説明

自在継手用トルク伝達部材、自在継手および自在継手用トルク伝達部材の製造方法

【課題】安価でありながら、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材およびその製造方法、さらに当該自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手を提供する。
【解決手段】固定ジョイント1を構成する自在継手用トルク伝達部材であるボール13は、βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成されている。そして、ボール13の接触面であるボール転走面13Aを含む領域には、内部13Cよりも緻密性の高い層であるボール緻密層13Bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自在継手用トルク伝達部材、自在継手および自在継手用トルク伝達部材の製造方法に関し、より特定的には、βサイアロンを主成分とする焼結体を採用した自在継手用トルク伝達部材、自在継手および自在継手用トルク伝達部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素やサイアロンなどのセラミックスは、鋼に比べて比重が小さく、かつ耐食性が高いだけでなく、絶縁性を有するという特徴を備えている。そのため、自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手の構成部品、たとえば自在継手用トルク伝達部材の素材にセラミックスを採用した場合、自在継手の軽量化が可能となるとともに、自在継手用トルク伝達部材の腐食による損傷、電食による自在継手の短寿命化などを抑制することができる。
【0003】
また、自在継手においては、自在継手用トルク伝達部材が軌道部材の表面上において、転走と停止とを繰り返すため、自在継手用トルク伝達部材と軌道部材との間に十分な油膜が形成されない。さらに、自在継手は、内部に水分が浸入するおそれのある環境において使用される場合も多く、潤滑が不十分となる場合もある。セラミックスからなる自在継手用トルク伝達部材は、上述のような不十分な潤滑環境下においても損傷しにくいという特徴を有している。そのため、たとえば自在継手用トルク伝達部材の素材にセラミックスを採用することにより、不十分な潤滑環境下において使用される自在継手の耐久性を向上させることができる。
【0004】
しかし、窒化珪素やサイアロンなどのセラミックスは、鋼に比べて製造コストが高いため、自在継手の構成部品の素材としてセラミックスを採用すると、自在継手の製造コストが大幅に上昇するという問題点があった。
【0005】
これに対し、近年、セラミックスであるβサイアロンを、燃焼合成法を含む製造工程を採用することにより、低コストで製造する方法が開発された(たとえば特許文献1〜3参照)。そのため、このβサイアロンを構成部品の素材として採用した低価格な自在継手の製造が検討され得る。
【特許文献1】特開2004−91272号公報
【特許文献2】特開2005−75652号公報
【特許文献3】特開2005−194154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記βサイアロンを自在継手用トルク伝達部材の素材として採用するためには、βサイアロンからなる自在継手用トルク伝達部材が十分な耐久性を有している必要がある。より具体的には、自在継手用トルク伝達部材は、自在継手が動作することにより、軌道上を滑りつつ転がる。そのため、自在継手用トルク伝達部材は転がり滑り疲労を受ける。この転がり滑り疲労に対する耐久性は、自在継手用トルク伝達部材の破壊強度等とは必ずしも一致せず、βサイアロンからなる自在継手用トルク伝達部材も、必ずしも十分な転がり滑り疲労に対する耐久性を有しているとはいえない。そのため、βサイアロンからなる自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手においても、十分な耐久性を安定して確保することは容易ではないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、安価でありながら、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体(βサイアロンを主成分とする焼結体)からなる自在継手用トルク伝達部材およびその製造方法、さらに当該自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面における自在継手用トルク伝達部材は、自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、第1の軸部材または第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を第1の軸部材または第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材である。この自在継手用トルク伝達部材は、βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成されている。そして、他の部材と接触する面である接触面を含む領域には、内部よりも緻密性の高い層である緻密層が形成されている。
【0009】
本発明の他の局面における自在継手用トルク伝達部材は、自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、第1の軸部材または第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を第1の軸部材または第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材である。この自在継手用トルク伝達部材は、βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる焼結体から構成されている。そして、他の部材と接触する面である接触面を含む領域には、内部よりも緻密性の高い層である緻密層が形成されている。
【0010】
