説明

臥床患者用の胴衣装置

【課題】体動困難な患者の体幹全体を自動的に体位変換でき、または体幹区画での自動的な体圧分散、呼吸理学療法ができる臥床患者用の胴衣装置に関する。
【解決手段】臥床患者の体幹上半身から分岐する頚部、左肩部、右肩部を各々で包容保持する3か所の上方保持部と、患者の体幹下半身から分岐する左脚部、右脚部を各々で結束保持する2か所の下方保持部と、体幹の全周を被覆して留め合わす体幹被覆部と、それらと一体となって着用可能な繋ぎ型の胴衣主体と、該胴衣主体の左背面部、右背面部の複数区画の各々に、患者の体移動・回転によっても体幹上半身および体幹下半身と一体となって追随する様に備えられた複数個の空気袋体と、更に複数個の該空気袋体を各々個別に、又は2個以上を連動させて加圧または減圧状態になる様に制御可能である空気供給装置とで成したことを特徴とする臥床患者用の胴衣装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体動困難で入院または施設・在宅で臥床療養する患者の医療および健康分野に関するもので、患者の背面を左右上下に区画してその区画範囲を外部から個々に、或いは複数区画範囲毎に正確に加圧または減圧することによって、自動的な呼吸理学療法、胸郭・脊柱・骨盤の体圧分散、体位変換を行う臥床患者用の胴衣装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に種々の疾患により体動困難で入院または施設・在宅で臥床療養する患者に対して、肺呼吸機能改善、胸郭・脊柱・骨盤を含めた体幹の体圧分散などの目的で、医師・看護師・介護士などの医療・介護従事者の人的・用手的な労力によって、呼吸理学療法(例えば非特許文献1参照)即ち胸郭や体幹の呼吸に合わせた加圧・減圧療法や、体位変換(例えば、非特許文献2参照)が行われてきた。
しかしながら、人的・用手的な呼吸理学療法や体位変換は、多大な労力を強いる重労働であり、多人数患者の体位変換を短時間毎に反復し24時間以上の多日数に及んで行うことは難しく、労力的には2時間毎が限界とされた(例えば、非特許文献2参照)。そのため、人的・用手的方法に代わる種々の技術が試みられてきたが、実状には即しなかった。
以下にこれまでの従来技術の問題点等について詳述する。
【0003】
先ず、特許文献1については、シャツ、寝間着などの被服の背部の左右に空気袋体を設けた寝返り装置が報告されている。ここで、図22に一般的な人体の体幹骨格の模式図を示したが、体幹の体位変換を反復するためには、脊柱HSを回転中心軸とする左胸郭HTL・左骨盤HPLと右胸郭HTR・右骨盤HPRとの左右連動した回転制御が必要なことが図22の骨格構造から明らかである。しかしながら、この特許文献1においては、左右骨盤以下の下半身の動きを制御できず、自動的な寝返り・体位変換は困難と考えられる。何故ならば、その装置の左右骨盤以下の下半身部は、左右区別なく単に開いたシャツ、寝間着であり、その背面に左右2列の空気袋体を備えているが、図23の(イ)(ロ)(ハ)に示すように、特許文献1の装置で予想される左骨盤HPL・右骨盤HPRへの作用力と左空気袋体NL・右空気袋体NRとの位置関係の変化のために、寝返り・体位変換を反復することは難しいと考えられる。たとえば同図の(イ)のように、被服布地Nに備えられた左空気袋体NLを加圧膨張させ左半身を挙上することによって体位変換を開始した場合、体幹は自重Mのために、膨張した左空気袋体NLから傾斜に従い右方へ滑り落ちるようになり、体幹の中心線が右方へずれようとする。その際に上半身は両腕を袖に通しているために右方へのずれや回旋がいくらか制御されるが、同図の(ロ)に示す如く、骨盤HP以下の下半身は、被覆布地Nで周囲を巻かれているだけで、その被覆布地Nと骨盤HPとの回旋性ずれM1と右方移動ずれM2をとどめるものがなく、萎んでいる右空気袋体NRを越してまで右骨盤HPRは、必然的に右方へずれて、左骨盤HPLが右空気袋体NRの上面に乗りかかるようになる。この状態で体位変換の次段階として、左空気袋体NLを減圧縮小させ右空気袋体NRを加圧膨張させると、右上半身は挙上されるが、同図の(ハ)の如く、骨盤HPは逆に右空気袋体NR上に乗りかかる左骨盤HPLが挙上されることとなり、図22に示す如くの骨格構造において左骨盤HPL・右骨盤HPR(下半身)と左胸郭HTL・右胸郭HTR(上半身)との動きが左右連動せず、脊柱HSを介して捻じれ、脊柱HSに過度な回旋性の負担がかかり、自動体位変換中止を余儀なくされことになる。すなわち特許文献1の寝返り装置においては、自動体位変換・寝がえりは困難で、呼吸機能改善効果を期待することも困難と考えられる。
【0004】
又、例えば特許文献2の如く、体動困難な患者の骨盤部以下に限られた圧分散・位置変換用のオムツカバーが存在するが、その技術、装置の効果は臀部・骨盤部以下の局所処置の労力軽減や褥瘡予防に限られ、肺呼吸機能改善効果や、胸郭・脊柱を含めた体幹全域への体位変換、体圧分散等への志向の探求がなされておらず、課題を残している。
【0005】
又、従来技術として、患者用の胴衣・病衣に備わったもの以外のものとしては、ベッド・マット型の自動体位変換装置が報告されている。例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、非特許文献3、非特許文献4が存在するところであるが、ベッド・マット型の装置では、体位変換すなわち体幹の左右いずれかの半身挙上に伴う対側辺縁部への体移動・ずれに対応できない欠点(例えば、特許文献3、特許文献4参照)や、それに対応するため寝台辺縁部まで含めた寝台全域面の自動体位変換用の仕組み(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照)、または体幹中心線補正の仕組み(例えば、特許文献5参照)が必要となり、その仕組みはベッド・マット全域の構造に及び、重量・容積がそれ相当に大きくならざるを得ないという欠点があった。現在市販されているマット型であってもマット本体重量が3〜8Kg以上となり(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照)、病棟や病室での運搬移動・保管スペースなどの面で、患者に対する臨機応変な機動的な使用には支障があった。
【0006】
更に、他の従来の技術として、体外高頻度胸壁自動圧迫装置(例えば非特許文献6参照)は存在するが、呼気・吸気サイクルに自動的に同期させたものではなく、また左右いずれかの病側の片肺を加圧可能なものではない。これまでの従来技術として、人工呼吸装置や自発呼吸曲線の呼気・吸気サイクルに自動的に同期させて、背面から片肺または両肺を加圧するような装置は、存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第2558262号
【特許文献2】特許第2733027号
【特許文献3】実用新案登録第3075638号
【特許文献4】実開昭59−183235
【特許文献5】特開平11−76318
【0008】
【非特許文献1】「神津玲:胸郭外胸部圧迫法.呼吸理学療法標準手技」、医学書院株式会社、2008年、P.26−27
【非特許文献2】「BarbaraPieper:渡辺皓 監訳:皮膚損傷を起こす機械的な付加;圧迫、ずれ、摩擦.創傷管理の必須知識、第1版」エルゼビア・ジャパン、2008年、P.253−296
【非特許文献3】「松井典子:体位変換の頻度は?現場の疑問に答える褥瘡診療Q&A、第1版」中外医学社、2008年、P.59−61
【非特許文献4】「ケープホームページ:NEO製品カタログ」、ケープ株式会社、2009年
【非特許文献5】「モルテンホームページ:スーパー介助マットK02製品カタログ」、モルテン株式会社、2009年
【非特許文献6】「TOKIBOホームページ:ELETROMED,INC.Smart Vest製品カタログ」、東機貿株式会社、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、体動困難な患者に対して、人的・用手的労力を最小限として、体幹の左背面部、右背面部の複数区画において、区画毎での自動加圧・減圧により、左右いずれかの病側肺または両肺の呼吸理学療法、呼吸サイクルに同期させた呼吸理学療法、胸郭・脊柱・骨盤などの各区画での自動体圧分散、さらに胸郭などの上半身から腰部・骨盤などの下半身までに至る患者の体幹全体の自動的体位変換を可能とし、且つ1時間未満の周期でそうした加圧・減圧が反復され、24時間以上の多日数に及び安定して繰り返すことが出来る、臥床患者用の胴衣装置を提供することを目的とする。
【0010】
又、本発明は、従来のベッド・マット型の自動体位変換装置が背景技術の欄に記載したようにマット本体重量だけでも3〜8Kg以上となっていたことは異なり、前記課題を解決することにより胴衣装置本体が重量1Kg以下の体幹被覆型の装置を提供しようとするものである。それにより低容積化、軽量化をはかり、患者に対する臨機応変な機動的な使用、即ち運搬、保管などをより容易簡便化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、臥床患者の体幹上半身から分岐する頚部、左肩部、右肩部を各々で包容保持する3か所の上方保持部すなわち頚部保持部、左肩部保持部、右肩部保持部と、患者の体幹下半身から分岐する左脚部、右脚部を各々で結束保持する2か所の下方保持部すなわち左脚部保持部、右脚部保持部と、体幹の全周を被覆して前面または側面で留め合わす体幹被覆部と、該上方保持部と該下方保持部及び該体幹被覆部を有して一体となって着用可能な繫ぎ型の胴衣主体と、該胴衣主体の左背面部、右背面部の複数区画の各々に、患者の体移動・回転によっても該胴衣主体と患者の体幹上半身および体幹下半身と一体となって追随する様に備えられた複数個の空気袋体と、更に複数個の該空気袋体を各々個別に、又は2個以上を連動させて加圧または減圧状態になる様に制御可能である空気供給装置とで成したことを特徴とするものである。
【0012】
又、本発明は、前記胴衣主体は、個々の患者の体格に応じて更に適合させるために、体幹上半身からの左肩部保持部、右肩部保持部、体幹下半身からの左脚部保持部、右脚部保持部おいて、各部位の周長を調節して留めることができる左肩部周長調節部、右肩部周長調節部、左脚部周長調節部、右脚部周長調節部と、体幹被覆部での体幹周長を調節して留めることができる体幹周長調節部とを設けたことを特徴とするものである。
【0013】
又、本発明は、前記複数区画の空気袋体は、各々個別に、又は2区画以上を連動させて、人工呼吸装置の呼気・吸気サイクル信号と同期させてON・OFFを繰り返して、加圧・減圧状態に電気的制御する空気供給装置とで成したことを特徴とするものである。
【0014】
又、本発明は、前記複数区画の空気袋体は、各々個別に、又は2区画以上を連動させて、自発呼吸患者の自発呼吸曲線の呼気・吸気サイクル信号と同期させてON・OFFを繰り返して、加圧・減圧状態に電気的制御する空気供給装置とで成したことを特徴とするものである。
【0015】
又、本発明は、前記複数区画の空気袋体は、各々個別に、又は2区画以上を連動させて、呼気・吸気サイクルとは独立したタイマ−回路により、設定時間々隔で交互にON・OFFを繰り返して加圧または減圧状態に電気的反復制御する空気供給装置とで成したことを特徴とするものである。
【0016】
又、本発明は、前記複数区画の空気袋体は、前記胴衣主体の背面部に縫着したことを特徴とするものである。
【0017】
更に、本発明は、前記複数区画の空気袋体は、前記胴衣主体の背面部に設けられたポケット部に収納したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
(1)請求項1により得られる効果を説明する。臥床患者の体幹上半身から分岐する頚部、左肩部、右肩部を各々で包容保持する3か所の上方保持部と、患者の体幹下半身から分岐する左脚部、右脚部を各々で結束保持する2か所の下方保持部と一体となった繋ぎ型の胴衣主体で、体幹全周を被覆して着用することによって、該胴衣主体の左背面部、右背面部の複数区画に備えられた空気袋体は、患者の体移動・姿勢・傾斜・体位変換・回転回旋・ずれによっても、患者自体の左右胸郭・左右肺・脊柱・左右骨盤等との左右上下位置関係の偏位が少なくなり、一体連動して安定化されることになる。例えば、左上背面空気袋体、左下背面空気袋体、右上背面空気袋体、右下背面空気袋体の計4区画の空気袋体を備えれば、各々の空気袋体は左肺、左骨盤、右肺、右骨盤などの各背面区画に相当し、背面からの区画毎の確実な加圧・減圧が可能となる。また、複数区画の空気袋体を各々個別にまたは2区画以上連動させて、空気供給装置で加圧・減圧を繰り返すことによって、左右いずれかの病側肺または両肺の呼吸理学療法効果や、左右胸郭・脊柱・左右骨盤部の体圧分散効果がえられることとなる。
【0019】
