説明

自己組織化多層膜形成方法

【課題】多層膜形成時間の短縮と、膜厚の制御、及びプロセスの簡略化を可能とする、自己組織化多層膜の形成方法を提供する。
【解決手段】表面に金属酸化物からなる層を有する基板を、自己組織化膜形成用化合物の溶液中に浸漬することにより、該基板上に自己組織化多層膜を形成する方法において、自己組織化膜形成用化合物として、分子の両端にホスホン酸基又はカルボン酸基を持つ有機化合物を用いるとともに、該化合物の溶液のpHを制御することにより、自己組織化多層膜を短時間に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化多層膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己組織化膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)は、基板表面に、分子が自発的に吸着・結合し、自ら組織化しながら基板表面に単分子層が形成され、最終的には緻密な構造が形成された膜である。
従来、液相で自己組織化膜を形成する方法はよく知られており、特定の化合物を含有する溶液の中に基材を浸漬し一定時間保持し、その後洗浄、乾燥させることにより、基材上に自己組織化膜を形成させる方法が、最も一般的に用いられている方法である。具体的には、自己組織化膜形成用化合物として、基板が、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化錫、ITOなどの金属酸化物である場合には、有機アルコキシシラン類、有機ハロシラン類、有機ジシラン類、カルボン酸類、ホスホン酸類等の該酸化物と反応する化合物が用いられ、基板が金属である場合には、チオール類、スルフィド類等が用いられている。
【0003】
該自己組織化膜を、基板上に多層設けた自己組織化多層膜を各種のデバイスの応用することも、多数提案されている。
自己組織化多層膜は、前述の単分子層の形成方法を応用して形成される。
例えば、前述の自己組織化膜形成用化合物として、末端に水酸基、アミノ基などの反応性官能基を有する化合物を用い、基板上に第1層を形成した後、その上に該自己組織化膜形成用化合物を用いて第二層以降を積層する方法がある。
特許文献1は、該方法を用いて、電子写真感光体を作製したことが記載されている。
【0004】
また、両端に、ホスホン酸、カルボン酸等の反応性官能基を有する化合物の溶液と、金属イオンを含んだ溶液とを用い、両溶液に交合に浸漬する手法もある(非特許文献1)。図3は、該形成方法を示すものであって、図に示すとおり、溶媒に、両端に、例えば、ホスホン酸、カルボン酸等の反応性官能基を有する分子を溶解して、その溶液に基板を浸漬し、さらにZrなどの金属イオンを含んだ溶液に浸漬することを交互に繰り返す手法である。
さらに、特許文献2には、メルカプトカルボン酸の溶液、カルボン酸銅の溶液、及びアルキルチオールの溶液の3種の溶液を用いて、同様な方法で、金属基板に組織化された多層の分子膜を設けることにより、摩擦を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−292731号公報
【特許文献2】特開2005−53116号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Ishida et al., Appl.Surf.Sci. 255 (2009) 8824.
