説明

自動分析装置

【課題】微量分注化に伴いディスペンサの分注精度を向上させ、無駄になる試薬量を低減させることができる自動分析装置を提供する。
【解決手段】自動分析装置において、試薬または試料の前処理時に添加される前処理液の吐出を行うためのノズル31と、試薬または前処理液を保持する試薬容器25と、試薬容器25とノズル31をつなぐ流路と、流路中に配置され、流路の内部の試薬または前処理液を流動させるポンプ機構24と、ポンプ機構24とノズル31の間に配置され、流路を開閉する可動弁28と、ポンプ機構24と試薬容器25の間に配置され、流路を開閉する可動弁26と、試薬または前処理液の前記試料への添加動作時に、可動弁26、可動弁28およびポンプ機構24を制御し、ポンプ機構24が、試料に試薬または前処理液を添加する以外の予備動作に伴う、試薬または前処理液の吐出方向の試薬流動を試薬容器25側に流す制御部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液、尿等の成分を定量あるいは定性分析する分注装置を備えた自動分析装置に関し、特に、分析のための試薬を分注する試薬分注装置における試薬の無駄を低減させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置の複数の試薬分注装置に関しては、従来方式を大別すると、ピペッティング方式とディスペンサ方式に分けられる。
【0003】
ピペッティング方式は、例えば、特開昭62−44663号公報(特許文献1)に記載されるようにプローブの先端を試薬につけ、水を作動流体としてプローブの先端から試薬を吸引し、次にプローブを試薬から離し、吐出したい場所に移動して吸引した試薬を押し出す形でプローブ先端より吐出する方式である。この方式では1本のプローブを使って、多種類の試薬を分注することが可能である。
【0004】
その反面、この方式では、プローブ内での水と試薬の拡散による試薬の薄まりを低減するため、余分に試薬を吸うことになり、分注毎の試薬の消費量が多くなる。ただし、余分に試薬を吸ったとしても、水による試薬の薄まりは20%程度発生する。また、試薬の分注精度を向上させるため、シリンジポンプのバックラッシュ除去のために余分に試薬を吸引する必要もある。
【0005】
一方、ディスペンサ方式は、例えば、特開昭60−225064号公報(特許文献2)、特公平1−26509号公報(特許文献3)、特開平4−160367号公報(特許文献4)に記載されているように、複数の試薬に対して、試薬の数量分のノズル、および試薬の数量分の試薬シリンジポンプを持っている。
【0006】
つまり、試薬毎に、専用のノズルおよび試薬シリンジ(または試薬容器)を用いる方式である。この方式では試薬間のコンタミネーションもなく、試薬の薄まりも発生しない。ただし、試薬毎に専用の試薬シリンジを持ち、シリンジ内に試薬を吸引しノズルから吐出する方式においては、シリンジポンプ内の試薬が無駄になる。
【0007】
また、試薬の分注精度を向上させるため、シリンジポンプのバックラッシュ除去、シリンジポンプの原点復帰動作などを導入すると、無駄になる試薬の量は多くなる。また、シリンジ内に試薬を吸引し流路内に試薬を保持する場合には溶存酸素の発泡を避けることはできず、試薬の分注精度を向上させるためには、一定時間経過した試薬を排出しなければならず、無駄になる試薬の量はさらに多くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−44663号公報
【特許文献2】特開昭60−225064号公報
【特許文献3】特公平1−26509号公報
【特許文献4】特開平4−160367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術においては、ピペッティング方式、ディスペンサ方式共に、正確な分注を行おうとすると無駄になる試薬が伴う。試薬には高価なものも少なくなく、ピペッティング方式ではバックラッシュの除去分の試薬を容器内に吐出して無駄になる試薬を少なくするなどの工夫をしているが、プローブ内での水と試薬の拡散による試薬の薄まりを低減するために必要となる余分な試薬は無くすことができない。
【0010】
ディスペンサ方式においても無駄となる試薬を最小限にするために流路の容積が小さくなるように流路径や流路長、およびユニットの配置を工夫するなどが行われるが、限度はある。
【0011】
特に分注量が微量になると、分注毎に消費する試薬量の中で無駄になる試薬の割合は必然的に大きくなるので、これを抑えることは重要である。
