自動車車体のりん酸塩処理方法及び電着塗装処理方法
【課題】鋼製ボディにアルミニウム合金製ボンネットを連結した自動車車体に対するりん酸塩処理及びその後の電着塗装処理において、ボンネットヒンジの電気抵抗を調整したり、処理設備を改造したりすることなく、アルミニウム部分をも含めた車体全体にりん酸塩皮膜をむらなく均一に生成させることができ、しかもそのまま連続的に電着塗装を施すことができるりん酸塩処理方法及び電着塗装処理方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金製ボンネット12の一端側を鋼製ボディ11に絶縁状態に連結する一方、ボンネット12の他端側と鋼製ボディ11との間に、アルミニウム系材料から成る接続治具10を介在させた状態でりん酸塩処理を施したのち、りん酸塩処理後の車体にそのまま電着塗装を施す。
【解決手段】アルミニウム合金製ボンネット12の一端側を鋼製ボディ11に絶縁状態に連結する一方、ボンネット12の他端側と鋼製ボディ11との間に、アルミニウム系材料から成る接続治具10を介在させた状態でりん酸塩処理を施したのち、りん酸塩処理後の車体にそのまま電着塗装を施す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材とアルミニウム材とが連結された構造を有する自動車車体に、りん酸塩処理と、これに続いて電着塗装処理を施すための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装工程においては、通常、鋼板の防錆、塗膜の密着性の向上を目的に、先ず化成処理を施すことによって、車体表面にりん酸亜鉛などの化成皮膜を形成し、その次工程において、下塗りとしての電着塗装処理が行われている。
【0003】
ここで処理される対象物である自動車の車体は、一般に各種鋼材からなるものであるが、近年、車体の軽量化を図るために、車体の一部、例えばボンネットをアルミニウム合金材から成るものとし、鋼板材から成る車体の本体部分にアルミニウム製のボンネットを連結した車体構造のものがある。
【0004】
このような構造を備えた自動車車体の塗装工程においては、アルミニウム材と鋼材を組み合わせた状態で化成処理と電着塗装処理が行われることになるが、イオン化傾向が相違するアルミニウム材と鋼材を連結した状態で化成処理を施した場合には、アルミニウム材の鋼材との接触部近傍部位に十分な化成皮膜が生成せず、その部分が塗装後に腐食してしまうという懸念がある。
【0005】
そこで、連結部分に絶縁物を介在させてアルミニウム材と鋼材の間を電気的に絶縁した状態で化成処理を施すことによって、アルミニウム材の側にも十分な化成皮膜が形成されるようにする一方、その後の電着塗装においては、通電方法を工夫することによって十分な塗装膜が得られるようにする方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平8−92757号公報
【特許文献2】特開2000−129491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、アルミニウム材と鋼材から成る車体を化成処理するに際しては、アルミニウム材と鋼材とを絶縁することによって十分な化成皮膜を生成することができるが、その後の電着塗装処理を施す際には、両部材への導電性が要求される。
そこで、上記特許文献1記載の方法においては、化成処理における絶縁性と、電着塗装処理における導電性を両立させるために、両部材を連結するボンネットヒンジに、カーボン入りの樹脂から成るワッシャやブッシュを使用することによって、アルミニウム製ボンネットと鋼製ボディとの間の電気抵抗値を5Ω〜1kΩとなるようにコントロールすることが必要となるが、上記電気抵抗値はボンネットヒンジのヒンジピンやボルトの締結力によっても変化することから、ボンネットヒンジの材質選定や、その取り付け極めて面倒な作業となって、上記抵抗値の調整・管理は必ずしも容易ではなく、化成皮膜や電着塗装膜の厚さの変動要因となり得る。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法においては、鋼製ボディとアルミニウム製ボンネットの連結部を完全に絶縁しておき、これら両部材にそれぞれ接続されると共に、グランド電位に保持されたレール部材に摺接する集電部を設け、化成処理の際には集電部とレール部材の間を切り離して両部材を絶縁状態とする一方、電着塗装処理の際にはそれぞれの集電部をレール部材に接触させることによって両部材が通電状態となるようにしている。
しかしながら、化成処理工程とその後の電着塗装処理工程間で、通電状態の切換え作業の工数が増すばかりでなく、化成処理及び電着塗装処理設備の改造が必要となり、鋼材のみから成る車体が大部分を占める中で、一部のアルミ混在車体のために設備全体を改造するにはコストが掛かり過ぎるという問題がある。
【0008】
本発明は、鋼材とアルミニウム合金材の組合せから成るアルミ混在車体に対する化成処理と、その後の電着塗装処理における上記課題に鑑みてなされたものであって、連結部材の電気抵抗を調整したり、処理設備を改造したりすることなく、りん酸塩処理によって、アルミニウム材部分をも含めた車体全体に十分なりん酸塩皮膜をむらなく均一に生成させることができ、しかもそのまま連続的に電着塗装処理を施すことが可能なりん酸塩処理方法及び電着塗装処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、基端側においてボンネットヒンジを介して鋼製ボディに連結されたアルミニウム合金製ボンネットの先端側と鋼製ボディの間にアルミニウム合金製の接続治具を介在させた状態でりん酸塩処理を施すことによって、りん酸塩皮膜の不完全部分を接続治具に生じせしめることができ、ボンネット部分には十分なりん酸塩皮膜を均一に生成させることができると共に、接続治具によってボディとボンネットの間の電気的導通性が確保されることから、そのまま電着塗装処理に供することによって十分な電着塗膜が形成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のりん酸塩処理方法は、鋼材及びアルミニウム合金材の一方から成る第1の部材が、その一端側において鋼材及びアルミニウム合金材の他方から成る第2の部材に連結部材を介して回動可能に連結されて成る自動車車体にりん酸塩処理を施す方法であって、上記第1の部材の一端側を第2の部材に絶縁状態に連結すると共に、第1の部材の他端側と第2の部材との間をアルミニウム又はアルミニウム合金製の接続治具を介して電気的に接続した状態で処理するようにしている。
