説明

自転車用クランクアーム、およびその製造方法

【課題】強度面において優れ、生産効率を高めるのに適した自転車用クランクアームを提供する。
【解決手段】自転車用クランクアーム3、4は、クランク軸2と嵌合する嵌合部を有するボス部31、41と、このボス部31、41につながる基端から長手状に延びて先端に至るアーム部32、42とを備え、アーム部32、42は、その長手方向に沿う中空部321(421)を有しており、中空部321、421は、アーム部32、42の上記基端側において開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用クランクアーム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車の駆動部は、フレームのハンガ部に回転可能に支持されたクランク軸の両端部に左右のクランクアームが取付けられ、各クランクアームの先端部には、それぞれペダルが取付けられて構成されている。右側のクランクアームの基端には、前ギヤが取付けられる。
【0003】
クランクアームは、クランク軸に取り付けられるボス部と、このボス部につながる基端から長手状に延びるアーム部とを備えて構成されている。ボス部は、クランク軸と嵌合するための筒状の嵌合部を有する。アーム部の先端には、ペダル取付け用のねじ孔が形成されている。
【0004】
自転車は軽量化することが望まれており、自転車用クランクアームについても、軽量化の要請が強い。かかる要請に対し、自転車用クランクアームのアーム部を中空構造とし、軽量化を図った構成が知られている(たとえば特許文献1,2を参照)。
【0005】
特許文献1に開示された自転車用クランクアームにおいては、アーム部の長手方向に沿って凹溝を形成し、この凹溝の開放面に蓋部材を溶接することにより、中空構造のアーム部が構成される。
【0006】
特許文献2に開示された自転車用クランクアームにおいては、中子を用いて、鋳造により、アーム部およびボス部に対応するクランクアーム素材が一体成形される。中子は、アーム部の先端側(ペダル取付け側)から基端側に向けて長手方向に沿って延びるのに対応した形状とされている。鋳造後のクランクアーム素材においては、先端部(ペダル側端部)に開口部が形成されており、クランクアーム素材の内部は、開口部から長手方向に沿って中子砂が占めている。次に、クランクアーム素材の先端側にペダル用の下孔を形成するとともに、クランクアーム素材を鍛造により再度成形し、ペダル側端部の開口部を押し潰す。その後、ペダル用下孔から中子砂を取り出す。このようにして、中空構造のアーム部が形成される。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたように、溶接によって中空構造のアーム部を形成する場合には、たとえば溶接不良によって強度低下を招く虞れがあった。また、特許文献2に記載されたように、クランクアーム素材の成形後にペダル側端部の開口を潰す場合には、製造工程が煩雑であるので生産性低下および生産コスト上昇を招き、また、アーム部におけるペダル取付部の信頼性・耐久性に不安があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−136685号公報
【特許文献2】特開平10−181665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、強度面において優れ、生産効率を高めるのに適した自転車用クランクアーム、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
本発明の第1の側面によって提供される自転車用クランクアームは、クランク軸と嵌合する嵌合部を有するボス部と、このボス部につながる基端から長手状に延びて先端に至るアーム部とを備える自転車用クランクアームであって、上記アーム部は、その長手方向に沿う中空部を有しており、上記中空部は、上記アーム部の上記基端側において開口していることを特徴としている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記ボス部は、上記アーム部に対してクランク軸の軸方向内方に変位させられていることにより、上記アーム部の基端にはこのアーム部の外側面から上記ボス部の軸方向外面につながる段差壁が形成されており、この段差壁に上記中空部の開口が形成されている。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記中空部は、上記アーム部の先端側の端部において閉じた有底状とされている。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記中空部は、上記アーム部の基端から先端に向かうにつれて断面積が減少する先細り状とされている。
