説明

自動体外式除細動器のスイッチ構造。

【課題】 操作者が容易にAEDの主電源をONにできるとともに、AEDを使用中に操作者の誤操作等の理由で機械的スイッチをOFFしても、主電源がOFFにはならず、蓋部を閉にした状態で、操作者の更なる操作があった場合にのみ前記主電源スイッチがOFFになるAEDのスイッチ構造を提供する。
【解決手段】 自動体外式除細動器のスイッチ構造であって、前記自動体外式除細動器の本体を覆う蓋部の開閉状態と主電源スイッチのON/OFFとを関連付けて、前記蓋部の開状態時には前記主電源スイッチをONとすると共に、前記蓋部の閉状態への変移のみでは前記主電源スイッチをOFFとはせず、操作者の更なる操作があった場合にのみ前記主電源スイッチをOFFにする可動機構を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動体外式除細動器のスイッチ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
心室細動による心停止状態には、心臓に強い電気ショックを与えて心筋のけいれんを除去する電気的除細動が最も効果的な治療法となっている。ただし、電気的除細動によっても、心室細動の発生から1分毎に救命率は7〜10%程度低下していくため、可能な限り早急の救命処置が必要となる。
【0003】
こうした電気的除細動による救命処置には、自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)が用いられる。
自動体外式除細動器(以下、AEDと称する)は、コンピューターを内蔵し、患者の胸に電極パッドが装着されると心電図を自動解析して電気的除細動の実施の可否を判断する。
そして実施可との判断がなされ、且つAEDの指示に従った通電スイッチの操作がなされると、AEDは電極パッド間に電圧を印加して患者の心臓に電気ショックを与える。
なお、AEDは、そうした一連の救命処置にあたって、音声や操作ボタンの点滅等により、救命処置の手順を逐次案内することで、医療従事者以外の者でも救命処置を比較的容易に実施できるように構成されている。
【0004】
AEDが国内でも医療従事者以外の一般の市民でも使用できるように法律が改正されたことに伴って、あらゆる場面で、あらゆる人がAEDを操作することになるので、AEDの操作は煩雑でなく簡便且つ、操作者に操作状況を告知させる必要があるので、AEDの主電源は容易にON状態になることが望ましい。
【0005】
このような要望に対して、ボタンを押すことによって、機械的スイッチがONして主電源がON状態になると共に、本体を覆う蓋部のラッチが外れて、蓋部が開状態になるAEDが知られている。(特許文献1参照)
【特許文献1】米国特許第2003−0208237号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のAEDは、ボタンを押すことによって、機械的スイッチがONして主電源がONになると共に、本体を覆う蓋部のラッチが外れて、蓋部が開状態になる構造であるため、操作者が容易にAEDの主電源をONにできる。
しかし、蓋部が何らかの理由によって、閉状態になった場合には、主電源がOFFになってしまうという問題があった。
また、蓋部が開状態でも、機械的スイッチをOFFにすることが可能な構造であるので、AEDを使用中に操作者の誤操作等の理由で機械的スイッチをOFFすると主電源がOFFになってしまうという問題があった。
【0007】
AEDの使用中に主電源がOFFになると、OFFになるまでのAEDの処理(処置)が全てキャンセルとなって、AEDの起動からやり直しになるので、一刻を争う状況に対応することが難しくなる。したがって、簡単に主電源がOFFになることを阻止するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、自動体外式除細動器のスイッチ構造であって、前記自動体外式除細動器の本体を覆う蓋部の開閉状態と主電源スイッチのON/OFFとを関連付けて、前記蓋部の開状態時には前記主電源スイッチをONとすると共に、前記蓋部の閉状態への変移のみでは前記主電源スイッチをOFFとはせず、操作者の更なる操作があった場合にのみ前記主電源スイッチをOFFにする可動機構を備えたことを特徴とする。(請求項1)
【0009】
また、前記蓋部に形成された突起部と、前記本体の前記突起部に対向する位置に形成された開口穴内に摺動自在に設けられ、バネにより前記突起部の方向に付勢されているツマミプロテクター、とを備え、前記可動機構は、前記蓋部を開状態にすると共に、前記主電源スイッチをONにするための可動部と、前記突起部が前記ツマミプロテクターを前記バネに抗して押圧する蓋部の完全な閉状態でのみ前記可動部による主電源スイッチのOFF操作を可能とするロック部とを備えることを特徴とする。(請求項2)
また、前記可動部は、前記蓋部の完全な閉状態で当該蓋部の一部を覆う閉位置と蓋部を開放する開位置との間をスライド可能に設けられたツマミであって、前記ツマミのスライド操作によって前記蓋部を開状態にすると共に、前記主電源スイッチをONにすることを特徴とする。(請求項3)
【0010】
また、前記ツマミ及び前記本体には、主電源スイッチ駆動用のホール素子及び磁石が、前記ツマミのスライドに関連して前記ホール素子に及ぶ前記磁石の磁力が単調的に変化するように設けられていることを特徴とする。(請求項4)
また、前記ホール素子に及ぶ前記磁石の磁力が大きくなったとき前記主電源スイッチがOFFとなることをことを特徴とする。(請求項5)
また、前記ロック部は、前記可動部と連動し、前記突起部がツマミプロテクターを押圧する蓋部の完全な閉状態以外では、前記ツマミプロテクターに当接して、前記ツマミの主電源スイッチのOFFへのスライドを阻止する阻止部材であることを特徴とする。(請求項6)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、操作者が容易にAEDの主電源をONにできるとともに、蓋部が何らかの理由によって、閉状態になった場合にも、主電源がOFFにはならない。
また、AEDを使用中に操作者の誤操作等の理由で機械的スイッチをOFFしようとしても、主電源がOFFにはならず、蓋部を閉状態にした状態で、操作者の更なる操作があった場合にのみ前記主電源スイッチがOFFになるという特有の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2を用いて本発明のAEDの構成を説明する。
図1は、本発明のAEDの全体構成を示す斜視図である。
図1において、1はAEDの本体であって、本体内部にはAEDの機能要素(公知のAEDの機能要素)が組み込まれているが、本発明の内容としては直接関係がないのでこの明細書では説明を省略する。
【0013】
2は本体を覆う蓋部であって、保管時には当該蓋部が閉状態になって、ゴミ等が入るのを防止している。
なお、内部には電極パッドが収められるが、図示していない。
3はスライド可能なツマミであって、AEDの使用時に操作者が当該ツマミをスライドさせることによって、バネ11により蓋部2が図示の開状態になる。
なお、本発明では当該ツマミ3をスライドさせて、蓋部2が開状態になると同時にAEDの図示しない主電源がON状態になる構成となっている。
4は蓋部2に形成された突起部であり、本体1に形成された開口穴5に対応している。
14は持ち運び等に使用するハンドルである。
【0014】
次に図2を用いて、ツマミ3のスライド操作によって、蓋部2が開状態になると共にAEDの主電源がON状態になる構成を説明する。
図2は、主電源スイッチをONにする動作を説明するためのスイッチ構造の詳細な断面図である。
図において、符号は図1と同様に、本体1、蓋部2、ツマミ3、突起部4、開口穴5を示している。
【0015】
また、図2において、6はツマミプロテクター、7は磁石、8はホール素子、9はバネ、10はツマミ3に形成された阻止部材、12は蓋部2の一部に設けられた係合部、13はツマミ3に設けられたラッチ部である。
図2の状態は、ツマミ3を開位置までスライドさせて、蓋部2の係合部12とツマミ3のラッチ部13との係合が解除されて蓋部2が開放可能な状態になっており、この後、図1に示すように、バネ11により蓋部2は完全に開状態になる。
図2の蓋部2の開状態では、蓋部2に形成された突起部4による開口穴5内のツマミプロテクター6の押圧が解除されている。
したがって、阻止部材10がツマミプロテクター6の側部に存在するためツマミ3のスライド(図2では左方向への)が阻止されて、主電源をOFFにすることができない。
また、ツマミ3に設けられた磁石7と本体1に設けられた主電源スイッチ駆動用のホール素子8との位置関係がずれることによって、主電源はONになる。
【0016】
次に図3を用いて、蓋部2が閉状態で、ツマミ3のスライド操作によってAEDの主電源がOFF状態になる構成を説明する。
図3は、主電源スイッチをOFFにする動作を説明するためのスイッチ構造の詳細な断面図である。
図3において、符号は図1、図2と同じものを表わす。
【0017】
図3の状態は、ツマミ3を矢印方向にスライドさせて閉位置とし、蓋部2が閉状態になって、蓋部2の係合部12とツマミ3のラッチ部13とが係合して蓋部2がロックがされた状態になっている。
操作者が、図2の状態から、蓋部2を下方に押圧すると、蓋部2に形成された突起部4が開口穴5内のツマミプロテクター6を押圧し、突起部4及びツマミプロテクター6は、図3の状態となる。
この状態では、ツマミプロテクター6が押圧されているので、阻止部材10を遮るものがなくなり、ツマミ3のスライド(図2では左方向への)が可能で、主電源をOFFにすることが可能である。
このツマミ3のスライドによって、ツマミ3に設けられた磁石7と本体1に設けられた主電源スイッチ駆動用のホール素子8とが対向位置となって、主電源はOFFになる。
【0018】
主電源スイッチとして機械的スイッチは、雨等の水滴がスイッチの接点を浸食して必要な時に確実に主電源をON状態にできない場合があるので採用できない。
また、非接触スイッチにすることも考えられるが、静電気式近接スイッチではAEDの筐体として樹脂を用いているため、夏及び冬等に帯電による誤動作が生じ得るので採用は難しい。
【0019】
そこで、本願発明の実施例ではAEDの主電源スイッチの駆動にホール素子を採用している。
AEDの主電源スイッチの駆動にホール素子を使用する理由は、AEDが使用される環境が屋外の場合もあって、雨等の水滴に対する保護が必要であるが、ホール素子は磁石との動作において水滴等による影響を受けない特性を有しているためである。
【0020】
図2及び図3のAEDのスイッチ機構において、前記磁石の移動(スライド)によって、当該主電源がONになるのは、次の理由による。すなわち、
ホール素子8と磁石7とが対向している場合には、ホール素子8に及ぶ磁石7の磁力が大きく、そのためホール素子8の起電力が大きくなって主電源をOFF状態に保ち、磁石7がホール素子8の位置からずれると前記磁力が小さくなりホール素子8の起電力が小さくなって主電源をON状態にする構成となっているためである。
なお、主電源をOFF状態に保つために、磁石7とホール素子8とを対向させるようにしているが、必ずしも対向させる必要はない。要は、ツマミ3の閉位置と開位置との間のスライドに応じて、ホール素子8に及ぶ磁石7の磁力が単調的に変化するように磁石7とホール素子8とを設ければ良い。しかしながら、本実施例のように対向配置することによて、磁石7の磁力が最大限有効利用できる。
【0021】
図2及び図3のスイッチ機構において、ホール素子8と磁石7との位置関係が対向している場合に、主電源をOFF状態に保ち、磁石7がホール素子8の位置からずれると主電源をON状態にする構成としているが、動作を逆にして、ホール素子8と磁石7との位置関係が対向している場合に、主電源をON状態に保ち、磁石7がホール素子8の位置からずれると主電源をOFF状態にする構成も可能である。
しかしながら、AEDにおける主電源の重要性を考慮すると、ホール素子が故障(磁気が検出できない等)の場合に主電源をON状態にしてAEDを使用可能とする、フェイルセーフ構成でる図2及び図3の如き構成とすることが望ましい。
【0022】
なお、ホール素子と類似の機能を有する光を用いたフォトセンサによって主電源スイッチの駆動を実現することも可能であるが、フォトセンサには光源が必要で、その光源を動作させるためバッテリーの寿命に影響する。
小型軽量を重要視するAEDではバッテリー寿命が重要であるので、この点で磁石とホール素子とを用いた主電源スイッチの駆動が優れている。
【0023】
次に、AEDの使用時に操作者が操作する本発明のAEDの主電源スイッチの動作は以下のとおりである。
・操作者は、AED(1)を使用するために、AEDのハンドル(14)寄りにあるツマミ(3)をハンドル側にスライドさせる。(ステップS1)
・ステップS1のツマミのスライドによって、当該ツマミのラッチ部(13)によりロックされていた蓋部(2)の係合部(12)が開放されて蓋部が開状態になると共に、ツマミに設けられた磁石(7)が本体に設けられたホール素子(8)の対向位置からずれてAEDの主電源がON状態になる。(ステップS2)
・この状態では、蓋部に形成された突起部(4)が本体(1)の開口穴(5)の外部に出るので、
当該開口穴内のツマミプロテクター(6)は突起部による押圧が解除され、バネ(9)の復元力のために上方に移動する。(図2の状態)(ステップS3)
この状態では、何らかの理由(操作者の誤操作等)で蓋部が閉状態になっただけでは、磁石とホールICが対向位置にないため、主電源はOFFにはならない。
また、この状態では、何らかの理由(操作者の誤操作等)でツマミをスライドさせようとしても、当該ツマミに形成された阻止部材(10)がツマミプロテクターに突き当たって
スライド操作ができないので、磁石とホールICが対向位置にならないため、主電源はOFFにはならない。
・次に、AEDの使用が終了した場合に、AEDの主電源スイッチをOFFにするには、操作者は、蓋部を閉状態にする。(ステップS4)
