説明

航空機の組立体およびスパー

本発明は、一対のカバーと、カバーの間で厚さ方向に延び、スパン方向に所定の長さを有するスパーウェブと、スパーウェブから延びてシステム部品の少なくとも一部を収容するコンテナとを備えた航空機の組立体を提供する。コンテナは、互いに間隔をあけて配置され、スパーウェブを厚さ方向に横切る第1および第2の側壁と、互いに間隔をあけて、スパーウェブに沿ってスパン方向に配置された内側および外側の壁とを有する。スパーウェブおよび少なくともコンテナの一部が、単一部品として一体的に形成される。概して組立体は、燃料タンク、トラック、トラックにより移動する高揚力装置と、トラックおよび高揚力装置を、展開された高揚力状態および格納された低揚力状態の間で移動するための駆動機構と、スパーウェブから燃料タンクに延び、格納された低揚力状態において、少なくともトラックの一部を収容するトラックコンテナと、を有する主翼の組立体である。スパーウェブおよび少なくともトラックコンテナの一部が、単一部品として一体的に、概して積層複合材料から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の組立体に関し、特に、一対のカバーと、そのカバーの間に延在するスパーウェブと、スパーウェブから延びて少なくともシステム部品の一部を収容するコンテナとを含む組立体に関する。更に本発明は、この種の組立体に用いられるスパーに関する。上記システム部品は、例えばスラットのような高揚力装置のためのトラックを含むことができる。
【背景技術】
【0002】
飛行の重要な段階において充分に高い揚力性能を航空機の操縦者に提供するため、航空機の主翼は、前縁に沿って展開可能な格納式のスラットを備えた設計となっている。これは従来から、一対の湾曲したスラットトラック上にスラットを設け、収容状態および展開状態のそれぞれの状態からラック・ピニオン機構によって駆動することで達成されてきた。航空機の主翼は飛行に必要な燃料を貯蔵するために用いられるため、燃料の許容量を最大にすることが重要である。このため前方スパーは、主翼の前縁内に必須の様々なシステムおよびデバイスを収容するための最小限の空間を残して、一般的にできる限り前方に配置される。
【0003】
可動式装置を収容するための前縁領域を大きくすることと、燃料の体積を大きくすること、これらの2つの要求は相反するものである。その解決策は、前方スパーの後ろ側に円筒形のトラックカンを取付け、収容(格納)状態においてトラックがその中に入るようにしてスラットトラックを前方スパー(燃料の境界)内に通過させることである。したがって、トラックカンが燃料境界を形成する翼ボックス構造の一部でもあることは、重要な意味を持つ。
【0004】
この種のトラックカンを備えた典型的な航空機の主翼組立体を図1に示す。主翼は、スラット9を有する比較的長いスラットトラック8を備え、ピニオンギアによって、低い揚力を生じる格納状態と、離陸および上昇時の中間状態と、完全に展開されて高い揚力を生じる着陸時の展開状態との間で、1組のローラーによって定められる湾曲した軌道に沿って移動する。図1は、その移動範囲内で最も離れた両端位置におけるスラットを示す。スラットトラック8の移動に伴い、スラットは前方スパー17のウェブ後面に取付けられたスラットトラックカン16の内側および外側で摺動する。
【0005】
トラックカンは、伝統的にアルミを溶接した組立体として、熟練工による長時間作業を必要とし、高価な手作業の方法により製造されるものとして有名である。この溶接結合には必ず大量の廃棄物が生じ、それゆえ高い費用がかかってしまう。
【0006】
トラックカンに関しては更に、取付けの観点から重大な問題がある。溶接された構造物においては、トラックカンの基部に、固定ナットを用いてスパーに取付けるためのフランジが必要不可欠である。(それぞれの主翼には、12以上のトラックカンが取付けられることが多く、)各トラックカンは、燃料を完全に保護するため、嵌合し、封止されなければならない。これには時間がかかり、もし漏出が発生してしまうと大きな費用が必要となる。
【0007】
これらの問題に加えて、トラックカンが複合材料の翼ボックス構造内で使用される場合には更なる問題が生じる。複合物の、金属と比較したときの根本的な機械的特性の違いによって、(定められた主翼の外形のために)トラックカンを取付けることが可能な「平坦な」スパーウェブ領域を低下させる。より浅い翼ボックスとなることにより、すなわち、より浅いスパーウェブとなることにより、この問題は更に悪化する。これらの2つの問題が組み合わされることで、結果的にトラックカンおよび他の翼ボックス部品の間で矛盾が生じてしまう。
【0008】
