説明

自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物

【課題】 Ag、Au等の貴金属基材に対する接着強度が高い自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン100重量部と、(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンを(A)成分のアルケニル基1個当たり水素原子の量が0.1〜4.0個となる量と、(C)白金系触媒を触媒量と、(D)接着性付与剤として、(D1)ジアルコキシシリル基を有し、かつエポキシ基、グリシドキシ基、架橋性のビニル基、およびヒドロシリル基(Si−H基)から選ばれる1種以上の基を有するイソシアヌル酸誘導体0.05〜5重量部をそれぞれ含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物に係り、特に銀、金のような貴金属の基材に対して接着性が良好な自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム、シリコーンゲルのようなシリコーン(ポリオルガノシロキサン)組成物は、耐候性、耐熱性、硬度、伸びなどの諸特性に優れた硬化物を形成することから、種々の用途に使用されている。
【0003】
しかし、シリコーン組成物は、半導体装置のフレームや電極材料として使用されているAg、Au、Rh、Pd等の貴金属に対する接着性が、エポキシ樹脂に比べて低い。そのため、シリコーン組成物を封止材としてあるいはダイアタッチ材として使用した半導体装置(パッケージ)において、高温ストレスや温度サイクルの印加、あるいは高温高湿での保存により、フレームまたは電極とシリコーン組成物の層との界面に剥離が生じやすいという不具合が発生している。
【0004】
また、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などの発光素子(LEDチップ)を備えたLED装置(ランプ)において、発光素子を封止する材料として、耐熱性および耐紫外線特性に優れたシリコーン組成物が使用されている。特に、ヒドロシリル化を利用して硬化させる付加反応型シリコーン組成物は、加熱により短時間で硬化し、かつ硬化時に副生成物を発生しないため、広く用いられている。
【0005】
しかしながら、従来からの付加反応硬化型シリコーンゴム組成物は、前記した電極用などの貴金属材料に対する接着性が低いばかりでなく、耐熱性プラスチックとして近年使用が拡大しているPPA(ポリフタル酸アミド樹脂)に対する接着性が不十分であった。そして、発光素子からの発熱や温度サイクルの印加によりさらに接着性が低下し、PPAやセラミックス等の支持基材あるいは電極用貴金属とシリコーン組成物の層との間に、剥離が生じるという問題があった(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
貴金属から成る基材(フレーム、電極等)に対するシリコーン組成物の接着性を上げるために、プライマーを塗布することが行なわれている。しかしこの方法では、プライマーの塗布・乾燥という余分な工程を必要とするばかりでなく、プライマーに含まれる溶剤の蒸発により周囲の環境に負荷を与えるという問題があった。
【0007】
また、封止用のシリコーン組成物においては、各種シランカップリング剤の添加により接着性の向上を図っているが、効果が十分でなかった。そのうえ、変色や透明性の低下が生じやすいため、LED装置(ランプ)の封止層のような光学的な用途に使用することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−338833
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、Ag、Au等の貴金属から構成される基材に対して十分な接着強度を有し、半導体装置のダイアタッチ材や封止材料などとして好適する自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン100重量部と、(B)ケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基1個当たり、本成分中の前記水素原子の量が0.1〜4.0個となる量と、(C)白金系触媒を触媒量と、(D)接着性付与剤として、(D1)ジアルコキシシリル基を有し、かつエポキシ基、グリシドキシ基、架橋性のビニル基、およびヒドロシリル基(Si−H基)から選ばれる1種以上の基を有するイソシアヌル酸誘導体0.05〜5重量部をそれぞれ含有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物は、従来から接着が困難であったAg、Auなどの貴金属からなる基材に対して優れた接着性を有する。したがって、このポリオルガノシロキサン組成物の硬化物が、封止層やダイアタッチ材として使用された半導体装置は、貴金属からなる基材との接着性が良好で界面での剥離が生じにくく、信頼性が高い。また、特に硬化物の透明性が高い配合の組成物をLED装置のような発光装置の封止材料として使用した場合には、発光輝度が高く信頼性の高い発光装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施形態の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)アルケニル基を含有するポリオルガノシロキサンと、(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(C)白金系触媒と、(D)接着性付与剤として、(D1)特定の官能基を有するイソシアヌル酸誘導体をそれぞれ含有する。
【0013】
[(A)成分]
(A)成分であるアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサンは、本発明の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーである。1分子中に、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するポリオルガノシロキサンを使用することが好ましい。
【0014】
(A)成分の分子構造としては、例えば直鎖状、環状などが挙げられる。直鎖状、環状などの構造は分岐を有していてもよいが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のものが好ましい。
【0015】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基などの、炭素原子数が2〜8個、より好ましくは2〜4個のものが挙げられる。特にビニル基が好ましい。(A)成分であるアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンが直鎖状である場合、アルケニル基は、分子鎖末端と中間のいずれか一方でのみケイ素原子に結合していてもよいが、分子鎖末端と中間の両方でケイ素原子に結合していてもよい。
【0016】
(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、例えばアルキル基、特にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基;アリール基、特にフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基のような、非置換またはハロゲン置換の1価の炭化水素基が挙げられる。特に、メチル基あるいはフェニル基が好ましい。
【0017】
(A)成分の粘度(25℃)は、100〜100,000mPa・sであることが好ましく、特に500〜10,000mPa・sの範囲であることが好ましい。(A)成分の粘度(25℃)がこの範囲内にある場合には、得られる組成物の作業性が良好であるうえに、この組成物から得られる硬化物の物理的特性が良好である。
【0018】
(A)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、式:RSiO0.5(Rはアルケニル基以外の非置換または置換の1価の炭化水素基である。以下同じ。)で表されるシロキシ単位と、式:RSiO0.5(Rはアルケニル基である。以下同じ。)で表されるシロキシ単位と、式:RSiOで表されるシロキシ単位と、式:SiOで表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体、式:RSiO0.5で表されるシロキシ単位と、式:RSiO0.5で表されるシロキシ単位と、式:SiOで表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体、式:RSiO0.5で表されるシロキシ単位と、式:RSiOで表されるシロキシ単位と、式:SiOで表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体、式:RSiOで表されるシロキシ単位と、式:RSiO1.5で表されるシロキシ単位、または式:RSiO1.5で表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記式中のRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。また、上記式中のRとしては、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基が挙げられる。
【0020】
[(B)成分]
(B)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、前記(A)成分と反応し架橋成分として作用する。(B)成分の分子構造に特に制限はなく、例えば直線状、環状、分岐状、三次元網状構造(樹脂状)などの各種のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを使用することができる。
【0021】
(B)成分のポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、1分子中に2個以上好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子、すなわちヒドロシリル基(Si−H基)を有する。(B)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンが直線状である場合、これらのSi−H基は分子鎖末端および中間部のいずれか一方のみに位置していても、その両方に位置していてもよい。(B)成分の1分子中のケイ素原子の数(重合度)は、2〜1,000より好ましくは3〜100程度である。
【0022】