また、本発明の電着塗装処理においては、上記処理方法に基づいてりん酸塩処理を施した車体に、そのまま電着塗装を施すようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋼材又はアルミニウム合金材から成る第1の部材の一端側を異種材料である第2の部材に絶縁状態に連結すると共に、その他端側と第2の部材との間にアルミニウム又はアルミニウム合金製の接続治具を介在させることによって、両部材を離間すると共に、電気的に接続した状態で処理するようにしているので、上記接続治具を両部材のサイズや処理条件に応じた大きさのものとすることによって、りん酸塩皮膜の不完全生成部分を当該接続治具の部分に生じさせることができ、本来のアルミニウム合金材から成る部材の本体部分には、健全なりん酸塩皮膜を十分、且つ均一に生成させることができるという優れた効果がもたらされる。
【0012】
一方、当該りん酸塩処理に続く、電着塗装処理に際しては、上記接続治具によって両部材間の通電性が確保されているので、通電状態を切換えたり、抵抗値を微妙に調整したりすることなく、りん酸塩処理を終えたままの状態で、連続的に電着塗装処理を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の自動車用車体のりん酸塩処理方法及び電着塗装方法について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0014】
本発明の自動車用車体のりん酸塩処理方法及び電着塗装方法においては、上記したように、鋼材とアルミニウム合金材から成る車体の異種金属部材間に、アルミニウム系材料から成る接続治具を挟持した状態で処理することによって、りん酸塩皮膜の不具合部分を当該接続治具に負わせ、アルミニウム合金材から成る部材の本体部分での不具合発生を回避するようになすものであるが、当該接続治具の大きさとしては、部材のサイズや、処理方法、処理条件などに応じて最適範囲があって、一概に決めることが難しいが、小さければ本来の部材の本体部分にりん酸塩皮膜の不具合部分が及ぶ可能性が高くなり、大きくなれば接続治具としての取扱いがし難いものとなることから、概ね30mm〜200mm程度の長さのものが適当であって、両部材の離間距離を上記寸法範囲に保持できるものであれば良い。
【0015】
また、当該接続治具の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金、すなわち工業用純アルミニウムを含めた全てのアルミニウム系材料を用いることができ、その種類に限定はない。
【0016】
上記接続治具の形状についても、特に限定されることはないが、異種金属部材間に介装するに適した、部材間に保持され易い形状とすることが望ましく、必要に応じて相手部材に固定するためのクランプ手段や、相手部材と係合する溝や突起などを設けるようにしてもよい。
上記したように、第1の部材と第2の部材は、上記接続治具を介して電気的に接続されることになるが、このときの通電性の目安としては、これら部材間の電気抵抗値が5Ω未満程度であれば特に差し支えはない。なお、接続治具はアルミニウム系材料から成るものであるからして、上記のような寸法であれば、第1及び第2の部材間の抵抗値が5Ω以上となることはほとんどない。
【0017】
一方、第2の部材に連結部材をよって回動可能に連結される第1の部材の一端側においては、当該部分におけるりん酸塩皮膜の不具合発生を避ける観点から、絶縁状態とすることが必要であるが、ここで言う「絶縁状態」とは、必ずしも完全な絶縁(抵抗値が無限大)を意味するものではなく、上記接続治具を介して連結される第1の部材の他端側と第2の部材の間の抵抗値に対して十分に大きなものでありさえすればよい。
このような観点から、例えば鋼のような金属製のヒンジに塗装を施したものを第1の部材を回動可能に連結するための連結部材として使用することによって、本発明で言う「絶縁状態」とすることができる。
【0018】
本発明の処理対象である自動車車体に適用されるアルミニウム合金材料としては、例えば、JIS H4000やH4100に規定されるAl−Cu系、Al−CuーMg系、Al−Mn系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Zn−Mg−Cu系などの各種合金が用いられる。
また、鋼材としては、例えばJIS G3113に規定される自動車構造用熱間圧延鋼板、JIS G3134に規定される自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板、JIS G3135に規定される自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、JIS G3302に規定される溶融亜鉛めっき鋼板、JIS G3312に規定される塗装溶融亜鉛めっき鋼板、JIS G331に規定される電気亜鉛めっき鋼板などを用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(供試材)
JIS H4100に合金番号6063として規定されるAl−Mg−Si系合金から成り、70mm×75mm×0.8mm厚さの矩形アルミニウム合金材1と、同一形状、同一素材から成るアルミニウム合金材2と、自動車用冷延鋼板から成る同一形状の鋼板材3を使用し、これらを図1に示すように、25mmずつ重ね合わせた状態で、下記に示すような条件のもとにりん酸亜鉛処理を施し、りん酸亜鉛皮膜の生成状態を確認した。
なお、上記供試材において、アルミニウム合金材1は自動車車体のアルミニウム合金製ボンネットを、アルミニウム合金材2は接続治具を、鋼板材3は鋼製ボディをそれぞれ想定したものである。また、上記各板材1〜3の重ね合わせ部の固定には、絶縁されたクリップを使用した。
【0021】
(りん酸亜鉛処理)
まず、上記供試材に対して、ファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤)、すなわちファインクリーナーL4460Aの2%、ファインクリーナーL4460Bの1.2%水溶液を43℃として、120秒間スプレーすることによって脱脂処理した後、水道水を常温で30秒間スプレー処理することによって、上記脱脂剤を水洗した。
次いで、プレパレン4040N(日本パーカライジング(株)製表面調整剤)の0.15%水溶液に、常温で30秒間浸漬処理することによって、表面調整を行なった。
【0022】
そして、パルボンドL3060(日本パーカライジング(株)製りん酸亜鉛処理剤)を用いて、上記供試材にりん酸亜鉛処理を実施した。
すなわち、4.8%のパルボンドL3060建浴剤と、0.5%の添加剤4813と、1.7%の添加剤4856と、0.18%の添加剤4932を混合した水溶液に、中和剤4055を添加することによって、その全酸度を22〜24ptに、遊離酸度を0.7〜1.2ptに調整したものを処理液とし、これを43℃に保持すると共に、さらにAC−131(日本パーカライジング(株)製促進剤)を0.05%添加した中に、上記供試材を120秒間浸漬処理した。
【0023】
ここで、全酸度とは、パルボンドL3060の処理液10mlに、フェノールフタレインを3滴加え、0.1規定の水酸化ナトリウムで無色からピンク色になるまで中和滴定を行い、このとき要した0.1規定水酸化ナトリウムの容量1mlを1ptとするものである。
また、遊離酸度とは、パルボンドL3060の処理液10mlに、ブロムフェノールブルーを3滴加え、0.1規定の水酸化ナトリウムで黄緑色から青緑色になるまで中和滴定を行い、このとき要した0.1規定水酸化ナトリウムの容量1mlを1ptとするものである。
【0024】
りん酸亜鉛処理後の供試材に対して、水道水を常温で30秒間スプレーすると共に、さらに脱イオン水(導電度:1μS/cm)を同じく常温で30秒間スプレーすることによって、水洗処理した後、電気オーブンを使用して、110℃に5分間放置することによって水切り乾燥した。
【0025】
(りん酸亜鉛皮膜の生成状況)
りん酸亜鉛処理を終えた供試材におけるアルミニウム合金材1のA部及びB部(アルミニウム合金材2との重ね合わせ部)、アルミニウム合金材2のC部(鋼板材3との重ね合わせ部)の3ヶ所について、皮膜外観を目視観察によって評価すると共に、皮膜形状を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)にて観察した。さらに、りん酸亜鉛皮膜を無水クロム酸の50g/L水溶液によって剥離し、剥離前後の重量差によって皮膜重量を算出した。これらの結果を表1及び図2〜4(電子顕微鏡写真)に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1の結果から明らかなように、アルミニウム合金材1のA部及びB部におけるりん酸亜鉛皮膜状態は、皮膜外観、皮膜重量、皮膜結晶状態において良好な皮膜特性を示していることが確認された。
このことから、異種金属間に発生する悪影響をアルミニウム合金材2(接続治具相当)が吸収し、アルミニウム合金材1(ボンネット相当)には影響が及ばないことが判明した。
【0028】
実施例2
(供試材)
図5に示すように、鋼製ボディ11に、アルミニウム合金製ボンネット12を樹脂材料を用いたボンネットヒンジ13を介して、絶縁状態に連結して成る自動車車体に、実際の表面処理及び電着塗装ラインにおいてりん酸亜鉛処理及び電着塗装処理を施した。
このとき、基端側(後方側)において鋼製ボディ11に回動可能に連結されたアルミニウム合金製ボンネット12の先端側(前方側)には、アルミニウム合金から成る長さ30mmの接続治具10を鋼製ボディ11との間に介装した状態でりん酸亜鉛処理及び電着塗装処理を実施した。なお、上記接続治具10を介装した状態において、鋼製ボディ11とボンネット12の間の電気抵抗は1Ω以下であった。
【0029】
(りん酸亜鉛処理)
まず、40℃の水道水を120秒間スプレー処理することによって、上記車体を湯洗したのち、ファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤)、すなわちファインクリーナーL4460Aの2%、ファインクリーナーL4460Bの1.2%水溶液を43℃として、30秒間スプレー処理し、さらに当該脱脂剤水溶液中に120秒間浸漬することによって脱脂処理した後、水道水を常温で30秒間スプレー処理することによって水洗した。
次いで、上記実施例1と同様に、プレパレン4040Nの0.15%水溶液に、常温で30秒間浸漬処理することによって、表面調整を行なった。
【0030】
そして、上記実施例1と同様の成分と、全酸度及び遊離酸度を有するりん酸亜鉛処理液中に、上記車体を同様に120秒間浸漬処理することによって、りん酸亜鉛処理を実施した。
【0031】
続いて、りん酸亜鉛処理後の車体に対して、水道水を常温で30秒間スプレーする水洗処理を3回繰り返すと共に、常温の脱イオン水(導電度:20μS/cm)中に30秒間浸漬処理した後、さらに脱イオン水(導電度:1μS/cm)を常温でミストスプレーすることによって脱イオン水洗処理を行なった。
水洗処理した後、600秒間110℃に保持して、水切り乾燥を行なった。
【0032】
(電着塗装処理)
りん酸亜鉛処理を終えた車体に対して、エレクロンNT−100C(関西ペイント(株)製カチオン電着塗料)を用いて、浴音27℃、電圧330V、通電時間180秒の条件で電着塗装を施した後、180℃に20分間保持して焼付け処理を行なった。
【0033】
(りん酸亜鉛皮膜の生成状況)
りん酸亜鉛処理を終えた車体のアルミニウム合金製ボンネット12について、図5に示すボンネット12のD部及びE部について、皮膜外観、皮膜形状及び皮膜重量を上記実施例1と同様の要領によって観察及び算出した。これらの結果を表2及び図7〜8(電子顕微鏡写真)に示す。
【0034】
(電着塗装状況)
電着塗装及び焼付け処理後の車体の塗装外観を目視観察によって評価した。
【0035】
比較例1
図5に示した自動車車体にりん酸亜鉛処理及び電着塗装処理を施すに際して、アルミニウム合金製ボンネット12の先端側(前方側)と鋼製ボディ11との間に介装した接続治具10をアルミニウム合金製に代えて、同一形状・サイズの鋼製のものを使用したことを除いて、上記実施例1と同様の操作を繰返し、得られたりん酸亜鉛皮膜の生成状況及び電着塗装外観を同様に評価した。その結果を表2及び図9〜10(電子顕微鏡写真)に併せて示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2の結果から明らかなように、アルミニウム合金製ボンネット12と鋼製ボディ11の間にアルミニウム合金から成る接続治具10を介在させた状態でりん酸塩処理を施した実施例2においては、アルミニウム合金製ボンネット12のD部及びE部を含めて、図11(a)に示すように、全体に均一なりん酸亜鉛皮膜生成状態を示し、皮膜外観、皮膜重量、皮膜結晶状態において良好な皮膜特性結果を示している。
【0038】
これに対し、鋼製の接続治具を用いた比較例1においては、ボンネット12のD部の皮膜重量が低く、りん酸亜鉛の結晶析出が不十分である。そして、図11(b)に斜線で示すように、結晶析出の不十分な部分がボンネット12の前縁部及び両側縁部に広がっていることが目視で確認された。
【0039】
また、電着塗装膜の外観についても、実施例2においては全面的に均一で良好な塗装外観を示すのに対し、比較例1では図11(b)に示した外縁部のりん酸亜鉛皮膜の不完全部分との境界に塗装膜の段差が発生し、外観不良となることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例1に用いた供試材の形状及び配置状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した供試材のA部におけるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図1に示した供試材のB部におけるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図1に示した供試材のC部におけるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2に用いた鋼材とアルミニウム合金材から成る自動車の車体構造を示す概略図である。
【図6】本発明の実施例2におけるアルミニウム合金製ボンネットのりん酸亜鉛皮膜の生成状況の評価部位を示す説明図である。
【図7】図6に示したD部における実施例2によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図6に示したE部における実施例2によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】図6に示したD部における比較例1によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】図6に示したE部における実施例2によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例2(a)及び比較例1(b)によるアルミニウム合金製ボンネットのりん酸亜鉛皮膜の生成状況を示す概略図である。
【符号の説明】
【0041】
10 接続治具
11 鋼製ボディ(第2の部材)
12 アルミニウム合金製ボンネット(第1の部材)
13 ボンネットヒンジ(連結部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材とアルミニウム材とが連結された構造を有する自動車車体に、りん酸塩処理と、これに続いて電着塗装処理を施すための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装工程においては、通常、鋼板の防錆、塗膜の密着性の向上を目的に、先ず化成処理を施すことによって、車体表面にりん酸亜鉛などの化成皮膜を形成し、その次工程において、下塗りとしての電着塗装処理が行われている。
【0003】
ここで処理される対象物である自動車の車体は、一般に各種鋼材からなるものであるが、近年、車体の軽量化を図るために、車体の一部、例えばボンネットをアルミニウム合金材から成るものとし、鋼板材から成る車体の本体部分にアルミニウム製のボンネットを連結した車体構造のものがある。
【0004】
このような構造を備えた自動車車体の塗装工程においては、アルミニウム材と鋼材を組み合わせた状態で化成処理と電着塗装処理が行われることになるが、イオン化傾向が相違するアルミニウム材と鋼材を連結した状態で化成処理を施した場合には、アルミニウム材の鋼材との接触部近傍部位に十分な化成皮膜が生成せず、その部分が塗装後に腐食してしまうという懸念がある。
