自己免疫および自己抗原に関連する疾患の特異的阻害
本発明は、自己抗原に対する宿主免疫応答を特異的に阻害するための組成物および方法を提供する。特に、自己抗原に対する宿主免疫応答の体液性成分および細胞性成分を特異的に阻害するための、CD8ポリペプチド発現を自己抗原の発現または提示と組み合わせる組成物および方法が、記載される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、仮出願番号60/614,529(2004年9月29日出願)および仮出願番号60/589,707(2004年7月20日出願)の利益を主張し、これらは各々本明細書中に参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、免疫抑制療法、より具体的には自己免疫障害を予防または治療するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫応答は、微視的病原体、およびより低い程度までではあるが新生物細胞を排除するにあたり驚くほど有効である。一般に、自己認識のための複雑な機構は効率的であり、強力な応答を外来抗原の排除にのみ向けるようにする。免疫系の重要な機能である自己/非自己識別の調節には、Tリンパ球およびBリンパ球の発達および寿命の間の複数の機構が含まれる。残念ながら、免疫系は時折正しく機能せず、宿主の細胞に敵対するようになり、それによって自己免疫応答を誘発する。自己免疫は典型的には、免疫細胞上の抗原レセプターが宿主細胞上の特異的な自己抗原を認識し、宿主細胞の破壊を生じる反応を開始するときに生じる。ある場合には、自己反応性リンパ球がより長く生存し、アポトーシスを誘導するか、または別の方法で宿主細胞を排除し続け、自己免疫疾患を引き起こす。
【0004】
Tリンパ球が自己を攻撃することを防止する種々の機構が記載されている。これらの寛容機構は、発達中のT細胞および成熟T細胞の両方に対して作用する。例えば、胸腺での正の選択により、自己MHC分子を認識するT細胞のレパートリーが偏り、こうしてまた自己反応性T細胞が富化される(Berg et al.、J.Exp.Med.194:427−38(1999))。正の選択の後に起こる胸腺での負の選択が、次に、除去または不活化のいずれかによって自己反応性T細胞を排除する(Berg et al.、J.Exp.Med.194:427−38(1999);Zepp et al.、Nature 336:473−5(1988))。クローン除去は、CD4+CD8+TCRhigh成熟段階で高親和性T細胞に対処するが、一方でクローン不活化は、おそらくはTCRおよびCD8α鎖の下方制御によって、より低い親和性の相互作用で働くようである(Berg et al.、J.Exp.Med.194:427−38(1999);Jordan et al.、Nat.Immunol.2:301−6(2001);Stephens et al.、Eur.J.Immunol.33:1282−91(2003))。しかし、これらの「アネルギー性」Tリンパ球は、それらの抗原に特異的に応答する能力をなお保持している。これらは、刺激の際にIL−10およびTGF−βを放出するので、実際には制御性T細胞の集団に相当する可能性が示唆されている(Asseman et al.、J.Exp.Med.190:995−1004(1999);Seddon et al.、J.Exp.Med.189:279−88(1999))。このように、胸腺の(中枢性)寛容機構がすべての自己反応性T細胞を排除するわけではないことは、十分に確立されている。実際、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、インスリンおよびグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)などの自己抗原に反応性のあるT細胞を、末梢において容易に見出すことができる。
【0005】
CD4+ヘルパーT細胞ならびにCD8+細胞傷害性T細胞(CTL)の両方が、自己抗原免疫応答において重要な役割を果たす。十分に受容された自然発症糖尿病NODマウスモデルにおいて、例えば、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方が、疾患発症に重要である。Wicker et al.、Ann.Rev.Immunol.12:179−200(1995);Mora et al.、J.Immunol.162:4576−88(1996)。直接的および間接的に刺激されたCD4+T細胞は自己抗体の産生を助け、CD8+CTLの誘導に必要なシグナルを提供し、これらの両方が、自己抗原を発現する細胞を傷害できる。このように、自己免疫応答に対するいずれの免疫抑制戦略の成功も、T細胞の両方の主要なサブセットの有効な阻害に依存している。
【0006】
自己免疫疾患のための既存の治療は、限定的な成功しか収めていない。例えば、器官特異的な自己免疫疾患を代謝制御を通じて治すことがしばしば可能である。機能が失われて回復できない場合、機械的代替物または組織移植片が適切であり得る。このアプローチを使用して症状のいくつかを緩和することが可能なことがあるが、多発性硬化症およびインスリン依存性糖尿病(IDDM)を含む最も障害の大きい自己免疫障害のいくつかについては、有効な長期の治癒的治療は存在しない。インスリン、コルチコステロイドおよび改変βインターフェロンを含む多数の化合物が自己免疫疾患の症状のいくつかを寛解できるものの、これらは、重篤な副作用を有する、および/または長期使用を必要とすることがある。一般的な免疫抑制薬物治療(例えば、シクロスポリンA、FK506およびラパマイシンによる長期治療)もまた、これらの疾患に対する治癒を提供できておらず、それらの使用は、宿主の有害な副作用を伴う。
【0007】
より最近、単独または2型ヘルパーT細胞(Th2)サイトカイン(例えば、IL−4およびIL−10)との併用でのいずれかでの、自己抗原をコードするDNAワクチンの全身投与に基づく、免疫調節戦略が提案されている。例えば、Ruiz et al.、J.Immunol.162:3336−3341(1999);Garren et al.、Immunity 15:15−22(2001);米国特許公開番号US2003/0148983A1(これらの開示は、本明細書に参照により明示的に組み込まれる)を参照のこと。これらの研究者により報告された予備的データにより、自己抗原のみをコードするDNAワクチンは、自己反応性T細胞をアネルギー化できる可能性があるが、IL−4と併用した寛容化ワクチンは、Th2応答の誘導を助け得ることが示唆された。Robinson et al.、Nature Biotech.21:1033−39(2003)。別の研究者グループからのデータにより、IL−4の存在が、寛容化ワクチンによって誘導される疾患の発症に対する保護に重要であることが示唆された。Bot et al.、J.Immunol.167:2950−55(2001)。このように、この治療戦略の成功は、炎症促進性1型ヘルパーT細胞(Th1)応答をより保護的なTh2応答に偏らせるための、Th2関連サイトカインまたはそれをコードするベクターの寛容化ワクチンとの同時投与に依存する可能性がある。このワクチンベースの戦略は予防的な設定においていくらか有効であったが、炎症性Th1応答にすでに大きく偏った活性な自己免疫応答を治療することはかなりより困難であることが判明しているといってよい。
【0008】
したがって、高度に特異的な様式で、Th1型T細胞を含む自己反応性T細胞の機能を阻害できる新規な治療用組成物およびプロトコールが模索される。本発明の目的は、自己反応性CD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球を阻害および/または排除して、自己免疫疾患の発症ならびに進行を予防することである。
【0009】
関連文献の要旨
MHCクラスI拘束T細胞(例えば、CD8+ CTL)の活性は、そのT細胞レセプター複合体を介してシグナルを受容したCTLが、そのクラスI MHC分子のα3ドメインを介したシグナルもまた受容する場合に、抑制され得ることが知られている。このいわゆるvetoシグナルは、刺激因子即ち「veto」細胞によって発現されるCD8分子によって送達され得る。Sambhara and Miller、Science 252:1424−1427(1991)。生じる免疫抑制は、抗原特異的かつMHC拘束性の両方であり、応答性のCTLによるveto細胞の一方向認識から生じるが、その逆ではこれは当てはまらない。Rammensee et al.、Eur.J.Immunol.12:930−934(1982);Fink et al.、J.Exp.Med.157:141−154(1983);Rammensee et al.、J.Immunol.132:668−672(1984)。veto活性は、CD8α鎖の存在に関連付けられてきたので、veto機能は、CD8の発現が欠落したときに失われ、CD8α鎖が発現されるときに確立される。Hambor et al.、J.Immunol.145:1646−1652(1990);Hambor et al.、Intern.Immunol.2:8856−8879(1990);Kaplan et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:8512−8515(1989)。
【0010】
望まれない細胞障害性T細胞応答を排除するために、この抗原特異的抑制経路を利用する多数の戦略が提案されてきた。1つのこのような戦略は、CD8のveto活性を特定の標的細胞に向けさせる二次リガンドにCD8またはその機能的ドメインを共有結合させる、ポリペプチドコンジュゲートの使用を含む。例えば、米国特許第5,242,687号、同第5,601,828号および同第5,623,056号を参照のこと。あるいは、CD8α鎖の細胞外ドメインに連結された、MHCクラスI分子に対する特異性を有するモノクローナル抗体結合部位を有するハイブリッド抗体分子が研究されてきた。Qi et al.、J.Exp.Med.183:1973−1980(1996)。しかし、このような分子はいくつかの欠点を持っており、実際の臨床上の有用性を未だ見出す必要がある。重要なことに、応答性のCD4+ヘルパーT細胞集団に影響を与えるためにCD4ハイブリッドが必要であるとの考えに基づいて、自己免疫疾患の治療のために、CD4およびCD8の両方のハイブリッド抗体を使用するハイブリッド抗体アプローチが提案された。Staerz et al.、Immunol Today 21(4):172−6(2000)。
【0011】
より最近、国際PCT公開番号WO02/102852は、MHCクラスIに対する親和性が増大するように設計されたアミノ酸改変を有する可溶性CD8α鎖変異体を使用するCTLの阻害を記載している。重要なことに、かつ上記先行技術と一致して、提案されたCD8α組成物がクラスI MHC分子に特異的であり、したがって、CD8+ CTLの応答のみを阻害することが予測されるということが、この文献中で教示されている。同文献の27頁。他の免疫抑制剤との併用が、細胞性免疫応答および体液性免疫応答の他の要素(例えば、CD4+T細胞などのMHCクラスII拘束T細胞)が関係する状況において必要とされるであろうことが、さらに示唆される。同文献の28頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、誘導された自己抗原の発現または提示と共にCD8αが標的で発現されると、自己抗原に対する自己免疫応答を有効かつ特異的に抑制できるという驚くべき発見に基づいている。したがって、本明細書に記載される組成物および方法を用いれば、一般的な免疫抑制剤の長期投与を必要とすることなく、自己抗原に対する宿主免疫応答の全範囲を選択的に阻害して、自己抗原に対する特異的免疫寛容を有効に生じさせることができる。本明細書に記載される組成物および方法を使用して、特異的自己反応性T細胞集団を、予防的手段として、または継続中の自己免疫応答の治療のために、阻害することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、自己免疫疾患の発症を予防するためおよび自己免疫疾患を治療するための方法および組成物が提供され、これらは、標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、自己抗原、およびCD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはCD8α鎖をコードする発現ベクターと接触させることを含み、接触させた標的細胞によるCD8ポリペプチドの発現と自己抗原提示とが組み合わさって、自己抗原に対する自己反応性免疫応答を選択的に阻害する。この標的細胞は、例えば、筋細胞、造血細胞、幹細胞、または自己免疫応答に供された細胞もしくはそのリスクがある細胞であり得る。好ましい実施形態において、この標的細胞は、抗原提示細胞、例えば樹状細胞であり、接触させる工程はex vivoである。宿主に投与されるかまたは宿主中に存在する場合、接触させた標的細胞と同じ自己抗原を発現する他の宿主細胞の両方が保護され、自己抗原に対して応答性のCD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方を排除することにより、それらの細胞の生存は延長される。好ましくは、本発明の組成物および方法は、このような自己抗原に対する体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を阻害することが可能である。
【0014】
一態様において、自己抗原に対する免疫応答を特異的に阻害するための方法が提供され、この方法は、標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8α鎖および自己抗原をコードする発現ベクターと接触させる工程を含み、それによって、CD8ポリペプチドおよび自己抗原がこの標的細胞によって発現され、この自己抗原に対する自己免疫応答が特異的に阻害される。一実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、同じ発現ベクターによってコードされる。代替的実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、別個の発現ベクターによってコードされる。この自己抗原は、全長タンパク質であってもそのフラグメントであってもよく、あるいは1つまたは複数の機能的に関連するエピトープを含んでいてもよい。さらなる実施形態において、自己免疫応答には、体液性成分および細胞性成分の両方が含まれる。好ましい実施形態において、この自己免疫応答は、一般的な免疫抑制剤を必要とすることなく、有効に阻害される。
【0015】
別の態様において、自己抗原に対する免疫応答を特異的に阻害するための方法が提供され、この方法は、標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、自己抗原タンパク質またはペプチド、およびCD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8α鎖をコードする発現ベクターと接触させる工程を含み、それによって、この自己抗原の提示と共に、CD8ポリペプチドが標的細胞によって発現され、この自己抗原に対する自己免疫応答が特異的に阻害される。この自己抗原は、全長タンパク質であってもそのフラグメントであってもよく、あるいは1つまたは複数の機能的に関連するエピトープを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、この標的細胞は、造血細胞、特にリンパ球または抗原提示細胞である。特に好ましい実施形態において、接触させる工程はex vivoで実施される。
【0016】
別の態様において、標的細胞に対する自己免疫応答を阻害するための組成物が提供され、この組成物は、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8α鎖およびこの標的細胞に関連する自己抗原をコードする発現ベクターを含む。一実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、同じ発現ベクターによってコードされる。別の実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、別個の発現ベクターによってコードされる。代替的実施形態において、この組成物は、CD8ポリペプチドをコードする発現ベクターと併用して、自己抗原タンパク質またはポリペプチドを含む。
【0017】
自己抗原を発現する細胞の生存を延長させるための方法もまた提供され、この方法は、細胞を、CD8ポリペプチドおよび自己抗原をコードする発現ベクターと接触させる工程を含み、このCD8ポリペプチドおよび自己抗原はこの細胞によって発現され、それによって、この細胞の生存時間が延長される。
【0018】
本発明の方法および組成物において使用するのに好ましいCD8ポリペプチドは一般に、CD8α鎖、より好ましくはCD8α鎖の細胞外ドメイン、そしてより好ましくはCD8α鎖のIg様ドメインを含むであろう。代替的な好ましい実施形態において、このCD8ポリペプチドは、CD8α鎖の細胞外ドメインおよび膜貫通ドメイン、またはより好ましくはCD8α鎖のIg様ドメインおよび膜貫通ドメインを含むか、またはこれらから本質的になり得る。特に好ましい実施形態において、この膜貫通ドメインは、CD8α鎖の膜貫通ドメインである。本発明の発現方法の性質および上記CD8α鎖の先行技術の可溶性形態の明らかな不適切さを考慮すると、CD8α鎖膜貫通ドメインまたは適切な代替的膜貫通領域の存在が重要であると考えられる。
【0019】
1つの好ましい実施形態において、CD8α鎖は自己抗原と同時発現される。別の好ましい実施形態において、CD8ポリペプチドを含む発現ベクターが、自己抗原タンパク質またはペプチドと同時投与される。好ましい自己抗原は、自己免疫疾患に関連するもの、例えば、I型糖尿病における(プロ)インスリン(β鎖)およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、多発性硬化症におけるミエリン塩基性タンパク質、関節リウマチにおけるMMP−1、重症筋無力症におけるコリンレセプターα鎖、自己免疫性甲状腺炎におけるサイログロブリンなどである。
【0020】
本明細書に記載の組成物および方法の好ましい標的細胞には、例えば、筋細胞、造血起源の細胞(例えば、抗原提示細胞(例えば樹状細胞)、マクロファージ、顆粒球、赤血球、白血球、Bリンパ球、Tリンパ球など、および皮膚のランゲルハンス細胞)、幹細胞(例えば、造血幹細胞ならびに組織特異的幹細胞(即ち、ニューロン、肝臓などに運命付けられた幹細胞))、ならびに自己免疫性の攻撃のリスクがあるかまたはそれに供された細胞(例えば、膵島細胞、脳のグリア細胞、ならびに本明細書に記載される他の細胞および組織)が含まれる。
【0021】
本発明の方法および組成物における使用が企図された適切な発現ベクターには、組換えベクターおよび非組換えベクター、ならびにウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルスのベクターなど)および非ウイルスベクター(例えば、細菌プラスミド、ファージ、リポソームなど)が含まれる。好ましい実施形態において、標的細胞の改変は、リポソーム媒介性の核酸移入ビヒクル、またはウイルス媒介性の核酸移入ビヒクル、または裸DNAによって達成され得る。
【0022】
さらなる実施形態において、標的細胞は、本発明の免疫調節分子の機能的部分を、自己抗原またはその生物学的に活性なフラグメントと共に発現するようにex vivoで誘導され、誘導された細胞を患者に注入する。この自己抗原は、発現ベクターの形態で、あるいは標的細胞の表面上に提示するためにクラスIまたはクラスII MHC経路によってプロセシングされるタンパク質またはポリペプチドとして、標的細胞にデリバーされ得る。
【0023】
複数の実施形態が開示されるが、本発明のなお他の実施形態は、本発明の例示的な実施形態を示し、記載する以下の詳細な説明から、当業者に明らかとなろう。理解されるように、本発明は、本発明の趣旨および範囲からすべて逸脱することなく、種々の明白な態様での変更が可能である。したがって、図面および詳細な説明は、本来、例示と解釈されるべきであり、限定と解釈すべきではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
自己免疫疾患の有効かつ持続可能な治療は得がたいものであった。本発明の成功は、免疫調節分子(例えば、CD8、特にCD8α鎖)および自己抗原の同時発現が、その自己抗原に対して応答性のT細胞を有効かつ特異的に阻害するであろうこと、したがって、両方の自己反応性免疫応答が阻害できるという、驚くべき発見に基づいている。
【0025】
それにより、本発明は、自己抗原を発現する宿主細胞に対する免疫応答を阻害するための組成物および方法を提供し、これらは、免疫調節分子、好ましくはCD8ポリペプチド、より好ましくはCD8α鎖のすべてまたは機能的部分を、自己抗原の少なくとも1つのエピトープと合わせ、標的宿主細胞中で同時発現させることを含む。好ましい実施形態において、馴化工程は、宿主細胞を、本明細書に記載されるようなCD8ポリペプチドおよび自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする発現ベクターと接触させることを含む。本発明はさらに、標的細胞に対する免疫応答を有効かつ特異的に阻害するために、標的細胞中のCD8の発現レベルを調節するための、例えば、CD8発現の増大を生じる転写アクチベータを提供するための、代替的な馴化方法をさらに企図する。例えば、Mortlock et al.、Nuc.Acids.Res.31:152(2003);Mizuguchi et al.、Hum.Gene Ther.14:1265−77(2003)を参照のこと。本発明の方法および組成物によって達成される免疫阻害の特異性および選択性は、従来の免疫抑制戦略(免疫系の全般的かつ非特異的な阻害を典型的に生じ、それにより、外来性の感染、そしてある場合には変異原性および癌に対し、宿主を高度に感受性のままにする)を超える有意な改善を提供する。
【0026】
本明細書に記載される方法は、単独で、または当該分野で公知の他の方法(例えば、他の活性剤(例えば、治療剤もしくは予防剤、および/または一般的な免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、FK506)、T細胞除去抗体(例えば、OKT3、ポリクローナル抗胸腺細胞調製物))の投与など)と併用して、使用できる。好ましくは、このような剤の使用は、本発明の組成物および方法を使用して得られる自己抗原特異的な免疫抑制に関しては不要である。
【0027】
「阻害」は、細胞性(例えば、白血球動員)であろうと体液性であろうと、自己抗原に対する自然免疫応答または獲得免疫応答の、直接的または間接的な、部分的または完全な、阻害および/または低減を意味する。阻害は、免疫細胞が自己抗原をそれ以上標的化しないように、免疫細胞に対して変化をシグナル伝達することによって、免疫応答を予防することを含むことができる。あるいは、阻害は、免疫細胞のアネルギーおよび/または死(例えばアポトーシス)を生じるシグナルを提供することを含むことができる。
【0028】
「免疫応答」は、好ましくは、細胞性免疫応答または体液性免疫応答などの、獲得免疫応答を意味する。
【0029】
「特異的免疫阻害」または「抗原特異的免疫阻害」は、抗原特異的でない全般的な免疫阻害とは逆の、自己抗原などの抗原に対する免疫応答の阻害を意味する。したがって、例として、患者によって以前に認識された自己抗原に対する細胞性および/または体液性の自己免疫応答が存在しないことは、他の抗原に対するin vivo免疫能の証拠と組み合わせて、自己抗原の特異的免疫阻害を実証しよう。
【0030】
「発現ベクター」は、標的細胞への核酸のデリバリーのための任意のビヒクルを意味する。発現ベクターは一般に、ウイルスベクターと非ウイルスベクターに分けることができる。ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどを意味するが、これらに限定されない。非ウイルスベクターは、プラスミドベクター、裸DNA、異なる担体に連結した裸DNA、またはリポソームもしくは他の脂質調製物と結合したDNAを意味する。一般に、発現ベクターは組換え体であるが、ある実施形態、例えばリポソームまたは細胞除去(例えば、バイオロスティック(biolostic)技術)が使用される場合、発現ベクターは組換え体ではない。本明細書中での使用に好ましい組換えベクターは、プラスミドベクター、ならびにアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターからなる群より選択されるウイルスベクターである。組換えウイルスベクター、および特にアデノウイルスベクターを利用するいくつかの実施形態において、カプシド(例えば、アデノウイルスカプシドのヘキソンタンパク質)の免疫原性は、当該分野で公知の方法に従って低減され得るが、このような改変は、本明細書中に詳述される改善を考慮すれば、もはや必要ではない。
【0031】
「接触」は、ベクターと細胞との間の物理的接触をもたらすような様式および量で、発現ベクターを投与することを意味する。ベクターが組換えウイルス粒子である場合、望ましくは、ウイルスベクターによる細胞への付着および細胞の感染が、このような物理的接触によってもたらされる。ウイルスベクターが組換えウイルス粒子以外(例えば、非カプセル化ウイルス核酸または他の核酸)である場合、望ましくは、核酸による細胞への侵入がもたらされる。
【0032】
このような「接触」は、ベクターと標的細胞との見かけの触れ合い(touching)または接触状態(tangency)をもたらすことができる、当業者に公知のおよび本明細書に記載される任意の手段によって実施できる。所望により、ベクター(例えばアデノウイルスベクター)は、二重特異的または多重特異的な分子(例えば、抗体またはそのフラグメント)とさらに複合体化することができ、この場合、「接触」は、ベクターと二重特異的または多重特異的な分子との複合体の、標的細胞との見かけの接触または相互接触を含む。例えば、ベクターと二重特異的(多重特異的)分子とは、例えば当業者に公知の化学的手段または他の手段によって、共有結合できる。好ましくは、ベクターと二重特異的(多重特異的)分子とは、非共有結合相互作用(例えば、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、および/または非極性相互作用)によって連結できる。ベクターと二重特異的(多重特異的)分子とは、小容量の同じ溶液中で混合することによって接触させることができるが、標的細胞とこの複合体とは、小容量中で接触させることは必ずしも必要ではなく、例えばこの場合、この複合体は宿主(例えばヒト)に投与され、この複合体が血流によって標的細胞へと移動し、その細胞に選択的に結合し、その中に侵入する。ベクターと二重特異的(多重特異的)分子との接触は、好ましくは、標的細胞がベクターと二重特異的(多重特異的)分子との複合体と接触する前に実施される。
【0033】
自己抗原
「自己抗原」は、自分自身の免疫系の標的である「自己の」抗原を意味する。自己抗原には、宿主または患者の免疫系が認識し、異物として応答する任意の自己の抗原が含まれ、例えば、自己免疫障害に関連する自己の抗原、例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロ−インスリン/インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP−1)、II型コラーゲン、サイログロブリンなどが含まれる。さらに、自己抗原は、健常人または非罹患患者において存在するレベルとは異なるレベル(例えば、上昇または低減した)で宿主中に存在する可能性がある。これらには、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病およびプリオン病が含まれる。健常人または非罹患患者において存在するレベルとは異なるレベルで宿主中に存在する自己抗原に関連するいくつかの他の疾患には、肥満、骨関節炎、脊髄損傷、高血圧、消化性潰瘍疾患、加齢性の鬱、通風、偏頭痛、高脂血症および冠動脈疾患が含まれる。
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、発現ベクターは所望により、本明細書に記載されるような免疫調節分子をコードする少なくとも1つの導入遺伝子と共に、自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含む。あるいは、特定の実施形態において、自己抗原タンパク質またはペプチドは、CD8ポリペプチドのDNAベースの発現と組み合わせて使用してもよい。この自己抗原は、全長タンパク質であってもそのフラグメントであってもよく、あるいは1つまたは複数の機能的に関連するエピトープを含んでもよい。本発明によって治療できる疾患には、多発性硬化症、I型糖尿病、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎および関節リウマチなどが含まれるが、これらに限定されない。さらなる自己抗原はNature Medicine 7:8(Aug.2001)899−905に記載されており、これは参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。このような疾患に関連する自己抗原を以下の表1に示す。
【0035】
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【0036】
自己抗原に関連する自己免疫疾患のいくつかの例および注目する標的組織を以下の表2に示す。
【0037】
【表2−1】
【表2−2】
【0038】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、最も一般的なCNSの脱髄性障害であり、350,000人のアメリカ人および世界の百万の人々が罹患している。症状の発生は典型的に、20歳から40歳の間で生じ、片側性の視覚障害、筋力低下、異常感覚、運動失調、眩暈、尿失禁、構音障害または精神障害(頻度が減少する順序で)の急性または亜急性の発作として顕れる。このような症状は、減速した軸索伝導に起因する負の伝導異常および異所的な活動電位の発生に起因する正の伝導異常(例えば、レルミット徴候)の両方を引き起こす脱髄の局所的病変から生じる。MSの診断は、時間的に離れている、神経機能障害の客観的な臨床的証拠を生じ、CNS白質の別個の領域に関係する、少なくとも2回の別個の神経機能障害の発作を含む病歴に基づく。MSの診断を支持するさらなる客観的証拠を提供する実験室研究には、CNS白質病変の磁気共鳴画像法(MRI)、IgGの脳脊髄液(CSF)オリゴクローナルバンド、および異常な応答の誘発が含まれる。ほとんどの患者が徐々に進行する再発寛解型の疾患経過を経るが、MSの臨床経過は個体間で大きく異なり、生涯にわたる数回の軽い発作に限定されたものから劇症型の慢性進行性疾患までの範囲であり得る。IFN−γ分泌能を有するミエリン−自己反応性T細胞における量的増加は、MSおよびEAEの病原と関連する。
【0039】
自己免疫性脱髄疾患(例えば、多発性硬化症および実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE))における自己免疫応答に関連する自己抗原は、プロテオリピドタンパク質(PLP);ミエリン塩基性タンパク質(MBP);ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG);環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase);ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、およびミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MBOP);α−B−クリスタリン(ヒートショックタンパク質);ウイルス性および細菌性の模倣ペプチド(例えば、インフルエンザ、ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルスなど);OSP(オリゴデンドロサイト特異的タンパク質);シトルリン改変MBP(6個のアルギニンがシトルリンに脱イミノ化されたMBPのC8アイソフォーム);など由来のエピトープを含むことができる。膜内在タンパク質PLPは、ミエリンの優勢な自己抗原である。PLPの抗原性の決定基は、いくつかのマウス系統で同定されており、残基139〜151、103〜116、215〜232、43〜64および178〜191が含まれる。少なくとも26個のMBPエピトープが報告されている(Meinl et al.、J Clin Invest 92、2633−43、1993)。注目すべきは、残基1〜11、59〜76および87〜99である。いくつかのマウス系統において同定された免疫優性のMOGエピトープには、残基1〜22、35〜55、64〜96が含まれる。本明細書中で使用される場合、用語「エピトープ」は、動物の免疫系のB細胞またはT細胞のいずれかによって認識される特定の形状または構造を有する自己抗原の一部分を意味すると理解される。
【0040】
ヒトMS患者において、以下のミエリンタンパク質およびエピトープが、自己免疫性T細胞およびB細胞応答の標的として同定された。MS脳のプラークから溶出した抗体は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)ペプチド83〜97を認識した(Wucherpfennig et al.、J Clin Invest 100:1114−1122、1997)。抗体研究により、MS患者の約50%がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に対して反応性(対照では6〜10%)、20%がMBPに対して反応性(対照では8〜12%)、8%がPLPに対して反応性(対照では0%)、0%がMAGに対して反応性(対照では0%)の、末梢血リンパ球(PBL)T細胞を有することが見出された。この研究において、10人のMOG反応性患者のうち7人が、3つのペプチドエピトープ(MOG 1〜22、MOG 34〜56、MOG 64〜96を含む)のうち1つに集中したT細胞増殖応答を有した(Kerlero de Rosbo et al.、Eur J Immunol 27、3059−69、1997)。T細胞およびB細胞(脳病変溶出Ab)応答は、MBP 87−99に集中した(Oksenberg et al.、Nature 362、68−70、1993)。MBP 87〜99において、アミノ酸モチーフHFFKは、T細胞応答およびB細胞応答の両方の優勢な標的である(Wucherpfennig et al.、J Clin Invest 100、1114−22、1997)。別の研究で、残基MOBP 21〜39およびMOBP 37〜60を含むミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)に対するリンパ球反応性が観察された(Holz et al.、J Immunol 164、1103−9、2000)。MSおよび対照の脳を染色するためのMOGペプチドおよびMBPペプチドの免疫金コンジュゲートを使用したところ、MBPペプチドおよびMOGペプチドの両方が、MSプラーク結合Abによって認識された(Genain and Hauser、Methods 10、420−34、1996)。
【0041】
関節リウマチ
関節リウマチ(RA)は、世界人口の0.8%が罹患している慢性自己免疫性炎症性滑膜炎である。これは、侵食性の関節破壊を引き起こす慢性炎症性滑膜炎によって特徴付けられる。RAは、T細胞、B細胞およびマクロファージによって媒介される。
【0042】
T細胞がRAにおいて重要な役割を果たすという証拠には、(1)滑膜に浸潤するCD4+T細胞の優勢、(2)シクロスポリンなどの薬物によるT細胞機能の抑制に関連する臨床的改善、および(3)RAと特定のHLA−DR対立遺伝子との関連が含まれる。RAに関連するHLA−DR対立遺伝子は、ペプチド結合およびT細胞への提示に関与するα鎖の3番目の超可変領域中の67〜74位に類似のアミノ酸配列を含む。RAは、滑膜関節中に存在する自己抗原を認識する自己反応性T細胞によって媒介される。RAに関連する自己抗原には、II型コラーゲン;hnRNP;A2/RA33;Sa;フィラグリン;ケラチン;シトルリン;gp39を含む軟骨タンパク質;I型、III型、IV型、V型、IX型、XI型コラーゲン;HSP−65/60;IgM(リウマチ因子);RNAポリメラーゼ;hnRNP−B1;hnRNP−D;カルジオリピン;アルドラーゼA;シトルリン改変フィラグリンおよびフィブリン由来のエピトープが含まれる。改変アルギニン残基(脱イミノ化されてシトルリンを形成する)を含むフィラグリンペプチドを認識する自己抗体が、高い割合のRA患者の血清中で同定されている。自己反応性T細胞およびB細胞の応答は共に、ある患者においては同じ免疫優性II型コラーゲン(CII)ペプチド257〜270に対するものである。
【0043】
インスリン依存性糖尿病
ヒトI型インスリン依存性糖尿病、即ちインスリン依存性糖尿病(IDDM)は、膵臓ランゲルハンス島中のβ細胞の自己免疫性の破壊によって特徴付けられる。β細胞の枯渇により、血糖値を調節できなくなる。顕性の糖尿病は、血糖値が特定のレベル(通常約250mg/dl)を超えて上昇する際に生じる。ヒトにおいて、長い前駆症状期間が、糖尿病の発症に先行する。この期間の間、膵β細胞の機能が徐々に失われる。疾患の発生は、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼおよびチロシンホスファターゼIA2(IA2)(各々がIDDMに関連する自己抗原の例であり、本発明において使用される)に対する自己抗体の存在によって示される。
【0044】
前駆症状段階の間に評価することができるマーカーは、膵臓における膵島炎の存在、島細胞抗体のレベルおよび頻度、島細胞表面抗体、膵β細胞上のクラスII MHC分子の異常な発現、血糖濃度ならびに血漿インスリン濃度である。膵臓中のTリンパ球数、島細胞抗体および血糖の増加はこの疾患の指標であり、インスリン濃度の低下もまたこの疾患の指標である。
【0045】
非肥満糖尿病(NOD)マウスは、ヒトIDDMと共通した、多くの臨床的、免疫学的および病理組織学的特徴を有する動物モデルである。NODマウスは、島の炎症およびβ細胞の破壊を自発的に発症し、これが高血糖および顕性の糖尿病を導く。CD4+T細胞およびCD8+T細胞は共に、糖尿病の発症に必要であるが、各々の役割は不明のままである。上で留意したように、寛容化条件下でのNODマウスへの、タンパク質としてまたはDNAワクチンの形態でのインスリンまたはGADの投与は、疾患を予防し得、他の自己抗原に対する応答を下方制御できることが示されている。
【0046】
血清中の種々の特異性を有する自己抗体の組合せが存在することは、ヒトI型糖尿病に対し高度に感受性であり特異的である。例えば、GADおよび/またはIA−2に対する自己抗体の存在は、対照血清からのI型糖尿病の同定に、約98%の感受性、かつ99%の特異性を有する。I型糖尿病患者の非糖尿病の1親等の親戚において、GAD、インスリンおよびIA−2を含む3種の自己抗原のうち2種に特異的な自己抗体が存在することは、5年以内のI型DMの発生について、90%を超える陽性の予測値を示す。
【0047】
ヒトインスリン依存性糖尿病に関連する自己抗原には、チロシンホスファターゼIA−2;IA−2β;65kDa型および67kDa型の両方のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD);カルボキシペプチダーゼH;インスリン;プロインスリン;ヒートショックタンパク質(HSP);glima 38;膵島抗原69kDa(ICA69);p52;2種のガングリオシド抗原(GT3およびGM2−1);ならびに膵島グルコーストランスポーター(GLUT2)が含まれ得る。
【0048】
ヒトIDDMは、組換えインスリンの注射またはポンプベースのデリバリーを導くために、血糖値をモニタリングすることによって現在治療されている。食事療法および運動療法を続けて、適切な血糖の制御を達成する。
【0049】
自己免疫性ブドウ膜炎
自己免疫性ブドウ膜炎は、米国において400,000人の人々が罹患していると推定される眼の自己免疫疾患であり、年間43,000人の新たな症例が発生する。自己免疫性ブドウ膜炎は、ステロイド、メトトレキセートおよびシクロスポリンなどの免疫抑制剤、静脈内イムノグロブリン、ならびにTNFαアンタゴニストで現在治療されている。
【0050】
実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)は、神経網膜、ブドウ膜および眼中の関連組織を標的化するT細胞媒介性の自己免疫疾患である。EAUは、ヒト自己免疫性ブドウ膜炎と多くの臨床的および免疫学的特徴を共有し、フロインド完全アジュバント(CFA)中に乳化させたブドウ膜炎惹起性(uveitogenic)ペプチドの末梢投与によって誘導される。
【0051】
ヒト自己免疫性ブドウ膜炎における自己免疫性応答に関連する自己抗原には、S−抗原、光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)、ロドプシンおよびリカバリンが含まれ得る。
【0052】
原発性胆汁性肝硬変
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、40〜60歳の女性が主に罹患する器官特異的な自己免疫疾患である。この群において報告された罹患率は、1,000人に1人に達する。PBCは、小さい肝内胆管を裏打ちする肝内胆管上皮細胞(IBEC)の進行性の破壊によって特徴付けられる。これが胆汁分泌の閉塞および妨害を導き、最終的な肝硬変を引き起こす。シェーングレン症候群、CREST症候群、自己免疫性甲状腺疾患および関節リウマチを含む、上皮裏打ち/分泌系の損傷によって特徴付けられる他の自己免疫疾患との関連が報告されている。駆動抗原(driving antigen)に関する注目は、50年以上にわたってミトコンドリアに焦点を当てており、抗ミトコンドリア抗体(AMA)の発見を導いている(Gershwin et al.、Immunol Rev 174:210−225、2000);(Mackay et al.、Immunol Rev 174:226−237、2000)。AMAは、臨床的症状が現れるずっと以前に90〜95%の患者の血清中に存在し、すぐにPBCの実験室診断の礎石となった。ミトコンドリアにおける自己抗原性の反応性は、M1およびM2と指定された。M2反応性は、48〜74kDaの成分のファミリーに対するものである。M2は、2−オキソ酸デヒドロゲナーゼ複合体(2−OADC)の酵素の複数の自己抗原性サブユニットを示し、本発明の別の例示的自己抗原である。PBCの疾病原因におけるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)抗原の役割を同定する研究は、PDCがこの疾患の誘導において中心的役割を果たすという概念を支持している(Gershwin et al.、Immunol Rev 174:210−225、2000);(Mackay et al.、Immunol Rev 174:226−237、2000)。PBCの症例の95%において最も頻繁な反応性は、PDC−E2に属するE2 74kDaサブユニットである。2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体(OGDC)および分枝鎖(BC)2−OADCを含む、関連するが別個の複合体が存在する。3種の構成成分酵素(E1、2、3)が、2−オキソ酸基質をアシルコエンザイムA CoA)に変形させる触媒機能に寄与し、NAD+がNADHに還元される。哺乳動物PDCは、プロテインXまたはE−3結合タンパク質(E3BP)と称される、さらなる成分を含む。PBC患者において、主要な抗原性応答は、PDC−E2およびE3BPに対するものである。E2ポリペプチドは、2つのタンデムに反復したリポイルドメインを含むが、E3BPは単一のリポイルドメインを有する。リポイルドメインは、PBCの多数の自己抗原標的において見出され、本明細書中で「PBCリポイルドメイン」と称される。PBCは、グルココルチコイドならびにメトトレキセートおよびシクロスポリンAを含む免疫抑制剤で現在治療されている。
【0053】
実験的自己免疫性胆管炎(EAC)のマウスモデルは、雌性SJL/Jマウスにおいて、非化膿性破壊性胆管炎(NSDC)およびAMAの産生を誘導する、哺乳動物PDCによる腹腔内(i.p.)感作を使用する(Jones、J Clin Pathol 53:813−21、2000)。
【0054】
他の自己免疫疾患および関連自己抗原
重症筋無力症に関連する自己抗原には、アセチルコリンレセプター内のエピトープが含まれ得る。尋常性天疱瘡に関連する自己抗原には、デスモグレイン−3が含まれ得る。シェーングレン症候群抗原には、SSA(Ro);SSB(La);およびフォドリンが含まれ得る。尋常性天疱瘡について優勢な自己抗原には、デスモグレイン−3が含まれ得る。筋炎に関連する自己抗原には、tRNAシンテターゼ(例えば、スレオニル、ヒスチジル、アラニル、イソロイシルおよびグリシル);Ku;Scl;SSA;U1 Snリボ核タンパク質;Mi−1;Mi−1;Jo−1;Ku;およびSRPが含まれ得る。強皮症に関連する自己抗原には、Scl−70;セントロメア;U1リボ核タンパク質;およびフィブリラリンが含まれ得る。悪性貧血に関連する自己抗原には、内因子;および胃H/K ATPaseの糖タンパク質βサブユニットが含まれ得る。全身性エリテマトーデス(SLE)に関連する自己抗原には、DNA;リン脂質;核抗原;Ro;La;U1リボ核タンパク質;Ro60(SS−A);Ro52(SS−A);La(SS−B);カルレティキュリン;Grp78;Scl−70;ヒストン;Smタンパク質;およびクロマチンなどが含まれ得る。グレーブス病について、自己抗原には、Na+/I−シンポーター;甲状腺刺激ホルモンレセプター;Tg;およびTPOが含まれ得る。
【0055】
神経変性疾患
さらに、いくつかの神経変性疾患が、健常人または非罹患患者において存在するレベルと異なるレベルで、宿主中に存在する自己抗原と関連する。これらの例を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、集団において最も一般的な神経変性疾患である(Cummings et al.、Neurology 51、S2−17;discussion S65−7、1998)。ADは65歳を超える人々の約10%、85歳を超える人々のほぼ50%が罹患している。2025年までに、約2千2百万人の個人がADに罹患すると推定されている。ADは、ゆっくり進行する痴呆症によって特徴付けられる。ADの最終的な診断は、痴呆症、神経原線維変化および老人斑の3兆候が死後に見出された場合になされる。老人斑は、アルツハイマー病を有する患者の脳において常に見出される。老人斑の主要成分は、アミロイドβタンパク質(Aβ)であり(Iwatsubo et al.、Neuron 13:45−53、1994)(Lippa et al.、Lancet 352:1117−1118、1998)、これは本発明の自己抗原の別の例である。Aβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)に由来する42アミノ酸のペプチドであり、細胞増殖、接着、細胞シグナル伝達および神経突起成長を含む種々の生理学的役割を有する膜貫通糖タンパク質である(Sinha et al.、Ann N Y Acad Sci 920:206−8、2000)。APPは通常、Aβドメイン内で切断されて、分泌型フラグメントを生じる。しかし、選択的スプライシングにより、APPの切断が導かれ、老人斑内に蓄積し得る可溶性Aβを生じる。
【0058】
ADに対する現在の治療は効力が限定されており、Aβ蓄積に対して標的化されたものではない。利用可能な薬物は、脳におけるシナプス後アセチルコリンの濃度を増大させることを目的とした中枢性コリンエステラーゼ阻害剤である(Farlow and Evans、Neurology 51、S36−44;discussion S65−7、1998);(Hake、Cleve Clin J Med 68、608−9:613−4、616、2001)。これらの薬物は、少数の認知パラメータのみにおいて最小の臨床利益を提供する。ヒトAβについてのトランスジェニックマウスは、ヒトADと共通する多数の特徴を有することが示されている(Games et al.、Nature 373:523−527、1995);(Hsiao et al.、Science 274:99−102、1996)。これらのトランスジェニックマウスにおいて、Aβペプチドによる免疫は、認知の改善および病理組織学の低減に関し、実証された効力を有している(Morgan et al.、Nature 408:982−985、2000);(Schenk et al.、Nature 400:173−177、1999)。研究により、アルツハイマー病の動物モデルにおいてペプチドワクチンを用いてAβに対する抗体応答を生じさせることによって、これらのモデルにおいて観察された異常な病理組織学ならびに挙動変化を逆転させることができることもまた、示されている(Bard et al.、Nat Med 6:916−19、2000);(DeMattos et al.、Proc Natl Acad Sci U S A 98:8850−8855、2001)。
【0059】
パーキンソン病
パーキンソン病は、100,000人当たり128〜168人という非常に高い罹患率を有する、錐体外路運動系の神経変性疾患である(Schrag et al.、Bmj 321:21−22、2000)。主要な臨床的特徴は、安静時振戦、動作緩慢、硬直および姿勢不安定である。痴呆症もまた、その後期においてほとんどの症例で生じる。病態生理学的特徴は、脳の錐体外路系内、および特に黒質内のニューロンの喪失である。パーキンソン病を有する患者の脳内の多数のニューロンは、レビー小体として知られる細胞内封入体を有する(Forno and Norville、Acta Neuropathol(Berl)34:183−197、1976)。レビー小体の主要な構成成分は、α−シヌクレインとして公知のタンパク質であることが見出されており、これは本発明の自己抗原の別の例である(Dickson、Curr Opin Neurol 14:423−432、2001)。α−シヌクレインを含むレビー小体の蓄積は、疾患表現型と相関していた。
【0060】
パーキンソン病に対する現在の治療は、内在する原因ではなく、疾患の結果として起こる症状を管理することを目的としている(Jankovic、Neurology 55:S2−6、2000)。パーキンソン病に対する入手可能な薬物は、ドパミン作動性剤(例えば、カルビドパ/レボドパおよびセレギリン)、ドパミンアゴニスト(例えば、ペルゴリドおよびロピニロール)、およびカテコール−o−メチル−トランスフェラーゼ、即ちCOMT阻害剤(例えば、エンタカポンおよびトルカポン)として分類される。これらの治療剤のすべては、罹患したニューロンにおいて利用可能なドパミンの量を増加させることを目的としている。全体として、これらの薬物は、振戦および硬直などの運動症状のいくつかを低減させることにおいてほとんどの患者において最初は有効であるが、黒質のニューロンの破壊を導く神経変性プロセスの進行を減弱するのには有効でない。
【0061】
ハンチントン病
ハンチントン病は、常染色体優性様式で遺伝する遺伝性障害であり、ハンチンチンと呼ばれる遺伝子内に含まれるCAGトリヌクレオチドリピートの長さの異常な伸長と関連している(Cell 72、971−983、1993)。優勢な臨床的特徴は、舞踏病と呼ばれる異常な制御不能な運動および進行性の痴呆症からなる。病態生理学的には、選択的なニューロンの死、ならびに線条体および大脳皮質内の変性が存在する。これらの領域内のニューロンは、変異体タンパク質ハンチンチン(本発明の別の自己抗原である)の細胞内凝集体を蓄積することが示されており、この蓄積が疾患表現型と相関している。(DiFiglia et al.、Science 277:1990−1993、1997);(Scherzinger et al.、Cell 90:549−558、1997);(Davies et al.、Cell 90:537−548、1997)。
【0062】
ハンチントン病の症状または病原原因のいずれかに対する利用可能な治療は現在存在しない。結果として、これらの患者は、症状の最初の発症の平均17年後の不可避的な死まで、ゆっくりと進行する。
【0063】
プリオン病
プリオン病は、伝染性海綿状脳症としても公知であり、動物およびヒトが罹患する潜在的に感染性の疾患であり、脳の海綿状の変性によって特徴付けられる(Prusiner、Proc Natl Acad Sci USA 95、13363−83、1998)。この障害の最も一般的な形態は、クロイツフェルト−ヤコブ病とも称される。新変異型クロイツフェルト−ヤコブ病と呼ばれる疾患の別の形態は、異種間の伝染(例えばウシからヒトへの)によって引き起こされると考えられているので、主要な環境衛生上の意味を有する。この群の障害の臨床的特徴には、迅速に進行する痴呆症、筋クローヌス、脱力感および運動失調が含まれる。病態生理学的には、正常なプリオンタンパク質(本発明の別の自己抗原である)におけるコンフォメーション変化が、プリオンタンパク質のβシート型構造への蓄積を引き起こし、中枢神経系内で見られる変性を導くことが、文献中に報告されている。現在、プリオン病に対する利用可能な治療は存在しない。臨床経過は迅速であり、不可避的な死が通常は診断の2年以内であり、この経過を変更できる介入は存在しない。
【0064】
さらに、いくつかの他の疾患が、健常人または非罹患患者において存在するレベルとは異なるレベルで宿主中に存在する自己抗原と関連する。これらの例を表4中に示す。
【0065】
【表4−1】
【表4−2】
【0066】
骨関節炎および変性性関節疾患
骨関節炎(OA)は、60歳を超える人々の30%が罹患しており、ヒト最も一般的な関節疾患である。骨関節炎は、滑膜関節の変性および不全を示し、関節軟骨の破壊を伴う。
【0067】
軟骨は、主にプロテオグリカン(負荷に耐える硬さおよび能力を提供する)およびコラーゲン(剪断強度に対する張力および抵抗性を提供する)からなる。軟骨細胞は、潜在性のコラゲナーゼ、潜在性のストロメライシン、潜在性のゼラチナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーターおよび他の関連酵素(これらは各々本発明での使用のための自己抗原である)を産生および分泌することにより、ターンオーバーし、正常な軟骨を再構築する。メタロプロテイナーゼの組織阻害剤(TIMP)およびプラスミノーゲンアクチベーター阻害剤(PAI−1)を含むいくつかの阻害剤もまた軟骨細胞によって産生され、中性メタロプロテイナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーターおよび他の酵素の分解活性を制限する。これらの分解性酵素および阻害剤もまた、本発明での使用のための自己抗原である。これらの分解性酵素および阻害剤は、正常な軟骨の再構築および維持を協調させる。OAにおいて、このプロセスの調節不全が、軟骨の変質および分解を生じる。
【0068】
