説明

航空機のジェットエンジン用のパイロンサスペンションアタッチメント

本発明は、中央前後方向箱体(22)を備えた剛構造体(10)を具備してなる航空機のジェットエンジン用のパイロンサスペンションアタッチメントに関する。本発明によれば、剛構造体はさらに、中央箱体(22)の前部に対して取り付けられた二つの側方箱体(24a,24b)を具備してなり、パイロンはさらに、このパイロンの前後方向(X)に沿って作用する荷重を受けるよう構成された第1の前部エンジンファスナー(6a)および第2の前部エンジンファスナー(6b)を具備してなり、この第1および第2のファスナーは二つの側方箱体に対してそれぞれ連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、航空機用のジェットエンジン(ターボジェット)サスペンションパイロンに関する。この種のサスペンションパイロンはEMS(エンジン取り付け構造体(Engine Mounting Structure))とも呼ばれ、航空機の翼の下にジェットエンジンを取り付けるのに、あるいは当該翼の上にジェットエンジンを取り付けるのに使用される。
【背景技術】
【0002】
そうしたサスペンションパイロンは、ターボジェットと航空機の翼との間の接続インターフェースを形成するよう設計されている。それは、関係するターボジェットによって生じる力を航空機の構造体へと伝達し、しかもそれはまた、エンジンと航空機との間の燃料、電気、油圧および空気圧システムの接続を可能とする。
【0003】
力を伝達するために、パイロンは、たいてい「箱」型の、つまり上側および下側桁材および横断リブを介して互いに接続された側面パネルのアセンブリから形成された剛構造体を具備してなる。
【0004】
パイロンはまた、ターボジェットとパイロンの剛構造体との間に介在させられた取り付けシステムを備えるが、このシステムは概して、少なくとも二つのエンジンサスペンション(通常は少なくとも一つの前部サスペンションおよび少なくとも一つの後部サスペンション)を具備してなる。
【0005】
さらに、取り付けシステムは、エンジンによって生じる推力に抗するためのデバイスを具備してなる。従来、このデバイスは、たとえば、第一にはターボジェットファンケーシングの後部に対して、そして第二にはターボジェットの中心ケーシングに対して取り付けられたエンジン後部サスペンションに対して連結された2本の横方向連結ロッドの形態であった。
【0006】
同様に、サスペンションパイロンはまた、当該パイロンの剛構造体と航空機の翼との間に介在させられた第2の取り付けシステムを具備してなるが、この第2のシステムは、通常、二つまたは三つのサスペンションからなる。
【0007】
最後に、パイロンは、空力フェアリングを支持しながら、上記システムを分離し、かつ適所にて保持するための補助構造体を備える。
【0008】
上述したように、従来技術に基づく一般的なサスペンションパイロンは、概して、関係するターボジェットによって生じる全ての力に抗するために、大きな寸法を有する平行六面体状箱体の形態である。
【0009】
したがって、大きな箱型サスペンションパイロンがターボジェットの中心ケーシングに近接して配置されるこの特定の事例では、パイロンは、不可避的に、環状ファンダクトからのファンフローを激しく乱すが、これは直ちに抵抗を増大させ、そしてターボジェットの効率を低下させると共に燃料消費を増大させる。
【0010】
さらに、この擾乱は、環状ファンダクトの出力部に配置された横方向ロッドからなる抗推力デバイスの存在によってさらに悪化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それゆえ、本発明の目的は、従来技術に基づく実施形態に関連する上記欠点を少なくとも部分的に解消する、航空機用のジェットエンジン(ターボジェット)サスペンションパイロンを提供すること、ならびにそうしたパイロンを少なくとも一つ備える航空機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明の対象は航空機用のジェットエンジンのサスペンションパイロンであって、当該パイロンは、前後方向中央箱体を具備してなる剛構造体を備え、当該剛構造体はさらに、中央箱体の前部に対して取り付けられかつそれぞれが上側外皮および下側外皮を含む二つの側方箱体を具備してなり、上記パイロンはさらに、このパイロンの前後方向に沿って作用する力に抗するよう構成された第1のエンジン前部サスペンションおよび第2のエンジン前部サスペンションを具備してなり、この第1および第2のエンジン前部サスペンションは二つの側方箱体に配置されている。
【0013】
したがって本発明では、この目的のために設けられた二つの側方箱体によって、推力、つまりパイロンの前後方向に沿って作用する力に抗することができる。この抵抗力は、第1および第2の前部サスペンションを通過する推力を、(応力外皮として採用可能な)これら箱体の外皮を経て容易に伝達することができるという意味で、完全に満足できるものとすることが可能である。いったん、この力が側方箱体の上側端部に伝達されると、力は、それを経てパイロンの後方に向って前後方向に沿って力を伝達可能な前後方向中央箱体に達する。
