説明

自動二輪車の操舵装置

【課題】操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を自動二輪車の車体フレームの前端部近傍に集中配置できるようにした自動二輪車の操舵装置を提供する。
【解決手段】トップブリッジ16および該トップブリッジ16の下方に位置するボトムブリッジ17によってフロントフォーク4を支持すると共に、車体フレーム2に対してフロントフォーク4を回転操舵可能にする自動二輪車の操舵装置30において、ハンドルバー5の回動角度と前輪WFの操舵角度との比率を第1モータM1によって任意に変更する操舵レシオ可変手段S1と、ハンドルバー5に入力される操作力に第2モータM2による補助力を加えてフロントフォーク4を回動させる操舵パワーアシスト手段W1とを具備する。両手段S1,W1をトップブリッジ16とボトムブリッジ17との間に配設する。第1モータM1および第2モータM2を車体フレーム2の外壁より車体内側に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の操舵装置に係り、特に、操舵レシオ可変手段およびパワーアシスト手段を同時に適用した自動二輪車の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の操舵装置において、ステアリング(ハンドル)への入力操作量と操舵輪の切れ角(操舵角)との比率を任意に変更する操舵レシオ可変手段や、乗員の操作負担が軽減されるように電動モータによって操舵力をアシストするパワーアシスト手段を適用した構成が知られている。
【0003】
特許文献1には、ステアリングホイールへの操作力をステアリングシャフトおよび自在継手を介してギヤケースに伝達し、このギヤケース内に設けられたラック軸を駆動することで左右の前輪を連動操舵する4輪車用の操舵装置において、操舵レシオ可変手段をギヤケースの内部に収納するようにした構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、操舵出力をアシストする電動モータを、ステアリングホイールが固定されたステアリングシャフトの一端部と、左右の前輪を操舵するラック軸が収められたギヤケース内の2箇所に設けるようにした4輪車用の操舵装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−203444号公報
【特許文献2】特開2008−114726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された操舵レシオ可変手段および特許文献2に記載された操舵パワーアシスト手段は、いずれも大きな取り付けスペースを確保できる4輪車用として構成されたものであり、この両手段を、余剰スペースの少ない自動二輪車に同時に適用するためには、特許文献1,2では検討されない特別の工夫が必要であった。
【0007】
さらに、上記したような操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を自動二輪車に適用する場合には、構造の簡略化や車体の重量バランス等の観点から、この両手段が車体フレームの前端部近傍に集中配置されることが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を自動二輪車の車体フレームの前端部近傍に集中配置できるようにした自動二輪車の操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、前輪(WF)を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク(4)を、トップブリッジ(16)および該トップブリッジ(16)の車体下方側に位置するボトムブリッジ(17)によって保持すると共に、車体フレーム(2)に対してヘッドパイプ(18)を中心に前記フロントフォーク(4)を回転操舵可能にする自動二輪車の操舵装置(30)において、乗員が操作するハンドル(5)の回動角度と前記前輪(WF)の操舵角度との比率を第1モータ(M1)によって任意に変更する操舵レシオ可変手段(S1)と、前記ハンドル(5)へ入力される操作力に第2モータ(M2)による補助力を加える操舵パワーアシスト手段(W1)とを具備し、前記操舵レシオ可変手段(S1)および前記操舵パワーアシスト手段(W1)が、前記トップブリッジ(16)とボトムブリッジ(17)との間に配設されている点に第1の特徴がある。
【0010】
また、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)は、車体上面視において互いに重ならないように配置されている点に第2の特徴がある。
【0011】
また、前記ハンドル(5)への入力トルクを検知する操舵トルク検知手段(48)を具備し、前記トップブリッジ(16)とボトムブリッジ(17)との間に、車体上方側から、前記操舵トルク検知手段(48)、前記操舵レシオ可変手段(S1)、前記操舵パワーアシスト手段(W1)の順に配設されている点に第3の特徴がある。
【0012】
また、前記操舵トルク検知手段(48)は、磁歪式のトルクセンサである点に第4の特徴がある。
【0013】
また、前記自動二輪車の操舵装置(30)の上部に突出する入力軸(40)と、前記自動二輪車の操舵装置(30)の下部に突出すると共に、前記入力軸(40)への入力が、前記操舵レシオ可変手段(S1)および前記操舵パワーアシスト手段(W1)によって変換されて出力される出力軸(66)とを具備し、前記出力軸(66)に前記ボトムブリッジ(17)が固定されており、前記入力軸(40)が、前記トップブリッジ(16)を貫通して該トップブリッジ(16)に回動自在に軸支されており、前記ハンドル(5)が、前記トップブリッジの上方で前記入力軸(40)に固定されている点に第5の特徴がある。
【0014】
また、前記入力軸(40)と出力軸(66)とが、同軸上に配置されている点に第6の特徴がある。
【0015】
また、前記操舵レシオ可変手段が、前記入力軸(40)と出力軸(66)との間で回転駆動力の伝達を行うスライダ(S1)であり、前記スライダ(S1)を、前記第1モータ(M1)によって車体前後方向に移動させることで、入力軸(40)と出力軸(66)との間の回転角度の比率が変わるように構成されており、前記操舵パワーアシスト手段は、第2モータ(M2)によって回転される回転体(W1)であり、該回転体(W1)の下部に前記出力軸(66)が固定されている点に第7の特徴がある。
【0016】
また、前記スライダ(S1)は、前記第1モータ(M1)の回転軸(73)に設けられた送りネジ機構によって駆動され、前記回転体は、第2モータ(M2)の回転軸(83)に設けられたウォーム(77)と噛み合うウォームホイール(W1)である点に第8の特徴がある。
【0017】
