説明

自動調心ころ軸受

【課題】差動滑りによる二山摩耗の発生を抑制することができる自動調心ころ軸受を提供する。
【解決手段】自動調心ころ軸受1は、内周に凹曲面からなる外軌道面21を有している外輪2と、内周面31の軸心X1回りに回転可能であり且つ外周に凹曲面からなる第1及び第2の内軌道面32,33を二列有している内輪3とを備えている。外軌道面21と第1及び第2の内軌道面32,33との間には、複数の凸面ころ4が転動自在に二列配置されている。前記第1及び第2の内軌道面32,33のそれぞれが、内輪内周面31の軸心X1に対してそれぞれ傾斜した軸心X2,X3回りに形成されており、前記軸心X2及び軸心X3は、内輪3の軸方向の中心線Yを挟んで線対称に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動調心ころ軸受として知られているものに、内周に凹曲面からなる外軌道面を有する外輪と、外周に凹曲面からなる内軌道面を二列有する内輪と、外軌道面と2列の内軌道面との間に設けられた二列の凸面ころとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
このような自動調心ころ軸受には、図3に示すように、外輪102及び内輪103と凸面ころ104との間で発生するエッジロードを低減するために、外軌道面102aの曲率半径及び内軌道面103aの曲率半径を凸面ころ104の曲率半径よりも大きく形成したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53−134143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記自動調心ころ軸受は、外軌道面102a及び内軌道面103aの曲率半径と凸面ころ104の曲率半径とが異なるため、凸面ころ104と各軌道面102a,103aとの周速差によって差動滑りが発生する。この差動滑りは、各軌道面102a,103aに十分な潤滑油膜が形成されていれば大きな問題が生じることはない。しかし、例えば連続鋳造機において高荷重かつ超低速回転で使用される自動調心ころ軸受の場合には、各軌道面102a,103aに十分な潤滑油膜が形成されにくいため、図4(a)の状態から図4(b)に示すように、固定側となる外軌道面102aにおいて差動滑りによる二山摩耗が生じやすくなる。
【0005】
前記二山摩耗は、外軌道面102aにおける差動滑り領域において、摩耗しやすい滑り領域と、摩耗しにくい転がり領域とが発生し、この両領域の摩耗差によって、外軌道面102aに2つの山部分102bが形成されるものである。このように二山摩耗が生じた場合、外軌道面102aの山部分に応力が集中することによって、図4(c)に示すように、当該山部分で剥離等が発生し、軸受の耐久性が低下するという問題がある。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、差動滑りによる二山摩耗の発生を抑制することができる自動調心ころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の自動調心ころ軸受は、内周に凹曲面からなる外軌道面を有している外輪と、外周に凹曲面からなる二列の内軌道面を有し、内周面の軸心回りに回転可能な内輪と、前記外軌道面と前記二列の内軌道面との間に転動自在に二列配置され、且つ各列毎に周方向に複数設けられた凸面ころと、を備え、前記二列の内軌道面のそれぞれが、前記内輪内周面の軸心に対して傾斜した軸心回りに形成され、一方の前記内軌道面の軸心と、他方の前記内軌道面の軸心とが、前記内輪の軸方向の中心線を挟んで線対称に配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、各内軌道面が内輪内周面の軸心に対して傾斜した軸心回りに形成されているので、内輪が内輪内周面の軸線回りに1回転する間に、内軌道面が凸面ころとの接触点を中心として振れる角振れが発生する。この角振れにより、外軌道面に対する凸面ころの接触角が変動するため、外軌道面における差動滑り領域が軸方向にずれる。これにより、差動すべり領域において摩耗差が異なる滑り領域及び転がり領域を、軸方向に分散させることができるため、外軌道面において差動滑りによる二山摩耗が発生するのを効果的に抑制することができる。その結果、外軌道面に剥離等が発生するのを抑えることができるため、軸受の耐久性が低下するのを抑制することができる。
また、二列の内軌道面のうち一方の内軌道面の軸心と、他方の内軌道面の軸心とが、内輪の軸方向の中心線を挟んで線対称に配置されているため、二列の内軌道面のそれぞれの軸方向への移動に伴って発生する軸方向の力が互いに打ち消すように作用することにより、軸方向に不要な負荷が作用するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の自動調心ころ軸受によれば、外軌道面において差動滑りによる二山摩耗が発生するのを効果的に抑制することができるため、外軌道面に剥離等が発生するのを抑えることができ、軸受の耐久性が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受を示す断面図である。
【図2】凸面ころの接触角の変位を示す断面図である。
【図3】従来の自動調心ころ軸受を示す断面図である。
【図4】従来の自動調心ころ軸受に発生する二山摩耗を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の自動調心ころ軸受の実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受を示す断面図である。この自動調心ころ軸受1は、例えば連続鋳造機に用いられるものであり、互いに同心に組み合わされた外輪2と内輪3と、これら外輪2と内輪3との間に二列配設された凸面ころ4とを備えている。
【0011】
外輪2は、その軸方向の中心線Yを挟んで線対称に形成されており、その内周には、単一の外軌道面21が形成されている。この外軌道面21は、凹曲面からなり、外輪2の軸方向の中心点から所定の曲率半径を有する球面(球面の一部)に沿った形状である。外軌道面21の曲率半径は、凸面ころ4の外周面41の曲率半径よりも大きく形成されている。
【0012】
内輪3は、その軸方向の中心線Yに対して線対称に形成されており、その内周面31の軸心X1回りに回転可能に配置されている。内輪3の外周には凹曲面からなる第1の内軌道面32及び第2の内軌道面33が二列形成されている。この第1及び第2の内軌道面32,33の詳細構造については後述する。また、内輪3の外周には、第1及び第2の内軌道面32,33の間に前記軸心X1に平行な円筒面34が形成されている。
【0013】
凸面ころ4は、樽形であり、凸面からなる外周面41を有しており、外輪2の外軌道面21と内輪3の第1及び第2の内軌道面32,33との間に転動自在に配設されている。凸面ころ4は、外軌道面21と第1及び第2の内軌道面32,33との間に二列で配置されており、各列毎で周方向に複数設けられている。各列の凸面ころ4は、環状の保持器5によって、それぞれ周方向に沿って所定間隔で保持されている。
【0014】
保持器5は、軸方向に離間して配置された第1の円環部51及び第2の円環部52と、この両円環部51,52の周方向に沿って等間隔おきに配置されて両円環部51,52を連結する複数の柱部53とを備えている。両円環部51,52と隣接する柱部53との間に形成された空間に各凸面ころ4を配置し、凸面ころ4を円周方向に沿って所定間隔に保持している。
【0015】
内輪3の第1及び第2の内軌道面32,33の曲率半径は、外輪2の外軌道面21の曲率半径とそれぞれ同一に形成されており、凸面ころ4の外周面41の曲率半径よりも大きく形成されている。第1及び第2の内軌道面32,33は、それぞれ内輪3の内周面31の軸心X1に対して傾斜した軸心回りに形成されている。
【0016】
より具体的には、第1の内軌道面32は、内輪3の内周面31の軸心X1に対して傾斜した軸心X2回りに形成されている。前記軸心X1に対する前記軸心X2の傾斜角度θ1は、例えば1〜5度の範囲内で設定されている。
【0017】
第2の内軌道面33は、内輪3の内周面31の軸心X1に対して、前記軸心X2と反対方向に傾斜した軸心X3回りに形成されている。前記軸心X1に対する前記軸心X3の傾斜角度θ2は、前記傾斜角度θ1と同一角度に設定されている。また、第1の内軌道面32の軸心X2と、第2の内軌道面33の軸心X3とは、内輪3の軸方向の中心線Yを挟んで線対称に配置されている。すなわち、第1の内軌道面32及び第2の内軌道面33は、前記中心線Yを挟んで線対称に形成されている。
【0018】
以上の構成により、内輪3が軸線X1回りに回転すると、第1及び第2の内軌道面32,33は、その軸線X2,X3が軸線X1に対して傾斜しているため、第1及び第2の内軌道面32,33が、凸面ころ4との接触点を中心として図2に示す実線と二点鎖線との間で揺動する角振れが発生する。この角振れにより、凸面ころ4の軸線X1に対する接触角αが、所定角度βの範囲内で変動するため、外軌道面21と凸面ころ4との接触部が軸方向にずれる。したがって、内輪3が軸線X1回りに1回転する間に、外軌道面21における凸面ころ4との接触部が軸方向にずれるようになっている。
【0019】
これにより、差動すべり領域において摩耗差が異なる滑り領域及び転がり領域を軸方向に分散させることができるため、外軌道面21において差動滑りによる二山摩耗の発生を効果的に抑制することができる。
しかも、第1の内軌道面32の軸心X2と、第2の内軌道面33の軸心X3とが、内輪3の軸方向の中心線Yを挟んで線対称に配置されているため、第1及び第2の内軌道面32,33のそれぞれの軸方向への移動に伴って発生する軸方向の力が互いに打ち消すように作用することにより、軸方向に不要な負荷が作用するのを抑制することができる。
【0020】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、本発明の自動調心ころ軸受1は、連続鋳造機に用いられる場合について説明したが、高荷重かつ超低速回転下で用いられるものであれば、他の機器用の軸受として適用することもできる。
【0021】
また、本発明の内輪3の外周の軸方向両端部には、第1及び第2の内軌道面32,33が延びて形成されているが、径方向外側に突出する鍔部を設け、凸面ころ4の軸方向外側への移動を規制するようにしてもよい。
さらに、内輪3の外周の円筒面34の径方向外側には、二列の凸面ころ4の間に当該凸面ころ4の軸方向内側への移動を規制する環状の案内輪が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1:自動調心ころ軸受、2:外輪、3:内輪、4:凸面ころ、21:外軌道面、31:内周面、32:第1の内軌道面、33:第2の内軌道面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に凹曲面からなる外軌道面を有している外輪と、
外周に凹曲面からなる二列の内軌道面を有し、内周面の軸心回りに回転可能な内輪と、
前記外軌道面と前記二列の内軌道面との間に転動自在に二列配置され、且つ各列毎に周方向に複数設けられた凸面ころと、を備え、
前記二列の内軌道面のそれぞれが、前記内輪内周面の軸心に対して傾斜した軸心回りに形成され、
一方の前記内軌道面の軸心と、他方の前記内軌道面の軸心とが、前記内輪の軸方向の中心線を挟んで線対称に配置されていることを特徴とする自動調心ころ軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate