説明

自動車の補助ミラー構造

【課題】ドアミラーより下方の車両側方の視認性を向上する。
【解決手段】自動車のドアミラーの下部に設けられる補助ミラーであって、補助ミラーは、車両の上下方向に凹となる凹面と、車両の左右方向に凸となる凸面とを備えた鏡面部5からなり、鏡面部5には、左右方向の凸の曲率が最大となる最大凸曲率部8が設けられ、最大凸曲率部8は鏡面部5における下端側に配置され、鏡面部5の凸面は最大凸曲率部8から上端または下端に向かうにしたがって曲率が減少する。鏡面部5の凹面は、下端側に向かうにしたがって上下方向の凹の曲率が大きくなる曲率増大部を備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のドアミラーの下部に設けられる補助ミラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアミラーより下側の車体側面に沿う死角を確認するため安全確認装置として、ドアミラーの下部に設けられた補助ミラーが知られている(例えば、特許文献1参照)。この補助ミラーは凸面鏡によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3137144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の前記補助ミラーは凸面鏡によって構成されているため、運転者から見た像が反転してしまい、補助ミラーの鏡像においてその上側に自車の車体の像が、下側に外界(道路等)が映るため、視認性が悪いという課題がある。
そこで、この発明は、ドアミラーより下方の車両側方の視認性を向上させた自動車の補助ミラー構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る自動車の補助ミラー構造では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、自動車のドアミラー(例えば、後述する実施例におけるドアミラー3)の下部に設けられる補助ミラー(例えば、後述する実施例における補助ミラー4)であって、前記補助ミラーは、車両(例えば、後述する実施例における車両1)の上下方向に凹となる凹面と、車両の左右方向に凸となる凸面とを備えた鏡面部(例えば、後述する実施例における鏡面部5)からなり、前記鏡面部には、左右方向の凸の曲率が最大となる最大凸曲率部(例えば、後述する実施例における最大凸曲率部8)が設けられ、該最大凸曲率部は前記鏡面部における下端側に配置され、前記凸面は前記最大凸曲率部から上端または下端に向かうにしたがって曲率が減少することを特徴とする自動車の補助ミラー構造である。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記凹面は、下端側に向かうにしたがって上下方向の凹の曲率が大きくなる曲率増大部(例えば、後述する実施例における曲率増大部9)を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記鏡面部は、車両の前後方向で前記ドアミラーと同一位置における車両の外側端(例えば、後述する実施例における車体側面7)に接し上下方向に延びる垂線(例えば、後述する実施例における垂線S)と重なる位置に配置され、前記最大凸曲率部は、前記垂線よりも車幅方向の外側に配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の発明において、前記鏡面部は、車両の前後方向で前記ドアミラーと同一位置における車両の外側端(例えば、後述する実施例における車体側面7)に接し上下方向に延びる垂線(例えば、後述する実施例における垂線S)と重なる位置に配置され、前記曲率増大部は、前記垂線よりも車幅方向の外側に配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の発明において、車両の側面部にはターンシグナルランプ(例えば、後述する実施例におけるターンシグナルランプ10)が配置され、車両の運転席に乗車した標準モデルの運転者のアイポイント(例えば、後述する実施例におけるアイポイントE)から発せられた光が前記鏡面部の最上端で反射した反射光(例えば、後述する実施例における反射光L1)と、前記光が前記鏡面部の最下端で反射した反射光(例えば、後述する実施例における反射光L2)とで挟まれた領域の外側に、前記ターンシグナルランプが配置されていることを特徴とする。
なお、この出願において用いる前記標準モデルとは、人体の体格差を考慮した標準的なドライビングポジションにおける人体モデルのことである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、鏡面部は車両の上下方向に凹となる凹面を備えているので、運転席の乗員から見える鏡面部の鏡像では、その下側に自車の車体の像が位置し、上側に外界(路面等)の像が位置するようになる。これにより、乗員に違和感を与えることがなく、視認性が向上する。また、鏡面部は車両の左右方向に凸となる凸面を備えているので、車両前後方向の映り込み範囲を広げることができる。
さらに、左右方向の凸の曲率が最大となる最大凸曲率部が鏡面部における下端側に配置されているので、車体側を映す鏡面部の下端側における像が歪み難くなり、車体側の像の車両前後方向の直線性が向上し、車体を直線状に映すことができる。
また、鏡面部の凸面は最大凸曲率部から上端または下端に向かうにしたがって曲率が減少するので、車両前後方向の映り込み範囲を鏡面部の上下で同じにすることができ、運転席の乗員から見える鏡面部の鏡像において上下方向の直線性が向上する。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、運転席の乗員のアイポイントが低い場合にも、乗員から見える鏡面部の鏡像において、車体の像を下側に寄せることができ、外界(路面等)の像を上下方向に広げることができる。
請求項3に係る発明によれば、鏡面部を車体側に近い位置に設置しつつ、自車の車体の下方に対する視認性が向上する。
請求項4に係る発明によれば、鏡面部を車体側に近い位置に設置しつつ、自車の車体の下方に対する視認性が向上する。
請求項5に係る発明によれば、乗員から見える鏡面部の鏡像にターンシグナルランプが映ることがないので、自車の車体の下方に対する視認性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例の自動車の補助ミラー構造を採用した車両の背面図である。
【図2】前記実施例の補助ミラー4の鏡面部の正面図である。
【図3】前記鏡面部の凹凸面を説明するための概念図である。
【図4】前記実施例の車両の平面図である。
【図5】前記実施例の鏡面部の鏡像を示す図である。
【図6】前記鏡像の模式図である。
【図7】この発明の他の実施例における補助ミラーの鏡面部の凹面を示す図である。
【図8】前記他の実施例の作用を説明するための比較例の図である。
【図9】ターンシグナルランプを備えた車両にこの発明の補助ミラー構造を採用した場合の車両の背面図である。
【図10】前記ターンシグナルランプを備えた車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明に係る自動車の補助ミラー構造の実施例を図1から図10の図面を参照して説明する。
図1、図4に示すように、車両1の前部座席のドア2には周知のドアミラー3が設けられており、このドアミラー3の下部に補助ミラー4が設けられている。補助ミラー4は、運転席側と助手席側のドアミラー3のどちらにも設けられているが、以下の説明では、助手席側のドアミラー3に設けられた補助ミラー4について説明する。
【0014】
図1に示すように、補助ミラー4の鏡面部5は、車体6の側面に接して上下方向に延びる垂線Sに重なる位置に配置されている。この垂線Sは、車両1の前後方向でドアミラー3と同一位置において、車幅方向で最も外側に位置する車体側面(すなわち車両の外側端)7に接する垂線である。すなわち、補助ミラー4の鏡面部5は、車両1の前後方向でドアミラー3と同一位置における車両1の外側端に接して上下方向に延びる垂線Sに重なる位置に配置されている。
【0015】
鏡面部5は、図2に示すように、車両1の上下方向(図中Y方向)に凹となる凹面と、車両1の左右方向(図中X方向)に凸となる凸面とを備えた凹凸面鏡で構成されている。図3は、凹凸面鏡の形状を理解し易くした概念図である。断面円形の環状体100の内周部分101を切り取ると、図中X方向では凸面となり、図中Y方向では凹面となり、内周部分101は凸面と凹面を備えた凹凸面となる。
【0016】
この鏡面部5の凸面は、左右方向の凸の曲率が一定ではなく、鏡面部5の下側に偏った位置に、左右方向の凸の曲率が最大となる最大凸曲率部8が設けられており、この最大凸曲率部8から上下方向に遠ざかるにしたがって、左右方向の凸の曲率が徐々に減少するように設定されている。この最大凸曲率部8は前述した垂線Sよりも車幅方向の外側に配置されている。
そして、運転席の乗員から見える鏡面部5の鏡像における下側に、自車の車体6の下部が映り込むように補助ミラー4の設置角度を設定する。
【0017】
このように構成された補助ミラー4においては、鏡面部5が車両の上下方向に凹となる凹面を備えているので、図5に示すように、運転席の乗員から見える鏡面部5の鏡像では、その下側に車体6の像6’や前輪9の像9’が位置し、上側に路面Rの像R’、すなわち外界の像が位置するようになり、ちょうど乗員が助手席側の窓から顔を出して見たときと同じ向きとなる。したがって、乗員に違和感を与えることがなく、視認性が極めてよい。
【0018】
また、図4に示すように、自車の車体6の側方に障害物A,Bや縁石Cが存在する場合に、鏡面部5の鏡像に映った障害物A,Bや縁石Cの像A’,B’,C’と車体6や前輪9の像6’,9’から、自車1と障害物A,Bや縁石Cとの相対位置関係を容易、且つ適確に認識することができる。これは、安全確認や縦列駐車をするときなどに非常に有効である。
また、鏡面部5は車両1の左右方向に凸となる凸面を備えているので、車両前後方向の映り込み範囲を広げることができる。
【0019】
さらに、前述した最大凸曲率部8が鏡面部5における下端側に配置されているので、車体6側を映す鏡面部5の下端側における像が歪み難くなり、図6に示すように、車体6側の像の車両前後方向の直線性が向上し、車体6の像6’を直線状に映すことができる。
ここで仮に、鏡面部5の上下方向の中央に最大凸曲率部8を配置した場合には、鏡面部5の上端側および下端側において像の歪みが大きくなるため、鏡面部5の下側に車体6の下部を映り込ませると、車体6の像が歪んでしまう。この実施例の補助ミラー4によれば、このようなことがない。
【0020】
また、鏡面部5の凸面は最大凸曲率部8から鏡面部5の上端または下端に向かうにしたがって左右方向の凸の曲率が徐々に減少するので、車両前後方向の映り込み範囲を鏡面部5の上下で同じにすることができ、その結果、図6において一点鎖線で示すように、運転席の乗員から見える鏡面部5の鏡像において上下方向の直線性が向上する。
ここで仮に、鏡面部5の凸面の左右方向の凸の曲率を一定にした場合には、最大凸曲率部8から上下方向に遠ざかるほど、車両前後方向の映り込み範囲が広がるため、運転席の乗員から見える鏡面部5の鏡像において上下方向の直線性が失われてしまう。この実施例の補助ミラー4によれば、このようなことがない。
【0021】
また、前述したように、鏡面部5は、車両1の前後方向でドアミラー3と同一位置における車両1の外側端に接して上下方向に延びる垂線Sに重なる位置に配置されており、且つ、最大凸曲率部8が、垂線Sよりも車幅方向の外側に配置されているので、鏡面部5を車体6に近い位置に設置しつつ、車体6の下方を確実に映すことができ、車体6の下方に対する視認性が向上する。
【0022】
なお、図7に示すように、鏡面部5における凹面に、下端側に向かうにしたがって上下方向の凹の曲率が大きくなる曲率増大部9を設けてもよい。このようにすると、運転席の乗員のアイポイントが低い場合にも、その乗員から見える鏡面部5の鏡像において、図5,図6に示される場合と同様に車体6の像を下側に寄せることができ、外界(路面等)の像を上下方向に広げることができる。その結果、乗員の体格の差に関わらず、同等の視認性を確保することができる。
曲率増大部9を設けない場合、運転席の乗員のアイポイントが低いときには、図8に示すように、その乗員から見える鏡面部5の鏡像において、車体6の像6’が上側に寄り、車体6の像6’の占める割合が多くなり、外界の像が少なくなってしまう。曲率増大部9を設けることにより、このような事態を回避することができる。
【0023】
また、このように曲率増大部9を設ける場合には、曲率増大部9を前記垂線Sよりも車幅方向の外側に配置するのが好ましい。このようにすると、鏡面部5を車体6に近い位置に設置することができ、且つ、乗員の体格の差に関わらず、車体6の下方を確実に映すことができ、車体6の下方に対する視認性が向上する。
【0024】
また、図9,図10に示すように、車体6の側面部にターンシグナルランプ10が設けられている場合には、図9に示すように、運転席に乗車した標準モデルの運転者のアイポイントEから発せられた光が鏡面部5の最上端で反射した反射光L1と、前記光が鏡面部5の最下端で反射した反射光L2とで挟まれた領域の外側に、ターンシグナルランプ10を配置するのが好ましい。前記標準モデルとは、人体の体格差を考慮した標準的なドライビングポジションにおける人体モデルのことである。このようにすると、乗員から見える鏡面部5の鏡像にターンシグナルランプ10が映り込むことがないので、ターンシグナルランプ10の光が鏡面部5で反射して運転席の乗員の目に入ることがなくなり、自車の車体6の下方に対する視認性が向上する。なお、図9では、光路の説明の都合上、鏡面部5を模式的に拡大して示している。
図10において二点鎖線は、鏡面部5にターンシグナルランプ10が映り込むか否かの境界の一例を示し、この境界線Fよりも上側の領域にターンシグナルランプ10を設置すると、鏡面部5にターンシグナルランプ10を映り込ませないようにすることができる。
【0025】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、曲率増大部9を設ける場合に、最大凸曲率部8と曲率増大部9の両方を垂線Sよりも車幅方向の外側に配置したが、曲率増大部9のみを垂線Sよりも車幅方向の外側に配置し、最大凸曲率部8を垂線Sよりも車幅方向の内側に配置することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 車両
3 ドアミラー
4 補助ミラー
5 鏡面部
7 車体側面(外端部)
8 最大凸曲率部
9 曲率増大部
10 ターンシグナルランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドアミラーの下部に設けられる補助ミラーであって、
前記補助ミラーは、車両の上下方向に凹となる凹面と、車両の左右方向に凸となる凸面とを備えた鏡面部からなり、
前記鏡面部には、左右方向の凸の曲率が最大となる最大凸曲率部が設けられ、該最大凸曲率部は前記鏡面部における下端側に配置され、
前記凸面は前記最大凸曲率部から上端または下端に向かうにしたがって曲率が減少することを特徴とする自動車の補助ミラー構造。
【請求項2】
前記凹面は、下端側に向かうにしたがって上下方向の凹の曲率が大きくなる曲率増大部を備えることを特徴とする請求項1に記載の自動車の補助ミラー構造。
【請求項3】
前記鏡面部は、車両の前後方向で前記ドアミラーと同一位置における車両の外側端に接し上下方向に延びる垂線と重なる位置に配置され、
前記最大凸曲率部は、前記垂線よりも車幅方向の外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の補助ミラー構造。
【請求項4】
前記鏡面部は、車両の前後方向で前記ドアミラーと同一位置における車両の外側端に接し上下方向に延びる垂線と重なる位置に配置され、
前記曲率増大部は、前記垂線よりも車幅方向の外側に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の自動車の補助ミラー構造。
【請求項5】
車両の側面部にはターンシグナルランプが配置され、
車両の運転席に乗車した標準モデルの運転者のアイポイントから発せられた光が前記鏡面部の最上端で反射した反射光と、前記光が前記鏡面部の最下端で反射した反射光とで挟まれた領域の外側に、前記ターンシグナルランプが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の補助ミラー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−230688(P2011−230688A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103846(P2010−103846)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】