(B)成分としては、平均組成式:RSiO(4−a−b)/2(式中、Rは、脂肪族不飽和基を除く、炭素原子数が1〜14より好ましくは1〜10の非置換または置換の1価の炭化水素基である。aおよびbは、0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0であり、かつ0.8≦a+b≦3.0より好ましくは1.0≦a+b≦2.5を満足する正数である)で示されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンが用いられる。
【0023】
上記Rとしては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フエニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した基、例えばクロロメチル基、3−クロロプロピル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。Rは、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、より好ましくはメチル基またはフェニル基である。
【0024】
(B)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジエンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、式:RSiO0.5(Rは前記の通り。)で表されるシロキシ単位と式:RHSiO0.5で表されるシロキシ単位と式:SiOで表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体、式:RHSiO0.5で表されるシロキシ単位と式:SiOで表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体、式:RHSiOで表されるシロキシ単位と式:RSiO1.5で表されるシロキシ単位、または式:HSiO1.5で表されるシロキシ単位とからなるポリオルガノシロキサン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
(B)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンの配合量は、上記(A)成分の硬化有効量であり、特に(B)成分の有するSi−H基が(A)成分中のアルケニル基(例えばビニル基)の1個当たり0.1〜4.0個、より好ましくは1.0〜3.0個の割合となるような配合量で使用される。0.1個未満では硬化反応が進行せず、硬化物を得ることが困難になるおそれがあり、4.0個を超えると、未反応のSi−H基が硬化物中に多量に残存するため、硬化物の物性が経時的に変化するおそれがある。
【0026】
[(C)成分]
(C)成分である白金系触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のSi−H基との付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進する触媒である。(C)成分としては、例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサンまたはアセチレン化合物との配位化合物などを使用することができる。
【0027】
(C)成分の配合量は、ヒドロシリル化反応の触媒として有効な量であれば特に限定されないが、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、白金元素に換算して0.1〜1,000ppm、より好ましくは1〜500ppm、さらに好ましくは1〜20ppmの範囲とする。配合量がこの範囲にある場合には、付加反応が十分に促進される結果十分な硬化が得られ、かつ経済的に有利である。
【0028】
[(D)成分]
(D)成分は、本発明のポリオルガノシロキサン組成物に自己接着性を付与する接着性付与剤であり、以下に示すイソシアヌル酸誘導体(D1)が使用される。
【0029】
(D1)成分は、(i)エポキシ基、グリシドキシ基、アルコキシシリル基から選ばれる1種以上の官能基と、(ii)架橋性のビニル基と反応性のヒドロシリル基(Si−H基)から選ばれる1種以上の基をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体である。なお、架橋性のビニル基には、アクリロキシ基も含めることができる。このような(D1)成分を配合することにより、Ag等の貴金属の基材に対して優れた接着性を有する組成物を得ることができる。
【0030】
(D1)成分としてより具体的には、[化1]〜[化4]で表されるような、(i)1個以上のアルコキシシリル基(例えば、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基)と(ii) 1個以上のビニル基をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体(D1-1)を例示することができる。これらのイソシアヌル酸誘導体は、1種を単独で使用しても、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0032】
また、(D1)成分として、[化5]〜[化6]で表されるような、(i) 1個以上のアルコキシシリル基と(ii) 1個以上のSi−H基をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体(D1-2)を使用することができる。
【化5】

【化6】

【0033】
さらに、(i) エポキシ基とアルコキシシリル基と(ii)架橋性のビニル基をそれぞれ1個づつ有するイソシアヌル酸誘導体(D1-3)を使用することができる。そのようなイソシアヌル酸誘導体(D1-3)は、以下の[化7]で表される。
【化7】

【0034】
(D1)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部の範囲である。(D1)成分の配合量が少なすぎると、Ag等の貴金属基材に対する良好な接着性を付与することができないおそれがあり、また配合量が多すぎると十分な強度を有する硬化物が得られないおそれがある。
【0035】
(D)接着性付与剤として、このような(D1)成分とともに、(D2)エポキシ基、グリシドキシ基、アルコキシ基から選ばれる1種以上の官能基を有するシランまたはシロキサンを配合することができる。
【0036】
(D2)成分としては好ましいものは、[化8]で表されるグリシドキシ基を有するジアルコキシシランおよび/またはその加水分解縮合物(D2-1)である。このようなジアルコキシシランおよび/またはその加水分解縮合物(D2-1)を配合することにより、Ag等の貴金属の基材に対して優れた接着性を有するうえに、PPAやセラミックス等の基材に対する接着性が良好な組成物を得ることができる。
【化8】

【0037】
また、(D1)成分が、(i)エポキシ基またはグリシドキシ基と(ii)架橋性のビニル基またはSi−H基を有するイソシアヌル酸誘導体(例えば、前記[化7]で表されるイソシアヌル酸誘導体)である場合には、(D2)成分として、[化9]で表されるメトキシシリル基を有する環状シロキサンおよび/またはその加水分解縮合物(D2-2)を配合することで、貴金属(Ag)およびPPAに対する接着性をさらに向上させることができる。すなわち、(D1)成分のエポキシ基またはグリシドキシ基によりPPAに対する接着性を付与することができるうえに、(D2)成分として前記環状シロキサンを配合することで、(D1)成分を配合した場合の(A)成分であるポリマーに対する相溶性を向上させることができるので、接着性の向上をさらに促進することができる。
【化9】

【0038】
このような(D2)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して0.1〜5重量部とするのが好ましい。(D2)成分の配合量が多すぎると十分な強度を有する硬化物が得られないおそれがある。
【0039】
本発明の実施形態の組成物には、上述した(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分((D1)成分および(D2)成分)以外にも、必要に応じて公知の添加剤を配合することができる。例えば、ヒュームドシリカなどの補強性無機充填剤、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、酸化亜鉛などの非補強性無機充填剤を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0040】
本発明の実施形態の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物は、上述した各成分を均一に混合することによって調製されるが、アセチレンアルコールなどの硬化抑制剤の添加により任意に硬化性を調整することができ、硬化が進行しないように2液に分けて保存し、使用時に2液を混合して硬化を行うことができる。また、硬化抑制剤を選択することで1液として用いることもできる。また、2液混合タイプでは、脱水素反応の危険性の点から、(B)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと(C)成分である白金系触媒を同一の包袋とすることは避ける必要がある。こうして得られた実施形態の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物の粘度は、25℃において回転粘度計で測定した値として、100〜10,000mPa・sの範囲が好ましく、特に300〜5,000mPa・sの範囲が好ましい。
【0041】
本発明の実施形態の組成物は、必要によって加熱することにより硬化する。硬化物は十分なゴム硬度を有し、Ag等の貴金属の基材に対して高い接着強度を有する。したがって、LED、フォトダイオード、CCD、CMOS等の半導体パッケージに汎用用途として広く使用することができる。なお、硬化条件は特に制限されるものではないが、通常40〜200℃、好ましくは60〜170℃で1分〜10時間、好ましくは30分〜6時間程度で硬化することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、下記の例において、部は重量部を示し、%は重量%を示す。また、粘度は25℃における測定値である。
【0043】
[接着性付与剤の調製]
まず、以下に示すようにして、(D)成分である接着性付与剤(a)〜(d)をそれぞれ調製した。
【0044】
(合成例1)
触媒量のPt触媒の存在下で、34gのメチルジメトキシシランと、64gの1,3,5−トリアリルイソシアヌレートを2時間ヒドロシリル化反応させた。こうして、前記した[化3]で表わされる(i)メチルジメトキシシリル基1個と(ii)ビニル基2個を有するイソシアヌル酸誘導体と、[化4]で表わされる(i)メチルジメトキシシリル基2個と(ii)ビニル基1個を有するイソシアヌル酸誘導体との混合物(接着性付与剤(a))を得た。収率は89%であった。
【0045】
(合成例2)
[化3]で表わされるイソシアヌル酸誘導体と[化4]で表わされるイソシアヌル酸誘導体との混合物107gと、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン108gを、触媒量のPt触媒の存在下で2時間ヒドロシリル化反応させた。こうして、[化7]で表わされる(i)メチルジメトキシシリル基1個と(ii)Si−H基2個を有するイソシアヌル酸誘導体と、[化8]で表わされる(i)メチルジメトキシシリル基2個と(ii)Si−H基1個を有するイソシアヌル酸誘導体との混合物(接着性付与剤(b))を得た。収率は74%であった。
【0046】
(合成例3)
触媒量のPt触媒の存在下で、39gのメチルジエトキシシランと、70gの1,3,5−トリアリルイソシアヌレートを2時間ヒドロシリル化反応させた。こうして、[化5]で表わされる(i)メチルジエトキシシリル基1個と(ii)ビニル基2個を有するイソシアヌル酸誘導体と、[化6]で表わされる(i)メチルジエトキシシリル基2個と(ii)ビニル基1個を有するイソシアヌル酸誘導体との混合物(接着性付与剤(c))を得た。収率は97%であった。
【0047】
(合成例4)
触媒量のPt触媒の存在下で、以下の[化10]で表わされる1,3−ジアリル−5−グリシジルイソシアヌレート(商品名DA−MGIC;四国化成工業社製)69gと、28gのメチルジメトキシシランを2時間ヒドロシリル化反応させた。こうして、[化7]で表わされる(i) エポキシ基とメチルジメトキシシリル基、および(ii)ビニル基をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体(接着性付与剤(d))を得た。収率は95%であった。
【化10】