初期OAにおいて、コラーゲン線維の配置およびサイズの異常な変化が存在する。メタロプロテイナーゼ、カテプシンおよびプラスミンは、単独または併用して本発明の自己抗原であり、有意な軟骨基質喪失を引き起こす。最初に、プロテオグリカンおよび軟骨の増大した軟骨細胞産生により、正常よりも厚い関節軟骨が生じる。次いで、関節軟骨は、コラゲナーゼ、ストロメライシン、ゼラチナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーターおよび他の関連酵素(単独または併用して本発明の自己抗原である)を含む分解性酵素の作用の結果として、薄くなり軟化する。IL−1、カテプシンおよびプラスミンは、単独または併用して本発明の自己抗原であり、軟骨の変性および破壊を促進し得る。より軟化し薄くなった軟骨は、機械的応力による損傷に対してかなりより感受性である。これらの因子は、軟骨表面の破壊および垂直な割れ目の形成(細動)を導く。軟骨表面において侵食が形成され、疾患の最終段階においては骨まで達する。軟骨細胞は最初に複製してクラスターを形成し、最終段階では軟骨は低細胞性である。骨の再構築および肥大が、OAの顕著な特徴である。
【0069】
OAに対する現在の治療には、安静、関節を支持する筋肉を強化するための理学療法、ブレスおよび関節を安定化させるための他の支持デバイス、非ステロイド性抗炎症剤ならびに他の鎮痛剤が含まれる。日常生活動作に必須な関節(例えば、膝または股関節)の末期の骨同士が擦れ合うOAでは、手術による関節置換がしばしば実施される。
【0070】
肥満
肥満は、米国および他の先進国が直面している主要な健康問題である。肥満は米国人口の20%が罹患していると推定される。肥満は、脂肪組織の過剰である。延長されたエネルギー摂取が延長された期間にわたって支出を超えると、過剰なカロリーは脂肪組織として貯蔵され、肥満を生じる。このように、肥満は、増加した摂取および/または減少した支出から生じ得る。摂取は、大脳皮質によって制御される複雑なプロセスである摂食挙動に依存する。摂食中枢および満腹中枢を含む視床下部の別個の領域が、大脳皮質にシグナルを送り、摂食の調節を促進する。血糖、インスリン、グリセロールなどのレベルは、視床下部中の摂食中枢および満腹中枢によって検出されて、摂食挙動の調節を助け得る。
【0071】
ヒトは、いくつかの機構によってカロリーの過剰摂取に対して部分的に適応できる。炭水化物およびタンパク質の過剰摂取は、トリヨードサイロニン(T3)の血漿レベルを増大させ、逆T3(rT3)のレベルを減少させる機構を介して、安静時の代謝率を増大させることによって、部分的に補償され得る。中枢または末梢の交感神経出力の増大もまた、カテコールアミン誘導性のカロリー使用および熱産生を増大させる。食事性の熱発生または食物に対する身体の熱応答は、食事摂取の後数時間にわたる増大した熱および安静時代謝率を上回る代謝支出を伴い、これは、炭水化物および脂肪ベースの食事よりも、タンパク質ベースの食事についてより高い。
【0072】
摂食挙動および脂肪生成は、複雑な機構によって制御される。シンデカン−3を含む分子が摂食を調節し、視床下部における摂食挙動を増大させる(Reizes et al、Cell 106:105−116、2001)。食物摂取および代謝に影響を与える他の分子およびレセプターには、オレキシン、ガラニン、コルチコトロピン放出因子、メラニン凝集ホルモン、レプチン、コレシストキニン、ソマトスタチン、エンテロスタチン、グルカゴン様ペプチド1および2、ならびにボンベシン(これらはすべて、単独または併用のいずれかで、本発明における使用のための自己抗原である)が含まれる(Chiesi et al、Trends Pharmacological Sciences、22:247−54、2001)。肥満の動物モデルにおいて、これらの分子のうちいくつかのアンタゴニストまたはアゴニストが、体重減少において有効であることが実証されている(Chiesi et al、Trends Pharmacological Sciences、22:247−54、2001)。ペリリピンは、脂肪細胞の脂肪滴を被覆し、トリアシルグリセロール加水分解を調節し、ペリリピンによる干渉によって、食事誘導性肥満に対して抵抗性であるが正常な耐糖能を有するマウスが生じた(Tansey et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98:6494−99)。
【0073】
肥満が二次的な代謝性または他の疾患状態に対して二次的である場合、二次的な原因を治療する。原発性肥満は、カロリー摂取を低減させるための食事療法および摂食挙動変更、ならびに支出を増大させるための運動療法によって治療する。食欲抑制剤(アンフェタミン様剤)、甲状腺ホルモン薬物、およびヒト絨毛性ゴナドトロピンが、肥満を治療するために使用されてきた。小腸バイパス手術(空回腸シャント)もまた、病的肥満の重篤な症例を治療するために使用される。
【0074】
脊髄損傷
米国で毎年約11,000人の脊髄損傷の新たな症例が存在し、全体的な罹患率は現在米国において合計183,000〜230,000症例であると推定される(Stover et al.、Arch Phys Med Rehabil 80、1365−71、1999)。脊髄損傷から回復することは非常に少なく、荒廃的な不可逆的神経性能力障害を生じる。急性脊髄損傷の現在の治療は、例えば外科的介入による損傷部位の機械的安定化、および非経口ステロイドの投与からなる。これらの介入は、脊髄損傷後の永続的な麻痺の発生を低減させるためには、ほとんど実施されてこなかった。慢性脊髄損傷の治療は、生活の質の維持、例えば疼痛、痙攣および膀胱機能の管理に焦点を当てている。神経性機能の回復を扱う現在利用可能な治療は存在しない。
【0075】
脊髄損傷後のこのような低い回復の原因である因子の1つは、ミエリン鞘中の軸索再生阻害剤の存在である。これらの因子は、損傷後すぐに放出され、軸索が病変を横切って成長して機能的接続を再確立するのを防止する。これらの軸索再生阻害剤の1つは、Nogo−Aと呼ばれるタンパク質であり、これは本発明の自己抗原である(Huber and Schwab、Biol Chem 381、407−19.、2000;Reilly、J Neurol 247、239−40、2000;Chen et al.、Nature 403、434−9、2000)。Nogo−Aは、神経突起成長を阻害することがin vitroで示されており、Nogo−Aに対する中和抗体は、この成長阻害特性を逆転することが示されている。さらに、Nogo−Aに対するモノクローナル抗体は、脊髄損傷の動物モデルにおいてin vivoで軸索再生を促進することが示されている(Raineteau et al.、Proc Natl Acad Sci U S A 98、6929−34.、2001;Merkler et al.、J Neurosci 21、3665−73、2001;Blochlinger et al.、J Comp Neurol 433、426−36、2001;Brosamle et al.、J Neurosci 20、8061−8、2000)。Nogo−Aは、大脳皮質および脊髄内のオリゴデンドロサイトにおいて主に発現される膜貫通タンパク質である。Nogo−A分子の2つの領域(即ち、細胞外の66アミノ酸のループおよびAS472と称される細胞質内のC末端領域)が、この分子の阻害能を潜在的に担うとして同定されている。
【0076】
分子模倣
感染性因子もまた、自己抗原を検出するT細胞の能力に影響を与えることが知られており、これは分子模倣の結果である。理論に束縛されることなく、自己の抗原に密接に関連する感染性病原体由来の抗原は、自己の抗原に対する免疫応答を誘導して、見かけの自己免疫疾患を生じ得ると考えられている。したがって、このような感染性因子由来の抗原もまた、本明細書に記載されるようなCD−8を提供する場合に使用を見出す。分子模倣の結果として自己免疫疾患を引き起こす感染性因子の例は、Nature Medicine、7:8(Aug、2001)、pp:899−905中に示され、この文献は、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0077】
いくつかの実施形態において、全長自己抗原を本発明の免疫調節分子と同時発現させる必要はない。この実施形態において、自己抗原の少なくとも1つのエピトープを、本発明の免疫調節分子と同時発現させる。好ましい実施形態において、このエピトープは、少なくとも約3アミノ酸長、好ましくは少なくとも約5アミノ酸長、最も好ましくは少なくとも約8アミノ酸長である。さらに、全長自己抗原の他の短縮型を、免疫調節分子と同時発現させることができる。自己抗原の一部分またはフラグメントを発現させる場合、融合タンパク質としてフラグメントを発現させて、所望の標的細胞に応じて、自己抗原エピトープの適切な標的化および/またはプロセシングを確実にすることが望ましいことがある。いくつかの実施形態において、例えば、少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチドが標的細胞の原形質膜に達するのを確実にするために、本明細書に記載されるようなシグナルペプチドまたはリーダーペプチドに融合されたフラグメントを含む融合タンパク質を発現させることが必要であり得る。シグナル配列は典型的に、当該分野で周知のように、細胞からのタンパク質の分泌を指示する疎水性アミノ酸からなるシグナルペプチドをコードする。さらに、そして再度所望の標的細胞に応じて、融合タンパク質がそれを発現する標的細胞と結合したままであることを確実にするために、融合タンパク質中の膜貫通領域または他の膜アンカードメインを含むことが望ましいことがある。一実施形態において、膜貫通は、自己抗原に天然である必要はない。この実施形態において、「合成膜貫通ドメイン」は、約20〜25個の疎水性アミノ酸と、その後に少なくとも1つ、そして好ましくは2つの荷電アミノ酸とを含む。
【0078】
免疫調節分子が、治療用導入遺伝子(例えば自己抗原)を含みかつ発現するベクターとは別個のベクター中に含まれる遺伝子によってコードされる場合、類似または同一の型のベクターが使用され、かつ接触効果のタイミングが細胞と接触したベクターに対する免疫応答を阻害するのに十分である限り、この免疫調節分子を含むベクターは、この遺伝子を含みかつ発現するベクターと細胞との接触の前、接触と同時または接触に引き続いて、細胞と接触させることができる。しかし、好ましくは、このベクターは、免疫調節分子と、自己抗原またはそのエピトープもしくは他のフラグメントをコードする配列との両方をコードする。免疫調節分子および治療用導入遺伝子の両方が同じベクターで発現される場合、好ましくは、それぞれのインサートは別個の制御エレメントの制御下にある。この実施形態において、発現系は、2つの発現カセットを含むか、または2つの核酸の同時発現を可能にする単一のカセット(バイシストロニック単位)を含むかのいずれかである。系が2つの発現カセットを含む場合、これらは同一または異なるプロモーターを使用できる。
【0079】
発現系がベクター内に免疫調節分子および治療用導入遺伝子を含む場合、同一または類似の強度のプロモーター、および同一または類似のコピー数の核酸を使用できる。一般に、in vivoで産生される2つの導入遺伝子のそれぞれの量は、十分に近い。しかし、特定の状況において、異なる量の各導入遺伝子を産生することが好ましい場合がある。この場合、異なる強度のプロモーターもしくは異なる遺伝子のコピー数が存在する系のいずれかを使用することか、または投与される用量を変化させることが可能である。
【0080】
一実施形態において、治療用分子(例えば自己抗原)は、標的細胞の表面上での提示のためのクラスIまたはクラスII MHC経路を介したプロセシングのために、タンパク質またはポリペプチドの形態で標的細胞にデリバーされる。全長タンパク質またはその免疫原性フラグメントのいずれかが標的細胞にデリバーされる。この実施形態において、免疫調節分子は好ましくは、本明細書に記載されるような発現系で標的細胞にデリバーされる。
【0081】
一実施形態において、治療用自己抗原は、MHCクラスI分子および/またはクラスII分子との融合タンパク質として提供されるか、あるいはこのような融合タンパク質をコードする核酸である。この実施形態において、自己抗原ならびにMHCクラスI分子およびクラスII分子は、自己抗原が好ましくは共有結合によってMHC分子に連結されるように操作される。いくつかの実施形態において、自己抗原は、当該分野で公知のように、MHC分子に直接(例えば隣接して)連結される。例えば、Mottez et al.、J.Exp.Med.181:493−502(1995)を参照のこと。別の実施形態において、ペプチドリンカーが含まれるがこれに限定されないリンカーが、自己抗原とMHC分子との間に含められ、この技術もまた当該分野で公知である。例えば、Kozono et al.、nature 369:151−154(1994);White et al.、J.Immunol.162:2671−76(1999)を参照のこと。このような融合タンパク質は、米国特許第6,211,342号中により詳細に記載されており、その開示は、参照により本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0082】
「標的細胞」は、単一の実体として存在し得るか、または細胞のより大きな集合の一部であり得る。このような「細胞のより大きな集合」は、例えば、細胞培養物(混合または純粋のいずれか)、組織(例えば、上皮または他の組織)、器官(例えば、心臓、肺、肝臓、胆嚢、膀胱、眼または他の器官)、器官系(例えば、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、外被系または他の器官系)、または生体(例えば、トリ、哺乳動物、特にヒトなど)を含むことができる。好ましくは、標的化される器官/組織/細胞は、造血起源(例えば、樹状細胞、マクロファージ、赤血球、白血球、Tリンパ球およびBリンパ球などが含まれるがこれらに限定されない)のものであり、かつ/または造血幹細胞もしくは他の組織特異的幹細胞であり得る。幹細胞を培養および使用する方法は、米国特許第5,672,346号、同第6,143,292号および同第6,534,052号中により詳細に開示されており、これらは参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0083】
特に、ウイルスベクターまたはプラスミドなどの発現ベクターが接触する標的細胞は、接触した標的細胞が、発現ベクターによって標的化され得る特定の細胞表面結合部位を含んでいる点で、別の細胞とは異なる。「特定の細胞表面結合部位」とは、ベクター(例えばアデノウイルスベクター)が細胞に付着し、それによって細胞に侵入するために相互作用できる、細胞の表面上に存在する任意の部位(即ち、分子または分子の組合せ)を意味する。したがって、特定の細胞表面結合部位は、細胞表面レセプターを包含し、好ましくは、これはタンパク質(改変タンパク質を含む)、炭水化物、糖タンパク質、プロテオグリカン、脂質、ムチン分子またはムコタンパク質などである。潜在的な細胞表面結合部位の例には、グルコサミノグリカン上で見出されるヘパリンおよびコンドロイチン硫酸部分;ムチン、糖タンパク質およびガングリオシド上に見出されるシアル酸部分;主要組織適合複合体I(MHC I)糖タンパク質;膜糖タンパク質中に見出される一般的な炭水化物分子(マンノース、N−アセチル−ガラクトサミン、N−アセチル−グルコサミン、フコースおよびガラクトースを含む);糖タンパク質(例えば、ICAM−1、VCAM、E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチンおよびインテグリン分子);ならびに癌性細胞上に存在する腫瘍特異的抗原(例えば、MUC−1腫瘍特異的エピトープなど)が含まれるが、これらに限定されない。しかし、アデノウイルスなどの発現ベクターを細胞に標的化することは、細胞相互作用の任意の特定の機構(即ち、所定の細胞表面結合部位との相互作用)に限定されない。
【0084】
一実施形態において、発現ベクターの標的細胞特異性は、ベクターのシュードタイピングによって、野生型ベクターに対して変更される。シュードタイピングとは、ベクターに対して標的細胞特異性を付与する他の標的細胞特異的結合部分が、発現ベクター中に含まれることを意味する。このような標的細胞特異的結合部分には、野生型ベクターと比して異なる細胞を標的化するタンパク質、抗体フラグメントもしくは他の結合部分(例えば、ロイシンジッパー)、またはビオチン−アビジン結合部位をコードする遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、この標的細胞特異的結合部分は、例えば細胞表面分子または細胞表面結合抗体に付着するために抗カプシド抗体を使用して、他の標的化分子が容易に付着され得るように、ウイルスカプシド中に組み込まれる。シュードタイピングベクターのさらなる例は、米国特許第6,734,014号、同第6,783,981号および同第6,762,031号中に示され、これらの開示は、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。本発明の発現ベクターおよび方法は、このようなシュードタイピング改変ならびに当業者に周知の他の標的化改変および技術を、有利に含むことができる。一般的には、Curiel and Douglas、Eds.、Vector Targeting for Therapeutic Gene Delivery(Wiley−Liss,Inc.2002)を参照のこと。
【0085】
好ましい実施形態において、これらのベクターは全身投与され、免疫調節分子および自己抗原エピトープの発現は任意の細胞中で生じ得る。この実施形態において、自己免疫疾患を治療する場合、ベクターは、自己免疫応答に供される細胞と接触する必要はない。むしろ、このベクターは、任意の細胞に投与できるか、または任意の細胞中で発現させることができる。
【0086】
一実施形態において、樹状細胞が、本発明の抗原を患者の免疫系に提示するために使用される。樹状細胞は、MHCクラスIおよびクラスII、B7補助刺激分子およびIL−2を発現し、したがって高度に特殊化した抗原提示細胞である。樹状細胞は、MHCクラスI分子およびクラスII分子に関して、T細胞にペプチドを提示するために使用できる。一実施形態において、自己樹状細胞は、MHC分子に結合できるペプチドでパルスされる。別の実施形態において、樹状細胞は、完全タンパク質でパルスされる。なお別の実施形態は、当該分野で公知であり本明細書に記載される種々の実行ベクター(例えば、アデノウイルス(Arthur et al.、1997、Cancer Gene Ther.4:17−25)、レトロウイルス(Henderson et al.、1996、Cancer Res.56:3763−3770)、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、DNAトランスフェクション(Ribas et al.、1997、Cancer Res.57:2865−2869)および腫瘍由来RNAトランスフェクション(Ashley et al.、1997、J.Exp.Med.186:1177−1182))を使用して、樹状細胞における抗原をコードする遺伝子の過剰発現を操作することを含み、これらはすべて、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。このような樹状細胞ワクチンのさらなる例は、米国特許第6,440,735号に見出され、その開示は参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0087】
本明細書中で使用され、以下でさらに定義されるように、「ポリヌクレオチド」または「核酸」とは、DNAもしくはRNA、またはデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの両方を含む分子のいずれかを意味することができる。核酸には、ゲノムDNA、cDNAならびにセンスおよびアンチセンス核酸を含むオリゴヌクレオチドが含まれる。このような核酸はまた、生理学的環境におけるこのような分子の安定性および半減期を増大させるために、リボース−リン酸骨格中に改変を含んでもよい。
【0088】
核酸は、二本鎖、一本鎖であってよく、または二本鎖もしくは一本鎖の配列の両方の部分を含んでいてもよい。当業者に理解されるように、一方の鎖(「ワトソン」)を記述すれば、他方の鎖(「クリック」)の配列を規定することにもなる。したがって、図中に示される配列は、その配列の相補体をも含む。本明細書中の用語「組換え核酸」とは、一般に、エンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって、天然に通常見出されない形態でin vitroで元来形成された核酸を意味する。したがって、直線型の単離された核酸、または通常連結されないDNA分子をライゲーションさせることによってin vitroで形成された発現ベクターは共に、本発明の目的のために組換え体とみなされる。一旦組換え核酸が作製され、宿主細胞または生体中に再導入されると、それは非組換え的に、即ちin vitroまたは染色体外操作ではなく、宿主細胞のin vivo細胞機構を使用して、複製し得るが、このような核酸は、一旦組換え的に生成されると、引き続いて非組換え的に複製されても、なお本発明の目的のために組換え体とみなされることが理解される。
【0089】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本願を通して相互交換可能に使用され得、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味し、これにはタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドが含まれる。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸およびペプチド結合、または合成のペプチド模倣構造から形成され得る。したがって、本明細書中で使用する場合、「アミノ酸」または「ペプチド残基」とは、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモ−フェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明の目的のためにアミノ酸とみなされる。「アミノ酸」には、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。その側鎖は、(R)配置または(S)配置のいずれであってもよい。好ましい実施形態において、アミノ酸は(S)即ちL−配置である。天然に存在しない側鎖が使用される場合、例えばin vivoでの分解を防止または遅延させるために、非アミノ酸置換基が使用され得る。標的化または導入遺伝子としての発現のために変異体タンパク質およびペプチドを生成するための天然アミノ酸配列の変更は、例えば、当業者に公知の種々の手段によって実施できる。変異体ペプチドは、所定のペプチドに対して実質的に相同であるが、そのペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドである。相同性の程度(即ち、同一性%)は、例えば、そのような比較のために最適化されたコンピュータプログラムを使用して(例えば、GAPコンピュータプログラム、バージョン6.0またはそれより高度なバージョン(Devereux et al.(Nucleic Acids Res.、12、387(1984))に記載され、かつUniversity of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から自由に入手可能)を使用して)配列情報を比較することによって、決定できる。変異体タンパク質および/またはペプチドの活性は、当業者に公知の他の方法を使用して評価できる。
【0090】
変異体タンパク質(ペプチド)と参照タンパク質(ペプチド)との間で同一でないアミノ酸残基に関して、変異体タンパク質(ペプチド)は、好ましくは保存的アミノ酸置換を含み、即ちその結果、所定のアミノ酸が類似のサイズ、荷電密度、疎水性/親水性、および/または配置の別のアミノ酸(例えば、Pheに対してVal)で置換される。変異体の部位特異的変異は、改変部位を含む合成オリゴヌクレオチドを発現ベクター中にライゲーションすることによって導入できる。あるいは、オリゴヌクレオチド指向性の部位特異的変異誘発手順、例えば、Walder et al.、Gene、42:133(1986);Bauer et al.、Gene、37:73(1985);Craik、Biotechniques、January 1995、pp.12−19;ならびに米国特許第4,518,584号および同第4,737,462号に開示されるものが使用できる。
【0091】
免疫調節分子
本明細書の文脈において、「免疫調節分子」は、抗原特異的な様式で標的細胞に対する細胞性および/または体液性の宿主免疫応答を調節、即ち増大または減少させるポリペプチド分子であり、好ましくは宿主免疫応答を減少させるポリペプチド分子である。一般に、本発明の教示に従って、免疫調節分子は、標的細胞の表面膜と会合されよう。例えば、本明細書に記載されるベクターからの発現の後、細胞表面膜に挿入されるか、または当該膜に共有結合もしくは非共有結合されよう。
【0092】
好ましい実施形態において、免疫調節分子は、CD8タンパク質のすべてまたは機能的部分を含み、より好ましくは、CD8α鎖のすべてまたは機能的部分を含む。ヒトCD8コード配列については、Leahy、Faseb J.9:17−25(1995);Leahy et al.、Cell 68:1145−62(1992);Nakayama et al.、Immunogenetics 30:393−7(1989)を参照のこと。CD8タンパク質およびポリペプチドに関して「機能的部分」とは、本明細書に記載されるveto活性を保持するCD8α鎖の部分を意味し、より具体的には、CD8α鎖のHLA結合活性を保持する部分、特にCD8α鎖の細胞外領域中のIg様ドメインを意味する。例示的な変異体CD8ポリペプチドは、参照により本明細書中に組み込まれる、Gao and Jakobsen、Immunology Today 21:630−636(2000)中に記載されている。いくつかの実施形態において、全長CD8α鎖が使用される。しかし、いくつかの実施形態においては、その細胞質ドメインは欠失されている。好ましくは、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインが保持される。
【0093】
当業者に理解されるように、必要に応じて、細胞外ドメインと標的細胞表面との会合を改変するために、CD8α鎖の膜貫通ドメインは、他の分子の膜貫通ドメインと交換できる。この実施形態において、CD8α鎖の細胞外ドメインをコードする核酸は、膜貫通ドメインをコードする核酸と作動可能に連結される。任意の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインが、本発明において使用できる。あるいは、膜貫通タンパク質中に見出されることが知られていない膜貫通を使用してもよい。この実施形態において、「合成膜貫通ドメイン」は、約20〜25個の疎水性アミノ酸と、その後に少なくとも1つ、そして好ましくは2つの荷電アミノ酸とを含む。いくつかの実施形態において、CD8細胞外ドメインは、当該分野の従来技術によって、標的細胞膜に連結される。好ましいCD8α鎖の配列は以下の表中に示され、ヒト、マウス、ラット、オランウータン、クモザル、モルモット、ウシ、アラゲコトンラット、家畜のブタおよびネコを含む種由来の全長CD8α鎖をコードするアミノ酸配列または核酸配列のいずれかの全長配列についてのアクセッション番号を含む。そのアクセッション番号で含まれる配列は、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0094】
好ましい実施形態において、CD8α鎖は、融合タンパク質ではないが、むしろ細胞内ドメインが欠失された短縮型タンパク質である。図1A〜Bに示されるように、ヒトCD8α鎖遺伝子は、235アミノ酸のタンパク質を発現する。このタンパク質は、以下のドメインに分割されるとみなすことができる(ポリペプチドのアミノ末端で始まり、カルボキシ末端で終わる):シグナルペプチド(アミノ酸1〜21);免疫グロブリン(Ig)様ドメイン(ほぼアミノ鎖22〜136);膜近位柄(stalk)領域(アミノ酸137〜181);膜貫通ドメイン(アミノ酸183〜210)および細胞質ドメイン(アミノ酸211−235)。これらの異なるドメインをコードするコード配列のヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードする1〜63、細胞外ドメインをコードする64〜546、細胞内ドメインをコードする約547〜621および細胞内ドメインをコードする約622〜708を含む。同様に、マウス配列は以下のようにドメインに分割できる。そのポリペプチドは、アミノ酸1〜27を含むシグナル配列、アミノ酸約28〜194を含む細胞外ドメイン、アミノ酸約195〜222を含む膜貫通ドメインおよびアミノ酸約223〜310を含む細胞内ドメインに分割できる。同様に、これらのドメインをコードするコード配列のヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードする核酸1〜81、細胞外ドメインをコードする約82〜582、膜貫通ドメインをコードする約583〜666および細胞外ドメインをコードする約667〜923を含む。
【0095】
いくつかの実施形態において、全長タンパク質をコードする核酸は、遺伝子デリバリービヒクル中に含まれる。他の実施形態において、細胞内ドメインをコードする核酸は、遺伝子デリバリービヒクル中のポリヌクレオチドには含まれず、細胞内ドメインを欠く膜アンカー型タンパク質を生じる。対応するドメインは、好ましい実施形態におけるマウスを含む、他の種においても同定できる。
【0096】
当業者は、上記ポリペプチドに対する実質的な相同性を有する免疫調節分子が、本発明において有利な用途を見出し得ることもまた理解しよう。したがって、例えば、「CD8ポリペプチド」には、図1A中に示されるヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと、少なくとも約80%の配列同一性、通常は少なくとも約85%の配列同一性、好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有する、相同なポリペプチドもまた包含される。
【0097】
「CD8をコードする核酸分子」およびその文法的等価物は、図1A中に示されるヒトCD8のヌクレオチド配列、ならびに図1A中に示されるヌクレオチドと、少なくとも約80%の配列同一性、通常は少なくとも約85%の配列同一性、好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有し、かつ図1A中に示される配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を意味する。
【0098】
以前に示したように、多数の異なるプログラムが、タンパク質または核酸が既知の配列に対する配列同一性または類似性を有するか否かを同定するために使用できる。配列同一性および/または類似性は、好ましくはデフォルトの設定を使用するか、または検査により、Smith & Waterman、Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所配列同一性アルゴリズム、Needleman & Wunsch、J.Mol.Biol.48:443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman、PNAS USA 85:2444(1988)の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、Devereux et al.、Nucl.Acid Res.12:387−395(1984)により記載されるBest Fit配列プログラムが含まれるがこれらに限定されない、当該分野で公知の標準技術を使用して、決定される。好ましくは、同一性%は、以下のパラメータに基づいてFastDBによって計算される:ミスマッチペナルティ1;ギャップペナルティ1;ギャップサイズペナルティ0.33;およびジョイニングペナルティ30、「Current Methods in Sequence Comparison and Analysis」、Macromolecule Sequencing and Synthesis、Selected Methods and Applications、pp 127−149(1988)、Alan R.Liss,Inc.。
【0099】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPは、漸進的対合アラインメントを使用して、一群の関連配列から複数の配列アラインメントを生成する。アラインメントを生成するために使用されるクラスター化関係を示す階層をプロットすることもできる。PILEUPは、Feng & Doolittle、J.Mol.Evol.35:351−360(1987)の漸進的アラインメント法の単純化を使用し、この方法は、Higgins & Sharp CABIOS 5:151−153(1989)に記載される方法と類似である。デフォルトギャップウェイト3.00、デフォルトギャップレングスウェイト0.10および加重エンドギャップを含む有用なPILEUPパラメータ。
【0100】
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al.、J.Mol.Biol.215、403−410、(1990)およびKarlin et al.、PNAS USA 90:5873−5787(1993)に記載されるBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.、Methods in Enzymology、266:460−480(1996);http://blast.wustl/edu/blast/README.html]から得られたWU−BLAST−2プログラムである。WU−BLAST−2は、いくつかの検索パラメータを使用し、そのほとんどはデフォルト値に設定される。調節可能なパラメータは、以下の値で設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワード閾値(T)=11。HSP SおよびHSP S2パラメータは動的な値であり、特定の配列の組成および目的の配列がそれに対して検索されている特定のデータベースの組成に依存して、プログラム自身によって確立される;しかし、これらの値は、感度を増大させるために調節してもよい。
【0101】
さらなる有用なアルゴリズムは、Altschul et al.Nucleic Acids Res.25:3389−3402により報告されたギャップ付きBLASTである。ギャップ付きBLASTは、BLOSUM−62置換スコア;9に設定した閾値Tパラメータ;ギャップのない伸長を誘発するためのツーヒット法;ギャップレングスkの10+kのコストへの当てはめ;16に設定したXu、ならびにアルゴリズムのデータベース検索段階について40に、アルゴリズムの出力段階について67に設定したXgを使用する。ギャップ付きアラインメントは、約22ビットに対応するスコアによって誘発される。
【0102】
アミノ酸または核酸配列同一性の%値は、一致している同一残基の数を整列させた領域中の「より長い」配列の総残基数で除算することによって決定される。「より長い」配列は、整列された領域中の最も現実的な残基を有する配列である(アラインメントスコアを最大化するためにWU−Blast−2によって導入されたギャップは無視される)。
【0103】
アラインメントは、整列すべき配列におけるギャップの導入を含むことができる。さらに、図1A中に示されるヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列よりも多いかまたは少ないアミノ酸のいずれかを含む配列について、一実施形態において、配列同一性の割合は、アミノ酸残基の総数に対する同一アミノ酸の数に基づいて決定されることが理解される。したがって、例えば、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの配列よりも短い配列の配列同一性は、以下で議論するように、一実施形態において、このより短い配列中のアミノ酸の数を使用して決定されよう。同一性%の計算において、相対的な加重は、配列バリエーション(例えば、挿入、欠失、置換など)の種々の顕現に割り当てられない。
【0104】
一実施形態において、同一性のみが正に(+1)スコア付けされ、ギャップを含む配列バリエーションのすべての形態が「0」の値を割り当てられ、これにより、配列類似性の計算について以下に記載されるような加重スケールまたはパラメータの必要性が排除される。配列同一性%は、例えば、一致する同一残基の数を整列された領域中の「より短い」配列の総残基数で除算し、100を乗算することによって計算できる。「より長い」配列は、整列された領域中の最も現実的な残基を有する配列である。
【0105】
図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと100%未満の配列同一性を有するCD8は一般に、ヒト以外の種由来のネイティブCD8ヌクレオチド配列、およびヒトまたは非ヒト供給源由来のネイティブCD8ヌクレオチド配列の変異体から生成されよう。これに関して、多数の技術が当該分野で公知であり、ネイティブCD8配列のヌクレオチド配列変異体を生成するため、ネイティブCD8ポリペプチドに通常関連する少なくとも1つの活性の存在についてそれらの変異体のポリペプチド産物を評価するために、慣用的に使用され得ることが留意される。好ましい実施形態において、CD8α鎖はヒト由来であるが、表2中に示されるように、ラット、マウスおよび霊長類由来のCD8α鎖が公知であり、本発明において用途を見出す。
【0106】
CD8活性を有するポリペプチドは、図1A中に示されるヌクレオチドによってコードされるポリペプチドよりも、短くても長くてもよい。したがって、好ましい実施形態において、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの部分またはフラグメントが、CD8ポリペプチドの定義内に含まれる。本明細書中の一実施形態において、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのフラグメントは、上記のように、a)少なくとも示された配列同一性を有し;かつb)天然に存在するCD8の生物学的活性を好ましくは有する場合に、CD8ポリペプチドとみなされる。
【0107】
さらに、以下でより完全に概説するように、CD8α鎖は、例えば、他の融合配列の付加、またはさらなるコード配列および非コード配列の解明によって、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドよりも長くなり得る。
【0108】
CD8ポリペプチドは好ましくは組換え体である。「組換えポリペプチド」は、組換え技術を使用して作製される、即ち、以下に記載されるような組換え核酸の発現によって作製されるポリペプチドである。好ましい実施形態において、本発明のCD8は、図1A中に示される核酸配列またはそのフラグメントの発現によって作製される。組換えポリペプチドは、少なくとも1つまたは複数の特徴によって、天然に存在するタンパク質とは区別される。例えば、ポリペプチドは、その野生型宿主において通常関連するタンパク質および化合物のいくらかまたはすべてから離れて単離または精製され得、したがって、実質的に純粋であり得る。例えば、単離されたポリペプチドには、その天然の状態で通常関連する物質の少なくとも幾分かが付随せず、これは、所定のサンプル中の総タンパク質の好ましくは少なくとも約0.5重量%、より好ましくは少なくとも約5重量%を構成する。実質的に純粋なポリペプチドは、総ポリペプチドの少なくとも約75重量%を構成し、少なくとも約80%が好ましく、少なくとも約90%が特に好ましい。この定義は、異なる生体または宿主細胞中での1つの生体からのCD8ポリペプチドの産生を含む。
【0109】
あるいは、ポリペプチドは、誘導性プロモーターまたは高発現プロモーターの使用によって、通常見られない顕著に高い濃度で生成され得、その結果、ポリペプチドは増大した濃度レベルで生成される。あるいは、ポリペプチドは、以下で議論するように、アミノ酸の置換、挿入および欠失の付加などの場合と同様に、天然に通常見出されない形態であり得る。
【0110】
一実施形態において、本発明は、核酸CD8変異体を提供する。これらの変異体は、3つのクラス:置換変異体、挿入変異体または欠失変異体のうちの1つまたは複数に入る。これらの変異体は、当該変異体(遺伝子治療ベクター中の変異体を含む)をコードするDNAを産生し、その後当該DNAを発現するために、カセットもしくはPCR変異誘発または当該分野で周知の他の技術を使用して、図1Aのヌクレオチド中のヌクレオチドの部位特異的変異誘発によって、通常調製される。アミノ酸配列変異体は、そのバリエーションの予め決定された性質、その変異体をCD8アミノ酸配列の天然に存在する対立遺伝子または種間バリエーションとは別のものにする特徴によって、特徴付けられる。これらの変異体は、天然に存在するアナログと同じ質的生物学的活性を典型的に示すが、以下により完全に概説されるように、改変された特徴を有する変異体もまた選択できる。
【0111】
配列バリエーションを導入するための部位または領域は予め決定されるが、変異自体を予め決定する必要はない。例えば、所定の部位での変異の成績を最適化するために、ランダム変異誘発を、標的のコドンまたは領域で実施してもよく、発現された変異体を最適な所望の活性についてスクリーニングしてもよい。既知の配列を有するDNA中の予め決定された部位に置換変異を作製するための技術、例えば、M13プライマー変異誘発およびPCR変異誘発が、周知である。変異体を作製するための技術の別の例は、遺伝子シャッフリングの方法であり、それにより、ヌクレオチド配列の類似の変異体のフラグメントを組み替えて、新規変異体の組合せを生成することが可能となる。このような技術の例は、米国特許第5,605,703号;同第5,811,238号;同第5,873,458号;同第5,830,696号;同第5,939,250号;同第5,763,239号;同第5,965,408号;および同第5,945,325号中に見出され、これらは各々、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0112】
アミノ酸置換は、典型的には単一残基の置換であり;挿入は、通常約1〜20アミノ酸のオーダーであるが、それよりかなり長い挿入が許容され得る。欠失は、約1〜約20残基の範囲であるが、ある場合には、欠失はかなり大きくてもよく、細胞質ドメインまたはそのフラグメントを含んでもよい。
【0113】
置換、欠失、挿入またはそれらの任意の組合せが、最終誘導体に到達するために使用され得る。一般に、これらの変化は、分子の変更を最小化するために、数個のアミノ酸に対して行われる。しかし、より大きい変化が、特定の状況において許容され得る。CD8の特徴における小さい変更が所望される場合、置換は、以下のチャートに従って一般になされる:
【0114】
機能または免疫学的実体における実質的な変化は、チャート1に示されるものよりも保存的でない置換を選択することによってなされる。例えば、変更の領域中のポリペプチド骨格の構造(例えば、α−へリックスまたはβ−シート構造);標的部位における分子の電荷または疎水性;または側鎖の嵩高さに、より顕著に影響を与える置換がなされ得る。一般にポリペプチドの特性において最大の変化を生じることが予測される置換は、(a)親水性残基(例えば、セリルまたはスレオニル)が、疎水性残基(例えば、ロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリルまたはアラニル)で(または、によって)置換される;(b)システインまたはプロリンが任意の他の残基で(または、によって)置換される;(c)正に荷電した側鎖を有する残基(例えば、リジル、アルギニルまたはヒスチジル)が負に荷電した残基(例えば、グルタミルまたはアスパルチル)で(または、によって)置換される;または(d)嵩高い側鎖を有する残基(例えばフェニルアラニン)が側鎖を有さない残基(例えばグリシン)で(または、によって)置換されることである。
【0115】
これらの変異体は典型的に、天然に存在するアナログと、同じ質的生物学的活性を示し、同じ免疫応答を誘発するであろうが、必要に応じてCD8の特徴を改変するために変異体を選択することもある。あるいは、変異体は、タンパク質の生物学的活性が変更されるように設計され得る。
【0116】
本発明の範囲内に含まれるポリペプチドの共有結合改変の1つの型は、ポリペプチドのネイティブのグリコシル化パターンを変更することを含む。「ネイティブのグリコシル化パターンを変更する」とは、本明細書の目的のために、ネイティブ配列のCD8ポリペプチド中に見出される1つもしくは複数の炭水化物部分を欠失させること、および/またはネイティブ配列のポリペプチド中に存在しない1つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することを意味する意図である。
【0117】
ポリペプチドへのグリコシル化部位の付加は、そのアミノ酸配列を変更することによって達成され得る。変更は、例えば、ネイティブ配列のポリペプチドへの、1つまたは複数のセリン残基またはスレオニン残基の付加またはこれらの残基による置換によって、なされ得る(O−結合型グリコシル化部位について)。アミノ酸配列は、所望により、DNAレベルでの変化を介して、特に、所望のアミノ酸に翻訳されるコドンが生成されるように、予め選択された塩基でポリペプチドをコードするDNAに変異導入することによって、変更することができる。
【0118】
ポリペプチド上に存在する炭水化物部分の除去は、グリコシル化の標的として作用するアミノ酸残基をコードするコドンの変異的置換によって達成することができる。
【0119】
その天然の供給源から単離されると(例えば、プラスミドもしくは他のベクター内に含まれるか、または直線状核酸セグメントとしてそれらから切り出されると)、組換え核酸は、他の核酸を同定および単離するためのプローブとして、さらに使用することができる。これは、改変されたまたは変異体の核酸およびタンパク質を作製するための「前駆体」核酸としても使用できる。これは、本明細書に記載されるように標的細胞を処理するために、ベクターまたは他のデリバリービヒクル中に組み込むこともできる。
【0120】
発現ベクター
本発明の文脈において、任意の適切な発現ベクターが使用できる。「ベクター」は、遺伝子移入のためのビヒクルであり、この用語は当業者に理解される。本発明に従う発現ベクターには、プラスミド、ファージ、ウイルス、リポソームなどが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従う発現ベクターは、好ましくは、さらなる配列および変異を含む。特に、本発明に従う発現ベクターは、本明細書中で定義されるような、免疫調節分子、特にCD8α鎖をコードする導入遺伝子を含む核酸を含む。さらに、このベクターは、本明細書に記載されるような自己抗原を含む少なくとも1つのエピトープをコードする配列を含む。核酸は、全体的または部分的に合成により作製されたコード配列または他の遺伝子配列、あるいはゲノムDNAまたは相補DNA(cDNA)配列を含んでもよく、DNAまたはRNAのいずれかの形態で提供され得る。
【0121】
自己抗原をコードする遺伝子は、mRNAの発現およびタンパク質の産生のために、そして他の生化学的特徴の評価のために、ウイルスベクターへ、もしくはウイルスベクターから、あるいはバキュロウイルス中に、または適切な原核生物もしくは真核生物の発現ベクター中に移動させることができる。
【0122】
本発明に従うベクター(組換えアデノウイルスベクターおよび移入ベクターを含む)の産生に関して、このようなベクターは、当業者に公知のような、標準的な分子技術および遺伝学的技術を使用して構築できる。ビリオンまたはウイルス粒子を含むベクター(例えば、組換えアデノウイルスベクター)は、適切な細胞株においてウイルスベクターを使用して産生され得る。同様に、1種または複数種のキメラコートタンパク質を含む粒子は、標準的細胞株(例えば、アデノウイルスベクターについて現在使用されているもの)中で産生され得る。これらの得られた粒子は次いで、所望の場合、特定の細胞に対して標的化され得る。
【0123】
任意の適切な発現ベクター(例えば、Pouwels et al.、Cloning Vectors:A Laboratory Manual (Elsevior、N.Y.:1985)に記載されるようなもの)および対応する適切な宿主細胞が、宿主細胞における組換えペプチドまたはタンパク質の産生のために使用できる。発現宿主には、エシェリキア属、バチルス属、シュードモナス属、サルモネラ属内の細菌種、哺乳動物または昆虫の宿主細胞系(バキュロウイルス系(例えば、Luckow et al.、Bio/Technology、6、47(1988)に記載されるようなもの)を含む)、および樹立細胞株(例えば、COS−7、C127、3T3、CHO、HeLa、BHK)などが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従うキメラタンパク質(ペプチド)を調製するために特に好ましい発現系は、バキュロウイルス発現系であり、この系では、Trichoplusia ni、Tn 5B1−4昆虫細胞または他の適切な昆虫細胞が、高レベルの組換えタンパク質を産生するために使用される。もちろん、当業者は、発現宿主の選択が、産生されるペプチドの型に対して影響を有することを承知している。例えば、酵母または哺乳動物細胞(例えば、COS−7細胞)中で産生されたペプチドのグリコシル化は、細菌細胞(例えば、エシェリキア・コリ)中で産生されたペプチドのグリコシル化とは異なるであろう。
【0124】
好ましい実施形態において、これらのタンパク質は、哺乳動物細胞において発現される。哺乳動物発現系もまた当該分野で公知であり、レトロウイルス系およびレンチウイルス系が含まれる。哺乳動物プロモーターは、哺乳動物RNAポリメラーゼを結合し、タンパク質のコード配列のmRNAへの下流(3’)への転写を開始できる任意のDNA配列である。プロモーターは、コード配列の5’末端に対して近位に通常配置される転写開始領域、および転写開始部位の上流25〜30塩基対に位置するものを使用するTATAボックスを有する。TATAボックスは、RNAポリメラーゼIIに、正確な部位でRNA合成を開始させると考えられている。哺乳動物プロモーターは、TATAボックスの上流100〜200塩基対以内に典型的には位置する、上流のプロモーターエレメント(エンハンサーエレメント)もまた含む。上流のプロモーターエレメントは、転写が開始される率を決定し、いずれの方向でも作用できる。哺乳動物プロモーターとして、哺乳動物ウイルス遺伝子由来のプロモーターが特に使用される。なぜなら、ウイルス遺伝子は、しばしば高度に発現され、広い宿主範囲を有するからである。例には、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、単純疱疹ウイルスプロモーターおよびCMVプロモーターが含まれる。
【0125】
典型的に、哺乳動物細胞によって認識される転写終結配列およびポリアデニル化配列は、翻訳終止コドンの3’側に位置する調節領域であり、したがって、プロモーターエレメントと共に、免疫調節分子および自己抗原のエピトープの両方についてのインサートのコード配列に隣接する。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的翻訳後切断およびポリアデニル化によって形成される。転写ターミネーターおよびポリアデニル化シグナルの例には、SV40由来のものが含まれる。
【0126】
哺乳動物宿主ならびに他の宿主に外因性核酸を導入する方法は、当該分野で周知であり、使用される宿主細胞によって異なるであろう。技術には、デキストラン媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ウイルス感染、ポリヌクレオチドのリポソーム中での封入、および核へのDNAの直接マイクロインジェクションが含まれる。
【0127】
タンパク質は、当該分野で周知の技術を使用して、融合タンパク質として作製してもよい。したがって、例えば、タンパク質は、発現を増大させるためまたは他の理由のために、融合タンパク質として作製してもよい。例えば、タンパク質がペプチドである場合、このペプチドをコードする核酸は、本明細書に記載されるように、発現目的のために他の核酸に連結させてもよい。好ましい実施形態において、自己抗原のエピトープを発現する場合、タンパク質は、適切な標的化およびプロセシングを確実にするために、融合タンパク質として発現される。即ち、エピトープを含むポリペプチドは、分泌経路にポリペプチドを標的化するシグナル配列としてこのようなプロセシング配列を含んでいてもよい、融合タンパク質として発現される。融合タンパク質はまた、免疫調節分子および自己抗原のエピトープの両方が細胞表面上で同時発現されるように、自己抗原のエピトープを含むポリペプチドを細胞膜に固定化する、膜貫通ドメインを含んでいてもよい。
【0128】
CD8または自己抗原について試験するために、発現後にタンパク質を精製または単離する。タンパク質は、サンプル中に存在する他の成分が何であるかに応じて、当業者に公知の種々の方法で単離または精製することができる。標準的な精製方法には、電気泳動技術、分子技術、免疫学的技術およびクロマトグラフィー技術(イオン交換、疎水性、アフィニティおよび逆相HPLCクロマトグラフィーを含む)、ならびに等電点電気泳動が含まれる。例えば、CD8タンパク質は、標準的な抗CD8抗体カラムを使用して精製することができる。限外濾過技術およびダイアフィルトレーション技術もまた、タンパク質濃縮と組み合わせて、有用である。適切な精製技術における一般的な指針については、Scopes,R.、Protein Purification、Springer−Verlag、NY(1982)を参照のこと。精製の必要性の程度は、CD8タンパク質の使用に依存して変化しよう。ある例においては、精製は必要ないであろう。ある例においては、CD8および/または自己抗原の発現は、例えば、抗体結合および蛍光を介した検出により、または蛍光標識細胞分取(FACS)によって、細胞表面上で検出される。
【0129】
CD8および自己抗原をコードする核酸分子、ならびにCD8核酸分子のコード鎖または非コード鎖のいずれかに由来する任意の核酸分子は、当該分野で公知でありかつ慣用的に使用される種々の方法で、標的の細胞と接触させてもよく、このとき、接触はex vivoであってもin vivoであってもよい。
【0130】
ウイルスの付着、侵入および遺伝子発現は、所望のタンパク質またはRNAおよびマーカー遺伝子(例えばβ−ガラクトシダーゼ)を発現する組換えウイルスを作製するための目的のインサートを含むアデノウイルスベクターを使用することによって、最初に評価できる。β−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むアデノウイルス(Ad−LacZ)が感染した細胞におけるβ−ガラクトシダーゼ発現は、細胞にAd−Glucを添加したわずか2時間後に検出できる。この手順は、組換えウイルスの細胞侵入および遺伝子発現の迅速かつ効率的な分析を提供し、従来技術を使用して当業者に容易に実施される。
【0131】
タンパク質をコードする本発明の核酸を使用して、種々の発現ベクターを作製できる。これらの発現ベクターは、自己複製型の染色体外ベクターまたは宿主ゲノム中に組み込まれるベクターのいずれであってもよい。一般に、これらの発現ベクターは、当該タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された転写調節核酸および翻訳調節核酸を含む。用語「制御配列」とは、特定の宿主生体中での、作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な、転写調節核酸配列および翻訳調節核酸配列をいう。原核生物に適切な制御配列には、例えば、プロモーター、所望によりオペレーター配列およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが知られている。
【0132】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係になるよう配置される場合、「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーについてのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、当該ポリペプチドについてのDNAと作動可能に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合、コード配列と作動可能に連結されている;またはリボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列と作動可能に連結されている。別の例として、作動可能に連結されるとは、隣接するように、そして分泌リーダーの場合には隣接しかつ読み取りと一致するように連結されたDNAをいう。しかし、エンハンサーは、隣接する必要はない。連結は、簡便な制限部位でのライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドのアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用される。転写調節核酸および翻訳調節核酸は、一般に、CD8および自己抗原を発現するために使用される宿主細胞に適切であり、例えば、ヒトの転写調節核酸配列および翻訳調節核酸配列が、ヒト細胞中でCD8および自己抗原を発現するために使用されることが好ましい。種々の宿主細胞について、多数の型の適切な発現ベクターおよび適切な調節配列が当該分野で公知である。
【0133】
一般に、転写調節配列および翻訳調節配列には、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始配列および終止配列、翻訳開始配列および終止配列、ならびにエンハンサー配列またはアクチベータ配列が含まれ得るが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、調節配列には、プロモーターならびに転写開始配列および終止配列が含まれる。
【0134】
プロモーター配列は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターのいずれかをコードする。これらのプロモーターは、天然に存在するプロモーターまたはハイブリッドプロモーターのいずれであってもよい。1つより多いプロモーターのエレメントを組み合わせたハイブリッドプロモーターもまた当該分野で公知であり、本発明において有用である。
【0135】
さらに、発現ベクターは、さらなるエレメントを含むことができる。例えば、発現ベクターは2つの複製系を有して、2種の生体中(例えば、発現のために哺乳動物または昆虫細胞中、ならびにクローニングおよび増幅のために原核生物宿主中)で維持されることが可能となり得る。さらに、発現ベクターを組み込むために、発現ベクターは、宿主細胞ゲノムに対して相同な配列を少なくとも1つ、好ましくは発現構築体に隣接する相同な配列を2つ含む。組み込みベクターは、ベクター中に含めるのに適切な相同配列を選択することによって、宿主細胞中の特定の遺伝子座に指向させ得る。組み込みベクター用の構築体は当該分野で周知である。
【0136】
さらなる実施形態において、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能にするために、選択マーカー遺伝子を含むことができる。選択遺伝子は当該分野で周知であり、使用される宿主細胞によって異なるであろう。
【0137】
好ましくは、このベクターは、とりわけ、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスベクターまたはレトロウイルスベクター)である。最も好ましくは、このウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、任意のアデノウイルス由来であり得る。「アデノウイルス」は、Adenoviridae科の任意のウイルスであり、望ましくは、Mastadenovirus属(例えば、哺乳動物アデノウイルス)またはAviadenovirus属(例えば、鳥類アデノウイルス)のウイルスである。アデノウイルスは、任意の血清型のものである。アデノウイルス供給源として使用できるアデノウイルスストックは、アデノウイルス血清型1〜47から増幅でき、これらは現在、American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、Md.)から、または任意の他の供給源から入手可能なアデノウイルスの任意の他の血清型から入手可能である。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、血清型12、18および31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34および35)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5および6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、36〜39および42〜47)、サブグループE(血清型4)、サブグループF(血清型40および41)、または任意の他のアデノウイルス血清型のものであり得る。しかし好ましくは、アデノウイルスは、血清型2、5または9のものである。望ましくは、アデノウイルスは、同じ血清型のコートタンパク質(例えば、ペントンベース、ヘキソンおよび/またはファイバー)を含む。しかし、これもまた好ましくは、例えば、所定のコートタンパク質のすべてまたは一部が別の血清型由来であり得るという意味で、1つまたは複数のコートタンパク質がキメラであり得る。
【0138】
好ましくはアデノウイルスベクターであるウイルスベクターは、複製能のあるものであり得るが、好ましくは、このウイルスベクターは、複製欠損または条件付で複製欠損である。例えば、好ましくはアデノウイルスベクターであるウイルスベクターは、ウイルスを複製欠損にする少なくとも1つの改変を有するゲノムを含む。ウイルスゲノムに対する改変には、DNAセグメントの欠失、DNAセグメントの付加、DNAセグメントの再編成、DNAセグメントの置換、またはDNA損傷の導入が含まれるが、これらに限定されない。DNAセグメントは、1ヌクレオチド程度に小さくできるか、あるいは36キロ塩基対(即ち、アデノウイルスゲノムのおおよそのサイズ)または38キロ塩基対(これは、アデノウイルスビリオン中にパッケージングできる最大量である)程度に大きくできる。
【0139】
ウイルス、特にアデノウイルスのゲノムに対する好ましい改変には、ウイルスを複製欠損にする改変に加えて、本明細書中に定義されるような免疫調節分子をコードする導入遺伝子のインサート、さらにかつ好ましくは、目的の治療用分子をコードする少なくとも1つの導入遺伝子のインサートが含まれる。アデノウイルスなどのウイルスはまた、好ましくは、共組換え体(即ち、アデノウイルスなどのウイルスのゲノム配列と他の配列(例えば、プラスミド、ファージまたは他のウイルスのもの)とのライゲーション)であり得る。
【0140】
アデノウイルスベクター(特に、複製欠損アデノウイルスベクター)に関して、このようなベクターは、完全カプシド(即ち、アデノウイルスゲノムなどのウイルスゲノムを含む)または空のカプシド(即ち、ここで、例えば物理的または化学的手段により、ウイルスゲノムが欠如しているかまたは分解されている)のいずれかを含むことができる。好ましくは、このウイルスベクターは完全カプシドを、即ち免疫調節分子をコードする導入遺伝子、および所望によりかつ好ましくは阻害手段をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を運搬する手段として、含む。あるいは、好ましくは、これらの導入遺伝子は、アデノウイルスカプシドの外側上で、細胞中に運搬され得る。
【0141】
アデノウイルスなどのウイルスを特定の細胞に標的化することが好まれるかまたは望まれる程度まで、ウイルスは、細胞中へのプラスミドDNAの移入において、本質的にエンドソーム溶解剤として使用でき、このプラスミドDNAは、マーカー遺伝子を含み、細胞結合リガンド(例えば、トランスフェリン)に共有結合したポリリジンと複合体化および縮合される(Cotten et al.、PNAS(USA)、89、6094−6098(1992);およびCuriel et al.、PNAS(USA)、88、8850−8854(1991))。トランスフェリン−ポリリジン/DNA複合体とアデノウイルスとの連結(例えば、アデノウイルスに対する抗体によるか、トランスグルタミナーゼによるか、またはビオチン/ストレプトアビジン架橋を介する)は、遺伝子移入を実質的に増強することが実証されている(Wagner et al.、PNAS(USA)、89、6099−6103(1992))。
【0142】
あるいは、1つまたは複数のコートタンパク質(例えば、アデノウイルスファイバー)は、例えば、細胞表面レセプターに対するリガンドの配列または二重特異的抗体(即ち、一方の末端が当該ファイバーに対する特異性を有し、他方の末端が細胞表面レセプターに対する特異性を有する分子)への結合を可能にする配列のいずれかの組み込みによって、改変できる(PCT国際特許出願番号WO95/26412(’412出願)およびWatkins et al.、「Targeting Adenovirus−Mediated Gene Delivery with Recombinant Antibodies」、Abst.No.336)。両方の場合、典型的なファイバー/細胞表面レセプター相互作用は抑止され、アデノウイルスなどのウイルスは、そのファイバーによって新たな細胞表面レセプターに再指向される。
【0143】
あるいは、選択された細胞型に特異的に結合可能な標的化エレメントは、高親和性結合対の第1の分子と連結され、宿主細胞に投与され得る(PCT国際特許出願番号WO95/31566)。次いで、高親和性結合対の第2の分子に連結された遺伝子デリバリービヒクルは、宿主細胞に投与され得、この第2の分子は第1の分子に特異的に結合可能であり、その結果遺伝子デリバリービヒクルが選択された細胞型に標的化される。
【0144】
同じ路線に沿って、方法(例えば、電気泳動、形質転換、三親交配の接合、(同時)トランスフェクション、(同時)感染、膜融合、微粒子弾の使用、リン酸カルシウム−DNA沈殿物とのインキュベーション、直接マイクロインジェクションなど)が、ウイルス、プラスミドおよびファージを、それらの核酸配列の形態(即ち、RNAまたはDNA)で移入するために利用可能なので、ベクターは同様に、任意の関連タンパク質(例えば、カプシドタンパク質)の非存在下かつ任意のエンベロープ脂質の非存在下で、RNAまたはDNAを含むことができる。
【0145】
同様に、リポソームは細胞膜と融合することによって細胞に侵入するので、ベクターは、コートタンパク質をコードする構成的核酸と共に、リポソームを構成し得る。このようなリポソームは、例えばLife Technologies、Bethesda、Md.から市販されており、製造業者の推奨に従って使用できる。さらに、リポソームは、遺伝子デリバリーをもたらすために使用でき、増大した移入能および/または低減したin vivo毒性を有するリポソームが使用できる。可溶性キメラコートタンパク質(本明細書に記載される方法を使用して産生されるものなど)は、リポソームを製造業者の指示に従って調製した後、またはリポソームの調製中のいずれかで、リポソームに添加できる。
【0146】
本発明に従うベクターは、本発明の方法において使用できるものに限定されないが、遺伝子移入ベクターの構築において使用できる中間型ベクター(例えば、「移入ベクター」)もまたこれに含まれる。
【0147】
1つまたは複数の核酸配列のin vivoデリバリーのための好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築体のパッケージングを支持する、および(b)センス方向またはアンチセンス方向でその中にクローニングされたポリヌクレオチドを発現するのに十分なアデノウイルス配列を含む構築体を含むことを意味する。もちろん、アンチセンス構築体の文脈において、発現とは、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0148】
発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。アデノウイルスの遺伝子組成についての知見(36kbの直線状二本鎖DNAウイルス)により、アデノウイルスDNAの大きい断片の、7kbまでの外来配列による置換が可能である(Grunhaus and Horwitz、1992)。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体組み込みを生じない。なぜなら、アデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝毒性なしにエピソーム様式で複製できるからである。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、大規模な増幅後のゲノム再編成は検出されていない。アデノウイルスは、それらの細胞周期段階に関わらず、事実上すべての上皮細胞に感染できる。これまで、アデノウイルス感染は、ヒトにおける急性呼吸器疾患などの軽度な疾患にのみ関連するようである。
【0149】
アデノウイルスは、その中程度のゲノムサイズ、操作の容易さ、高い力価、広い標的細胞範囲および高い感染性のために、遺伝子移入ベクターとしての使用に特に適している。ウイルスゲノムの両方の末端は、100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含み、これらは、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシスエレメントである。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される、異なる転写単位を含む。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび数個の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成を生じる。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞の遮断に関与する(Renan、1990)。ウイルスカプシドタンパク質の大部分を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって与えられる単一の一次転写物の顕著なプロセシングの後にのみ発現される。このMLP(16.8m.u.に位置する)は、感染の後期段階の間に特に有効であり、このプロモーターから与えられるすべてのmRNAは、これらを翻訳に好ましいmRNAにする5’−三者リーダー(TPL)配列を保有する。
【0150】
現在の系において、組換えアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えから生成される。2つのプロウイルスベクター間での可能な組換えに起因して、野生型アデノウイルスが、このプロセスから生成され得る。したがって、個々のプラークからウイルスのシングルクローンを単離すること、およびそのゲノム構造を試験することが、重要である。
【0151】
複製欠損アデノウイルスベクターの生成および増殖は、独自のヘルパー細胞株に依存する。本来、アデノウイルスは、野生型ゲノムの約105%をパッケージでき(Ghosh−Choudhury et al.、1987)、約2kB過剰なDNA分の限度容量を提供する。E1およびE3領域中の置換可能な約5.5kBのDNAと合わせて、現在のアデノウイルスベクターの最大限度容量は、7.5kBを下回るか、またはベクターの全長の約15%である。80%より多いアデノウイルスのウイルスゲノムがベクター骨格中に残存し、これは、ベクター由来の細胞毒性の供給源である。また、E1欠失ウイルスの複製欠損性は不完全である。例えば、ウイルス遺伝子発現の漏れが、高い感染多重度(MOI)で、現在利用可能なベクターで観察されている(Mulligan、1993)。
【0152】
ヘルパー細胞株は、ヒト胚性腎臓細胞、筋細胞、造血細胞または他のヒト胚性間葉系細胞もしくは上皮細胞などのヒト細胞由来であり得る。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対して許容的な他の哺乳動物種の細胞由来であり得る。このような細胞には、Vero細胞または他のサル胚性間葉系細胞もしくは上皮細胞が含まれる。上記のように、現在好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0153】
最近、Racher et al.(1995)は、293細胞を培養し、アデノウイルスを増殖させるための改善された方法を開示した。1つの様式において、個々の細胞を、100〜200mlの培地を含んだ1リットルのシリコン処理したスピナーフラスコ(Techne、Cambridge、UK)中に接種することによって、天然細胞凝集物を増殖させる。40rpmで攪拌した後、細胞生存率をトリパンブルーで評価する。別の様式において、Fibra−Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、Stone、UK)(5g/l)を以下のように使用する。5mlの培地に再懸濁した細胞接種材料を、250mlのエルレンマイヤーフラスコ中のキャリア(50ml)に添加し、ときどきかき混ぜながら1〜4時間静置する。次いで、培地を50mlの新たな培地で置換し、振盪を開始する。ウイルス産生のために、細胞を約80%コンフルエンスまで増殖させ、その後培地を(最終容量の25%まで)置換し、0.05のMOIでアデノウイルスを添加する。培養物を一晩静置し、その後容量を100%まで増大させ、さらに72時間の振盪を開始する。
【0154】
好ましい実施形態において、アデノウイルスは、当該分野で公知のような「ガットレス」アデノウイルスである。「ガットレス」アデノウイルスベクターは、アデノウイルス遺伝子デリバリーのために最近開発された系である。アデノウイルスの複製は、ヘルパーウイルスならびにE1aおよびCreの両方を発現する(天然の環境中には存在しない条件)特別なヒト293細胞株を必要とする。今までの最も有効な系では、E1欠失ヘルパーウイルスが、バクテリオファージP1 loxP部位が隣接した(「floxed」)パッケージングシグナルと共に使用される。Creリコンビナーゼを発現するヘルパー細胞の、floxedパッケージングシグナルを有するヘルパーウイルスと一緒のガットレスウイルスによる感染は、ガットレスrAVのみを生じるはずである。なぜなら、パッケージングシグナルは、ヘルパーウイルスのDNAから欠失されるからである。しかし、293ベースのヘルパー細胞が使用される場合、ヘルパーウイルスDNAは、ヘルパー細胞DNA中に組み込まれるAD5 DNAと組み換わることができる。結果として、野生型パッケージングシグナルだけでなくE1領域が回復される。したがって、E1欠失ヘルパーウイルスが使用される場合、293(または911)ベースのヘルパー細胞上でのガットレスrAVの産生は、RCAの生成もまた生じ得る。
【0155】
このベクターからは、すべてのウイルス遺伝子が取り除かれる。したがって、このベクターは非免疫原性であり、必要に応じて反復して使用され得る。「ガットレス」アデノウイルスベクターはまた、導入遺伝子を収容するための36kbの空間を含み、したがって、多数の遺伝子の細胞への同時デリバリーを可能にする。RGDモチーフなどの特定の配列モチーフが、その感染性を増強するために、アデノウイルスベクターのH−Iループ中に挿入され得る。アデノウイルス組換え体は、本明細書に記載され当該分野で公知のもののような任意のアデノウイルスベクター中に、特定の導入遺伝子または導入遺伝子のフラグメントをクローニングすることによって、構築される。アデノウイルス組換え体は、脊椎動物の表皮細胞を、免疫剤としての使用のために非侵襲的な様式で形質導入するために、使用され得る。
【0156】
「ガットレス」アデノウイルスの使用は、異種DNAの大きいインサートの挿入のために特に有利である(概説については、Yeh.and Perricaudet、FASEB J.11:615(1997)を参照のこと)、これは、参照により本明細書中に組み込まれる。さらに、ガットレスアデノウイルスベクターならびにそれらを作製および使用する方法は、米国特許第6,156,497号および同第6,228,646号中により詳細に記載され、これらは共に、参照により本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0157】
アデノウイルスベクターが複製欠損または少なくとも条件付で欠損であるという要件以外は、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の首尾よい実施に重要でないと考えられる。アデノウイルスは、42の異なる既知の血清型またはサブグループA〜Fのいずれかのものであり得る。サブグループCのアデノウイルス5型は、大量の生化学的情報および遺伝的情報が知られているヒトアデノウイルスであり、歴史的にベクターとしてアデノウイルスを使用するほとんどの構築体に使用されてきたので、アデノウイルス5型は、本発明における使用のための条件付複製欠損アデノウイルスベクターを得るための、好ましい出発材料である。
【0158】
上記のように、本発明に従う典型的なベクターは、複製欠損であり、かつアデノウイルスE1領域を有さないであろう。したがって、E1コード配列が除去された位置で、目的の免疫調節分子および/またはさらなる治療タンパク質をコードする導入遺伝子を導入することが、最も簡便であろう。しかし、アデノウイルス配列内の発現構築体の挿入位置は、本発明にとって重要ではない。目的の導入遺伝子はまた、Karlsson et al.(1986)により記載されたE3置換ベクター中またはE4領域(このとき、ヘルパー細胞株またはヘルパーウイルスが、E4欠損を補完している)中の欠失されたE3領域の代わりに挿入され得る。
【0159】
アデノウイルスは、増殖および操作が容易であり、in vitroおよびin vivoで広い宿主範囲を示す。このグループのウイルスは、高い力価(例えば、1ml当たり109〜1011個のプラーク形成単位)で得ることができ、高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞のゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによってデリバーされる外来遺伝子はエピソーム性であり、したがって、宿主細胞に対する低い遺伝毒性を有する。野生型アデノウイルスによるワクチン接種の研究(Couch et al.、1963;Top et al.、1971)においては副作用は報告されておらず、このことは、in vivo遺伝子移入ベクターとしてのそれらの安全性および治療上の可能性を実証している。
【0160】
アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levrero et al.、1991;Gomez−Foix et al.、1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz、1992;Graham and Prevec、1992)において使用されてきた。最近、動物研究により、組換えアデノウイルスが遺伝子治療に使用できることが示唆された(Stratford−Perricaudet and Perricaudet、1991;Stratford−Perricaudet et al.、1990;Rich et al.、1993)。異なる組織に組換えアデノウイルスを投与する研究には、気管点滴注入(Rosenfeld et al.、1991;Rosenfeld et al.、1992)、筋肉注射(Ragot et al.、1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard、1993)および脳への定位接種(Le Gal La Salle et al.、1993)が含まれる。
【0161】
したがって、好ましい実施形態において、本明細書中で使用される発現ベクターはアデノウイルスベクターである。適切なアデノウイルスベクターは、Ad2またはAd5などのヒトアデノウイルスの改変を含み、ここで、ウイルスがin vivoで複製するのに必要な遺伝因子(例えば、E1領域、およびアデノウイルスゲノム中に挿入された目的の外因性遺伝子をコードする発現カセット)は除去されている。
【0162】
さらに、上記のように、好ましい発現ベクター系は、PCT/US97/01019およびPCT/US97/01048(これらは共に、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる)中に一般に記載されるようなレトロウイルスベクター系である。
【0163】
レトロウイルスは、逆転写のプロセスによって、感染細胞中でそれらのRNAを二本鎖DNAに変換する能力によって特徴付けられる、一本鎖RNAウイルスのグループである(Coffin、1990)。得られたDNAは次いで、プロウイルスとして細胞染色体に安定に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を指示する。組み込みにより、レシピエント細胞およびその子孫におけるウイルス遺伝子配列の保持が生じる。レトロウイルスゲノムは、3つの遺伝子gag、polおよびenvを含み、これらはそれぞれ、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ成分をコードする。gag遺伝子の上流に見出される配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含む。2つの末端反復配列(LTR)の配列は、ウイルスゲノムの5’末端および3’末端に存在する。これらは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノムにおける組み込みにも必要である(Coffin、1990)。
【0164】
レトロウイルスベクターを構築するために、1つまたは複数の目的のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列をコードする核酸を、特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノム中に挿入して、複製欠損のウイルスを産生する。ビリオンを産生するために、gag、polおよびenv遺伝子を含むがLTRおよびパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al.、1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共にcDNAを含む組換えプラスミドが(例えば、リン酸カルシウム沈殿によって)この細胞株に導入される場合、このパッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子中にパッケージングされることが可能となり、次いでこのウイルス粒子が培養培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein、1988;Temin、1986;Mann et al.、1983)。組換えレトロウイルスを含む培地を次いで収集し、所望により濃縮して、遺伝子移入に使用する。レトロウイルスベクターは、広範な種々の細胞型に感染できる。しかし、組み込みおよび安定な発現には、宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al.、1975)。
【0165】
レトロウイルスベクターの特異的な標的化を可能にするように設計された新規アプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学的改変に基づいて最近開発された。この改変は、シアロ糖タンパク質レセプターを介した肝細胞の特異的感染を可能にし得る。
【0166】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特定の細胞レセプターに対するビオチン化抗体が使用される、組換えレトロウイルスの標的化のための異なるアプローチが設計された。これらの抗体は、ストレプトアビジンを使用することによって、ビオチン成分を介して連結された(Roux et al.、1989)。主要組織適合複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用して、彼らは、in vitroで、狭宿主性ウイルスによる、これらの表面抗原を保有する種々のヒト細胞の感染を実証した(Roux et al.、1989)。適切なレトロウイルスベクターには、LNL6、LXSNおよびLNCXが含まれる(概説については、Byun et al.、Gene Ther.3(9):780−8(1996)。
【0167】
AAV(Ridgeway、1988;Hermonat and Muzycska、1984)は、アデノウイルスストックの混入物として発見されたパルボウイルスである。これは、遍在性のウイルスであり(米国のヒト集団の85%に抗体が存在する)、いずれの疾患にも関連していない。これはまた、その複製がヘルパーウイルス(例えばアデノウイルス)の存在に依存するので、ディペンドウイルスとして分類される。5つの血清型が単離されており、そのうちAAV−2が最も特徴付けられている。AAVは、直径20〜24nmの正十二面体ビリオンを形成するカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3中に封入された、一本鎖直線状DNAを有する(Muzyczka and McLaughlin、1988)。
【0168】
AAV DNAは、約4.7キロ塩基長である。これは、2つのオープンリーディングフレームを含み、2つのITRが隣接している。AAVゲノムには、2つの主要な遺伝子:repおよびcapが存在する。rep遺伝子は、ウイルス複製を担うタンパク質をコードし、一方capは、カプシドタンパク質VP1〜3をコードする。各ITRは、T型ヘアピン構造を形成する。これらの末端反復は、染色体組み込みにのみ必須なAAVのシス成分である。したがって、AAVは、すべてのウイルスコード配列が除去され、デリバリーのための遺伝子のカセットによって置換されたベクターとして使用できる。3つのウイルスプロモーターが同定されており、そのマップ位置に従って、p5、p19およびp40と命名されている。p5およびp19からの転写はrepタンパク質の産生を生じ、p40からの転写はカプシドタンパク質を産生する(Hermonat and Muzyczka、1984)。
【0169】
AAVはまた、その安全性に起因して、デリバリービヒクルのよい選択肢である。比較的複雑なレスキュー機構が存在し、野生型アデノウイルスだけでなく、AAVの遺伝子もまた、rAAVを動員するのに必要である。同様に、AAVは病原性ではなく、いずれの疾患にも関連しない。ウイルスコード配列の除去により、ウイルス遺伝子発現に対する免疫反応が最小化され、したがって、rAAVは、炎症応答を誘発しない。AAVに関連する他の開示は、米国特許第6,531,456号に示されており、これは、参照によって本明細書に明示的に組み込まれる。
【0170】
他のウイルスベクターが、宿主細胞への免疫調節分子のデリバリーのために、本発明において発現ベクターとして使用され得る。ワクシニアウイルス(Ridgeway、1988;Coupar et al.、1988)、レンチウイルス、ポリオウイルスおよびヘルペスウイルスなどのウイルス由来のベクターが使用され得る。これらは、種々の哺乳動物細胞にとって魅力的ないくつかの特徴を提供する(Friedmann、1989;Ridgeway、1988;Coupar et al.、1988;Horwich et al.、1990)。
【0171】
発現ベクターのデリバリー
免疫調節分子(例えば、CD8α鎖)および/またはさらなる治療タンパク質(例えば、自己抗原の少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチド)の発現をもたらすために、発現ベクターを細胞中にデリバーする必要がある。このデリバリーは、細胞株を形質転換するための実験室手順の場合同様in vitroで、または特定の疾患状態の治療の場合同様in vivoもしくはex vivoで、達成され得る。上記のように、デリバリーのための1つの好ましい機構は感染を介したものであり、このとき、核酸は組換えウイルス粒子中に封入されている。好ましい実施形態において、このデリバリーは、注射または静脈内投与などの、患者へのベクターの全身投与によって達成される。全身投与は、任意の細胞における免疫調節分子およびエピトープを含むポリペプチドの同時発現をもたらし得る。即ち、発現は特定の細胞型に標的化されない。
【0172】
一旦発現ベクターが宿主細胞中にデリバーされると、所望のオリゴヌクレオチド配列またはポリヌクレオチド配列をコードする核酸は、異なる部位で配置され、発現され得る。特定の実施形態において、構築体をコードする核酸は、細胞のゲノム中に安定に組み込まれ得る。この組み込みは、相同組換えを介して特定の位置および方向であり得るか(遺伝子置換)、あるいはランダムな非特異的位置に組み込まれ得る(遺伝子増大)。さらなる好ましい実施形態において、核酸は、DNAの分離したエピソーム性のセグメントとして、細胞中で安定に維持され得る。このような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主の細胞周期と独立または同期した、維持および複製を許容するのに十分な配列をコードする。発現構築体が細胞に如何にデリバーされ、核酸が細胞中の何処に留まるかは、使用される発現ベクターの型に依存する。
【0173】
本発明の特定の実施形態において、発現ベクターは単に、裸の組換えDNAまたはプラスミドからなり得る。ベクターの移入は、細胞膜を物理的または化学的に透過化する上記方法のいずれかによって、実施され得る。これは、in vitroでの移入に特に適用可能であるが、in vivoでの使用にも同様に適用され得る。Dubensky et al.(1984)は、成体および新生児のマウスの肝臓および脾臓中に、リン酸カルシウム沈殿物の形態でポリオーマウイルスDNAを首尾よく注射し、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。Benvenisty and Reshef(1986)はまた、リン酸カルシウム沈殿したプラスミドの直接的腹腔内注射が、トランスフェクトされた遺伝子の発現を生じることを実証した。目的の遺伝子をコードするDNAがまた、同様の様式でin vivoで移入され、遺伝子産物を発現することが想定される。
【0174】
裸のDNA発現構築体を細胞中に移入するための本発明の別の実施形態は、粒子ボンバードメントを含むことができる。この方法は、DNAでコーティングされた微粒子弾を高速まで加速して、それらが細胞膜を穿孔し、細胞を殺さずに細胞に入るようにできる能力に依存する(Klein et al.、1987)。小粒子を加速するためのいくつかのデバイスが開発されている。1つのこのようなデバイスは、電流を発生させるために高電位放電に依存し、この電流が次に原動力を提供する(Yang et al.、1990)。使用される微粒子弾は、生物学的に不活性な物質(例えば、タングステンまたは金のビーズ)から一般になる。
【0175】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋肉の組織を含む選択された器官が、in vivoでボンバードメントに付される(Yang et al.、1990;Zelenin et al.、1991)。これは、銃と標的器官との間の任意の介在組織を排除するために、組織または細胞の外科的露出を必要とし得る(即ち、ex vivo処置)。再度、特定の遺伝子をコードするDNAがこの方法を介してデリバーされ得、なおも本発明によって組み込まれ得る。
【0176】
本発明の一実施形態において、核酸分子は、リポソーム媒介性の核酸移入によって、標的細胞中に導入される。これに関して、多数のリポソームベースの試薬が当該分野で周知であり、市販されており、標的の細胞中に核酸分子を導入するために慣用的に使用され得る。本発明の特定の実施形態は、カチオン性脂質移入ビヒクル(例えば、LipofectamineまたはLipofectin(Life Technologies))、カチオン性コレステロール誘導体(DCコレステロール)と一緒のジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、N[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)(Sioud et al.、J.Mol.Biol.242:831−835(1991))、DOSPA:DOPE、DOTAP、DMRIE:コレステロール、DDAB:DOPEなどを使用するだろう。リポソーム封入核酸の産生は、当該分野で周知であり、約1:1の比で脂質および核酸を合わせることを典型的に含む。
【0177】
本発明の使用
上で詳述したように、本明細書に記載され可能となった方法および組成物は、自己抗原に対する細胞性および/または体液性自己免疫応答を阻害することにおいて一般的な有用性を見出す。本発明によれば、自己抗原を発現する細胞の生存は、CD8ポリペプチド、より好ましくはCD8α鎖、および自己抗原の少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチドを発現するように宿主細胞を条件付けることによって、慢性的な一般的免疫抑制剤を必要とせずに、延長させることができる。本明細書に記載されるようなCD8ポリペプチドおよび自己抗原エピトープの発現は、自己抗原に対する自己免疫応答の有効かつ特異的な阻害を生じる。
【0178】
理論に束縛されることなく、細胞上でのCD8の発現は、当該細胞に、宿主免疫系に対する「veto効果」を誘導する能力を付与すると考えられる。即ち、上記のように、CD8を発現する細胞が宿主T細胞と接触すると、このT細胞は下方制御または殺傷される。したがって、「veto」または「veto効果」とは、標的細胞が、当該標的細胞または当該標的細胞上に発現された抗原に対する免疫応答を下方制御する能力を意味する。CD8、特にCD8α鎖は、veto効果の誘導または移入に必要であると考えられる。「veto効果の移入」とは、veto効果が、通常はveto効果を誘導しない細胞に移入されることを意味する。即ち、標的細胞上の抗原に対する免疫応答を低減または下方制御する能力が、CD8の発現の誘導または増大によって、当該標的細胞に付与される。本明細書中に初めて報告したように、誘導された自己抗原の発現または提示と組み合わせた標的細胞上のCD8α鎖の存在は、自己反応性CD4+T細胞ならびにCD8+細胞の活性をveto化でき、したがって、免疫応答の細胞性成分および体液性成分の両方がそれによって阻害され得ることが、驚くべきことに今回発見された。
【0179】
したがって、本発明は、veto効果を誘導することによって標的細胞に対する免疫応答を低減することに用途を見出す。これは、標的細胞を他の方法で認識するT細胞の下方制御または除去を生じる。標的細胞が自己免疫抗原を発現する細胞である場合、veto効果を誘導することは、宿主自己免疫応答に対する保護となる。
【0180】
一般に、CD8の発現が自己免疫のシナリオにおいて使用される場合、自己抗原を発現する細胞の寿命は、対象核酸の非存在下で通常予測され得る時間量を超える顕著な量、より通常は少なくとも5日間、より好ましくは少なくとも約30日間、より好ましくは約3カ月間、最も好ましくは約6カ月間〜1年間にわたり、延長されよう。自己免疫抗原発現細胞の寿命が延長される実際の時間量は、手順の種々の条件によって、特に自己抗原を発現する細胞に依存して、変動しよう。また、CD8核酸を含むデリバリービヒクルでの治療は、標的細胞が免疫応答によって認識されるように、CD8発現が減衰する場合には反復され得る。
【0181】
in vivoデリバリーには、筋肉、器官への直接注射、カテーテルを介したもの、または他の灌流手段によるものが含まれるが、これらに限定されない。核酸は、血管内投与または全身投与され得る。当業者は、デリバリーの各様式の利点および欠点を認識するであろう。例えば、直接注射は、患者において最大の力価の核酸を産生し得るが、核酸の分布は、身体中で不均一となる可能性があろう。全身投与は、筋肉内注射同様、好ましい方法である。核酸は、単回投与または数回の投与で導入され得る。当業者は、過度の実験なしに、満足のいくデリバリー手段およびデリバリーレジメンを決定できるだろう。
【0182】
対象核酸は、広範な種々の宿主、特に霊長類、より具体的にはヒト、または他の家畜動物で使用され得る。
【0183】
本発明の方法および組成物の他の適用は、当業者に明らかとなろう。
【0184】
発現ベクターの製剤および投与
当業者は、発現ベクター(特にアデノウイルスベクター)を動物に投与する多数の適切な方法(例えば、Rosenfeld et al.、Science、252、431−434(1991);Jaffe et al.、Clin.Res.、39(2)、302A(1991);Rosenfeld et al.、Clin.Res.、39(2)、311A(1991);Berkner、BioTechniques、6、616−629(1988)を参照のこと)が利用可能であり、1つより多い経路が投与のために使用できるが、特定の経路が別の経路よりもより迅速かつより有効な反応を提供できることを理解するであろう。発現ベクターの投与における使用のための医薬的に許容される賦形剤および/または免疫応答を阻害する手段もまた、当業者に周知であり、容易に利用可能である。賦形剤の選択は、発現ベクターを投与するために使用する特定の方法によって、そして免疫応答を阻害する手段によって、一部決定されよう。したがって、本発明は、免疫調節分子(例えば、CD8α鎖)をコードする発現ベクターを、単独でまたは導入遺伝子とさらに組み合わせて、適切な担体中に含む組成物を提供し、本発明の文脈における使用のために適切な広範な種々の製剤が存在する。特に、本発明は、CD8ポリペプチドおよび少なくとも1つの自己抗原またはその機能的フラグメントをコードする遺伝子を含む発現ベクター、ならびにそのための担体を含む組成物を提供する。代替的実施形態において、この発現ベクターは、目的のさらなる治療用分子またはタンパク質(例えば、抗炎症分子)をさらにコードする。このような組成物は、他の活性剤(例えば、当該分野で公知のような治療もしくは予防剤および/または免疫抑制剤)をさらに含むことができる。以下の方法および賦形剤は単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0185】
経口投与に適切な製剤は、以下からなり得る:(a)例えば、有効量の化合物が希釈剤(例えば、水、生理食塩水またはオレンジジュース)中に溶解した、液状溶液;(b)各々が所定量の活性成分を、固体または顆粒として含む、カプセル剤、サシェ剤または錠剤;(c)適切な液体中の懸濁物;および(d)適切なエマルジョン。錠剤形態は、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、ポテトスターチ、微結晶セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸および他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香料、ならびに薬理学的に適合性の賦形剤のうち1種または複数を含むことができる。ロゼンジ形態は、香味剤(通常、スクロースおよびアカシアまたはトラガカント)中に活性成分を含むことができ、そしてトローチは、不活性基材(例えば、ゼラチンおよびグリセリン)中に活性成分を含み、エマルジョン、ゲルなどは、活性成分に加えて、当該分野で公知のそのような賦形剤を含む。
【0186】
エアロゾル製剤は、吸入を介した投与のために製造され得る。これらのエアロゾル製剤は、加圧された許容可能な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など)中に配置され得る。これらはまた、加圧されていない製剤のための医薬として、例えばネビュライザーまたはアトマイザー中に製剤され得る。
【0187】
非経口投与に適切な製剤には、水性および非水性の等張滅菌注射溶液(抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤およびこの製剤を意図したレシピエントの血液と等張にする溶質を含むことができる)、ならびに水性および非水性の滅菌懸濁物(懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含むことができる)が含まれる。これらの製剤は、単位用量または複数用量の密封された容器(例えば、アンプルおよびバイアル)中に与えられ得、フリーズドライ(凍結乾燥)条件下で保存され得、使用直前に注射用の滅菌液体賦形剤(例えば水)の添加のみを必要とする。即席の注射溶液および懸濁物は、以前に記載された種類の滅菌の粉末、顆粒および錠剤から調製できる。さらに、坐剤は、種々の基材(例えば、乳化基材または水溶性基材)の使用によって製造できる。膣内投与に適切な製剤は、活性成分に加えて、適切であることが当該分野で公知のそのような担体を含む、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤として与えられ得る。
【0188】
本発明の文脈において、動物、特にヒトに投与される用量は、目的の治療用導入遺伝子、ベクターの供給源および/または免疫調節分子の性質、使用される組成物、投与方法、ならびに治療される特定の部位および生体によって異なるであろう。しかし、好ましくは、有効量のベクター(例えば、本発明に従うアデノウイルスベクター)に対応する用量が使用される。「有効量」とは、当業者に公知ないくつかのエンドポイントを使用してモニタリングできる、宿主における所望の効果を生じるのに十分な量である。例えば、1つの所望の効果は、宿主細胞への核酸移入である。このような移入は、治療効果(例えば、治療される疾患、状態、障害または症候群に関連するある症状の軽減)が含まれるがこれらに限定されない種々の手段によって、あるいは移入された遺伝子もしくはコード配列または宿主内でのその発現の証拠によって、モニタリングできる(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、ノーザンもしくはサザンハイブリダイゼーション、または宿主細胞において核酸を検出するための転写アッセイを使用する、あるいは、イムノブロット分析、抗体媒介性の検出、または移入された核酸によってコードされるタンパク質もしくはポリペプチドまたはこのような移入に起因するレベルもしくは機能における影響を検出するための特殊アッセイを使用する)。記載されたこれらの方法は、決して包括的なものではなく、特定の適用に適したさらなる方法が、当業者に明らかであろう。これに関して、ベクター(例えばウイルスベクター、特にアデノウイルスベクター)、ならびに免疫応答を阻害する手段をコードするベクターの導入に対する宿主の応答は、投与されるウイルスの用量、デリバリーの部位、およびベクターならびに導入遺伝子および免疫応答を阻害する手段の遺伝学的製造に依存して変動し得ることに、留意すべきである。
【0189】
一般に、本発明のベクターの有効な移入を確実にするために、所定の投与経路について接触させるべき細胞の概数に基づいて、接触させるべき細胞1個当たり、約1〜約5,000コピーの本発明に従うベクターを使用することが好ましく、約3〜約300pfuが各細胞に侵入することがさらにより好ましい。しかし、これは一般的な指針に過ぎず、in vitroまたはin vivoのいずれかの特定の適用において保証され得るような、より高いまたはより低い量の使用を排除するものでは決してない。同様に、免疫応答を阻害する手段の量は、タンパク質を含む組成物の形態である場合、導入遺伝子を含む組換えベクターに対する免疫応答を阻害するのに十分であるべきである。例えば、実際の用量およびスケジュールは、組成物が他の医薬組成物と併用して投与されるか否かに依存するか、または薬物動態、薬物体内動態および代謝における個体間の差異に依存して、変動し得る。同様に、量は、標的化される特定の細胞型またはベクターが移入される手段に依存して、in vitro適用において変動し得る。当業者は、特定の状況の要件に従って、任意の必要な調節を容易に行うことができる。
【0190】
本発明は、好ましい実施形態を参照して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において変化がなされ得ることを認識するであろう。本明細書中で特定した特許、刊行物および他の参考文献の各々は、その全体が参照により本明細書中に明示的に組み込まれる。
【実施例1】
【0191】
vetoベクターを用いた研究
a.veto細胞として線維芽細胞を操作するための、プラスミド発現ベクターの使用
線維芽細胞を、ヒトまたはマウスのいずれかのCD8α鎖をそれらの表面上で発現するように操作した。線維芽細胞を、pCMVhCD8αプラスミドまたはpCMVmCD8αプラスミドでトランスフェクトした。これらのプラスミドにおいて、CD8α鎖の発現が、CMV最初期プロモーター/エンハンサー(Invitrogen)によって駆動される。CD8α鎖をトランスフェクトした線維芽細胞(H−2b)を混合リンパ球培養物(Balb/c;H−2d抗−C57BL/6;H−2b)中に添加したところ、CD8α鎖発現系統のみが、CTL応答を抑制した。図2AおよびB中に示されるように、マウスまたはヒトのCD8α鎖のいずれかを発現するMC57T線維芽細胞の添加は、CTLの誘導を完全に抑制した。対照的に、トランスフェクトしていない線維芽細胞の添加は、Tリンパ球活性化に影響を与えなかった。CD8α鎖の阻害機能を確立することに加えて、これらの実験はまた、マウスTリンパ球が、ヒトCD8α鎖でveto化され得ることを実証した。したがって、マウスモデルは、臨床使用のために設計されたvetoを試験することにおいて有用であろう。
【0192】
操作されたveto細胞のin vivo機能
動物において操作されたvetoが機能するか否かを試験した。CD8α鎖を発現するようにトランスフェクトされたC57BL/6(H−2b)由来線維芽細胞を、Balb/c(H−2d)マウスに注射した。対照動物に、トランスフェクトしていない線維芽細胞を注射した。8〜40日後に脾臓細胞を収集し、刺激因子細胞としてのC57BL/6(H−2b)脾臓細胞と共にMLC培養物中に導入した。5日後、培養物を収集し、それらがEL4(C57BL/6、H−2b)標的細胞を溶解する能力について試験した。抗H−2bCTL応答の誘導は、CD8α鎖発現線維芽細胞を注射した動物において完全に抑制された(図3)。抗H−2b T細胞の阻害は高度に特異的であった。これらのマウス由来のT細胞は、第3者のH−2kアロMHC分子に対する応答をなおも開始した。これらの実験により、操作されたveto細胞が、従来のveto細胞と同様にin vivoで免疫応答を特異的に抑制し、非典型的なveto細胞がveto細胞になるように操作され得ることが確認された。換言すれば、操作された細胞は、これらの細胞上に保持される抗原に対して動物を陰性免疫した。
【0193】
CD8α鎖の発現が、完全に活性化したT細胞の機能を妨害するか否かを試験した。この目的のために、CD8α鎖を発現する標的細胞を、完全に活性化したCTLによる溶解に対するそれらの感受性について試験した。2つの異なるT細胞集団(MLCにおいて刺激されたアロ反応性CTLおよび活性化したペプチド特異的CTL)をこれらの研究のために選択した。図4A〜B中に示されるように、CD8α鎖を発現する標的は、アロ反応性T細胞の集団によって効果的に溶解されたが、抗原特異的T細胞によっては溶解されなかった。これらの結果は、操作されたvetoが、継続中の抗原特異的免疫応答(例えば、自己免疫応答において見出されるもの)さえも妨害できることを示唆した。
【0194】
b.veto細胞として線維芽細胞を操作するためのウイルス移入ベクター
アデノウイルス移入ベクターm−CD8のveto機能:マウスCD8α鎖を保有する、複製欠損ベクターであるアデノウイルス移入ベクター(mAdCD8α)を開発した。mAdCDB veto移入ベクターを感染させたマウス線維芽細胞(MC57)は、2日目に高レベルのマウスCD8α鎖を発現した。これらの速く増殖する細胞において、マウスCD8α鎖の発現は、5日目までに顕著に減少する。mAdCD8は、より低い効率を有するにもかかわらず、他のマウス細胞株(例えばEL4)にも感染した(データ示さず)。
【0195】
引き続く実験において、mAdCD8α感染MC57線維芽細胞(H−2b)を、Balb/C(H−2d)抗C57B1/6(H−2b)MLCに添加した。5日後、培養物を収集し、抗H−2b CTLの存在について試験した。感染した線維芽細胞を添加したMLCは、抗H−2b CTLをもはや含まなかった(図11)。これらの実験により、veto移入ベクターが免疫抑制を媒介する能力が確立された。
【0196】
さらに、アデノウイルスベクターのヒトCD8バージョンを作製した。また、マウスCD8α鎖を発現するアデノ随伴ウイルスも作製した。これらのウイルスは、それぞれのCD8鎖の発現を誘導することが実証されている。マウスまたはヒトのいずれかのCD8α鎖を発現するアデノウイルスベクターは、キラーT細胞の誘導の完全な阻害を媒介した(図6を参照のこと)。
【0197】
mAdCD8 veto移入ベクターによる陰性免疫:2つの異なる実験を、mAdCD8がin vivoで免疫応答を抑制するか否かを決定するために設定した。第1の実験において、C57Bl/6マウスに、等用量の、mAdCD8 veto移入ベクターまたはマウスCD8α鎖の代わりにβ−ガラクトシダーゼをコードする類似のアデノウイルス対照ベクター(Adβgal)のいずれかを感染させた。免疫の7日後、これらの動物を屠殺した。それらの脾臓細胞の単細胞懸濁物を、Adβgalウイルスの存在下で5日間培養した。次いで、培養物を収集し、それらの増殖能力を評価した。図6中に示すように、Adβgalで免疫したマウスから収集したT細胞は、Adβgalに対して活発に増殖し、高度に増殖性のCD4+T細胞の存在を示した。対照的に、mAdCD8注射動物から収集したT細胞は増殖できなかった。
【0198】