本発明者は、βサイアロンを主成分とする自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性と、自在継手用トルク伝達部材の構成との関係を詳細に調査した。その結果、以下の知見が得られ、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、上述のβサイアロンを主成分とする焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材においては、その緻密性が自在継手用トルク伝達部材において最も重要な耐久性の1つである転がり滑り疲労に対する耐久性に大きく影響する。これに対し、上記本発明の自在継手用トルク伝達部材は、βサイアロンを主成分とする焼結体からなり、接触面を含む領域に内部よりも緻密性の高い層である緻密層が形成されている。その結果、本発明の自在継手用トルク伝達部材によれば、安価でありながら、転がり滑り疲労に対する耐久性が向上することにより十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロンを主成分とする焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材を提供することができる。
【0012】
ここで、緻密性の高い層とは、焼結体において空孔率の低い(密度の高い)層であって、たとえば以下のように調査することができる。まず、自在継手用トルク伝達部材の表面に垂直な断面において自在継手用トルク伝達部材を切断し、当該断面を鏡面ラッピングする。その後、鏡面ラッピングされた断面を光学顕微鏡の斜光(暗視野)にて、たとえば50〜100倍程度で撮影し、300DPI(Dot Per Inch)以上の画像として記録する。このとき、白色の領域として観察される白色領域は、空孔率の高い(密度の低い)領域に対応する。したがって、白色領域の面積率が低い領域は、当該面積率が高い領域に比べて緻密性が高い。そして、画像処理装置を用いて記録された画像を輝度閾値により2値化処理した上で白色領域の面積率を測定し、当該面積率により、撮影された領域の緻密性を知ることができる。つまり、上記本発明の自在継手用トルク伝達部材では、接触面を含む領域に内部よりも白色領域の面積率の低い層である緻密層が形成されている。なお、上記撮影は、ランダムに5箇所以上で行ない、上記面積率は、その平均値で評価することが好ましい。また、自在継手用トルク伝達部材の内部における上記白色領域の面積率は、たとえば15%以上である。
【0013】
また、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性を一層向上させるためには、上記緻密層は100μm以上の厚みを有していることが好ましい。さらに、上記他の局面における自在継手用トルク伝達部材に採用される焼結助剤としては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、希土類元素の酸化物、窒化物、酸窒化物のうち少なくとも一種類以上を選択することができる。また、上記本発明の一の局面における自在継手用トルク伝達部材と同等の作用効果を奏するためには、焼結助剤は、焼結体のうち20質量%以下とすることが望ましい。
【0014】
上記自在継手用トルク伝達部材において好ましくは、緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は7%以下である。
【0015】
白色領域の面積率が7%以下となる程度に上記緻密層の緻密性を向上させることで、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性がより向上する。したがって、上記構成により、本発明の自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性を一層向上させることができる。
【0016】
上記自在継手用トルク伝達部材において好ましくは、緻密層の表面を含む領域には、当該緻密層内の他の領域よりもさらに緻密性の高い層である高緻密層が形成されている。
【0017】
緻密性のさらに高い高緻密層が緻密層の表面を含む領域に形成されることにより、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性が一層向上する。
【0018】
上記自在継手用トルク伝達部材において好ましくは、高緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は3.5%以下である。
【0019】
白色領域の面積率が3.5%以下となる程度に上記高緻密層の緻密性を向上させることで、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性を一層向上させることができる。
【0020】
本発明に従った自在継手は、第1の軸部材に接続された軌道部材と、軌道部材に接触し、軌道部材の表面上を転走および摺動可能に配置されたトルク伝達部材と、トルク伝達部材および軌道部材を介して第1の軸部材に接続された第2の軸部材とを備え、第1の軸部材または第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転が、第1の軸部材または第2の軸部材の他方に伝達される自在継手である。そして、この自在継手のトルク伝達部材は、上記本発明の自在継手用トルク伝達部材である。
【0021】
本発明の自在継手によれば、上記本発明の自在継手用トルク伝達部材を備えていることにより、安価でありながら、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなるトルク伝達部材を備えた自在継手を提供することができる。
【0022】
本発明の一の局面における自在継手用トルク伝達部材の製造方法は、自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、第1の軸部材または第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を第1の軸部材または第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材の製造方法である。この自在継手用トルク伝達部材の製造方法は、βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる原料粉末が準備される工程と、原料粉末が自在継手用トルク伝達部材の概略形状に成形されることにより成形体が作製される工程と、成形体が、1MPa以下の圧力下で焼結される工程とを備えている。
【0023】
本発明の他の局面における自在継手用トルク伝達部材の製造方法は、自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、第1の軸部材または第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を第1の軸部材または第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材の製造方法である。この自在継手用トルク伝達部材の製造方法は、βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる原料粉末が準備される工程と、原料粉末が自在継手用トルク伝達部材の概略形状に成形されることにより成形体が作製される工程と、成形体が、1MPa以下の圧力下で焼結される工程とを備えている。