勿論、上記理由で、左列の区画の空気袋体と右列の区画の空気袋体との体幹中心線を挟んだ左右位置関係は、患者の体移動・姿勢・傾斜・体位変換・回転回旋・ずれによってもその偏位は抑えられる。その状態で、例えば、左上背面空気袋体、左下背面空気袋体、右上背面空気袋体、右下背面空気袋体の計4区画の空気袋体のうち、左列の2区画の空気袋体を並列同時的に、また右列の2区画の空気袋体を並列同時的に、空気供給装置により左右交互で加圧・減圧を繰り返すことで、患者の体幹は上半身(主に胸郭)と下半身(主に骨盤)が連動して、体幹の左半身挙上と右半身挙上とを繰り返すこととなり、体幹すなわち胴体の捻じれなどは起こらず、確実で安全な体位変換を継続して繰り返すことが可能となる。これによっても、呼吸機能改善効果や、左右胸郭・脊柱・左右骨盤の体圧分散効果、床ずれ予防効果などが得られる。
【0020】
即ち、本発明が、先行技術文献として記載したシャツや寝間着から構成される特許文献1との顕著な相異点としては、本発明の胴衣装置によって患者上半身だけでなく、それに連動した左右の骨盤以下の動きが制御できることである。特に本発明の胴衣構成の特徴は、左右胸郭などの体幹上半身だけでなく左右骨盤も含めた体幹下半身と、左右上下の複数区画各々の空気袋体との位置関係が安定化することを必要条件として捉え、単なるシャツや寝間着のような患者上方部からの頚部、左肩部、右肩部を通すだけでなく、新たに患者下方部からの左脚部と右脚部の各々の結束保持部を設け、体幹の上半身と下半身を一体とした繋ぎ型の胴衣としたことである。さらに請求項2では個々の患者の体格に更に適合させるために、各々の保持部に保持部周長調節部を設け、周長を弛まないように調節して面ファスナ−などで保持固定する様式とした。すなわち、頚部、左肩部、右肩部だけではなく特許文献1の構成には無かった体幹下半身から分岐する左脚部と右脚部とを加えた合計5か所の保持部を確保して一体となった本発明の繋ぎ型の胴衣構成をとることによって初めて、患者の体移動・姿勢・傾斜・体位変換・回転回旋・ずれなどに関わらず、左右上下背面の複数区画の空気袋体が左右胸郭や左右骨盤との安定した位置関係のもとで加圧・減圧を繰り返すことを可能せしめるものである。更に又、特許文献1には無かった本発明の特筆すべき効果として、左右上下の背面区画での位置安定化により、ベッド上の平坦臥位での患者状態だけでなく、上半身ベッドアップ状態でも、各背面区画での確実な加圧・減圧効果を十分にもたらすことが可能と考えられる。
【0021】
更に、前記請求項1の胴衣装置は患者の体幹全周を被覆する胴衣の左右上下背面即ち人体背面の横幅の範囲に備えられるものであり、ベッドやマットの寝台全域に及ぶような装置を設ける必要はない。又、患者の体幹中心とベッドやマットとの位置関係を補正するような装置も必要ない。そのため、軽量化、低容積化の効果がえられる。綿製の胴衣とウレタン製の左右の空気袋体合わせて1Kg未満とすることが可能である。そして、病棟や病室での装置の運搬移動の簡便容易化や保管スペースの低減化がもたらされ、患者に対する臨機応変な機動的な使用が可能となる。
【0022】
更に、前記請求項1の胴衣主体は保持部や被覆部をすべて開くと、寝台上などに平面に展開できる。その平面上に患者を背臥位のままで乗せれば、あとの着衣方法としては頚部、左肩部、右肩部、左脚部、右脚部を包容または結束保持しつつ、体幹を被覆して各々面ファスナ−でゆるまない程度に留めれば、患者四肢の屈曲伸展などによって袖や裾を通す必要なく、着衣が可能である。すなわち、四肢に点滴チューブや電極コードなどが装着されることの多い患者への胴衣着脱時の身体的負担を軽減できる。
【0023】
(2)請求項2により得られる効果を説明する。請求項1記載の胴衣主体において、その左背面部、右背面部の複数区画の空気袋体と患者体幹との位置関係の安定度は、胴衣主体のサイズが患者の体格により適合することによって向上すると考えられ、まず大・中・小あるいはL・M・Sなどのサイズ設定を行なう。しかしながら、個々の患者の体格にさらに細かく合わせた多くのサイズ設定は経済的な実用面で非効率であり、また全体的に窮屈すぎる胴衣は患者用としては適さない。そこで、患者用の病衣として、やや余裕をもったサイズ設定をしたうえで、安定度の要点である体幹上半身からの分岐部、体幹下半身からの分岐部すなわち左肩部保持部、右肩部保持部、左脚部保持部、右脚部保持部において、重点的に患者の各々の部位での周長に合わせるために、帯状の左肩部周長調節部、右肩部周長調節部、左脚部周長調節部、右脚部周長調節部を設け、また体幹被覆部においても帯状の体幹周長調節部を設けて、各々で面ファスナーやボタン又は紐などによって長さを調節して固定することによって、胴衣主体の左背面部、右背面部の複数区画の空気袋体と患者体幹との左右上下位置関係がより安定化されることとなる。
【0024】
(3)請求項3により得られる効果を説明する。請求項1記載の複数区画の空気袋体を左上背面空気袋体、左下背面空気袋体、右上背面空気袋体、右下背面空気袋体の計4区画の空気袋体とすると、そのうち左上背面空気袋体または右上背面空気袋体を、人工呼吸装置の呼気・吸気サイクルと同期させて空気供給装置からのON・OFFを繰り返し、肺疾患々者の左右いずれかの病側肺または両肺に対して背面からの加圧・減圧が可能となり、肺疾患の原因となる痰や分泌物の排泄効果や換気改善効果など、効率的な呼吸理学療法を自動的にすすめることが可能である。又、痰などの分泌物が、両下肺野に貯留している場合は、左右の下背面空気袋体を連動させて、人工呼吸装置の呼気・吸気サイクルと同期させて、加圧・減圧すれば、効率的な分泌物排泄効果が得られる可能性が考えられる。
【0025】
(4)請求項4により得られる効果を説明する。請求項1記載の複数区画の空気袋体を左上背面空気袋体、左下背面空気袋体、右上背面空気袋体、右下背面空気袋体の計4区画の空気袋体とすると、そのうち左上背面空気袋体または右上背面空気袋体を、自発呼吸患者の自発呼吸曲線の呼気・吸気サイクルと同期させてON・OFFを繰り返して、肺疾患々者の左右いずれかの病側肺または両肺に対して背面からの加圧・減圧が可能となり、肺疾患の原因となる痰や分泌物の排泄効果や換気改善効果など、効率的な呼吸理学療法を自動的にすすめることが可能である。又、左右の下背面空気袋体を連動させて、自発呼吸曲線の呼気・吸気サイクルと同期させて、加圧・減圧すれば、腹式自発呼吸を促すような呼吸理学療法も可能と考えられる。
【0026】