また、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)が、前記車体フレーム(2)の外壁より車体内側に配設されている点に第9の特徴がある。
【0018】
また、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)が、前記車体フレーム(2)の内部に収納されるように配設されている点に第10の特徴がある。
【0019】
また、前記自動二輪車の操舵装置(30)は、前記フロントフォーク(4)の左右幅内に収まるように配設されている点に第11の特徴がある。
【0020】
また、少なくとも前記操舵トルク検知手段(48)と前記操舵レシオ可変手段(S1)と前記操舵パワーアシスト手段(W1)とが一体に収納されるハウジング(31,32)を具備し、車体フレーム(2)の前端部に前記ハウジング(31,32)を固定することにより、前記自動二輪車の操舵装置(30)が自動二輪車(1)に取り付けられる点に第12の特徴がある。
【0021】
また、前記操舵レシオ可変手段(S1)および前記操舵パワーアシスト手段(W1)は、それぞれ、第1モータ(M1)と第2のモータ(M2)で構成され、前記両モータ(M1,M2)の軸線(J1,J2)は、前記トップブリッジ(16)とボトムブリッジ(17)との間で車体前後方向に指向し、前記両モータ(M1,M2)は、前記ヘッドパイプ(18)の後方で、前記車体フレーム(2)の一部であると共に前記ヘッドパイプ(18)に連なる左右一対のメインフレーム(2a)の間に配置されている点に第13の特徴がある。
【0022】
さらに、前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)は、車体側面視において略同じ高さに配設されると共に、車体上面視において車体中心線(C)を挟んで車幅方向左右に略同じ間隔で配設されている点に第14の特徴がある。
【発明の効果】
【0023】
第1の特徴によれば、乗員が操作するハンドルの回動角度と前輪の操舵角度との比率を第1モータによって任意に変更する操舵レシオ可変手段と、ハンドルへ入力される操作力に第2モータによる補助力を加える操舵パワーアシスト手段とを具備し、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段が、トップブリッジとボトムブリッジとの間に配設されているので、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を含む操舵装置を、車体フレームの前端部近傍に集中配置することが可能となる。これにより、操舵装置を適用することによる車体重量バランスへの影響を低減することが可能となる。
【0024】
第2の特徴によれば、第1モータおよび第2モータが、車体上面視において互いに重ならないように配置されているので、余剰スペースの少ない自動二輪車において、第1モータおよび第2モータを効率よく配置することが可能となる。
【0025】
第3の特徴によれば、ハンドルへの入力トルクを検知する操舵トルク検知手段を具備し、トップブリッジとボトムブリッジとの間に、車体上方側から、操舵トルク検知手段、操舵レシオ可変手段、操舵パワーアシスト手段の順に配設されているので、操舵トルクを、モータの回転駆動力が加わる前の段階で検知することが可能となる。これにより、モータ駆動力の影響を受ける前の正確な操舵トルクを検知することができる。
【0026】
第4の特徴によれば、操舵トルク検知手段は、磁歪式のトルクセンサであるので、操舵トルクの検知精度を高めることが可能となる。
【0027】
第5の特徴によれば、自動二輪車の操舵装置の上部に突出する入力軸と、自動二輪車の操舵装置の下部に突出すると共に、入力軸への入力が操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段によって変換されて出力される出力軸とを具備し、出力軸にボトムブリッジが固定されており、入力軸がトップブリッジを貫通して該トップブリッジに回動自在に軸支されており、ハンドルがトップブリッジの上方で入力軸に固定されているので、ハンドルとトップブリッジとが相互回転可能に構成されることとなり、トップブリッジおよびボトムブリッジでフロントフォークを支持する構成において、ハンドルの回動角と前輪の操舵角とを異ならせることが可能となる。また、トップブリッジの上方にハンドルが配設されるので、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を用いない通常の自動二輪車と同様の外観を得ることができる。
【0028】
第6の特徴によれば、入力軸と出力軸とが同軸上に配置されているので、ハンドルの回転中心位置とフロントフォークの回転中心位置とが同じになる。これにより、ヘッドパイプを中心にフロントフォークが回動する通常の車両と同様の操作感および外観を有する操舵装置を得ることができる。
【0029】
第7の特徴によれば、操舵レシオ可変手段が、入力軸と出力軸との間で回転駆動力の伝達を行うスライダであり、スライダを第1モータによって車体前後方向に移動させることで、入力軸と出力軸との間の回転角度の比率が変わるように構成されており、操舵パワーアシスト手段は、第2モータによって回転される回転体であり、該回転体の下部に出力軸が固定されているので、出力軸に固定された回転体に対してパワーアシストが行われるため、第2モータの出力を、機械摩擦等による損失を低減して効率よく前輪の操舵力に変換することが可能となる。
【0030】
第8の特徴によれば、スライダは、第1モータの回転軸に設けられた送りネジ機構によって駆動され、回転体は、第2モータの回転軸に設けられたウォームと噛み合うウォームホイールであるので、第1モータおよび第2モータの回転軸を車体前後方向に指向させることが容易になり、車両操舵装置の車体上下方向の寸法を抑えることが可能となる。
【0031】
第9の特徴によれば、第1モータおよび第2モータが、車体フレームの外壁より車体内側に配設されているので、例えば、両モータを操舵装置の車体前方側に配置する構成に比して、操舵装置の重心位置を車体後方側に寄せることが可能となり、操舵装置の重量が車体バランスに与える影響を低減することができる。
【0032】
第10の特徴によれば、第1モータおよび第2モータが、車体フレームの内部に収納されるように配設されているので、両モータが車体フレームの外方に突出しないため、両モータに外力等の影響が及ぶことを防止し、両モータを防護することができる。
【0033】
第11の特徴によれば、自動二輪車の操舵装置は、フロントフォークの左右幅内に収まるように配設されているので、十分な前輪操舵角を確保することが容易になる。また、操舵装置の重量を車幅方向中央に集中させることが可能となる。
【0034】
