説明

自己免疫疾患緩和剤ならびにこれを含有する医薬品および食品

【課題】 本発明は、ヒアルロン酸を有効成分とする自己免疫疾患の症状を緩和させるための医薬、及び食品を提供する。
【解決手段】 本発明は、平均分子量50万以上のヒアルロン酸を有効成分として含有する医薬並びに含有する食品である。本発明のヒアルロン酸を有効成分とする医薬並びに含有する食品を摂取又は投与することにより、自己免疫疾患の症状、特に自己免疫性皮膚疾患が緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患、特に自己免疫性皮膚疾患の症状を緩和するための医薬品及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活及び生活習慣の急激な変化によって、自己免疫疾患を患う患者が増加している。自己免疫疾患とは、自己体構成成分に対する免疫応答によって引き起こされる疾患 であり、この原因として、T細胞、B細胞及びマクロファージなど免疫担当細胞の異常が原因とされている。また、多くの自己免疫疾患の症状は慢性的に経過し、難治性であるため、日本では公費負担の対象として定められた特定疾患に含まれている疾患も多い。治療法は疾患により異なるが、免疫異常が疾患の原因となっていることから、多くの疾患でステロイドと免疫抑制剤が第一選択の薬剤として用いられる。
【0003】
自己免疫疾患は、各種様々な疾患が知られている。例えば、円形脱毛症は、成長期に起きる毛に対する免疫異常、すなわち、自己の毛根部を異物として攻撃することにより、毛根部に障害が起きて脱毛が起こる疾患であり、アトピー性皮膚炎や自己免疫疾患に合併することが多い。円形脱毛症には、1つ又は複数の頭髪に円形の脱毛が生じる通常型、頭髪全体が脱毛する全頭型、頭髪の生え際が帯状に脱毛する蛇行型、頭髪のみでなく、まゆ毛やまつ毛、ひげ、全身の体毛が抜ける汎発型の4つのタイプに分けられる。難治性の円形脱毛症の治療には、ステロイド外用薬などが一般的に使われることが多いが、十分な効果が得られない場合も多い。
【0004】
全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus;SLE)は、自分自身のDNAに対して抗体が作られる、自己免疫疾患の一種である。全身性エリテマトーデスは、慢性疾患であり、膠原病の1つとして分類されている。全身性エリテマトーデスの症状は、主として皮膚粘膜症状、全身の倦怠感、発熱、各種の内臓病変であるが、頬から鼻にかけてかかる丘疹状の紅斑である蝶形紅斑は全身性エリテマトーデスに非常に特異的な症状である。また、全身性エリテマトーデスは、腎炎などを伴う場合も多い。全身性エリテマトーデスの治療には、ステロイドやシクロフォスファミドの投与や、そのほか病態に応じては血漿交換や免疫グロブリン大量投与などを行う。
【0005】
特表平11−500742号には、低分子量ヒアルロン酸の医薬製剤を、望ましくないT細胞活性に悩む患者、例えば移植片宿主疾患、移植片拒絶及びT細胞成分を有する自己免疫疾患に対して十分に投与することが記載されている。しかし、特表平11−500742号には、高分子量ヒアルロン酸がマクロファージや液性因子の異常に起因する自己免疫疾患に治療効果を有することや、皮膚疾患を伴う自己免疫疾患について治療効果を有することは記載されていない。また、特開2006−327958号には、主として4糖など低分子量のヒアルロナンが自己免疫疾患に効果があることが記載されているが、高分子量のヒアルロン酸が自己免疫疾患に効果があることや皮膚疾患を伴う自己免疫疾患について治療効果を有することは記載されていない。
【特許文献1】特表平11−500742号
【特許文献2】特開2006−327958号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、自己免疫疾患、特に自己免疫性皮膚疾患の症状を緩和するための医薬を提供することを目的とする。また、本発明は、自己免疫疾患、特に自己免疫性皮膚疾患の症状を緩和するための食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヒアルロン酸、特に平均分子量50万以上のヒアルロン酸を摂取することにより、自己免疫疾患の症状が緩和されることを見いだした。
【0008】
したがって、本発明は、ヒアルロン酸を有効成分として含有することを特徴とする、自己免疫疾患の症状を緩和するための医薬品及び食品を提供する。ここで、ヒアルロン酸の平均分子量は、好ましくは50万以上、さらに好ましくは70〜120万である。対象となる自己免疫疾患は、皮膚疾患を伴うものが例示できる。さらに、本発明は、ヒアルロン酸を有効成分として含有する上記食品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒアルロン酸自体が天然物質であることから、副作用がなく(又は少ない)、安全性の高い、自己免疫疾患の症状を緩和できる医薬を提供できる。また、本発明のヒアルロン酸を有効成分として含有させた飲食品は、日常生活において自己免疫疾患患者が摂取することによって症状を緩和できる点で、治療の補助として使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
自己免疫疾患は、本来は細菌・ウイルスや腫瘍などの自己と異なる異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患の総称である。自己免疫疾患はT細胞の異常が原因となるものも多いが、本発明では、マクロファージ及び液性因子の異常が原因となる自己免疫疾患が特に対象となる。本発明が対象とする自己免疫疾患は、特に自己免疫性の皮膚疾患を伴うものであり、例えば、皮膚疾患全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、混合性結合組織病、天疱瘡、類天疱瘡、円形脱毛症などが例示できるが、好ましくは、円形脱毛症である。
【0011】
本発明の自己免疫疾患の症状を緩和するための医薬品及び食品に有効成分として含まれるヒアルロン酸は、D−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンとの2糖繰り返し単位から構成されている高分子の長鎖の多糖であり、本発明の医薬品及び食品に含有されるヒアルロン酸の分子量は、好ましくは、平均分子量50万以上、より好ましくは70〜120万である。本発明の医薬品及び食品に含まれるヒアルロン酸は、単一の平均分子量を有するものに限らず、異なる平均分子量を有するヒアルロン酸の混合物であってもよい。
【0012】
本発明の医薬品及び食品に含まれるヒアルロン酸としては、基本的にはβ−D−グルクロン酸の1位とβ−D−N-アセチル-グルコサミン−の3位とが結合した2糖単位を少なくとも1個含む2糖以上のものでかつβ−D−グルクロン酸とβ−D−N−アセチル−グルコサミン−とから基本的に構成されるものであり、2糖単位が複数個結合したもの、またはそれらの要素が結合した糖であってもよく、またこれらの誘導体、例えば、アシル基等の加水分解性保護基を有したもの等も使用し得る。該糖は不飽和糖であってもよく、不飽和糖としては、非還元末端糖、通常、グルクロン酸の4,5位炭素間が不飽和のもの等が挙げられる。
【0013】
本発明のヒアルロン酸は、動物等の天然物(例えば鶏冠、さい帯、皮膚、関節液などの生体組織など)から抽出されたものでもよく、または、微生物もしくは動物細胞を培養して得られたもの(例えばストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法)、化学的もしくは酵素的に合成されたものなどいずれも使用することができる。
【0014】
本発明で用いるヒアルロン酸は、薬理学的に許容可能な塩の形態を包含し、製剤上の必要に応じて、その薬学上許容できる塩を用いることができる。例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、トリ(n−ブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩などであることができる。
【0015】
あるいは、市販の様々なヒアルロン酸を用いることもでき、例えば、製品名ヒアルロンサンHA−F(平均分子量70〜120万、キユーピー株式会社)として市販されているものを使用することができる。
【0016】
本発明では、ヒアルロン酸を有効成分として含有してなる自己免疫疾患の症状を緩和させる食品をも提供する。本発明の食品は、自己免疫疾患患者が、治療の一環として本発明の食品を摂取することにより、自己免疫疾患の症状を緩和させる効果がある。また、本願の食品を、患者の食事に添加又は混合することによって、摂取することもできる。
【0017】
食品は、固形、半固形の食料品のみならず、液体又は流動性の高い、いわゆる飲料も含む。例えば、動物性食品、植物性食品、加工食品、調味用材料、調理用材料、嗜好食品、加工食品など、任意の食料品に本発明の食品を含有させることができる。また、例えば、水、清涼飲料水、アルコール飲料、茶、コーヒー、流動食などの任意の飲料に含有させることができる。食料品及び飲料の具体的な例として、例えば栄養補助食品やサプリメントを挙げることができる。また、自己免疫疾患の症状を緩和させる機能に注目して、健康食品とすることもできる。さらに、厚生労働省の認可を受けることにより、自己免疫疾患の症状緩和効果を標榜することのできる特定保健用食品として販売することも可能である。
【0018】
ヒアルロン酸は生体物質であるため、多量に摂取しても副作用がない又はきわめて低いと考えられるが、食料品及び飲料として摂取する本発明のヒアルロン酸の量は、一日当たり1〜1000mg、好ましくは15〜300mgを目安とすることができる。また、本発明のヒアルロン酸を含有する飲料の場合は、本発明のヒアルロン酸を飲料中に0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%含有させることができる。また、医薬品として摂取するヒアルロン酸の量は、一日当たり10mg〜10g、好ましくは200〜1000mgを目安とすることができる。投与回数は、症状に応じて一日当たり一回もしくは複数回を選択できる。
【0019】
上記の通り任意の食料品及び飲料に、本発明の食品を含有させることができる。自己免疫疾患の症状の緩和を図るためには、継続的に本発明のヒアルロン酸を摂取するのが望ましいため、日常的に摂取する食品及び飲料に本発明の食品を含有させるのが望ましい。
【0020】
医薬品に含まれる本発明のヒアルロン酸の含有量は、医薬品の用途及び形態によっても異なり、当業者は適切な量を適宜選択することができる。また、本発明の薬剤は、必要に応じて、水、賦形剤、抗酸化剤、防腐剤、湿潤剤、粘稠剤、緩衝剤、吸着剤、溶剤、乳化剤、安定化剤、界面活性剤、滑沢剤、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料、アルコール類等の添加剤を加えることができる。医薬品の剤形は特に限定されないが、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。
【0021】