【0024】
セラミックスの焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材の製造方法においては、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性を低下させる欠陥の発生を抑制する目的で、熱間静水圧焼結法(Hot Isostatic Press;HIP)やガス圧焼結法(Gas Pressured Sintering;GPS)などの加圧焼結法(通常10MPa以上の圧力下で焼結を行なう方法)による焼結が採用されるのが一般的である。この従来の製造方法によれば、自在継手用トルク伝達部材の気孔率が低下し、密度の高い自在継手用トルク伝達部材を製造することができる。しかし、加圧焼結法を採用した従来の製造方法は、製造コストの上昇を招来する。さらに、加圧焼結法を採用した製造方法では、自在継手用トルク伝達部材の表層部に材質が変質した異常層が形成される。そのため、自在継手用トルク伝達部材の仕上げ加工において、当該異常層を除去する必要が生じ、自在継手用トルク伝達部材の製造コストが一層上昇する。一方、加圧焼結法を採用しない場合、自在継手用トルク伝達部材の気孔率が増加して欠陥が発生し、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性が低下するという問題点があった。
【0025】
これに対し、本発明者は、βサイアロンからなる成形体を1MPa以下の圧力下で焼結して自在継手用トルク伝達部材を製造することにより、自在継手用トルク伝達部材の表面に形成される接触面(表面)を含む領域に、内部よりも緻密性の高い緻密層を形成可能であることを見出した。上記本発明の自在継手用トルク伝達部材の製造方法においては、βサイアロンを主成分とする成形体が1MPa以下の圧力下で焼結される工程を含むことにより、加圧焼結の採用に伴う製造コストの上昇を抑制しつつ、接触面を含む領域に緻密層を形成することができる。その結果、本発明の自在継手用トルク伝達部材の製造方法によれば、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材を、安価に製造することができる。
【0026】
なお、成形体が焼結される工程は、βサイアロンの分解を抑制するため、0.01MPa以上の圧力下で行なうことが好ましく、低コスト化を考慮すると大気圧以上の圧力下で行なうことがより好ましい。また、製造コストを抑制しつつ緻密層を形成するためには、成形体が焼結される工程は1MPa以下の圧力下で行なうことが好ましい。
【0027】
上記自在継手用トルク伝達部材の製造方法において好ましくは、成形体が焼結される工程では、1550℃以上1800℃以下の温度域で成形体が焼結される。
【0028】
成形体が焼結される温度が1550℃未満では、焼結による緻密化が進みにくいため、成形体が焼結される温度は1550℃以上であることが好ましく、1600℃以上であることがより好ましい。一方、成形体が焼結される温度が1800℃を超えると、βサイアロン結晶粒の粗大化による焼結体の機械的特性の低下が懸念されるため、成形体が焼結される温度は1800℃以下であることが好ましく、1750℃以下であることがより好ましい。
【0029】
上記自在継手用トルク伝達部材の製造方法において好ましくは、成形体が焼結される工程では、不活性ガス雰囲気中または窒素と酸素との混合ガス雰囲気中において成形体が焼結される。
【0030】
不活性ガス雰囲気中において成形体が焼結されることにより、βサイアロンの分解や組織変化を抑制することができる。また、窒素と酸素との混合ガス雰囲気中において成形体が焼結されることにより、βサイアロン焼結体の窒素および酸素の含有量を制御することができる。
【0031】
上記自在継手用トルク伝達部材の製造方法において好ましくは、成形体が焼結される前に、成形体の表面が加工される工程をさらに備えている。
【0032】
成形体が焼結されると成形体の硬度が極めて高くなり、加工が困難となる。そのため、焼結後に、たとえば成形体の大幅な加工を行なって自在継手用トルク伝達部材として仕上げる仕上げ工程を採用することは、自在継手用トルク伝達部材の製造コストの上昇を伴う。これに対し、成形体の焼結前に成形体の加工を行なって、仕上げ工程などにおける焼結後の成形体の加工量を抑制することにより、自在継手用トルク伝達部材の製造コストを抑制することができる。特に、加圧焼結法を採用する製造方法では、異常層を除去するために焼結後に比較的大きな加工量が必要となるため、このような工程のメリットは小さいが、本発明の自在継手用トルク伝達部材の製造方法では、βサイアロンからなる成形体を1MPa以下の圧力下で焼結する工程が採用されているため、異常層を除去するための加工量が抑制されており、上記工程によるメリットは極めて大きい。
【0033】
上記自在継手用トルク伝達部材の製造方法において好ましくは、焼結された成形体の表面が加工され、当該表面を含む領域が除去される工程をさらに備えている。そして、焼結された成形体の表面が加工される工程において除去される当該成形体の厚みは150μm以下である。
【0034】
上記本発明の自在継手用トルク伝達部材の製造方法においては、表面を含む領域に厚み150μm程度の上述の高緻密層が形成される。そのため、焼結された成形体の表面が加工され、当該表面を含む領域が除去される工程、たとえば仕上げ工程が実施される場合、当該工程において除去される成形体の厚みを150μm以下とすることにより、自在継手用トルク伝達部材の接触面に高緻密層を残存させることができる。したがって、上記工程を採用することにより、一層転がり滑り疲労に対する耐久性が向上した自在継手用トルク伝達部材を製造することができる。なお、高緻密層をより確実に残存させるためには、上記工程において除去される焼結された成形体の厚みは、100μm以下とすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から明らかなように、本発明の自在継手用トルク伝達部材、自在継手および自在継手用トルク伝達部材の製造方法によれば、安価でありながら、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材およびその製造方法、さらに当該自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0037】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の自在継手としての等速ジョイント(固定ジョイント)の構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の線分II−IIに沿う概略断面図である。また、図3は、図1の固定ジョイントが角度をなした状態を示す概略断面図である。なお、図1は、図2の線分I−Iに沿う概略断面図に対応する。また、図4は、図1の要部を拡大して示す概略部分断面図である。また、図5は、図2の要部を拡大して示す概略部分断面図である。図1〜図5を参照して、本発明の実施の形態1における自在継手としての固定ジョイントについて説明する。
【0038】
図1を参照して、実施の形態1の固定ジョイント1は、第2の軸部材としての軸15に連結された軌道部材としてのインナーレース11と、インナーレース11の外周側を囲むように配置され、第1の軸部材としての軸16に連結された軌道部材としてのアウターレース12と、インナーレース11とアウターレース12との間に配置されたトルク伝達部材としてのボール13と、ボール13を保持するケージ14とを備えている。ボール13は、インナーレース11の外周面に形成されたインナーレースボール溝11Aと、アウターレース12の内周面に形成されたアウターレースボール溝12Aとにボール13の表面であるボール転走面13Aにおいて接触して配置され、脱落しないようにケージ14によって保持されている。
【0039】
インナーレース11の外周面およびアウターレース12の内周面のそれぞれに形成されたインナーレースボール溝11Aとアウターレースボール溝12Aとは、図1に示すように、軸15および軸16の中央を通る軸が一直線上にある状態において、それぞれ当該軸上のジョイント中心Oから当該軸上の左右に等距離離れた点Aおよび点Bを曲率中心とする曲線(円弧)状に形成されている。すなわち、インナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aに接触して転動するボール13の中心Pの軌跡が、点A(インナーレース中心A)および点B(アウターレース中心B)に曲率中心を有する曲線(円弧)となるように、インナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aのそれぞれは形成されている。これにより、固定ジョイントが角度をなした場合(軸15および軸16の中央を通る軸が交差するように固定ジョイントが動作した場合)においても、ボール13は、常に軸15および軸16の中央を通る軸のなす角(∠AOB)の2等分線上に位置する。
【0040】
次に、固定ジョイント1の動作について説明する。図1および図2を参照して、固定ジョイント1においては、軸15、16の一方に軸まわりの回転が伝達されると、インナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aに嵌め込まれたボール13を介して、軸15、16の他方の軸に当該回転が伝達される。
【0041】
ここで、図3に示すように軸15、16が角度θをなした場合、ボール13は、前述のインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bに曲率中心を有するインナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aに案内されて、中心Pが∠AOBの二等分線上となる位置に保持される。また、ジョイント中心Oからインナーレース中心Aまでの距離と、アウターレース中心Bまでの距離とが等しくなるように、インナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aが形成されているため、ボール13の中心Pからインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bまでの距離はそれぞれ等しく、△OAPと△OBPとは合同である。その結果、ボール13の中心Pから軸15、16までの距離Lは互いに等しくなり、軸15、16の一方が軸まわりに回転した場合、他方も等速で回転する。このように、固定ジョイント1は、軸15、16が角度をなした場合でも、等速性を確保することができる。なお、ケージ14は、軸15、16が回転した場合に、インナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aからボール13が飛び出すことをインナーレースボール溝11Aおよびアウターレースボール溝12Aとともに防止すると同時に、固定ジョイント1のジョイント中心Oを決定する機能を果たしている。
【0042】
すなわち、実施の形態1における自在継手としての固定ジョイント1は、第1の軸部材としての軸16に接続された軌道部材としてのアウターレース12と、アウターレース12に接触し、アウターレース12に形成されたアウターレースボール溝12Aの表面上を転走および摺動可能に配置されたトルク伝達部材としてのボール13と、ボール13およびアウターレース12を介して軸16に接続された第2の軸部材としての軸15とを備えている。また、固定ジョイント1は、軸16または軸15の一方に伝達された軸周りの回転が、軸16または軸15の他方に伝達される自在継手である。
【0043】
さらに、ボール13は、自在継手である固定ジョイント1において、第1の軸部材としての軸16に接続された軌道部材としてのアウターレース12と第2の軸部材としての軸15との間において転動および摺動可能に介在し、軸16または軸15の一方に伝達された軸周りの回転を軸16または軸15の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材である。
【0044】
ここで、図4および図5を参照して、本実施の形態における自在継手用トルク伝達部材としてのボール13は、βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成されている。そして、ボール13の接触面であるボール転走面13Aを含む領域には、内部13Cよりも緻密性の高い層であるボール緻密層13Bが形成されている。このボール緻密層13Bの断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は7%以下である。そのため、本実施の形態おける固定ジョイント1は、安価でありながら、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材(ボール13)を備えた自在継手となっている。上記不純物は、原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものを含む不可避的不純物を含む。
【0045】
なお、上記本実施の形態においては、自在継手用トルク伝達部材としてのボール13は、βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる焼結体から構成されていてもよい。焼結助剤を含むことで、容易に焼結体の気孔率を低下させることが可能となり、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手を容易に提供することができる。上記不純物は、原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものを含む不可避的不純物を含む。
【0046】
さらに図4および図5を参照して、ボール緻密層13Bの表面であるボール転走面13Aを含む領域には、ボール緻密層13B内の他の領域よりもさらに緻密性の高い層であるボール高緻密層13Dが形成されている。このボール高緻密層13Dの断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は3.5%以下となっている。これにより、ボール13の転がり滑り疲労に対する耐久性が一層向上している。
【0047】
次に、本発明の一実施の形態である実施の形態1における自在継手用トルク伝達部材および自在継手の製造方法について説明する。図6は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における自在継手の製造方法の概略を示す図である。また、図7は、本発明の実施の形態1における自在継手の製造方法に含まれる自在継手用トルク伝達部材の製造方法の概略を示す図である。
【0048】
図6を参照して、本実施の形態における自在継手の製造方法においては、まず、軌道部材を製造する軌道部材製造工程と、トルク伝達部材を製造するトルク伝達部材製造工程とが実施される。具体的には、軌道部材製造工程では、インナーレース11、アウターレース12などが製造される。一方、トルク伝達部材製造工程では、ボール13などが製造される。
【0049】
そして、軌道部材製造工程において製造された軌道部材と、トルク伝達部材製造工程において製造されたトルク伝達部材とを組み合わせることにより、自在継手を組立てる組立工程が実施される。具体的には、たとえばインナーレース11およびアウターレース12と、ボール13と、別途準備されたケージ14などの他の部品とを組み合わせることにより、固定ジョイント1が組立てられる。そして、トルク伝達部材製造工程は、たとえば以下の自在継手用トルク伝達部材の製造方法を用いて実施される。
【0050】
図7を参照して、本実施の形態における自在継手用トルク伝達部材の製造方法においては、まず、βサイアロンの粉末を準備するβサイアロン粉末準備工程が実施される。βサイアロン粉末準備工程においては、たとえば燃焼合成法を採用した製造工程により、安価にβサイアロンの粉末を製造することができる。
【0051】
次に、βサイアロン粉末準備工程において準備されたβサイアロンの粉末に、焼結助剤を添加して混合する混合工程が実施される。この混合工程は、焼結助剤を添加しない場合、省略することができる。
【0052】
次に、図7を参照して、上記βサイアロンの粉末またはβサイアロンの粉末と焼結助剤との混合物を、自在継手用トルク伝達部材の概略形状に成形する成形工程が実施される。具体的には、上記βサイアロンの粉末またはβサイアロンの粉末と焼結助剤との混合物に、プレス成形、鋳込み成形、押し出し成形、転動造粒などの成形手法を適用することにより、自在継手用トルク伝達部材であるボール13などの概略形状に成形された成形体が作製される。
【0053】
次に、上記成形体の表面が加工されることにより、当該成形体が焼結後に所望の自在継手用トルク伝達部材の形状により近い形状になるよう成形される焼結前加工工程が実施される。具体的には、グリーン体加工などの加工手法を適用することにより、上記成形体が焼結後にボール13などの形状により近い形状になるように成形される。この焼結前加工工程は、成形工程において上記成形体が成形された段階で、焼結後に所望の自在継手用トルク伝達部材の形状に近い形状が得られる状態である場合には省略することができる。
【0054】
次に、図7を参照して、上記成形体が、1MPa以下の圧力下で焼結される焼結工程が実施される。具体的には、上記成形体が、ヒータ加熱、マイクロ波やミリ波による電磁波加熱などの加熱方法により加熱されて焼結されることにより、ボール13などの概略形状を有する焼結体が作製される。焼結は、不活性ガス雰囲気中または窒素と酸素との混合ガス雰囲気中において、1550℃以上1800℃以下の温度域に上記成形体が加熱されることにより実施される。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素などが採用可能であるが、製造コスト低減の観点から、窒素が採用されることが好ましい。
【0055】
次に、焼結工程において作製された焼結体の表面が加工され、当該表面を含む領域が除去される仕上げ加工が実施されることにより、自在継手用トルク伝達部材を完成させる仕上げ工程が実施される。具体的には、焼結工程において作製された焼結体の表面を研磨することにより、自在継手用トルク伝達部材としてのボール13などを完成させる。以上の工程により、本実施の形態における自在継手用トルク伝達部材は完成する。
【0056】
ここで、上記焼結工程における焼結により、焼結体の表面から厚み500μm程度の領域には、内部よりも緻密性が高く、断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率が7%以下である緻密層が形成される。さらに、焼結体の表面から厚み150μm程度の領域には、緻密層内の他の領域よりもさらに緻密性が高く、断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率が3.5%以下である高緻密層が形成されている。したがって、仕上げ工程においては、除去される焼結体の厚みは、特に接触面となるべき領域において150μm以下とすることが好ましい。これにより、ボール転走面13Aを含む領域に、高緻密層を残存させ、自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性を向上させることができる。
【0057】
(実施の形態2)
図8は、本発明の一実施の形態である実施の形態2の自在継手としての等速ジョイント(トリポードジョイント)の構成を示す概略断面図である。また、図9は、図8の線分IX−IXに沿う概略断面図である。図10は、図9の要部を拡大して示す概略部分断面図である。図8〜図10を参照して、本発明の実施の形態2における自在継手としてのトリポードジョイントの構成について説明する。
【0058】
図8〜図10を参照して、実施の形態2のトリポードジョイント2と、実施の形態1の固定ジョイント1とは、基本的に同様の構成を有しており、同様の効果を有しているが、軌道部材およびトルク伝達部材の構成が異なっている。すなわち、トリポードジョイント2は、同一平面上の3つの方向に延びるトリポード軸211を有し、第2の軸部材としての軸25に接続されたトリポード21と、トリポード21を囲むように配置され、第1の軸部材としての軸26に接続された軌道部材としてのアウターレース22と、トリポード軸211にニードルころ29を介して転動自在に取り付けられ、アウターレース22の内周面に形成されたアウターレース溝22Aの表面に、外周面に形成された球面ローラ転走面23Aにおいて接触するように配置されたトルク伝達部材としての環状の球面ローラ23とを備えている。
【0059】
以上の構成により、トリポードジョイント2においては、軸25、26の一方に軸まわりの回転が伝達されると、トリポード21、アウターレース22および球面ローラ23を介して、軸25、26の他方の軸に当該回転が等速に伝達されるとともに、軸25、26は、軸25、26の中央を通る軸方向に互いに相対的に移動することができる。
【0060】
すなわち、実施の形態2における自在継手としてのトリポードジョイント2は、第1の軸部材としての軸26に接続された軌道部材としてのアウターレース22と、アウターレース22に接触し、アウターレース22に形成されたアウターレース溝22Aの表面上を転走および摺動可能に配置されたトルク伝達部材としての球面ローラ23と、球面ローラ23およびアウターレース22を介して軸26に接続された第2の軸部材としての軸25とを備えている。また、トリポードジョイント2は、軸26または軸25の一方に伝達された軸周りの回転が、軸26または軸25の他方に伝達される自在継手である。
【0061】
さらに、球面ローラ23は、自在継手であるトリポードジョイント2において、第1の軸部材としての軸26に接続された軌道部材としてのアウターレース22と第2の軸部材としての軸25との間において転動および摺動可能に介在し、軸26または軸25の一方に伝達された軸周りの回転を軸26または軸25の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材である。
【0062】
ここで、図9および図10を参照して、本実施の形態における自在継手用トルク伝達部材としての球面ローラ23は、実施の形態1におけるボール13に該当し、同様の内部23C、緻密層(球面ローラ緻密層23B)および高緻密層(球面ローラ高緻密層23D)を有している。そのため、本実施の形態おけるトリポードジョイント2は、安価でありながら、十分な耐久性を安定して確保することが可能なβサイアロン焼結体からなる自在継手用トルク伝達部材(球面ローラ23)を備えた自在継手となっている。なお、実施の形態2における自在継手としてのトリポードジョイント2および当該トリポードジョイント2が備える自在継手用トルク伝達部材としての球面ローラ23は、実施の形態1の場合と同様に製造することができる。
【0063】
なお、上記実施の形態においては、本発明の自在継手の一例として固定ジョイントおよびトリポードジョイントについて説明したが、本発明の自在継手はこれらに限られない。たとえば、自在継手は、ダブルオフセットジョイント(DOJ)、フリーリングトリポードジョイント(FTJ)、クロスグルーブジョイント(LJ)などであってもよい。
【0064】
また、本発明の自在継手における軌道部材の素材は特に限定されず、たとえば鋼、具体的にはJIS規格S53Cなどの炭素鋼や、SCR420、SCM420などの浸炭鋼を採用することができる。また、本発明の自在継手における軌道部材の素材には、窒化珪素、サイアロン(βサイアロンを含む)などのセラミックスを採用してもよい。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の自在継手用トルク伝達部材の断面における緻密層および高緻密層の形成状態を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0066】
はじめに、燃焼合成法で作製した組成がSiAlONであるβサイアロンの粉末(株式会社イスマンジェイ製、商品名メラミックス)を準備し、実施の形態1において図7に基づいて説明した自在継手用トルク伝達部材の製造方法と同様の方法で、一辺が約10mmの立方体試験片を作製した。具体的な製造方法は次のとおりである。まず、サブミクロンに微細化されたβサイアロン粉末と、焼結助剤としての酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、AKP30)および酸化イットリウム(H.C.Starck社製、Yttriumoxide grade C)とをボールミルを用いて湿式混合により混合した。その後、スプレードライヤーにて造粒を実施し、造粒粉を製造した。当該造粒粉を金型で所定の形状に成形し、さらに冷間静水圧成形(CIP)で加圧を行ない、成形体を得た。引き続き当該成形体を圧力0.4MPaの窒素雰囲気中で1650℃に加熱して焼結することで、上記立方体試験片を製造した。
【0067】
その後、当該試験片を切断し、切断された面をダイヤモンドラップ盤でラッピングした後、酸化クロムラップ盤による鏡面ラッピングを実施することにより、立方体の中心を含む観察用の断面を形成した。そして、当該断面を光学顕微鏡(株式会社ニコン製、マイクロフォト−FXA)の斜光で観察し、倍率50倍のインスタント写真(フジフイルム株式会社製 FP−100B)を撮影した。その後、得られた写真の画像を、スキャナーを用いて(解像度300DPI)パーソナルコンピューターに取り込んだ。そして、画像処理ソフト(三谷商事株式会社製 WinROOF)を用いて輝度閾値による2値化処理を行なって(本実施例での2値化分離閾値:140)、白色領域の面積率を測定した。
【0068】
次に、試験結果について説明する。図11は、試験片の上記観察用の断面を光学顕微鏡の斜光で撮影した写真である。また、図12は、図11の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理した状態を示す一例である。また、図13は、図11の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理する際に、画像処理を行なう領域(評価領域)を示す図である。図11において、写真上側が試験片の表面側であり、上端が表面である。