【0015】
好ましい実施の形態においては、上記中空部の開口を閉塞する蓋をさらに備える。
【0016】
好ましい実施の形態においては、上記ボス部からクランク軸の半径方向に放射状に延びる複数のギヤ取付部をさらに備える。
【0017】
好ましい実施の形態においては、上記複数のギヤ取付部は、クランク軸の軸方向視において、上記中空部の開口が臨む方向と重ならない位置にある。
【0018】
本発明の第2の側面によって提供される自転車用クランクアームの製造方法は、本発明の第1の側面に係る自転車用クランクアームを製造する方法であって、鍛造もしくは鋳造により、上記中空部に対応する形状を有する入れ子もしくは中子を用いて、上記アーム部および上記ボス部に対応する形状を有するクランクアーム素材を一体成形する第1工程と、この第1工程によって得られた上記クランクアーム素材から上記入れ子もしくは上記中子を抜き取ることにより、中空部を形成させる第2工程と、を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明の第3の側面によって提供される自転車用クランクアームの製造方法は、本発明の第1の側面に係る自転車用クランクアームを製造する方法であって、樹脂材料を用いた型成形により、上記中空部に対応する形状を有する入れ子を用いて、上記アーム部および上記ボス部に対応する形状を有するクランクアーム素材を一体成形する第1工程と、この第1工程によって得られた上記クランクアーム素材から上記入れ子を抜き取ることにより、中空部を形成させる第2工程と、を含むことを特徴としている。
【0020】
本発明の第4の側面によって提供される自転車用クランクアームの製造方法は、本発明の第1の側面に係る自転車用クランクアームを製造する方法であって、鍛造もしくは鋳造により、上記アーム部の外形形状に対応する形状を有する中実状のアーム部原形、および上記ボス部に対応する部分を一体成形してクランクアーム素材を得る第1工程と、機械加工により、上記アーム部原形に、基端が開口する中空部を形成する第2工程と、を含むことを特徴としている。
【0021】
本発明の第5の側面によって提供される自転車用クランクアームの製造方法は、本発明の第1の側面に係る自転車用クランクアームを製造する方法であって、樹脂材料を用いた型成形により、上記アーム部の外形形状に対応する形状を有する中実状のアーム部原形、および上記ボス部に対応する部分を一体成形してクランクアーム素材を得る第1工程と、機械加工により、上記アーム部原形に、基端が開口する中空部を形成する第2工程と、を含むことを特徴としている。
【0022】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る自転車用クランクアームを備えて構成された自転車用ギヤクランク装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す自転車用ギヤクランク装置の右側面図である。
【図3】図1に示す自転車用ギヤクランク装置の左側面図である。
【図4】図2のIV−IV矢視図である。
【図5】図2のV−V線に沿う断面図である。
【図6】図2のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】図2のVII−VII線に沿う断面図である。
【図8】本発明に係る自転車用クランクアームを製造する方法の一部の工程を示す断面図である。
【図9】クランクアーム素材の一例を示し、(a)は断面図、(b)は(a)のIXb−IXb矢視図である。
【図10】本発明に係る自転車用クランクアームを製造する方法の一部の工程を示す断面図である。
【図11】クランクアーム素材の一例を示し、(a)は断面図、(b)は(a)のXIb−XIb矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図1〜図7は、本発明に係る自転車用クランクアームを備えて構成された自転車用ギヤクランク装置の一例を示している。図1〜図3に表れているように、この自転車用ギヤクランク装置Aは、自転車のハンガ部1に回転可能に支持されたクランク軸2と、このクランク軸2の右端部に取り付けられたクランクアーム3と、クランク軸2の左端部に取り付けられたクランクアーム4と、ギヤ5とを備えている。ギヤ5は、クランクアーム3に一体的に取り付けられており、これらクランクアーム3およびギヤ5により、ギヤクランク6が構成される。なお、図4〜図7においては、クランク軸2およびクランクアーム4を省略している。
【0026】
クランク軸2は、一様な外径の中間部21と、左端のスプライン状大径部22と、右端の小径部23とを有し、中空の筒状を呈している。右端の小径部23は、右方に向けてテーパ縮径状に突出しており、スプライン様の外周を有する異形断面形状となっているとともに、軸線方向に貫通するねじ孔24が形成されている。
【0027】
クランクアーム3は、ボス部31と、このボス部31につながる基端から長手状に延びて先端に至るアーム部32と、ボス部31からクランク軸2の半径方向に放射状に延びる複数(本実施形態では5つ)のギヤ支持ステー33とが一体的に形成されたものであり、たとえばアルミニウム合金からなる。
【0028】
アーム部32は、その長手方向に沿う複数(本実施形態では3つ)の中空部321,322,323を有している(図1、図2、図5、図6参照)。中空部321,322,323は、アーム部32の基端側において開放する開口321a,322a,323aを有している。また、中空部321,322,323は、アーム部32の先端側(上記開口321a,322a,323aとは反対側)の端部において閉じた有底状とされている。図1、図2、図6、図7に表れているように、中空部321,322,323は、アーム部32の基端から先端に向かうにつれて断面積が減少する先細り状とされている。中空部321は、アーム部32の中心線に沿って位置している。中空部322,323は、中空部321を挟んでその両側に位置しており、いずれも、長手方向の深さが中空部321よりも浅く、かつ細くされている。アーム部32の先端には、ペダル取付け用のねじ孔324が形成されている。
【0029】
ボス部31は、アーム部32およびギヤ支持ステー33に対してクランク軸2の軸方向内方に突出するとともに、中央貫通孔311を備えて構成されている。ボス部31は、アーム部32に対して上記軸方向内方に変位させられていることにより、アーム部32の基端には、このアーム部32の外側面からボス部31の軸方向外面(後述する座ぐり部311bに相当)につながる段差壁325が形成されている。この段差壁325に中空部321の開口321aが形成されている。本実施形態では、中空部322,323は、アーム部32ないしギヤ支持ステー33に跨って形成されており、これら中空部322,323の開口322a,323aは、アーム部32ないしギヤ支持ステー33に形成されている。
【0030】
ボス部31の中央貫通孔311は、軸方向中間部に形成した内向フランジ311aと、この内向フランジ311aより外側の座ぐり部311bと、上記内向フランジ311aより内側のクランク軸受容部311cとを備えている。クランク軸受容部311cは、クランク軸2の上記小径部23を相対回転不能に受容嵌合するように、内方に向けて上記小径部23と同程度にテーパ状に拡径しているとともに、上記小径部23の外周形状と対応したスプライン様の異形孔の形態をなしている。
【0031】
図1に表れているように、ギヤ支持ステー33は、アーム部32の開口321aよりもクランク軸2の軸方向内方に変位させられており、周方向において均等に配されている。図2に表れているように、ギヤ支持ステー33は、クランク軸2の軸方向視において、中空部321の開口321aが臨む方向と重ならない位置にある。各ギヤ支持ステー33の先端には、ギヤ取付け用のねじ孔331が形成されている。本実施形態では、ギヤ支持ステー33に大小サイズの異なる2枚のギヤ5が支持されている。
【0032】
クランク軸2の左端部に取り付けられたクランクアーム4は、ボス部41と、このボス部41につながる基端から長手状に延びて先端に至るアーム部42とを備え、これらが一体的に形成されたものであり、たとえばアルミニウム合金からなる。このクランクアーム4は、組み付け状態において、クランクアーム3と180°逆方向に延出する。
【0033】
アーム部42は、その長手方向に沿う中空部421を有している。中空部421は、アーム部42の基端側において開放する開口421aを有している。また、中空部421は、開口421aとは反対側の端部において閉じた有底状とされている。アーム部42の先端には、ペダル取付け用のねじ孔422が形成されている。
【0034】
ボス部41は、アーム部42に対してクランク軸2の軸方向内方に突出するとともに、中央貫通孔411を備えて構成されている。ボス部41は、アーム部42に対して上記軸方向内方に変位させられていることにより、アーム部42の基端には、このアーム部42の外側面からボス部41の軸方向外面(後述する座ぐり部411bに相当)につながる段差壁423が形成されている。この段差壁423に中空部421の開口421aが形成されている。
【0035】
ボス部41の中央貫通孔411は、軸方向内方に形成したクランク軸受容部411aと、このクランク軸受容部411aより外側の座ぐり部411bとを備えている。クランク軸受容部411aは、クランク軸2の左端部に対して、相対回転不能に嵌合させられる。本実施形態では、クランク軸2の左端部が上記したようにスプライン状大径部22となっており、クランクアーム4のクランク軸受容部411aを対応するスプライン孔として、スプライン状大径部22を圧入嵌合させることにより、クランク軸2の左端部に対してクランクアーム4が相対回転不能に連結される。
【0036】
本実施形態において、ハンガ部1は、ハンガパイプ11自体によって構成されている。クランク軸2は、その一端部(右端)にギヤクランク6を一体化した状態で、このハンガパイプ11に回転可能に支持される。図1に表れているように、この実施形態に係る自転車用ギヤクランク装置Aでは、クランク軸2の右端部および左端部については、クランク軸2の外周面とハンガパイプ11の内周面との間にベアリング7A,7Bを介装することにより、直接的にハンガパイプ11に支持されている。
【0037】
上記構成の自転車用ギヤクランク装置Aは、次のようにして組み立てることができる。
【0038】
まず、ハンガパイプ11の軸方向所定位置において、ベアリング7A,7Bを圧入装着しておく。次に、クランクアーム4のボス部41にクランク軸2を左方から挿入し、クランク軸受容部411aとスプライン状大径部22とを嵌合させる。この状態において、クランク軸2をハンガパイプ11の左方から挿入してゆくとともに、クランクアーム3のボス部31をハンガパイプ11の右方から挿入し、クランク軸2の小径部23とクランクアーム3のボス部31のクランク軸受容部311cとを上記のようにスプライン嵌合させる。その際、クランクアーム4とクランクアーム3とが180°反対方向に延びるように調整する。そして、ボス部31の中央貫通孔311にその右方から挿入したボルト34をクランク軸2の小径部23のねじ孔24にねじ付ける。
【0039】
次に、上記した自転車用ギヤクランク装置Aを構成するクランクアーム3,4の製造方法の一例を図8〜図11を参照して説明する。
【0040】
クランクアーム3の製造においては、まず、クランクアーム素材を成形する。クランクアーム素材の成形は、鍛造(熱間型鍛造)によって行う。図8は、クランクアーム素材鍛造用の金型8(下金型8Aおよび上金型8B)を示す。金型8は、クランクアーム3の外形形状に対応する形状を有している。本方法では、所定温度に加熱したアルミニウム合金を金型8内に配置し、上下金型8A,8Bをプレスしつつ、中空部321,322,323に対応する形状を有する入れ子8Cを金型8の分割面の側方から油圧によって押圧する(第1工程)。これにより、ボス部31、アーム部32、およびギヤ支持ステー33に対応する形状を有するクランクアーム素材3’が一体成形される。その後、入れ子8Cを抜き取るとともに、上下金型8A,8Bを分離して、クランクアーム素材3’に中空部321,322,323が形成される(第2工程)。図9は、クランクアーム素材3’を表す。
【0041】
次に、クランクアーム素材3’に対し、ドリル等を用いて機械加工を施すことにより、クランクアーム3を形成する。ここで、ペダル取付け用のねじ孔324、中央貫通孔311、段差壁325、およびギヤ取付け用のねじ孔331が形成される。このようにして、図1〜図7を参照して上述したクランクアーム3が得られる。
【0042】
クランクアーム4の製造においては、まず、クランクアーム素材を成形する。クランクアーム素材の成形は、鍛造(熱間型鍛造)によって行う。図10は、クランクアーム素材鍛造用の金型9(下金型9Aおよび上金型9B)を示す。金型9は、クランクアーム4の外形形状に対応する形状を有している。本方法では、所定温度に加熱したアルミニウム合金を金型9内に配置し、上下金型9A,9Bをプレスしつつ、中空部421に対応する形状を有する入れ子9Cを金型9の分割面の側方から油圧によって押圧する(第1工程)。これにより、ボス部41、およびアーム部42に対応する形状を有するクランクアーム素材4’が一体成形される。その後、入れ子9Cを抜き取るとともに、上下金型9A,9Bを分離して、クランクアーム素材4’に中空部421が形成される(第2工程)。図11は、クランクアーム素材4’を表す。
【0043】
次に、クランクアーム素材4’に対し、ドリル等を用いて機械加工を施すことにより、クランクアーム4を形成する。ここで、ペダル取付け用のねじ孔422、中央貫通孔411、および段差壁423が形成される。このようにして、図1〜図3を参照して上述したクランクアーム4が得られる。
【0044】
次に、上記構成のクランクアーム3,4の作用について説明する。
【0045】
上記構成のクランクアーム3(4)においては、アーム部32(42)に形成された中空部321,322,323(421)は、ボス部31(41)につながる基端側において開放する開口321a,322a,323a(421a)を有している。このように開口321a,322a,323a(421a)を有する中空部321,322,323(421)は、たとえば鍛造によって形成することができる。したがって、上記構成の中空部321,322,323(421)を備えたクランクアーム3(4)によれば、本実施形態と異なり溶接によって中空構造のアーム部を形成する場合と比べて、溶接不良による強度低下等の問題が生ずることはなく、強度面において優れる。また、アーム部32(42)の基端に開口321a,322a,323a(421a)を有する構成によれば、本実施形態と異なりアーム部の先端(ペダル側端部)が開口する中空構造のアーム部を形成する場合と比べて、クランクアーム素材の成形後において開口を潰す工程が不要である。したがって、上記構成のクランクアーム3(4)によれば、製造工程の簡素化を図ることができ、生産効率を高めるのに適している。
【0046】
クランクアーム3(4)においては、ボス部31(41)がアーム部32(42)に対してクランク軸2の軸方向内方に変位させられている。このような構成では、アーム部32(42)の基端ないしボス部31(41)において、比較的にボリュームが大きくなるところ、アーム部32(42)の外側面とボス部31(41)の軸方向外面との間に段差壁325(423)が形成され、この段差壁325(423)に中空部321(421)の開口321a(421a)が形成されている。これにより、アーム部32(42)の基端においては、中空構造のパイプ状となっており、このパイプ状部分がボス部31(41)につながっている。このようなパイプ状の構成は、棒状の構成に比べて、捻り剛性や曲げ剛性に優れている。自転車において、ペダルの踏力によって作用する応力はアーム部32(42)の先端よりも基端の方が大きいが、上記の基端側に開口321a(421a)を有するアーム部32(42)の構成は、クランクアーム3(4)の軽量化に適するとともに、強度面においても有利である。
【0047】
クランクアーム3(4)に形成された中空部321,322,323(421)は、アーム部32(42)の先端側(開口とは反対側)の端部において閉じた有底状とされている。このような構成によれば、中空部321,322,323(421)の基端からの深さを適宜設定することにより、アーム部32(42)の先端の所定範囲において中空部321,322,323(421)が形成されない中実構造とすることができる。したがって、上記構成によれば、アーム部32(42)先端の所望の位置にペダル取付け用のねじ孔324(422)を形成することができ、ペダルの取り付け位置の変更等にも容易に対応することが可能である。
【0048】
アーム部32(42)に形成された中空部321,322,323(421)は、アーム部32(42)の基端から先端に向かうにつれて先細り状とされている。かかる構成によれば、鍛造成形時において中空部321,322,323(421)を形成するための入れ子8C(9C)を適切に抜き取ることができ、また、アーム部32(42)の各所に作用する応力に応じて無駄のない断面形状(断面積)とするのに適している。このことは、クランクアーム3(4)について、生産効率を高めるとともに軽量化および強度向上を図るうえで好適である。
【0049】
クランクアーム3は、ボス部31から放射状に延びるギヤ支持ステー33を有しており、当該ギヤ支持ステー33は、クランク軸2の軸方向視において、中空部321の開口321aが臨む方向と重ならない位置に設けられている。このような構成によれば、ギヤ支持ステー33を設ける場合であっても、中央貫通孔311や段差壁325等の形成時の加工用スペースを十分に確保することができ、ギヤ支持ステー33が機械加工の妨げとなり難い。このことは、クランクアーム3の生産効率を高めるうえで好適である。また、機械加工の妨げとなり難い、上記ギヤ支持ステー33の配置によれば、ギヤ支持ステー33を余分に切削する必要がなく、強度面において有利である。
