説明

自動二輪車の車体フレーム構造

【課題】車体の低周波の振動を低減すると共にしなやかさを保つことができる自動二輪車の車体フレーム構造を提供する。
【解決手段】車体フレーム5の前部で前輪支持部材を操舵可能に支持し、後部で後輪支持部材を揺動可能に支持する自動二輪車の車体フレーム構造において、前記車体フレーム5の一部に、該車体フレーム5の構成部材である前後フレームパイプ36,37同士を弾性部材41を介在させて連結する弾性連結部35を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車の車体フレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車の車体フレーム構造において、フレーム部材に弾性体を介してカウンタウエイトを支持することで、車体フレームの振動を低減する手法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平5−72689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車体の駆動反力や路面からの反力に起因する低周波の振動に対しては、一般的には車体フレームに補強部材を追加する等、車体剛性を高めることで対応することが多い。一方、特に大型の自動二輪車においては、旋回走行時等に車体フレームに一定のしなりが生じる方が運転者に好まれる場合があるため、車体剛性を適度に抑えることもある。これらを両立させるべく、前記低周波の振動対策として従来の如くカウンタウエイトを用いることも考えられるが、通常のカウンタウエイトでは質量が不足して周波数合わせが困難である。
この発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車体の低周波の振動を低減すると共にしなやかさを保つことができる自動二輪車の車体フレーム構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、車体フレーム(例えば実施例の車体フレーム5)の前部で前輪支持部材(例えば実施例のフロントフォーク3)を操舵可能に支持し、後部で後輪支持部材(例えば実施例のスイングアーム9)を揺動可能に支持する自動二輪車(例えば実施例の自動二輪車1)の車体フレーム構造において、前記車体フレームの少なくとも一部に、該車体フレームを構成する部材(例えば実施例の前後フレームパイプ36,37)同士を弾性部材(例えば実施例の弾性部材41,141)を介在させて連結する弾性連結部(例えば実施例の弾性連結部35,135)を設けたことを特徴とする。
【0005】
請求項2に記載した発明は、前記弾性連結部が、互いに嵌合する内外部材(例えば実施例の内外筒部材38,39)間に前記弾性部材を介在させてなることを特徴とする。
【0006】
請求項3に記載した発明は、前記車体フレームがループ状部(例えば実施例のループ状部26)を形成し、該ループ状部の一部に前記弾性連結部を設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、ヘッドパイプ(例えば実施例のヘッドパイプ6)から後方に延びてシート支持部(例えば実施例のシート支持パイプ14)に至るメインパイプ(例えば実施例のメインパイプ13)に、前記弾性連結部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1,2に記載した発明によれば、車体フレームに弾性部材を介在させた弾性連結部を設けることで、車体フレームに低周波振動の基となる入力があってもこれを柔軟に吸収することが可能となるため、車体の低周波の振動を効果的に低減することができる。また、車体フレームに適度なしなりを生じさせることが可能となるため、車体のしなやかさを良好に保つことができる。
【0009】
請求項3に記載した発明によれば、車体フレームのループ状部に弾性部材が介在することとなり、車体フレームの強度剛性を一定に保ちつつ、該車体フレームに適度なしなりを生じさせることができる。
【0010】
請求項4に記載した発明によれば、車体前後に延在するメインパイプに前記弾性連結部が設けられることとなり、車体フレームのしなりを効果的に発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施例を図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【実施例1】
【0012】
図1に示す自動二輪車1は、キャスター角を大きく確保し、その車体を低く長いものとした所謂アメリカンタイプの車両である。自動二輪車1の前輪2は、左右一対のフロントフォーク(前輪支持部材)3の下端部に軸支され、該左右フロントフォーク3の上部は、ステアリングステム4を介して車体フレーム5前端部のヘッドパイプ6に操舵可能に枢支される。ステアリングステム4の上部には、転舵用のバーハンドル7が取り付けられる。自動二輪車1の後輪8は、スイングアーム(後輪支持部材)9の後端部に軸支され、該スイングアーム9の前端部は、車体フレーム5後部のピボットブラケット11に上下揺動可能に枢支される。
【0013】
図2を併せて参照し、車体フレーム5は、車体略中央に位置するエンジン12を取り囲む所謂クレードルフレームとして構成される。車体フレーム5は、ヘッドパイプ6の上部からエンジン12の上方を斜め下後方へ延びるメインパイプ13と、該メインパイプ13の後端部から左右に分岐して後方へ延びる左右シート支持パイプ(シート支持部)14と、ヘッドパイプ6の下部から左右に分岐してメインパイプ13よりも急傾斜をなして斜め後下方に延びる左右ダウンパイプ15とを主としてなる。各パイプ13,14,15は、それぞれ丸形鋼管に曲げ加工等を施してなる。