・ステップS4の蓋部の閉状態で、操作者が蓋部を押圧すると、蓋部に形成された突起部が本体の開口穴内のツマミプロテクターをバネの復元力に逆らって押圧する。(ステップS5)
・ステップS5の状態では、ツマミプロテクターが押圧されていて、ツマミに形成された阻止部材の矢印方向へのスライドが可能になっているので、ツマミを矢印方向へスライドさせる。(図3の状態)(ステップS6)
ステップS6のツマミのスライドによって、当該ツマミのラッチ部と蓋部の係合部とが係合して蓋部が完全に閉状態になると共に、磁石とホール素子とが対向してAEDの主電源がOFF状態になる。
【0024】
上述の如く、本願発明のAEDの主電源はツマミによる蓋部の開放操作のみで簡単にONにできる。
しかし、AEDの使用中に、何らかの理由(操作者の誤操作等)で蓋部が閉状態になっただけ、若しくは、ツマミをOFF方向にスライドさせようとしただけでは、主電源はOFFにはならない。
AEDの主電源をOFFするには、操作者が蓋部を閉状態に押圧した状態で、ツマミをOFF方向にスライドさせる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のAEDの全体構成を示す斜視図である。
【図2】主電源スイッチをONにする動作を説明するためのスイッチ構造の詳細な断面図である。
【図3】主電源スイッチをOFFにする動作を説明するためのスイッチ構造の詳細な断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1:AED本体
2:蓋部
3:ツマミ
4:突起部
5:開口穴
6:ツマミプロテクター
7:磁石
8:ホール素子
9:バネ
10:阻止部材
11:バネ
12:係合部
13:ラッチ部
14:ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動体外式除細動器のスイッチ構造であって、
前記自動体外式除細動器の本体を覆う蓋部の開閉状態と主電源スイッチのON/OFFとを関連付けて、
前記蓋部の開状態時には前記主電源スイッチをONとすると共に、前記蓋部の閉状態への変移のみでは前記主電源スイッチをOFFとはせず、操作者の更なる操作があった場合にのみ前記主電源スイッチをOFFにする可動機構を備えたことを特徴とする自動体外式除細動器のスイッチ構造。
【請求項2】
前記蓋部に形成された突起部と、
前記本体の前記突起部に対向する位置に形成された開口穴内に摺動自在に設けられ、バネにより前記突起部の方向に付勢されているツマミプロテクター、とを備え、
前記可動機構は、前記蓋部を開状態にすると共に、前記主電源スイッチをONにするための可動部と、
前記突起部が前記ツマミプロテクターを前記バネに抗して押圧する蓋部の完全な閉状態でのみ前記可動部による主電源スイッチのOFF操作を可能とするロック部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の自動体外式除細動器のスイッチ構造。
【請求項3】
前記可動部は、前記蓋部の完全な閉状態で当該蓋部の一部を覆う閉位置と蓋部を開放する開位置との間をスライド可能に設けられたツマミであって、
前記ツマミのスライド操作によって前記蓋部を開状態にすると共に、前記主電源スイッチをONにすることを特徴とする請求項2に記載の自動体外式除細動器のスイッチ構造。
【請求項4】
前記ツマミ及び前記本体には、主電源スイッチ駆動用のホール素子及び磁石が、前記ツマミのスライドに関連して前記ホール素子に及ぶ前記磁石の磁力が単調的に変化するように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の自動体外式除細動器のスイッチ構造。
【請求項5】
前記ホール素子に及ぶ前記磁石の磁力が大きくなったとき前記主電源スイッチがOFFとなることをことを特徴とする請求項4に記載の自動体外式除細動器のスイッチ構造。
【請求項6】
前記ロック部は、
前記可動部と連動し、前記突起部がツマミプロテクターを押圧する蓋部の完全な閉状態以外では、前記ツマミプロテクターに当接して、前記ツマミの主電源スイッチのOFFへのスライドを阻止する阻止部材であることを特徴とする請求項2に記載の自動体外式除細動器のスイッチ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−165618(P2009−165618A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6617(P2008−6617)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】