説明

自動車用ホイールの汚染防止方法および自動車用ホイール

【課題】ブレーキダストに対する汚染防止効果の高い自動車用ホイールを得る。
【解決手段】自動車用ホイールの表面に、水接触角が35°以下で、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)が50以下で、+に帯電するコーティング膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ホイールの汚染防止方法および汚染防止が施された自動車用ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物品の表面が汚染するのを防止するために多くの手段が提案されている。例えば、特許文献1には、シリコーンレジンを主成分とする無機塗料中に光半導体を含有してなる、帯電防止機能を長時間にわたり持続できる無機塗料が提案されている。特許文献2には車のボディやガラスなどの硬質表面に対して汚れの付着を抑制できる硬質表面用防汚剤として、正に帯電した平均粒径1〜100nmのシリカ系化合物および水を含有する防汚剤が記載されている。特許文献3には、2輪車に適するガラスコーティング方法が開示されており、親水性のガラスコーティングとすることにより、メンテナンスの煩わしさから解放されるとの記載がある。
【0003】
【特許文献1】特開平10−237358号公報
【特許文献2】特開2002−003820号公報
【特許文献3】特開2005−298944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高いブレーキ性能を備えた自動車が市販されるようになり、ブレーキパッドからのダストが自動車のホイールに付着してホイールを汚染させることから、その対策が求められている。本発明者らは、従来知られた上記したような汚染防止手段を自動車用ホイールに種々施して、汚染防止効果を得ようとしたが、ブレーキダストに対して充分な汚染防止効果を得ることができなかった。
【0005】
本発明は、上記のような事態に対処してなされたものであり、ブレーキダストに対する汚染度が低くかつ洗浄性にも優れた、改良された自動車用ホイールの汚染防止方法および汚染防止が施された自動車用ホイールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明者らはブレーキダストを採取して分析を行うことにより、ブレーキダストはブレーキパッドの細粉であることが多く、無機酸化物の表面が油分(有機物)で覆われているものがほとんどであること、また、ダストは+(プラス)に帯電したものがほとんどであることを知った。
【0007】
本発明は上記の知見に基づいており、本発明による自動車用ホイールの汚染防止方法は、自動車用ホイールの表面に、水接触角が35°以下で、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)が50以下で、+に帯電するコーティング膜を形成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明による自動車用ホイールは、自動車用ホイールであって、ホイール表面に、水接触角が35°以下で、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)が50以下で、+に帯電するコーティング膜が形成されていることを特徴とする。
【0009】
後の実施例に示すように、本発明によるコーティング膜が形成されている自動車用ホイールは、コーティング膜の表面が親水性(水接触角が35°以下、好ましくは10゜以下)であり、油分で覆われたブレーキダストは付着力が弱く、離れやすい。ちなみに、ブレーキダストの水接触角はほぼ62゜、油接触角はほぼ6゜であった。さらに、親水性に加えて、ホイール表面は+に帯電しており、+に帯電したブレーキダストとは静電反発して、ホイールにブレーキダストを寄せ付けない。さらに、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)が50以下(好ましくは20以下)と低帯電であり、停車後にすぐにアースされ、余分なダストを寄せ付けない。
【0010】
これらの効果が合体することにより、本発明による自動車用ホイールは、ブレーキダストに対する高い汚染防止効果を奏することができる。ホイールの表面に形成する膜厚に制限はないが、0.1〜0.25μm程度で充分に所期の目的は達成できる。膜厚0.1μm未満では、充分な汚染防止性能が得られない恐れがある。0.25μmを超える膜厚はオーバースペックである。
【0011】
本発明において、自動車用ホイール表面とは、ホイールの基材そのものの表面、または基材がアルミニウムの場合にはその表面に形成される陽極酸化被膜の表面、さらには、基材の表面に従来知られたアクリルメラミン等(例えばアクリルクリアー)からなる塗膜が形成される場合には、その塗膜の表面、等をいう。
【0012】