通常、航空機の主翼の前縁又は後縁内に収容される他のシステム部品に関して、同様の問題が存在する。例えば、電気防氷システムのための変圧器、又はスラット展開機構を駆動するためのアクチュエータユニットである。スラットトラックと同様に、前縁又は後縁内の空間を解放するために、スパーウェブの「燃料」側でこの種の部品を収容することが更に好ましい。
【0009】
上記の説明では航空機の主翼に注目したが、例えば垂直尾翼および水平尾翼のような、航空機の他の空気力学的な部品に関しても更に同様の問題が存在する。
【0010】
いわゆる「正弦波スパー」は、Michael C. Y. Niu による「Composite Airframe Structures - Practical Design Information and Data」(国際標準図書番号962-7128-06-6), 1992年, 234頁、で開示される。そのスパーウェブはスパーウェブから比較的浅い角度で延びる正弦波のひだを形成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Michael C. Y. Niu、「Composite Airframe Structures - Practical Design Information and Data」(国際標準図書番号962-7128-06-6), 1992年, 234頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、以下の航空機の組立体を提供する。一対のカバーと、前記カバーの間で厚さ方向に延び、スパン方向に所定の長さを有するスパーウェブと、前記スパーウェブから延びてシステム部品の少なくとも一部を収容するコンテナ、とを備えた航空機の組立体であって、前記コンテナは、互いに間隔をあけて配置され、前記スパーウェブを厚さ方向に横切る第1および第2の側壁と、互いに間隔をあけて、前記スパーウェブに沿ってスパン方向に配置された内側および外側の壁とを有し、前記スパーウェブおよび少なくとも前記コンテナの一部が、単一部品として一体的に形成される。
【0013】
本発明の更なる態様は、航空機のスパー組立体の製造方法を提供し、その方法は、複合材料のプライのスタックをレイアップする工程と、スパーウェブおよびコンテナの少なくとも一部を伴って、熱および圧力の組合せによって前記プライのスタックを成形してスパーを形成する工程と、成形された形状でスパーを硬化させる工程と、システム部品の少なくとも一部を、前記コンテナに収容する工程と、を含む。
【0014】
スパーウェブおよびコンテナの少なくとも一部を、単一部品として一体的に形成することによって、コンテナの基部でフランジを収容するために、コンテナの周りでスパーウェブの比較的平坦な部分を形成する必要がないので、スパーウェブを比較的浅くすることができる。
【0015】
スパーウェブおよびコンテナの少なくとも一部は、一体的に金属で形成することができるが、それらは一体的に薄板複合材料(例えば繊維強化エポキシ樹脂)から形成されることがより好ましい。
【0016】
スパーウェブおよびコンテナの少なくとも一部は、金型成形、切削加工、積層加工によって単一部品として一体的に形成することができる。
【0017】
内側および外側の壁は、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成することができる。また少なくともシステム部品の一部は、内側と外側の壁の間に収容される。同様に、第1および第2の側壁は、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成することができる。また少なくともシステム部品の一部は、側壁の間に収容される。
【0018】
通常、スパーは更に、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成され、第1のカバーに結合した第1のスパーキャップを有する。また、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成され、第2のカバーに結合した第2のスパーキャップを有する。一実施形態において、内側および外側の壁がスパーキャップ間の全体に亘って延び、スパーキャップが第1および第2のコンテナの側壁を形成する。
【0019】
コンテナは、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成される端壁を有することができる。この場合、概して端壁は、内側および外側の壁および/又は側壁と、単一部品として一体的に形成される。あるいは、コンテナはコンテナフランジを有することができ、スパーウェブから延びて、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成され、更にコンテナ本体は、接着、ボルト締め、又は他のあらゆる適切な方法でコンテナフランジと結合する。