(5)請求項5により得られる効果を説明する。該空気袋体を呼吸曲線とは独立した自動的なタイマー回路により、設定時間々隔で交互にON・OFFを繰り返して、前記空気袋体への加圧または減圧を電気的反復制御する空気供給装置を用いれば、例えば左上背面空気袋体、左下背面空気袋体、右上背面空気袋体、右下背面空気袋体の計4区画の空気袋体において、左列の上下2区画の空気袋体を並列同時的に加圧20分ののち、右列の上下2区画の空気袋を並列同時的に加圧20分とする加圧減圧周期設定とすれば、40分周期即ち1時間未満周期での加圧減圧が可能となる。この空気供給装置を請求項1記載の空気供給装置として用いれば、左右肺・左右胸郭・左右骨盤を含めた体幹の確実で安定した40分周期即ち1時間未満周期での自動体位変換が、24時間以上の多日数で可能となり、労力的・時間的効率の改善効果がもたらされる。
【0027】
(6)請求項6により得られる効果を説明する。前記の左背面部、右背面部の複数区画の空気袋体を、背面部の各区画に縫着した胴衣主体は、体幹上半身からの頚部保持部、左肩部保持部、右肩部保持部と、患者の体幹下半身からの左脚部保持部、右脚部保持部と、体幹の全周を被覆して前面または側面で留め合わす体幹被覆部と一体となって着用可能となり、患者の体移動・姿勢・傾斜・体位変換・回転回旋・ずれによっても左右胸郭や左右骨盤との位置関係が偏位が少なくなるという空気袋体の位置安定化効果が得られる。その効果があるため、各々区画の背面からの加圧・減圧を繰り返す呼吸理学療法や、左右2列交互での加圧・減圧による安定した体位変換が可能となる。また、位置関係の偏位を補正するような装置を、ベッドやマット自体へ追加設置することは不要となる。
【0028】
(7)請求項7により得られる効果を説明する。前記空気袋体を、胴衣主体の背面部に
設けられたポケット部に収納する方式とすることによって、非使用時には空気袋体をポケット部から取り出して、胴衣主体とは別個に消毒や滅菌などの手入れが可能となる。それにより、患者への臨床的装置としての保清・管理に於いて、より容易化・効率化効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明、請求項1の臥床患者用の胴衣装置を着用時の背面図
【図2】同上の臥床患者用の胴衣装置を着用した背臥位の正面図
【図3】同上の胴衣主体を展開した状態の背面からみた外観図
【図4】本発明、請求項2の臥床患者用の胴衣装置を着用時の背面図
【図5】同上の臥床患者用の胴衣装置を着用した背臥位の正面図
【図6】同上の胴衣主体を展開した状態の背面からみた外観図
【図7】同上の左上下背面部空気袋体を加圧し、上半身ベッドアップした外観図
【図8】(イ)同上の左側空気袋体を加圧した時の頭方向からみた外観図(ロ)同上の右側空気袋体を加圧した時の頭方向からみた外観図
【図9】(イ)同上の左側空気袋を加圧した時の両脚方向からみた説明図(ロ)同上の右側空気袋を加圧した時の両脚方向からみた説明図
【図10】(イ)同上の左側空気袋を加圧した時の肺・胸郭部位での断面図(ロ)同上の右側空気袋を加圧した時の肺・胸郭部位での断面図
【図11】(イ)同上の左上背面部空気袋体を、人工呼吸装置の吸気に同期させて減圧し、左肺を拡張した図(ロ)同上の左上背面部空気袋体を、人工呼吸装置の呼気に同期させて加圧し、左肺を背面から加圧し、左肺疾患による痰などの分泌物を気道を通じて排泄させようとする図
【図12】同上の左上背面部空気袋体を、自発呼吸曲線の呼気に同期させて加圧し、左肺を体外から加圧し、左肺疾患による痰などの分泌物を気道を通じて排泄させようとする図
【図13】胴衣装置の空気回路及び電気回路を示す概略回路図
【図14】圧縮空気供給のパターンを示す説明図
【図15】図13の電気回路に人工呼吸装置又は自発呼吸監視装置との間に介された同期装置とのインタフェースを加えた図
【図16】請求項7の実施例を示す空気袋体を胴衣主体背面部の4区画のポケットに挿入した外観図
【図17】請求項1の胴衣装置を健常者12名に使用した時の体位変換角度(イ)胸郭体位変換角度図(ロ)骨盤の体位変換角度図
【図18】請求項1の胴衣装置を手術後患者16名に使用した時の体位変換角度(イ)胸郭体位変換角度図(ロ)骨盤の体位変換角度図
【図19】72才、肺炎合併患者で右大腿骨骨折手術直後から30〜60分の周期で体幹の自動体位変換を10日間行った手術後経過図。(イ)体温、(ロ)必要吸入酸素量、(ハ)酸素飽和度。
【図20】(イ)胴衣装置の着用アンケ−ト項目(ロ)健常者12名に於いてのアンケ−ト結果の図示(ハ)手術後患者29名でのアンケ−ト結果の図示
【図21】健常者12名に於いて左列の2個の空気袋体を左加圧10分→間欠休止期5分→右列の2個の空気袋体を右加圧10分で体幹の自動体位変換を行い、(イ)背部中央圧、(ロ)骨盤中央仙骨圧を測定した結果の図示
【図22】人体の体幹骨格の模式図
【図23】(イ)特許文献1の左側空気袋体を加圧開始時の、骨盤部への作用力の予想図(ロ)特許文献1の左側空気袋体を加圧終了時の、骨盤部と左右空気袋体との位置関係図および作用力の予想図 (ハ)特許文献1において、上記(イ)(ロ)に引き続いて右側空気袋体を加圧開始時の、骨盤部の体位変換に反する回転と作用力の予想図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を掲げた図面に基づいて説明する。
図1は患者Hを請求項1記載の胴衣主体1によって体幹全周被覆した状態を背面から観た図を示す。
体幹全周被覆用の胴衣主体1は患者Hの上方からの頚部保持部(上方保持部)2、左肩部保持部(上方保持部)3、右肩部保持部(上方保持部)4、および患者Hの下方からの左脚部保持部(下方保持部)5、右脚部保持部(下方保持部)6を有して一体となった繋ぎ型の胴衣構成である。背面から観ると、左右脚部は左脚部保持部の面ファスナー、右脚部保持部の面ファスナーで各々左右別個に結束保持されている。
【0031】
図1に示すように、請求項1記載の胴衣主体1の背面部には、左右上下の4区画に左上背面部空気袋体1La、左下背面部空気袋体1Lb、右上背面部空気袋体1Ra、右下背面部空気袋体1Rbを備えている。この4区画の空気袋体をそれぞれ個別に加圧・減圧できる様に、空気供給装置8にそれぞれの耐圧チュ−ブ9によって接続されている。この場合、胴衣主体1の患者上方からの頚部保持部2、左肩部保持部3、右肩部保持部4、および患者下方からの左脚部保持部5、右脚部保持部6の5部位を、緩まない程度に包容または結束保持することによって、前記の4個の空気袋体は、体幹背面の4区画との位置関係が安定化する。
【0032】