本発明による自動車用ホイールは、表面に上記の特性を持つコーティング膜が形成されていればよく、上記の条件を満たすことを条件に、コーティング膜に用いる材料に特に制限はない。本発明者らの実験によれば、好ましい材料の1つは、アモルファス型酸化チタンを主成分とし、親水基を含有する無機材料である。帯電性の向上などの目的で、錫、銅、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、マンガン等の導電性金属、またはその化合物を混入したものでもよい。具体例として、例えばペルオキソ基含有のチタン酸化物が挙げられる。
【0013】
他の1つは、酸化シリコンを主骨格とし、親水基を含有する無機材料である。具体例として、(イ)−Si−O−Si−O−(シロキサン結合)を骨格とした無機材料であってOH基を含有するもの、(ロ)CH等の有機部分と−Si−O−Si−O−を骨格とした無機部分とを持つ有機−無機結合材料であってOH基を含有するもの(ただし、有機部分はメチル基に限らない)、(ハ)一部にチタンアルコキシドからなる有機部分をもつ−Ti−O−Si−O−を骨格とした無機材料であってOH基を含有するもの、(ニ)前記(ロ)と(ハ)とを混合したもの、等が挙げられる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例と比較例とにより本発明を説明する。
【0015】
[実施例1]
自動車用ホイール用の基材として陽極酸化被膜を有するアルミニウム(アルマイト)を用いた。その表面にアモルファス型酸化チタン(TiO)を主成分とし、導電性金属として、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、またはその化合物の少なくとも1つを共存するもの、および親水基(OH基)を含有する無機コーティンク剤をスプレー塗装した。塗装後、乾燥処理を行い、基材表面に、膜厚0.1μmの無機コーティング膜を形成したものを評価素材とした。
【0016】
[実施例2]
自動車用ホイール用の基材としてアルミニウム表面にアクリル塗膜を形成したものを用いた。アリクル塗膜の表面に酸化シリコン(SiO)を主骨格とし親水基(OH基)を含有する無機コーティンク剤である、水酸基を表面に局在化させたポリシロキサンをスプレー塗装した。塗装後、乾燥処理を行い、アクリル塗膜表面に、膜厚0.2μmの無機コーティング膜を形成したものを評価素材とした。
【0017】
[比較例1]
実施例1で用いた基材の表面に、アモルファス型酸化チタン(TiO)を主成分とし、導電性金属として、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、またはその化合物の少なくとも1つを共存するもの、および撥水機を含有する無機コーティンク剤をスプレー塗装した。塗装後、乾燥処理を行い、基材表面に、膜厚0.1μmの無機コーティング膜を形成したものを評価素材とした。
【0018】
[比較例2]
実施例2で用いた基材のアクリル塗膜の表面に、酸化シリコン(SiO)を主骨格とし撥水基を含有する無機コーティンク剤をスプレー塗装した。塗装後、乾燥処理を行い、アクリル塗膜表面に、膜厚0.2μmの無機コーティング膜を形成したものを評価素材とした。
【0019】
[比較例3]
実施例2で用いた基材のアクリル塗膜の表面に、−SiHNH−を主骨格としたポリシラザンからなる塗膜を形成し、120℃で焼き付け乾燥して厚さ0.5μmのポリシラザン無機膜を形成したものを評価素材とした。
【0020】
[比較例4]
実施例2で用いたアルミニウム表面にアクリルクリアーとして知られているアクリルメラミン樹脂の塗膜を形成したものを評価素材とした。
【0021】
[比較例5]
実施例2で用いたアルミニウムそのものを評価基材とした。
【0022】
[比較例6]
6,6ナイロン膜を評価基材とした。
【0023】
[比較例7]
PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)膜を評価基材とした。
【0024】
[比較例8]
アルミ板の上に形成したクロムめっき面を評価基材とした。
【0025】
[比較例9]
ガラスを評価基材とした。
【0026】
[評価1]
水接触角:実施例1,2の評価基材および比較例1〜9の評価基材について、水接触角(゜)を測定した。その結果を表1に示した。
【0027】
[評価2]
飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec):実施例1,2の評価基材および比較例1〜9の評価基材について、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)を測定した。測定は、評価基材から試験片(50mm×50mm)を得、それにコロナ放電により非接触で+10kV印加し、試験片の帯電圧が飽和に達した値を飽和帯電圧(kV)とした。その後、試験片への電圧印加を止め、飽和帯電圧が半減する時間を帯電半減期(sec)とした。測定には、帯電電荷減衰度測定器(シシド静電気社製、STATIC HONESTMETER H−0110)を用いた。その結果を表1に示した。
【0028】
[評価3]
