説明

自動分析装置

【課題】分析データの異常を未然に防ぐことができる自動分析装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2の標準試料L,H及び被検試料に含まれる電解質を選択的に検出するイオン選択性電極及び参照電極により構成される複合電極81aと、複合電極81aからの第1及び第2の標準試料L,H並びに被検試料の検出信号に基づいて、第1及び第2の標準データL,H並びに被検データを生成する信号処理部83と、信号処理部83により生成された第1及び第2の標準データL,Hに基づいて、イオン選択性電極が正常であるか否かを判定する判定部40とを備え、判定部40は、第1及び第2の標準データL,Hを加算した加算標準データが予め設定した正常範囲内である場合にイオン選択性電極が正常であると判定する。また、正常範囲から外れている場合にイオン選択性電極が異常であると判定してその電極異常情報を表示部52に表示出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれている成分を分析する自動分析装置に関わり、特にヒトから採取された血液や尿などの被検試料に含まれる成分を分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は生化学検査項目や免疫検査項目などを対象とし、反応容器に分注した被検試料と分析を行う各検査項目に該当する試薬との混合液の反応によって生ずる色調などの変化を、光の透過量を測定することにより、被検試料中における成分の濃度や酵素活性で表される分析データを生成する。また、生化学検査項目の内のナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンなどの電解質の項目では、各電解質を検出する検出手段である各電解質に選択的に応答するイオン選択性電極と一定の電位を発生する参照電極の間を計測することにより、被検試料中における電解質濃度で表される分析データを生成する。そして、生成された分析データが検査項目毎に設定された基準範囲に入っているか否かでその被検試料の被検体が健康であるか否かが診断される。
【0003】
ところで、イオン選択性電極を長期使用すると、イオン選択性電極の電解質を検出する感応膜が劣化して感度が低下し、各電解質に対する選択性やS−N比(signal to noise ratio)の低下による分析データの精確さが悪化する問題がある。この問題を未然に防ぐために、電解質濃度が既知の標準試料の測定により生成された標準データに基づいて作成される検量線が、所定の勾配よりも低下したときにイオン選択性電極エラーを表示部に表示する。
【0004】
また、イオン選択性電極及び参照電極により構成される例えば流通型の複合電極を備えた電解質検出ユニットでは、複合電極に取り付けた被検試料を内部に導くための吸引ノズルにおける接続不良による空吸いや血液中の凝固成分の詰まりによって、複合電極内に被検試料が供給されず空気が吸引される問題がある。この場合、イオン選択性電極と参照電極の間に流入した空気によって高抵抗になるため、複合電極の出力が異常になったり、計測不可能になることがある。
【0005】
しかしながら、イオン選択性電極や参照電極が例えば内部液の漏洩により異常であるときにも空吸いや詰まりのときと同様の現象が発生するため、出力異常が複合電極又は空吸いや詰まりによるものかの判断に手間取り、検査が遅延して問題になることがある。この問題を解決するために、吸引ノズルから被検試料等が吸引されたか否かを検出する圧力センサを設けた自動分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
この自動分析装置によれば、圧力センサから得られた圧力データが正常範囲から外れている場合、吸引ノズルの不良と判断して吸引ノズルの詰まりエラー又は空吸いエラーを表示する。また、圧力センサから得られた圧力データが正常範囲内であり、複合電極から出力が異常である場合、イオン選択性電極が異常であると判断してイオン選択性電極エラーを表示する。
