説明

自動車のフロントバンパ

【課題】本発明は、自動車の前方衝突時にフロントバンパの後方部材の損傷を抑制できるようにするとともに、フロントバンパに対して歩行者が衝突したときにフード跳ね上げ装置を確実に動作させられるようにすることを目的とする。
【解決手段】本発明に係る自動車のフロントバンパ20は、フード跳ね上げ装置のセンサ部33がバンパリインフォース22の前面22fに取付けられているフロントバンパ20であって、バンパリインフォース22には脆弱部24が設けられており、脆弱部24は、センサ部33を動作させるのに必要な前方からの衝突荷重に対しては折れ曲がらない程度の強度を有しており、また、前方からの衝突荷重でバンパリインフォース22が後方移動し、そのバンパリインフォース22が後方部材18に衝突したときの衝突反力を受けて折れ曲がるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードを跳ね上げ可能に構成されたフード跳ね上げ装置のセンサ部がバンパリインフォースの前面に取付けられている自動車のフロントバンパに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車の一般的なフロントバンパに関する技術が、例えば、特許文献1に記載されている。
この一般的なフロントバンパに対してフード跳ね上げ装置のセンサ部を備えるフロントバンパの場合、図9(A)に示すように、バンパリインフォース103の長さ寸法が大きく設定されている(一点鎖線部参照)。そして、前記バンパリインフォース103の前面に沿って左端から右端まで筒形風船状のセンサ部105が取付けられている。これにより、歩行者がフロントバンパのどの位置に衝突した場合でもその衝突荷重でセンサ部105が圧縮されて、そのセンサ部105の内圧が上昇するようになる。そして、前記センサ部105の内圧上昇が圧力センサで検出されることにより、フード跳ね上げ装置(図示省略)が動作してエンジンフードが跳ね上げられる。これにより、歩行者の頭部の損傷が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−189171号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記したフロントバンパでは、バンパリインフォース103の長さ寸法が通常のフロントバンパのバンパリインフォースよりも大きくなるため、そのバンパリインフォース103の両端部が左右のフロントサイドメンバ101の外側に大きく張り出すようになる。これにより、例えば、図9(B)に示すように、自動車の前方衝突時にクラッシュボックス101cが潰れて、バンパリインフォース103が後方移動すると、そのバンパリインフォース103の端部103wが後方の部材、例えば、サスペンション支持部108等に衝突する。これにより、フロントバンパとサスペンション支持部108とが共に損傷して、自動車の修繕費が高くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、自動車の前方衝突時にフロントバンパの後方の部材の損傷を抑制できるようにするとともに、フロントバンパに対して歩行者が衝突したときにフード跳ね上げ装置を確実に動作させられるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、フードを跳ね上げ可能に構成されたフード跳ね上げ装置のセンサ部がバンパリインフォースの前面に取付けられている自動車のフロントバンパであって、前記バンパリインフォースには脆弱部が設けられており、前記脆弱部は、前記センサ部を動作させるのに必要な前方からの衝突荷重に対しては折れ曲がらない程度の強度を有しており、また、前方からの衝突荷重で前記バンパリインフォースが後方移動し、そのバンパリインフォースが後方の部材に衝突したときの衝突反力を受けて折れ曲がるように構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、バンパリインフォースに設けられた脆弱部は、前方からの衝突荷重でバンパリインフォースが後方移動し、そのバンパリインフォースが後方の部材に衝突したときの衝突反力を受けて折れ曲がるように構成されている。これにより、前記衝突荷重が脆弱部の変形により逃がされて、後方の部材に大きな衝突荷重が加わらなくなる。即ち、フロントバンパは変形しても、後方の部材の損傷を抑制できるため、自動車の前方衝突時における自動車前部の損傷を軽減できる。
