説明

自動車用カーペット

【課題】アルデヒド類などの揮発性有機物質の捕捉性能に優れた自動車用カーペットを提供する。
【解決手段】少なくともフェルト層と該フェルト層上に載置又は固着された非通気性又は難通気性の樹脂層とから構成される基材と、該基材上に載置又は固着された表皮とからなる自動車用カーペットであって、該基材を構成するフェルト層の底面に、揮発性有機物質捕捉剤が混入、塗布又は散布されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)の捕捉性能に優れた自動車用カーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内部において、室内の構成材から、人体に悪影響を及ぼす恐れのある物質である残留モノマー、ホルムアルデヒド、有機溶剤、可塑剤、環境ホルモン物質、その他揮発性物質などの揮散性物質が発生することが問題となっており、その除外方法の開発が検討されている。
【0003】
例えば、自動車内の床にはフェルトなどの基材上にタフテッドカーペットあるいはニードルパンチカーペットといった、工業的に量産が可能なカーペットが載置又は固着されている。
【0004】
このうちタフテッドカーペットは、基布(1次基布)に、タフティングマシンを用いて多数のパイルを刺し込んで表層材を製造し、ついでこの表層材の、1次基布の裏面に出た縫い目を固定させるために、合成ゴムなどの高分子を含むコーティング材を塗布したのち、さらに必要に応じて、上記コーティング材を接着剤として利用して、その裏面に、目の粗い織布などを2次基布(裏打ち材)として積層、接着することで製造される。
【0005】
また、ニードルパンチカーペットは、その表面が平らなフェルト状のカーペットであって、繊維のウェブを多数の針で突き刺して互いに絡み合わせてフェルト状にし、所定の厚みに成形した表層材の裏面に、やはり合成ゴムなどの高分子を含むコーティング材を塗布して滑らかに仕上げることで製造される。
【0006】
前述した各種のカーペットにおいても、コーティング材中から揮発性有機物質(VOC)が発生することが報告されており、その早急な解決が望まれている。
【0007】
更に、自動車用カーペットにおいて基材として用いられているフェルト層や吸音(SA)層は、ポリエステル繊維などを加熱ローラー中を通過させて製造されるため、加圧・加熱によりポリエステルが劣化し、末端基のカルボキル基からアルデヒド類が発生することが懸念されている。特に、フェルト層はカーペット中での容量も大であり、その揮発性有機物質の発生量も多いと考えられる。吸音(SA)層もフェルト材料から構成されるものが多く、フェルト層と同様に、揮発性有機物質の発生が懸念されている。
【0008】
このように、現在自動車用カーペットには、人体に有毒であるアルデヒド類の揮散をするものが少なからずとも見受けられる。このため、自動車用カーペットからアルデヒド類などの有機物質の揮散をなくす検討が進められている。
【0009】
下記特許文献1には、自動車用ではなく、歩行者量の多い場所のフローリング用カーペットからホルムアルデヒドなどの易揮発性物質(VOC)の発生を抑えることを目的として、カーペットの表面を形成する表層材の裏面を、炭を微粉砕した炭パウダーが分散されたコーティング材によってコーティングすることが開示されている。
【0010】
又、下記特許文献2には、自動車用ではなく、フローリング材から室内に分散するホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等の臭気成分を効率良く除去し、室内からホルムアルデヒド等のアルデヒド類の臭いを消すことを目的として、カーペットを構成するカーペット本体に、少なくともアルデヒド類を吸着する吸着剤を具備することが開示されている。
【0011】
特許文献1及び特許文献2に開示されたカーペットは自動車用でないことから、フェルト層を有する基材と基材上に載置又は固着された表皮とからなる自動車用特有のカーペットにおけるアルデヒド類などの揮発性有機物質の捕捉効果については十分に期待できないものであった。
【0012】
【特許文献1】特開2000−287819号公報
【特許文献2】特開平11−046965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、アルデヒド類などの揮発性有機物質の捕捉性能に優れた自動車用カーペットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、揮発性有機物質捕捉剤(VOCキャッチャー)を自動車用カーペットの特定部分に存在させることで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は、少なくともフェルト層と該フェルト層上に載置又は固着された非通気性又は難通気性の樹脂層とから構成される基材と、該基材上に載置又は固着された表皮とからなる自動車用カーペットの発明であって、該基材を構成するフェルト層の底面に、揮発性有機物質捕捉剤が混入、塗布又は散布されていることを特徴とする。本発明の自動車用カーペットは、揮発性有機物質を発散するフェルト層の上面(室内側)からの揮発性有機物質の発散をフェルト層上に載置又は固着された非通気性又は難通気性の樹脂層で抑制すると共に、フェルト層の底面(車体側)に揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布することで、フェルト層の底面(車体側)からの揮発性有機物質の発散を抑制する。これらの効果が相まって、フェルト層から発散する揮発性有機物質のほぼ全量を効率よく捕捉できる。
【0016】
