説明

自己流動性水硬性組成物、自己流動性水硬性モルタル及びコンクリート床構造体

【課題】安定して高い流動性を長時間維持でき、速硬性と水平レベル性に優れ、良好な表面仕上りが得られる自己流動性を有する水硬性組成物を提供する
【解決手段】水硬性成分と、細骨材と、流動化剤とを含む自己流動性水硬性組成物であって、細骨材が、細骨材(100質量%)中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、細骨材の吸水率が、1.6%以下である、自己流動性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床構造体等の構造物の施工に用いられる自己流動性水硬性組成物、それを用いた自己流動性水硬性モルタル及びそれを有するコンクリート床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルフレベリング材として使用される自己流動性水硬性組成物には、自己平滑性及び表面精度を確保するための高い流動性、流動保持性及び分離抵抗性、早期開放を可能にするに十分な速硬性、施工作業を容易にする面から適度の可使時間が取れることなどが要求される。
【0003】
高い流動性を有し、十分な可使時間を保持し硬化表面仕上りが良好な自己流動性水硬性組成物として、特許文献1には、凝結促進剤として硫酸アルミニウムとリチウム塩を含み、細骨材として100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を3〜20質量%、150μm以上〜850μm未満の粒子を97〜80質量%含む自己流動性水硬性組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、硫酸カリウムとリチウム塩を含み、細骨材として100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を3〜20質量%、150μm以上〜850μm未満の粒子を97〜80質量%含む自己流動性水硬性組成物が開示されている。
【0005】
また、材料分離を抑えて自己平滑性を得られるのに適した流動性を安定して得ることができるセメントの自己平滑性として、特許文献3には、150μm未満の粒子含有率が70%容積以上であって、接水24時間後の水和反応率5%以上の粒子含有率が10容積%以上35容積%以下であるセメント系自己平滑性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−162837号公報
【特許文献2】特開2008−162836号公報
【特許文献3】特開2008−037677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定して高い流動性を長時間維持でき、速硬性と水平レベル性に優れ、良好な表面仕上りが得られる自己流動性を有する自己流動性水硬性モルタルを得ることのできる自己流動性水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対し、細骨材の特性が水硬性組成物を用いたモルタルやモルタルの特性に及ぼす影響を鋭意検討し、特に、細骨材の粒度分布及び吸水率の影響を明らかにして本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第一は、水硬性成分と、細骨材と、流動化剤含む自己流動性水硬性組成物であって、細骨材が、細骨材(100質量%)中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、細骨材の吸水率が、1.6%以下である自己流動性水硬性組成物である。
【0010】
本発明の第二は、本発明の自己流動性水硬性組成物と、水とを混練して得られる自己流動性水硬性モルタルである。
【0011】
本発明の第三は、本発明の自己流動性水硬性モルタルの硬化体層を表層に有するコンクリート床構造体である。
【0012】
本発明の自己流動性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。好ましい態様は複数組み合わせることができる。
1)細骨材の粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、細骨材の単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、細骨材の実績率が55.0〜61.0%の範囲である。
2)水硬性成分(100質量%)は、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント5〜70質量%及び石膏5〜45質量%からなる。
3)自己流動性水硬性組成物が、さらに無機成分、凝結遅延剤、樹脂粉末、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分の少なくとも1種以上含む。
4)自己流動性水硬性組成物と、水とを混練りして調製した自己流動性水硬性モルタルのフロー値が210〜240mmの範囲であり、自己流動性水硬性モルタルの混練り直後から混練り後30分経過時点までのSL値が400〜600mmの範囲であり、自己流動性水硬性モルタルの混練り直後のSL値(L0)に対する混練り後20分経過時点のSL値(L20)及び混練り後30分経過時点のSL値(L30)の、L0=100と規格化したときの割合が100〜120の範囲である。
5)自己流動性水硬性組成物と、水とを混練して調製した自己流動性水硬性モルタルは、モルタル硬化体表面のショア硬度が、自己流動性水硬性モルタルを施工して3時間後に10以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、安定して高い流動性を長時間維持でき、速硬性と水平レベル性に優れ、良好な表面仕上りを得ることができる自己流動性水硬性モルタルを得ることのできる自己流動性水硬性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SL測定器を用いた、モルタルのセルフレベリング性評価の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、水硬性成分と、細骨材と、流動化剤とを含む自己流動性水硬性組成物であって、細骨材は、600μm以上の粒子径を有する粗粒分が少なく、その吸水率が1.6%以下であることを特徴とする自己流動性水硬性組成物に関する。本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる細骨材は、好ましくは、粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、実績率が55.0〜61.0%の範囲である。
【0016】
本発明において、細骨材の粒子径は、JIS Z8801:2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定する。また、本発明において、「600μm以上の粒子径を有する粗粒分」とは、600μm篩いを用いたときの残分の粒子の質量割合のことをいう。また、「吸水率」とは、JIS A1109:2006に規定されている骨材の吸水率(単位:%)をいう。また、「粗粒率」とは、JIS A1102:2006に規定されている骨材の粗粒率をいう。また、「単位容積質量」とは、JIS A1104:2006に規定されている骨材の単位容積質量(単位:kg/L)をいう。また、「実績率」とは、JIS A1104:2006に規定されている骨材の実績率(単位:%)をいう。