【0050】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々な変更が可能である。本発明に係る自転車用クランクアームの各部の具体的な形状や材質なども、上記実施形態に限定されるものではない。
【0051】
上記実施形態においては、中空部321,322,323,421の開口321a,322a,323a,421aが外部に露出する構成について説明したが、これら開口を閉塞するための蓋を設けてもよい。開口閉塞用の蓋は、金属製あるいは樹脂製のものを適宜採用することができる。また、開口321aを閉塞するための蓋については、クランク軸2とクランクアーム3を結合するためのボルト34をも覆うように構成可能であり、開口421aを閉塞するための蓋については、クランク軸2の左端開口をも覆うように構成可能である。また、上記実施形態のように開口321a(421a)を有する中空部321(421)を備えた自転車用クランクアームによれば、たとえば、クランク回転速度やクランクに作用する応力を計測するための各種の検出装置(回転数センサや踏力センサなど)を、開口を通じて中空部内に容易に挿入することができる。開口を通じて中空部内面に各種センサを装着する場合、上記した開口閉塞用の蓋を設ける構成は、センサの機能を適切に維持するうえで好ましい。
【0052】
上記実施形態では、クランクアーム4は、クランク軸2の左端部に対し圧入嵌合により取り付けられていたが、これに限定されず、クランクアーム4は、クランクアーム3の場合と同様にボルトを用いてクランク軸2の左端部に取り付ける構造としてもよい。
【0053】
上記実施形態では、クランク軸2とクランクアーム3,4との嵌合部分は、スプライン状とされていたが、他の嵌合構造を採用してもよい。たとえば、クランク軸の端部にテーパ状角軸部(たとえば四角)を設け、クランクアームのボス部において上記角軸部に嵌合可能なテーパ状角穴を設けた構成としてもよい。
【0054】
上記実施形態では、ギヤ支持ステー33(ギヤ取付部)をクランクアーム3に一体成形する場合を例に挙げて説明したが、これに代えて、別体のギヤ取付部をボルト等の適宜手段によりクランクアームに取り付ける構成としてもよい。
【0055】
上記実施形態では、鍛造によりクランクアーム素材を成形する場合について説明したが、クランクアーム素材の成形は、たとえば鋳造により行うこともできる。鋳造によりクランクアーム素材を成形する場合、中空部に対応する形状の中子を用いればよく、鋳造後において中子を抜き取れば、中空部が形成される。さらに、クランクアーム素材の成形は、樹脂材料を用いた型成形により行うこともできる。樹脂型成形によりクランクアーム素材を成形する場合、使用する樹脂材料としては、たとえば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹樹脂などの合成樹脂、あるいは合成樹脂母材に炭素系フィラーやガラス系フィラー等を添加した繊維強化樹脂などが挙げられる。また、樹脂型成形においては、中空部に対応する形状の入れ子を用い、成形後において当該入れ子を抜き取れば、中空部が形成される。
【0056】
また、クランクアームにおける中空部の形成は、機械加工により行うこともできる。機械加工により中空部を形成する場合、鋳造、鍛造、もしくは樹脂型成形により、アーム部の外形形状に対応する中実状のアーム部原形、およびボス部に対応する部分を一体成形してクランクアーム素材を成形し、上記アーム部原形にドリル等の機械加工を施すことにより、中空部を有する所定形状のクランクアームを得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
A 自転車用ギヤクランク装置
1 ハンガ部
2 クランク軸
3,4 クランクアーム
5 ギヤ
6 ギヤクランク
7A,7B ベアリング
8,9 金型
8A,9A 下金型
8B,9B 上金型
8C,9C 入れ子
11 ハンガパイプ
21 中間部
22 スプライン状大径部
23 小径部
24 ねじ孔
31 ボス部
311 中央貫通孔
311a 内向フランジ
311b 座ぐり部
311c クランク軸受容部
32 アーム部
321,322,323 中空部
321a,322a,323a 開口
324 ねじ孔
325 段差壁
33 ギヤ支持ステー(ギヤ取付部)
331 ねじ孔
41 ボス部
411 中央貫通孔
411a クランク軸受容部
411b 座ぐり部
42 アーム部
421 中空部
421a 開口
422 ねじ孔