【特許文献1】特開平8−233771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、被検試料中の電解質成分の分析では他の検査項目に比べて高い精確さが要求されるため、特許文献1のように空吸いや詰まりのときの異常出力に対比させてイオン選択性電極が異常であるときの異常出力を判断する程度の不明瞭な検出方法では、基準範囲を少し超えるはずの分析データが、イオン選択性電極が原因で基準範囲内に入るような場合の複合電極の出力からは、イオン選択性電極が異常であると判断できない問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、分析データの異常を未然に防ぐことができる自動分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の自動分析装置は、被検試料とこの被検試料に含まれる検査項目の成分を分析する自動分析装置において、前記検査項目の第1及び第2の標準試料及び前記被検試料に含まれる電解質成分を検出するイオン選択性電極と、前記イオン選択性電極により検出された前記第1及び第2の標準試料並びに前記被検試料の検出信号に基づいて、第1及び第2の標準データ並びに被検データを生成する信号処理手段と、前記信号処理手段により生成された第1及び第2の標準データを加算した加算標準データが予め設定した正常範囲内である場合に前記イオン選択性電極が正常であると判定し、前記正常範囲から外れている場合に前記イオン選択性電極が異常であると判定する判定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2つの標準試料の測定により生成された2つの標準データを加算した加算標準データが予め設定された正常範囲内である場合、その標準試料の検出に用いられた検出手段が正常であると判定し、前記正常範囲から外れている場合、前記検出手段が異常であると判定することにより、異常な分析データの生成を未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明による自動分析装置の実施例を、図1乃至図5を参照して説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例に係る自動分析装置の構成を示したブロック図である。この自動分析装置100は、様々な検査項目の標準試料や被検試料を測定する分析部18と、分析部18の測定動作を制御する分析制御部20と、検査項目の標準試料や被検試料などの測定により分析部18から出力される標準試料の標準データや被検試料の被検データを処理して検査項目毎に検量線の作成や分析データの生成を行うデータ処理部30と、分析部18から出力される標準データに基づいて検査項目の成分を検出する分析部18のユニットが正常であるか否かを判定する判定部40と、データ処理部30で作成された検量線や生成された分析データを出力する出力部50と、検査項目の分析条件の入力や、各種コマンド信号を入力する操作部60と、分析制御部20、データ処理部30、判定部40、及び出力部50を統括して制御するシステム制御部61とを備えている。
【0013】
図2は、分析部18の構成を示した斜視図である。この分析部18は、各検査項目の標準試料や被検試料等のサンプルに含まれる各検査項目の成分に対して選択的に反応する第1試薬やこの第1試薬と対をなす第2試薬を収容した試薬ボトル7と、この試薬ボトル7を収納する試薬ラック1と、第1試薬を収容した試薬ボトル7が収納された試薬ラック1を収納する試薬庫2と、第2試薬を収容した試薬ボトル7が収納された試薬ラック1を収納する試薬庫3と、円周上に複数の反応容器4が配置された反応ディスク5と、サンプルを収容するサンプルカップ17と、サンプルを収容したサンプルカップ17が収納されるディスクサンプラ6とを備えている。
【0014】
また、ディスクサンプラ6のサンプルカップ17からサンプルを吸引して反応容器4に吐出する分注を行うサンプル分注プローブ16と、試薬庫2,3の試薬ボトル7から第1及び第2試薬を吸引して反応容器4に吐出する分注を行う第1及び第2試薬分注プローブ14,15と、サンプル分注プローブ16を回動及び上下移動可能に保持するサンプル分注アーム10と、第1及び第2試薬分注プローブ14,15を回動及び上下移動可能に保持する第1及び第2試薬分注アーム8,9とを備えている。
【0015】
更に、反応容器4内のサンプル及び第1試薬の混合液や、サンプル、第1試薬、及び第2試薬の混合液を撹拌する撹拌ユニット11と、混合液を反応容器4から吸引して電解質項目の成分であるナトリウムイオン、カリウムイオン、及び塩素等の電解質を検出する電解質検出ユニット19と、混合液を収容した反応容器4を測光する測光ユニット13と、反応容器4内の測定後の混合液を吸引すると共に、反応容器4内を洗浄・乾燥する洗浄ユニット12とを備えている。
【0016】
電解質検出ユニット19は、電解質項目の標準試料や電解質項目が選択された被検試料の混合液を反応容器4から吸引し、吸引した混合液の電解質成分を検出して標準データや被検データを生成する。そして、生成した標準データをデータ処理部30及び判定部40に出力する。また、生成した被検データをデータ処理部30に出力する。
【0017】