第2段階において、本発明者らは、これらの培養物を、Adβgal感染した標的細胞(EL4、H−2b)を溶解するそれらの能力について試験して、これらの培養物が機能的CD8+CTLを含むか否かを試験した。CTLは、Adβgalを感染させたマウスから樹立した培養物中でのみ明らかにできた(図8)。この第1の実験は、AdCD8αが、CD8α鎖の発現におそらく起因して、アデノウイルス抗原に対する応答を誘導しなかったことを示唆した。しかし、AdCD8が異なる理由のために免疫応答を誘導できなかった可能性があった。AdCD8は、ある未定義の方法で非機能的であったか、あるいはマウスは、mAdCD8中に見出されないβ−ガラクトシダーゼタンパク質と反応しただけである可能性があった。
【0199】
異なる結論の妥当性を試験するために、C57Bl/6マウスに、mAdCD8またはAdβgalのいずれかを1回注射し、その7日後に、Adβgalでの2回目の注入を行った。7日後、マウスを屠殺し、Adβgalの存在下で5日目の脾臓細胞培養物を樹立した。応答性のT細胞を、Adβgal感染した標的細胞に対するそれらの溶解能力について試験した(図7A〜B)。実際、Adβgalに対する2回の曝露は、免疫の改善を導いた。これらの研究はまた、AdCD8感染の後に、マウスがもはやAdβgalに対して応答しないこと、およびAdβgalが主に、排他的ではないにしろ、両方のベクターに共通するアデノウイルスタンパク質に対するCTL応答を誘導することを示した。この実験セットは、ベクター上に保有される遺伝子に対する応答に対して負に免疫することができる遺伝子治療ウイルスベクターを作製することが可能であろうことを、強力に示唆する。
【0200】
vetoによるCD4+Tリンパ球の阻害:veto移入ベクターがCD4+Tリンパ球の誘導を阻害するために使用できるか否かを試験するために、以下の実験系を確立した。C57Bl/6由来線維芽細胞刺激因子を、同種MHCクラスI分子(H−2Ek)および免疫刺激CD80を発現するように形質転換した。それらの完全な刺激能を保存するために照射していない、これらのゆっくり増殖する線維芽細胞を、mAdCD8またはAdβgal移入ベクターのいずれかで形質導入し、選択していないC57B1/6脾臓細胞に添加した。4日後、これらの培養物を収集し、活性化した、即ち爆発的な(blasting)CD4+Tリンパ球の存在について、表面免疫蛍光によって分析した(図8)。正常またはAdβgalで形質導入した刺激因子細胞と共に培養した、選択していないC57B1/6脾臓細胞は、多数のCD4+Tリンパ芽球を有することが見出された。対照的に、mAdCD8感染した刺激因子を添加した培養物では、ごく少数のCD4+Tリンパ芽球が検出された。これらの研究により、vetoがCD4+Tリンパ球を阻害し、さらに、ウイルスveto移入ベクターがこの目的のために使用できることが確認された。
【0201】
種々のウイルス構築体での感染後のマウスおよびヒトのCD8α鎖の表面発現
染色プロトコール:
mAdCD8:
MC57Tを、モック感染させたか、または改変IMDM中で3日間、約104の感染多重度でmAdCD8に感染させた。感染細胞を収集し、FITCで直接標識した抗マウスCD8α鎖抗体(Pharmingen)を用いて、CD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を、蛍光標識細胞分析器(FACScan、Beckton−Dickinson)で測定した(図9B)。
【0202】
骨髄細胞を、Balb/cマウスの大腿骨の窩洞から収集した。これらの細胞に、β−ガラクトシダーゼを発現するアデノウイルス対照ベクター(AdLacZ)またはmAdCD8を、改変IMDM中で3日間の培養につき、104の感染多重度で感染させた。感染細胞を収集し、FITCで直接標識した抗マウスCD8α鎖抗体を用いて、CD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を測定した(図9C)。さらに、CD34+骨髄細胞、即ち、幹細胞プール内の細胞を含むいくつかの細胞型が、有効に形質導入されたことを決定した(表5)。
【0203】
【表5】
【0204】
hAdCD8:
MC57Tをモック感染させた。hAdCD8のウイルス力価は未知である。100μlのストック溶液を使用して、3日間、3×105個の細胞を感染させた。感染細胞を収集し、FITCで直接標識した抗ヒトCD8α鎖抗体(Pharmingen)を用いて、CD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を、蛍光標識細胞分析器で測定した(図9A)。
【0205】
AAVベースのベクター:AAVベースのベクターを、Strategene/Avigen系を使用して平行して作製した。これらの構築体において、ヒトおよびマウスのCD8α鎖は、同じMCV最初期プロモーター/エンハンサーから操作した。2つのウイルスmAAVCD8およびhAAVCD8を、HEK293パッケージング細胞株中にパッケージングした。使用した系は、ヘルパーウイルスを含まない。mAAVCD8およびhAAVCD8は、マウス線維芽細胞(MC57T)に効率的に感染し、それぞれ、マウスまたはヒトのCD8α鎖の高レベルの発現を駆動した。蛍光の程度を、蛍光標識細胞分析器で測定した(図9D)。高レベルのCD8α鎖発現が、形質導入後36時間以内に見られたことに注目するのは興味深い。この知見は、他者による観察と対照的であった。彼らは、AAVにより駆動される遺伝子発現は、顕著なレベルに達するのに数日間かかったことを見出していた(PH Schmelck、PrimeBiotech)。AAVベクターを用いたさらなる研究は、これらが免疫応答を抑制するために使用できるという本発明者らの以前の知見を再確認した。ここでは、標準的MLCプロトコールを使用した(図5A〜B)。
【実施例2】
【0206】
in vitro阻害研究−混合リンパ球培養物
Balb/c(H−2d)マウスおよびC57BL/6(H−2b)マウスから脾臓細胞を収集した。単細胞懸濁物を調製した。C57BL/6脾臓細胞を、3,000radで照射した(Mark 1 Cesium Irradiator)。4×106個のBalb/c脾臓細胞(レスポンダー/エフェクター細胞)を、1ウェル当たり4×106の照射したC57BL/6脾臓細胞(刺激因子細胞)と共に、24ウェルプレート(TPP、Midwest Scientific,Inc.)中で、10%ウシ胎仔血清(FCS)(Sigma)、HEPES、ペニシリンG、硫酸ストレプトマイシン、硫酸ゲンタマイシン、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸(Sigma)、ピルビン酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むIMDM(Sigma)(改変IMDM)中で培養した。CO2インキュベータ(Forma Scientific)中で5日間培養した後、培養物をすべて収集し、C57BL/6由来標的細胞(H−2b)を溶解する能力について試験した。これらの培養物のいくつかに、4×105個の、12,000radで照射したMC57T線維芽細胞(H−2d)を添加した。阻害培養物中に、4×105個の、約104〜1の感染多重度でmAdCD8で2日間感染させたMC57T細胞を含めた。
【0207】
細胞傷害性Tリンパ球キラーアッセイ:混合リンパ球培養物から収集した細胞を、活性化Tリンパ球の指標として、芽細胞の数について計数した。これらのエフェクター細胞を、U底96ウェルプレートの単一のウェルに添加した。1ウェル当たりのエフェクターの数を、1ウェル当たり3×106個または1×105個のエフェクターから開始して、3倍力価決定ステップで力価決定した。これらのエフェクター細胞に、1ウェル当たり1×104個の標的細胞EL4(H−2b)、MC57T(H−2b)またはP815(H−2d)を添加した。この標的細胞は、予め51Cr(Na−Chromate、Perkin−Elmer)で標識しておいた。1×106個の標的細胞を、約500μlの容量の改変IMDM中で90分間、100μCiでインキュベートしておいた。その後、取り込まれていない51Crを、改変IMDMでの複数回の洗浄によって除去した。
【0208】
エフェクター細胞および標的細胞を、200μlの総容量で4時間、CO2インキュベータ中でインキュベートした。その後、プレートを、遠心機(Centra CJ35R、International Equipment Company)で1,500rpmで3分間遠心分離した。100mlの培地を各ウェルから取り出し、標的細胞から放出された51Crの量を、Model 4000 Gamma counter(Beckman Instruments)で計数した。バックグラウンド放出を決定するために、エフェクター細胞が除かれた対照培養物をセットした。標的細胞への総51Cr取り込みをウェル中で決定し、このとき、Triton X100(Sigma)の1%溶液(w/v)を、エフェクター細胞の代わりとした。
【0209】
特異的溶解の量は、以下のように決定した:
%で=(特異的放出−バックグラウンド放出)/(総放出−バックグラウンド放出)×100
【0210】
in vitroでのmAdCD8の活性:混合リンパ球培養物(Balb/c抗C57BL/6)を設置した。これらの培養物に、12,000radで照射し、mAdCD8を感染させておいたMC57T線維芽細胞を(示したとおりに)添加した。5日間の培養後、培養物を収集し、異なるエフェクター対標的(E/T)比で、EL4(H−2b)標的細胞を溶解するそれらの能力について試験した(図3を参照のこと)。理解できるように、混合リンパ球培養物中でさえ、CD8を発現する細胞は、溶解性Tリンパ球の誘導を阻害した。
【0211】
mAdCD8およびhAdCD8の作製:両方のアデノウイルスベクターを、BiogeneのAdEasy(商標)システムの助けにより作製した。ここでは、マウスおよびヒトのCD8α鎖のcDNAが、移入ベクター中に組み込まれる(ステップ1)。Ad5ΔE1/ΔE3ベクターとの組換えを、BJ5183 EC細菌中で達成する(ステップ2)。次いで、組換えベクターを、E1AおよびE1Bのアデノウイルス5ウイルス遺伝子(これらは、組換えアデノウイルス中のこの必須領域の欠失を補完する)を含むQBI−HEK 293A細胞中に移入させる。これらの細胞中で作製されたhAdCD8およびmAdCD8は、したがって、複製欠損である。
【0212】
細菌LacZ遺伝子(β−ガラクトシダーゼ)を発現する対照ベクターとして、Qbiogeneは、QBI−Infect+Viral Particle(Ad5.CMVLacZΔE1/ΔE3)を提供した。使用したマウスCD8α鎖の配列。この配列は、公開されたマウス配列に類似する:
実際の配列:MASPLTRFLS LNLLLMGESI ILGSGEAKPQAPELRIFPKK MDAELGQKVD LVCEVLGSVS QGCSWLFQNS SSKLPQPTFVVYMASSHNKI TWDEKLNSSK LFSAVRDTNN KYVLTLNKFS KENEGYYFCSVISNSVMYFS SVVPVLQKVN STTTKPVLRT PSPVHPTGTS QPQRPEDCRPRGSVKGTGLD FACDIYIWAP LAGICVAPLL SLIITLICYH RSRKRVCKCPRPLVRQEGKP RPSEKIV
【0213】
使用したヒトCD8α鎖の配列。示されるように、この配列は、公開されたヒト配列と比較して、わずかな変異を有している。
実際の配列:MALPVTALLL PLALLLHAAR PSQFRVSPLDRTWNLGWTVE LKCQVLLSNP TSGCSWLFQP RGAAASPTFL LYLSQNKPKAAEGLDTQRFS GKRLGDTFVL TLSDFRRENE GYYFCSALSN SIMYFSHFVPVFLPAKPTTT PAPRPPTPAP TIASQPLSLR PEACRPAAGG AGNRRRVCKCPRPVVKSGDK PSLARYV
【0214】
pAAV−mCD8およびpAAV−hCD8の作製:これらのベクターを、StratageneのAAV Helper−Free Systemの助けにより作製した。この系は、マウスおよびヒトの配列を、pAAV−MCSクローニングベクター中に挿入することによって働く。次いで、このプラスミドを、ヘルパープラスミド(必要なアデノウイルスタンパク質を含む)およびpAAV−RCベクター(カプシド遺伝子を含む)と共にHEK293細胞中に同時トランスフェクトし、組換えAAV粒子を作製する。
【実施例3】
【0215】
動物モデルにおける操作されたveto
本発明者らは、動物が大量のmAdCD8の注射に如何に応答するかを調べた。実験の第1の設定において、Balb/cマウス(各群2匹のマウス)に、mAdCD8またはβ−ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルス対照ベクター(AdLacZ)の等用量を静脈内注射した。7日後、動物を屠殺した。それらの脾臓細胞を、5日間AdLacZの存在下で培養した。次いで、これらを、AdLacZ感染した標的細胞(P815、Balb/c由来)を溶解するそれらの能力について試験した。図13A中に示されるように、特異的溶解能を有するCTLは、AdLacZで免疫したBalb/cマウスから増殖させることができたが、mAdCD8を受けたマウスからは増殖させることができなかった。この結果は、AdCD8が、CD8α鎖の発現に起因して、アデノウイルス抗原に対する免疫応答を誘導しないことを示唆した。
【0216】
第2の設定において、C57Bl/6マウスを、等用量のmAdCD8(2匹のマウス)またはAdLacZ(2匹のマウス)で免疫した。免疫の7日後、各群の1匹の動物を屠殺した。それらの脾臓細胞を、AdLacZの存在下で5日間、細胞懸濁物中で培養した。次いで、これらを、AdLacZ感染した標的細胞(EL−4、C57Bl/6由来)を特異的に溶解するそれらの能力について試験した。再度、AdLacZの注射は、低い頻度ではあったが特異的キラー細胞の発達を誘導したが、一方でmAdCD8は誘導できなかった(図13A)。
【0217】
この実験の第2期において、mAdCD8またはAdLacZのいずれかを受けた残りのC57BL/6マウスに、最初のウイルス注射の7日後に、第2の用量のAdLacZを受けさせた。7日後、マウスを屠殺し、5日目の脾臓細胞培養物をAdLacZの存在下で樹立した。応答性のT細胞を、再度、AdLacZ感染したEL4標的細胞に対するそれらの溶解能について試験した(図13B)。実際、AdLacZに対する2回の曝露により、幾分か改善された免疫が導かれた。しかし、予めmAdCD8を受けさせた動物は、応答を開始することがなおできなかった。これらの実験は、AdCD8が免疫応答を誘導できないだけでなく、それ自体に対する免疫応答の誘導をも防止したことを示唆する。したがって、mAdCD8は、免疫系を逃れた。
【実施例4】
【0218】
ベクターの作製
アデノウイルスベクターの作製:全長マウスCD8α鎖のcDNAを、C型肝炎ウイルスから採取した短いIRESによって、オボアルブミンcDNAに連結する。PCRによって生成されるこのバイシストロニック構築体を、アデノウイルス移入プラスミド中に移動させ、このプラスミド中、非特異的CMV最初期プロモーター/エンハンサーの後ろに配置する。ポリアデニル化もまた、このベクター中に提供する。このプラスミドを、DE1−DE2アデノウイルス5ゲノムを含むプラスミド(pAdEasy−1)と一緒に細菌相同組換えし、アデノウイルスゲノムの本来のE1領域中に発現カセットが挿入された新たなプラスミドを得る。この得られたベクタープラスミドを、次いでQBI−293A細胞中に移入し、CD8α鎖およびオボアルブミンをCMVプロモーターの制御下で発現する組換えアデノウイルスベクターAd/CMV/CD8/Ovaを得る。オボアルブミンのみを発現する対照ベクターを、同じ系を使用して得る。CMVプロモーター領域を、天然にMHCクラスIIを発現するすべての細胞に遺伝子発現をもたらすことが見出されたマウスMHCクラスIIプロモーターと交換した、第2のセットのアデノウイルスベクターを得る(Ceman、J Immunol.1992 Aug 1;149(3):754−61;Martin、J Immunogenet.1990 Feb−Apr;17(1−2):151−9)。アデノウイルスベクター粒子を、標準的手段によってQBI−293A細胞中で生成し、勾配精製によって精製する。各調製物中の感染性粒子の数を、標準的なプラークアッセイで決定する。
【0219】
AAVベースのベクターの生成:上記のバイシストロニック発現カセットを、ヘルパーウイルスを含まないStrategeneのAAVベクター系を使用して、2型AAVカプシド中にパッケージングする。このベクター系において、目的の遺伝子、本発明の場合にはバイシストロニック構築体を、マルチクローニングサイトを介して、pCMV−MCSクローニングベクター中に移動させる。クローニング後、発現カセットをpAAV−LacZ複製欠損AAVベクター中に移動させる。結果として、LacZ遺伝子が除去される。この組換えベクターを、ウイルスパッケージング細胞系293中に、組換え複製欠損AAVビリオンの産生のために、cap遺伝子およびrep遺伝子を保有するpAAV−RCベクターならびにAAVの溶菌期を誘導するのに必要なアデノウイルス遺伝子(E2A、E4およびVA RNA)を保有するpHelperベクターと一緒に、同時トランスフェクトする。再度、ビリオンを標準的な精製プロトコールを使用して精製する。さらに、オボアルブミンのみのベクターを生成する。
【0220】
ガットレスアデノウイルスのヘルパーウイルスを含まない生成:ガットレスアデノウイルスをパッケージングするために、必要なアデノウイルス遺伝子を、トランスで提供する必要がある。ほとんどの公開されたプロトコールは、最終治療調製物から除去すべきヘルパーアデノウイルスを使用する。Cre−Lox組換え系が、さらなるヘルパーウイルスのパッケージングを制限するために使用されてきた(Hardy、1996;Sakhuja、2003)。感染性アデノウイルスヘルパーウイルスの代替として、アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノム構築体によってヘルパーゲノムがデリバーされる系が記載されている(Cheshenko、2001)。このハイブリッドゲノム構築体は、アデノウイルスヘルパーウイルスの使用を回避した。しかし、これは、ハイブリッドゲノム中のΔE1フラグメントと293Aパッケージング細胞中のE1との間の相同組換えを介して、複製能のあるアデノウイルスの組換えを可能にした。使用したヘルパーゲノムは、E1遺伝子内に比較的短い欠失を有した。
【0221】
組換え体を防止するための戦略は、パッケージング細胞のゲノム中に存在するE1配列とヘルパーゲノム中に存在するE1配列との間の配列重複を排除することである(Nichols、2002)。これを達成するための潜在的なハードルは、E1B遺伝子およびpIX遺伝子を調節する方法である。これらの遺伝子は、同じポリアデニル化部位を使用する。さらに、pIX遺伝子は、その発現を可能とするために、ヘルパーゲノム中に保有される必要がある。したがって、E1AおよびE1Bが欠失し、pIX発現カセットが欠失していない、新たなアデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムを構築する。パッケージング細胞は、E1AおよびE1Bを発現するが、pIXを欠くであろう。E1領域を、460位と3509位との間で欠失させる。これは、E1bの短縮を導くが、pIXをインタクトなままにする。それ以外は、アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムは、以前に記載されたように構築する(Cheshenko、2001)。これは、パッケージングシグナルならびにE1およびE3を欠失したアデノウイルス5型の機能的ゲノムを保有するように設計される。これは、アデノウイルス複製基点として作用する融合型ITRをも含む。アデノウイルスゲノムをloxP部位に隣接させ、Creリコンビナーゼの助けを借りたその切り出しを可能にする。VSV糖タンパク質を用いたバキュロウイルスのシュードタイピングが、哺乳動物細胞のより効率的な形質導入を提供したことが示されている(Cheshenko、2001)。水疱性口内炎ウイルス(VSV)糖タンパク質エンベロープタンパク質は、この構築体のバキュロウイルスゲノム中に配置される。バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターによって駆動することにより、これは、昆虫細胞における選択的発現を提供しよう。アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムを、組換えバキュロウイルスとして昆虫細胞中でレスキューする。Cre発現パッケージング細胞(以下を参照)の感染の際に、環状アデノウイルスゲノムが、ハイブリッドゲノムから切り出される。2つの環状分子が生成され、1つはアデノウイルスゲノム(ΔE1、ΔE3)を含み、他方はバキュロウイルスゲノムを含む。アデノウイルスゲノムは、インサートDNA構築体、即ち発現カセット(設計については以下を参照のこと)の伝播に必要なすべてのヘルパー機能を提供するであろう。Cre−Lox組換えを介してハイブリッドから放出されたアデノウイルスゲノムは、アデノウイルスパッケージングシグナルを欠くので、CD8α鎖発現カセットのみがパッケージングされて、ヘルパーを含まないベクター調製物を生じる。
【0222】
新たなパッケージング細胞系の樹立:ヒト胚性網膜芽細胞(HER)を使用する。これらは、アデノウイルスE1遺伝子(Graham、1977)によって不死化でき、アデノウイルスの産生に非常に有効である(Gallimore、1986)。ガットレスアデノウイルスの産生において使用するために、HER細胞を、以下の様式で改変する必要があろう:(i)これらはCreを発現するので、環状アデノウイルスゲノムがハイブリッド分子から切り出される。したがって、これらに、SV40 T抗原核局在化シグナル(Lieber、1996)で改変されたCre遺伝子をトランスフェクトする。Creは、アクチンプロモーターから駆動される。最初期CMVプロモーターは、ウイルス発現カセットとの配列重複を回避するため、使用しない。(ii)HER細胞は、アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムから欠失している相補的E1遺伝子を提供する必要がある。E1プロモーターおよびE1ポリアデニル化配列は、非ウイルス性供給源(例えば、ヒトハウスキーピング遺伝子ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターおよびヘルペスウイルスポリアデニル化部位(Valerio、1985;Simonsen、1983))から得る。(iii)HER細胞を、CreおよびE1発現カセットで同時トランスフェクトする。Her細胞の不死化を、E1の組み込みの証拠として解釈する。継続的に増殖するHER(CE−HER)細胞のクローンを、次いで、全長CreおよびE1構築体の存在および発現について、PCRによってさらに分析する。
【0223】
CD8α鎖/インスリン発現カセットおよび非ウイルス性dmVTVの設計:以下の発現カセットを構築する。全長マウスCD8α鎖のcDNAを、C型肝炎ウイルスから採取した短いIRESによって、(プレプロ)インスリンまたは(プロ)インスリンのcDNAに連結させる。mAdCD8において使用した最初期CMVプロモーター/エンハンサーを使用して、両方の遺伝子の協調的な発現を駆動する。このバイシストロニック構築体を、左側のアデノウイルスITRの2つの逆方向コピーとパッケージングシグナルとの間のスタッファーDNA配列中に配置する。発現カセットを構築プラスミドから切り出せるように、制限部位を配置する。2つの遺伝子のうち一方のみを発現する対照ベクターを生成する。アデノウイルスITRおよびパッケージング細胞を欠く発現カセットが、非ウイルス性dmVTVの基礎をなす。抗生物質選択配列および他の非必須DNAセグメントを使用前に切り出すことが可能な、非ウイルス性dmVTVを設計する。非ウイルス性DNA構築体もまた使用して、2つの異なる遺伝子の発現を試験する。この目的のために、異なる細胞系をこの発現カセットでトランスフェクトする。DNA組み込みおよび特異的mRNAのレベルを、PCRによって試験する。CD8α鎖の表面発現のレベルは、表面免疫蛍光によって決定し、上清中に放出されたインスリンのレベルは、以前に確立された特異的ELISAにより研究する。
【0224】
ウイルス性および非ウイルス性dmVTVの生成:ガットレスアデノウイルスdmVTVの場合、CD−HER細胞を、酵素的に切り出したCD8/インスリン/ITR構築体でトランスフェクトし、次いで、アデノウイルス/バキュロウイルスヘルパーゲノムで形質導入する。形質導入したCE−HER細胞由来の粗製溶解物を収集し、293細胞または組織培養線維芽細胞を形質導入するために使用する。CD8発現細胞の頻度を使用して、dmVTVの「機能的」力価を決定する。293プラークの数を決定することにより、組換え複製欠損ウイルスについての試験が提供される。アデノウイルスdmVTVを、アデノウイルス/バキュロウイルスヘルパーゲノムを使用して、CE−HER細胞においてさらに継代して増殖させる。dmVTV力価および組換えウイルスの存在を決定することに加えて、dmVTVの完全性を、dmVTVの制限酵素マッピング、PCR研究およびDNA配列決定の助けにより研究する。バイシストロニック発現カセットからなる非ウイルス性dmVTVを使用して、異なる細胞系(例えば線維芽細胞)をトランスフェクトする。選択マーカーを、別個のプラスミドによって提供する。CD8α鎖およびインスリンの発現を研究する。
【実施例5】
【0225】
ベクターの機能的試験
異なるベクターの形質導入効率:表現型が異なる樹立された標準的な組織培養細胞株(例えば、線維芽細胞、リンパ腫、マクロファージなど)、新たに収集した分化した細胞(例えば、マクロファージおよびDC)を試験する。C57Bl/6由来のBM細胞を収集し、マウスGM−CSF(トランスフェクトされたJ558L細胞から収集した、U.D.Staerzにより提供される)の存在下で培養する。細胞培養物を繰り返し洗浄して、非接着細胞を除去する。約4日後、接着性DCは、未成熟の表現型を主に発現する。DCを遊離させ、再プレートし、再培養する。得られた細胞を表現型について分析する(Kamath、2000;Bell、1999;Liu、2002;Mellman、2001;Mellman、1998)。これらを、LPS(10ng/ml、Sigma−Aldrich)の添加によって活性化する。マクロファージを、以前にプロテオースペプトン(U.D.Staerzによって提供される調製物)を腹腔内注射していないC57Bl/6マウスまたは注射したC57Bl/6マウスのいずれかの腹腔から収集する。これらを、プラスチックへ接着するそれらの能力によって富化し、染色する(Leenen、1994)。あるいは、マクロファージを、M−CSFの存在下でBMを除いて増殖させる。マクロファージを、INF−γおよびLPSの添加によって、培養物中で活性化する。
【0226】
異なる細胞集団に、最も適切には、10〜1の感染多重度(MOI)で開始して、104〜1のMOIのレベルに達する、漸増するMOIで、異なるベクターを感染させる。細胞集団を、30分〜24時間ベクターに曝露する。より短い曝露時間の後に、形質導入された遺伝子の発現を可能にするインキュベーション期間を設ける。全培養期間は、これらの実験において24時間である。形質導入された細胞を、生存率について研究する。これらを、全DNA含量の測定としてヨウ化プロピジウムで、膜配向の初期の測定としてアネキシン−5で、染色する。次いで、これらの細胞を蛍光標識細胞分析器(FACSCalibur、Becton−Dickinson)で分析する。
【0227】
平行実験において、CD8α鎖および免疫原(オボアルブミン)の両方の発現レベルを決定する。RNAをこれらの細胞から精製し、CD8α鎖および免疫原(オボアルブミン)について遺伝子発現レベルを、アクチンRNAのレベルに対して標準化して、RT−PCRによって決定する。これらの研究の後に、タンパク質レベルの決定を行う。CD8α鎖の場合、形質導入された細胞を、マウスCD8α鎖の表面発現について染色する(FITC結合した抗CD8α鎖 mAb 53−6−75)。非特異的抗体結合による染色の妨害を、抗体のF(ab)’2調製物の使用によって防止する。mAb結合の程度、したがってCD8α鎖発現の程度を、蛍光標識細胞分析器で決定する。
【0228】
オボアルブミン産生のレベルを2つの方法で決定する。オボアルブミンはトランスフェクトされた細胞によって分泌されるので、培養物上清中のオボアルブミンの量を、U.D Staerzによって提供されるラット抗オボアルブミンmAbおよび精製されたウサギ抗オボアルブミン抗体の助けにより、サンドイッチELISAによって決定する。さらに、オボアルブミンがこれらの細胞の表面上のMHC分子上に、免疫学的に適切な形態で提示され得るか否かを決定する。この目的のために、Tリンパ球をT細胞レセプタートランスジェニックマウスOT−IおよびDO11.10から収集し、in vitroで活性化する。次いで、これらを、適切なMHC分子を発現する、異なる形質導入された細胞集団に曝露させる。標準的な活性化実験において、これらが、標的細胞を特異的に溶解できるか否か(OT0I)、またはIL−2を分泌できるか否か(DO11.10)を決定する試験を実施する。対照実験を、CD8α鎖のみを保有するベクターで形質導入した細胞で実施する。外因性オボアルブミンペプチドを添加する。ここで、本発明者らは、vetoがエフェクターT細胞を阻害するか否かを決定する。抗CD8 mAbを添加して、標的細胞のCD8を阻害する。さらに、オボアルブミンのみを保有するベクターを使用する。
【0229】
ベクターのin vitro阻害機能:形質導入プロトコールを最適化し、本発明者らは、異なるベクターが、特異的様式で、MHCクラスI拘束およびMHCクラスII拘束された免疫応答を阻害するか否かを決定する。以前の実験から、本発明者らは、異なるベクターのどれが最も有望であるか、そしてどの細胞株がCD8α鎖を発現し、オボアルブミンを有効に提示するかを知っている。第1の研究として、CD8α鎖の機能を、以前に記載したように、MLC中で試験する。簡潔に述べると、C57BL/6抗Balb/c MLCを樹立する。これらに、段階的な数の、CD8α鎖を発現する、異なる形質導入された細胞集団を提供し、5日間培養する。アロ反応性CD8+T細胞およびCD4+T細胞の発達を、引き続くCTLおよび再刺激アッセイで測定する。
【0230】
インスリン特異的CD8+Tリンパ球およびCD4+Tリンパ球の系統を、場合によっては収集した膵島から、NODマウスから樹立する。これらの系統を、確立された再刺激プロトコールを使用して維持する。dmVTVを形質導入またはトランスフェクトした同系細胞を、キラーアッセイ(CD8+CTL)およびサイトカイン放出研究(CD4+TH細胞)に添加する。これらの応答を阻害するそれらの能力を試験する。APCを含む異なる細胞集団を、この方法で試験する。全DNA含量およびアネキシン−5配向(上記研究を参照のこと)を使用して、veto化T細胞が、これらの培養物中で阻害または殺傷されるか否かを研究する。
【0231】
dmVTVの全体的veto機能の、in vivoでの機能的試験:異なるdmVTVの全体的veto機能を、vetoのin vivo活性を以前に実証した実験設定で、アロ応答の助けにより試験する。それぞれのdmVTVで形質導入または安定にトランスフェクトしたC57BL/6由来細胞株を、BALB/c動物中に注射する。10日後、マウスを屠殺し、それらの脾臓細胞を収集し、常在性のT細胞を、C57BL/6刺激因子細胞でin vitroで活性化する。応答性T細胞の存在を、キラーおよびサイトカイン放出アッセイにおいて試験する。インスリンに対して特異的なT細胞レセプターについてトランスジェニックなマウスは入手できないので、dmVTVがインスリン特異的免疫応答を抑制する能力は、NODマウスでの研究で評価しなければならない(以下を参照のこと)。
【0232】
異なるベクターが、オボアルブミン特異的TCRトランスジェニックTリンパ球の誘導を特異的に阻害できるか否かを決定する:さらに、異なる細胞集団(上記を参照のこと)を、異なるベクターの助けにより、阻害細胞へと形質転換できるか否かを、決定する。OT−IおよびDO11.10 Tリンパ球を収集し、それぞれのオボアルブミンペプチドで馴化した、照射した脾臓刺激因子細胞で刺激する。これらの培養物に、異なるベクターで形質導入した、段階的な数の細胞(異なる表現型のもの)を添加する。約5日間の培養後、Tリンパ球を収集し、培養し、機能について試験する。OT−I Tリンパ球を、オボアルブミン被覆された標的細胞(OT−1)を特異的に殺傷するそれらの能力について試験する。DO11.10の場合、初代培養物におけるそれらの増殖応答を測定する。いずれの場合にも、応答性のTリンパ球の運命が決定される。本発明者らは、これらがアポトーシスを受けたか否かを決定することを望んでいる。すべての研究は、CD8α鎖またはオボアルブミンのいずれかのみを単独で発現する異なる対照ベクターで対照を取った。
【0233】
抗原特異的veto阻害の決定:これらの実験において、TCRトランスジェニックマウス由来のTリンパ球(C10.4、AttM、MHCクラスIb拘束(U.D.Staerzによって提供される)およびAND、ハトシトクロムC、MHCクラスII拘束)を、適切なハプロタイプのベクター感染細胞の存在下で、ペプチド被覆された刺激因子細胞で刺激する。
【0234】
ベクターのin vivo機能的試験:TCRトランスジェニック動物は、T細胞の活性および運命を調査するための、最も直接的なアプローチを提示する。したがって、本発明者らは、T細胞がモデル抗原オボアルブミンと反応性である2つのTCRトランスジェニックマウスを選択する。1つはOT−Iであり、これは、オボアルブミン257〜264に特異的なCD8+ H−2Kb拘束CTLを保有し、他方はDO11.10であり、これは、オボアルブミン329〜339に特異的なCD4+ H−2Ab拘束Tヘルパー細胞を保有する。in vivoのveto実験を、末梢T細胞の特定の割合のみがTCRトランスジェニック型のものであるキメラマウスにおいて実施する。これらのキメラを、致死量未満で照射したマウスにおいて構築する。これらのマウスに、特定の数の前駆体(5%)が一方または両方のTCRトランスジェニックマウス由来である、混合BMを注射する。同様の割合の末梢T細胞が、トランスジェニックT細胞レセプターを発現した。この割合を、末梢血において測定し、この目的のために外科的に取り出したリンパ節において確認する。ここで、トランスジェニックT細胞の頻度を測定するために、脾臓の生検を行う。mAb(上記を参照のこと)またはTCR導入遺伝子に特異的なMHC四量体での細胞表面染色に加えて、これらのT細胞の活性化状態を、mAb(例えば、抗CD62L、抗CD44、抗CD25および抗CD122)の助けにより決定する。これらのT細胞の機能性を、標準的なin vitro活性化アッセイで試験する。このアッセイにおいて、それらが特異的CTLに発達する能力またはそれらの抗原に対して特異的に増殖する能力を決定する。
【0235】
異なるベクターおよび対照ベクターを、最も適切には、漸増する用量で、適切には数回、静脈内注射する。特定の期間(適切には、1週間後から6カ月後まで)の後、動物から採血する。TCRトランスジェニックT細胞の頻度および機能的表現型(休止対休止)を決定する。さらに、ヨウ化プロピジウムおよびアネキシン−5染色を使用して、それらがアポトーシスを受けているか否かを決定する。これらの動物を、異なる時点で屠殺する。それらの脾臓およびリンパ節を収集する。回収されたTリンパ球の数、活性化状態および生存率を決定する。さらに、これらのT細胞が、特異的in vitro刺激の後に、増殖するように誘導され得るか否か(DO11.10)、または機能的CTLに発達するように誘導され得るか否か(OT−I)を、調査する。TCRトランスジェニックT細胞がもはや応答しないがなおも存在する場合、異なるT細胞集団を、類似のキメリズムの二次宿主中に養子移入して、調節性T細胞(例えば、CD4+CD25+T細胞)が誘導されたか否かを決定する。
【0236】
Bリンパ球、Tリンパ球、マクロファージ、DC、顆粒球を、抗CD8α鎖mAbと組み合わせてそれぞれのmAbで同定して、どの細胞集団がベクターを取り込み、そこで、CD8α鎖を発現したかを決定する。脾臓およびリンパ節以外に、肝臓および肺を調査する。ベクターをキメラマウス中に直接注射することに対する代替的アプローチとして、マクロファージおよびDCなどの異なる細胞をex vivoで感染させ、次いでマウスに再注射する。この処置に対するT細胞応答を上記のように決定する。
【0237】
ベクターを受けたマウスに、強力な免疫原(例えば、インフルエンザウイルスPR/8)を、同時にまたは異なる時間遅延で注射して、veto阻害が特異的か否かを決定する。免疫の約2週間後、脾臓細胞およびリンパ節を収集し、ウイルスに対してin vitroで再刺激して、増殖するCD4+インフルエンザ特異的T細胞が発達したか否か、またはインフルエンザ特異的CTLが誘導され得るか否かのいずれかを試験する。
【実施例6】
【0238】
NODマウスにおけるI型糖尿病の発症の阻害
CD8α/インスリン2ベクターの生成:pBudCE4.1ベクター(Invitrogen #V532−20)は、2つのマルチクローニングサイト(MCS)を含んだ:1)CMVプロモーター、MCS、SV40PAシグナル;2)伸長因子1α(EF−1α)、MCS、BGH PAシグナル。マウスCD8α鎖の遺伝子を、Kpn1(5’)制限部位およびXho1(3’)制限部位を有するpEF−1α MCS中に、以下のプライマーを用いてクローニングした:Forward:5’−CT TAT GGT ACC GCA ATG GCC TCA CCG TTG−3’;Reverse:5’−CG CTC CTC GAG TTA TTA CAC AAT TTT CTC−3’。マウスCD8α鎖遺伝子を、pBudCE4.1ベクター中にクローニングする前に、最初にpCR2.1ベクター中にクローニングした。この遺伝子をKpn1酵素およびXho1酵素を使用して切断すると、これは、pCR2.1ベクター由来のKpn1部位を使用して実際に切断されて、マウスCD8α鎖遺伝子の5’末端への約30ヌクレオチドの付加を生じた。これらの過剰なヌクレオチドは、プロモーターの後かつ遺伝子のATG開始コドンの前に位置した。
【0239】
マウスインスリン2の遺伝子を、Hind III(5’)制限部位およびXba1(3’)制限部位を有するCMV MCS中に、以下のプライマーを使用してクローニングした:Forward:5’−GC TTG AAG CTT GCA ATG GCC CTG TGG ATG−3’;Reverse:5’−CG CTC TCT AGA TTA CTA GTT GCA GTA GTT C−3’。
【0240】
マウスCD8α鎖遺伝子およびマウスインスリン2遺伝子の両方を配列決定したところ、変異は含んでいなかった。
【0241】
複数エピトープのインスリンベクター:代替的実施形態において、主要MHCクラスI(H−2d−B15−B23、B24−C36)およびMHCクラスII(H−2Ag7−B9−23)拘束エピトープ(即ち、B9−C36(Martinez、2003;Chen、2001;Wong、1999;Wegmann、1994;Wegmann、1994;Wegmann、1993))を包含するマウスインスリンの抗原性セグメントに連結された全長マウスCD8α鎖cDNAを有するベクターを、C型肝炎ウイルスから採取した短いIRESによって調製する。さらに、それぞれのペプチドを合成する。
【0242】
ベースラインの実験において、異なる病期でNODマウスから収集したTリンパ球が、これらのインスリンエピトープに対して、他者(Wegmann、1993)によって以前に記載されたように応答するか否かを調査する。さらに、このインスリン構築体が適切に提示されているか否かを試験する。この構築体のみを保有する移入ベクターを生成する。これらを使用して、刺激因子細胞を形質導入し、認識効率を決定する。これらの予備実験が、それぞれのインスリン構築体が認識されたことを確立した後に、それぞれのベクターを生成する。
【0243】
NODマウスにおける糖尿病発症の予防:予備研究において、本発明者らは、約70%の雌性NODマウスが、約4カ月以内に本発明者らの動物コロニーにおいて糖尿病を自然発症することを見出した。他者の研究から、本発明者らは、末期の糖尿病に、約4週齢での膵島炎が先行することを知っている。この膵島炎は、約4週齢での膵島へのTリンパ球の遊走によって特徴付けられる。
【0244】
本実験において、2群のNODマウスを使用した。対照群の11匹のマウス(15週齢)は処置しなかった。同じ齢の4匹のマウス(NOD、雌性、Jackson Laboratories)に、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクターを筋内注射した。注射は、両方の四頭筋(または腓筋)に、異なる時点で50μl(1ml/mg)であった。血糖値を1週間に2回測定した。自己抗体産生について試験するために、1週間に1回、3滴の血液から血清を収集し、遠心分離した。
【0245】
図14中に示されるように、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクターを受けたマウスは、処置しなかった対照群と比較して、6週間の期間にわたって糖尿病マウスの割合の持続的な減少を実証した。末期糖尿病をすでに発症したNODマウスに同じベクターを提供したところ、その糖尿病状態に変化はなく、このことは、ベクターを介した治療上有効なインスリン産生がないであろうことを示唆する(データ示さず)。さらに、12週目前のインスリン2およびGADを含むベクターの注射は何の効果も示さず、一方で即席のCD8α鎖/インスリン2ベクターを15週目に投与すると有効であることが、刊行された研究により示されている。したがって、本発明者らは、目的の方法に従う、最も適切には筋細胞上およびまた抗原提示細胞上でのCD8およびインスリンの同時発現が、インスリン産生島細胞を破壊するのに必要なインスリン特異的T細胞の活性を阻害すると結論付けている。
【0246】
この結論を確認するために、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクター(上記と同じもの)を、対照プラスミドpBudCE4.1+マウスCD8α鎖(EF−1αプロモーター)のみ、PBudCE4.1+マウスインスリン2(CMVプロモーター)のみ、および空のpBudCE4.1ベクターと一緒に使用して、以下の実験を実施する。
【0247】
雌性NODマウスを以下の群に分離する(表6)。これらに、それぞれのベクター50μl(1ml/mg)を筋内注射する。予備実験とは対照的に、これらは2週間隔てて2回の注射を受けることになる。血糖値を1週間に2回測定する。抗インスリン抗体のレベルを、RIAおよびELISAを使用して決定する。特定の時間で、数匹のマウスを屠殺する。それらの脾臓およびリンパ節を収集し、インスリンおよびGAD特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞の存在を、標準的なT細胞活性化アッセイを使用して決定する。炎症プロセスがこれらのマウスの膵島で生じたか否かを決定するために、組織学的研究を含める。
【0248】
【表6】
【0249】
約70〜80%の未処置NODマウスは、その生涯の約26週以内に糖尿病を発症し、その率は、以前の実験で検出されたとおりである。vetoベクター単独での注射は、この率を有意に低下させないことが予測される(群2および3)。インスリン2の注射は、8週目および10週目に与えられると、約30%まで糖尿病の発生率を低下させ得る(群4)。後の時点で与えた場合(群5)、糖尿病の発生率における有意な低下は予測されない。vetoベクターを早期に与えると(群6)、群2と比較して、糖尿病の発生率における有意により顕著な低下が予測される。20%未満の動物が、糖尿病を発症すると予測される。糖尿病の発生の遅延もまた予測される。群7中の30%以下の動物(群5中の70%より高い率と比較して)が、糖尿病を発症すると予測される。糖尿病の発症において類似の遅延が予測される。
【0250】
別の実験において、雌性NODマウスに、2週齢から開始して、糖尿病の発症前にCD8α鎖/インスリンベクターを注射して、これらの動物において、糖尿病の明白な発症が予防されない場合には、それが遅延されるか否かを決定する。末梢血中のグルコースレベルを測定する。さらに、異なる時点でマウスを屠殺し、その膵島を、膵島炎の証拠についての組織学的研究に供する。その結果を、それぞれの対照ベクター(インスリンのみ、CD8α鎖のみ)を注射する研究と比較する。
【0251】
ベクター処置を、糖尿病の後期段階で与えて、ベクターが疾患の発症(例えば膵島炎)の後期段階を妨害できるか否かを決定する。最後に、顕性の糖尿病の証拠を有する動物を処置する。
【0252】
糖尿病の発症が予防された場合には、Tリンパ球の同時阻害が観察されるか否かを調査するための研究を行う。この目的のために、Tリンパ球をこれらのマウスから収集し、インスリンに対して応答するそれらの能力について研究する。養子移入実験を、調節細胞の誘導の任意の証拠を見るために含める。
【図面の簡単な説明】
【0253】
【図1】それぞれヒトおよびマウスについてのタンパク質の異なるドメインの境界を含んだ、野生型ヒトCD8α鎖のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図2】C57BL/6脾臓細胞で刺激したBalb/c脾臓細胞を示す図である。培養物に、正常な線維芽細胞、培地またはマウス(A)起源もしくはヒト(B)起源のCD8を有する線維芽細胞を補充した。培養物を収集し、C57BL/6由来の標的細胞に対するそれらの溶解能について試験した。
【図3】対照線維芽細胞(黒四角および黒三角)またはmCD8をトランスフェクトしたC57BL/6−(H−2b)由来(白丸および黒丸)線維芽細胞を注射したBalb/c(H−2d)マウスを示す図である。2週間後、動物を屠殺し、脾臓細胞を収集し、C57BL/6(H−2b)(黒四角および白丸)またはCBA/J(H−2k)(黒丸および黒三角)脾臓細胞で刺激し、EL4(H−2b)(黒四角および白丸)またはS.AKR(H−2k)(黒丸および黒三角)標的細胞に対するそれらの溶解能について試験した。
【図4】アロ反応性T細胞(A)または抗原特異的CTL(B)による溶解に対するそれらの感受性について試験した、標的細胞(黒三角)またはCD8発現標的(黒四角)を示す図である。
【図5】正常線維芽細胞(黒丸)およびmAdCD8を形質導入した線維芽細胞(A、黒三角)またはHAdCD8を形質導入した線維芽細胞(B、黒三角)の存在下に設定したMLC(Balb/c抗C57B/6)を示す図である。対照培養物には線維芽細胞を添加しなかった(黒四角)。C57BL/6由来標的に対するこれらの培養物の溶解活性を、培養期間の終了時に決定した。
【図6】アデノウイルスveto移入ベクターmAdCD8での免疫を示す図である。C57BL/6マウスを、上に示したベクターに感染させた。10日後、脾臓細胞を収集し、Adbgalウイルスの存在下で培養した。芽細胞の数を示す。
【図7】mAdCD8での陰性免疫を示す図である。(A)C57BL/6マウスを、AdβgalまたはmAdCD8で1回静脈内免疫した。(B)(A)と同様に処置した動物を、5日後にAdβgalで再免疫した。最後の注射の7日後、動物を屠殺し、それらの脾臓細胞をAdβgalの存在下で培養した。5日間の培養後、細胞を、それらの、Adβgal感染させた同系標的細胞の溶解能について試験した。
【図8】示したとおりに形質導入した、1×106個(またはなし)の刺激因子細胞と共にインキュベートした3×106個の脾臓細胞を示す図である。4日後、培養物を、免疫蛍光によってCD4+Tリンパ芽球の存在について分析した。
【図9】種々のウイルス構築体による感染後の、マウスおよびヒトのCD8α鎖の表面発現を示す図である。A.感染細胞:MC57T線維芽細胞;パネル1:モック感染;パネル2:hAdCD8による感染。B.感染細胞:MC57T線維芽細胞;パネル1:モック感染;パネル2:mAdCD8による感染。C.感染細胞:Balbc非選択骨髄細胞;パネル1:lacZアデノウイルスベクター(AdLacZ)による感染;パネル2:mAdCD8による感染。D.感染細胞:MC57T線維芽細胞;パネル1:モック感染;パネル2:pAAV−mCD8による感染;パネル3:pAAV−hCD8による感染。
【図10】形質導入後に0時間または5時間培養し、その後MLCに添加した線維芽細胞の存在下に設定した、MLC(Balb/c抗C57BL/6)を示す図である。培養終了時に、リンパ芽球の数を、蛍光標識細胞分析器で決定した。
【図11】veto移入ベクターでのin vitro阻害を示す図である。Balb/c抗C57BL/6混合リンパ球培養物(MLC)を、未感染またはmAdCD8感染したMC57線維芽細胞(H−2b)(X)の非存在下または存在下で樹立した。CTL応答を、EL4(H−2b)標的細胞において測定した。
【図12】AdLacZ(黒三角)またはmAdCD8(黒四角)で免疫したBalb/cマウスを示す図である。それらの脾臓細胞をAdLacZの存在下で培養し、AdLacZ感染した同系P815標的細胞に対する特異的溶解活性について試験した。
【図13】(A)AdLacZ(黒四角)またはmAdCD8(黒三角)で免疫したC57BL/6動物を示す図である。同系AdLacZ EL4標的細胞に対するそれらの脾臓細胞の溶解活性を試験した。(B)このような動物を、AdLacZで再免疫し、その後AdLacZ感染したEL4標的に対するそれらの溶解活性を試験した。
【図14】未処置の対照群(黒ダイヤ)と比較した、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクター(黒四角)を注射したマウスにおける糖尿病マウスの割合の減少を示す図である。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
本願は、仮出願番号60/614,529(2004年9月29日出願)および仮出願番号60/589,707(2004年7月20日出願)の利益を主張し、これらは各々本明細書中に参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、免疫抑制療法、より具体的には自己免疫障害を予防または治療するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫応答は、微視的病原体、およびより低い程度までではあるが新生物細胞を排除するにあたり驚くほど有効である。一般に、自己認識のための複雑な機構は効率的であり、強力な応答を外来抗原の排除にのみ向けるようにする。免疫系の重要な機能である自己/非自己識別の調節には、Tリンパ球およびBリンパ球の発達および寿命の間の複数の機構が含まれる。残念ながら、免疫系は時折正しく機能せず、宿主の細胞に敵対するようになり、それによって自己免疫応答を誘発する。自己免疫は典型的には、免疫細胞上の抗原レセプターが宿主細胞上の特異的な自己抗原を認識し、宿主細胞の破壊を生じる反応を開始するときに生じる。ある場合には、自己反応性リンパ球がより長く生存し、アポトーシスを誘導するか、または別の方法で宿主細胞を排除し続け、自己免疫疾患を引き起こす。
【0004】
Tリンパ球が自己を攻撃することを防止する種々の機構が記載されている。これらの寛容機構は、発達中のT細胞および成熟T細胞の両方に対して作用する。例えば、胸腺での正の選択により、自己MHC分子を認識するT細胞のレパートリーが偏り、こうしてまた自己反応性T細胞が富化される(Berg et al.、J.Exp.Med.194:427−38(1999))。正の選択の後に起こる胸腺での負の選択が、次に、除去または不活化のいずれかによって自己反応性T細胞を排除する(Berg et al.、J.Exp.Med.194:427−38(1999);Zepp et al.、Nature 336:473−5(1988))。クローン除去は、CD4+CD8+TCRhigh成熟段階で高親和性T細胞に対処するが、一方でクローン不活化は、おそらくはTCRおよびCD8α鎖の下方制御によって、より低い親和性の相互作用で働くようである(Berg et al.、J.Exp.Med.194:427−38(1999);Jordan et al.、Nat.Immunol.2:301−6(2001);Stephens et al.、Eur.J.Immunol.33:1282−91(2003))。しかし、これらの「アネルギー性」Tリンパ球は、それらの抗原に特異的に応答する能力をなお保持している。これらは、刺激の際にIL−10およびTGF−βを放出するので、実際には制御性T細胞の集団に相当する可能性が示唆されている(Asseman et al.、J.Exp.Med.190:995−1004(1999);Seddon et al.、J.Exp.Med.189:279−88(1999))。このように、胸腺の(中枢性)寛容機構がすべての自己反応性T細胞を排除するわけではないことは、十分に確立されている。実際、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、インスリンおよびグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)などの自己抗原に反応性のあるT細胞を、末梢において容易に見出すことができる。
【0005】
CD4+ヘルパーT細胞ならびにCD8+細胞傷害性T細胞(CTL)の両方が、自己抗原免疫応答において重要な役割を果たす。十分に受容された自然発症糖尿病NODマウスモデルにおいて、例えば、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方が、疾患発症に重要である。Wicker et al.、Ann.Rev.Immunol.12:179−200(1995);Mora et al.、J.Immunol.162:4576−88(1996)。直接的および間接的に刺激されたCD4+T細胞は自己抗体の産生を助け、CD8+CTLの誘導に必要なシグナルを提供し、これらの両方が、自己抗原を発現する細胞を傷害できる。このように、自己免疫応答に対するいずれの免疫抑制戦略の成功も、T細胞の両方の主要なサブセットの有効な阻害に依存している。
【0006】
自己免疫疾患のための既存の治療は、限定的な成功しか収めていない。例えば、器官特異的な自己免疫疾患を代謝制御を通じて治すことがしばしば可能である。機能が失われて回復できない場合、機械的代替物または組織移植片が適切であり得る。このアプローチを使用して症状のいくつかを緩和することが可能なことがあるが、多発性硬化症およびインスリン依存性糖尿病(IDDM)を含む最も障害の大きい自己免疫障害のいくつかについては、有効な長期の治癒的治療は存在しない。インスリン、コルチコステロイドおよび改変βインターフェロンを含む多数の化合物が自己免疫疾患の症状のいくつかを寛解できるものの、これらは、重篤な副作用を有する、および/または長期使用を必要とすることがある。一般的な免疫抑制薬物治療(例えば、シクロスポリンA、FK506およびラパマイシンによる長期治療)もまた、これらの疾患に対する治癒を提供できておらず、それらの使用は、宿主の有害な副作用を伴う。
【0007】