【0005】
そこで、連結部分に絶縁物を介在させてアルミニウム材と鋼材の間を電気的に絶縁した状態で化成処理を施すことによって、アルミニウム材の側にも十分な化成皮膜が形成されるようにする一方、その後の電着塗装においては、通電方法を工夫することによって十分な塗装膜が得られるようにする方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平8−92757号公報
【特許文献2】特開2000−129491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、アルミニウム材と鋼材から成る車体を化成処理するに際しては、アルミニウム材と鋼材とを絶縁することによって十分な化成皮膜を生成することができるが、その後の電着塗装処理を施す際には、両部材への導電性が要求される。
そこで、上記特許文献1記載の方法においては、化成処理における絶縁性と、電着塗装処理における導電性を両立させるために、両部材を連結するボンネットヒンジに、カーボン入りの樹脂から成るワッシャやブッシュを使用することによって、アルミニウム製ボンネットと鋼製ボディとの間の電気抵抗値を5Ω〜1kΩとなるようにコントロールすることが必要となるが、上記電気抵抗値はボンネットヒンジのヒンジピンやボルトの締結力によっても変化することから、ボンネットヒンジの材質選定や、その取り付け極めて面倒な作業となって、上記抵抗値の調整・管理は必ずしも容易ではなく、化成皮膜や電着塗装膜の厚さの変動要因となり得る。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法においては、鋼製ボディとアルミニウム製ボンネットの連結部を完全に絶縁しておき、これら両部材にそれぞれ接続されると共に、グランド電位に保持されたレール部材に摺接する集電部を設け、化成処理の際には集電部とレール部材の間を切り離して両部材を絶縁状態とする一方、電着塗装処理の際にはそれぞれの集電部をレール部材に接触させることによって両部材が通電状態となるようにしている。
しかしながら、化成処理工程とその後の電着塗装処理工程間で、通電状態の切換え作業の工数が増すばかりでなく、化成処理及び電着塗装処理設備の改造が必要となり、鋼材のみから成る車体が大部分を占める中で、一部のアルミ混在車体のために設備全体を改造するにはコストが掛かり過ぎるという問題がある。
【0008】
本発明は、鋼材とアルミニウム合金材の組合せから成るアルミ混在車体に対する化成処理と、その後の電着塗装処理における上記課題に鑑みてなされたものであって、連結部材の電気抵抗を調整したり、処理設備を改造したりすることなく、りん酸塩処理によって、アルミニウム材部分をも含めた車体全体に十分なりん酸塩皮膜をむらなく均一に生成させることができ、しかもそのまま連続的に電着塗装処理を施すことが可能なりん酸塩処理方法及び電着塗装処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、基端側においてボンネットヒンジを介して鋼製ボディに連結されたアルミニウム合金製ボンネットの先端側と鋼製ボディの間にアルミニウム合金製の接続治具を介在させた状態でりん酸塩処理を施すことによって、りん酸塩皮膜の不完全部分を接続治具に生じせしめることができ、ボンネット部分には十分なりん酸塩皮膜を均一に生成させることができると共に、接続治具によってボディとボンネットの間の電気的導通性が確保されることから、そのまま電着塗装処理に供することによって十分な電着塗膜が形成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のりん酸塩処理方法は、鋼材及びアルミニウム合金材の一方から成る第1の部材が、その一端側において鋼材及びアルミニウム合金材の他方から成る第2の部材に連結部材を介して回動可能に連結されて成る自動車車体にりん酸塩処理を施す方法であって、上記第1の部材の一端側を第2の部材に絶縁状態に連結すると共に、第1の部材の他端側と第2の部材との間をアルミニウム又はアルミニウム合金製の接続治具を介して電気的に接続した状態で処理するようにしている。
また、本発明の電着塗装処理においては、上記処理方法に基づいてりん酸塩処理を施した車体に、そのまま電着塗装を施すようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋼材又はアルミニウム合金材から成る第1の部材の一端側を異種材料である第2の部材に絶縁状態に連結すると共に、その他端側と第2の部材との間にアルミニウム又はアルミニウム合金製の接続治具を介在させることによって、両部材を離間すると共に、電気的に接続した状態で処理するようにしているので、上記接続治具を両部材のサイズや処理条件に応じた大きさのものとすることによって、りん酸塩皮膜の不完全生成部分を当該接続治具の部分に生じさせることができ、本来のアルミニウム合金材から成る部材の本体部分には、健全なりん酸塩皮膜を十分、且つ均一に生成させることができるという優れた効果がもたらされる。
【0012】
一方、当該りん酸塩処理に続く、電着塗装処理に際しては、上記接続治具によって両部材間の通電性が確保されているので、通電状態を切換えたり、抵抗値を微妙に調整したりすることなく、りん酸塩処理を終えたままの状態で、連続的に電着塗装処理を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の自動車用車体のりん酸塩処理方法及び電着塗装方法について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0014】
