臓器および組織を脱細胞化および再細胞化する方法
本発明は、臓器またはその一部を脱細胞化させ、およびそのような脱細胞化臓器またはその一部を再細胞化させて臓器またはその一部を生成する方法および材料を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器および組織に関し、特に臓器および組織を脱細胞化および再細胞化する方法および材料に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
組織工学および再生のために、生物学的に誘導されたたマトリックス開発されてきた。しかし、これまで開発されてきたマトリックスは、概して、マトリックス構造が損なわれ、および/または臓器または組織を有効に再構成させる血管床を示さない。本開示は、臓器および組織の脱細胞化および再細胞化の方法を記載する。
【発明の概要】
【0003】
概要
本開示は、臓器または組織を脱細胞化するための方法および材料、ならびに脱細胞化臓器または組織を再細胞化するための方法および材料を提供する。
【0004】
一つの局面においては、脱細胞化した哺乳動物心臓を提供する。脱細胞化した哺乳動物心臓としては、外面を有する心臓の脱細胞化した細胞外マトリックスが含まれる。脱細胞化心臓の細胞外マトリックスは、脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、細胞外マトリックスの外面は実質的に無傷である。
【0005】
代表的な心臓としては、齧歯動物心臓、ブタ心臓、ウサギ心臓、ウシ心臓、ヒツジ心臓、またはイヌ心臓が挙げられるがこれらに限定されない。別の代表的な心臓として、ヒト心臓が挙げられる。脱細胞化心臓は死体であってもよい。一部の態様においては、脱細胞化心臓は、心臓全体の一部である。例えば、心臓全体の一部としては、心臓パッチ、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、右心房、左心房、右心室、左心室、中隔(septum)、冠血管系、肺動脈、または肺静脈を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0006】
別の局面においては、固形臓器を提供する。本明細書に記載する固形臓器は、上記脱細胞化心臓、およびそれに付着した再生細胞の集合を含む。一部の態様において、再生細胞は、多能性(pluripotent)細胞である。一部の態様において、再生細胞は胚幹細胞、臍帯細胞、成体由来の幹細胞もしくは始原細胞、骨髄由来細胞、血液由来細胞、間葉幹細胞(MSC)、骨格筋由来細胞、多分化能性(multipotent)成体始原細胞(MAPC)、心臓幹細胞(CSC)、または多分化能性成体心臓由来幹細胞である。一部の態様において、再生細胞は、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系細胞、または大動脈内皮細胞である。一部の態様において、細胞は、組織由来細胞、または皮膚由来細胞である。
【0007】
一般的に、脱細胞化心臓に付着した再生細胞の数は、少なくとも約1,000である。一部の態様では、脱細胞化心臓に付着した再生細胞の数は、約1,000細胞/mg組織(湿重量;すなわち、脱細胞化前重量)〜約10,000,000細胞/mg組織(湿重量)である。一部の態様では、再生細胞は、脱細胞化心臓に対して異種である。また一部の態様では、固形臓器は患者に移植されるものであり、再生細胞は患者に対して自家である。
【0008】
さらに別の局面においては、固形臓器の作製方法を提供する。このような方法は、概して、本明細書に記載するように脱細胞化心臓を得る工程、ならびに、脱細胞化心臓の中およびその上において再生細胞が生着、増殖および/または分化する条件下で、該脱細胞化心臓を再生細胞の集合と接触させる工程を含む。一態様において、再生細胞は、脱細胞化心臓に注射または灌流される。
【0009】
さらに別の局面では、心臓を脱細胞化する方法を提供する。このような方法は、心臓を得る工程と、1つもしくは1つ以上の空洞、管、および/または導管(duct)において心臓にカニューレ挿入して、カニューレ挿入した心臓を作ること、ならびにカニューレ挿入した心臓に、1つもしくは1つ以上のカニューレ挿入を介して第1の細胞破壊培地を灌流させる工程を含む。例えば、灌流は、カニューレ挿入した空洞、管、および/または導管のそれぞれから多方向で行うことができる。典型的に、細胞破壊培地は、SDS、PEG、またはTriton X等の少なくとも1つの界面活性剤を含む。
【0010】
また、このような方法は、カニューレ挿入した心臓に、2つ以上のカニューレ挿入を介して第2の細胞破壊培地を灌流させることを含み得る。一般的に、第1の細胞破壊培地はSDS等のアニオン性界面活性剤であり、第2の細胞破壊培地はTriton X-100等のイオン性界面活性剤であり得る。このような方法において、灌流は、心臓組織1グラム(湿重量)当たり約2〜12時間になることがある。
【0011】
一つの局面においては、固形臓器が提供される。このような固形臓器は、脱細胞化臓器、およびそれに付着した再生細胞の集合を含む。このような脱細胞化臓器は、該臓器の脱細胞化した細胞外マトリックスを含み、細胞外マトリックスは外面を含み、血管樹を含む細胞外マトリックスは脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面は実質的に無傷である。
【0012】
代表的な固形臓器としては、心臓、腎臓、肝臓、または肺が挙げられる。一態様では、固形臓器は肝臓または肝臓の一部である。別の態様では、固形臓器は心臓(例えば、齧歯動物心臓、ブタ心臓、ウサギ心臓、ウシ心臓、ヒツジ心臓、またはイヌ心臓;例えば、収縮活動を示す心臓)である。代表的な心臓はヒト心臓である。心臓は、心臓全体の一部(例えば、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、右心房、左心房、右心室、左心室、心臓パッチ、中隔、冠状血管、肺動脈、および肺静脈)であり得る。別の態様では、固形臓器は腎臓である。本明細書に記載する固形臓器は、典型的に、血管を含む複数の組織学的構造を含む。
【0013】
一部の態様では、脱細胞化臓器に付着した再生細胞の数は少なくとも約1,000である。他の態様では、脱細胞化臓器に付着した再生細胞の数は約1,000細胞/mg組織〜約10,000,000細胞/mg組織である。再生細胞は、多能性細胞であってもよい。あるいはまた、再生細胞は胚幹細胞もしくはその部分集合、臍帯細胞もしくはその部分集合、骨髄細胞もしくはその部分集合、末梢血液細胞もしくはその部分集合、成体由来の幹細胞もしくは始原細胞もしくはその部分集合、組織由来の幹細胞あるいは始原細胞もしくはその部分集合、間葉幹細胞(MSC)もしくはその部分集合、骨格筋由来の幹細胞あるいは始原細胞もしくはその部分集合、多分化能性成体前駆細胞(MAPC)もしくはその部分集合、心臓幹細胞(CSC)もしくはその部分集合、または多分化能性成体心臓由来幹細胞もしくはその部分集合であってもよい。再生細胞の例としては、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系内皮細胞、大動脈内皮細胞、または肝細胞が挙げられる。一部の態様では、再生細胞は脱細胞化臓器に対して同種または異種である。
【0014】
一部の態様では、固形臓器は患者に移植されるものであり、再生細胞は患者に対して自家である。他の態様では、固形臓器は患者に移植されるものであり、脱細胞化臓器は患者に対して同種または異種である。
【0015】
別の局面においては、臓器の作製方法を提供する。このような方法は、概して、脱細胞化臓器を得る工程であって、該脱細胞化臓器は該臓器の脱細胞化した細胞外マトリックスを含み、該細胞外マトリックスは外面を含み、血管樹を含む細胞外マトリックスは脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、外面は実質的に無傷である工程と;脱細胞化臓器の中または上に再生細胞が生着、増殖および/または分化する条件下で、脱細胞化臓器を再生細胞の集合と接触させる工程とを含む。一態様では、再生細胞は脱細胞化臓器へ注射される。代表的な脱細胞化臓器として、心臓、腎臓、肝臓、脾臓、膵臓または肺が挙げられる。
【0016】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書に記載するものと同様または同等の方法および材料が本発明の実施または検査において使用できるが、適切な方法および材料を以下に記載する。また、材料、方法、および実施例は例示のためだけのものであり、限定することを意図したものではない。本明細書で言及する全ての文献、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合には、定義を含め、本明細書が優先する。
【0017】
本発明の一以上の態様の詳細が、添付の図面および以下の記載に示されている。本発明のその他の特徴、目的、および利点は、図面および詳細な説明、ならびに請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、心臓を脱細胞化するための初期準備を示す模式図である。大動脈、肺動脈、および上大静脈にカニューレを挿入して(それぞれA、B、C)、下大静脈、腕頭動脈、左総頸動脈、および左鎖骨下動脈を結紮している。矢印は、灌流の順行および逆行の方向を示す。
【図2】図2は、脱細胞化/再細胞化装置の一態様の模式図である。
【図3】図3Aは脱細胞化した肝臓および腎臓の写真であり、図3Bは脱細胞化した心臓および肺の写真である。左側の写真は、組織の組織学的染色を示しかつ死体臓器に残った核酸の定量値を表記しており、右側の写真は脱細胞化マトリックスの組織学的染色を示しかつ灌流型脱細胞化した臓器に残った核酸の定量値を表記している。
【図4】図4は、灌流型脱細胞化したブタ腎臓(左)およびラット腎臓(中央;エバンスブルー染料での灌流を示す挿入図)の写真、ならびに灌流型脱細胞化後の細管および集合管に囲まれた糸球体のEM写真を示す。
【図5】図5は、下腹部から頭部まで脱細胞化したラットの全身写真である。
【図6】図6は、肝臓の再細胞化を示す写真である。図6Aは灌流型脱細胞化したラット肝臓を示す。図6Bは、脱細胞化ラット肝臓の単一葉への、門脈カテーテルを介した初代肝細胞の注射を示す。
【図7】図7は、再細胞化が標的化できることを示す写真である。図7Aは、脱細胞化肝臓の尾状葉に送達される初代ラット肝細胞を示す。図7Bは、脱細胞化ラット肝臓の上/下右側葉に送達される初代ラット肝細胞を示す。
【図8】図8は、脱細胞化ラット肝臓の再細胞化を示すSEM写真である。4000万の初代ラット肝細胞が門脈を介して送達され、1週間培養された(A〜D)。
【図9】図9は、尾状突起への初代ラット肝細胞の注射の1週間後での再細胞化ラット肝臓の染色を示す。図9Aはマッソントリクローム染色(10×)を示し、図9BはHE染色(10×)を示す。
【図10】図10は、初代ラット肝細胞を尾状突起に入れた再細胞化の1週間後の肝臓のTUNEL分析を示す。図10Aは生存およびアポトーシス細胞の混合を示すTUNEL染色(10×)であり、図10Bはマッソントリクローム染色(10×)を示す。
【図11】図11は、1週間後の灌流型脱細胞化ラット肝臓におけるヒトHepG2細胞のインビトロでのマッソントリクローム染色を示す。図11Aは尾状突起を示し、図11Bは上/下右側葉を示す。両方とも10×である;V=マトリックス中の管。
【図12】図12は、細胞保持効率のグラフである。グラフは、初代ラット肝細胞(1〜6)またはHepG2(7および8)細胞が注射後に保持されることを示す。細胞は、注射の前後に数えた。保持%は、初期数から保持細胞を引いたものに基づいて計算した。
【図13】図13は、HepG2細胞が、脱細胞化臓器において生存可能なままであることを示すグラフである。アラマーブルー(Alamar blue)代謝は、HepG2細胞(注射当日において約3,000万個)が生存可能なままであり、尾状突起(ひし形)および上/下右側葉(四角)への注射後に限界範囲まで増殖したことを実証する。
【図14】図14は、再細胞化後の初代ラット肝細胞(7日間で約3500万細胞)による尿素生成の経時変化を示すグラフである。
【図15】図15は、再細胞化後の初代ラット肝細胞(7日間で約3500万細胞)による毎日のアルブミン生成の経時変化を示すグラフである。
【図16】図16は、尾状葉に注射された初代ラット肝細胞(8日間で2300万細胞)由来のエトキシレゾルフィン-O-デエチラーゼ(EROD)活性の経時変化を示すグラフである。
【図17】図17は、胚および成体由来の幹細胞/始原細胞が、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で少なくとも3週間増殖したことを示すグラフである。
【図18】図18は、マウス胚幹細胞(mESC)および増殖する成体幹細胞(骨格筋芽細胞;SKMB)が、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で生存可能であったことを示すグラフである。
【図19】図19は、死体(左パネル)および脱細胞化した(右パネル)心臓のSEM写真である。LV、左心室;RV、右心室。
【図20】図20は、死体(左パネル)および再細胞化したラット肝臓(右パネル)の組織学的(上部パネル)およびSEM(下部パネル)比較である。
【図21】図21は、(A)完全に脱細胞化したブタ肝臓マトリックスを示す写真、ならびに(B)脈管および(C)実質性マトリックスの完全状態を示す灌流型脱細胞化ブタ肝臓のSEMである。
【図22】図22は、浸漬型脱細胞化肝臓の全体図を示す写真である。無傷な肝臓の全体的な外見にも関わらず、マトリックスのほころびおよび嚢の欠如が低倍率(A)および高倍率(B)の両方において見とめることができる。
【図23】図23は、浸漬型脱細胞化(AおよびB)の後では、臓器がグリソン嚢を欠く一方で、1%SDS灌流型脱細胞化(CおよびD)の後では、臓器が嚢を保持したことを示すSEM写真である。
【図24】図24は、浸漬型脱細胞化したラット肝臓の組織構造(A、HE;B、トリクローム)、および1%SDS灌流型脱細胞化後の組織構造(C、HE;D、トリクローム)を示す写真である。
【図25】図25は、ラット心臓の浸漬型脱細胞化(上段)と灌流型脱細胞化(下段)との比較を示す写真である。左欄、全臓器;中央欄、HE組織染色;右欄、SEM。
【図26】図26は、ラット腎臓を使用した浸漬型脱細胞化(上段)と灌流型脱細胞化(下段)との比較を示す写真である。左欄、全臓器;中央欄、HE組織染色;右欄、SEM。
【図27】図27は、灌流型脱細胞化腎臓(図27A)および浸漬型脱細胞化腎臓(図27B)のSEM写真である。
【図28】図28は、灌流型脱細胞化心臓(図28A)および浸漬型脱細胞化心臓(図28B)のSEM写真である。
【図29】図29は、浸漬型脱細胞化肝臓のSEM写真である。
【0019】
別々の図面における同様の符番は、同様の構成要素を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
固形臓器は、一般的に、3つの主要構成要素、すなわち、細胞外マトリックス(ECM)、そこに埋め込まれた細胞、および血管床、を有する。本明細書に記載する固形臓器の脱細胞化は、細胞外マトリックス(ECM)および血管床を実質的に保存しつつ、細胞成分のほとんどまたは全てを除去する。そのため、脱細胞化した固形臓器は再細胞化のための足場(scaffold)として使用できる。固形臓器を得ることができる哺乳動物としては、齧歯動物、ブタ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、イヌ、およびヒトが挙げられるがこれらに限定されない。本明細書に記載する方法において使用される臓器および組織は、死体であっても、または胎仔、新生仔、もしくは成体であってもよい。
【0021】
本明細書で言及する固形臓器としては、心臓、肝臓、肺、骨格筋、脳、膵臓、脾臓、腎臓、胃、子宮、および膀胱が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書で使用する固形臓器とは、「実質的に閉じた」血管系を有する臓器を指す。臓器に関して「実質的に閉じた」血管系とは、大血管がカニューレ挿入されたか、結紮されたか、さもなければ拘束されたとして、液体での灌流の際に、液体の大部分が固形臓器内に含まれて、固形臓器の外に漏れないことを意味する。「実質的に閉じた」血管系を有するにも関わらず、上記一覧した多くの固形臓器が、灌流の間に臓器全体に液体を導入および移動させるのに有用な明確な「入口」および「出口」管を有する。
【0022】
上記固形臓器に加えて、例えば、関節(例えば、膝、肩、腰もしくは脊椎)の全体または一部、気管、皮膚、腸間膜もしくは腸、小腸、大腸、食道、卵巣、陰茎、睾丸、脊髄、または一本の血管もしくは枝分かれした血管等の他種の血管のある臓器または組織を、本明細書に開示する方法を使用して脱細胞化できる。さらに、本明細書に開示する方法はまた、例えば、軟骨もしくは角膜等の無血管(または比較的無血管)組織を脱細胞化するのに使用できる。
【0023】
本明細書で記載する脱細胞化臓器もしくは組織(例えば、心臓もしくは肝臓)またはそれらの任意の部分(例えば、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、肺静脈、肺動脈、冠血管系、中隔、右心房、左心房、右心室、左心室もしくは肝葉)が、再細胞化の有無に関わらず、患者への移植のために使用できる。あるいはまた、本明細書に記載する再細胞化臓器または組織は、例えば、臓器または組織の分化途中の細胞および/または細胞編成を検査するために使用できる。
【0024】
臓器または組織の脱細胞化
本発明は、哺乳動物臓器または組織を脱細胞化する方法および材料を提供する。臓器または組織を脱細胞化するための最初の工程は、可能であれば、臓器または組織にカニューレを挿入することである。臓器または組織の管、導管、および/または空洞には、当該分野で公知の方法および材料を使用してカニューレを挿入できる。臓器または組織を脱細胞化するための次の工程は、カニューレ挿入した臓器または組織に細胞破壊培地を灌流させることである。臓器にわたる灌流は、多方向(例えば、順行および逆行)であり得る。
【0025】
心臓のランゲンドルフ灌流(4チャンバワーキングモード灌流(four chamber working mode perfusion)としても知られる)は、生理学的灌流として、当該分野で常套的な手法である。例えば、Dehnert、The Isolated Perfused Warm-blooded Heart According to Langendorff, in Methods in Experimental Physiology and Pharmacology:Biological Measurement Techniques V.Biomesstechnik-Verlag March GmbH、West Germany、1988を参照のこと。簡潔に言うと、ランゲンドルフ灌流のためには、大動脈にカニューレを挿入し、細胞破壊培地を含むリザーバーに取り付ける。細胞破壊培地は大動脈を逆行方向に送達でき、例えば、注入もしくはローラポンプによって、または一定の静水圧によって一定の流速で送達される。いずれの場合も、大動脈弁は強制的に閉じられ、灌流流体を冠状動脈口に向わせ(これにより、心臓の心室全体に灌流させ)、その後これが冠状静脈洞口を介して右心房に流出する。ワーキングモード灌流のためには、第2のカニューレを左心房に接続し、灌流を逆行から順行に変えることができる。
【0026】
他の臓器または組織に灌流させる方法が当該分野で公知である。例として、以下の参考文献は、肺、肝臓、腎臓、脳、および肢への灌流を記載している。Van Putte et al、2002、Ann. Thorac. Surg.、74(3):893-8;den Butter et al.、1995、Transpl. Int.、8:466-71;Firth et al.、1989、Clin. Sd.(Lond.)、77(6):657-61;Mazzetti et al.、2004、Brain Res.、999(l):81-90;Wagner et al.、2003、J.Artif. Organs、6(3):183-91。
【0027】
1つ以上の細胞破壊培地を使用して、臓器または組織を脱細胞化することができる。細胞破壊培地は、一般的に、SDS、PEG、またはTriton X等の少なくとも1つの界面活性剤を含む。細胞破壊培地は、培地が細胞と浸透圧的に適合しないように水を含むことができる。あるいはまた、細胞破壊培地は、細胞との浸透圧適合性のために、緩衝液(例えば、PBS)を含んでもよい。細胞破壊培地はまた、1つ以上のコラゲナーゼ、1つ以上のディスパーゼ、1つ以上のDNアーゼ、またはトリプシン等のプロテアーゼ等(ただしこれらに限定されない)の酵素も含んでもよい。一部の場合において、細胞破壊培地は、同時にまたは代替的に、1つ以上の酵素の阻害剤(例えば、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤および/またはコラゲナーゼ阻害剤)を含むことができる。
【0028】
特定の態様では、カニューレ挿入した臓器または組織に、2つの異なる細胞破壊培地を連続的に灌流できる。例えば、第1の細胞破壊培地はSDS等のアニオン性界面活性剤を含むことができ、第2の細胞破壊培地はTriton X-100等のイオン性界面活性剤を含むことができる。少なくとも1つの細胞破壊培地での灌流の後、カニューレ挿入した臓器または組織を、例えば、本明細書に開示するような洗浄液および/または1つ以上の酵素を含む溶液で灌流できる。
【0029】
灌流の方向(例えば、順行および逆行)を交互させることにより、臓器または組織全体を効果的に脱細胞化する助けとなり得る。本明細書に記載する脱細胞化は、本質的に臓器を内側まで完全に脱細胞化させ、ECMに対してほとんど損傷を生じない。臓器または組織は、4〜4O℃の適切な温度において脱細胞化できる。臓器または組織の大きさおよび重量、特定の(1つ以上の)界面活性剤、ならびに細胞破壊培地中での(1つ以上の)界面活性剤の濃度に応じて、臓器または組織は一般的に固形臓器または組織1グラム当たり約2〜約12時間、細胞破壊培地で灌流される。臓器は、洗浄を含めて、組織1グラム当たり最長約12〜約72時間灌流されることがある。灌流は、一般的に、拍動流、拍動率および拍動圧を含む生理学的条件に調節される。
【0030】
本明細書に示すように、脱細胞化臓器または組織は、本質的に血管樹のECMコンポーネントを含めて、臓器または組織の全体またはほとんどの領域の細胞外マトリックス(ECM)コンポーネントから構成される。ECMコンポーネントは、以下のうちのいずれかまたは全てを含み得る:フィブロネクチン、フィブリリン、ラミニン、エラスチン、コラーゲンファミリーのメンバー(例えば、コラーゲンI、III、およびIV)、グリコサミノグリカン、基質、細網線維、ならびにトロンボスポンジン。これらは、基底膜等の明確な構造として組織された状態のままであり得る。脱細胞化の成果は、標準的な組織学的染色手順を使用して、組織学切片において検出可能な筋フィラメント、内皮細胞、平滑筋細胞、および核が存在しないことによって規定される。残存細胞残屑も、脱細胞化臓器または組織から除去されていることが好ましいが必須ではない。
【0031】
効果的に再細胞化させて、臓器または組織を作製するためには、脱細胞化の過程の途中または後に、ECMの形態および構造が維持されている(すなわち、実質的に無傷のままである)ことが重要である。本明細書で使用する「形態」とは、臓器もしくは組織、またはECMの全体の形状を指し、本明細書で使用する「構造」とは、外面、内面、およびその間のECMを指す。
【0032】
ECMの形態および構造は、視覚的および/または組織学的に検査できる。例えば、固形臓器の外面上、または臓器もしくは組織の血管系内の基底膜は、脱細胞化によって、除去されたり、または有意に損傷されてはならない。さらに、ECMの原線維は、脱細胞化していない臓器または組織のものと類似しているか、またはそれと有意に変わっていてはならない。特に明記しない限り、本明細書で使用する脱細胞化とは灌流型脱細胞化を指し、また、特に明記しない限り、本明細書で言及する脱細胞化臓器またはマトリックスは本明細書に記載する灌流型脱細胞化を使用して得られる。本明細書に記載する灌流型脱細胞化は、例えば、米国特許第6,753,181号および同第6,376,244号に記載の浸漬型脱細胞化と比較できる。
【0033】
1つ以上の化合物を、脱細胞化臓器または組織の内または上に適用して、例えば、脱細胞化臓器を保存するか、脱細胞化臓器もしくは組織を再細胞化のために調製するか、および/または再細胞化過程の間に細胞を補助もしくは刺激することができる。このような化合物としては、1つ以上の成長因子(例えば、VEGF、DKK-1、FGF、BMP-1、BMP-4、SDF-1、IGF、およびHGF)、免疫調節剤(例えば、サイトカイン、グルココルチコイド、IL2Rアンタゴニスト、ロイコトリエンアンタゴニスト)、ならびに/または凝固カスケードを修飾する因子(例えば、アスピリン、ヘパリン結合タンパク質、およびヘパリン)が挙げられるがこれらに限定されない。また、脱細胞化臓器または組織は、例えば、照射(例えば、UV、ガンマ)によりさらに処置されて、脱細胞化臓器または組織の上または中に残っているあらゆる種類の微生物の存在を減らしたり、または無くすことができる。
【0034】
臓器または組織の再細胞化
本発明は、臓器または組織を生成するための材料および方法を提供する。本明細書に記載する脱細胞化臓器または組織を再生細胞の集合と接触させることにより、臓器または組織を生成できる。本明細書で使用する再生細胞は、脱細胞化臓器または組織を再細胞化するために使用される任意の細胞である。再生細胞は、全能細胞、多能性細胞、または多分化能細胞であってもよく、非分化増殖性(uncommitted)であっても、または分化増殖性(committed)であってもよい。再生細胞はまた、単一系統(single-lineage)細胞であってもよい。さらに、再生細胞は未分化細胞、一部分化細胞、または完全分化細胞であってもよい。本明細書で使用する再生細胞としては、胚幹細胞(国立衛生研究所(NIH)により定義されるもの;例えば、ワールドワイドウェブ上のstemcells.nih.govの用語集を参照のこと)が挙げられる。再生細胞としてはまた、始原細胞、前駆細胞、ならびに臍帯細胞および胎仔幹細胞を含む「成体」由来幹細胞が挙げられる。
【0035】
臓器または組織を再細胞化するのに使用できる再生細胞の例としては、胚幹細胞、臍帯血液細胞、組織由来の幹細胞もしくは始原細胞、骨髄由来の幹細胞もしくは始原細胞、血液由来の幹細胞もしくは始原細胞、脂肪組織由来の幹細胞もしくは始原細胞、間葉幹細胞(MSC)、骨格筋由来細胞、または多能性成体前駆細胞(MAPC)が挙げられるがこれらに限定されない。さらに使用可能な再生細胞としては、心臓幹細胞(CSC)を含む組織特異的幹細胞、多能性成体心臓由来幹細胞、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系内皮細胞、または大動脈内皮細胞が挙げられる。骨髄単核細胞(BM-MNC)等の骨髄由来幹細胞、内皮または血管由来の幹細胞または始原細胞、および内皮始原細胞(EPC)等の末梢血液由来幹細胞も再生細胞として使用できる。
【0036】
臓器または組織を生成するために脱細胞化臓器の中または上に導入される再生細胞の数は、臓器(例えば、臓器の種類、臓器の大きさおよび重量)または組織、ならびに再生細胞の種類および発達段階の両方に依存する。異なる種類の細胞は、それらの細胞が達する集合密度に関して異なる傾向を持つ場合がある。同様に、異なる臓器または組織は、異なる密度において再細胞化し得る。例示として、脱細胞化臓器または組織は、少なくとも約1,000(例えば、少なくとも10,000、100,000、1,000,000、10,000,000、もしくは100,000,000)個の再生細胞を「播種」され得るか;または約1,000細胞/mg組織(湿重量、すなわち、脱細胞化前)〜約10,000,000細胞/mg組織(湿重量)を付着され得る。
【0037】
再生細胞は、脱細胞化臓器または組織に注射により1つ以上の位置で導入(「播種」)され得る。さらに、2種類以上の細胞(すなわち、細胞のカクテル)を脱細胞化臓器または組織に導入することができる。例えば、細胞のカクテルは脱細胞化臓器もしくは組織の複数の位置で注射され得るか、または異なる細胞型が脱細胞化臓器もしくは組織の異なる部分に注射され得る。注射の代わりにまたは注射に加えて、再生細胞または細胞のカクテルは、カニューレ挿入した脱細胞化臓器または組織に灌流により導入され得る。例えば、灌流培地を使用して再生細胞を脱細胞化臓器に灌流させ、該培地を拡張および/または分化培地に変えて再生細胞の成長および/または分化を誘発してもよい。