【非特許文献2】G.M. Whiteside et al., J. Phys. Chem. 1991, 95, 7017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前者の方法では、反応性官能基が、自己組織化膜形成部位と反応する場合には、形成する層の数の制御が困難となることから、反応性官能基を予め保護した自己組織化膜形成用化合物を用いて第一層を形成した後、加水分解などの手法で保護基を脱離し、その後に第二層目を形成する必要がある。したがって、浸漬処理以外に、加水分解などの他の工程が必要となり、手間や時間がかかるなどの問題がある。
また、後者の金属の溶液を用いる方法は、浸漬処理だけでよいものの、用いる溶液を変える際に双方の溶液の成分の混合が起こりやすいという問題がある。
【0008】
今後、自己組織化多層膜を種々のデバイスに適用して、具体的にその製造技術を活かすには、自発的構造制御をより積極的に制御する手法の開発が必要である。また、デバイスへの適用のための成膜法の確立と実用的な成膜速度の確保も大きな課題となってくる。しかしながら、簡便な方法で、実用的な成膜速度で、しかも、膜厚の制御が可能な、自己組織化多層膜の形成方法が見いだされていないのが現状である。
【0009】
本発明は、こうした従来技術における課題を鑑みてなされたものであって、多層膜形成時間の短縮と、膜厚の制御、及びプロセスの簡略化を可能とする、自己組織化多層膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、多層膜形成時にpHを調整することでホスホン酸、カルボン酸間に水素結合を生じさせることにより、自発的に多層膜を形成させることができるという知見を得た。
【0011】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]表面に金属酸化物からなる層を有する基板を、自己組織化膜形成用化合物の溶液中に浸漬することにより、該基板上に自己組織化多層膜を形成する方法において、
自己組織化膜形成用化合物として、分子の両端にホスホン酸基又はカルボン酸基を持つ有機化合物を用いるとともに、該化合物の溶液のpHを制御することにより、多層膜を形成することを特徴とする自己組織化多層膜形成方法。
[2]前記溶液のpHが3であることを特徴とする上記[1]の自己組織化多層膜形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のように、反能性官能基や金属イオン等による介在を必要とせずに、簡便な方法で、迅速に自己組織化多層膜を形成することができる。また、本発明の方法によれば、pHを制御することにより、膜厚を変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自己組織化多層膜形成方法を模式的に示す図。
【図2】本発明の実施例1に用いた錯体化合物の構造を示す図。
【図3】従来の自己組織化多層膜形成方法の1例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の自己組織化多層膜を形成する方法は、表面に金属酸化物からなる層を有する基板を、自己組織化膜形成用化合物の溶液中に浸漬することにより、該基板上に自己組織化多層膜を形成する方法であって、該自己組織化膜形成用化合物として、分子の両端にホスホン酸基又はカルボン酸基を持つ有機化合物を用いるとともに、該化合物の溶液のpHを制御することにより、多層膜を形成することを特徴とするものである。
図1は、本発明の方法を模式的に示す図であって、一般式−P−O(OH)n(nは整数)で表わされるホスホン酸、又は−COOHで表されるカルボン酸を、分子の両端に有する化合物を用いて、前記基板上への製膜を示すものである。
【0015】
図1と、前述の従来法を示す図3を比較すると明らかなとおり、本発明の方法は、上記化合物を用いた系において、pHを小さくすることによって、図3に示すような従来の錯形成工程、すなわち、金属イオンをホスホン酸基間にはさむプロセス、を省略した自己組織化分子多層膜の製膜が可能となるものである。
【0016】
本発明において、自己組織化膜形成用化合物としては、分子の両端にホスホン酸基又はカルボン酸基を持つ有機化合物であれば、特に限定されるものではなく、適用するデバイスに応じて、各種の有機化合物が用いられる。また、両端に、ホスホン酸基又はカルボン酸基が少なくとも1つ以上あればよく、その数も限定されるものではない。
すなわち、例えば、膜厚の大きいものを得たい場合には、後述する実施例1に用いたような錯体化合物を用いることができ、また、膜厚の小さいものを得たい場合には、後述する実施例2に用いたような、アルキル基を中心として構成される化合物が用いられる。
【0017】
また、本発明における該有機化合物の溶液に用いる溶媒は、特に限定されるものではなく、エタノール、メタノール、等が用いられるが、好ましくは、アルコール類が用いられる。蒸発しにくくかつ溶質と反応しないものが好ましい。濃度についてはこれらの分子の溶解度以下であることが好ましい。また、溶液のpHは、塩酸やKOHを適宜溶液に加えることにより制御する。
【0018】
さらに、本発明における金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化錫、ITOなどが挙げられるが、これらのものに限定されるものではない。
金属酸化物を堆積できる基板としては、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(ホスホン酸基を持つ錯体分子単分子膜の作成手法)
図3に示す、4つのホスホン酸基を持つ錯体分子を用い、0.2mMメタノール:水の1:1溶液(pH=6)を用意し、該溶液に、100nmのITOが形成されたガラス基板を浸漬した。浸漬時間は、それぞれ30秒、30分、1時間、3時間、15時間、及び24時間の6通りとした。
その後、それぞれの基板を、純粋なメタノールと水の1:1混合溶媒中で1分洗浄することによって、基板と結合していない分子を洗い流した。
同様な溶液に、HClを適量加えることにより、pHを3とし、この溶液に同じ錯体分子を同量添加した。この溶液に、前記と同様にしてITO付きガラス基板を浸漬し、浸漬終了後、同様に洗浄し、余剰の分子を洗い流した。
【0020】
(SAM形成の確認)
まず、得られたSAMの分子の表面における量をX線光電子分光法(XPS サーモエレクトロン社製 シータプローブ)で評価した。
錯体分子の場合、pH=6で作製した場合には、基板のInに対する分子由来の炭素のピークの比率は、浸漬時間30秒、30分、1時間、3時間で、それぞれ1.76、3.