【0020】
組立体は概して、前縁および後縁に、例えば垂直尾翼(VTP)、水平尾翼(HTP)、又は主翼のような空気力学的な航空機の構成部分を形成する。主翼の場合、コンテナはスパーウェブから燃料タンク内に延びる。主翼又はHTPの場合、厚さ方向がおよそ垂直に、一方、VTPの場合は厚さ方向がおよそ水平方向となる。
【0021】
システム部品は、電気防氷システムのための変圧器、電気式又は油圧式アクチュエータユニット、トラック稼働の高揚力装置、又は他のあらゆる適切なシステム部品を含むことができる。システム部品がトラックの場合、そして組立体が更に、トラックに沿って動く高揚力装置を有し、またシステム部品および高揚力装置を、展開された高揚力状態と、格納された低揚力状態の間で動かすための駆動メカニズムを有し、格納された低揚力状態のとき、コンテナは少なくともトラックの一部を収容する。
【0022】
本発明の更なる態様は、航空機のためのスパーを提供し、スパーはスパーウェブおよびコンテナを有し、スパーウェブおよびコンテナの少なくとも一部は、単一部品として一体的に形成され、スパーウェブはスパン方向に延びる所定の長さを有し、トラックコンテナは、所定長さのスパーウェブに沿ってスパン方向に間隔をあけて配置された内側および外側の壁を含み、更にスパーウェブから所定角度に延び、その角度は50°〜130°の間である。概して、その角度は好ましくは70°〜110°であり、より好ましくは80°〜110°の間である。
【0023】
Michael C. Y. Niu による「Composite Airframe Structures - Practical Design Information and Data」(国際標準図書番号962-7128-06-6), 1992年, 234頁、に記載された「正弦波スパー」とは対照的に、コンテナの内側および外側の壁はスパーウェブから比較的、急な角度で延びる。これによりコンテナが、本発明の第1の実施形態として、システム部品を収容する上で、より適したものとなる。
【0024】
壁はわずかに湾曲していることもあるが、概ね平坦とすることができる。壁が湾曲している場合、好ましくはコンテナの深さの大部分が、上記の角度範囲内において急角度でスパーウェブから下向きに延びる内側および外側の壁を有することが望ましい。
【0025】
スパーは(スパーキャップなしで)ウェブのみからなることができ、又は例えばウィングカバーのような他の部分と一体的に形成することができる。あるいは、スパーは更に、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成され、実質的にスパーの長さ方向に沿って延びるスパーキャップを有することができる。この種のフランジは、カバー又は他の部品にスパーを取付けるために用いられることができる。概して、一体的に形成されたコンテナの部品の深さは、スパーウェブに垂直な方向に測定して、スパーキャップの深さの70%〜300%の間であり、スパーウェブに垂直な方向にコンテナに隣接する。トラックコンテナは従って、例えばフラップトラックのようなシステム部品の少なくとも一部を収容するのに充分な深さを有し、一方で充分に浅く、比較的容易にスパーウェブと共に一体的に形成することができる。
【0026】
本発明の更なる態様は、航空機のためのスパーを提供し、そのスパーはスパーウェブと、スパーウェブに形成された孔と、更にスパーウェブから延びてスパーウェブの孔を取囲み、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成されるコンテナフランジとを含む。
【0027】
スパーウェブとコンテナフランジを単一部品として一体的に形成することによって、スパーウェブを比較的浅くすることができる。なぜなら、コンテナの基部でフランジを収容するための、コンテナフランジを囲むスパーウェブの比較的平坦な部分を形成する必要がなくなるためである。
【0028】
スパーは、(スパーキャップなしで)ウェブのみからなることができ、又は、例えばウィングカバーのような他部品と一体的に形成されることもできる。あるいは、スパーは更に、スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成されることができ、実質的にスパーの長手方向に沿って延びる。この種のフランジは、スパーをカバー又は他の部品に取付けるために用いることができる。
【0029】
添付図面に関連して、本発明の実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の航空機の主翼組立体の前縁の側断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に従う、航空機の主翼組立体の前縁の側断面図である。