【0069】
図11および図12を参照して、本発明の自在継手用トルク伝達部材と同様の製造方法により作製された本実施例における試験片は、表面を含む領域に内部よりも白色領域の少ない層が形成されていることがわかる。そして、図13に示すように、撮影された写真の画像を試験片の最表面からの距離に応じて3つの領域(最表面からの距離が150μm以内の領域、150μmを超え500μm以内の領域、500μmを超え800μm以内の領域)に分け、領域毎に画像解析を行なって白色領域の面積率を算出したところ、表1に示す結果が得られた。表1においては、図13に示した各領域を1視野として、無作為に撮影された5枚の写真から得られる5視野における白色領域の面積率の、平均値と最大値とが示されている。
【0070】
【表1】

【0071】
表1を参照して、本実施例における白色領域の面積率は、内部において18.5%であったのに対し、表面からの深さが500μm以下である領域においては3.7%、表面からの深さが150μm以下の領域においては1.2%となっていた。このことから、本発明の自在継手用トルク伝達部材と同様の製造方法により作製された本実施例における試験片は、表面を含む領域に内部よりも白色領域の少ない緻密層および高緻密層が形成されていることが確認された。
【実施例2】
【0072】
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明の自在継手用トルク伝達部材の転がり滑り疲労に対する耐久性を確認する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0073】
まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。はじめに、燃焼合成法で作製した組成がSiAlONであるβサイアロンの粉末(株式会社イスマンジェイ製、商品名メラミックス)を準備し、実施の形態1において図7に基づいて説明した自在継手用トルク伝達部材の製造方法と同様の方法で直径φ40mmの円筒状の試験片を作製した。具体的な製造方法は次のとおりである。まず、サブミクロンに微細化されたβサイアロン粉末と、焼結助剤としての酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、AKP30)および酸化イットリウム(H.C.Starck社製、Yttriumoxide grade C)とをボールミルを用いて湿式混合により混合した。その後、スプレードライヤーにて造粒を実施し、造粒粉を製造した。当該造粒粉を金型で円筒状に成形し、さらに冷間静水圧成形(CIP)で加圧を行ない円筒状の成形体を得た。
【0074】
次に、当該成形体に対して焼結後の加工代が所定の寸法となるようにグリーン加工を行ない、引き続き当該成形体を圧力0.4MPaの窒素雰囲気中で1650℃に加熱して焼結することで、焼結円筒体を製造した。次に、当該焼結円筒体の外周面に対してラッピング加工を行ない、直径φ40mmの円筒状の試験片とした。ここで、上記焼結円筒体に対するラッピング加工により除去される焼結円筒体の厚み(加工代)を8段階に変化させ、8種類の試験片を作製した(実施例A〜H)。一方、比較のため、窒化珪素および焼結助剤からなる原料粉末を用いて加圧焼結法により焼結した焼結円筒体に対して、上述と同様にラッピング加工を行ない、直径φ40mmの円筒状の試験片を作製した(比較例A)。ラッピング加工による加工代は0.25mmとした。
【0075】
次に、試験条件について説明する。上述のように作製された試験片に対し、別途準備された軸受鋼(JIS規格SUJ2)製の相手試験片(直径φ40mmの円筒状、焼入硬化済み)を、両者の軸が平行になるように、外周面において最大接触面圧Pmax:2.5GPaで接触させた。そして、試験片を回転数:3000rpmで軸周りに回転させるとともに、相手試験片を試験片に対する滑り率が5%となるように軸回りに回転させた。そして、潤滑:タービン油VG68(清浄油)のパット給油、試験温度:室温、の条件の下で回転を継続する転がり滑り疲労試験(2円筒試験)を行なった。そして、振動検出装置により運転中の試験片の振動を監視し、試験片に破損が発生して振動が所定値を超えた時点で試験を中止するとともに、運転開始から中止までの時間を当該試験片の寿命として記録した。なお、試験数は実施例、比較例ともに8個ずつとし、その平均寿命を算出した上で、比較例Aに対する寿命比で耐久性を評価した。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に本実施例の試験結果を示す。表2を参照して、実施例の試験片の寿命は、その製造コスト等を考慮するといずれも良好であるといえる。そして、加工代を0.5mm以下とすることにより試験片の表面に緻密層を残存させた実施例D〜Gの試験片の寿命は、比較例Aの寿命の2〜3倍程度となっていた。さらに、加工代を0.15mm以下とすることにより試験片の表面に高緻密層を残存させた実施例A〜Cの試験片の寿命は、比較例Aの寿命の5倍程度となっていた。このことから、本発明の自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手は、耐久性において優れているものと考えられる。そして、本発明の自在継手用トルク伝達部材を備えた自在継手は、自在継手用トルク伝達部材の加工代を0.5mm以下として、表面に緻密層を残存させることにより寿命が向上し、自在継手用トルク伝達部材の加工代を0.15mm以下として、表面に高緻密層を残存させることにより寿命がさらに向上するものと考えられる。
【0078】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の自在継手用トルク伝達部材、自在継手および自在継手用トルク伝達部材の製造方法は、βサイアロンを主成分とする焼結体を採用した自在継手用トルク伝達部材、自在継手および自在継手用トルク伝達部材の製造方法に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施の形態1の等速ジョイント(固定ジョイント)の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の線分II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】図1の固定ジョイントが角度をなした状態を示す概略断面図である。
【図4】図1の要部を拡大して示す概略部分断面図である。
【図5】図2の要部を拡大して示す概略部分断面図である。
【図6】実施の形態1における自在継手の製造方法の概略を示す図である。
【図7】実施の形態1における自在継手の製造方法に含まれる自在継手用トルク伝達部材の製造方法の概略を示す図である。
【図8】実施の形態2の等速ジョイント(トリポードジョイント)の構成を示す概略断面図である。
【図9】図8の線分IX−IXに沿う概略断面図である。
【図10】図9の要部を拡大して示す概略部分断面図である。
【図11】試験片の観察用の断面を光学顕微鏡の斜光で撮影した写真である。
【図12】図11の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理した状態を示す一例である。
【図13】図11の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理する際に、画像処理を行なう領域(評価領域)を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 固定ジョイント、2 トリポードジョイント、11 インナーレース、11A インナーレースボール溝、12 アウターレース、12A アウターレースボール溝、13 ボール、13A ボール転走面、13B ボール緻密層、13C 内部、13D ボール高緻密層、14 ケージ、15,16 軸、21 トリポード、211 トリポード軸、22 アウターレース、22A アウターレース溝、23 球面ローラ、23A 球面ローラ転走面、23B 球面ローラ緻密層、23C 内部、23D 球面ローラ高緻密層、25,26 軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材であって、
βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成され、
他の部材と接触する面である接触面を含む領域には、内部よりも緻密性の高い層である緻密層が形成されている、自在継手用トルク伝達部材。
【請求項2】
自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材であって、
βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる焼結体から構成され、
他の部材と接触する面である接触面を含む領域には、内部よりも緻密性の高い層である緻密層が形成されている、自在継手用トルク伝達部材。
【請求項3】
前記緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は7%以下である、請求項1または2に記載の自在継手用トルク伝達部材。
【請求項4】
前記緻密層の表面を含む領域には、前記緻密層内の他の領域よりもさらに緻密性の高い層である高緻密層が形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自在継手用トルク伝達部材。
【請求項5】
前記高緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は3.5%以下である、請求項4に記載の自在継手用トルク伝達部材。
【請求項6】
第1の軸部材に接続された軌道部材と、
前記軌道部材に接触し、前記軌道部材の表面上を転走および摺動可能に配置されたトルク伝達部材と、
前記トルク伝達部材および前記軌道部材を介して前記第1の軸部材に接続された第2の軸部材とを備え、
前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転が、前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の他方に伝達される自在継手であって、
前記トルク伝達部材は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の自在継手用トルク伝達部材である、自在継手。
【請求項7】
自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材の製造方法であって、
βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる原料粉末が準備される工程と、
前記原料粉末が前記自在継手用トルク伝達部材の概略形状に成形されることにより成形体が作製される工程と、
前記成形体が、1MPa以下の圧力下で焼結される工程とを備えた、自在継手用トルク伝達部材の製造方法。
【請求項8】
自在継手において、第1の軸部材に接続された軌道部材と第2の軸部材との間において転動および摺動可能に介在し、前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の一方に伝達された軸周りの回転を前記第1の軸部材または前記第2の軸部材の他方に伝達する自在継手用トルク伝達部材の製造方法であって、
βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる原料粉末が準備される工程と、
前記原料粉末が前記自在継手用トルク伝達部材の概略形状に成形されることにより成形体が作製される工程と、
前記成形体が、1MPa以下の圧力下で焼結される工程とを備えた、自在継手用トルク伝達部材の製造方法。
【請求項9】
前記成形体が焼結される工程では、1550℃以上1800℃以下の温度域で前記成形体が焼結される、請求項7または8に記載の自在継手用トルク伝達部材の製造方法。
【請求項10】
前記成形体が焼結される工程では、不活性ガス雰囲気中または窒素と酸素との混合ガス雰囲気中において前記成形体が焼結される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の自在継手用トルク伝達部材の製造方法。
【請求項11】
前記成形体が焼結される前に、前記成形体の表面が加工される工程をさらに備えた、請求項7〜10のいずれか1項に記載の自在継手用トルク伝達部材の製造方法。
【請求項12】
焼結された前記成形体の表面が加工され、前記表面を含む領域が除去される工程をさらに備え、
焼結された前記成形体の表面が加工される工程において除去される前記成形体の厚みは150μm以下である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の自在継手用トルク伝達部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−8228(P2009−8228A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172323(P2007−172323)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】