説明

自動車に用いられる、駆動ジョイントを備えた駆動軸

【課題】駆動ジョイントがその機械的な特性に基づき比較的高いトルクを伝達することができ、許容できないほど高いトルクの場合には、駆動ジョイントが確かに破壊されるものの、しかし、この場合、ジョイント内側部材とジョイント外側部材とを解離なしに保持するように、この許容できないほど高いトルクが駆動ジョイントによって吸収されるようにする。
【解決手段】ジョイント外側部材12が、予め規定されたトルク閾値を上回った場合に当該駆動軸の目標破断箇所として破断するように形成されているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に用いられる、駆動ジョイントを備えた駆動軸であって、駆動ジョイントが、ジョイント内側部材とジョイント外側部材とを有しており、両ジョイント部材が、軸方向で内外に差し嵌められていて、トラックに案内された転動体を相互間に収容している形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
このような駆動軸は自体公知であり、駆動トルクを原動機・変速機コンビネーションから車両ホイールに伝達するために使用される。この場合、この駆動軸は、原動機・変速機コンビネーションのフロント横置きを伴う車両に用いられる、いわゆる「サイドシャフト」または長手方向駆動軸もしくはカルダンシャフトとして形成されていてよい。長手方向駆動軸では、駆動ジョイントが摺動型等速ジョイントとして形成されていてよく、軸方向で2つの軸区分の間に位置していてよい。両軸区分はその自由端部において、一方の端部で変速機に結合されていて、他方の端部で車両のリヤアクスルの領域におけるディファレンシャルギヤに結合されている。車両に用いられる、サイドシャフトとして形成された駆動軸では、このようなサイドシャフトの車両ホイール側の端部に、通常、回転型等速ジョイントまたはトリポードジョイントが配置されている。このジョイントはその出力エレメントで、対応配置されたホイールハブに駆動結合されている。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10154254号明細書には、たとえば、このようなサイドシャフトが示されている。このサイドシャフトは、これに配置された、回転型等速ジョイントとして形成された駆動ジョイントを備えている。この駆動ジョイントは、主として、ジョイント内側部材とジョイント外側部材とを有している。この場合、ジョイント内側部材は軸方向でジョイント外側部材内に収容されている。ジョイント内側部材とジョイント外側部材とは、互いに向かい合ったトラックを有している。このトラック内には、トルクをジョイント内側部材からジョイント外側部材に伝達するためのボールが配置されている。
【0004】
この公知の回転型等速ジョイントにおけるジョイント外側部材の肉厚は、本発明に相俟って特に重要である。ドイツ連邦共和国特許出願公開第10154254号明細書に横断面図で明確に示してあるように、ジョイント外側部材は、ジョイント内側部材もしくはボールのための収容領域に、それぞれ異なる肉厚を有している。この場合、ボールのためのトラックは、最も薄い領域を特徴付けている。
【0005】
一方では、ジョイント外側部材に、ボールのための所望のトラックが加工されており、他方では、ジョイント外側部材が、ほぼ円筒状のまたは釣鐘状の外側ジオメトリを有しているので、この公知の肉厚経過が付与されている。
【0006】
この公知のジョイント外側部材では、このジョイント外側部材が比較的中実にひいては重く形成されていることが欠点である。したがって、このような駆動ジョイントを装備した駆動軸は、許容できないほど高いトルクの場合に、駆動ジョイントと異なる全ての箇所において駆動ジョイントよりも早期に構成部材故障する傾向にある。駆動軸のこの構成部材故障が軸管の領域、溶接シームまたは駆動軸の別の接続エレメントに生ぜしめられる限り、これによって、駆動軸が崩壊する。この崩壊は絶対に回避しなければならない。なぜならば、駆動軸の、駆動側でかつ/または被駆動側で駆動される構成部材が、十分な数の支承点なしにコントロールされずに車両フロアの下方で回転し、そこに損害を生ぜしめ得るからである。
【0007】
さらに、金属薄板変形加工過程によって製作されていて、至る所でほぼ等しい肉厚を有する、駆動軸に用いられるジョイント外側部材も知られている。このジョイント外側部材では、このジョイント外側部材がしばしば比較的僅かなトルクしか伝達することができないことが欠点である。過度に高いトルクの場合には、この金属薄板製ジョイント外側部材が引き裂かれ、さらに、これによって、ボールとジョイント内側部材とが解離されるので、このような構造によっても前述した安全性問題が生ぜしめられる。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10154254号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この背景を前にして、本発明の課題は、駆動ジョイントを備えた駆動軸を改良して、駆動ジョイントがその機械的な特性に基づき比較的高いトルクを伝達することができ、許容できないほど高いトルクの場合には、駆動ジョイントが確かに破壊されるものの、しかし、この場合、ジョイント内側部材とジョイント外側部材とを解離なしに保持するように、この許容できないほど高いトルクが駆動ジョイントによって吸収されるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために本発明の構成では、ジョイント外側部材が、予め規定されたトルク閾値を上回った場合に当該駆動軸の目標破断箇所として破断するように形成されているようにした。本発明の有利な構成は、従属請求項から知ることができる。
【発明の効果】
【0010】
ジョイント外側部材が、破断時にその幾何学的な形状を十分に維持するように形成されていると有利である。しかし、いずれにせよ、ジョイント内側部材の解離はジョイント外側部材によって阻止される。
【0011】
特別な構成によれば、ジョイント外側部材が、該ジョイント外側部材の肉厚の特別な構成によって当該駆動軸の目標破断箇所として作用するようになっていることが提案されている。
【0012】
例示的な構成によれば、駆動ジョイントのジョイント内側部材のための収容領域におけるジョイント外側部材の肉厚が、至る所でほぼ等しい。
【0013】
別の変化形は、転動体のためのトラックの領域におけるジョイント外側部材の肉厚D1,D4が、トラックの間に位置する領域における肉厚よりも僅かであることを提案している。
【0014】
本発明の別の改良形によれば、転動体のためのトラックの領域におけるジョイント外側部材の肉厚D1,D4が、トラックの間に位置する領域における肉厚D2,D3よりも大きいことが提案されている。
【0015】
これらの変化形の1つにより成形されたジョイント外側部材は、たとえば、駆動ジョイントのジョイント外側部材が、その外周面において、転動体のための内側のトラックの間に位置する領域に、半径方向内側に向けられた窪みを有していることによって提供される。
【0016】
ジョイント外側部材から、このジョイント外側部材に駆動技術的に結合された別のパワートレーン部材への可能な限り良好な力伝達を実現することができるようにするために、ジョイント外側部材の軸接続領域が、ジョイント内側部材のための収容領域と異なる肉厚、有利には収容領域よりも大きな肉厚を有していることが提案されていてよい。
【0017】
ジョイント外側部材は、ジョイント内側部材と、ジョイント外側部材と、内部に配置された転動体とを備えた冒頭で述べた形式の駆動ジョイントのあらゆる構造に対して、本発明により形成されていてよい。したがって、駆動ジョイントが、たとえば摺動型等速ジョイントまたはトリポードジョイントとして形成されていてよい。さらに、当該駆動軸が、長手方向駆動軸またはサイド駆動軸として形成されていてよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面につき詳しく説明する。
【0019】
図1には、カルダンシャフト1が示してある。このカルダンシャフト1は2つの部分軸を有していて、たとえば車両原動機と変速機とのフロント横置きを伴う自動車に使用される。第1の軸2は第2の軸3に、本発明により形成された摺動型等速ジョイント9を介して駆動有効に結合されている。この摺動型等速ジョイント9の領域には、中間軸受けを収容するための軸受けベッド10が配置されている。この軸受けベッド10によって、カルダンシャフト1はその中間の区分で車両アンダフロアに支承可能である。
【0020】
両軸2,3はその自由端部で自体公知のジョイントディスク7,8に結合されている。矢印11は自動車の前進走行方向を示しており、これによって、ジョイントディスク8が車両変速機の出力軸に結合可能となり、ジョイントディスク7がディファレンシャルギヤの入力部に結合可能となる。
【0021】
第2の軸3は2つの部分から形成されていて、第1の軸区分4と第2の軸区分5とを有している。両軸区分4,5は、十分に高い軸方向力がこの両軸区分4,5に作用する場合に、摺動区分6の領域で同軸的に内外で摺動可能である。所望の軸方向摺動可能性を実現することができるようにするためには、第2の軸3の、互いに向かい合った軸区分4,5が、たとえば軸方向歯列を備えている。さらに、この軸方向歯列は、トルクの伝達を可能にし、適切な摺動運動を助成し、この軸方向歯列によって運動エネルギが半径方向の変形動作もしくは熱エネルギに変換可能となるように形成されている。
【0022】
図2には、斜視図で摺動型等速ジョイント9のジョイント外側部材12が示してある。このジョイント外側部材12は、ジョイント内側部材と転動体(図示せず)とを軸方向で収容するための収容区分18と、軸接続領域13とを有している。この軸接続領域13では、ジョイント外側部材12が駆動軸1の管状の軸区分4に、たとえば溶接シームによって結合可能である。
【0023】
図2から明らかであるように、ジョイント外側部材12は、公知先行技術によるジョイント外側部材と異なり、外周面に窪み15を有している。この窪み15は、有利には、ジョイント外側部材12の、周方向で見て転動体のための内側の各トラック16,17の間に位置する領域に形成されている。
【0024】
図3から、この構成上の構造が、図2に示したジョイント外側部材12の周方向区分の横断面図につき明らかである。ここに明確に認めることができるように、横断面14における肉厚D1,D2,D3,D4はジョイント外側部材の全周方向区分にわたってほぼ等しく形成されている。このことを転動体のためのトラック16,17の間でも達成することができるようにするために、ジョイント外側部材12の外側ジオメトリが、すでに前述した窪み15を有している。
【0025】
このように成形されたジョイント外側部材12は、この構成部材が駆動ジョイント9もしくは駆動軸1の目標破断箇所として作用するように、許容できないほど高いトルクを吸収することができる。この場合、確かにジョイント外側部材12は破断する。しかし、この場合、このジョイント外側部材12はその幾何学的な形状を十分に維持しており、これによって、駆動ジョイント9もしくは駆動軸1も崩壊しない。この構成部材特性は、ジョイント外側部材12の肉厚が等しい場合に、このジョイント外側部材12における応力分配が、それぞれ異なる肉厚を備えた公知のジョイント外側部材よりも均質であることに起因している。さらに、ジョイント外側部材12の材料における延性の領域が、より良好にジョイント外側部材12の全周にわたって分配されている。これによって、破壊する荷重限界を下回る荷重ピークの弾性的な吸収が行われる。
【0026】
最後に念のために付言しておくと、本発明により形成された駆動ジョイントもしくはジョイント外側部材は、要求に即して製作された肉厚のため、匹敵し得るトルク伝達能のまま、有利には公知先行技術による駆動ジョイントもしくはジョイント外側部材よりも著しく軽量である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による駆動ジョイントを備えた伸縮可能なカルダンシャフトの斜視図である。
【図2】図1に示した駆動ジョイントの外側部材を示す図である。
【図3】図2に示した外側部材の横断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 カルダンシャフト、 2 軸、 3 軸、 4 軸区分、 5 軸区分、 6 摺動区分、 7 ジョイントディスク、 8 ジョイントディスク、 9 摺動型等速ジョイント、 10 軸受けベッド、 11 前進走行方向、 12 ジョイント外側部材、 13 軸接続領域、 14 横断面、 15 窪み、 16 トラック、 17 トラック、 18 収容区分、 D1,D2,D3,D4 肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に用いられる、駆動ジョイント(9)を備えた駆動軸(1)であって、駆動ジョイント(9)が、ジョイント内側部材とジョイント外側部材(12)とを有しており、両ジョイント部材が、軸方向で内外に差し嵌められていて、トラック(16,17)に案内された転動体を相互間に収容している形式のものにおいて、
ジョイント外側部材(12)が、予め規定されたトルク閾値を上回った場合に当該駆動軸(1)の目標破断箇所として破断するように形成されていることを特徴とする、自動車に用いられる、駆動ジョイントを備えた駆動軸。
【請求項2】
ジョイント外側部材(12)が、その幾何学的な形状を十分に維持するように破断するようになっている、請求項1記載の駆動軸。
【請求項3】
ジョイント外側部材(12)が、該ジョイント外側部材(12)の肉厚(D1,D2,D3,D4)の構成によって目標破断箇所として作用するようになっている、請求項1または2記載の駆動軸。
【請求項4】
駆動ジョイント(9)のジョイント内側部材のための収容領域(18)におけるジョイント外側部材(12)の肉厚(D1,D2,D3,D4)が、至る所でほぼ等しい、請求項3記載の駆動軸。
【請求項5】
トラック(16,17)の領域におけるジョイント外側部材(12)の肉厚(D1,D4)が、トラック(16,17)の間に位置する領域における肉厚(D2,D3)よりも僅かである、請求項3記載の駆動軸。
【請求項6】
トラック(16,17)の領域におけるジョイント外側部材(12)の肉厚(D1,D4)が、トラック(16,17)の間に位置する領域における肉厚(D2,D3)よりも大きい、請求項3記載の駆動軸。
【請求項7】
駆動ジョイント(9)のジョイント外側部材(12)が、その外周面において、転動体のための内側のトラック(16,17)の間に位置する領域に、半径方向内側に向けられた窪み(15)を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の駆動軸。
【請求項8】
ジョイント外側部材(12)の軸接続領域(13)が、ジョイント内側部材のための収容領域(18)と異なる肉厚を有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の駆動軸。
【請求項9】
駆動ジョイントが、摺動型等速ジョイントまたはトリポードジョイントとして形成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の駆動軸。
【請求項10】
当該駆動軸が、長手方向駆動軸(1)またはサイド駆動軸として形成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の駆動軸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−40531(P2007−40531A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202841(P2006−202841)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(505110583)ヒルシュフォーゲル ウムフォルムテヒニーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【出願人】(506256183)イーエフアー−マシーネンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】IFA−Maschinenbau GmbH
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 6, D−39340 Haldensleben, Germany