本発明の自動車用車体のりん酸塩処理方法及び電着塗装方法においては、上記したように、鋼材とアルミニウム合金材から成る車体の異種金属部材間に、アルミニウム系材料から成る接続治具を挟持した状態で処理することによって、りん酸塩皮膜の不具合部分を当該接続治具に負わせ、アルミニウム合金材から成る部材の本体部分での不具合発生を回避するようになすものであるが、当該接続治具の大きさとしては、部材のサイズや、処理方法、処理条件などに応じて最適範囲があって、一概に決めることが難しいが、小さければ本来の部材の本体部分にりん酸塩皮膜の不具合部分が及ぶ可能性が高くなり、大きくなれば接続治具としての取扱いがし難いものとなることから、概ね30mm〜200mm程度の長さのものが適当であって、両部材の離間距離を上記寸法範囲に保持できるものであれば良い。
【0015】
また、当該接続治具の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金、すなわち工業用純アルミニウムを含めた全てのアルミニウム系材料を用いることができ、その種類に限定はない。
【0016】
上記接続治具の形状についても、特に限定されることはないが、異種金属部材間に介装するに適した、部材間に保持され易い形状とすることが望ましく、必要に応じて相手部材に固定するためのクランプ手段や、相手部材と係合する溝や突起などを設けるようにしてもよい。
上記したように、第1の部材と第2の部材は、上記接続治具を介して電気的に接続されることになるが、このときの通電性の目安としては、これら部材間の電気抵抗値が5Ω未満程度であれば特に差し支えはない。なお、接続治具はアルミニウム系材料から成るものであるからして、上記のような寸法であれば、第1及び第2の部材間の抵抗値が5Ω以上となることはほとんどない。
【0017】
一方、第2の部材に連結部材をよって回動可能に連結される第1の部材の一端側においては、当該部分におけるりん酸塩皮膜の不具合発生を避ける観点から、絶縁状態とすることが必要であるが、ここで言う「絶縁状態」とは、必ずしも完全な絶縁(抵抗値が無限大)を意味するものではなく、上記接続治具を介して連結される第1の部材の他端側と第2の部材の間の抵抗値に対して十分に大きなものでありさえすればよい。
このような観点から、例えば鋼のような金属製のヒンジに塗装を施したものを第1の部材を回動可能に連結するための連結部材として使用することによって、本発明で言う「絶縁状態」とすることができる。
【0018】
本発明の処理対象である自動車車体に適用されるアルミニウム合金材料としては、例えば、JIS H4000やH4100に規定されるAl−Cu系、Al−CuーMg系、Al−Mn系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Zn−Mg−Cu系などの各種合金が用いられる。
また、鋼材としては、例えばJIS G3113に規定される自動車構造用熱間圧延鋼板、JIS G3134に規定される自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板、JIS G3135に規定される自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、JIS G3302に規定される溶融亜鉛めっき鋼板、JIS G3312に規定される塗装溶融亜鉛めっき鋼板、JIS G331に規定される電気亜鉛めっき鋼板などを用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(供試材)
JIS H4100に合金番号6063として規定されるAl−Mg−Si系合金から成り、70mm×75mm×0.8mm厚さの矩形アルミニウム合金材1と、同一形状、同一素材から成るアルミニウム合金材2と、自動車用冷延鋼板から成る同一形状の鋼板材3を使用し、これらを図1に示すように、25mmずつ重ね合わせた状態で、下記に示すような条件のもとにりん酸亜鉛処理を施し、りん酸亜鉛皮膜の生成状態を確認した。
なお、上記供試材において、アルミニウム合金材1は自動車車体のアルミニウム合金製ボンネットを、アルミニウム合金材2は接続治具を、鋼板材3は鋼製ボディをそれぞれ想定したものである。また、上記各板材1〜3の重ね合わせ部の固定には、絶縁されたクリップを使用した。
【0021】
(りん酸亜鉛処理)
まず、上記供試材に対して、ファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤)、すなわちファインクリーナーL4460Aの2%、ファインクリーナーL4460Bの1.2%水溶液を43℃として、120秒間スプレーすることによって脱脂処理した後、水道水を常温で30秒間スプレー処理することによって、上記脱脂剤を水洗した。
次いで、プレパレン4040N(日本パーカライジング(株)製表面調整剤)の0.15%水溶液に、常温で30秒間浸漬処理することによって、表面調整を行なった。
【0022】
そして、パルボンドL3060(日本パーカライジング(株)製りん酸亜鉛処理剤)を用いて、上記供試材にりん酸亜鉛処理を実施した。
すなわち、4.8%のパルボンドL3060建浴剤と、0.5%の添加剤4813と、1.7%の添加剤4856と、0.18%の添加剤4932を混合した水溶液に、中和剤4055を添加することによって、その全酸度を22〜24ptに、遊離酸度を0.7〜1.2ptに調整したものを処理液とし、これを43℃に保持すると共に、さらにAC−131(日本パーカライジング(株)製促進剤)を0.05%添加した中に、上記供試材を120秒間浸漬処理した。
【0023】
ここで、全酸度とは、パルボンドL3060の処理液10mlに、フェノールフタレインを3滴加え、0.1規定の水酸化ナトリウムで無色からピンク色になるまで中和滴定を行い、このとき要した0.1規定水酸化ナトリウムの容量1mlを1ptとするものである。