【0014】
同様に、モーメントは、二つの側方箱体(主としてこれら箱体のそれぞれに設けられた前部閉(非開放)フレームおよび後部閉(非開放)フレーム)によって、垂直(鉛直)方向に沿って完全に抗されることを理解されたい。
【0015】
最後に、これはパイロンの前後方向を中心として作用するモーメントへの抵抗をもたらすが、第1および第2の前部サスペンションがパイロンの垂直方向に沿って作用する力に抗するよう設計された場合、側方箱体によって効果的にこの抵抗がもたらされる。
【0016】
さらに、上述したように、サスペンションパイロンの剛構造体は、中央ねじれ箱体とも呼ばれる前後方向中央箱体を具備してなるが、これは上記仮想面の前後方向軸線と平行に延在しており、したがって側方箱体のそれぞれに対して取り付けられている。明らかに、これら側方箱体によって付与される機械的強度によって、中央箱体の寸法(主として厚み)は従来よりも小さなものとすることができる。これは、当該中央箱体はまた、環状ファンダクトからのファン噴流に対して極めて僅かな擾乱しか引き起こさないことを意味する。
【0017】
この点に関して、もはや横方向ロッドタイプの特殊な抵抗デバイスによってではなく、側方箱体に取り付けられた第1および第2のエンジン前部サスペンションによって推力に抗するという事実はまた、環状ファンダクトからの出口に、この横方向ロッドが存在することに起因して、これまで生じていたファンフローの擾乱を抑える手段を提供するということに留意されたい。
【0018】
好ましくは、二つの側方箱体のそれぞれは、円形断面および好ましくは前後方向軸線(これはターボジェットの前後方向軸線と一致するものであってもよい)を備えた略円筒形の仮想面の一部を共同で画定する下側外皮を有する。
【0019】
したがって、二つの下側外皮のそれぞれは、それが略円筒形の円形仮想面を取り囲むように延在するような曲率を有している。この結果、それらは、サスペンションパイロンがターボジェットの中心ケーシングに極めて近接して配置された大きな単一の平行六面体形状の中央箱体の形態である従来技術に基づく一般的な解決策に比べて、有利なことには関係するターボジェットの環状ファンダクトから流出するファンフローをほとんど邪魔することのない剛構造体のアセンブリを協働で形成する。
【0020】
仮想面の直径を、関係するターボジェットのファンケーシングの円筒状外面の直径と概ね等しいものとすることは実際に可能であるが、この場合、下側外皮によって形成された剛アセンブリは概ねファンケーシングの外面の延在範囲に沿った、さらに一般化して言うと当該ケーシングの外周環状部の延在範囲に沿ったものとなる。当然ながら、二つの側方箱体を、円形断面およびファンケーシングの直径と同等の直径を備えた外皮(包絡面)の略円筒形部分のように取り扱うことができるこの特定の例では、当該箱体によって引き起こされるであろうファンフローの擾乱は極度に軽微であり、それどころか存在しない。
【0021】
これは、抵抗、ターボジェットの効率、そして燃料消費に関して改善が図れるという利点を有する。
【0022】
参考までに言うと、二つの側方箱体を、概して、円形断面を備えた略円筒形状である包絡面(外皮)の一部と見なすことができるのであれば、それは好ましくは半円形断面を備えた包絡面(外皮)の略円筒形部分の形態であることに留意されたい。当然ながら、この好ましい形状は、サスペンションパイロンの剛構造体上でのターボジェットの組み付けを簡素化するのに完全に適している。
【0023】
さらに、上述したように、二つの側方箱体間に配置された前後方向中央箱体は、ファンフローに極めてわずかな擾乱しか発生させないように配置される。これを実現するために、それは、その下側部分の極めて小さな部分だけしか仮想面内に突出しないように配置される。
【0024】
好ましくは、各側方箱体は、パイロンの横方向および垂直方向によって規定された平面に沿って配置された前部閉フレームによって前端部において閉塞される。この場合、第1および第2のエンジン前部サスペンションは側方箱体の二つの前部閉フレームに対して取り付けられるように配置構成することができ、この結果、これら二つの前部サスペンションはターボジェットのファンケーシングに容易に組み付けることが可能となる。
【0025】
さらに好ましくは、仮想面の前後方向軸線およびサスペンションパイロンの横方向によって規定される平面は、第1および第2のエンジン前部サスペンションと交差する。したがって、この独特の特徴によって、有利なことには、ターボジェットシャフトにおける推力に抗することが可能となるが、この結果、当該シャフトの前後方向の撓みが著しく低減されることに留意されたい。
【0026】
