:25の割合にてフィコール相分離を行う。このために、10〜20mL、好ましくは、15mLのフィコール溶液に上記においてPBSと混合、攪拌した血液サンプルを徐々に流して層分離を行った後、遠心分離を行う。その後、3つの相異なる層が形成されれば、その中で中間層のバッフィコートをマイクロピペットで取り、HBSSにより2〜5回洗浄した後、遠心分離により臍帯血由来の多能性幹細胞液を得る。
【0027】
遠心分離により最終的に得られたペレットを1〜5mLの培地[5〜15%のヒト自家血清またはプラズマ(autologous human serum or plasma)、あるいはヒト他家血清またはプラズマ(allologous human serum or plasma)と塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)10ng/mLを含むMSCBM+MSCGM(Cambrex,USA)細胞培養液]に希釈してフラスコに入れ、培養を行う。75フラスコにシードを行う場合、約106〜108の細胞を入れた後、5〜20%のヒト自家または他家血清と塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)10ng/mLを加える。細胞は、5%のC02雰囲気に調節されている37℃の培養器において培養を行う。フラスコに最初にシードされた細胞は、約1〜2日後に転移される。培地は、約3〜7日おきに1回ずつ入れ替えを行う。
【0028】
本発明においては、臍帯血由来の多能性幹細胞液を、従来のFBSではなく、ヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養を行った。その結果、図1に示すように、5%のFBS及び10%のFBS入り培地において培養を行った場合に比べて、5%及び10%のヒトプラズマを含有する培地において培養を行った場合の方が、培養皿に付着して成長する細胞の数が遥かに多いということが確認できた。
【0029】
このようにして得られた臍帯血由来の幹細胞液から所望の表面抗原を発現している多能性幹細胞を得る方法としては、ソート機能を有するフローサイトメータを用いたFACS法(Int.Immunol.,10(3):275,1998)、磁気ビーズを用いる方法、多能性幹細胞を特異的に認識する抗体を用いたパンニング法(J.Immunol.,141(8):2797,1998)などが挙げられる。また、大量の培養液などから多能性幹細胞を得る方法としては、細胞の表面に発現されて分子(以下、表面抗原と称する。)を特異的に認識する抗体を単独で用いるか、または、これらを組み合わせてカラムとして用いる方法が挙げられる。
【0030】
フローサイトメータによるソート方式としては、水滴に荷電をかける方式、セルキャプチャ方式などが挙げられる。いかなる方法においても、細胞の表面抗原を特異的に認識する抗体を蛍光により標識し、標識された抗体と抗原の結合体に対する蛍光を測定して蛍光強度を電気信号に変換することにより、細胞の抗原発現量を定量することができる。さらに、用いる蛍光物質の種類を組み合わせることにより、複数の表面抗原を発現している細胞を分離することも可能である。ここに使用可能な蛍光物質としては、FITC(fluorescein isothiocyanate),PE(phycoerythrin),APC(allo−phycocyanin),TR(TexasRed:テキサスレッド),Cy3,CyChrome,レッド613,レッド670,TRI−カラー、クァンタムレッド(QuantumRed)などが挙げられる。
【0031】
フローサイトメータを用いたFACS法としては、上記において得られた幹細胞培養液を集め、遠心分離などの方法により細胞を分離した後、直接的に抗体で染色する方法と、適宜な培地中において1回だけ培養、増殖を行った後、抗体を染色する方法とが含まれる。細胞の染色は、先ず、表面抗原を認識する1次抗体と目的細胞のサンプルを混合し、氷の上において30分ないし1時間反応させる。1次抗体が蛍光により標識されている場合には、洗浄後にフローサイトメータを用いて分離を行う。これに対し、1次抗体が蛍光により標識されていない場合には、洗浄後に1次抗体に対して結合活性を有する蛍光標識された2次抗体と1次抗体が反応した細胞を混合し、さらに氷水中で30分ないし1時間培養する。洗浄後、1次抗体と2次抗体から染色された細胞をフローサイトメータを用いて分離する。
【0032】
磁気ビーズを用いる方法によれば、所望の表面抗原を発現している細胞を大量に分離することができる。分離された細胞の純度は、上述したフローサイトメータを用いた方法よりは低いものの、精製を繰り返し行うことにより、十分に高い細胞純度を得ることができる。
【0033】
各種の表面抗原としては、造血関連抗原、間葉細胞の表面抗原または神経系ニューロンの特異抗原などが挙げられる。前記造血関連抗原としては、CD34,CD45などが挙げられ、間葉細胞の表面抗原としては、SH−2,及びSH−3などが挙げられ、さらに、神経系ニューロンの特異抗原としては、NSE,MAP2、及びGFAPなどが挙げられる。上述した如き各種の抗原を認識する抗体を単独で用いるか、あるいは、組み合わせて用いることにより、目的とする細胞を得ることができる。
【0034】