また、遊離酸度とは、パルボンドL3060の処理液10mlに、ブロムフェノールブルーを3滴加え、0.1規定の水酸化ナトリウムで黄緑色から青緑色になるまで中和滴定を行い、このとき要した0.1規定水酸化ナトリウムの容量1mlを1ptとするものである。
【0024】
りん酸亜鉛処理後の供試材に対して、水道水を常温で30秒間スプレーすると共に、さらに脱イオン水(導電度:1μS/cm)を同じく常温で30秒間スプレーすることによって、水洗処理した後、電気オーブンを使用して、110℃に5分間放置することによって水切り乾燥した。
【0025】
(りん酸亜鉛皮膜の生成状況)
りん酸亜鉛処理を終えた供試材におけるアルミニウム合金材1のA部及びB部(アルミニウム合金材2との重ね合わせ部)、アルミニウム合金材2のC部(鋼板材3との重ね合わせ部)の3ヶ所について、皮膜外観を目視観察によって評価すると共に、皮膜形状を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)にて観察した。さらに、りん酸亜鉛皮膜を無水クロム酸の50g/L水溶液によって剥離し、剥離前後の重量差によって皮膜重量を算出した。これらの結果を表1及び図2〜4(電子顕微鏡写真)に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1の結果から明らかなように、アルミニウム合金材1のA部及びB部におけるりん酸亜鉛皮膜状態は、皮膜外観、皮膜重量、皮膜結晶状態において良好な皮膜特性を示していることが確認された。
このことから、異種金属間に発生する悪影響をアルミニウム合金材2(接続治具相当)が吸収し、アルミニウム合金材1(ボンネット相当)には影響が及ばないことが判明した。
【0028】
実施例2
(供試材)
図5に示すように、鋼製ボディ11に、アルミニウム合金製ボンネット12を樹脂材料を用いたボンネットヒンジ13を介して、絶縁状態に連結して成る自動車車体に、実際の表面処理及び電着塗装ラインにおいてりん酸亜鉛処理及び電着塗装処理を施した。
このとき、基端側(後方側)において鋼製ボディ11に回動可能に連結されたアルミニウム合金製ボンネット12の先端側(前方側)には、アルミニウム合金から成る長さ30mmの接続治具10を鋼製ボディ11との間に介装した状態でりん酸亜鉛処理及び電着塗装処理を実施した。なお、上記接続治具10を介装した状態において、鋼製ボディ11とボンネット12の間の電気抵抗は1Ω以下であった。
【0029】
(りん酸亜鉛処理)
まず、40℃の水道水を120秒間スプレー処理することによって、上記車体を湯洗したのち、ファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤)、すなわちファインクリーナーL4460Aの2%、ファインクリーナーL4460Bの1.2%水溶液を43℃として、30秒間スプレー処理し、さらに当該脱脂剤水溶液中に120秒間浸漬することによって脱脂処理した後、水道水を常温で30秒間スプレー処理することによって水洗した。
次いで、上記実施例1と同様に、プレパレン4040Nの0.15%水溶液に、常温で30秒間浸漬処理することによって、表面調整を行なった。
【0030】
そして、上記実施例1と同様の成分と、全酸度及び遊離酸度を有するりん酸亜鉛処理液中に、上記車体を同様に120秒間浸漬処理することによって、りん酸亜鉛処理を実施した。
【0031】
続いて、りん酸亜鉛処理後の車体に対して、水道水を常温で30秒間スプレーする水洗処理を3回繰り返すと共に、常温の脱イオン水(導電度:20μS/cm)中に30秒間浸漬処理した後、さらに脱イオン水(導電度:1μS/cm)を常温でミストスプレーすることによって脱イオン水洗処理を行なった。
水洗処理した後、600秒間110℃に保持して、水切り乾燥を行なった。
【0032】
(電着塗装処理)
りん酸亜鉛処理を終えた車体に対して、エレクロンNT−100C(関西ペイント(株)製カチオン電着塗料)を用いて、浴音27℃、電圧330V、通電時間180秒の条件で電着塗装を施した後、180℃に20分間保持して焼付け処理を行なった。
【0033】
(りん酸亜鉛皮膜の生成状況)
りん酸亜鉛処理を終えた車体のアルミニウム合金製ボンネット12について、図5に示すボンネット12のD部及びE部について、皮膜外観、皮膜形状及び皮膜重量を上記実施例1と同様の要領によって観察及び算出した。これらの結果を表2及び図7〜8(電子顕微鏡写真)に示す。
【0034】
(電着塗装状況)
電着塗装及び焼付け処理後の車体の塗装外観を目視観察によって評価した。
【0035】
比較例1
図5に示した自動車車体にりん酸亜鉛処理及び電着塗装処理を施すに際して、アルミニウム合金製ボンネット12の先端側(前方側)と鋼製ボディ11との間に介装した接続治具10をアルミニウム合金製に代えて、同一形状・サイズの鋼製のものを使用したことを除いて、上記実施例1と同様の操作を繰返し、得られたりん酸亜鉛皮膜の生成状況及び電着塗装外観を同様に評価した。その結果を表2及び図9〜10(電子顕微鏡写真)に併せて示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2の結果から明らかなように、アルミニウム合金製ボンネット12と鋼製ボディ11の間にアルミニウム合金から成る接続治具10を介在させた状態でりん酸塩処理を施した実施例2においては、アルミニウム合金製ボンネット12のD部及びE部を含めて、図11(a)に示すように、全体に均一なりん酸亜鉛皮膜生成状態を示し、皮膜外観、皮膜重量、皮膜結晶状態において良好な皮膜特性結果を示している。
【0038】
これに対し、鋼製の接続治具を用いた比較例1においては、ボンネット12のD部の皮膜重量が低く、りん酸亜鉛の結晶析出が不十分である。そして、図11(b)に斜線で示すように、結晶析出の不十分な部分がボンネット12の前縁部及び両側縁部に広がっていることが目視で確認された。