好ましくは、上述したように、第1および第2のエンジン前部サスペンションはそれぞれ、パイロンの前後方向に沿って、かつパイロンの垂直方向に沿って作用する力に抗するよう構成される。この形態では、パイロンは、仮想面の前後方向軸線および上記パイロンの垂直方向によって規定された平面を中心として対称に配置された第1および第2のエンジン前部サスペンションと、これを通って当該平面が延在している第3のエンジン前部サスペンションと、前後方向中央箱体に対して取り付けられたエンジン後部サスペンションとからなる複数のエンジンサスペンションを具備してなることが可能となる。
【0027】
したがって、全てのエンジン前部サスペンションはファンケーシング上に取り付けられるよう設計され、この結果、それらは互いにかなり大きな距離を置いて配置できる。この大きな離間距離には次のような利点がある。すなわち、所与の軸線まわりのモーメントに関係する、それらが抗しなければならない力は、中心ケーシングに対して取り付けられたエンジンサスペンション同士が互いに大きく離間できない従来技術に基づく一般的な解決策に見られる対応する力よりも当然ながら小さなものであるという事実に起因して、上記エンジンサスペンションの構造を格段に簡素化できる。
【0028】
さらに、これら前部サスペンションは有利なことにはターボジェットの高温部から距離を置いて配置できるが、これによって、これらの要素に加えられるであろう熱の影響が著しく低減される。
【0029】
さらに、もはや横方向ロッドタイプの抗推力デバイスの存在を必要としないそうした構造によれば、ターボジェットによって生じる全ての力には、本質的に、第1、第2および第3のエンジン前部サスペンションがファンケーシング上で抗することになる。なぜなら、パイロンと中心ケーシングすなわち排気ケーシングとの間に残るリンクのみがエンジン後部サスペンションからなり、その主要な役割はターボジェットの後部の垂直振動を制限することだからである。
【0030】
したがって、エンジンサスペンションのこの独特の構成は、この撓みがターボジェットによって得られたスラストによるものであるか、あるいは航空機のさまざまな飛行段階の間に遭遇するであろう突風によるものであるかに関係なく、中心ケーシングに見られる撓みを、かなりの程度低減させる。
【0031】
結果として、撓みが上記のとおり著しく低減されるので、回転するコンプレッサーおよびタービンブレードとエンジンの中心ケーシングとの間の摩擦が著しく低減され、これによってこれらブレードの損耗に起因する効率の損失が格段に低減される。
【0032】
複数のエンジンサスペンションが静定取り付けシステムを形成しているこの例では、第3のエンジンサスペンションはパイロンの横方向に沿って作用する力にのみ抗するよう構成され、かつ、エンジン後部サスペンションはパイロンの垂直方向に沿って作用する力にのみ抗するよう構成される。
【0033】
したがって、エンジンファンケーシングに取り付けられていないエンジンサスペンションだけが、ターボジェットの垂直方向に沿って作用する力のみに抗するよう設計されたエンジン後部サスペンションである。これは、たとえエンジン後部サスペンションが環状ファンフローダクト内に有効に配置されていても、単に垂直力に抗するというその機能は比較的小さな寸法しか必要としないことを意味し、この後部サスペンションによって引き起こされるファンフローの乱れは非常に小さなものとなる。したがって、これによって全体的なエンジン性能に関して、かなりの利益がもたらされる。
【0034】
さらに、垂直力のみに抗する後部サスペンションが環状ファンフローダクトに配置されたエンジンサスペンションだけである上記形態に関して、第1、第2および第3のエンジンサスペンションをファンケーシングの外周環状部分に取り付けることが可能であり、この結果、それらは有利なことに互いに十分に分離した位置を占有できる。
【0035】
ある代替例では、パイロンは、仮想面の前後方向軸線およびパイロンの垂直方向によって規定される平面を中心として対称配置された第1および第2のエンジン前部サスペンション、ならびに前後方向中央箱体に対して取り付けられたエンジン後部サスペンションからなる複数のエンジンサスペンションを具備してなる(第3の前部サスペンションはこの結果、省略される)。
【0036】
したがって、やはり、静定取り付けシステムを形成する複数のエンジンサスペンションを得る目的のために、エンジン後部サスペンションは、パイロンの横方向に沿って、そしてパイロンの垂直方向に沿って作用する力に抗するよう設計される。
【0037】
本発明の別な目的は、上述したようなサスペンションパイロンを少なくとも一つ備えた航空機である。
【0038】
本発明のそれ以外の利点ならびに特徴は、以下の非限定的説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明について説明する。
【0040】
図1を参照すると、同図には航空機(図示せず)の翼の下に固定されるよう設計された航空機用のエンジンアセンブリ1が示されているが、このアセンブリ1は、本発明のある好ましい実施形態に基づくサスペンションパイロン4を具備してなる。