【0048】
実施例1
(A)(CH)SiO1/2単位と(CH)(CH=CH)SiO単位およびSiO単位からなるポリシロキサンと、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンの混合物(ビニル基含有ポリマー)(粘度6,000mPa・s)100部と、(B)分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された粘度が20mPa・sのメチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基の含有量が8.8mmol(当量)/g)3.9部((A)成分中のビニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル(当量)比(H/Vi)=1.5)、(C)塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を、(A)と(B)成分の合計量に対して白金金属元素に換算して10ppm、および合成例1で得られた接着性付与剤(a)0.5部をそれぞれ混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0049】
実施例2〜10、比較例1〜5
実施例1で使用した(A)ジメチルポリシロキサン(ビニル基含有ポリマー)と(B)メチルハイドロジェンポリシロキサンとを、表1および表2に示す割合で配合し、実施例1と同様に(C)白金系触媒(塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体)を配合した。さらに接着性付与剤として、合成例2〜4で得られた接着性付与剤(b)〜(d)、前記した[化8],[化9]で表わされる接着性付与剤(e),(f)、および接着性付与剤(g)〜(l)を、表1および表2に示す割合でそれぞれ配合し、実施例1と同様にしてポリオルガノシロキサン組成物を調製した。なお表1および表2においては、(C)白金系触媒の配合量の記載を省略した。
【0050】
接着性付与剤(e)〜(i)としては、それぞれ以下に示すものを使用した。
接着性付与剤(e)
………[化8]で表わされるグリシドキシ基を有するジアルコキシシラン
接着性付与剤(f)
………[化9]で表わされるメトキシシリル基を有する環状シロキサン
接着性付与剤(g)
………[化11]で表わされる1,3,5−トリアクリロキシエチルイソシアヌレート(新中村化学工業社製の商品名A−9300を使用)
接着性付与剤(h)
………[化10]で表わされる1,3−ジアリル−5−グリシジルイソシアヌレート(四国化成工業社製の商品名DA−MGICを使用)
接着性付与剤(i)
………[化12]で表わされる1−アリル−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート(四国化成工業社製の商品名MA−MGICを使用)
接着性付与剤(j)
………[化13]で表わされるトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート
接着性付与剤(k)
………[化14]で表わされるトリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート
接着性付与剤(l)
………[化15]で表わされる1,3,5−トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製の商品名TAICを使用)
【0051】
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0052】
次いで、実施例1〜10、比較例1〜5で得られた組成物について、150℃−1時間の条件で加熱成形して硬化物を形成し、JIS K 6301に準拠して、硬度(タイプA、A型スプリング試験機を用いて測定)を測定した。また、硬化物の透明性を肉眼で調べた。さらに、下記に示す方法でAg基材に対する接着性をそれぞれ測定した。これらの結果を表1および表2に示す。
【0053】
[Agに対する接着性の測定]
幅25mmのAg製の2枚の基材片(厚さ1mm)の一方の端部を、実施例1〜10、および比較例1〜5で調製された組成物からなる厚さ1mmの層を間に挟んで長さ10mmに亘って重ね、150℃で1時間加熱して組成物層を硬化させた。このようにして作製した試験体を、室温で12時間以上放置した後、試験体の両端を引っ張り試験機で引っ張り、凝集破壊率を測定した。そして、凝集破壊率が60%を超えるものを○、凝集破壊率が10〜60%のものを△、凝集破壊率が10%未満のものを×とそれぞれ評価した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1および表2の試験結果から明らかなように、実施例1〜10で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、比較例1〜5で得られた組成物に比べて、Ag基材に対して優れた接着性を有している。また、特に実施例1〜7および実施例9で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、透明性に優れた硬化物を提供するので、LEDランプのような発光装置の封止層や発光素子(LEDチップ)のダイアタッチ材として好適している。さらに、実施例3,5および実施例7〜10で得られたポリオルガノシロキサン組成物に対して、Ag基材に対する接着性の測定と同様にしてPPAからなる基材に対する接着性を調べたところ、60%を超える凝集破壊率が得られ、PPAに対する接着性に優れていることがわかった。
