説明

自動焦点・自動非点設定方法及び自動焦点・自動非点設定プログラム

【課題】本発明は焦点補正と非点補正を短時間で効率よく行なうことを目的としている。
【解決手段】試料を走査して電子検出器で電子顕微鏡像を取得する第1の工程と、取得された画像に対して所定の角度方向に対する画像積算値を角度毎に求める第2の工程と、得られた画像積算値の標準偏差を求める第3の工程と、対物レンズの励磁を所定量変更して焦点距離を変更する第4の工程と、画像を指定枚数取得したかどうかをチェックする第5の工程と、を有し、画像を指定枚数取得していない場合には第1のステップに戻り、画像を指定枚数取得した場合には、前記画像積算値の極大値を焦点条件に対してプロットする第6の工程と、前記第6の工程で得られた標準偏差のプロットから各角度に対する前記極大値を極座標とする楕円を求め、該楕円から焦点及び非点補正値を求める第7の工程と、を有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動焦点・自動非点設定方法及び自動焦点・自動非点設定プログラムに関し、更には効率よく自動焦点・自動非点設定を行なうことができる自動焦点・自動非点設定方法及び自動焦点・自動非点設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
TEM(透過電子顕微鏡)における自動焦点合わせの第1の方法としてビーム傾斜法がよく知られている。この方法は、収差を考慮しない近似の範囲内において、試料(物面)の一点を通過した電子線は、レンズにより像面の一点に収斂するというTEMの基本原理を利用している。この方法は、試料に入射する電子線を±K度傾斜させて、それぞれの条件でTEM像を取得し、像がシフトしていれば正焦点条件ではないと判断するものである。
【0003】
この像のシフト量と正焦点条件からのズレ量は概ね比例関係になっているため、二つのTEM像を畳み込み演算してズレ量を数値で算出して対物レンズの正焦点条件からのズレ量を見積もり、このズレ量が0になるようにTEMへフィードバックをかける。この方法は非点補正に対しても適用される。つまり、試料に入射する電子線を傾斜させる際に、その傾斜方向を変えることで正焦点条件からのズレの異方性を導くことができる。
【0004】
第2の方法として試料として非結晶性のアモルファス材料を選び、そのTEMパターンから正焦点条件からのズレ量を見積もる方法が知られている。これは、TEMのレンズ系の位相コントラスト伝達関数を利用するものである。上記伝達関数は、主に球面収差係数、加速電圧、対物レンズの正焦点条件からのズレ量で決まる。
【0005】
アモルファス材料のTEM像のFFTパターンは、位相コントラスト伝達関数と1対1で対応する。加速電圧と球面収差係数は設計仕様上既知のものであるとすれば、その形状から正焦点条件からのズレ量が決まる。また、上記FFTパターンの異方性は非点の方向及び量を反映しており、これを利用して非点補正がなされる。
【0006】
第3の方法は、SEM(走査電子顕微鏡)とSTEM(走査透過電子顕微鏡)において、対物レンズの励磁を微小量変えて画像を取得し、取得した画像からコントラストを数値化する作業を繰り返すものである。この繰り返しを上記コントラストが最大になるまで行なう。上記コントラストが最大になる条件を正焦点条件とし、SEM及びSTEMにフィードバックする。また、非点補正についても、非点補正コイルの励磁を変えて画像を取得し、コントラストが最大になる条件を探すものである。
【0007】
従来のこの種の装置としては、電子顕微鏡によって得られた画像の二次元強度分布をある一次元方向に沿って強度を積算し、該積算した関数に一次元フーリエ変換を施して、該変換後の関数を積算することによって得られる値が、焦点ずれ量の関数或いは非点収差量の関数として、該関数が形づくる曲線の極値またはほぼ対称となる位置を正焦点または非点収差量が最小となるとした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
また、対物レンズと非点収差補正コイルの励磁電流を変化させながら試料に電子線を照射して得られる試料拡大像を光学レンズ、撮像素子からなる撮像装置で撮影して、演算装置で画像鮮鋭度を計算し、得られた画像鮮鋭度から非点補正値と焦点補正値を求める技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平3−194839号公報(第2頁左下欄第19行〜第3頁右上欄第16行、図1)