423 段差壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と嵌合する嵌合部を有するボス部と、このボス部につながる基端から長手状に延びて先端に至るアーム部とを備える自転車用クランクアームであって、
上記アーム部は、その長手方向に沿う中空部を有しており、
上記中空部は、上記アーム部の上記基端側において開口していることを特徴とする、自転車用クランクアーム。
【請求項2】
上記ボス部は、上記アーム部に対してクランク軸の軸方向内方に変位させられていることにより、上記アーム部の基端にはこのアーム部の外側面から上記ボス部の軸方向外面につながる段差壁が形成されており、この段差壁に上記中空部の開口が形成されている、請求項1に記載の自転車用クランクアーム。
【請求項3】
上記中空部は、上記アーム部の先端側の端部において閉じた有底状とされている、請求項2に記載の自転車用クランクアーム。
【請求項4】
上記中空部は、上記アーム部の基端から先端に向かうにつれて断面積が減少する先細り状とされている、請求項1ないし3のいずれかに記載の自転車用クランクアーム。
【請求項5】
上記中空部の開口を閉塞する蓋をさらに備える、請求項1ないし4のいずれかに記載の自転車用クランクアーム。
【請求項6】
上記ボス部からクランク軸の半径方向に放射状に延びる複数のギヤ取付部をさらに備える、請求項1ないし5のいずれかに記載の自転車用クランクアーム。
【請求項7】
上記複数のギヤ取付部は、クランク軸の軸方向視において、上記中空部の開口が臨む方向と重ならない位置にある、請求項6に記載の自転車用クランクアーム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の自転車用クランクアームを製造する方法であって、
鍛造もしくは鋳造により、上記中空部に対応する形状を有する入れ子もしくは中子を用いて、上記アーム部および上記ボス部に対応する形状を有するクランクアーム素材を一体成形する第1工程と、
この第1工程によって得られた上記クランクアーム素材から上記入れ子もしくは上記中子を抜き取ることにより、中空部を形成させる第2工程と、を含むことを特徴とする、自転車用クランクアームの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の自転車用クランクアームを製造する方法であって、
樹脂材料を用いた型成形により、上記中空部に対応する形状を有する入れ子を用いて、上記アーム部および上記ボス部に対応する形状を有するクランクアーム素材を一体成形する第1工程と、
この第1工程によって得られた上記クランクアーム素材から上記入れ子を抜き取ることにより、中空部を形成させる第2工程と、を含むことを特徴とする、自転車用クランクアームの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし7のいずれかに記載の自転車用クランクアームを製造する方法であって、
鍛造もしくは鋳造により、上記アーム部の外形形状に対応する形状を有する中実状のアーム部原形、および上記ボス部に対応する部分を一体成形してクランクアーム素材を得る第1工程と、
機械加工により、上記アーム部原形に、基端が開口する中空部を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする、自転車用クランクアームの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし7のいずれかに記載の自転車用クランクアームを製造する方法であって、
樹脂材料を用いた型成形により、上記アーム部の外形形状に対応する形状を有する中実状のアーム部原形、および上記ボス部に対応する部分を一体成形してクランクアーム素材を得る第1工程と、
機械加工により、上記アーム部原形に、基端が開口する中空部を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする、自転車用クランクアームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−171419(P2012−171419A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33654(P2011−33654)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(308028382)株式会社スギノエンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】