【0012】
そこで、本発明の目的は、微量分注化に伴いディスペンサの分注精度を向上させ、無駄になる試薬量を低減させることができる自動分析装置を提供することにある。
【0013】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0015】
すなわち、代表的なものの概要は、試薬または試料の前処理時に添加される前処理液の吐出を行うためのノズルと、試薬または前処理液を保持する試薬容器と、試薬容器とノズルをつなぐ流路と、流路中に配置され、流路の内部の試薬または前処理液を流動させる少なくとも1つのポンプ機構と、ポンプ機構とノズルの間に配置され、流路を開閉する少なくとも1つの第1の可動弁と、ポンプ機構と試薬容器の間に配置され、流路を開閉する少なくとも1つの第2の可動弁と、試薬または前処理液の前記試料への添加動作時に、第1の可動弁、第2の可動弁およびポンプ機構を制御し、ポンプ機構が、試料に試薬または前処理液を添加する以外の予備動作に伴う、試薬または前処理液の吐出方向の試薬流動を試薬容器側に流す制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下の通りである。
【0017】
すなわち、代表的なものによって得られる効果は、微量分注化に伴いディスペンサの分注精度を向上させ、無駄になる試薬量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試薬分注装置の構成を示す構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試薬分注装置の試薬の吐出動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
図1により、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の全体構成について説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の全体構成を示す構成図であり、試薬分注装置を搭載したものである。
【0021】
図1において、自動分析装置は、検体容器23などを搬送するためのラック22およびラック22を運ぶ搬送機構21、検体容器23内の検体を前処理するための前処理ディスク14、試薬ボトル9を収納する試薬ディスク8、試薬ボトル12を収納する試薬ディスク11、反応液を混合・反応させる反応ディスク1から構成されている。
【0022】
また、自動分析装置の各部は、制御部(図示せず)などの制御により、その動作が制御されている。
【0023】
検体は親検体サンプリング機構20で吸引され、前処理ディスク14にある前処理セル15へ吐出されると共に、ディスペンサ方式の試薬分注装置である前処理液分注機構17から前処理液が添加され、攪拌機構19で攪拌・混合される。
【0024】
ここでいう前処理液とは検体を希釈するために用いられる希釈液やヘモグロビンA1c測定時に全血検体の前処理で用いられる試薬等を指す(以下、試薬と呼ぶ)。また、前処理ディスク14で攪拌・混合後、分注処理などが終わった前処理セル15は洗浄機構16で洗浄される。
【0025】
前処理ディスク14で前処理された検体は、前処理検体サンプリング機構13により、反応ディスク1に配列された反応セル2に分注され、さらにこの前処理検体に試薬ディスク8および試薬ディスク11から試薬サンプリング機構7および試薬サンプリング機構10により試薬を分注し、添加する。
【0026】
その後、攪拌機構5、6で攪拌し、検体と試薬を反応させた後、分光光度計4で吸光度を測定する。そして、測定結果をコンピュータ(図示せず)などに取り込み、分析結果を表示する。また、吸光度を測定した反応セル2は洗浄機構3で洗浄される。
【0027】
次に、図2により、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試薬分注装置の構成について説明する。図2は本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試薬分注装置の構成を示す構成図である。
【0028】
図2において、試薬分注装置は、試薬の吐出を行うためのノズル31、試薬を保持する試薬容器25、試薬容器25とノズル31をつなぐ流路(試薬吸引流路27、試薬吐出流路29、試薬流路35)、流路の間に配置され、内部の試薬を流動させるポンプ機構24(例えば、プランジャをモータで上下させることで液体の流動を発生させるシリンジポンプ)、ポンプ機構24とノズル31の間の流路に配置され、流路を開閉する可動弁28(例えば、電磁弁)、ポンプ機構24と試薬容器25の間の試薬吸引流路27に配置され、流路を開閉する可動弁26(例えば、電磁弁)、ノズル31を前処理ディスク14の前処理セル15に移動させるための上下回転動作機構30、試薬の脱気処理を行う脱気装置34から構成されている。
【0029】
また、試薬分注装置の各部は、自動分析装置の制御部(図示せず)などの制御により、その動作が制御されている。
【0030】
次に、図3により、本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試薬分注装置の動作について説明する。図3は本発明の一実施の形態に係る自動分析装置の試薬分注装置の試薬の吐出動作を示す図である。なお、図2に示す試薬容器25の試薬はノズル31まで満たされているものとする。
【0031】
まず、時刻T0に可動弁26を開にし、続いて時刻T1→T2にポンプ機構24で試薬容器25より試薬を吸引する。時刻T3→T4において、ポンプ機構24を吐出方向に動作させ、試薬を試薬容器25の方向に流すことで、ポンプ機構24のバックラッシュを除去する。
【0032】
時刻T5において、可動弁26を閉にし、続いて時刻T6に可動弁28をノズル31方向に開とする。この後、T7→T8にノズル31を上下回転動作機構30を用いて、前処理ディスク14の前処理セル15にアクセスし、時刻T9→T10に試薬の吐出をポンプ機構24が行う。
【0033】
その後T11→T12にノズル31は前処理ディスク14の前処理セル15を離れ待機位置に戻り、時刻T13に可動弁28を閉とする。次に、時刻T14に可動弁26を開(または可動弁28を試薬流路35方向に開)とし、時刻T15→T16にポンプ機構24を用いて試薬を試薬容器25側に流し、ポンプ機構24を初期位置に戻す。
【0034】
ポンプ機構24の動作が終了した後、時刻T17に可動弁26を閉(または可動弁28を閉)とし、吐出の1サイクル終了となる。
【0035】
上記の動作が示す通り、ポンプ機構24のバックラッシュ除去と分注終了後の初期位置への移動を試薬容器25に試薬を流すことで実現し、ノズル31から試薬が実際に吐出されるのは前処理ディスク14の前処理セル15に試薬を分注する時のみであり、分注のサイクルにおいて無駄となる試薬はない。
【0036】
以上のように、本実施の形態では、ポンプ機構24が試薬を前処理ディスク14の前処理セル15に吐出する以外の予備動作に伴う吐出方向の試薬流動を試薬容器25側に流すことにより、一連の分注サイクルにおいてノズルから無駄に排出される試薬を試薬容器25に回収することが可能となる。
【0037】
また、ポンプ機構24のバックラッシュ除去の過程で生じる試薬の吐出方向の流動を、試薬容器25側に試薬を流すことにより、無駄に試薬を消費することなく、ポンプ機構24のバックラッシュに伴う試薬分注精度の悪化を改善することが可能となる。
【0038】
また、精密分注を行うポンプ機構24において、分注精度を保つためには、例えば、ポンプ機構24の駆動用のモータを初期位置に戻す動作を毎回行い、常に定位からポンプ機構24の駆動を行うことが有効であるが、ポンプ機構24を初期位置に戻す過程で生じる試薬の吐出方向の流動を、試薬容器25側に流すことにより、無駄に試薬を消費することなく、ポンプ機構24を定位置に戻し、精度の高い試薬分注を行うことが可能となる。
【0039】
また、試薬を直接流路内に充填するポンプ機構においては、流路内に試薬を充填する過程で気泡除去のために一定量の試薬を排出する必要があるが、試薬吸引流路27から吸引の試薬を試薬流路35を通して試薬容器25に流動させ、流路内に試薬を充填させることで無駄になる試薬を最小限にすることができる。
【0040】
また、試薬を直接流路内に充填するポンプ機構24においては、流路内の試薬を長時間使用しない場合には溶存酸素が発泡し、分注性能に悪影響を与えるため、定期的に流路内の試薬を新しい試薬に置き換える必要があるが、脱気装置34を介して試薬吸引流路27から吸引した試薬を試薬吸引流路27(または試薬流路35)を通して試薬容器25に流動させ、流路内の試薬を循環させることで、流路内で溶存酸素が発泡することを防ぐことが可能となる。
【0041】