【特許文献2】特開2005−108567号公報(段落0030〜0077、図3〜図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TEMにおける前記第1の方法は、対物絞りによる像のカットが起こる。TEMにおいては、通常像のコントラストを上げるために対物レンズ真下に絞りを入れる。この絞りは試料により散乱した電子線をカットするもので、絞りを小さくすればするほどコントラストが向上する。
【0010】
対物絞りは対物レンズの後焦点面に置かれるが、第1の方法によれば電子線の傾斜を行なうと後焦点面における電子線の軌道が動いてしまう。これにより、試料により散乱を受けなかった電子線が対物絞りによりカットされることがある。これは絞りを小さくするほど起こる。この電子線のカットがあるとTEM像を取得できないため、正焦点条件の判断ができなくなるという問題がある。
【0011】
第2の方法は、試料としてアモルファス試料を選ばなければならないという問題がある。
第3の方法の場合について検討する。SEM及びSTEMで一般に行われている方法は、正焦点を求めるために繰り返しによる画像の取得を行なった後に、再び非点補正を行なうために繰り返しによる画像の取得を行わねばならない。非点補正は通常x方向とy方向と2方向行なう必要があるので、正焦点を求める操作と合わせて合計3回の繰り返しを行なう必要があり、時間がかかるという問題があった。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、焦点補正と非点補正を短時間で効率よく行なうことができる自動焦点・自動非点設定方法及び自動焦点・自動非点設定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)請求項1記載の発明は、試料を走査して電子検出器で電子顕微鏡像を取得する第1の工程と、取得された画像に対して所定の角度方向に対する画像積算値を角度毎に求める第2の工程と、得られた画像積算値の標準偏差を求める第3の工程と、対物レンズの励磁を所定量変更して焦点距離を変更する第4の工程と、画像を指定枚数取得したかどうかをチェックする第5の工程と、を有し、画像を指定枚数取得していない場合には第1のステップに戻り、画像を指定枚数取得した場合には、前記画像積算値の極大値を焦点条件に対してプロットする第6の工程と、前記第6の工程で得られた標準偏差のプロットから各角度に対する前記極大値を極座標とする楕円を求め、該楕円から焦点及び非点補正値を求める第7の工程と、を有して構成されることを特徴とする。
(2)請求項2記載の発明は、前記第7の工程は、予め非点のズレ量に応じて楕円がどの方向にどれだけ変化するかを記憶させておき、楕円の長径と短径とを測定して非点隔差を求め、前記記憶されたデータとに基づいて非点補正値を求め、長径と短径の和の1/2を焦点補正値とすることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、試料を走査して電子検出器で電子顕微鏡像を取得する第1の工程と、取得された画像に対して所定の角度方向に対する画像積算値を角度毎に求める第2の工程と、得られた画像積算値の標準偏差を求める第3の工程と、対物レンズの励磁を所定量変更して焦点距離を変更する第4の工程と、画像を指定枚数取得したかどうかをチェックする第5の工程と、を有し、画像を指定枚数取得していない場合には第1のステップに戻り、画像を指定枚数取得した場合には、前記画像積算値の極大値を焦点条件に対してプロットする第6の工程と、前記第6の工程で得られた標準偏差のプロットから各角度に対する前記極大値を極座標とする楕円を求め、該楕円から焦点及び非点補正値を求める第7の工程と、をコンピュータで実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(1)請求項1記載の発明によれば、対物レンズの励磁を変えて試料の像を所定の枚数取得しておけば、この所定の枚数の画像を演算処理して焦点の補正値と非点の補正値を求めることができ、焦点補正と非点補正を短時間で効率よく行なうことができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、焦点補正値と非点補正値を極座標で表された楕円画像から求めることができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、対物レンズの励磁を変えて試料の像を所定の枚数取得しておけば、この所定の枚数の画像を演算処理して焦点の補正値と非点の補正値を求めることができ、焦点補正と非点補正を短時間で効率よく行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1はSTEM像の自動焦点・非点合わせのための構成例を示す図である。図において、10はSTEM(走査透過電子顕微鏡)である。該STEM10において、1は電子を放出する電子線源、EBは電子線源1から放出される電子線である。2は該電子線源1から放出される電子線EBを集束する照射光学系としての第1の電子光学系、3は試料3aを保持する試料保持台である。
【0016】
4は試料3aを透過した電子線を集束する結像光学系としての第2の電子光学系、5は第2の電子光学系4により集束された電子線の非点を補正するための多極子コイル系、6は透過電子線の結像面に配置され、電子線を電気信号に変えるための電子線検出器、7は電子線検出器6の出力を取り込んで、ディスプレイ7aにその透過像を表示するコンピュータ、7bは該コンピュータ7内に格納されている本発明を実行するためのプログラムである。コンピュータ7は、前記第2の電子光学系4と多極子コイル5を制御するようになっている。第2の電子光学系4は、対物レンズを含んでいる。ここで、電子線検出器6としては、例えばテレビカメラが用いられる。このように構成された装置を用いて本発明の動作を説明する。
【0017】
図2はSTEM像の自動焦点・非点合わせのフローチャートである。先ず、電子線検出器6で検出した信号からコンピュータ7はSTEM像を取得する(S1)。そして、コンピュータ7は、取得した画像に対してノイズ除去処理と、エッジ強調処理を行なう。ノイズ除去処理としては、例えばメディアンフィルタを用いる。エッジ強調処理としては、例えば微分フィルタやラプラシアンフィルタが用いられる。
【0018】
次に、ノイズ除去とエッジ強調を行なった画像をコンピュータ7内のメモリ(図示せず)に記憶する。次に、メモリに記憶された画像を読み出して図3に示す方向にそれぞれ画像情報を積算し、1次元情報を取得する(S2)。図3は画像情報の積算方向の説明図である。丸1から丸4までの4方向を示している。丸1は画像のX、Y方向に対して角度0度の場合の積算方向を、丸2は画像のX、Y方向に対して角度45度の場合の積算方向を、丸3は画像のX、Y方向に対して角度90度の場合の積算方向を、丸4は画像のX、Y方向に対して角度135度の場合の積算方向を示している。Aは画像の積算状態(プロジェクション)を示している。図中の●はTEMに対応したものであることを示している。
【0019】
ステップS2では、上記した各方向毎に画像のプロジェクション(積算画像)を得る。次に、コンピュータ7は得られたプロジェクションに対して標準偏差を算出する(S3)。各方向に対して標準偏差が得られたら、コンピュータ7は第2の電子光学系4に制御信号を送り、対物レンズに流す電流値を変更する。このことは、画像の焦点距離を変更することに対応している(S4)。この励磁電流の変更ステップは、焦点の変化量Δfに対応している。
【0020】
次に、コンピュータ7は画像を指定枚数(例えば10枚)取得したかどうかチェックする(S5)。指定枚数取得していない場合には、ステップS1に戻りSTEM画像の取得→画像のプロジェクション取得→標準偏差算出→焦点距離変更のシーケンスを繰り返す。この結果、コンピュータ7のメモリには、焦点距離の変更量Δfに対する標準偏差が角度毎に記憶されていくことになる。
【0021】
ステップS5において、画像を指定枚数取得したら、コンピュータ7はプロジェクションの極大値を焦点条件に対してプロットする(S6)。図4はこのようにして求めた、それぞれのプロジェクションに対する標準偏差−焦点条件プロットを各角度毎に求めた場合の説明図である。縦軸は標準偏差σn、横軸は第2の光学系の焦点条件(焦点距離の変化量)Δfを示している。つまり、横軸は焦点をある値からステップΔfずつ変えて標準偏差σnを得たものである。ここでは、画像を10枚取得した場合を示している。図4は、角度0度,45度,90度,135度の場合における標準偏差を示している。この標準偏差画像はディスプレイ7a上に表示される。
【0022】
図4に示すように、焦点条件に対して標準偏差が求まったら、各角度の場合における標準偏差の最大値を振幅と角度に応じた極座標を求めると、その求めた図形は図5に示すように楕円になる。図5は標準偏差−焦点条件プロットのピーク位置を各々のプロジェクションの方向に対して極座標にてプロットした図を示す。図中、●がプロット値である。非点の存在する方向及び大きさに依存して極大値は変わるので、このピーク位置を極座標表示すると図5に示すような楕円となる。この楕円は、ディスプレイ7a上に表示される。なお、非点が存在しない場合には、楕円ではなく真円になる。
【0023】
このようにして求めた楕円から焦点及び非点補正値を求めて設定する(S7)。以下、その算出法について説明する。この場合、予め非点のズレ量に応じて楕円がどの方向にどれだけ変化するかをメモリ記憶させておく。次に、楕円の長径と短径とを測定して非点隔差を求めて、前記記憶されたデータとに基づいて非点補正値を求める。
【0024】
ここで、楕円の長径の長さaと短径の長さbの差(a−b)は非点隔差に相当する。コンピュータ7は、この非点隔差の中心に相当する条件に第2の光学系4を設定する。これで非点の補正ができることになる。焦点の補正は、以下のようにして求める。図5における原点からの最も長い距離(長径)をLmax、最も短い距離(短径)をLminとすると、最適な焦点は、
(Lmax+Lmin)/2
に対応する値として求まる。具体的には非点補正は、前記取得した補正データに基づいてコンピュータ7から多極子コイル系5に補正信号を印加することで行ない、焦点補正はコンピュータ7から第2の電子光学系4の対物レンズの励磁を補正することで行なう。
【0025】
このように、本発明によれば対物レンズの励磁を変えて試料の像を所定の枚数取得しておけば、この所定の枚数の画像を演算処理して焦点の補正値と非点の補正値を求めることができ、焦点補正と非点補正を短時間で効率よく行なうことができる。
【0026】
また、本発明によれば焦点補正値と非点補正値を極座標で表された楕円画像から求めることができる。
本発明によれば、前述した一連の工程をコンピュータ7のプログラム7bで実行させることができる。
【0027】
本発明によれば、前述した従来の方法の第1の方法から第3の方法の問題点を全て解決する自動焦点・自動非点設定方法を提供することができる。即ち、本発明によれば、第1の方法のように電子線を傾斜させる必要がないから電子線情報が失われることがなく、また第2の方法のようにアモルファス試料を用いる必要がなく、また第3の方法のように複数回のデータ取得工程を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】STEM像の自動焦点・非点合わせのための構成例を示す図である。
【図2】STEM像の自動焦点・非点合わせのフローチャートである。
【図3】画像情報の積算方向の説明図である。
【図4】各々のプロジェクションに対する標準偏差−焦点条件プロットの説明図である。
【図5】標準偏差−焦点条件プロットのピーク位置を各々のプロジェクションの方向に対して極座標にてプロットした図である。
【符号の説明】
【0029】
1 電子線源
2 第1の電子光学系
3 試料保持台
3a 試料
4 第2の電子光学系
5 非点を補正するための多極子コイル径
6 電子線検出器
7 コンピュータ
7a ディスプレイ
7b プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を走査して電子検出器で電子顕微鏡像を取得する第1の工程と、
取得された画像に対して所定の角度方向に対する画像積算値を角度毎に求める第2の工程と、
得られた画像積算値の標準偏差を求める第3の工程と、
対物レンズの励磁を所定量変更して焦点距離を変更する第4の工程と、
画像を指定枚数取得したかどうかをチェックする第5の工程と、
を有し、画像を指定枚数取得していない場合には第1のステップに戻り、画像を指定枚数取得した場合には、前記画像積算値の極大値を焦点条件に対してプロットする第6の工程と、
前記第6の工程で得られた標準偏差のプロットから各角度に対する前記極大値を極座標とする楕円を求め、該楕円から焦点及び非点補正値を求める第7の工程と、
を有して構成されることを特徴とする自動焦点・自動非点設定方法。
【請求項2】
前記第7の工程は、予め非点のズレ量に応じて楕円がどの方向にどれだけ変化するかを記憶させておき、楕円の長径と短径とを測定して非点隔差を求め、前記記憶されたデータとに基づいて非点補正値を求め、長径と短径の和の1/2を焦点補正値とすることを特徴とする請求項1記載の自動焦点・自動非点補正方法。
【請求項3】
試料を走査して電子検出器で電子顕微鏡像を取得する第1の工程と、
取得された画像に対して所定の角度方向に対する画像積算値を角度毎に求める第2の工程と、
得られた画像積算値の標準偏差を求める第3の工程と、
対物レンズの励磁を所定量変更して焦点距離を変更する第4の工程と、
画像を指定枚数取得したかどうかをチェックする第5の工程と、
を有し、画像を指定枚数取得していない場合には第1のステップに戻り、画像を指定枚数取得した場合には、前記画像積算値の極大値を焦点条件に対してプロットする第6の工程と、
前記第6の工程で得られた標準偏差のプロットから各角度に対する前記極大値を極座標とする楕円を求め、該楕円から焦点及び非点補正値を求める第7の工程と、
をコンピュータで実行することを特徴とする自動焦点・自動非点補正プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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