【0038】
再細胞化の間、臓器または組織は、脱細胞化臓器または組織の中または上で再生細胞の少なくとも一部が増殖および/または分化できる条件下で維持される。これらの条件としては、適切な温度および/または圧力、電気的および/または機械的活動、力、適切な量のO2および/またはCO2、適切な量の湿度、ならびに滅菌またはほぼ滅菌条件が挙げられるがこれらに限定されない。再細胞化の間、脱細胞化臓器または組織、およびそれに付着した再生細胞は、適切な環境において維持される。例えば、再生細胞は、栄養補助剤(例えば、栄養素および/もしくはグルコース等の炭素源)、外因性のホルモンもしくは成長因子、ならびに/または特定のpHを必要とし得る。
【0039】
再生細胞は、脱細胞化臓器もしくは組織に対して同種であってもよく(例えば、ヒト再生細胞をヒト脱細胞化臓器または組織に播種する)、または再生細胞は脱細胞化臓器もしくは組織に対して異種であってもよい(例えば、ヒト再生細胞をブタ脱細胞化臓器または組織に播種する)。本明細書で使用する「同種」とは、臓器または組織が由来する種と同じ種(例えば、自身(すなわち、自家)、または血縁関係のあるもしくは血縁関係のない個体)から得た細胞を指し、本明細書で使用する「異種」とは、臓器または組織が由来する種とは異なる種から得た細胞を指す。
【0040】
場合によっては、本明細書に記載の方法で生成された臓器または組織は、患者に移植されるものである。この場合、脱細胞化臓器または組織を再細胞化するために使用する再生細胞は、再生細胞が患者にとって「自家」となるように患者から得ることができる。患者由来の再生細胞は、例えば、異なる生命段階(例えば、出生前に、新生児もしくは周産期に、青年期の間に、または成体として)における血液、骨髄、組織、または臓器から、当該分野で公知の方法を使用して得ることができる。あるいはまた、脱細胞化臓器または組織を再細胞化するのに使用する再生細胞は、患者にとって同系(すなわち、一卵性双生児由来)であってもよく、再生細胞は、例えば、患者の血縁者もしくは患者とは無縁のHLA適合個体由来のヒトリンパ球抗原(HLA)対応細胞であってもよく、再生細胞は、例えば、非HLA適合ドナー由来で患者にとって同種であってもよい。
【0041】
再生細胞の由来源(例えば、自家であるか否か)を問わず、脱細胞化した固形臓器は、患者にとって自家、同種または異種であり得る。
【0042】
特定の例においては、脱細胞化臓器は、(例えば、臓器または組織が個体に移植された後に)細胞によりインビボで再細胞化され得る。インビボ再細胞化は、例えば、本明細書に記載する再生細胞のいずれかで、上述したように行われ得る(例えば、注射および/または灌流)。代替的または追加的に、脱細胞化臓器または組織への内因性細胞のインビボ播種は、自然に発生するか、または再細胞化組織に送達される因子によって媒介され得る。
【0043】
再生細胞の進行は、再細胞化の間、モニタリングされ得る。例えば、臓器または組織の上または中の細胞数は、再細胞化中の1つ以上の時点において生検を行うことによって評価できる。さらに、再生細胞が経た分化の程度は、細胞または細胞の集合において様々なマーカーが存在するか否かを決定することによりモニタリングできる。異なる細胞型およびそれらの細胞型の異なる分化段階に関連するマーカーは当該分野で公知であり、抗体および標準的なイムノアッセイを使用して容易に検出できる。例えば、Current Protocols in Immunology、2005、Coligan et al、Eds.、John Wiley & Sons、Chapters 3 and 11を参照のこと。核酸アッセイ、ならびに形態学的および/または組織学的評価を使用して、再細胞化をモニタリングできる。再細胞化臓器の機能性分析も評価できる。例えば、再細胞化心臓においては、収縮および心室内圧を評価でき、再細胞化肝臓においては、アルブミン生成、尿素生成、およびシトクロムp450活性を評価でき、再細胞化腎臓においては、血液または培地濾過および尿生成を評価でき、再細胞化した膵臓においては、血液、グルコースおよびインスリンを評価でき、再細胞化した筋肉においては、力生成または刺激に対する応答を評価でき、再細胞化した管においては、血栓形成を評価できる。
【0044】
臓器または組織を脱細胞化および/または再細胞化するための制御システム
本発明はまた、臓器または組織を脱細胞化および/または再細胞化するシステム(例えば、バイオリアクター)も提供する。このようなシステムは、一般的に、臓器または組織にカニューレ挿入するための少なくとも1つのカニューレ挿入デバイス、(1つ以上の)カニューレを介して臓器または組織に灌流させるための灌流装置、および臓器または組織の滅菌環境を維持するための手段(例えば、格納システム)を含む。カニューレ挿入および灌流は、当該分野で周知の技術である。カニューレ挿入デバイスは、一般的に、臓器または組織の管、導管、および/または空洞に導入するための適切な大きさの空洞配管を含む。典型的に、臓器において1つ以上の管、導管、および/または空洞にカニューレ挿入する。灌流装置は、液体(例えば、細胞破壊培地)用の支持コンテナ、および1つ以上のカニューレを介して液体を臓器中で移動させるための機構(例えば、ポンプ、空気圧、重力)を含み得る。脱細胞化および/または再細胞化の間の臓器または組織の滅菌性は、気流の制御および濾過、ならびに/または例えば、抗生物質、抗真菌剤もしくは他の抗菌剤での灌流により望ましくない微生物の成長を防ぐ等、当該分野において公知の様々な技術を用いて維持することができる。
【0045】
本明細書に記載する臓器または組織を脱細胞化および再細胞化するシステムは、特定の灌流特性(例えば、圧力、容量、流れのパターン、温度、気体、pH)、機械的な力(例えば、心室壁運動および応力)、ならびに電気的刺激(例えば、ペース)をモニタリングする能力を有し得る。脱細胞化および再細胞化の過程と共に冠血管床(例えば 血管抵抗、容量) は変化するため、大幅な変動を回避するための圧力調節型灌流装置が有利である。灌流の有効性は、排液および組織切片において評価できる。灌流容量、流れのパターン、温度、O2およびCO2分圧、ならびにpHは、標準的な方法を使用してモニタリングできる。
【0046】
センサを使用して、システム(例えば、バイオリアクター)、および/または臓器もしくは組織をモニタリングできる。ソノマイクロメトリ、マイクロマノメトリ、および/またはコンダクタンス測定を使用して、圧力-容量、または心筋壁運動および性能に関する前負荷動員一回仕事量(preload-recruitable stroke work)の情報を得ることができる。例えば、センサを使用して、カニューレ挿入した臓器または組織内を移動している液体の圧力;システム中の環境温度および/または臓器もしくは組織の温度;カニューレ挿入した臓器または組織内を移動している液体のpHおよび/または流速;ならびに/あるいは再細胞化する臓器または組織の生物学的活性をモニタリングできる。このような特徴をモニタリングするためのセンサを備えることに加えて、臓器または組織を脱細胞化するおよび/または再細胞化するシステムは、これらの特徴を維持または調節するための手段も含み得る。これらの特徴を維持または調節するための手段としては、温度計、サーモスタット、電極、圧力センサ、オーバーフローバルブ、液体の流速を変えるためのバルブ、溶液のpHを変えるために使用される溶液への流体連結を開閉するためのバルブ、バルーン、体外ペースメーカー、ならびに/またはコンプライアンスチャンバ等のコンポーネントを挙げることができる。安定的な条件(例えば、温度)が得られるように、チャンバ、リザーバーおよび配管は冷却装置を装備してもよい。
【0047】
再細胞化の間に、臓器およびそれに付着した細胞に機械的負荷をかけることが有利な場合もある。例として、左心房を介して左心室に挿入されたバルーンを使用して、心臓に機械的ストレスをかけてもよい。容量および速度の調整を可能にするピストンポンプを、バルーンに接続して、左心室壁運動および応力を刺激することができる。壁運動および応力をモニタリングするために、マイクロマノメトリ、ソノマイクロメトリ、圧力-容量変化、または心エコー法を使用して、左心室壁運動および圧力を測定することができる。一部の態様では、体外ペースメーカーをピストンポンプに接続して、心室バルーンの収縮(心収縮と等しい)に伴って同期した刺激を得ることができる。周囲ECG(peripheral ECG)を心臓表面から記録して、ペース電圧の調整、脱分極および再分極のモニタリングを可能にし、再細胞化中または再細胞化心臓の簡素化した表面地図を得ることができる。
【0048】
機械的な心室拡張は、左心房を介して左心室に挿入されたカニューレに蠕動ポンプを取り付けることによっても達成できる。バルーンが関与する上述した手順と同様、カニューレを介した周期的流体運動(例えば、拍動流)で得られる心室拡張は、電気的刺激と同期させることができる。
【0049】
本明細書に開示の方法および材料を使用して、哺乳動物心臓を脱細胞化および再細胞化することができ、適切な条件下で維持した場合には、収縮機能を受けて、ペース刺激および/または薬剤に応答する機能性心臓を生成できる。この再細胞化した機能性心臓は、哺乳動物に移植でき、一定期間機能する。
【0050】
図2は、臓器または組織を脱細胞化および/または再細胞化するシステム(例えば、バイオリアクター)の一態様を示す。図示している態様は、心臓を脱細胞化および再細胞化するバイオリアクターである。本態様は、調節可能な速度および容量蠕動ポンプ(A);心室内バルーンに接続した調節可能な速度および容量ピストンポンプ(B);調節可能な電圧、周波数および振幅体外ペースメーカー(C);ECGレコーダー(D);「動脈ライン」にある圧力センサ(冠動脈圧力に相当)(E);「静脈」ラインにある圧力センサ(冠状静脈洞口圧力に相当)(F);ならびにペースメーカーとピストンポンプとの間の同期(G)を有する。
【0051】
臓器または組織を生成するシステムは、プログラム可能プロセッサと組み合わせられたコンピュータで読み取り可能な記憶媒体により制御できる(例えば、本明細書で使用されるコンピュータで読み取り可能な記憶媒体には、プログラム可能プロセッサに特定の工程を行わせるための命令が格納されている)。例えば、プログラム可能プロセッサと組み合わせたそのような記憶媒体は、1つ以上のセンサからの情報を受け取り、処理することができる。プログラム可能プロセッサと併用するこのような記憶媒体はまた、情報および命令をバイオリアクターおよび/または臓器もしくは組織に返信することもできる。
【0052】
再細胞化中の臓器または組織を、生物学的活性についてモニタリングできる。生物学的活性は、臓器または組織の電気的活動、機械的活動、機械的圧力、収縮性、および/または壁応力等、臓器または組織自体のものであり得る。さらに、臓器または組織に付着した細胞の生物学的活性は、例えば、イオン輸送/交換活性、細胞分裂、および/または細胞生存性についてモニタリングできる。例えば、Laboratory Textbook of Anatomy and Physiology (2001 ,Wood、Prentice Hall) and Current Protocols in Cell Biology (2001、Bonifacino et al.、Eds、John Wiley & Sons)を参照のこと。上述したように、再細胞化の間の臓器に対する能動負荷をシミュレーションすることが有用であるかもしれない。本発明のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体は、プログラム可能プロセッサと組み合わせられて、臓器または組織に対する能動負荷をモニタリングおよび維持するのに必要なコンポーネントを連係させるために使用できる。
【0053】
一態様においては、臓器または組織の重量を、本明細書に記載するように、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に入力し、プログラム可能プロセッサと共に、その特定の臓器または組織についての露出時間 および灌流圧を計算できる。このような記憶媒体は、前負荷および後負荷(それぞれ灌流前後の圧力)、ならびに流速を記録できる。本態様においては、例えば、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体は、プログラム可能プロセッサと共に、1つ以上のポンプおよび/またはバルブ制御を介して、灌流圧、灌流方向、および/または灌流溶液の種類を調節できる。
【0054】
本発明によれば、当該技術分野の範囲内にある従来の分子生物学、微生物学、生化学、および細胞生物学技術を採用してもよい。このような技術は、文献に完全に説明されている。本発明を、請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない以下の実施例においてさらに説明する。
【実施例】
【0055】
セクションA. 脱細胞化(パートI)
実施例1-脱細胞化のための固形臓器の調製
死後血栓の形成を避けるために、ドナーラットを、400Uのヘパリン/kg(ドナー)で全身ヘパリン化した。ヘパリン化の後、心臓および隣接する大血管を完全に取り除いた。
【0056】
心臓を、ヘパリン(2000U/ml)を含有する生理食塩溶液(0.9%)に入れ、さらに処理するまで5℃にて保持した。滅菌条件下で、結合組織を心臓および大血管から取り除いた。下大静脈および左右の肺静脈を、右および左の心房から遠位において、非吸収性のモノフィラメント結紮糸を使用して結紮した。
【0057】
実施例2-固形臓器へのカニューレ挿入および灌流
心臓を、灌流のために脱細胞化装置上に載置した(図1)。下行胸動脈にカニューレ挿入して、逆行冠灌流を可能にした(図1、カニューレA)。胸動脈の枝(例えば、腕頭幹、左総頸動脈、左鎖骨下動脈)を結紮した。肺動脈が、左および右肺動脈に分かれる手前でカニューレ挿入した(図1、カニューレB)。上大静脈にカニューレ挿入した(図1、カニューレC)。この構成により、逆行および順行冠灌流の両方が可能になる。
【0058】
大動脈カニューレ(A)に陽圧をかけると、冠動脈から、毛細血管床、冠静脈系を通り、右心房および上大静脈(C)まで灌流が生じた。上大静脈カニューレ(C)に陽圧をかけると、右心房、冠状静脈洞口、および冠静脈から、毛細血管床を通り、冠動脈および大動脈カニューレ(A)まで灌流が生じた。
【0059】
実施例3-脱細胞化
心臓を脱細胞化装置に載置した後、灌流液1L当たり1〜5mmolのアデノシンを含む冷たいヘパリン化カルシウム非含有リン酸緩衝液で順行灌流を開始し、一定の冠血流を再構築した。冠灌流圧および流量を測定し、冠抵抗を計算することによって、冠血流を評価した。15分間の安定した冠血流後、界面活性剤に基づく脱細胞化プロセスを開始した。
【0060】
手順の詳細を以下に記載する。しかし、簡単に言うと、心臓に界面活性剤を順行灌流させた。灌流後、心臓に緩衝液(例えば、PBS)を逆行性に流すことができる。次いで、心臓に抗生物質を含有するPBSを、その後DNアーゼIを含有するPBSを灌流させた。その後、心臓に1%塩化ベンザルコニウムを灌流させて、微生物汚染を低減し、かつ将来的な微生物汚染を予防し、その後、PBSを灌流して、臓器からあらゆる残存細胞成分、酵素、または界面活性剤を洗い流した。
【0061】
実施例4-死体ラット心臓の脱細胞化
心臓を、8匹の雄ヌードラット(250〜30Og)から単離した。切開直後、大動脈弓にカニューレ挿入し、心臓に表示の界面活性剤を逆行灌流させた。4つの異なる界面活性剤に基づく脱細胞化プロトコル(以下参照)を、(a)細胞成分の除去、ならびに(b)血管構造の保存における実現可能性および有効性について比較した。
【0062】
脱細胞化は、次の工程を一般的に含んでいた。すなわち、固形臓器の安定化、固形臓器の脱細胞化、固形臓器の再生および/または中和、固形臓器の洗浄、臓器上に残存するあらゆるDNAの分解、臓器の消毒、ならびに臓器の恒常性。
【0063】
A)脱細胞化プロトコル#1(PEG)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200ml PBS中で、再循環させずに洗浄した。次いで、35 mlポリエチレングリコール(PEG;1g/ml)で、最長30分間、手動で再循環させながら、心臓を脱細胞化した。次に、500ml PBSで、最長24時間、再循環用のポンプを使用して臓器を洗浄した。洗浄工程は、少なくとも2回、それぞれ少なくとも24時間繰り返した。心臓を、35ml DNアーゼI(70 U/ml)に、手動で再循環させながら、少なくとも1時間晒した。500ml PBSで臓器を再度少なくとも24時間洗浄した。
【0064】
B)脱細胞化プロトコル#2(TritonXおよびトリプシン)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200 ml PBS中で、少なくとも約20分間、再循環させずに洗浄した。次いで、0.05%トリプシンで30分間、その後5%Triton-Xおよび0.1%水酸化アンモニウムを含有する500ml PBSで約6時間灌流して、心臓を脱細胞化した。心臓を、脱イオン水で約1時間灌流した後、PBSで12時間灌流した。次いで、再循環用ポンプを使用して、心臓を、500ml PBSで3回、それぞれ24時間洗浄した。心臓を、35ml DNアーゼI(70U/ml)で手動で再循環させながら1時間灌流し、500ml PBS中で2回、それぞれ少なくとも約24時間、再循環用ポンプを使用して洗浄した。
【0065】
C)脱細胞化プロトコル#3(1%SDS)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200ml PBS中で、少なくとも約20分間、再循環せずに洗浄した。心臓を、1%SDSを含有する500ml水で、少なくとも約6時間、再循環用ポンプを使用して脱細胞化した。次いで、心臓を、脱イオン水で約1時間洗浄し、PBSで約12時間洗浄した。心臓を、500ml PBSで3回、それぞれ少なくとも約24時間、再循環用ポンプを使用して洗浄した。次いで、心臓を、35ml DNアーゼI(70 U/ml)で約1時間、手動で再循環させながら灌流し、500ml PBSで3回、それぞれ少なくとも約24時間、再循環用ポンプを使用して洗浄した。
【0066】
D)脱細胞化プロトコル#4(Triton X)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200 ml PBSで、少なくとも約20分間、再循環させずに洗浄した。次いで、心臓を、5%Triton Xおよび0.1%水酸化アンモニウムを含有する500mlの水で、少なくとも6時間、再循環用ポンプを使用して脱細胞化した。次いで、心臓に、脱イオン水を約1時間灌流させた後、PBSを約12時間灌流させた。心臓を、500ml PBSで3回、それぞれ少なくとも24時間、再循環用ポンプを使用して環流させることにより洗浄した。次いで、心臓に、35ml DNアーゼI(70 U/ml)を約1時間手動で再循環させながら灌流させ、500ml PBSで3回、それぞれ約24時間洗浄した。
【0067】
初期実験について、脱細胞化装置は、層流フード内に設置した。心臓は、60cm H2Oの冠灌流圧で灌流した。必要ではないが、上記実験で記載した心臓は、脱細胞化チャンバ内に載置および完全に沈められて、抗生物質を含有するPBSを、72時間、再循環モードにて5 ml/分の連続流で灌流されて、できるだけ多くの細胞成分および界面活性剤を洗い流した。
【0068】
脱細胞化の成功は、組織学切片における筋フィラメントおよび核の欠如で定義した。血管構造の保存の成功は、組織切片の埋め込み前に、2%エバンスブルーでの灌流により評価した。
【0069】
心臓を、まず脱イオン化H2Oに溶解したイオン性界面活性剤(1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、およそ0.03 M)で一定の冠灌流圧にて順行灌流した後、非イオン性界面活性剤(1%Triton X-100)で順行灌流して、SDSを除去し、おそらく細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を再生したところ、脱細胞化が非常に効率的であった。断続的に、心臓にリン酸緩衝液を逆行灌流させて、閉塞した毛細血管および小血管をきれいにした。
【0070】
実施例5-脱細胞化臓器の評価
脱細胞化後の無傷な血管構造を実証するために、脱細胞化心臓を、エバンスブルーを用いたランゲンドルフ灌流を介して染色し、血管基底膜を染色して、大血管および微小血管密度を定量する。さらに、心臓にポリスチレン粒子を灌流させて、冠容量、すなわち血管漏出のレベルを定量し、冠排液および組織切片を分析することにより灌流の分布を評価することができる。3つの基準の組み合わせを評価して、単離された非脱細胞化心臓と比較する:すなわち、1)ポリスチレン粒子の均等な分布、2)あるレベルの漏出における有意な変化、3)微小血管密度。
【0071】
一軸または二軸応力をかけたサンプルに対してリアルタイムで適用できる、Tower et al.(2002、Fiber alignment imaging during mechanical testing of soft tissues、AnnBiomed Eng.、30(10):1221-33)の偏光顕微鏡技術により、線維の配向を評価する。ランゲンドルフ灌流の間、脱細胞化ECMの基本的な機械的性質(コンプライアンス、弾性、破裂圧力)を記録し、新たに単離した心臓と比較する。
【0072】
セクションB. 脱細胞化(パートII)
実施例1-ラット心臓の脱細胞化
12週齢のF344 Fischer雄ラット(Harlan Labs、PO Box 29176 Indianapolis、IN 46229)に、100mg/kgケタミン(Phoenix Pharmaceutical、Inc.、St. Joseph、MO)および10mg/kgキシラジン(Phoenix Pharmaceutical、Inc.、St. Joseph、MO)の腹腔内注射を使用して麻酔をかけた。左大腿静脈を介した全身ヘパリン化(American Pharmaceutical Partners、Inc.、Schaumberg、IL)の後、胸骨正中切開を行って、心膜を開いた。胸骨後脂肪体を除去し、上行胸部大動脈を切開し、その枝部を結紮した。大静脈および肺静脈、肺動脈および胸部大動脈を離断した後、心臓を胸部から取り出した。プレフィルド1.8 mm大動脈カニューレ(Radnoti Glass、Monrovia、CA)を、上行大動脈に挿入して、逆行冠灌流(ランゲンドルフ)を行った。心臓に、10μMアデノシンを含有するヘパリン化PBS(Hyclone、Logan、UT)を、75cm H2Oの冠灌流圧で15分間灌流させた後、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)または1%ポリエチレングリコール1000(PEG 1000)(EMD Biosciences、La Jolla、Germany)または1%Triton-X 100(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水を2〜15時間灌流させた。この後、15分間の脱イオン水灌流、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水での30分間の灌流を行った。次いで、心臓に、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、および0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))を124時間連続的に灌流させた。
【0073】
1%PEG、1%Triton-X 100、または1%SDSのいずれかでの420分間の逆行灌流の後、PEGおよびTriton-X 100灌流によって浮腫性の不透明な外見が誘発され、SDS灌流はより劇的な変化を生じ、不透明なエレメントがゆっくりと洗い流されるのに伴ってほぼ半透明の移植片を生じた。3つの全てのプロトコルに供した心臓は、極めて無傷なままで、灌流プロトコル(77.4 mmHgの一定の冠灌流圧にて)を通じて冠破裂または大動脈弁不全の兆候はなかった。冠血流は、 3つのプロトコル全てにおいて、灌流の最初の60分間は減少し、SDS灌流の間に正常化し、Triton-X 100およびPEG灌流においては増加したままであった。SDS灌流は、計算した冠抵抗においてもっとも高い初期増加を誘発した(最大250mmHg.s.ml-1)、次いで、Triton-X(最大200mmHg.s.ml-1)およびPEG(最大150mmHg.s.ml-1)が続いた。
【0074】
界面活性剤を灌流させた心臓組織の組織学的切片を使用して、PEGおよびTriton-X 100で処理された心臓の両方において観察時間を通して細胞化が不完全であることが確定された。ヘマトキシリン-エオシン(HE)染色により核および横紋フィラメントが示された。対照的に、SDS灌流心臓の切片において、核または収縮フィラメントは検出されなかった。しかし、SDS処理心臓において、血管構造およびECM線維方向は保存されていた。
【0075】
初期脱細胞化の後にECMからイオン性SDSを除去するために、臓器にTriton-X 100を30分間灌流させた。さらに、全ての界面活性剤を確実に完全に洗い流し、生理学的pHを再度確立するために、脱細胞化臓器に脱イオン水およびPBSを、124時間、広範囲にわたって灌流させた。
【0076】
実施例2-ラット腎臓の脱細胞化
腎臓を単離するために、腹膜内容物全体をウェットガーゼに包み、注意深く横に動かして後腹膜腔を露出した。腸間膜血管を結紮し、離断した。腹部大動脈を結紮し、腎動脈が始まる下で離断した。胸部大動脈を横隔膜のちょうど上で離断し、1.8 mm大動脈カニューレ(Radnoti Glass、Monrovia、CA)を使用してカニューレ挿入した。腎臓を後腹腔から注意深く除去し、滅菌PBS(Hyclone、Logan、UT)に沈めて、腎動脈に対する牽引力を最小限にした。15分間のヘパリン化PBSでの灌流の後、1%SDS(Invitrogen、Carlsbad、CA)含有脱イオン水での2〜16時間の灌流、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水での30分間の灌流を行った。次いで、肝臓を、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))で、124時間、連続的に灌流した。
【0077】
420分間のSDS灌流、そしてその後のTriton-X 100により、無傷血管系および臓器構造を有する完全に脱細胞化腎臓ECM足場が産生された。エバンスブルー灌流により、脱細胞化心臓ECMと同様の無傷血管系を確認した。脱細胞化した腎皮質のモバット・ペンタクローム染色により、無傷の糸球体、ならびに無傷の細胞または核の全くない近位および遠位尿細管基底膜が示された。脱細胞化した腎髄質の染色により、無傷細管および集合管基底膜が示された。脱細胞化した腎皮質のSEMにより、無傷の糸球体および細管基底膜を確認した。糸球体をその周囲の近位および遠位の細管から区別する(delineating) ボーマン嚢、ならびに糸球体内の糸球体毛細血管基底膜等の特徴的な構造は保存されていた。脱細胞化した腎髄質のSEM画像は、腎盂に到達した無傷の延髄錐体を、乳頭へとつながる無傷の集合管基底膜と共に示した。つまり、腎臓の主要な超微細構造は全て、脱細胞化後に無傷であった。
【0078】
実施例3-ラット肺の脱細胞化
(気管を有する)肺を、胸部から注意深く除去し、滅菌PBS(Hyclone、Logan、UT)に沈めて、肺動脈に対する牽引力を最小限にした。15分間のヘパリン化PBS灌流の後、1%SDS(Invitrogen、Carlsbad、CA)含有脱イオン水での2〜12時間の灌流、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水での15分間の灌流を行った。次いで、肺を、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))で、124時間、連続的に灌流した。
【0079】
180分間のSDS灌流と、その後のTriton-X 100灌流により、無傷の気道および管を有する完全に脱細胞化した肺ECM足場が産生された。組織学切片のモバット・ペンタクローム染色により、肺において、コラーゲンおよびエラスチン等の主要構造タンパク質、ならびにプロテオグリカン等の可溶性エレメントも含むECMコンポーネントの存在が示された。しかし、核または無傷細胞は保持されていなかった。気道は、主要気管支から、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管および肺胞まで保存された。肺動脈から毛細血管レベルまでの血管床、および肺静脈は無傷のままであった。脱細胞化した肺のSEM顕微鏡写真により、細胞が保持された兆候はない、気管支、肺胞、および血管基底膜の保存が示された。肺胞間中隔および中隔基底膜に対して主要な構造支持を提供する弾性および細網線維の網は、肺間質内の毛細血管の密なネットワークを含めて無傷であった。