測光ユニット13は、回転移動する反応容器4に光を照射して、標準試料や被検試料の混合液を透過した予め設定された波長の光を吸光度に変換して、標準データや被検データを生成する。そして、生成した標準データや被検データをデータ処理部30に出力する。
【0018】
分析制御部20は、試薬庫2、試薬庫3、及びディスクサンプラ6を夫々回動する機構、反応ディスク5を回転する機構、サンプル分注アーム10、第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、及び撹拌ユニット11を夫々回動及び上下移動する機構、洗浄ユニット12を上下移動する機構、撹拌ユニット11を撹拌駆動する機構を備えている。
【0019】
また、サンプル分注プローブ16からサンプルを吸引及び吐出させるサンプル分注ポンプ、第1及び第2試薬分注プローブ14,15から第1及び第2試薬を夫々吸引及び吐出させる試薬ポンプ、洗浄ユニット12から洗浄液を吐出及び吸引させる洗浄ポンプ、洗浄ユニット12から反応容器4内を乾燥させる乾燥ポンプ等の各ポンプを駆動する機構、電解質検出ユニット19の各ユニットを駆動する機構等を備えている。更に、各機構を夫々制御する制御回路を備えている。
【0020】
図1のデータ処理部30は、分析部18から出力された標準データから検量線の作成や被検データから分析データの生成を行う演算部31と、演算部31で作成された検量線及び生成された分析データを保存する記憶部32とを備えている。
【0021】
演算部31は、分析部18の電解質検出ユニット19や測光ユニット13から出力された各検査項目の標準データから検量線を作成する。また、判定部40から出力される判定情報を、この判定情報に対応する検量線に付加する。そして、作成した検量線や判定情報を付加した検量線を記憶部32に保存すると共に出力部50に出力する。
【0022】
また、電解質検出ユニット19や測光ユニット13から出力された各検査項目の被検データに応じて、その検査項目の検量線を記憶部32から読み出す。そして、読み出した検量線を用いてその被検データから活性値や濃度値などで表される分析データを生成し、生成した分析データを記憶部32に保存すると共に出力部50に出力する。
【0023】
記憶部32は、ハードディスクなどを備え、演算部31から出力された検量線を検査項目毎に保存し、分析データを被検試料毎に保存する。
【0024】
判定部40は、分析部18の電解質検出ユニット19から出力された標準データに基づいて電解質項目の成分を検出する検出ユニットが正常であるか否かを判定する。そして、その検出ユニットが異常であると判定した場合、その異常情報をシステム制御部61に出力する。また、その異常情報をデータ処理部30の演算部31に出力する。
【0025】
出力部50は、データ処理部30から出力された検量線や分析データなどを印刷出力する印刷部51及び表示出力する表示部52を備えている。そして、印刷部51は、プリンタなどを備え、データ処理部30から出力された検量線や分析データなどを予め設定されたフォーマットに基づいて、プリンタ用紙に印刷出力する。表示部52は、CRTや液晶パネルなどのモニタを備え、各項目の標準試料や検量線などの分析条件を設定するための分析条件設定画面の表示や、データ処理部30から出力された検量線や分析データなどの表示を行う。
【0026】
操作部60は、キーボード、マウス、ボタン、タッチキーパネルなどの入力デバイスを備え、各検査項目の標準試料や検量線などの分析条件の設定、被検体の被検体IDや被検体名などの被検体情報の入力、被検試料毎に分析する検査項目の選択、各検査項目の標準試料測定操作、被検試料測定操作などの様々な操作が行われる。
システム制御部61は、図示しないCPUと記憶回路を備え、操作部60から供給される操作者のコマンド信号、各検査項目の分析条件、被検体情報、被検試料毎に選択された検査項目などの入力情報を保存する。そして、入力情報に基づいて、分析部18の各ユニットを一定サイクルの所定のシーケンスで測定動作させる制御、或いは検量線の作成、分析データの生成と出力に関する制御などシステム全体の制御を行なう。また、判定部40から出力された検出ユニットの異常情報を出力部50の表示部52に表示する。
【0027】
次に、図1乃至図5を参照して、電解質検出ユニット19の構成及び電解質項目の検量線を説明する。図3は、電解質検出ユニット19の構成を示す図である。図4は、電解質項目の標準データを示す図である。図5は、電解質項目の検量線を示す図である。
【0028】
図3において、電解質検出ユニット19は、電解質項目の標準試料や被検試料等のサンプルが電解質項目の第1試薬で所定の倍率に希釈された混合液を校正するための校正試料72bと、この校正試料72bを収容した校正試料ボトル72aと、サンプルの混合液や校正試料72bに含まれる電解質を検出するイオンセンサユニット81とを備えている。
【0029】
また、校正試料ボトル72a内の校正試料72bを吸引して貯留する校正部70と、分析部18の反応容器4内の混合液及び校正部70に貯留した校正試料72bをイオンセンサユニット81内に吸引すると共に排液タンク82aに排出する吸引ポンプ82と、イオンセンサユニット81の検出信号を処理する信号処理部83とを備えている。
【0030】
イオンセンサユニット81は、例えば3つの電解質項目(ナトリウム項目、カリウム項目、塩素項目)の電解質(ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン)を検出して電位応答する検出手段であるイオン選択性電極(ナトリウムイオン選択性電極、カリウムイオン選択性電極、及び塩素イオン選択性電極)、及び一定の電位を発生する参照電極により構成される複合電極81aと、この複合電極81aの入り口側に接続された混合液や校正試料72bを複合電極81a内に導く吸引ノズル81bとを備えている。そして、図示しない移動機構により反応容器4と校正部70の間を移動する。
【0031】
複合電極81aの各イオン選択性電極は、参照電極との間で混合液や校正試料72bに含まれる各電解質に選択的に応答して、その電解質の活量に応じた起電力を発生する。この起電力Eは温度及び活量係数が一定となる条件で電解質の濃度Cの対数ln(C)に比例し、ネルンスト式に基づいて個々のイオン選択性電極に特有の定数である勾配S及び切片E0の各項を含む第1の式{E=E0+S×ln(C)}で表される。
【0032】
校正部70は、校正試料72bを貯留するための試料容器71と、この試料容器71内に校正試料72bを供給する校正試料ポンプ72と、試料容器71に貯留された校正試料72bがイオンセンサユニット81内に吸引された後、不用になった校正試料72bを試料容器71の外側に排出する排液ポンプ74とを備えている。
【0033】
吸引ポンプ82は、試料容器71内の校正試料72bをイオンセンサユニット81内に吸引する。また、校正試料72bの吸引前又は吸引後に反応容器4内の混合液を吸引する。そして、吸引と共にイオンセンサユニット81内の校正試料72b又は混合液を排液タンク82aに排出する。
【0034】
図4は、電解質項目の標準データを示した図である。信号処理部83は、イオンセンサユニット81の複合電極81a内に吸引された電解質項目の標準試料である2つの第1及び第2の標準試料L,Hの混合液及び校正試料72bに含まれる電解質を検出して出力される複合電極81aからの検出信号を計測して増幅した後、夫々所定のタイミングでデジタル信号に変換する。
【0035】
そして、第1の標準試料Lの第1の標準データEL、この第1の標準データELを校正するための校正試料72bの校正データESL、第2の標準試料Hの第2の標準データEH、及びこの第2の標準データEHを校正するための校正試料72bの校正データESHを生成する。そして、生成した各データをデータ処理部30の演算部31に出力する。
【0036】
また、例えば被検試料iの混合液及び校正試料72bに含まれる電解質を検出して出力される複合電極81aからの検出信号に基づいて被検データEi及びこの被検データEiを校正するための校正データESiを生成する。そして、生成した各データを演算部31に出力する。
【0037】
データ処理部30の演算部31では、電解質検出ユニット19からの第1の標準データELから校正データESLを差し引いて第1の校正標準データΔELSを算出する。また、第2の標準データEHから校正データESHを差し引いて第2の校正標準データΔEHSを算出する。算出した第1及び第2の校正標準データΔELS,ΔEHS、並びに予め設定された第1及び第2の標準試料L,Hに含まれる電解質の濃度値である第1及び第2の標準値CL,CHを用いて検量線を作成する。
【0038】
また、電解質検出ユニット19からの被検データEiから校正データESiを差し引いて校正被検データΔEiSを算出する。そして、前記検量線を用いて校正被検データΔEiSから被検試料iにおける電解質項目の分析データを生成する。
【0039】
図5は、電解質項目の検量線を示した図である。X軸を電解質濃度の対数ln(C)で表し、Y軸を起電力Eで表したX,Y軸上において、第1の標準値CL及び第1の校正標準データΔELSのPL座標(CL,ΔELS)と、第2の標準値CH及び第2の校正標準データΔEHSのPH座標(CH,ΔEHS)とを通る直線が、第1の関数{Y=ΔELS+S×(lnX−lnCL)}{S=(ΔEHS―ΔELS)/ln(CH/CL)}により作成される検量線Dとして表される。第1の関数の項Yに被検試料iの校正被検データΔEiSを代入して項Xを求めることにより、被検試料iの電解質濃度である分析データCiを生成する。