【0057】
実施例11、比較例6
実施例1〜10で使用した(A)ジメチルポリシロキサン(ビニル基含有ポリマー)100部に対して、(B)成分であるメチルハイドロジェンポリシロキサンを8.1部配合し、さらに(C)白金触媒(塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体)の触媒量と、合成例1で得られた接着性付与剤(a)1.5部をそれぞれ添加・混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。また、比較例6として、合成例1で得られた接着性付与剤(a)の代わりに、ビニルトリエトキシシラン1.5部を使用し、実施例11と同様にしてポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0058】
次いで、実施例11および比較例6で得られたポリオルガノシロキサン組成物を少量(約0.2mg)Ag基板上に塗布し、この上に4mm×4mmのSiチップ(厚さ0.5mm)を圧着し、150℃の温度で1時間加熱して組成物層を硬化させた。この接着試験片のダイシェア強度を米国STD−883に拠り測定したところ、比較例6のポリオルガノシロキサン組成物の凝集破壊率が0%であったのに対して、実施例11のポリオルガノシロキサン組成物の凝集破壊率は100%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン100重量部と、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基1個当たり、本成分中の前記水素原子の量が0.1〜4.0個となる量と、
(C)白金系触媒を触媒量と、
(D)接着性付与剤として、(D1)ジアルコキシシリル基を有し、かつエポキシ基、グリシドキシ基、架橋性のビニル基、およびヒドロシリル基(Si−H基)から選ばれる1種以上の基を有するイソシアヌル酸誘導体0.05〜5重量部
をそれぞれ含有してなることを特徴とする自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(D1)成分は、ジアルコキシシリル基と架橋性のビニル基をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体であることを特徴とする請求項1記載の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(D1)成分は、ジアルコキシシリル基とヒドロシリル基(Si−H基)をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体であることを特徴とする請求項1記載の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(D1)成分は、エポキシ基とジアルコキシシリル基、および架橋性のビニル基をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体であることを特徴とする請求項1記載の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
前記(D)接着性付与剤として、さらに(D2)エポキシ基、グリシドキシ基、アルコキシ基から選ばれる1種以上の官能基を有するシランまたはシロキサンを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
前記(D2)成分が、式:
【化1】

で表されるグリシドキシ基を有するジアルコキシシランおよび/またはその加水分解縮合物であることを特徴とする請求項5記載の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
前記(D1)成分が、ジアルコキシシリル基を有し、かつエポキシ基またはグリシドキシ基と、架橋性のビニル基またはヒドロシリル基(Si−H基)をそれぞれ有するイソシアヌル酸誘導体であり、かつ
前記(D2)成分が、式:
【化2】

で表されるメトキシシリル基を有する環状シロキサンおよび/またはその加水分解縮合物であることを特徴とする請求項5記載の自己接着性ポリオルガノシロキサン組成物。

【公開番号】特開2013−47354(P2013−47354A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−266951(P2012−266951)
【出願日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【分割の表示】特願2008−233514(P2008−233514)の分割
【原出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】