説明

臭気発生警報装置および異常事態報知方法

【課題】 注意喚起の作用が強く、かつ安全性の高い臭気発生警報装置および異常事態報知方法を提供することである。
【解決手段】 臭気発生警報装置1は、臭気物容器と、駆動部10と、検知器4と、制御部である回路部7とを含んで構成される。臭気物容器は、臭気物質を収容する。空気中における臭気物質の、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低い。駆動部10は、臭気物容器から臭気物質を放出する。検知器4は、異常事態の発生を検知し、検知信号を出力する。制御部は、検知器からの検知信号が入力され、検知信号に応じて駆動部に臭気物質を放出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気を発生することによって、火災などの異常事態を報知する臭気発生警報装置および異常事態報知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術に係る警報装置は、火災により発生する熱、煙、ガスおよび炎の光などを検知し、これらを単独で、または誤報等を防止するためにこれらを組み合わせて火災を判断する。火災を検知して出力された信号は、消火装置に与えられ、ベル等が鳴らされると共に、スプリンクラーなどが作動する。
【0003】
第2の従来技術に係る警報装置として、聴覚に障害のある人達に対しても、火災発生時に火災発生を報知できる火災警報装置が開示されている。この火災警報装置では、火災発生時に臭気を放散させることによって火災という異常事態の発生を報知する。この火災警報装置では、臭気ガスとして主にメチルメルカプタンが使用される(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−326326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1の従来技術に係る警報装置による警報は、聴覚に障害のある人には気付かれにくく、避難の開始に遅れが生じるという問題点がある。
【0006】
第2の従来技術に係る火災報知装置で使用されるメチルメルカプタンは、その致死量(
Lethal Dose 50, 略称「LD50」)が2.4mg/kgであり、皮膚に触れると発赤、痛みを引き起こし、液体に触れると凍傷を引き起こし、眼に入ると発赤、痛みなどの症状を引き起こすという問題点がある。
【0007】
本発明の目的は、注意喚起の作用が強く、かつ安全性の高い臭気発生警報装置および異常事態報知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従えば、臭気発生警報装置は、臭気物容器と、駆動部と、検知器と、制御部とを含んで構成される。臭気物容器は、臭気物質を収容する。空気中における臭気物質の、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低い。駆動部は、臭気物容器から臭気物質を放出する。検知器は、異常事態の発生を検知し、検知信号を出力する。制御部は、検知器からの検知信号が入力され、検知信号に応じて駆動部に臭気物質を放出させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異常事態が発生した場合に、匂いによって異常事態の発生を報知することができる。人間が匂いの強さに耐えられなくなる臭気物質の濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低いので、空気中における臭気物質の濃度が臭気物質の最大無作用濃度に達するよりも先に、人間は、臭気物質の匂いに気付くことができる。したがって、注意喚起の作用が強く、かつ安全性の高い臭気発生警報装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。以下の説明においては、各形態に先行する形態ですでに説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。以下の説明は、臭気発生警報装置および異常事態報知方法についての説明をも含む。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る臭気発生警報装置1の斜視図である。臭気発生警報装置1は、火災などの異常事態を報知する装置である。異常事態報知方法は、臭気発生警報装置1を用いて、火災などの異常事態を報知する方法である。臭気発生警報装置1は、臭気物容器であるスプレー缶11と、駆動部10と、検知器4と、制御部である回路部7とを含んで構成される。これらのうちスプレー缶11と、駆動部10と、回路部7とは臭気発生ユニット1aに含まれ、一体に形成される。
【0012】
スプレー缶11は、臭気物質を収容する。臭気物質が空気中における臭気物質の、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低い。駆動部10は、スプレー缶11から臭気物質を放出する。検知器4は、異常事態の発生を検知し、検知信号を出力する。回路部7は、検知器4からの検知信号が入力され、検知信号に応じて駆動部10に臭気物質を放出させる。駆動部10は、スプレー缶11から装置外の空間に臭気物質を放出させ、装置外の空間における臭気物質の濃度を、最大無作用濃度よりも低い予め定める濃度とする。これによって、装置外の空間において睡眠状態の人間を覚醒させる。また睡眠状態ではなく覚醒している人間に対しては、異常事態の発生を報知し、注意を喚起する。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態の臭気発生ユニット1aを簡略化して示す断面斜視図である。図3は、臭気発生ユニット1aを簡略化して示す斜視図である。図4は、臭気発生警報装置1を備える警報システム2の電気的構成を示すブロック図である。警報システム2は、火災などの異常事態を検知すると、スプリンクラーなどの消火装置3を作動させる。消火装置3は、異常事態の場合、警報手段として機能する臭気発生ユニット1aによって、異常事態であることを報知する。警報システム2は、図4を参照して、検知器4、消火装置3、臭気発生ユニット1a、および他の警報手段として機能する警報ベル5ならびに警報灯6を含んで構成される。
【0014】
検知器4は、検知手段であって、異常事態の発生を検知し、異常事態が発生したことを検知すると異常事態が発生したことを示す検知信号を消火装置3に与える。検知器4は、たとえば火災により発生する熱、煙、一酸化炭素などの気体および炎の光などを検出し、それらを単独で、または誤報等を防止するためにそれらを組み合わせて火災を判断するように構成される。検知器4は、検知した情報に基づいて火災であると判断した場合、検知信号を消火装置3に与える。
【0015】
消火装置3は、検知器4と電気的に接続され、検知器4から検知信号が与えられると、消火動作を開始する。消火装置3は、たとえばスプリンクラーなどの消火手段、および排煙装置などを作動させる。また消火装置3は、検知器4から検知信号が与えられると、警報を発するように警報手段1,5,6を制御する。警報ベル5、警報灯6および臭気発生ユニット1aは、警報手段であって、それぞれ消火装置3と電気的に接続され、消火装置3から検知信号が与えられると、警報を発する。警報ベル5は、警報音を発生し、警報灯6は発光し、臭気発生ユニット1aは臭気を発生する。
【0016】
次に、図4を参照して、臭気発生ユニット1aの電気的構成に関して詳細に説明する。臭気発生ユニット1aは、回路部7、電源部8、イニシエータ9、駆動部10およびスプレー缶11を含んで構成される。図4では、理解を容易にするため、電気的に接続されていない駆動部10およびスプレー缶11を仮想的に示す。回路部7は、制御手段としての機能を有し、検知器から検知信号が与えられると、イニシエータ9を動作させる。回路部7は、検知器4に電気的に接続され、検知器4から検知信号が与えられると、イニシエータ9に電流を供給する。イニシエータ9は、電流によって発熱し、イニシエータ9が備える点火剤(火薬)が着火する。点火剤が着火すると、火薬の熱によって、ガス発生剤が化学反応し、ガスが発生する。このガスの圧力によって駆動部10が動作し、スプレー缶11を変位させる。これによってスプレー缶11に充填される臭気液が放出される。したがってイニシエータ9および駆動部10は、切換手段としての機能を有し、スプレー缶11をケーシング12に対して変位させることによって、放出停止状態から放出状態に切換える。
【0017】
図5は、臭気発生ユニット1aを示す断面図である。図2および図3を併せて参照して、臭気発生ユニット1aの機械的構成に関して説明する。臭気発生ユニット1aは、ケーシング12および電源スイッチ13をさらに含んで構成される。ケーシング12は、予め定める軸線にそって延びる筒状部材からなり、その内部にはスプレー缶11を収納可能な収納空間および各部を収納可能な配置空間が形成される。配置空間は、収納空間に隣接して形成され、電源部8、駆動部10、イニシエータ9および回路部7が収納される。またケーシング12の外周部には、電源スイッチ13が設けられ、電源部8から回路部7への電気の供給状態を切換可能に構成される。
【0018】
回路部7は、端子台14、回路基板15、コンデンサ16およびコネクタ17を含んで構成される。端子台14は、ケーブルなどを介して検知器4と電気的に接続される部分である。端子台14は、図3に示すように、たとえばケーシング12の軸線方向の一端部に配置され、外部に露出して設けられる。端子台14は、回路基板15に電気的に接続される。したがって検知器4から検知信号は、端子台14を介して回路基板15に与えられる。
【0019】
電源スイッチ13は、回路部7に電気的に接続され、電源部8からの電圧の状態を切換可能に構成される。電源部8は、たとえば電池8によって実現され、臭気発生ユニット1aに着脱自在に設けられ、臭気発生ユニット1aに装着されることによって、回路基板15に電力を供給可能に構成される。電池8は、たとえば乾電池8など1次電池または充電池などの2次電池によって実現される。
【0020】
回路基板15は、電池8からの供給電力をイニシエータ9の火薬を着火させるために必要なエネルギーを予めコンデンサ16に充電する。回路基板15は、コンデンサ16およびコネクタ17に電気的に接続される。回路基板15は、端子台14から与えられる検知信号に基づいて、コンデンサ16に放電した電流をコネクタ17に与える。コネクタ17は、イニシエータ9に電気的に接続され、イニシエータ9をコンデンサ16からの電流を与えて作動させる。
【0021】
イニシエータ9は、前述したように回路部7によってコンデンサ16から与えられる電流によって作動し、ガスを発生する。発生したガスは、ケーシング12とイニシエータ9と駆動部10とによって形成される密閉空間18に放出され、密閉空間18内の圧力を上昇させる。このような密閉空間18は、オーリングによって気密性が保持されている。
【0022】
駆動部10は、前述しようたにイニシエータ9によって発生したガスによって動作する。駆動部10は、ピストン19と緩衝手段20とを含んで構成される。ピストン19は、密閉空間18を形成し、ケーシング12の軸線方向に沿って放出停止位置と放出位置とにわたって変位可能である。緩衝手段20は、スプレー缶11がケーシング12に対して変位するときに発生する衝撃を緩衝する。緩衝手段20は、本実施の形態ではばね部材20によって実現される。ばね部材20は、ピストン19が軸線方向一方へ向かうようにばね力を与える。
【0023】
スプレー缶11は、ケーシング12の軸線方向他方側に形成される収納空間に着脱自在に設けられる。スプレー缶11は、臭気液および圧縮空気などの圧縮ガスが充填され、圧縮ガスによって圧力を加えた臭気液をノズルヘッド21の細い孔から放出させることによって、臭気液を微粒子状に放出することができる。スプレー缶11は、臭気液を放出する放出状態と放出停止状態とにわたって切換可能に構成される。スプレー缶11は、たとえば圧縮ガスボンベによって実現される。スプレー缶11は、略円柱状であって、その軸線がケーシング12の軸線と略同軸となるように収納空間に設けられる。スプレー缶11の頂部は、ケーシング12の軸線方向他方側に設けられる。スプレー缶11は、臭気液を放出するノズルヘッド21、および臭気液と圧縮ガスとが充填される圧力容器22とを含む。スプレー缶11の頂部には、スプレー缶11に充填される臭気液を放出するノズルヘッド21が設けられる。スプレー缶11は、ノズルヘッド21と圧力容器22とが近接する方向に相対変位させることによって臭気液が放出される。圧力容器22は、収納空間内でノズルヘッド21に対して近接変位可能に設けられる。スプレー缶11が収納空間内に収納された状態で、スプレー缶11が放出停止状態にある場合、収納空間を形成するケーシング12の軸線方向他方側の端壁部12aは、圧力容器22のノズルヘッド21に臨む側の端面22aとは離間している。またノズルヘッド21は、スプレー缶11が収納空間内
に収納された状態で、収納空間内でケーシング12に固定されて設けられる。
【0024】
ケーシング12は、ノズルヘッド21の放出口21aから臭気液が放出される方向である半径方向に沿って放出孔23が形成される。放出孔23は、半径方向外方に拡径するテーパ状に形成される。このように放出孔23をテーパ状に形成することによって、ノズルヘッド21から放出された微粒子状の臭気液が放出孔23に臨む内周面に付着することなく、効率的に拡散させることができる。このようなケーシング12および駆動部10は、イニシエータ9によって発生するガスの圧力によって不所望に変形しない材料が用いられ、たとえば真鍮、ステンレス鋼および合成樹脂などの材料が用いられる。
【0025】
図6は、スプレー缶11が放出状態にある場合の臭気発生ユニット1aを示す断面図である。ピストン19は、イニシエータ9による圧力が作用していない自然状態では、ばね部材20のばね力によって軸線方向一方寄りの放出停止位置(図5参照)に位置する。前述したようにイニシエータ9によって発生したガスによって密閉空間18の圧力が上昇すると、ピストン19にガスの圧力が作用し、ばね部材20のばね力に抗して放出停止位置から軸線方向他方に向かって放出位置(図6参照)まで変位する。
【0026】