【図3】図2のA−A線に沿った平断面図である。
【図4】金型上に設置される一対のプライを示す横断面図である。
【図5】上記一対のプライを示す縦断面図である。
【図6】積み重ねた未硬化プライ上にある真空バッグを示す横断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に従う、航空機の主翼組立体の前縁の側断面図である。
【図8】図7のB−B線に沿った平断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に従う、航空機の主翼組立体の前縁の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
航空機の主翼組立体の前縁部を図2に示す。主翼は上部カバー1、下部カバー2およびそれらの間に延在する前方スパー5を有する。燃料タンクは前方スパーの後方に配設される。スラット10を移動させるスラットトラック11は、一組のローラー3により画定された湾曲する軌道に沿って、巡航時の格納された低揚力状態と、離陸および上昇時の中間状態と、着陸時における完全に展開された高揚力状態との間で、ピニオンギア4によって駆動する。図2は、移動範囲の両端におけるスラットを示す。スラットトラック11が移動すると、その後端は、前方スパー5のスラットトラックコンテナ6に摺動して出入りする。
【0032】
図2は単なる略図であり、図1に示す通例の組立体の変形例として示すものである。航空機の主翼の高揚力装置の(スラット構成の観点での)進歩によって、スラットの移動量が減少しても、要求される充分な空力性能得られるようになる。したがって、図2においてスラットトラック11(および、その移動量)は短縮されたため、図1に示す比較的長いスラットトラック8(および、その移動量)よりも短い。更に、従来のC形の断面を有するスパー17は、スパーウェブ12と共に単一部品として一体的に形成されたトラックコンテナ6を有する、改良されたスパー5に置き換えられる。
【0033】
スパーは、上部カバーと下部カバーの間で垂直に延びるウェブ12と、ウェブから後部が翼弦方向に延びてC形の断面を有する形状を形成する一対のスパーキャップ13, 14とを有する。スパーキャップ13, 14はそれぞれカバー1, 2のうちの1つに、ボルト締め、接着、共接合、又は共硬化される。図3に示すように、所定長さのスパーウェブ12はスパン方向に延び、スパーキャップ13, 14は実質的に所定長さのスパーに沿って延びる。ウェブ12は、一組の凹凸を伴って一体的に形成され、それぞれトラックコンテナ6を形成する。図3は所定長さのスパーを部分的に示し、4つのトラックコンテナ6および付随するトラック11を含むが、このスパーは合計で20又はそれ以上有することができる。
【0034】
各トラックコンテナ6は、格納された低揚力状態にある時にウェブの前方(エアサイド)側にトラック11の後端部を収容する凹部と、更に、燃料タンク内に突出する、スパーの後方(燃料)側の突出部とを形成する。
【0035】
図2の例において、スパーウェブに垂直な方向に測定されたトラックコンテナ6の深さD1は、スパーウェブに垂直な方向にトラックコンテナに隣接する上側スパーキャップの深さD2の約200%である。深さD1はそれ以上に大きくすることもできるが、製造上の制約により、深さD1はD2の300%未満であることが好ましい。
【0036】
各トラックコンテナ6は、図2に示すように上側および下側の壁を有し、互いに間隔をあけて、スパーウェブ全体に亘って厚さ(垂直)方向に配置され、それぞれスパーウェブ12の一部によりスパーキャップから離れた位置に置かれる。各トラックコンテナはまた、図3に示されるように、互いに間隔をあけて、スパーウェブに沿ってスパン方向に配置される内側および外側の側壁18, 19と、図2および3に示す端壁15とを有する。
【0037】
図3に示すように、内側および外側の側壁18, 19の、内側および外側の面は、スパーウェブからおよそ90°の角度で延びる。あるいは、側壁18, 19は互いに向けて集束することができ(この場合、壁18, 19の外側の面は、スパーウェブから90°より大きい角度で延びて)、又は互いから離れることができる(この場合、壁18, 19の外側の面は、スパーウェブから90°より小さい角度で延びる。)。しかしながら、重量およびトラックコンテナのスパン方向幅を最小化するために、その角度はできる限り90°に近いことが好ましい。
【0038】
図4〜6は、スパー5の製造方法を示す。複合材料のプライのスタックは金型20の上に置かれる。複合材料の各プライは、「プリプレグ」として知られる、エポキシ樹脂を含浸させた一連の一方向性炭素繊維を含む。そのプライは金型上に手作業で、又は自動化された工程(例えば繊維配置もしくはテープ敷設)によって配置することができる。プライは、所望の積み重ね順序に従って、炭素繊維の方向が異なるように金型上に置かれる。例えば、図4および5は、第1プライ21を炭素繊維がスパン方向でスパーに沿うように(これらは通例0°プライと称される)、第2プライ22を炭素繊維が0°プライと直角でスパーと交差するように配置している(これらは通例90°プライと称される)。スパーの厚さは図中に一定で示されるが、所定の領域で切断するか、付加的に積み重ねることによって任意に変化させることができる。しかしながら、概してほとんど全て、又は全ての積み重ねたプリプレグプライがスパーウェブからトラックコンテナ6に連続的に延びる。
【0039】
スタックが組立てられるとき、(図示しない様々な通気層および消耗部品に加えて)真空バッグ23はスタック上に配置され縁部をテープ24で封止する。そして、真空バッグと金型の間の領域は真空で、プライのスタックは、スパーウェブ、キャップおよびトラックコンテナを形成するために、熱と圧力を組合せて成形される。それから、成形された形状でそれを硬化させるために、スパーの温度は更に上昇する。
【0040】
本発明の更なる実施形態に従う航空機の主翼組立体の前縁を、図7に示す。主翼は上部カバー29、下部カバー30およびそれらの間に延びる前方スパーを有する。燃料タンクが、前方スパーの後方に配設される。スラット(図示しない)を支持するスラットトラック31は、図7に示す巡航時の格納された低揚力状態と、離陸および上昇時の中間状態と、着陸時の完全に延出した高揚力状態との間で駆動される。スラットトラック31は移動して、前方スパーのスラットトラックコンテナ36に摺動して出入りする。
【0041】
図7は単なる略図であり、図1および2に示される詳細部分は省略されている。
【0042】
スパーは、スパン方向に延びるウェブ32および、ウェブの後方で翼弦方向に延びてC形の断面を有する形状を形成する、一対のスパーキャップ33,34を有する。ウェブは複数のトラックコンテナ36とともに一体的に形成される。図7は所定長さのスパーの一部を示し、4つのトラックコンテナおよび付随するトラックを含むが、スパーは合計20かそれ以上の数を有することができる。
【0043】
各トラックコンテナ36は、格納された低揚力状態にあるときにウェブの前方(エアサイド)側にトラック31の後端部を収容する凹部と、更に、燃料タンク内に突出する、スパーの後方(燃料)側の突出部とを形成する。図7の例において、トラックコンテナ36の深さD3は、スパーウェブに垂直な方向に対して、スパーウェブに対して垂直な方向に、トラックコンテナに隣接する低いスパーキャップの深さD4の約80%である。外側のトラックコンテナにおいてこの割合は100%に近い。深さD3はそれ以上に大きくすることができるが、製造上の制約により、深さD3は好ましくはD4の300%未満であることが好ましい。
【0044】
図2〜6に示すカップ状のトラックコンテナ6とは対照的に、トラックコンテナ36の壁37, 38, 39は、上方および下方スパーキャップの間で完全に垂直に延び、スパーキャップ33, 34は、トラックコンテナの上下の壁を形成する。しかしながら、コンテナ36のスパン方向の幅は、カップ状のコンテナ6に類似する。
【0045】
垂直に延びる壁37, 38, 39は、スパーウェブ内の剪断荷重および燃料の圧力荷重に影響する。更に、翼ボックスリブは壁37, 38および/又は端壁39に取付けることができる。更にこの組合せは、図1のカップ状のものと比較して、(より切断工程が少ない)積層工程の間の、複合繊維の2次的な剪断変形を低減させることが予想され、それは繊維がより連続性を有することによって達成される。
【0046】
図8に示すように、内側の壁37の内側(の外側)および外側(の内側)の面がスパーウェブ32からおよそ90°の角度で延びる。同様に、外側の壁38の内側(の内側)および外側(の外側)の面が、スパーウェブ32からおよそ90°の角度で延びる。あるいは壁37, 38は互いに向けて集束することができ(この場合、壁37, 38の外面は、スパーウェブから90°より大きい角度で延びて)、又は互いから離れることができる(この場合、壁37, 38の外面は、スパーウェブから90°より小さい角度で延びる。)。しかしながら、重量およびトラックコンテナのスパン方向幅を最小化するために、その角度はできる限り90°に近いことが好ましい。
【0047】
本発明の更なる実施形態にしたがう航空機の主翼組立体の前縁を、図9に示す。スラットトラック44は、図1に示す比較的長いスラットトラック8と同様の長さを有し、この場合、スパーウェブ43と一体的に、スラットトラックコンテナ全体を形成することが不可能となる。その代わりに、トラックコンテナは2つの部品から形成される。スパーウェブの孔を取囲み、スパーウェブ43から燃料タンクに延びて、スラットトラックコンテナの基部を形成し、単一部品としてスパーウェブ43と共に一体的に形成されるリング型トラックコンテナフランジ42、および、トラックコンテナフランジ42に結合する、トラックコンテナ本体40である。トラックコンテナフランジ42は、例えば楕円又は四角形のような閉じたリング形状が可能であるが、基本的に円形である。
【0048】
スパーウェブ43およびトラックコンテナフランジ42は、薄板複合材料から単一部品として一体的に形成され、図4〜6に示すものと同様の工程を使用する。トラックコンテナ本体40は、同じ薄板複合材料からスパーウェブ43およびトラックコンテナフランジ42として形成されることができ、又はトラックコンテナ上に作用する負荷に応じて最適化された異なる材料から形成される。様々な製造技術が、トラックコンテナ本体40を形成するために使用されるが、その管形状は、自動巻線工程に適しており、樹脂を含浸させた繊維の綱が回転マンドレル上で巻回される。
【0049】
図9の実施形態は、図1に示す従来のトラックカンと比較して、以下のような特定の利点を有する。すなわち、
・前方スパーを通してボルト締めする必要がなくなり、それ故、その作業に関連する問題すなわち、孔および繊維の切れ目に応力が集中する結果として生じるスパーウェブの強度低下、および、孔あけ作業の時間と費用も抑えることができる。
・トラックコンテナの代わりにスパーウェブにフランジを形成することによって、トラックコンテナ40の取付けに必要な「平坦な」スパーウェブの領域を縮小させ、従って、前縁の主翼部品を一体化し易くすることができる。
・トラックコンテナの代わりにスパーウェブにフランジを形成することによって、トラックコンテナ本体40の形状を単純化することができ、従って、複合材料に自動化した製造工程を利用する(マンドレルを用いた圧力容器に巻回された導線)機会を増やすことで、製造費用を抑え、再現性(品質)を向上し、部品重量を減らすことができる。
【0050】
本発明について、好適な実施形態を挙げて説明したが、いうまでもなく、添付の特許請求の範囲に記載の発明の範囲内において、様々な変更又は修正を加えることができる。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、ウィングの前縁上のスラットトラックコンテナに関して説明したが、主翼の後縁上のフラップトラックを収容するためのフラップトラックコンテナを提供する場合にも、同様に本発明を適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のカバーと、前記カバーの間で厚さ方向に延び、スパン方向に所定の長さを有するスパーウェブと、前記スパーウェブから延びてシステム部品の少なくとも一部を収容するコンテナとを備えた航空機の組立体であって、前記コンテナは、互いに間隔をあけて配置され、前記スパーウェブを厚さ方向に横切る第1および第2の側壁と、互いに間隔をあけて、前記スパーウェブに沿ってスパン方向に配置された内側および外側の壁とを有し、前記スパーウェブおよび少なくとも前記コンテナの一部が、単一部品として一体的に形成された、組立体。
【請求項2】
請求項1記載の組立体において、前記スパーウェブおよび少なくとも前記コンテナの一部が一体的に薄板複合材料から形成された、組立体。
【請求項3】
請求項2記載の組立体において、前記薄板複合材料の少なくとも1つのプライが前記スパーウェブから延びて連続的に前記コンテナに入る、組立体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の組立体において、前記スパーウェブおよび少なくとも前記コンテナの一部が、単一部品として一体的に金型成形によって形成された、組立体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の組立体において、前記内側および外側の壁が前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成され、更に前記システム部品の少なくとも一部が前記内側および外側の壁の間に収容された、組立体。