【0041】
概して、エンジンアセンブリ1は、ジェットエンジン(ターボジェット)2およびサスペンションパイロン4からなるが、このサスペンションパイロンは特に、複数のエンジンサスペンション6a,6bおよび8,9(サスペンション6bは図1においてはサスペンション6aの陰に隠れている)と、それに対してこれらサスペンションが取り付けられる剛構造体10とを備える。参考までに言うと、アセンブリ1はポッド(図示せず)によって取り囲まれるよう設計されており、かつサスペンションパイロン4は航空機の翼の下方でのこのアセンブリ1の吊り下げを確実なものとする別な一連のサスペンション(図示せず)を具備していることに留意されたい。
【0042】
以下の説明を通して、慣例に従い、Xは、ジェットエンジン(ターボジェット)2の前後方向と同じであると見なされるパイロン4の前後方向を意味し、このX方向はジェットエンジン2の前後方向軸線5と平行である。さらに、パイロン4と交差する方向はY方向と呼ばれ、それはジェットエンジン2の横方向と同じであるとみなすことができ、そしてZは垂直方向あるいは高さである(これら三つの方向X,YおよびZは互いに直交する)。
【0043】
さらに、「前」および「後」との用語は、ジェットエンジン2によって加えられる推力の結果として生じる、航空機の移動方向と関連付けて解釈するべきであり、この方向は矢印7で大まかに示している。
【0044】
図1に関して、サスペンションパイロン4のエンジンサスペンション6a,6b,8,9および剛構造体10のみが示されていることが分かる。図示していない当該パイロン4のその他のコンポーネント、たとえば航空機の翼の下の剛構造体10のサスペンション手段、あるいは空力フェアリングを支持しながらシステムを分離しかつ保持するための補助構造体については、従来のものと同一であるかそれに類似した一般的な要素であり、当業者にはよく知られている。したがって、それらについての詳しい説明は省略する。
【0045】
さらに、ジェットエンジン(ターボジェット)2は、環状ファンダクト14を画定している前端部に、大きなファンケーシング12を備え、かつ後端部付近には、このターボジェットのコアを取り囲む、より小さな中心ケーシング16を備える。最後に、中心ケーシング16は、ケーシング16よりも大きな排気ケーシング17によって後方に延長されている。明らかに、ケーシング12,16および17は互いに堅固に固定されている。以上の説明から分かるように、ジェットエンジン(ターボジェット)が高いバイパス比を持つことが望ましい。
【0046】
図1から分かるように、本発明の固有の特徴の一つは、第1のエンジン前部サスペンション6aおよび第2のエンジン前部サスペンション6bは、いずれも、軸線5およびZ方向によって規定される平面Pを中心として対称的に、ファンケーシング12に対して取り付けられるよう設計されているという事実に見出される。
【0047】
ここで図2を参照すると、概略的に示す第1のサスペンション6aおよび第2のサスペンション6bは上記平面Pを中心として対称的に配置されていることが、そして好ましくはファンケーシング12の外周環状部に、さらに詳しくは当該部分の後端部付近に両方とも配置されていることが分かる。
【0048】
前後方向軸線5とY方向とで規定される第2の平面P'がサスペンション6a,6bのそれぞれを通るように、第1および第2のエンジン前部サスペンション6a,6bを、円筒形外面18を備えたファンケーシング12の環状外周部上に互いに直径方向に沿って対向するよう設けることも可能であろう。
【0049】
図2に矢印で大まかに示すように、第1および第2のエンジン前部サスペンション6a,6bのそれぞれは、それが、X方向に沿ってかつZ方向に沿ってターボジェット2によって生じる力に抗することができるが、Y方向に沿って作用する力には抗することができないように設計される。
【0050】
このようにして、互いに大きく離間した二つのサスペンション6a,6bは、X方向に沿って作用するモーメント、およびZ方向に沿って作用するモーメントに共同で抗する。
【0051】
図2を参照すると、大まかに示された第3のエンジン前部サスペンション8を認識できるが、これもまた、ファンケーシング12の環状外周部に対して(やはり好ましくは当該部分の後端付近に)取り付けられている。
【0052】
サスペンション6a,6b,8は、実際上好ましくは環状外周部分の後部に配置されたエンジンの構造体部分(図示せず)によってケーシング12の外周環状部分に対して取り付けられている。にもかかわらず、依然としてファンケーシング12の環状外周部上であってエンジンのさらに前方にサスペンション6a,6b,8が取り付けられるように、構造体部分が外周環状部のさらに前方に配置されたエンジンを備えることも可能であろう。
【0053】
第3のサスペンション8に関して、それはファンケーシング12の最も高い部分に、したがって外周環状部分の最も高い部分に配置されており、この結果、上記第1の平面Pは仮想的にそれを通っている。さらに、YZ平面(図示せず)は、好ましくは、三つのサスペンション6a,6bおよび8を通っている。
【0054】
図2に矢印で大まかに示すように、第3のエンジンサスペンション8は、それがY方向に沿ってターボジェット2によって生じる力にのみ抗することができ、XおよびZ方向に沿って作用する力には抗することができないよう設計されている。
【0055】
図2を参照すると、大まかに示されかつ(好ましくは排気ケーシング17の最大直径を有する部分において)剛構造体10(同図には示していない)と排気ケーシング17との間に取り付けられたエンジン後部サスペンション9が存在することが分かる。参考までに、第1の平面Pは好ましくは、この後部サスペンション9を仮想的に通っていることに留意されたい。
【0056】
図2に矢印で大まかに示すように、エンジン後部サスペンション9は、それがZ方向に沿ってターボジェット2によって生じる力にのみ抗することができ、XおよびY方向に沿って作用する力には抗することができないよう設計されている。
【0057】
このようにして、当該サスペンション9は、二つの前部サスペンション6a,6bと共に、Y方向に沿って作用するモーメントに抗する。
【0058】
当然ながら、上記後部サスペンション9は別の位置に、すなわちターボジェット2の中心ケーシング16(好ましくはその後部)に、あるいは中心ケーシング16と排気ケーシング17との間の接続部20に配置することができる。
【0059】
それゆえ、全ての場合に関して、上記後部サスペンション9は、高バイパス比を備えたターボジェットの環状ファンフローダクト(参照数字を付していない)に配置される。にもかかわらず、その機能が垂直力への抵抗に限定されるという事実は、それが比較的小さなものであることを意味し、この結果、この後部サスペンション9によって引き起こされるファンフローの乱れは最小限となる。ゆえに、これは、ターボジェットの全体的性能に関して、かなりの利益をもたらし得る。
【0060】
たとえ図1および図2ではエンジンサスペンション6a,6b,8および9が大まかに示されていても、これらサスペンションは、たとえばシャックルおよびフィッティングのアセンブリに関連する手法のような当業者には周知の手法を用いて構成できることを理解すべきである点に留意されたい。
【0061】
上述したように、いま説明した形態に関連する主要な利点の一つは、ファンケーシング12上のエンジン前部サスペンション6a,6b,8の特定のポジションによって、さまざまな航空機の飛行状況において生じる中心ケーシング16の撓みが著しく低減され、したがってこの中心ケーシング16との接触に伴う摩擦の低減によってコンプレッサーおよびタービンブレードの損耗が大幅に軽減されるという事実に見出される。
【0062】
ここで図3を参照すると、同図は、本発明によるサスペンションパイロン4の剛構造体10の詳細を示している(エンジンサスペンション6a,6b,8,9は意図的に図から省略してある)。
【0063】
まず、この剛構造体10は、上述した第1の平面Pを中心として、すなわちターボジェット2の前後方向軸線5とZ方向とによって規定される垂直平面を中心として対称となるよう設計されていることに留意されたい。
【0064】
上記剛構造体10は、前後方向と平行なX方向に沿って構造体10の一端から他端へと延在する前後方向中央箱体(ねじれ箱体とも呼ばれる)を具備してなる。参考までに言うと、この箱体22は、平行なXZ平面内でX方向に沿って延在すると共に平行なYZ平面内に配置された横方向リブ23によって互いに連結された二つの側方桁材30のアセンブリから形成可能である。さらに、上側桁材35および下側桁材36が箱体22を閉塞するために設けられる。
【0065】
二つの側方箱体24a,24bは剛構造体10を完全なものとするよう設計されているが、そのために、当該構造体10の上側部分には中央箱体22が配置され、二つの箱体24a,24bのそれぞれは中央ねじれ箱体22に取り付けられ、そしてY方向に沿ってかつ下方へとその両側で突出している。
【0066】
中央箱体22の前部に付加されかつ取り付けられた、これら側方箱体の独特の特徴の一つは、それぞれが、図3に示すように、ターボジェットに面すると共に、円形断面ならびに中央箱体22およびX方向と平行な前後方向軸線34を有する略円筒形仮想面32の一部を協働で画定する下側外皮26a,26bを有しているという点である。
【0067】
言い換えれば、上記二つの下側外皮26a,26bのそれぞれの曲率は、それを、その全長にわたって、この仮想面32の周りに、それと接触した状態で配置できるように調節される。したがって、概して言うと、二つの箱体24a,24bは、ターボジェット2の中心ケーシング16の周囲であってかつそれから距離を置いて配置することが可能な円形断面を有する略円筒形包絡面/ケージの一部を形成している。
【0068】