【0080】
脱細胞化した気管のSEM顕微鏡写真により、脱細胞化した硝子軟骨輪、および気道上皮のない粗い内腔基底膜を有する無傷ECM構造が示された。
【0081】
実施例4-ラット肝臓の脱細胞化
肝臓を単離するために、正中開腹により大静脈を露出し、切開し、マウス大動脈カニューレ(Radnoti Glass、Monrovia、CA)を使用してカニューレを挿入した。肝動脈および静脈、ならびに胆管を離断し、肝臓を腹部から注意深く除去し、滅菌PBS(Hyclone、Logan、UT)に沈めて、門脈に対する牽引力を最小限にした。15分間のヘパリン化PBSでの灌流の後、1%SDS(Invitrogen、Carlsbad、CA)含有脱イオン水で2〜12時間、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水で15分間の灌流を行った。次いで、肝臓を、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))で、124時間、連続的に灌流した。
【0082】
120分間のSDS灌流と、その後のTriton-X 100での灌流は、完全に脱細胞化された肝臓を生成するのに十分であった。脱細胞化肝臓のモバット・ペンタクローム染色から、中心静脈、ならびに肝動脈、胆管、および門脈を含む門脈腔を有する特徴的な肝臓編成が保持されていることが確認された。
【0083】
実施例5-脱細胞化臓器を評価するのに使用する方法および材料
組織構造および免疫蛍光.パラフィン包理した脱細胞化組織に対してモバット・ペンタクローム染色を、製造元(American Mastertech Scientific、Lodi、CA) の指示書に従って行った。簡単に言うと、脱パラフィンスライドを、ヴァーヘフ弾性染色法を使用して染色し、濯ぎ、2%塩化第二鉄中で識別し、濯ぎ、5%チオ硫酸ナトリウムに入れ、濯ぎ、3%氷酢酸中でブロッキングし、1%アルシアンブルー溶液中で染色し、濯ぎ、クロセインスカーレット-酸フクシン中で染色し、濯ぎ、1%氷酢酸に浸し、5%リンタングステン酸中で脱染し、1%氷酢酸に浸し、脱水し、アルコールサフラン溶液に入れ、脱水し、載置し、カバーで覆った。
【0084】
脱細胞化した組織に対して免疫蛍光染色を行った。以下のように、パラフィン包理した組織(再細胞化した組織)に対して抗原回復を行ったが、凍結切片(脱細胞化した組織)に対しては行わなかった:すなわち、パラフィン切片からワックスを除去し、キシレンを2回それぞれ5分間交換し、その後連続的なアルコール勾配に供し、冷たい水道流水で濯いで、再水和させた。次いで、スライドを、抗原回復溶液(2.94gクエン酸三ナトリウム、22mlの0.2M塩酸溶液、978ml超純水、pH6.0に調節)に入れ、30分間煮沸した。冷たい水道流水の下で10分間濯いだ後、免疫染色を開始した。凍結切片を、染色する前に、4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)含有1×PBS(Mediatech、Herndon、VA)で15分間、室温にて固定した。スライドを、4%ウシ胎仔血清(FBS;HyClone、Logan、UT)含有1×PBSで、30分間、室温にてブロックした。サンプルを、希釈した一次抗体および二次抗体(Ab)と、1時間、室温にて、連続的にインキュベートした。各工程の間、スライドを1×PBSで3回洗浄した(それぞれ5〜10分間)。コラーゲンI(ヤギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-8788)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、コラーゲンIII(ヤギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-2405)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、フィブロネクチン(ヤギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-6953)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、およびラミニン(ウサギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-20142)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)に対する一次抗体を、ブロッキング緩衝液で1:40希釈して使用した。二次抗体のウシ抗ヤギIgGフィコエリチン(Cat. No. sc-3747、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、およびウシ抗ウサギIgGフィコエリチン(Cat. No. sc-3750、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)を、ブロッキング緩衝液で1:80希釈して使用した。スライドを、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Vectashield、Vector Laboratories、Inc.、Burlingame、CA)を含有する硬化封入培地中で、カバーガラス(Fisherbrand 22 x 60、Pittsburgh、PA)で覆った。ImagePro Plus 4.5.1(Mediacybernetics、Silver Spring、MD)を使用したNikon Eclipse TE200倒立顕微鏡(Fryer Co. Inc.、Huntley、IL)上に、ImagePro Plus 4.5.1(Mediacybernetics、Silver Spring、MD)を使用して画像を記録した。
【0085】
走査型電子顕微鏡. 正常および脱細胞化した組織を、2.5%グルタルアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)含有0.1Mカコジル酸緩衝液(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)で、15分間、灌流固定した。次いで、組織を、0.1 Mカコジル酸緩衝液中で、15分間、2回濯いだ。1%四酸化オスミウム(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)で、60分間後固定を行った。次いで、濃度を上昇させていったEtOH(50%で10分間、70%で10分間を2回、80%で10分間、95%で10分間を2回、100%で10分間を2回)において組織サンプルを脱水した。次いで、組織サンプルを、Tousimis Samdri-780A(Tousimis、Rockville、MD)において臨界点乾燥に供した。Denton DV-502A真空蒸発器(Denton Vacuum、Moorestown、NJ)において、30秒間の金/パラジウムスパッタコーティングによりコーティングを行った。Hitachi S4700電解放射走査型電子顕微鏡(Hitachi High Technologies America、Pleasanton、CA)を使用して、走査型電子顕微鏡画像を撮影した。
【0086】
機械的検査.中心領域がおよそ5 mm×5 mmで、十字(cross)の軸が心臓の周縁および長手方向に方向付くように、心筋組織の十字体(crosses)をラットの左心室から切り出した。組織十字体の初期厚みをマイクロメータで測定したところ、組織十字体の中心において3.59±0.14mmであった。十字体を脱細胞化したラット左心室組織からも、同じ方向および同じ中心領域の大きさで切り出した。脱細胞化サンプルの初期厚みは238.5±38.9μmであった。さらに、フィブリンゲルの機械的性質を検査し、別の組織工学用足場を血管および心臓組織を操作(engineering)するのに使用した。フィブリンゲルを、6.6mgのフィブリン/mlの最終濃度で、十字型鋳型に流し込んだ。フィブリンゲルの平均厚みは、165.2±67.3μmであった。全てのサンプルを、クランプを介して、二軸機械的検査機械(InstronCorporation、Norwood、MA)に取り付け、PBSに沈め、40%の歪みで等二軸に引っ張った。静的かつ受動的な機械的性質を正確に精査するために、サンプルを、4%歪みの増分で引っ張り、それぞれの歪み値において少なくとも60秒間弛緩させた。力値を断面積に対して特定の軸方向(5 mm×初期厚み)に正規化することにより、力を工学的応力に変換した。工学的応力を、初期長さにより正規化された変位(displacement)として計算した。二本の軸間、およびサンプルグループ間のデータを比較するために、接線係数を以下のように計算した:
[T(ε= 40%歪み) - T(ε= 36%歪み)]/4%歪み
式中、Tは工学的応力、およびεは工学的歪みである。接線係数の値を平均化し、二本の軸(周縁および長手)、ならびにグループ間で比較した。
【0087】
実施例6-脱細胞化臓器の生体適合性の評価
生体適合性を評価するために、1ccの標準的な拡張培地(イスコフ改変ダルベッコ培地(Gibco、Carlsbad、CA)、10%ウシ胎仔血清(HyClone、Logan、UT)、100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、2 mmol/L L-グルタミン(Invitrogen、Carlsbad、CA)、0.1mmol/L 2-メルカプトエタノール(Gibco、Carlsbad、CA)に懸濁した100,000のマウス胚幹細胞(mESC)を、ECM切片およびコントロールプレートに、特別な成長因子刺激またはフィーダー細胞支持体無しに播種した。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を、10μg/mlの濃度で細胞培養培地に添加して、細胞核を標識化して、細胞付着および拡張の定量を可能にした。UV光の下での画像、ならびに基準点、24、48 および72時間後の位相差を、Nikon Eclipse TE200倒立顕微鏡(FryerCo. Inc.、Huntley、IL)上にImagePro Plus 4.5.1(Mediacybernetics、Silver Spring、MD)を使用して、記録した。
【0088】
脱細胞化したECMは、細胞生存性、付着および増殖に適合した。播種したmESCは、ECM足場に生着し、細胞播種の72時間以内にマトリックスに侵入し始めた。
【0089】
実施例7-脱細胞化臓器の評価
SDS脱細胞化したラット心臓の大動脈弁能力および冠血管床の完全状態を、2%エバンスブルー染料でのランゲンドルフ灌流により評価した。染料での左心室充満は観察されなかったため、大動脈弁が無傷であることが示された。肉眼的に、染料の漏出の兆候無しに、冠動脈の4つ目の分岐点までの充満を確認した。その後、組織切片において、大きい(150μm)および小さい(20μm)動脈および静脈の灌流を、エバンスブルー染色された血管基底膜の赤色蛍光によって確認した。
【0090】
主要な心臓ECMコンポーネントの保持を確認するために、SDS脱細胞化ECM足場の免疫蛍光染色を行った。これにより、コラーゲンIおよびIII、フィブロネクチン、ならびにラミニン等の主要な心臓ECMコンポーネントの存在を確認したが、心臓ミオシン重鎖またはサルコメアアルファアクチンを含む無傷の核または収縮エレメントが保持された兆候はなかった。
【0091】
SDS脱細胞化心臓ECMの走査型電子顕微鏡写真(SEM)は、組織の厚み全体にわたって細胞が不在である大動脈壁および大動脈弁尖において線維配向および組成が保存されたことを実証した。脱細胞化された左および右の心室壁は、ECM線維組成(織り、筋交い(strut)、巻き(coil))および配向を保持し、筋線維は完全に除去されていた。両方の心室の保持されたECMにおいて、内皮または平滑筋細胞のない異なる直径の無傷血管基底が観察された。さらに、無傷心外膜基底膜の下の高密度の心外膜線維の薄層が保持されていた。
【0092】
脱細胞化心臓組織の機械的性質を評価するために、二軸検査を行い、心臓組織工学において人工ECM足場としてよく使用されるフィブリンゲルと比較した。正常ラット心室および脱細胞化サンプルは、応力歪み挙動に関して高度に異方性であった。逆に、フィブリンゲルサンプルにおいては、応力歪み性質は、2つの主方向(principal directions)間で極めて似ていた。正常ラット心室および脱細胞化グループの全てのサンプルに応力歪み挙動の方向依存性が存在し、応力歪み性質の等方性はフィブリンゲルグループの全てのサンプルに特有のものあった。
【0093】
これらの2つのグループ間で、そして心臓の主軸間でも、応力歪み性質を比較するために、周縁および長手方向の両方において40%歪みで接線係数を計算した(方程式については実施例5を参照のこと)。両方の方向で、脱細胞化サンプルグループが、正常ラット心室およびフィブリンゲルサンプルグループよりも有意に高い係数を有したことに留意されたい。しかし、正常ラット心室および脱細胞化したマトリックスの両方については2つの方向において係数に有意な差があったが、フィブリンゲルについては差はなかった。
【0094】
無傷左心室組織については、40%歪みでの応力は、長手方向では5〜14kPaの範囲、周縁方向では15〜24kPaの範囲で変化し、これは既に公開されているデータと一致する。ラット心室組織および脱細胞化したラット心室組織の両方において、周縁方向は長手方向よりも堅く、十中八九心臓の筋肉線維配向によるものであろう。線維配向は心臓組織の厚みを通じて変化するが、線維の大部分は周縁方向に方向付けられるため、この方向に沿ってより堅いと予想される。脱細胞化組織は、無傷組織よりも顕著に堅かった。これも、細胞外マトリックスが細胞自体よりも堅く、ECMと細胞との組み合わせがECMだけの場合ほど堅そうにないことから予想できる。脱細胞化組織の接線係数の値は比較的大きいように思われるが、精製エラスチンについてのヤング係数の値(およそ600kPa)よりわずかに大きいだけで単一のコラーゲン線維のヤング係数(5 Mpa)よりも小さく、本明細書で決定された値は合理的な範囲内にある。
【0095】
実施例8-その他の臓器または組織の脱細胞化
ラット心臓、肺、腎臓および肝臓に加えて、本明細書に記載の灌流型脱細胞化プロトコルを骨格筋、膵臓、小腸、大腸、食道、胃、脾臓、脳、脊髄および骨に適用した場合にも同様の結果が生じた。
【0096】
実施例9-ブタ腎臓の脱細胞化
ヘパリン化雄動物からブタ腎臓を単離した。単離した臓器を灌流するために、腎動脈にカニューレ挿入し、PBS灌流で15分間にわたり血液を洗い出した。27Lの1%SDS含有脱イオン水での灌流を、35.5時間、50〜100mmHgの圧力下で行った。1%Triton-X-100含有脱イオン水での灌流を開始して、ECM足場からSDSを除去した。その後、脱細胞化腎臓の洗浄および緩衝を、抗生物質含有PBSでの120時間の灌流により行って、界面活性剤を除去し、生体適合性pHを得た。
【0097】
臓器の清浄は、灌流開始から2時間以内で観察された。灌流から12時間後にきれいな白色が現れた。臓器が半透明の白色になったところで脱細胞化を終了した。
【0098】
実施例10-脱細胞化心臓の移植
大動脈弁に対して遠位の大動脈にカニューレ挿入し、肺動脈幹の左枝(分岐の遠位側)、および下大静脈(IVC)以外の全ての他の大管および肺管を結紮することにより、F344ラット由来の心臓を準備した。ランゲンドルフ逆行冠灌流、および2リットルの1%SDSを12〜16時間にわたって使用することにより脱細胞化を成し遂げた。次いで、35mLの1%Triton-X-100で30〜40分間かけて心臓を再生した後、抗生物質および抗真菌剤含有PBSで72時間洗浄した。移植前にIVCを結紮した。
【0099】
脱細胞化心臓を受けるための大きい(380〜400グラム)RNUラットを準備した。鈍角モスキートクランプを、宿主動物のIVCおよび腹部大動脈の両方に適用して、吻合領域の単離を確実にした。脱細胞化心臓の大動脈を、8〜0絹縫合糸を使用して、腎枝部に近位および下に位置する宿主腹部大動脈に吻合した。脱細胞化心臓の肺動脈幹の左枝を宿主IVCの最も近い領域に吻合して、肺動脈幹に対する物理的応力を最小限にした。
【0100】
両方の管を宿主動物内に縫合した後にクランプを放し、脱細胞化心臓を宿主動物の血液で満たした。脱細胞化心臓および大動脈において、レシピエント動物の腹部大動脈圧力を視覚的に観察した。脱細胞化心臓は拡張し、血液で赤くなった。吻合部位における出血は最小限であった。クランプを放した(灌流の開始)3分後にヘパリンを投与し、心臓を撮影し、腹部に配置して、吻合部位に対する応力を最小限にした。滅菌状態で腹部を閉じ、回復について動物をモニタリングした。移植の55時間後、動物を安楽死させ、脱細胞化心臓を外植して観察した。ヘパリンを受けなかった動物は、切開および評価の際にLVにおいて大きな血栓を示した。また、血液が、心臓の左右両側にある冠動脈で観察された。
【0101】
他の移植実験では、両方の管を宿主動物内に縫合した後にクランプを放し、脱細胞化心臓を宿主動物の血液で満たした。脱細胞化心臓および大動脈において、レシピエント動物の腹部大動脈圧力を視覚的に観察した。脱細胞化心臓は拡張し、赤くなり、吻合部位における出血は最小限であった。クランプを放した(灌流の開始)3分後にヘパリンをIP注射により投与した(3000IU)。心臓を撮影し、腹部に配置して、吻合部位に対する応力を最小限にした。滅菌状態で腹部を閉じ、回復について動物をモニタリングした。移植のおよそ48時間後、動物が出血により死亡しているのが発見された。現在のところ、移植時間は55〜70分の範囲である。
【0102】
セクションC.再細胞化
実施例1-心臓ECM薄片の再細胞化
脱細胞化ECMの生体適合性を評価するために、1つの脱細胞化心臓の1mmの厚みの薄片を、筋原および内皮細胞系と共に培養した。2×105ラット骨格筋芽細胞、C2C12マウス筋芽細胞、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)、およびウシ肺内皮細胞(BPEC)を、組織切片上に播種し、標準的な条件下で7日間共培養した。筋原細胞は、ECM内を移動および拡大し、元の線維配向と整列した。これらの筋原細胞は、増殖の増加を示し、ECM薄片の大部分に完全に再集合した。内皮細胞系は、湿潤性成長がより少ないパターンを示し、移植片表面上に単層を形成した。これらの条件下では、検出可能な抗増殖性効果は見とめられなかった。
【0103】
実施例2-冠灌流による心臓ECMの再細胞化
冠灌流によって脱細胞化心臓ECM上および中に再生細胞を播種する効率を決定するために、脱細胞化心臓を臓器チャンバに移し、細胞培養条件(5%CO2、60%湿度、37℃)下で酸素処理した細胞培養培地で連続的に灌流した。120×106PKH-標識化HUVEC(50mlの内皮細胞成長培地に懸濁)を、40cm H2O冠灌流圧で注入した。冠排液を保存し、細胞を数えた。その後、排液を再循環させ、再度灌流させて、最大数の細胞を送達した。再循環を2回繰り返した。三度目の継代の後、およそ9O×106細胞が心臓内で保持されていた。心臓を、500mlの再循環している酸素処理された内皮細胞培養培地で、120時間、連続的に灌流した。その後、心臓を取り出し、低温切開のために包埋した。HUVECは、心臓全体の動脈および静脈残渣(residues)に制約したが、血管外ECMにいまだ完全に分散していなかった。
【0104】
実施例3-新生仔ラット心臓細胞を用いた脱細胞化ラット心臓の再細胞化
ラット新生仔心臓細胞の単離および調製. 1日目に、8〜10匹の1〜3日齢のSPF Fisher-344新生仔ラット(Harlan Labs、Indianapolis、IN)を5%吸入イソフルレン(Abbott Laboratories、NorthChicago、IL)で沈静状態にし、70%EtOHを噴霧し、すばやく胸骨正中切開を滅菌状態で行った。心臓を切除し、すぐに、HBSS(新生仔心筋細胞単離系由来の試薬#1(Worthington Biochemical Corporation、Lakewood、NJ))を含む氷上の50ml円錐管に入れた。上清を除去し、激しく旋回することにより冷たいHBSSで全心臓を1回洗浄した。心臓を5mlの冷たいHBSSを含む100 mm培養皿に移し、結合組織を除去し、残った組織を細かく刻んだ(<1mm2)。追加のHBSSを添加して、合計プレート容量を9mlにし、これに1mlトリプシン(試薬#2、Worthington kit)を添加して、50μg/mlの最終濃度を得た。プレートを、5℃クーラー内で一晩インキュベートした。
【0105】
2日目に、プレートをクーラーから出し、氷上の滅菌フードに入れた。組織およびトリプシン含有緩衝液を、広口ピペットを用いて氷上の50ml円錐管に移した。トリプシン阻害剤(試薬#3)を1ml HBSS(試薬#1)で再構成し、50 ml円錐管に添加し、静かに混合した。液体の表面上に空気をかけて、組織を60〜90秒間酸素処理した。その後、組織を37℃まで温め、5 mlリーボビッツL-15で再構成したコラゲナーゼ(300ユニット/ml)をゆっくりと添加した。組織を温かい(37℃)攪拌器バスに45分間入れた。次に、組織を10mlピペットを用いて10回滴定して、細胞を遊離させた後(3ml/秒)、 0.22μmフィルターで漉した。追加の5mlのL-15培地で組織を洗浄し、二度目の滴定を行い、同じ50ml円錐管に回収した。その後、細胞の溶液を、室温にて20分間インキュベートし、50×gで5分間回転させて、細胞をペレット化した。上清を穏やかに除去し、新生仔心筋細胞培地を使用して、細胞を再懸濁して、所望の容量にした。
【0106】
培地および溶液.全ての培地は滅菌フィルター処理し、暗所で5℃クーラー内で保管した。Worthington単離キットは、推奨されている培養培地であるリーボビッツL-15を含む。この培地は、2日目の組織処理のみに使用した。プレート化のために、本明細書に記載する代替カルシウム含有培地を使用した。ワージントンリーボビッツL-15培地:リーボビッツ培地粉末を、1L細胞培養等級水を使用して再構成した。リーボビッツL-15培地は、140mg/ml CaCl、93.68mg/ml MgCl、および97.67mg/ml MgSを含む。新生仔心筋細胞培地:イスコフ改変ダルベッコ培地(Gibco、Cat. No. 12440-053)に、10%ウシ胎仔血清(HyClone)、100U/mlペニシリン-G(Gibco)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco)、2mmol/L L-グルタミン(Invitrogen)、および0.1mmol/L 2-メルカプトエタノール(Gibco、Cat. No. 21985-023) を補い、使用前に滅菌フィルターで処理した。アンホテリシン-Bを必要に応じて添加した(0.25μg/ml最終濃度)。この培地を、1.2mM CaCl(Fisher Scientific、Cat. No.C614-500)、および0.8mM MgCl(Sigma、Cat. No. M-0250)で増強した。
【0107】
再細胞化のインビトロ培養分析.生体人工心臓を作製するための工程として、単離されたECMを新生仔心臓由来細胞で再細胞化した。完全に脱細胞化心臓(本明細書に記載のように作製)に、50×106の新たに単離したラット新生仔心筋細胞、線維芽細胞、内皮および平滑筋細胞の組み合わせを注射した。次いで、心臓組織を薄片にし、薄片をインビトロで培養して、脱細胞化ECMの生体適合性、および得られる構造物が心筋輪(myocardium ring)に発達する能力を検査した。
【0108】
得られた輪における最小の収縮を、24時間後に顕微鏡で観察したところ、移植された細胞が、脱細胞化ECMに付着および生着できることが実証された。顕微鏡では、細胞はECM線維方向に沿って配向されていた。免疫蛍光染色によって、心臓ミオシン重鎖を発現している心筋細胞の生存および生着が確認された。4日以内に、脱細胞化したマトリックス上に収縮細胞パッチのクラスタが観察され、これは8日目に同期的に収縮する組織輪(tissue ring)に発達した。
【0109】
10日目に、これらの輪を2本のロッドの間に載置して、異なる前負荷条件下で収縮力を測定した。輪は最大4Hzの周波数まで電気的にペースアップすることができ、最大0.65gの前負荷において最大3mNの収縮力を生じた。従って、この再細胞化のインビトロ組織培養アプローチによれば、人工ECM構造物を用いて最適化かつ操作された心臓組織輪により生成されるものと同等の有効な力を生成する収縮組織が得られた。
【0110】
灌流を介した脱細胞化心臓の再細胞化. 再細胞化(50×106の新たに単離されたラット新生仔心筋細胞、線維芽細胞、内皮および平滑筋細胞)足場を、前負荷および後負荷を徐々に増加した拍動左心室拡張(1日目:前負荷4〜12mmHg、後負荷3〜7mmHg)、拍動冠血流(1日目:7ml/分)、ならびに滅菌心臓組織培養条件(5%CO2、60%H2O、37℃)下での電気刺激(2日目:1Hz)を含むラット心臓生理を模した灌流可能なバイオリアクター(n=10)に載置した。灌流した臓器培養物を1〜4週間維持した。圧力、流量およびEKGを、培養期間全体を通じて、15分毎に30秒間記録した。発生期生体人工心臓の映像を、細胞播種から4、6および10日目に記録した。
【0111】
細胞播種の10日後に、左心室へ圧力プローブを挿入して左心室内圧(LVP)を記録し、刺激周波数を0.1Hzから10Hzに徐々に上げながら壁運動を映像記録し、フェニレフリン(PE)での薬理学的刺激を行うことを含めて、さらに徹底的な機能性評価を行った。再細胞化心臓は、単発ペース(single pace)に収縮応答を示し、ペース(paced)収縮の後に自然発生的な収縮を示し、これに対応してLVPが上昇した。単発ペースの後、心臓は3回の自然発生的な収縮を示し、細動状態に転向した。促進された収縮と同様に、自然発生的な脱分極がLVPにおいて対応する上昇、および記録可能なQRS群を生じ、おそらく発展中の(developing)安定した伝導パターンの形成を示していた。
【0112】
いったん刺激周波数を0.4Hzまで上昇させると、誘発された収縮の後に平均で2回の自然発生的な収縮が生じた。最大1Hzのペース周波数では、1回の自然発生的な収縮しか起きなかった。5Hzのペース周波数では、自然発生的な収縮は起きなかった。最大捕捉率は5Hzであり、これは、成熟心筋についての250msの不応期と一致する。100μMのPEでの灌流後、1.7Hzの周波数で通常の自然発生的な脱分極が生じ、LVPの対応する上昇と関連付けられた。
【0113】
10日目の組織学的分析で、左心室壁(0.5〜1.2mm)の厚み全体にわたる細胞の分散および生着が明らかになった。心筋細胞は、心室線維方向に沿って整列し、成熟心筋に似た高密度で組織化された移植片、および発達中の心筋に似た密度がより低い未熟移植片の領域を形成した。心臓ミオシン重鎖についての免疫蛍光染色により、心筋細胞表現型を確認した。新たに発達した心筋にわたって高い毛細血管密度が維持されており、毛細血管の間の平均距離はおよそ20μmであり、これは成熟ラット心筋について報告されているものと同様であった。フォン・ヴィレブランド因子(vWF: von Willebrand factor)についての免疫蛍光染色により、内皮細胞表現型を確認した。移植片厚み全体にわたり細胞生存性が維持されており、冠灌流を通じて十分な酸素および栄養素供給を示した。
【0114】
セクションD.追加の脱細胞化および再細胞化
実施例1-ラット肝臓単離手順
体重1kg当たり75mgのケタミン、および体重1kg当たり10mgのキシラジンで、各ラットを麻酔した。ラットの腹部を剃り、ベタジンで滅菌した。ラットに大用量のナトリウムヘパリン(体重100g当たり100μL ヘパリン(1,000UI/mLストック))を、胃内静脈に静脈内投与した。
【0115】
ヘパリンが効果を発揮している間、バイオリアクターフラスコを組み立てた。簡単に言うと、タイゴンチューブを250mLフラスコに取り付け(ベースの側面に接続させ)、低減配管アダプターを(以下に記載する洗浄工程の間に排口として作用する)配管に取り付けた。ヘパリンが効果を発揮している間、ゴムストッパーを有するカテーテルを組み立てた;すなわち、12ccの注射器をPBSで満たし、3方向止水栓を注射器に取り付けた。18ゲージ針を注射器に取り付けて、No.8ゴムストッパーに押し通した。肝臓が管の中で確実に平らになるように、針をストッパーの底に対して平坦に維持することが好ましい。溶融フランジを有する短いポリエチレン配管(例えば、PE160)を、アルコール滅菌した後に、配管の自由端に滑り込ませた。少量のPBSをカテーテルに押し通して、アルコールを流し、10cmの ペトリ皿を、単離した肝臓を覆うのに十分なPBSで満たした。
【0116】
ヘパリンを循環させた後、腹部皮膚を切断し、下にある腹部筋肉を晒した。半開腹(mid-laparotomy)を行った後、側面の横断切開または腹部壁に沿った正中切開を行い、引っ張って肝臓を晒した。肝臓を十二指腸、胃、横隔膜、および前腹部壁に付着させる靭帯は、やさしく(グリソン嚢は脆弱である)切り取った。一般的な胆管、肝動脈、および門脈を切り、カテーテルを挿入するのに十分な長さを残し、最終的に、肝上の下大静脈を切断した。残った付着肝上の下大静脈をしっかり捕捉しながら肝臓を取り除き、肝臓を、PBSを含有するペトリ皿に入れた。残った靭帯は全て切除した。
【0117】
実施例2-肝臓の脱細胞化
準備したカテーテルを門脈に挿入し、プロリン(proline)縫合糸で結紮した。ラインの完全性を検証し、注射器に入ったPBS(Mg+2およびCa+2は含まない)を使用した灌流によって、肝臓から潜血を除去した。肝臓ゴムストッパーをバイオリアクターにはめた。フラスコを回収リザーバーの上に配置し、十分な長さのラインを介して1%SDS(1.6L)のコンテナを取り付けて、およそ20mm Hgの最大圧力を生成するカラムを作製した。2〜4時間の灌流の後、1%SDSのコンテナを空にし、追加の1.6Lの1%SDSで再度満たした。合計4つの1.6Lの1%SDSバッチを典型的に使用して、肝臓を灌流した。脱細胞化の後、肝臓の外見はきれいな白色であり、脈管が見えた。
【0118】
2日目に、SDSリザーバーを外し、dH2Oで満たした60ml 注射器に置き換えた。水で濯いだ後に、60mLの1%Triton X-100、その後、さらにdH2Oを含む60mLの洗浄液が続いた。濯いだ肝臓は洗浄のために配置され、小さいポンプ(Masterflex、約1.5 mL/分である50%の最大容量)を使用して抗菌剤(例えば、ペニシリン-ストレプトマイシン(例えば、Pen-Strep(登録商標)))を含むPBSで灌流を開始した。タイゴンチューブをバイオリアクター/フラスコ排口からPBS リザーバーまで延ばした。ポンプから、フラスコ上の3方向止水栓に取り付けた0.8ミクロンフィルター まで配管を延ばした。18ゲージ注射針を、PBSリザーバー内の配管に取り付けて、導入ラインよりも低く保った。6時間後、洗浄液を、1×濃度の新たなPBS w/Pen-Strepで置き換え、0.8ミクロンフィルターを交換し、臓器を一晩洗浄した。
【0119】
3日目に、1×濃度の500mlのPBS w/Pen-Strepをさらに2回交換して洗浄を続けた。PBSを交換するたびに、0.8ミクロンフィルターを交換した。3回目の洗浄は朝に開始し、6時間後に交換し、最終的な洗浄を再び一晩続行した。4日目に、再細胞化のための肝臓の準備が整っていた。
【0120】
1.6Lの1%SDSで2回洗浄した肝臓には平均で14.27%のDNAが残存しており、1.6Lの1%SDSで4回洗浄した肝臓は平均で5.36%のDNAが残存していた。つまり、1%SDSでの2回の洗浄は(死体と比べて)約86%のDNAを除去し、1%SDSでの4回の洗浄は(死体と比べて)約95%のDNAを除去した。
【0121】
図3Aは、ラット肝臓およびラット腎臓の脱細胞化を示し、図3Bはラット心臓およびラット肺の脱細胞化を示す。真ん中の部分は脱細胞化が進行中の写真を含み、左右の写真は脱細胞化臓器のSEM 画像である。図4は、染料で灌流している脱細胞化したブタ腎臓およびラット腎臓を示し、また脱細胞化腎臓の糸球体および細管のEM写真も示す。図5は、本明細書に記載したように脱細胞化したラット死体の全体を示す。
【0122】
実施例3-肝臓の再細胞化
温めた培地(37℃)に細胞(4000万個の初代肝臓由来細胞またはHepG2ヒト細胞)を、1ミリリットル当たり約800万細胞(典型的に5mL)で懸濁し、注射針に投入することによって再細胞化を行った。門脈を介して細胞を注入し、その間、肝臓はバイオリアクター内またはペトリ皿内に入れた。追加的または代替的に、細胞は、任意の他の血管アクセスを介して注入されるか、または実質に直接注射され得ることに留意されたい。
【0123】
初代肝臓由来細胞は、ワージントン酵素解離キットを使用した、成体ラット肝臓の酵素的消化により得た。簡単に言うと、ラットから取り除く前に、ラット肝臓に、カルシウムおよびマグネシウムを含まない1×のハンクス平衡塩溶液(キットバイアル#1)を10分間、門脈を介して20ml/分で灌流させた。次に、肝臓に、キットバイアル#2および#3から得たMOPS緩衝液含有酵素(コラゲナーゼ(22,500ユニット)、エラスターゼ(30ユニット)、およびDNアーゼI(1,000ユニット))を有する100mLのL-15を、10〜15分間、20 mL/分で再循環させた。この後、臓器の機械的破壊を行って細胞を遊離させた。再細胞化のために使用する前に、細胞を、100gにて遠心分離し、培養培地に2回再懸濁させた。
【0124】
プロセスの間に観察される視覚的合図(例えば、灌流する肝葉の張力、肝臓からの細胞エスケープ、および標的肝葉にわたる細胞分布)に基づいて、灌流の速度を制御した。再細胞化の後、バイオリアクター内の肝臓を、37℃および5%CO2のインキュベーターに入れた。酸素処理した培地リザーバー(50mLの培地を含む)を取り付け、加湿カルボゲン(95%酸素、5%二酸化炭素)でリザーバー内の培地を泡立てた。蠕動ポンプを使用して、2〜10mL/分の範囲の速度で、培地(37℃)を肝臓に再循環させた。培地を7日間毎日交換して、再細胞化ラット肝臓を維持した(ただし、都合の良いときに実験は終了した)。培地はサンプルであり、毎日の交換の間-2O℃にて保管されて、アルブミンおよび尿素を測定した。7日目、シトクロムP-450アッセイを行った。
【0125】
図6は、脱細胞化したラット肝臓の再細胞化を示す。門脈カテーテルを介して注射針を単一葉に入れて、初代肝細胞を注射した。図7は、初代ラット肝細胞の、脱細胞化したラット肝臓の尾状葉(A)または下/上右側葉(B)への標的送達を示す。
【0126】
図8は、1週間培養した再細胞化したラット肝臓の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す。これらのデータは、微小構造レベルでの死体肝臓と再細胞化肝臓との類似性を示す。細胞をマトリックス床に取り込み、新たに単離した死体組織におけるものと同様の形状を有していた。図9はマッソントリクローム(A)およびHE(B)染色を示し、図10AはTUNEL分析を示し、図10Bは尾状突起にラット肝細胞を注射してから1週間後の再細胞化したラット肝臓マッソントリクローム染色を示す。これらの結果は、肝細胞が送達可能で、マトリックスに保持され、栄養素の灌流によって生存可能なままで維持されることを実証している。.
【0127】
図11は、尾状突起(A)または上/下右側葉(B)にヒト肝細胞系(HepG2)を注射して1週間後の再細胞化ラット肝臓のマッソントリクローム染色を示す。図12は、初代ラット肝細胞(1〜6)およびヒトHepG2細胞系(7および8)の細胞保持を示すグラフである。肝臓に灌流された細胞の合計数について注射前に細胞を数え、マトリックスを通り過ぎて最終的にペトリ皿に流れた非付着細胞を数えた。この差はマトリックスに保持された細胞を表す。図13は、脱細胞化したラット肝臓に注射した後に、ヒトHepG2細胞が生存可能で、増殖することを示すグラフである。
【0128】
実施例4-肝臓機能
脱細胞化および再細胞化肝臓の機能を以下のように評価した。初代ラット肝細胞で再細胞化した肝臓における、尿素生成(図14)、アルブミン生成(図15)、およびシトクロムP-450IAI(エトキシレゾルフィン-O-デエチラーゼ(EROD))活性(図16)を評価した。尿素生成はベルトロー(Berthelot)/比色分析アッセイキット(Pointe Scientific Inc.)を用いて決定し、アルブミン生成およびEROD活性については、Culture of Cells for Tissue Engineering (Vunjak-Novakovic & Freshney、eds.、2006、Wiley-Liss)から適応させた方法を用いてアッセイした。これらの実験は、培養期間の間、肝臓由来細胞が、肝臓に特異的な機能性を保持することを実証した。
【0129】
実施例5-再細胞化後の細胞生存性
図17は、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で少なくとも3週間、胎仔および成体由来の幹細胞/始原細胞が増殖したことを示すグラフである。細胞の増殖は、高倍率視野ごとの核DAPI染色の数を数えることにより決定した。図18は、マウス胚幹細胞(mESC)および増殖している成体筋肉始原細胞(骨格筋芽細胞;SKMB)が、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で生存可能であったことを示すグラフである。細胞の生存性は、tunnelアッセイを用いて、3週間後のアポトーシスの程度、対、DAPI染色細胞核の合計数を検出することにより決定した。
【0130】
ヒト胚幹(ES)細胞およびヒト由来多能性幹(iPS)細胞は、脱細胞化心臓マトリックス上で少なくとも1週間増殖した。簡単に言うと、ヒトES細胞(WiCeIl Research Instituteから得たH9;National Stem Cell Bank(NSCB)から得たWA09)と、ヒトiPS細胞のIMR90サブクローン(Zhang et al.、2009、Circ. Res.、104:e30-e41に記載されるようにOCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28レンチウイルス導入遺伝子を用いて生成され、University of WisconsinのTimothy Kamp博士から得た)とを、脱細胞化したマトリックス上で比較した。増殖中の線維芽細胞の中に20〜50%の心臓細胞を含むH9細胞およびiPS細胞、ならびにその他の鼓動していない細胞を、単離されてマトリックスの内部を晒されたラット脱細胞化心臓マトリックスのチャンバ特異的(右または左の心房または心室)部分を含むウェルに、それぞれ200,000細胞および90,000細胞の密度でプレート化した。細胞は、単純に脱細胞化したマトリックス上に堆積させた。細胞は、20%血清を含む培地中で3日間増殖させ、その後4日間は血清を2%まで低くして、増殖中の筋肉細胞が鼓動する筋細胞表現型にインビトロで「シフト」することと一致させた。コントロール細胞を、ゼラチン(0.1%)でコーティングした同一のウェルにプレート化し、同一の条件したで増殖させた。細胞をEB20培地で増殖させた。培養物を顕微鏡で毎日評価し、鼓動を打つ細胞はビデオカメラで記録した。1週間培養した後、生/死アッセイを行って、細胞生存性を検査した。さらに、免疫組織化学法を行って、心臓関連タンパク質の存在を実証した。脱細胞化したマトリックス上で増殖した細胞は3〜4日目で鼓動するのが観察されたが、ゼラチン上の細胞は鼓動しなかった。5日目には、マトリックス上の細胞が拡大し、より大きい領域で鼓動する細胞が観察された。同一の条件でゼラチン上で増殖した細胞上では、鼓動は、わずかであるか、または存在しなかった。
【0131】
実施例6-再細胞化プロセス
細胞の単離
ワージントンプロトコルを使用し、心臓のほぼ真ん中で切ることにより、仔ラット由来のLVおよびRVを単離した。基部から第2のLAD枝部までの領域を捨て、残りを約10mLのHBSSに入れた。任意に、心臓のLVおよびRV部分を、トリプシン中で、最長18〜22時間、5℃にて一晩インキュベートしてもよい。脱細胞化したマトリックスに注射するために細胞を注射器に引き上げた後、残った細胞をコントロールとして使用した(例えば、10mL培地を添加して、細胞をプレート化した)。
【0132】
細胞外マトリックス
よく洗浄した脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)を得た。例えば、心臓細胞外マトリックスを、最低2000mLのPBS溶液を用いて3〜4日間洗浄した。18 ga.カニューレ(IN:LVを通る僧帽弁;OUT:大動脈)を使用して心臓にカニューレ挿入し、4-0縫合糸を用いて固定した。LVカニューレは、LV内腔内にある先端付近まで進めた(例えば、LVカニューレの先端は僧帽弁から約0.7cmのところにあった)。漏出がないか、構造をチェックした。任意に、25〜28mL/分の[心臓前(pre-heart)]流れプローブ範囲で少なくとも5〜10秒間、ポンプを開始することにより「高速」テストを行って、細胞を導入する前にしっかりとしたECM接続を確実にすることができる。
【0133】
細胞注射
100〜120mLの培地バイオリアクターに入れ、60mm培養プレートを心臓の先端の下に配置して、余剰細胞を受け、冠閉塞を回避し、かつ変異細胞からのアポトーシスシグナル伝達を回避した。27gaの針、および1ccのTB注射器を使用して細胞を注射した。およそ一回の注射当たりに70μLの細胞を心室壁に注射し、針の進入角度は垂線(normal)に対して15度であった。前方LV壁に10〜12回、心臓の先端に3〜4回、細胞を注射した。注射した細胞の合計容量は、約1.3〜1.5mLであるはずである。いくらかの逆流および細胞の欠失は予想される。心臓をバイオリアクター内に下ろし、ポンプおよびタンク(95%O2および5%CO2)を作動させ、漏出、流れの問題、およびその他のあらゆる技術的な問題について心臓をモニタリングした。翌日、リアクターを開け、ペース線を取り付けた。周波数:1 Hz;遅延:170 MS;持続時間:6 MS;電圧範囲:45〜60V;流速(IN):18〜22mL/分;流速(OUT):14〜18mL/分;差、約6〜7 mL/分で、ペース(連続的)を開始した。
【0134】
培地
以下のレシピは1リットルのものである。IMDMに、100mL FBS10%;5 mL Pen Strep;10 mL L-Glut;168μL Amp-B;1mLB-Mercap;20mLウマ血清;180mgCa2+;96mg Mg2+;および50mgビタミンCを添加する。
【0135】
NNCM(NEO)細胞
新生仔心筋細胞(NNCMまたはNEO細胞)をワージントンキットプレップから得た。NEO細胞は温度感受性であった。約35℃まで落ちると、同じように鼓動しなくなった。NEO細胞は、コンフルエントではないものの、24時間以内に2Dプレート上で鼓動を開始した。NEO細胞が増殖し一緒に鼓動し始めると、互いの上で増殖し、同期して鼓動し始める。最終的に、細胞は自らを機械的に制限し、通常10〜16日目で鼓動を止める。
【0136】
実施例7-死体臓器での脱細胞化および再細胞化臓器の構造比較
図19は、脱細胞化心臓(右パネル)および死体心臓(左パネル)のSEM写真である。SEM写真は、左心室(LV)および右心室(RV)の両方について得た。写真から分かるように、灌流型脱細胞化心臓は、細胞成分を欠くが、脈管を含めて、無傷の心筋の空間的および構造的特徴を保持する。さらに、灌流型脱細胞化したマトリックスにおいて、細胞が完全に失われたにも関わらず、織り(w)、巻き(c)および筋交い(s)を含む構造的特徴が保持されているのを見ることができる。
【0137】
図20は、本明細書に記載するように脱細胞化および再細胞化したラット肝臓(右パネル)の組織学(上部)およびSEM(下部)比較を、死体ラット肝臓(左パネル)と比較して示す。これらの結果は、無傷肝臓由来の健康な肝細胞と、脱細胞化肝臓上で培養または播種された肝細胞との、形態的な類似性および構造編成を示す。HE画像は、再細胞化肝臓内の細胞が、脈管の周りで放射状に編成し始めたことを示し、これは新たに単離された健康な(死体)肝臓において見とめられる構造に類似している。細胞が実質全体に分布および/または実質全体を移動し、編成し始め、実験が続く限りマトリックス内に維持されることも示されている。SEM画像は、微小構造レベルにおいてさえも、死体および再細胞化マトリックスの細胞編成が類似していることを実証している。
【0138】
セクションE.灌流型、対、浸漬型の脱細胞化
実施例1-浸漬を用いた脱細胞化
本明細書に記載の灌流方法を用いて臓器(ラット肝臓、腎臓、心臓、肺、筋肉、皮膚、骨、脳、および血管系;ブタ肝臓、胆嚢、腎臓、および心臓)を脱細胞化した。
【0139】
米国特許第6,753,181号および同第6,376,244号に記載の浸漬方法を使用して、臓器(ラット肝臓、心臓 および腎臓)を脱細胞化した。簡単に言うと、臓器をdH2Oに入れ、100rpmで回転する磁気攪拌バーで、48時間、4℃にて攪拌した後、臓器を水酸化アンモニウム(0.05%)およびTriton X-100(0.5%)溶液に移して、48時間、続けて磁気攪拌バー(100 rpm)で溶液を攪拌する。溶液を交換し、水酸化アンモニウムおよびTriton X-100での48時間浸漬を、臓器を脱細胞化するの(通常、視覚的に無細胞の臓器)に必要なだけ繰り返す。この肝臓は、視覚的に無細胞の臓器を生成するのに、水酸化アンモニウムおよびTriton X-100をおよそ5回繰り返した。脱細胞化プロセスの後、臓器をdH2O に移して、48時間、攪拌し(同じく100rpmにて攪拌)、最後に、40℃のPBSで攪拌しながら最終的な洗浄を行う。
【0140】
実施例2-灌流型、対、浸漬型の比較
図21Aは、灌流型脱細胞化したブタ肝臓写真を示し、図21Bおよび21Cはそれぞれ、灌流型脱細胞化したブタ肝臓の管および実質性マトリックスのSEMを示す。これらの写真は、灌流型脱細胞化臓器の脈管およびマトリックスの完全性を示す。他方で、図22は、浸漬型脱細胞化したラット肝臓の全体図を示し、この場合には、低倍率(左)および高倍率(右)の両方においてマトリックスのほころびが見られる。
【0141】
図23は、浸漬型脱細胞化ラット肝臓(AおよびB)、ならびに灌流型脱細胞化ラット肝臓(CおよびD)ののSEMを示す。これらの結果は、浸漬型脱細胞化が臓器嚢(グリソン嚢)を有意に損ない、灌流型脱細胞化が嚢を保持したことをはっきりと示している。さらに、図24は、浸漬型脱細胞化肝臓(A、HE染色;B、トリクローム染色)、および灌流型脱細胞化肝臓(C、HE染色;D、トリクローム染色)の組織構造を示す。浸漬型脱細胞化したラット肝臓は、注射の際に細胞または染料を保持しなかった。
【0142】
図25は、ラット心臓の浸漬型脱細胞化(上段)と灌流型脱細胞化(下段)との比較を示す。左欄の写真は全臓器を示す。2枚の写真から分かるように、灌流型脱細胞化臓器(左下)は、浸漬型脱細胞化臓器(左上)よりもはるかに半透明であり、この浸漬型脱細胞化臓器は死体筋肉組織の鉄が豊富な「赤茶色」を保持し、まだ細胞を含んでいるように見える。中央欄にある写真は、脱細胞化した組織のHE染色パターンを示す。染色から、浸漬型脱細胞化(中央上)の後では、血管系の実質および壁の両方において多数の細胞が残っていることが示されている一方で、灌流型脱細胞化(中央下)の後(本発明の脈管)では、事実上全ての細胞および細胞残屑が除去されていることが明らかである。さらに、右欄の走査型電子顕微鏡写真は、浸漬型(右上)対灌流型(右下)の脱細胞化ではマトリックスの超微細構造において有意な差があることを示している。ここでも、心筋の断片全体にわたる細胞成分の完全な保持が、浸漬型脱細胞化心臓の全ての壁において観察されたが、灌流型脱細胞化心臓においてはこれらの細胞成分がほぼ完全に欠如しているのが、脈管を含む無傷心筋の空間的および構造的特徴の保持と共に観察された。例えば、灌流型脱細胞化したマトリックスは、細胞を完全に失ったにも関わらず、織り(w)、巻き(c)および筋交い(s)を含む構造的特徴を、マトリックス内に保持していた。
【0143】
図26は、ラット腎臓を用いて行った同様の比較(浸漬型脱細胞化(上段)、対、灌流型脱細胞化(下段))を示す。心臓とは異なり、両方とも相当に半透明である点で、浸漬型脱細胞化した全腎臓(左上)は、灌流型脱細胞化した全腎臓(左下)に極めて似ている。しかし、灌流型脱細胞化腎臓においては、灌流型脱細胞化臓器内の脈管のネットワークがより明確で、浸漬型脱細胞化構築物よりも枝部が高い程度で目に見える。さらに、灌流型脱細胞化腎臓は無傷の臓器嚢を保持し、腸間膜に囲まれ、図示するように付随する副腎と共に脱細胞化され得る。真ん中の欄にある写真は、2つの組織のHE染色パターンを示す。染色から、浸漬型脱細胞化(中央上)の後では、細胞成分および/または残屑、またおそらく無傷の核(紫の染色)までも残ることが示されている一方で、灌流型脱細胞化(中央下)の後では、事実上全ての細胞および/または全ての細胞残屑が除去されることが示されている。同様に、SEM写真も、灌流型脱細胞化腎臓マトリックス(右下)が受けた損傷よりも、浸漬型脱細胞化腎臓マトリックス(右上)の方がより多くの損傷を受けたことを実証している。浸漬型脱細胞化腎臓においては、臓器嚢が欠如しているかまたは損傷を受けているため、表面の「穴」またはほころびが明らかな一方で、灌流型脱細胞化臓器では嚢は無傷である。
【0144】
図27は、脱細胞化腎臓のSEM写真を示す。図27Aは灌流型脱細胞化腎臓を示し、図27Bは浸漬型脱細胞化腎臓を示す。図28Aは灌流型脱細胞化心臓のSEM写真を示し、図28Bは浸漬型脱細胞化心臓のSEM写真を示す。図29は浸漬型脱細胞化肝臓のSEM写真を示す。さらに、これらの画像は、浸漬型脱細胞化が臓器の超微細構造にもたらす損傷、および灌流型脱細胞化後のマトリックスの利用可能性を実証している。
【0145】
その他の態様
本発明は、詳細な説明と併せて説明してきたが、上記説明は、例示することを意図したものであり、添付の請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。その他の局面、利点、および改変は、以下の請求の範囲内にある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器および組織に関し、特に臓器および組織を脱細胞化および再細胞化する方法および材料に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
組織工学および再生のために、生物学的に誘導されたたマトリックス開発されてきた。しかし、これまで開発されてきたマトリックスは、概して、マトリックス構造が損なわれ、および/または臓器または組織を有効に再構成させる血管床を示さない。本開示は、臓器および組織の脱細胞化および再細胞化の方法を記載する。
【発明の概要】
【0003】
概要
本開示は、臓器または組織を脱細胞化するための方法および材料、ならびに脱細胞化臓器または組織を再細胞化するための方法および材料を提供する。
【0004】
一つの局面においては、脱細胞化した哺乳動物心臓を提供する。脱細胞化した哺乳動物心臓としては、外面を有する心臓の脱細胞化した細胞外マトリックスが含まれる。脱細胞化心臓の細胞外マトリックスは、脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、細胞外マトリックスの外面は実質的に無傷である。
【0005】
代表的な心臓としては、齧歯動物心臓、ブタ心臓、ウサギ心臓、ウシ心臓、ヒツジ心臓、またはイヌ心臓が挙げられるがこれらに限定されない。別の代表的な心臓として、ヒト心臓が挙げられる。脱細胞化心臓は死体であってもよい。一部の態様においては、脱細胞化心臓は、心臓全体の一部である。例えば、心臓全体の一部としては、心臓パッチ、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、右心房、左心房、右心室、左心室、中隔(septum)、冠血管系、肺動脈、または肺静脈を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0006】
別の局面においては、固形臓器を提供する。本明細書に記載する固形臓器は、上記脱細胞化心臓、およびそれに付着した再生細胞の集合を含む。一部の態様において、再生細胞は、多能性(pluripotent)細胞である。一部の態様において、再生細胞は胚幹細胞、臍帯細胞、成体由来の幹細胞もしくは始原細胞、骨髄由来細胞、血液由来細胞、間葉幹細胞(MSC)、骨格筋由来細胞、多分化能性(multipotent)成体始原細胞(MAPC)、心臓幹細胞(CSC)、または多分化能性成体心臓由来幹細胞である。一部の態様において、再生細胞は、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系細胞、または大動脈内皮細胞である。一部の態様において、細胞は、組織由来細胞、または皮膚由来細胞である。
【0007】
一般的に、脱細胞化心臓に付着した再生細胞の数は、少なくとも約1,000である。一部の態様では、脱細胞化心臓に付着した再生細胞の数は、約1,000細胞/mg組織(湿重量;すなわち、脱細胞化前重量)〜約10,000,000細胞/mg組織(湿重量)である。一部の態様では、再生細胞は、脱細胞化心臓に対して異種である。また一部の態様では、固形臓器は患者に移植されるものであり、再生細胞は患者に対して自家である。
【0008】
さらに別の局面においては、固形臓器の作製方法を提供する。このような方法は、概して、本明細書に記載するように脱細胞化心臓を得る工程、ならびに、脱細胞化心臓の中およびその上において再生細胞が生着、増殖および/または分化する条件下で、該脱細胞化心臓を再生細胞の集合と接触させる工程を含む。一態様において、再生細胞は、脱細胞化心臓に注射または灌流される。
【0009】
さらに別の局面では、心臓を脱細胞化する方法を提供する。このような方法は、心臓を得る工程と、1つもしくは1つ以上の空洞、管、および/または導管(duct)において心臓にカニューレ挿入して、カニューレ挿入した心臓を作ること、ならびにカニューレ挿入した心臓に、1つもしくは1つ以上のカニューレ挿入を介して第1の細胞破壊培地を灌流させる工程を含む。例えば、灌流は、カニューレ挿入した空洞、管、および/または導管のそれぞれから多方向で行うことができる。典型的に、細胞破壊培地は、SDS、PEG、またはTriton X等の少なくとも1つの界面活性剤を含む。
【0010】
また、このような方法は、カニューレ挿入した心臓に、2つ以上のカニューレ挿入を介して第2の細胞破壊培地を灌流させることを含み得る。一般的に、第1の細胞破壊培地はSDS等のアニオン性界面活性剤であり、第2の細胞破壊培地はTriton X-100等のイオン性界面活性剤であり得る。このような方法において、灌流は、心臓組織1グラム(湿重量)当たり約2〜12時間になることがある。
【0011】
一つの局面においては、固形臓器が提供される。このような固形臓器は、脱細胞化臓器、およびそれに付着した再生細胞の集合を含む。このような脱細胞化臓器は、該臓器の脱細胞化した細胞外マトリックスを含み、細胞外マトリックスは外面を含み、血管樹を含む細胞外マトリックスは脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面は実質的に無傷である。
【0012】
代表的な固形臓器としては、心臓、腎臓、肝臓、または肺が挙げられる。一態様では、固形臓器は肝臓または肝臓の一部である。別の態様では、固形臓器は心臓(例えば、齧歯動物心臓、ブタ心臓、ウサギ心臓、ウシ心臓、ヒツジ心臓、またはイヌ心臓;例えば、収縮活動を示す心臓)である。代表的な心臓はヒト心臓である。心臓は、心臓全体の一部(例えば、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、右心房、左心房、右心室、左心室、心臓パッチ、中隔、冠状血管、肺動脈、および肺静脈)であり得る。別の態様では、固形臓器は腎臓である。本明細書に記載する固形臓器は、典型的に、血管を含む複数の組織学的構造を含む。
【0013】
一部の態様では、脱細胞化臓器に付着した再生細胞の数は少なくとも約1,000である。他の態様では、脱細胞化臓器に付着した再生細胞の数は約1,000細胞/mg組織〜約10,000,000細胞/mg組織である。再生細胞は、多能性細胞であってもよい。あるいはまた、再生細胞は胚幹細胞もしくはその部分集合、臍帯細胞もしくはその部分集合、骨髄細胞もしくはその部分集合、末梢血液細胞もしくはその部分集合、成体由来の幹細胞もしくは始原細胞もしくはその部分集合、組織由来の幹細胞あるいは始原細胞もしくはその部分集合、間葉幹細胞(MSC)もしくはその部分集合、骨格筋由来の幹細胞あるいは始原細胞もしくはその部分集合、多分化能性成体前駆細胞(MAPC)もしくはその部分集合、心臓幹細胞(CSC)もしくはその部分集合、または多分化能性成体心臓由来幹細胞もしくはその部分集合であってもよい。再生細胞の例としては、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系内皮細胞、大動脈内皮細胞、または肝細胞が挙げられる。一部の態様では、再生細胞は脱細胞化臓器に対して同種または異種である。
【0014】
一部の態様では、固形臓器は患者に移植されるものであり、再生細胞は患者に対して自家である。他の態様では、固形臓器は患者に移植されるものであり、脱細胞化臓器は患者に対して同種または異種である。
【0015】
別の局面においては、臓器の作製方法を提供する。このような方法は、概して、脱細胞化臓器を得る工程であって、該脱細胞化臓器は該臓器の脱細胞化した細胞外マトリックスを含み、該細胞外マトリックスは外面を含み、血管樹を含む細胞外マトリックスは脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、外面は実質的に無傷である工程と;脱細胞化臓器の中または上に再生細胞が生着、増殖および/または分化する条件下で、脱細胞化臓器を再生細胞の集合と接触させる工程とを含む。一態様では、再生細胞は脱細胞化臓器へ注射される。代表的な脱細胞化臓器として、心臓、腎臓、肝臓、脾臓、膵臓または肺が挙げられる。
【0016】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書に記載するものと同様または同等の方法および材料が本発明の実施または検査において使用できるが、適切な方法および材料を以下に記載する。また、材料、方法、および実施例は例示のためだけのものであり、限定することを意図したものではない。本明細書で言及する全ての文献、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合には、定義を含め、本明細書が優先する。
【0017】
本発明の一以上の態様の詳細が、添付の図面および以下の記載に示されている。本発明のその他の特徴、目的、および利点は、図面および詳細な説明、ならびに請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、心臓を脱細胞化するための初期準備を示す模式図である。大動脈、肺動脈、および上大静脈にカニューレを挿入して(それぞれA、B、C)、下大静脈、腕頭動脈、左総頸動脈、および左鎖骨下動脈を結紮している。矢印は、灌流の順行および逆行の方向を示す。
【図2】図2は、脱細胞化/再細胞化装置の一態様の模式図である。
【図3】図3Aは脱細胞化した肝臓および腎臓の写真であり、図3Bは脱細胞化した心臓および肺の写真である。左側の写真は、組織の組織学的染色を示しかつ死体臓器に残った核酸の定量値を表記しており、右側の写真は脱細胞化マトリックスの組織学的染色を示しかつ灌流型脱細胞化した臓器に残った核酸の定量値を表記している。
【図4】図4は、灌流型脱細胞化したブタ腎臓(左)およびラット腎臓(中央;エバンスブルー染料での灌流を示す挿入図)の写真、ならびに灌流型脱細胞化後の細管および集合管に囲まれた糸球体のEM写真を示す。
【図5】図5は、下腹部から頭部まで脱細胞化したラットの全身写真である。
【図6】図6は、肝臓の再細胞化を示す写真である。図6Aは灌流型脱細胞化したラット肝臓を示す。図6Bは、脱細胞化ラット肝臓の単一葉への、門脈カテーテルを介した初代肝細胞の注射を示す。
【図7】図7は、再細胞化が標的化できることを示す写真である。図7Aは、脱細胞化肝臓の尾状葉に送達される初代ラット肝細胞を示す。図7Bは、脱細胞化ラット肝臓の上/下右側葉に送達される初代ラット肝細胞を示す。
【図8】図8は、脱細胞化ラット肝臓の再細胞化を示すSEM写真である。4000万の初代ラット肝細胞が門脈を介して送達され、1週間培養された(A〜D)。
【図9】図9は、尾状突起への初代ラット肝細胞の注射の1週間後での再細胞化ラット肝臓の染色を示す。図9Aはマッソントリクローム染色(10×)を示し、図9BはHE染色(10×)を示す。
【図10】図10は、初代ラット肝細胞を尾状突起に入れた再細胞化の1週間後の肝臓のTUNEL分析を示す。図10Aは生存およびアポトーシス細胞の混合を示すTUNEL染色(10×)であり、図10Bはマッソントリクローム染色(10×)を示す。
【図11】図11は、1週間後の灌流型脱細胞化ラット肝臓におけるヒトHepG2細胞のインビトロでのマッソントリクローム染色を示す。図11Aは尾状突起を示し、図11Bは上/下右側葉を示す。両方とも10×である;V=マトリックス中の管。
【図12】図12は、細胞保持効率のグラフである。グラフは、初代ラット肝細胞(1〜6)またはHepG2(7および8)細胞が注射後に保持されることを示す。細胞は、注射の前後に数えた。保持%は、初期数から保持細胞を引いたものに基づいて計算した。
【図13】図13は、HepG2細胞が、脱細胞化臓器において生存可能なままであることを示すグラフである。アラマーブルー(Alamar blue)代謝は、HepG2細胞(注射当日において約3,000万個)が生存可能なままであり、尾状突起(ひし形)および上/下右側葉(四角)への注射後に限界範囲まで増殖したことを実証する。
【図14】図14は、再細胞化後の初代ラット肝細胞(7日間で約3500万細胞)による尿素生成の経時変化を示すグラフである。
【図15】図15は、再細胞化後の初代ラット肝細胞(7日間で約3500万細胞)による毎日のアルブミン生成の経時変化を示すグラフである。
【図16】図16は、尾状葉に注射された初代ラット肝細胞(8日間で2300万細胞)由来のエトキシレゾルフィン-O-デエチラーゼ(EROD)活性の経時変化を示すグラフである。
【図17】図17は、胚および成体由来の幹細胞/始原細胞が、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で少なくとも3週間増殖したことを示すグラフである。
【図18】図18は、マウス胚幹細胞(mESC)および増殖する成体幹細胞(骨格筋芽細胞;SKMB)が、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で生存可能であったことを示すグラフである。
【図19】図19は、死体(左パネル)および脱細胞化した(右パネル)心臓のSEM写真である。LV、左心室;RV、右心室。
【図20】図20は、死体(左パネル)および再細胞化したラット肝臓(右パネル)の組織学的(上部パネル)およびSEM(下部パネル)比較である。
【図21】図21は、(A)完全に脱細胞化したブタ肝臓マトリックスを示す写真、ならびに(B)脈管および(C)実質性マトリックスの完全状態を示す灌流型脱細胞化ブタ肝臓のSEMである。
【図22】図22は、浸漬型脱細胞化肝臓の全体図を示す写真である。無傷な肝臓の全体的な外見にも関わらず、マトリックスのほころびおよび嚢の欠如が低倍率(A)および高倍率(B)の両方において見とめることができる。
【図23】図23は、浸漬型脱細胞化(AおよびB)の後では、臓器がグリソン嚢を欠く一方で、1%SDS灌流型脱細胞化(CおよびD)の後では、臓器が嚢を保持したことを示すSEM写真である。
【図24】図24は、浸漬型脱細胞化したラット肝臓の組織構造(A、HE;B、トリクローム)、および1%SDS灌流型脱細胞化後の組織構造(C、HE;D、トリクローム)を示す写真である。
【図25】図25は、ラット心臓の浸漬型脱細胞化(上段)と灌流型脱細胞化(下段)との比較を示す写真である。左欄、全臓器;中央欄、HE組織染色;右欄、SEM。
【図26】図26は、ラット腎臓を使用した浸漬型脱細胞化(上段)と灌流型脱細胞化(下段)との比較を示す写真である。左欄、全臓器;中央欄、HE組織染色;右欄、SEM。
【図27】図27は、灌流型脱細胞化腎臓(図27A)および浸漬型脱細胞化腎臓(図27B)のSEM写真である。
【図28】図28は、灌流型脱細胞化心臓(図28A)および浸漬型脱細胞化心臓(図28B)のSEM写真である。
【図29】図29は、浸漬型脱細胞化肝臓のSEM写真である。
【0019】
別々の図面における同様の符番は、同様の構成要素を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
固形臓器は、一般的に、3つの主要構成要素、すなわち、細胞外マトリックス(ECM)、そこに埋め込まれた細胞、および血管床、を有する。本明細書に記載する固形臓器の脱細胞化は、細胞外マトリックス(ECM)および血管床を実質的に保存しつつ、細胞成分のほとんどまたは全てを除去する。そのため、脱細胞化した固形臓器は再細胞化のための足場(scaffold)として使用できる。固形臓器を得ることができる哺乳動物としては、齧歯動物、ブタ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、イヌ、およびヒトが挙げられるがこれらに限定されない。本明細書に記載する方法において使用される臓器および組織は、死体であっても、または胎仔、新生仔、もしくは成体であってもよい。
【0021】
本明細書で言及する固形臓器としては、心臓、肝臓、肺、骨格筋、脳、膵臓、脾臓、腎臓、胃、子宮、および膀胱が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書で使用する固形臓器とは、「実質的に閉じた」血管系を有する臓器を指す。臓器に関して「実質的に閉じた」血管系とは、大血管がカニューレ挿入されたか、結紮されたか、さもなければ拘束されたとして、液体での灌流の際に、液体の大部分が固形臓器内に含まれて、固形臓器の外に漏れないことを意味する。「実質的に閉じた」血管系を有するにも関わらず、上記一覧した多くの固形臓器が、灌流の間に臓器全体に液体を導入および移動させるのに有用な明確な「入口」および「出口」管を有する。
【0022】
上記固形臓器に加えて、例えば、関節(例えば、膝、肩、腰もしくは脊椎)の全体または一部、気管、皮膚、腸間膜もしくは腸、小腸、大腸、食道、卵巣、陰茎、睾丸、脊髄、または一本の血管もしくは枝分かれした血管等の他種の血管のある臓器または組織を、本明細書に開示する方法を使用して脱細胞化できる。さらに、本明細書に開示する方法はまた、例えば、軟骨もしくは角膜等の無血管(または比較的無血管)組織を脱細胞化するのに使用できる。
【0023】
本明細書で記載する脱細胞化臓器もしくは組織(例えば、心臓もしくは肝臓)またはそれらの任意の部分(例えば、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁、肺静脈、肺動脈、冠血管系、中隔、右心房、左心房、右心室、左心室もしくは肝葉)が、再細胞化の有無に関わらず、患者への移植のために使用できる。あるいはまた、本明細書に記載する再細胞化臓器または組織は、例えば、臓器または組織の分化途中の細胞および/または細胞編成を検査するために使用できる。
【0024】
臓器または組織の脱細胞化
本発明は、哺乳動物臓器または組織を脱細胞化する方法および材料を提供する。臓器または組織を脱細胞化するための最初の工程は、可能であれば、臓器または組織にカニューレを挿入することである。臓器または組織の管、導管、および/または空洞には、当該分野で公知の方法および材料を使用してカニューレを挿入できる。臓器または組織を脱細胞化するための次の工程は、カニューレ挿入した臓器または組織に細胞破壊培地を灌流させることである。臓器にわたる灌流は、多方向(例えば、順行および逆行)であり得る。
【0025】
心臓のランゲンドルフ灌流(4チャンバワーキングモード灌流(four chamber working mode perfusion)としても知られる)は、生理学的灌流として、当該分野で常套的な手法である。例えば、Dehnert、The Isolated Perfused Warm-blooded Heart According to Langendorff, in Methods in Experimental Physiology and Pharmacology:Biological Measurement Techniques V.Biomesstechnik-Verlag March GmbH、West Germany、1988を参照のこと。簡潔に言うと、ランゲンドルフ灌流のためには、大動脈にカニューレを挿入し、細胞破壊培地を含むリザーバーに取り付ける。細胞破壊培地は大動脈を逆行方向に送達でき、例えば、注入もしくはローラポンプによって、または一定の静水圧によって一定の流速で送達される。いずれの場合も、大動脈弁は強制的に閉じられ、灌流流体を冠状動脈口に向わせ(これにより、心臓の心室全体に灌流させ)、その後これが冠状静脈洞口を介して右心房に流出する。ワーキングモード灌流のためには、第2のカニューレを左心房に接続し、灌流を逆行から順行に変えることができる。
【0026】
他の臓器または組織に灌流させる方法が当該分野で公知である。例として、以下の参考文献は、肺、肝臓、腎臓、脳、および肢への灌流を記載している。Van Putte et al、2002、Ann. Thorac. Surg.、74(3):893-8;den Butter et al.、1995、Transpl. Int.、8:466-71;Firth et al.、1989、Clin. Sd.(Lond.)、77(6):657-61;Mazzetti et al.、2004、Brain Res.、999(l):81-90;Wagner et al.、2003、J.Artif. Organs、6(3):183-91。
【0027】
1つ以上の細胞破壊培地を使用して、臓器または組織を脱細胞化することができる。細胞破壊培地は、一般的に、SDS、PEG、またはTriton X等の少なくとも1つの界面活性剤を含む。細胞破壊培地は、培地が細胞と浸透圧的に適合しないように水を含むことができる。あるいはまた、細胞破壊培地は、細胞との浸透圧適合性のために、緩衝液(例えば、PBS)を含んでもよい。細胞破壊培地はまた、1つ以上のコラゲナーゼ、1つ以上のディスパーゼ、1つ以上のDNアーゼ、またはトリプシン等のプロテアーゼ等(ただしこれらに限定されない)の酵素も含んでもよい。一部の場合において、細胞破壊培地は、同時にまたは代替的に、1つ以上の酵素の阻害剤(例えば、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤および/またはコラゲナーゼ阻害剤)を含むことができる。
【0028】
特定の態様では、カニューレ挿入した臓器または組織に、2つの異なる細胞破壊培地を連続的に灌流できる。例えば、第1の細胞破壊培地はSDS等のアニオン性界面活性剤を含むことができ、第2の細胞破壊培地はTriton X-100等のイオン性界面活性剤を含むことができる。少なくとも1つの細胞破壊培地での灌流の後、カニューレ挿入した臓器または組織を、例えば、本明細書に開示するような洗浄液および/または1つ以上の酵素を含む溶液で灌流できる。
【0029】
灌流の方向(例えば、順行および逆行)を交互させることにより、臓器または組織全体を効果的に脱細胞化する助けとなり得る。本明細書に記載する脱細胞化は、本質的に臓器を内側まで完全に脱細胞化させ、ECMに対してほとんど損傷を生じない。臓器または組織は、4〜4O℃の適切な温度において脱細胞化できる。臓器または組織の大きさおよび重量、特定の(1つ以上の)界面活性剤、ならびに細胞破壊培地中での(1つ以上の)界面活性剤の濃度に応じて、臓器または組織は一般的に固形臓器または組織1グラム当たり約2〜約12時間、細胞破壊培地で灌流される。臓器は、洗浄を含めて、組織1グラム当たり最長約12〜約72時間灌流されることがある。灌流は、一般的に、拍動流、拍動率および拍動圧を含む生理学的条件に調節される。
【0030】
本明細書に示すように、脱細胞化臓器または組織は、本質的に血管樹のECMコンポーネントを含めて、臓器または組織の全体またはほとんどの領域の細胞外マトリックス(ECM)コンポーネントから構成される。ECMコンポーネントは、以下のうちのいずれかまたは全てを含み得る:フィブロネクチン、フィブリリン、ラミニン、エラスチン、コラーゲンファミリーのメンバー(例えば、コラーゲンI、III、およびIV)、グリコサミノグリカン、基質、細網線維、ならびにトロンボスポンジン。これらは、基底膜等の明確な構造として組織された状態のままであり得る。脱細胞化の成果は、標準的な組織学的染色手順を使用して、組織学切片において検出可能な筋フィラメント、内皮細胞、平滑筋細胞、および核が存在しないことによって規定される。残存細胞残屑も、脱細胞化臓器または組織から除去されていることが好ましいが必須ではない。
【0031】
効果的に再細胞化させて、臓器または組織を作製するためには、脱細胞化の過程の途中または後に、ECMの形態および構造が維持されている(すなわち、実質的に無傷のままである)ことが重要である。本明細書で使用する「形態」とは、臓器もしくは組織、またはECMの全体の形状を指し、本明細書で使用する「構造」とは、外面、内面、およびその間のECMを指す。
【0032】
ECMの形態および構造は、視覚的および/または組織学的に検査できる。例えば、固形臓器の外面上、または臓器もしくは組織の血管系内の基底膜は、脱細胞化によって、除去されたり、または有意に損傷されてはならない。さらに、ECMの原線維は、脱細胞化していない臓器または組織のものと類似しているか、またはそれと有意に変わっていてはならない。特に明記しない限り、本明細書で使用する脱細胞化とは灌流型脱細胞化を指し、また、特に明記しない限り、本明細書で言及する脱細胞化臓器またはマトリックスは本明細書に記載する灌流型脱細胞化を使用して得られる。本明細書に記載する灌流型脱細胞化は、例えば、米国特許第6,753,181号および同第6,376,244号に記載の浸漬型脱細胞化と比較できる。
【0033】
1つ以上の化合物を、脱細胞化臓器または組織の内または上に適用して、例えば、脱細胞化臓器を保存するか、脱細胞化臓器もしくは組織を再細胞化のために調製するか、および/または再細胞化過程の間に細胞を補助もしくは刺激することができる。このような化合物としては、1つ以上の成長因子(例えば、VEGF、DKK-1、FGF、BMP-1、BMP-4、SDF-1、IGF、およびHGF)、免疫調節剤(例えば、サイトカイン、グルココルチコイド、IL2Rアンタゴニスト、ロイコトリエンアンタゴニスト)、ならびに/または凝固カスケードを修飾する因子(例えば、アスピリン、ヘパリン結合タンパク質、およびヘパリン)が挙げられるがこれらに限定されない。また、脱細胞化臓器または組織は、例えば、照射(例えば、UV、ガンマ)によりさらに処置されて、脱細胞化臓器または組織の上または中に残っているあらゆる種類の微生物の存在を減らしたり、または無くすことができる。
【0034】
臓器または組織の再細胞化
本発明は、臓器または組織を生成するための材料および方法を提供する。本明細書に記載する脱細胞化臓器または組織を再生細胞の集合と接触させることにより、臓器または組織を生成できる。本明細書で使用する再生細胞は、脱細胞化臓器または組織を再細胞化するために使用される任意の細胞である。再生細胞は、全能細胞、多能性細胞、または多分化能細胞であってもよく、非分化増殖性(uncommitted)であっても、または分化増殖性(committed)であってもよい。再生細胞はまた、単一系統(single-lineage)細胞であってもよい。さらに、再生細胞は未分化細胞、一部分化細胞、または完全分化細胞であってもよい。本明細書で使用する再生細胞としては、胚幹細胞(国立衛生研究所(NIH)により定義されるもの;例えば、ワールドワイドウェブ上のstemcells.nih.govの用語集を参照のこと)が挙げられる。再生細胞としてはまた、始原細胞、前駆細胞、ならびに臍帯細胞および胎仔幹細胞を含む「成体」由来幹細胞が挙げられる。
【0035】
臓器または組織を再細胞化するのに使用できる再生細胞の例としては、胚幹細胞、臍帯血液細胞、組織由来の幹細胞もしくは始原細胞、骨髄由来の幹細胞もしくは始原細胞、血液由来の幹細胞もしくは始原細胞、脂肪組織由来の幹細胞もしくは始原細胞、間葉幹細胞(MSC)、骨格筋由来細胞、または多能性成体前駆細胞(MAPC)が挙げられるがこれらに限定されない。さらに使用可能な再生細胞としては、心臓幹細胞(CSC)を含む組織特異的幹細胞、多能性成体心臓由来幹細胞、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系内皮細胞、または大動脈内皮細胞が挙げられる。骨髄単核細胞(BM-MNC)等の骨髄由来幹細胞、内皮または血管由来の幹細胞または始原細胞、および内皮始原細胞(EPC)等の末梢血液由来幹細胞も再生細胞として使用できる。
【0036】
臓器または組織を生成するために脱細胞化臓器の中または上に導入される再生細胞の数は、臓器(例えば、臓器の種類、臓器の大きさおよび重量)または組織、ならびに再生細胞の種類および発達段階の両方に依存する。異なる種類の細胞は、それらの細胞が達する集合密度に関して異なる傾向を持つ場合がある。同様に、異なる臓器または組織は、異なる密度において再細胞化し得る。例示として、脱細胞化臓器または組織は、少なくとも約1,000(例えば、少なくとも10,000、100,000、1,000,000、10,000,000、もしくは100,000,000)個の再生細胞を「播種」され得るか;または約1,000細胞/mg組織(湿重量、すなわち、脱細胞化前)〜約10,000,000細胞/mg組織(湿重量)を付着され得る。
【0037】
再生細胞は、脱細胞化臓器または組織に注射により1つ以上の位置で導入(「播種」)され得る。さらに、2種類以上の細胞(すなわち、細胞のカクテル)を脱細胞化臓器または組織に導入することができる。例えば、細胞のカクテルは脱細胞化臓器もしくは組織の複数の位置で注射され得るか、または異なる細胞型が脱細胞化臓器もしくは組織の異なる部分に注射され得る。注射の代わりにまたは注射に加えて、再生細胞または細胞のカクテルは、カニューレ挿入した脱細胞化臓器または組織に灌流により導入され得る。例えば、灌流培地を使用して再生細胞を脱細胞化臓器に灌流させ、該培地を拡張および/または分化培地に変えて再生細胞の成長および/または分化を誘発してもよい。
【0038】
再細胞化の間、臓器または組織は、脱細胞化臓器または組織の中または上で再生細胞の少なくとも一部が増殖および/または分化できる条件下で維持される。これらの条件としては、適切な温度および/または圧力、電気的および/または機械的活動、力、適切な量のO2および/またはCO2、適切な量の湿度、ならびに滅菌またはほぼ滅菌条件が挙げられるがこれらに限定されない。再細胞化の間、脱細胞化臓器または組織、およびそれに付着した再生細胞は、適切な環境において維持される。例えば、再生細胞は、栄養補助剤(例えば、栄養素および/もしくはグルコース等の炭素源)、外因性のホルモンもしくは成長因子、ならびに/または特定のpHを必要とし得る。
【0039】
再生細胞は、脱細胞化臓器もしくは組織に対して同種であってもよく(例えば、ヒト再生細胞をヒト脱細胞化臓器または組織に播種する)、または再生細胞は脱細胞化臓器もしくは組織に対して異種であってもよい(例えば、ヒト再生細胞をブタ脱細胞化臓器または組織に播種する)。本明細書で使用する「同種」とは、臓器または組織が由来する種と同じ種(例えば、自身(すなわち、自家)、または血縁関係のあるもしくは血縁関係のない個体)から得た細胞を指し、本明細書で使用する「異種」とは、臓器または組織が由来する種とは異なる種から得た細胞を指す。
【0040】
場合によっては、本明細書に記載の方法で生成された臓器または組織は、患者に移植されるものである。この場合、脱細胞化臓器または組織を再細胞化するために使用する再生細胞は、再生細胞が患者にとって「自家」となるように患者から得ることができる。患者由来の再生細胞は、例えば、異なる生命段階(例えば、出生前に、新生児もしくは周産期に、青年期の間に、または成体として)における血液、骨髄、組織、または臓器から、当該分野で公知の方法を使用して得ることができる。あるいはまた、脱細胞化臓器または組織を再細胞化するのに使用する再生細胞は、患者にとって同系(すなわち、一卵性双生児由来)であってもよく、再生細胞は、例えば、患者の血縁者もしくは患者とは無縁のHLA適合個体由来のヒトリンパ球抗原(HLA)対応細胞であってもよく、再生細胞は、例えば、非HLA適合ドナー由来で患者にとって同種であってもよい。
【0041】
再生細胞の由来源(例えば、自家であるか否か)を問わず、脱細胞化した固形臓器は、患者にとって自家、同種または異種であり得る。
【0042】
特定の例においては、脱細胞化臓器は、(例えば、臓器または組織が個体に移植された後に)細胞によりインビボで再細胞化され得る。インビボ再細胞化は、例えば、本明細書に記載する再生細胞のいずれかで、上述したように行われ得る(例えば、注射および/または灌流)。代替的または追加的に、脱細胞化臓器または組織への内因性細胞のインビボ播種は、自然に発生するか、または再細胞化組織に送達される因子によって媒介され得る。
【0043】
再生細胞の進行は、再細胞化の間、モニタリングされ得る。例えば、臓器または組織の上または中の細胞数は、再細胞化中の1つ以上の時点において生検を行うことによって評価できる。さらに、再生細胞が経た分化の程度は、細胞または細胞の集合において様々なマーカーが存在するか否かを決定することによりモニタリングできる。異なる細胞型およびそれらの細胞型の異なる分化段階に関連するマーカーは当該分野で公知であり、抗体および標準的なイムノアッセイを使用して容易に検出できる。例えば、Current Protocols in Immunology、2005、Coligan et al、Eds.、John Wiley & Sons、Chapters 3 and 11を参照のこと。核酸アッセイ、ならびに形態学的および/または組織学的評価を使用して、再細胞化をモニタリングできる。再細胞化臓器の機能性分析も評価できる。例えば、再細胞化心臓においては、収縮および心室内圧を評価でき、再細胞化肝臓においては、アルブミン生成、尿素生成、およびシトクロムp450活性を評価でき、再細胞化腎臓においては、血液または培地濾過および尿生成を評価でき、再細胞化した膵臓においては、血液、グルコースおよびインスリンを評価でき、再細胞化した筋肉においては、力生成または刺激に対する応答を評価でき、再細胞化した管においては、血栓形成を評価できる。
【0044】
臓器または組織を脱細胞化および/または再細胞化するための制御システム
本発明はまた、臓器または組織を脱細胞化および/または再細胞化するシステム(例えば、バイオリアクター)も提供する。このようなシステムは、一般的に、臓器または組織にカニューレ挿入するための少なくとも1つのカニューレ挿入デバイス、(1つ以上の)カニューレを介して臓器または組織に灌流させるための灌流装置、および臓器または組織の滅菌環境を維持するための手段(例えば、格納システム)を含む。カニューレ挿入および灌流は、当該分野で周知の技術である。カニューレ挿入デバイスは、一般的に、臓器または組織の管、導管、および/または空洞に導入するための適切な大きさの空洞配管を含む。典型的に、臓器において1つ以上の管、導管、および/または空洞にカニューレ挿入する。灌流装置は、液体(例えば、細胞破壊培地)用の支持コンテナ、および1つ以上のカニューレを介して液体を臓器中で移動させるための機構(例えば、ポンプ、空気圧、重力)を含み得る。脱細胞化および/または再細胞化の間の臓器または組織の滅菌性は、気流の制御および濾過、ならびに/または例えば、抗生物質、抗真菌剤もしくは他の抗菌剤での灌流により望ましくない微生物の成長を防ぐ等、当該分野において公知の様々な技術を用いて維持することができる。
【0045】
本明細書に記載する臓器または組織を脱細胞化および再細胞化するシステムは、特定の灌流特性(例えば、圧力、容量、流れのパターン、温度、気体、pH)、機械的な力(例えば、心室壁運動および応力)、ならびに電気的刺激(例えば、ペース)をモニタリングする能力を有し得る。脱細胞化および再細胞化の過程と共に冠血管床(例えば 血管抵抗、容量) は変化するため、大幅な変動を回避するための圧力調節型灌流装置が有利である。灌流の有効性は、排液および組織切片において評価できる。灌流容量、流れのパターン、温度、O2およびCO2分圧、ならびにpHは、標準的な方法を使用してモニタリングできる。
【0046】
センサを使用して、システム(例えば、バイオリアクター)、および/または臓器もしくは組織をモニタリングできる。ソノマイクロメトリ、マイクロマノメトリ、および/またはコンダクタンス測定を使用して、圧力-容量、または心筋壁運動および性能に関する前負荷動員一回仕事量(preload-recruitable stroke work)の情報を得ることができる。例えば、センサを使用して、カニューレ挿入した臓器または組織内を移動している液体の圧力;システム中の環境温度および/または臓器もしくは組織の温度;カニューレ挿入した臓器または組織内を移動している液体のpHおよび/または流速;ならびに/あるいは再細胞化する臓器または組織の生物学的活性をモニタリングできる。このような特徴をモニタリングするためのセンサを備えることに加えて、臓器または組織を脱細胞化するおよび/または再細胞化するシステムは、これらの特徴を維持または調節するための手段も含み得る。これらの特徴を維持または調節するための手段としては、温度計、サーモスタット、電極、圧力センサ、オーバーフローバルブ、液体の流速を変えるためのバルブ、溶液のpHを変えるために使用される溶液への流体連結を開閉するためのバルブ、バルーン、体外ペースメーカー、ならびに/またはコンプライアンスチャンバ等のコンポーネントを挙げることができる。安定的な条件(例えば、温度)が得られるように、チャンバ、リザーバーおよび配管は冷却装置を装備してもよい。