非通気性又は難通気性の樹脂層を有しない従来の自動車用カーペットにおいては、フェルト層の上面に揮発性有機物質捕捉剤を塗布することが効果的と考えられるが、本発明の如く、フェルト層上に非通気性又は難通気性の樹脂層が載置又は固着された構成の基材からなる自動車用カーペットにおいては、特に、フェルト層の底面(車体側)に揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布することは、フェルト層からの揮発性有機物質の発散を抑制することに格段の効果を奏する。
【0017】
本発明では、基材が更に吸音層から構成され、底部より、フェルト層、非通気性又は難通気性の樹脂層、吸音層が順に積層されて基材を構成することができる。
【0018】
ここで、吸音層(SA層)もまた通常フェルトで構成されるため、揮発性有機物質が発散される。そこで、この吸音層(SA層)にも、揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布することが好ましい。これにより、本発明の自動車用カーペットは、基材を構成するフェルト層や吸音層からのアルデヒド類などの揮発性有機物質を効率よく捕捉することができる。
【0019】
本発明の自動車用カーペットの一つの典型例は、基材を構成するフェルト層と基材を構成する吸音層の間に非通気性又は難通気性の樹脂層を有し、該吸音層は該フェルト層よりも揮発性有機成分の少ない材料で構成され、該フェルト層は該難通気性の樹脂層とフロアパネルによって略封鎖されていることを特徴とする。揮発性有機成分が多いフェルト層の上面を非通気性又は難通気性の樹脂層によって、フェルト層の底面をフロアパネルによって略封鎖することで、揮発性有機物質のほぼ全量を捕捉できる。更に、自動車室内に近い吸音層にも揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布することで、他の部品から発生し自動車内に拡散した揮発性有機物質の両者を更に効果的に捕捉する。
【0020】
本発明の自動車用カーペットで用いる揮発性有機物質捕捉剤としては従来公知のものを用いることができる。これらの中で、平均粒径1〜200nmを有する二酸化珪素のアミノシラン反応物は揮発性有機物質を捕捉する能力が高いので好ましい。特に、この平均粒径1〜200nmを有する二酸化珪素のアミノシラン反応物は、透明性と無毒性に優れており、スプレー散布などが可能なことから、自動車室内に面する表皮のフィラメントに揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布する場合に推奨される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の自動車用カーペットは、主としてカーペットの基材を構成するフェルト層や吸音層から発生するアルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)の捕捉性能に優れており、車内環境の向上に寄与する。又、フェルト層や吸音層の製造工程で揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布することで、製造後のフェルト層や吸音層に揮発性有機物質捕捉剤を混入、塗布又は散布する場合と比べて、製造工程の簡素化に役立つ。
【0022】
又、カーペットの表皮に本発明を適用した場合には、カーペットの基材を構成するフェルト層や吸音層から発生するアルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)に加えて、車内の他の部品から発生するアルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)の捕捉にも効果的である。
【0023】
更に、本発明において、揮発性有機物質捕捉剤として、特に平均粒径1〜200nmを有する二酸化珪素のアミノシラン反応物を用いる場合は、該揮発性有機物質捕捉剤は、アルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)の捕捉性能が高いことに加えて、経口毒性や皮膚刺激性が低いことが確認されており、人と接触する可能性がある自動車内部表面に存在する場合でも、安全性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1に、自動車用カーペットの断面構造の一例を示す。但し、本発明はこの構造に限定されるものではない。一般的に、自動車用カーペットの基材は、底部よりフェルト層、主としてフェルト材料からなる吸音(SA)層、これらフェルト層と吸音(SA)層の間に低密度ポリエチレン(LDPE)などからなる非通気性又は難通気性の樹脂層を有している。該基材の上部に、カーペットを構成する表皮が載置又は固着される。表皮は、タフテッドカーペットあるいはニードルパンチカーペットといった通常自動車用カーペットの表皮として知られたものからなる。ここで、これらフェルト層や吸音(SA)層は、ポリエステル繊維などをローラーで加熱加圧して製造されるため、製造工程でポリエステル繊維などの劣化・変性のためアルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)が発生する。
【0025】
フェルト層や吸音(SA)層に揮発性有機物質捕捉剤を含ませることにより、自動車用カーペットの内部より発生するアルデヒド類は自動車用カーペットより室内側に拡散する前に自動車用カーペット内部で捕捉される。又、室内の他の部品から発生したアルデヒド類などの揮発性有機物質は表皮で効率よく捕捉される。
【0026】
なお、本発明では、揮発性有機物質捕捉剤によるアルデヒド類などの揮発性有機物質(VOC)の捕捉のほかに、フェルト層を非通気性や難通気性の樹脂層とフロアパネルによって略封鎖することによって、フェルト層から揮散する揮発性有機物質捕捉剤の車内空間への拡散を抑制する。
【0027】