また、バンパリインフォースに設けられた脆弱部は、センサ部を動作させるのに必要な前方からの衝突荷重に対しては折れ曲がらない程度の強度を有している。このため、例えば、フロントバンパに歩行者が衝突したような場合には、前記バンパリインフォースが折れ曲がることがない。この結果、歩行者が衝突したときの衝突荷重がセンサ部に確実に伝わるようになり、前記フード跳ね上げ装置が確実に動作する。
【0008】
請求項2の発明によると、脆弱部には、バンパリインフォースの後面で開放されているスリット状の切欠きが形成されており、前方からの衝突荷重で前記脆弱部の切欠きが閉じることで前記バンパリインフォースの折れ曲げが規制され、そのバンパリインフォースが後方の部材に衝突し、その衝突反力で前記切欠きが開くことにより、前記バンパリインフォースが折れ曲がることを特徴とする。
このように、スリット状の切欠きにより、前方からの衝突荷重に強く、後方からの衝突反力に弱い脆弱部を形成できるため、その脆弱部の形成が容易になる。
また、請求項3の発明によると、脆弱部は、バンパリインフォースの左右の端部に設けられていることを特徴とする。
このため、バンパリインフォースの端部が後方の部材に衝突することによるその後方の部材の損傷を効率的に防止できるようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、自動車の前方衝突時におけるその自動車前部の損傷を軽減できる。また、フロントバンパに歩行者に衝突したときには、確実にフード跳ね上げ装置が動作するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1に係るフロントバンパを備える自動車の一部破断模式側面図である。
【図2】前記自動車の前部右側部分の平面図である。
【図3】前記自動車のフロントバンパの模式平面図である。
【図4】歩行者衝突時におけるフロントバンパの働きを表す模式平面図(A図)(B図)である。
【図5】フード跳ね上げ装置の模式図(A図)、及びフード跳ね上げ装置の動作を表すフローチャート(B図)である。
【図6】前記自動車の前方衝突時における前部右側部分の平面図である。
【図7】前記自動車の前方衝突時におけるフロントバンパの模式平面図である。
【図8】前記自動車の前方衝突時におけるフロントバンパの働きを表す模式平面図(A図)(B図)である。
【図9】従来の自動車のフロントバンパを表す模式平面図(A図)、前方衝突時におけるフロントバンパの模式平面図(B図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態1]
以下、図1から図8に基づいて本発明の実施形態1に係る自動車のフロントバンパについて説明する。
ここで、図中の前後左右、及び上下は、本実施形態に係るフロントバンパを備える自動車の前後左右、及び上下に対応している。
【0012】
<自動車前部の概要>
先ず、図1から図3等に基づいて自動車前部の概要について説明する。
図1に示すように、自動車Mのボディ1の前部には、車室2とダッシュパネル(図示省略)により区分されたエンジンルームErが設けられており、そのエンジンルームErの左右両側に車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ10が設けられている。
フロントサイドメンバ10は、図1に示すように、エンジンルームEr内ではほぼ水平な状態で車両前後方向に延びており、そのエンジンルームErの後端位置で前記ダッシュパネルに沿って後方が低くなるように傾斜している。そして、フロントサイドメンバ10の後端部10bが車室2の床下部において車両前後方向に延びるフロアアンダリインホースメント12に接続されている。
左右のフロントサイドメンバ10の先端部分には、図2、図3に示すように、筒状のクラッシュボックス14が同軸に取付けられており、それらのクラッシュボックス14の先端にフロントバンパ20が取付けられている。また、左右のフロントサイドメンバ10の外側には、前輪17用のサスペンション装置(図示省略)を支持するサスペンション支持部18がエンジンルームErを挟んで設けられている。
【0013】
<フロントバンパ20について>
フロントバンパ20は、図2、図3等に示すように、車幅方向に延びる梁状部材であるバンパリインフォース22と、そのバンパリインフォース22の前面に取付けられる緩衝部材であるバンパアブソーバ(図示省略)と、前記バンパアブソーバ及びバンパリインフォース22を前方から覆うバンパカバー26とから構成されている。
バンパリインフォース22は、例えば、アルミ合金製で角筒状に形成されており、そのバンパリインフォース22の左右両側が、図2、図3等に示すように、後方に緩やかに湾曲している。また、バンパリインフォース22には、左右のフロントサイドメンバ10から外側に突出した部分に脆弱部24が設けられている。脆弱部24は、バンパリインフォース22の後面22bで開放されているスリット状の切欠き24cを備えており、前方からの衝突荷重に対しては折れ難く構成されている。しかし、前記脆弱部24は、バンパリインフォース22の端部22tが後記するように後方移動してサスペンション支持部18から衝突反力を受けることで、容易に折れ曲がるように構成されている(図6〜図8参照)。
【0014】
<フード跳ね上げ装置30について>
バンパリインフォース22の前面22fには、図3等に示すように、フード跳ね上げ装置30のセンサ部33が取付けられている。なお、図2、図6では、前記センサ部33は省略されている。
フード跳ね上げ装置30は、フロントバンパ20に歩行者が衝突したときにエンジンルームErを覆うエンジンフード15を跳ね上げる装置である。フード跳ね上げ装置30は、図5(A)に示すように、フロントバンパ20に歩行者が衝突したときに圧縮されて内圧が上昇するセンサ部33と、そのセンサ部33の内圧上昇を検出する圧力センサ36と、センサ部33の内圧が上昇したときにエンジンフード15を跳ね上げる装置本体部31と、ECU等の制御部35とから構成されている。
フード跳ね上げ装置30のセンサ部33は一本の風船状の筒形部材であり、バンパリインフォース22の長さ寸法とほぼ等しい長さ寸法に設定されている。そして、センサ部33は、図3に示すように、バンパリインフォース22と左右両端が合わせられた状態で、そのバンパリインフォース22の前面22fに取付けられている。これにより、フロントバンパ20に歩行者が衝突すると、その衝突荷重でセンサ部33が圧縮され、そのセンサ部33の内圧が上昇するようになる。センサ部33には、図5に示すように、導圧管36tを介して圧力センサ36が接続されており、その圧力センサ36によりセンサ部33の内圧上昇が検出される。
【0015】
<本実施形態に係るフロントバンパ20の動作について>
自動車の走行時に、図4(A)に示すように、例えば、フロントバンパ20の右端部に対して歩行者Hが衝突すると、バンパリインフォース22の右端部22tは衝突荷重によって後方に押圧される。これにより、バンパリインフォース22は脆弱部24の位置で衝突荷重の方向(後方)に折れ曲がろうとするが、図4(B)に示すように、その脆弱部24の切欠き24cが閉じられることで、前記脆弱部24の折れ曲げが規制される。即ち、バンパリインフォース22の脆弱部24は切欠き24cの隙間分しか曲がらないため、バンパリインフォース22の右端部22tはほとんど原形を保持している。このため、歩行者Hの衝突荷重が確実にフード跳ね上げ装置30のセンサ部33に伝わるようになる。即ち、前記衝突荷重によりセンサ部33が圧縮されて、そのセンサ部33の内圧が上昇すると、その内圧の上昇が圧力センサ36によって検出される。制御部35は、図5(B)のフローチャートに示すように、センサ部33の内圧が設定値以上であると判定すると(ステップS101 YES)、装置本体部31に対して動作信号を出力する。これにより、装置本体部31はエンジンフード15を跳ね上げるように動作する(ステップS102)。エンジンフード15が跳ね上げられると、歩行者の頭部はエンジンフード15のみに衝突してエンジン等には衝突しないため、歩行者の頭部の損傷が軽減される。
即ち、前記センサ部33と圧力センサ36が本発明のセンサ部に相当する。
【0016】
また、自動車が、例えば、オフセット衝突すると、図6から図8に示すように、フロントバンパ20の右側部が変形するとともに、クラッシュボックス14が軸方向(前後方向)に潰れて、バンパリインフォース22の右端部22tは後方に移動する。これにより、バンパリインフォース22の右端部22tは、後方に位置するサスペンション支持部18に衝突するようになる。即ち、バンパリインフォース22の右端部22tは、後方のサスペンション支持部18から衝突反力を受けて前方に押圧される。これにより、バンパリインフォース22の脆弱部24は、切欠き24cを開く方向に折れ曲がるようになる。このように、バンパリインフォース22の脆弱部24は、そのバンパリインフォース22の右端部22tがサスペンション支持部18に衝突することで前方に折れ曲がるため、前記衝突荷重がその脆弱部24である程度吸収されるようになる。これにより、サスペンション支持部18の損傷が抑制される。
即ち、前記サスペンション支持部18が本発明における後方の部材に相当する。
【0017】
<本実施形態に係るフロントバンパ20の長所について>
本実施形態に係るフロントバンパ20によると、バンパリインフォース22に設けられた脆弱部24は、前方からの衝突荷重でバンパリインフォース22が後方移動し、そのバンパリインフォース22がサスペンション支持部18に衝突したときの衝突反力を受けて折れ曲がるように構成されている。これにより、衝突荷重が脆弱部24の変形により逃がされて、サスペンション支持部18に大きな衝突荷重が加わらなくなる。即ち、フロントバンパ20は変形しても、サスペンション支持部18の損傷を抑制できるため、自動車の前方衝突時における自動車前部の損傷を軽減できる。
また、バンパリインフォース22に設けられた脆弱部24は、センサ部33を動作させるのに必要な前方からの衝突荷重に対しては折れ曲がらない程度の強度を有している。このため、例えば、フロントバンパ20に歩行者が衝突したような場合にバンパリインフォース22が折れ曲がることがない。この結果、歩行者が衝突したときの衝突荷重がセンサ部33に確実に伝わるようになり、フード跳ね上げ装置30の装置本体部31がエンジンフード15を跳ね上げるようになる。これにより、歩行者の頭部の損傷を軽減できる。
また、スリット状の切欠き24cにより、前方からの衝突荷重に強く、後方からの衝突反力に弱い脆弱部を形成できるため、その脆弱部24の形成が容易になる。
【0018】
<変更例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、脆弱部24をバンパリインフォース22の左右に一ケ所づつ設ける例を示したが、例えば、左右にそれぞれ複数ヶ所づつ設けるようにすることも可能である。
また、脆弱部24を切欠き24cにより構成する例を示したが、切欠き24cの代わりに前後方向に並べられた複数の貫通孔から構成することも可能である。
また、フード跳ね上げ装置30のセンサ部33を一本の筒形の風船状に形成する例を示したが、前記センサ部33を複数個に分割することも可能である。
【符号の説明】
【0019】
15 エンジンフード
18 サスペンション支持部(後方の部材)
20 フロントバンパ
22 バンパリインフォース
24 脆弱部
30 フード跳ね上げ装置
33 センサ部
36 圧力センサ(センサ部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードを跳ね上げ可能に構成されたフード跳ね上げ装置のセンサ部がバンパリインフォースの前面に取付けられている自動車のフロントバンパであって、
前記バンパリインフォースには脆弱部が設けられており、
前記脆弱部は、前記センサ部を動作させるのに必要な前方からの衝突荷重に対しては折れ曲がらない程度の強度を有しており、また、前方からの衝突荷重で前記バンパリインフォースが後方移動し、そのバンパリインフォースが後方の部材に衝突したときの衝突反力を受けて折れ曲がるように構成されていることを特徴とする自動車のフロントバンパ。
【請求項2】
請求項1に記載された自動車のフロントバンパであって、
前記脆弱部には、前記バンパリインフォースの後面で開放されているスリット状の切欠きが形成されており、
前方からの衝突荷重で前記脆弱部の切欠きが閉じることで前記バンパリインフォースの折れ曲げが規制され、そのバンパリインフォースが後方の部材に衝突し、その衝突反力で前記切欠きが開くことにより、前記バンパリインフォースが折れ曲がることを特徴とする自動車のフロントバンパ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載された自動車のフロントバンパであって、
前記脆弱部は、前記バンパリインフォースの左右の端部に設けられていることを特徴とする自動車のフロントバンパ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−126399(P2011−126399A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286042(P2009−286042)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)