このように、ポンプ機構24と、可動弁26、28を制御することにより、試薬の消費量は、実際に前処理ディスク14の前処理セル15に分注する試薬量と、ポンプ機構24と流路内に満たす試薬のみとなり、無駄になる試薬を最小限としながら、精度の高い分注機構を有する自動分析装置を実現することが可能となる。
【0042】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0043】
例えば、本実施の形態では、試薬分注装置を前処理ディスク14にある前処理セル15への前処理液の添加に用いているが、反応ディスク1にある反応セル2への試薬の添加などに用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は血液、尿等の成分を定量あるいは定性分析する分注装置を備えた自動分析装置に関し、ディスペンサ方式により試薬を分注する分注機構を備えた装置やシステムなどに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…反応ディスク、2…反応セル、3…洗浄機構、4…分光光度計、5、6…攪拌機構、7…試薬サンプリング機構、8…試薬ディスク、9…試薬ボトル、10…試薬サンプリング機構、11…試薬ディスク、12…試薬ボトル、13…前処理検体サンプリング機構、14…前処理ディスク、15…前処理セル、16…洗浄機構、17…前処理液分注機構、19…攪拌機構、20…親検体サンプリング機構、21…搬送機構、22…ラック、23…検体容器、24…ポンプ機構、25…試薬容器、26、28…可動弁、27…試薬吸引流路、29…試薬吐出流路、30…上下回転動作機構、31…ノズル、34…脱気装置、35…試薬流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬を反応容器内で反応させて前記反応容器内の化学反応を計測する自動分析装置であって、
前記試薬または前記試料の前処理時に添加される前処理液の吐出を行うためのノズルと、
前記試薬または前記前処理液を保持する試薬容器と、
前記試薬容器と前記ノズルをつなぐ流路と、
前記流路中に配置され、前記流路の内部の前記試薬または前記前処理液を流動させる少なくとも1つのポンプ機構と、
前記ポンプ機構と前記ノズルの間に配置され、前記流路を開閉する少なくとも1つの第1の可動弁と、
前記ポンプ機構と前記試薬容器の間に配置され、前記流路を開閉する少なくとも1つの第2の可動弁と、
前記試薬または前記前処理液の前記試料への添加動作時に、前記第1の可動弁、前記第2の可動弁および前記ポンプ機構を制御し、前記ポンプ機構が、前記試料に前記試薬または前記前処理液を添加する以外の予備動作に伴う、前記試薬または前記前処理液の吐出方向の試薬流動を前記試薬容器側に流す制御部とを備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記第1の可動弁に接続され、前記試薬容器に直接つながる試薬流路を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記第1の可動弁、前記第2の可動弁および前記ポンプ機構を制御し、前記ポンプ機構のバックラッシュ除去の過程で生じる前記試薬または前記前処理液の吐出方向の流動を、前記試薬容器側に流すことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記第1の可動弁、前記第2の可動弁および前記ポンプ機構を制御し、前記ポンプ機構を初期位置に戻す過程で生じる試薬の吐出方向の流動を、前記試薬容器側に流すことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記第1の可動弁、前記第2の可動弁および前記ポンプ機構を制御し、前記試薬容器から吸引した前記試薬または前記前処理液を、前記試薬流路に流動させ、前記流路内に前記試薬または前記前処理液を充填させることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記ポンプ機構と前記試薬容器の間に配置された脱気装置を備え、
前記制御部は、前記第1の可動弁、前記第2の可動弁および前記ポンプ機構を制御し、前記試薬容器から前記脱気装置を介して吸引した前記試薬または前記前処理液を、前記試薬流路に流動させ、前記流路内の前記試薬または前記前処理液を循環させることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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