【0047】
再細胞化の間に、臓器およびそれに付着した細胞に機械的負荷をかけることが有利な場合もある。例として、左心房を介して左心室に挿入されたバルーンを使用して、心臓に機械的ストレスをかけてもよい。容量および速度の調整を可能にするピストンポンプを、バルーンに接続して、左心室壁運動および応力を刺激することができる。壁運動および応力をモニタリングするために、マイクロマノメトリ、ソノマイクロメトリ、圧力-容量変化、または心エコー法を使用して、左心室壁運動および圧力を測定することができる。一部の態様では、体外ペースメーカーをピストンポンプに接続して、心室バルーンの収縮(心収縮と等しい)に伴って同期した刺激を得ることができる。周囲ECG(peripheral ECG)を心臓表面から記録して、ペース電圧の調整、脱分極および再分極のモニタリングを可能にし、再細胞化中または再細胞化心臓の簡素化した表面地図を得ることができる。
【0048】
機械的な心室拡張は、左心房を介して左心室に挿入されたカニューレに蠕動ポンプを取り付けることによっても達成できる。バルーンが関与する上述した手順と同様、カニューレを介した周期的流体運動(例えば、拍動流)で得られる心室拡張は、電気的刺激と同期させることができる。
【0049】
本明細書に開示の方法および材料を使用して、哺乳動物心臓を脱細胞化および再細胞化することができ、適切な条件下で維持した場合には、収縮機能を受けて、ペース刺激および/または薬剤に応答する機能性心臓を生成できる。この再細胞化した機能性心臓は、哺乳動物に移植でき、一定期間機能する。
【0050】
図2は、臓器または組織を脱細胞化および/または再細胞化するシステム(例えば、バイオリアクター)の一態様を示す。図示している態様は、心臓を脱細胞化および再細胞化するバイオリアクターである。本態様は、調節可能な速度および容量蠕動ポンプ(A);心室内バルーンに接続した調節可能な速度および容量ピストンポンプ(B);調節可能な電圧、周波数および振幅体外ペースメーカー(C);ECGレコーダー(D);「動脈ライン」にある圧力センサ(冠動脈圧力に相当)(E);「静脈」ラインにある圧力センサ(冠状静脈洞口圧力に相当)(F);ならびにペースメーカーとピストンポンプとの間の同期(G)を有する。
【0051】
臓器または組織を生成するシステムは、プログラム可能プロセッサと組み合わせられたコンピュータで読み取り可能な記憶媒体により制御できる(例えば、本明細書で使用されるコンピュータで読み取り可能な記憶媒体には、プログラム可能プロセッサに特定の工程を行わせるための命令が格納されている)。例えば、プログラム可能プロセッサと組み合わせたそのような記憶媒体は、1つ以上のセンサからの情報を受け取り、処理することができる。プログラム可能プロセッサと併用するこのような記憶媒体はまた、情報および命令をバイオリアクターおよび/または臓器もしくは組織に返信することもできる。
【0052】
再細胞化中の臓器または組織を、生物学的活性についてモニタリングできる。生物学的活性は、臓器または組織の電気的活動、機械的活動、機械的圧力、収縮性、および/または壁応力等、臓器または組織自体のものであり得る。さらに、臓器または組織に付着した細胞の生物学的活性は、例えば、イオン輸送/交換活性、細胞分裂、および/または細胞生存性についてモニタリングできる。例えば、Laboratory Textbook of Anatomy and Physiology (2001 ,Wood、Prentice Hall) and Current Protocols in Cell Biology (2001、Bonifacino et al.、Eds、John Wiley & Sons)を参照のこと。上述したように、再細胞化の間の臓器に対する能動負荷をシミュレーションすることが有用であるかもしれない。本発明のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体は、プログラム可能プロセッサと組み合わせられて、臓器または組織に対する能動負荷をモニタリングおよび維持するのに必要なコンポーネントを連係させるために使用できる。
【0053】
一態様においては、臓器または組織の重量を、本明細書に記載するように、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に入力し、プログラム可能プロセッサと共に、その特定の臓器または組織についての露出時間 および灌流圧を計算できる。このような記憶媒体は、前負荷および後負荷(それぞれ灌流前後の圧力)、ならびに流速を記録できる。本態様においては、例えば、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体は、プログラム可能プロセッサと共に、1つ以上のポンプおよび/またはバルブ制御を介して、灌流圧、灌流方向、および/または灌流溶液の種類を調節できる。
【0054】
本発明によれば、当該技術分野の範囲内にある従来の分子生物学、微生物学、生化学、および細胞生物学技術を採用してもよい。このような技術は、文献に完全に説明されている。本発明を、請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない以下の実施例においてさらに説明する。
【実施例】
【0055】
セクションA. 脱細胞化(パートI)
実施例1-脱細胞化のための固形臓器の調製
死後血栓の形成を避けるために、ドナーラットを、400Uのヘパリン/kg(ドナー)で全身ヘパリン化した。ヘパリン化の後、心臓および隣接する大血管を完全に取り除いた。
【0056】
心臓を、ヘパリン(2000U/ml)を含有する生理食塩溶液(0.9%)に入れ、さらに処理するまで5℃にて保持した。滅菌条件下で、結合組織を心臓および大血管から取り除いた。下大静脈および左右の肺静脈を、右および左の心房から遠位において、非吸収性のモノフィラメント結紮糸を使用して結紮した。
【0057】
実施例2-固形臓器へのカニューレ挿入および灌流
心臓を、灌流のために脱細胞化装置上に載置した(図1)。下行胸動脈にカニューレ挿入して、逆行冠灌流を可能にした(図1、カニューレA)。胸動脈の枝(例えば、腕頭幹、左総頸動脈、左鎖骨下動脈)を結紮した。肺動脈が、左および右肺動脈に分かれる手前でカニューレ挿入した(図1、カニューレB)。上大静脈にカニューレ挿入した(図1、カニューレC)。この構成により、逆行および順行冠灌流の両方が可能になる。
【0058】
大動脈カニューレ(A)に陽圧をかけると、冠動脈から、毛細血管床、冠静脈系を通り、右心房および上大静脈(C)まで灌流が生じた。上大静脈カニューレ(C)に陽圧をかけると、右心房、冠状静脈洞口、および冠静脈から、毛細血管床を通り、冠動脈および大動脈カニューレ(A)まで灌流が生じた。
【0059】
実施例3-脱細胞化
心臓を脱細胞化装置に載置した後、灌流液1L当たり1〜5mmolのアデノシンを含む冷たいヘパリン化カルシウム非含有リン酸緩衝液で順行灌流を開始し、一定の冠血流を再構築した。冠灌流圧および流量を測定し、冠抵抗を計算することによって、冠血流を評価した。15分間の安定した冠血流後、界面活性剤に基づく脱細胞化プロセスを開始した。
【0060】
手順の詳細を以下に記載する。しかし、簡単に言うと、心臓に界面活性剤を順行灌流させた。灌流後、心臓に緩衝液(例えば、PBS)を逆行性に流すことができる。次いで、心臓に抗生物質を含有するPBSを、その後DNアーゼIを含有するPBSを灌流させた。その後、心臓に1%塩化ベンザルコニウムを灌流させて、微生物汚染を低減し、かつ将来的な微生物汚染を予防し、その後、PBSを灌流して、臓器からあらゆる残存細胞成分、酵素、または界面活性剤を洗い流した。
【0061】
実施例4-死体ラット心臓の脱細胞化
心臓を、8匹の雄ヌードラット(250〜30Og)から単離した。切開直後、大動脈弓にカニューレ挿入し、心臓に表示の界面活性剤を逆行灌流させた。4つの異なる界面活性剤に基づく脱細胞化プロトコル(以下参照)を、(a)細胞成分の除去、ならびに(b)血管構造の保存における実現可能性および有効性について比較した。
【0062】
脱細胞化は、次の工程を一般的に含んでいた。すなわち、固形臓器の安定化、固形臓器の脱細胞化、固形臓器の再生および/または中和、固形臓器の洗浄、臓器上に残存するあらゆるDNAの分解、臓器の消毒、ならびに臓器の恒常性。
【0063】
A)脱細胞化プロトコル#1(PEG)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200ml PBS中で、再循環させずに洗浄した。次いで、35 mlポリエチレングリコール(PEG;1g/ml)で、最長30分間、手動で再循環させながら、心臓を脱細胞化した。次に、500ml PBSで、最長24時間、再循環用のポンプを使用して臓器を洗浄した。洗浄工程は、少なくとも2回、それぞれ少なくとも24時間繰り返した。心臓を、35ml DNアーゼI(70 U/ml)に、手動で再循環させながら、少なくとも1時間晒した。500ml PBSで臓器を再度少なくとも24時間洗浄した。
【0064】
B)脱細胞化プロトコル#2(TritonXおよびトリプシン)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200 ml PBS中で、少なくとも約20分間、再循環させずに洗浄した。次いで、0.05%トリプシンで30分間、その後5%Triton-Xおよび0.1%水酸化アンモニウムを含有する500ml PBSで約6時間灌流して、心臓を脱細胞化した。心臓を、脱イオン水で約1時間灌流した後、PBSで12時間灌流した。次いで、再循環用ポンプを使用して、心臓を、500ml PBSで3回、それぞれ24時間洗浄した。心臓を、35ml DNアーゼI(70U/ml)で手動で再循環させながら1時間灌流し、500ml PBS中で2回、それぞれ少なくとも約24時間、再循環用ポンプを使用して洗浄した。
【0065】
C)脱細胞化プロトコル#3(1%SDS)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200ml PBS中で、少なくとも約20分間、再循環せずに洗浄した。心臓を、1%SDSを含有する500ml水で、少なくとも約6時間、再循環用ポンプを使用して脱細胞化した。次いで、心臓を、脱イオン水で約1時間洗浄し、PBSで約12時間洗浄した。心臓を、500ml PBSで3回、それぞれ少なくとも約24時間、再循環用ポンプを使用して洗浄した。次いで、心臓を、35ml DNアーゼI(70 U/ml)で約1時間、手動で再循環させながら灌流し、500ml PBSで3回、それぞれ少なくとも約24時間、再循環用ポンプを使用して洗浄した。
【0066】
D)脱細胞化プロトコル#4(Triton X)
心臓を、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンBを含有する200 ml PBSで、少なくとも約20分間、再循環させずに洗浄した。次いで、心臓を、5%Triton Xおよび0.1%水酸化アンモニウムを含有する500mlの水で、少なくとも6時間、再循環用ポンプを使用して脱細胞化した。次いで、心臓に、脱イオン水を約1時間灌流させた後、PBSを約12時間灌流させた。心臓を、500ml PBSで3回、それぞれ少なくとも24時間、再循環用ポンプを使用して環流させることにより洗浄した。次いで、心臓に、35ml DNアーゼI(70 U/ml)を約1時間手動で再循環させながら灌流させ、500ml PBSで3回、それぞれ約24時間洗浄した。
【0067】
初期実験について、脱細胞化装置は、層流フード内に設置した。心臓は、60cm H2Oの冠灌流圧で灌流した。必要ではないが、上記実験で記載した心臓は、脱細胞化チャンバ内に載置および完全に沈められて、抗生物質を含有するPBSを、72時間、再循環モードにて5 ml/分の連続流で灌流されて、できるだけ多くの細胞成分および界面活性剤を洗い流した。
【0068】
脱細胞化の成功は、組織学切片における筋フィラメントおよび核の欠如で定義した。血管構造の保存の成功は、組織切片の埋め込み前に、2%エバンスブルーでの灌流により評価した。
【0069】
心臓を、まず脱イオン化H2Oに溶解したイオン性界面活性剤(1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、およそ0.03 M)で一定の冠灌流圧にて順行灌流した後、非イオン性界面活性剤(1%Triton X-100)で順行灌流して、SDSを除去し、おそらく細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を再生したところ、脱細胞化が非常に効率的であった。断続的に、心臓にリン酸緩衝液を逆行灌流させて、閉塞した毛細血管および小血管をきれいにした。
【0070】
実施例5-脱細胞化臓器の評価
脱細胞化後の無傷な血管構造を実証するために、脱細胞化心臓を、エバンスブルーを用いたランゲンドルフ灌流を介して染色し、血管基底膜を染色して、大血管および微小血管密度を定量する。さらに、心臓にポリスチレン粒子を灌流させて、冠容量、すなわち血管漏出のレベルを定量し、冠排液および組織切片を分析することにより灌流の分布を評価することができる。3つの基準の組み合わせを評価して、単離された非脱細胞化心臓と比較する:すなわち、1)ポリスチレン粒子の均等な分布、2)あるレベルの漏出における有意な変化、3)微小血管密度。
【0071】
一軸または二軸応力をかけたサンプルに対してリアルタイムで適用できる、Tower et al.(2002、Fiber alignment imaging during mechanical testing of soft tissues、AnnBiomed Eng.、30(10):1221-33)の偏光顕微鏡技術により、線維の配向を評価する。ランゲンドルフ灌流の間、脱細胞化ECMの基本的な機械的性質(コンプライアンス、弾性、破裂圧力)を記録し、新たに単離した心臓と比較する。
【0072】
セクションB. 脱細胞化(パートII)
実施例1-ラット心臓の脱細胞化
12週齢のF344 Fischer雄ラット(Harlan Labs、PO Box 29176 Indianapolis、IN 46229)に、100mg/kgケタミン(Phoenix Pharmaceutical、Inc.、St. Joseph、MO)および10mg/kgキシラジン(Phoenix Pharmaceutical、Inc.、St. Joseph、MO)の腹腔内注射を使用して麻酔をかけた。左大腿静脈を介した全身ヘパリン化(American Pharmaceutical Partners、Inc.、Schaumberg、IL)の後、胸骨正中切開を行って、心膜を開いた。胸骨後脂肪体を除去し、上行胸部大動脈を切開し、その枝部を結紮した。大静脈および肺静脈、肺動脈および胸部大動脈を離断した後、心臓を胸部から取り出した。プレフィルド1.8 mm大動脈カニューレ(Radnoti Glass、Monrovia、CA)を、上行大動脈に挿入して、逆行冠灌流(ランゲンドルフ)を行った。心臓に、10μMアデノシンを含有するヘパリン化PBS(Hyclone、Logan、UT)を、75cm H2Oの冠灌流圧で15分間灌流させた後、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)または1%ポリエチレングリコール1000(PEG 1000)(EMD Biosciences、La Jolla、Germany)または1%Triton-X 100(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水を2〜15時間灌流させた。この後、15分間の脱イオン水灌流、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水での30分間の灌流を行った。次いで、心臓に、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、および0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))を124時間連続的に灌流させた。
【0073】
1%PEG、1%Triton-X 100、または1%SDSのいずれかでの420分間の逆行灌流の後、PEGおよびTriton-X 100灌流によって浮腫性の不透明な外見が誘発され、SDS灌流はより劇的な変化を生じ、不透明なエレメントがゆっくりと洗い流されるのに伴ってほぼ半透明の移植片を生じた。3つの全てのプロトコルに供した心臓は、極めて無傷なままで、灌流プロトコル(77.4 mmHgの一定の冠灌流圧にて)を通じて冠破裂または大動脈弁不全の兆候はなかった。冠血流は、 3つのプロトコル全てにおいて、灌流の最初の60分間は減少し、SDS灌流の間に正常化し、Triton-X 100およびPEG灌流においては増加したままであった。SDS灌流は、計算した冠抵抗においてもっとも高い初期増加を誘発した(最大250mmHg.s.ml-1)、次いで、Triton-X(最大200mmHg.s.ml-1)およびPEG(最大150mmHg.s.ml-1)が続いた。
【0074】
界面活性剤を灌流させた心臓組織の組織学的切片を使用して、PEGおよびTriton-X 100で処理された心臓の両方において観察時間を通して細胞化が不完全であることが確定された。ヘマトキシリン-エオシン(HE)染色により核および横紋フィラメントが示された。対照的に、SDS灌流心臓の切片において、核または収縮フィラメントは検出されなかった。しかし、SDS処理心臓において、血管構造およびECM線維方向は保存されていた。
【0075】
初期脱細胞化の後にECMからイオン性SDSを除去するために、臓器にTriton-X 100を30分間灌流させた。さらに、全ての界面活性剤を確実に完全に洗い流し、生理学的pHを再度確立するために、脱細胞化臓器に脱イオン水およびPBSを、124時間、広範囲にわたって灌流させた。
【0076】
実施例2-ラット腎臓の脱細胞化
腎臓を単離するために、腹膜内容物全体をウェットガーゼに包み、注意深く横に動かして後腹膜腔を露出した。腸間膜血管を結紮し、離断した。腹部大動脈を結紮し、腎動脈が始まる下で離断した。胸部大動脈を横隔膜のちょうど上で離断し、1.8 mm大動脈カニューレ(Radnoti Glass、Monrovia、CA)を使用してカニューレ挿入した。腎臓を後腹腔から注意深く除去し、滅菌PBS(Hyclone、Logan、UT)に沈めて、腎動脈に対する牽引力を最小限にした。15分間のヘパリン化PBSでの灌流の後、1%SDS(Invitrogen、Carlsbad、CA)含有脱イオン水での2〜16時間の灌流、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水での30分間の灌流を行った。次いで、肝臓を、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))で、124時間、連続的に灌流した。
【0077】
420分間のSDS灌流、そしてその後のTriton-X 100により、無傷血管系および臓器構造を有する完全に脱細胞化腎臓ECM足場が産生された。エバンスブルー灌流により、脱細胞化心臓ECMと同様の無傷血管系を確認した。脱細胞化した腎皮質のモバット・ペンタクローム染色により、無傷の糸球体、ならびに無傷の細胞または核の全くない近位および遠位尿細管基底膜が示された。脱細胞化した腎髄質の染色により、無傷細管および集合管基底膜が示された。脱細胞化した腎皮質のSEMにより、無傷の糸球体および細管基底膜を確認した。糸球体をその周囲の近位および遠位の細管から区別する(delineating) ボーマン嚢、ならびに糸球体内の糸球体毛細血管基底膜等の特徴的な構造は保存されていた。脱細胞化した腎髄質のSEM画像は、腎盂に到達した無傷の延髄錐体を、乳頭へとつながる無傷の集合管基底膜と共に示した。つまり、腎臓の主要な超微細構造は全て、脱細胞化後に無傷であった。
【0078】
実施例3-ラット肺の脱細胞化
(気管を有する)肺を、胸部から注意深く除去し、滅菌PBS(Hyclone、Logan、UT)に沈めて、肺動脈に対する牽引力を最小限にした。15分間のヘパリン化PBS灌流の後、1%SDS(Invitrogen、Carlsbad、CA)含有脱イオン水での2〜12時間の灌流、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水での15分間の灌流を行った。次いで、肺を、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))で、124時間、連続的に灌流した。
【0079】
180分間のSDS灌流と、その後のTriton-X 100灌流により、無傷の気道および管を有する完全に脱細胞化した肺ECM足場が産生された。組織学切片のモバット・ペンタクローム染色により、肺において、コラーゲンおよびエラスチン等の主要構造タンパク質、ならびにプロテオグリカン等の可溶性エレメントも含むECMコンポーネントの存在が示された。しかし、核または無傷細胞は保持されていなかった。気道は、主要気管支から、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管および肺胞まで保存された。肺動脈から毛細血管レベルまでの血管床、および肺静脈は無傷のままであった。脱細胞化した肺のSEM顕微鏡写真により、細胞が保持された兆候はない、気管支、肺胞、および血管基底膜の保存が示された。肺胞間中隔および中隔基底膜に対して主要な構造支持を提供する弾性および細網線維の網は、肺間質内の毛細血管の密なネットワークを含めて無傷であった。
【0080】
脱細胞化した気管のSEM顕微鏡写真により、脱細胞化した硝子軟骨輪、および気道上皮のない粗い内腔基底膜を有する無傷ECM構造が示された。
【0081】
実施例4-ラット肝臓の脱細胞化
肝臓を単離するために、正中開腹により大静脈を露出し、切開し、マウス大動脈カニューレ(Radnoti Glass、Monrovia、CA)を使用してカニューレを挿入した。肝動脈および静脈、ならびに胆管を離断し、肝臓を腹部から注意深く除去し、滅菌PBS(Hyclone、Logan、UT)に沈めて、門脈に対する牽引力を最小限にした。15分間のヘパリン化PBSでの灌流の後、1%SDS(Invitrogen、Carlsbad、CA)含有脱イオン水で2〜12時間、および1%Triton-X(Sigma、St. Louis、MO)含有脱イオン水で15分間の灌流を行った。次いで、肝臓を、抗生物質含有PBS(100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、0.25μg/mlアンホテリシンB(Sigma、St. Louis、MO))で、124時間、連続的に灌流した。
【0082】
120分間のSDS灌流と、その後のTriton-X 100での灌流は、完全に脱細胞化された肝臓を生成するのに十分であった。脱細胞化肝臓のモバット・ペンタクローム染色から、中心静脈、ならびに肝動脈、胆管、および門脈を含む門脈腔を有する特徴的な肝臓編成が保持されていることが確認された。
【0083】
実施例5-脱細胞化臓器を評価するのに使用する方法および材料
組織構造および免疫蛍光.パラフィン包理した脱細胞化組織に対してモバット・ペンタクローム染色を、製造元(American Mastertech Scientific、Lodi、CA) の指示書に従って行った。簡単に言うと、脱パラフィンスライドを、ヴァーヘフ弾性染色法を使用して染色し、濯ぎ、2%塩化第二鉄中で識別し、濯ぎ、5%チオ硫酸ナトリウムに入れ、濯ぎ、3%氷酢酸中でブロッキングし、1%アルシアンブルー溶液中で染色し、濯ぎ、クロセインスカーレット-酸フクシン中で染色し、濯ぎ、1%氷酢酸に浸し、5%リンタングステン酸中で脱染し、1%氷酢酸に浸し、脱水し、アルコールサフラン溶液に入れ、脱水し、載置し、カバーで覆った。
【0084】
脱細胞化した組織に対して免疫蛍光染色を行った。以下のように、パラフィン包理した組織(再細胞化した組織)に対して抗原回復を行ったが、凍結切片(脱細胞化した組織)に対しては行わなかった:すなわち、パラフィン切片からワックスを除去し、キシレンを2回それぞれ5分間交換し、その後連続的なアルコール勾配に供し、冷たい水道流水で濯いで、再水和させた。次いで、スライドを、抗原回復溶液(2.94gクエン酸三ナトリウム、22mlの0.2M塩酸溶液、978ml超純水、pH6.0に調節)に入れ、30分間煮沸した。冷たい水道流水の下で10分間濯いだ後、免疫染色を開始した。凍結切片を、染色する前に、4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)含有1×PBS(Mediatech、Herndon、VA)で15分間、室温にて固定した。スライドを、4%ウシ胎仔血清(FBS;HyClone、Logan、UT)含有1×PBSで、30分間、室温にてブロックした。サンプルを、希釈した一次抗体および二次抗体(Ab)と、1時間、室温にて、連続的にインキュベートした。各工程の間、スライドを1×PBSで3回洗浄した(それぞれ5〜10分間)。コラーゲンI(ヤギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-8788)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、コラーゲンIII(ヤギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-2405)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、フィブロネクチン(ヤギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-6953)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、およびラミニン(ウサギポリクローナルIgG(Cat. No. sc-20142)、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)に対する一次抗体を、ブロッキング緩衝液で1:40希釈して使用した。二次抗体のウシ抗ヤギIgGフィコエリチン(Cat. No. sc-3747、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)、およびウシ抗ウサギIgGフィコエリチン(Cat. No. sc-3750、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、CA)を、ブロッキング緩衝液で1:80希釈して使用した。スライドを、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Vectashield、Vector Laboratories、Inc.、Burlingame、CA)を含有する硬化封入培地中で、カバーガラス(Fisherbrand 22 x 60、Pittsburgh、PA)で覆った。ImagePro Plus 4.5.1(Mediacybernetics、Silver Spring、MD)を使用したNikon Eclipse TE200倒立顕微鏡(Fryer Co. Inc.、Huntley、IL)上に、ImagePro Plus 4.5.1(Mediacybernetics、Silver Spring、MD)を使用して画像を記録した。
【0085】
走査型電子顕微鏡. 正常および脱細胞化した組織を、2.5%グルタルアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)含有0.1Mカコジル酸緩衝液(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)で、15分間、灌流固定した。次いで、組織を、0.1 Mカコジル酸緩衝液中で、15分間、2回濯いだ。1%四酸化オスミウム(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)で、60分間後固定を行った。次いで、濃度を上昇させていったEtOH(50%で10分間、70%で10分間を2回、80%で10分間、95%で10分間を2回、100%で10分間を2回)において組織サンプルを脱水した。次いで、組織サンプルを、Tousimis Samdri-780A(Tousimis、Rockville、MD)において臨界点乾燥に供した。Denton DV-502A真空蒸発器(Denton Vacuum、Moorestown、NJ)において、30秒間の金/パラジウムスパッタコーティングによりコーティングを行った。Hitachi S4700電解放射走査型電子顕微鏡(Hitachi High Technologies America、Pleasanton、CA)を使用して、走査型電子顕微鏡画像を撮影した。