帯電極性:帯電状態にある実施例1,2の評価基材および比較例1〜9の評価基材の帯電極性を静電電位測定器(シシド静電気社製、STATIRON DZ3)にて測定した。その結果を、+5V以上を+、−5V以下を−として、表1に示した。
【0029】
[評価4]
汚染度の測定:実施例1,2の評価基材および比較例1〜9の評価基材について、ブレーキダスト汚れ試験機にて、実車走行距離4000kmに相当する汚れ試験を実施した後、汚染前の標準表面と汚染後の表面とを色彩色差計(コニカ・ミノルタ社製、CR−300)にて測定し、その色差ΔEを汚染度とした。その結果を表1に示した。
【0030】
[評価5]
洗浄性の測定:実施例1,2の評価基材および比較例1〜9の評価基材について、ブレーキダスト汚れ試験機にて、実車走行距離4000kmに相当する汚れ試験を実施した後、汚染した表面を毎分6リットルの水が出る蛇口より20cm離し、5秒間流水洗浄し、洗浄前の標準表面と汚染後の表面とを色彩色差計(コニカ・ミノルタ社製、CR−300)にて測定し、その色差ΔEを洗浄度とした。その結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
[評価6]
過去の経験から、上記評価4で説明した条件での汚染度(ΔE値)と評価5で説明した条件での洗浄性(ΔE値)がともに10程度以下であれば、自動車用ホイールの汚れ具合は綺麗と判断される。従って、実施例1と実施例2は本発明による所期の目的を達成するものであり、比較例との対比において、特性値として、水接触角は35°以下であり、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)は50以下であり、帯電極性が+であることの条件を満たすコーティング膜を、自動車用ホイールの表面に形成することで、所期の目的が達成されることがわかる。
【0033】
表2は、上記の条件を満たしているものに○、満たしていないものを×、として表1を書き換えたものである。ただし、汚染度と洗浄性については纏めて汚れ具合とし、綺麗、汚いとして示した。
【0034】
【表2】

【0035】
表1および表2から、比較例4に示されるように、従来用いられているアクリルメラミン塗膜はブレーキダストの付着防止については、充分でないことがわかる。また、比較例1と比較例2に示されるように、アモルファス型酸化チタンを主成分とした無機材料あるいは酸化シリコンを主骨格とした無機材料であっても、撥水基を備えたものの塗膜は、ブレーキダストの付着防止については充分でないことがわかる。比較例3のポリシラザンは水接触角は条件を満たしているが、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)値が58と高く、また帯電極性も−であることから、やはり、ブレーキダストの付着防止については充分でない。
【0036】
比較例5〜9は、各種素材そのものの表面について測定と比較を行ったものであり、上記実施例に示すような材料からなるコーティング膜を表面に形成しない場合には、ブレーキダストの付着と洗浄性に劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ブレーキダストによる汚染を嫌う自動車用ホイールの分野で有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ホイールの表面に、水接触角が35°以下で、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)が50以下で、+に帯電するコーティング膜を形成することを特徴とする自動車用ホイールの汚染防止方法。
【請求項2】
前記コーティング膜に用いる材料が、アモルファス型酸化チタンを主成分とし、親水基と好ましくは導電性金属を含有する無機材料であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用ホイールの汚染防止方法。
【請求項3】
前記コーティング膜に用いる材料が、酸化シリコンを主骨格とし、親水基を含有する無機材料であることを特徴とする請求項1記載の自動車用ホイールの汚染防止方法。
【請求項4】
自動車用ホイールの表面に、水接触角が35°以下で、飽和帯電圧(kV)×帯電半減期(sec)が50以下で、+に帯電するコーティング膜が形成されていることを特徴とする自動車用ホイール。
【請求項5】
前記コーティング膜は、アモルファス型酸化チタンを主成分とし、親水基と好ましくは導電性金属を含有する無機材料からなる膜であることを特徴とする請求項4に記載の自動車用ホイール。
【請求項6】
前記コーティング膜は、酸化シリコンを主骨格とし、親水基を含有する無機材料からなる膜であることを特徴とする請求項4に記載の自動車用ホイール。

【公開番号】特開2008−184025(P2008−184025A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19218(P2007−19218)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】