説明

航空機のエンジンマウント、航空機

【課題】高バイパス比のエンジンにおいても、エンジンのマウントを小型化し、エンジンナセル内のスペースの有効利用を図ることのできる航空機のエンジンマウント、航空機を提供することを目的とする。
【解決手段】エンジン20の後部のエンジンコア部20bを、エンジン20側に固定されたエンジン側マウント部材41と、パイロンストラット11側に固定されたストラット側マウント部材42とからなる後部エンジンマウント40により支持するようにした。後部エンジンマウント40を、エンジン側マウント部材41とストラット側マウント部材42とに分割することにより、ファン部20aの外径と、エンジンコア部20bの外径とが大きく異なる高バイパス比のエンジン20においても、エンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材42の上下方向の長さを抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボファン式のエンジンを備える航空機のエンジンマウント、航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のターボファン式のエンジンは、翼に対し、パイロンストラットと称される構造部材を介して取り付けられている(例えば、非特許文献1のfig13.4.3参照。)。
【0003】
図4に示すように、パイロンストラット1は、翼2の下面に、飛行方向前方に向けて延びるように設けられている。エンジン4は、パイロンストラット1の下面に、前部のファン部4aが前部エンジンマウント5により取り付けられ、後部のコア部4bが後部エンジンマウント6により取り付けられている。
【0004】
エンジン4側とパイロンストラット1側との間には、様々な方向の力が作用する。例えば、エンジン4の推力と、逆噴射時における力とにより、前後方向の力が作用する。また、着陸時には、上下方向の力が作用する。この上下方向の力としては、例えばハードランディング(上下方向に衝撃を伴うような着陸)時や、胴体着陸時の衝撃等もあり得る。また、エンジン4の作動時には、ファンの回転による回転方向のトルクも作用する。このため、前部エンジンマウント5、後部エンジンマウント6は、これらの力に対して十分な強度を有する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Micheal C. Y. Niu著 「Airframe structual design second edition」 Hong Kong Conmilit Press LTD p.482-p.483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、近年、コア部4bの径に対し、ファン部4aの径が大きい、高バイパス比のエンジン4が開発されている。このような高バイパス比のエンジン4においては、エンジン4の後部において、コア部4bとパイロンストラット1との間隔が増大する。これに伴い、後部エンジンマウント6が長大化(高さが大きくなる)することになる。
【0007】
しかし、後部エンジンマウント6が長大化すると、エンジン4側とパイロンストラット1側との間に作用する力のモーメントが大きくなってしまう。その結果、後部エンジンマウント6の強度を確保するには、後部エンジンマウント6を太くする等しなければならず、重量増につながるという問題がある。
また、前部エンジンマウント5や後部エンジンマウント6は、エンジン4の外殻を形成するナセル7内に設けられているが、このナセル7内において、特にエンジン4のコア部4b上方には、様々な機器類が収容されている。後部エンジンマウント6が長大化すると、これらの機器の収容スペースが小さくなることになり、スペースの有効利用という観点でも改善の余地がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、高バイパス比のエンジンにおいても、エンジンのマウントを小型化し、エンジンナセル内のスペースの有効利用を図ることのできる航空機のエンジンマウント、航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明の航空機のエンジンマウントは、航空機のエンジンを、前記航空機の翼に固定されたパイロンストラットに吊り下げるエンジンマウントであって、エンジンの前部に設けられたファン部とパイロンストラットとを連結する前部エンジンマウントと、エンジンの後部に設けられ、ファン部よりも小さな外径を有したエンジンコア部とパイロンストラットとを連結する後部エンジンマウントと、を備え、少なくとも後部エンジンマウントが、エンジンコア部側に設けられたエンジン側マウント部材と、パイロンストラット側に設けられたパイロン側マウント部材とを連結することで構成されていることを特徴とする。
このように、少なくとも後部エンジンマウントを、エンジン側マウント部材とパイロン側マウント部材とから構成することで、これらを一体としたものを用いる場合に比較し、エンジン側マウント部材、パイロン側マウント部材をそれぞれ短くすることができる。これにより、エンジンと翼との相対変位によってエンジン側マウント部材とパイロン側マウント部材のそれぞれに作用する力のモーメントを小さくすることができる。
【0009】
また、パイロン側マウント部材は、パイロンストラットを挟むように設けられた一対のプレート状のメインマウント部材と、一対のメインマウント部材の間に挟み込まれ、一対のメインマウント部材同士を結ぶ方向におけるメインマウント部材の支持強度を補強する補強マウント部材と、を備えることもできる。
また、これらメインマウント部材と補強マウント部材とを一体化したようなパイロン側マウント部材を用いることもできる。
【0010】
エンジン側マウント部材の上端部に一端が連結され、エンジンコア部とファン部との境界部近傍に他端が連結された補強ロッドをさらに備えることもできる。この場合、エンジン側マウント部材の高さが低く抑えられるため、補強ロッドも低く設置できる。これにより、エンジンコア部とパイロンストラットとの間に機器類を設置した場合、補強ロッドがこれらの機器類のメンテナンスの邪魔になりにくく、整備性を向上させることができる。
【0011】
本発明は、上記したようなエンジンマウントによりエンジンが翼に支持されていることを特徴とする航空機とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも後部エンジンマウントを、エンジン側マウント部材とパイロン側マウント部材とから構成することで、これらを一体としたものを用いる場合に比較し、エンジン側マウント部材、パイロン側マウント部材をそれぞれ短くすることができる。これにより、エンジンと翼との相対変位によってエンジン側マウント部材とパイロン側マウント部材に作用する力のモーメントを小さくすることができる。したがって、高バイパス比のエンジンにおいても、エンジンマウントを小型化することが可能となり、エンジンナセル内のスペースの有効利用を図ることが可能となる。
【0013】
また、パイロンストラットを挟むように設けられた一対のプレート状のメインマウント部材により、プレート面に沿った方向に対応した機体の前後方向、上下方向への支持強度を主に確保しつつ、一対のメインマウント部材の間に挟み込まれた補強マウント部材により、一対のメインマウント部材同士を結ぶ方向、つまりプレートの厚さ方向におけるメインマウント部材の支持強度を補強することで、あらゆる方向に対するエンジンの支持強度を確保することができる。
【0014】
さらに、エンジン側マウント部材の高さが低く抑えられるため、補強ロッドも低く設置できる。これにより、エンジンコア部とパイロンストラットとの間に機器類を設置した場合、補強ロッドがこれらの機器類のメンテナンスの邪魔になりにくく、整備性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態における航空機のエンジンマウントを適用した翼へのエンジン取付構造を示すための図である。
【図2】第一の実施形態におけるストラット側マウント部材を示す図であり、(a)は斜め下方から見た斜視図、(b)はパイロンストラットの軸線に直交する面における断面図である。
【図3】第二の実施形態におけるストラット側マウント部材を示す図であり、(a)は斜め下方から見た斜視図、(b)はパイロンストラットの軸線に直交する面における断面図である。
【図4】従来の航空機のエンジンマウントを適用した翼へのエンジン取付構造を示すための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における航空機のエンジンマウントを適用した翼へのエンジン取付構造を説明するための図である。
図1に示すように、航空機の翼10に、ターボファン式のエンジン20が、パイロンストラット11を介して取り付けられている。
パイロンストラット11は、翼10の下面に、飛行方向前方に向けて延びるように設けられている。パイロンストラット11は、例えば前後方向に直交する断面における形状が例えば台形で、後方から前方に行くに従いその断面積が漸次縮小している。
【0017】
ターボファン式のエンジン20は、飛行方向前方が、断面円形のシュラウド21内にファンが内蔵されたファン部20aとされ、ファン部20aの後方に、ファン部20aよりも小径な円筒状のハウジング22内に収容されたエンジンコア部20bが設けられている。エンジンコア部20bは、ファンを駆動するための機構を備えている。
【0018】
このようなエンジン20は、パイロンストラット11の下面に、ファン部20aが前部エンジンマウント30により取り付けられ、エンジンコア部20bが後部エンジンマウント40により取り付けられている。
そして、エンジン20およびパイロンストラット11は、筒状のエンジンナセル23内に収容されている。
【0019】
前部エンジンマウント30は、ボルト等の結合手段により、上面30aがパイロンストラット11の下面に固定され、下面30bがエンジン20のファン部20aのシュラウド21に固定されている。
【0020】
後部エンジンマウント40は、エンジン20側に固定されたエンジン側マウント部材41と、パイロンストラット11側に固定されたストラット側マウント部材42とから形成されている。
ここで、エンジン側マウント部材41は、ボルト等の結合手段により、その下面41aがエンジン20のエンジンコア部20bのハウジング22の上面に固定されている。
また、エンジン側マウント部材41の上部には、補強ロッド45の一端45aが連結されている。この補強ロッド45は、他端45bが、エンジン20のエンジンコア部20bとファン部20aとの連結部近傍に連結されている。これにより、補強ロッド45は、エンジン20の前部側の支持を補強する。