本発明では、揮発性有機物質捕捉剤は公知のものを広く用いることができる。たとえば、ホルムアルデヒド捕捉剤として公知の、ジシアンジアミド、尿素などのアミド類、エチレン尿素、プロピレン尿素、5−ヒドロキシプロピレン尿素、5−メトキシプロピレン尿素、5−メチルプロピレン尿素、パラバン酸(グリオキザールモノウレイン)、4,5−ジメトキシエチレン尿素等の環状アルキレン尿素、酸イミド類、アミン類などの有機アミノ化合物、メラミン等のアミノ化合物、バルビツール酸、セミカルバジッド塩酸塩等のアマイド類、グルタミン酸塩、グリシン、アラニン等のアミノ酸類等の含窒素化合物が具体的に例示される。
【0028】
本発明では、揮発性有機物質捕捉剤として、平均粒径1〜200nmを有する二酸化珪素のアミノシラン反応物が特に好ましく用いられる。この二酸化珪素のアミノシラン反応物は、微白色透明の外観を有し、経口毒性や皮膚刺激性がなく安全性に優れている。
【0029】
[実施例]
以下、本発明の実施例を示す。
【0030】
下記組成によりコーティング剤を調製した。
アクリルエマルジョン(三井スペシャルケミカル社製、TTC07、固形分50%):50部
揮発性有機物質捕捉剤(日華化学株式会社製、KIRAKURU AL−00GT、固形分20%):7.5部
水:42.5部
【0031】
上記各成分を十分に攪拌・混合した後に、厚さ5〜20μmのフェルト層底面にスプレー塗布した。
【0032】
これらフェルト層とフェルトからなる厚さ約5mmの吸音(SA)層の間に厚さ1〜2mmのLDPEからなる樹脂層を介在させて基材とした。上記基材の上にカーペット表皮を載置してカットサンプルとした。
【0033】
同様に、フェルトからなる厚さ約5mmの吸音(SA)層表面に上記揮発性有機物質捕捉剤を天然ゴムラッテクスに混入したものを直接塗布した。
【0034】
厚さ5〜20μmのフェルト層と上記吸音(SA)層の間に厚さ1〜2mmのLDPEからなる樹脂層を介在させて基材とした。上記基材の上にカーペット表皮を載置してカットサンプルとした。
【0035】
なお、本発明で用いられる揮発性有機物質捕捉剤は、平均粒径1〜200nmを有する二酸化珪素のアミノシラン反応物であり、透明であり、経口毒性はLD50>200mg/kg、皮膚刺激性はP.C.I.が0.00であることが確認されている。
【0036】
上記実施例と同様に、揮発性有機物質捕捉剤が無添加のカットサンプルを作製した。即ち、厚さ5〜20μmのフェルト層とフェルトからなる厚さ約5mmの吸音(SA)層の間に厚さ1〜2mmのLDPEからなる樹脂層を介在させて基材とし、上記基材の上にカーペット表皮を載置してカットサンプルとした。
【0037】
これらカットサンプルについて、以下の試験手順でアルデヒド類吸着性能を評価した。
(1)10L用テトラバックの中にカットサンプル(8×10=80cm)を入れ、窒素ガス4Lを封入する。
(2)テトラバックごと65℃で2時間加熱する。
(3)加熱処理後、テトラバック内のガス3Lをアルデヒド吸着カラムに通して、アルデヒド類をカラムに吸着させる。
(4)カラムに吸着させたアルデヒド類を溶剤で溶出させ、その溶液を液体クロマトグラフィーで定量分析する。(測定波長:360nm、溶媒:アセトニトリル/水=55/45vol、注入量:10μL、ODSカラム)
【0038】
図2に、上記各カットサンプルによるアルデヒド類残存量を示す。図2の結果より、本発明のカットサンプルは優れたアルデヒド類除去性能を示すことが分かる。特に、フェルト層表面に揮発性有機物質捕捉剤を塗布したサンプルはアルデヒド類除去性能に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、自動車内の揮発性有機物質が効率よく低減され、環境性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】自動車用カーペットの断面構造の一例を示す。
【図2】各カットサンプルによるアルデヒド類除去量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフェルト層と該フェルト層上に載置又は固着された非通気性又は難通気性の樹脂層とから構成される基材と、該基材上に載置又は固着された表皮とからなる自動車用カーペットであって、該基材を構成するフェルト層の底面に、揮発性有機物質捕捉剤が混入、塗布又は散布されていることを特徴とする自動車用カーペット。
【請求項2】
前記基材が更に吸音層から構成され、前記フェルト層と該吸音層の間に前記非通気性又は難通気性の樹脂層を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用カーペット。
【請求項3】
前記吸音層が前記フェルト層よりも揮発性有機成分の少ない材料で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用カーペット。
【請求項4】
前記吸音層に揮発性有機物質捕捉剤が混入、塗布又は散布されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車用カーペット。
【請求項5】
前記揮発性有機物質捕捉剤が平均粒径1〜200nmを有する二酸化珪素のアミノシラン反応物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の自動車用カーペット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−190417(P2009−190417A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9770(P2008−9770)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】