参考までに言うと、軸線34は好ましくは、ターボプロップエンジン2の前後方向軸線5と一致することに留意されたい。したがって、剛構造体10はまた、前後方向軸線34およびパイロン4のZ方向によって規定される垂直平面を中心として対称であることが分かる。
【0069】
図4は、側方箱体24a,24bを任意の位置で横切る横断平面P1に沿った断面を示す。
【0070】
同図から、さらに図5を参照して説明するように、二つの下側外皮26a,26bの外面が円形断面を有する仮想的な略円筒形表面32の一部を画定していること、および二つの箱体24aおよび24bが前後方向軸線34上に中心が置かれた半円形断面を有する略円筒形包絡面/ケージの一部分を実際に形成していることが分かる。
【0071】
環状ファンダクト14からのファン噴流の乱れをできる限り最小限度に抑えるため、仮想的な円筒面32の直径は、好ましくは、ファンケーシング12の環状部分の円筒形外面18の直径と概ね等しいことに留意されたい。さらに、図4から分かるように、中央箱体22の要素は、仮想面32によって画定される空間38内に極めて小さな距離だけ突出しているに過ぎず、この結果、それはファン空気流を著しく乱すことはない。これは、特に、側方桁材30は、仮想面32および外面18の直径に比べて、Z方向に沿った高さが極度に小さなものであるという事実によって説明される。
【0072】
図5は側方箱体24a,24bの好ましい形状の概略図であるが、これは、それらが、(前後方向軸線34上に中心が置かれかつ仮想面32の上側半体を取り囲む)半円形断面を有する略円筒形包絡面/ケージ40の一部のみを共同で形成していることを示している。したがって、この図5においては、線影を付けた部分42は、完全な半円筒40を形成するために二つの箱体24a,24bから欠かれた部分に対応している。参考までに言うと、図3および図4に示すパイロンにおける当該部分42は、実際には、仮想面2の内部に極めて僅かだけ突出しかつ二つの箱体24a,24bをつないでいる中央箱体22の一部分によって置き換えられる。さらに、この図はまた、これら二つの側方箱体が実質的に、ファンケーシング12の外周環状部の後部方向に向う延在部を形成しているという事実を理解するのに役立つものである。
【0073】
図5および図6を併せて参照すると、側方箱体24a(側方箱体24bと同一でありかつ左右対称)は、X方向と平行であってかつ円形断面を有する円筒形要素の一部を形成している下側外皮26aと、やはりX方向と平行であってかつ円形断面を有する円筒形要素の一部を形成している上側外皮44aとを具備していることが分かる。外皮26aおよび44aは好ましくは中心を共有する。
【0074】
外皮26a,44aは、前部閉塞フレーム28aおよび後部閉塞フレーム46aによって互いに連結されており、したがってこれらフレーム28a,46aは横方向に向けられており、かつ箱体24aの前部および後部にそれぞれ配置されている。さらに、平面P'と平行でありかつ好ましくはそれを当該平面が通っている閉塞プレート48aは、それゆえ、箱体24aの下側部分を閉塞しており、かつフレーム28a,46aおよび外皮26a,44aの下端部を連結している。
【0075】
当然ながら、側方箱体24bは、箱体24aの要素26a,44a,28a,46aおよび48aのそれぞれと同一の要素26b,44b,28b,46bおよび48bを具備してなる。
【0076】
図5および図6から分かるように、二つの下側外皮26a,26bを単一部材で構成し、しかもXY平面に沿ってかつ中央箱体22の下側桁材36と接触状態で配置される接合プレート50を介して、その上側部分において両者を互いに連結することができる。明らかに、下側桁材36と正確に同じ幅を有するこのプレート31は、仮想面32内に僅かに突出している。
【0077】
同様に、二つの前部閉塞フレーム28a,28bを単一部片から形成すると共に、箱体22の前部閉塞フレーム31(このフレーム31はYZ平面に沿って配置される)を介してその上側部分において互いに連結することもまた可能であろう。したがって、この形態では、単一部片からなるフレーム28a,28b,31は同一のYZ平面内に配置され、かつパイロン4の剛構造体10の前端部を形成する。
【0078】
さらに、フレーム46a,46bおよび外皮44a,44bの上側端部は、たとえば機械的組み立て手段を用いて、中央箱体22の側方桁材30上に固定状態で取り付けられることに留意されたい。
【0079】
図7を参照すると、サスペンションパイロン4の剛構造体10はエンジン前部サスペンション6a,6b,8を支持するのに完全に適したものであることが分かる。なぜなら、それらは、フレーム28a,28bおよび31を一体化した単一部片からなる横向き部分に対して容易に取り付けることができるからである。実際には、第1および第2のサスペンション6a,6bは平面P'がそれらを通過するように二つの前部閉塞フレーム28a,28bの二つの下側端部に対してそれぞれ取り付けられ、一方、第3のサスペンション8は上記フレーム28a,28b間に配置された前部閉塞フレーム31に対して取り付けられる。したがって、このようにして、二つのエンジン前部サスペンション6a,6bは、前後方向軸線34とパイロン4のZ方向とによって規定される垂直面を中心として配置され、同じように、上記第1の平面Pと同一の当該平面は第3のエンジンサスペンション8を通ることを理解されたい。