本発明のヒアルロン酸を含有する食品(食料品及び飲料)は、自己免疫疾患に罹患した患者が長期にわたって無理なく摂取することによって、治療の一環として又は治療の補助として、自己免疫疾患の症状の緩和及び改善を図ることができる。また、家族歴からの判断等により自己免疫に罹患する可能性の高い患者予備軍が、本発明の食品を摂取することにより、これらの自己免疫疾患を予防または発症を遅らせることができる。また、本発明のヒアルロン酸を含有する医薬は、経口投与により、上記患者の自己免疫疾患の症状を緩和又は上記患者予備軍の自己免疫疾患の予防または発症を遅らせることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、これらにより本発明を制限することを意図するものではない。
【0023】
MRLマウスは、リウマチなどの自己免疫疾患を自然発症する病態モデルマウスであり、自己免疫疾患により、皮膚に脱毛・痂皮などの変化が生じることが知られている。本試験では、MRLマウスに低分子量ヒアルロン酸および本発明のヒアルロン酸を飲水投与し、低分子量ヒアルロン酸および本発明のヒアルロン酸による皮膚のヒアルロン酸分子量に対する作用を検討した。
【0024】
14週令(体重約27〜37g)のMRL lpr/lpr系(SPF)の雌マウス18匹(日本チャールズリバー株式会社)を実験に用いた。22±3℃、相対湿度50±20%に設定した飼育室にてマウスを飼育し、ラット・マウス用固形型資料CE−2(日本クレア株式会社)を飼料として与えた。下記の表1の通りに、蒸留水(大塚蒸留水、大塚蒸製薬株式会社)、低分子量ヒアルロン酸(平均分子量20〜40万、キユーピー株式会社)または本発明のヒアルロン酸(HA−F、平均分子量70〜120万、キユーピー株式会社試作品)を蒸留水で希釈したものを自由摂取させて与えた。
これらの試験物質は、室温にてクリーンベンチを用いて無菌的に調製した。調製には注射用蒸留水を用いて所定濃度に調製し、使用時までに冷蔵保存した。
【0025】
【表1】

【0026】
低分子量ヒアルロン酸およびHA−Fの投与量として、飲水投与で効果が期待される200mg/kg/日を設定した。マウスの1日当たりの飲水量は、予備検討の結果6ml/匹であり、MRLマウスの体重が約33gであることから、低分子量ヒアルロン酸およびHA−Fの濃度を1.1mg/mlに設定した。
【0027】
また、MRLマウスではリンパ節腫大などの病態が自然発症することが知られている。本実施例では病態の初期段階である14週令から投与を開始した。投与期間は、飲水投与での薬効を評価するのに適切と考えられる28日間試験を続けた。
【0028】
28日間の実験の後、マウスの皮膚を緩衝液中でホモジェネートし、タンパク質分解酵素で消化した。その上清を電気泳動した後、ブロッティングし、ヒアルロン酸結合タンパク質によって染色した。分子量は、市販の分子量既知のヒアルロン酸を基準として算定した。結果を図1に示す。対照である蒸留水群では、皮膚のヒアルロン酸分子量が平均約500,000であるのに比べて、低分子量ヒアルロン酸群では平均約300,000、HA−F群では平均約850,000であり、蒸留水群の約1.7倍、低分子量ヒアルロン酸群の約2.8倍の分子量を有していた。
また、蒸留水群および低分子量ヒアルロン酸群で脱毛が観察された鼻の周囲を、蒸留水群、低分子量ヒアルロン酸群及びHA−F群のそれぞれについて写真撮影した。結果を図2に示す。
【0029】
図2に示されるように、蒸留水群および低分子量ヒアルロン酸群で確認された自己免疫疾患による脱毛が、HA−Fの飲水投与により抑制されることが明らかになった。高分子量のヒアルロン酸の投与により、皮膚のヒアルロン酸分子量が増加し、これによって、自己免疫疾患の症状の一つである脱毛が抑制されたと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】蒸留水、低分子量ヒアルロン酸又はHA−Fを飲水投与したマウスの皮膚におけるヒアルロン酸の平均分子量を示すグラフである。
【図2】蒸留水、低分子量ヒアルロン酸又はHA−Fを飲水投与したマウスの鼻周囲の脱毛について比較した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が50万以上のヒアルロン酸を有効成分として含有することを特徴とする、自己免疫疾患症状緩和剤。
【請求項2】
ヒアルロン酸の平均分子量が、70〜120万である請求項1に記載の自己免疫疾患症状緩和剤。
【請求項3】
自己免疫疾患が皮膚疾患を伴うものである請求項1または2に記載の自己免疫疾患症状緩和剤。
【請求項4】
皮膚疾患が脱毛を伴うものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己免疫疾患症状緩和剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己免疫疾患症状緩和剤を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項6】
経口的に摂取する、請求項5記載の医薬品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己免疫疾患症状緩和剤を含有することを特徴とする食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−266171(P2008−266171A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109101(P2007−109101)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【出願人】(505192084)株式会社 糖質科学研究所 (21)
【Fターム(参考)】