こうした構成によって、各区画をそれぞれ個別的に加圧・減圧でき左右胸郭や左右骨盤の動きを制御することが可能となる。ここで各区画の位置関係が安定化し個別的に加圧・減圧可能となることによって、たとえば、左上背面部空気袋体1Laすなわち左肺に相当する部位を個別的に加圧・減圧することが可能となる。さらに各区画の任意の組み合わせも可能となり、たとえば、左列の左上背面部空気袋体1La、左下背面部空気袋体1Lbを並列同時的に、また右列の右上背面部空気袋体1Ra、右下背面部空気袋体1Rbを並列同時的に、左右交互で加圧・減圧を繰り返し、上半身と骨盤の動きを制御しつつ体幹の体位変換を行うことや、左下背面部空気袋体1Lb、右下背面部空気袋体1Rbを左右交互に加圧減圧し、骨盤部のみの体位変換を行うことなどが可能となる。すなわち4個の空気袋体のうち、患者に対する目的に応じて部位を限定して1区画のみを加圧・減圧する場合や、2区画以上を選択して連動して加圧・減圧する場合も可能であることを意味する。本実施の形態では、左右2区画ずつの空気袋体としたが、その区画数は1区画または2区画以上でより多数であっても良く、その数は限定されない。
【0033】
図2は寝台10に臥床した患者Hを正面から観た状態を示し、胴衣主体1は前開きのものとして、体幹を被覆して前面で体幹被覆用の面ファスナーで緩まない程度に留めると同時に、患者上半身からの頚部保持部2、左肩部保持容部3、右肩部保持部4と、患者下半身から左脚部保持部5、右脚部保持部6の体幹から分岐する合計5部位を包容または結束保持して一体となった繋ぎ型の胴衣である。これによって図1で示した胴衣主体1の背面部に備えられた4区画の空気袋体1La、1Lb、1Ra、1Rbはそれぞれ体幹上半身および体幹下半身の背面での左右上下の位置関係が安定化し、患者Hの体移動・姿勢・傾斜・体位変換・回転回旋などに伴って一体化して追随する様になる。
【0034】
図3は、請求項1の胴衣主体を展開し背面からみた外観図である。胴衣主体1は前開きであり、複数個の体幹被覆用の面ファスナ−A面7Aと各々に合う体幹被覆用の面ファスナ−B面7Bとで留め合わせて体幹を緩まない程度に被覆すると同時に、患者上方からの頚部保持部2、左肩部保持部3、右肩部保持部4と、患者下方からの左脚部保持部5、右脚部保持部6との合計5部位で包容保持して各々の部位の面ファスナーA面とB面を留め合わせて着衣する様式である。なお、こうした様式であれば、胴衣主体1の背面を寝台面に向けて胴衣主体1を展開した平面上に、患者を背臥位のままで乗せれば、あとは体幹を被覆して留め合わせ、5か所の保持部を包容または結束保持して留め合わせれば、患者の頚部、四肢の屈曲伸展などによって袖や裾を通さなくても、着衣が可能である。ここで、体幹被覆固定部、頚部保持部、左肩部保持部、右肩部保持部、左脚部保持部、右脚部保持部の固定材料は、もちろん面ファスナーに限定するものでなく、それ以外の材料、たとえばボタン、フックなどでもよい。
【0035】
図4は患者Hを請求項2記載の胴衣主体1によって体幹全周被覆した状態を背面から観た図を示す。この胴衣主体1には図1の請求項1のものに加えて、左肩部周長調節部3X、右肩部周長調節部4X、左脚部周長調節部5X、右脚部周長調節部6Xを備えたことを示している。この帯状の各々の保持部周長調節部を弛まず又きつくない程度に適度に締めて留めることによって、患者の体格に更に適合した胴衣着用が可能となると同時に、各背面区画での空気袋体位置関係の更なる安定化が得られることを示している。
【0036】
図5は請求項2の胴衣主体1を着用して寝台10に臥床した患者Hを正面から観た状態を示している。この胴衣主体1には図2の請求項1のものに加えて、左肩部周長調節部3X、右肩部周長調節部4X、左脚部周長調節部5X、右脚部周長調節部6X、さらに体幹周長調節部7Xを備えたことを示している。この帯状の各々の周長調節部を弛まず又きつくない程度に適度に締めて留めることによって、患者の体格に更に適合した胴衣着用が可能となると同時に、各背面区画での空気袋体位置関係のより一層の安定化が得られる。
【0037】
図6は、請求項2の胴衣主体を展開し背面からみた外観図である。この胴衣主体1には図2の請求項1のものに加えて、左肩部周長調節部3X、右肩部周長調節部4X、左脚部周長調節部5X、右脚部周長調節部6X、さらに体幹周長調節部1Xを備えたことを示している。各々の帯状の周長調節部は面ファスナーA面とB面によってその長さを調節して留め合わす様式としている。勿論、留め合わす様式としては、紐、ボタン、フックなどを用いたものも可能であり、面ファスナーに限定するものではない。
【0038】
図7は、左右上下の背面4区画での各空気袋体を備えた胴衣を着用した患者Hの上半身をベッドアップした例である。左上背面部空気袋体1La、左下背面部空気袋体1Lbを並列同時的に加圧したものであるが、左右上下の背面4区画での各空気袋体の位置安定化により、空気袋が折れ曲がらず、くい込んで閉塞したりせずに、円滑に体幹の体位変換が可能となる。
【0039】
図8の(イ)(ロ)は、体位変換を頭方向から観た図である。左上背面部空気袋体1La、右上背面部空気袋体1Raは、患者上方からの頚部保持部2、左肩部保持部3、右肩部保持部4および左肩保持部周長調節部3X、右肩保持部周長調節部4Xを有し一体化した胴衣主体1によって、体幹上半身の左右背面に各々が保持固定され、左右位置関係がずれることなく、体位変換され、脊柱の突出部である背面正中部Hfが減圧されていることを示している。
【0040】
図9の(イ)(ロ)は、体位変換を両脚方向から観た図である。左下背面部空気袋体1Lb、右下背面部空気袋体1Rbは、患者下方からの左脚部保持部5、右脚部保持部6を有し一体化した胴衣主体1によって、体幹下半身の左右背面に各々が保持固定され、、左右位置関係がずれることなく骨盤の動きが制御可能となり、体位変換され、骨盤の突出部である仙骨正中部Hgが減圧されていることを示している。
【0041】
図10の(イ)(ロ)に示すように、左上背面部空気袋体1Laと右上背面部空気袋体1Raは、各々左肺HLと右肺HRとの位置関係がずれることなく、背面から安定した加圧・減圧が繰り返される。
【0042】
図11(イ)(ロ)は、左肺炎で左肺HLに痰などの分泌物HLaが貯留した状態で、人工呼吸装置11ABを装着した患者Hに、胴衣主体1を着用し、左上背面空気袋体1Laを人工呼吸装置11ABの呼気・吸気サイクル11abすなわち気道内圧曲線と同期させた加圧・減圧サイクル8abで空気供給装置8を制御した図である。ここで、呼気・吸気サイクル11abの信号は、人工呼吸回路内での気道内圧曲線において、例えば、圧上昇開始点を吸気開始時点11acとし、圧下降開始点を呼気開始時点11bcとして、同期装置11Xを介して電気信号で空気供給装置8に伝え、減圧・加圧ON・OFFのトリガーポイントとすることができる。尚、該同期装置11Xは、人工呼吸装置11ABと一体に設けられる場合等がある。
【0043】
同図の(イ)は吸気相の状態で、人工呼吸装置11ABの吸気11aに合わせて左上背面空気袋体1Laは減圧し、左肺HLの拡張を妨げない状態である。そこから呼気相に移ったのが(ロ)に示した状態で、呼気11bに同期させて空気袋体1Laを加圧して空気袋体1Laを膨らますことによって、左肺HLを体外で左上背面から加圧すると同時に患者Hの体を傾かせ、左肺HLの痰などの分泌物HLaを気道Hiを通じて分泌物排泄HLxさせようとするものである。すなわち、呼気・吸気サイクル11abの呼気開始時点11bcにおいて空気袋体1La加圧ON8bcとし、吸気開始時点11acにおいて空気袋体1Laの加圧OFF8acとする。これを呼吸サイクルで繰り返すことにより、左肺HLの呼吸改善効果をもたらす。本実施の形態では、呼気11b一回に対して、一回の加圧ON8bcを設けているが、例えば、呼気11b三回に対して、一回の加圧ON8bcを設ける等同期のさせ方は、任意に設定可能である。
【0044】
図12は、左肺炎で左肺HLに痰などの分泌物HLaが貯留し、自発呼吸している患者に、胴衣主体1を着用し、胸郭につけた自発呼吸監視モニター電極12xyからの自発呼吸曲線12abに同期させた加圧・減圧サイクル8abで、左上背面空気袋体1Laへの空気供給制御を行う図である。自発呼気信号12bに同期させて空気袋体1Laを加圧して空気袋体1Laを膨らますことによって、左肺HLを体外で左上背面から加圧すると同時に患者Hの体を傾かせ、左肺HLの痰などの分泌物HLaを気道Hiを通じて分泌物排泄HLxさせようとするものである。即ち、自発呼吸曲線12abの呼気開始時点12bcにおいて空気袋体1Laの加圧ON8bcとし、吸気開始時点12acにおいて空気袋体1Laの加圧OFF8acとする。これを呼吸サイクルで繰り返すことにより、左肺HLの呼吸改善をもたらす。前記人工呼吸装置11ABと同様に、自発呼吸曲線12abの信号は、自発呼吸監視装置12AB、同期装置12Xを介して電気信号で空気供給装置8に伝え、減圧・加圧ON・OFFのトリガーポイントとすることができる。尚、前記人工呼吸装置11ABと同様に、該同期装置12Xは、自発呼吸監視装置12ABと一体に設けられる場合等がある。また、本実施の形態では、呼気12b一回に対して、一回の加圧ON8bcを設けているが、人工呼吸の場合と同様に、例えば、呼気12b三回に対して、一回の加圧ON8bcを設けるなど、同期のさせ方は任意に設定可能である。ここで、自発呼吸監視装置12ABの方式としては、公知のものとして、胸郭に装着した2個の電極間に高周波電流を流し、呼吸によりインピ−ダンスが変化することを利用して呼吸曲線を描くインピ−ダンスニュ−モグラフ法や、呼吸に応じての胸郭に巻いた伸縮性コイル横断面積変化によるインダクタンスの変化を利用して呼吸曲線を描くインダクタンス・プレチスモグラフ法などにより、自発呼吸曲線11abの信号をえることが可能とされる。
【0045】
図13は、上記図1、図2、図4、図5、図10での胴衣主体1と空気回路及び電気回路を含めた空気供給装置8からなる胴衣装置を示す概略回路図である。図13に示すように、空気供給装置8は、コンプレッサ等の圧縮空気供給源20と、該圧縮空気供給源20に接続されて供給される圧縮空気の脈動を抑制するためのタンク21と、圧力センサ22を備えた制御部23と、供給路24により該タンク21に接続された左電磁弁25L及び右電磁弁25Rと、上記供給路24と左電磁弁25L及び右電磁弁25Rの供給口との間に設けた左逆止弁26L及び右逆止弁26Rとで構成されている。尚、電磁弁と逆止弁の数は、圧縮空気の供給流路数に応じて決定され、図に示す胴衣装置の場合は、二個の左電磁弁25L及び右電磁弁25Rと、二個の左逆止弁26L及び右逆止弁26Rが設けられているが、二個に限定されるものではなく、目的に応じてより多数の複数個を設けることもできる。
【0046】
左電磁弁25Lまたは右電磁弁25Rは、供給口と分配口と排気口が設けられた公知の三方弁で、ソレノイド部により作動する球形の弁体(図示せず)で三方弁を開閉するようにされている。該供給口は、上記左逆止弁26L及び右逆止弁26R、上記供給路24、上記タンク21を介して圧縮空気供給源20に接続されている。該分配口は、耐圧チューブ9を介してそれぞれ対応する空気袋体に接続されている。該排気口は、該分配口に連通可能とされ、かつ、空気供給装置8内で開口している。
【0047】
圧縮空気供給源20からの圧縮空気は、上記タンク21、上記供給路24、上記左逆止弁26L及び右逆止弁26Rを通過して左電磁弁25Lまたは右電磁弁25Rの供給口内に供給され、該電磁弁の分配口から耐圧チューブ9を通過して空気袋体に供給される。供給された圧縮空気は、該逆止弁により逆流せず、空気袋体の中に保持される。左電磁弁25Lまたは右電磁弁25Rの弁体が移動して排気口が分配口に連通すると、空気袋体の圧縮空気は排気される。排気された圧縮空気は、空気供給装置8内に放出され、さらに、空気供給装置8に設けられた通気口(図示せず)から放出される。
【0048】
制御部23は、図13の破線に示すように、圧縮空気供給源20と左電磁弁25Lまたは右電磁弁25Rと電気的に接続されて、圧縮空気供給源20を制御し、左電磁弁25Lまたは右電磁弁25RをON・OFF制御する。
【0049】
空気供給装置8に設けたスイッチ機構をONして加圧・減圧すなわち給気・排気を開始する。給気・排気を開始すると、圧縮空気供給源20が作動して、圧縮空気が供給されると共に、制御部23が左電磁弁25Lまたは右電磁弁25RのON・OFFを開始する。制御部23は、予め記憶しておいたパターンに従って左電磁弁25Lまたは右電磁弁25RのON・OFFを行う。以下の図14に、左電磁弁25Lまたは右電磁弁25RのON・OFFパターンを列挙する。これは例示であってこれに限定されるものではなく、様々なパターンを制御部23に記憶させることができる。
【0050】