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の組立体において、前記第1の側壁が第1のスパーキャップを有し、前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成されて第1のカバーと結合し、前記第2の側壁が第2のスパーキャップを有し、前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成されて第2のカバーと結合し、更に前記内側および外側の壁が前記スパーキャップの間の全体に亘って延びる、組立体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の組立体において、前記第1および第2の側壁が前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成され、更にシステム部品の少なくとも一部が前記第1および第2の側壁の間に収容された、組立体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の組立体において、前記コンテナが、前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成された端壁を有する、組立体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の組立体において、前記コンテナは、前記スパーウェブと、前記第1および第2の側壁と、前記内側および外側の壁と、共に単一部品として一体的に形成された端壁を有する、組立体。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の組立体において、前記コンテナは、前記スパーウェブから延びて該コンテナに入るとともに、前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成されたコンテナフランジと、前記コンテナフランジに結合されたコンテナ本体とを有する、組立体。
【請求項11】
請求項10記載の組立体において、前記コンテナ本体がコンテナフランジに結合した、組立体。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載の組立体において、前記組立体が前縁および後縁に空気力学的な航空機の部品を形成した、組立体。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の組立体において、前記組立体が、主翼組立体であり、前記コンテナが前記スパーウェブから延びて燃料タンクに入る、組立体。
【請求項14】
請求項13記載の組立体において、前記システム部品がトラックであり、前記組立体が更に、トラックに支持される高揚力装置と、前記システム部品および前記高揚力装置を、展開された高揚力状態および格納された低揚力状態の間で移動するための駆動機構とを有し、前記コンテナが、その格納された低揚力状態において、少なくとも前記トラックの一部を収容する、組立体。
【請求項15】
航空機の組立体の製造方法であって、複合材料のプライのスタックをレイアップする工程と、スパーウェブおよびコンテナの少なくとも一部を伴って、熱および圧力の組合せによって前記プライのスタックを成形してスパーを形成する工程と、成形された形状でスパーを硬化させる工程と、システム部品の少なくとも一部を、前記コンテナに収容する工程と、を含む、航空機の組立体の製造方法。
【請求項16】
航空機のスパーであって、前記スパーはスパーウェブとコンテナを有し、前記スパーウェブおよび少なくとも前記コンテナの一部が、単一部品として一体的に形成され、前記スパーウェブは、スパン方向に延びる所定の長さを有し、トラックコンテナは、互いに間隔をあけて、所定長さの前記スパーウェブに沿ってスパン方向に配置され、前記スパーウェブから所定の角度で延び、該角度が50°〜130°の範囲内である、内側および外側の壁を有する、スパー。
【請求項17】
請求項16記載のスパーにおいて、前記角度が70°〜110°の範囲内である、スパー。
【請求項18】
航空機のスパーであって、該スパーは、スパーウェブと、前記スパーウェブに形成された孔と、前記スパーウェブから延び、前記スパーウェブに形成された孔の周りを囲んで、前記スパーウェブと共に単一部品として一体的に形成されたコンテナフランジとを有する、スパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−524692(P2012−524692A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506571(P2012−506571)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050620
【国際公開番号】WO2010/122324
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(510286488)エアバス オペレーションズ リミテッド (30)
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED