説明

自転車用ギアシフト装置の電子制御方法、および電子サーボ支援型の自転車用ギアシフト装置

【課題】自転車のギアシフト装置の理論的な公称指令値を、ギアシフト装置の製造公差および組付公差ならびに自転車の形状を考慮に入れたうえで実際のギアシフト装置に素早くかつ効率的に適用することでギアシフト装置を電子制御する方法、当該ギアシフト装置、ディレイラ、および自転車を提供する。
【解決手段】チェーンを移動させるためのアクチュエータに対する指令値として、同軸上の少なくとも3つの歯車のうちの第1の歯車に係る第1の実際の指令値Hおよび第2の歯車にかかる第2の実際の指令値Hを検出し(110,120)、各歯車ごとに、その歯車に係る理論的な公称指令値Qを求め(130)、少なくとも第1および第2の歯車以外の各歯車ごとに、公称指令値Qならびに第1および第2の実際の指令値H,Hに基づき、アクチュエータに対する実際の指令値を算出する(140)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車のギアシフト装置の電子制御方法、および自転車の電子サーボ支援型のギアシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車の伝動システムは、ペダルクランク軸に結合した歯車と後輪ハブに結合した歯車との間に延びるチェーンを含む。ペダルクランク軸および後輪ハブの少なくとも一方が複数の歯車を具備する場合、前記伝動システムには、ギアシフト装置、前側のディレイラおよび/または後側のディレイラが設けられる。電子サーボ支援型のギアシフト装置の場合、各ディレイラは、前記チェーンを歯車間で移動させることによって変速比を変える可動のチェーンガイド要素(ケージとも称される)と、前記チェーンガイド要素を移動させる電磁式のアクチュエータとを有する。典型的に、このアクチュエータは、関節型の平行四辺形作動機構(articulated parallelogram)、ラック機構、ウォームねじ機構などのリンク機構を介して前記チェーンガイド要素に接続されたモータ(典型的には、電気モータ)と、ロータまたはロータから前記チェーンガイド要素に至るまでの下流に位置する任意の可動部品について位置および/または速度および/または加速度を検出するセンサとを有する。なお、一般に使用されている用語は、本明細書で使用する用語と少し異なる場合がある。
【0003】
前記変速比は、制御電子部によって例えば1つ以上の検出された変数に基づいて自動的に変更(更新)され、および/または運転者によって例えばレバーやボタンなどの適切な指令部材を用いて手動で入力された命令に基づいて変更(更新)される。前記変数としては、例えば、走行速度、ペダルクランクの回転ケイデンス、ペダルクランクに働くトルク、走行地形の傾斜、運転者の心拍数などが挙げられる。
【0004】
前記制御電子部は、前記アクチュエータを制御するにあたって、前記歯車間の軸方向の離間距離が互いに等しくて前記チェーンガイド要素の移動量が常に同じになると仮定するのではなく、ある歯車に係合する位置に前記チェーンを移動させるのに前記ディレイラの変数が取らなければならない数値を各歯車ごとに含んだテーブルを使用する。そのような数値は、隣接する歯車との差分値であってもよく、または、例えば参照歯車、ストローク終了状態、モータが励磁されていない状態などの参照対象に対する絶対値であってもよい。
【0005】
前記アクチュエータに対する指令値としては、その大きさに注目して、例えばディレイラにおけるある位置を参照点として当該ディレイラの可動点が移動する距離、モータが実行すべきステップ数または回転数、モータの励磁時間の長さ、駆動量が電圧に比例するモータに対する供給電圧の数値などであってもよく、さらには、モータに接続されたセンサが生成する数値であってもよく、これらの数量のうちの1つを示す、レジスタに記憶された数値などであってもよい。
【0006】
前記テーブルの数値は、(前側または後側の)ギアシフト群に含まれる歯車の数、各歯車の厚さ、および歯車のピッチを考慮に入れて工場で設定される公称値である。典型的に、このような公称値は、アクチュエータの駆動信号がない場合、つまり、指令値がゼロの場合にチェーンが最小径の歯車と係合すると仮定して決定される。しかし、前述の例から分かるように、そのような仮定は必要ではない。
【0007】
特許文献1には、設定動作モード、調節動作モード、および通常走行モードを実行する、電子サーボ支援型のギアシフト装置が開示されている。設定動作モードでは、チェーンを1個の予め選択された歯車(好ましくは、最小径を有する歯車)に位置合わせし、このときのアクチュエータの物理的位置と、前記所定の歯車を基準とした変速比に関する論理値との間に一対一の対応関係を設定する。好ましくは、さらに、テーブル内の公称値の内容に関係するカウンタをゼロにリセットする。調節動作モードでは、チェーンを所定の歯車に係合・位置合わせし、この所定の歯車を基準とした変速比に関する論理値の調節変数(「オフセット」)を設定する。通常走行モードでは、歯車に係る前記論理値を前記調節変数で調節することによって決定される物理的位置にアクチュエータを移動させる。このようにして、例えば衝撃、衝突、交換前の歯車と交換後の歯車との寸法の僅差などによって生じる、チェーンと1つ以上の歯車との間の位置ずれが補償される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1426284号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願人は、1個の歯車に対して設定動作を実行する構成では、ギアシフト装置およびギアシフト装置が取り付けられる機械部品の形状の各種違いや製造公差、特に、フレームの形状および寸法ならびにギアシフト装置のフォークの厚さの各種違いや製造公差をについて最低限の補償しかできず、さらに、歯車ごとにオフセットを用いて調節する動作は極めて時間がかかり、かつ複雑であることに注目する。
【0010】
本発明の根底をなす技術的課題は、自転車のギアシフト装置の公称指令値を、ギアシフト装置の製造公差および組付公差ならびに自転車の形状を考慮に入れたうえで実際のギアシフト装置(場合によっては、既に装着された状態のギアシフト装置)に素早くかつ効率的に適用することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の構成は、自転車のギアシフト装置を電子制御する方法に関する。この方法は、
a)同軸上の少なくとも3つの歯車のうちの第1の歯車に係合する位置に伝動チェーンを位置付けるための、アクチュエータに対する第1の実際の指令値、および前記歯車のうちの第2の歯車に係合する位置に前記チェーンを位置付けるための、前記アクチュエータに対する第2の実際の指令値を検出する過程と、
b)歯車ごとに、その歯車に係合する位置に前記チェーンを位置付けるための、前記アクチュエータに対する理論的な公称指令値を決定する(求める)過程と、
c)前記歯車のうち、少なくとも、前記第1および前記第2の歯車以外の歯車について、それぞれ、前記公称指令値ならびに前記第1および前記第2の実際の指令値に基づき、前記アクチュエータに対する実際の指令値を算出する過程とを含む。
【0012】
2つの歯車を参照(基準)とすることにより、比較的素早い動作を維持しながらも、フレームの構成品の寸法の違いやギアシフト装置の取付公差だけでなく、前記公称指令値の基礎となる(前記公称指令値を得るために用いられる)理論的な参照ギアシフト装置を基準とした(と比較した)歯車組立体内の寸法の違いも考慮することができる。
【0013】
チェーンが特定の歯車に係合した物理的位置に存在する状態を示す公称および実際の指令値の表現として、あらゆる数値表現を使用してもよい。
【0014】
既述したように、指令値とは、ある歯車に係合する位置にチェーンを位置付けるのにディレイラの変数が取らなければならない数値のことを指す。このような数値は、隣接する歯車との差分値であってもよく、または、参照歯車、ストローク終了状態、モータが励磁されていない状態などの参照対象に対する絶対値であってもよい。また、アクチュエータに対する指令値の大きさについては、例えばディレイラの可動点がある参照(基準)から移動する距離、モータが実行すべきステップ数または回転数、モータの励磁時間の長さ、駆動量が電圧に比例するモータに対する供給電圧の数値などであってもよく、さらには、モータに接続されたセンサが生成する数値であってもよく、これらの数量のうちの1つを示す、レジスタに記憶された数値などであってもよい。
【0015】
また、公称指令値とは、参考となるギアシフト装置に対する指令値を指すものとする。
【0016】
好ましくは、前記アクチュエータに対する公称指令値を決定する(求める)過程は、メモリから数値のテーブルを読み出すことを含む。
【0017】
好ましくは、前記公称指令値および前記実際の指令値は、比例尺度で数値表現される(比例的に増減する数値表現で表される)。
【0018】
好ましくは、前記実際の指令値を算出する過程は、一対の歯車に関連する実際の指令値の差分が、当該一対の歯車に関連する公称指令値の差分に比例すると仮定して実行される。
【0019】
これにより、公称指令値から実際の指令値への線形変換が可能となる。
【0020】
好ましくは、その比例定数は、前記第1の歯車と第2の歯車に関連する実際の指令値の差分と、前記第1の歯車と第2の歯車に関連する公称指令値の差分との比に等しい。
【0021】
好ましくは、前記第1の歯車は、最小径を有する歯車もしくは最小径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車とされ、および/または、前記第2の歯車は、最大径を有する歯車もしくは最大径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車とされる。
【0022】
このようにアクチュエータの実際状態の検出を実行するための歯車を歯車組立体の両端または両端近傍とすることにより、その他の歯車に対して、チェーンのより正確な位置決めを可能とする、実際の指令値が得られる。事実、2つの参照歯車間の距離が大きくなるほど測定分解能(%)が向上し、かつ、測定誤差(%)が減少する。
【0023】
また、そのような2つの歯車として歯車組立体の両端から2番目の歯車をそれぞれ選択することにより、2つの歯車によって両側が挟まれた歯車に対して検出を実行することになるので、チェーンが正確に位置決めされたか否かを、視覚的に簡単に検出することができるというさらなる利点が得られる。
【0024】
有利な実施形態では、前記公称指令値の参照系(基準系)の原点、および前記実際の指令値の参照系(基準系)の原点は、前記第1の歯車に選択される。
【0025】
このような構成によれば、前記第2の歯車と前記第1の歯車に関連する、公称指令値の差分および実際の指令値の差分が、それぞれ、前記第2の歯車の公称指令値、前記第2の歯車の実際の指令値と合致するので、計算を簡略化することができる。
【0026】
すなわち、この場合には、前記公称指令値または前記実際の指令値を正規化する少なくとも1つの過程が設けられてもよい。
【0027】
好ましくは、前記過程cは、
d)前記歯車のうち、少なくとも、前記第1および前記第2の歯車以外の歯車について、それぞれ、(i)その歯車に関連する公称指令値と当該歯車の直前の(1つ前の)歯車に関連する公称指令値との差分と、(ii)前記第1の歯車に関連する公称指令値と前記第2の歯車に関連する公称指令値の差分との比を算出する副過程であって、前記直前の歯車が存在しない場合には、前記直前の歯車に関連する公称指令値をゼロと仮定する副過程と、
e)前記歯車のうち、少なくとも、前記第1および前記第2の歯車以外の歯車について、それぞれ、(i)その歯車の直前の歯車に関連する実際の指令値と、(ii)前記副過程dで算出した前記比と前記過程aで検出した前記第1の歯車および前記第2の歯車に関連した実際の指令値の差分との積との代数和(i+ii)を算出する副過程であって、前記直前の歯車が存在しない場合には、前記直前の歯車に関連する実際の指令値をゼロと仮定する副過程とを有する。
【0028】
好ましくは、前述した各過程および/または副過程は、前記ギアシフト装置の設定・調節動作モード時に実行され、走行動作モード時には、算出された前記実際の指令値のうちの1つの指令値に従って前記アクチュエータに指令することによってギアシフトを作動する過程が実行される。
【0029】
有利な実施形態では、前記方法は、前記走行動作モード時において、前記実際の指令値の有効なセットが存在しない場合、前記公称指令値のうちの1つの指令値に従って前記アクチュエータに指令することによってギアシフトを作動する過程または副過程を含む。
【0030】
本発明の第2の構成は、自転車の電子サーボ支援型のギアシフト装置に関する。このギアシフト装置は、
−チェーンおよび歯車を含み、前記ペダルクランクの軸から前記自転車の駆動輪に運動を伝達する伝動システム(伝動機構)であって、前記ペダルクランクの軸または前記駆動輪の軸と同心状の少なくとも3つの歯車を有する伝動システムと、
−同心状の前記少なくとも3つの歯車のうちの予め選択された歯車と係合するように前記チェーンを移動させるための、チェーンガイド要素および当該チェーンガイド要素のアクチュエータを含む、少なくとも1つのディレイラと、
−前述した方法を実行するモジュールを含む制御電子部とを備える。
【0031】
好ましくは、前記アクチュエータは、適切な数の「ステップ」で駆動される直流ブラシモータを有する。前記適切な数の「ステップ」の各ステップは、一回転のうちの分数(何分の一)に相当し、より好ましくは一回転のうちの32分の1に相当する。
【0032】
本発明の第3の構成は、ディレイラに関する。このディレイラは、
同心状の少なくとも3つの歯車のうちの予め選択された歯車と係合するようにチェーンを移動させるための、チェーンガイド要素および当該チェーンガイド要素のアクチュエータと、
前述した方法を実行するモジュールを含む制御電子部とを備える。
【0033】
本発明の第4の構成は、自転車に関する。この自転車は、前述した、自転車の電子サーボ支援型のギアシフト装置を備える。
【0034】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照しながら行う、好ましい実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる電子サーボ支援型のギアシフト装置を備えた自転車を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる電子サーボ支援型のギアシフト装置の電気的・電子的構成を示すブロック図である。
【図3】本発明で使用されるデータ構造を示す概略図である。
【図4】本発明で使用される他のデータ構造を示す概略図である。
【図5】本発明で使用されるさらに他のデータ構造を示す概略図である。
【図6】本発明で使用されるさらに他のデータ構造を示す概略図である。
【図7】本発明で使用されるさらに他のデータ構造を示す概略図である。
【図8】本発明の方法にかかるギアシフト装置の好ましい設定動作モードの例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1を参照して、自転車1(特に、競走用の自転車)は、既知の方法で筒体から形成されたフレーム2を備える。フレーム2は、後輪4の軸支構造3および前輪6のフォーク5を画定する。筒状構造のハンドルバー41は、フォーク5およびフレーム2に操作可能に連結している。
【0037】
フレーム2は、その下方部分において、既知の種類のペダルクランク(ペダルユニット)7の軸を支承する。このペダルクランク(ペダルユニット)7は、本発明にかかる電子サーボ支援型のギアシフト装置8を介して後輪4を駆動する。
【0038】
ギアシフト装置8は、後側のギアシフト群9および前側のギアシフト群10を含む。後側のギアシフト群9は、後輪4と同軸上に位置した、径の異なる複数の歯車(スプロケット)11を有する。前側のギアシフト群10は、ペダルクランク7の軸と同心に位置した、径の異なる複数の歯車、クラウンまたはギアホイール12を有する。
【0039】
後側のギアシフト群9の歯車11および前側のギアシフト群10の歯車12には、閉ループ状の伝動チェーン13が、電子サーボ支援型のギアシフト装置8を介して選択的に係合可能であり、これにより、様々な変速比を実現することができる。
【0040】
このような様々な変速比は、後側のギアシフト群9の後側のディレイラ14のチェーンガイド要素、および/または前側のギアシフト群10の前側のディレイラ15のチェーンガイド要素を移動させることによって得られる。
【0041】
各ディレイラ14,15において、後側および前側のチェーンガイド要素は、それぞれ、電気モータ16、電気モータ17(図2)によって移動させられる。典型的に、電気モータ16,17には減速機が設けられており、かつ、関節型の平行四辺形作動機構(articulated parallelogram kinematism)を介してチェーンガイド要素に接続されている。代わりに、例えばラック機構、ウォームねじ機構などといった、当該技術分野において周知である他の種類のモータつまりアクチュエータを使用してもよい。例えば、米国特許第6679797号明細書に記載された種類のモータまたはアクチュエータを使用してもよい。なお、この米国特許の教示内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0042】
典型的に、ディレイラ14,15は、位置および/または速度および/または加速度のセンサ18,19(図2)をそれぞれ有する。センサ18,19は、モータ16,17のロータまたは当該ロータの下流であって、当該ロータからチェーンガイド要素に至るまでに位置する任意の可動部品に接続されてもよい。
【0043】
本発明はディレイラの具体的な構造に影響されないので、ディレイラ14,15の構造の詳細を図示しない。ディレイラの構造の詳細については、例えば前述の特許出願及び特許の明細書などを参照されたい。
【0044】
図2は、本発明の一実施形態にかかる電子サーボ支援型のギアシフト装置の電気的・電子的構成を示すブロック図である。
【0045】
電子パワーユニットつまり電子パワーボード30にはバッテリが設けられており、ディレイラ14,15のモータ16,17、ディレイラ14,15のセンサ18,19、およびインタフェースボードまたはインタフェースユニット32と以後で称する電子基板に給電し、任意で、センサボードまたはセンサユニット34と以後で称する電子基板にも給電する。好ましくは、前記バッテリは充電可能なタイプである。また、後側のディレイラ14は、前記バッテリを充電するために発電ユニット(dynamo-electric unit)を周知の形態で有していてもよい。
【0046】
電子パワーボード30、インタフェースユニット32およびセンサユニット34が全体として、電子サーボ支援型のギアシフト装置8の電子コントローラ40を構成する。代わりに、1枚の電子基板または既述した数とは異なる枚数の電子基板で電子コントローラ40を形成してもよい。
【0047】
つまり、本明細書および添付の特許請求の範囲において電子コントローラまたは電子制御部40とは、論理的なユニットのことを指す。この論理的なユニットは、複数の物理的なユニット、特には、1つ以上の分散したマイクロプロセッサで構成されたものであってもよい。このような1つ以上の分散したマイクロプロセッサは、例えば、電子パワーボード30および/またはインタフェースユニット32および/またはセンサユニット34に含まれることができる。
【0048】
電子パワーボード30は、例えば、ハンドルバー41を構成するチューブのうちの1つの内部、またはフレーム2を構成するチューブのうちの1つ(例えば、ドリンクボトル(図示せず)の支持部分)の内部に収容される。インタフェースユニット32は、例えば、ハンドルバー41を構成するチューブのうちの1つの内部、またはハンドルバー41に装着された把持可能な装置42に収容される。センサボード34は、例えば、フレーム2を構成するチューブのうちの1つの内部において、当該センサボード34に接続されるセンサの近傍に収容される。
【0049】
各種構成品に対する電力、データおよび情報の伝達は、電気ケーブルを介して実行される。好ましくは、前記電気ケーブルは、フレーム2を構成するチューブの内部に収容される。データおよび情報信号の伝達は、例えばBluetooth(登録商標)プロトコルなどのワイヤレスモードで実行されてもよい。
【0050】
走行時、後側および前側のディレイラ14,15は、手動指令用の装置(手動指令装置)42で生成されるアップシフト要求信号またはダウンシフト要求信号に基づいて電子コントローラ40によって制御されるか、または電子コントローラ40によって半自動的にもしくは自動的に制御される。手動指令装置42は、例えば、インタフェースユニット32に接続または配置されたスイッチ36の状態を切り替えるのに適したレバーまたはボタンを有してもよい。スイッチ36は、直接作動可能であってもよく、スイッチごとのレバーによって作動可能なものであってもよく、あるいは、スイングレバーによって2つのボタンが作動可能なものであってもよい。
【0051】
典型的には、ハンドルバー41の一方のハンドグリップ自体またはその近傍に配置されたレバーまたはボタンが、後側のギアシフト群9のアップシフト信号およびダウンシフト信号のために使用され、ハンドルバー41の他方のハンドグリップ自体またはその近傍に配置されたレバーまたはボタン(図2)が、前側のギアシフト群10のアップシフト信号およびダウンシフト信号のために使用される。典型的には、例えば動作モードの選択などといった、補助的な機能を指令するための1つ以上のスイッチ36を作動するレバーまたはボタンがさらに設けられている。
【0052】
好ましくは、ギアシフト装置8の電子コントローラ40(詳細には、センサユニット34)には、走行速度、ペダルクランクの回転速度、走行地形の傾斜、運転者の心拍数などといった走行パラメータの1つ以上のセンサ38が接続されている。
【0053】
一実施形態において、電子コントローラ40は、ギアシフトを作動するにあたって、モータ16,17を駆動し、所望の変速比に達した際、すなわち、チェーン13が所望の歯車11,12と正確に係合する位置にディレイラ14,15のチェーンガイド要素が達した際に、センサ18,19の信号に基づいて、モータ16,17を停止させる。前記所望の歯車11,12は、例えば、ギアシフト指令(アップシフト指令またはダウンシフト指令)が手動入力装置42およびスイッチ36によって生成された際、および/またはギアシフト指令(アップシフト指令またはダウンシフト指令)がセンサ38の出力に基づいて電子制御ユニット40によって生成された際にチェーン13が位置していた歯車に隣接する歯車(大径の歯車または小径の歯車)である。多段ギアシフトの場合、前記所望の歯車は、必ずしもギアシフト開始位置の歯車に隣接する歯車ではない。
【0054】
代替的な一実施形態では、モータ16,17は、各種アップシフトまたは各種ダウンシフトに応じて一定時間駆動されるか、または各種アップシフトまたは各種ダウンシフトに応じた適切な数値で駆動されるものであり、センサ18,19は任意の構成要素とされる。この場合、センサ18,19は、電子コントローラ40に対してフィードバック信号を供給するのに使用される。これにより、電子コントローラ40は、チェーン13を所望の歯車11,12に係合させる物理的位置にモータ16,17が達していない場合に当該モータ16,17を再び駆動させることができる。これは、例えば、ディレイラ14,15の抵抗トルク(運転者のペダル動作にある程度依存する)が、モータの生成可能な最大トルクを超えるほど過度に大きくなった場合に生じる。
【0055】
モータ16,17は、例えば、ステッピングモータでもよい。好ましくは、モータ16,17は、適切な数の「ステップ」によって駆動される直流ブラシモータであり、当該適切な数の「ステップ」の各ステップは、一回転の分数(何分の一)に相当し、好ましくは一回転の32分の1に相当する。このように分数をステップとして選択すると、ステップは2の整数倍であるため、有利に処理を実行することができる。
【0056】
電子コントローラ40は、さらに、メモリ手段44を有する。電子コントローラ40は、メモリ手段44に基づいて、所望の歯車11,12に係合する位置にチェーン13を移動させるためのアクチュエータに対する指令値を、その時々に応じて(図3〜図6を参照しながら後述する方法によって)決定する。
【0057】
電子コントローラ40は、後側のカウンタ46および前側のカウンタ48を有してもよい。カウンタ46,48は、例えば、レジスタで構成されてもよく、メモリセルに記憶された変数で構成されてもよい。ギアシフト装置8の通常走行動作モード時の電子コントローラ40は、ディレイラ14,15を駆動し、カウンタ46,48を増加または減少させることによって、および/またはセンサ18,19の読み値に基づいて、ディレイラ14,15の現在の位置を追跡する。カウンタ46,48は、例えば、モータ16,17に1ステップ印加されるごとに1単位増加または減少させられる。カウンタ46,48が設けられる場合、当該カウンタ46,48は、メモリ手段44に記憶された指令値と同じ測定単位でディレイラ14,15の現在の位置を表す。
【0058】
指令値のメモリ手段44、およびカウンタ46,48は、電子コントローラ40内の自立した(別個の)構成部として図示されているが、電子ボード30,32,34に含まれる1つ以上のメモリ装置に物理的に実装されて(組み込まれて)もよい。
【0059】
より単純な自転車では、後側のギアシフト群9および前側のギアシフト群10のうちの一方のみを設けてもよく、前述した自転車からの簡略化は当業者にとって明白である。
【0060】
説明を簡単にするために、以下では、後側のギアシフト群のみを扱う。後述の内容は、変形例として、あるいは、適宜変更を加えたうえで、前側のギアシフト群にも適用可能である。
【0061】
図3に、電子コントローラ40のメモリ領域(例えば、前述のメモリ44など)または電子コントローラ40がアクセス可能な任意のメモリに記憶されるデータ構造を示す。このメモリ領域または任意のメモリには、ギアシフト群の歯車(スプロケット)ごとに、アクチュエータに対する公称指令値Q(iは1ないしNの整数である)がテーブル60の形態で記憶される。11個のスプロケットを有する後側のギアシフト群の場合、前記テーブルは、公称指令値Q〜Q11を有する。
【0062】
具体的に述べると、公称指令値Qは、後側のギアシフト群の最小径を有するスプロケットに係合する物理的位置にチェーンが位置した、標準または基準のギアシフト装置における理論的な状態を、適切な測定単位で表したものである。公称指令値Qは、後側のギアシフト群の前記最小径を有するスプロケットに隣接するスプロケットに係合する物理的位置にチェーンが位置した状態を、前記測定単位と同じ測定単位で表したものである。公称指令値Q(図示の例ではQ11)は、後側のギアシフト群の最大径を有するスプロケットに係合する物理的位置にチェーンが位置した状態を、前記測定単位と同じ測定単位で表したものである。
【0063】
好ましくは、前記公称指令値Qは、工場で記憶される。
【0064】
例えば、公称指令値Qは、それぞれ、センサ18の出力が取るべき数値であって、任意でカウンタ46に記憶される数値であってもよい。公称指令値Qは、また、モータ16の駆動量の数値として表されてもよい。
【0065】
例えば、既述したようにアクチュエータがステッピングモータを有する場合、すなわち、一回転の分数で駆動されるモータを有する場合、公称指令値Qは、それぞれ、参照(基準)位置から起算してi番目の歯車との係合状態に達するために必要なステップ数として表されてもよい。この参照位置は、例えば、ストロークの終了位置、モータ16が励磁されていない状態、最小径を有する歯車との係合状態などに相当する。
【0066】
また、公称指令値Qは、それぞれ、アクチュエータの特定のポイント(部位)の位置、チェーンガイド要素の特定のポイント(部位)の位置、または参照(基準)平面(例えば、自転車に沿った参照平面、参照歯車との係合状態に対応する平面など)からそのようなポイントまでの距離(例えば、mm単位の距離)として表されてもよい。また、公称指令値Qは、それぞれ、チェーン13の運動を引き起こす、当該チェーン13の運動量に比例するモータ16の給電電圧の数値として表されてもよく、あるいは、アクチュエータの種類に応じて当業者にとって既知の他の形態で表されてもよい。
【0067】
また、公称指令値Qは、それぞれ、隣接する歯車に対する差分として表されてもよく、例えば、移動距離、実行すべきステップ数、アクチュエータの駆動時間、あるいは、アクチュエータの種類に応じて当業者にとって既知の他の形態で表されてもよい。詳細には、この場合、各歯車に係る公称指令値は、直ぐ隣の小径の歯車から起算した公称指令値、および直ぐ隣の大径の歯車から起算した公称指令値となる。この場合に必要な変更は、当業者の能力の範疇である。より具体的な実施形態では、歯車ごとに、また、当該歯車にチェーンが達する際の方向ごとに、係合動作を行うにあたって一時的にチェーンを位置決めするための公称指令値、およびチェーンの係合が成功する位置に当該チェーンを移動させるための公称指令値の両方を用意してもよい。
【0068】
理解し易いように、以下では、公称指令値Qを、比例的に増減する測定単位で表すものとする。
【0069】
図3のテーブル60は、1〜Nの数値(図示の例では1〜11)のフィールド(列)も有する。しかし、実際の用途では、公称指令値Qが歯車の径の順番に並んで記憶される場合、このフィールドを省略してもよい。事実、後述するように、特定の数値Qを得るたび、現在のインデックスi=1…Nの数値をもとにテーブル60が参照される。したがって、数値Qが順番に並べられている場合、テーブル60のi番目の数値を参照するだけで済む。
【0070】
図4に、電子コントローラ40のメモリ領域(例えば、前述のメモリ44)または電子コントローラ40がアクセス可能な任意のメモリに記憶される、図3のデータ構造と類似したデータ構造を示す。このメモリ領域または任意のメモリには、後側のギアシフト群9の歯車(スプロケット)11ごとに、実際の指令値H(iは1ないしNの整数である)がテーブル70の形態で記憶される。11個のスプロケットを有する後側のギアシフト群9の場合、前記テーブルは、実際の指令値H〜H11を有する。
【0071】
図2には概略的にメモリ44が1つだけ示されているが、実際には、種々の記憶装置が設けられてもよい。好ましくは、公称指令値Qのテーブル60は、EEPROMメモリまたは読出し専用メモリ(例えば、ROMなど)に記憶され、実際の指令値Hのテーブル70は、前記テーブル60が記憶されたのと同じEEPROMメモリ、それとは別のEEPROMメモリ、または他種の読出し/書込みメモリに記憶される。
【0072】
後述するように、実際の指令値Hは、設定動作モード時の電子コントローラ40によって公称指令値Qから得られる。通常走行動作モード時に、i番目の歯車にチェーン13が係合するようにギアチェンジを実行する必要がある場合、電子制御ユニットは、i番目の歯車に係る実際の指令値Hをテーブル70から読み出し、それに応じてアクチュエータ、詳細にはモータ16を駆動する。
【0073】
未だ設定動作モードが実行されていない場合、何らかの理由で電子サーボ支援型のギアシフト装置8がリセットされている場合、または何らかの理由で有効な実際の指令値Hが設定されていない場合、通常走行動作モード時の電子コントローラ40は、公称指令値Qをテーブル60から読み出し、それに応じてアクチュエータを駆動させてもよい。また、このような場合の代替形態として、テーブル60内の公称指令値Qを実際の指令値Hとしてテーブル70に一度にコピーし、再びテーブル70にアクセスすることによってギアシフトを実行してもよい。
【0074】
設定動作モードは、適切な指令(例えばスイッチ36を作動する手動指令装置42の固有の組合せなど)によって選択される。
【0075】
図8を参照して、このような設定動作モードでは、まずステップ110において、第1の予め選択された歯車に係合する位置に伝動チェーン13を移動させるような指令からなる第1の実際の指令値Hが検出される。なお、以降、この第1の予め選択された歯車をA番目の歯車と称する。操作者の満足する位置にチェーン13が達するまで、モータは、2個の隣合う歯車11間よりも短い距離ずつ作動され、好ましくは低速で作動され、および/またはチェーンガイド要素が少しずつ移動するように作動される。
【0076】
詳細には、モータ16がステッピングタイプ、すなわち、既述したように各ステップが一回転の分数に相当する複数の「ステップ」によって作動されるタイプの場合、モータ16は、一回に1ステップずつ運動するように駆動されるか、あるいは、高速な調節を所望する場合には一度に複数ステップずつ運動するように駆動される。好ましくは、設定モード時のアクチュエータの運動は、通常走行動作モード時にギアシフトを指令するのに使用される手動指令と同じ手動指令42によって指令されるか、または自動もしくは半自動で指令される。
【0077】
通常、設定動作モードは、ワークショップ(作業所)において自転車をスタンドに搭載した状態で実行される。1つの方法としては、自転車を静止した状態で維持し、チェーンガイド要素のみを前後に動かし、最適な位置決めが達成されたことを「目で」判断した時点で停止する。目による位置決めは、様々な機械的および/または電子的な手段で向上可能である。例えば、後側のディレイラ14(および/または前側のディレイラ15)のアイドル状態の小歯車のうちの1つにプレートを取り付け、当該プレートが設定用に予め選択した前記A番目の歯車に接触することにより、正確な位置決めがなされる。あるいは、そのような小歯車にレーザダイオードを取り付け、前記A番目の歯車にレーザ光受信機を取り付けてもよく、またはその反対として、前記A番目の歯車にレーザダイオードを取り付け、小歯車にレーザ光受信機を取り付けてもよい。位置決めをさらに向上させるために、光の「三角測量」などを利用してもよい。他の方法としては、ペダルクランクユニット7によってチェーン13を作動し、適切な位置決めを「耳で」確認することである。事実、熟練したユーザであれば、最良の位置決めがされた状態の最も小さい騒音を聴き取ることができる。当然ながら、これら2つの方法を組み合わせて、目と耳の両方で正確な位置決めを確認することも可能である。
【0078】
操作者が、手動指令装置42を作動し終え、および/またはチェーン13とA番目の歯車との間で正確な位置決めがなされたことを例えば手動入力装置42の適切な組合せなどによって能動的に示すと、電子コントローラ40がアクチュエータに対する現在の指令値を取得し、これをテーブル70のA番目の登録に記憶する。
【0079】
設定動作モードが実行される前記A番目の歯車は、好ましくは最小径を有する歯車であり、より好ましくは最小径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車(すなわち、2番目に小径の歯車)であるが、設定動作モードが実行される第1のA番目の歯車を操作者が選択できるようにしてもよい。その場合、電子コントローラ40が、これから設定動作モードを実行する歯車11を指定するように、または既に設定動作モードを実行し終えた歯車11を指定するように、操作者に要求する。あるいは、電子コントローラ40は、第1の実際の指令値Hと公称指令値Qとを比較することによってそのような歯車を推定する。
【0080】
ステップ120では、上述の方法とほぼ同じ方法により、第2の予め選択された歯車11に係合する位置に伝動チェーン13を移動させるための第2の実際の指令値Hの検出を実行する。なお、以降、第2の予め選択された歯車11をB番目の歯車と称する。第2の実際の指令値Hは、テーブル70のB番目の登録に記憶される。
【0081】
設定動作モードが実行される前記B番目の歯車は、好ましくは最大径を有する歯車であり、より好ましくは最大径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車(すなわち、2番目に大径の歯車)であるが、設定動作モードが実行される第2のB番目の歯車を操作者が選択できるようにしてもよい。その場合、電子コントローラ40が、これから設定動作モードを実行する歯車11を指定するように、または既に設定動作モードを実行し終えた歯車11を指定するように操作者に要求する。あるいは、電子コントローラ40は、第2の実際の指令値Hと公称指令値Qとを比較することによってそのような歯車を推定する。
【0082】
ステップ140では、電子コントローラ40が、テーブル60に記憶された公称指令値Q、ならびに前述のようにして決定されてテーブル70に記憶された第1および第2の実際の指令値H,Hに基づいて、少なくとも前記A番目の歯車および前記B番目の歯車以外の各歯車に係る実際の指令値H(i<>Aおよびi<>B)を算出する。図8のブロック130は、公称指令値Qを、特にテーブル60から読み出すことにより、求める過程または取得する過程を示す。
【0083】
好ましい実施形態において、前記実際の指令値Hを算出する過程は、一対の歯車間の実際の指令値の差分H−Hが当該一対の歯車間の公称指令値の差分Q−Qに比例するものとして実行する。
【0084】
好ましくは、その比例定数は、ステップ110および120において上記方法で検出された前記第1の歯車と前記第2の歯車との間の実際の指令値の差分H−Hとこれらの2つの歯車間の公称指令値の差分Q−Qとの比に等しい。
【0085】
代わりに、例えば、二階以上の方程式を用いた変換を利用してもよい。
【0086】
好ましい一実施形態において、電子コントローラ40は、特にステップ150において、各歯車11について以下の比(「変換係数」と称する)を算出する:
【0087】
=[Q−Qi−1]/[Q−Q] (1)
(式中、Q=0とする。)
【0088】
上記の分数式における分子は、対象の歯車に係る公称指令値Qと当該対象の歯車の直前の歯車に係る公称指令値Qi−1との差分を表し、当該対象の歯車の直前の歯車がない場合には、公称指令値Qi−1をゼロと想定される(すなわち、最小径を有する歯車を対象の歯車とする場合、上記の分数式における分子は、単純に当該最小径を有する歯車に係る公称指令値Qとなる)。他方、上記の分数式における分母は、既に検出が実行された前記第1の歯車と前記第2の歯車との公称指令値の差分、すなわち、A番目の歯車とB番目の歯車との公称指令値の差分を表す。
【0089】
好ましくは、前記比つまり変換係数Gは一回限り算出されて図5に示すテーブル80に記憶される。テーブル80は、テーブル60,70と同様に、インデックスiのフィールドが省略されていてもよい。また、テーブル80は、例えばメモリ44に記憶されるなどにより、電子コントローラ40にとってアクセス可能とされる。
【0090】
ステップ160では、電子コントローラ40が、各歯車について、実際の指令値Hを以下の代数和として算出する。ただし、ステップ110,120において既に検出が実行された第1のA番目の歯車および第2のB番目の歯車についての算出は、できる限り行わない:
【0091】
=Hi−1+G×[H−H] (2)
(式中、H=0とする。)
【0092】
上記の式における加数Hi−1は、対象の歯車の直前の歯車に係る実際の指令値を表し、対象の歯車の直前に歯車がない場合(すなわち、対象の歯車が最小径を有する歯車である場合)には、実際の指令値をゼロとする。他方、上記の式における第2の加数は、ステップ150で前述の式(1)に従って算出された変換係数Gと前述したようにステップ110,120で検出された第1のA番目の歯車と第2のB番目の歯車との間の実際の指令値の差分H−Hとについて、これら変換係数Gと差分H−Hとの積を表す。
【0093】
各対の歯車について以下の関係式が成立することは、容易に証明できる:
【0094】
[H−H]/[Q−Q]=[H−H]/[Q−Q] (3)
【0095】
既述したように、一対の歯車間の実際の指令値の差分H−Hは、そのような一対の歯車間の公称指令値の差分Q−Qに比例しており、その比例係数は、前記ステップ110,120で検出された第1のA番目の歯車と第2のB番目の歯車との間の実際の指令値の差分H−Hとこれら2つの歯車間の公称指令値の差分Q−Qとの比に等しい。
【0096】
事実:
−H
=H−Hx−1+Hx−1−Hx−2+…+Hy+1−H
=G×[H−H]+Gx−1×[H−H]+…+Gy+1×[H−H
=…
=[H−H]/[Q−Q]×(Q−Qx−1+Qx−1−Qx−2+…+Qy+1−Q
=[H−H]/[Q−Q]×(Q−Q
である。
【0097】
好ましくは、公称指令値Qの参照系(基準系)の原点および実際の指令値Hの参照系(基準系)の原点は、第1のA番目の歯車に選択され、つまり、H=0、Q=0である。
【0098】
このような設定により、第1のA番目の歯車と第2のB番目の歯車との公称指令値の差分および実際の指令値の差分が、それぞれ、第2のB番目の歯車の公称指令値、第2のB番目の歯車の実際の指令値と一致するので、計算を簡略化することができる。
【0099】
つまり、公称指令値Qのテーブル60を「正規化された」公称指令値Sのテーブル65に変換する過程が設けられてもよく、Sは以下のように表される:
【0100】
=Q−Q (4)
【0101】
図6に、このようなテーブル65を示す。テーブル65には、図3のテーブル60に関して上述したものと同じ留意事項が当てはまる。
【0102】
変換係数Gは、前述の式(1)に従ってテーブル60の公称指令値Qから算出できるだけでなく、以下の式に従ってテーブル65の正規化された公称指令値Sからも何ら区別なく算出することができる:
【0103】
=[S−Si−1]/[S−S] (5)
(式中、S=0とする。)
【0104】
ステップ120でB番目の歯車に係る第2の実際の指令値Hを検出し、これをテーブル70に記憶する際、電気コントローラ40によって検出された当該数値Hは、好ましくは、既にテーブル70に記憶されたA番目の歯車に係る第1の実際の指令値Hで減算される。その後、既にテーブル70に記憶されたA番目の歯車に係る第1の実際の指令値Hをゼロに設定する。あるいは、正規化された実際の指令値Kについて、図7に示すテーブル75のような適切なテーブルを使用してもよい。このテーブルには、図3のテーブル60に関して上述したものと同じ留意事項が当てはまる。
【0105】
「正規化された」実際の指令値Kは、実際の指令値Hと以下の関係式(6)で相関する:
【0106】
=H−H (6)
【0107】
第1のA番目の歯車および第2のB番目の歯車について、前述の式(2)に従って算出されて前述の式(6)に従って正規化された実際の指令値K,Kが検出値と一致するか否かを確認することは簡単である。事実、第1のA番目の歯車について、以下が当てはまる:
【0108】

=HA−1+G×[H−H
=HA−2+GA−2×[H−H]+G×[H−H
=HA−2+[GA−2+G]×[H−H
=…
=H+[G+…+GA−2+G]×[H−H
【0109】
上記の式において、「変換係数」Gの合計の項は、以下のように徐々に簡略化することができる:
【0110】
+…+GA−2+G=[Q−Q+…+QA−1−QA−2+Q−QA−1]/[Q−Q]=[Q]/[Q−Q
【0111】
このようにして、H=[Q]×[H−H]/[Q−Q]が得られる。この式は、正規化によって数値Hおよび数値Qがいずれもゼロになることを考慮すると恒等式である。
【0112】
第2のB番目の歯車については、以下の恒等式が得られる:
【0113】

=HB−1+G×[H−H
=HB−2+[GB−1+G]×[H−H
=…
=H+[GA+1+…+GB−1+G]×[H−H
+1×[H−H
=H
【0114】
上記の式において、「変換係数」Gの合計の項は、以下のように徐々に簡略化することができる:
【0115】
A+1+…+GB−1+G=[QA+1−Q+…+QB−1−QB−2+Q−QB−1]/[Q−Q]=[Q−Q]/[Q−Q]=1
【0116】
変換係数Gおよび変換係数G、ならびに第1のA番目の歯車に係る実際の指令値Hおよび第2のB番目の歯車に係る実際の指令値Hを得るための、第1のA番目の歯車および第2のB番目の歯車に関する前述の式(1)および(2)の計算を、省略することができる。しかし、これらを求めたほうが、実際の指令値Hの計算のパラメータ化、および本発明にかかる方法の応用の融通性(例えば、第1および第2の歯車の選択、歯車の数など)の向上を容易に達成できるので有利である。
【0117】
分かり易いように、テーブル60,65,70,75,80は別個のテーブルとして図示しているが、これらのテーブル60および/またはテーブル65および/またはテーブル70および/またはテーブル75および/またはテーブル80内の公称指令値および実際の指令値を、共通のデータ構造に記憶してもよい。
【0118】
さらなる代替的な実施形態において、正規化されていない公称指令値Qのテーブル60および正規化された公称指令値Sのテーブル65は、変換係数Gが直接提供されているのであれば省略してもよく、この変換係数Gに基づいて前述の方法で実際の指令値Hを算出してもよい。しかし、その場合の指令値は計算で証明されたものではないので、電子コントローラユニットは、変換係数Gから公称指令値を得るのが望ましい。
【0119】
本明細書では、公称指令値および実際の指令値を歯車の径が大きくなるにつれて増加すると仮定したが、歯車の径が小さくなるにつれて減少すると仮定してもよく、その場合の変更点は明白である。
【0120】
上述した方法は、ギアシフト装置の歯車、チェーンおよびその他の構成品と独立して、ディレイラと共に販売されているあらゆるコントローラにおいて実施可能である。
【0121】
<具体例>
単なる一検証例ではあるが、本発明の定量的な評価が可能なように、11個の歯車を有するギアシフト群についての数値例を以下に示す。
【0122】
後述の表1に、各歯車についての以下の情報を示す:
−公称指令値Q(本実施例では、ディレイラの関節型の平行四辺形作動機構の対角線の長さ(mm)の、最小径を有する歯車にチェーンが係合した際の位置に相当する参照位置における対角線の長さ(mm)との差分で表される)、
−最小径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車に対して「正規化された」公称指令値S(つまり、インデックスi=2の歯車が、検出を実行するための第1のA番目の歯車となる)、および
−前述の式(1)および(5)のどちらに従っても何ら区別なく算出される変換係数G
【0123】
【表1】

【0124】
後述の表2および表3に、実際に装着された複数のギアシフト群についての数値シミュレーションを示す。ディレイラおよびスプロケット組立体について、様々な形状および許容公差内で様々な寸法をシミュレートした。
【0125】
表2に、各ギアシフト群について、ディレイラの関節型の平行四辺形作動機構の対角線の長さ(mm)の、最小径を有する歯車にチェーンが係合した際の位置を参照位置とした対角線の長さ(mm)の差分、すなわち参照位置からの距離を示す。表3に、インデックスi=2の歯車に対して「正規化された」前記距離を示す。
【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
各ギアシフト群1〜5について、既述のようにインデックスi=2の歯車を第1のA番目の歯車(A=2)として選択し、かつ、最大径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車(すなわち、インデックスi=10の歯車)を第2のB番目の歯車(B=10)として選択して検出を実行するように、シミュレーションを行った。なお、参照系の原点はA番目の歯車に設定した。上記の表3では、数値K=H=0および数値K=H10を強調表示してある。
【0129】
以下の表4に、各ギアシフト群1〜5について、表1の変換係数Gおよび表3の数値K,Kに基づいて前述の式(2)および(6)に従って算出される、正規化された実際の指令値Kを示す。
【0130】
【表4】

【0131】
上記の表4から、インデックスA=2の歯車およびインデックスB=10の歯車に係る「正規化された」実際の指令値Kが、表3に示されたインデックスA=2の歯車およびインデックスB=10の歯車の数値と同一であることは直ぐに分かる。また、その他の歯車に係る「正規化された」実際の指令値Kが、表3に示されたそれらの歯車の「実際の数値」に極めて近いことも分かる。以下の表5に、歯車ごとの位置決め誤差、すなわち、算出した「正規化された」実際の指令値Kとシミュレーションの「実際の数値」との差分を示す。当然ながら、インデックスA=2の第1の歯車およびインデックスB=10の第2の歯車における誤差はゼロである。なお、全体として誤差は極めて小さく、最大の誤差であっても、ギアシフト群2のインデックスi=6の歯車における100分の2mm未満であった。
【0132】
【表5】

【符号の説明】
【0133】
8 ギアシフト装置
11 後側の歯車(スプロケット)
12 前側の歯車(スプロケット)
14 後側のアクチュエータ(ディレイラ)
15 前側のアクチュエータ(ディレイラ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車用ギアシフト装置(8)を電子制御する方法であって、
a)同心状の少なくとも3つの歯車(11,12)のうちの第1の歯車に係合する位置に伝動チェーン(13)を位置付けるための、アクチュエータ(14,15)に対する第1の実際の指令値(H;K)、および前記歯車(11,12)のうちの第2の歯車に係合する位置に前記チェーン(13)を位置付けるための、前記アクチュエータ(14,15)に対する第2の実際の指令値(H;K)を検出する過程(110,120)と、
b)各歯車(11,12)について、その歯車(11,12)に係合する位置に前記チェーン(13)を位置付けるための、前記アクチュエータ(14,15)に対する理論的な公称指令値(Q;S)を決定する過程(130)と、
c)前記歯車(11,12)のうち、少なくとも、前記第1および前記第2の歯車以外の歯車について、それぞれ、前記公称指令値(Q;S)ならびに前記第1および前記第2の実際の指令値(H,H;K,K)に基づき、前記アクチュエータ(14,15)に対する実際の指令値(H;K)を算出する過程(140)とを備えた、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記アクチュエータ(14,15)に対する公称指令値(Q;S)を決定する前記過程b(130)が、メモリ(44)から数値テーブル(60,65)を読み出すことを含む、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記実際の指令値(H;K)を算出する過程は、一対の歯車(11.12)の各歯車に関連する実際の指令値(H;K)の差分(H−H;K−K)が、当該一対の歯車(11,12)の各歯車に関連する公称指令値(Q;S)の差分(Q−Q;S−S)に比例すると仮定して実行される、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記比例定数は、前記第1の歯車と第2の歯車にそれぞれ関連する実際の指令値の差分(H−H;K−K)と前記第1の歯車と第2の歯車にそれぞれ関連する公称指令値の差分(Q−Q;S−S)との比に等しい、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記第1の歯車は、最小径を有する歯車もしくは最小径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車であり、および/または、前記第2の歯車は、最大径を有する歯車もしくは最大径を有する歯車の直ぐ隣に位置する歯車である、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記公称指令値(S)の参照系の原点、および前記実際の指令値(K)の参照系の原点が、前記第1の歯車に選択される、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記過程cが、
d)前記歯車(11,12)のうち、少なくとも、前記第1および前記第2の歯車以外の歯車について、それぞれ、(i)その歯車に関連する公称指令値と当該歯車の直前の歯車に関連する公称指令値との差分(Q−Qi−1;S−Si−1)と、(ii)前記第1の歯車に関連する公称指令値と前記第2の歯車に関連する公称指令値との差分(Q−Q;S−S)との比(G)を算出する副過程(150)であって、前記直前の歯車が存在しない場合には、前記直前の歯車に関連する公称指令値をゼロと仮定する副過程(150)と、
e)前記歯車(11,12)のうち、少なくとも、前記第1および前記第2の歯車以外の歯車について、それぞれ、(i)その歯車の直前の歯車に関連する実際の指令値(Hi−1;Ki−1)と、(ii)前記副過程dで算出した前記比(G)と前記過程aで検出した前記第1の歯車と前記第2の歯車に関連した実際の指令値の差分(H−H;K−K)との積との代数和を算出する副過程(160)であって、前記直前の歯車が存在しない場合には、前記直前の歯車に関連する実際の指令値をゼロと仮定する副過程(160)とを有する、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記ギアシフト装置(8)の設定または調節の動作モードに、前記過程aからcが含まれる一方、走行動作モードにおいて、算出された前記実際の指令値(Hi;Ki)のうちの1つの指令値に従って前記アクチュエータ(14,15)に指令することによってギアシフトを作動する過程を備えた、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の自転車用ギアシフト装置の電子制御方法において、前記走行動作モード時に、前記実際の指令値(H;K)の有効なセットが存在しない場合、前記公称指令値(Q;S)のうちの1つの指令値に従って前記アクチュエータ(14,15)に指令することによってギアシフトを作動する過程を備えた、自転車用ギアシフト装置の電子制御方法。
【請求項10】
電子サーボ支援型の自転車用ギアシフト装置(8)であって、
チェーン(13)および歯車(11,12)を有し、ペダルクランク(7)の軸から前記自転車(1)の駆動輪(4)に運動を伝達する伝動システムであって、前記ペダルクランク(7)の軸または前記駆動輪(4)の軸と同心状の少なくとも3つの歯車(11,12)を有する伝動システムと、
同心状の前記少なくとも3つの歯車(11,12)のうちの予め選択された歯車(11,12)と係合するように前記チェーン(13)を移動させる、チェーンガイド要素および当該チェーンガイド要素のアクチュエータを有する、少なくとも1つのディレイラ(14,15)と、
請求項1から9のいずれか一項に記載の電子制御方法を実行するモジュールを有する制御電子機器(40)とを備えた、電子サーボ支援型の自転車用ギアシフト装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電子サーボ支援型の自転車用ギアシフト装置において、前記アクチュエータが、適切な数のステップで駆動される直流ブラシモータ(16,17)を有し、前記適切な数のステップの各ステップは、一回転のうちの何分の一(好ましくは一回転のうちの32分の1)に相当する、電子サーボ支援型の自転車用ギアシフト装置。
【請求項12】
自転車のディレイラ(14,15)であって、
同心状の少なくとも3つの歯車(11,12)のうちの予め選択された歯車(11,12)と係合するようにチェーン(13)を移動させる、チェーンガイド要素および当該チェーンガイド要素のアクチュエータと、
請求項1から9のいずれか一項に記載の電子制御方法を実行するモジュールを有する制御電子機器(40)とを備えた、自転車のディレイラ。
【請求項13】
請求項10または11に記載の電子サーボ支援型の自転車用ギアシフト装置を備えた自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28340(P2013−28340A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−166981(P2012−166981)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(592072182)カンパニョーロ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (94)
【氏名又は名称原語表記】CAMPAGNOLO SOCIETA A RESPONSABILITA LIMITATA