説明

自律神経活動活性化剤

【課題】
経口投与組成物として好適な、生体内において即効に作用する、優れた自律神経活動の活性化剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
バラ科アロニア・メラノカルパ及び/又はヒノキ科セイヨウネズの植物体の抽出物を含有するカプセルを服用することにより、経時的に交感神経、副交感神経、熱産生に関与する交感神経といった、自律神経の活動が上昇することを見いだした。これらを含有する錠剤やドリンク製剤などの、経口投与組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品組成物に関し、さらに詳しくは、バラ科アロニア属及び/又はヒノキ科ビャクシン属の植物体の抽出物からなる自律神経活動活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経は、交感神経系と副交感神経系で構成されており、これら二つの神経系のバランスにより、血管、内臓の働きをコントロールし、体内の環境を整え、さらには呼吸、血液循環、消化吸収、排泄、内分泌、熱産生等のシステムを調整し、生命維持に必要な体内循環を整える役割を果たしている。このような自律神経は、加齢、体調不良、疾病やストレス、疲労等により交感神経系と副交感神経系のバランスが崩れると、血管収縮や疲労感や汗を異常にかく、等の症状が現れてくる。
【0003】
このような症状に対し、従来から自律神経の活動を上昇させるものとして、唐辛子や生姜等の辛味成分が知られているが、辛いことや胃腸への刺激が強いため、食品として一度に多量に摂取できないという課題が存し、有効に自律神経の活動を上昇させることが困難であった。このため、近年においては、各種薬効物質の機序が検討され、例えば、セサミンや、カルノシン、ペクチン加水分解物とD−リボース、コエンザイムQ10、カルニチンとの組み合わせ、海水ミネラル成分あるいは酸棗仁及び竜眼肉の抽出物(例えば、特許文献1,特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)などが知られるようになった。そして、これらの物質においては、前記唐辛子や生姜などにおけるような課題がないため、これらを飲料などのすぐに吸収できる食品剤型に配合し、即効的に自律神経の活動を上昇させることが望まれるようになった。しかしながら、これらの物質においても自律神経の活動を上昇させる効果はいまだ充分に高いものではなかった。さらに、熱産生に関与する交感神経活動を上昇させる効果を有するものは全く知られていない。
【0004】
一方、食品組成物において、バラ科アロニア属及び/又はヒノキ科ビャクシン属の植物体の抽出物に自律神経、特に熱産生に関与する交感神経の活動を上昇させる効果が存することは全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】再表2004−105749号公報
【特許文献2】再表2002−76455号公報
【特許文献3】特開2007−222128号公報
【特許文献4】特開2005−320278号公報
【特許文献5】特開2007−204419号公報
【非特許文献1】永井成美他「肥満研究」日本肥満学会,Vol.9,No.2,52(156)−59(163),2003
【非特許文献2】Matsumoto T.,et al,J.Nutr.Sci.Vitaminol.,46,309−315,2000
【非特許文献3】Matsumoto T.,et al,Obes.Res.,9,78−85,2001
【非特許文献4】Matsumoto T.,et al,Int.J.Obes.Relat.Metab.Disord.,23,793−800,1999
【非特許文献5】Shihara N.,et al,Int.J.Obes.Relat.Metab.Disord.,25,761−766,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、優れた自律神経活動活性化剤を提供することを課題とする。尚、本願において、自律神経の活動を活性化させるとは、主として交感神経系と副交感神経系との両方、及び熱産生に関与する交感神経の活動を活性化させることをいう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは優れた自律神経活動の活性化作用を有する物質を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、バラ科アロニア属及び/又はヒノキ科ビャクシン属の植物体の抽出物にその様な作用を見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)バラ科アロニア属及び/又はヒノキ科ビャクシン属の植物体の抽出物を含有することを特徴とする、自律神経活動活性化剤。
(2)前記バラ科アロニア属の植物がアロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)であることを特徴とする、(1)に記載の自律神経活動活性化剤。