【0040】
次に、図1乃至図6を参照して、複合電極81aの判定について説明する。図6は、判定部40における判定基準を説明するための図である。図7は、正常及び異常である2種類の複合電極81aの第1及び第2の校正標準データΔELS,ΔEHSを示す図である。
【0041】
図6において、x軸は、電解質濃度が既知の判定用試料の例えばカリウム項目の分析により生成された分析データを、判定用試料に予め設定された判定値からの乖離値としてmmol/Lの単位で表している。また、y軸は、カリウム項目の第1の校正標準データに第2の校正標準データを加算して求めた加算標準データをmVの単位で表している。
【0042】
ここで、カリウム項目の検量線が所定の値以上の正常な勾配を有し、且つカリウムイオン選択性電極エラーとなる異常出力を発生しない複数の複合電極81aを用いて判定用試料の分析を行った。そして、複数の複合電極81aには、カリウム項目の分析データが判定値から許容範囲を超えて乖離するカリウムイオン選択性電極を有する複合電極81aが含まれており、複数の複合電極81aを用いて求めた複数の加算校正標準データと乖離値の関係を回帰分析することにより、一次の回帰式(y=−7.25x−1.00)で表される相関関係があることが分かった。なお、許容範囲は各検査項目の基準範囲に基づいて設定され、基準範囲が狭いと許容範囲も狭くなる。
【0043】
そして、図7に示すように、乖離値が許容範囲から外れる第1の校正標準データΔEKLS1は、乖離値が許容範囲内である第1の校正標準データΔEKLS2よりも大きい傾向を示している。また、乖離値が許容範囲から外れる第2の校正標準データΔEKHS1は、乖離値が許容範囲内である第2の校正標準データΔEKHS2よりも大きい傾向を示している。従って、乖離値が許容範囲から外れる加算校正標準データは、乖離値が許容範囲内である加算校正標準データよりも大きい傾向を示している。
【0044】
ここで、乖離値が例えば±0.15mmol/Lをカリウム項目の分析データの許容範囲とすると、回帰式に±0.15mmol/Lを代入することにより、−2.09〜0.09mVの範囲を判定基準とする正常範囲を算出することができる。
【0045】
判定部40では、電解質検出ユニット19からの各電解質項目の第1の標準データEL、校正データESL、第2の標準データEH、及び校正データESHから第1及び第2の校正標準データΔELS,ΔEHSを算出し、更に第1及び第2の校正標準データΔELS,ΔEHSを加算した加算校正標準データを求める。求めた加算校正標準データが予め設定された正常範囲に入っているか否かで各標準データの生成に用いられた複合電極81aのその電解質項目のイオン選択性電極が正常であるか否かを判定する。
【0046】
そして、求めた加算校正標準データが正常範囲内である場合、第1及び第2の標準データEL,EHの生成に用いた複合電極81aのその標準データに対応する電解質項目のイオン選択性電極が正常であると判定する。
【0047】
また、求めた加算標準データが正常範囲から外れている場合、第1及び第2の標準データEL,EHの生成に用いた複合電極81aのその標準データに対応する電解質項目のイオン選択性電極が異常であると判定する。そして、その電極異常情報をシステム制御部61及び演算部31に出力する。システム制御部61は、判定部40から出力された電極異常情報を出力部50の表示部52に表示出力する。
【0048】
このように、各電解質項目の加算標準データが予め設定した正常範囲から外れている場合、第1及び第2の標準データEL,EHの生成に用いた複合電極81aのその電解質項目のイオン選択性電極が異常であると判定し、表示部52にその電極異常情報を表示出力することができる。これにより、異常なイオン選択性電極を用いた異常な分析データの生成を未然に防ぐことができる。
【0049】
以下、図1乃至図8を参照して、自動分析装置100の動作の一例を説明する。図8は、自動分析装置100の動作を示したフローチャートである。第1及び第2の標準試料L,Hを収容した2つのサンプルカップ17をディスクサンプラ6にセットした後、操作部60から標準試料測定操作が行われると、自動分析装置100は動作を開始する(ステップS1)。
【0050】
システム制御部61は、分析制御部20、データ処理部30、判定部40、及び出力部50の制御を行う。分析制御部20は、分析部18の各ユニットを制御して第1及び第2の標準試料L,Hの測定を行う。
【0051】
分析部18のサンプル分注プローブ16は、ディスクサンプラ6のサンプルカップ17から第1の標準試料Lを吸引して反応容器4に吐出する。次いで、サンプルカップ17から第2の標準試料Hを吸引して反応容器4に吐出する。第1試薬分注プローブ14は、試薬庫2の試薬ボトル7から電解質項目の第1試薬を吸引して、第1及び第2の標準試料L,Hを収容した反応容器4に夫々第1試薬を吐出する。撹拌ユニット11は、反応容器4内の第1試薬と第1及び第2の標準試料L,Hの混合液を撹拌する。
【0052】
電解質検出ユニット19のイオンセンサユニット81は、移動機構により図3に示した矢印L2方向に水平移動した後、反応容器4内に下降する。吸引ポンプ82は、反応容器4から第1の標準試料Lの混合液をイオンセンサユニット81の複合電極81a内に吸引する。信号処理部83は、複合電極81aの検出信号から第1の標準試料Lの各第1の標準データENaL,EKL,ECLLを生成してデータ処理部30の演算部31及び判定部40に出力する(ステップS2)。
【0053】
校正部70の校正試料ポンプ72は、校正試料ボトル72aから校正試料72bを吸引して試料容器71に供給する。イオンセンサユニット81は、図3に示した矢印L1方向に水平移動した後、試料容器71内に下降する。吸引ポンプ82は、試料容器71から複合電極81a内に校正試料72bを吸引する。信号処理部83は、複合電極81aの検出信号から校正試料72bの各電解質項目の校正データENaSL,EKSL,ECLSLを生成して演算部31及び判定部40に出力する(ステップS3)。
【0054】
イオンセンサユニット81は、L2方向に水平移動した後、反応容器4内に下降する。吸引ポンプ82は、反応容器4から第2の標準試料Hの混合液を複合電極81a内に吸引する。信号処理部83は、複合電極81aの各電解質項目に応じた検出信号から第2の標準試料Hの第2の標準データENaH,EKH,ECLHを生成して演算部31及び判定部40に出力する(ステップS4)。
【0055】
校正試料ポンプ72は、校正試料ボトル72aから校正試料72bを吸引して試料容器71に供給する。イオンセンサユニット81は、L1方向に水平移動した後、試料容器71内に下降する。吸引ポンプ82は、試料容器71から複合電極81a内に校正試料72bを吸引する。信号処理部83は、複合電極81aの各電解質項目に応じた検出信号から校正試料72bの各電解質項目の校正データENaSH,EKSH,ECLSHを生成して演算部31及び判定部40に出力する(ステップS5)。
【0056】
演算部31は、信号処理部83から出力された各第1の標準データENaL,EKL,ECLLから各校正データENaSL,EKSL,ECLSLを差し引いて各第1の校正標準データΔENaLS,ΔEKLS,ΔECLLSを算出する。また、信号処理部83から出力された各第2の標準データENaH,EKH,ECLHから各校正データENaSH,EKSH,ECLSHを差し引いて各第2の校正標準データΔENaHS,ΔEKHS,ΔECLHSを算出する。そして、算出した各校正標準データから各電解質項目の検量線DNa、DK,DCLを作成する(ステップS6)。
【0057】
判定部40は、信号処理部83から出力された各標準データ及び各校正データから各第1の校正標準データΔENaLS,ΔEKLS,ΔECLLS及び各第2の校正標準データΔENaHS,ΔEKHS,ΔECLHSを算出し、更に加算校正標準データを求める。
【0058】
そして、求めた各加算校正標準データが各電解質項目の正常範囲から外れている場合(ステップS7のいいえ)、求めた加算校正標準データに対応する複合電極81aのイオン選択性電極が異常であると判定し、例えば「イオン選択性電極が異常です。」などの電極異常情報を演算部31及びシステム制御部61に出力する。
【0059】
また、求めた加算校正標準データが予め設定された正常範囲内である場合(ステップS7のはい)、求めた加算校正標準データに対応する複合電極81aのイオン選択性電極が正常であると判定して、その判定結果を演算部31に出力する。
【0060】
ステップS7の「いいえ」の後に、システム制御部61は、電極異常情報を表示部52に表示出力する(ステップS8)。
【0061】
一方、演算部31は、判定部40から出力された電極異常情報を、この情報に対応する各検量線DNa、DK,DCLに電極異常情報を付加する(ステップS9)。
【0062】
ステップS8及びステップS9の後に、演算部31は、検量線DNa、DK,DCLを記憶部32に保存すると共に出力部50に出力する(ステップS9)。
【0063】
そして、検量線DNa、DK,DCLが出力部50の表示部52に表示出力されて時点で、システム制御部61が分析制御部20、データ処理部30、判定部40、及び出力部50を停止させることにより、自動分析装置100は動作を終了する(ステップS11)。
【0064】
以上述べた本発明の実施例によれば、第1及び第2の標準試料L,Hの混合液並びに校正試料72bの測定により生成された第1及び第2の標準データEL,EH並びに校正データELS,EHSに基づいて各電解質項目の加算校正標準データを求め、求めた加算校正標準データが予め設定された正常範囲内である場合、その加算校正標準データに対応する複合電極81aのイオン選択性電極が正常であると判定することができる。また、加算校正標準データが予め設定された正常範囲から外れている場合、その加算校正標準データに対応する複合電極81aのイオン選択性電極が異常であると判定し、その電極異常情報を表示部52に表示出力することができる。
【0065】
これにより、精確さを欠いた異常な分析データの生成を未然に防ぐことが可能となり、異常な分析データの発見が遅れることによる再測定の作業や時間、第1及び第2の標準試料L,H、及び校正試料72bの浪費を低減することができる。また、分析データの異常による誤診を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例による自動分析装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施例に係る分析部の構成を示す斜視図。
【図3】本発明の実施例に係る電解質検出ユニットの構成を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る電解質項目の標準データを示す図。
【図5】本発明の実施例に係る電解質項目の検量線を示す図。
【図6】本発明の実施例に係る判定基準を説明するための図。
【図7】本発明の実施例に係る正常及び異常である複合電極の第1及び第2の校正標準データを示す図。
【図8】本発明の実施例に係る自動分析装置の動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0067】
4 反応容器
18 分析部
19 電解質検出ユニット
20 分析制御部
30 データ処理部
31 演算部
32 記憶部
40 判定部
70 校正部
71 試料容器
72 校正試料ポンプ
72a 校正試料ボトル
72b 校正試料
74 排液ポンプ
81 イオンセンサユニット
81a 複合電極
81b 吸引ノズル
82 吸引ポンプ
82a 排液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料とこの被検試料に含まれる検査項目の成分を分析する自動分析装置において、
前記検査項目の第1及び第2の標準試料及び前記被検試料に含まれる電解質成分を検出するイオン選択性電極と、
前記イオン選択性電極により検出された前記第1及び第2の標準試料並びに前記被検試料の検出信号に基づいて、第1及び第2の標準データ並びに被検データを生成する信号処理手段と、
前記信号処理手段により生成された第1及び第2の標準データを加算した加算標準データが予め設定した正常範囲内である場合に前記イオン選択性電極が正常であると判定し、前記正常範囲から外れている場合に前記イオン選択性電極が異常であると判定する判定手段とを
備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記信号処理手段により生成された第1及び第2の標準データに基づいて、前記信号処理手段により生成された被検データから分析データを生成する分析データ生成手段を有し、
前記正常範囲は、予め異常であるイオン選択性電極を用いて生成された第1及び第2の標準データの加算標準データ並びにこの第1及び第2の標準データに基づき生成された判定用試料の分析データ、並びに正常であるイオン選択性電極を用いて生成された第1及び第2の標準データの加算標準データ並びにこの第1及び第2の標準データに基づき生成された前記判定用試料の分析データの回帰分析により作成された回帰式に、前記判定用試料の分析データの予め設定された許容範囲の値を代入し、この代入により求められた値の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記分析データ生成手段により生成された分析データを出力する出力手段を有し、
前記判定手段は、前記イオン選択性電極の異常情報を前記出力手段に出力するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−47638(P2009−47638A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215969(P2007−215969)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】