説明

臓器または組織の傷害検出方法

【課題】 組織や器官、臓器が傷害をうけると、その臓器または器官、組織の機能が低下、損失して、生体の恒常性を維持できなくなるばかりか、最悪の場合は死に到る。しかし多くの場合、臓器または組織の傷害を簡便に検出できる方法がない為、発見が遅れて健全な生命活動ができなくなったり、さらには死に到ることも少なくない。また発見が遅れるほど、組織や器官、臓器の傷害を修復させることが困難になり、元来の機能を回復できないことも多い。すなわち組織や器官、臓器の傷害を簡便に検出する方法が望まれている。
【解決手段】生体から採取された検体のタウリン濃度およびヒポタウリン濃度を測定し、健常値に比較したタウリン濃度の上昇およびヒポタウリン濃度の低下を指標として臓器または組織の傷害を検出する傷害検出方法が、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器または組織の傷害を簡便に検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織や器官、臓器が傷害をうけると、その臓器または器官、組織の機能が低下、損失して、生体の恒常性を維持できなくなるばかりか、最悪の場合は死に到る。また臓器、組織の傷害は、傷害部位から様々なサイトカインや因子などのメディエーターが産生、分泌、放出され、他の組織や器官、臓器の傷害を引き起こすことも多い。しかし多くの場合、臓器または組織の傷害を簡便に検出できる方法がない為、発見が遅れて健全な生命活動が営まれなくなるばかりか死に到ることも少なくない。また発見が遅くなるほど、組織や器官、臓器の傷害を修復させることが困難になり、元来の機能を回復できないことも多い。従って、組織や器官、臓器の傷害を簡便に検出する方法が望まれている。
【0003】
以下に、組織や器官、臓器の傷害の一例として腹膜透析療法における腹膜傷害を紹介する。人工透析は、腎機能が低下もしくは喪失した患者に対し、本来腎臓が果たしている血液浄化作用を腎臓に代わって行う血液浄化療法であり、生体内から水を除去することによって体液の組成を一定に保つとともに体液中の尿素等の老廃物を除去することを主な目的としている。現在の人工透析には、主に血液透析療法と腹膜透析療法がある。
【0004】
腹膜透析療法は腹膜で囲まれた腹腔内に浸透圧の高い透析溶液を貯留することによって生体内の余分な水と老廃物を取り除くことを基本とする。即ち腹膜微小血管から腹腔内の透析溶液に水が移動することによって透析される。この時の水の移動は透析溶液と体液の間に生じる浸透圧格差によって起こる。透析溶液中のグルコースなどの浸透圧調節物質は、腹膜透析に於ける除水のドライビングフォースの基である。しかし、腹腔内に非生理的な浸透圧の高い透析溶液を貯留するため、腹膜は傷害を受けやすい。腹膜が傷害を受けると腹膜機能は低下する。傷害を受けた腹膜に対してさらに様々な原因が重なることにより、腹膜線維症、腹膜硬化症、硬化性腹膜炎もしくは被嚢性腹膜硬化症(EPS)等の重篤な合併症を発症することがある。
【0005】
腹膜透析はわが国で開始されてから20年ほど経つが、透析患者のほとんどが血液透析であり、腹膜透析患者は全透析患者の5%にも満たない。腹膜透析は血液透析と異なり自宅で透析が行えるので、通院の頻度が少なくなるといったQOL(クオリティーオブライフ)に優れているだけでなく、循環系への影響や生体内部環境の変動が少ないといった利点を持っている。
【0006】
腹膜透析がこのような利点を持つのにもかかわらず広く普及しない原因として、先に述べたように腹膜透析の長期継続により腹膜組織が傷害を受け、腹膜機能が低下した結果、透析の本来の目的である水分や老廃物の除去が困難もしくは出来なくなるため腹膜透析を断念せざるをえなくなるケースが多いことがあげられる。腹膜硬化症、硬化性腹膜炎、EPSなどの腹膜傷害の中でも特にEPSの場合には、小腸は膠原性線維に富む肥厚した腹膜で包まれ、癒着して塊状になる(abdominal cocoon)。このため臨床的には食欲不振、悪心、嘔気、嘔吐、低栄養による痩せ、腹痛、下痢、便秘、腸管蠕動音の低下など腸閉塞症状を示す。EPSの発症頻度は必ずしも高くはないが、2年後の生存率は約50%しかなく、致死率が非常に高い。EPSによる直接の死因は、内臓の高度な癒着、すなわちabdominal cocoonの形成により、腸管が圧迫・癒着した結果、循環障害・壊死をおこし、これが原因となって敗血症になるためと考えられる。