本発明は、上記において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞を虚血性壊死モデルのマウスモデルに移植したところ、本発明に係る多能性幹細胞を投与した場合には、その壊死症状の誘発が阻害され、切欠された大腿動脈に代えられる新生血管が生成されるということが確認できた。
【0035】
そこで、本発明に係る多能性幹細胞は、閉塞性動脈または静脈疾患による虚血性壊死疾患及び心血管疾患に対する細胞治療剤として用いることができる。虚血性壊死疾患に対する細胞治療剤としては、本発明に係る多能性幹細胞の中でも、血管細胞への分化能を有する細胞を高純度にて含むものが好適に用いられる。
【0036】
本発明に係る多能性幹細胞は、虚血性壊死の大きさ及び部位に応じて、所望の血管への分化能を有する細胞を得る為に、試験管内(in vitro)において分化、増殖することができる。また、これを虚血性壊死部位に移植することにより、虚血性壊死疾患の治療に用いることができる。さらに、虚血性壊死の部位または全身的に静脈注射することによりに本発明に係る多能性幹細胞を直接的に移植することもできる。
【0037】
本発明に係る多能性幹細胞は、単球−マクロファージ系の抗原であるCD45に対して陽性を示し、造血細胞系の抗原であるCD34に対して陰性を示すことから、造血細胞から単球への分化が進んでいる幹細胞であると考えられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。これら実施例は、単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲はこれら実施例により限定されないことは当然である。
【0039】
実施例1:臍帯血からの多能性幹細胞の分離
臍帯血は、臨床試験倫理委員会のガイドライン(Institutional Review Board(IRB) guidelines)に基づき、ソウル大学病院と三星第一病院における満期(full−term)産と早期産(preterm)の新生児において集めた。
【0040】
前記集められた臍帯血から採取された血液サンプル70〜100mLをPBSと1:1の割合にて希釈して撹拌した。その後、15:25の割合にてフィコール相分離を行った。15mLのフィコール溶液にPBSと1:1の割合にて希釈された血液サンプルを徐々に流して層分離を行った後、遠心分離(2500rpm、20分)を行った。その後、3つの相異なる層が形成されれば、その中で中問層のバッフィコートをマイクロピペットで取り、HBSSにより3回洗浄した後、遠心分離(1500rpm、15分)を行い最終的にペレット(臍帯血由来の多能性幹細胞液)を得た。
【0041】
実施例2:臍帯血由来の多能性幹細胞の骨形成細胞への分化
前記実施例1において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞培養液を1mLの骨形成誘導培地[0.1μmol/L dexamethasone(Sigma,USA),0.05mmol/L ascorbic acid−2−phosphate(Sigma,USA) and 10mmol/L beta−glycophosphate(Sigma),5〜20%のヒト血清またはプラズマ]に希釈して細胞数を数えた後、フラスコに入れ培養(5%のC02、37℃で、培地は3〜4日おきに1回ずつ入れ替え)を行うことにより、多能性幹細胞の骨形成細胞への分化を誘導した。培養し始めてから14日目にフォンコッサ(Von−Kossa)染色法を用いて臍帯血由来の多能性幹細胞が骨形成細胞に分化されたことを確認した(図2参照)。
【0042】
実施例3:臍帯血由来の多能性幹細胞の神経細胞への分化
前記実施例1において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞培養液を1mLの神経形成誘導培地[5〜20%のヒト血清またはプラズマに10ng/mL basic fibroblast growth(Roche,Switzerland),10ng/mL human epidermal growth factor(Roche, Switzerland) 10ng/mL human neural growth factor(Invitrogen,USA)を添加]に希釈して細胞数を数えた後、フラスコに入れ、5%のC02、37℃で培養を行うことにより、多能性幹細胞から神経細胞への分化を誘導した。培養し始めてから14日目、神経系ニューロンの特異抗原であるNSE(ニューロン特異的エノラーゼ:neuron−specific enolase)と神経系星状細胞の特異抗原であるGFAP(グリア細胞繊維性酸性タンパク質:glial fibrillary acidic protein)に対して陽性反応を示すことを確認した。これは臍帯血由来の多能性幹細胞が神経細胞に分化されたことを示唆している(図3参照)。
【0043】
実施例4:臍帯血由来の多能性幹細胞の免疫学的な特性
前記実施例1において得られた臍帯血由来の多能性幹細胞の免疫学的な特性を把握するために、細胞表面抗原の発現を調べた。すなわち、前記実施例1において培養した細胞2×106〜107個を用意してPBS溶液で洗浄し、各抗原に該当する抗体と室温で反応させた。抗原の発現の有無は、フローサイトメーター(flow cytometer)を用いて確認した。また、PAS(periodic acid Stain)染色をした。