【0021】
一方、図2に示すように、ストラット側マウント部材42は、一対のメインサポート部材(メインマウント部材)43、43と、バックアップサポート部材(補強マウント部材)44、44とから構成されている。
メインサポート部材43、43は、パイロンストラット11を挟んでその両側に対向して設けられている。メインサポート部材43、43は、その上部43a、43aがパイロンストラット11の両側面11a、11aに、図示しないボルト等によって固定されている。このメインサポート部材43、43の下部43b、43bは、上部43a、43aから鉛直下方に向けて延び、パイロンストラット11よりも下方に突出するよう設けられている。
このメインサポート部材43、43は、プレート状で、左右方向の厚さよりも、前後方向に大きな所定幅を有している。
【0022】
バックアップサポート部材44、44は、パイロンストラット11から下方に突出したメインサポート部材43、43の下部43b、43bの間に設けられている。
各バックアップサポート部材44は、ウェブ44aの両端に、それぞれ直交するフランジ44b、44cが一体に設けられたH型状とされている。そして、フランジ44bをメインサポート部材43の下部43bに対向させ、フランジ44cを、もう一方のバックアップサポート部材44のフランジ44cに対向させ、これらをボルト等の結合手段で連結している。
【0023】
このようなストラット側マウント部材42は、メインサポート部材43、43の下面と、バックアップサポート部材44、44の下面が、連続する平面からなる取付面42aを形成するよう設けられている。そして、ストラット側マウント部材42の取付面42aと、エンジン側マウント部材41とが突き合わされ、これらがボルト等の結合手段により互いに結合されている。
ここで、ストラット側マウント部材42とエンジン側マウント部材41とは、パイロンストラット11の下面とエンジン20のエンジンコア部20bの上面との中間部において互いに結合されるようになっている。
【0024】
上述したような構成によれば、エンジン20の後部のエンジンコア部20bが、エンジン20側に固定されたエンジン側マウント部材41と、パイロンストラット11側に固定されたストラット側マウント部材42とからなる後部エンジンマウント40により支持されている。このように、後部エンジンマウント40を、エンジン側マウント部材41とストラット側マウント部材42とに分割することにより、ファン部20aの外径と、エンジンコア部20bの外径とが大きく異なる高バイパス比のエンジン20においても、一本の後部エンジンマウント6(図4参照)で支持する場合に比較し、エンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材42の上下方向の長さを抑えることができる。これにより、エンジン20の作動時、航空機の飛行時等におけるエンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材42に作用するモーメントを小さくすることができる。その結果、エンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材42を長大化する必要が無く、エンジンナセル23内の空間の有効利用を図ることが可能となり、さらに、軽量化、およびそれによる低コスト化を図ることができる。
【0025】
また、補強ロッド45は、エンジン側マウント部材41の上部に一端45aが連結されている。上記のようにしてエンジン側マウント部材41の高さを抑えることができるので、補強ロッド45も低く抑えることができる。これにより、エンジン20のエンジンコア部20bとパイロンストラット11との間の空間に設置される機器類の整備性を向上させることができる。
【0026】
さらに、本実施形態の後部エンジンマウント40においては、ストラット側マウント部材42が、一対のメインサポート部材43、43により、前後方向、上下方向、左右方向の力を主に担いつつ、これらメインサポート部材43、43間に設けられたバックアップサポート部材44、44により、特に左右方向の力に対する支持強度を補強することができる。これにより、ストラット側マウント部材42において、あらゆる方向に対する支持強度を高めることができる。その結果、必要十分な所要の支持強度を確保しつつ、ストラット側マウント部材42を小型化、軽量化することも可能である。
【0027】
[第二の実施形態]
次に、本発明に係る航空機のエンジンマウントの第二の実施形態について説明する。なお、以下に説明する航空機のエンジンマウントは、基本的な構成は上記第一の実施形態で示したものと同様であるので、以下においてはその相違点を中心に説明し、上記第一の実施形態と共通する構成については、同符号を付してその説明を省略する。
図1に示すように、エンジン20は、パイロンストラット11の下面に、ファン部20aが前部エンジンマウント30により取り付けられ、エンジンコア部20bが後部エンジンマウント50により取り付けられている。
【0028】
後部エンジンマウント50は、エンジン20側に固定されたエンジン側マウント部材41と、パイロンストラット11側に固定されたストラット側マウント部材52とから形成されている。
【0029】
図3に示すように、ストラット側マウント部材52は、上記第一の実施形態におけるメインサポート部材43、43と、バックアップサポート部材44、44とを一体化したような、ブロック状をなしている。ストラット側マウント部材52は、上下方向に所定の厚さを有しており、パイロンストラット11の下面にボルト等の結合手段により固定されている。
このようなストラット側マウント部材52は、FEM解析等により、十分な強度、安全性を保証できる形状、寸法、材質に形成されている。
【0030】
上述したような構成によれば、エンジン20の後部のエンジンコア部20bが、エンジン20側に固定されたエンジン側マウント部材41と、パイロンストラット11側に固定されたストラット側マウント部材52とからなる後部エンジンマウント50により支持されている。このように、後部エンジンマウント50を、エンジン側マウント部材41とストラット側マウント部材52とに分割することにより、ファン部20aの外径と、エンジンコア部20bの外径とが大きく異なる高バイパス比のエンジン20においても、一本の後部エンジンマウント6(図4参照)で支持する場合に比較し、エンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材52の上下方向の長さを抑えることができる。これにより、エンジン20の作動時、航空機の飛行時等におけるエンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材52に作用するモーメントを小さくすることができる。その結果、エンジン側マウント部材41、ストラット側マウント部材52を長大化する必要が無く、軽量化、およびそれによる低コスト化を図ることができる。
【0031】
さらに、本実施形態の後部エンジンマウント50においては、ストラット側マウント部材52が、上記第一の実施形態で示したメインサポート部材43、43とバックアップサポート部材44、44を一体化したような構成を有している。これにより、ストラット側マウント部材52において、あらゆる方向に対する支持強度を高めつつ、部品点数を削減してその組み付けの手間・コストを抑えることができる。
【0032】
なお、上記実施の形態では、各部材の組み付けにボルト等の結合手段を用いるとしたが、その結合面に直交する方向のせん断力を担うシアーピンと、二つの部材を締結するボルトとを組み合わせて用いるのが好ましい。もちろん、これ以外の結合手段を用いてもよい。
また、エンジン20や、パイロンストラット11の構成等については何ら限定するものではない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10…翼、11…パイロンストラット、20…エンジン、20a…ファン部、20b…エンジンコア部、23…エンジンナセル、30…前部エンジンマウント、40、50…後部エンジンマウント、41…エンジン側マウント部材、42、52…ストラット側マウント部材、42a…取付面、43…メインサポート部材(メインマウント部材)、43a…上部、43b…下部、44…バックアップサポート部材(補強マウント部材)、45…補強ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機のエンジンを、前記航空機の翼に固定されたパイロンストラットに吊り下げるエンジンマウントであって、
前記エンジンの前部に設けられたファン部と前記パイロンストラットとを連結する前部エンジンマウントと、
前記エンジンの後部に設けられ、前記ファン部よりも小さな外径を有したエンジンコア部と前記パイロンストラットとを連結する後部エンジンマウントと、を備え、
少なくとも前記後部エンジンマウントが、前記エンジンコア部側に設けられたエンジン側マウント部材と、前記パイロンストラット側に設けられたパイロン側マウント部材とを連結することで構成されていることを特徴とする航空機のエンジンマウント。
【請求項2】
前記パイロン側マウント部材は、前記パイロンストラットを挟むように設けられた一対のプレート状のメインマウント部材と、
前記一対のメインマウント部材の間に挟み込まれ、一対の前記メインマウント部材同士を結ぶ方向における前記メインマウント部材の支持強度を補強する補強マウント部材と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のエンジンマウント。
【請求項3】
前記エンジン側マウント部材の上端部に一端が連結され、前記エンジンコア部と前記ファン部との境界部近傍に他端が連結された補強ロッドをさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンマウント。
【請求項4】
前記請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジンマウントによりエンジンが翼に支持されていることを特徴とする航空機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116186(P2011−116186A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273593(P2009−273593)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)