例えば、図14に示すパターンによって説明する。すなわち給気・排気作動時間T1、間欠的休止時間T2とすると、ここでは例示として、モードAはT1=10分、T2=5分、モードBはT1=20分、T2=10分、モードCはT1=30分、T2=10分とした。空気袋体1La、1Lbに耐圧チューブ9を介して接続された左電磁弁25LからONし、左電磁弁25Lの弁体が移動し供給口と分配口とが連通して、空気袋体1La、1Lbに圧縮空気が流入し始める。左電磁弁25Lは、時間T1の間ONする。時間T1経つと、左電磁弁25Lは、OFFして左電磁弁25Lの弁体が排気口と分配口とが連通して、空気袋体1La、1Lbの空気は、左電磁弁25Lの排気口より排気される。次に、左電磁弁25LがOFFして時間T2経つと、空気袋体1Ra、1Rbに耐圧チューブ9を介して接続された右電磁弁25RがONし、右電磁弁25Rの弁体が移動し供給口と分配口とが連通して、空気袋体1Ra、1Rbに圧縮空気が流入し始める。右電磁弁25Rは、時間T1の間ONする。時間T1経つとOFFして、左電磁弁25Lの弁体が排気口と分配口とが連通して、空気袋体1Ra、1Rbの空気は、右電磁弁25Rの排気口より排気される。さらに、右電磁弁25RがOFFして時間T2経つと、空気袋体1La、1Lbに連通する左電磁弁25LがONして以上のパターンを繰り返す。
【0051】
上記圧力センサー22は、管27によってタンク21と連通しており、タンク21内の圧力を測定する。左電磁弁25Lまたは右電磁弁25RがONであれば、該電磁弁の供給口と分配口とが連通し、タンク21内と該電磁弁の分配口と接続された空気袋体と同圧となり、上記圧力センサー22が該空気袋体の圧力を測定することとなる。
【0052】
制御部23は、各空気袋体毎に違った内部圧力を設定するため、圧縮空気供給源20を駆動して空気袋に圧縮空気を流入させる際、圧縮空気供給源20に与えられる商用交流電源の導通角を変える比例制御を行っている。また、制御部23は、設定した圧力値と、圧力センサー22によって測定された圧力値が相違する場合は、すみやかに設定圧力に近づけるために、上記導通角を変化させる。
【0053】
図15は、空気供給装置8と人工呼吸装置11AB又は自発呼吸監視装置12ABとの間に配置された同期装置11/12Xと空気供給装置8が接続された回路図で、これによって、上記図11、図12のような左の病側肺を呼気11bまたは12bに同期させて、間欠的に自動加圧させる方式を示している。同期装置11/12Xの通信ライン28が空気供給装置8の制御部23と接続された入出力回路29と接続されている。通信ライン28を通して呼気・吸気サイクル11abあるいは自発呼吸曲線12abの信号が入出力回路29を介して制御部23に入力されると、上記のように、制御部23は、呼気11bまたは12bに同期して空気袋体1Laを加圧すべく、圧縮空気供給源20を制御し、左電磁弁25LをON・OFF制御する。
【0054】
図16に示す様に、左上背面部空気袋体1La、左下背面部空気袋体1Lb、右上背面部空気袋体1Ra、右下背面部空気袋体1Rbは、胴衣主体1の背面部の中心線に対して左右上下にそれぞれに備えるが、勿論、胴衣装置として、左上背面部ポケット12La、左下背面部ポケット12Lb、右上背面部ポケット12Ra、右下背面部ポケット12Rbに収納する方式としてもよい。
【実施例1】
【0055】
図17は、22〜56歳、体重45〜92Kgの健常者12名に於いて、請求項1の胴衣装置を用いて、左右交互加圧30分の周期で、それぞれ30mmHg加圧で、体位変換を行った結果を示したものである。同図の(イ)で示した胸郭の体位変換角度とは水平面に対する両鎖骨遠位端を結んだ線との角度で、同図の(ロ)で示した骨盤の体位変換角度とは水平面に対する両側の上前腸骨棘を結んだ線の角度である。同図の(イ)で示したように胸郭では右側を平均19.6度挙上、左側を平均19.0度挙上、それと同時に同図の(ロ)で示したように骨盤は右側を平均21.3度挙上、左側を平均21.4度挙上の角度で、左右胸郭と左右骨盤が連動して一体安定化した体幹の体位変換が行われていることが示されている。又、体位変換の角度は、空気袋体の容積や加圧程度によって、さらに大きくすることが可能と考えられる。
【実施例2】
【0056】
図18は、17〜94歳、体重38〜110Kgの整形外科全身麻酔手術後患者16名に於いて、患者またはその家族同意のもとで、請求項1の胴衣装置を用いて、左右交互加圧30分〜60分の周期で体位変換を行った結果を示したものである。同図の(イ)で示したように、胸郭の体位変換角度は右側を平均20.6度挙上、左側を平均18.9度挙上、それと同時に同図の(ロ)で示したように、骨盤の体位変換角度は右側を平均20.3度挙上、左側を平均18.8度挙上の角度で、左右胸郭と左右骨盤が連動して一体安定化した体幹の体位変換が行われていることが示されている。
【実施例3】
【0057】
図19は両側の嚥下性肺炎を合併した右大腿骨骨折手術後の患者において、患者またはその家族同意のもとで、請求項1の胴衣装置を用いて、30〜60分の周期で10日間継続で体幹の自動体位変換を行った臨床経過図である。10日間着用による体幹の安定した自動体位変換の経過にて、同図の(イ)体温の解熱、同図の(ロ)必要吸入酸素量の減少、同図の(ハ)酸素飽和度の上昇が得られ、嚥下性肺炎の改善、肺呼吸機能の改善の効果が示されている。
【実施例4】
【0058】
図20は、請求項1の胴衣装置を使用時の、着用性、加圧の影響、機械的な影響に関するアンケ−トである。同図の(イ)はそのアンケ−ト項目と点数評価法である。同図の(ロ)は実施例1記載の健常者12名での各項目の平均点結果である。同図の(ハ)は実施例2記載の手術後患者を含んだ、患者またはその家族の同意を得た整形外科手術後入院患者29名での各項目の平均点の結果である。健常者および整形外科手術後入院患者に於いて、特記すべき危険性や大きな問題はなく、安全に臨床試用ができたことを示した。
【実施例5】
【0059】
図21は、健常者12名に於いて左列の2個の空気袋体を左加圧10分→間欠休止期5分→右列の2個の空気袋体を右加圧10分で体幹の自動体位変換を行い、同図の(イ)背部中央圧と、同図の(ロ)骨盤中央仙骨圧を測定した結果である。背部中央圧と骨盤中央仙骨圧ともに、間欠休止期には30mmHg以上の体圧を示すことが多いが、左列加圧時と右列加圧時には、それぞれ有意に減圧されている。それぞれWilcoxon平均値差検定でP<0.01である。本発明による体幹の自動体位変換により、背部中央圧と骨盤中央仙骨圧の減圧すなわち体幹中央部の有意な体圧分散が得られている。
(産業上の利用の可能性)
【0060】
本発明によって、体動困難な入院患者や施設・在宅療養患者などでの呼吸器合併症予防や改善がはかられ、胸郭・脊柱・骨盤を含めた体幹の体圧分散が促され、これまでの人的・用手的な労力に頼ってきた呼吸理学療法の一部や体位変換を、1時間未満の周期で24時間以上の他日数にわたって自動化することが可能になる。それによって患者へのより効率化の高い医療効果とともに、医療従事者の労働条件改善・人件費節減効果をもたらす可能性が得られる。また自動体位変換装置としても、従来のベッド・マット型の装置と比して、重量・容積の低減化による移動・運搬・保管などの効率化が得られる可能性がある。これらのことにより、本発明は医療・介護関連産業において利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0061】
1 胴衣主体
1La 左上背面空気袋体
1Lb 左下背面空気袋体
1Ra 右上背面空気袋体
1Rb 右下背面空気袋体

頚部保持部

左肩部保持部
3A
左肩部保持部の面ファスナーA面
3B 左肩部保持部の面ファスナーB面
3X 左肩部周長調節部
3XA 左肩部周長調節部の面ファスナーA面
3XB 左肩部周長調節部の面ファスナーB面

右肩部保持部
4A 右肩部保持部の面ファスナーA面
4B 右肩部保持部の面ファスナーB面
4X 右肩部周長調節部
4XA 右肩部周長調節部の面ファスナーA面
4XB 左肩部周長調節部の面ファスナーB面

左脚部保持部
5A 左脚部保持部の面ファスナーA面
5B 左脚部保持部の面ファスナーB面
5X 左脚部周長調節部
5XA 左脚部周長調節部の面ファスナーA面
5XB 左脚部周長調節部の面ファスナーB面

右脚部保持部
6A 左脚部保持部の面ファスナーA面
6B 左脚部保持部の面ファスナーB面
6X 左脚部周長調節部
6XA 左脚部周長調節部の面ファスナーA面
6XB 左脚部周長調節部の面ファスナーB面
7 体幹被覆部
7A 体幹被覆部の面ファスナーA面
7B 体幹被覆部の面ファスナーB面
7X 体幹周長調節部
7XA 体幹周長調節部の面ファスナーA面
7XB 体幹周長調節部の面ファスナーB面

空気供給装置
8ab 加圧・減圧サイクル
8bc 加圧ON
8ac 加圧OFF
8c 空気回路及び電気回路
9 耐圧チューブ
10 寝台
11AB 人工呼吸装置
11ab 呼気・吸気サイクル
11a
吸気
11b
呼気
11bc 呼気開始時点
11ac
吸気開始時点
11X 同期装置
12xy 自発呼吸監視モニタ−電極
12AB 自発呼吸監視装置
12ab 自発呼吸曲線
12b
自発呼気
12bc 呼気開始時点
12ac 吸気開始時点
12X 同期装置
13La 左上ポケット部
13Lb 左下ポケット部
13Ra 右上ポケット部
13Rb 右下ポケット部
20 圧縮空気供給源
21 タンク
22 圧力センサー
23 制御部
24 供給路
25L 左電磁弁
25R 右電磁弁
26L 左逆止弁
26R 右逆止弁
27 管
28 同期装置11/12Xからの通信ライン
29 入出力回路
H
患者
HL 左肺
HR 右肺
HLa 分泌物
HLx
分泌物排泄
Hd 左脚
H e 右脚
Hf 背面正中部
Hg 仙骨正中部
HT 胸郭
HTL 左胸郭
HTR 右胸郭
HP 骨盤
HPL 左骨盤
HPR 右骨盤
HS 脊柱
N
特許文献1の被服布地
NL 特許文献1の左空気袋体
NR
特許文献1の右空気袋体
M 自重
M1 右方移動ずれ
M2 回旋性ずれ
T1 給気・排気作動時間
T2 間欠的休止時間











【特許請求の範囲】
【請求項1】
臥床患者の体幹上半身から分岐する頚部、左肩部、右肩部を各々で包容保持する3か所の上方保持部すなわち頚部保持部、左肩部保持部、右肩部保持部と、患者の体幹下半身から分岐する左脚部、右脚部を各々で結束保持する2か所の下方保持部すなわち左脚部保持部、右脚部保持部と、体幹の全周を被覆して前面または側面で留め合わす体幹被覆部と、該上方保持部と該下方保持部及び該体幹被覆部を有して一体となって着用可能な繫ぎ型の胴衣主体と、該胴衣主体の左背面部、右背面部の複数区画の各々に、患者の体移動・回転によっても該胴衣主体と患者の体幹上半身および体幹下半身と一体となって追随する様に備えられた複数個の空気袋体と、更に複数個の該空気袋体を各々個別に、又は2個以上を連動させて加圧または減圧状態になる様に制御可能である空気供給装置とで成したことを特徴とする臥床患者用の胴衣装置。
【請求項2】
前記胴衣主体は、個々の患者の体格に応じて更に適合させるために、体幹上半身からの左肩部保持部、右肩部保持部、体幹下半身からの左脚部保持部、右脚部保持部おいて、各部位の周長を調節して留めることができる左肩部周長調節部、右肩部周長調節部、左脚部周長調節部、右脚部周長調節部と、体幹被覆部での体幹周長を調節して留めることができる体幹周長調節部とを設けたことを特徴とする請求項1の臥床患者用の胴衣装置。
【請求項3】
前記複数区画の空気袋体は、各々個別に、又は2区画以上を連動させて、人工呼吸装置の呼気・吸気サイクル信号と同期させてON・OFFを繰り返して、加圧・減圧状態に電気的制御する空気供給装置とで成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の臥床患者用の胴衣装置。
【請求項4】
前記複数区画の空気袋体は、各々個別に、又は2区画以上を連動させて、自発呼吸患者の自発呼吸曲線の呼気・吸気サイクル信号と同期させてON・OFFを繰り返して、加圧・減圧状態に電気的制御する空気供給装置とで成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の臥床患者用の胴衣装置。
【請求項5】
前記複数区画の空気袋体は、各々個別に、又は2区画以上を連動させて、呼気・吸気サイクルとは独立したタイマ−回路により、設定時間々隔で交互にON・OFFを繰り返して加圧または減圧状態に電気的反復制御する空気供給装置とで成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の臥床患者用の胴衣装置。
【請求項6】
前記複数区画の空気袋体は、前記胴衣主体の背面部に縫着したことを特徴とする請求項1〜5記載の臥床患者用の胴衣装置。
【請求項7】
前記複数区画の空気袋体は、前記胴衣主体の背面部に設けられたポケット部に収納したことを特徴とする請求項1〜5記載の臥床患者用の胴衣装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−19912(P2012−19912A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159395(P2010−159395)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(510194024)医療法人 徳洲会 野崎徳洲会病院 (1)
【出願人】(000227386)日東工器株式会社 (158)
【Fターム(参考)】