【0017】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる水硬性成分として、セメント成分と石膏とを含む水硬性成分を用いることができる。セメント成分としては、ポルトランドセメント及びアルミナセメント等から選択して用いることができる。
【0018】
水硬性成分に用いられるポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント並びに高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントなどの混合セメントなどから選択して用いることができる。
【0019】
水硬性成分に用いられるアルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、いずれも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0020】
本発明の自己流動性水硬性組成物では、水硬性成分のひとつとして石膏を用いることができる。石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0021】
本発明の自己流動性水硬性組成物で用いる石膏は、フッ酸製造工程等で副産される石膏、又は天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。
【0022】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが、優れた自己流動性を有し、適正な可使時間と、優れた速硬性とを有する自己流動性水硬性組成物が得られることから好ましい。
【0023】
本発明の自己流動性水硬性組成物の水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計質量を100質量部とした場合に、好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜70質量部、ポルトランドセメント15〜60質量部及び石膏10〜40質量部からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント35〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部からなる組成、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント25〜40質量部及び石膏17〜27質量部からなる組成を用いることが好ましい。このような組成とすることにより、自己流動性に優れる水硬性モルタル(自己流動性水硬性モルタル)を得ることができ、さらに速硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得ることが容易となるためである。
【0024】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分と、細骨材と、流動化剤とを含む。細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部の範囲が好ましい。
【0025】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる細骨材の粒度としては、その600μm以上の粒子径を有する粗粒分が、好ましくは同粗粒分を5質量%未満含むもの、より好ましくは同粗粒分を3質量%未満含むもの、さらに好ましくは同粗粒分を0.15質量%未満含むものを主成分としていることが好ましい。同粗粒分の下限は特に制限がなく、600μm以上の粒子径を有する粗粒分は0質量%であってもよい。
【0026】
優れた自己流動性を得るために、本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる細骨材の吸水率として、好ましくは1.60%以下、より好ましくは1.40%以下、さらに好ましくは、1.28%以下のものを主成分であることが好ましい。細骨材の吸水率の下限は特に制限がなく、吸水率は0%であってもよい。
【0027】
また、優れた自己流動性を得るために、本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる細骨材の粗粒率としては、好ましくは1.00〜1.40、より好ましくは1.10〜1.35、さらに好ましくは1.12〜1.30であることが好ましい。
【0028】
また、優れた自己流動性を得るために、本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる細骨材の単位容積質量として、好ましくは1.45〜1.70kg/L、より好ましくは1.50〜1.60kg/L、さらに好ましくは1.52〜1.55kg/Lであることが好ましい。
【0029】
また、優れた自己流動性を得るために、本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる細骨材の実績率としては、好ましくは55.0〜61.0%、より好ましくは56.0〜60.0%、さらに好ましくは57.0〜59.0%であることが好ましい。
【0030】
細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒及び石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム及び発砲樹脂などの樹脂粉砕物などから適宜選択して用いることができる。特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末及びアルミナクリンカーなどから選択したものを好ましく用いることができる。
【0031】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を含む。水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
【0032】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸系などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤を用いることが好ましい。
【0033】
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、より好ましくは0.05〜1.0質量部、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず、単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0034】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材と、流動化剤とを含み、さらに無機成分、凝結遅延剤、凝結促進剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を1種以上含むことが好ましい。
【0035】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含み、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。本発明の自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。
【0036】
本発明の自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがあるためである。高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0037】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や自己流動性水硬性組成物に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、自己流動性水硬性組成物の可使時間と速硬性とを調整することができる。
【0038】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、酒石酸類、リンゴ酸類、クエン酸類及びグルコン酸類などのオキシカルボン酸類を代表とする有機酸や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム及びトリポリリン酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0039】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
【0040】
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩など)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩など)などを挙げることができ、ナトリウム塩がより好ましい。また、特に、重炭酸ナトリウム及び酒石酸一ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましく、これらを併用することが、さらに好ましい。
【0041】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる凝結遅延剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.1〜1.5質量部、さらに好ましくは0.2〜1.2質量部、特に好ましくは0.4〜1質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。さらに、凝結遅延剤の添加量を、前記の好ましい範囲に調整することにより、自己流動性(セルフレベリング性)を有し、好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を有するモルタルを得ることができるため好ましい。
【0042】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。凝結促進剤としては、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩及び酸アルミニウムなどの硫酸塩を好適に用いることができ、これらを数種組み合わせて使用することができる。
【0043】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム及び水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム及びクエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などを挙げることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0044】
凝結促進剤としては、自己流動性水硬性組成物の特性を妨げない粒子径のものを用いることが好ましく、粒子径は50μm以下にすることが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒子径は50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下であることが好ましい。リチウム塩の粒子径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0045】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.02〜0.4質量部、特に好ましくは0.04〜0.3質量部の範囲で用いることによって、自己流動性水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性が得られることから好ましい。凝結促進剤の添加量を、前記の好ましい範囲に調整することにより、自己流動性(セルフレベリング性)を有し、良好な可使時間を確保したのち、好適な速硬性を発現するモルタルを得ることができるため好ましい。
【0046】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテル等の加工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることができる。増粘剤の添加量は、本発明の自己流動性水硬性組成物の特性を損なわない範囲で添加することができる。具体的には、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.01〜1.5質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部、特に好ましくは0.1〜0.6質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0047】
本発明の自己流動性水硬性組成物において、増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制及び硬化体表面の改善に対して好ましい効果を与え、自己流動性水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0048】
本発明の自己流動性水硬性組成物に含まれる消泡剤は、シリコン系、アルコール系及びポリエーテル系などの合成物質、鉱物油系、又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。消泡剤の添加量は、本発明の自己流動性水硬性組成物の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.01〜1.5質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部、特に好ましくは0.1〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内であることが、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0049】
本発明の自己流動性水硬性組成物では、乾燥クラックの防止・抑制効果をより高める場合などには、収縮低減剤及び樹脂粉末などを適宜選択して用いることができる。
【0050】
本発明の自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、硅砂などの細骨材、流動化剤、無機成分、凝結調整剤、増粘剤並びに消泡剤を含むものである。
【0051】
所定の水硬性成分及び無機成分、細骨材、流動化剤、無機成分、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤などを混合機で混合することによって、本発明の自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0052】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌することによって、自己流動性を有する水硬性モルタル(自己流動性水硬性モルタル)を製造することができる。また、その自己流動性水硬性モルタルを硬化させることによって自己流動性水硬性モルタルの硬化体を得ることができる。
【0053】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌することによって自己流動性水硬性モルタルを製造することができる。このとき、水の添加量を調整することにより、自己流動性水硬性モルタルの流動性、可使時間、材料分離性、硬化体の強度などを調整することができる。
【0054】
水の添加量は、自己流動性水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは10〜40質量部、より好ましくは14〜34質量部、さらに好ましくは18〜30質量部、特に好ましくは22〜28質量部の範囲で添加して用いることが、適切な流動性を得るために好ましい。
【0055】
本発明の自己流動性水硬性モルタルは、水と混練りして調製した自己流動性水硬性モルタルのフロー値が、好ましくは210〜240mm、より好ましくは210〜230mm、さらに好ましくは210〜225mmに調整されていることが、施工の容易さ、及び平滑性高く硬度の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0056】
さらに、自己流動性水硬性モルタルの混練り直後のSL値(L0)に対する混練り後20分経過時点のSL値(L20)及び混練り後30分経過時点のSL値(L30)の、L0=100と規格化したときの割合が、好ましくは100〜120、より好ましくは100〜115の範囲に調整されていることが、施工の容易さ、及び平滑性が高く硬度の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0057】
本発明の自己流動性水硬性モルタルは、施工終了後0.5時間〜3時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。自己流動性水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、モルタルの打設(施工)から好ましくは3時間後に10以上、より好ましくは3時間後に20以上、さらに好ましくは3時間後に30以上、特に好ましくは3時間後に40以上の値が得られ、スラリー施工が終了した後、速やかに硬化が進行することによって自己流動性水硬性モルタルの施工を完了することができる。
【0058】
本発明の自己流動性水硬性組成物を用いると、安定して高い流動性を長時間維持できる自己流動性水硬性モルタルを得ることができる。本発明の自己流動性水硬性モルタルは、良好なハンドリング性が得られ、さらに速硬性並びに表面の平滑性及び精度に優れており、良好な仕上り表面を有する硬化体を安定して得ることができる。本発明の自己流動性水硬性モルタルは、優れた自己流動性を生かしてセルフレベリング材として用いる場合は、学校、マンション、コンビニエンスストア、病院、ベランダ、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房及び屋上などの床下地や床仕上げ材に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0060】
(1)モルタルの評価:
評価に用いるモルタルは、水硬性組成物と水とを混練して調製した混練直後の水硬性モルタルを用いる。
【0061】
・セルフレベリング性(自己流動性):フロー値及びSL値
フロー値は、JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き、練り混ぜた水硬性モルタル組成物を充填した後、パイプを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
【0062】
・SL値
SL値は、図1に示すSL(セルフレベリング性)測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のモルタルを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)から水硬性モルタル流れの先端の最も標点に近い部分(最短部)までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とする。
【0063】
同様に成形後10分、20分又は30分後に堰板を引き上げて、モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタル流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL10、L20又はL30とする。また、L0=100となるようにL0の値で規格化した指数を、SL値指数という。
【0064】
・流動速度
SL値の測定において、堰板を引き上げた時点より、モルタル流れの先端部の移動距離が200mmとなるまでの秒数(s/200mm)を流動速度とする。
【0065】
・評価条件
上記の評価は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
【0066】
(2)硬化体表面の状態
水硬性モルタル硬化体表面の状態は、調製した水硬性モルタルを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、硬化後材齢24時間で、表面仕上りを目視で観察することで評価した。評価は以下の通りとした。評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
○:凹凸無し、×:凹凸有り。
【0067】
(3)硬化体表面のショア硬度
水硬性モルタル打設後からの所定の経過時間の後に、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の4カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とする。本発明の実施例及び比較例の場合は、3時間後のショア硬度を測定した。
【0068】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:天然無水石膏(ブレーン比表面積4500cm/g)。
2)細骨材
下記において、「600μm篩い残分」とは、600μm篩いを用いたときの残分の粒子の質量割合(600μm以上の粒子径を有する粗粒分)である。
・珪砂A:珪砂(吸水率=1.16%、600μm篩い残分=0.1質量%、粗粒率=1.27、単位容積質量=1.54kg/L、実績率=58.8%)
・珪砂B:珪砂(吸水率=1.25%、600μm篩い残分=0.1質量%、粗粒率1.15、単位容積質量=1.53kg/L、実績率=57.5%)
・珪砂C:珪砂(吸水率=3.84%、600μm篩い残分=0.8質量%、粗粒率=1.13、単位容積質量=1.40kg/L、実績率=56.8%)
・珪砂D:珪砂(吸水率=1.96%、600μm篩い残分=9.0質量%、粗粒率=1.49、単位容積質量=1.51kg/L、実績率=58.7%)
・珪砂E:珪砂(吸水率=1.68%、600μm篩い残分=14.2質量%、粗粒率=1.59、単位容積質量=1.62kg/L、実績率=61.9%)
・珪砂F:珪砂(吸水率=1.78%、600μm篩い残分=0.1質量%、粗粒率=1.27、単位容積質量=1.54kg/L、実績率=59.6%)
3)流動化剤:ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
4)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
5)凝結調整剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)。
・炭酸Li :炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)。
・硫酸Al :無水硫酸アルミニウム(大明化学工業社製)
6)増粘剤 :ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX−30000、松本油脂社製)。
7)消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
【0069】
<実施例及び参考例>
表1に示す水硬性成分、細骨材、流動化剤、無機成分、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を調製し、さらに水390gを加えて3分間混練して、水硬性モルタルを得た。水硬性組成物及びモルタルの調製は、温度20℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
【0070】
得られた水硬性モルタルを用いて、SL(セルフレベリング)特性、ショア硬度発現性、硬化体表面仕上りの評価を行った結果を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
比較例1〜4に示すように、吸水率が高い細骨材を用いた水硬性モルタルの場合、流動性が低下する一方で、流動性が一定とならず、20〜30分経過した後に流動性が増加する傾向であった。また、比較例2、3に示すように、粒度において600μm篩い残分が高い細骨材を使用した場合は、硬化後の表面精度は悪くなった。
【0074】
これに対して、実施例1〜2に示すように、吸水率が低く、粒度において600μm残分が低い細骨材を使用した自己流動性水硬性モルタルの場合、流動性は高く、かつ長時間ほぼ一定に保持されており、硬化後の表面精度も良好であった。
【0075】
上述の実施例から、本発明の自己流動性水硬性組成物を用いた自己流動性水硬性モルタルは、高い流動性を安定して長時間維持できることから、良好なハンドリング性が得られ、さらに速硬性と水平レベル性に優れており、表面精度の良好な仕上り表面を有する硬化体を安定して得ることができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性成分と、細骨材と、流動化剤とを含む自己流動性水硬性組成物であって、
細骨材が、細骨材(100質量%)中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、
細骨材の吸水率が、1.6%以下である、自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
細骨材の粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、
細骨材の単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、
細骨材の実績率が55.0〜61.0%の範囲である、請求項1記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性成分(100質量%)が、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント5〜70質量%及び石膏5〜45質量%からなる、請求項1又は2記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
自己流動性水硬性組成物が、さらに無機成分、凝結遅延剤、樹脂粉末、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分の少なくとも1種以上を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
自己流動性水硬性組成物と、水とを混練りして調製した自己流動性水硬性モルタルのフロー値が210〜240mmの範囲であり、
自己流動性水硬性モルタルの混練り直後から混練り後30分経過時点までのSL値が、400〜600mmの範囲であり、
自己流動性水硬性モルタルの混練り直後のSL値(L0)に対する混練り後20分経過時点のSL値(L20)及び混練り後30分経過時点のSL値(L30)の、L0=100と規格化したときの割合が、100〜120の範囲である、請求項1〜4のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
自己流動性水硬性組成物と、水とを混練して調製した自己流動性水硬性モルタルのモルタル硬化体表面のショア硬度が、自己流動性水硬性モルタルを施工して3時間後に10以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物と、水とを混練して得られる自己流動性水硬性モルタル。
【請求項8】
請求項7記載の自己流動性水硬性モルタルの硬化体層を表層に有するコンクリート床構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−229009(P2010−229009A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81455(P2009−81455)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】