【0086】
機械的検査.中心領域がおよそ5 mm×5 mmで、十字(cross)の軸が心臓の周縁および長手方向に方向付くように、心筋組織の十字体(crosses)をラットの左心室から切り出した。組織十字体の初期厚みをマイクロメータで測定したところ、組織十字体の中心において3.59±0.14mmであった。十字体を脱細胞化したラット左心室組織からも、同じ方向および同じ中心領域の大きさで切り出した。脱細胞化サンプルの初期厚みは238.5±38.9μmであった。さらに、フィブリンゲルの機械的性質を検査し、別の組織工学用足場を血管および心臓組織を操作(engineering)するのに使用した。フィブリンゲルを、6.6mgのフィブリン/mlの最終濃度で、十字型鋳型に流し込んだ。フィブリンゲルの平均厚みは、165.2±67.3μmであった。全てのサンプルを、クランプを介して、二軸機械的検査機械(InstronCorporation、Norwood、MA)に取り付け、PBSに沈め、40%の歪みで等二軸に引っ張った。静的かつ受動的な機械的性質を正確に精査するために、サンプルを、4%歪みの増分で引っ張り、それぞれの歪み値において少なくとも60秒間弛緩させた。力値を断面積に対して特定の軸方向(5 mm×初期厚み)に正規化することにより、力を工学的応力に変換した。工学的応力を、初期長さにより正規化された変位(displacement)として計算した。二本の軸間、およびサンプルグループ間のデータを比較するために、接線係数を以下のように計算した:
[T(ε= 40%歪み) - T(ε= 36%歪み)]/4%歪み
式中、Tは工学的応力、およびεは工学的歪みである。接線係数の値を平均化し、二本の軸(周縁および長手)、ならびにグループ間で比較した。
【0087】
実施例6-脱細胞化臓器の生体適合性の評価
生体適合性を評価するために、1ccの標準的な拡張培地(イスコフ改変ダルベッコ培地(Gibco、Carlsbad、CA)、10%ウシ胎仔血清(HyClone、Logan、UT)、100U/mlペニシリン-G(Gibco、Carlsbad、CA)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco、Carlsbad、CA)、2 mmol/L L-グルタミン(Invitrogen、Carlsbad、CA)、0.1mmol/L 2-メルカプトエタノール(Gibco、Carlsbad、CA)に懸濁した100,000のマウス胚幹細胞(mESC)を、ECM切片およびコントロールプレートに、特別な成長因子刺激またはフィーダー細胞支持体無しに播種した。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を、10μg/mlの濃度で細胞培養培地に添加して、細胞核を標識化して、細胞付着および拡張の定量を可能にした。UV光の下での画像、ならびに基準点、24、48 および72時間後の位相差を、Nikon Eclipse TE200倒立顕微鏡(FryerCo. Inc.、Huntley、IL)上にImagePro Plus 4.5.1(Mediacybernetics、Silver Spring、MD)を使用して、記録した。
【0088】
脱細胞化したECMは、細胞生存性、付着および増殖に適合した。播種したmESCは、ECM足場に生着し、細胞播種の72時間以内にマトリックスに侵入し始めた。
【0089】
実施例7-脱細胞化臓器の評価
SDS脱細胞化したラット心臓の大動脈弁能力および冠血管床の完全状態を、2%エバンスブルー染料でのランゲンドルフ灌流により評価した。染料での左心室充満は観察されなかったため、大動脈弁が無傷であることが示された。肉眼的に、染料の漏出の兆候無しに、冠動脈の4つ目の分岐点までの充満を確認した。その後、組織切片において、大きい(150μm)および小さい(20μm)動脈および静脈の灌流を、エバンスブルー染色された血管基底膜の赤色蛍光によって確認した。
【0090】
主要な心臓ECMコンポーネントの保持を確認するために、SDS脱細胞化ECM足場の免疫蛍光染色を行った。これにより、コラーゲンIおよびIII、フィブロネクチン、ならびにラミニン等の主要な心臓ECMコンポーネントの存在を確認したが、心臓ミオシン重鎖またはサルコメアアルファアクチンを含む無傷の核または収縮エレメントが保持された兆候はなかった。
【0091】
SDS脱細胞化心臓ECMの走査型電子顕微鏡写真(SEM)は、組織の厚み全体にわたって細胞が不在である大動脈壁および大動脈弁尖において線維配向および組成が保存されたことを実証した。脱細胞化された左および右の心室壁は、ECM線維組成(織り、筋交い(strut)、巻き(coil))および配向を保持し、筋線維は完全に除去されていた。両方の心室の保持されたECMにおいて、内皮または平滑筋細胞のない異なる直径の無傷血管基底が観察された。さらに、無傷心外膜基底膜の下の高密度の心外膜線維の薄層が保持されていた。
【0092】
脱細胞化心臓組織の機械的性質を評価するために、二軸検査を行い、心臓組織工学において人工ECM足場としてよく使用されるフィブリンゲルと比較した。正常ラット心室および脱細胞化サンプルは、応力歪み挙動に関して高度に異方性であった。逆に、フィブリンゲルサンプルにおいては、応力歪み性質は、2つの主方向(principal directions)間で極めて似ていた。正常ラット心室および脱細胞化グループの全てのサンプルに応力歪み挙動の方向依存性が存在し、応力歪み性質の等方性はフィブリンゲルグループの全てのサンプルに特有のものあった。
【0093】
これらの2つのグループ間で、そして心臓の主軸間でも、応力歪み性質を比較するために、周縁および長手方向の両方において40%歪みで接線係数を計算した(方程式については実施例5を参照のこと)。両方の方向で、脱細胞化サンプルグループが、正常ラット心室およびフィブリンゲルサンプルグループよりも有意に高い係数を有したことに留意されたい。しかし、正常ラット心室および脱細胞化したマトリックスの両方については2つの方向において係数に有意な差があったが、フィブリンゲルについては差はなかった。
【0094】
無傷左心室組織については、40%歪みでの応力は、長手方向では5〜14kPaの範囲、周縁方向では15〜24kPaの範囲で変化し、これは既に公開されているデータと一致する。ラット心室組織および脱細胞化したラット心室組織の両方において、周縁方向は長手方向よりも堅く、十中八九心臓の筋肉線維配向によるものであろう。線維配向は心臓組織の厚みを通じて変化するが、線維の大部分は周縁方向に方向付けられるため、この方向に沿ってより堅いと予想される。脱細胞化組織は、無傷組織よりも顕著に堅かった。これも、細胞外マトリックスが細胞自体よりも堅く、ECMと細胞との組み合わせがECMだけの場合ほど堅そうにないことから予想できる。脱細胞化組織の接線係数の値は比較的大きいように思われるが、精製エラスチンについてのヤング係数の値(およそ600kPa)よりわずかに大きいだけで単一のコラーゲン線維のヤング係数(5 Mpa)よりも小さく、本明細書で決定された値は合理的な範囲内にある。
【0095】
実施例8-その他の臓器または組織の脱細胞化
ラット心臓、肺、腎臓および肝臓に加えて、本明細書に記載の灌流型脱細胞化プロトコルを骨格筋、膵臓、小腸、大腸、食道、胃、脾臓、脳、脊髄および骨に適用した場合にも同様の結果が生じた。
【0096】
実施例9-ブタ腎臓の脱細胞化
ヘパリン化雄動物からブタ腎臓を単離した。単離した臓器を灌流するために、腎動脈にカニューレ挿入し、PBS灌流で15分間にわたり血液を洗い出した。27Lの1%SDS含有脱イオン水での灌流を、35.5時間、50〜100mmHgの圧力下で行った。1%Triton-X-100含有脱イオン水での灌流を開始して、ECM足場からSDSを除去した。その後、脱細胞化腎臓の洗浄および緩衝を、抗生物質含有PBSでの120時間の灌流により行って、界面活性剤を除去し、生体適合性pHを得た。
【0097】
臓器の清浄は、灌流開始から2時間以内で観察された。灌流から12時間後にきれいな白色が現れた。臓器が半透明の白色になったところで脱細胞化を終了した。
【0098】
実施例10-脱細胞化心臓の移植
大動脈弁に対して遠位の大動脈にカニューレ挿入し、肺動脈幹の左枝(分岐の遠位側)、および下大静脈(IVC)以外の全ての他の大管および肺管を結紮することにより、F344ラット由来の心臓を準備した。ランゲンドルフ逆行冠灌流、および2リットルの1%SDSを12〜16時間にわたって使用することにより脱細胞化を成し遂げた。次いで、35mLの1%Triton-X-100で30〜40分間かけて心臓を再生した後、抗生物質および抗真菌剤含有PBSで72時間洗浄した。移植前にIVCを結紮した。
【0099】
脱細胞化心臓を受けるための大きい(380〜400グラム)RNUラットを準備した。鈍角モスキートクランプを、宿主動物のIVCおよび腹部大動脈の両方に適用して、吻合領域の単離を確実にした。脱細胞化心臓の大動脈を、8〜0絹縫合糸を使用して、腎枝部に近位および下に位置する宿主腹部大動脈に吻合した。脱細胞化心臓の肺動脈幹の左枝を宿主IVCの最も近い領域に吻合して、肺動脈幹に対する物理的応力を最小限にした。
【0100】
両方の管を宿主動物内に縫合した後にクランプを放し、脱細胞化心臓を宿主動物の血液で満たした。脱細胞化心臓および大動脈において、レシピエント動物の腹部大動脈圧力を視覚的に観察した。脱細胞化心臓は拡張し、血液で赤くなった。吻合部位における出血は最小限であった。クランプを放した(灌流の開始)3分後にヘパリンを投与し、心臓を撮影し、腹部に配置して、吻合部位に対する応力を最小限にした。滅菌状態で腹部を閉じ、回復について動物をモニタリングした。移植の55時間後、動物を安楽死させ、脱細胞化心臓を外植して観察した。ヘパリンを受けなかった動物は、切開および評価の際にLVにおいて大きな血栓を示した。また、血液が、心臓の左右両側にある冠動脈で観察された。
【0101】
他の移植実験では、両方の管を宿主動物内に縫合した後にクランプを放し、脱細胞化心臓を宿主動物の血液で満たした。脱細胞化心臓および大動脈において、レシピエント動物の腹部大動脈圧力を視覚的に観察した。脱細胞化心臓は拡張し、赤くなり、吻合部位における出血は最小限であった。クランプを放した(灌流の開始)3分後にヘパリンをIP注射により投与した(3000IU)。心臓を撮影し、腹部に配置して、吻合部位に対する応力を最小限にした。滅菌状態で腹部を閉じ、回復について動物をモニタリングした。移植のおよそ48時間後、動物が出血により死亡しているのが発見された。現在のところ、移植時間は55〜70分の範囲である。
【0102】
セクションC.再細胞化
実施例1-心臓ECM薄片の再細胞化
脱細胞化ECMの生体適合性を評価するために、1つの脱細胞化心臓の1mmの厚みの薄片を、筋原および内皮細胞系と共に培養した。2×105ラット骨格筋芽細胞、C2C12マウス筋芽細胞、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)、およびウシ肺内皮細胞(BPEC)を、組織切片上に播種し、標準的な条件下で7日間共培養した。筋原細胞は、ECM内を移動および拡大し、元の線維配向と整列した。これらの筋原細胞は、増殖の増加を示し、ECM薄片の大部分に完全に再集合した。内皮細胞系は、湿潤性成長がより少ないパターンを示し、移植片表面上に単層を形成した。これらの条件下では、検出可能な抗増殖性効果は見とめられなかった。
【0103】
実施例2-冠灌流による心臓ECMの再細胞化
冠灌流によって脱細胞化心臓ECM上および中に再生細胞を播種する効率を決定するために、脱細胞化心臓を臓器チャンバに移し、細胞培養条件(5%CO2、60%湿度、37℃)下で酸素処理した細胞培養培地で連続的に灌流した。120×106PKH-標識化HUVEC(50mlの内皮細胞成長培地に懸濁)を、40cm H2O冠灌流圧で注入した。冠排液を保存し、細胞を数えた。その後、排液を再循環させ、再度灌流させて、最大数の細胞を送達した。再循環を2回繰り返した。三度目の継代の後、およそ9O×106細胞が心臓内で保持されていた。心臓を、500mlの再循環している酸素処理された内皮細胞培養培地で、120時間、連続的に灌流した。その後、心臓を取り出し、低温切開のために包埋した。HUVECは、心臓全体の動脈および静脈残渣(residues)に制約したが、血管外ECMにいまだ完全に分散していなかった。
【0104】
実施例3-新生仔ラット心臓細胞を用いた脱細胞化ラット心臓の再細胞化
ラット新生仔心臓細胞の単離および調製. 1日目に、8〜10匹の1〜3日齢のSPF Fisher-344新生仔ラット(Harlan Labs、Indianapolis、IN)を5%吸入イソフルレン(Abbott Laboratories、NorthChicago、IL)で沈静状態にし、70%EtOHを噴霧し、すばやく胸骨正中切開を滅菌状態で行った。心臓を切除し、すぐに、HBSS(新生仔心筋細胞単離系由来の試薬#1(Worthington Biochemical Corporation、Lakewood、NJ))を含む氷上の50ml円錐管に入れた。上清を除去し、激しく旋回することにより冷たいHBSSで全心臓を1回洗浄した。心臓を5mlの冷たいHBSSを含む100 mm培養皿に移し、結合組織を除去し、残った組織を細かく刻んだ(<1mm2)。追加のHBSSを添加して、合計プレート容量を9mlにし、これに1mlトリプシン(試薬#2、Worthington kit)を添加して、50μg/mlの最終濃度を得た。プレートを、5℃クーラー内で一晩インキュベートした。
【0105】
2日目に、プレートをクーラーから出し、氷上の滅菌フードに入れた。組織およびトリプシン含有緩衝液を、広口ピペットを用いて氷上の50ml円錐管に移した。トリプシン阻害剤(試薬#3)を1ml HBSS(試薬#1)で再構成し、50 ml円錐管に添加し、静かに混合した。液体の表面上に空気をかけて、組織を60〜90秒間酸素処理した。その後、組織を37℃まで温め、5 mlリーボビッツL-15で再構成したコラゲナーゼ(300ユニット/ml)をゆっくりと添加した。組織を温かい(37℃)攪拌器バスに45分間入れた。次に、組織を10mlピペットを用いて10回滴定して、細胞を遊離させた後(3ml/秒)、 0.22μmフィルターで漉した。追加の5mlのL-15培地で組織を洗浄し、二度目の滴定を行い、同じ50ml円錐管に回収した。その後、細胞の溶液を、室温にて20分間インキュベートし、50×gで5分間回転させて、細胞をペレット化した。上清を穏やかに除去し、新生仔心筋細胞培地を使用して、細胞を再懸濁して、所望の容量にした。
【0106】
培地および溶液.全ての培地は滅菌フィルター処理し、暗所で5℃クーラー内で保管した。Worthington単離キットは、推奨されている培養培地であるリーボビッツL-15を含む。この培地は、2日目の組織処理のみに使用した。プレート化のために、本明細書に記載する代替カルシウム含有培地を使用した。ワージントンリーボビッツL-15培地:リーボビッツ培地粉末を、1L細胞培養等級水を使用して再構成した。リーボビッツL-15培地は、140mg/ml CaCl、93.68mg/ml MgCl、および97.67mg/ml MgSを含む。新生仔心筋細胞培地:イスコフ改変ダルベッコ培地(Gibco、Cat. No. 12440-053)に、10%ウシ胎仔血清(HyClone)、100U/mlペニシリン-G(Gibco)、100U/mlストレプトマイシン(Gibco)、2mmol/L L-グルタミン(Invitrogen)、および0.1mmol/L 2-メルカプトエタノール(Gibco、Cat. No. 21985-023) を補い、使用前に滅菌フィルターで処理した。アンホテリシン-Bを必要に応じて添加した(0.25μg/ml最終濃度)。この培地を、1.2mM CaCl(Fisher Scientific、Cat. No.C614-500)、および0.8mM MgCl(Sigma、Cat. No. M-0250)で増強した。
【0107】
再細胞化のインビトロ培養分析.生体人工心臓を作製するための工程として、単離されたECMを新生仔心臓由来細胞で再細胞化した。完全に脱細胞化心臓(本明細書に記載のように作製)に、50×106の新たに単離したラット新生仔心筋細胞、線維芽細胞、内皮および平滑筋細胞の組み合わせを注射した。次いで、心臓組織を薄片にし、薄片をインビトロで培養して、脱細胞化ECMの生体適合性、および得られる構造物が心筋輪(myocardium ring)に発達する能力を検査した。
【0108】
得られた輪における最小の収縮を、24時間後に顕微鏡で観察したところ、移植された細胞が、脱細胞化ECMに付着および生着できることが実証された。顕微鏡では、細胞はECM線維方向に沿って配向されていた。免疫蛍光染色によって、心臓ミオシン重鎖を発現している心筋細胞の生存および生着が確認された。4日以内に、脱細胞化したマトリックス上に収縮細胞パッチのクラスタが観察され、これは8日目に同期的に収縮する組織輪(tissue ring)に発達した。
【0109】
10日目に、これらの輪を2本のロッドの間に載置して、異なる前負荷条件下で収縮力を測定した。輪は最大4Hzの周波数まで電気的にペースアップすることができ、最大0.65gの前負荷において最大3mNの収縮力を生じた。従って、この再細胞化のインビトロ組織培養アプローチによれば、人工ECM構造物を用いて最適化かつ操作された心臓組織輪により生成されるものと同等の有効な力を生成する収縮組織が得られた。
【0110】
灌流を介した脱細胞化心臓の再細胞化. 再細胞化(50×106の新たに単離されたラット新生仔心筋細胞、線維芽細胞、内皮および平滑筋細胞)足場を、前負荷および後負荷を徐々に増加した拍動左心室拡張(1日目:前負荷4〜12mmHg、後負荷3〜7mmHg)、拍動冠血流(1日目:7ml/分)、ならびに滅菌心臓組織培養条件(5%CO2、60%H2O、37℃)下での電気刺激(2日目:1Hz)を含むラット心臓生理を模した灌流可能なバイオリアクター(n=10)に載置した。灌流した臓器培養物を1〜4週間維持した。圧力、流量およびEKGを、培養期間全体を通じて、15分毎に30秒間記録した。発生期生体人工心臓の映像を、細胞播種から4、6および10日目に記録した。
【0111】
細胞播種の10日後に、左心室へ圧力プローブを挿入して左心室内圧(LVP)を記録し、刺激周波数を0.1Hzから10Hzに徐々に上げながら壁運動を映像記録し、フェニレフリン(PE)での薬理学的刺激を行うことを含めて、さらに徹底的な機能性評価を行った。再細胞化心臓は、単発ペース(single pace)に収縮応答を示し、ペース(paced)収縮の後に自然発生的な収縮を示し、これに対応してLVPが上昇した。単発ペースの後、心臓は3回の自然発生的な収縮を示し、細動状態に転向した。促進された収縮と同様に、自然発生的な脱分極がLVPにおいて対応する上昇、および記録可能なQRS群を生じ、おそらく発展中の(developing)安定した伝導パターンの形成を示していた。
【0112】
いったん刺激周波数を0.4Hzまで上昇させると、誘発された収縮の後に平均で2回の自然発生的な収縮が生じた。最大1Hzのペース周波数では、1回の自然発生的な収縮しか起きなかった。5Hzのペース周波数では、自然発生的な収縮は起きなかった。最大捕捉率は5Hzであり、これは、成熟心筋についての250msの不応期と一致する。100μMのPEでの灌流後、1.7Hzの周波数で通常の自然発生的な脱分極が生じ、LVPの対応する上昇と関連付けられた。
【0113】
10日目の組織学的分析で、左心室壁(0.5〜1.2mm)の厚み全体にわたる細胞の分散および生着が明らかになった。心筋細胞は、心室線維方向に沿って整列し、成熟心筋に似た高密度で組織化された移植片、および発達中の心筋に似た密度がより低い未熟移植片の領域を形成した。心臓ミオシン重鎖についての免疫蛍光染色により、心筋細胞表現型を確認した。新たに発達した心筋にわたって高い毛細血管密度が維持されており、毛細血管の間の平均距離はおよそ20μmであり、これは成熟ラット心筋について報告されているものと同様であった。フォン・ヴィレブランド因子(vWF: von Willebrand factor)についての免疫蛍光染色により、内皮細胞表現型を確認した。移植片厚み全体にわたり細胞生存性が維持されており、冠灌流を通じて十分な酸素および栄養素供給を示した。
【0114】
セクションD.追加の脱細胞化および再細胞化
実施例1-ラット肝臓単離手順
体重1kg当たり75mgのケタミン、および体重1kg当たり10mgのキシラジンで、各ラットを麻酔した。ラットの腹部を剃り、ベタジンで滅菌した。ラットに大用量のナトリウムヘパリン(体重100g当たり100μL ヘパリン(1,000UI/mLストック))を、胃内静脈に静脈内投与した。
【0115】
ヘパリンが効果を発揮している間、バイオリアクターフラスコを組み立てた。簡単に言うと、タイゴンチューブを250mLフラスコに取り付け(ベースの側面に接続させ)、低減配管アダプターを(以下に記載する洗浄工程の間に排口として作用する)配管に取り付けた。ヘパリンが効果を発揮している間、ゴムストッパーを有するカテーテルを組み立てた;すなわち、12ccの注射器をPBSで満たし、3方向止水栓を注射器に取り付けた。18ゲージ針を注射器に取り付けて、No.8ゴムストッパーに押し通した。肝臓が管の中で確実に平らになるように、針をストッパーの底に対して平坦に維持することが好ましい。溶融フランジを有する短いポリエチレン配管(例えば、PE160)を、アルコール滅菌した後に、配管の自由端に滑り込ませた。少量のPBSをカテーテルに押し通して、アルコールを流し、10cmの ペトリ皿を、単離した肝臓を覆うのに十分なPBSで満たした。
【0116】
ヘパリンを循環させた後、腹部皮膚を切断し、下にある腹部筋肉を晒した。半開腹(mid-laparotomy)を行った後、側面の横断切開または腹部壁に沿った正中切開を行い、引っ張って肝臓を晒した。肝臓を十二指腸、胃、横隔膜、および前腹部壁に付着させる靭帯は、やさしく(グリソン嚢は脆弱である)切り取った。一般的な胆管、肝動脈、および門脈を切り、カテーテルを挿入するのに十分な長さを残し、最終的に、肝上の下大静脈を切断した。残った付着肝上の下大静脈をしっかり捕捉しながら肝臓を取り除き、肝臓を、PBSを含有するペトリ皿に入れた。残った靭帯は全て切除した。
【0117】
実施例2-肝臓の脱細胞化
準備したカテーテルを門脈に挿入し、プロリン(proline)縫合糸で結紮した。ラインの完全性を検証し、注射器に入ったPBS(Mg+2およびCa+2は含まない)を使用した灌流によって、肝臓から潜血を除去した。肝臓ゴムストッパーをバイオリアクターにはめた。フラスコを回収リザーバーの上に配置し、十分な長さのラインを介して1%SDS(1.6L)のコンテナを取り付けて、およそ20mm Hgの最大圧力を生成するカラムを作製した。2〜4時間の灌流の後、1%SDSのコンテナを空にし、追加の1.6Lの1%SDSで再度満たした。合計4つの1.6Lの1%SDSバッチを典型的に使用して、肝臓を灌流した。脱細胞化の後、肝臓の外見はきれいな白色であり、脈管が見えた。
【0118】
2日目に、SDSリザーバーを外し、dH2Oで満たした60ml 注射器に置き換えた。水で濯いだ後に、60mLの1%Triton X-100、その後、さらにdH2Oを含む60mLの洗浄液が続いた。濯いだ肝臓は洗浄のために配置され、小さいポンプ(Masterflex、約1.5 mL/分である50%の最大容量)を使用して抗菌剤(例えば、ペニシリン-ストレプトマイシン(例えば、Pen-Strep(登録商標)))を含むPBSで灌流を開始した。タイゴンチューブをバイオリアクター/フラスコ排口からPBS リザーバーまで延ばした。ポンプから、フラスコ上の3方向止水栓に取り付けた0.8ミクロンフィルター まで配管を延ばした。18ゲージ注射針を、PBSリザーバー内の配管に取り付けて、導入ラインよりも低く保った。6時間後、洗浄液を、1×濃度の新たなPBS w/Pen-Strepで置き換え、0.8ミクロンフィルターを交換し、臓器を一晩洗浄した。
【0119】
3日目に、1×濃度の500mlのPBS w/Pen-Strepをさらに2回交換して洗浄を続けた。PBSを交換するたびに、0.8ミクロンフィルターを交換した。3回目の洗浄は朝に開始し、6時間後に交換し、最終的な洗浄を再び一晩続行した。4日目に、再細胞化のための肝臓の準備が整っていた。
【0120】
1.6Lの1%SDSで2回洗浄した肝臓には平均で14.27%のDNAが残存しており、1.6Lの1%SDSで4回洗浄した肝臓は平均で5.36%のDNAが残存していた。つまり、1%SDSでの2回の洗浄は(死体と比べて)約86%のDNAを除去し、1%SDSでの4回の洗浄は(死体と比べて)約95%のDNAを除去した。
【0121】
図3Aは、ラット肝臓およびラット腎臓の脱細胞化を示し、図3Bはラット心臓およびラット肺の脱細胞化を示す。真ん中の部分は脱細胞化が進行中の写真を含み、左右の写真は脱細胞化臓器のSEM 画像である。図4は、染料で灌流している脱細胞化したブタ腎臓およびラット腎臓を示し、また脱細胞化腎臓の糸球体および細管のEM写真も示す。図5は、本明細書に記載したように脱細胞化したラット死体の全体を示す。
【0122】
実施例3-肝臓の再細胞化
温めた培地(37℃)に細胞(4000万個の初代肝臓由来細胞またはHepG2ヒト細胞)を、1ミリリットル当たり約800万細胞(典型的に5mL)で懸濁し、注射針に投入することによって再細胞化を行った。門脈を介して細胞を注入し、その間、肝臓はバイオリアクター内またはペトリ皿内に入れた。追加的または代替的に、細胞は、任意の他の血管アクセスを介して注入されるか、または実質に直接注射され得ることに留意されたい。
【0123】
初代肝臓由来細胞は、ワージントン酵素解離キットを使用した、成体ラット肝臓の酵素的消化により得た。簡単に言うと、ラットから取り除く前に、ラット肝臓に、カルシウムおよびマグネシウムを含まない1×のハンクス平衡塩溶液(キットバイアル#1)を10分間、門脈を介して20ml/分で灌流させた。次に、肝臓に、キットバイアル#2および#3から得たMOPS緩衝液含有酵素(コラゲナーゼ(22,500ユニット)、エラスターゼ(30ユニット)、およびDNアーゼI(1,000ユニット))を有する100mLのL-15を、10〜15分間、20 mL/分で再循環させた。この後、臓器の機械的破壊を行って細胞を遊離させた。再細胞化のために使用する前に、細胞を、100gにて遠心分離し、培養培地に2回再懸濁させた。
【0124】
プロセスの間に観察される視覚的合図(例えば、灌流する肝葉の張力、肝臓からの細胞エスケープ、および標的肝葉にわたる細胞分布)に基づいて、灌流の速度を制御した。再細胞化の後、バイオリアクター内の肝臓を、37℃および5%CO2のインキュベーターに入れた。酸素処理した培地リザーバー(50mLの培地を含む)を取り付け、加湿カルボゲン(95%酸素、5%二酸化炭素)でリザーバー内の培地を泡立てた。蠕動ポンプを使用して、2〜10mL/分の範囲の速度で、培地(37℃)を肝臓に再循環させた。培地を7日間毎日交換して、再細胞化ラット肝臓を維持した(ただし、都合の良いときに実験は終了した)。培地はサンプルであり、毎日の交換の間-2O℃にて保管されて、アルブミンおよび尿素を測定した。7日目、シトクロムP-450アッセイを行った。
【0125】
図6は、脱細胞化したラット肝臓の再細胞化を示す。門脈カテーテルを介して注射針を単一葉に入れて、初代肝細胞を注射した。図7は、初代ラット肝細胞の、脱細胞化したラット肝臓の尾状葉(A)または下/上右側葉(B)への標的送達を示す。
【0126】
図8は、1週間培養した再細胞化したラット肝臓の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す。これらのデータは、微小構造レベルでの死体肝臓と再細胞化肝臓との類似性を示す。細胞をマトリックス床に取り込み、新たに単離した死体組織におけるものと同様の形状を有していた。図9はマッソントリクローム(A)およびHE(B)染色を示し、図10AはTUNEL分析を示し、図10Bは尾状突起にラット肝細胞を注射してから1週間後の再細胞化したラット肝臓マッソントリクローム染色を示す。これらの結果は、肝細胞が送達可能で、マトリックスに保持され、栄養素の灌流によって生存可能なままで維持されることを実証している。.
【0127】
図11は、尾状突起(A)または上/下右側葉(B)にヒト肝細胞系(HepG2)を注射して1週間後の再細胞化ラット肝臓のマッソントリクローム染色を示す。図12は、初代ラット肝細胞(1〜6)およびヒトHepG2細胞系(7および8)の細胞保持を示すグラフである。肝臓に灌流された細胞の合計数について注射前に細胞を数え、マトリックスを通り過ぎて最終的にペトリ皿に流れた非付着細胞を数えた。この差はマトリックスに保持された細胞を表す。図13は、脱細胞化したラット肝臓に注射した後に、ヒトHepG2細胞が生存可能で、増殖することを示すグラフである。
【0128】
実施例4-肝臓機能
脱細胞化および再細胞化肝臓の機能を以下のように評価した。初代ラット肝細胞で再細胞化した肝臓における、尿素生成(図14)、アルブミン生成(図15)、およびシトクロムP-450IAI(エトキシレゾルフィン-O-デエチラーゼ(EROD))活性(図16)を評価した。尿素生成はベルトロー(Berthelot)/比色分析アッセイキット(Pointe Scientific Inc.)を用いて決定し、アルブミン生成およびEROD活性については、Culture of Cells for Tissue Engineering (Vunjak-Novakovic & Freshney、eds.、2006、Wiley-Liss)から適応させた方法を用いてアッセイした。これらの実験は、培養期間の間、肝臓由来細胞が、肝臓に特異的な機能性を保持することを実証した。
【0129】
実施例5-再細胞化後の細胞生存性
図17は、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で少なくとも3週間、胎仔および成体由来の幹細胞/始原細胞が増殖したことを示すグラフである。細胞の増殖は、高倍率視野ごとの核DAPI染色の数を数えることにより決定した。図18は、マウス胚幹細胞(mESC)および増殖している成体筋肉始原細胞(骨格筋芽細胞;SKMB)が、脱細胞化心臓、肺、肝臓、および腎臓上で生存可能であったことを示すグラフである。細胞の生存性は、tunnelアッセイを用いて、3週間後のアポトーシスの程度、対、DAPI染色細胞核の合計数を検出することにより決定した。
【0130】
ヒト胚幹(ES)細胞およびヒト由来多能性幹(iPS)細胞は、脱細胞化心臓マトリックス上で少なくとも1週間増殖した。簡単に言うと、ヒトES細胞(WiCeIl Research Instituteから得たH9;National Stem Cell Bank(NSCB)から得たWA09)と、ヒトiPS細胞のIMR90サブクローン(Zhang et al.、2009、Circ. Res.、104:e30-e41に記載されるようにOCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28レンチウイルス導入遺伝子を用いて生成され、University of WisconsinのTimothy Kamp博士から得た)とを、脱細胞化したマトリックス上で比較した。増殖中の線維芽細胞の中に20〜50%の心臓細胞を含むH9細胞およびiPS細胞、ならびにその他の鼓動していない細胞を、単離されてマトリックスの内部を晒されたラット脱細胞化心臓マトリックスのチャンバ特異的(右または左の心房または心室)部分を含むウェルに、それぞれ200,000細胞および90,000細胞の密度でプレート化した。細胞は、単純に脱細胞化したマトリックス上に堆積させた。細胞は、20%血清を含む培地中で3日間増殖させ、その後4日間は血清を2%まで低くして、増殖中の筋肉細胞が鼓動する筋細胞表現型にインビトロで「シフト」することと一致させた。コントロール細胞を、ゼラチン(0.1%)でコーティングした同一のウェルにプレート化し、同一の条件したで増殖させた。細胞をEB20培地で増殖させた。培養物を顕微鏡で毎日評価し、鼓動を打つ細胞はビデオカメラで記録した。1週間培養した後、生/死アッセイを行って、細胞生存性を検査した。さらに、免疫組織化学法を行って、心臓関連タンパク質の存在を実証した。脱細胞化したマトリックス上で増殖した細胞は3〜4日目で鼓動するのが観察されたが、ゼラチン上の細胞は鼓動しなかった。5日目には、マトリックス上の細胞が拡大し、より大きい領域で鼓動する細胞が観察された。同一の条件でゼラチン上で増殖した細胞上では、鼓動は、わずかであるか、または存在しなかった。
【0131】
実施例6-再細胞化プロセス
細胞の単離
ワージントンプロトコルを使用し、心臓のほぼ真ん中で切ることにより、仔ラット由来のLVおよびRVを単離した。基部から第2のLAD枝部までの領域を捨て、残りを約10mLのHBSSに入れた。任意に、心臓のLVおよびRV部分を、トリプシン中で、最長18〜22時間、5℃にて一晩インキュベートしてもよい。脱細胞化したマトリックスに注射するために細胞を注射器に引き上げた後、残った細胞をコントロールとして使用した(例えば、10mL培地を添加して、細胞をプレート化した)。
【0132】
細胞外マトリックス
よく洗浄した脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)を得た。例えば、心臓細胞外マトリックスを、最低2000mLのPBS溶液を用いて3〜4日間洗浄した。18 ga.カニューレ(IN:LVを通る僧帽弁;OUT:大動脈)を使用して心臓にカニューレ挿入し、4-0縫合糸を用いて固定した。LVカニューレは、LV内腔内にある先端付近まで進めた(例えば、LVカニューレの先端は僧帽弁から約0.7cmのところにあった)。漏出がないか、構造をチェックした。任意に、25〜28mL/分の[心臓前(pre-heart)]流れプローブ範囲で少なくとも5〜10秒間、ポンプを開始することにより「高速」テストを行って、細胞を導入する前にしっかりとしたECM接続を確実にすることができる。
【0133】
細胞注射
100〜120mLの培地バイオリアクターに入れ、60mm培養プレートを心臓の先端の下に配置して、余剰細胞を受け、冠閉塞を回避し、かつ変異細胞からのアポトーシスシグナル伝達を回避した。27gaの針、および1ccのTB注射器を使用して細胞を注射した。およそ一回の注射当たりに70μLの細胞を心室壁に注射し、針の進入角度は垂線(normal)に対して15度であった。前方LV壁に10〜12回、心臓の先端に3〜4回、細胞を注射した。注射した細胞の合計容量は、約1.3〜1.5mLであるはずである。いくらかの逆流および細胞の欠失は予想される。心臓をバイオリアクター内に下ろし、ポンプおよびタンク(95%O2および5%CO2)を作動させ、漏出、流れの問題、およびその他のあらゆる技術的な問題について心臓をモニタリングした。翌日、リアクターを開け、ペース線を取り付けた。周波数:1 Hz;遅延:170 MS;持続時間:6 MS;電圧範囲:45〜60V;流速(IN):18〜22mL/分;流速(OUT):14〜18mL/分;差、約6〜7 mL/分で、ペース(連続的)を開始した。
【0134】
培地
以下のレシピは1リットルのものである。IMDMに、100mL FBS10%;5 mL Pen Strep;10 mL L-Glut;168μL Amp-B;1mLB-Mercap;20mLウマ血清;180mgCa2+;96mg Mg2+;および50mgビタミンCを添加する。
【0135】
NNCM(NEO)細胞
新生仔心筋細胞(NNCMまたはNEO細胞)をワージントンキットプレップから得た。NEO細胞は温度感受性であった。約35℃まで落ちると、同じように鼓動しなくなった。NEO細胞は、コンフルエントではないものの、24時間以内に2Dプレート上で鼓動を開始した。NEO細胞が増殖し一緒に鼓動し始めると、互いの上で増殖し、同期して鼓動し始める。最終的に、細胞は自らを機械的に制限し、通常10〜16日目で鼓動を止める。
【0136】
実施例7-死体臓器での脱細胞化および再細胞化臓器の構造比較
図19は、脱細胞化心臓(右パネル)および死体心臓(左パネル)のSEM写真である。SEM写真は、左心室(LV)および右心室(RV)の両方について得た。写真から分かるように、灌流型脱細胞化心臓は、細胞成分を欠くが、脈管を含めて、無傷の心筋の空間的および構造的特徴を保持する。さらに、灌流型脱細胞化したマトリックスにおいて、細胞が完全に失われたにも関わらず、織り(w)、巻き(c)および筋交い(s)を含む構造的特徴が保持されているのを見ることができる。
【0137】
図20は、本明細書に記載するように脱細胞化および再細胞化したラット肝臓(右パネル)の組織学(上部)およびSEM(下部)比較を、死体ラット肝臓(左パネル)と比較して示す。これらの結果は、無傷肝臓由来の健康な肝細胞と、脱細胞化肝臓上で培養または播種された肝細胞との、形態的な類似性および構造編成を示す。HE画像は、再細胞化肝臓内の細胞が、脈管の周りで放射状に編成し始めたことを示し、これは新たに単離された健康な(死体)肝臓において見とめられる構造に類似している。細胞が実質全体に分布および/または実質全体を移動し、編成し始め、実験が続く限りマトリックス内に維持されることも示されている。SEM画像は、微小構造レベルにおいてさえも、死体および再細胞化マトリックスの細胞編成が類似していることを実証している。
【0138】
セクションE.灌流型、対、浸漬型の脱細胞化
実施例1-浸漬を用いた脱細胞化
本明細書に記載の灌流方法を用いて臓器(ラット肝臓、腎臓、心臓、肺、筋肉、皮膚、骨、脳、および血管系;ブタ肝臓、胆嚢、腎臓、および心臓)を脱細胞化した。
【0139】
米国特許第6,753,181号および同第6,376,244号に記載の浸漬方法を使用して、臓器(ラット肝臓、心臓 および腎臓)を脱細胞化した。簡単に言うと、臓器をdH2Oに入れ、100rpmで回転する磁気攪拌バーで、48時間、4℃にて攪拌した後、臓器を水酸化アンモニウム(0.05%)およびTriton X-100(0.5%)溶液に移して、48時間、続けて磁気攪拌バー(100 rpm)で溶液を攪拌する。溶液を交換し、水酸化アンモニウムおよびTriton X-100での48時間浸漬を、臓器を脱細胞化するの(通常、視覚的に無細胞の臓器)に必要なだけ繰り返す。この肝臓は、視覚的に無細胞の臓器を生成するのに、水酸化アンモニウムおよびTriton X-100をおよそ5回繰り返した。脱細胞化プロセスの後、臓器をdH2O に移して、48時間、攪拌し(同じく100rpmにて攪拌)、最後に、40℃のPBSで攪拌しながら最終的な洗浄を行う。
【0140】
実施例2-灌流型、対、浸漬型の比較
図21Aは、灌流型脱細胞化したブタ肝臓写真を示し、図21Bおよび21Cはそれぞれ、灌流型脱細胞化したブタ肝臓の管および実質性マトリックスのSEMを示す。これらの写真は、灌流型脱細胞化臓器の脈管およびマトリックスの完全性を示す。他方で、図22は、浸漬型脱細胞化したラット肝臓の全体図を示し、この場合には、低倍率(左)および高倍率(右)の両方においてマトリックスのほころびが見られる。
【0141】
図23は、浸漬型脱細胞化ラット肝臓(AおよびB)、ならびに灌流型脱細胞化ラット肝臓(CおよびD)ののSEMを示す。これらの結果は、浸漬型脱細胞化が臓器嚢(グリソン嚢)を有意に損ない、灌流型脱細胞化が嚢を保持したことをはっきりと示している。さらに、図24は、浸漬型脱細胞化肝臓(A、HE染色;B、トリクローム染色)、および灌流型脱細胞化肝臓(C、HE染色;D、トリクローム染色)の組織構造を示す。浸漬型脱細胞化したラット肝臓は、注射の際に細胞または染料を保持しなかった。
【0142】
図25は、ラット心臓の浸漬型脱細胞化(上段)と灌流型脱細胞化(下段)との比較を示す。左欄の写真は全臓器を示す。2枚の写真から分かるように、灌流型脱細胞化臓器(左下)は、浸漬型脱細胞化臓器(左上)よりもはるかに半透明であり、この浸漬型脱細胞化臓器は死体筋肉組織の鉄が豊富な「赤茶色」を保持し、まだ細胞を含んでいるように見える。中央欄にある写真は、脱細胞化した組織のHE染色パターンを示す。染色から、浸漬型脱細胞化(中央上)の後では、血管系の実質および壁の両方において多数の細胞が残っていることが示されている一方で、灌流型脱細胞化(中央下)の後(本発明の脈管)では、事実上全ての細胞および細胞残屑が除去されていることが明らかである。さらに、右欄の走査型電子顕微鏡写真は、浸漬型(右上)対灌流型(右下)の脱細胞化ではマトリックスの超微細構造において有意な差があることを示している。ここでも、心筋の断片全体にわたる細胞成分の完全な保持が、浸漬型脱細胞化心臓の全ての壁において観察されたが、灌流型脱細胞化心臓においてはこれらの細胞成分がほぼ完全に欠如しているのが、脈管を含む無傷心筋の空間的および構造的特徴の保持と共に観察された。例えば、灌流型脱細胞化したマトリックスは、細胞を完全に失ったにも関わらず、織り(w)、巻き(c)および筋交い(s)を含む構造的特徴を、マトリックス内に保持していた。
【0143】
図26は、ラット腎臓を用いて行った同様の比較(浸漬型脱細胞化(上段)、対、灌流型脱細胞化(下段))を示す。心臓とは異なり、両方とも相当に半透明である点で、浸漬型脱細胞化した全腎臓(左上)は、灌流型脱細胞化した全腎臓(左下)に極めて似ている。しかし、灌流型脱細胞化腎臓においては、灌流型脱細胞化臓器内の脈管のネットワークがより明確で、浸漬型脱細胞化構築物よりも枝部が高い程度で目に見える。さらに、灌流型脱細胞化腎臓は無傷の臓器嚢を保持し、腸間膜に囲まれ、図示するように付随する副腎と共に脱細胞化され得る。真ん中の欄にある写真は、2つの組織のHE染色パターンを示す。染色から、浸漬型脱細胞化(中央上)の後では、細胞成分および/または残屑、またおそらく無傷の核(紫の染色)までも残ることが示されている一方で、灌流型脱細胞化(中央下)の後では、事実上全ての細胞および/または全ての細胞残屑が除去されることが示されている。同様に、SEM写真も、灌流型脱細胞化腎臓マトリックス(右下)が受けた損傷よりも、浸漬型脱細胞化腎臓マトリックス(右上)の方がより多くの損傷を受けたことを実証している。浸漬型脱細胞化腎臓においては、臓器嚢が欠如しているかまたは損傷を受けているため、表面の「穴」またはほころびが明らかな一方で、灌流型脱細胞化臓器では嚢は無傷である。
【0144】
図27は、脱細胞化腎臓のSEM写真を示す。図27Aは灌流型脱細胞化腎臓を示し、図27Bは浸漬型脱細胞化腎臓を示す。図28Aは灌流型脱細胞化心臓のSEM写真を示し、図28Bは浸漬型脱細胞化心臓のSEM写真を示す。図29は浸漬型脱細胞化肝臓のSEM写真を示す。さらに、これらの画像は、浸漬型脱細胞化が臓器の超微細構造にもたらす損傷、および灌流型脱細胞化後のマトリックスの利用可能性を実証している。
【0145】
その他の態様
本発明は、詳細な説明と併せて説明してきたが、上記説明は、例示することを意図したものであり、添付の請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。その他の局面、利点、および改変は、以下の請求の範囲内にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化肝臓を提供する工程であって、該脱細胞化肝臓が肝臓の脱細胞化細胞外マトリックスを含み、該細胞外マトリックスが外面を含み、該細胞外マトリックスが血管樹を含めて脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面が実質的に無傷である、前記工程と、
該脱細胞化肝臓と、約40,000以上の再生細胞とを、該細胞が該脱細胞化肝臓の内および上で生着、増殖および/または分化する条件下で接触させる工程と
を含む、肝臓の作製方法。
【請求項2】
前記脱細胞化肝臓を、約2300万以上の再生細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記脱細胞化肝臓を、約3000万以上の再生細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記脱細胞化肝臓を、約3500万以上の再生細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記再生細胞が肝細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記再生細胞を、門脈を介して前記脱細胞化肝臓に注入する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記再生細胞を、前記脱細胞化肝臓に注射する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
脱細胞化肝臓またはその葉(lobe)含有部分を提供する工程であって、該脱細胞化肝臓またはその葉含有部分が、該肝臓またはその葉含有部分の脱細胞化細胞外マトリックスを含み、該細胞外マトリックスが外面を含み、血管樹などの該細胞外マトリックスが脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面が実質的に無傷である、前記工程と、
脱細胞化肝臓またはその葉含有部分の葉と、再生細胞の集合とを、該再生細胞が該脱細胞化肝葉の内および上で生着、増殖および/または分化する条件下で接触させる工程と
を含む、肝葉の作製方法。
【請求項9】
前記再生細胞が初代肝細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記再生細胞を、門脈を介して前記葉に注入する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
臓器を提供する工程と、
該臓器の1つ以上の空洞、管、および/または導管においてカニューレを挿入して、カニューレ挿入した臓器を作製する工程と、
該1つ以上のカニューレ挿入を介して、該カニューレ挿入した臓器に第1の細胞破壊培地を灌流させる工程と、
対応する死体臓器と比較して、脱細胞化臓器に残っている核酸の量を決定する工程と
を含む、臓器を脱細胞化する方法。
【請求項12】
前記灌流が、臓器組織1グラム当たり約2〜12時間である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記灌流工程を、脱細胞化臓器における核酸が5%以下となるまで続ける、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記細胞破壊培地が1%SDSを含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記灌流が、カニューレ挿入した空洞、管および/または導管のそれぞれから多方向で行われる、請求項11記載の方法。
【請求項16】
副腎の脱細胞化細胞外マトリックスを含む脱細胞化哺乳動物副腎であって、
該細胞外マトリックスが外面を含み、血管樹などの該細胞外マトリックスが脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面が実質的に無傷である、
前記脱細胞化哺乳動物副腎。
【請求項1】
脱細胞化肝臓を提供する工程であって、該脱細胞化肝臓が肝臓の脱細胞化細胞外マトリックスを含み、該細胞外マトリックスが外面を含み、該細胞外マトリックスが血管樹を含めて脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面が実質的に無傷である、前記工程と、
該脱細胞化肝臓と、約40,000以上の再生細胞とを、該細胞が該脱細胞化肝臓の内および上で生着、増殖および/または分化する条件下で接触させる工程と
を含む、肝臓の作製方法。
【請求項2】
前記脱細胞化肝臓を、約2300万以上の再生細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記脱細胞化肝臓を、約3000万以上の再生細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記脱細胞化肝臓を、約3500万以上の再生細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記再生細胞が肝細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記再生細胞を、門脈を介して前記脱細胞化肝臓に注入する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記再生細胞を、前記脱細胞化肝臓に注射する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
脱細胞化肝臓またはその葉(lobe)含有部分を提供する工程であって、該脱細胞化肝臓またはその葉含有部分が、該肝臓またはその葉含有部分の脱細胞化細胞外マトリックスを含み、該細胞外マトリックスが外面を含み、血管樹などの該細胞外マトリックスが脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面が実質的に無傷である、前記工程と、
脱細胞化肝臓またはその葉含有部分の葉と、再生細胞の集合とを、該再生細胞が該脱細胞化肝葉の内および上で生着、増殖および/または分化する条件下で接触させる工程と
を含む、肝葉の作製方法。
【請求項9】
前記再生細胞が初代肝細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記再生細胞を、門脈を介して前記葉に注入する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
臓器を提供する工程と、
該臓器の1つ以上の空洞、管、および/または導管においてカニューレを挿入して、カニューレ挿入した臓器を作製する工程と、
該1つ以上のカニューレ挿入を介して、該カニューレ挿入した臓器に第1の細胞破壊培地を灌流させる工程と、
対応する死体臓器と比較して、脱細胞化臓器に残っている核酸の量を決定する工程と
を含む、臓器を脱細胞化する方法。
【請求項12】
前記灌流が、臓器組織1グラム当たり約2〜12時間である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記灌流工程を、脱細胞化臓器における核酸が5%以下となるまで続ける、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記細胞破壊培地が1%SDSを含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記灌流が、カニューレ挿入した空洞、管および/または導管のそれぞれから多方向で行われる、請求項11記載の方法。
【請求項16】
副腎の脱細胞化細胞外マトリックスを含む脱細胞化哺乳動物副腎であって、
該細胞外マトリックスが外面を含み、血管樹などの該細胞外マトリックスが脱細胞化前の細胞外マトリックスの形態を実質的に保持し、該外面が実質的に無傷である、
前記脱細胞化哺乳動物副腎。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図28A】
【図28B】
【図29】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図28A】
【図28B】
【図29】
【公表番号】特表2012−522511(P2012−522511A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503673(P2012−503673)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2010/029463
【国際公開番号】WO2010/120539
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2010/029463
【国際公開番号】WO2010/120539
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【Fターム(参考)】
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