より最近、単独または2型ヘルパーT細胞(Th2)サイトカイン(例えば、IL−4およびIL−10)との併用でのいずれかでの、自己抗原をコードするDNAワクチンの全身投与に基づく、免疫調節戦略が提案されている。例えば、Ruiz et al.、J.Immunol.162:3336−3341(1999);Garren et al.、Immunity 15:15−22(2001);米国特許公開番号US2003/0148983A1(これらの開示は、本明細書に参照により明示的に組み込まれる)を参照のこと。これらの研究者により報告された予備的データにより、自己抗原のみをコードするDNAワクチンは、自己反応性T細胞をアネルギー化できる可能性があるが、IL−4と併用した寛容化ワクチンは、Th2応答の誘導を助け得ることが示唆された。Robinson et al.、Nature Biotech.21:1033−39(2003)。別の研究者グループからのデータにより、IL−4の存在が、寛容化ワクチンによって誘導される疾患の発症に対する保護に重要であることが示唆された。Bot et al.、J.Immunol.167:2950−55(2001)。このように、この治療戦略の成功は、炎症促進性1型ヘルパーT細胞(Th1)応答をより保護的なTh2応答に偏らせるための、Th2関連サイトカインまたはそれをコードするベクターの寛容化ワクチンとの同時投与に依存する可能性がある。このワクチンベースの戦略は予防的な設定においていくらか有効であったが、炎症性Th1応答にすでに大きく偏った活性な自己免疫応答を治療することはかなりより困難であることが判明しているといってよい。
【0008】
したがって、高度に特異的な様式で、Th1型T細胞を含む自己反応性T細胞の機能を阻害できる新規な治療用組成物およびプロトコールが模索される。本発明の目的は、自己反応性CD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球を阻害および/または排除して、自己免疫疾患の発症ならびに進行を予防することである。
【0009】
関連文献の要旨
MHCクラスI拘束T細胞(例えば、CD8+ CTL)の活性は、そのT細胞レセプター複合体を介してシグナルを受容したCTLが、そのクラスI MHC分子のα3ドメインを介したシグナルもまた受容する場合に、抑制され得ることが知られている。このいわゆるvetoシグナルは、刺激因子即ち「veto」細胞によって発現されるCD8分子によって送達され得る。Sambhara and Miller、Science 252:1424−1427(1991)。生じる免疫抑制は、抗原特異的かつMHC拘束性の両方であり、応答性のCTLによるveto細胞の一方向認識から生じるが、その逆ではこれは当てはまらない。Rammensee et al.、Eur.J.Immunol.12:930−934(1982);Fink et al.、J.Exp.Med.157:141−154(1983);Rammensee et al.、J.Immunol.132:668−672(1984)。veto活性は、CD8α鎖の存在に関連付けられてきたので、veto機能は、CD8の発現が欠落したときに失われ、CD8α鎖が発現されるときに確立される。Hambor et al.、J.Immunol.145:1646−1652(1990);Hambor et al.、Intern.Immunol.2:8856−8879(1990);Kaplan et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:8512−8515(1989)。
【0010】
望まれない細胞障害性T細胞応答を排除するために、この抗原特異的抑制経路を利用する多数の戦略が提案されてきた。1つのこのような戦略は、CD8のveto活性を特定の標的細胞に向けさせる二次リガンドにCD8またはその機能的ドメインを共有結合させる、ポリペプチドコンジュゲートの使用を含む。例えば、米国特許第5,242,687号、同第5,601,828号および同第5,623,056号を参照のこと。あるいは、CD8α鎖の細胞外ドメインに連結された、MHCクラスI分子に対する特異性を有するモノクローナル抗体結合部位を有するハイブリッド抗体分子が研究されてきた。Qi et al.、J.Exp.Med.183:1973−1980(1996)。しかし、このような分子はいくつかの欠点を持っており、実際の臨床上の有用性を未だ見出す必要がある。重要なことに、応答性のCD4+ヘルパーT細胞集団に影響を与えるためにCD4ハイブリッドが必要であるとの考えに基づいて、自己免疫疾患の治療のために、CD4およびCD8の両方のハイブリッド抗体を使用するハイブリッド抗体アプローチが提案された。Staerz et al.、Immunol Today 21(4):172−6(2000)。
【0011】
より最近、国際PCT公開番号WO02/102852は、MHCクラスIに対する親和性が増大するように設計されたアミノ酸改変を有する可溶性CD8α鎖変異体を使用するCTLの阻害を記載している。重要なことに、かつ上記先行技術と一致して、提案されたCD8α組成物がクラスI MHC分子に特異的であり、したがって、CD8+ CTLの応答のみを阻害することが予測されるということが、この文献中で教示されている。同文献の27頁。他の免疫抑制剤との併用が、細胞性免疫応答および体液性免疫応答の他の要素(例えば、CD4+T細胞などのMHCクラスII拘束T細胞)が関係する状況において必要とされるであろうことが、さらに示唆される。同文献の28頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、誘導された自己抗原の発現または提示と共にCD8αが標的で発現されると、自己抗原に対する自己免疫応答を有効かつ特異的に抑制できるという驚くべき発見に基づいている。したがって、本明細書に記載される組成物および方法を用いれば、一般的な免疫抑制剤の長期投与を必要とすることなく、自己抗原に対する宿主免疫応答の全範囲を選択的に阻害して、自己抗原に対する特異的免疫寛容を有効に生じさせることができる。本明細書に記載される組成物および方法を使用して、特異的自己反応性T細胞集団を、予防的手段として、または継続中の自己免疫応答の治療のために、阻害することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、自己免疫疾患の発症を予防するためおよび自己免疫疾患を治療するための方法および組成物が提供され、これらは、標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、自己抗原、およびCD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはCD8α鎖をコードする発現ベクターと接触させることを含み、接触させた標的細胞によるCD8ポリペプチドの発現と自己抗原提示とが組み合わさって、自己抗原に対する自己反応性免疫応答を選択的に阻害する。この標的細胞は、例えば、筋細胞、造血細胞、幹細胞、または自己免疫応答に供された細胞もしくはそのリスクがある細胞であり得る。好ましい実施形態において、この標的細胞は、抗原提示細胞、例えば樹状細胞であり、接触させる工程はex vivoである。宿主に投与されるかまたは宿主中に存在する場合、接触させた標的細胞と同じ自己抗原を発現する他の宿主細胞の両方が保護され、自己抗原に対して応答性のCD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方を排除することにより、それらの細胞の生存は延長される。好ましくは、本発明の組成物および方法は、このような自己抗原に対する体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を阻害することが可能である。
【0014】
一態様において、自己抗原に対する免疫応答を特異的に阻害するための方法が提供され、この方法は、標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8α鎖および自己抗原をコードする発現ベクターと接触させる工程を含み、それによって、CD8ポリペプチドおよび自己抗原がこの標的細胞によって発現され、この自己抗原に対する自己免疫応答が特異的に阻害される。一実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、同じ発現ベクターによってコードされる。代替的実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、別個の発現ベクターによってコードされる。この自己抗原は、全長タンパク質であってもそのフラグメントであってもよく、あるいは1つまたは複数の機能的に関連するエピトープを含んでいてもよい。さらなる実施形態において、自己免疫応答には、体液性成分および細胞性成分の両方が含まれる。好ましい実施形態において、この自己免疫応答は、一般的な免疫抑制剤を必要とすることなく、有効に阻害される。
【0015】
別の態様において、自己抗原に対する免疫応答を特異的に阻害するための方法が提供され、この方法は、標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、自己抗原タンパク質またはペプチド、およびCD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8α鎖をコードする発現ベクターと接触させる工程を含み、それによって、この自己抗原の提示と共に、CD8ポリペプチドが標的細胞によって発現され、この自己抗原に対する自己免疫応答が特異的に阻害される。この自己抗原は、全長タンパク質であってもそのフラグメントであってもよく、あるいは1つまたは複数の機能的に関連するエピトープを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、この標的細胞は、造血細胞、特にリンパ球または抗原提示細胞である。特に好ましい実施形態において、接触させる工程はex vivoで実施される。
【0016】
別の態様において、標的細胞に対する自己免疫応答を阻害するための組成物が提供され、この組成物は、CD8ポリペプチド、好ましくはヒトCD8ポリペプチド、より好ましくはヒトCD8α鎖およびこの標的細胞に関連する自己抗原をコードする発現ベクターを含む。一実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、同じ発現ベクターによってコードされる。別の実施形態において、CD8ポリペプチドおよび自己抗原は、別個の発現ベクターによってコードされる。代替的実施形態において、この組成物は、CD8ポリペプチドをコードする発現ベクターと併用して、自己抗原タンパク質またはポリペプチドを含む。
【0017】
自己抗原を発現する細胞の生存を延長させるための方法もまた提供され、この方法は、細胞を、CD8ポリペプチドおよび自己抗原をコードする発現ベクターと接触させる工程を含み、このCD8ポリペプチドおよび自己抗原はこの細胞によって発現され、それによって、この細胞の生存時間が延長される。
【0018】
本発明の方法および組成物において使用するのに好ましいCD8ポリペプチドは一般に、CD8α鎖、より好ましくはCD8α鎖の細胞外ドメイン、そしてより好ましくはCD8α鎖のIg様ドメインを含むであろう。代替的な好ましい実施形態において、このCD8ポリペプチドは、CD8α鎖の細胞外ドメインおよび膜貫通ドメイン、またはより好ましくはCD8α鎖のIg様ドメインおよび膜貫通ドメインを含むか、またはこれらから本質的になり得る。特に好ましい実施形態において、この膜貫通ドメインは、CD8α鎖の膜貫通ドメインである。本発明の発現方法の性質および上記CD8α鎖の先行技術の可溶性形態の明らかな不適切さを考慮すると、CD8α鎖膜貫通ドメインまたは適切な代替的膜貫通領域の存在が重要であると考えられる。
【0019】
1つの好ましい実施形態において、CD8α鎖は自己抗原と同時発現される。別の好ましい実施形態において、CD8ポリペプチドを含む発現ベクターが、自己抗原タンパク質またはペプチドと同時投与される。好ましい自己抗原は、自己免疫疾患に関連するもの、例えば、I型糖尿病における(プロ)インスリン(β鎖)およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、多発性硬化症におけるミエリン塩基性タンパク質、関節リウマチにおけるMMP−1、重症筋無力症におけるコリンレセプターα鎖、自己免疫性甲状腺炎におけるサイログロブリンなどである。
【0020】
本明細書に記載の組成物および方法の好ましい標的細胞には、例えば、筋細胞、造血起源の細胞(例えば、抗原提示細胞(例えば樹状細胞)、マクロファージ、顆粒球、赤血球、白血球、Bリンパ球、Tリンパ球など、および皮膚のランゲルハンス細胞)、幹細胞(例えば、造血幹細胞ならびに組織特異的幹細胞(即ち、ニューロン、肝臓などに運命付けられた幹細胞))、ならびに自己免疫性の攻撃のリスクがあるかまたはそれに供された細胞(例えば、膵島細胞、脳のグリア細胞、ならびに本明細書に記載される他の細胞および組織)が含まれる。
【0021】
本発明の方法および組成物における使用が企図された適切な発現ベクターには、組換えベクターおよび非組換えベクター、ならびにウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルスのベクターなど)および非ウイルスベクター(例えば、細菌プラスミド、ファージ、リポソームなど)が含まれる。好ましい実施形態において、標的細胞の改変は、リポソーム媒介性の核酸移入ビヒクル、またはウイルス媒介性の核酸移入ビヒクル、または裸DNAによって達成され得る。
【0022】
さらなる実施形態において、標的細胞は、本発明の免疫調節分子の機能的部分を、自己抗原またはその生物学的に活性なフラグメントと共に発現するようにex vivoで誘導され、誘導された細胞を患者に注入する。この自己抗原は、発現ベクターの形態で、あるいは標的細胞の表面上に提示するためにクラスIまたはクラスII MHC経路によってプロセシングされるタンパク質またはポリペプチドとして、標的細胞にデリバーされ得る。
【0023】
複数の実施形態が開示されるが、本発明のなお他の実施形態は、本発明の例示的な実施形態を示し、記載する以下の詳細な説明から、当業者に明らかとなろう。理解されるように、本発明は、本発明の趣旨および範囲からすべて逸脱することなく、種々の明白な態様での変更が可能である。したがって、図面および詳細な説明は、本来、例示と解釈されるべきであり、限定と解釈すべきではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
自己免疫疾患の有効かつ持続可能な治療は得がたいものであった。本発明の成功は、免疫調節分子(例えば、CD8、特にCD8α鎖)および自己抗原の同時発現が、その自己抗原に対して応答性のT細胞を有効かつ特異的に阻害するであろうこと、したがって、両方の自己反応性免疫応答が阻害できるという、驚くべき発見に基づいている。
【0025】
それにより、本発明は、自己抗原を発現する宿主細胞に対する免疫応答を阻害するための組成物および方法を提供し、これらは、免疫調節分子、好ましくはCD8ポリペプチド、より好ましくはCD8α鎖のすべてまたは機能的部分を、自己抗原の少なくとも1つのエピトープと合わせ、標的宿主細胞中で同時発現させることを含む。好ましい実施形態において、馴化工程は、宿主細胞を、本明細書に記載されるようなCD8ポリペプチドおよび自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする発現ベクターと接触させることを含む。本発明はさらに、標的細胞に対する免疫応答を有効かつ特異的に阻害するために、標的細胞中のCD8の発現レベルを調節するための、例えば、CD8発現の増大を生じる転写アクチベータを提供するための、代替的な馴化方法をさらに企図する。例えば、Mortlock et al.、Nuc.Acids.Res.31:152(2003);Mizuguchi et al.、Hum.Gene Ther.14:1265−77(2003)を参照のこと。本発明の方法および組成物によって達成される免疫阻害の特異性および選択性は、従来の免疫抑制戦略(免疫系の全般的かつ非特異的な阻害を典型的に生じ、それにより、外来性の感染、そしてある場合には変異原性および癌に対し、宿主を高度に感受性のままにする)を超える有意な改善を提供する。
【0026】
本明細書に記載される方法は、単独で、または当該分野で公知の他の方法(例えば、他の活性剤(例えば、治療剤もしくは予防剤、および/または一般的な免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、FK506)、T細胞除去抗体(例えば、OKT3、ポリクローナル抗胸腺細胞調製物))の投与など)と併用して、使用できる。好ましくは、このような剤の使用は、本発明の組成物および方法を使用して得られる自己抗原特異的な免疫抑制に関しては不要である。
【0027】
「阻害」は、細胞性(例えば、白血球動員)であろうと体液性であろうと、自己抗原に対する自然免疫応答または獲得免疫応答の、直接的または間接的な、部分的または完全な、阻害および/または低減を意味する。阻害は、免疫細胞が自己抗原をそれ以上標的化しないように、免疫細胞に対して変化をシグナル伝達することによって、免疫応答を予防することを含むことができる。あるいは、阻害は、免疫細胞のアネルギーおよび/または死(例えばアポトーシス)を生じるシグナルを提供することを含むことができる。
【0028】
「免疫応答」は、好ましくは、細胞性免疫応答または体液性免疫応答などの、獲得免疫応答を意味する。
【0029】
「特異的免疫阻害」または「抗原特異的免疫阻害」は、抗原特異的でない全般的な免疫阻害とは逆の、自己抗原などの抗原に対する免疫応答の阻害を意味する。したがって、例として、患者によって以前に認識された自己抗原に対する細胞性および/または体液性の自己免疫応答が存在しないことは、他の抗原に対するin vivo免疫能の証拠と組み合わせて、自己抗原の特異的免疫阻害を実証しよう。
【0030】
「発現ベクター」は、標的細胞への核酸のデリバリーのための任意のビヒクルを意味する。発現ベクターは一般に、ウイルスベクターと非ウイルスベクターに分けることができる。ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどを意味するが、これらに限定されない。非ウイルスベクターは、プラスミドベクター、裸DNA、異なる担体に連結した裸DNA、またはリポソームもしくは他の脂質調製物と結合したDNAを意味する。一般に、発現ベクターは組換え体であるが、ある実施形態、例えばリポソームまたは細胞除去(例えば、バイオロスティック(biolostic)技術)が使用される場合、発現ベクターは組換え体ではない。本明細書中での使用に好ましい組換えベクターは、プラスミドベクター、ならびにアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターからなる群より選択されるウイルスベクターである。組換えウイルスベクター、および特にアデノウイルスベクターを利用するいくつかの実施形態において、カプシド(例えば、アデノウイルスカプシドのヘキソンタンパク質)の免疫原性は、当該分野で公知の方法に従って低減され得るが、このような改変は、本明細書中に詳述される改善を考慮すれば、もはや必要ではない。
【0031】
「接触」は、ベクターと細胞との間の物理的接触をもたらすような様式および量で、発現ベクターを投与することを意味する。ベクターが組換えウイルス粒子である場合、望ましくは、ウイルスベクターによる細胞への付着および細胞の感染が、このような物理的接触によってもたらされる。ウイルスベクターが組換えウイルス粒子以外(例えば、非カプセル化ウイルス核酸または他の核酸)である場合、望ましくは、核酸による細胞への侵入がもたらされる。
【0032】
このような「接触」は、ベクターと標的細胞との見かけの触れ合い(touching)または接触状態(tangency)をもたらすことができる、当業者に公知のおよび本明細書に記載される任意の手段によって実施できる。所望により、ベクター(例えばアデノウイルスベクター)は、二重特異的または多重特異的な分子(例えば、抗体またはそのフラグメント)とさらに複合体化することができ、この場合、「接触」は、ベクターと二重特異的または多重特異的な分子との複合体の、標的細胞との見かけの接触または相互接触を含む。例えば、ベクターと二重特異的(多重特異的)分子とは、例えば当業者に公知の化学的手段または他の手段によって、共有結合できる。好ましくは、ベクターと二重特異的(多重特異的)分子とは、非共有結合相互作用(例えば、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、および/または非極性相互作用)によって連結できる。ベクターと二重特異的(多重特異的)分子とは、小容量の同じ溶液中で混合することによって接触させることができるが、標的細胞とこの複合体とは、小容量中で接触させることは必ずしも必要ではなく、例えばこの場合、この複合体は宿主(例えばヒト)に投与され、この複合体が血流によって標的細胞へと移動し、その細胞に選択的に結合し、その中に侵入する。ベクターと二重特異的(多重特異的)分子との接触は、好ましくは、標的細胞がベクターと二重特異的(多重特異的)分子との複合体と接触する前に実施される。
【0033】
自己抗原
「自己抗原」は、自分自身の免疫系の標的である「自己の」抗原を意味する。自己抗原には、宿主または患者の免疫系が認識し、異物として応答する任意の自己の抗原が含まれ、例えば、自己免疫障害に関連する自己の抗原、例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロ−インスリン/インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP−1)、II型コラーゲン、サイログロブリンなどが含まれる。さらに、自己抗原は、健常人または非罹患患者において存在するレベルとは異なるレベル(例えば、上昇または低減した)で宿主中に存在する可能性がある。これらには、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病およびプリオン病が含まれる。健常人または非罹患患者において存在するレベルとは異なるレベルで宿主中に存在する自己抗原に関連するいくつかの他の疾患には、肥満、骨関節炎、脊髄損傷、高血圧、消化性潰瘍疾患、加齢性の鬱、通風、偏頭痛、高脂血症および冠動脈疾患が含まれる。
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、発現ベクターは所望により、本明細書に記載されるような免疫調節分子をコードする少なくとも1つの導入遺伝子と共に、自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含む。あるいは、特定の実施形態において、自己抗原タンパク質またはペプチドは、CD8ポリペプチドのDNAベースの発現と組み合わせて使用してもよい。この自己抗原は、全長タンパク質であってもそのフラグメントであってもよく、あるいは1つまたは複数の機能的に関連するエピトープを含んでもよい。本発明によって治療できる疾患には、多発性硬化症、I型糖尿病、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎および関節リウマチなどが含まれるが、これらに限定されない。さらなる自己抗原はNature Medicine 7:8(Aug.2001)899−905に記載されており、これは参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。このような疾患に関連する自己抗原を以下の表1に示す。
【0035】
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【0036】
自己抗原に関連する自己免疫疾患のいくつかの例および注目する標的組織を以下の表2に示す。
【0037】
【表2−1】
【表2−2】
【0038】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、最も一般的なCNSの脱髄性障害であり、350,000人のアメリカ人および世界の百万の人々が罹患している。症状の発生は典型的に、20歳から40歳の間で生じ、片側性の視覚障害、筋力低下、異常感覚、運動失調、眩暈、尿失禁、構音障害または精神障害(頻度が減少する順序で)の急性または亜急性の発作として顕れる。このような症状は、減速した軸索伝導に起因する負の伝導異常および異所的な活動電位の発生に起因する正の伝導異常(例えば、レルミット徴候)の両方を引き起こす脱髄の局所的病変から生じる。MSの診断は、時間的に離れている、神経機能障害の客観的な臨床的証拠を生じ、CNS白質の別個の領域に関係する、少なくとも2回の別個の神経機能障害の発作を含む病歴に基づく。MSの診断を支持するさらなる客観的証拠を提供する実験室研究には、CNS白質病変の磁気共鳴画像法(MRI)、IgGの脳脊髄液(CSF)オリゴクローナルバンド、および異常な応答の誘発が含まれる。ほとんどの患者が徐々に進行する再発寛解型の疾患経過を経るが、MSの臨床経過は個体間で大きく異なり、生涯にわたる数回の軽い発作に限定されたものから劇症型の慢性進行性疾患までの範囲であり得る。IFN−γ分泌能を有するミエリン−自己反応性T細胞における量的増加は、MSおよびEAEの病原と関連する。
【0039】
自己免疫性脱髄疾患(例えば、多発性硬化症および実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE))における自己免疫応答に関連する自己抗原は、プロテオリピドタンパク質(PLP);ミエリン塩基性タンパク質(MBP);ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG);環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase);ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、およびミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MBOP);α−B−クリスタリン(ヒートショックタンパク質);ウイルス性および細菌性の模倣ペプチド(例えば、インフルエンザ、ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルスなど);OSP(オリゴデンドロサイト特異的タンパク質);シトルリン改変MBP(6個のアルギニンがシトルリンに脱イミノ化されたMBPのC8アイソフォーム);など由来のエピトープを含むことができる。膜内在タンパク質PLPは、ミエリンの優勢な自己抗原である。PLPの抗原性の決定基は、いくつかのマウス系統で同定されており、残基139〜151、103〜116、215〜232、43〜64および178〜191が含まれる。少なくとも26個のMBPエピトープが報告されている(Meinl et al.、J Clin Invest 92、2633−43、1993)。注目すべきは、残基1〜11、59〜76および87〜99である。いくつかのマウス系統において同定された免疫優性のMOGエピトープには、残基1〜22、35〜55、64〜96が含まれる。本明細書中で使用される場合、用語「エピトープ」は、動物の免疫系のB細胞またはT細胞のいずれかによって認識される特定の形状または構造を有する自己抗原の一部分を意味すると理解される。
【0040】
ヒトMS患者において、以下のミエリンタンパク質およびエピトープが、自己免疫性T細胞およびB細胞応答の標的として同定された。MS脳のプラークから溶出した抗体は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)ペプチド83〜97を認識した(Wucherpfennig et al.、J Clin Invest 100:1114−1122、1997)。抗体研究により、MS患者の約50%がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に対して反応性(対照では6〜10%)、20%がMBPに対して反応性(対照では8〜12%)、8%がPLPに対して反応性(対照では0%)、0%がMAGに対して反応性(対照では0%)の、末梢血リンパ球(PBL)T細胞を有することが見出された。この研究において、10人のMOG反応性患者のうち7人が、3つのペプチドエピトープ(MOG 1〜22、MOG 34〜56、MOG 64〜96を含む)のうち1つに集中したT細胞増殖応答を有した(Kerlero de Rosbo et al.、Eur J Immunol 27、3059−69、1997)。T細胞およびB細胞(脳病変溶出Ab)応答は、MBP 87−99に集中した(Oksenberg et al.、Nature 362、68−70、1993)。MBP 87〜99において、アミノ酸モチーフHFFKは、T細胞応答およびB細胞応答の両方の優勢な標的である(Wucherpfennig et al.、J Clin Invest 100、1114−22、1997)。別の研究で、残基MOBP 21〜39およびMOBP 37〜60を含むミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)に対するリンパ球反応性が観察された(Holz et al.、J Immunol 164、1103−9、2000)。MSおよび対照の脳を染色するためのMOGペプチドおよびMBPペプチドの免疫金コンジュゲートを使用したところ、MBPペプチドおよびMOGペプチドの両方が、MSプラーク結合Abによって認識された(Genain and Hauser、Methods 10、420−34、1996)。
【0041】
関節リウマチ
関節リウマチ(RA)は、世界人口の0.8%が罹患している慢性自己免疫性炎症性滑膜炎である。これは、侵食性の関節破壊を引き起こす慢性炎症性滑膜炎によって特徴付けられる。RAは、T細胞、B細胞およびマクロファージによって媒介される。
【0042】
T細胞がRAにおいて重要な役割を果たすという証拠には、(1)滑膜に浸潤するCD4+T細胞の優勢、(2)シクロスポリンなどの薬物によるT細胞機能の抑制に関連する臨床的改善、および(3)RAと特定のHLA−DR対立遺伝子との関連が含まれる。RAに関連するHLA−DR対立遺伝子は、ペプチド結合およびT細胞への提示に関与するα鎖の3番目の超可変領域中の67〜74位に類似のアミノ酸配列を含む。RAは、滑膜関節中に存在する自己抗原を認識する自己反応性T細胞によって媒介される。RAに関連する自己抗原には、II型コラーゲン;hnRNP;A2/RA33;Sa;フィラグリン;ケラチン;シトルリン;gp39を含む軟骨タンパク質;I型、III型、IV型、V型、IX型、XI型コラーゲン;HSP−65/60;IgM(リウマチ因子);RNAポリメラーゼ;hnRNP−B1;hnRNP−D;カルジオリピン;アルドラーゼA;シトルリン改変フィラグリンおよびフィブリン由来のエピトープが含まれる。改変アルギニン残基(脱イミノ化されてシトルリンを形成する)を含むフィラグリンペプチドを認識する自己抗体が、高い割合のRA患者の血清中で同定されている。自己反応性T細胞およびB細胞の応答は共に、ある患者においては同じ免疫優性II型コラーゲン(CII)ペプチド257〜270に対するものである。
【0043】
インスリン依存性糖尿病
ヒトI型インスリン依存性糖尿病、即ちインスリン依存性糖尿病(IDDM)は、膵臓ランゲルハンス島中のβ細胞の自己免疫性の破壊によって特徴付けられる。β細胞の枯渇により、血糖値を調節できなくなる。顕性の糖尿病は、血糖値が特定のレベル(通常約250mg/dl)を超えて上昇する際に生じる。ヒトにおいて、長い前駆症状期間が、糖尿病の発症に先行する。この期間の間、膵β細胞の機能が徐々に失われる。疾患の発生は、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼおよびチロシンホスファターゼIA2(IA2)(各々がIDDMに関連する自己抗原の例であり、本発明において使用される)に対する自己抗体の存在によって示される。
【0044】
前駆症状段階の間に評価することができるマーカーは、膵臓における膵島炎の存在、島細胞抗体のレベルおよび頻度、島細胞表面抗体、膵β細胞上のクラスII MHC分子の異常な発現、血糖濃度ならびに血漿インスリン濃度である。膵臓中のTリンパ球数、島細胞抗体および血糖の増加はこの疾患の指標であり、インスリン濃度の低下もまたこの疾患の指標である。
【0045】
非肥満糖尿病(NOD)マウスは、ヒトIDDMと共通した、多くの臨床的、免疫学的および病理組織学的特徴を有する動物モデルである。NODマウスは、島の炎症およびβ細胞の破壊を自発的に発症し、これが高血糖および顕性の糖尿病を導く。CD4+T細胞およびCD8+T細胞は共に、糖尿病の発症に必要であるが、各々の役割は不明のままである。上で留意したように、寛容化条件下でのNODマウスへの、タンパク質としてまたはDNAワクチンの形態でのインスリンまたはGADの投与は、疾患を予防し得、他の自己抗原に対する応答を下方制御できることが示されている。
【0046】
血清中の種々の特異性を有する自己抗体の組合せが存在することは、ヒトI型糖尿病に対し高度に感受性であり特異的である。例えば、GADおよび/またはIA−2に対する自己抗体の存在は、対照血清からのI型糖尿病の同定に、約98%の感受性、かつ99%の特異性を有する。I型糖尿病患者の非糖尿病の1親等の親戚において、GAD、インスリンおよびIA−2を含む3種の自己抗原のうち2種に特異的な自己抗体が存在することは、5年以内のI型DMの発生について、90%を超える陽性の予測値を示す。
【0047】
ヒトインスリン依存性糖尿病に関連する自己抗原には、チロシンホスファターゼIA−2;IA−2β;65kDa型および67kDa型の両方のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD);カルボキシペプチダーゼH;インスリン;プロインスリン;ヒートショックタンパク質(HSP);glima 38;膵島抗原69kDa(ICA69);p52;2種のガングリオシド抗原(GT3およびGM2−1);ならびに膵島グルコーストランスポーター(GLUT2)が含まれ得る。
【0048】
ヒトIDDMは、組換えインスリンの注射またはポンプベースのデリバリーを導くために、血糖値をモニタリングすることによって現在治療されている。食事療法および運動療法を続けて、適切な血糖の制御を達成する。
【0049】
自己免疫性ブドウ膜炎
自己免疫性ブドウ膜炎は、米国において400,000人の人々が罹患していると推定される眼の自己免疫疾患であり、年間43,000人の新たな症例が発生する。自己免疫性ブドウ膜炎は、ステロイド、メトトレキセートおよびシクロスポリンなどの免疫抑制剤、静脈内イムノグロブリン、ならびにTNFαアンタゴニストで現在治療されている。
【0050】
実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)は、神経網膜、ブドウ膜および眼中の関連組織を標的化するT細胞媒介性の自己免疫疾患である。EAUは、ヒト自己免疫性ブドウ膜炎と多くの臨床的および免疫学的特徴を共有し、フロインド完全アジュバント(CFA)中に乳化させたブドウ膜炎惹起性(uveitogenic)ペプチドの末梢投与によって誘導される。
【0051】
ヒト自己免疫性ブドウ膜炎における自己免疫性応答に関連する自己抗原には、S−抗原、光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)、ロドプシンおよびリカバリンが含まれ得る。
【0052】
原発性胆汁性肝硬変
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、40〜60歳の女性が主に罹患する器官特異的な自己免疫疾患である。この群において報告された罹患率は、1,000人に1人に達する。PBCは、小さい肝内胆管を裏打ちする肝内胆管上皮細胞(IBEC)の進行性の破壊によって特徴付けられる。これが胆汁分泌の閉塞および妨害を導き、最終的な肝硬変を引き起こす。シェーングレン症候群、CREST症候群、自己免疫性甲状腺疾患および関節リウマチを含む、上皮裏打ち/分泌系の損傷によって特徴付けられる他の自己免疫疾患との関連が報告されている。駆動抗原(driving antigen)に関する注目は、50年以上にわたってミトコンドリアに焦点を当てており、抗ミトコンドリア抗体(AMA)の発見を導いている(Gershwin et al.、Immunol Rev 174:210−225、2000);(Mackay et al.、Immunol Rev 174:226−237、2000)。AMAは、臨床的症状が現れるずっと以前に90〜95%の患者の血清中に存在し、すぐにPBCの実験室診断の礎石となった。ミトコンドリアにおける自己抗原性の反応性は、M1およびM2と指定された。M2反応性は、48〜74kDaの成分のファミリーに対するものである。M2は、2−オキソ酸デヒドロゲナーゼ複合体(2−OADC)の酵素の複数の自己抗原性サブユニットを示し、本発明の別の例示的自己抗原である。PBCの疾病原因におけるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)抗原の役割を同定する研究は、PDCがこの疾患の誘導において中心的役割を果たすという概念を支持している(Gershwin et al.、Immunol Rev 174:210−225、2000);(Mackay et al.、Immunol Rev 174:226−237、2000)。PBCの症例の95%において最も頻繁な反応性は、PDC−E2に属するE2 74kDaサブユニットである。2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体(OGDC)および分枝鎖(BC)2−OADCを含む、関連するが別個の複合体が存在する。3種の構成成分酵素(E1、2、3)が、2−オキソ酸基質をアシルコエンザイムA CoA)に変形させる触媒機能に寄与し、NAD+がNADHに還元される。哺乳動物PDCは、プロテインXまたはE−3結合タンパク質(E3BP)と称される、さらなる成分を含む。PBC患者において、主要な抗原性応答は、PDC−E2およびE3BPに対するものである。E2ポリペプチドは、2つのタンデムに反復したリポイルドメインを含むが、E3BPは単一のリポイルドメインを有する。リポイルドメインは、PBCの多数の自己抗原標的において見出され、本明細書中で「PBCリポイルドメイン」と称される。PBCは、グルココルチコイドならびにメトトレキセートおよびシクロスポリンAを含む免疫抑制剤で現在治療されている。
【0053】
実験的自己免疫性胆管炎(EAC)のマウスモデルは、雌性SJL/Jマウスにおいて、非化膿性破壊性胆管炎(NSDC)およびAMAの産生を誘導する、哺乳動物PDCによる腹腔内(i.p.)感作を使用する(Jones、J Clin Pathol 53:813−21、2000)。
【0054】
他の自己免疫疾患および関連自己抗原
重症筋無力症に関連する自己抗原には、アセチルコリンレセプター内のエピトープが含まれ得る。尋常性天疱瘡に関連する自己抗原には、デスモグレイン−3が含まれ得る。シェーングレン症候群抗原には、SSA(Ro);SSB(La);およびフォドリンが含まれ得る。尋常性天疱瘡について優勢な自己抗原には、デスモグレイン−3が含まれ得る。筋炎に関連する自己抗原には、tRNAシンテターゼ(例えば、スレオニル、ヒスチジル、アラニル、イソロイシルおよびグリシル);Ku;Scl;SSA;U1 Snリボ核タンパク質;Mi−1;Mi−1;Jo−1;Ku;およびSRPが含まれ得る。強皮症に関連する自己抗原には、Scl−70;セントロメア;U1リボ核タンパク質;およびフィブリラリンが含まれ得る。悪性貧血に関連する自己抗原には、内因子;および胃H/K ATPaseの糖タンパク質βサブユニットが含まれ得る。全身性エリテマトーデス(SLE)に関連する自己抗原には、DNA;リン脂質;核抗原;Ro;La;U1リボ核タンパク質;Ro60(SS−A);Ro52(SS−A);La(SS−B);カルレティキュリン;Grp78;Scl−70;ヒストン;Smタンパク質;およびクロマチンなどが含まれ得る。グレーブス病について、自己抗原には、Na+/I−シンポーター;甲状腺刺激ホルモンレセプター;Tg;およびTPOが含まれ得る。
【0055】
神経変性疾患
さらに、いくつかの神経変性疾患が、健常人または非罹患患者において存在するレベルと異なるレベルで、宿主中に存在する自己抗原と関連する。これらの例を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、集団において最も一般的な神経変性疾患である(Cummings et al.、Neurology 51、S2−17;discussion S65−7、1998)。ADは65歳を超える人々の約10%、85歳を超える人々のほぼ50%が罹患している。2025年までに、約2千2百万人の個人がADに罹患すると推定されている。ADは、ゆっくり進行する痴呆症によって特徴付けられる。ADの最終的な診断は、痴呆症、神経原線維変化および老人斑の3兆候が死後に見出された場合になされる。老人斑は、アルツハイマー病を有する患者の脳において常に見出される。老人斑の主要成分は、アミロイドβタンパク質(Aβ)であり(Iwatsubo et al.、Neuron 13:45−53、1994)(Lippa et al.、Lancet 352:1117−1118、1998)、これは本発明の自己抗原の別の例である。Aβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)に由来する42アミノ酸のペプチドであり、細胞増殖、接着、細胞シグナル伝達および神経突起成長を含む種々の生理学的役割を有する膜貫通糖タンパク質である(Sinha et al.、Ann N Y Acad Sci 920:206−8、2000)。APPは通常、Aβドメイン内で切断されて、分泌型フラグメントを生じる。しかし、選択的スプライシングにより、APPの切断が導かれ、老人斑内に蓄積し得る可溶性Aβを生じる。
【0058】
ADに対する現在の治療は効力が限定されており、Aβ蓄積に対して標的化されたものではない。利用可能な薬物は、脳におけるシナプス後アセチルコリンの濃度を増大させることを目的とした中枢性コリンエステラーゼ阻害剤である(Farlow and Evans、Neurology 51、S36−44;discussion S65−7、1998);(Hake、Cleve Clin J Med 68、608−9:613−4、616、2001)。これらの薬物は、少数の認知パラメータのみにおいて最小の臨床利益を提供する。ヒトAβについてのトランスジェニックマウスは、ヒトADと共通する多数の特徴を有することが示されている(Games et al.、Nature 373:523−527、1995);(Hsiao et al.、Science 274:99−102、1996)。これらのトランスジェニックマウスにおいて、Aβペプチドによる免疫は、認知の改善および病理組織学の低減に関し、実証された効力を有している(Morgan et al.、Nature 408:982−985、2000);(Schenk et al.、Nature 400:173−177、1999)。研究により、アルツハイマー病の動物モデルにおいてペプチドワクチンを用いてAβに対する抗体応答を生じさせることによって、これらのモデルにおいて観察された異常な病理組織学ならびに挙動変化を逆転させることができることもまた、示されている(Bard et al.、Nat Med 6:916−19、2000);(DeMattos et al.、Proc Natl Acad Sci U S A 98:8850−8855、2001)。
【0059】
パーキンソン病
パーキンソン病は、100,000人当たり128〜168人という非常に高い罹患率を有する、錐体外路運動系の神経変性疾患である(Schrag et al.、Bmj 321:21−22、2000)。主要な臨床的特徴は、安静時振戦、動作緩慢、硬直および姿勢不安定である。痴呆症もまた、その後期においてほとんどの症例で生じる。病態生理学的特徴は、脳の錐体外路系内、および特に黒質内のニューロンの喪失である。パーキンソン病を有する患者の脳内の多数のニューロンは、レビー小体として知られる細胞内封入体を有する(Forno and Norville、Acta Neuropathol(Berl)34:183−197、1976)。レビー小体の主要な構成成分は、α−シヌクレインとして公知のタンパク質であることが見出されており、これは本発明の自己抗原の別の例である(Dickson、Curr Opin Neurol 14:423−432、2001)。α−シヌクレインを含むレビー小体の蓄積は、疾患表現型と相関していた。
【0060】
パーキンソン病に対する現在の治療は、内在する原因ではなく、疾患の結果として起こる症状を管理することを目的としている(Jankovic、Neurology 55:S2−6、2000)。パーキンソン病に対する入手可能な薬物は、ドパミン作動性剤(例えば、カルビドパ/レボドパおよびセレギリン)、ドパミンアゴニスト(例えば、ペルゴリドおよびロピニロール)、およびカテコール−o−メチル−トランスフェラーゼ、即ちCOMT阻害剤(例えば、エンタカポンおよびトルカポン)として分類される。これらの治療剤のすべては、罹患したニューロンにおいて利用可能なドパミンの量を増加させることを目的としている。全体として、これらの薬物は、振戦および硬直などの運動症状のいくつかを低減させることにおいてほとんどの患者において最初は有効であるが、黒質のニューロンの破壊を導く神経変性プロセスの進行を減弱するのには有効でない。
【0061】
ハンチントン病
ハンチントン病は、常染色体優性様式で遺伝する遺伝性障害であり、ハンチンチンと呼ばれる遺伝子内に含まれるCAGトリヌクレオチドリピートの長さの異常な伸長と関連している(Cell 72、971−983、1993)。優勢な臨床的特徴は、舞踏病と呼ばれる異常な制御不能な運動および進行性の痴呆症からなる。病態生理学的には、選択的なニューロンの死、ならびに線条体および大脳皮質内の変性が存在する。これらの領域内のニューロンは、変異体タンパク質ハンチンチン(本発明の別の自己抗原である)の細胞内凝集体を蓄積することが示されており、この蓄積が疾患表現型と相関している。(DiFiglia et al.、Science 277:1990−1993、1997);(Scherzinger et al.、Cell 90:549−558、1997);(Davies et al.、Cell 90:537−548、1997)。
【0062】
ハンチントン病の症状または病原原因のいずれかに対する利用可能な治療は現在存在しない。結果として、これらの患者は、症状の最初の発症の平均17年後の不可避的な死まで、ゆっくりと進行する。
【0063】
プリオン病
プリオン病は、伝染性海綿状脳症としても公知であり、動物およびヒトが罹患する潜在的に感染性の疾患であり、脳の海綿状の変性によって特徴付けられる(Prusiner、Proc Natl Acad Sci USA 95、13363−83、1998)。この障害の最も一般的な形態は、クロイツフェルト−ヤコブ病とも称される。新変異型クロイツフェルト−ヤコブ病と呼ばれる疾患の別の形態は、異種間の伝染(例えばウシからヒトへの)によって引き起こされると考えられているので、主要な環境衛生上の意味を有する。この群の障害の臨床的特徴には、迅速に進行する痴呆症、筋クローヌス、脱力感および運動失調が含まれる。病態生理学的には、正常なプリオンタンパク質(本発明の別の自己抗原である)におけるコンフォメーション変化が、プリオンタンパク質のβシート型構造への蓄積を引き起こし、中枢神経系内で見られる変性を導くことが、文献中に報告されている。現在、プリオン病に対する利用可能な治療は存在しない。臨床経過は迅速であり、不可避的な死が通常は診断の2年以内であり、この経過を変更できる介入は存在しない。
【0064】
さらに、いくつかの他の疾患が、健常人または非罹患患者において存在するレベルとは異なるレベルで宿主中に存在する自己抗原と関連する。これらの例を表4中に示す。
【0065】
【表4−1】
【表4−2】
【0066】
骨関節炎および変性性関節疾患
骨関節炎(OA)は、60歳を超える人々の30%が罹患しており、ヒト最も一般的な関節疾患である。骨関節炎は、滑膜関節の変性および不全を示し、関節軟骨の破壊を伴う。
【0067】
軟骨は、主にプロテオグリカン(負荷に耐える硬さおよび能力を提供する)およびコラーゲン(剪断強度に対する張力および抵抗性を提供する)からなる。軟骨細胞は、潜在性のコラゲナーゼ、潜在性のストロメライシン、潜在性のゼラチナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーターおよび他の関連酵素(これらは各々本発明での使用のための自己抗原である)を産生および分泌することにより、ターンオーバーし、正常な軟骨を再構築する。メタロプロテイナーゼの組織阻害剤(TIMP)およびプラスミノーゲンアクチベーター阻害剤(PAI−1)を含むいくつかの阻害剤もまた軟骨細胞によって産生され、中性メタロプロテイナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーターおよび他の酵素の分解活性を制限する。これらの分解性酵素および阻害剤もまた、本発明での使用のための自己抗原である。これらの分解性酵素および阻害剤は、正常な軟骨の再構築および維持を協調させる。OAにおいて、このプロセスの調節不全が、軟骨の変質および分解を生じる。
【0068】
初期OAにおいて、コラーゲン線維の配置およびサイズの異常な変化が存在する。メタロプロテイナーゼ、カテプシンおよびプラスミンは、単独または併用して本発明の自己抗原であり、有意な軟骨基質喪失を引き起こす。最初に、プロテオグリカンおよび軟骨の増大した軟骨細胞産生により、正常よりも厚い関節軟骨が生じる。次いで、関節軟骨は、コラゲナーゼ、ストロメライシン、ゼラチナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーターおよび他の関連酵素(単独または併用して本発明の自己抗原である)を含む分解性酵素の作用の結果として、薄くなり軟化する。IL−1、カテプシンおよびプラスミンは、単独または併用して本発明の自己抗原であり、軟骨の変性および破壊を促進し得る。より軟化し薄くなった軟骨は、機械的応力による損傷に対してかなりより感受性である。これらの因子は、軟骨表面の破壊および垂直な割れ目の形成(細動)を導く。軟骨表面において侵食が形成され、疾患の最終段階においては骨まで達する。軟骨細胞は最初に複製してクラスターを形成し、最終段階では軟骨は低細胞性である。骨の再構築および肥大が、OAの顕著な特徴である。
【0069】
OAに対する現在の治療には、安静、関節を支持する筋肉を強化するための理学療法、ブレスおよび関節を安定化させるための他の支持デバイス、非ステロイド性抗炎症剤ならびに他の鎮痛剤が含まれる。日常生活動作に必須な関節(例えば、膝または股関節)の末期の骨同士が擦れ合うOAでは、手術による関節置換がしばしば実施される。
【0070】
肥満
肥満は、米国および他の先進国が直面している主要な健康問題である。肥満は米国人口の20%が罹患していると推定される。肥満は、脂肪組織の過剰である。延長されたエネルギー摂取が延長された期間にわたって支出を超えると、過剰なカロリーは脂肪組織として貯蔵され、肥満を生じる。このように、肥満は、増加した摂取および/または減少した支出から生じ得る。摂取は、大脳皮質によって制御される複雑なプロセスである摂食挙動に依存する。摂食中枢および満腹中枢を含む視床下部の別個の領域が、大脳皮質にシグナルを送り、摂食の調節を促進する。血糖、インスリン、グリセロールなどのレベルは、視床下部中の摂食中枢および満腹中枢によって検出されて、摂食挙動の調節を助け得る。
【0071】
ヒトは、いくつかの機構によってカロリーの過剰摂取に対して部分的に適応できる。炭水化物およびタンパク質の過剰摂取は、トリヨードサイロニン(T3)の血漿レベルを増大させ、逆T3(rT3)のレベルを減少させる機構を介して、安静時の代謝率を増大させることによって、部分的に補償され得る。中枢または末梢の交感神経出力の増大もまた、カテコールアミン誘導性のカロリー使用および熱産生を増大させる。食事性の熱発生または食物に対する身体の熱応答は、食事摂取の後数時間にわたる増大した熱および安静時代謝率を上回る代謝支出を伴い、これは、炭水化物および脂肪ベースの食事よりも、タンパク質ベースの食事についてより高い。
【0072】
摂食挙動および脂肪生成は、複雑な機構によって制御される。シンデカン−3を含む分子が摂食を調節し、視床下部における摂食挙動を増大させる(Reizes et al、Cell 106:105−116、2001)。食物摂取および代謝に影響を与える他の分子およびレセプターには、オレキシン、ガラニン、コルチコトロピン放出因子、メラニン凝集ホルモン、レプチン、コレシストキニン、ソマトスタチン、エンテロスタチン、グルカゴン様ペプチド1および2、ならびにボンベシン(これらはすべて、単独または併用のいずれかで、本発明における使用のための自己抗原である)が含まれる(Chiesi et al、Trends Pharmacological Sciences、22:247−54、2001)。肥満の動物モデルにおいて、これらの分子のうちいくつかのアンタゴニストまたはアゴニストが、体重減少において有効であることが実証されている(Chiesi et al、Trends Pharmacological Sciences、22:247−54、2001)。ペリリピンは、脂肪細胞の脂肪滴を被覆し、トリアシルグリセロール加水分解を調節し、ペリリピンによる干渉によって、食事誘導性肥満に対して抵抗性であるが正常な耐糖能を有するマウスが生じた(Tansey et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98:6494−99)。
【0073】
肥満が二次的な代謝性または他の疾患状態に対して二次的である場合、二次的な原因を治療する。原発性肥満は、カロリー摂取を低減させるための食事療法および摂食挙動変更、ならびに支出を増大させるための運動療法によって治療する。食欲抑制剤(アンフェタミン様剤)、甲状腺ホルモン薬物、およびヒト絨毛性ゴナドトロピンが、肥満を治療するために使用されてきた。小腸バイパス手術(空回腸シャント)もまた、病的肥満の重篤な症例を治療するために使用される。
【0074】
脊髄損傷
米国で毎年約11,000人の脊髄損傷の新たな症例が存在し、全体的な罹患率は現在米国において合計183,000〜230,000症例であると推定される(Stover et al.、Arch Phys Med Rehabil 80、1365−71、1999)。脊髄損傷から回復することは非常に少なく、荒廃的な不可逆的神経性能力障害を生じる。急性脊髄損傷の現在の治療は、例えば外科的介入による損傷部位の機械的安定化、および非経口ステロイドの投与からなる。これらの介入は、脊髄損傷後の永続的な麻痺の発生を低減させるためには、ほとんど実施されてこなかった。慢性脊髄損傷の治療は、生活の質の維持、例えば疼痛、痙攣および膀胱機能の管理に焦点を当てている。神経性機能の回復を扱う現在利用可能な治療は存在しない。
【0075】