第12の特徴によれば、少なくとも操舵トルク検知手段と操舵レシオ可変手段と操舵パワーアシスト手段とが一体に収納されるハウジングを具備し、車体フレームの前端部にハウジングを固定することにより、自動二輪車の操舵装置が自動二輪車に取り付けられるので、操舵装置を小組みした後に、車体フレームに取り付けることが可能となり、組立作業が容易になる。また、車体から操舵装置のみを取り外して整備することが容易になる。さらに、操舵装置の取り付け部分を、通常の自動二輪車に使用されるヘッドパイプを取り付け可能に構成しておくことにより、ヘッドパイプを用いた通常のステアリング機構を有する車両と、本発明に係る操舵装置を適用した車両とを、共通の車体フレームを用いて生産することが可能となる。
【0035】
第13の特徴によれば、操舵レシオ可変手段および前記操舵パワーアシスト手段は、それぞれ、第1モータと第2のモータで構成され、両モータの軸線は、トップブリッジとボトムブリッジとの間で車体前後方向に指向し、両モータは、ヘッドパイプの後方で、車体フレームの一部であると共にヘッドパイプに連なる左右一対のメインフレームの間に配置されているので、ヘッドパイプ近傍においてユニット化した操舵装置を構成することが容易になり、操舵装置全体をコンパクトに構成することが可能となる。これにより、操舵装置の小組作業のほか、配線の取り回しや車体への取り付け作業が容易となる。
【0036】
第14の特徴によれば、第1モータおよび第2モータは、車体側面視において略同じ高さに配設されると共に、車体上面視において車体中心線を挟んで車幅方向左右に略同じ間隔で配設されているので、重量物であるモータを車幅方向に略均等に配置することで、車幅方向の良好な重量バランスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の操舵装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】操舵装置の側面図である。
【図3】操舵装置の上面図である。
【図4】操舵装置の側面断面図である。
【図5】スライダが車体前方側に移動した状態における操舵装置の側面図である。
【図6】操舵装置の上面断面図である。
【図7】操舵レシオ可変手段の動作説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る操舵装置の構造説明図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る操舵装置の構造説明図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る操舵装置の構造説明図である。
【図11】本発明の一実施形態の変形例に係る操舵装置の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車の操舵装置30(以下、単に操舵装置30と示すこともある)が適用された自動二輪車1の側面図である。自動二輪車1の操舵輪としての前輪WFは、左右一対のフロントフォーク4の下端部に回転自在に軸支されている。本発明の一実施形態に係る操舵装置30は、車体フレーム2の前端部に配設されている。操舵装置30は、後述する操舵レシオ可変手段によって、ハンドルバー5への入力操作量とは異なる回動量で前輪WFを操舵可能にすると共に、操舵パワーアシスト手段によって前輪WFの操舵力をアシストすることを可能にする電動ステアリング機構である。
【0039】
フロントフォーク4は、操舵装置30の上側に位置するトップブリッジ16と、操舵装置30の下側に位置するボトムブリッジ17とによって支持されている。前輪WFは、操舵装置30に対してトップブリッジ16およびボトムブリッジ17が一体に回動することによって操舵される。トップブリッジ16の上方には、乗員が把持する左右一対のハンドルグリップ6を有するハンドルバー5が配設されている。
【0040】
ハンドルバー5の車体前方側には、外装部品としてのフロントカウル7が配設されている。車体フレーム2の下方には、車体後方下方に向けて延びるエンジンハンガ3が設けられており、車両の動力源としてのエンジン8は、該エンジンハンガ3によって吊り下げられるように固定されている。駆動輪としての後輪WRは、マフラ10の車幅方向中央側に配設されるスイングアーム(不図示)の後端部に回転自在に軸支されている。スイングアームの前端部は、車体フレーム2の後方下方に設けられたスイングアームピボット9によって揺動自在に軸支されている。
【0041】
運転者が着座するシート12の車体前方には、給油口リッド11を有する燃料タンクカバー19が配設されている。シート12の後方には、同乗者が着座する後部シート13が設けられている。後部シート13の後方には、車幅方向中央にトランク14が取り付けられ、トランク14の下方には左右一対のサイドケース15が取り付けられている。
【0042】
図2は、本発明の一実施形態に係る操舵装置30の側面図である。また、図3は、操舵装置30の上面図である。操舵装置30は、車体フレーム2の前端のヘッドパイプに配設されている。本実施形態では、アルミのパイプ材等からなる左右一対のメインフレーム2aの前端部に、アルミ鋳造等で形成された支持ケース(ヘッドパイプ)18が結合されている。そして、この支持ケース18に形成された凹部に、締結部材等を用いて操舵装置30を固定することにより、操舵装置30が車体フレーム2の前端部に固定される。このとき、操舵装置30の車体前方側の面は、支持ケース18から車体前方側に露出した状態となる。支持ケース18には、メインフレーム2aの前端部のみならず、エンジンハンガ3の上端部も結合されている。なお、本実施形態に係る支持ケース18は、通常の二輪車のヘッドパイプに相当し、車体フレーム2に対してフロントフォーク4を回転操舵可能にするものである。支持ケース18は、車体フレーム2の前端部に一体的に形成してもよい。
【0043】
ここで、通常の自動二輪車では、左右一対のフロントフォークをトップブリッジおよびボトムブリッジで支持し、このトップブリッジとボトムブリッジとを連結固定する回動軸としてのステムシャフトを、車体フレームの前端部に形成されたヘッドパイプに揺動自在に軸支することにより、前輪を操舵可能としている。これに対し、本実施形態に係る操舵装置30では、ハンドルバー5への入力操作とは異なる操舵角および操舵力によって前輪WFを操舵可能とするため、通常の自動二輪車とは異なる構成を有している。
【0044】
本実施形態では、操舵装置30の下部に設けられた出力軸66にボトムブリッジ17を固定することにより、出力軸66の回動動作に伴って、ボトムブリッジ17、トップブリッジ16およびフロントフォーク4が一体に回動するように構成されている。乗員が入力操作するハンドルバー5は、フロントフォーク4の揺動角度と異なる角度でハンドルバー5を回動させることを可能とするため、トップブリッジ16には固定されておらず、操舵装置30の上部に設けられた入力軸40に直接連結されている。本実施形態においては、入力軸40および出力軸66の回転軸が、同軸O上に位置するように構成されている。