【0044】
その結果、図4に示すように、本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞は、CD45に対しては63.38%、SH−2に対しては96.54%、SH−3に対しては63.99%の陽性反応をそれぞれ示し、CD34に対しては90%より多い陰性反応を示した。また、他の抗原に対する免疫表現型を確認したところ、CD51/61に対しては陰性、CD62Lに対しては陰性、CD62Pに対しては陰性、CD133に対しては陰性、CD135に対しては陰性、CD90に対しては陰性、CD29に対しては陽性、CD44に対しては陽性または陰性、CD49Bに対して陽性、CD105(SH−2)に対しては陽性または陰性、CD90に対しては陰性の免疫学的な特性をそれぞれ示した。
【0045】
一方、図5に示すように、PAS染色においても陽性反応を示した。
【0046】
実施例5:虚血性壊死モデルに対する多能性幹細胞の治療効果
(1)実験動物の準備
BALB/cANCrjBgi−nu種6週齢のマウス20匹を(株)オリエントから購入して1週間純化した後、18匹を選別して下記実験例に用いた。選別した細胞は、温度32±3℃、相対湿度60±10%、換気回数10〜12回/時間、照明時間12時間、照度250〜200lux下で、HEPAフィルター付きMI rackで高圧蒸気滅菌された実験動物用固形飼料((株)ピュリナ)と高圧蒸気滅菌された飲用水を自由に摂取させながら飼育した。純化期間及び実験期間中にポリカーボネートMIケージ(polycarbonate MI cage,26×42×18cm,ミョンジン機械製)で飼育ボックス当たり7匹を飼育した。
【0047】
前記飼育したマウスに対して試験前に体重を測定し、群間体重差が出ないようにランダムに3つの群(対照群:7匹、多能性幹細胞の即時投入群:8匹、多能性幹細胞の一日後投与群:3匹)に分けた(表1参照)。
【0048】
【表1】
【0049】
前記3つの群に、先行論文(Nicholson,C.D.et al.,Int.J.Sports Med.,13(1):60,1992)を応用して、ケタミン1.2mgを腹腔内に注射して麻酔し、各個体の左側大腿部を切開した後、大腿動脈を切欠し、この切欠部を縫合糸で縫合することにより、バージャー病マウスモデルを得た。
【0050】
前記実施例1において得られた多能性幹細胞をPBSにより2回洗浄した後、0.25%のトリプシンにより処理して細胞を回収し、さらに遠心分離により上澄み液を除去した。次いで、PBSにより洗浄してトリプシンを不活性化し、その後、2次遠心分離を行い1.3×106〜107個の細胞を回収した。これを滅菌生理食塩水100μlに浮遊させた後、多能性幹細胞の即時投入群8匹の各大腿部筋肉に投与した(多能性幹細胞の即時投入群)。また、培養培地は3匹のマウスの各左側大腿部筋肉に投与した(培地対照群)。
【0051】
(2)虚血性壊死モデルの症状日及び切断日の観察
上記の如く虚血性壊死を誘導したマウスに本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞を投与した後、30日間実験動物の大腿部を観察した。症状が現われた日と切断が見られた日を区分して記録し、試験開始前と終了時点で試験動物の体重を測定し、試験終了後に剖検を行った。試験中に測定された試験動物の体重などに関する資料の統計学的分析のために一元配置分散分析(one way ANOVA)を行い群間の有意性を検定した。この際、有意性が認められた場合、ダネットのt検定(Dunnett’s t−test)を行い、対照群と試験群間の統計学的有意性を検定した(p<0.05)。
【0052】
その結果、図6〜図8に示すように、血管切欠30日後、本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞を投与しなかった対照群全ての場合において、いずれも赤円で示される切断現象が発生した(図6参照)。一方、多能性幹細胞の即時投与群の場合、総8匹のうち5匹にのみ切断現象が発生した。6番および8番個体は、バージャー病を誘発させたにも関わらず、ほとんど正常な行動形態を示し、4番個体は、バージャー病による切断が予防された(図7参照)。他方、培地を投与された群の場合、総3匹の実験動物にいずれも切断現象が発生した。これは、多能性幹細胞の即時投与群に比べて血管新生などの治療的効果がほとんどないということを意味する(図8参照)。
【0053】
また、虚血性壊死モデルの確立日を基準として、各個体別に症状(血管切開部位に冷感があり、レイノー現象が見られる)が見られた日と左側脚や足指に切断が見られた日とを調べた(表2参照)。
【0054】
【表2】
【0055】
その結果、表2に示すように、症状日及び切断日で、多能性幹細胞の即時投与群において0.05未満の有意性が示され、他の群においては有意性が示されなかった。各個体別体重を測定して各群別平均と標準偏差を求めたところ、実験の前/後に測定された体重に対する有意的な変化が見られなかった。
【0056】
一方、対照群と本発明の臍帯血由来の多能性幹細胞投与群との症状日及び切断日を比較した(図9)。その結果、症状日で、多能性幹細胞の即時投与群においては、対照群に比べて統計上0.05未満の有意的な変化が確認できた。また、切断日で、有意的な変化は確認できなかったが、多能性幹細胞の即時投与群においては、対照群と培地対照群に比べて切断日がより長く、多能性幹細胞の即時投与群では、血管切欠による切断現象が徐々に発生することを示している。
【0057】
さらに、虚血性壊死モデルの群別切断率を調べた。その結果、図10に示すように、対照群と多能性幹細胞の一日後投与群は100%の切断率を示したのに対し、多能性幹細胞の即時投与群は62.5%の切断率を示した。この結果より、多能性幹細胞を血管切開後直ちに投与すると、切断現象が軽減し、さらに切断率が減少しやすくなることがわかった。
【0058】
(3)血管造影法
血管造影法とは、X線を用いた血管検査であって、造影剤(ヨウ素−131)をマウスの心臓の血管の中に注入し、血管をX線で撮影することを可能にする。この調べによりX線の相で血管の異常の有無を判断し、病名や病巣の位置、病気の進行程度を確認することができる。
【0059】
前記対照群、多能性幹細胞の即時投与群、多能性幹細胞の一日後投与群の剖検の前に各個体をケタミン(100mg/kg)の腹腔注射で麻酔した後、血管造影剤を投与し、2分経過後にX線を利用して各群の大腿動脈と新生血管を調べた。
【0060】
その結果、図11に示すように、対照群と多能性幹細胞の一日後投与群においては新生血管が確認できなかったが、血管切開後にも左側下肢の切断現象が生じなかった多能性幹細胞の即時投与群においては新生血管が確認できた。
【0061】
(4)in situハイブリッド形成法(In situ hybridization)
剖検時に心臓からの採血を行い各群のすべての個体から筋肉の血液を取り除いた。4%のリン酸パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde phosphate)溶液に1.5%のスクロース(sucrose)溶液を混ぜた固定液を用いて各個体の左側大腿部と右側大腿部の筋肉組職を固定した。30%スクロースリン酸(sucrose phosphate)溶液に固定された大腿部筋肉組職が沈降するまで4℃で放置した後、各組職をパラフィンで包埋し、ミクロトーム(microtome)を用いて厚さ5μmの切片に薄切した。それから、プレハイブリダイゼーション(prehybridization)溶液(50%のホルムアミド、4×SSC、50mMのDDT、4×Denhardt’s溶液、’×TED、100μg/mL denatured salmon sperm DNA,250μg/mL yeast RAN)を加えて42℃で1時間反応させた。ここにDIG標識DNA(100ng/mL)を加え、プレハイブリダイゼーション溶液を24時間反応させてDIG標識ヒト特異DNAプローブをmRNAに結合させた。大腿部組職を2×SSC溶液、1×SSC溶液、0.5×SSC溶液によりそれぞれ10分間2回ずつ洗浄した後、スライドグラス(slide glass)に固定させた後、室温で2時間乾燥させた。
【0062】
その結果、図12に示すように、対照群はヒトプローブ(human probe)で標識できなかったが、多能性幹細胞投与群の個体は内皮細胞がヒトプローブで標識されたことが確認できた。
【0063】
以上、本発明の内容の特定部分について詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施の態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されないということは明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とその等価物により定義されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
上述したように、本発明は、臍帯血(へその緒の血液)からヒト血清やプラズマを用いて分離された多能性幹細胞(multipotent stem cells)を提供する。本発明に係る幹細胞は、成体幹細胞であるにも拘わらず、骨形成細胞、神経細胞などに分化できることから、閉塞性又は虚血性動脈疾患及び心臓血管疾患による虚血性壊死疾患用の細胞治療剤として役立つものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することにより得られる、下記の特性を有する成体幹細胞:
(a)CD24,CD29,CD31,CD33,CD45及びCD49Bに対してすべて陽性の免疫学的な反応を示し、CD34,CD51/61,CD62L,CD62P,CD73,CD90,CD133及びCD135に対して陰性の免疫学的な反応を示し;
(b)プラスチックに付着して成長し、丸形状(round−shape)または紡錘状(spindle−shape)の形態学的な特性を示し;及び
(c)中胚葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞への分化能を有する。
【請求項2】
SH−2及び/またはSH−3に対して陽性の免疫学的な反応をさらに示す請求項1に記載の成体幹細胞。
【請求項3】
CD44,CD105及びCD117に対して陽性または陰性の免疫学的な反応を示す請求項1に記載の成体幹細胞。
【請求項4】
前記中胚葉由来の細胞は、骨形成細胞、神経細胞または内皮細胞(endothelial cells)である請求項1に記載の成体幹細胞。
【請求項5】
臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養し、そして成体幹細胞を回収する工程を含む、下記の特性を有する成体幹細胞の製造方法:
(a)CD24,CD29,CD31,CD33,CD45及びCD49Bに対してすべて陽性の免疫学的な反応を示し、CD34,CD51/61,CD62L,CD62P,CD73,CD90,CD133及びCD135に対して陰性の免疫学的な反応を示し;
(b)プラスチックに付着して成長し、丸形状(round−shape)または紡錘状(spindle−shape)の形態学的な特性を示し;及び
(c)中胚葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞への分化能を有する。
【請求項6】
前記ヒト血清またはプラズマは自家(autologous)または他家(allologous)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の成体幹細胞を有効成分として含有する閉塞性動脈または静脈疾患による虚血性壊死疾患又は心血管疾患用細胞治療剤。
【請求項8】
前記虚血性壊死疾患は心筋梗塞、脳梗塞、股關節の虚血壊死、バージャー病及び糖尿病性合併症による四肢壞疽病からなる群から選択される閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患又は心血管疾患用細胞治療剤。
【請求項1】
臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養することにより得られる、下記の特性を有する成体幹細胞:
(a)CD24,CD29,CD31,CD33,CD45及びCD49Bに対してすべて陽性の免疫学的な反応を示し、CD34,CD51/61,CD62L,CD62P,CD73,CD90,CD133及びCD135に対して陰性の免疫学的な反応を示し;
(b)プラスチックに付着して成長し、丸形状(round−shape)または紡錘状(spindle−shape)の形態学的な特性を示し;及び
(c)中胚葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞への分化能を有する。
【請求項2】
SH−2及び/またはSH−3に対して陽性の免疫学的な反応をさらに示す請求項1に記載の成体幹細胞。
【請求項3】
CD44,CD105及びCD117に対して陽性または陰性の免疫学的な反応を示す請求項1に記載の成体幹細胞。
【請求項4】
前記中胚葉由来の細胞は、骨形成細胞、神経細胞または内皮細胞(endothelial cells)である請求項1に記載の成体幹細胞。
【請求項5】
臍帯血由来の血液を5〜20%のヒト血清またはプラズマを含有する培地において培養し、そして成体幹細胞を回収する工程を含む、下記の特性を有する成体幹細胞の製造方法:
(a)CD24,CD29,CD31,CD33,CD45及びCD49Bに対してすべて陽性の免疫学的な反応を示し、CD34,CD51/61,CD62L,CD62P,CD73,CD90,CD133及びCD135に対して陰性の免疫学的な反応を示し;
(b)プラスチックに付着して成長し、丸形状(round−shape)または紡錘状(spindle−shape)の形態学的な特性を示し;及び
(c)中胚葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞への分化能を有する。
【請求項6】
前記ヒト血清またはプラズマは自家(autologous)または他家(allologous)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の成体幹細胞を有効成分として含有する閉塞性動脈または静脈疾患による虚血性壊死疾患又は心血管疾患用細胞治療剤。
【請求項8】
前記虚血性壊死疾患は心筋梗塞、脳梗塞、股關節の虚血壊死、バージャー病及び糖尿病性合併症による四肢壞疽病からなる群から選択される閉塞性動脈疾患による虚血性壊死疾患又は心血管疾患用細胞治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−528229(P2007−528229A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532231(P2007−532231)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002834
【国際公開番号】WO2007/024036
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(505326520)ソウル ナショナル ユニバーシティ インダストリー ファウンデーション (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002834
【国際公開番号】WO2007/024036
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(505326520)ソウル ナショナル ユニバーシティ インダストリー ファウンデーション (10)
【Fターム(参考)】
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