【0014】
メインパイプ13の上方には燃料タンク16が配置され、燃料タンク16の後方(シート支持パイプ14の上方)には運転者用のシート17が配置される。シート17の後方には、後部同乗者用の後部シート18が連設される。なお、図1中符号19は、左右シート支持パイプ14の後部から後方に延びてシート17の後部及び後部シート18等を支持する左右リアシートフレームを示す。
【0015】
エンジン12は、クランク軸が左右方向に沿うV型二気筒エンジンであり、クランクケース21上には前後シリンダ22が立設され、両シリンダ22の吸気ポートにはこれらのバンク間に位置するスロットルボディ23が接続される。一方、両シリンダ22の排気ポートからはそれぞれ排気管24が導出され、該各排気管24が車体後部右側に取り回されて後輪8右側のサイレンサ25に接続される。
【0016】
左右ダウンパイプ15は、ヘッドパイプ6から下方に延びた後、エンジン12の下端部前方両側で屈曲して後方へ延び、かつその後部は、エンジン12の下端部後方両側でさらに屈曲して斜め後上方へ延びて、その上端部が左右シート支持パイプ14の後端部に接続される。これにより、車体フレーム5が側面視閉ループ状をなしてエンジン12を取り囲む。以下、車体フレーム5における前記閉ループ状をなす部位をループ状部26ということがある。なお、図中符号27はメインパイプ13の前部と左右ダウンパイプ15の前端部との間に渡るガセットパイプを、符号28はエンジン12上部を支持するエンジンハンガをそれぞれ示す。
【0017】
左右ダウンパイプ15の後部(斜め後上方へ延びる部位)における上下中間部には、それぞれ前記ピボットブラケット11が設けられ、該ピボットプラケットには、左右方向に沿うピボット軸を介してスイングアーム9の前端部が支持される。スイングアーム9は、例えば前記ピボット軸を上下中間部に挿通するフロントメンバ31と、該フロントメンバ31の上端部から後輪軸支位置まで後下がりに延びるアッパアーム32と、フロントメンバ31の下端部から後輪軸支位置まで後上がりに延びるロアアーム33とを有してなる。
【0018】
すなわち、スイングアーム9は、側面視略三角形状の閉ループ構造をなし、そのフロントメンバ31の上端部とメインパイプ13の後端部との間には、リアクッションユニット34が後下がりに配設される。なお、車体側面視において、メインパイプ13、シート支持パイプ14、リアクッションユニット34、及びアッパアーム32は、ヘッドパイプ6の上部から後輪中心まで概ね一直線をなすように配設される。
【0019】
ここで、メインパイプ13における前後中間部のやや後側の部位には、前後フレームパイプ36,37を後述の弾性部材41を介して連結する弾性連結部35が設けられる。換言すれば、メインパイプ13は、その前部を構成する前フレームパイプ36と、後部を構成する後フレームパイプ37とを、前記弾性連結部35を介して一体的に連結してなる。
【0020】
図2,3に示すように、弾性連結部35は、後フレームパイプ37の前部を円筒状の内筒部材(内部材)39とする一方、該内筒部材39を所定の間隙をもって挿通させる円筒状の外筒部材(外部材)38を前フレームパイプ36の後端部から斜め下後方に延出し、かつこれら内外筒部材38,39間に例えばウレタンゴム製の弾性部材41を介装してなる。なお、前記エンジンハンガ28は、ガセットパイプ27の後端部と外筒部材38の中間部とに跨るように設けられている。
【0021】
弾性部材41は、例えばリング状のものを内筒部材39の外周にその長手方向で複数並べるように装着してなり、これらが内外筒部材38,39にそれぞれ加硫接着等により強固に接合される。これにより、低弾性及び高強度の金属材料の中間部に、ゴム等の弾性部材41による高い弾性が付与された一体のメインパイプ13が構成される。このように、メインパイプ13が柔軟性及び剛性又は高強度を兼ね備えることで、これが単一の鋼材で構成される場合と比べて、車体フレーム5全体の剛性が適度に確保されると共に、そのねじりや曲げが柔軟に許容され、車体の振動の基となる応力の発生が抑えられる。
【0022】
以上説明したように、上記実施例における車体フレーム構造は、車体フレーム5の前部でフロントフォーク3を操舵可能に支持し、後部でスイングアーム9を揺動可能に支持する自動二輪車1に適用されるものであって、前記車体フレーム5が、該車体フレーム5の一部を構成する前後フレームパイプ36,37同士を連結する弾性連結部35を有し、該弾性連結部35が、互いに嵌合する内外筒部材38,39間に弾性部材41を介在させてなるものである。
【0023】
この構成によれば、車体フレーム5に弾性部材41を介在させた弾性連結部35を設けることで、車体フレーム5に低周波振動の基となる入力があってもこれを柔軟に吸収することが可能となるため、車体の低周波の振動を効果的に低減することができる。また、車体フレーム5に適度なしなりを生じさせることが可能となるため、車体のしなやかさを良好に保つことができる。
【0024】
また、上記車体フレーム構造においては、前記車体フレーム5がループ状部26を形成し、該ループ状部26の一部に前記弾性連結部35を設けたことで、車体フレーム5のループ状部26に弾性部材41が介在することとなり、車体フレーム5の強度剛性を一定に保ちつつ、該車体フレーム5に適度なしなりを生じさせることができる。
【0025】
さらに、上記車体フレーム構造においては、ヘッドパイプ6から後方に延びてシート支持パイプ14に至るメインパイプ13に、前記弾性連結部35を設けたことで、車体前後に延在するメインパイプ13に前記弾性連結部35が設けられることとなり、車体フレーム5のしなりを効果的に発生させることができる。
【実施例2】
【0026】
次に、この発明の第二実施例について図1,2を援用し図4を参照して説明する。
この実施例は、前記第一実施例に対して、内外筒部材38,39間に弾性部材41を介在させた捻りダンパとしての前記弾性連結部35に代わり、メインパイプ13の長手方向で対向する前後フレームパイプ36,37の端部間に弾性部材141を介在させた所謂カップリングダンパとしての弾性連結部135を設けた点で異なるもので、前記実施例と同一部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0027】
図4(a)に示すように、弾性連結部135は、前フレームパイプ36の後端にその長手方向に略直交する板状の前エンドプレート36aを設ける一方、後フレームパイプ37の前端にその長手方向と略直交する板状の後エンドプレート37aを設け、これら両エンドプレート36a,37a間に所定の間隙を設定すると共に、該間隙内に弾性連結体142を配設してなる。
【0028】
図4(b)を併せて参照し、弾性連結体142は、前後エンドプレート36a,37aと対向する前後ガイドプレート143,144を有し、これら両ガイドプレート143,144間に例えばウレタンゴム製の弾性部材141を挟み込み、これらを加硫接着等により強固に接合してなる。
【0029】
前後ガイドプレート143,144の外周部には、対向する前後エンドプレート36a,37aの外周部(フランジ部)に向けて突出する複数のスタッドボルト145が立設され、該各スタッドボルト45における前後エンドプレート36a,37aを貫通した先端部にナット146を螺着し締め込むことで、弾性連結体142と前後フレームパイプ36,37とが結合されて一体のメインパイプ13が構成される。なお、前後ガイドプレート143,144にナットが設けられ、該ナットにボルトを締め込んで弾性連結体142と前後フレームパイプ36,37とが結合される構成としてもよい。
【0030】
以上説明した第二実施例においても、第一実施例と同様、車体の低周波の振動を効果的に低減することができると共に、車体のしなやかさを良好に保つことができる。また、車体フレーム5の強度剛性を一定に保ちつつ、該車体フレーム5に適度なしなりを生じさせることができる。
【0031】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば弾性連結部35,135は、メインパイプ13に限らずダウンパイプ15等に設けてもよく、かつ複数箇所に設けてもよい。
また、第一実施例における弾性連結部35は、その内外筒部材38,39が円筒状に限らず角形等の多角形断面であってもよい。
さらに、第二実施例の応用例として、図5に示すように、前後エンドプレート36a,37a間に直接弾性部材141を挟み込み、これらを加硫接着等により強固に接合してなる弾性連結部135’を設けてもよい。
さらに、弾性部材41,141はウレタンゴム等のゴム系材料に限らず、金属バネや樹脂系弾性部材であってもよい。
そして、上記実施例における構成は一例であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施例における自動二輪車の側面図である。
【図2】上記自動二輪車の車体フレームの側面図である。
【図3】上記車体フレームの要部拡大図である。
【図4】この発明の第二実施例における図3に相当する拡大図であり、(a)は弾性連結部を一体に結合した状態を、(b)は前記弾性連結部を分解した状態をそれぞれ示す。
【図5】上記第二実施例の応用例を示す図3に相当する拡大図である。
【符号の説明】
【0033】
1 自動二輪車
3 フロントフォーク(前輪支持部材)
5 車体フレーム
6 ヘッドパイプ
9 スイングアーム(後輪支持部材)
13 メインパイプ
14 シート支持パイプ(シート支持部)
26 ループ状部
35,135 弾性連結部
36 前フレームパイプ(車体フレームを構成する部材)
37 後フレームパイプ(車体フレームを構成する部材)
38 外筒部材(外部材)
39 内筒部材(内部材)
41,141 弾性部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームの前部で前輪支持部材を操舵可能に支持し、後部で後輪支持部材を揺動可能に支持する自動二輪車の車体フレーム構造において、
前記車体フレームの少なくとも一部に、該車体フレームを構成する部材同士を弾性部材を介在させて連結する弾性連結部を設けたことを特徴とする自動二輪車の車体フレーム構造。
【請求項2】
前記弾性連結部が、互いに嵌合する内外部材間に前記弾性部材を介在させてなることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の車体フレーム構造。
【請求項3】
前記車体フレームがループ状部を形成し、該ループ状部の一部に前記弾性連結部を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動二輪車の車体フレーム構造。
【請求項4】
ヘッドパイプから後方に延びてシート支持部に至るメインパイプに、前記弾性連結部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の車体フレーム構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−145268(P2007−145268A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345240(P2005−345240)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】