説明

自走式バリケード

【課題】走行車両の進入を阻止できるだけの性能を備え、必要なときに必要なところへ移動させられるバリケードの提供。
【解決手段】電動機又は内燃機関により駆動される走行装置10と、走行装置10上に設けられた駆動機構により駆動されて走行装置10の側方を上下動し、上昇することで非接地状態となり且つ下降することで接地状態となる剛性柱体30と、を含んで構成されるバリケード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通を遮断又は制限するための装置に関し、特に、撤去、移動するための構成をもつ通行止め用のバリケード(通行遮断具、交通ゲート)に関する。
【背景技術】
【0002】
必要なときに必要なところへ簡易に設置可能な車両規制用のバリケードとしては、下部にキャスタを備えたアコーディオン式のものが警察用等によく使用されている。また、その他にも、特許文献1〜3のような下部にキャスタをもつ移動式のバリケードがいままでに提案されている。
【特許文献1】特開2003−119736号公報
【特許文献2】特開2005−76182号公報
【特許文献3】意匠登録第1179922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在までに提案されている上記のような簡易設置型のバリケードはいずれも、手動で移動させることを念頭につくられており、人が動かせる程度の重量しかない。すなわち、ある程度のスピードで突っ込んでくる車両をそこで止められる程の性能はまずない。このような車両の進入阻止をも可能とした現存するバリケードは、ボラードと呼ばれ、地中に埋設した1t近くもある太い鉄柱を昇降させる装置であり、必要な場所へ適宜移動させられるというような代物ではない。
【0004】
自爆テロなど、近年ますます凶悪化するテロ行為に対し、必要な場所に必要なときにバリケードを設置して防衛を図りたくとも、従来の移動式バリケードではとても役に立つとは思われないのが現状である。そこで、本発明は、走行車両の進入をその場で阻止できるような性能を備え、必要なときに必要なところへ移動させられるバリケードを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的のため本発明では、電動機又は内燃機関により駆動される走行装置と、該走行装置上に設けられた駆動機構により駆動されて走行装置の側方を上下動し、上昇することで非接地状態となり且つ下降することで接地状態となる1本以上の剛性柱体と、を含んで構成されることを特徴とした自走式バリケードを提案する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電動機又は内燃機関による走行装置上に、たとえば鋼鉄製の剛性柱体を載置して移動できるようにした自走式のバリケードが提供され、合計で1t近くある剛性柱体であっても、人力より遙かに高トルクの走行装置で自走させ、簡単に移動させることができる。そして、剛性柱体は、駆動機構により非接地状態と接地状態とに上下動可能とされており、走行装置で目的位置まで走行していった後は剛性柱体を非接地状態から接地状態とすることで、接地した剛性柱体が走行装置の両脇で(つまり一定の幅をもって)地面に踏ん張るので、車両の衝突にも耐え得る、従来より大幅に堅牢なバリケードを簡易設置することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1〜図6に、自走式バリケードの好適例について示してある。この例の自走式バリケードは、走行装置10と、この走行装置10上に設けられた駆動機構20と、この駆動機構20により駆動されて走行装置10の側方を上下動する剛性柱体30と、を備えている。なお、図中、走行装置10の直進方向Xを前後、この直進方向と直交する方向Yを左右として説明する。
【0008】
走行装置10は、左右両輪として無限軌道11を備えており、悪路や段差であっても関係なく走行可能である。無限軌道11は、走行装置10内部の図示せぬ電動機(モータ)により駆動されるもので、左片輪の無限軌道11と右片輪の無限軌道11とに対し、それぞれ別個の電動機で駆動するようにしてある。その両電動機に対しては、バッテリ12から電源供給が行われ、且つ、各電動機を別々に制御することができるコントロールユニット(車載ECU:電子制御ユニット)13が走行装置10に搭載されている。このコントロールユニット13は無線通信回路を備え、手持ちのラジオコントロールユニット(図示略)による遠隔操作も可能としてある。なお、電動機を搭載した例を本例では示すが、電動機ではなく、工事用車両のように内燃機関により無限軌道11を駆動する構成も可能である。ただし、コンパクト性、制御性において電動機のほうが適している。
【0009】
無限軌道11を駆動する電動機は、上記のように各片輪にそれぞれ別個に備えることも可能であるが、左右両輪共通に1個の電動機を搭載してバッテリ12から電源供給するともにコントロールユニット13により制御できるようにし、そして、当該電動機の動力伝達経路を片輪ごとに設けてクラッチをそれぞれ介在させ、コントロールユニット13により該各クラッチを個別に制御するようにしてもよい。すなわち、右左折や転回時には、該当する方のクラッチを切ることにより片輪だけ停止させれば、自在に方向転換できる。
【0010】
電動機を制御するコントロールユニット13は、ハードディスクドライブやRAM、フラッシュメモリなどの記憶回路を備えており、走行装置10の走行パターンを記憶することができるようになっている。すなわち、ラジオコントロールユニットによる遠隔操作でバリケード設置位置まで走行装置10を前進させたその走行パターン(何メートル直進し、そこで右折後にさらに何メートル進んで停止など)を、その時の両電動機の作動時間、正逆の回転方向、回転速度(角度)などを記憶することで学習する。そして、次にバリケード設置位置から後退させる時には、コントロールユニット13が、その学習した前進時の走行パターンを逆に辿って、前進時のゴールからスタートへ逆に両輪電動機の動作を再現し、自律走行により走行装置10を後退させる。つまり、一度、待機位置からバリケード設置位置までの走行パターンを学習すれば、コントロールユニット13は、前進/後退のボタン一つでその走行パターンを再現することができ、走行装置10が自律走行で所定位置間を前進/後退する。
【0011】
このような走行装置10の上部に鉄枠のプラットホーム14が固着されており、このプラットホーム14上に駆動機構20が設けられる。本例の駆動機構20は、左右方向へ横置きに設置した流体シリンダ、好適には油圧シリンダ21を備えている(空気圧シリンダ等ももちろん可)。当該油圧シリンダ21は、第3の電動機22により駆動される油圧ポンプ23で伸縮制御され、その電動機22の制御もコントロールユニット13に担わせてある。油圧ポンプ23と油圧シリンダ21との間は、フレキシブルチューブ(図示略)にてつながれている。
【0012】
鋼鉄製剛体の剛性柱体30は、走行装置10の左右両側にそれぞれ5本ずつ、断面コ字状の鋼鉄製連結フレーム31にそれぞれ固定して柵状に配置されている。そして、駆動機構20の油圧シリンダ21の伸縮により、両側にある連結フレーム31間の間隔を拡大したり縮小したりすることで、剛性柱体30を上下動させられるようになっている。また本例では、片側5本ずつ並んだ剛性柱体30の下端に、片側5本共通の接地プレート32が固定され、下降時に地面へ当接する当該接地プレート32の下面に、弾性体33が全面的に被着させてある。これにより、凹凸路面への足つき性を向上させ且つアスファルト路面等でもすべらないように工夫されている。
【0013】
このような剛性柱体30の連結フレーム31は、駆動機構20を構成する4本のリンクアーム24により、プラットホーム14に連結されている。すなわち、4本のリンクアーム24は、それぞれプラットホーム14の四隅に一端が軸支されており且つその各他端が対応する側の連結フレーム31に軸支されている。したがって、リンクアーム24は左右方向へ回動(揺動)可能であり、このリンクアーム24が直立状態と横臥状態との間を回動することにより、連結フレーム31つまり剛性柱体30が円弧状に上下動する。すなわち、リンクアーム24が直立した状態のときに連結フレーム31は上死点となって間隔が最も狭くなり(図1,図3,図5)、リンクアーム24が横臥した状態のときに連結フレーム31は下死点となって間隔が最も広くなる(図2,図4,図6)。
【0014】
このリンク構造に加え、駆動機構20を構成する2本のテレスコピックアーム25が、その各両端を連結フレーム31に溶接することにより(ボルト留め等ももちろん可)、左右の連結フレーム31の間に差し渡されている。このテレスコピックアーム25は、外筒25aと内筒25bとをスライド可能に組み合わせた角柱状で、外筒25aの端部を一方の連結フレーム31に、内筒25bの端部を他方の連結フレーム31にそれぞれ固定してあり、油圧シリンダ21の伸縮により外筒25aと内筒25bとをスライドさせることで、連結フレーム31が円弧状に動作する。
【0015】
2本のテレスコピックアーム25における外筒25aと外筒25aとの間には、油圧シリンダ21を配設するための桟26が差し渡されている(前後方向)。この桟26に油圧シリンダ21の一端がヒンジ接続され、該油圧シリンダ21の他端は、内筒25bを固定してある連結フレーム31にヒンジ接続されている。したがって、油圧シリンダ21の伸縮に伴い桟26,27の間隔が拡縮し、これによりテレスコピックアーム25が伸縮する。なお、本例の場合、外筒25aの間に架設した桟26について、連結フレーム31のリンクアーム24と同様のリンクアーム27により、連結フレーム31と同様の円弧軌跡で動作するようにしてある。
【0016】
本例における剛性柱体30は、外筒30a及びこれに下側から挿入されている内筒30b(内筒は中空、中実のどちらでも良いが、中実の方が堅牢)をもつテレスコピック型とされている。そして、片側5本のうちの、真ん中及び両端の剛性柱体30については、内筒30bの頭頂部から外筒30a内を通して上方へボルト30cを延長し、外筒30aの頭頂蓋30dに設けた貫通孔に螺合させたうえで、端部を外へ突出させてある。これにより、頭頂蓋30dを回転させるとボルト30cを上下させられ、且つ突出したボルト30cの端部にナット30eを螺合させて締め付けることで位置をキープできるようになっている。この構造により、外筒30aから下方へ突出する内筒30bの下端面について、外筒30aからの突出量が調整できるようになっている。つまり、接地プレート32の足つき具合を手動でも調整できるように工夫を施してある。頭頂蓋30dは、調整後にボルトにて外筒30aへ固定される。
【0017】
以上のような構成をもつ自走式バリケードは、たとえばラジコン(登録商標)の戦車模型に用いられるものと同様なコントローラにより、走行と剛性柱体30の上げ下げを制御するようにできる。その走行に際しては、電動機を個別に制御可能で、両輪の無限軌道11の電動機を両方とも前進回転とすると前方へ直進、後退回転とすると後方へ直進し、そして、右の無限軌道11の電動機を止めるか又は後退回転させ且つ左の無限軌道11の電動機を前進回転させると右折又は右回転、この逆で左折又は左回転する。この動作の組み合わせによりバリケードを設置する目的位置まで自走式バリケードを走行させることができる。このとき、無限軌道11による走行であることにより、路面の凹凸や段差があっても関係なく走行可能であり、また四輪自動車のようにタイヤの舵角でカーブする構成に比べて右左折を正確に制御することができ、学習機能により自律後退する場合に誤差が少なくなる。
【0018】
まず、移動前の自走式バリケードでは、駆動機構20の油圧シリンダ21が縮小しており(図1)、これに従ってテレスコピックアーム25も縮小状態にあって、リンクアーム24,27は直立状態になっている。したがって、連結フレーム31は上死点にあり、剛性柱体30は非接地状態に保持されている。この状態でラジオコントロールユニットにより走行装置10を遠隔操作して、剛性柱体30を非接地状態に保持した自走式バリケードを目的位置まで走行させる。そして、目的位置に到達すると、たとえばコントローラのボタン操作により電動機22を回転させて油圧ポンプ23を作動させ、油圧シリンダ21を伸長させる。
【0019】
油圧シリンダ21が伸長すると(図2)、これに伴ってテレスコピックアーム25が伸び、リンクアーム24,27が横臥状態へ回動する。すると、連結フレーム31が下死点へ下降し、剛性柱体30を接地状態へ下降させる。剛性柱体30が下降すると、接地プレート32下面の弾性体33が接地し、地面に密着して踏ん張る格好となる。これにより、車両の進入を阻止可能な剛性柱体30を柵として走行装置10の両脇に備えてなるバリケードが簡易設置される。少なくとも走行装置10の幅以上の間隔で剛性柱体30の柵が並列設置されるうえに、走行装置10の重量も加わるので、従来よりも大幅に堅牢なバリケードが築かれることになる。
【0020】
交通規制を解除するときは、設置時と逆の動作を実行し、油圧シリンダ21を縮小させることで剛性柱体30を接地状態から非接地状態へ上昇させ、剛性柱体30の非接地状態を保ったまま、走行装置10を後退させる。このとき、上述の通りコントロールユニット13が前進時の走行パターンを学習しているので、その逆を自動的に辿って、走行装置10は自律後退することができる。したがって、この後は、自走式バリケードの設置、撤去は、たとえばボタン一つで自動的、迅速に行われ得る。
【0021】
以上の実施形態の説明では、剛性柱体30について、走行装置10に対し左右の側方へ設ける例を示しているが、前後の側方へ設けることも可能である。また、油圧シリンダ21の取り付け手法についても、テレスコピックアーム25を利用して取り付ける他にも各種手法が可能であるなど、上記にあげた例以外にも各種応用例が存在し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る自走式バリケードを非接地状態にして上から見た図。
【図2】本発明に係る自走式バリケードを接地状態にして上から見た図。
【図3】本発明に係る自走式バリケードを非接地状態にして前から見た図。
【図4】本発明に係る自走式バリケードを接地状態にして前から見た図。
【図5】本発明に係る自走式バリケードを非接地状態にして横から見た図(一部断面を含む)。
【図6】本発明に係る自走式バリケードを接地状態にして横から見た図。
【符号の説明】
【0023】
10 走行装置
11 無限軌道
14 プラットホーム
20 駆動機構
21 油圧シリンダ(流体シリンダ)
22 電動機
23 油圧ポンプ
24,27 リンクアーム
25 テレスコピックアーム
25a 外筒
25b 内筒
26 桟
30 剛性柱体
30a 外筒
30b 内筒
31 連結フレーム
32 接地プレート
33 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機又は内燃機関により駆動される走行装置と、
該走行装置上に設けられた駆動機構により駆動されて前記走行装置の側方を上下動し、上昇することで非接地状態となり且つ下降することで接地状態となる1本以上の剛性柱体と、
を含んで構成されることを特徴とする自走式バリケード。
【請求項2】
前記走行装置は、無限軌道を両輪とした走行装置であることを特徴とする請求項1記載の自走式バリケード。
【請求項3】
前記無限軌道は、各片輪が別個の電動機によりそれぞれ駆動され、該各電動機が別々に制御可能になっていることを特徴とする請求項2記載の自走式バリケード。
【請求項4】
前記無限軌道は、各片輪が別個のクラッチを介して共通の電動機により駆動され、該各クラッチが別々に制御可能になっていることを特徴とする請求項2記載の自走式バリケード。
【請求項5】
前記走行装置は、前記各電動機又は前記各クラッチ及び電動機を制御するコントロールユニットを備え、該コントロールユニットは、前記走行装置を前進させた時の走行パターンを学習することができ、その後の後退時に、当該学習した前進時の走行パターンを逆に辿って前記走行装置を後退させられるようになっていることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の自走式バリケード。
【請求項6】
前記駆動機構は、流体シリンダの伸縮により前記剛性柱体を上下動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自走式バリケード。
【請求項7】
前記剛性柱体は、前記走行装置の両側にそれぞれ複数本ずつ連結フレームに固定されて配置され、前記流体シリンダは、その両側の連結フレーム間の間隔を拡大縮小させることにより前記剛性柱体を上下動させることを特徴とする請求項6記載の自走式バリケード。
【請求項8】
前記駆動機構は、前記走行装置上のプラットホームに一端が軸支され且つ他端が前記連結フレームに軸支されることにより前記走行装置の直進方向に対し直交する方向へ回動可能なリンクアームを備え、前記流体シリンダの伸縮に従って前記リンクアームが直立状態と横臥状態との間を回動することにより、前記連結フレームを円弧状に動作させることを特徴とする請求項7記載の自走式バリケード。
【請求項9】
前記駆動機構は、前記連結フレームの一方に端部が固定された外筒と前記連結フレームの他方に端部が固定された内筒とをスライド可能に組み合わせることにより前記連結フレーム間に差し渡されたテレスコピックアームを備え、前記流体シリンダの伸縮で前記テレスコピックアームの外筒と内筒とをスライドさせることにより、前記連結フレームを円弧状に動作させることを特徴とする請求項8記載の自走式バリケード。
【請求項10】
前記剛性柱体の下端に片側ずつ共通の接地プレートが固定され、該接地プレートの下面に弾性体を被着させてあることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の自走式バリケード。
【請求項11】
前記剛性柱体は、外筒及びこれに下側から挿入されている内筒をもつテレスコピック型とされ、前記外筒から下方へ突出する前記内筒端面の突出量が調整できるようになっていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の自走式バリケード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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