【0045】
操舵装置30は、上側ハウジング31および下側ハウジング32を有しており、この両者が形成する内部空間に、前記した操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段が収納されている。上側ハウジング31と下側ハウジング32とは、3本の締結ネジ33で固定されている。下側ハウジング32の車体後方側には、操舵レシオ可変手段を作動させるための第1モータM1および操舵パワーアシスト手段を作動させるための第2モータM2がそれぞれ取り付けられている。第1モータM1および第2モータM2は、それぞれの軸線J1,J2が、互いに平行に車体前後方向に指向し、かつトップブリッジ16とボトムブリッジ17との間に位置するように配設されている。なお、本実施形態では、第1モータM1より第2モータM2の方が車体上下方向でわずかに低い位置に配設されているが、軸線J1,J2がほぼ同じ高さに位置するように配設してもよい。
【0046】
図3を併せて参照して、ボトムブリッジ17には、トップブリッジ16と同様に、左右一対のフロントフォーク4を支持するための挿通穴4aが形成されている。操舵装置30は、左右のフロントフォーク4の間の空間に収まるように構成されている。これにより、大きな前輪操舵角を確保することが容易になると共に、操舵装置30の重量を車幅方向中央に集中させることが可能となる。また、操舵装置30は、締結ネジ33を貫通させる車体前方側の1箇所のボス部分を除いて、フロントフォーク4の車体前端面より車体前方側に突出しないように配設されている。
【0047】
また、第1モータM1および第2モータM2は、メインフレーム2aおよび支持ケース18の外壁から車体前方側に突出することなく、支持ケース18の内側、すなわち車体内側に収まるように配設されている。本実施形態では、各モータM1,M2の回転軸J1,J2が車体前後方向に指向され、各モータM1,M2の後端部分が支持ケース18の後端面から若干突出するように配設されている。このような第1,2モータの配置によれば、例えば、両モータを操舵装置30の車体前方側に配置する構成に比して、操舵装置30の重心位置を車体後方側に寄せることができ、操舵装置30の重量が車体バランスに与える影響を低減することが可能となる。また、第1,2モータがメインフレーム2aの外方に突出しないため、両モータに外力や水分等の影響が及ぶことを防止し、両モータを防護することができる。
【0048】
本実施形態では、操舵力をアシストする第2モータM2に、操舵レシオ可変手段を駆動する第1モータM1より大型のものが適用されている(例えば、発生トルクで、第1モータM1:0.3Nm、第2モータM2:1.3Nm)。また、本実施形態では、第1モータM1が車幅方向右側に配置され、第2モータM2が車幅方向左側でかつ第1モータM1より下方の位置に配設されている。このような第1,2モータの配置は、例えば、マフラを車体右側のみに配設する車両において、車幅方向右側の重量を減らして重量バランスの最適化を図る際に好適である。なお、両モータM1,M2の配設位置は、上下ハウジング31,32や車体フレームの形状等に合わせて種々の変形が可能である。
【0049】
なお、収納ケース18に設けられる操舵装置30の取り付け凹部を、通常の自動二輪車に使用されるヘッドパイプの取り付けが可能となるように構成しておけば、共通の車体フレームを用いて、本発明に係る操舵装置を適用した車両と通常のステアリング機構を有する車両とを、生産することが可能となる。
【0050】
図4は、操舵装置30の側面断面図である。また、図5は、後述するスライダS1が車体前方側に移動した状態における側面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。前記したように、操舵装置30は、その上側に突出する入力軸40と、下側に突出する出力軸66とを有する。入力軸40の上端部には、スプライン嵌合により入力軸40と一体に回動するハンドルベース43が、ナット41およびワッシャ42によって取り付けられている。ハンドルベース43とトップブリッジ16とは、軸受44によって互いに回動自在に係合されている。乗員が操作するハンドルバー5は、このハンドルベース43に固定されており、ハンドルバー5への入力操作は、トップブリッジ16を介することなく、入力軸40に直接入力される。
【0051】
操舵装置の30の上側ハウジング31の上部には、円筒部31aが形成されている。この円筒部31aの上端部には、操舵装置30への水分等の侵入を防ぐダストシール45および入力軸40を軸支する軸受46が配設されている。軸受46の下部には、オイルシール47が配設されており、その下方には、操舵トルク検知手段としてのトルクセンサ48が上下に2つ設けられている。トルクセンサ48には磁歪式が適用されており、入力軸40の外周部には、トルクセンサ48に対向する部分に磁性リング40aが取り付けられている。本実施形態では、トルクセンサ48によって入力軸40のねじれ量を検出し、このねじれ量に基づいて乗員のハンドル操作による操舵トルクが算出される。
【0052】
入力軸40の下端部には、円柱状の入力部材50が形成されている。入力部材50は、上側ハウジング31に嵌合された軸受49によって回転自在に支持されている。入力部材50の下面には、2つの鋼球51,52が転動自在に支持されており、入力部材50とこれに隣接配置されるスライダS1とは、鋼球51,52のみで接触するように構成されている。スライダS1の上面部の車体前方側には、鋼球51の転動方向を規制するガイドレール54が車体前後方向に指向して形成されている。上側ハウジング31と下側ハウジング32との間には、内部空間の密閉を保つO(オー)リング90が配設されている。
【0053】
操舵レシオ可変手段としての円柱状のスライダS1は、大径の軸受53によってベースSBに回動自在に支持されると共に、第1モータM1を駆動させることで車体前後方向に移動可能に構成されている。スライダS1の位置は、図4に中立位置を示しており、図5には、車体前方側に移動させた状態を示している。スライダS1は、中立位置から車体後方側にも同様に移動可能とされる。なお、ここでは、スライダS1を操舵レシオ可変手段として説明したが、以下では、スライダS1の他、入力部材50やスライダS1の駆動機構等を含むシステム全体を、操舵レシオ可変手段と呼称することもある。
【0054】
スライダS1の下面には、2つの鋼球55,56が転動自在に支持されており、スライダS1に隣接配置されるウォームホイールW1の天板67とは、この鋼球55,56のみで接触するように構成されている。天板67の上面部の車体後方側には、鋼球56を案内するガイドレール57が車体前後方向に指向して形成されている。なお、ここでは、ウォームホイールW1を操舵パワーアシスト手段として説明したが、以下では、ウォームホイールW1の他、ウォームホイールW1の駆動機構等を含むシステム全体を、操舵パワーアシスト手段と呼称することもある。