【0080】
エンジン後部サスペンション9は、下側桁材36に対して固定されたサポート54によって中央箱体22の下方に取り付けられている。このサポート54は、Z方向に沿ってかつ下方に、サスペンション9をターボジェット2の排気ケーシング17に取り付けるのを可能とするのに十分なほどの長い距離にわたって、下側桁材36から延在している。
【0081】
参考までに言うと、いま説明した剛構造体10を形成している要素の全ては、たとえばスチール、アルミニウムあるいはチタニウムなどの金属材料を用いて、あるいは複合材料(好ましくはカーボン)を用いて製造できる。
【0082】
図8は、先に提示した好ましい実施形態の代替例に基づく航空機用のエンジンアセンブリ1を示す(サスペンションパイロンの剛構造体は示していない)。
【0083】
このアセンブリは、第1の好ましい実施形態に関連して説明したものと類似している。したがって、同じ参照数字を用いて指し示した構成要素は同一または類似の構成要素に対応する。
【0084】
第2の好ましい実施形態における主要な差異は、第3のエンジン前部サスペンションが排されたこと、およびエンジン後部サスペンション9がZ方向に沿って作用するモーメントに抗するだけでなく、Y方向に沿って作用するモーメントにも抗するよう構成されていることである。ゆえに、この代替例はまた、静定取り付けシステムを形成する複数のエンジンサスペンションをもたらす。
【0085】
明らかに、当業者であれば、単に非限定的実例として説明してきた、航空機用のターボジェット2のサスペンションパイロン4に対して、さまざまな変更を施すことができる。特に、たとえば、パイロン4は航空機の翼の下に吊り下げるのに適した形態を有するものを示したが、当該パイロンはまた、翼の上にあるいは航空機の胴体の後部にさえ搭載可能であるように、別の形態を有するものとすることができることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明のある好ましい実施形態によるサスペンションパイロンを具備してなる、航空機用エンジンアセンブリの側面図である。
【図2】図1に示すアセンブリの概略斜視図であり、サスペンションパイロンの剛構造体は当該パイロンのためのエンジンサスペンションをより分かりやすく示すために省略してある。
【図3】好ましい実施形態に基づくサスペンションパイロンの一部拡大斜視図である。
【図4】図3の横断面P1に沿って取った断面図である。
【図5】図3のサスペンションパイロンを部分的に形成するよう構成された側方箱体の形状を説明するための斜視図である。
【図6】図3に示すものを分解状態で示す斜視図である。
【図7】図3と類似の図であるが、サスペンションパイロンのエンジンサスペンションが概略的に示されている。
【図8】図2と類似の図であり、サスペンションパイロンのエンジンサスペンションは代替形態のものである。
【符号の説明】
【0087】
1 エンジンアセンブリ
2 ジェットエンジン(ターボジェット)
4 サスペンションパイロン
6a,6b,8,9 エンジンサスペンション
10 剛構造体
12 ファンケーシング
14 環状ファンダクト
16 中心ケーシング
17 排気ケーシング
18 円筒形外面
20 接続部
22 中央箱体(中央ねじれ箱体)
23 横方向リブ
24a,24b 側方箱体
26a,26b 下側外皮
28a,28b 前部閉塞フレーム
30 側方桁材
31 前部閉塞フレーム
32 略円筒形仮想面
35 上側桁材
36 下側桁材
38 空間
40 略円筒形包絡面/ケージ
44a,44b 上側外皮
46a,46b 後部閉塞フレーム
48a,48b 閉塞プレート
50 接合プレート
54 サポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用のジェットエンジン(2)のサスペンションパイロン(4)であって、
前記パイロンは、前後方向中央箱体(22)を具備してなる剛構造体(10)を備え、
前記剛構造体(10)はさらに、前記中央箱体(22)の前部に対して取り付けられかつそれぞれが上側外皮(44a,44b)および下側外皮(26a,26b)を含む二つの側方箱体(24a,24b)を具備してなり、
前記パイロンはさらに、このパイロンの前後方向(X)に沿って作用する力に抗するよう構成された第1のエンジン前部サスペンション(6a)および第2のエンジン前部サスペンション(6b)を具備してなり、
前記第1および第2のエンジン前部サスペンション(6a,6b)はそれぞれ、二つの側方箱体(24a,24b)に配置されていることを特徴とする航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項2】
前記二つの下側外皮(26a,26b)は、円形断面および前後方向軸線(34)を備えた仮想の実質的に円筒形の面(32)の一部を協働で画定するようになっていることを特徴とする請求項1に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項3】
前記二つの側方箱体(24a,24b)は、半円形断面を備えた実質的に円筒形の包絡面(40)の一部を協働で形成していることを特徴とする請求項2に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項4】
各側方箱体(24a,24b)は、前記パイロンの横方向(Y)および垂直方向(Z)によって規定された平面に沿って配置された前部閉フレーム(28a,28b)によって、前端部において閉塞されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項5】
前記第1および第2のエンジン前部サスペンション(6a,6b)はそれぞれ、前記側方箱体の二つの前部閉フレーム(28a,28b)に対して取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項6】
前記仮想面(32)の前後方向軸線(34)および前記パイロンの横方向(Y)によって規定される平面は、前記第1および第2のエンジン前部サスペンション(6a,6b)を通るようになっていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項7】
前記第1および第2のエンジン前部サスペンション(6a,6b)はそれぞれ、前記パイロン(4)の前後方向(X)に沿って、かつ前記パイロンの垂直方向(Z)に沿って作用する力に抗するよう構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項8】
前記仮想面(32)の前後方向軸線(34)および前記パイロンの垂直方向(Z)によって規定される平面を中心として対称に配置された第1および第2のエンジン前部サスペンション(6a,6b)と、それを前記平面が通る第3のエンジン前部サスペンション(8)と、前記前後方向中央箱体(22)に対して取り付けられたエンジン後部サスペンション(9)と、からなる複数のエンジンサスペンション(6a,6b,8,9)を具備してなることを特徴とする請求項7に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項9】
前記第3のエンジンサスペンション(8)は前記パイロン(4)の横方向(Y)に沿って作用する力にのみ抗するよう構成されてなると共に、前記エンジン後部サスペンション(9)は前記パイロンの垂直方向(Z)に沿って作用する力にのみ抗するよう構成されていることを特徴とする請求項8に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項10】
前記仮想面(32)の前後方向軸線(34)および前記パイロンの垂直方向(Z)によって規定される平面を中心として対称に配置された第1および第2のエンジン前部サスペンション(6a,6b)と、前記前後方向中央箱体(22)に対して取り付けられたエンジン後部サスペンション(9)と、からなる複数のエンジンサスペンション(6a,6b,8,9)を具備してなることを特徴とする請求項7に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項11】
前記エンジン後部サスペンション(9)は、前記パイロン(4)の横方向(Y)に沿って、かつマストの垂直方向(Z)に沿って作用する力に抗するよう構成されていることを特徴とする請求項10に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項12】
前記複数のエンジンサスペンション(6a,6b,8,9)は、静定取り付けシステムを形成していることを特徴とする請求項8または請求項10に記載の航空機用のサスペンションパイロン(4)。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載のサスペンションパイロン(4)を少なくとも一つ具備してなることを特徴とする航空機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2008−542090(P2008−542090A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512886(P2008−512886)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050467
【国際公開番号】WO2007/000544
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(501446228)エアバス・フランス (93)