【0007】
EPSの原因として細菌や真菌感染による腹膜炎、可塑剤、異物、透析溶液中のグルコースやその分解物であるメチルグリオキサール等のグルコース分解産物、さらにはその反応産物であるメイラード反応後期生成物(AGE)、透析液のpH、消毒剤などが考えられる。治療法としてはEPS発症初期ではステロイド剤の投与が有効との報告があるが、abdominal cocoon形成後では被嚢した腹膜を剥離する外科的治療しかなく、熟練したごく少数の外科医にしか対処できない。そのためEPSを早期に診断して発症初期段階でのステロイド等の投与が重要である。現在、EPSの診断は、イレウス症状等の臨床所見のほか腹部の触診(塊状物の触知)がなされているが、客観的な基準ではない。さらにEPSが進行した場合でも上述のような典型的症状を起こさない場合も多く、診断が遅れることが多い。一部ではX線やCT検査、超音波検査などの画像解析による診断もなされているが、病状がある程度進行しないと判定できないといった欠点があり、あくまで補助判定の域を出ていない。
【0008】
このように現在は、腹膜線維症、腹膜硬化症、硬化性腹膜炎およびEPSなどの腹膜傷害の簡便な診断方法はない。病状が進行すると確実な治療法が無い為、EPSに至った患者の半数以上が死に至る。しかしこれらの合併症を早期に診断できれば、初期療法としてステロイド剤で対処することが出来る。腹膜傷害を早期に検出できれば、EPSなどの重度の腹膜傷害に至る前に腹膜透析を中止し、適切な処置を行うことにより予後の改善が期待できる。このように腹膜組織の傷害に限らず、組織や臓器傷害は一般的に検出が難しく、傷害が進行してから検出されることが多く、この結果、予後が不良となり死に至ることも稀ではない。
【0009】
腹膜の組織傷害は、一般的には腹膜平衡試験(Peritoneal Equilibration Test:PET)もしくはOverall Mass Transfer−area Coefficience (MTAC)法によって腹膜機能を検査して評価されることが多いが、これらの検査の操作は極めて複雑である(非特許文献1、2)。例えば、最もよく行われているPETは以下のように実施される。まず、8〜12時間腹腔に貯留した透析液を20分間かけて排液し、グルコース(通常は2.5%のことが多い)を含む腹膜透析液(通常2L)を腹腔に200mL/分の速度で注液し、注液直後、2時間後、4時間後に腹腔に貯留した透析液の一部を回収して、クレアチニン濃度とグルコース濃度を測定する。さらに、注液2時間後に血液を約5mL採取して血中のクレアチニン濃度の測定を行う。各時間の透析液中のクレアチニン濃度の測定値を血中クレアチニン濃度の値で除することにより、D/Pクレアチニン値を算出して、血液から腹腔内に貯留した透析液中へのクレアチニンの移動のしやすさを調べる。一方、各時間の透析液中のグルコース濃度の値を注液直後の透析液中のグルコース濃度の値で除することにより、D/D0グルコース値を算出し、腹腔内に貯留した透析液中のグルコース濃度の変化の割合を調べる。以上のように算出したD/Pクレアチニン値とD/D0グルコース値から、腹膜の透過性を解析して腹膜機能を評価する。
【0010】
PETの結果から、腹膜における小分子物質の透過性を判断することが出来、High、High average、Low average、Lowの四つのカテゴリーに分けて判定される。Highカテゴリーでは腹膜における小分子物質の透過性が高いので、血中の老廃物除去能も高いが、除水能は低い。逆にLowカテゴリーの場合は、腹膜における小分子物質の透過性が低いので、血中の老廃物の除去能は低いが、除水能は高い。
【0011】
一方、PETは採血が必要であり、患者に対して侵襲を伴う。さらに患者は病院に半日拘束され、かつ医療従事者の負担も多い。そのため一部の病院ではPET施行時に看護師を増やしたり、もしくは患者を入院させて検査する施設も見受けられる。このようにPETは医療従事者および患者に負担が強いられることから、医療従事者はPET検査の重要性は認識しているのにもかかわらず、手間やスタッフ不足の問題からPETを施行していない医療施設も多い。しかし、腹膜透析患者においては、腹膜機能の評価は極めて重要で、腹膜機能の評価によって腹膜組織の傷害を推測し、腹膜透析から血液透析への移行の目安(腹膜透析の中止基準)として利用されることも多い(非特許文献3)。腹膜組織傷害が進行しているのにもかかわらず腹膜透析を継続すると、EPSを発症して死に至ることも稀ではない。
【0012】
上述のように腹膜機能の評価による腹膜傷害の検出は、臨床上極めて重要であるにもかかわらず、簡便な腹膜傷害の検出法がない。腹膜透析療法を安全に施行するためには、早期に腹膜傷害を検出して、適切な時期に腹膜透析から血液透析に移行して腹膜線維症、腹膜硬化症、硬化性腹膜炎、特にEPSの発症を未然に防ぐことが重要である。
以上、腹膜組織の傷害の検出の重要性ついて説明したが、他の組織や臓器でも同様に早期に傷害を検出することで、予後が大きく異なってくる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Twardowski ZJ,et al.Peritoneal equilibration test. Perit Dial Bull 1987;7:138−147.
【非特許文献2】山下明泰. 「よくわかる腹膜透析の基礎」. 東京医学社. 1998年.
【非特許文献3】野本保夫、川口良人、酒井信治、他:硬化性被嚢性腹膜炎(sclerosing encapsulating peritonitis、SEP)診断・治療指針(案)―1997年度における改訂―.透析会誌 1998;31: 303−311.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は臓器または組織の傷害を簡単に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的は、下記(1)〜(3)の本発明により達成される。
(1)生体から採取された検体のタウリン濃度およびヒポタウリン濃度を測定し、健常値に比較したタウリン濃度の上昇およびヒポタウリン濃度の低下を指標として臓器または組織の傷害を検出する傷害検出方法。
(2)上記検体が腹腔排液である(1)に記載の傷害検出方法。
(3)腹膜、骨格筋または肝臓の傷害を検出するものである(1)または(2)に記載の傷害検出方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の臓器または組織の傷害の検出法によれば、生体から採取された検体において、健常値に比べてタウリン濃度が上昇し、且つヒポタウリンの濃度が低下することを確認することで、臓器または組織の傷害を簡便に検出することが可能であり、これにより患者の予後を飛躍的に改善できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ラットに腹膜透析液を連続投与した場合におけるPETの結果を示すグラフである。
【図2】ラットに腹膜透析液を連続投与した場合における壁側腹膜の肥厚を病理評価した結果を示すグラフである。
【図3】ラットに腹膜透析液を連続投与した群の、健常群に対する腹腔廃液中のタウリン濃度比をを示すグラフである。
【図4】ラットに腹膜透析液を連続投与した群の、腹腔廃液中のヒポタウリン濃度比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好適実施例について詳細に説明する。
【0019】
本発明における臓器または組織の傷害とは、臓器または組織が物理的に破壊されることを意味するものではく、臓器または組織の炎症、再構築、線維化、硬化、がん化を指すものとする。たとえば、腹膜炎、腹膜硬化・線維化、肝炎、肝臓の硬化・線維化、動脈硬化、肺炎、肺線維症、膵炎、がん等が挙げられる。
【0020】
タウリンは分子内にアミノ基とスルホン酸基を有する含硫有機酸で、生体内では、心臓、骨格筋、肝臓、肺、脳、眼の網膜などの組織に高濃度に存在し、恒常性の維持に関わっている。タウリンは体内で胆汁の主要成分である胆汁酸と抱合してタウロコール酸となり、消化作用を助ける。また肝細胞の増殖を促進したり、肝臓の保護作用を有する。さらに浸透圧調節作用、抗酸化作用、神経伝達物質作用、細胞膜の安定化作用等を有する。インシュリンの分泌を促進して血糖値を下げたり、交感神経に作用して血圧を維持するといった報告もある。
【0021】
タウリンは以下のように生合成される。まずメチオニンなどのアミノ酸からシステインが合成され、システインジオキゲナーゼによりスルフィノアラニンをへて、システインスルフィン酸デカルボキシラーゼによりヒポタウリンとなり、ヒポタウリンデヒドロゲナーゼによりタウリンが合成されると考えられている。従って、タウリンが高値の場合には、その前駆体であるヒポタウリンも高値となるはずである。
【0022】
しかし興味深いことに本発明者は生体から採取した検体に対して調査、研究を重ねた結果、臓器または組織に傷害を生じた場合、健常時に比べてタウリン濃度の上昇およびヒポタウリン濃度の低下が起こることを発見した。これは臓器または組織の傷害時には、タウリンは未知の他の代謝経路から供給されているためと考えられる。
したがって生体から採取した検体においてタウリンおよびヒポタウリンの濃度を測定し、それぞれの健常値と比較することにより、臓器または組織の傷害を簡便に評価することができる。ここで、本発明における「健常値」とは、臓器または組織の傷害を生じる前の健常時に採取した検体のタウリンおよびヒポタウリン濃度測定値、もしくは臓器または組織の傷害を生じていない健常人から採取した検体のタウリンおよびヒポタウリン濃度測定値を意味する。
【0023】
本発明の実施態様としては、腹膜透析患者における臓器もしくは組織の傷害の検出が挙げられる。腹膜透析を施行している患者の場合、腹膜透析液の排液(腹腔排液)を検体とすることが好ましい。また、このとき検体は腹膜透析のため腹部に留置されたカテーテルを介して採取することが好ましい。さらには腹膜透析の排液バッグに設けられたサンプリングチューブから採取する方法、もしくは排液バッグに連通するチューブの一部を融着により封止、切断して、かかるチューブ内あるいは排液バッグ内の排液を採取する方法などが挙げられる。排液バッグは、腹膜透析を行っている患者の腹部に接続されたカテーテルから分離され、流路が遮蔽されるので、検体を採取するときに、当該患者の体内に細菌等が進入することがなく、感染症等の誘発を防止することができる。
【0024】
採取した検体から、指標物質を検出する際には、例えば電気泳動法、もしくはアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イムノクロマトグラフィー等を用いたクロマトグラフィー法、マススペクトルを分析する方法などが挙げられる。また、イオン交換クロマトグラフィーによりタウリンとヒポタウリンを分離した後、ニンヒドリン反応により発色させて、標品と比較してそれぞれの濃度を定量してもよい。もちろんこれらの原理を応用した全自動アミノ酸分析機を使用しても良く、この場合、手間がかからずに解析することができる。もしくは高速液体クロマトグラフィーを用いてタウリンおよびヒポタウリンを定量してもよい。あるいは飛行時間型質量分析法で解析してもよい。このような方法により測定したタウリン濃度を健常値と比較することで、臓器または組織の傷害を検出する。
【0025】
以上、腹膜透析患者における臓器もしくは組織の傷害の検出を例に、腹腔から調製した透析排液を検体とする本発明の実施態様について説明したが、本発明の対象となる検体としては、腹腔排液に限定されず、血液、尿、唾液、涙、組織などを用いることもできる。前述したように腹膜透析療法は腹膜で囲まれた腹腔内に浸透圧の高い透析溶液を貯留することによって生体内の余分な水と老廃物を取り除く。即ち腹膜微小血管を流れる血液から腹腔内に貯留した透析溶液への水の移動に伴って、血液中の代謝物質などの小中分子物質も腹腔に移動する。即ち、透析排液中のタウリンやヒポタウリンなどの代謝物質の濃度は血中濃度を反映している。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実験1)組織傷害動物モデルの作成
