説明

自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム

【課題】二酸化炭素を発生させることなく低級炭化水素の直接分解プロセスを実行することを可能にする。
【解決手段】低級炭化水素の直接分解プロセスシステムとして、低級炭化水素を導入して、触媒によって水素と炭素に分解反応させ、生成された水素および残ガスを取り出す反応管1と、水素を燃焼ガスとして前記反応管を加熱する加熱手段13と、前記生成水素を前記加熱手段に供給する供給路11と、前記供給路に設けられた流量調整器12とを備える。水素と炭素に分解反応させる際に、反応で生成した水素を燃料として燃焼させ、その燃焼熱を前記反応に利用することで、外部からの熱供給を必要としないでエネルギー的に自立したプロセスを二酸化炭素を発生させることなく実行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタンなどの低級炭化水素を直接分解して高純度水素とナノサイズ機能性炭素とを製造する技術分野に関するものであって、生成した水素の一部を燃料として使用して、反応に利用する自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、化学反応には熱エネルギーを必要とするものが多く、化学反応を行う反応管を加熱するなどの方法が採られている。一般的に、反応管の加熱源としては電気的なヒーターで加熱する方法と、メタンガスやプロパンガスなどの可燃性の炭化水素を燃料としてバーナーで燃焼して加熱する方法がある。燃焼バーナーを使用する場合、反応プロセスから発生する余剰なオフガスを燃料として用い、バーナーで燃焼させることで燃料を節約するようにした方法がある(例えば特許文献1)。
しかし、従来、一般的に使われている燃焼バーナーでは、メタンやプロパンなどの炭化水素を燃料としており、また特許文献1のような方法を用いたとしてもオフガス中に炭化水素を含んでいるため、燃焼排ガス中に二酸化炭素を含むこととなる。水素を使った燃料電池などは、二酸化炭素を発生させないクリーンなエネルギー源として期待されているが、その水素を製造する過程で二酸化炭素を発生させるのは問題である。
【0003】
これに対し、従来、反応炉を加熱する燃焼バーナーとして、燃焼排ガス中に二酸化炭素を含まないようにしたものも提案されている(特許文献2参照)。図2は、その中で提案されているものを概略的に示すものであり、図において20はこのプロセスの主目的である水蒸気発生装置であり、該水蒸気発生装置20を加熱するバーナー(図示しない)を備えた燃焼装置21を有している。22は前記バーナーの燃料となる水素を、炭化水素燃料を原料として発生させる改質装置であり、該改質装置22で改質された水素と炭酸ガスとを圧縮冷却して分離する水素/炭酸ガス分離装置23を有している。
次に、上記装置の動作について説明する。余熱器(図示しない)によって余熱された炭化水素を含んだ可燃性ガスを、高温の水蒸気と混合させ、この混合ガスを改質装置22で水素と炭酸ガスに改質する。次いでその水素と炭酸ガスを水素/炭素ガス分離装置23で分離する。水素は燃焼装置21に供給され、水蒸気発生装置20を加熱するバーナーの燃料として使うことで、二酸化炭素を含まない燃焼排ガスを発生させる。一方、分離して得られた炭酸ガスは海底に埋蔵することを想定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2006−2991号公報
【特許文献2】特開平05−320669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献2で示した提案方法では、燃焼排ガス中に二酸化炭素を含まないように一度燃料を水蒸気改質して水素のみを燃焼させる方法をとっている。しかし、この方法においても、水蒸気改質の際に水素とともに二酸化炭素が発生する。この発生した二酸化炭素は大気中に放出しないとはいえ地球規模で考えると系内に二酸化炭素が増えるという問題があり、二酸化炭素の発生を極力抑えるという要請には応えることができない。
【0006】
本発明は上記のような二酸化炭素を排出するという課題を解決するためになされたものであり、水素をバーナーで燃焼させることにより、燃焼排ガス中からも反応プロセス中からも二酸化炭素を排出しない自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムのうち、請求項1記載の発明は、低級炭化水素を導入して、触媒によって水素と炭素に分解反応させ、生成された水素および残ガスを取り出す反応管と、前記水素を燃焼ガスとして前記反応管を加熱する加熱手段と、前記反応管から取り出された生成水素を前記加熱手段に供給する供給路と、前記供給路に設けられた流量調整器とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムによれば、前記反応管で炭素と水素とを発生させ、その水素を燃料として用いることで二酸化炭素を発生させることなく分解反応に利用することができ、反応効率も高めることができる。加熱手段の動作は、発生水素を供給する供給路において流量調整器によって供給量を調整することで確実かつ容易に調整することができ、適切な加熱によって反応効率を高めることができる。なお、上記加熱手段としては、反応管を覆う加熱炉などによって構成することができ、本発明としては、水素を燃料として反応管を加熱できるものであれば、その構成は特に限定されない。
【0009】
第2の本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムは、前記第1の本発明において、前記反応管から取り出されたガスから生成水素を分離する水素分離手段を備え、前記供給路は、前記水素分離手段で分離された前記生成水素を前記加熱手段に供給するものであることを特徴とする。
【0010】
水素分離手段で水素を精製することで、これを燃料などに用いる際にも二酸化炭素の発生を確実に回避することができる。
【0011】
第3の本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムは、前記第1または第2の本発明において、前記流量調整器の上流側で、前記供給路に水素貯蔵部が介設されていることを特徴とする。
【0012】
第3の本発明のによれば、反応管で生成された水素を水素貯蔵部で貯蔵して加熱手段に供給することができる。
【0013】
第4の本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムは、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記触媒は、鉄またはニッケルを含むものであることを特徴とする。
【0014】
触媒として鉄、ニッケルを含むものを使用することで、反応管において低級炭下水素を水素と炭素とに確実に分解することができる。
【0015】
第5の本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムは、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記加熱手段は、前記反応管の適所を加熱する水素バーナー及び水素加熱炉を備えることを特徴とする。
【0016】
加熱手段に水素バーナー及び水素加熱炉を備えることで、反応管の最適な場所を加熱することで反応効率を高めることができる。水素バーナーは、一つまたは複数であってもよい。
【0017】
第6の本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムは、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記反応管は、前記低級炭化水素を含むバイオガスが導入されるものであることを特徴とする。
【0018】
第6の本発明によれば、バイオガスを改質する処理を行うことができる。
【0019】
第7の本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムは、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記加熱手段は、燃焼ガスに反応により生じた未反応のメタン、その他プロセスから発生するオフガスの一部を含むことを特徴とする。
【0020】
第7の本発明によれば、前記発生水素に加えて未反応メタン等を活用することができ、エネルギー効率が向上するとともに、初期稼働時で水素発生が十分でない場合などに加熱補助を行うことができる。上記混合ガスの使用では、水素を主として使用することで二酸化炭素の発生を極力抑えたものにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムによれば、システムで生成した水素を利用して反応器を適切に加熱して、二酸化炭化を発生することなく、または発生量を極力少なくして外部からの熱供給を必要としないのでエネルギー的に自立した反応プロセスを作ることができ、反応効率を高めることができる。また、炭素を固定化することで大気中の二酸化炭素を削減する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムを示す概念図である。
【図2】従来の燃焼排ガス中に二酸化炭素を含まないようにしたシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムでは、ニッケル、鉄またはこれらの混合物などからなる触媒を内部に保持する反応管1を有しており、該触媒は、担体に保持して低級炭化水素との接触を可能にしている。本発明としては、担体の種別、構造、保持方法などは特に限定されるものではない。反応管1は、ガス入口とガス出口とを有しており、該ガス入口とガス出口を介してガスの通気が可能になっている。
反応管1には、ガス入口側に原料流量調整弁3を介して原料供給管2が接続され、さらに、ガス出口側に反応管1内で発生した生成水素、未反応ガスなどを取り出すガス回収管4が接続されている。ガス回収管4には、圧縮機6が接続されており、該圧縮機6で圧縮されたガスは、水素分離手段である分離膜7に供給されるように構成されている。分離膜7には、種々の材質の分離膜を採択することができ、本発明としては、特定のものに限定されない。また、水素分離手段としては、上記分離膜の他、PSAなどを用いることもでき、本発明としては、未反応ガスを含む混合ガスから水素を分離できるものであればよい。
【0024】
上記分離膜7の透過前側には、未反応ガス返流管8が接続されており、該未反応ガス返流管8は、圧力調整弁9を介して前記した原料供給管2に合流している。
また、分離膜7の透過側には、生成水素を貯蔵する水素貯蔵タンク10の入側が接続されており、該水素貯蔵タンク10の出側には、水素流量調整弁12を設けた水素供給管11が水素供給路として接続されている。
水素供給管11は、燃焼装置13の図示しない水素バーナーに接続されており、該水素バーナーには、空気を供給する送風機14が接続されている。燃焼装置13は、前記反応管1の周囲を覆う加熱炉として構成されており、水素バーナーは、反応器1内の反応効率を高めるのに最適な場所で前記反応器1を加熱できるように配置されている。燃焼装置13には排風機15が接続されており、燃焼装置1における燃焼排ガスは、排風機15によって燃焼装置13外に排気される。また、上記水素バーナーには、前記水素供給管11に合流するようにして炭化水素供給管16が接続されており、該炭化水素供給管16は、炭化水素流量調整弁17を介して図示しない炭化水素供給源に接続されている。該供給源では、他のプロセスシステムにおけるオフガスを使用するものでもよく、また、前記した分離膜7で分離される未反応ガスを使用するものであってもよい。
【0025】
次に、上記自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステムの動作について説明する。
原料となる低級炭化水素は、原料供給管2を通して原料流量調整弁3で流量調整されつつ反応管1に送られる。反応管1内では、低級炭化水素が触媒反応により固体の炭素と気体の水素に分解される。その際には、燃焼装置13によって反応器1が加熱されている。反応管1で生成した水素と未反応の炭化水素の混合ガスは、圧縮機6にて昇圧された後、水素のみを透過する分離膜7を通して、水素と未反応ガスにそれぞれ分離される。水素は貯蔵タンク10へと送られ、未反応ガスは、圧力調整弁9で圧力調整がなされて返流管8へと送られ、原料の低級炭化水素と混合されるように反応管1に再度導入されて反応に供される。
【0026】
一方、貯蔵タンク10に送られた水素は一旦貯蔵され、反応管1を加熱するのに必要な量が水素流量調整弁12で調整されて、水素供給管11を通して燃焼装置13に送られる。燃焼装置13では、水素貯蔵タンク10から送り込まれた水素と、送風機14によって送り込まれた空気が燃焼範囲となる割合で混合され、水素が燃焼することにより反応管1を加熱する。なお、初期稼働時など、必要に応じて、上記水素とともに炭化水素流量調整弁17で流量調整された少量の炭化水素を炭化水素供給管16によって燃焼装置13に送り、前記水素ガスとともに燃焼させる。この後、排風機15から出てくる燃焼排ガスは、主に水蒸気を含み、他に酸素や窒素を含んでいるものの、炭化水素を供給しない場合には二酸化炭素が含まれておらず、また炭化水素を供給する場合でも二酸化炭素の量は僅かとすることができる。
上記により、水素直接分解プロセスは、二酸化炭素を殆ど発生させることなく自立して進行させることができ、残余の水素を種々の目的に利用することができる。
以上、上記実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲で適宜の変更が可能である。
【実施例1】
【0027】
次に、本発明の一実施例を説明する。
実績がある40Nm/dayのバイオガス(CH組成:60% CO組成:40%)を改質した場合を例に説明する。
本反応の化学式は、CH → C + 2H − 75kJであり、このプロセスでは転化率70%を達成できるので、熱バランスは表1のようになる。
ここで、必要な水素の燃焼熱(A)<生成した全水素の発熱量(B)であるので、反応を継続するのに十分な水素量が確保できている。また余った水素は燃料電池への供給源などとすることができる。
【0028】
【表1】

【符号の説明】
【0029】
1 反応管
2 原料供給管
3 原料流量調整弁
6 圧縮機
7 分離膜
8 未反応ガス返流管
9 圧力調整弁
10 水素貯蔵タンク
11 水素供給管
12 水素流量調整弁
13 燃焼装置
14 送風機
15 排風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素を導入して、触媒によって水素と炭素に分解反応させ、生成された水素および残ガスを取り出す反応管と、前記水素を燃焼ガスとして前記反応管を加熱する加熱手段と、前記反応管から取り出された生成水素を前記加熱手段に供給する供給路と、前記供給路に設けられた流量調整器とを備えることを特徴とする自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム。
【請求項2】
前記反応管から取り出されたガスから生成水素を分離する水素分離手段を備え、前記供給路は、前記水素分離手段で分離された前記生成水素を前記加熱手段に供給するものであることを特徴とする請求項1記載の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム。
【請求項3】
前記流量調整器の上流側で、前記供給路に水素貯蔵部が介設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム。
【請求項4】
前記触媒は、鉄またはニッケルを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム。
【請求項5】
前記加熱手段は、前記反応管の適所を加熱する水素バーナー及び水素加熱炉を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム。
【請求項6】
前記反応管は、前記低級炭化水素を含むバイオガスが導入されるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自立型低級炭化水素直接分解プロセスシステム。
【請求項7】
前記加熱手段は、燃焼ガスに、反応により生じた未反応のメタン、その他プロセスから発生するオフガスの一部を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の自立型水素低級炭化直接分解プロセスシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116652(P2011−116652A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47474(P2011−47474)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2006−77958(P2006−77958)の分割
【原出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(504238806)国立大学法人北見工業大学 (80)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】