【0055】
ウォームホイールW1および天板67は、出力軸66に対して相互回転不能に固定されている。出力軸66は、ウォームホイールW1の下部で、軸受58,59に回転自在に支持されている。軸受58,59は、外周部に雄ねじ部を有する軸受カラー62に嵌合されており、この軸受カラー62を下側ハウジング32の開口部に設けられた雌ねじ部に螺合することで下側ハウジング32に固定される。下側ハウジング32と軸受カラー62との間には、Oリング60が配設されている。軸受カラー62は、その外周部にロックリング63を締結することにより、下側ハウジング32に対して回動不能に固定される。軸受59の下部には、ダストシール61が配置されている。
【0056】
出力軸66および取り付けカラー64、取り付けカラー64およびボトムブリッジ17は、それぞれスプライン構造によって嵌合されており、出力軸66の先端にナット65を締結することにより、相互回転不能に固定される。上記した構成により、出力軸66に伝達された回転駆動力は、ボトムブリッジ17からフロントフォーク4、そして、フロントフォーク4の上端部でこれを支持するトップブリッジ16に伝達されることとなる。なお、本実施形態では、入力軸40と出力軸66とが同軸上に位置すると共に、出力軸66とフロントフォーク4とが平行をなすように構成されている。
【0057】
図6は、操舵装置30を上面断面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。前記したように、出力軸66に直結されるウォームホイールW1は、第2モータM2によって任意の速度で回動させることができる。第2モータM2は、自動二輪車1の各種センサ情報(操舵トルク、車速、エンジン回転数、ギヤ段数、車体のロール角およびピッチ角、ヨー角、舵角、操舵比等)に基づいて、前輪WFの操舵力を適切にアシストするように駆動される。これにより、例えば、停車時にハンドル操作を行う際の操作力を低減したり、所定の走行状態において最適な操舵トルクに駆動する等の制御が可能となる。
【0058】
第2モータM2は、コイル84が取り付けられた回転軸83を、その内周部に複数の永久磁石が取り付けられたカバー85に収納して構成されている。カバー85は、ネジ82によって、ベース部材81と共締めで下側ハウジング32に締結されている。回転軸83は、ベース部材81に嵌合された軸受80に軸支されている。回転軸83の端部は、連結部材79を介してウォーム(ねじ歯車)77が取り付けられたシャフト87と連結されている。シャフト87は、ウォーム77の車体後方側で軸受78に軸支されると共に、ウォーム77の車体前方側で軸受76に軸支されている。
【0059】
一方、スライダS1は、第1モータM1によって車体前後方向に移動可能に構成されている。第1モータM1は、コイル74が取り付けられた回転軸73を、その内周部に複数の永久磁石が取り付けられたカバー75に収納した構成とされる。カバー75は、ネジ86によって、ベース部材72と共締めで下側ハウジング32に締結されている。
【0060】
回転軸73は、ベース部材72に嵌合された軸受71に軸支されており、回転軸73の端部は、連結部材70を介してシャフト69と連結されている。シャフト69とスライダS1との間には、シャフト69側に形成された雄ねじとスライダS1側に形成された雌ねじとからなる送りネジ機構(不図示)が設けられている。これにより、シャフト69の回転に伴って、スライダS1が車体前後方向に移動するように構成されている。
【0061】
前記したスライダS1の上面部に形成されたガイドレール54と、ウォームホイールM1の天板67に形成されたガイドレール57とは、それぞれ、図6に示すガイドレール軌跡68に沿って形成されている。そして、ハンドルバー5から入力軸40に入力された回転駆動力は、鋼球51からガイドレール54を介してスライダS1に伝達され、さらに、スライダS1に伝達された回転駆動力は、鋼球56からガイドレール57を介してウォームホイールW1に伝達されるように構成されている。
【0062】
本実施形態では、第1モータM1の軸線J1および第2モータM2の軸線J2が、それぞれ、車体中心線Cと平行に配置されている。また、車体中心線Cから軸線J1までの距離と、車体中心線Cから軸線J2までの距離がほぼ等しく設定されており、これにより、車幅方向の重量バランスの最適化が図られている。
【0063】
本実施形態において、入力部材50の車体後方側の鋼球51と、ウォームホイールW1の車体前方側の鋼球55は、それぞれ回転駆動力の伝達に関与するものではなく、スライダS1が回転軸に対して傾かないように支持する機能のみを有している。ここで、図7を参照して、本実施形態に係る操舵レシオ可変手段の構成を説明する。
【0064】
図7は、操舵レシオ可変手段の動作説明図である。この図において、上下3段に重ねられた円柱状の部品D,E,Fは、それぞれ、上記実施形態における入力部材50、スライダS1、ウォームホイールW1に相当する。また、部品Dの下面に転動可能に支持される球B1は鋼球51に相当し、部品Eの下面に転動可能に支持される球B2は鋼球56に相当する。ここで、球B1は、部品Eの上面部に対して周方向への相対移動が規制され、また、球B2も、部品Fの上面部に対して、周方向への相対移動が規制されていることを前提とする。これにより、部品Eに入力された回転駆動力は、球B1によって部品Eに伝達され、さらに、部品Eに伝達された回転駆動力は、球B2によって部品Fに伝達されることとなる。なお、前記実施形態に示した操舵装置30では、ガイドレール54,57によってこの周方向への相対移動が規制されている。
【0065】
まず、部品Eがスライドせずに中立位置にある(a)の場合を参照する。(a)においては、部品D,E,Fの回転軸DO,EO,FOが同一軸上にある。このとき、部品D,E,Fは同期回転するので、部品Dを図示半時計方向にθ度回転させると、部品Fも同様にθ度だけ回転することとなる。
【0066】
次に、部品Eを車体前方側に所定距離だけスライドさせた(b)の場合を参照する。(b)においては、部品Eが車体前方側にスライドすることにより、部品Eの回転軸EOが、部品D,Fの回転軸DO,FOより車体前方側に移動する。すると、部品Eは回転軸EOを中心に回転するため、部品Dをθ度回転させたときに、部品Eの回転角度はθ度より小さなθ1度となる。この部品Eの回転角度の減少が、そのまま部品Fに伝達されることとなり、部品Fの回転角度は入力角度より小さなθ1度となる。
【0067】
そして、部品Eを車体後方側に所定距離だけスライドさせた(c)の場合を参照する。(c)においては、部品Eが車体後方側にスライドすることにより、部品Eの回転軸EOが、部品D,Fの回転軸DO,FOより車体後方側に移動する。すると、部品Eは回転軸EOを中心に回転するため、部品Dをθ度回転させたときに、部品Eの回転角度はθ度より大きなθ2度となる。この部品Eの回転角度の増加が、そのまま部品Fに伝達されて、部品Fの回転角度は入力角度より大きなθ2度となる。
【0068】
上記したように、本実施形態に係る操舵レシオ可変手段によれば、部品Eを車体前後方向の任意に位置にスライドさせることで、部品Dの入力回転角度に対する部品Dの出力回転角度を任意に変更することが可能となる。すなわち、前記実施形態(図4参照)において、入力軸40の回転角度と出力軸66の回転角度との間のレシオを任意に変更することが可能となる。前記した第1モータM1は、自動二輪車1の各種センサ情報(操舵トルク、車速、エンジン回転数、ギヤ段数、車体のロール角およびピッチ角、ヨー角、舵角、操舵比等)に基づいて、最適な操舵レシオに設定されるように駆動される。これにより、例えば、自動二輪車の車速が高くなるほど同じハンドル操作量に対する前輪の操舵角を低減したり、極低速走行時にハンドル操作でバランスを取る際にハンドル操作に対する操舵角を大きくする等の制御が実行可能となる。
【0069】
また、上記したような操舵レシオ可変手段の構成によれば、複数の歯車等の複雑な機構を用いることなく入力軸と出力軸の回転角度の比率を任意に変更することができるので、操舵レシオ可変手段の軸方向の寸法を低減することが可能となる。本発明に係る操舵装置は、フロントフォークを上下で支持するトップブリッジとボトムブリッジとの間に、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段の両方を含む操舵装置が収められている点に特徴があるが、これは、構造を簡略化して小型化を図った操舵レシオ可変手段の適用が大きく貢献している。
【0070】
また、トップブリッジとボトムブリッジとの間に、上から順に、トルク検知機構、操舵レシオ可変手段、操舵パワーアシスト手段を収納することにより、モータの回転駆動力が加わる前の段階で操舵トルクを正確に検知することが可能となる。また、操舵装置を車体フレームの前端部近傍に集中配置することが可能となる。さらに、出力軸に固定された部材(ウォームホイール)に対してアシストが行われるため、機械摩擦等による損失を低減し、第2モータMの出力を効率よく操舵力に変換することが可能となる。
【0071】
以下、図8ないし図10を参照して、本発明の第2,3,4実施形態に係る操舵装置30A,30B,30Cの説明を行う。操舵装置30A,30B,30Cは、ハンドルバーに固定される入力軸への入力を、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を介して出力軸に出力する点、そして、フロントフォーク4を支持するトップブリッジ16とボトムブリッジ17との間に、上から順に、トルク検出機構、操舵レシオ可変手段、操舵パワーアシスト手段を収めた点において、前記実施形態の操舵装置30と共通する。
【0072】
図8は、本発明の第2実施形態に係る操舵装置30Aの構造説明図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。操舵装置30Aの入力軸100の下端部には、トーションバー102が連結されている。入力軸100およびトーションバー102は、ブッシュ101によって、トップブリッジ16と相対回転可能に支持されている。トーションバー102の外周側には、磁歪式のトルクセンサ103が配設されている。トーションバー102の下端部には、所定の厚みを有する円盤状の入力部材104が固定されている。入力部材104の下面には、鋼球105が転動自在に支持されている。
【0073】
本実施形態では、スライダS2が中立位置から車体前後方向に移動することで、スライダS2の回転軸が入力軸100および出力軸110の軸位置からずれることとなり、これにより操舵レシオが変更されるように構成されている。
【0074】
入力部材104の下方には、第1モータM1の駆動に伴って車体前後方向に移動するスライダS2が隣接配置されている。スライダS2の上面には、車体前後方向に指向するガイド溝106が形成されており、このガイド溝106内を鋼球105が転動するように構成されている。スライダS2の下面には、鋼球108が転動自在に支持されている。
【0075】
スライダS2の下方には、第2モータM2の駆動によりパワーアシストされるウォームホイールW2が隣接配設されている。ウォームホイールW2の上面には、車体前後方向に指向するガイド溝107が形成されており、このガイド溝107内を鋼球108が転動するように構成されている。出力軸110は、ウォームホイールW2の下部に固定されており、ボトムブリッジ17の上部で軸受109に軸支されている。出力軸110は、ナット111を締結することによりボトムブリッジ17に固定される。
【0076】
上記したような構成によれば、第1モータM1によってスライダS2を駆動することにより、入力軸100の回動量に対する出力軸109の回動量の比率を任意に変更することが可能となる。また、第2モータM2によってウォームホイールW2の回動動作をアシストすることにより、前輪WFの操舵に必要な操作力を低減したり、車両の状態に応じて最適な操舵トルクを実現する等の制御を実行することが可能となる。
【0077】
図9は、本発明の第3実施形態に係る操舵装置30Bの構造説明図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。操舵装置30Bの入力軸200の下端部には、トーションバー202が連結されている。入力軸200およびトーションバー202は、ブッシュ201によって、トップブリッジ16と相対回転可能に支持されている。トーションバー202の外周側には、磁歪式のトルクセンサ203が配設されている。トーションバー202の下端部には、所定の厚みを有する円盤状の入力部材204が固定されている。入力部材204の下面には、鋼球205が転動自在に支持されている。
【0078】
入力部材204の下方には、第1モータM1の駆動に伴って車体前後方向に移動するスライダS3が隣接配置されている。スライダS3の上面には、車体前後方向に指向するガイド溝206が形成され、このガイド溝206内を鋼球205が転動するように構成されている。スライダS3の下面には、鋼球208,209が転動自在に支持されている。
【0079】
スライダS2の下方には、ウォームホイールW3に回転駆動力を伝達するための回転ジョイント210が隣接配設されている。回転ジョイント210の上面には、車体前後方向に指向するガイド溝207が形成されており、このガイド溝207内を鋼球208,209が転動するように構成されている。本実施形態では、鋼球209のみが回転駆動力の伝達機能を有しており、スライダS3が中立位置から車体前後方向に移動すると、スライダS3の回転軸が入力軸200および出力軸213の軸位置からずれることとなり、これにより操舵レシオが変更されるように構成されている。
【0080】
回転ジョイント210の下方には、第2モータM2の駆動によりパワーアシストされるウォームホイールW3が隣接配設されている。ウォームホイールW3の上面には、回転ジョイント210から下方に突出する駆動力伝達軸211が挿入される係合穴が設けられている。回転ジョイント210の回転駆動力は、駆動力伝達軸211を介してウォームホイールW3に伝達される。出力軸213は、ウォームホイールW3の下部に固定されており、ボトムブリッジ17の上部で軸受212に軸支されている。出力軸213は、ナット214を締結することによりボトムブリッジ17に固定される。
【0081】
本実施形態においては、操舵レシオ可変手段が、スライダS3および入力部材204のほか、回転ジョイント210を含む点に特徴がある。これにより、鋼球による回転駆動力の伝達と第2モータM2によるパワーアシストとが別個の部品に行われることとなり、ウォームホイールW3にガイド溝を形成する必要がなく、ウォームホイールW3の構造を簡略化することができる。また、操舵レシオ可変手段に回転ジョイントが含まれている構成においても、トップブリッジとボトムブリッジとの間に、操舵レシオ可変機構および操舵パワーアシスト機構を収める構造が成立することとなる。
【0082】
図10は、本発明の第4実施形態に係る操舵装置30Cの構造説明図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。操舵装置30Dの入力軸300の下端部には、トーションバー302が連結されている。入力軸300およびトーションバー302は、ブッシュ301によってトップブリッジ16と相対回転可能に支持されている。トーションバー302の外周側には、磁歪式のトルクセンサ303が配設されている。トーションバー202の下端部には、所定の厚みを有する円盤状の入力部材304が固定されている。
【0083】
入力部材304の下方には、鋼球ホルダ305が隣接配設されている。鋼球ホルダ305の下面には、鋼球307,308が転動自在に支持されている。また、鋼球ホルダ305の上部には、駆動力伝達軸305が形成されており、該駆動力伝達軸306は、入力部材304の下面に設けられた係合穴に回転可能に挿入されている。
【0084】
鋼球ホルダ305の下方には、第1モータM1の駆動に伴って車体前後方向に移動するスライダS4が隣接配置されている。スライダS4の上面には、車体前後方向に指向するガイド溝309が形成され、このガイド溝309内を鋼球307,308が転動するように構成されている。ここでは、鋼球307のみが回転駆動力の伝達機能を有している。
【0085】
スライダS4の下方には、鋼球ホルダ310が隣接配置されている。鋼球ホルダ310の下面には、鋼球313,314が転動自在に支持されている。また、鋼球ホルダ310の上部には、駆動力伝達軸311が設けられており、該駆動力伝達軸311は、スライダS4の下面に設けられた係合穴に回転可能に挿入されている。
【0086】
鋼球ホルダ310の下方には、第2モータM2の駆動によりパワーアシストされるウォームホイールW4が隣接配設されている。ウォームホイールW4の上面には、車体前後方向に指向するガイド溝312が形成されており、このガイド溝312内を鋼球313,314が転動するように構成されている。本実施形態では、鋼球313のみが回転駆動力の伝達機能を有しており、スライダS4が移動すると、スライダS4の回転軸が入力軸300および出力軸316の軸位置からずれることとなり、これにより、入力軸300の回転量に対する鋼球ホルダ310の回転量が変化するように構成されている。
【0087】
鋼球ホルダ310に伝達された回転駆動力は、鋼球313を介してウォームホイールW4に伝達される。出力軸316は、ウォームホイールW4の下部に固定されており、ボトムブリッジ17の上部で軸受315に軸支されている。出力軸316は、ナット317を締結することによりボトムブリッジ17に固定される。本実施形態では、操舵レシオ可変手段が、スライダS4および入力部材304のほか、鋼球ホルダ305,310を含む構成であっても、トップブリッジとボトムブリッジとの間に、上から順に、トルク検知機構、操舵レシオ可変手段、操舵パワーアシスト手段を配置する構造が成立することとなる。
【0088】
図11は、本発明の一実施形態の変形例に係る操舵装置30Dの上面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。操舵レシオ可変手段を駆動する第1モータM1および操舵パワーアシスト手段を駆動する第2モータM2の配置構造は、種々の変形が可能である。前記実施形態では、両モータの回転軸を車体前後方向に指向させていたが(図3,6参照)、本変形例では、両モータの回転軸を車体前後方向に対して所定角度だけ傾斜させることで、両モータがメインフレーム2aの内部にほぼ収納されるように構成されている。これにより、支持ケース18の後端部2aから両モータが突出することなく、メインフレーム2aの内側のスペースを拡大して、設計自由度を高めることが可能となる。
【0089】
上記したように、本発明に係る自動二輪車の操舵装置によれば、操舵レシオ可変手段と操舵パワーアシスト手段とが、フロントフォークを支持するトップブリッジとボトムブリッジとの間に配設されているので、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段を含む操舵装置を、車体フレームの前端部近傍に集中配置することが可能となる。これにより、操舵装置を適用することによる車体重量バランスへの影響を低減することが可能となる。
【0090】
なお、フロントフォーク、トップブリッジ、ボトムブリッジ、車体フレーム、支持ケースの形状や配置、トルクセンサの構造や配置、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段の駆動機構の形態等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、操舵レシオ可変手段および操舵パワーアシスト手段は、ネジ送り機構やウォームギヤではなく、チェーンや平歯車等の伝達機構を適用して構成してもよい。本発明に係る操舵装置は、フロントフォークで前輪を支持する三輪車等に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0091】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、2a…メインフレーム、4…フロントフォーク、5…ハンドルバー、16…トップブリッジ、17…ボトムブリッジ、18…支持ケース、30…自動二輪車の操舵装置、31…上側ハウジング、32…下側ハウジング、40…入力軸、48…トルクセンサ(操舵トルク検知手段)、66…出力軸、M1…第1モータ、M2…第2モータ、S1…スライダ(操舵レシオ可変手段)、W1…ウォームホイール(操舵パワーアシスト手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(WF)を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク(4)を、トップブリッジ(16)および該トップブリッジ(16)の車体下方側に位置するボトムブリッジ(17)によって保持すると共に、車体フレーム(2)に対してヘッドパイプ(18)を中心に前記フロントフォーク(4)を回転操舵可能にする自動二輪車の操舵装置(30)において、
乗員が操作するハンドル(5)の回動角度と前記前輪(WF)の操舵角度との比率を第1モータ(M1)によって任意に変更する操舵レシオ可変手段(S1)と、
前記ハンドル(5)へ入力される操作力に第2モータ(M2)による補助力を加える操舵パワーアシスト手段(W1)とを具備し、
前記操舵レシオ可変手段(S1)および前記操舵パワーアシスト手段(W1)が、前記トップブリッジ(16)とボトムブリッジ(17)との間に配設されていることを特徴とする自動二輪車の操舵装置。
【請求項2】
前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)は、車体上面視において互いに重ならないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項3】
前記ハンドル(5)への入力トルクを検知する操舵トルク検知手段(48)を具備し、
前記トップブリッジ(16)とボトムブリッジ(17)との間に、車体上方側から、前記操舵トルク検知手段(48)、前記操舵レシオ可変手段(S1)、前記操舵パワーアシスト手段(W1)の順に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項4】
前記操舵トルク検知手段(48)は、磁歪式のトルクセンサであることを特徴とする請求項2に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項5】
前記自動二輪車の操舵装置(30)の上部に突出する入力軸(40)と、
前記自動二輪車の操舵装置(30)の下部に突出すると共に、前記入力軸(40)への入力が、前記操舵レシオ可変手段(S1)および前記操舵パワーアシスト手段(W1)によって変換されて出力される出力軸(66)とを具備し、
前記出力軸(66)に前記ボトムブリッジ(17)が固定されており、
前記入力軸(40)が、前記トップブリッジ(16)を貫通して該トップブリッジ(16)に回動自在に軸支されており、
前記ハンドル(5)が、前記トップブリッジの上方で前記入力軸(40)に固定されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項6】
前記入力軸(40)と出力軸(66)とが、同軸上に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項7】
前記操舵レシオ可変手段が、前記入力軸(40)と出力軸(66)との間で回転駆動力の伝達を行うスライダ(S1)であり、
前記スライダ(S1)を、前記第1モータ(M1)によって車体前後方向に移動させることで、入力軸(40)と出力軸(66)との間の回転角度の比率が変わるように構成されており、
前記操舵パワーアシスト手段は、第2モータ(M2)によって回転される回転体(W1)であり、該回転体(W1)の下部に前記出力軸(66)が固定されていることを特徴とする請求項5または6に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項8】
前記スライダ(S1)は、前記第1モータ(M1)の回転軸(73)に設けられた送りネジ機構によって駆動され、
前記回転体は、第2モータ(M2)の回転軸(83)に設けられたウォーム(77)と噛み合うウォームホイール(W1)であることを特徴とする請求項7に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項9】
前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)が、前記車体フレーム(2)の外壁より車体内側に配設されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項10】
前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)が、前記車体フレーム(2)の内部に収納されるように配設されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項11】
前記自動二輪車の操舵装置(30)は、前記フロントフォーク(4)の左右幅内に収まるように配設されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項12】
少なくとも前記操舵トルク検知手段(48)と前記操舵レシオ可変手段(S1)と前記操舵パワーアシスト手段(W1)とが一体に収納されるハウジング(31,32)を具備し、
車体フレーム(2)の前端部に前記ハウジング(31,32)を固定することにより、前記自動二輪車の操舵装置(30)が自動二輪車(1)に取り付けられることを特徴とする請求項3に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項13】
前記操舵レシオ可変手段(S1)および前記操舵パワーアシスト手段(W1)は、それぞれ、第1モータ(M1)と第2のモータ(M2)で構成され、
前記両モータ(M1,M2)の軸線(J1,J2)は、前記トップブリッジ(16)とボトムブリッジ(17)との間で車体前後方向に指向し、
前記両モータ(M1,M2)は、前記ヘッドパイプ(18)の後方で、前記車体フレーム(2)の一部であると共に前記ヘッドパイプ(18)に連なる左右一対のメインフレーム(2a)の間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項14】
前記第1モータ(M1)および第2モータ(M2)は、車体側面視において略同じ高さに配設されると共に、車体上面視において車体中心線(C)を挟んで車幅方向左右に略同じ間隔で配設されていることを特徴とする請求項13に記載の自動二輪車の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−46342(P2011−46342A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198133(P2009−198133)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】