SDラット(雄、5週齢、n=6)に対し、健常群(コントロール群)には腹膜透析液(pH5)を、組織傷害群には20mMメチルグリオキサール添加腹膜透析液(pH5)を、1回/日、21日間連続腹腔内投与した(MGO投与群)。22日目に組織および臓器の傷害を解析するために、腹膜機能をPETで評価した。PETは以下の手順で行った。まず、2.5%グルコース含有腹膜透析液を腹腔内に注液した後、注液直後および90分後に排液の一部を回収し、グルコース濃度を測定した。得られた測定値からD/D0グルコースを算出し、腹膜機能を評価した。この結果、MGO投与群では腹膜機能が低下しており、機能の面から腹膜傷害が確認された(図1)。
【0027】
一方、腹膜、腹部骨格筋および肝臓の傷害を病理解析で評価した。壁側腹膜、腹部骨格筋および肝臓を採取してホルマリン固定した後、パラフィン標本を作製し、ヘマトキシリン/エオジン染色およびアザン染色を行い、腹膜の厚さを測定した。この結果、組織傷害群(MGO投与群)では、腹膜は著しい線維性の肥厚が生じていた(図2)。また腹部骨格筋は傷害を受け、再生像が観察された。肝臓は肥大し、その表層を中心に線維化が観察された。特に肝臓辺縁部で強度に線維化が進行していた。以上の病理所見から、組織学の面からも腹膜をはじめとする臓器もしくは組織の傷害が確認された。
【0028】
実験2)腹腔排液中の代謝産物の測定
腹腔排液中のタウリン量およびヒポタウリン量は、飛行時間型質量分析法(TOFMS)法で解析した。
検体の前処理として、内部標準物質の終濃度が10μMとなるように調整したメタノール溶液900μLに腹腔排液100μLを添加して、検体中の酵素を失活させて代謝反応を止めた。さらに精製水400μLとクロロホルム1mLを加え、1分間攪拌し、4℃にて2300×g、5分間の遠心分離を行い、2液に分離した上層の水層を限外濾過チューブ(5kDa、ミリポア社性ウルトラフリーMC PBCC遠心フィルターユニット)に250μL×3本に分注し、4℃、9100×g、120分間の限外濾過を行い、タンパク質を除去した。得られた濾液を凍結乾燥させ、再度精製水25μLに溶解して測定に供した。
キャピラリー電気泳動は、Fused silica capillary (内径:50μm、外径:350μm、全長:100cm)で行った。検体は加圧法で50mbarで15秒間注入し、緩衝液は1M蟻酸(pH1.8)を使用し、20℃で加電圧+30kVで解析した。
続いて飛行時間型質量分析計(アジレント CE−TOF−MS Dシステム、アジレント社)で質量を分析した。正イオンモードで、キャピラリー電圧4000V、フラグメンター電圧75V、スキマー電圧50V、OctRFV電圧125Vで行った。乾燥ガスは窒素を用い、300℃、圧力10psingで行い、スキャンレンジはm/z 50−1000で解析した。質量校正はレゼルピン(m/z:83.0703)で行った。
TOFMSで検出されたピークは、自動積分ソフトウエアMasterHands Ver.1.0.6.8(慶應義塾大学製)で自動抽出し、質量荷電比(m/z)、泳動時間(migration time:MT)とピーク面積を計測した。ピーク以外のノイズを除去した後、得られたm/zとMTの値をもとにピークの同定と定量を行った。
【0029】
組織傷害群(MGO投与群)は健常群(コントロール群)の値(健常値)と比べてタウリンが高値を示し(図3)、且つヒポタウリンが低値であった(図4)。以上より、健常値に比較したタウリン濃度の上昇およびヒポタウリン濃度の低下を指標として、腹膜、骨格筋および肝臓の傷害を検出することができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取された検体のタウリン濃度およびヒポタウリン濃度を測定し、健常値に比較したタウリン濃度の上昇およびヒポタウリン濃度の低下を指標として臓器または組織の傷害を検出する傷害検出方法。
【請求項2】
上記検体が腹腔排液である請求項1に記載の傷害検出方法。
【請求項3】
腹膜、骨格筋または肝臓の傷害を検出するものである請求項1または2に記載の傷害検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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