【0039】
また、電着塗装膜の外観についても、実施例2においては全面的に均一で良好な塗装外観を示すのに対し、比較例1では図11(b)に示した外縁部のりん酸亜鉛皮膜の不完全部分との境界に塗装膜の段差が発生し、外観不良となることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例1に用いた供試材の形状及び配置状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した供試材のA部におけるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図1に示した供試材のB部におけるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図1に示した供試材のC部におけるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2に用いた鋼材とアルミニウム合金材から成る自動車の車体構造を示す概略図である。
【図6】本発明の実施例2におけるアルミニウム合金製ボンネットのりん酸亜鉛皮膜の生成状況の評価部位を示す説明図である。
【図7】図6に示したD部における実施例2によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図6に示したE部における実施例2によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】図6に示したD部における比較例1によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】図6に示したE部における実施例2によるりん酸亜鉛皮膜の生成状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例2(a)及び比較例1(b)によるアルミニウム合金製ボンネットのりん酸亜鉛皮膜の生成状況を示す概略図である。
【符号の説明】
【0041】
10 接続治具
11 鋼製ボディ(第2の部材)
12 アルミニウム合金製ボンネット(第1の部材)
13 ボンネットヒンジ(連結部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材及びアルミニウム合金材の一方から成る第1の部材が、その一端側において鋼材及びアルミニウム合金材の他方から成る第2の部材に連結部材を介して回動可能に連結されて成る自動車車体にりん酸塩処理を施すに際して、
上記第1の部材の一端側を絶縁状態に連結すると共に、第1の部材の他端側と第2の部材との間をアルミニウム又はアルミニウム合金製の接続治具を介して電気的に接続した状態で処理することを特徴とするりん酸塩処理方法。
【請求項2】
上記接続治具を介して離間される第1と第2の部材の距離が30〜200mmであることを特徴とする請求項1に記載のりん酸塩処理方法。
【請求項3】
上記接続治具を接続した状態における第1の部材と第2の部材との間の電気抵抗が5Ω未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のりん酸塩処理方法。
【請求項4】
第1の部材がアルミニウム合金材から成るボンネットであって、第2の部材が鋼材から成るボディであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のりん酸塩処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の方法によってりん酸塩処理を施した車体に、そのまま電着塗装を施すことを特徴とする自動車車体の電着塗装処理方法。
【請求項1】
鋼材及びアルミニウム合金材の一方から成る第1の部材が、その一端側において鋼材及びアルミニウム合金材の他方から成る第2の部材に連結部材を介して回動可能に連結されて成る自動車車体にりん酸塩処理を施すに際して、
上記第1の部材の一端側を絶縁状態に連結すると共に、第1の部材の他端側と第2の部材との間をアルミニウム又はアルミニウム合金製の接続治具を介して電気的に接続した状態で処理することを特徴とするりん酸塩処理方法。
【請求項2】
上記接続治具を介して離間される第1と第2の部材の距離が30〜200mmであることを特徴とする請求項1に記載のりん酸塩処理方法。
【請求項3】
上記接続治具を接続した状態における第1の部材と第2の部材との間の電気抵抗が5Ω未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のりん酸塩処理方法。
【請求項4】
第1の部材がアルミニウム合金材から成るボンネットであって、第2の部材が鋼材から成るボディであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のりん酸塩処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の方法によってりん酸塩処理を施した車体に、そのまま電着塗装を施すことを特徴とする自動車車体の電着塗装処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−283150(P2006−283150A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106210(P2005−106210)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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