ノズルヘッド21は、ケーシング12によって変位が規制され、圧力容器22がケーシング12に対して放出停止状態となる缶停止位置(図5参照)から放出状態となる缶放出位置(図6参照)とにわたって変位可能に設けられる。図5に示すように、圧力容器22が缶放出停止位置にあり、ピストン19が放出停止位置にある場合、スプレー缶11の底部は、ピストン19の軸線方向他方側の面部が当接した状態にある。図6に示すように、ピストン19が変位して放出位置にある場合、ピストン19は圧力容器22の底部を軸線方向他方側に向かって押圧し、缶放出停止位置から軸線方向他方側に向かって缶放出位置まで変位させる。これによってケーシング12の軸線方向他方側の端壁部12aは、圧力容器22のノズルヘッド21に臨む側の端面22aと当接する。ノズルヘッド21はケー
シング12によって固定されているので、圧力容器22がノズルヘッド21に対して缶放出位置まで近接する方向に変位することによって、ノズルヘッド21から臭気液が放出される。イニシエータ9によって発生したガスは、密閉空間18にあるので、そのガスによる圧力はピストン19を放出位置(図6参照)まで変位させ、その状態を保持する。したがって圧力容器22も缶放出位置にある状態が保持されるので、ノズルヘッド21からは臭気液が継続的に放出される。
【0027】
スプレー缶11に充填されるガスは、火炎にも燃焼しないガスまたは空気が選定される。スプレー缶11に充填される臭気液の臭気薬剤は、異常事態であることを伝え、避難行動を促進することを前提に選定される。具体的には臭気物質は、アリルイソチオシアナート(allyl isothiocyanate, 略称「AIT」、化学式「CH=CHCHN=C=S」)を含む。AITは、国際純正応用化学連合では、「3-isothicyanate-1-propene」とも称される物質で、アリルカラシ油とも呼ばれ、ワサビの刺激臭の元となる物質である。
【0028】
AITは、厚生省生活衛生局食品化学課が食品衛生法において、着香目的に用いる食品添加物として認めており、食肉加工品(70ppm)、ピクルス(80ppm)、ソース類などの調味料(50ppm)などに広く使用されている。水には溶けにくく、揮発性を有する。またAITは、通産省管轄の、雑貨などの化成品に使用する原料を規制する化学物質審査規制法によっても使用原料として認められている。
【0029】
AITは、物質量で1ppm(parts per million, 略号「ppm」)の濃度を超えるあたりから、人間は刺激臭を感じ始め、5ppmあたりからワサビの匂いであると識別される。以下、単位「ppm」を用いるときには、モル(「mol」)を単位とする物質量で比較したときの比を表す。AITは、10ppm以上の濃度になると、その雰囲気下では人間は耐えられなくなることが分かっている。AITの人間に対する最大無作用濃度は74.3ppmであり、人間が耐えられなくなる濃度は、最大無作用濃度に比べて低い。
【0030】
このことが、吸入毒性を回避できる要因となっている。4時間暴露したときの吸入致死濃度(吸入LC50)は、マウスにおいて155ppmであり、ラットにおいて173ppmである。経口投与における致死量(LD50)は、マウスにおいて310mg/kgである。メチルメルカプタンの経口投与におけるLD50は、2.4mg/kgであるので、AITは、メチルメルカプタンに比べて安全な物質である。
【0031】
家兎を用いた点眼試験では、AITをコーン油で0.1%から10%に希釈して点眼すると、一過性の浮腫と結膜充血がみられるに過ぎない。人間に対しては催涙作用があるので、眼に対する毒性が発現する危険は、家兎を用いた点眼試験よりもさらに低くなる。急性経皮毒性は、ウサギにおいてLD5088mg/kgである。AITは、キャベツ、カリフラワーおよび芽キャベツなどの十字花植物にも40〜120ppm程度は含まれている。
【0032】
本実施形態において駆動部は、臭気物容器から臭気物質を放出させ、装置外の空間の空気中のAITの濃度を物質量で5ppm以上20ppm以下とする。したがって、この濃度範囲でAITの人体に対する悪影響はない。さらに臭気発生警報装置1の装置外の空気中においてAITの濃度は5ppm以上15ppm以下の範囲が好ましい。人間がこれらの濃度のAITの臭気によって覚醒することは、実験によって確認した。本実施形態においては、スプレー缶11に収容されるAITは、使用される対象区画において均一に拡散したときに、前記の濃度範囲となるような物質量が一気に噴射される。これによって異常事態が発生したときに、可及的に短い時間で、人間に異常事態の発生を報知することができる。
【0033】
臭気物質としては、空気中において人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度が、最大無作用濃度よりも低い物質であれば、AIT以外の物質を用いてもよく、またAIT以外の臭気物質をAITと共に混合して用いることも可能である。たとえばメントール((1RS,2SR,5RS)-2-isopropyl-5-methylcyclohexanolおよびこの鏡像異性体)を含んでいてもよい。
【0034】
図1に示すように、臭気発生警報装置1は、操作部24をさらに含む。操作部24は、外部からの操作によって複数の状態に切換え可能であり、各状態を示す信号を、制御部である回路部7に対して出力する。駆動部10が臭気物容器から臭気物質を放出させた後、操作部24が予め定める状態に、その状態とは異なる状態から切換えられると、回路部7は、駆動部10に、臭気物容器からの臭気物質のさらなる放出を停止させる。前記予め定める状態では、駆動部10の稼動自体が停止される構成としてもよく、臭気発生警報装置1が稼動し始めたときに操作部24が前記予め定める状態であれば、駆動部10は駆動可能であり、一度前記予め定める状態から他の状態に切換えられた後に、再び前記予め定める状態に切換えられることによって駆動部10の稼動が停止される構成としてもよい。
【0035】
本実施形態において操作部24は、たとえばロッカスイッチまたはスライドスイッチなどによって実現される。本実施形態で操作部24はオン状態とオフ状態との2つの態様を取り、オン状態においては駆動部10への電力供給を行う配線を導通状態とし、オフ状態では駆動部10への電力供給を行う配線をその途中位置において非導通状態とする。
【0036】
これによって、人間が異常事態を認識した後に、駆動部10による、さらなる臭気物質の放出を人間が停止することが可能となる。駆動部10による臭気物質の放出によって異常事態を人間が認識した後は、装置外の空間における臭気物質の濃度をさらに高くする必要性はない。人間が臭気物質の放出を停止させることによって、必要以上の臭気物質の濃度の上昇を防止することができる。また異常事態が発生したときに、装置外の空間において異常事態に対処する人間の行動に、臭気物質の匂いが妨げとなることを防止することができる。
【0037】
臭気発生警報装置1は、臭気物容器であるスプレー缶11と、駆動部10と、検知器4と、制御部である回路部7とを含んで構成される。臭気物容器は、臭気物質を収容する。空気中における臭気物質の、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低い。駆動部10は、臭気物容器から臭気物質を放出する。検知器4は、異常事態の発生を検知し、検知信号を出力する。回路部は、検知器4からの検知信号が入力され、検知信号に応じて駆動部10に臭気物質を放出させる。
【0038】
これによって、異常事態が発生した場合に、匂いによって異常事態の発生を報知することができる。人間が匂いの強さに耐えられなくなる臭気物質の濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低いので、空気中における臭気物質の濃度が臭気物質の最大無作用濃度に達するよりも先に、人間は、臭気物質の匂いに気付くことができる。したがって、注意喚起の作用が強く、かつ安全性の高い臭気発生警報装置を実現することができる。
【0039】
駆動部10は、臭気物容器から装置外の空間に臭気物質を放出させ、装置外の空間における臭気物質の濃度を、最大無作用濃度よりも低い予め定める濃度とする。これによって、装置外の空間において睡眠状態の人間を覚醒させる。したがって、睡眠状態の人間を安全に覚醒させることができる。
【0040】
臭気物質は、アリルイソチオシアナートを含む。空気中において人間が匂いの強さに耐えられなくなるアリルイソチオシアナートの濃度は、この物質の最大無作用濃度の7分の1以下である。したがって、装置外の空間における臭気物質の濃度調整に誤差が生じたとしても、装置外の空間において、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度を超えかつ最大無作用濃度未満の濃度に調整することができる。
【0041】
駆動部は、臭気物容器から臭気物質を放出させ、装置外の空間の空気中のアリルイソチオシアナートの濃度を物質量で5ppm以上20ppm以下とする。空気中において人間が匂いの強さに耐えられなくなるアリルイソチオシアナートの濃度は、物質量で10ppmである。したがって、異常事態の発生を人間に確実に報知することができる。またアリルイソチオシアナートの最大無作用濃度は、物質量で74.3ppmである。したがって、人間に対して悪影響を及ぼすことなく、異常事態の発生を人間に報知することができる。
【0042】
図7は、本発明の一実施形態に係る異常事態報知方法の工程を表すフローチャートである。本実施形態に係る異常事態報知方法は、臭気物容器と、駆動部10と、検知器4と、制御部とを用い、検知工程と、臭気放出工程とを含んで構成される。検知工程では、検知器4によって異常事態の発生を検知する。臭気放出工程では、制御部である回路部7が駆動部10に臭気物容器であるスプレー缶11から臭気物質を放出させる。これによって、異常事態が発生した場合に、匂いによって異常事態の発生を報知することができる。人間が匂いの強さに耐えられなくなる臭気物質の濃度は、臭気物質の最大無作用濃度よりも低いので、空気中における臭気物質の濃度が臭気物質の最大無作用濃度に達するよりも先に、人間は、臭気物質の匂いに気付くことができる。
【0043】
<他の実施形態>
本実施形態に係る臭気発生警報装置1は、臭気物容器を複数含む。臭気発生警報装置1には、臭気発生ユニット1aが複数設置され、臭気物容器であるスプレー缶11は、各臭気発生ユニット1aに1つずつ設置される。本実施形態では臭気発生警報装置1に、3つの臭気発生ユニット1aが設置される。駆動部10が臭気物質を1回に放出させる臭気物容器は、複数の臭気物容器の一部である。本実施形態では、駆動部10は、1回に1つのスプレー缶11からの放出を行い、3回の放出を行う。駆動部10は、スプレー缶11からの臭気物質のさらなる放出を停止することが可能である。1回の放出の後は、2回目以降の臭気物質の放出を停止し、2回目の放出の後は、3回目の臭気物質の放出を停止可能に形成される。
【0044】
臭気放出工程では、駆動部10は、臭気物質を、時間的に異なる複数の回数で放出する。具体的には、臭気放出工程は、第1臭気放出工程と第2臭気放出工程と第3臭気放出工程とからなり、これら3つの臭気放出工程は、時間間隔をおいて3回にわたって行われる。スプレー缶11は、複数含まれる。臭気放出工程において駆動部10が臭気物質を1回に放出させるスプレー缶11は、複数のスプレー缶11の一部であり、具体的には1回の臭気放出工程で1つのスプレー缶11からの臭気物質の放出が行われる。
【0045】
仮に駆動部10が、1つのスプレー缶11から複数回にわたって臭気物質を放出させるならば、駆動部10は、臭気物質を放出させている途中でスプレー缶11からの臭気物質の放出を停止する必要があるけれども、スプレー缶11が複数であり、1回に一部のスプレー缶11から放出させることによって、放出させたスプレー缶11からの臭気物質の放出を停止させることなく、臭気物質の濃度を複数回に分けて上昇させることができる。これによって、臭気物質を放出させている途中でスプレー缶11からの臭気物質の放出を停止する場合に比べて、1回に放出される臭気物質の量に伴う誤差を小さくすることができる。したがって、装置外の空間における臭気物質の濃度を、高い精度で段階的に上昇させることが可能となる。
【0046】
臭気放出工程では、駆動部10は、臭気物質を、時間的に異なる複数の回数で放出するので、臭気物質が放出される装置外の空間において、臭気物質の濃度を複数回に分けて上昇させることができる。したがって、臭気物質の濃度が人間が認知可能な濃度に達するまでの時間と、臭気物質の濃度が前記予め定める濃度に達するまでの時間とに時間差を設けることができる。これによって、臭気物容器に収容される臭気物質が全て放出された状態での装置外の空間における臭気物質の濃度よりも、臭気物質の濃度が低濃度である状態において、人間に異常事態の発生を認知させることができる。したがって、駆動部10が臭気物質を一度に放出して、装置外の空間における臭気物質の濃度を予め定められる濃度とする構成に比べて、人間が異常事態の発生を認知してからその場を離れるまでの時間に、人間が感じる匂いの強さを低減することができる。したがって、異常事態が発生したときに、装置外の空間において異常事態に対処する人間の行動に、臭気物質の匂いが妨げとなることを防止することができる。
【0047】
<実施例>
前記のような構成の効果を確かめる実験は、対象区画を1.7メートル(meters, 略号「m」)×2.15m×2.5m、容積9.51mの室内として、この室内において、圧縮ガスのみを充填した1つのダミー缶と3つのスプレー缶とを用いて行った。被験者のベッドの頭部近傍の壁に4つの濃度センサを設置し、これらの濃度センサで測定を行った。スプレー缶11からのAITの放出は、50秒〜100秒の間隔をおいて3回行った。このとき空気中のAITの濃度は、2ppm程度上昇し、24ppmを超える濃度条件を含めて実験した。
【0048】
同様の実験を、1.8m×2.2m×2.0m、容積7.92mの室内においても行い、前記の構成の効果を確認した。前記他の実施形態に係る異常事態報知方法と同様に1つずつスプレー缶の放出を行った実験においては、1つめのスプレー缶からのAITの放出によって被験者のいる室内のAIT濃度を5ppmとした。この濃度は室内全体にAITが均一に拡散したときの濃度である。次に2つめのスプレー缶からのAITの放出によって、室内のAIT濃度を10ppmとし、3つめのスプレー缶からの放出によって15ppmとした。実験においてはさらに高い濃度となるようにAITの放出を行い、人間が睡眠状態から覚醒し、かつ避難行動を支障なく行うことができるAITの濃度範囲として、前記の濃度範囲を決定した。
【0049】
これらの実験において、対象区画における空気中のAITの濃度が、物質量の比として5ppm以上20ppm以下となったときに、対象区画において睡眠中の人間を安全に覚醒させることができることを確認した。さらに対象区画におけるAITの濃度が、5ppm以上15ppm以下であるときには、対象区画で睡眠中の人間を安全に覚醒させることができるとともに、AIT濃度が15ppmを超える場合に比べて、対象区画内の人間の不快感を低減できることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る臭気発生警報装置1の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の臭気発生ユニット1aを簡略化して示す断面斜視図である。
【図3】臭気発生ユニット1aを簡略化して示す斜視図である。
【図4】臭気発生ユニット1aを備える警報システム2の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】臭気発生ユニット1aを示す断面図である。
【図6】スプレー缶11が放出状態にある場合の臭気発生ユニット1aを示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る異常事態報知方法の工程を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 臭気発生警報装置
1a 臭気発生ユニット
2 警報システム
3 消火装置
4 検知器
5 警報ベル
6 警報灯
7 回路部
8 電源部
9 イニシエータ
10 駆動部
11 スプレー缶
12 ケーシング
13 電源スイッチ
14 端子台
15 回路基板
16 コンデンサ
17 コネクタ
18 密閉空間
19 ピストン
20 緩衝手段
21 ノズルヘッド
22 圧力容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中における臭気物質の、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度が、前記臭気物質の最大無作用濃度よりも低い臭気物質を収容する臭気物容器と、
前記臭気物容器から臭気物質を放出する駆動部と、
異常事態の発生を検知し、検知信号を出力する検知器と、
前記検知器からの検知信号が入力され、検知信号に応じて駆動部に臭気物質を放出させる制御部とを含むことを特徴とする臭気発生警報装置。
【請求項2】
前記駆動部は、前記臭気物容器から装置外の空間に前記臭気物質を放出させ、前記装置外の空間における前記臭気物質の濃度を、前記最大無作用濃度よりも低い予め定める濃度とすることによって、前記装置外の空間において睡眠状態の人間を覚醒させることを特徴とする請求項1に記載の臭気発生警報装置。
【請求項3】
前記臭気物質は、アリルイソチオシアナートを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の臭気発生警報装置。
【請求項4】
前記駆動部は、前記臭気物容器から前記臭気物質を放出させ、装置外の空間の空気中のアリルイソチオシアナートの濃度を物質量で5ppm以上20ppm以下とすることを特徴とする請求項3に記載の臭気発生警報装置。
【請求項5】
空気中における臭気物質の、人間が匂いの強さに耐えられなくなる濃度が、前記臭気物質の最大無作用濃度よりも低い臭気物質を収容する臭気物容器と、前記臭気物容器から臭気物質を放出する駆動部と、異常事態の発生を検知し、検知信号を出力する検知器と、前記検知器からの検知信号が入力され、検知信号に応じて駆動部に臭気物質を放出させる制御部とを用い、
検知器によって異常事態の発生を検知する検知工程と、
検知工程で異常事態の発生が検知されると、制御部が駆動部に臭気物容器から臭気物質を放出させる臭気放出工程とを含むことを特徴とする異常事態報知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−187227(P2009−187227A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25759(P2008−25759)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(390010342)エア・ウォーター防災株式会社 (56)
【出願人】(501048930)株式会社シームス (34)
【Fターム(参考)】