(3)前記ヒノキ科ビャクシン属の植物がセイヨウネズ(Juniperus communis)であることを特徴とする、(1)又は(2)の何れかに記載の自律神経活動活性化剤。
(4)前記自律神経活動が、熱産生に関与する交感神経活動であることを特徴とする、(1)〜(3)の何れかに記載の自律神経活動活性化剤。
(5)(1)〜(4)の何れかに記載の自律神経活動活性化剤を含有することを特徴とする、経口投与組成物。
(6)食品であることを特徴とする、(5)に記載の経口投与組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた自律神経活動活性化剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の自律神経活動活性化剤は、バラ科アロニア属及び/又はヒノキ科ビャクシン属の植物体の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。これらの植物体の抽出物は、単独でも、組み合わせても使用することができる。前記バラ科アロニア属の植物としては、アロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)が好ましく例示できる。抽出物の作製に用いる植物部位としては、果実部が好適に例示できる。前記ヒノキ科ビャクシン属の植物としては、イブキ(ビャクシン) (Juniperus chinensis) 、カイヅカイブキ (J. chinensis 'Kaizuka') 、ハイビャクシン (J. chinensis var. procumbens) 、ミヤマビャクシン (J. chinensis var. sargentii) 、タマイブキ (J. chinensis 'Globosa') 、キンイブキ (J. chinensis 'Aurea') 、セイヨウネズ (J. communis) 、エンピツビャクシン (J. virginiana) 、コロラドビャクシン (J. scopulorum) 、ネズ (J. rigida) 、ケードネズ (J. oxycedrus) ハイネズ (J. conferta) 、サビナ (J. sabina) シマムロ (J. taxifolia) 、オキナワハイネズ (J. taxifolia var. lutchuensis)等が挙げられるが、イブキ(ビャクシン) (Juniperus chinensis) 、ハイビャクシン (J. chinensis var. procumbens) 、ミヤマビャクシン (J. chinensis var. sargentii) 、セイヨウネズ (J. communis)が好ましく例示でき、セイヨウネズ (J. communis)が特に好ましく例示できる。抽出物の作製に用いる植物部位としては、前記ヒノキ科ビャクシン属の植物体のいずれも果実部が好適に例示できる。抽出に際して、植物体乃至はその乾燥物は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出は、植物体乃至はその乾燥物1質量部に対して、溶媒を1〜30質量部加えて室温で24時間以上浸漬するか、1〜5時間以上還流することが好ましい。前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示でき、30〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%エタノール含有水溶液が特に好適に例示できる。浸漬後は不溶物を濾過により除去した後、溶媒を減圧濃縮等により除去することができるが、凍結乾燥による除去が特に好ましい。溶媒を除去した粉末組成物は、このまま粉末の状態で使用しても良いが、しかる後に、水と酢酸エチル、水とブタノール等の液液抽出や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィー等で分画精製しても良い。この様な抽出方法により得られた抽出物で、自律神経活動の活性化作用を有することが期待される。
【0010】
かかる成分は、生体内において自律神経活動の活性化作用を有する。尚、本願において、自律神経の活動を活性化させるとは、主として交感神経系と副交感神経系との両方、及び熱産生に関与する交感神経の活動を活性化させることをいうが、この中でも熱産生に関与する交感神経の活動を活性化させることが特に好ましい。
【0011】
本発明の自律神経活動活性化剤は、生体内において自律神経活動の活性化作用を高める目的で経口投与組成物として投与することが好ましい。経口投与組成物としては、例えば、菓子やパン、麺などの一般食品、ドリンク製剤、カプセル剤や錠剤の形態をとる、健康増進の目的を有する食品群(例えば、特定保健用食品等)、顆粒剤、粉末剤、カプセル剤や、錠剤の形態をとる、経口投与医薬品等が例示できるが、食品として用いることが特に好ましい。それぞれの製剤においては、許容される任意成分を含有することができる。この様な任意成分としては、食品であれば、塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、酢等の調味成分、着色成分、フレーバー等の矯臭成分、増粘剤、乳化・分散剤、保存料、安定剤、各種ビタミン類等が好適に例示でき、健康増進の目的を有する食品群や医薬品であれば、結晶セルロース、乳糖等の賦形剤、アラビヤガムやヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、クロスカルメロースナトリウム、デンプン等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、矯味、矯臭剤、着色剤、各種ビタミン類等が好ましく例示できる。これらを常法に従って処理することにより、本発明の経口投与組成物を製造することができる。この時、かかる植物体の抽出物は、固形分として、総量で、組成物全量に対して、0.05質量%〜100質量%、より好ましくは30質量%〜80質量%含有されることが好ましい。斯くして得られた、本発明の経口投与組成物は、それを飲用することにより、自律神経活動の活性化作用に優れる。この様な作用を発揮させるためには、前記植物の抽出物を総量で、1日あたり10〜1000mgを1回乃至は数回に分けて飲用することが好ましい。
【0012】
<製造例1>
バラ科のアロニア・メラノカルパの果実部の乾燥物を200g秤取り、粉砕した後2lの50質量%エタノール含有水溶液を加え、室温で24時間浸漬、抽出し、不溶物を濾過で取り除いた後、凍結乾燥し、110gの乾燥粉末を得た。
【0013】
<製造例2>
ヒノキ科セイヨウネズの果実部の乾燥物を200g秤取り、粉砕した後、2lの70%含水エタノ−ル水溶液を加え、2時間還流し、不溶物を濾過で取り除いた後、ろ液を濃縮、凍結乾燥し、97gの乾燥粉末を得た。
【実施例】
【0014】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0015】
<実施例1>自律神経活動測定試験その1
試験は成人男性8名を対象に実施した。被験者には実験当日は栄養ドリンク、コーヒー、紅茶などカフェインを多く含む飲料、香辛料などの刺激物の摂取を避け、測定開始の1時間30分前までに食事を済ませておくよう依頼した。被験者は座位にて胸部誘導心電図電極を装着し、30分間安静を保持したのち、8分間の心電図をサンプリングし、被検物摂取前のデータとした。製造例1に従って作製したアロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセル2個(1カプセルあたりアロニア・メラノカルパ抽出物を固形分として100mg含有)を被験物として水とともに摂取させ、摂取30分後、60分後及び90分後に8分間ずつの心電図のサンプリングを行った。自律神経活動は、非特許文献1に記載の方法に準じて行った心拍変動パワースペクトル解析により定量化した。具体的には、CM5誘導の心電図を多チャンネル生体アンプ(日本光電、MEG-6100)で増幅し、1024HzでA/D変換(Trans Era 410、Utah、USA)を行った。次にHTB-Basic(Trans Era、Utah、USA)で作成したプログラムを用いて、R-R間隔(心臓の拍動のリズムつまり心臓の拍動間の間隔で、常に変化しており、この間隔の変動を心拍変動と呼ぶ)を1ミリ秒の精度で求めたのち、R-R間隔を2Hzの時系列データに変換した。さらに、数値フィルターを用いR-R間隔時系列データのDC成分及びトレンドを除去し、ハミング・タイプのデータ窓を経て1024の連続したデータを高速フーリエ変換したパワースペクトルを求めた。得られたスペクトルから交感神経活動と副交感神経活動を分離、定量化するため、2つの周波数帯域、Low-frequency(LF)(0.03〜0.15Hz、「主に交感神経活動」(一部副交感神経活動を含む))、High-frequency(HF)(0.15〜0.5Hz、「副交感神経活動」)に加えて、「熱産生に関与する交感神経活動」として報告されている(非特許文献2非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5を参照)Very-low frequency(VLF)(0.007〜0.035Hz)も定量化した。さらに、0.007〜0.035Hz間の総和(Total power(TP))を「総自律神経活動」としてそれぞれの周波数帯域の積分値を評価の基準とした。各経過時間の測定値は、被験物摂取前の値に対してDunnettのt−検定を実施し、有意差検定を行った。結果を図1〜4に示す。
【0016】
図1〜4の結果より、アロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセルを摂取することにより、経時的に「総自律神経活動」、「主に交感神経活動」、「副交感神経活動」、及び「熱産生に関与する交感神経活動」いずれの自律神経活動も上昇が認められた。即ち、本願発明のアロニア・メラノカルパの抽出物を含有する経口投与組成物は、優れた自律神経活動の活性化作用を有することが判る。
【0017】
<実施例2>自律神経活動測定試験その2
実施例1と同様の試験を別の日に、同じ被験者を用いて実施した。被検物は製造例2に従って作製したセイヨウネズの抽出物を含有するカプセル2個(1カプセルあたりセイヨウネズ抽出物を固形分として100mg含有)を使用した。結果を図5〜8に示す。
【0018】
図5〜8の結果より、セイヨウネズの抽出物を含有するカプセルを摂取することによっても、アロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセルの効果と同様に、経時的に「総自律神経活動」、「主に交感神経活動」、「副交感神経活動」、及び「熱産生に関与する交感神経活動」いずれの自律神経活動も上昇が認められた。即ち、本願発明のセイヨウネズの抽出物を含有する経口投与組成物は、優れた自律神経活動の活性化作用を有することが判る。
【0019】
<実施例3〜7>
以下の表1及び表2に示す処方に従って、本願発明の健康食品を作製した。即ち、処方成分を10重量部の水と共に転動相造粒(不二パウダル株式会社製「ニュ−マルメライザ−」)し、打錠して錠剤状の健康食品1〜5を得た。本願発明の健康食品1〜5は、優れた自律神経活動の活性化作用を示していた。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
<実施例8〜12>
表2に記載の「本発明の自律神経活動の活性化作用を有する植物体の抽出物」を含有するドリンク製剤の健康食品を表3に示す処方に従って作製した。即ち、処方成分を撹拌可溶化しドリンク製剤の健康食品6〜10を得た。本願発明の健康食品6〜10は、優れた自律神経活動の活性化作用を示していた。
【0023】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、機能性食品等の食品に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「総自律神経活動」変化を示す図である。
【図2】アロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「主に交感神経活動」変化を示す図である。
【図3】アロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「副交感神経活動」変化を示す図である。
【図4】アロニア・メラノカルパの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「熱産生に関与する交感神経活動」変化を示す図である。
【図5】セイヨウネズの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「総自律神経活動」変化を示す図である。
【図6】セイヨウネズの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「主に交感神経活動」変化を示す図である。
【図7】セイヨウネズの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「副交感神経活動」変化を示す図である。
【図8】セイヨウネズの抽出物を含有するカプセルを摂取したときの、「熱産生に関与する交感神経活動」変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ科アロニア属及び/又はヒノキ科ビャクシン属の植物体の抽出物を含有することを特徴とする、自律神経活動活性化剤。
【請求項2】
前記バラ科アロニア属の植物がアロニア・メラノカルパ(Aronia melanocarpa)であることを特徴とする、請求項1に記載の自律神経活動活性化剤。
【請求項3】
前記ヒノキ科ビャクシン属の植物がセイヨウネズ(Juniperus communis)であることを特徴とする、請求項1又は2の何れかに記載の自律神経活動活性化剤。
【請求項4】
前記自律神経活動が、熱産生に関与する交感神経活動であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の自律神経活動活性化剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の自律神経活動活性化剤を含有することを特徴とする、経口投与組成物。
【請求項6】
食品であることを特徴とする、請求項5に記載の経口投与組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−178741(P2011−178741A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46234(P2010−46234)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】