脊髄損傷後のこのような低い回復の原因である因子の1つは、ミエリン鞘中の軸索再生阻害剤の存在である。これらの因子は、損傷後すぐに放出され、軸索が病変を横切って成長して機能的接続を再確立するのを防止する。これらの軸索再生阻害剤の1つは、Nogo−Aと呼ばれるタンパク質であり、これは本発明の自己抗原である(Huber and Schwab、Biol Chem 381、407−19.、2000;Reilly、J Neurol 247、239−40、2000;Chen et al.、Nature 403、434−9、2000)。Nogo−Aは、神経突起成長を阻害することがin vitroで示されており、Nogo−Aに対する中和抗体は、この成長阻害特性を逆転することが示されている。さらに、Nogo−Aに対するモノクローナル抗体は、脊髄損傷の動物モデルにおいてin vivoで軸索再生を促進することが示されている(Raineteau et al.、Proc Natl Acad Sci U S A 98、6929−34.、2001;Merkler et al.、J Neurosci 21、3665−73、2001;Blochlinger et al.、J Comp Neurol 433、426−36、2001;Brosamle et al.、J Neurosci 20、8061−8、2000)。Nogo−Aは、大脳皮質および脊髄内のオリゴデンドロサイトにおいて主に発現される膜貫通タンパク質である。Nogo−A分子の2つの領域(即ち、細胞外の66アミノ酸のループおよびAS472と称される細胞質内のC末端領域)が、この分子の阻害能を潜在的に担うとして同定されている。
【0076】
分子模倣
感染性因子もまた、自己抗原を検出するT細胞の能力に影響を与えることが知られており、これは分子模倣の結果である。理論に束縛されることなく、自己の抗原に密接に関連する感染性病原体由来の抗原は、自己の抗原に対する免疫応答を誘導して、見かけの自己免疫疾患を生じ得ると考えられている。したがって、このような感染性因子由来の抗原もまた、本明細書に記載されるようなCD−8を提供する場合に使用を見出す。分子模倣の結果として自己免疫疾患を引き起こす感染性因子の例は、Nature Medicine、7:8(Aug、2001)、pp:899−905中に示され、この文献は、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0077】
いくつかの実施形態において、全長自己抗原を本発明の免疫調節分子と同時発現させる必要はない。この実施形態において、自己抗原の少なくとも1つのエピトープを、本発明の免疫調節分子と同時発現させる。好ましい実施形態において、このエピトープは、少なくとも約3アミノ酸長、好ましくは少なくとも約5アミノ酸長、最も好ましくは少なくとも約8アミノ酸長である。さらに、全長自己抗原の他の短縮型を、免疫調節分子と同時発現させることができる。自己抗原の一部分またはフラグメントを発現させる場合、融合タンパク質としてフラグメントを発現させて、所望の標的細胞に応じて、自己抗原エピトープの適切な標的化および/またはプロセシングを確実にすることが望ましいことがある。いくつかの実施形態において、例えば、少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチドが標的細胞の原形質膜に達するのを確実にするために、本明細書に記載されるようなシグナルペプチドまたはリーダーペプチドに融合されたフラグメントを含む融合タンパク質を発現させることが必要であり得る。シグナル配列は典型的に、当該分野で周知のように、細胞からのタンパク質の分泌を指示する疎水性アミノ酸からなるシグナルペプチドをコードする。さらに、そして再度所望の標的細胞に応じて、融合タンパク質がそれを発現する標的細胞と結合したままであることを確実にするために、融合タンパク質中の膜貫通領域または他の膜アンカードメインを含むことが望ましいことがある。一実施形態において、膜貫通は、自己抗原に天然である必要はない。この実施形態において、「合成膜貫通ドメイン」は、約20〜25個の疎水性アミノ酸と、その後に少なくとも1つ、そして好ましくは2つの荷電アミノ酸とを含む。
【0078】
免疫調節分子が、治療用導入遺伝子(例えば自己抗原)を含みかつ発現するベクターとは別個のベクター中に含まれる遺伝子によってコードされる場合、類似または同一の型のベクターが使用され、かつ接触効果のタイミングが細胞と接触したベクターに対する免疫応答を阻害するのに十分である限り、この免疫調節分子を含むベクターは、この遺伝子を含みかつ発現するベクターと細胞との接触の前、接触と同時または接触に引き続いて、細胞と接触させることができる。しかし、好ましくは、このベクターは、免疫調節分子と、自己抗原またはそのエピトープもしくは他のフラグメントをコードする配列との両方をコードする。免疫調節分子および治療用導入遺伝子の両方が同じベクターで発現される場合、好ましくは、それぞれのインサートは別個の制御エレメントの制御下にある。この実施形態において、発現系は、2つの発現カセットを含むか、または2つの核酸の同時発現を可能にする単一のカセット(バイシストロニック単位)を含むかのいずれかである。系が2つの発現カセットを含む場合、これらは同一または異なるプロモーターを使用できる。
【0079】
発現系がベクター内に免疫調節分子および治療用導入遺伝子を含む場合、同一または類似の強度のプロモーター、および同一または類似のコピー数の核酸を使用できる。一般に、in vivoで産生される2つの導入遺伝子のそれぞれの量は、十分に近い。しかし、特定の状況において、異なる量の各導入遺伝子を産生することが好ましい場合がある。この場合、異なる強度のプロモーターもしくは異なる遺伝子のコピー数が存在する系のいずれかを使用することか、または投与される用量を変化させることが可能である。
【0080】
一実施形態において、治療用分子(例えば自己抗原)は、標的細胞の表面上での提示のためのクラスIまたはクラスII MHC経路を介したプロセシングのために、タンパク質またはポリペプチドの形態で標的細胞にデリバーされる。全長タンパク質またはその免疫原性フラグメントのいずれかが標的細胞にデリバーされる。この実施形態において、免疫調節分子は好ましくは、本明細書に記載されるような発現系で標的細胞にデリバーされる。
【0081】
一実施形態において、治療用自己抗原は、MHCクラスI分子および/またはクラスII分子との融合タンパク質として提供されるか、あるいはこのような融合タンパク質をコードする核酸である。この実施形態において、自己抗原ならびにMHCクラスI分子およびクラスII分子は、自己抗原が好ましくは共有結合によってMHC分子に連結されるように操作される。いくつかの実施形態において、自己抗原は、当該分野で公知のように、MHC分子に直接(例えば隣接して)連結される。例えば、Mottez et al.、J.Exp.Med.181:493−502(1995)を参照のこと。別の実施形態において、ペプチドリンカーが含まれるがこれに限定されないリンカーが、自己抗原とMHC分子との間に含められ、この技術もまた当該分野で公知である。例えば、Kozono et al.、nature 369:151−154(1994);White et al.、J.Immunol.162:2671−76(1999)を参照のこと。このような融合タンパク質は、米国特許第6,211,342号中により詳細に記載されており、その開示は、参照により本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0082】
「標的細胞」は、単一の実体として存在し得るか、または細胞のより大きな集合の一部であり得る。このような「細胞のより大きな集合」は、例えば、細胞培養物(混合または純粋のいずれか)、組織(例えば、上皮または他の組織)、器官(例えば、心臓、肺、肝臓、胆嚢、膀胱、眼または他の器官)、器官系(例えば、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、外被系または他の器官系)、または生体(例えば、トリ、哺乳動物、特にヒトなど)を含むことができる。好ましくは、標的化される器官/組織/細胞は、造血起源(例えば、樹状細胞、マクロファージ、赤血球、白血球、Tリンパ球およびBリンパ球などが含まれるがこれらに限定されない)のものであり、かつ/または造血幹細胞もしくは他の組織特異的幹細胞であり得る。幹細胞を培養および使用する方法は、米国特許第5,672,346号、同第6,143,292号および同第6,534,052号中により詳細に開示されており、これらは参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0083】
特に、ウイルスベクターまたはプラスミドなどの発現ベクターが接触する標的細胞は、接触した標的細胞が、発現ベクターによって標的化され得る特定の細胞表面結合部位を含んでいる点で、別の細胞とは異なる。「特定の細胞表面結合部位」とは、ベクター(例えばアデノウイルスベクター)が細胞に付着し、それによって細胞に侵入するために相互作用できる、細胞の表面上に存在する任意の部位(即ち、分子または分子の組合せ)を意味する。したがって、特定の細胞表面結合部位は、細胞表面レセプターを包含し、好ましくは、これはタンパク質(改変タンパク質を含む)、炭水化物、糖タンパク質、プロテオグリカン、脂質、ムチン分子またはムコタンパク質などである。潜在的な細胞表面結合部位の例には、グルコサミノグリカン上で見出されるヘパリンおよびコンドロイチン硫酸部分;ムチン、糖タンパク質およびガングリオシド上に見出されるシアル酸部分;主要組織適合複合体I(MHC I)糖タンパク質;膜糖タンパク質中に見出される一般的な炭水化物分子(マンノース、N−アセチル−ガラクトサミン、N−アセチル−グルコサミン、フコースおよびガラクトースを含む);糖タンパク質(例えば、ICAM−1、VCAM、E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチンおよびインテグリン分子);ならびに癌性細胞上に存在する腫瘍特異的抗原(例えば、MUC−1腫瘍特異的エピトープなど)が含まれるが、これらに限定されない。しかし、アデノウイルスなどの発現ベクターを細胞に標的化することは、細胞相互作用の任意の特定の機構(即ち、所定の細胞表面結合部位との相互作用)に限定されない。
【0084】
一実施形態において、発現ベクターの標的細胞特異性は、ベクターのシュードタイピングによって、野生型ベクターに対して変更される。シュードタイピングとは、ベクターに対して標的細胞特異性を付与する他の標的細胞特異的結合部分が、発現ベクター中に含まれることを意味する。このような標的細胞特異的結合部分には、野生型ベクターと比して異なる細胞を標的化するタンパク質、抗体フラグメントもしくは他の結合部分(例えば、ロイシンジッパー)、またはビオチン−アビジン結合部位をコードする遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、この標的細胞特異的結合部分は、例えば細胞表面分子または細胞表面結合抗体に付着するために抗カプシド抗体を使用して、他の標的化分子が容易に付着され得るように、ウイルスカプシド中に組み込まれる。シュードタイピングベクターのさらなる例は、米国特許第6,734,014号、同第6,783,981号および同第6,762,031号中に示され、これらの開示は、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。本発明の発現ベクターおよび方法は、このようなシュードタイピング改変ならびに当業者に周知の他の標的化改変および技術を、有利に含むことができる。一般的には、Curiel and Douglas、Eds.、Vector Targeting for Therapeutic Gene Delivery(Wiley−Liss,Inc.2002)を参照のこと。
【0085】
好ましい実施形態において、これらのベクターは全身投与され、免疫調節分子および自己抗原エピトープの発現は任意の細胞中で生じ得る。この実施形態において、自己免疫疾患を治療する場合、ベクターは、自己免疫応答に供される細胞と接触する必要はない。むしろ、このベクターは、任意の細胞に投与できるか、または任意の細胞中で発現させることができる。
【0086】
一実施形態において、樹状細胞が、本発明の抗原を患者の免疫系に提示するために使用される。樹状細胞は、MHCクラスIおよびクラスII、B7補助刺激分子およびIL−2を発現し、したがって高度に特殊化した抗原提示細胞である。樹状細胞は、MHCクラスI分子およびクラスII分子に関して、T細胞にペプチドを提示するために使用できる。一実施形態において、自己樹状細胞は、MHC分子に結合できるペプチドでパルスされる。別の実施形態において、樹状細胞は、完全タンパク質でパルスされる。なお別の実施形態は、当該分野で公知であり本明細書に記載される種々の実行ベクター(例えば、アデノウイルス(Arthur et al.、1997、Cancer Gene Ther.4:17−25)、レトロウイルス(Henderson et al.、1996、Cancer Res.56:3763−3770)、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、DNAトランスフェクション(Ribas et al.、1997、Cancer Res.57:2865−2869)および腫瘍由来RNAトランスフェクション(Ashley et al.、1997、J.Exp.Med.186:1177−1182))を使用して、樹状細胞における抗原をコードする遺伝子の過剰発現を操作することを含み、これらはすべて、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。このような樹状細胞ワクチンのさらなる例は、米国特許第6,440,735号に見出され、その開示は参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0087】
本明細書中で使用され、以下でさらに定義されるように、「ポリヌクレオチド」または「核酸」とは、DNAもしくはRNA、またはデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの両方を含む分子のいずれかを意味することができる。核酸には、ゲノムDNA、cDNAならびにセンスおよびアンチセンス核酸を含むオリゴヌクレオチドが含まれる。このような核酸はまた、生理学的環境におけるこのような分子の安定性および半減期を増大させるために、リボース−リン酸骨格中に改変を含んでもよい。
【0088】
核酸は、二本鎖、一本鎖であってよく、または二本鎖もしくは一本鎖の配列の両方の部分を含んでいてもよい。当業者に理解されるように、一方の鎖(「ワトソン」)を記述すれば、他方の鎖(「クリック」)の配列を規定することにもなる。したがって、図中に示される配列は、その配列の相補体をも含む。本明細書中の用語「組換え核酸」とは、一般に、エンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって、天然に通常見出されない形態でin vitroで元来形成された核酸を意味する。したがって、直線型の単離された核酸、または通常連結されないDNA分子をライゲーションさせることによってin vitroで形成された発現ベクターは共に、本発明の目的のために組換え体とみなされる。一旦組換え核酸が作製され、宿主細胞または生体中に再導入されると、それは非組換え的に、即ちin vitroまたは染色体外操作ではなく、宿主細胞のin vivo細胞機構を使用して、複製し得るが、このような核酸は、一旦組換え的に生成されると、引き続いて非組換え的に複製されても、なお本発明の目的のために組換え体とみなされることが理解される。
【0089】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本願を通して相互交換可能に使用され得、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味し、これにはタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドが含まれる。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸およびペプチド結合、または合成のペプチド模倣構造から形成され得る。したがって、本明細書中で使用する場合、「アミノ酸」または「ペプチド残基」とは、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモ−フェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明の目的のためにアミノ酸とみなされる。「アミノ酸」には、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。その側鎖は、(R)配置または(S)配置のいずれであってもよい。好ましい実施形態において、アミノ酸は(S)即ちL−配置である。天然に存在しない側鎖が使用される場合、例えばin vivoでの分解を防止または遅延させるために、非アミノ酸置換基が使用され得る。標的化または導入遺伝子としての発現のために変異体タンパク質およびペプチドを生成するための天然アミノ酸配列の変更は、例えば、当業者に公知の種々の手段によって実施できる。変異体ペプチドは、所定のペプチドに対して実質的に相同であるが、そのペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドである。相同性の程度(即ち、同一性%)は、例えば、そのような比較のために最適化されたコンピュータプログラムを使用して(例えば、GAPコンピュータプログラム、バージョン6.0またはそれより高度なバージョン(Devereux et al.(Nucleic Acids Res.、12、387(1984))に記載され、かつUniversity of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から自由に入手可能)を使用して)配列情報を比較することによって、決定できる。変異体タンパク質および/またはペプチドの活性は、当業者に公知の他の方法を使用して評価できる。
【0090】
変異体タンパク質(ペプチド)と参照タンパク質(ペプチド)との間で同一でないアミノ酸残基に関して、変異体タンパク質(ペプチド)は、好ましくは保存的アミノ酸置換を含み、即ちその結果、所定のアミノ酸が類似のサイズ、荷電密度、疎水性/親水性、および/または配置の別のアミノ酸(例えば、Pheに対してVal)で置換される。変異体の部位特異的変異は、改変部位を含む合成オリゴヌクレオチドを発現ベクター中にライゲーションすることによって導入できる。あるいは、オリゴヌクレオチド指向性の部位特異的変異誘発手順、例えば、Walder et al.、Gene、42:133(1986);Bauer et al.、Gene、37:73(1985);Craik、Biotechniques、January 1995、pp.12−19;ならびに米国特許第4,518,584号および同第4,737,462号に開示されるものが使用できる。
【0091】
免疫調節分子
本明細書の文脈において、「免疫調節分子」は、抗原特異的な様式で標的細胞に対する細胞性および/または体液性の宿主免疫応答を調節、即ち増大または減少させるポリペプチド分子であり、好ましくは宿主免疫応答を減少させるポリペプチド分子である。一般に、本発明の教示に従って、免疫調節分子は、標的細胞の表面膜と会合されよう。例えば、本明細書に記載されるベクターからの発現の後、細胞表面膜に挿入されるか、または当該膜に共有結合もしくは非共有結合されよう。
【0092】
好ましい実施形態において、免疫調節分子は、CD8タンパク質のすべてまたは機能的部分を含み、より好ましくは、CD8α鎖のすべてまたは機能的部分を含む。ヒトCD8コード配列については、Leahy、Faseb J.9:17−25(1995);Leahy et al.、Cell 68:1145−62(1992);Nakayama et al.、Immunogenetics 30:393−7(1989)を参照のこと。CD8タンパク質およびポリペプチドに関して「機能的部分」とは、本明細書に記載されるveto活性を保持するCD8α鎖の部分を意味し、より具体的には、CD8α鎖のHLA結合活性を保持する部分、特にCD8α鎖の細胞外領域中のIg様ドメインを意味する。例示的な変異体CD8ポリペプチドは、参照により本明細書中に組み込まれる、Gao and Jakobsen、Immunology Today 21:630−636(2000)中に記載されている。いくつかの実施形態において、全長CD8α鎖が使用される。しかし、いくつかの実施形態においては、その細胞質ドメインは欠失されている。好ましくは、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインが保持される。
【0093】
当業者に理解されるように、必要に応じて、細胞外ドメインと標的細胞表面との会合を改変するために、CD8α鎖の膜貫通ドメインは、他の分子の膜貫通ドメインと交換できる。この実施形態において、CD8α鎖の細胞外ドメインをコードする核酸は、膜貫通ドメインをコードする核酸と作動可能に連結される。任意の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインが、本発明において使用できる。あるいは、膜貫通タンパク質中に見出されることが知られていない膜貫通を使用してもよい。この実施形態において、「合成膜貫通ドメイン」は、約20〜25個の疎水性アミノ酸と、その後に少なくとも1つ、そして好ましくは2つの荷電アミノ酸とを含む。いくつかの実施形態において、CD8細胞外ドメインは、当該分野の従来技術によって、標的細胞膜に連結される。好ましいCD8α鎖の配列は以下の表中に示され、ヒト、マウス、ラット、オランウータン、クモザル、モルモット、ウシ、アラゲコトンラット、家畜のブタおよびネコを含む種由来の全長CD8α鎖をコードするアミノ酸配列または核酸配列のいずれかの全長配列についてのアクセッション番号を含む。そのアクセッション番号で含まれる配列は、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0094】
好ましい実施形態において、CD8α鎖は、融合タンパク質ではないが、むしろ細胞内ドメインが欠失された短縮型タンパク質である。図1A〜Bに示されるように、ヒトCD8α鎖遺伝子は、235アミノ酸のタンパク質を発現する。このタンパク質は、以下のドメインに分割されるとみなすことができる(ポリペプチドのアミノ末端で始まり、カルボキシ末端で終わる):シグナルペプチド(アミノ酸1〜21);免疫グロブリン(Ig)様ドメイン(ほぼアミノ鎖22〜136);膜近位柄(stalk)領域(アミノ酸137〜181);膜貫通ドメイン(アミノ酸183〜210)および細胞質ドメイン(アミノ酸211−235)。これらの異なるドメインをコードするコード配列のヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードする1〜63、細胞外ドメインをコードする64〜546、細胞内ドメインをコードする約547〜621および細胞内ドメインをコードする約622〜708を含む。同様に、マウス配列は以下のようにドメインに分割できる。そのポリペプチドは、アミノ酸1〜27を含むシグナル配列、アミノ酸約28〜194を含む細胞外ドメイン、アミノ酸約195〜222を含む膜貫通ドメインおよびアミノ酸約223〜310を含む細胞内ドメインに分割できる。同様に、これらのドメインをコードするコード配列のヌクレオチドは、シグナルペプチドをコードする核酸1〜81、細胞外ドメインをコードする約82〜582、膜貫通ドメインをコードする約583〜666および細胞外ドメインをコードする約667〜923を含む。
【0095】
いくつかの実施形態において、全長タンパク質をコードする核酸は、遺伝子デリバリービヒクル中に含まれる。他の実施形態において、細胞内ドメインをコードする核酸は、遺伝子デリバリービヒクル中のポリヌクレオチドには含まれず、細胞内ドメインを欠く膜アンカー型タンパク質を生じる。対応するドメインは、好ましい実施形態におけるマウスを含む、他の種においても同定できる。
【0096】
当業者は、上記ポリペプチドに対する実質的な相同性を有する免疫調節分子が、本発明において有利な用途を見出し得ることもまた理解しよう。したがって、例えば、「CD8ポリペプチド」には、図1A中に示されるヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと、少なくとも約80%の配列同一性、通常は少なくとも約85%の配列同一性、好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有する、相同なポリペプチドもまた包含される。
【0097】
「CD8をコードする核酸分子」およびその文法的等価物は、図1A中に示されるヒトCD8のヌクレオチド配列、ならびに図1A中に示されるヌクレオチドと、少なくとも約80%の配列同一性、通常は少なくとも約85%の配列同一性、好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有し、かつ図1A中に示される配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を意味する。
【0098】
以前に示したように、多数の異なるプログラムが、タンパク質または核酸が既知の配列に対する配列同一性または類似性を有するか否かを同定するために使用できる。配列同一性および/または類似性は、好ましくはデフォルトの設定を使用するか、または検査により、Smith & Waterman、Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所配列同一性アルゴリズム、Needleman & Wunsch、J.Mol.Biol.48:443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman、PNAS USA 85:2444(1988)の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、Devereux et al.、Nucl.Acid Res.12:387−395(1984)により記載されるBest Fit配列プログラムが含まれるがこれらに限定されない、当該分野で公知の標準技術を使用して、決定される。好ましくは、同一性%は、以下のパラメータに基づいてFastDBによって計算される:ミスマッチペナルティ1;ギャップペナルティ1;ギャップサイズペナルティ0.33;およびジョイニングペナルティ30、「Current Methods in Sequence Comparison and Analysis」、Macromolecule Sequencing and Synthesis、Selected Methods and Applications、pp 127−149(1988)、Alan R.Liss,Inc.。
【0099】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPは、漸進的対合アラインメントを使用して、一群の関連配列から複数の配列アラインメントを生成する。アラインメントを生成するために使用されるクラスター化関係を示す階層をプロットすることもできる。PILEUPは、Feng & Doolittle、J.Mol.Evol.35:351−360(1987)の漸進的アラインメント法の単純化を使用し、この方法は、Higgins & Sharp CABIOS 5:151−153(1989)に記載される方法と類似である。デフォルトギャップウェイト3.00、デフォルトギャップレングスウェイト0.10および加重エンドギャップを含む有用なPILEUPパラメータ。
【0100】
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al.、J.Mol.Biol.215、403−410、(1990)およびKarlin et al.、PNAS USA 90:5873−5787(1993)に記載されるBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.、Methods in Enzymology、266:460−480(1996);http://blast.wustl/edu/blast/README.html]から得られたWU−BLAST−2プログラムである。WU−BLAST−2は、いくつかの検索パラメータを使用し、そのほとんどはデフォルト値に設定される。調節可能なパラメータは、以下の値で設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワード閾値(T)=11。HSP SおよびHSP S2パラメータは動的な値であり、特定の配列の組成および目的の配列がそれに対して検索されている特定のデータベースの組成に依存して、プログラム自身によって確立される;しかし、これらの値は、感度を増大させるために調節してもよい。
【0101】
さらなる有用なアルゴリズムは、Altschul et al.Nucleic Acids Res.25:3389−3402により報告されたギャップ付きBLASTである。ギャップ付きBLASTは、BLOSUM−62置換スコア;9に設定した閾値Tパラメータ;ギャップのない伸長を誘発するためのツーヒット法;ギャップレングスkの10+kのコストへの当てはめ;16に設定したXu、ならびにアルゴリズムのデータベース検索段階について40に、アルゴリズムの出力段階について67に設定したXgを使用する。ギャップ付きアラインメントは、約22ビットに対応するスコアによって誘発される。
【0102】
アミノ酸または核酸配列同一性の%値は、一致している同一残基の数を整列させた領域中の「より長い」配列の総残基数で除算することによって決定される。「より長い」配列は、整列された領域中の最も現実的な残基を有する配列である(アラインメントスコアを最大化するためにWU−Blast−2によって導入されたギャップは無視される)。
【0103】
アラインメントは、整列すべき配列におけるギャップの導入を含むことができる。さらに、図1A中に示されるヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列よりも多いかまたは少ないアミノ酸のいずれかを含む配列について、一実施形態において、配列同一性の割合は、アミノ酸残基の総数に対する同一アミノ酸の数に基づいて決定されることが理解される。したがって、例えば、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの配列よりも短い配列の配列同一性は、以下で議論するように、一実施形態において、このより短い配列中のアミノ酸の数を使用して決定されよう。同一性%の計算において、相対的な加重は、配列バリエーション(例えば、挿入、欠失、置換など)の種々の顕現に割り当てられない。
【0104】
一実施形態において、同一性のみが正に(+1)スコア付けされ、ギャップを含む配列バリエーションのすべての形態が「0」の値を割り当てられ、これにより、配列類似性の計算について以下に記載されるような加重スケールまたはパラメータの必要性が排除される。配列同一性%は、例えば、一致する同一残基の数を整列された領域中の「より短い」配列の総残基数で除算し、100を乗算することによって計算できる。「より長い」配列は、整列された領域中の最も現実的な残基を有する配列である。
【0105】
図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと100%未満の配列同一性を有するCD8は一般に、ヒト以外の種由来のネイティブCD8ヌクレオチド配列、およびヒトまたは非ヒト供給源由来のネイティブCD8ヌクレオチド配列の変異体から生成されよう。これに関して、多数の技術が当該分野で公知であり、ネイティブCD8配列のヌクレオチド配列変異体を生成するため、ネイティブCD8ポリペプチドに通常関連する少なくとも1つの活性の存在についてそれらの変異体のポリペプチド産物を評価するために、慣用的に使用され得ることが留意される。好ましい実施形態において、CD8α鎖はヒト由来であるが、表2中に示されるように、ラット、マウスおよび霊長類由来のCD8α鎖が公知であり、本発明において用途を見出す。
【0106】
CD8活性を有するポリペプチドは、図1A中に示されるヌクレオチドによってコードされるポリペプチドよりも、短くても長くてもよい。したがって、好ましい実施形態において、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの部分またはフラグメントが、CD8ポリペプチドの定義内に含まれる。本明細書中の一実施形態において、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのフラグメントは、上記のように、a)少なくとも示された配列同一性を有し;かつb)天然に存在するCD8の生物学的活性を好ましくは有する場合に、CD8ポリペプチドとみなされる。
【0107】
さらに、以下でより完全に概説するように、CD8α鎖は、例えば、他の融合配列の付加、またはさらなるコード配列および非コード配列の解明によって、図1A中のヌクレオチドによってコードされるポリペプチドよりも長くなり得る。
【0108】
CD8ポリペプチドは好ましくは組換え体である。「組換えポリペプチド」は、組換え技術を使用して作製される、即ち、以下に記載されるような組換え核酸の発現によって作製されるポリペプチドである。好ましい実施形態において、本発明のCD8は、図1A中に示される核酸配列またはそのフラグメントの発現によって作製される。組換えポリペプチドは、少なくとも1つまたは複数の特徴によって、天然に存在するタンパク質とは区別される。例えば、ポリペプチドは、その野生型宿主において通常関連するタンパク質および化合物のいくらかまたはすべてから離れて単離または精製され得、したがって、実質的に純粋であり得る。例えば、単離されたポリペプチドには、その天然の状態で通常関連する物質の少なくとも幾分かが付随せず、これは、所定のサンプル中の総タンパク質の好ましくは少なくとも約0.5重量%、より好ましくは少なくとも約5重量%を構成する。実質的に純粋なポリペプチドは、総ポリペプチドの少なくとも約75重量%を構成し、少なくとも約80%が好ましく、少なくとも約90%が特に好ましい。この定義は、異なる生体または宿主細胞中での1つの生体からのCD8ポリペプチドの産生を含む。
【0109】
あるいは、ポリペプチドは、誘導性プロモーターまたは高発現プロモーターの使用によって、通常見られない顕著に高い濃度で生成され得、その結果、ポリペプチドは増大した濃度レベルで生成される。あるいは、ポリペプチドは、以下で議論するように、アミノ酸の置換、挿入および欠失の付加などの場合と同様に、天然に通常見出されない形態であり得る。
【0110】
一実施形態において、本発明は、核酸CD8変異体を提供する。これらの変異体は、3つのクラス:置換変異体、挿入変異体または欠失変異体のうちの1つまたは複数に入る。これらの変異体は、当該変異体(遺伝子治療ベクター中の変異体を含む)をコードするDNAを産生し、その後当該DNAを発現するために、カセットもしくはPCR変異誘発または当該分野で周知の他の技術を使用して、図1Aのヌクレオチド中のヌクレオチドの部位特異的変異誘発によって、通常調製される。アミノ酸配列変異体は、そのバリエーションの予め決定された性質、その変異体をCD8アミノ酸配列の天然に存在する対立遺伝子または種間バリエーションとは別のものにする特徴によって、特徴付けられる。これらの変異体は、天然に存在するアナログと同じ質的生物学的活性を典型的に示すが、以下により完全に概説されるように、改変された特徴を有する変異体もまた選択できる。
【0111】
配列バリエーションを導入するための部位または領域は予め決定されるが、変異自体を予め決定する必要はない。例えば、所定の部位での変異の成績を最適化するために、ランダム変異誘発を、標的のコドンまたは領域で実施してもよく、発現された変異体を最適な所望の活性についてスクリーニングしてもよい。既知の配列を有するDNA中の予め決定された部位に置換変異を作製するための技術、例えば、M13プライマー変異誘発およびPCR変異誘発が、周知である。変異体を作製するための技術の別の例は、遺伝子シャッフリングの方法であり、それにより、ヌクレオチド配列の類似の変異体のフラグメントを組み替えて、新規変異体の組合せを生成することが可能となる。このような技術の例は、米国特許第5,605,703号;同第5,811,238号;同第5,873,458号;同第5,830,696号;同第5,939,250号;同第5,763,239号;同第5,965,408号;および同第5,945,325号中に見出され、これらは各々、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0112】
アミノ酸置換は、典型的には単一残基の置換であり;挿入は、通常約1〜20アミノ酸のオーダーであるが、それよりかなり長い挿入が許容され得る。欠失は、約1〜約20残基の範囲であるが、ある場合には、欠失はかなり大きくてもよく、細胞質ドメインまたはそのフラグメントを含んでもよい。
【0113】
置換、欠失、挿入またはそれらの任意の組合せが、最終誘導体に到達するために使用され得る。一般に、これらの変化は、分子の変更を最小化するために、数個のアミノ酸に対して行われる。しかし、より大きい変化が、特定の状況において許容され得る。CD8の特徴における小さい変更が所望される場合、置換は、以下のチャートに従って一般になされる:
【0114】
機能または免疫学的実体における実質的な変化は、チャート1に示されるものよりも保存的でない置換を選択することによってなされる。例えば、変更の領域中のポリペプチド骨格の構造(例えば、α−へリックスまたはβ−シート構造);標的部位における分子の電荷または疎水性;または側鎖の嵩高さに、より顕著に影響を与える置換がなされ得る。一般にポリペプチドの特性において最大の変化を生じることが予測される置換は、(a)親水性残基(例えば、セリルまたはスレオニル)が、疎水性残基(例えば、ロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリルまたはアラニル)で(または、によって)置換される;(b)システインまたはプロリンが任意の他の残基で(または、によって)置換される;(c)正に荷電した側鎖を有する残基(例えば、リジル、アルギニルまたはヒスチジル)が負に荷電した残基(例えば、グルタミルまたはアスパルチル)で(または、によって)置換される;または(d)嵩高い側鎖を有する残基(例えばフェニルアラニン)が側鎖を有さない残基(例えばグリシン)で(または、によって)置換されることである。
【0115】
これらの変異体は典型的に、天然に存在するアナログと、同じ質的生物学的活性を示し、同じ免疫応答を誘発するであろうが、必要に応じてCD8の特徴を改変するために変異体を選択することもある。あるいは、変異体は、タンパク質の生物学的活性が変更されるように設計され得る。
【0116】
本発明の範囲内に含まれるポリペプチドの共有結合改変の1つの型は、ポリペプチドのネイティブのグリコシル化パターンを変更することを含む。「ネイティブのグリコシル化パターンを変更する」とは、本明細書の目的のために、ネイティブ配列のCD8ポリペプチド中に見出される1つもしくは複数の炭水化物部分を欠失させること、および/またはネイティブ配列のポリペプチド中に存在しない1つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することを意味する意図である。
【0117】
ポリペプチドへのグリコシル化部位の付加は、そのアミノ酸配列を変更することによって達成され得る。変更は、例えば、ネイティブ配列のポリペプチドへの、1つまたは複数のセリン残基またはスレオニン残基の付加またはこれらの残基による置換によって、なされ得る(O−結合型グリコシル化部位について)。アミノ酸配列は、所望により、DNAレベルでの変化を介して、特に、所望のアミノ酸に翻訳されるコドンが生成されるように、予め選択された塩基でポリペプチドをコードするDNAに変異導入することによって、変更することができる。
【0118】
ポリペプチド上に存在する炭水化物部分の除去は、グリコシル化の標的として作用するアミノ酸残基をコードするコドンの変異的置換によって達成することができる。
【0119】
その天然の供給源から単離されると(例えば、プラスミドもしくは他のベクター内に含まれるか、または直線状核酸セグメントとしてそれらから切り出されると)、組換え核酸は、他の核酸を同定および単離するためのプローブとして、さらに使用することができる。これは、改変されたまたは変異体の核酸およびタンパク質を作製するための「前駆体」核酸としても使用できる。これは、本明細書に記載されるように標的細胞を処理するために、ベクターまたは他のデリバリービヒクル中に組み込むこともできる。
【0120】
発現ベクター
本発明の文脈において、任意の適切な発現ベクターが使用できる。「ベクター」は、遺伝子移入のためのビヒクルであり、この用語は当業者に理解される。本発明に従う発現ベクターには、プラスミド、ファージ、ウイルス、リポソームなどが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従う発現ベクターは、好ましくは、さらなる配列および変異を含む。特に、本発明に従う発現ベクターは、本明細書中で定義されるような、免疫調節分子、特にCD8α鎖をコードする導入遺伝子を含む核酸を含む。さらに、このベクターは、本明細書に記載されるような自己抗原を含む少なくとも1つのエピトープをコードする配列を含む。核酸は、全体的または部分的に合成により作製されたコード配列または他の遺伝子配列、あるいはゲノムDNAまたは相補DNA(cDNA)配列を含んでもよく、DNAまたはRNAのいずれかの形態で提供され得る。
【0121】
自己抗原をコードする遺伝子は、mRNAの発現およびタンパク質の産生のために、そして他の生化学的特徴の評価のために、ウイルスベクターへ、もしくはウイルスベクターから、あるいはバキュロウイルス中に、または適切な原核生物もしくは真核生物の発現ベクター中に移動させることができる。
【0122】
本発明に従うベクター(組換えアデノウイルスベクターおよび移入ベクターを含む)の産生に関して、このようなベクターは、当業者に公知のような、標準的な分子技術および遺伝学的技術を使用して構築できる。ビリオンまたはウイルス粒子を含むベクター(例えば、組換えアデノウイルスベクター)は、適切な細胞株においてウイルスベクターを使用して産生され得る。同様に、1種または複数種のキメラコートタンパク質を含む粒子は、標準的細胞株(例えば、アデノウイルスベクターについて現在使用されているもの)中で産生され得る。これらの得られた粒子は次いで、所望の場合、特定の細胞に対して標的化され得る。
【0123】
任意の適切な発現ベクター(例えば、Pouwels et al.、Cloning Vectors:A Laboratory Manual (Elsevior、N.Y.:1985)に記載されるようなもの)および対応する適切な宿主細胞が、宿主細胞における組換えペプチドまたはタンパク質の産生のために使用できる。発現宿主には、エシェリキア属、バチルス属、シュードモナス属、サルモネラ属内の細菌種、哺乳動物または昆虫の宿主細胞系(バキュロウイルス系(例えば、Luckow et al.、Bio/Technology、6、47(1988)に記載されるようなもの)を含む)、および樹立細胞株(例えば、COS−7、C127、3T3、CHO、HeLa、BHK)などが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従うキメラタンパク質(ペプチド)を調製するために特に好ましい発現系は、バキュロウイルス発現系であり、この系では、Trichoplusia ni、Tn 5B1−4昆虫細胞または他の適切な昆虫細胞が、高レベルの組換えタンパク質を産生するために使用される。もちろん、当業者は、発現宿主の選択が、産生されるペプチドの型に対して影響を有することを承知している。例えば、酵母または哺乳動物細胞(例えば、COS−7細胞)中で産生されたペプチドのグリコシル化は、細菌細胞(例えば、エシェリキア・コリ)中で産生されたペプチドのグリコシル化とは異なるであろう。
【0124】
好ましい実施形態において、これらのタンパク質は、哺乳動物細胞において発現される。哺乳動物発現系もまた当該分野で公知であり、レトロウイルス系およびレンチウイルス系が含まれる。哺乳動物プロモーターは、哺乳動物RNAポリメラーゼを結合し、タンパク質のコード配列のmRNAへの下流(3’)への転写を開始できる任意のDNA配列である。プロモーターは、コード配列の5’末端に対して近位に通常配置される転写開始領域、および転写開始部位の上流25〜30塩基対に位置するものを使用するTATAボックスを有する。TATAボックスは、RNAポリメラーゼIIに、正確な部位でRNA合成を開始させると考えられている。哺乳動物プロモーターは、TATAボックスの上流100〜200塩基対以内に典型的には位置する、上流のプロモーターエレメント(エンハンサーエレメント)もまた含む。上流のプロモーターエレメントは、転写が開始される率を決定し、いずれの方向でも作用できる。哺乳動物プロモーターとして、哺乳動物ウイルス遺伝子由来のプロモーターが特に使用される。なぜなら、ウイルス遺伝子は、しばしば高度に発現され、広い宿主範囲を有するからである。例には、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、単純疱疹ウイルスプロモーターおよびCMVプロモーターが含まれる。
【0125】
典型的に、哺乳動物細胞によって認識される転写終結配列およびポリアデニル化配列は、翻訳終止コドンの3’側に位置する調節領域であり、したがって、プロモーターエレメントと共に、免疫調節分子および自己抗原のエピトープの両方についてのインサートのコード配列に隣接する。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的翻訳後切断およびポリアデニル化によって形成される。転写ターミネーターおよびポリアデニル化シグナルの例には、SV40由来のものが含まれる。
【0126】
哺乳動物宿主ならびに他の宿主に外因性核酸を導入する方法は、当該分野で周知であり、使用される宿主細胞によって異なるであろう。技術には、デキストラン媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ウイルス感染、ポリヌクレオチドのリポソーム中での封入、および核へのDNAの直接マイクロインジェクションが含まれる。
【0127】
タンパク質は、当該分野で周知の技術を使用して、融合タンパク質として作製してもよい。したがって、例えば、タンパク質は、発現を増大させるためまたは他の理由のために、融合タンパク質として作製してもよい。例えば、タンパク質がペプチドである場合、このペプチドをコードする核酸は、本明細書に記載されるように、発現目的のために他の核酸に連結させてもよい。好ましい実施形態において、自己抗原のエピトープを発現する場合、タンパク質は、適切な標的化およびプロセシングを確実にするために、融合タンパク質として発現される。即ち、エピトープを含むポリペプチドは、分泌経路にポリペプチドを標的化するシグナル配列としてこのようなプロセシング配列を含んでいてもよい、融合タンパク質として発現される。融合タンパク質はまた、免疫調節分子および自己抗原のエピトープの両方が細胞表面上で同時発現されるように、自己抗原のエピトープを含むポリペプチドを細胞膜に固定化する、膜貫通ドメインを含んでいてもよい。
【0128】
CD8または自己抗原について試験するために、発現後にタンパク質を精製または単離する。タンパク質は、サンプル中に存在する他の成分が何であるかに応じて、当業者に公知の種々の方法で単離または精製することができる。標準的な精製方法には、電気泳動技術、分子技術、免疫学的技術およびクロマトグラフィー技術(イオン交換、疎水性、アフィニティおよび逆相HPLCクロマトグラフィーを含む)、ならびに等電点電気泳動が含まれる。例えば、CD8タンパク質は、標準的な抗CD8抗体カラムを使用して精製することができる。限外濾過技術およびダイアフィルトレーション技術もまた、タンパク質濃縮と組み合わせて、有用である。適切な精製技術における一般的な指針については、Scopes,R.、Protein Purification、Springer−Verlag、NY(1982)を参照のこと。精製の必要性の程度は、CD8タンパク質の使用に依存して変化しよう。ある例においては、精製は必要ないであろう。ある例においては、CD8および/または自己抗原の発現は、例えば、抗体結合および蛍光を介した検出により、または蛍光標識細胞分取(FACS)によって、細胞表面上で検出される。
【0129】
CD8および自己抗原をコードする核酸分子、ならびにCD8核酸分子のコード鎖または非コード鎖のいずれかに由来する任意の核酸分子は、当該分野で公知でありかつ慣用的に使用される種々の方法で、標的の細胞と接触させてもよく、このとき、接触はex vivoであってもin vivoであってもよい。
【0130】
ウイルスの付着、侵入および遺伝子発現は、所望のタンパク質またはRNAおよびマーカー遺伝子(例えばβ−ガラクトシダーゼ)を発現する組換えウイルスを作製するための目的のインサートを含むアデノウイルスベクターを使用することによって、最初に評価できる。β−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むアデノウイルス(Ad−LacZ)が感染した細胞におけるβ−ガラクトシダーゼ発現は、細胞にAd−Glucを添加したわずか2時間後に検出できる。この手順は、組換えウイルスの細胞侵入および遺伝子発現の迅速かつ効率的な分析を提供し、従来技術を使用して当業者に容易に実施される。
【0131】
タンパク質をコードする本発明の核酸を使用して、種々の発現ベクターを作製できる。これらの発現ベクターは、自己複製型の染色体外ベクターまたは宿主ゲノム中に組み込まれるベクターのいずれであってもよい。一般に、これらの発現ベクターは、当該タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された転写調節核酸および翻訳調節核酸を含む。用語「制御配列」とは、特定の宿主生体中での、作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な、転写調節核酸配列および翻訳調節核酸配列をいう。原核生物に適切な制御配列には、例えば、プロモーター、所望によりオペレーター配列およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが知られている。
【0132】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係になるよう配置される場合、「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーについてのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、当該ポリペプチドについてのDNAと作動可能に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合、コード配列と作動可能に連結されている;またはリボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列と作動可能に連結されている。別の例として、作動可能に連結されるとは、隣接するように、そして分泌リーダーの場合には隣接しかつ読み取りと一致するように連結されたDNAをいう。しかし、エンハンサーは、隣接する必要はない。連結は、簡便な制限部位でのライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドのアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用される。転写調節核酸および翻訳調節核酸は、一般に、CD8および自己抗原を発現するために使用される宿主細胞に適切であり、例えば、ヒトの転写調節核酸配列および翻訳調節核酸配列が、ヒト細胞中でCD8および自己抗原を発現するために使用されることが好ましい。種々の宿主細胞について、多数の型の適切な発現ベクターおよび適切な調節配列が当該分野で公知である。
【0133】
一般に、転写調節配列および翻訳調節配列には、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始配列および終止配列、翻訳開始配列および終止配列、ならびにエンハンサー配列またはアクチベータ配列が含まれ得るが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、調節配列には、プロモーターならびに転写開始配列および終止配列が含まれる。
【0134】
プロモーター配列は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターのいずれかをコードする。これらのプロモーターは、天然に存在するプロモーターまたはハイブリッドプロモーターのいずれであってもよい。1つより多いプロモーターのエレメントを組み合わせたハイブリッドプロモーターもまた当該分野で公知であり、本発明において有用である。
【0135】
さらに、発現ベクターは、さらなるエレメントを含むことができる。例えば、発現ベクターは2つの複製系を有して、2種の生体中(例えば、発現のために哺乳動物または昆虫細胞中、ならびにクローニングおよび増幅のために原核生物宿主中)で維持されることが可能となり得る。さらに、発現ベクターを組み込むために、発現ベクターは、宿主細胞ゲノムに対して相同な配列を少なくとも1つ、好ましくは発現構築体に隣接する相同な配列を2つ含む。組み込みベクターは、ベクター中に含めるのに適切な相同配列を選択することによって、宿主細胞中の特定の遺伝子座に指向させ得る。組み込みベクター用の構築体は当該分野で周知である。
【0136】
さらなる実施形態において、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能にするために、選択マーカー遺伝子を含むことができる。選択遺伝子は当該分野で周知であり、使用される宿主細胞によって異なるであろう。
【0137】
好ましくは、このベクターは、とりわけ、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスベクターまたはレトロウイルスベクター)である。最も好ましくは、このウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、任意のアデノウイルス由来であり得る。「アデノウイルス」は、Adenoviridae科の任意のウイルスであり、望ましくは、Mastadenovirus属(例えば、哺乳動物アデノウイルス)またはAviadenovirus属(例えば、鳥類アデノウイルス)のウイルスである。アデノウイルスは、任意の血清型のものである。アデノウイルス供給源として使用できるアデノウイルスストックは、アデノウイルス血清型1〜47から増幅でき、これらは現在、American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、Md.)から、または任意の他の供給源から入手可能なアデノウイルスの任意の他の血清型から入手可能である。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、血清型12、18および31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34および35)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5および6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、36〜39および42〜47)、サブグループE(血清型4)、サブグループF(血清型40および41)、または任意の他のアデノウイルス血清型のものであり得る。しかし好ましくは、アデノウイルスは、血清型2、5または9のものである。望ましくは、アデノウイルスは、同じ血清型のコートタンパク質(例えば、ペントンベース、ヘキソンおよび/またはファイバー)を含む。しかし、これもまた好ましくは、例えば、所定のコートタンパク質のすべてまたは一部が別の血清型由来であり得るという意味で、1つまたは複数のコートタンパク質がキメラであり得る。
【0138】
好ましくはアデノウイルスベクターであるウイルスベクターは、複製能のあるものであり得るが、好ましくは、このウイルスベクターは、複製欠損または条件付で複製欠損である。例えば、好ましくはアデノウイルスベクターであるウイルスベクターは、ウイルスを複製欠損にする少なくとも1つの改変を有するゲノムを含む。ウイルスゲノムに対する改変には、DNAセグメントの欠失、DNAセグメントの付加、DNAセグメントの再編成、DNAセグメントの置換、またはDNA損傷の導入が含まれるが、これらに限定されない。DNAセグメントは、1ヌクレオチド程度に小さくできるか、あるいは36キロ塩基対(即ち、アデノウイルスゲノムのおおよそのサイズ)または38キロ塩基対(これは、アデノウイルスビリオン中にパッケージングできる最大量である)程度に大きくできる。
【0139】
ウイルス、特にアデノウイルスのゲノムに対する好ましい改変には、ウイルスを複製欠損にする改変に加えて、本明細書中に定義されるような免疫調節分子をコードする導入遺伝子のインサート、さらにかつ好ましくは、目的の治療用分子をコードする少なくとも1つの導入遺伝子のインサートが含まれる。アデノウイルスなどのウイルスはまた、好ましくは、共組換え体(即ち、アデノウイルスなどのウイルスのゲノム配列と他の配列(例えば、プラスミド、ファージまたは他のウイルスのもの)とのライゲーション)であり得る。
【0140】
アデノウイルスベクター(特に、複製欠損アデノウイルスベクター)に関して、このようなベクターは、完全カプシド(即ち、アデノウイルスゲノムなどのウイルスゲノムを含む)または空のカプシド(即ち、ここで、例えば物理的または化学的手段により、ウイルスゲノムが欠如しているかまたは分解されている)のいずれかを含むことができる。好ましくは、このウイルスベクターは完全カプシドを、即ち免疫調節分子をコードする導入遺伝子、および所望によりかつ好ましくは阻害手段をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を運搬する手段として、含む。あるいは、好ましくは、これらの導入遺伝子は、アデノウイルスカプシドの外側上で、細胞中に運搬され得る。
【0141】
アデノウイルスなどのウイルスを特定の細胞に標的化することが好まれるかまたは望まれる程度まで、ウイルスは、細胞中へのプラスミドDNAの移入において、本質的にエンドソーム溶解剤として使用でき、このプラスミドDNAは、マーカー遺伝子を含み、細胞結合リガンド(例えば、トランスフェリン)に共有結合したポリリジンと複合体化および縮合される(Cotten et al.、PNAS(USA)、89、6094−6098(1992);およびCuriel et al.、PNAS(USA)、88、8850−8854(1991))。トランスフェリン−ポリリジン/DNA複合体とアデノウイルスとの連結(例えば、アデノウイルスに対する抗体によるか、トランスグルタミナーゼによるか、またはビオチン/ストレプトアビジン架橋を介する)は、遺伝子移入を実質的に増強することが実証されている(Wagner et al.、PNAS(USA)、89、6099−6103(1992))。
【0142】
あるいは、1つまたは複数のコートタンパク質(例えば、アデノウイルスファイバー)は、例えば、細胞表面レセプターに対するリガンドの配列または二重特異的抗体(即ち、一方の末端が当該ファイバーに対する特異性を有し、他方の末端が細胞表面レセプターに対する特異性を有する分子)への結合を可能にする配列のいずれかの組み込みによって、改変できる(PCT国際特許出願番号WO95/26412(’412出願)およびWatkins et al.、「Targeting Adenovirus−Mediated Gene Delivery with Recombinant Antibodies」、Abst.No.336)。両方の場合、典型的なファイバー/細胞表面レセプター相互作用は抑止され、アデノウイルスなどのウイルスは、そのファイバーによって新たな細胞表面レセプターに再指向される。
【0143】
あるいは、選択された細胞型に特異的に結合可能な標的化エレメントは、高親和性結合対の第1の分子と連結され、宿主細胞に投与され得る(PCT国際特許出願番号WO95/31566)。次いで、高親和性結合対の第2の分子に連結された遺伝子デリバリービヒクルは、宿主細胞に投与され得、この第2の分子は第1の分子に特異的に結合可能であり、その結果遺伝子デリバリービヒクルが選択された細胞型に標的化される。
【0144】
同じ路線に沿って、方法(例えば、電気泳動、形質転換、三親交配の接合、(同時)トランスフェクション、(同時)感染、膜融合、微粒子弾の使用、リン酸カルシウム−DNA沈殿物とのインキュベーション、直接マイクロインジェクションなど)が、ウイルス、プラスミドおよびファージを、それらの核酸配列の形態(即ち、RNAまたはDNA)で移入するために利用可能なので、ベクターは同様に、任意の関連タンパク質(例えば、カプシドタンパク質)の非存在下かつ任意のエンベロープ脂質の非存在下で、RNAまたはDNAを含むことができる。
【0145】
同様に、リポソームは細胞膜と融合することによって細胞に侵入するので、ベクターは、コートタンパク質をコードする構成的核酸と共に、リポソームを構成し得る。このようなリポソームは、例えばLife Technologies、Bethesda、Md.から市販されており、製造業者の推奨に従って使用できる。さらに、リポソームは、遺伝子デリバリーをもたらすために使用でき、増大した移入能および/または低減したin vivo毒性を有するリポソームが使用できる。可溶性キメラコートタンパク質(本明細書に記載される方法を使用して産生されるものなど)は、リポソームを製造業者の指示に従って調製した後、またはリポソームの調製中のいずれかで、リポソームに添加できる。
【0146】
本発明に従うベクターは、本発明の方法において使用できるものに限定されないが、遺伝子移入ベクターの構築において使用できる中間型ベクター(例えば、「移入ベクター」)もまたこれに含まれる。
【0147】
1つまたは複数の核酸配列のin vivoデリバリーのための好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築体のパッケージングを支持する、および(b)センス方向またはアンチセンス方向でその中にクローニングされたポリヌクレオチドを発現するのに十分なアデノウイルス配列を含む構築体を含むことを意味する。もちろん、アンチセンス構築体の文脈において、発現とは、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0148】
発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。アデノウイルスの遺伝子組成についての知見(36kbの直線状二本鎖DNAウイルス)により、アデノウイルスDNAの大きい断片の、7kbまでの外来配列による置換が可能である(Grunhaus and Horwitz、1992)。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体組み込みを生じない。なぜなら、アデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝毒性なしにエピソーム様式で複製できるからである。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、大規模な増幅後のゲノム再編成は検出されていない。アデノウイルスは、それらの細胞周期段階に関わらず、事実上すべての上皮細胞に感染できる。これまで、アデノウイルス感染は、ヒトにおける急性呼吸器疾患などの軽度な疾患にのみ関連するようである。
【0149】
アデノウイルスは、その中程度のゲノムサイズ、操作の容易さ、高い力価、広い標的細胞範囲および高い感染性のために、遺伝子移入ベクターとしての使用に特に適している。ウイルスゲノムの両方の末端は、100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含み、これらは、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシスエレメントである。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される、異なる転写単位を含む。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび数個の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成を生じる。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞の遮断に関与する(Renan、1990)。ウイルスカプシドタンパク質の大部分を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって与えられる単一の一次転写物の顕著なプロセシングの後にのみ発現される。このMLP(16.8m.u.に位置する)は、感染の後期段階の間に特に有効であり、このプロモーターから与えられるすべてのmRNAは、これらを翻訳に好ましいmRNAにする5’−三者リーダー(TPL)配列を保有する。
【0150】
現在の系において、組換えアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えから生成される。2つのプロウイルスベクター間での可能な組換えに起因して、野生型アデノウイルスが、このプロセスから生成され得る。したがって、個々のプラークからウイルスのシングルクローンを単離すること、およびそのゲノム構造を試験することが、重要である。
【0151】
複製欠損アデノウイルスベクターの生成および増殖は、独自のヘルパー細胞株に依存する。本来、アデノウイルスは、野生型ゲノムの約105%をパッケージでき(Ghosh−Choudhury et al.、1987)、約2kB過剰なDNA分の限度容量を提供する。E1およびE3領域中の置換可能な約5.5kBのDNAと合わせて、現在のアデノウイルスベクターの最大限度容量は、7.5kBを下回るか、またはベクターの全長の約15%である。80%より多いアデノウイルスのウイルスゲノムがベクター骨格中に残存し、これは、ベクター由来の細胞毒性の供給源である。また、E1欠失ウイルスの複製欠損性は不完全である。例えば、ウイルス遺伝子発現の漏れが、高い感染多重度(MOI)で、現在利用可能なベクターで観察されている(Mulligan、1993)。
【0152】
ヘルパー細胞株は、ヒト胚性腎臓細胞、筋細胞、造血細胞または他のヒト胚性間葉系細胞もしくは上皮細胞などのヒト細胞由来であり得る。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対して許容的な他の哺乳動物種の細胞由来であり得る。このような細胞には、Vero細胞または他のサル胚性間葉系細胞もしくは上皮細胞が含まれる。上記のように、現在好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0153】
最近、Racher et al.(1995)は、293細胞を培養し、アデノウイルスを増殖させるための改善された方法を開示した。1つの様式において、個々の細胞を、100〜200mlの培地を含んだ1リットルのシリコン処理したスピナーフラスコ(Techne、Cambridge、UK)中に接種することによって、天然細胞凝集物を増殖させる。40rpmで攪拌した後、細胞生存率をトリパンブルーで評価する。別の様式において、Fibra−Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、Stone、UK)(5g/l)を以下のように使用する。5mlの培地に再懸濁した細胞接種材料を、250mlのエルレンマイヤーフラスコ中のキャリア(50ml)に添加し、ときどきかき混ぜながら1〜4時間静置する。次いで、培地を50mlの新たな培地で置換し、振盪を開始する。ウイルス産生のために、細胞を約80%コンフルエンスまで増殖させ、その後培地を(最終容量の25%まで)置換し、0.05のMOIでアデノウイルスを添加する。培養物を一晩静置し、その後容量を100%まで増大させ、さらに72時間の振盪を開始する。
【0154】
好ましい実施形態において、アデノウイルスは、当該分野で公知のような「ガットレス」アデノウイルスである。「ガットレス」アデノウイルスベクターは、アデノウイルス遺伝子デリバリーのために最近開発された系である。アデノウイルスの複製は、ヘルパーウイルスならびにE1aおよびCreの両方を発現する(天然の環境中には存在しない条件)特別なヒト293細胞株を必要とする。今までの最も有効な系では、E1欠失ヘルパーウイルスが、バクテリオファージP1 loxP部位が隣接した(「floxed」)パッケージングシグナルと共に使用される。Creリコンビナーゼを発現するヘルパー細胞の、floxedパッケージングシグナルを有するヘルパーウイルスと一緒のガットレスウイルスによる感染は、ガットレスrAVのみを生じるはずである。なぜなら、パッケージングシグナルは、ヘルパーウイルスのDNAから欠失されるからである。しかし、293ベースのヘルパー細胞が使用される場合、ヘルパーウイルスDNAは、ヘルパー細胞DNA中に組み込まれるAD5 DNAと組み換わることができる。結果として、野生型パッケージングシグナルだけでなくE1領域が回復される。したがって、E1欠失ヘルパーウイルスが使用される場合、293(または911)ベースのヘルパー細胞上でのガットレスrAVの産生は、RCAの生成もまた生じ得る。
【0155】
このベクターからは、すべてのウイルス遺伝子が取り除かれる。したがって、このベクターは非免疫原性であり、必要に応じて反復して使用され得る。「ガットレス」アデノウイルスベクターはまた、導入遺伝子を収容するための36kbの空間を含み、したがって、多数の遺伝子の細胞への同時デリバリーを可能にする。RGDモチーフなどの特定の配列モチーフが、その感染性を増強するために、アデノウイルスベクターのH−Iループ中に挿入され得る。アデノウイルス組換え体は、本明細書に記載され当該分野で公知のもののような任意のアデノウイルスベクター中に、特定の導入遺伝子または導入遺伝子のフラグメントをクローニングすることによって、構築される。アデノウイルス組換え体は、脊椎動物の表皮細胞を、免疫剤としての使用のために非侵襲的な様式で形質導入するために、使用され得る。
【0156】
「ガットレス」アデノウイルスの使用は、異種DNAの大きいインサートの挿入のために特に有利である(概説については、Yeh.and Perricaudet、FASEB J.11:615(1997)を参照のこと)、これは、参照により本明細書中に組み込まれる。さらに、ガットレスアデノウイルスベクターならびにそれらを作製および使用する方法は、米国特許第6,156,497号および同第6,228,646号中により詳細に記載され、これらは共に、参照により本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0157】
アデノウイルスベクターが複製欠損または少なくとも条件付で欠損であるという要件以外は、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の首尾よい実施に重要でないと考えられる。アデノウイルスは、42の異なる既知の血清型またはサブグループA〜Fのいずれかのものであり得る。サブグループCのアデノウイルス5型は、大量の生化学的情報および遺伝的情報が知られているヒトアデノウイルスであり、歴史的にベクターとしてアデノウイルスを使用するほとんどの構築体に使用されてきたので、アデノウイルス5型は、本発明における使用のための条件付複製欠損アデノウイルスベクターを得るための、好ましい出発材料である。
【0158】
上記のように、本発明に従う典型的なベクターは、複製欠損であり、かつアデノウイルスE1領域を有さないであろう。したがって、E1コード配列が除去された位置で、目的の免疫調節分子および/またはさらなる治療タンパク質をコードする導入遺伝子を導入することが、最も簡便であろう。しかし、アデノウイルス配列内の発現構築体の挿入位置は、本発明にとって重要ではない。目的の導入遺伝子はまた、Karlsson et al.(1986)により記載されたE3置換ベクター中またはE4領域(このとき、ヘルパー細胞株またはヘルパーウイルスが、E4欠損を補完している)中の欠失されたE3領域の代わりに挿入され得る。
【0159】
アデノウイルスは、増殖および操作が容易であり、in vitroおよびin vivoで広い宿主範囲を示す。このグループのウイルスは、高い力価(例えば、1ml当たり109〜1011個のプラーク形成単位)で得ることができ、高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞のゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによってデリバーされる外来遺伝子はエピソーム性であり、したがって、宿主細胞に対する低い遺伝毒性を有する。野生型アデノウイルスによるワクチン接種の研究(Couch et al.、1963;Top et al.、1971)においては副作用は報告されておらず、このことは、in vivo遺伝子移入ベクターとしてのそれらの安全性および治療上の可能性を実証している。
【0160】
アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levrero et al.、1991;Gomez−Foix et al.、1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz、1992;Graham and Prevec、1992)において使用されてきた。最近、動物研究により、組換えアデノウイルスが遺伝子治療に使用できることが示唆された(Stratford−Perricaudet and Perricaudet、1991;Stratford−Perricaudet et al.、1990;Rich et al.、1993)。異なる組織に組換えアデノウイルスを投与する研究には、気管点滴注入(Rosenfeld et al.、1991;Rosenfeld et al.、1992)、筋肉注射(Ragot et al.、1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard、1993)および脳への定位接種(Le Gal La Salle et al.、1993)が含まれる。
【0161】
したがって、好ましい実施形態において、本明細書中で使用される発現ベクターはアデノウイルスベクターである。適切なアデノウイルスベクターは、Ad2またはAd5などのヒトアデノウイルスの改変を含み、ここで、ウイルスがin vivoで複製するのに必要な遺伝因子(例えば、E1領域、およびアデノウイルスゲノム中に挿入された目的の外因性遺伝子をコードする発現カセット)は除去されている。
【0162】
さらに、上記のように、好ましい発現ベクター系は、PCT/US97/01019およびPCT/US97/01048(これらは共に、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる)中に一般に記載されるようなレトロウイルスベクター系である。
【0163】
レトロウイルスは、逆転写のプロセスによって、感染細胞中でそれらのRNAを二本鎖DNAに変換する能力によって特徴付けられる、一本鎖RNAウイルスのグループである(Coffin、1990)。得られたDNAは次いで、プロウイルスとして細胞染色体に安定に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を指示する。組み込みにより、レシピエント細胞およびその子孫におけるウイルス遺伝子配列の保持が生じる。レトロウイルスゲノムは、3つの遺伝子gag、polおよびenvを含み、これらはそれぞれ、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ成分をコードする。gag遺伝子の上流に見出される配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含む。2つの末端反復配列(LTR)の配列は、ウイルスゲノムの5’末端および3’末端に存在する。これらは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノムにおける組み込みにも必要である(Coffin、1990)。
【0164】
レトロウイルスベクターを構築するために、1つまたは複数の目的のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列をコードする核酸を、特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノム中に挿入して、複製欠損のウイルスを産生する。ビリオンを産生するために、gag、polおよびenv遺伝子を含むがLTRおよびパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al.、1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共にcDNAを含む組換えプラスミドが(例えば、リン酸カルシウム沈殿によって)この細胞株に導入される場合、このパッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子中にパッケージングされることが可能となり、次いでこのウイルス粒子が培養培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein、1988;Temin、1986;Mann et al.、1983)。組換えレトロウイルスを含む培地を次いで収集し、所望により濃縮して、遺伝子移入に使用する。レトロウイルスベクターは、広範な種々の細胞型に感染できる。しかし、組み込みおよび安定な発現には、宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al.、1975)。
【0165】
レトロウイルスベクターの特異的な標的化を可能にするように設計された新規アプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学的改変に基づいて最近開発された。この改変は、シアロ糖タンパク質レセプターを介した肝細胞の特異的感染を可能にし得る。
【0166】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特定の細胞レセプターに対するビオチン化抗体が使用される、組換えレトロウイルスの標的化のための異なるアプローチが設計された。これらの抗体は、ストレプトアビジンを使用することによって、ビオチン成分を介して連結された(Roux et al.、1989)。主要組織適合複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用して、彼らは、in vitroで、狭宿主性ウイルスによる、これらの表面抗原を保有する種々のヒト細胞の感染を実証した(Roux et al.、1989)。適切なレトロウイルスベクターには、LNL6、LXSNおよびLNCXが含まれる(概説については、Byun et al.、Gene Ther.3(9):780−8(1996)。
【0167】
AAV(Ridgeway、1988;Hermonat and Muzycska、1984)は、アデノウイルスストックの混入物として発見されたパルボウイルスである。これは、遍在性のウイルスであり(米国のヒト集団の85%に抗体が存在する)、いずれの疾患にも関連していない。これはまた、その複製がヘルパーウイルス(例えばアデノウイルス)の存在に依存するので、ディペンドウイルスとして分類される。5つの血清型が単離されており、そのうちAAV−2が最も特徴付けられている。AAVは、直径20〜24nmの正十二面体ビリオンを形成するカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3中に封入された、一本鎖直線状DNAを有する(Muzyczka and McLaughlin、1988)。
【0168】
AAV DNAは、約4.7キロ塩基長である。これは、2つのオープンリーディングフレームを含み、2つのITRが隣接している。AAVゲノムには、2つの主要な遺伝子:repおよびcapが存在する。rep遺伝子は、ウイルス複製を担うタンパク質をコードし、一方capは、カプシドタンパク質VP1〜3をコードする。各ITRは、T型ヘアピン構造を形成する。これらの末端反復は、染色体組み込みにのみ必須なAAVのシス成分である。したがって、AAVは、すべてのウイルスコード配列が除去され、デリバリーのための遺伝子のカセットによって置換されたベクターとして使用できる。3つのウイルスプロモーターが同定されており、そのマップ位置に従って、p5、p19およびp40と命名されている。p5およびp19からの転写はrepタンパク質の産生を生じ、p40からの転写はカプシドタンパク質を産生する(Hermonat and Muzyczka、1984)。
【0169】
AAVはまた、その安全性に起因して、デリバリービヒクルのよい選択肢である。比較的複雑なレスキュー機構が存在し、野生型アデノウイルスだけでなく、AAVの遺伝子もまた、rAAVを動員するのに必要である。同様に、AAVは病原性ではなく、いずれの疾患にも関連しない。ウイルスコード配列の除去により、ウイルス遺伝子発現に対する免疫反応が最小化され、したがって、rAAVは、炎症応答を誘発しない。AAVに関連する他の開示は、米国特許第6,531,456号に示されており、これは、参照によって本明細書に明示的に組み込まれる。
【0170】
他のウイルスベクターが、宿主細胞への免疫調節分子のデリバリーのために、本発明において発現ベクターとして使用され得る。ワクシニアウイルス(Ridgeway、1988;Coupar et al.、1988)、レンチウイルス、ポリオウイルスおよびヘルペスウイルスなどのウイルス由来のベクターが使用され得る。これらは、種々の哺乳動物細胞にとって魅力的ないくつかの特徴を提供する(Friedmann、1989;Ridgeway、1988;Coupar et al.、1988;Horwich et al.、1990)。
【0171】
発現ベクターのデリバリー
免疫調節分子(例えば、CD8α鎖)および/またはさらなる治療タンパク質(例えば、自己抗原の少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチド)の発現をもたらすために、発現ベクターを細胞中にデリバーする必要がある。このデリバリーは、細胞株を形質転換するための実験室手順の場合同様in vitroで、または特定の疾患状態の治療の場合同様in vivoもしくはex vivoで、達成され得る。上記のように、デリバリーのための1つの好ましい機構は感染を介したものであり、このとき、核酸は組換えウイルス粒子中に封入されている。好ましい実施形態において、このデリバリーは、注射または静脈内投与などの、患者へのベクターの全身投与によって達成される。全身投与は、任意の細胞における免疫調節分子およびエピトープを含むポリペプチドの同時発現をもたらし得る。即ち、発現は特定の細胞型に標的化されない。
【0172】
一旦発現ベクターが宿主細胞中にデリバーされると、所望のオリゴヌクレオチド配列またはポリヌクレオチド配列をコードする核酸は、異なる部位で配置され、発現され得る。特定の実施形態において、構築体をコードする核酸は、細胞のゲノム中に安定に組み込まれ得る。この組み込みは、相同組換えを介して特定の位置および方向であり得るか(遺伝子置換)、あるいはランダムな非特異的位置に組み込まれ得る(遺伝子増大)。さらなる好ましい実施形態において、核酸は、DNAの分離したエピソーム性のセグメントとして、細胞中で安定に維持され得る。このような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主の細胞周期と独立または同期した、維持および複製を許容するのに十分な配列をコードする。発現構築体が細胞に如何にデリバーされ、核酸が細胞中の何処に留まるかは、使用される発現ベクターの型に依存する。
【0173】
本発明の特定の実施形態において、発現ベクターは単に、裸の組換えDNAまたはプラスミドからなり得る。ベクターの移入は、細胞膜を物理的または化学的に透過化する上記方法のいずれかによって、実施され得る。これは、in vitroでの移入に特に適用可能であるが、in vivoでの使用にも同様に適用され得る。Dubensky et al.(1984)は、成体および新生児のマウスの肝臓および脾臓中に、リン酸カルシウム沈殿物の形態でポリオーマウイルスDNAを首尾よく注射し、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。Benvenisty and Reshef(1986)はまた、リン酸カルシウム沈殿したプラスミドの直接的腹腔内注射が、トランスフェクトされた遺伝子の発現を生じることを実証した。目的の遺伝子をコードするDNAがまた、同様の様式でin vivoで移入され、遺伝子産物を発現することが想定される。
【0174】
裸のDNA発現構築体を細胞中に移入するための本発明の別の実施形態は、粒子ボンバードメントを含むことができる。この方法は、DNAでコーティングされた微粒子弾を高速まで加速して、それらが細胞膜を穿孔し、細胞を殺さずに細胞に入るようにできる能力に依存する(Klein et al.、1987)。小粒子を加速するためのいくつかのデバイスが開発されている。1つのこのようなデバイスは、電流を発生させるために高電位放電に依存し、この電流が次に原動力を提供する(Yang et al.、1990)。使用される微粒子弾は、生物学的に不活性な物質(例えば、タングステンまたは金のビーズ)から一般になる。
【0175】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋肉の組織を含む選択された器官が、in vivoでボンバードメントに付される(Yang et al.、1990;Zelenin et al.、1991)。これは、銃と標的器官との間の任意の介在組織を排除するために、組織または細胞の外科的露出を必要とし得る(即ち、ex vivo処置)。再度、特定の遺伝子をコードするDNAがこの方法を介してデリバーされ得、なおも本発明によって組み込まれ得る。
【0176】
本発明の一実施形態において、核酸分子は、リポソーム媒介性の核酸移入によって、標的細胞中に導入される。これに関して、多数のリポソームベースの試薬が当該分野で周知であり、市販されており、標的の細胞中に核酸分子を導入するために慣用的に使用され得る。本発明の特定の実施形態は、カチオン性脂質移入ビヒクル(例えば、LipofectamineまたはLipofectin(Life Technologies))、カチオン性コレステロール誘導体(DCコレステロール)と一緒のジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、N[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)(Sioud et al.、J.Mol.Biol.242:831−835(1991))、DOSPA:DOPE、DOTAP、DMRIE:コレステロール、DDAB:DOPEなどを使用するだろう。リポソーム封入核酸の産生は、当該分野で周知であり、約1:1の比で脂質および核酸を合わせることを典型的に含む。
【0177】
本発明の使用
上で詳述したように、本明細書に記載され可能となった方法および組成物は、自己抗原に対する細胞性および/または体液性自己免疫応答を阻害することにおいて一般的な有用性を見出す。本発明によれば、自己抗原を発現する細胞の生存は、CD8ポリペプチド、より好ましくはCD8α鎖、および自己抗原の少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチドを発現するように宿主細胞を条件付けることによって、慢性的な一般的免疫抑制剤を必要とせずに、延長させることができる。本明細書に記載されるようなCD8ポリペプチドおよび自己抗原エピトープの発現は、自己抗原に対する自己免疫応答の有効かつ特異的な阻害を生じる。
【0178】
理論に束縛されることなく、細胞上でのCD8の発現は、当該細胞に、宿主免疫系に対する「veto効果」を誘導する能力を付与すると考えられる。即ち、上記のように、CD8を発現する細胞が宿主T細胞と接触すると、このT細胞は下方制御または殺傷される。したがって、「veto」または「veto効果」とは、標的細胞が、当該標的細胞または当該標的細胞上に発現された抗原に対する免疫応答を下方制御する能力を意味する。CD8、特にCD8α鎖は、veto効果の誘導または移入に必要であると考えられる。「veto効果の移入」とは、veto効果が、通常はveto効果を誘導しない細胞に移入されることを意味する。即ち、標的細胞上の抗原に対する免疫応答を低減または下方制御する能力が、CD8の発現の誘導または増大によって、当該標的細胞に付与される。本明細書中に初めて報告したように、誘導された自己抗原の発現または提示と組み合わせた標的細胞上のCD8α鎖の存在は、自己反応性CD4+T細胞ならびにCD8+細胞の活性をveto化でき、したがって、免疫応答の細胞性成分および体液性成分の両方がそれによって阻害され得ることが、驚くべきことに今回発見された。
【0179】
したがって、本発明は、veto効果を誘導することによって標的細胞に対する免疫応答を低減することに用途を見出す。これは、標的細胞を他の方法で認識するT細胞の下方制御または除去を生じる。標的細胞が自己免疫抗原を発現する細胞である場合、veto効果を誘導することは、宿主自己免疫応答に対する保護となる。
【0180】
一般に、CD8の発現が自己免疫のシナリオにおいて使用される場合、自己抗原を発現する細胞の寿命は、対象核酸の非存在下で通常予測され得る時間量を超える顕著な量、より通常は少なくとも5日間、より好ましくは少なくとも約30日間、より好ましくは約3カ月間、最も好ましくは約6カ月間〜1年間にわたり、延長されよう。自己免疫抗原発現細胞の寿命が延長される実際の時間量は、手順の種々の条件によって、特に自己抗原を発現する細胞に依存して、変動しよう。また、CD8核酸を含むデリバリービヒクルでの治療は、標的細胞が免疫応答によって認識されるように、CD8発現が減衰する場合には反復され得る。
【0181】
in vivoデリバリーには、筋肉、器官への直接注射、カテーテルを介したもの、または他の灌流手段によるものが含まれるが、これらに限定されない。核酸は、血管内投与または全身投与され得る。当業者は、デリバリーの各様式の利点および欠点を認識するであろう。例えば、直接注射は、患者において最大の力価の核酸を産生し得るが、核酸の分布は、身体中で不均一となる可能性があろう。全身投与は、筋肉内注射同様、好ましい方法である。核酸は、単回投与または数回の投与で導入され得る。当業者は、過度の実験なしに、満足のいくデリバリー手段およびデリバリーレジメンを決定できるだろう。
【0182】
対象核酸は、広範な種々の宿主、特に霊長類、より具体的にはヒト、または他の家畜動物で使用され得る。
【0183】
本発明の方法および組成物の他の適用は、当業者に明らかとなろう。
【0184】
発現ベクターの製剤および投与
当業者は、発現ベクター(特にアデノウイルスベクター)を動物に投与する多数の適切な方法(例えば、Rosenfeld et al.、Science、252、431−434(1991);Jaffe et al.、Clin.Res.、39(2)、302A(1991);Rosenfeld et al.、Clin.Res.、39(2)、311A(1991);Berkner、BioTechniques、6、616−629(1988)を参照のこと)が利用可能であり、1つより多い経路が投与のために使用できるが、特定の経路が別の経路よりもより迅速かつより有効な反応を提供できることを理解するであろう。発現ベクターの投与における使用のための医薬的に許容される賦形剤および/または免疫応答を阻害する手段もまた、当業者に周知であり、容易に利用可能である。賦形剤の選択は、発現ベクターを投与するために使用する特定の方法によって、そして免疫応答を阻害する手段によって、一部決定されよう。したがって、本発明は、免疫調節分子(例えば、CD8α鎖)をコードする発現ベクターを、単独でまたは導入遺伝子とさらに組み合わせて、適切な担体中に含む組成物を提供し、本発明の文脈における使用のために適切な広範な種々の製剤が存在する。特に、本発明は、CD8ポリペプチドおよび少なくとも1つの自己抗原またはその機能的フラグメントをコードする遺伝子を含む発現ベクター、ならびにそのための担体を含む組成物を提供する。代替的実施形態において、この発現ベクターは、目的のさらなる治療用分子またはタンパク質(例えば、抗炎症分子)をさらにコードする。このような組成物は、他の活性剤(例えば、当該分野で公知のような治療もしくは予防剤および/または免疫抑制剤)をさらに含むことができる。以下の方法および賦形剤は単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0185】
経口投与に適切な製剤は、以下からなり得る:(a)例えば、有効量の化合物が希釈剤(例えば、水、生理食塩水またはオレンジジュース)中に溶解した、液状溶液;(b)各々が所定量の活性成分を、固体または顆粒として含む、カプセル剤、サシェ剤または錠剤;(c)適切な液体中の懸濁物;および(d)適切なエマルジョン。錠剤形態は、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、ポテトスターチ、微結晶セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸および他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香料、ならびに薬理学的に適合性の賦形剤のうち1種または複数を含むことができる。ロゼンジ形態は、香味剤(通常、スクロースおよびアカシアまたはトラガカント)中に活性成分を含むことができ、そしてトローチは、不活性基材(例えば、ゼラチンおよびグリセリン)中に活性成分を含み、エマルジョン、ゲルなどは、活性成分に加えて、当該分野で公知のそのような賦形剤を含む。
【0186】
エアロゾル製剤は、吸入を介した投与のために製造され得る。これらのエアロゾル製剤は、加圧された許容可能な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など)中に配置され得る。これらはまた、加圧されていない製剤のための医薬として、例えばネビュライザーまたはアトマイザー中に製剤され得る。
【0187】
非経口投与に適切な製剤には、水性および非水性の等張滅菌注射溶液(抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤およびこの製剤を意図したレシピエントの血液と等張にする溶質を含むことができる)、ならびに水性および非水性の滅菌懸濁物(懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含むことができる)が含まれる。これらの製剤は、単位用量または複数用量の密封された容器(例えば、アンプルおよびバイアル)中に与えられ得、フリーズドライ(凍結乾燥)条件下で保存され得、使用直前に注射用の滅菌液体賦形剤(例えば水)の添加のみを必要とする。即席の注射溶液および懸濁物は、以前に記載された種類の滅菌の粉末、顆粒および錠剤から調製できる。さらに、坐剤は、種々の基材(例えば、乳化基材または水溶性基材)の使用によって製造できる。膣内投与に適切な製剤は、活性成分に加えて、適切であることが当該分野で公知のそのような担体を含む、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤として与えられ得る。
【0188】
本発明の文脈において、動物、特にヒトに投与される用量は、目的の治療用導入遺伝子、ベクターの供給源および/または免疫調節分子の性質、使用される組成物、投与方法、ならびに治療される特定の部位および生体によって異なるであろう。しかし、好ましくは、有効量のベクター(例えば、本発明に従うアデノウイルスベクター)に対応する用量が使用される。「有効量」とは、当業者に公知ないくつかのエンドポイントを使用してモニタリングできる、宿主における所望の効果を生じるのに十分な量である。例えば、1つの所望の効果は、宿主細胞への核酸移入である。このような移入は、治療効果(例えば、治療される疾患、状態、障害または症候群に関連するある症状の軽減)が含まれるがこれらに限定されない種々の手段によって、あるいは移入された遺伝子もしくはコード配列または宿主内でのその発現の証拠によって、モニタリングできる(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、ノーザンもしくはサザンハイブリダイゼーション、または宿主細胞において核酸を検出するための転写アッセイを使用する、あるいは、イムノブロット分析、抗体媒介性の検出、または移入された核酸によってコードされるタンパク質もしくはポリペプチドまたはこのような移入に起因するレベルもしくは機能における影響を検出するための特殊アッセイを使用する)。記載されたこれらの方法は、決して包括的なものではなく、特定の適用に適したさらなる方法が、当業者に明らかであろう。これに関して、ベクター(例えばウイルスベクター、特にアデノウイルスベクター)、ならびに免疫応答を阻害する手段をコードするベクターの導入に対する宿主の応答は、投与されるウイルスの用量、デリバリーの部位、およびベクターならびに導入遺伝子および免疫応答を阻害する手段の遺伝学的製造に依存して変動し得ることに、留意すべきである。
【0189】
一般に、本発明のベクターの有効な移入を確実にするために、所定の投与経路について接触させるべき細胞の概数に基づいて、接触させるべき細胞1個当たり、約1〜約5,000コピーの本発明に従うベクターを使用することが好ましく、約3〜約300pfuが各細胞に侵入することがさらにより好ましい。しかし、これは一般的な指針に過ぎず、in vitroまたはin vivoのいずれかの特定の適用において保証され得るような、より高いまたはより低い量の使用を排除するものでは決してない。同様に、免疫応答を阻害する手段の量は、タンパク質を含む組成物の形態である場合、導入遺伝子を含む組換えベクターに対する免疫応答を阻害するのに十分であるべきである。例えば、実際の用量およびスケジュールは、組成物が他の医薬組成物と併用して投与されるか否かに依存するか、または薬物動態、薬物体内動態および代謝における個体間の差異に依存して、変動し得る。同様に、量は、標的化される特定の細胞型またはベクターが移入される手段に依存して、in vitro適用において変動し得る。当業者は、特定の状況の要件に従って、任意の必要な調節を容易に行うことができる。
【0190】
本発明は、好ましい実施形態を参照して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において変化がなされ得ることを認識するであろう。本明細書中で特定した特許、刊行物および他の参考文献の各々は、その全体が参照により本明細書中に明示的に組み込まれる。
【実施例1】
【0191】
vetoベクターを用いた研究
a.veto細胞として線維芽細胞を操作するための、プラスミド発現ベクターの使用
線維芽細胞を、ヒトまたはマウスのいずれかのCD8α鎖をそれらの表面上で発現するように操作した。線維芽細胞を、pCMVhCD8αプラスミドまたはpCMVmCD8αプラスミドでトランスフェクトした。これらのプラスミドにおいて、CD8α鎖の発現が、CMV最初期プロモーター/エンハンサー(Invitrogen)によって駆動される。CD8α鎖をトランスフェクトした線維芽細胞(H−2b)を混合リンパ球培養物(Balb/c;H−2d抗−C57BL/6;H−2b)中に添加したところ、CD8α鎖発現系統のみが、CTL応答を抑制した。図2AおよびB中に示されるように、マウスまたはヒトのCD8α鎖のいずれかを発現するMC57T線維芽細胞の添加は、CTLの誘導を完全に抑制した。対照的に、トランスフェクトしていない線維芽細胞の添加は、Tリンパ球活性化に影響を与えなかった。CD8α鎖の阻害機能を確立することに加えて、これらの実験はまた、マウスTリンパ球が、ヒトCD8α鎖でveto化され得ることを実証した。したがって、マウスモデルは、臨床使用のために設計されたvetoを試験することにおいて有用であろう。
【0192】
操作されたveto細胞のin vivo機能
動物において操作されたvetoが機能するか否かを試験した。CD8α鎖を発現するようにトランスフェクトされたC57BL/6(H−2b)由来線維芽細胞を、Balb/c(H−2d)マウスに注射した。対照動物に、トランスフェクトしていない線維芽細胞を注射した。8〜40日後に脾臓細胞を収集し、刺激因子細胞としてのC57BL/6(H−2b)脾臓細胞と共にMLC培養物中に導入した。5日後、培養物を収集し、それらがEL4(C57BL/6、H−2b)標的細胞を溶解する能力について試験した。抗H−2bCTL応答の誘導は、CD8α鎖発現線維芽細胞を注射した動物において完全に抑制された(図3)。抗H−2b T細胞の阻害は高度に特異的であった。これらのマウス由来のT細胞は、第3者のH−2kアロMHC分子に対する応答をなおも開始した。これらの実験により、操作されたveto細胞が、従来のveto細胞と同様にin vivoで免疫応答を特異的に抑制し、非典型的なveto細胞がveto細胞になるように操作され得ることが確認された。換言すれば、操作された細胞は、これらの細胞上に保持される抗原に対して動物を陰性免疫した。
【0193】
CD8α鎖の発現が、完全に活性化したT細胞の機能を妨害するか否かを試験した。この目的のために、CD8α鎖を発現する標的細胞を、完全に活性化したCTLによる溶解に対するそれらの感受性について試験した。2つの異なるT細胞集団(MLCにおいて刺激されたアロ反応性CTLおよび活性化したペプチド特異的CTL)をこれらの研究のために選択した。図4A〜B中に示されるように、CD8α鎖を発現する標的は、アロ反応性T細胞の集団によって効果的に溶解されたが、抗原特異的T細胞によっては溶解されなかった。これらの結果は、操作されたvetoが、継続中の抗原特異的免疫応答(例えば、自己免疫応答において見出されるもの)さえも妨害できることを示唆した。
【0194】
b.veto細胞として線維芽細胞を操作するためのウイルス移入ベクター
アデノウイルス移入ベクターm−CD8のveto機能:マウスCD8α鎖を保有する、複製欠損ベクターであるアデノウイルス移入ベクター(mAdCD8α)を開発した。mAdCDB veto移入ベクターを感染させたマウス線維芽細胞(MC57)は、2日目に高レベルのマウスCD8α鎖を発現した。これらの速く増殖する細胞において、マウスCD8α鎖の発現は、5日目までに顕著に減少する。mAdCD8は、より低い効率を有するにもかかわらず、他のマウス細胞株(例えばEL4)にも感染した(データ示さず)。
【0195】
引き続く実験において、mAdCD8α感染MC57線維芽細胞(H−2b)を、Balb/C(H−2d)抗C57B1/6(H−2b)MLCに添加した。5日後、培養物を収集し、抗H−2b CTLの存在について試験した。感染した線維芽細胞を添加したMLCは、抗H−2b CTLをもはや含まなかった(図11)。これらの実験により、veto移入ベクターが免疫抑制を媒介する能力が確立された。
【0196】
さらに、アデノウイルスベクターのヒトCD8バージョンを作製した。また、マウスCD8α鎖を発現するアデノ随伴ウイルスも作製した。これらのウイルスは、それぞれのCD8鎖の発現を誘導することが実証されている。マウスまたはヒトのいずれかのCD8α鎖を発現するアデノウイルスベクターは、キラーT細胞の誘導の完全な阻害を媒介した(図6を参照のこと)。
【0197】
mAdCD8 veto移入ベクターによる陰性免疫:2つの異なる実験を、mAdCD8がin vivoで免疫応答を抑制するか否かを決定するために設定した。第1の実験において、C57Bl/6マウスに、等用量の、mAdCD8 veto移入ベクターまたはマウスCD8α鎖の代わりにβ−ガラクトシダーゼをコードする類似のアデノウイルス対照ベクター(Adβgal)のいずれかを感染させた。免疫の7日後、これらの動物を屠殺した。それらの脾臓細胞の単細胞懸濁物を、Adβgalウイルスの存在下で5日間培養した。次いで、培養物を収集し、それらの増殖能力を評価した。図6中に示すように、Adβgalで免疫したマウスから収集したT細胞は、Adβgalに対して活発に増殖し、高度に増殖性のCD4+T細胞の存在を示した。対照的に、mAdCD8注射動物から収集したT細胞は増殖できなかった。
【0198】
第2段階において、本発明者らは、これらの培養物を、Adβgal感染した標的細胞(EL4、H−2b)を溶解するそれらの能力について試験して、これらの培養物が機能的CD8+CTLを含むか否かを試験した。CTLは、Adβgalを感染させたマウスから樹立した培養物中でのみ明らかにできた(図8)。この第1の実験は、AdCD8αが、CD8α鎖の発現におそらく起因して、アデノウイルス抗原に対する応答を誘導しなかったことを示唆した。しかし、AdCD8が異なる理由のために免疫応答を誘導できなかった可能性があった。AdCD8は、ある未定義の方法で非機能的であったか、あるいはマウスは、mAdCD8中に見出されないβ−ガラクトシダーゼタンパク質と反応しただけである可能性があった。
【0199】
異なる結論の妥当性を試験するために、C57Bl/6マウスに、mAdCD8またはAdβgalのいずれかを1回注射し、その7日後に、Adβgalでの2回目の注入を行った。7日後、マウスを屠殺し、Adβgalの存在下で5日目の脾臓細胞培養物を樹立した。応答性のT細胞を、Adβgal感染した標的細胞に対するそれらの溶解能力について試験した(図7A〜B)。実際、Adβgalに対する2回の曝露は、免疫の改善を導いた。これらの研究はまた、AdCD8感染の後に、マウスがもはやAdβgalに対して応答しないこと、およびAdβgalが主に、排他的ではないにしろ、両方のベクターに共通するアデノウイルスタンパク質に対するCTL応答を誘導することを示した。この実験セットは、ベクター上に保有される遺伝子に対する応答に対して負に免疫することができる遺伝子治療ウイルスベクターを作製することが可能であろうことを、強力に示唆する。
【0200】
vetoによるCD4+Tリンパ球の阻害:veto移入ベクターがCD4+Tリンパ球の誘導を阻害するために使用できるか否かを試験するために、以下の実験系を確立した。C57Bl/6由来線維芽細胞刺激因子を、同種MHCクラスI分子(H−2Ek)および免疫刺激CD80を発現するように形質転換した。それらの完全な刺激能を保存するために照射していない、これらのゆっくり増殖する線維芽細胞を、mAdCD8またはAdβgal移入ベクターのいずれかで形質導入し、選択していないC57B1/6脾臓細胞に添加した。4日後、これらの培養物を収集し、活性化した、即ち爆発的な(blasting)CD4+Tリンパ球の存在について、表面免疫蛍光によって分析した(図8)。正常またはAdβgalで形質導入した刺激因子細胞と共に培養した、選択していないC57B1/6脾臓細胞は、多数のCD4+Tリンパ芽球を有することが見出された。対照的に、mAdCD8感染した刺激因子を添加した培養物では、ごく少数のCD4+Tリンパ芽球が検出された。これらの研究により、vetoがCD4+Tリンパ球を阻害し、さらに、ウイルスveto移入ベクターがこの目的のために使用できることが確認された。
【0201】
種々のウイルス構築体での感染後のマウスおよびヒトのCD8α鎖の表面発現
染色プロトコール:
mAdCD8:
MC57Tを、モック感染させたか、または改変IMDM中で3日間、約104の感染多重度でmAdCD8に感染させた。感染細胞を収集し、FITCで直接標識した抗マウスCD8α鎖抗体(Pharmingen)を用いて、CD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を、蛍光標識細胞分析器(FACScan、Beckton−Dickinson)で測定した(図9B)。
【0202】
骨髄細胞を、Balb/cマウスの大腿骨の窩洞から収集した。これらの細胞に、β−ガラクトシダーゼを発現するアデノウイルス対照ベクター(AdLacZ)またはmAdCD8を、改変IMDM中で3日間の培養につき、104の感染多重度で感染させた。感染細胞を収集し、FITCで直接標識した抗マウスCD8α鎖抗体を用いて、CD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を測定した(図9C)。さらに、CD34+骨髄細胞、即ち、幹細胞プール内の細胞を含むいくつかの細胞型が、有効に形質導入されたことを決定した(表5)。
【0203】
【表5】
【0204】
hAdCD8:
MC57Tをモック感染させた。hAdCD8のウイルス力価は未知である。100μlのストック溶液を使用して、3日間、3×105個の細胞を感染させた。感染細胞を収集し、FITCで直接標識した抗ヒトCD8α鎖抗体(Pharmingen)を用いて、CD8α鎖の表面発現について染色した。表面蛍光の程度を、蛍光標識細胞分析器で測定した(図9A)。
【0205】
AAVベースのベクター:AAVベースのベクターを、Strategene/Avigen系を使用して平行して作製した。これらの構築体において、ヒトおよびマウスのCD8α鎖は、同じMCV最初期プロモーター/エンハンサーから操作した。2つのウイルスmAAVCD8およびhAAVCD8を、HEK293パッケージング細胞株中にパッケージングした。使用した系は、ヘルパーウイルスを含まない。mAAVCD8およびhAAVCD8は、マウス線維芽細胞(MC57T)に効率的に感染し、それぞれ、マウスまたはヒトのCD8α鎖の高レベルの発現を駆動した。蛍光の程度を、蛍光標識細胞分析器で測定した(図9D)。高レベルのCD8α鎖発現が、形質導入後36時間以内に見られたことに注目するのは興味深い。この知見は、他者による観察と対照的であった。彼らは、AAVにより駆動される遺伝子発現は、顕著なレベルに達するのに数日間かかったことを見出していた(PH Schmelck、PrimeBiotech)。AAVベクターを用いたさらなる研究は、これらが免疫応答を抑制するために使用できるという本発明者らの以前の知見を再確認した。ここでは、標準的MLCプロトコールを使用した(図5A〜B)。
【実施例2】
【0206】
in vitro阻害研究−混合リンパ球培養物
Balb/c(H−2d)マウスおよびC57BL/6(H−2b)マウスから脾臓細胞を収集した。単細胞懸濁物を調製した。C57BL/6脾臓細胞を、3,000radで照射した(Mark 1 Cesium Irradiator)。4×106個のBalb/c脾臓細胞(レスポンダー/エフェクター細胞)を、1ウェル当たり4×106の照射したC57BL/6脾臓細胞(刺激因子細胞)と共に、24ウェルプレート(TPP、Midwest Scientific,Inc.)中で、10%ウシ胎仔血清(FCS)(Sigma)、HEPES、ペニシリンG、硫酸ストレプトマイシン、硫酸ゲンタマイシン、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸(Sigma)、ピルビン酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むIMDM(Sigma)(改変IMDM)中で培養した。CO2インキュベータ(Forma Scientific)中で5日間培養した後、培養物をすべて収集し、C57BL/6由来標的細胞(H−2b)を溶解する能力について試験した。これらの培養物のいくつかに、4×105個の、12,000radで照射したMC57T線維芽細胞(H−2d)を添加した。阻害培養物中に、4×105個の、約104〜1の感染多重度でmAdCD8で2日間感染させたMC57T細胞を含めた。
【0207】
細胞傷害性Tリンパ球キラーアッセイ:混合リンパ球培養物から収集した細胞を、活性化Tリンパ球の指標として、芽細胞の数について計数した。これらのエフェクター細胞を、U底96ウェルプレートの単一のウェルに添加した。1ウェル当たりのエフェクターの数を、1ウェル当たり3×106個または1×105個のエフェクターから開始して、3倍力価決定ステップで力価決定した。これらのエフェクター細胞に、1ウェル当たり1×104個の標的細胞EL4(H−2b)、MC57T(H−2b)またはP815(H−2d)を添加した。この標的細胞は、予め51Cr(Na−Chromate、Perkin−Elmer)で標識しておいた。1×106個の標的細胞を、約500μlの容量の改変IMDM中で90分間、100μCiでインキュベートしておいた。その後、取り込まれていない51Crを、改変IMDMでの複数回の洗浄によって除去した。
【0208】
エフェクター細胞および標的細胞を、200μlの総容量で4時間、CO2インキュベータ中でインキュベートした。その後、プレートを、遠心機(Centra CJ35R、International Equipment Company)で1,500rpmで3分間遠心分離した。100mlの培地を各ウェルから取り出し、標的細胞から放出された51Crの量を、Model 4000 Gamma counter(Beckman Instruments)で計数した。バックグラウンド放出を決定するために、エフェクター細胞が除かれた対照培養物をセットした。標的細胞への総51Cr取り込みをウェル中で決定し、このとき、Triton X100(Sigma)の1%溶液(w/v)を、エフェクター細胞の代わりとした。
【0209】
特異的溶解の量は、以下のように決定した:
%で=(特異的放出−バックグラウンド放出)/(総放出−バックグラウンド放出)×100
【0210】
in vitroでのmAdCD8の活性:混合リンパ球培養物(Balb/c抗C57BL/6)を設置した。これらの培養物に、12,000radで照射し、mAdCD8を感染させておいたMC57T線維芽細胞を(示したとおりに)添加した。5日間の培養後、培養物を収集し、異なるエフェクター対標的(E/T)比で、EL4(H−2b)標的細胞を溶解するそれらの能力について試験した(図3を参照のこと)。理解できるように、混合リンパ球培養物中でさえ、CD8を発現する細胞は、溶解性Tリンパ球の誘導を阻害した。
【0211】
mAdCD8およびhAdCD8の作製:両方のアデノウイルスベクターを、BiogeneのAdEasy(商標)システムの助けにより作製した。ここでは、マウスおよびヒトのCD8α鎖のcDNAが、移入ベクター中に組み込まれる(ステップ1)。Ad5ΔE1/ΔE3ベクターとの組換えを、BJ5183 EC細菌中で達成する(ステップ2)。次いで、組換えベクターを、E1AおよびE1Bのアデノウイルス5ウイルス遺伝子(これらは、組換えアデノウイルス中のこの必須領域の欠失を補完する)を含むQBI−HEK 293A細胞中に移入させる。これらの細胞中で作製されたhAdCD8およびmAdCD8は、したがって、複製欠損である。
【0212】
細菌LacZ遺伝子(β−ガラクトシダーゼ)を発現する対照ベクターとして、Qbiogeneは、QBI−Infect+Viral Particle(Ad5.CMVLacZΔE1/ΔE3)を提供した。使用したマウスCD8α鎖の配列。この配列は、公開されたマウス配列に類似する:
実際の配列:MASPLTRFLS LNLLLMGESI ILGSGEAKPQAPELRIFPKK MDAELGQKVD LVCEVLGSVS QGCSWLFQNS SSKLPQPTFVVYMASSHNKI TWDEKLNSSK LFSAVRDTNN KYVLTLNKFS KENEGYYFCSVISNSVMYFS SVVPVLQKVN STTTKPVLRT PSPVHPTGTS QPQRPEDCRPRGSVKGTGLD FACDIYIWAP LAGICVAPLL SLIITLICYH RSRKRVCKCPRPLVRQEGKP RPSEKIV
【0213】
使用したヒトCD8α鎖の配列。示されるように、この配列は、公開されたヒト配列と比較して、わずかな変異を有している。
実際の配列:MALPVTALLL PLALLLHAAR PSQFRVSPLDRTWNLGWTVE LKCQVLLSNP TSGCSWLFQP RGAAASPTFL LYLSQNKPKAAEGLDTQRFS GKRLGDTFVL TLSDFRRENE GYYFCSALSN SIMYFSHFVPVFLPAKPTTT PAPRPPTPAP TIASQPLSLR PEACRPAAGG AGNRRRVCKCPRPVVKSGDK PSLARYV
【0214】
pAAV−mCD8およびpAAV−hCD8の作製:これらのベクターを、StratageneのAAV Helper−Free Systemの助けにより作製した。この系は、マウスおよびヒトの配列を、pAAV−MCSクローニングベクター中に挿入することによって働く。次いで、このプラスミドを、ヘルパープラスミド(必要なアデノウイルスタンパク質を含む)およびpAAV−RCベクター(カプシド遺伝子を含む)と共にHEK293細胞中に同時トランスフェクトし、組換えAAV粒子を作製する。
【実施例3】
【0215】
動物モデルにおける操作されたveto
本発明者らは、動物が大量のmAdCD8の注射に如何に応答するかを調べた。実験の第1の設定において、Balb/cマウス(各群2匹のマウス)に、mAdCD8またはβ−ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルス対照ベクター(AdLacZ)の等用量を静脈内注射した。7日後、動物を屠殺した。それらの脾臓細胞を、5日間AdLacZの存在下で培養した。次いで、これらを、AdLacZ感染した標的細胞(P815、Balb/c由来)を溶解するそれらの能力について試験した。図13A中に示されるように、特異的溶解能を有するCTLは、AdLacZで免疫したBalb/cマウスから増殖させることができたが、mAdCD8を受けたマウスからは増殖させることができなかった。この結果は、AdCD8が、CD8α鎖の発現に起因して、アデノウイルス抗原に対する免疫応答を誘導しないことを示唆した。
【0216】
第2の設定において、C57Bl/6マウスを、等用量のmAdCD8(2匹のマウス)またはAdLacZ(2匹のマウス)で免疫した。免疫の7日後、各群の1匹の動物を屠殺した。それらの脾臓細胞を、AdLacZの存在下で5日間、細胞懸濁物中で培養した。次いで、これらを、AdLacZ感染した標的細胞(EL−4、C57Bl/6由来)を特異的に溶解するそれらの能力について試験した。再度、AdLacZの注射は、低い頻度ではあったが特異的キラー細胞の発達を誘導したが、一方でmAdCD8は誘導できなかった(図13A)。
【0217】
この実験の第2期において、mAdCD8またはAdLacZのいずれかを受けた残りのC57BL/6マウスに、最初のウイルス注射の7日後に、第2の用量のAdLacZを受けさせた。7日後、マウスを屠殺し、5日目の脾臓細胞培養物をAdLacZの存在下で樹立した。応答性のT細胞を、再度、AdLacZ感染したEL4標的細胞に対するそれらの溶解能について試験した(図13B)。実際、AdLacZに対する2回の曝露により、幾分か改善された免疫が導かれた。しかし、予めmAdCD8を受けさせた動物は、応答を開始することがなおできなかった。これらの実験は、AdCD8が免疫応答を誘導できないだけでなく、それ自体に対する免疫応答の誘導をも防止したことを示唆する。したがって、mAdCD8は、免疫系を逃れた。
【実施例4】
【0218】
ベクターの作製
アデノウイルスベクターの作製:全長マウスCD8α鎖のcDNAを、C型肝炎ウイルスから採取した短いIRESによって、オボアルブミンcDNAに連結する。PCRによって生成されるこのバイシストロニック構築体を、アデノウイルス移入プラスミド中に移動させ、このプラスミド中、非特異的CMV最初期プロモーター/エンハンサーの後ろに配置する。ポリアデニル化もまた、このベクター中に提供する。このプラスミドを、DE1−DE2アデノウイルス5ゲノムを含むプラスミド(pAdEasy−1)と一緒に細菌相同組換えし、アデノウイルスゲノムの本来のE1領域中に発現カセットが挿入された新たなプラスミドを得る。この得られたベクタープラスミドを、次いでQBI−293A細胞中に移入し、CD8α鎖およびオボアルブミンをCMVプロモーターの制御下で発現する組換えアデノウイルスベクターAd/CMV/CD8/Ovaを得る。オボアルブミンのみを発現する対照ベクターを、同じ系を使用して得る。CMVプロモーター領域を、天然にMHCクラスIIを発現するすべての細胞に遺伝子発現をもたらすことが見出されたマウスMHCクラスIIプロモーターと交換した、第2のセットのアデノウイルスベクターを得る(Ceman、J Immunol.1992 Aug 1;149(3):754−61;Martin、J Immunogenet.1990 Feb−Apr;17(1−2):151−9)。アデノウイルスベクター粒子を、標準的手段によってQBI−293A細胞中で生成し、勾配精製によって精製する。各調製物中の感染性粒子の数を、標準的なプラークアッセイで決定する。
【0219】
AAVベースのベクターの生成:上記のバイシストロニック発現カセットを、ヘルパーウイルスを含まないStrategeneのAAVベクター系を使用して、2型AAVカプシド中にパッケージングする。このベクター系において、目的の遺伝子、本発明の場合にはバイシストロニック構築体を、マルチクローニングサイトを介して、pCMV−MCSクローニングベクター中に移動させる。クローニング後、発現カセットをpAAV−LacZ複製欠損AAVベクター中に移動させる。結果として、LacZ遺伝子が除去される。この組換えベクターを、ウイルスパッケージング細胞系293中に、組換え複製欠損AAVビリオンの産生のために、cap遺伝子およびrep遺伝子を保有するpAAV−RCベクターならびにAAVの溶菌期を誘導するのに必要なアデノウイルス遺伝子(E2A、E4およびVA RNA)を保有するpHelperベクターと一緒に、同時トランスフェクトする。再度、ビリオンを標準的な精製プロトコールを使用して精製する。さらに、オボアルブミンのみのベクターを生成する。
【0220】
ガットレスアデノウイルスのヘルパーウイルスを含まない生成:ガットレスアデノウイルスをパッケージングするために、必要なアデノウイルス遺伝子を、トランスで提供する必要がある。ほとんどの公開されたプロトコールは、最終治療調製物から除去すべきヘルパーアデノウイルスを使用する。Cre−Lox組換え系が、さらなるヘルパーウイルスのパッケージングを制限するために使用されてきた(Hardy、1996;Sakhuja、2003)。感染性アデノウイルスヘルパーウイルスの代替として、アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノム構築体によってヘルパーゲノムがデリバーされる系が記載されている(Cheshenko、2001)。このハイブリッドゲノム構築体は、アデノウイルスヘルパーウイルスの使用を回避した。しかし、これは、ハイブリッドゲノム中のΔE1フラグメントと293Aパッケージング細胞中のE1との間の相同組換えを介して、複製能のあるアデノウイルスの組換えを可能にした。使用したヘルパーゲノムは、E1遺伝子内に比較的短い欠失を有した。
【0221】
組換え体を防止するための戦略は、パッケージング細胞のゲノム中に存在するE1配列とヘルパーゲノム中に存在するE1配列との間の配列重複を排除することである(Nichols、2002)。これを達成するための潜在的なハードルは、E1B遺伝子およびpIX遺伝子を調節する方法である。これらの遺伝子は、同じポリアデニル化部位を使用する。さらに、pIX遺伝子は、その発現を可能とするために、ヘルパーゲノム中に保有される必要がある。したがって、E1AおよびE1Bが欠失し、pIX発現カセットが欠失していない、新たなアデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムを構築する。パッケージング細胞は、E1AおよびE1Bを発現するが、pIXを欠くであろう。E1領域を、460位と3509位との間で欠失させる。これは、E1bの短縮を導くが、pIXをインタクトなままにする。それ以外は、アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムは、以前に記載されたように構築する(Cheshenko、2001)。これは、パッケージングシグナルならびにE1およびE3を欠失したアデノウイルス5型の機能的ゲノムを保有するように設計される。これは、アデノウイルス複製基点として作用する融合型ITRをも含む。アデノウイルスゲノムをloxP部位に隣接させ、Creリコンビナーゼの助けを借りたその切り出しを可能にする。VSV糖タンパク質を用いたバキュロウイルスのシュードタイピングが、哺乳動物細胞のより効率的な形質導入を提供したことが示されている(Cheshenko、2001)。水疱性口内炎ウイルス(VSV)糖タンパク質エンベロープタンパク質は、この構築体のバキュロウイルスゲノム中に配置される。バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターによって駆動することにより、これは、昆虫細胞における選択的発現を提供しよう。アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムを、組換えバキュロウイルスとして昆虫細胞中でレスキューする。Cre発現パッケージング細胞(以下を参照)の感染の際に、環状アデノウイルスゲノムが、ハイブリッドゲノムから切り出される。2つの環状分子が生成され、1つはアデノウイルスゲノム(ΔE1、ΔE3)を含み、他方はバキュロウイルスゲノムを含む。アデノウイルスゲノムは、インサートDNA構築体、即ち発現カセット(設計については以下を参照のこと)の伝播に必要なすべてのヘルパー機能を提供するであろう。Cre−Lox組換えを介してハイブリッドから放出されたアデノウイルスゲノムは、アデノウイルスパッケージングシグナルを欠くので、CD8α鎖発現カセットのみがパッケージングされて、ヘルパーを含まないベクター調製物を生じる。
【0222】
新たなパッケージング細胞系の樹立:ヒト胚性網膜芽細胞(HER)を使用する。これらは、アデノウイルスE1遺伝子(Graham、1977)によって不死化でき、アデノウイルスの産生に非常に有効である(Gallimore、1986)。ガットレスアデノウイルスの産生において使用するために、HER細胞を、以下の様式で改変する必要があろう:(i)これらはCreを発現するので、環状アデノウイルスゲノムがハイブリッド分子から切り出される。したがって、これらに、SV40 T抗原核局在化シグナル(Lieber、1996)で改変されたCre遺伝子をトランスフェクトする。Creは、アクチンプロモーターから駆動される。最初期CMVプロモーターは、ウイルス発現カセットとの配列重複を回避するため、使用しない。(ii)HER細胞は、アデノウイルス/バキュロウイルスハイブリッドゲノムから欠失している相補的E1遺伝子を提供する必要がある。E1プロモーターおよびE1ポリアデニル化配列は、非ウイルス性供給源(例えば、ヒトハウスキーピング遺伝子ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターおよびヘルペスウイルスポリアデニル化部位(Valerio、1985;Simonsen、1983))から得る。(iii)HER細胞を、CreおよびE1発現カセットで同時トランスフェクトする。Her細胞の不死化を、E1の組み込みの証拠として解釈する。継続的に増殖するHER(CE−HER)細胞のクローンを、次いで、全長CreおよびE1構築体の存在および発現について、PCRによってさらに分析する。
【0223】
CD8α鎖/インスリン発現カセットおよび非ウイルス性dmVTVの設計:以下の発現カセットを構築する。全長マウスCD8α鎖のcDNAを、C型肝炎ウイルスから採取した短いIRESによって、(プレプロ)インスリンまたは(プロ)インスリンのcDNAに連結させる。mAdCD8において使用した最初期CMVプロモーター/エンハンサーを使用して、両方の遺伝子の協調的な発現を駆動する。このバイシストロニック構築体を、左側のアデノウイルスITRの2つの逆方向コピーとパッケージングシグナルとの間のスタッファーDNA配列中に配置する。発現カセットを構築プラスミドから切り出せるように、制限部位を配置する。2つの遺伝子のうち一方のみを発現する対照ベクターを生成する。アデノウイルスITRおよびパッケージング細胞を欠く発現カセットが、非ウイルス性dmVTVの基礎をなす。抗生物質選択配列および他の非必須DNAセグメントを使用前に切り出すことが可能な、非ウイルス性dmVTVを設計する。非ウイルス性DNA構築体もまた使用して、2つの異なる遺伝子の発現を試験する。この目的のために、異なる細胞系をこの発現カセットでトランスフェクトする。DNA組み込みおよび特異的mRNAのレベルを、PCRによって試験する。CD8α鎖の表面発現のレベルは、表面免疫蛍光によって決定し、上清中に放出されたインスリンのレベルは、以前に確立された特異的ELISAにより研究する。
【0224】
ウイルス性および非ウイルス性dmVTVの生成:ガットレスアデノウイルスdmVTVの場合、CD−HER細胞を、酵素的に切り出したCD8/インスリン/ITR構築体でトランスフェクトし、次いで、アデノウイルス/バキュロウイルスヘルパーゲノムで形質導入する。形質導入したCE−HER細胞由来の粗製溶解物を収集し、293細胞または組織培養線維芽細胞を形質導入するために使用する。CD8発現細胞の頻度を使用して、dmVTVの「機能的」力価を決定する。293プラークの数を決定することにより、組換え複製欠損ウイルスについての試験が提供される。アデノウイルスdmVTVを、アデノウイルス/バキュロウイルスヘルパーゲノムを使用して、CE−HER細胞においてさらに継代して増殖させる。dmVTV力価および組換えウイルスの存在を決定することに加えて、dmVTVの完全性を、dmVTVの制限酵素マッピング、PCR研究およびDNA配列決定の助けにより研究する。バイシストロニック発現カセットからなる非ウイルス性dmVTVを使用して、異なる細胞系(例えば線維芽細胞)をトランスフェクトする。選択マーカーを、別個のプラスミドによって提供する。CD8α鎖およびインスリンの発現を研究する。
【実施例5】
【0225】
ベクターの機能的試験
異なるベクターの形質導入効率:表現型が異なる樹立された標準的な組織培養細胞株(例えば、線維芽細胞、リンパ腫、マクロファージなど)、新たに収集した分化した細胞(例えば、マクロファージおよびDC)を試験する。C57Bl/6由来のBM細胞を収集し、マウスGM−CSF(トランスフェクトされたJ558L細胞から収集した、U.D.Staerzにより提供される)の存在下で培養する。細胞培養物を繰り返し洗浄して、非接着細胞を除去する。約4日後、接着性DCは、未成熟の表現型を主に発現する。DCを遊離させ、再プレートし、再培養する。得られた細胞を表現型について分析する(Kamath、2000;Bell、1999;Liu、2002;Mellman、2001;Mellman、1998)。これらを、LPS(10ng/ml、Sigma−Aldrich)の添加によって活性化する。マクロファージを、以前にプロテオースペプトン(U.D.Staerzによって提供される調製物)を腹腔内注射していないC57Bl/6マウスまたは注射したC57Bl/6マウスのいずれかの腹腔から収集する。これらを、プラスチックへ接着するそれらの能力によって富化し、染色する(Leenen、1994)。あるいは、マクロファージを、M−CSFの存在下でBMを除いて増殖させる。マクロファージを、INF−γおよびLPSの添加によって、培養物中で活性化する。
【0226】
異なる細胞集団に、最も適切には、10〜1の感染多重度(MOI)で開始して、104〜1のMOIのレベルに達する、漸増するMOIで、異なるベクターを感染させる。細胞集団を、30分〜24時間ベクターに曝露する。より短い曝露時間の後に、形質導入された遺伝子の発現を可能にするインキュベーション期間を設ける。全培養期間は、これらの実験において24時間である。形質導入された細胞を、生存率について研究する。これらを、全DNA含量の測定としてヨウ化プロピジウムで、膜配向の初期の測定としてアネキシン−5で、染色する。次いで、これらの細胞を蛍光標識細胞分析器(FACSCalibur、Becton−Dickinson)で分析する。
【0227】
平行実験において、CD8α鎖および免疫原(オボアルブミン)の両方の発現レベルを決定する。RNAをこれらの細胞から精製し、CD8α鎖および免疫原(オボアルブミン)について遺伝子発現レベルを、アクチンRNAのレベルに対して標準化して、RT−PCRによって決定する。これらの研究の後に、タンパク質レベルの決定を行う。CD8α鎖の場合、形質導入された細胞を、マウスCD8α鎖の表面発現について染色する(FITC結合した抗CD8α鎖 mAb 53−6−75)。非特異的抗体結合による染色の妨害を、抗体のF(ab)’2調製物の使用によって防止する。mAb結合の程度、したがってCD8α鎖発現の程度を、蛍光標識細胞分析器で決定する。
【0228】
オボアルブミン産生のレベルを2つの方法で決定する。オボアルブミンはトランスフェクトされた細胞によって分泌されるので、培養物上清中のオボアルブミンの量を、U.D Staerzによって提供されるラット抗オボアルブミンmAbおよび精製されたウサギ抗オボアルブミン抗体の助けにより、サンドイッチELISAによって決定する。さらに、オボアルブミンがこれらの細胞の表面上のMHC分子上に、免疫学的に適切な形態で提示され得るか否かを決定する。この目的のために、Tリンパ球をT細胞レセプタートランスジェニックマウスOT−IおよびDO11.10から収集し、in vitroで活性化する。次いで、これらを、適切なMHC分子を発現する、異なる形質導入された細胞集団に曝露させる。標準的な活性化実験において、これらが、標的細胞を特異的に溶解できるか否か(OT0I)、またはIL−2を分泌できるか否か(DO11.10)を決定する試験を実施する。対照実験を、CD8α鎖のみを保有するベクターで形質導入した細胞で実施する。外因性オボアルブミンペプチドを添加する。ここで、本発明者らは、vetoがエフェクターT細胞を阻害するか否かを決定する。抗CD8 mAbを添加して、標的細胞のCD8を阻害する。さらに、オボアルブミンのみを保有するベクターを使用する。
【0229】
ベクターのin vitro阻害機能:形質導入プロトコールを最適化し、本発明者らは、異なるベクターが、特異的様式で、MHCクラスI拘束およびMHCクラスII拘束された免疫応答を阻害するか否かを決定する。以前の実験から、本発明者らは、異なるベクターのどれが最も有望であるか、そしてどの細胞株がCD8α鎖を発現し、オボアルブミンを有効に提示するかを知っている。第1の研究として、CD8α鎖の機能を、以前に記載したように、MLC中で試験する。簡潔に述べると、C57BL/6抗Balb/c MLCを樹立する。これらに、段階的な数の、CD8α鎖を発現する、異なる形質導入された細胞集団を提供し、5日間培養する。アロ反応性CD8+T細胞およびCD4+T細胞の発達を、引き続くCTLおよび再刺激アッセイで測定する。
【0230】
インスリン特異的CD8+Tリンパ球およびCD4+Tリンパ球の系統を、場合によっては収集した膵島から、NODマウスから樹立する。これらの系統を、確立された再刺激プロトコールを使用して維持する。dmVTVを形質導入またはトランスフェクトした同系細胞を、キラーアッセイ(CD8+CTL)およびサイトカイン放出研究(CD4+TH細胞)に添加する。これらの応答を阻害するそれらの能力を試験する。APCを含む異なる細胞集団を、この方法で試験する。全DNA含量およびアネキシン−5配向(上記研究を参照のこと)を使用して、veto化T細胞が、これらの培養物中で阻害または殺傷されるか否かを研究する。
【0231】
dmVTVの全体的veto機能の、in vivoでの機能的試験:異なるdmVTVの全体的veto機能を、vetoのin vivo活性を以前に実証した実験設定で、アロ応答の助けにより試験する。それぞれのdmVTVで形質導入または安定にトランスフェクトしたC57BL/6由来細胞株を、BALB/c動物中に注射する。10日後、マウスを屠殺し、それらの脾臓細胞を収集し、常在性のT細胞を、C57BL/6刺激因子細胞でin vitroで活性化する。応答性T細胞の存在を、キラーおよびサイトカイン放出アッセイにおいて試験する。インスリンに対して特異的なT細胞レセプターについてトランスジェニックなマウスは入手できないので、dmVTVがインスリン特異的免疫応答を抑制する能力は、NODマウスでの研究で評価しなければならない(以下を参照のこと)。
【0232】
異なるベクターが、オボアルブミン特異的TCRトランスジェニックTリンパ球の誘導を特異的に阻害できるか否かを決定する:さらに、異なる細胞集団(上記を参照のこと)を、異なるベクターの助けにより、阻害細胞へと形質転換できるか否かを、決定する。OT−IおよびDO11.10 Tリンパ球を収集し、それぞれのオボアルブミンペプチドで馴化した、照射した脾臓刺激因子細胞で刺激する。これらの培養物に、異なるベクターで形質導入した、段階的な数の細胞(異なる表現型のもの)を添加する。約5日間の培養後、Tリンパ球を収集し、培養し、機能について試験する。OT−I Tリンパ球を、オボアルブミン被覆された標的細胞(OT−1)を特異的に殺傷するそれらの能力について試験する。DO11.10の場合、初代培養物におけるそれらの増殖応答を測定する。いずれの場合にも、応答性のTリンパ球の運命が決定される。本発明者らは、これらがアポトーシスを受けたか否かを決定することを望んでいる。すべての研究は、CD8α鎖またはオボアルブミンのいずれかのみを単独で発現する異なる対照ベクターで対照を取った。
【0233】
抗原特異的veto阻害の決定:これらの実験において、TCRトランスジェニックマウス由来のTリンパ球(C10.4、AttM、MHCクラスIb拘束(U.D.Staerzによって提供される)およびAND、ハトシトクロムC、MHCクラスII拘束)を、適切なハプロタイプのベクター感染細胞の存在下で、ペプチド被覆された刺激因子細胞で刺激する。
【0234】
ベクターのin vivo機能的試験:TCRトランスジェニック動物は、T細胞の活性および運命を調査するための、最も直接的なアプローチを提示する。したがって、本発明者らは、T細胞がモデル抗原オボアルブミンと反応性である2つのTCRトランスジェニックマウスを選択する。1つはOT−Iであり、これは、オボアルブミン257〜264に特異的なCD8+ H−2Kb拘束CTLを保有し、他方はDO11.10であり、これは、オボアルブミン329〜339に特異的なCD4+ H−2Ab拘束Tヘルパー細胞を保有する。in vivoのveto実験を、末梢T細胞の特定の割合のみがTCRトランスジェニック型のものであるキメラマウスにおいて実施する。これらのキメラを、致死量未満で照射したマウスにおいて構築する。これらのマウスに、特定の数の前駆体(5%)が一方または両方のTCRトランスジェニックマウス由来である、混合BMを注射する。同様の割合の末梢T細胞が、トランスジェニックT細胞レセプターを発現した。この割合を、末梢血において測定し、この目的のために外科的に取り出したリンパ節において確認する。ここで、トランスジェニックT細胞の頻度を測定するために、脾臓の生検を行う。mAb(上記を参照のこと)またはTCR導入遺伝子に特異的なMHC四量体での細胞表面染色に加えて、これらのT細胞の活性化状態を、mAb(例えば、抗CD62L、抗CD44、抗CD25および抗CD122)の助けにより決定する。これらのT細胞の機能性を、標準的なin vitro活性化アッセイで試験する。このアッセイにおいて、それらが特異的CTLに発達する能力またはそれらの抗原に対して特異的に増殖する能力を決定する。
【0235】
異なるベクターおよび対照ベクターを、最も適切には、漸増する用量で、適切には数回、静脈内注射する。特定の期間(適切には、1週間後から6カ月後まで)の後、動物から採血する。TCRトランスジェニックT細胞の頻度および機能的表現型(休止対休止)を決定する。さらに、ヨウ化プロピジウムおよびアネキシン−5染色を使用して、それらがアポトーシスを受けているか否かを決定する。これらの動物を、異なる時点で屠殺する。それらの脾臓およびリンパ節を収集する。回収されたTリンパ球の数、活性化状態および生存率を決定する。さらに、これらのT細胞が、特異的in vitro刺激の後に、増殖するように誘導され得るか否か(DO11.10)、または機能的CTLに発達するように誘導され得るか否か(OT−I)を、調査する。TCRトランスジェニックT細胞がもはや応答しないがなおも存在する場合、異なるT細胞集団を、類似のキメリズムの二次宿主中に養子移入して、調節性T細胞(例えば、CD4+CD25+T細胞)が誘導されたか否かを決定する。
【0236】
Bリンパ球、Tリンパ球、マクロファージ、DC、顆粒球を、抗CD8α鎖mAbと組み合わせてそれぞれのmAbで同定して、どの細胞集団がベクターを取り込み、そこで、CD8α鎖を発現したかを決定する。脾臓およびリンパ節以外に、肝臓および肺を調査する。ベクターをキメラマウス中に直接注射することに対する代替的アプローチとして、マクロファージおよびDCなどの異なる細胞をex vivoで感染させ、次いでマウスに再注射する。この処置に対するT細胞応答を上記のように決定する。
【0237】
ベクターを受けたマウスに、強力な免疫原(例えば、インフルエンザウイルスPR/8)を、同時にまたは異なる時間遅延で注射して、veto阻害が特異的か否かを決定する。免疫の約2週間後、脾臓細胞およびリンパ節を収集し、ウイルスに対してin vitroで再刺激して、増殖するCD4+インフルエンザ特異的T細胞が発達したか否か、またはインフルエンザ特異的CTLが誘導され得るか否かのいずれかを試験する。
【実施例6】
【0238】
NODマウスにおけるI型糖尿病の発症の阻害
CD8α/インスリン2ベクターの生成:pBudCE4.1ベクター(Invitrogen #V532−20)は、2つのマルチクローニングサイト(MCS)を含んだ:1)CMVプロモーター、MCS、SV40PAシグナル;2)伸長因子1α(EF−1α)、MCS、BGH PAシグナル。マウスCD8α鎖の遺伝子を、Kpn1(5’)制限部位およびXho1(3’)制限部位を有するpEF−1α MCS中に、以下のプライマーを用いてクローニングした:Forward:5’−CT TAT GGT ACC GCA ATG GCC TCA CCG TTG−3’;Reverse:5’−CG CTC CTC GAG TTA TTA CAC AAT TTT CTC−3’。マウスCD8α鎖遺伝子を、pBudCE4.1ベクター中にクローニングする前に、最初にpCR2.1ベクター中にクローニングした。この遺伝子をKpn1酵素およびXho1酵素を使用して切断すると、これは、pCR2.1ベクター由来のKpn1部位を使用して実際に切断されて、マウスCD8α鎖遺伝子の5’末端への約30ヌクレオチドの付加を生じた。これらの過剰なヌクレオチドは、プロモーターの後かつ遺伝子のATG開始コドンの前に位置した。
【0239】
マウスインスリン2の遺伝子を、Hind III(5’)制限部位およびXba1(3’)制限部位を有するCMV MCS中に、以下のプライマーを使用してクローニングした:Forward:5’−GC TTG AAG CTT GCA ATG GCC CTG TGG ATG−3’;Reverse:5’−CG CTC TCT AGA TTA CTA GTT GCA GTA GTT C−3’。
【0240】
マウスCD8α鎖遺伝子およびマウスインスリン2遺伝子の両方を配列決定したところ、変異は含んでいなかった。
【0241】
複数エピトープのインスリンベクター:代替的実施形態において、主要MHCクラスI(H−2d−B15−B23、B24−C36)およびMHCクラスII(H−2Ag7−B9−23)拘束エピトープ(即ち、B9−C36(Martinez、2003;Chen、2001;Wong、1999;Wegmann、1994;Wegmann、1994;Wegmann、1993))を包含するマウスインスリンの抗原性セグメントに連結された全長マウスCD8α鎖cDNAを有するベクターを、C型肝炎ウイルスから採取した短いIRESによって調製する。さらに、それぞれのペプチドを合成する。
【0242】
ベースラインの実験において、異なる病期でNODマウスから収集したTリンパ球が、これらのインスリンエピトープに対して、他者(Wegmann、1993)によって以前に記載されたように応答するか否かを調査する。さらに、このインスリン構築体が適切に提示されているか否かを試験する。この構築体のみを保有する移入ベクターを生成する。これらを使用して、刺激因子細胞を形質導入し、認識効率を決定する。これらの予備実験が、それぞれのインスリン構築体が認識されたことを確立した後に、それぞれのベクターを生成する。
【0243】
NODマウスにおける糖尿病発症の予防:予備研究において、本発明者らは、約70%の雌性NODマウスが、約4カ月以内に本発明者らの動物コロニーにおいて糖尿病を自然発症することを見出した。他者の研究から、本発明者らは、末期の糖尿病に、約4週齢での膵島炎が先行することを知っている。この膵島炎は、約4週齢での膵島へのTリンパ球の遊走によって特徴付けられる。
【0244】
本実験において、2群のNODマウスを使用した。対照群の11匹のマウス(15週齢)は処置しなかった。同じ齢の4匹のマウス(NOD、雌性、Jackson Laboratories)に、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクターを筋内注射した。注射は、両方の四頭筋(または腓筋)に、異なる時点で50μl(1ml/mg)であった。血糖値を1週間に2回測定した。自己抗体産生について試験するために、1週間に1回、3滴の血液から血清を収集し、遠心分離した。
【0245】
図14中に示されるように、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクターを受けたマウスは、処置しなかった対照群と比較して、6週間の期間にわたって糖尿病マウスの割合の持続的な減少を実証した。末期糖尿病をすでに発症したNODマウスに同じベクターを提供したところ、その糖尿病状態に変化はなく、このことは、ベクターを介した治療上有効なインスリン産生がないであろうことを示唆する(データ示さず)。さらに、12週目前のインスリン2およびGADを含むベクターの注射は何の効果も示さず、一方で即席のCD8α鎖/インスリン2ベクターを15週目に投与すると有効であることが、刊行された研究により示されている。したがって、本発明者らは、目的の方法に従う、最も適切には筋細胞上およびまた抗原提示細胞上でのCD8およびインスリンの同時発現が、インスリン産生島細胞を破壊するのに必要なインスリン特異的T細胞の活性を阻害すると結論付けている。
【0246】
この結論を確認するために、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクター(上記と同じもの)を、対照プラスミドpBudCE4.1+マウスCD8α鎖(EF−1αプロモーター)のみ、PBudCE4.1+マウスインスリン2(CMVプロモーター)のみ、および空のpBudCE4.1ベクターと一緒に使用して、以下の実験を実施する。
【0247】
雌性NODマウスを以下の群に分離する(表6)。これらに、それぞれのベクター50μl(1ml/mg)を筋内注射する。予備実験とは対照的に、これらは2週間隔てて2回の注射を受けることになる。血糖値を1週間に2回測定する。抗インスリン抗体のレベルを、RIAおよびELISAを使用して決定する。特定の時間で、数匹のマウスを屠殺する。それらの脾臓およびリンパ節を収集し、インスリンおよびGAD特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞の存在を、標準的なT細胞活性化アッセイを使用して決定する。炎症プロセスがこれらのマウスの膵島で生じたか否かを決定するために、組織学的研究を含める。
【0248】
【表6】
【0249】
約70〜80%の未処置NODマウスは、その生涯の約26週以内に糖尿病を発症し、その率は、以前の実験で検出されたとおりである。vetoベクター単独での注射は、この率を有意に低下させないことが予測される(群2および3)。インスリン2の注射は、8週目および10週目に与えられると、約30%まで糖尿病の発生率を低下させ得る(群4)。後の時点で与えた場合(群5)、糖尿病の発生率における有意な低下は予測されない。vetoベクターを早期に与えると(群6)、群2と比較して、糖尿病の発生率における有意により顕著な低下が予測される。20%未満の動物が、糖尿病を発症すると予測される。糖尿病の発生の遅延もまた予測される。群7中の30%以下の動物(群5中の70%より高い率と比較して)が、糖尿病を発症すると予測される。糖尿病の発症において類似の遅延が予測される。
【0250】
別の実験において、雌性NODマウスに、2週齢から開始して、糖尿病の発症前にCD8α鎖/インスリンベクターを注射して、これらの動物において、糖尿病の明白な発症が予防されない場合には、それが遅延されるか否かを決定する。末梢血中のグルコースレベルを測定する。さらに、異なる時点でマウスを屠殺し、その膵島を、膵島炎の証拠についての組織学的研究に供する。その結果を、それぞれの対照ベクター(インスリンのみ、CD8α鎖のみ)を注射する研究と比較する。
【0251】
ベクター処置を、糖尿病の後期段階で与えて、ベクターが疾患の発症(例えば膵島炎)の後期段階を妨害できるか否かを決定する。最後に、顕性の糖尿病の証拠を有する動物を処置する。
【0252】
糖尿病の発症が予防された場合には、Tリンパ球の同時阻害が観察されるか否かを調査するための研究を行う。この目的のために、Tリンパ球をこれらのマウスから収集し、インスリンに対して応答するそれらの能力について研究する。養子移入実験を、調節細胞の誘導の任意の証拠を見るために含める。
【図面の簡単な説明】
【0253】
【図1】それぞれヒトおよびマウスについてのタンパク質の異なるドメインの境界を含んだ、野生型ヒトCD8α鎖のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図2】C57BL/6脾臓細胞で刺激したBalb/c脾臓細胞を示す図である。培養物に、正常な線維芽細胞、培地またはマウス(A)起源もしくはヒト(B)起源のCD8を有する線維芽細胞を補充した。培養物を収集し、C57BL/6由来の標的細胞に対するそれらの溶解能について試験した。
【図3】対照線維芽細胞(黒四角および黒三角)またはmCD8をトランスフェクトしたC57BL/6−(H−2b)由来(白丸および黒丸)線維芽細胞を注射したBalb/c(H−2d)マウスを示す図である。2週間後、動物を屠殺し、脾臓細胞を収集し、C57BL/6(H−2b)(黒四角および白丸)またはCBA/J(H−2k)(黒丸および黒三角)脾臓細胞で刺激し、EL4(H−2b)(黒四角および白丸)またはS.AKR(H−2k)(黒丸および黒三角)標的細胞に対するそれらの溶解能について試験した。
【図4】アロ反応性T細胞(A)または抗原特異的CTL(B)による溶解に対するそれらの感受性について試験した、標的細胞(黒三角)またはCD8発現標的(黒四角)を示す図である。
【図5】正常線維芽細胞(黒丸)およびmAdCD8を形質導入した線維芽細胞(A、黒三角)またはHAdCD8を形質導入した線維芽細胞(B、黒三角)の存在下に設定したMLC(Balb/c抗C57B/6)を示す図である。対照培養物には線維芽細胞を添加しなかった(黒四角)。C57BL/6由来標的に対するこれらの培養物の溶解活性を、培養期間の終了時に決定した。
【図6】アデノウイルスveto移入ベクターmAdCD8での免疫を示す図である。C57BL/6マウスを、上に示したベクターに感染させた。10日後、脾臓細胞を収集し、Adbgalウイルスの存在下で培養した。芽細胞の数を示す。
【図7】mAdCD8での陰性免疫を示す図である。(A)C57BL/6マウスを、AdβgalまたはmAdCD8で1回静脈内免疫した。(B)(A)と同様に処置した動物を、5日後にAdβgalで再免疫した。最後の注射の7日後、動物を屠殺し、それらの脾臓細胞をAdβgalの存在下で培養した。5日間の培養後、細胞を、それらの、Adβgal感染させた同系標的細胞の溶解能について試験した。
【図8】示したとおりに形質導入した、1×106個(またはなし)の刺激因子細胞と共にインキュベートした3×106個の脾臓細胞を示す図である。4日後、培養物を、免疫蛍光によってCD4+Tリンパ芽球の存在について分析した。
【図9】種々のウイルス構築体による感染後の、マウスおよびヒトのCD8α鎖の表面発現を示す図である。A.感染細胞:MC57T線維芽細胞;パネル1:モック感染;パネル2:hAdCD8による感染。B.感染細胞:MC57T線維芽細胞;パネル1:モック感染;パネル2:mAdCD8による感染。C.感染細胞:Balbc非選択骨髄細胞;パネル1:lacZアデノウイルスベクター(AdLacZ)による感染;パネル2:mAdCD8による感染。D.感染細胞:MC57T線維芽細胞;パネル1:モック感染;パネル2:pAAV−mCD8による感染;パネル3:pAAV−hCD8による感染。
【図10】形質導入後に0時間または5時間培養し、その後MLCに添加した線維芽細胞の存在下に設定した、MLC(Balb/c抗C57BL/6)を示す図である。培養終了時に、リンパ芽球の数を、蛍光標識細胞分析器で決定した。
【図11】veto移入ベクターでのin vitro阻害を示す図である。Balb/c抗C57BL/6混合リンパ球培養物(MLC)を、未感染またはmAdCD8感染したMC57線維芽細胞(H−2b)(X)の非存在下または存在下で樹立した。CTL応答を、EL4(H−2b)標的細胞において測定した。
【図12】AdLacZ(黒三角)またはmAdCD8(黒四角)で免疫したBalb/cマウスを示す図である。それらの脾臓細胞をAdLacZの存在下で培養し、AdLacZ感染した同系P815標的細胞に対する特異的溶解活性について試験した。
【図13】(A)AdLacZ(黒四角)またはmAdCD8(黒三角)で免疫したC57BL/6動物を示す図である。同系AdLacZ EL4標的細胞に対するそれらの脾臓細胞の溶解活性を試験した。(B)このような動物を、AdLacZで再免疫し、その後AdLacZ感染したEL4標的に対するそれらの溶解活性を試験した。
【図14】未処置の対照群(黒ダイヤ)と比較した、pBudCE4.1/CD8α鎖/インスリン2 vetoベクター(黒四角)を注射したマウスにおける糖尿病マウスの割合の減少を示す図である。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.CD8ポリペプチドをコードする第1の核酸配列;
b.自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする第2の核酸配列;および
c.標的細胞における発現のための、前記第1の核酸および前記第2の核酸に作動可能に連結された制御配列
を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記第1の核酸がヒトCD8α鎖をコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記自己抗原が、インスリン、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト、糖タンパク質、グルタミン酸デカルボキシラーゼ2、コリンレセプターγ鎖、サイログロブリン、II型コラーゲン、α1マトリックスメタロプロテイナーゼおよびMMP−1からなる群より選択される、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
CD8ポリペプチドおよび自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする発現ベクターを含む、自己反応性T細胞応答を阻害するための治療用組成物。
【請求項5】
前記発現ベクターが前記自己抗原の複数のエピトープをコードする、請求項4に記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記CD8ポリペプチドおよび前記自己抗原の少なくとも1つのエピトープの発現が、同じプロモーターの制御下にある、請求項4に記載の治療用組成物。
【請求項7】
CD8ポリペプチドをコードする第1の発現ベクターおよび自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする第2の発現ベクターを含む、自己反応性T細胞応答を阻害するための治療用組成物。
【請求項8】
前記第2の発現ベクターが前記自己抗原の複数のエピトープをコードする、請求項7に記載の治療用組成物。
【請求項9】
前記第2の発現ベクターが、前記自己反応性T細胞応答に関連する第2の自己抗原の少なくとも1つのエピトープをさらにコードする、請求項7または8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記自己反応性T細胞応答に関連する第2の自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする第3の発現ベクターをさらに含む、請求項7または8に記載の治療用組成物。
【請求項11】
自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原タンパク質またはそのフラグメント、およびCD8ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、自己反応性T細胞応答を阻害するための治療用組成物。
【請求項12】
複数の自己抗原タンパク質を含む、請求項11に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記CD8ポリペプチドがヒトCD8ポリペプチドである、請求項4から12のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記CD8ポリペプチドが、ヒトCD8α鎖の細胞外ドメインおよび膜貫通ドメインから本質的になる、請求項13に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記自己抗原が、インスリン、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト、糖タンパク質、グルタミン酸デカルボキシラーゼ2、コリンレセプターγ鎖、サイログロブリン、II型コラーゲン、α1マトリックスメタロプロテイナーゼおよびMMP−1からなる群より選択される、請求項4から14のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項16】
標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、請求項4から15のいずれか一項に記載の治療用組成物と接触させる工程を含む、標的抗原に対する自己免疫応答を阻害するための方法。
【請求項17】
前記標的細胞が筋細胞であり、前記接触させる工程がin vivoで実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記標的細胞が造血細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記標的細胞が、リンパ球または抗原提示細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記接触させる工程がex vivoで実施される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
請求項4から15のいずれか一項に記載の治療用組成物を宿主に投与する工程を含む、宿主における自己免疫疾患の発症を予防するための、または自己免疫疾患を治療するための方法。
【請求項1】
a.CD8ポリペプチドをコードする第1の核酸配列;
b.自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする第2の核酸配列;および
c.標的細胞における発現のための、前記第1の核酸および前記第2の核酸に作動可能に連結された制御配列
を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記第1の核酸がヒトCD8α鎖をコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記自己抗原が、インスリン、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト、糖タンパク質、グルタミン酸デカルボキシラーゼ2、コリンレセプターγ鎖、サイログロブリン、II型コラーゲン、α1マトリックスメタロプロテイナーゼおよびMMP−1からなる群より選択される、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
CD8ポリペプチドおよび自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする発現ベクターを含む、自己反応性T細胞応答を阻害するための治療用組成物。
【請求項5】
前記発現ベクターが前記自己抗原の複数のエピトープをコードする、請求項4に記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記CD8ポリペプチドおよび前記自己抗原の少なくとも1つのエピトープの発現が、同じプロモーターの制御下にある、請求項4に記載の治療用組成物。
【請求項7】
CD8ポリペプチドをコードする第1の発現ベクターおよび自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする第2の発現ベクターを含む、自己反応性T細胞応答を阻害するための治療用組成物。
【請求項8】
前記第2の発現ベクターが前記自己抗原の複数のエピトープをコードする、請求項7に記載の治療用組成物。
【請求項9】
前記第2の発現ベクターが、前記自己反応性T細胞応答に関連する第2の自己抗原の少なくとも1つのエピトープをさらにコードする、請求項7または8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記自己反応性T細胞応答に関連する第2の自己抗原の少なくとも1つのエピトープをコードする第3の発現ベクターをさらに含む、請求項7または8に記載の治療用組成物。
【請求項11】
自己反応性T細胞応答に関連する自己抗原タンパク質またはそのフラグメント、およびCD8ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、自己反応性T細胞応答を阻害するための治療用組成物。
【請求項12】
複数の自己抗原タンパク質を含む、請求項11に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記CD8ポリペプチドがヒトCD8ポリペプチドである、請求項4から12のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記CD8ポリペプチドが、ヒトCD8α鎖の細胞外ドメインおよび膜貫通ドメインから本質的になる、請求項13に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記自己抗原が、インスリン、プロテオリピドタンパク質PLP−1、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト、糖タンパク質、グルタミン酸デカルボキシラーゼ2、コリンレセプターγ鎖、サイログロブリン、II型コラーゲン、α1マトリックスメタロプロテイナーゼおよびMMP−1からなる群より選択される、請求項4から14のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項16】
標的細胞を、ex vivoまたはin vivoで、請求項4から15のいずれか一項に記載の治療用組成物と接触させる工程を含む、標的抗原に対する自己免疫応答を阻害するための方法。
【請求項17】
前記標的細胞が筋細胞であり、前記接触させる工程がin vivoで実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記標的細胞が造血細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記標的細胞が、リンパ球または抗原提示細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記接触させる工程がex vivoで実施される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
請求項4から15のいずれか一項に記載の治療用組成物を宿主に投与する工程を含む、宿主における自己免疫疾患の発症を予防するための、または自己免疫疾患を治療するための方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2008−507282(P2008−507282A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522752(P2007−522752)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/025878
【国際公開番号】WO2006/012416
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(505353250)アイソジェニス・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ISOGENIS, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/025878
【国際公開番号】WO2006/012416
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(505353250)アイソジェニス・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ISOGENIS, INC.
【Fターム(参考)】
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