16、3.05、3.69となった。また、それ以降の時間では大きく増加しなかった。
下記の式(1)による計算(非特許文献2参照)により、分子長に対応する3.7ナノメートルの厚さの分子膜が形成されているものと判断される。
d=λ ln{1+a(S/S)}・・・・・・・(1)
[式中、d:膜厚(nm)、λ:光電子脱出の平均自由行程(ITO膜に帰属されるIn3dによる光電子)、a:定数、S:C1sのピーク面積、S:In3dのピーク面積とし、単分子膜の平均値S/Sを4.53、膜厚dを分子モデルから考えられる理論値3.7nmとし、λ=3.5nmとした場合に、本分子系では、a=0.42と算出される。]
一方、pH=3の場合には、板のInに対する分子由来の炭素のピークの比率は、浸漬時間30秒、30分、1時間、3時間、15時間、24時間で、それぞれ3.86、8.56、34.3、30.2、144、134となり、pH=6のときの値よりはるかに大きくなった。
【0021】
(比較例)
同じ錯体分子を用いて、ホスホン酸間にZrイオンを介して作製した多層膜を形成し、1層、3層、5層の膜の量を同様にXPSで評価した。
基板のInに対する分子由来の炭素のピークの比率は、1層、3層、5層でそれぞれ15.6、79.3、350.5となった
【0022】
作製した多層膜のC/In比と比較すると、pH=6の場合には、長時間の浸漬でも単分子膜とみなされるが、pH=3の場合には、1時間、15時間でそれぞれ約2.5層、及び約4層に相当する多層膜が形成されているものとみなされる。
【0023】
(実施例2)
(AM形成の確認)
同様の効果を、アルキル基を中心と構成されるオクチルジホスホン酸分子についても検討した。
pH=6で作製した場合には、基板のInに対する分子由来の炭素のピークの比率は浸漬時間30秒、30分、1時間、3時間、15時間、24時間で、それぞれ0.84、0.83、0.69、0.92、0.92、1.09となった。また、それ以降の時間では大きく増加しなかった。
逆に、pH=3の場合には、ITO基板のInに対する分子由来の炭素のピークの比率は浸漬時間30秒、30分、1時間、3時間、15時間、24時間で、それぞれ0.73、1.45、1.52、2.23、4.31、5.06となり、錯体分子の時と同様にpH=6のときの値よりはるかに大きくなった。
【0024】
以上の結果より、多層膜形成時にpHを調整することでホスホン酸、カルボン酸間に水素結合を生じさせることにより、自発的に多層膜を形成させる効果を見出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属酸化物からなる層を有する基板を、自己組織化膜形成用化合物の溶液中に浸漬することにより、該基板上に自己組織化多層膜を形成する方法において、
自己組織化膜形成用化合物として、分子の両端にホスホン酸基又はカルボン酸基を持つ有機化合物を用いるとともに、該化合物の溶液のpHを制御することにより、多層膜を形成することを特徴とする自己組織化多層膜形成方法。
【請求項2】
前記溶液のpHが3であることを特徴とする請求項1に記載の自己組織化多層膜形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate